住宅用太陽光発電システムの販売等に係る消費者問題についての提言

2012年3月27日
消費者委員会

住宅用太陽光発電システムの販売等に係る消費者問題についての提言

近年、住宅用太陽光発電システム(以下「太陽光発電システム」という。)の普及が急速に拡大している。
太陽光発電システムの導入件数をみると、平成12年度において5万2千件余りであったが、10年後の平成22年度においては77万件余りと約15倍に増大している。太陽光発電システムの価格が低下してきたことに加え、太陽光発電システムに係る補助金制度や太陽光発電の余剰電力買取制度等の政策的対応、さらに、消費者の環境問題・エネルギー問題への関心の高まりと相まって、拡大してきたものと考えられるが、今後も、その流れは変わらず、普及拡大していくことが見込まれている。
一方、太陽光発電システムの急速な普及に伴い、太陽光発電システムの販売に係る相談件数もまた増加している(平成22年度は2,690件、23年度(24年2月末時点)は3,166件)。相談内容をみると、多くは、訪問販売において、不実告知、迷惑勧誘や再勧誘に関する相談等が寄せられているものであり、悪質業者によって消費者被害がもたらされている実態が浮かび上がってくる。
太陽光発電システムは、国、地方公共団体における補助金制度が充実してきていること、余剰電力量に応じた収入が得られること等、訪問販売で取り扱われる他の商品と比べて消費者にとって購入意欲を促すものであるが、反面、悪質業者によって、この利点が、実情を離れて過剰に強調されているケースも見られる。また、太陽光発電システムは、品質を保つためには適切な施工が重要になってくる。消費者からの苦情を解決するためには、契約過程ばかりでなく、実際の施工の質を確保していく視点も必要であろう。

悪質業者は、消費者に被害をもたらすばかりでなく、太陽光発電システムそのものに対する消費者からの信頼をも損なうものである。悪質業者を排除することは、消費者の利益に資するばかりでなく、太陽光発電システムの市場の一層の拡大にとっても不可欠なものである。

以上のような状況を踏まえ、消費者委員会においては、関係省庁に対して、以下のことを提言する。


1.法執行等の強化

(1)特定商取引法等の執行の強化

太陽光発電システムに関して、消費生活センターに寄せられる相談の多くは訪問販売に係る契約トラブルである。相談内容をみると、補助金制度や余剰電力買取制度等に関して虚偽の説明を行ったもの(注1)、販売の際の強引・長時間な勧誘、契約を急がせたりするもの、お得感を強調して有利誤認を誘導したもの等である。
このような相談の多くは、不実告知や迷惑勧誘等といった、訪問販売における典型的な問題事例であり、ある程度まで特定商取引法の厳格な運用で対応できるものと考えられる。すなわち、訪問販売における特定商取引法の規制では、民事ルールとして、8日間のクーリング・オフ、不実告知、故意の事実不告知に関する契約の取消(注2)がある。行為規制として、再勧誘や不当行為の禁止等、行政処分として、指示、業務停止、あるいは、罰則の処分を行うことができる。まずは、これらの特定商取引法の枠組みを最大限活用することが、太陽光発電システムの販売に関する消費者問題の解決、あるいは、被害防止にとって有益であると考えられる。

また、太陽光発電システムは、先にも述べたように、他の商品・サービスと比べて、補助金制度が充実してきていること、余剰電力量に応じた収入が得られるなどの制度上の利点があり、また、品質を確保するためには、適正な施工を必要とするシステム上の特徴があるが、そのような利点や特徴を含めて、現時点においては、太陽光発電システムは、消費者にとって決して分かりやすいものではない。このため、実情に比べて不当な表示をしている場合において、他の商品・サービスと比べて、消費者にとって一層誤解を生じるおそれがある。景品表示法の適切な執行が重要である。

このため、消費者庁は、太陽光発電システムの販売に係る相談等を十分注視し、販売等において不適切な勧誘や広告を行う事業者に対し、違反の事実が認められる場合には、特定商取引法や景品表示法による行政処分等を厳格に行うことが必要である。

また、消費者庁の対応だけでは十分であるとは言えない。相談は、首都圏を中心に全国的に広がっているのに加え、太陽光発電システムそのものは、日照時間、屋根の形状等によって発電量が異なるなど、各地域ごとの気候や風土による影響が大きい。また、補助金の額や交付条件も自治体によって異なる。各都道府県においても、各地域の被害の実情等を踏まえながら、きめ細かく対応することが重要である。
なお、消費者委員会が行った自治体への調査においても、太陽光発電システムの販売に関する相談の増加が懸念され、具体的な対策を考えるべきとする意見も少なくない。また、消費者委員会が把握しているところでは、北海道、栃木県及び和歌山県では特定商取引法に係る行政処分が実施されているものの、上記2法による行政処分は、なお低調にとどまっている。

このため、消費者庁は、都道府県に対し、違反の事実が認められる場合には、特定商取引法や景品表示法による行政処分等を厳格に行うよう、要請することが必要である。


(注1)太陽光発電システムは、日照時間、屋根の形状等によって発電量が異なるため、消費者自らが、発電量を事前に把握しにくいこと等もあり、悪質な業者が、実情に比べて発電電力量を過剰に見積もって説明するといったトラブルが起きている。
(注2)取消が認められる故意の事実不告知としては特定商取引法6条マル1からマル5。


