「消費者事故等に関する情報の集約及び分析の取りまとめ結果の報告」に関する意見

2011年6月24日
消費者委員会

「消費者事故等に関する情報の集約及び分析の取りまとめ結果の報告」に関する意見

消費者安全法第13条は、国が収集・分析した事故関連情報についてその結果を内閣総理大臣が国会に報告することを義務付けている。消費者庁は6月17日、その規定に則って「消費者事故等に関する情報の集約及び分析の取りまとめ結果の報告」をまとめ、国会に提出した。
消費者庁の報告は今回で3回目となる。消費者委員会は過去2回の報告に対してその都度意見を表明し、内容の改善を提起してきた。今回の報告についても、これまでの問題点が是正されているか、新たな課題はないか、などを含め、次のように意見を述べる。

I 改善された点

  • ア)消費生活用製品安全法に基づく重大製品事故の事例が盛り込まれた。(76頁から153頁)
  • イ)「追跡確認状況」のデータと重大事故事例のデータとを関連付け、どの事故がどのように対処されたかなどを示す項目が追加された。(36頁から75頁)
  • ウ)情報を受けての消費者庁等の措置状況がより詳しく掲載された。(16頁から30頁)
上記3点のうち、ア)とイ)はこれまで消費者委員会で是正を要望してきたもので、今回の報告では一定の改善が見られる。ウ)については消費者庁等による情報提供や行政処分等など、情報に対する措置について、その内容説明がより詳しく掲載されている点で、一定の改善が見られる。
しかしその一方、次の点については依然として課題が残されている。

II 課題が残された点

  • 1.情報の一元化と社会的共有化への推進について
    • (1)「追跡確認状況」が報告期間内の重大事故例を網羅するものとなっていない。
      今回報告された重大事故例は昨年10月1日から今年3月31日までに通知された391件だが、追跡確認状況は昨年10月1日から昨年12月31日までの3カ月間に寄せられた130件の集計に過ぎない。今年1月から3月末日までに通知された重大事故例261件が「追跡確認未了」とされている。なぜ、通知事例のうち3分の2の事故例について「追跡確認未了」としているのか、その理由は記載されていない。

    • (2)重大事故の発生日から消費者庁の通知受理日との間に長期間を要している例が依然として見受けられる。
      消費者安全法では行政機関の長などが重大事故を知った場合は「直ちに」内閣総理大臣に通知することになっているが、これを実効性ある制度とするには、どこの行政機関等が通知したのか、また行政機関等の長が重大事故を「知った日」を公表することが必要である。報告書では、「事故発生日」から事故の「通知受理日」まで、半年以上も、中には1年以上も要しているものがあり、重大事故情報の迅速収集に懸念がある。

    • (3)「重大事故」と「重大製品事故」の公表項目が整合化されておらず、重複事故例が分かりにくい。
      今回は消費生活用製品安全法に基づく「重大製品事故例」についても内容が報告された。しかし、これら事故例が、消費者安全法に基づき通知された「重大事故例」のどれと重複する情報か判断できない。重複情報と思われる事例でも、消費者庁の「通知受理日」(消費者安全法に基づく)と「報告受理日」(消費生活用製品安全法に基づく)が大きく異なっている場合もあり、本当に同じ事故例なのか、消費者には極めて分かりにくいものとなっている。事故例については、できるだけ公表項目の整合化を図り、重複事例もきちんと示して報告することが望ましいと考える。

    • (4)昨年4月に稼働し1年が経過した「事故情報データバンク」、及び昨年12月に開始された「医療機関ネットワーク」に関する制度の運用実績と情報の活用状況に関する説明が不十分である。
      昨年4月に稼働した事故情報データバンクについては、運用実績の説明が依然として不十分である。参画機関によるルート別収集件数をはじめ、分野別収集結果、その分析状況、共有化する行政機関等による活用状況などが明記されてこそ、今後の活用への課題が明らかになり、より運用実績の向上が図られるものと考える。
      また、昨年12月に開始された医療機関ネットワークは、消費者庁と国民生活センターの共同事業として開始されたものだが、報告書では、「危害内容」と「傷病の程度」が報告されているのみで、当該情報を入手した後の対応についての説明が不足している。1,628件もの情報について、どのような分析とそれに基づく事故防止措置がとられたのか、説明が必要である。

    • (5)消費者安全法に基づき収集された重大事故例以外の、身体・生命に関する事故例についての分析・措置状況が明確ではない。その中で、最も件数の多い「食中毒」については、事例及び行政の対応が公開される必要があると考える。
      消費者安全法第12条第2項に基づく通知事案のうち、生命・身体事案に関して膨大な事故件数が寄せられている。これらは重大事故ではないが、重大事故に発展するおそれのある事故も含まれている可能性は否定できない。統計上、軽微な事故発生件数によって重大事故の発生率が推測されるという指摘もあることから、ここに分類される事故例についても、その防止へ向けた分析が求められる。特に、内容別内訳で最も多い「中毒」(主に食中毒)については、通知を受けた後に、消費者庁はじめ、関係行政機関がどのような分析・措置を講じたのか、講じなかったのか、明確にすることが必要と考える。

    • (6)「重大事故例」のうち、「相談者非公表希望の事例」がその概要すら公表されていない。
      消費者委員会はこれまでの意見の中で、重大事故例なのに全面非公表となっている「相談者非公表希望事故例」について、被害者のプライバシー保護に留意しつつ、全面非公表としないよう要望してきた。この情報が「重大事故」であること、「事故情報は国民の共有財産」であること、などの観点から、概要公表を含む公表のあり方を工夫するよう、再度求める。

