「健康食品の表示の在り方」に関する中間整理

2011年8月23日
消費者委員会

消費者庁の「健康食品の表示に関する検討会」報告書(平成22年8月)には、消費者委員会への検討要請として、大きくは、(1)特定保健用食品(トクホ)の表示許可制度のあり方の検討、(2)健康食品の表示の効果的な規制や適切な情報提供の仕組みの検討、の2点が提示されている。
このうち、(1)については、消費者委員会に設置された「特定保健用食品の表示許可制度専門調査会」が、6月24日、更新制度の導入や、再審査手続きの迅速化、事業者に対する機能性に関する新規データの提出義務のあり方など、今後の方向性を検討結果としてまとめ、7月22日、消費者委員会として報告を受けた。
一方、(2)に関する検討は、消費者委員会が担うことになり、平成22年12月以降6回にわたり、食品の専門家・研究者、事業者団体、地方公共団体、関係機関等を対象にしたヒアリングを実施し、検討を積み重ねてきた。(2)に関して消費者委員会に要請された検討課題は次の4点である。

  • 健康増進法・食品衛生法と景品表示法の連携による法執行力の強化、制度の拡充
  • 食品表示に関する一元的な法体系のあり方の検討と整合性をとりつつ、食品の機能性表示をめぐる制度の見直し
  • 消費者からの相談を受け付ける体制の整備
  • 消費者にアドバイスできる専門家の養成や情報を集約・提供する体制の整備

消費者委員会は、これらの課題を中心に、健康食品の表示のあり方、健康食品の表示適正化のための施策の方向性を検討した。ここでは、ヒアリング等で示された提言・提案、それに基づく委員会内での検討結果を踏まえ、これまでの「論点」を整理する形で今後の施策展開へ向けて早急に取り組むべき課題を提示する。
今後、消費者委員会において、本中間整理を踏まえて、消費者、事業者、地方公共団体を対象にした実態調査等を実施し、運用面の改善あるいは新しい制度の構築についての検討を具体化することが求められる。


【健康食品の表示をめぐる問題点】
消費者委員会は、現在の健康食品の表示をめぐっては次のような問題点があると考える。
  • (I)特定成分を抽出・濃縮・乾燥させた「錠剤・カプセル型食品」
    健康食品には法的定義はなく、「いわゆる健康食品」と称されるように、制度上は食品に含まれ、その規制も食品一般としての扱いがなされている。しかし、これまでのいくつかの消費者アンケート調査が示すように、いわゆる健康食品(以下、健康食品)を一般食品とは区別して扱い、疾病の予防的効果や特定の機能性が付与されたものとして日常的に摂取している消費者が、少なからず存在する。特に、特定成分を抽出・濃縮・乾燥させた「錠剤・カプセル型食品」には医薬品的な効能・効果を期待させるものが散見され、表示・安全性・販売方法などをめぐる問題点が指摘されている。

  • (II)消費者を誤認させる広告・表示
    事業者の中には、健康食品の販売にあたって誇大に説明し、消費者を誤認させるセールストークや、それらと同様の広告・宣伝を実施している例がある。消費者の健康への不安感に乗じて、機能性を示す信頼性あるデータがないにもかかわらず、医薬品のように身体機能を改善することを謳ったり、あるいは、改善できるかのように暗示する表現方法を用いたりして、科学的データに基づき許可される医薬品と同様の効果があるかのように強調している例も見受けられる。
    平成23年3月11日に発生した福島原子力発電所事故に伴う放射性物質の流出・拡散に対しては、「放射性物質を除去する」「体内から取り除く」などと言って健康食品を勧誘・販売する事例が急増している。不適正勧誘として全国の消費生活センターが消費者に注意を喚起しているが、同様の表示やセールストークは後を絶たない。

  • (III)迅速・適正な法執行体制整備の遅れ
    一方、これら誇大・誤認表示が規制・是正されず、長く放置されたり、それが行政指導により改善に至っても、同一事業者による異なる商品や別の事業者による同種の商品をめぐって誇大・誤認表示が再度市場に登場するなど、適正で効果的な法執行が実施されにくいことも健康食品の問題点とされる。迅速な規制措置や適正な法執行体制がとられていないのではないかとの消費者・国民の不信感が根強く存在する。

  • (IV)情報の収集・分析・提供の不十分性
    各地の消費生活センターに寄せられる健康食品をめぐる消費者相談件数は、国民生活センターによると、5年間で約8万件である(平成17から21年度(平成22年11月30日までの登録分))。食品全体の苦情相談のうちの半数を占め、年間では1万件を超える高い件数で推移している。多くの相談事例では、表示の問題、販売方法、安全性の問題が複雑に絡み合っており、これらの問題点を総合的に検討する必要がある。
    近年は、高齢社会の進展を背景に、健康不安を覚える高齢者が効果のない高額な健康食品を購入したり、健康食品を食べて逆に健康被害を生じる例が増えている。さらに、子どもに関しては、“子ども向け健康食品”を摂取することで、特定成分の過剰摂取による健康被害や食生活教育への混乱を招くなどの問題も指摘されている。また、インターネット上では、含まれてはならない医薬品成分を含有する健康食品が、規制のない「個人輸入」で輸入され、被害を発生・拡大させている例も目立つ。
    被害防止には消費者への適正・迅速な情報提供が必要だが、表示違反事例や健康被害事例についての情報収集・分析・提供体制は不十分なままであると言わざるを得ない。消費者からの相談体制の整備と消費者への情報提供のあり方も課題となっている。医薬品や他の健康食品との併用に関する注意表示も、必要性が指摘されながら、対応は遅れている。

