「消費者問題シンポジウム in 京都」を開催しました

「消費者問題シンポジウム」とは

消費者委員会の委員が地方に出向き、消費者、関係各団体のみなさまの声に直接真摯に耳を傾け、問題の解決に効果的に取り組むため、地方の関係団体や自治体などと連携し、意見交換等を開催するものです。

京都での会合の様子を紹介します。

「消費者問題シンポジウムin京都」は消費者委員会と京都消費者契約ネットワーク(以下、KCCN)が主催し、「エシカル・コンシューマーへの道」をテーマに平成27年6月27日(土)京都市の京都リサーチパークで開催しました。

会場の様子
(会場の様子)

当日は晴天に恵まれ、京都府、京都市をはじめ近隣の県や市の消費者行政担当者や相談員のほか、消費者団体、弁護士、司法書士、事業者、学生、一般消費者など約80名の参加がありました。

開会挨拶を行う高嶌理事長
(開会挨拶を行う高嶌理事長)

冒頭、KCCNの高嶌理事長より、「従来のように単に弱い保護される消費者像ではなく、主体的に社会に働きかけ、社会を変えていく、このような消費者こそが社会に必要不可欠。主体的な消費者こそが消費者問題の根本的な解決にも繋がるし、また社会において、一番人数の多い消費者が社会をよりよくする。このことは既に平成24年に成立した消費者教育推進法に消費者市民社会として示されているところ。だがこのような社会を実現するために具体的に誰がどのように進めていくのか、この理念がどんな活動に繋がっていくのか、繋げていくのか具体的なイメージが共有できていない。そこで本日は、様々な立場で消費者問題に携わってきた方々に、ご議論いただき、疑問と課題を明らかにし、今後、何をどのようにしていけばいいのか具体的な活動のイメージを全体で共有できればと思います。会場の皆様からのご意見、ご質問、ご批判をたくさんよせていただければと思います。」との開会挨拶がありました。

基調講演を行う河上委員長
(基調講演を行う河上委員長)

シンポジウムは河上正二委員長による基調講演「消費者委員会の活動と消費者教育について」で始まりました。

まず、消費者委員会とはどういった組織か、消費者政策における消費者委員会の役割、審議体制、活動についてなど説明しました。

次いで、消費者教育については、「私も30年以上、民法の教育に携わってきた人間ですが、法律を教えながら、どういう学生を育てようとしたか考えてみたところ、法律のプロを育てるという意識はあまりなかったと思います。自分たちが、ある問題に直面した時に、その問題をきちんと分析して、その問題に応じて利害がどういう形で対立するか分析ができる。そのうえで、あるべき一定の解決策を見つけだし、論理的に相手を説得し実現していく。ある種の問題解決能力を法学部の学生に求めていました。消費者教育推進法ができ、消費者教育は、まず自分の身を守るための力や、それ以上に自分は本当に何が必要なのか、きちんと認識する力が必要。そのためには山ほどある情報を選別して判断する力を育てる。そのうえで、生活に必要な物資やサービスを適切に選択して購入して、活用する、ある種の人間力を養うことにつきるのではないか。その意味では消費者教育で、何を誰が誰にどのように教えるかが、とても大事なこと。皆で考える、その考える過程が重要。子供たちにどういうことを伝えていきたいか考えることのほうが重要ではないかと思う。」と述べました。

