東京電力の家庭用電気料金の値上げ認可申請に対する意見

2012年7月13日
消費者委員会

東京電力の家庭用電気料金の値上げ認可申請に対する意見

消費者委員会では、関係大臣に対し、本年2月28日付けで公共料金の決定過程の透明性及び消費者参画の機会を確保する観点からの取組みの推進を求める旨の建議を行った。さらに、5月10日には電気料金の値上げが国民生活に与える影響の大きさに鑑み、家庭用電気料金の決定過程における適切な審査、公聴会の適切な開催、適時適切な情報提供を求める旨の「委員長声明」を経済産業大臣に対して発出した。

また、東京電力株式会社による家庭用電気料金値上げ申請がなされて以降、当委員会では、外部有識者の知見も活用して、消費者に対してより分かりやすい説明や追加の説明が必要と考えられる事項を整理した「東京電力の家庭用電気料金値上げに係る質問」をとりまとめ、5月29日、6月12日、19日の3回に渡り、経済産業省及び東京電力株式会社に対し、同質問項目に則り、ヒアリングを実施した。
この過程で提起された疑問や課題については、6月19日付けで「東京電力の家庭用電気料金値上げ認可申請に関する消費者委員会としての現時点の考え方」(以下、「考え方」)として示したところである。

今般、経済産業省は、消費者庁に対し、7月5日付けで「東京電力株式会社による電気供給約款の変更認可申請について」の協議を行ったところ、消費者庁長官は、当委員会に対し、同日付けで当該協議内容に関する意見を求める付議を行った。これを受けて、7月10日には経済産業省からヒアリングを実施し、「考え方」において指摘した事項に対する取組状況を中心に検証を行った。
その結果を踏まえ、下記のとおり、消費者庁長官に対し当委員会としての意見を述べることとする。消費者庁においては、本意見の内容を踏まえ、今後経済産業省との協議を進められることを要請する。



1.「委員長声明」への対応について

「委員長声明」において指摘した、(1) 適切な審査、(2) 公聴会の適切な開催、(3) 適時適切な情報提供について、これまで取られてきた対応は以下のとおりである。

  • (1) 適切な審査について

    経済産業省資源エネルギー庁においては外部有識者による「電気料金審査専門委員会」(以下、審査専門委員会)において、公開で審査が行われ、さらに、消費者参加の観点からは、消費者団体の代表者、消費者庁をオブザーバーとして参加させるとともに、6月20日には消費者委員会委員による「考え方」の説明及び質疑の機会を設け、さらに、6月28日には公募した9つの消費者団体から意見聴取を図るといった対応を行った。
  • (2) 公聴会について

    6月7日に東京都で、6月9日にはさいたま市でそれぞれ開催されたが、i.届出者全員を意見陳述人として指定し、ii.参考人に消費者団体の代表等の参加を得て、iii.議事進行役は審査専門委員会委員が務め、iv.単に一方的な意見発表とせず、質疑応答の時間を設け、v.その内容も6月12日開催の消費者委員会に報告されるとともに経済産業省HPに掲載された。
  • (3) 適時適切な情報提供について

    10回に渡って開催された審査専門委員会の内容については全て公開で行われ、また、3回にわたる消費者委員会の議論においても、委員会からの質問事項に対して、可能な限り分かりやすい説明を行う努力が払われた。

これらの点については、「委員長声明」での指摘に沿って適切な対応が行われたものと考える。

同時に、以下のような指摘がなされており、これらへの対応は、今後検討されるべき課題である。

  • ○審査専門委員会においては、消費者団体代表をオブザーバー参加させているが、正式の委員として消費者代表を参画させるべきではないか。
  • ○公聴会について傍聴者が少数に留まった例があり、周知やその運営についてさらに工夫が必要ではないか。
  • ○公聴会に関しては開催時期が早すぎたといった意見が消費者団体から出されている。経済産業省ではこのような意見も踏まえてネットにおける「国民の声」での意見募集を併用するといった対応を行ったが、公聴会の重要性からみて、今後は審査専門委員会での議論がある程度進展し、消費者側に十分な情報や論点が周知されたタイミングで公聴会を設定してはどうか。

