クラウドファンディングに係る制度整備に関する意見

2014年2月25日
消費者委員会

 新規・成長企業に対するリスクマネーの供給促進策としてのクラウドファンディング(注1)について、金融審議会の新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループにおいて、平成25年6月から12月にかけて審議が行われてきた。同ワーキング・グループの報告(注2)(以下「WG報告」という。)を踏まえ、現在、金融庁において、制度整備に関する検討が行われている。
 WG報告においては、クラウドファンディングに係る規制の緩和と投資者保護の方策が示されている(参考参照)。しかし、新規・成長企業は創設後の存続率が低く、非上場企業については、公開されている情報は上場企業と比較して一般に少なくかつ株式やファンド持分の売却は困難であるため、これらの企業への投資のリスクは極めて大きいと言える。このような投資に関する規制を緩和するに際しては、投資者を保護するために十分な措置が講じられるべきである。
 当委員会としては、金融庁に対し、以下の点に留意し、消費者被害を防止するための適切な措置を講ずることを求める(注3)。

  • (注1) クラウドファンディングとは、必ずしも定まった定義があるものではないが、一般には「新規・成長企業等と資金提供者をインターネット経由で結び付け、多数の資金提供者(=crowd〔群衆〕)から少額ずつ資金を集める仕組み」を指すものとされている。寄付型、購入型、投資型の3種に大別されるが、今回、金融商品取引法の検討対象となっているのは投資型クラウドファンディング である。投資型クラウドファンディングは、「ファンド形態」と「株式形態」が想定されている。「ファンド形態」については、現行の金融商品取引法の下において、第二種金融商品取引業者による募集又は私募の取扱いが可能であり、実際にもこの形態でのビジネスを担う業者が既に存在する。一方で、「株式形態」の投資型クラウドファンディングについては、非上場株式の募集又は私募の取扱いが日本証券業協会の自主規制規則により原則禁止されていることなどから、現在、基本的に取り扱われていない。(以上、WG報告より抜粋・補筆。)
  • (注2) WG報告は、平成26年2月24日に開催された金融審議会総会・金融分科会合同会合において、金融審議会の報告とされた。
  • (注3) WG報告に取りまとめられたクラウドファンディングに関する規制緩和について慎重な検討等を求める意見書が消費者委員会に1件寄せられている。

1.仲介者等に対する規制について

(1)参入規制

 クラウドファンディングの制度において、仲介者は中核的な役割を持つため、その責務は重要である。仲介者が提供する情報の正確性が確保されなければ、投資判断は不可能である。
 WG報告は、「投資型クラウドファンディングが詐欺的な行為に悪用されることや反社会的勢力に利用されること等を防止し、投資者が安心して投資できる環境を整備する上では、当局による規制・監督にのみ依拠するのではなく、自主規制機関による適切な自主規制機能の発揮を組み合わせること重要である。」としている。しかし、詐欺的な行為に悪用されることや反社会的勢力に利用されること等を防止するための方策は、まずもって、法律による規制を十分に措置することが必要である。
 まず参入規制についてみると、WG報告は、仲介者の参入要件の緩和を提唱している(参考参照)。しかし、参入要件は慎重に検討すべきである。詐欺的な行為に悪用されることや反社会的勢力に利用されることがないようにすることはもちろんであるが、健全かつ適切に仲介者の業務を行うことが確保できるように参入要件を定める必要がある。WG報告は、仲介者に「発行者に対するデューデリジェンス及びインターネットを通じた適切な情報提供等のための体制整備、並びにインターネットを通じた発行者や仲介者自身に関する情報の提供を義務付ける」としているので、これらの義務を適切に実行することが可能な者でなければならない。その際、新規事業に対するデューデリジェンス(注4)とはどういうものを指すのかが明確にされている必要がある。
 次に、WG報告は、仲介者について、現行の第一種金融商品取引業及び第二種金融商品取引業について登録の特例を設けることが望ましいとしつつ、投資者保護の観点から一人当たり投資額や発行総額の条件を少額なもののみを行う者とする等の条件を示している。そして、少額の範囲としては「発行総額1億円未満かつ一人当たり投資額50万円以下」とすることが考えられるとしている。しかし、この少額の条件は、募集または私募の取り扱いの対象非上場株式ごと又は対象ファンドごとの要件であるとした場合、多数種類を扱う形式をとって容易に規制を逃れる発行者や仲介者が出てくるおそれがあるので、悪質な事業者に濫用されないように要件設定を工夫すべきである。

  • (注4) デューデリジェンスとは、投資を行う際に、その投資対象に十分な価値があるのか、また、リスクはどうなのかを詳細に調査する作業をいうとされている。

(2)情報提供義務

 WG報告は、インターネットを通じて非上場株式又はファンド持分の募集又は私募の取扱いを行う仲介者(既存の金融商品取引業者並びに特例第一種金融商品取引業者及び特例第二種金融商品取引業者)に対して、「発行者に対するデューデリジェンス及びインターネットを通じた適切な情報提供等のための体制整備、並びにインターネットを通じた発行者や仲介者自身に関する情報の提供を義務付けるとともに、当該情報の提供を怠った場合等における罰則を整備することが適当である。」としているが、これらの措置は必須である。
 上場株式の売買と比較すると、新規事業への投資の場合は、投資判断のための情報が圧倒的に少ない。クラウドファンディングの場合には、インターネットで提供される情報に依拠するわけであるから、その正確性はいわば生命線である。
 詐欺的投資勧誘においては、発行者による虚偽ないし事実に反する情報や根拠に乏しい見込み等が用いられている。そのような情報が掲載されないように措置する必要がある。この観点から、発行者については正確な情報を提供する責任を、仲介者については情報の正確性を確保する責任を明らかにすることが必要である。加えて、これらの責任を発行者及び仲介者の投資者に対する民事上の義務としての位置付けを明確にし、義務違反行為に対しては、登録の取消し等の行政処分の対象とし、刑事罰の対象とするだけでなく、民事の損害賠償責任を負うことを法律をもって明らかにすることで、悪質な事業者の参入を排除するとともに、仮にインターネットで提供される情報に不備があった場合には損害賠償請求できることを明確にし、投資者が情報を信頼して取引に参加できる市場にすべきである。なお、違反がある場合には、遅滞なく行政処分が可能となるように検査・処分体制を整備する必要がある。