エシカル・コンシューマーについて、「今まで消費者教育は、こんな危ないことがあります、あるいは、被害回復はこういう方法がありますなど自分の身を守るという形で扱われてきた。今回の消費者市民教育はもう1歩進んで、消費者自らどういう消費生活をおくっていけばよいか、それが自分だけでなく、他人とかエコロジーとかをきちんと意識することに根幹があるのではないかと思いました。エコとか環境にやさしい商品を買いましょうとか、フェアトレードとかいろいろありますが、それ自体は目的ではないと思います。社会とか環境をきちんと意識して、情報を提供された消費者が自分の生き方にふさわしいか考える力を身につけていただく、そのための情報と環境を整えるところに消費者教育、エシカル教育の根幹があるのではないかという気がします。消費者は、きちんと情報を活かしていますかと問いかけられなければいけない。他人と自分を区別できていますか。当たり前なことですが、他人に迷惑をかけて、自分の利益ばかり追求していないか自ら問いかける。自分の消費行動が社会に及ぼす影響を意識して問題を考える。そういう消費生活がこれからは求められる。震災の時に仙台におりましたが、やはり相対的に劣位にある人々が被害にあい易いということは事実でありまして、そういう人たちに対して寄り添って一緒に支え合うという姿勢や意識を一人一人持つことを痛感させられました。これらは、通常の人間力の問題に関わるのだろうと思います。教育基本法の中に、個人の尊厳を重んじて心理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成とあります。この理念は、何も消費者教育に限ることではなくて、人間として学んでいくことを学んで、強く賢く選択、行動する主体的な市民としての消費者、それを目指して皆で頑張りましょうということです。一定の方向に向けて、いろんな価値の提示があることは、それ自体が目的ではありません。それを皆で考えていい社会を作っていけるよう、消費者としても自覚をもって行動されたいということであります。」

と述べ、次の報告者であるKCCNの野々山副理事長につなぎました。

報告を行う野々山副理事長
(報告を行う野々山副理事長)

野々山副理事長は、「消費者市民社会の実現に、消費者・消費者団体はここまでできる」と題する報告を行いました。

はじめに、エシカル・コンシューマーについて説明しました。「いま、エシカル・コンシューマーという言葉がいろいろなところで広がってきている。京都府では、消費者教育推進計画で消費者市民社会実現のために「エシカルコンシューマープロジェクト」の実施をあげている。京都市には『DO YOU KYOTO?』プロジェクトがある。『環境にいいことしていますか?』という世界への発信のこと。消費者庁では「倫理的消費」調査研究会が発足している。大きな商業施設や百貨店でもエシカル・キャンペーンなどが行われている。また、お茶の水女子大学付属の高校生がエシカル・ファッションについておしゃれなパンフレット作っている。「エシカル消費」は、かなり社会の中で広がってきている。

では、「エシカル消費」「エシカル・コンシューマー」とは何なのか。まだはっきりした明確な概念はないが。エシカルとは倫理的、道徳的という意味、エシカル消費とは、価格の安さや自分にとってよいものとの基準だけでなく、地球環境や社会貢献といった倫理的・社会的視野で消費をすること。そういう消費行動をすすめていくということ。それを実行している人たちのことをエシカル・コンシューマーという。何が正しいか、しっかりと考えて選択して行動してもらう。具体的には、オーガニック(有機栽培)、フェアトレード、エネルギー節約、再生商品利用などエコ、地産池消などが提案されており、それを自分なりに考えて購入すること。さらに進めば、不正な企業の商品を買わないなどの行動。そういう考え選択する消費がエシカル消費。それを実行するのがエシカル・コンシューマーと言われています。」

次に、消費者市民社会とエシカル・コンシューマーの関係について述べました。「今の消費者教育推進法にはエシカル・コンシューマーという言葉はない。同法で定義され、積極的な参画を求められているのは、「消費者市民社会」である。個人的見解としては、エシカル消費は買い物などの購入における消費行動の選択に対するライフスタイルの提案だと考えます。社会に与える影響力を考えて買い物をすること。一方で消費者市民社会は、それに留まらない。購入行動だけでなく、消費を中心とした生活そのもの、生き方全般に対する行動の提案。買う、使う、捨てるなどの消費行動だけでなく、例えば学習会に参加する、情報を発信するなど、そういう活動も含めたトータルな意味で消費者がきちんと選択できる社会を築いていく積極的市民の育成が求められている。エシカル消費は消費者市民社会形成につながる一つの要素ではないか、と考えます。