以上の問題点を踏まえ、検討課題に沿って、今後さらに検討を深め、具体化に向けて取り組むべき課題を整理する。


【検討課題】
健康増進法・食品衛生法と景品表示法の連携による法執行力の強化、制度の拡充について
  • (1)健康食品の表示については、食品衛生法、健康増進法、景品表示法で誇大・誤認表示が禁止されている。しかし、食品衛生法は「公衆衛生上の危害の防止」を目的とすることから、健康被害を生じさせるおそれのない場合、効能・効果の表示についての規制はできない。健康増進法は、表示及び広告を規制対象にしているが、都道府県には規制の権限が与えられていない(執行の不十分性)。さらに、景品表示法については都道府県に「指示」の権限が与えられているが、「措置命令」を発することはできず、国と地方が連携しての執行体制の整備が遅れている。さらに景品表示法では、「当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料」(4条2項)の提出を求める権限が都道府県にはない。消費者庁発足以降は同法に基づく国の処分件数もそれ以前と比べ少ない状況となっている。法執行の強化のためにこれらの法律の運用体制整備へ向けた検討が必要である。

  • (2)表示制度見直しの一環として、健康食品の成分として使用できるものの範囲を見直すべきとする意見も提起された。指定食品添加物ではない一般飲食物添加物を成分にする健康食品が増えていること、それらの中には医薬品成分として許可されている成分もあることなどから、それらの成分を指定食品添加物として指定するか否かについて、今後の検討課題に含めるべきである。

  • (3)食品衛生法19条及び同法施行規則21条1項4号を見直し、「表示」に加えて「広告」も規則対象に含めるべきとする意見も提起された、同法違反の直罰の対象を広げることによって、誇大・誤認表示の排除を進めようとの趣旨である。この点については、現在、消費者庁でガイドラインの策定などが検討されているが、直罰化の拡大についても今後の検討課題に含むべきである。

  • (4)法執行にあたっては、国と地方公共団体との連携や、地方公共団体間の連携のあり方も検討すべきである。関東圏では5都県が共同して「広告表示適正化推進協議会」を設置し、健康食品の表示・広告の監視活動や協議を定期的に実施している。このような広域対応のほかに、地方公共団体からは関係部署間の連携強化の必要性を指摘する意見がある。法執行の整備へ向けた地方公共団体間の連携及び地方公共団体内での関係部署間の連携のあり方についても、地方消費者行政の充実強化の一環として、国としても早急に検討すべきである。

  • (5)消費生活用製品安全法第52条の「内閣総理大臣等に対する申出」のように、消費者からの申出制度の導入・整備を図るべきとの意見がある。健康食品に限らず、商品・役務について、申出制度を整備している地方公共団体の条例もある。それらを参考に、申出制度の具体化を検討すべきである。あわせて、幅広い商品・製品・役務に関する総合的な申出制度の導入についても検討されるべきである。

  • (6)消費者庁による事故情報の一元的収集の一環として、事故情報に関する事業者からの報告義務化の必要性も指摘されている。健康食品による事故には、一過性や個人的体質など、短期間では原因が判明しない場合もあることから、報告義務の範囲を定めるに際しては、原因が不明という理由をもって報告義務を免除されることがないよう留意すべきである。事故情報の報告義務制度の検討に際しては、業界団体の自主規制・ガイドラインの策定・整備によるルール化等もあわせて検討されるべきである。

  • (7)薬事法や健康増進法違反の広告・表示について一定の消費者団体に差止請求権を付与する仕組みの構築が必要との指摘があった。消費者団体による監視活動を表示適正化につなげる制度はすでに景品表示法等を対象とした消費者団体訴訟制度として導入されており、薬事法等への同制度の対象の拡大について検討すべきである。

  • (8)インターネット上の健康食品の販売では、違反表示が目立ち、表示の適正化が急務となっている。業界ガイドラインの早急な策定と普及を図るとともに、自主規制の実効性を向上させ、あわせて、個人輸入代行業者を介在させた個人輸入による健康被害防止のために、法改正の是非を含む、執行体制の強化を検討すべきである。

【検討課題】
食品表示に関する一元的な法体系のあり方の検討と整合性をとりつつ、食品の機能性表示をめぐる制度の見直しについて
  • ■錠剤・カプセル型食品について
    (1)錠剤・カプセル型のいわゆる「サプリメント」を対象にした表示のあり方については、表示の規制あるいはルール化の必要性について、幅広い実態調査を実施し、消費者団体・専門家・研究者・業界団体等を交え、検討を行うべきである。