(3)新規事業への投資の特質の理解とその確認

 非上場株式の場合、上場株式のように市場価格を知ることはできない。そのため、経験を積んだ投資者であっても、非上場株式の価値の判断は上場株式よりも難しくなる。インターネットを経由してリスクマネーの供給を国が促進するのであれば、そのような非上場株式への投資の特質について十分に理解・納得した投資者のみが自発的に参加する仕組みとすることが不可欠である。
 ファンド持分の場合には、さらに別個の問題がある。ファンドの枠組みとして、匿名組合が使われている。匿名組合の場合には、株式会社における株主総会のような機関を設ける必要がないため、投資者の権利が極めてぜい弱である。そして、資金の運用が適切に行われているのかどうかを知る手段も限定的である(商法(明治32年法律第48号)第539条の貸借対照表の閲覧、業務財産状況に関する検査の規定が置かれている程度である。)。投資者が、ファンドへの投資のこのような特質を十分理解した上で判断することが不可欠である。
 以上から、投資者が非上場株式やファンドへ投資することの意義・特質、そして流動性リスクやデフォルトリスクを十分に理解した上で投資判断しているかを仲介者が確認する等の措置を講ずべきである。


(4)勧誘規制

 WG報告では、クラウドファンディングを、インターネットを経由して多数の資金提供者から少額ずつ資金を集める仕組みとしているが、電話・訪問等の勧誘手段を用いることを禁止するのかどうかについては言及していない。
 詐欺的投資勧誘では、電話やパンフレットの送付、訪問という形態が圧倒的な割合を占めている(注5)。クラウドファンディングの制度が導入された場合、仲介者や発行者がクラウドファンディングを詐欺的勧誘の手段として(自らを信用させるツールとして)悪用することを防止すべきである。
 また、仲介者が、アクセスしてきた消費者に次々と別の投資を勧誘するという事態もあってはならない。
 以上からすると、クラウドファンディングにおいては、電話・訪問による不招請勧誘は禁止すべきである。

  • (注5) 消費者委員会「詐欺的投資勧誘に関する消費者問題についての調査報告」(平成25年8月)5ページを参照。平成24年度における詐欺的投資勧誘に関する相談の販売購入形態は、電話勧誘販売が66.1%、通信販売が15.0%、訪問販売が12.0%を占める。

(5)国外からのクラウドファンディングによる資金集め

 WG報告は、「我が国における起業や新規ビジネスの創出を活性化させていく観点」から「アーリーステージの新規・成長企業に対するリスクマネーの供給を促進するための取組み」として制度を構想している。
 しかし、インターネットを利用した資金集めは、海外の事業者や詐欺グループにも容易に利用できるものである。日本の消費者がそうした海外の事業者に資金を送金しても、国内の起業や新規ビジネスの創出を活性化することにはならない。
 特に問題なのは、海外の悪質な事業者又は詐欺グループに送金してしまうと被害回復が著しく困難となることであり、この場合には国内の貴重な資産が海外に流出するだけに終わる。
 したがって、制度導入にあたっては、このような事態を招かないような措置を検討すべきである。


2.仲介者の自主規制について

 WG報告においては、投資型クラウドファンディングが詐欺的な行為に悪用されることや反社会的勢力に利用されること等を防止し、投資者が安心して投資できる環境を整備するため、「今後、自主規制機関(日本証券業協会及び第二種金融商品取引業協会)において、当局と連携しつつ、投資型クラウドファンディングの適切な普及に向けて自主規制規則の整備に関する検討が進められることが期待される」としている。
 しかし、悪質な事業者は自主規制に従わないと考えられるため、自主規制とその実効性確保には限界があり、必要なルールは法令に規定することを基本とするとともに、事業者の脱法行為を許さないよう、当局は事業者の監督を適切に行うべきである。


(参考)WG報告において示された規制緩和の概要

  • 第一種金融商品取引業のうち、非上場株式の募集又は私募の取扱いであってインターネットを通じて行われる少額(注6)のもののみを行う者を「特例第一種金融商品取引業者」と、また、第二種金融商品取引業のうち、ファンド持分の募集又は私募の取扱いであってインターネットを通じて行われる少額のもののみを行う者を「特例第二種金融商品取引業者」とそれぞれ位置付け、財産規制(注7)等を緩和する。
  • 非上場株式の募集又は私募の取扱いを原則として禁止している日本証券業協会の現行の自主規制規則を緩和し、非上場株式の募集又は私募の取扱いのうち、インターネットを通じて行われる少額のものについては、既存の第一種金融商品取引業者又は特例第一種金融商品取引業者が行えるように禁止措置を解除する。
  • (注6) WG報告では、「少額の範囲としては、「発行総額1億円未満かつ一人当たり投資額50万円以下」とすることが考えられる。」としている。
  • (注7) 現在は、第一種金融商品取引業者については5千万円、第二種金融商品取引業者については1千万円の最低資本金等の規制がある。