消費者市民社会とは何か、私は『五方良し』の消費行動で公正で持続可能な社会を実現するのが消費者市民社会だと考えています。自分に、家族に、地域に、地球全体に、未来に、そういう5つの要素ことを意識して、自分の消費がこれら5つの要素に影響を及ぼしているのだということを考えて行動しましょうということが、消費者市民社会が求める方向性。積極的・主体的に考え行動することが大切。そうやって考えて、行動し生活することで社会貢献になる。これまでの消費者教育は、どうやったら騙されないか、騙された時どうしたらよいかが基本であったが、それだけでなく、ポジティブにどういう消費行動をとれば社会に貢献できるか考えていこう、そういうことを考えていく人を育てていこう。そういうものが消費者市民社会をつくるうえで大事。消費者基本法は政策において2つの重要な柱がある。1つ目は、消費者の権利の擁護。2つ目は、消費者の自立の支援。この自立する消費者の1つの提案として消費者市民社会がある。

では私たち一人一人どういうことができるのかが次の課題。皆さん既に、生活のなかでエシカル消費の行動はしていると思います。具体的には節電とか、ゴミを減らすとか。ただ、これが意識的に行われているかどうかが非常に大事だと思う。5つの要素に影響を及ぼしているという自覚の中で行動することによって、自分の中でも他者に対しても広がりが出てくる。その意識的行動をしていく1つとして消費者市民社会とかエシカルという言葉があるんだと思う。まず自覚することが大切。一人一人自分がしている消費行動の意味を考えること。意識的な行動を取ることの前提となる。キーワードは、まず自覚すること。こういう意識的な活動は若者の中で進んでいる。先ほど紹介したお茶ノ水女子大学付属高校の取組みも1つ。京都では大学生の取組みがあります。京都大学フェアトレードサークルの取組みの紹介をしたいと思います。梶原さんお願いします。」

報告をする梶原氏
(報告をする梶原氏)

野々山副理事長の報告の中で大学生の自主的な活動の紹介として、京都大学「フェアトレードサークルまなびやハチドリ」の梶原氏から報告がありました。

梶原氏からは、フェアトレードサークルの紹介、フェアトレードの認知向上のための学内、学外での活動についてなど報告がありました。

その後、野々山副理事長からのインタビューがありました。

インタビューの様子
(インタビューの様子)

「京大だけでなく他の大学でもフェアトレードサークルはどれくらいありますか?」「同志社に2つ、他には立命館、京都女子大などにあります。」

「やりがいや、楽しさはどんなところにありますか?」「どういうふうにしたらフェアトレードを知ってもらえるか考えて企画することや、実際に来て下さったお客様がフェアトレードいいね、次、買ってみるね、など言ってもらうことです。」

「お客様の反応はどんな感じでしたか?」「半々です。素敵だねっていう方もいれば、ちょっとねっていう方もいます。倫理面を押しすぎると危ない団体ではないかと思われてしまったり、値段が高すぎて嫌だといった反応もあります。」

インタビューの後、野々山副理事長の報告が続きました。

「京都の大学でも、フェアトレード一つとってみても、いろんな活動がある。さらに企業も変わりだしている。電化製品でエコの商品が強調されているなど。これはエコの商品を我々が買うからそのような製品を作り、CMでも強調する。私たちがそういうものを選択すると企業もそれを売る。大手の商業施設がエシカル・キャンペーンをするのも消費者が関心を示し集客があるから。私たちが自覚的な活動をすることによって企業も変わるし、企業がキャンペーンをやることで私たち消費者も変わる、相乗効果があると思います。私たちが意識的に選択することで企業を動かすことができる。企業は応えざるをえないし、先取りをしていくというもの。これに対して行政も取組み始めている。動き出しているなという実感があります。さらに消費者市民社会形成への消費者団体の役割も重要となっています。消費者が影響力を考えて自分で判断して選択するには一定の情報がいる。それから社会とか未来との関係についての知識も必要。消費者の立場で情報を発信し、知識を提供していく存在が必要となっている。そういう意味での消費者市民社会形成のためには、消費者団体の役割は極めて重要。企業に対する影響力としても消費者団体は重要。そのような、消費者のリーダーとしての役割がある。消費者が自覚する支援が必要。情報を発信していくことが大事。そして消費者団体はそれを伝える消費者教育の担い手でもある。さらには、公正な消費社会の実現のために、直接事業者にアクションを起こしていく存在でもある。その一つに、適格消費者団体の差し止め請求がある。適格消費者団体として認定されている団体は全国で12ある。差し止め請求のほかの、もう1つ新しい制度、被害回復を請求できる制度ができた。これらの課題はあとのパネルで議論する。