  • 2.分かりやすく使いやすい分類を
    • (1)「事故内容」の分類が分かりにくいままとなっている。
      この課題についてはこれまでも改善措置を求めてきたが、改善されていない。事故内容には「化学物質による危険」「製品破損」「部品脱落」「誤飲」「中毒」「異物の混入・侵入」「腐敗・変質」などの分類があるが、その内容が分かりにくく、公表されている事故例のどれに当たるのかについても容易に判明しない。事故例に項目を設定して指示すれば、理解しやすくなる。

    • (2)「商品別・サービス別分類」等が分かりにくいままとなっている。
      この課題についても消費者委員会が第1回の国会報告以降、懸案事項として改善を求めてきたが、今回も実施されていない。商品別分類は、統計を利用する重大な目安となるものだが現状は分かりにくいままである。例えば、冷暖房機器は「商品等別分類」では、「住居品」に含まれるが、「大分類」「中分類」では「住居品」には含まれず、一部は「家電製品」に含まれる。パソコン、電話機、音響・映像製品は「商品等別分類」では「教養娯楽品」になっているが、「大分類」「中分類」では、「娯楽用品」ではなく、「家電製品」となっている。「商品等別分類」の中に、「家電製品」の項目がないことも分かりにくくさせている一因と思われる。

III 何のための国会報告か 再確認を

国会報告は、事故関連情報の取りまとめ結果が、社会全体で、消費者安全の確保が図られるよう、収集・分析した情報が、消費者はもとより、事業者、地方公共団体等に、幅広く、積極的に活用され、消費者事故の未然・拡大防止に有効に活用できるようにすることを目的としている。また、収集された情報について、消費者庁がどのように対応し、事故防止につなげようとしたのか、あるいはつなげたのか、そのプロセスを分かりやすく説明し、透明性を確保することも目的の一つである。
そのためには、公表された情報の内容が分かりやすく、理解しやすいものであることが前提である。消費者庁は、この点を認識して、今後取りまとめを行っていただきたい。
IIで述べた通り、残された課題は多岐にわたる。また、情報の分析・対応に関しては、食中毒事故など、件数の多い事故について、その分析やそれに基づく措置・対応が明確に報告されておらず、分析体制の整備が遅れていることがうかがわれるなど、新たな課題も見受けられる。事故の未然・拡大防止へ向け、収集・分析・公表の一層の充実化が求められる。

消費者委員会は、これらの課題について、国会報告の意義と目的を重視し、検証・評価・監視を実施していく。

なお、消費者庁による事故情報の収集・分析・公表・活用の状況全体については、消費者委員会消費者安全専門調査会が、現在、報告書を取りまとめ中であり、消費者委員会としては、同報告書の公表を受けて、改めて意見を表明する予定である。

消費者行政の実施機関としての一翼を担う国民生活センターの在り方の見直しへ向け、消費者庁と国民生活センターはタスクフォース(作業部会)を設置し、5月の「中間整理」を踏まえ、今夏にも同センターの機能を消費者庁に移管・一元化することについての最終報告をとりまとめる予定であるとしている。
消費者委員会は6月10日、国民生活センターの消費者庁への一元化には多くの懸念があり、その懸念が現実化する可能性が高いことから、「慎重に検討を深める必要がある」とする「意見書」を消費者担当大臣等に提出し、現在の段階では結論を急ぐべきではないと申し述べた。この消費者委員会の「一元化に対する懸念」は、47都道府県・19政令指定都市を対象とした調査結果、さらに、消費者団体、事業者団体、研究者等からのヒアリング結果を踏まえてまとめたものであり、幅広い国民の意見を反映させた極めて重い内容である。
ところが、同意見書発表以降も、消費者庁からは、懸念を払しょくする説得力ある回答はない。新しい「消費者基本計画」でも、多くの反対があるにも関わらず、国民生活センターの一元化という文言を入れた計画として閣議決定するなど、国民生活センターの消費者庁への一元化は、今夏のとりまとめへ向け、既成の事実として位置付けられているようにも思える。
そこで、消費者委員会では、6月10日の意見書の主旨に沿って、次のような検討体制の整備を強く求める。

  1. これまでのタスクフォースの検討成果等も含め、消費者・消費者団体、事業者・事業者団体、有識者・研究者等の参加による「検討会」を新たに設置し、その検討会の審議は公開で実施すること。現在のタスクフォースでの検討が最終結果にならないことを明確にすること。

  2. 新たに設置する検討会は、かつての「消費者行政推進会議」のような、内閣もしくは担当大臣が責任を持つ合議体にすること。

  3. 消費者庁、消費者委員会、国民生活センターを中心とする消費者行政体制をさらに強化していく上でどのような体制整備が必要か、など、幅広い視点からの検討に取り組むこと。その検討に際しては、当該組織担当者(消費者庁長官及びその職員、消費者委員会及び事務局並びに国民生活センターの役職員)はオブザーバーとしての参加に限ること。

  4. 一般に組織の在り方の見直しに当たっては、当該組織のそれまでの成果を、経済性、効率性、有効性の観点から検証することが必要なことから、国民生活センターについても、新設される検討会で、速やかに同センターの成果等についての検証にも着手すること。少なくとも過去2年間の外部評価の結果を検討の前提にすること。

以上