2.「東京電力株式会社の供給約款変更認可申請に係る査定方針案」について

  • (1) 査定の基準について

    経産省の有識者会議が出した「一般電気事業供給約款料金審査要領」は、あくまで、ノーマルな事業活動を続けている電力事業者に適用するということで、一定の枠がはめられているものであり、国からの大幅な資本注入を前提に活動せざるを得ない東京電力にそのまま妥当するものではない。現に、査定で組み入れられたコストには東京電力に固有の直接発電等通常業務に要するものではない費目が相当程度入っている。今回の認可申請は、原発事故を契機に発生した多額のコストを、東京電力自身、国民、ステークホールダー、利用者がどのような形で負担として分かち合うかを問題とせざるを得ない点に留意して、特例措置が取られるべき事案であると考えられる。
  • (2) 個別の項目について

    i.人件費
    「国民の声」等に寄せられた意見のうち、大部分が人件費に関するものであり、厳しい対応が必要である。特に、
    • ○公的資金を注入された企業の給与水準を考慮し、更なる削減を検討すべきである。
    • ○法定外厚生費について、余暇・レジャーや自己啓発にも充てられるような原価として認める意義が見出しがたいものも含まれている。労働安全衛生法や次世代育成支援対策推進法等の法令に定められた企業として責務を果たすためのものに限定すべきである。
    ii.競争入札・随意契約
    • 随意契約取引の費用についてはコスト削減額が原則10%に満たない場合には未達分を減額するものとされているが、東京電力の実質国有化の状況を踏まえると、むしろ競争入札を原則とすべきであるため、コスト削減額はさらに深掘りしたものに拡大すべきではないか。
    iii.購入電力料
    • 日本原電・東北電力からの購入電力料についても、東京電力本体同様に人件費や随意契約等について厳しいコスト削減努力を行い、原価に反映させるべきである。そもそも購入電力量がゼロであることに加え、日本原電が実質的に東京電力との共同事業体という性格を持つことを考えれば、算入原価を下方修正すべきである。
    iv.減価償却費、事業報酬
    • ○福島第一原子力発電所の5から6号機、福島第二原子力発電所は、原価算定期間内における再稼働が見込まれておらず、今後10年間の稼働も極めて不透明であることから、これらの減価償却費は原価から除く方向で考えていくべきではないか。
    • ○事業報酬については、各電力会社一律に適用される経済産業省令及び審査要領に基づき算出されているが、公的資金が注入されている東京電力について、通常の経営環境下にある他の電力会社と同様の扱いをされることについては強い疑問を持たざるを得ない。
      仮に、上記の審査要領で算定した事業報酬を認めるとしても、東京電力の場合には、原発事故の賠償のための特別負担金に充てることを明確に担保する措置が講じられるべきである。
    • ○事業報酬率を決定する自己資本報酬率及び他人資本報酬率の30:70という数字自体が果たしてこれでよいのかについても、中長期的には再考していくべきである。少なくとも、今回の東京電力の申請の妥当性を考えるにあたって、これを固定的に考えることには疑問がある。
    v.福島第一原発安定化費用及び賠償対応費用
    • これらの費用については、原価に算入して利用者に負担を求めるのは適切ではないのではないか。

3.今後の検討課題

今回の電気料金値上げ申請の議論の過程で以下のような課題が指摘されている。これらの点については、経済産業省において適切な対応を取られることを求めるとともに、消費者委員会でもその対応について検証を行うこととする。

  • (1) 今後は原価と実績の部門別評価を毎年実施し、規制部門の電気料金が不当に高い事態となる場合には、本年2月の当委員会による「公共料金問題についての建議」で指摘したように、適正な料金に確実に値下げさせることを可能にする仕組みを構築するために、電気事業法第23条に基づく料金認可変更命令等を含めた法令等の見直し・整備にかかる検討を行うこと
  • (2) 事業報酬と資金調達コストの差分や経営努力の結果生じた原価と実績の差分については最優先で特別負担金の返済に充てられることを事前に確認し、また事後にも検証を行うこと
  • (3) 燃料費調整制度については、燃料費の発電コストに占める割合が高いことを踏まえると、価格変動による燃料費増をそのまま値上げ理由とする現行のままでよいのか、といった問題をさらに中期的課題として検討すること

また、これ以外にも当委員会としては、現在検討されている家庭用電力供給の自由化と新たな規制体系の在り方と、これらに対して消費者の意見が反映される仕組みの在り方について問題意識を有しており、この点についても今後当委員会で検討を行う必要があると考える。