消費者安全行政の抜本的強化に向けた対応策についての建議

2011年7月22日
消費者委員会

消費者委員会は、消費者安全専門調査会から、「消費者安全専門調査会報告書」の提出を受けた。消費者委員会は、この報告書の内容を踏まえ、以下のとおり、関係各大臣に建議を行う。
  1. 消費者安全法(平成21年6月5日法律第50号)附則第2項では、「政府は、この法律の施行後三年以内に、消費者被害の発生又は拡大の状況その他経済社会情勢等を勘案し、消費者の財産に対する重大な被害を含め重大事故等の範囲について検討を加え、必要な措置を講ずるものとする」とされ、その検討に際しては、「消費者委員会による実質的な審議結果を踏まえた意見を十分に尊重し、所要の措置を講ずるものとすること」(消費者庁関連三法案に対する参議院附帯決議)とされている。
    また、消費者基本計画(平成22年3月30日閣議決定、平成23年7月8日一部改定)では、「消費者安全法及び消費生活用製品安全法における事故情報の報告・公表制度の拡充については、消費者安全法等に基づく情報収集を着実に実施し、重大事故以外の情報の収集状況、消費生活用製品以外の事故情報の収集状況等の検証を行います。これらに基づき、消費者委員会での検討を踏まえながら、収集する事故情報の範囲等の拡大について検討を行います。また、公表する事故情報の範囲等を拡大します。」としている。

  2. 消費者委員会では、上記の経緯を踏まえ、平成22年3月に消費者安全専門調査会(以下、「本専門調査会」という。)を設置し、消費者安全法及び消費生活用製品安全法における事故情報の収集・分析・公表の実施状況等について評価・点検するとともに、消費者事故情報の活用方策に関する調査審議を行ってきた。
    本専門調査会は、平成22年3月から1年3か月、計10回にわたって精力的に審議を重ね、本報告書を取りまとめた。

  3. 消費者基本計画でも述べられているとおり、消費者庁は、「消費者安全法に基づき、各府省庁、国民生活センターや地方の消費生活センター等が把握した消費者事故等に関する情報を一元的に集約し、調査・分析を行うこと、消費者事故等に関する情報を迅速に発信して消費者の注意を喚起すること、各府省庁に対して措置要求を行うとともにいわゆる「すき間事案」については事業者に対する勧告や自ら措置を講じることなど、消費者行政の司令塔・エンジン役としての役割を果た」すことが求められている。他方、各府省庁は、「消費者が主役となる社会の実現を目指して、今後は、相互間の情報の共有を進め、的確な役割分担や共同の取組によって、それぞれの業務を確実に遂行」することが求められ、同時に、消費者安全法に基づき、重大事故等の情報を得た時には「直ちに」消費者庁長官に通知することが求められている。
    本報告書での検証結果等によれば、消費者庁においては、「事故情報を一元的に収集し、消費者行政の司令塔として注意喚起を図っていくという消費者安全法の趣旨が十分に生かされたとは言い難い対応」がみられたり、関係省庁においても、重大事故情報等の通知において漏れや遅滞等が生じたりするなどの問題が少なからずみられたところである。
    本専門調査会における検討では、上記のような問題を防止するためにも、重大事故等の情報の収集範囲や公表の範囲・時期等について見直す必要性が確認された。本報告書では、その見直しの在り方についても具体的に提言している。

  4. そこで、消費者委員会は、消費者庁及び消費者委員会設置法に基づき、内閣府特命担当大臣(消費者)、総務大臣、文部科学大臣、厚生労働大臣等関係各大臣に対して、本報告書の内容のとおり建議し、報告書において記載された各種施策の実施に向けて、早急な対応を求めるものである。
    また、消費者委員会は、事故情報の収集・公表制度を主管する消費者庁が関係省庁の対応について必要な協議を行った上で、関係省庁としての対応及び消費者庁としての対応について、本年12月までに報告することを求める。