  • (2)錠剤・カプセルという形状を対象とすることに危惧を示す意見がある一方で、さらに「粉状」についても規制対象に加えるべきとの意見もある。「錠剤、カプセル型」という形状ではなく、「特定成分の抽出・濃縮・乾燥」など製造方法を対象にした方が実態に即しているとの指摘についても留意すべきである。

  • (3)含有成分について、「届出制」を導入し、表示制度の整備を図る方策も提案されている。健康食品の表示には、成分名・含有量の他に、警告・注意表示も必要ではないかとの意見もあることから、消費者への適切な情報提供を実施する観点から幅広く検討すべきである。

  • (4)警告・注意表示を導入する際には、医薬品との併用についての注意表示や、特定の人(特定の疾病を持つ人、子ども、妊産婦等)への警告表示、摂取上の注意表示等も検討課題に含めるべきである。

  • (5)一方では、そのような注意表示が記載された食品を、そもそも食品の範囲に含めることには限界があり、却って医薬品と混同される可能性が高まるなど、混乱を招くとの指摘があることにも留意すべきである。このような「錠剤・カプセル型食品」を食品に含めると食生活教育を複雑にさせかねないので、食品の範疇から除外すべきだ、との意見があることにも配慮すべきである。

  • (6)食品から錠剤・カプセル形状食品を除くことは国際整合性から外れるとの意見もある。食品の中に錠剤・カプセル形状食品を含むことが主要国のすう勢であるとし、このような形状食品については、(3)で記載したように「届出制」の導入で対応すべきだとする指摘もある。品質管理・製造管理・成分・表示内容・安全性データなどを届け出させ、事後的チェック機能を整備することで現状を改善すべきとする内容である。届出先としては業界団体に窓口を作り、そこに国(消費者庁)がアクセスできるようにし、国がチェックして問題表示があれば指導できる環境整備が必要との指摘もある。錠剤・カプセル型食品の安全性確保について、第三者認証制度を定着させ、素材の安全性と製品の品質を保証したマーク制度の普及が必要との意見もある。これらの点についても、さらに検討を進めるべきである。
  • ■食品の機能性表示について
    (1)一定のエビデンス(科学的証拠)があるものについて機能性表示を認める仕組みを構築すべきとする意見がある。そうすることで機能性のない健康食品が市場から排除されるとの指摘である。これに対して、機能性表示を健康食品に認めると医薬品との混乱が生じる可能性があるとの指摘があり、機能性表示を認める場合は食品とは別の分類として設定すべきとする意見もある。これら多様な意見・指摘があることに留意し、消費者にとってどのような表示制度が適切か、検討を進めるべきである。

  • (2)消費者の混乱を避けるためにこそ機能性表示が必要との指摘もある。医薬品と健康食品には同一の成分が使われている例があり、同じ成分を使用しても、用法・用量・効能効果を記載できる医薬品に対し、健康食品はそれが禁止されている。そのことが却って健康食品販売事業者による勧誘に悪用され、消費者の混乱のもとになっているとの指摘である。健康食品についても、機能性についてのエビデンスがあるものについては表示を可能とすることが適切か、また必要かどうか、消費者への情報提供の必要性と消費者の混乱防止の双方の観点に留意し、検討すべきである。

  • (3)機能性を暗に示す広告・表示や、「体験談」表示については、規制の必要性を求める意見が多かった。法執行体制の強化にあわせて、表示内容をチェックする際の指標の策定と、国と地方自治体とが連携したチェック体制の整備が必要である

  • (4)このような指摘とは別に、食品の機能性については研究途上であり、最初から機能性表示を禁止することは避けるべきとの意見もある。食品の機能性についての研究体制が強化されるべきである。

【検討課題】
消費者からの相談を受け付ける体制の整備について
  • (1)健康食品に関する「情報一元化」の体制を早急に構築すべきである。特に、消費者からの相談を受け付ける体制を整備し、寄せられた相談事例を分析・調査し、違反表示を積極的・迅速に指導・処分・公開することに結び付け、消費者被害の防止に寄与することにつなぐべきである。そのためにPIO-NETなどに集約される各地の消費生活センターからの情報だけではなく、医療機関や消防署、保健所等からの情報も積極的に収集する体制を整備すべきである。それに加え、消費者団体等が設置するホットライン等とも連携・協働し、幅広い情報収集ネットワークとして構築すべきである。

  • (2)健康被害を被ったなどの相談については、その原因究明が求められることから、医療機関や保健所、消防署等との連携が必要となる。また、医療機関や保健所、消防署等に寄せられた同様の被害事例について、国(消費者庁)が一元的に集約する体制を整備することが必要となるが、情報収集体制は不十分なままとなっている。都道府県の中には、「健康被害事例専門委員会」を設置して健康食品による健康被害の情報を医療機関などからも通知してもらうシステムの構築を目指しているところもある。地方公共団体による様々な試みに対しては、国の支援のあり方も検討し、全国的な連携体制を構築すべきである。

【検討課題】
消費者にアドバイスできる専門家の養成や情報を集約・提供する体制整備について
アドバイザリー・スタッフ(消費者にアドバイスできる専門家)に求められる役割を明確にするべきである。