私たちがこれから消費をする時、「自覚する」「学ぶ」「伝える」「支える」が大事。自分のできるところから少しずつ広げていくのが大事。」と述べて、報告を終えました。

休憩後、パネルディスカッションが行われました。パネリストは消費者庁消費者教育・地方協力課の植田課長、KCCNの長野理事・事務局長、コンシューマーズ京都の原理事長、京都生活協同組合の柴田副理事長、コーディネーターは先ほど報告をしたKCCNの野々山副理事長が務めました。

コーディネーターの野々山理事長とともに、「消費者市民社会を目指した積極的消費者としての活動について」というテーマで討論を行いました。

パネリストの植田課長、パネリストの長野理事・事務局長、パネリストの原理事長、パネリストの柴田副理事長、コーディネーターの野々山副理事長
(パネリストの植田課長、パネリストの長野理事・事務局長、パネリストの原理事長、パネリストの柴田副理事長、コーディネーターの野々山副理事長)

消費者市民社会とかエシカル消費について主婦として、どのようなイメージをお持ちでしたか。

(柴田氏)「これまでは、消費者市民社会とかエシカル・コンシューマーというと、とても意識が高くて積極的に消費者運動をしている人を想像していましたが、難しいことではなく、子どもの頃、電気を消しなさい、水道の出しっぱなしはダメなど怒られましたが、昔から日常の中で、当たり前にやってきた節約や知恵もエシカルなんだと気づかされました。買い物では、芯なしロール(トイレットペーパー)、1パックに1円寄付する商品や、地産池消の商品を買うなど意識して買うこともエシカルなんだなと感じました。」

消費者市民社会の構築やエシカル消費の普及に対して行政、消費者団体の取組みは。

(植田氏)「消費者市民社会という言葉はだいたい平成20年頃から使われていると思います。また平成21年の9月に消費者庁が創設されたが、創設は消費者の更なる意識改革を促すもの、その意味でこの改革は消費者市民社会構築に向けた画期的第一歩として位置づけられるものであるとされています。また平成24年の消費者教育推進法の中にも消費者市民社会が求められている。消費者庁の設置の経緯や消費者教育推進法で求められていることから国としても取組みを行っているところ。エシカル消費については、『倫理的消費調査研究会』を発足し、議論しているところ。これまでの消費よりも価値、質の高い消費が必要でないかということで今後議論が進んでいくのではと思います。消費者市民社会の形成であるとかエシカルといったムーブメントなど広がりを促していきたい、京都府、京都市などの自治体や大学など連携をとってやっていきたいと思います。」

(原氏)「コンシューマーズ京都は1972年に設立してからこれまで、消費者教育のセミナーや講座などを多くやってきた。これは、消費者市民社会やエシカルのためにやってきたわけではない。消費者教育、啓発の体系がすでにできあがっている。そこにエシカルとか消費者市民社会という新しい考えをどう埋め込むかということ。これまでの活動の延長線上に、消費者市民社会の活動もある。」

先ほど私の報告の中で適格消費者団体の活動はとても大事だ、特に公正な社会を作る、企業への影響力ということではとても重要だと話しましたが、適格消費者団体はまだまだどんなことをしているか知られていないと思うのでご説明をお願いします。