  5. 本報告書の内容の中で、消費者委員会として、特に、早急な検討・実施を求める事項として、以下の点を特記する。
    • (1) 重大事故等の情報の収集強化・収集範囲拡大
      消費者安全法における重大事故等の通知義務については、関係省庁によって十分に遵守されていたとは言い難いし、消費者庁も個別に遵守を督励していなかったとみられる。また、一部の公共施設や商業施設等、事故の発生場所によっては、必ずしも関係省庁から消費者庁に通知される仕組みとなっていないものもみられ、重大事故等の通知に遅れや漏れが生じている。
      こうした状況を抜本的に改善するため、消費者庁及び関係省庁においては、
      • マル1 消費生活用製品安全法に基づく事業者からの報告や事故情報データバンクの登録情報等を活用して、消費者安全法に係る通知義務が励行されるよう督励するほか、消費者庁と関係省庁間で通知の遅滞等が生じた各事例に関して、定期的な協議の場を設けて改善を図ること。
      • マル2 救急車で搬送された傷病者に関する事故等の情報を的確に把握できるよう、重大事故等の通知に係る基準について見直しを図ったり、当該基準に定める治療期間30日間を短縮化したりする等により、本来、重大事故等として直ちに分析・公表等を行うべき事故情報の収集範囲の拡大につき検討すること。
    • (2) 緊急を要する事故情報の公表
      中毒情報等の緊急を要する事故情報については、事業者名等の通知漏れや通知の遅滞を防止するため、日ごろから、消費者庁として関係省庁を通じて改善を要請すると同時に、緊急を要する事故情報については、定例公表日にこだわらず、事実関係未詳であっても迅速に公表できるように、早急に公表基準を見直すこと。
      また、消費者庁としても事故情報を迅速に分析し、必要に応じて関係省庁に対する措置要求等ができるように、所管省庁とは独立した分析体制を強化すること。

    • (3) 事故発生後の効果的な注意喚起等による回収策・被害拡大防止の強化
      消費者に事故情報等が確実に届き、かつ、消費者の意識・行動を変えるような注意喚起を行うという観点から、
      • マル1 材質・メカニズム等が類似した製品群の中で、複数の製品に重大事故等が生じた場合には、製品群全体について分析し、公表すること。
      • マル2 消費者安全法の関連規定の発動要件や対応方針をあらかじめ明確に定めておき、一定の要件を満たせば迅速に同法第15条第1項に基づく注意喚起が行われること。
      • マル3 独立行政法人や地方公共団体を含めた関係機関を活用して消費者に確実に事故情報等が届くような体制構築を図ること。
    • (4) 誤使用・非重大事故情報に係る収集・分析・活用
      誤使用であっても多発している、あるいは高齢者や子供に特有の事故等の情報についても、収集範囲の拡大、分析・活用の強化を図るとともに、原因となった製品・役務の提供事業者に事故情報を提供し、一定の期間内での分析・報告等を求めるような運用体制・法制整備等について検討すること。

    • (5) 各事故情報の収集・分析・活用を強化するための体制強化
      消費生活用製品安全法や消費者安全法に基づく報告・通知情報や、事故情報データバンクへの登録情報等の間の突合や分析等により、可能な限り網羅的な情報収集を徹底し、分析・活用するために、予算面から消費者庁の体制を整備し、また、地方消費生活センターの人員・予算の充実につき支援すること。

建議の概要

  1. 重大事故等の情報の収集強化・収集範囲拡大
  2. 緊急を要する事故情報の公表
  3. 事故発生後の効果的な注意喚起等による回収策・被害拡大防止の強化
  4. 誤使用・非重大事故情報に係る収集・分析・活用
  5. 各事故情報の収集・分析・活用を強化するための体制強化

主な成果

  • 消費者庁において、2011年11月に「入手情報点検チーム」を設置し、情報の適切な処理とそれに基づく対応に努めている。
  • 消費者安全法に基づく重大事故等の消防庁から消費者庁への通知について、消防庁と消費者庁とで協議を行い、2011年2月から、通知する対象を、消防機関が製品起因であると判断したものだけでなく、製品起因が疑われるものにも拡大して運用。
  • 緊急を要する事故情報の公表として、2011年8月9日に、こんにゃく入りゼリーが原因として疑われた窒息事故(※)、同8月12日にエア遊具による事故について、緊急の注意喚起がなされており、迅速な公表の姿勢が見られる。
    (※)後日、こんにゃく入りゼリーが原因ではなかった事故として追加公表済み。