消費者基本計画策定に向けての意見

2010年3月3日
消費者委員会

 平成21年9月に、消費者庁と消費者委員会が創設された。今回、策定する消費者基本計画は、そのような行政のパラダイム(価値規範)の転換のもと、その意図を強く反映したものでなければならない。また、消費者をとりまく社会経済環境の変化に適切に対応できるものであるとともに、対処療法にとどまることなく、そのような変化をもたらす基盤をもみすえたものでなければならない。
 その観点から、消費者基本計画の素案について、消費者委員会として、以下の意見を述べる。

総論について

1.「消費者基本計画」策定の趣旨について

1)消費者庁、消費者委員会が創設されたことを明確にすべきである。
  そのためには、「平成21年9月に消費者庁と消費者委員会が創設された。」の文章を冒頭に置き、消費者庁が司令塔の役割を果たし消費者基本計画を社会の大きな変化に迅速に対応し、策定するという意図を明示すべきである。
2)消費者政策の充実のための消費者委員会の位置づけ、役割を明確にすべきである。
  そのためには、マル6の位置に消費者委員会の記述を置くのではなく、消費者庁について書かれたマル1に続く、マル2の位置に置くべきである。
3)消費者行政を進展させるにあたっては、事業者の自主的な取り組みや消費者とのコミュニケーションを行政が支援することに応えた計画とすべきである。

2.消費者政策の基本的方向について

1)消費者基本法をはじめ、消費者行政に関わる法律、制度、施策全般の見直しも示唆すべきである。消費者庁及び消費者委員会設置法の附則に、法施行後3年を目途に検討とあることを踏まえ、早急に消費者行政全般を視野に入れた検討に着手するべきである。
2)地方消費者行政については、国としても充実の方向を大きく明示し、独立の項目を立てるべきである。

3.「消費者基本計画」の検証・評価・監視について

1)「消費者基本計画」の検証・評価・監視及びその結果を踏まえた必要な見直しは、今後、消費者基本計画が確実に遂行されるために、非常に重要な役割を担う。まず、検証・評価を行うことの重要性から書き起こすべきである。
2)検証・評価を実効あるものとするために、できるだけ具体的な施策を掲げ、年次でチェックできる評価手法を工夫するとすべきである。

具体的施策について

  具体的施策については、以下の視点で全体を再構築すべきである。
○ 取引、表示、製品の安全、食の安全など分野別にまとめて項目を立てるなど、基本計画をわかりやすいものにする。
○ 以下の重点施策に示すように、各府省庁の施策を消費者行政一元化の視点で横断的にまとめ、ビジョンを明確にする。
○ 施策の実効性を確保するために検証・評価・監視を可能とする具体的な施策の明示が必要である。

《重点施策》

1)事故情報の一元的収集・分析・提供が的確かつ迅速に図られるようにする・・各省庁、地方公共団体などの事故情報が消費者庁に一元的に収集され、有効に分析、情報提供されるような仕組みを構築する。
2)独立した事故調査機関の設置のあり方について、既存の原因究明機関等との連携を含めて、省庁横断的な検討を開始する
・・事故が起きた場合、早急に原因究明に着手できるような仕組みを構築する。
3)伝えたい情報が確実に情報を必要とする者に届くようにする
・・高齢者、障害者、妊産婦などにリコール情報、悪質商法の被害防止のための情報などが確実に届く仕組みを構築する。
4)食品表示の一元化を図る
・・食品衛生法の表示に係る部分及びJAS法の品質表示に係る部分を整理統合し、食品表示の新たな立法化を視野に入れた検討を開始する。
5)食の安全確保のための効果的な規制や組織のあり方の検討に着手する
・・食の安全を確保するため、ルールや基準の定め方、違反事業者に対する抑止力のある制裁のあり方、効果的な規制のための組織のあり方を検討する。
6)消費者教育への取り組みを強化する
・・環境教育、金融教育、法教育、食育などが縦割り行政で行われているが、市民の生きる力を養う市民教育と位置づけて、消費者庁、文部科学省が中心になって総合的に取り組む。
7)消費者の意見が消費者政策に反映される制度を構築する
・・消費者基本法第2条の基本理念に掲げられている「消費者の意見が政策に反映される権利」を一層明確にし、消費者政策全般に反映させることができる仕組みを構築する。
8)高齢化社会における消費者問題の把握、有効な対応に向けての施策の展開を図る
・・未公開株など悪質商法による被害、高齢者の住まいなどに関わる消費者問題について、現状の問題点を把握し、解決を図る。
9)情報・通信分野の法規制に消費者保護の観点を入れる
・・高度情報通信社会の進展に見合った法体系の整備が図られようとしているが、消費者保護の視点を入れて構築する。
10)地球温暖化防止のための施策の充実を図る
・・事業者は、地球温暖化防止に配慮した消費活動を促進・支援するために、商品・サービスの供給を図るとともに、そのための消費者の適切な選択を可能とする正確かつ適切な情報提供を行う。行政は、そのための環境整備やルール作りを施策として拡充・展開すべきである。

 消費者基本計画は閣議決定され、今後5年間を規定する消費者行政の大きな基本方針になる。政府はリーダーシップを発揮して、課題別に工程表を作るなどして、その着実な実行に当たっていただきたい。