(長野氏)「適格消費者団体とは事業者の不当な行為を差し止めできるようになった制度。全国で12ある適格消費者団体で30数個の差し止め訴訟があるが、そのうち14個をKCCNで行っているところ。身近な問題では、携帯電話の解約料などもある。成果をあげた事例では、冠婚葬祭互助会の解約料の条項が無効だと差し止めを求め勝訴したものがある。モデル約款があり全国で2000数万件の契約に影響があった。ほかには、健康食品広告の差し止めなどがある。非常に大きな成果をあげられるが、赤字事業となっており、一切お金は入ってこない。どの事例も、行政などが、少額だったり、法的に難しかったりで手出しできなかったところに適格消費者団体が切り込んで改善を求めたところに適格消費者団体の非常に大きな存在意義があると思う。」

様々な立場、方法で消費者市民社会への活動をしているわけですが、まだまだ社会には普及していないと思います。どうやったら広げられると思いますか。

(柴田氏)「きっかけはいろいろあると思うが、私の場合は、環境フェスティバルなどでフェアトレードのチョコレートを知ってから考えるようになりました。どんな情報を入手するかが非常に大事。まず見聞きする機会を圧倒的に増やすことが有効。企業の働きかけも大事。企業が頑張るだけではなく、応援する行政の支援も大事。物があふれる中から自分の必要な物を選んで買うのがなかなか難しい。また、被害にあったことに気づかない場合もある。選択のもととなる情報が大事。また、目で見て、手に取ったりといった機会も大事だと思う。意識的な行動をとろうとしても、そういう対象がないといけない。そういうものの情報発信が非常に重要。特に目に見える形でないといけないということ。」

(植田氏)「先ほど、ハチドリの報告でもあったが、若い方に働きかけていきたいと考える。こうした活動を大きなムーブメントにしていきたい。一過性ではなく、継続的なものとして。若者がこうしたものを学んで実践できるような環境整備をしていきたい。消費者教育については、小学校から高校までの中でも充実してきている。例えば高校の家庭科の教科書にフェアトレードが載っている。学校でもしっかり学んでいけるよう取り組んでいきたい。消費者教育の拠点ということでは消費生活センターやそれぞれの自治体の取組みもある。連携を図ってやっていきたい。」

「そうは言っても安いが一番」という声がある中で、意識的行動をとってもらうには、どういうことが大事だと思いますか。

(原氏)「実際の消費行動になったなら、特別に悪いものでない限り、一般的には安いものを選ぶ、これは、ごく普通の行動。そういう人たちにあなたがエシカル・コンシューマーになるんですよといっても通じない。どういうお買い物をすれば、それがエシカル・コンシューマーとしての行動になったのか、具体的にイメージをお伝えする。それ以上に個々の商品をお伝えする。どちらを選びますかというとこまでいかないと実際には行動にならない。学校の授業でも消費者のお買い物は貴重な1票にあたりますとある。あなたの1票が社会を変える。マーケットを変えるといっても、ではどういう人を選んだらいいのかとなってしまう。こういう候補者がいます。この候補者はこういう政策を掲げています。そういうことが分かって選択が始まる。選択してもらうための情報を伝えないと選べない。相応しい商品がないと動かない、結果的に安いが一番になってしまう。消費者団体、行政、事業者が一緒になってこういう社会を目指そうねという目線合わせをやり、具体的な商品開発、情報開示をやっていく中で社会は動き始めるし、それを踏まえて消費者教育をやることで具体的な変化が始まると思います。選択する時に対象となる商品がないといけない。また情報発信がされていないといけないということ。」