(2)割賦販売に対する適切な対応

消費生活センターに寄せられた相談の支払方法をみると、総じて個別クレジット(個別信用購入あっせん)によるものが多い。その理由としては、太陽光発電システムの最多価格帯(注3)は、200万円台から300万円台と比較的高価なものであることから、現金払いやクレジットカード(包括信用購入あっせん)払いが行いにくいのではないかと考えられる。
個別クレジットが多いということは、消費者に資金を供給する個別クレジット業者がその加盟店の販売方法を精査し、厳格な加盟店管理を通して悪質業者を排除していく等の働きかけが有効であることを意味するものである。
割賦販売法は、平成20年に改正されたが、そのような方向に沿ったものと考えられる(注4)。なお、消費者委員会が行った調査においても、平成20年改正により、個別クレジット業者が、太陽光発電システムの販売を行う加盟店について、十分監視が届くようになり、悪質業者を排除するために効果的であるとの意見があった。

このため、経済産業省は、引き続き、個別クレジット業者の指導監督を通じて、悪質な業者が排除できるよう、割賦販売法の厳格な運用に努めクレジット業者の厳格な加盟店管理を推し進めることが必要である。


(注3)消費生活センターに寄せられた相談事案の最多価格帯
(注4)割賦販売法の平成20年の改正の主たる内容として、(1)個別クレジットを行う事業者を登録制の対象とし、行政による監督規定の導入、(2)個別クレジットを行う事業者に訪問販売等、特定商取引法5類型を行う加盟店の行為について調査することを義務付け、不適切な勧誘があれば消費者へ与信することを禁止する、(3)訪問販売等による売買契約が取り消された場合、個別クレジットも解約し、既に払ったお金の返還も請求可能とすること等である。

2.業界団体を通じた販売方法の適正化、品質の向上のための取組

消費者から太陽光発電システムの信頼性を維持するためには、業界から、悪質な業者を排除し、品質確保に向けた自主的取組も重要である。
一般社団法人太陽光発電協会においては、会員企業に対して、特定商取引法の法令遵守を内容とする研修の実施を要請するとともに、「販売時の注意事項」、「表示に関する業界自主ルール」等を作成している。また、同協会において、「太陽光発電消費者相談センター」を設置し、消費者からの問い合わせ等に対応している。さらに、平成24年度から、太陽光発電システムの設置に必要な技能、専門知識を持った施工者を育成・認定するための「PV施工士認定制度」を開始する予定である。
このような取組は、販売品質、施工品質、メンテナンス品質等の確保を通じて、被害を未然に防止する観点から大いに評価できるものである。今後、太陽光発電システムの普及が高まる中、悪質業者の参入の可能性が高まることからも、寄せられた相談等、被害の実情を把握し、自主的な取組の実効性を高めるとともに、見直しを行うことが重要である。

このため、経済産業省は、太陽光発電協会等に対して、消費者から相談窓口に寄せられた相談内容等を踏まえながら、現在行っている取組について見直しを行い、販売品質、施工品質、メンテナンス品質等を確保するような仕組みを検討することなど、悪質な事業者の排除に向けた自主的な取組を要請することが必要である。



3.支援制度等に関する分かりやすい情報の提供

消費生活センターに寄せられた相談内容をみると、補助金や余剰電力買取制度等の支援制度に関する不実告知や不正確な説明に関する相談など、消費者が、事前に正確な情報を持っていたり、十分な情報が周知されていたならば、防止できたと思われるものがある。
例えば、補助金は、国、都道府県、市町村と3つの行政機関から交付されており、都道府県、市町村はそれぞれ独自の制度(交付条件)であるため、総額でどれだけの交付額を得ることができるのかは、地域ごとに異なっており、単純ではない。
現在でも、経済産業省のウェブサイトや太陽光発電協会等の取組を通じ、補助金等の支援制度についての情報提供を行っているが、消費者の目線から、求められている情報が、十分に分かりやすく、周知されるよう、常に見直しを行うことが必要である。例えば、太陽光発電システムは、日照時間、屋根の形状等によって発電量が異なるが、契約当事者となる消費者に対して、できる限り具体的かつ正確な情報を契約前に提供するという観点も重要であろう。分かりやすい情報の適時適切な提供は、消費者トラブルを招かないための基本的な環境整備である。

このため、経済産業省は、余剰電力買取制度や補助金等の支援制度を含め、消費者の分かりやすさに資する観点から情報提供のあり方について見直しを行い、きめ細やかな情報提供の実施に向けた検討を行うことが必要である。

提言の概要

  1. 特定商取引法等の執行の強化
  2. 割賦販売に対する適切な対応
  3. 業界団体を通じた販売方法の適正化、品質の向上のための取組
  4. 支援制度等に関する分かりやすい情報の提供

主な成果

  • 特定商取引法や景品表示法による行政処分等を行うとともに、ブロック会議等の場を通じて、厳正な法執行に取り組むよう都道府県等に対して要請。
  • 一定の施工技術を確保するための業界横断的な研修・認定制度である「PV施工技術者認定制度」の創設を支援。