企業への活動について、適格消費者団体として、消費者により自覚的な選択していくことについてどういうものが大事だと考えますか。

(長野氏)「適格消費者団体の特徴は、企業が嫌だといっていても、裁判をして、お願いベースではなくて法的に強制する形で企業活動を規律していくことができること。消費者の立場で対峙して戦うことができる。消費者の権利、利益にかなわないものについては、差し止め訴訟、被害回復制度をとおして是正させることができる。大きな役割を担っている。法的に消費者の権利をつきつけていくが、将来的に大事なのは、消費者の声を、社会全体に事業者にぶつけていくようなシステムがいるのではと思っている。適格消費者団体もその一つになれればいいと思っている。消費者の消費行動によって、企業は伸びもするしつぶれもする。それだけの力を持っているが、消費者の声を一つにまとめるシステムがない。適格消費者団体の活動を通じて社会、消費者の信頼を得て、それを消費行動の提案にして、それに消費者がのっかり、一つの方向性を企業に提示できるような活動ができればと思います。消費者全体が一つの行動がとれるようになったら社会がかわるのではないか。消費者の行動で企業は変わる。企業が変われば消費者も変わる。相乗作用があると思う。」

河上委員長の講演で選択の幅を広げることは望ましいが一定の価値観の押しつけにならないようにという話があったが、どう考えますか。

(植田氏)「『倫理的消費調査研究会』でもそういったお話が出ているところ。消費をするところだけではなく、捨てられた後どうなるか、また誰がどのように作ったかなども必要なのではないかと思います。ご飯を感謝して食べなさいなど、昔からある考え。押しつけではなく皆でよく考えてやっていくのが重要だと思う。」

(原氏)「消費者市民社会や、エシカル・コンシューマーという言葉は最近できた言葉、概念。みんなが共通の概念として認識を揃えているものではないと思う。実践の中で出来上がっていくものと思う。そのプロセスをお互いが協同できるか連携できるかだと思う。もう一方でエシカル・倫理とは、哲学する、問いかけること。倫理するというのは、何が正しいか考えること。その場合に、何が正しいか言っていない。そこであるのは問いかけ、何が正しいか考え続けること。そういうことができる市民になって欲しいということしか言っていない。行政が言われる場合は、それ以上のことは言えない。消費者団体としては、この企業は良い企業、悪い企業、このエネルギーは良いこと、悪いこと。選択肢を持ちうる。考えてください。同時に、私たちは、これは良いと思うという情報を載せていく。これが消費者団体の役割だと思う。私たちの事業の目的の中にも、企業評価を通して公正な市場をつくるということを入れている。昔から公正な市場を我々が作っていくという思いを持っていた。何が公正かというものは深めきれていないが、こういう分野ではこれが正しいという価値基準を持っている。考えること、意識して行動することがまず大事。そのための情報発信を消費者団体としてやっていきたい。」

新しい制度ができて、その担い手として特定適格消費者団体が考えられています。適格消費者団体の重要性が増してくると思いますが、社会に知られていないという現実があると思います。

柴田さんは適格消費者団体について知っていましたか?またどうすれば知っていただけるようになると思いますか。

(柴田氏)「私は知らなかった。私のまわりにも聞いてみたがほぼ知らなかった。ただ、新聞では適格消費者団体が行った判決を見ていたので、判決は知っていたが、判決と適格消費者団体が結びつかなかった。KCCNの活動が活発だということ、認定されるのもハードルが高いことを知った。」

(原氏)「適格消費者団体制度の仕組みに欠陥があると思う。世のため人のためは素晴らしい理念だが、その仕事は経済的には何もペイしない。適格消費者団体が大変ご苦労しているのがよく分かる。これを構造的に改善しようと思った場合に、なんらかの支える流れがないと無理だと思う。法廷闘争とは別に地域社会に根差す体制が必要ではないか。例えば消費者契約に関する消費者教育はとても重要なテーマ。消費者団体、行政と連携して消費者契約教育をする、教材を作るなどが必要ではないか。大学の授業などでも法教育はいっぱいある。そういうところに入っていくというのもある。大学関係者へのアプローチなどやる余地はある。仕組みづくり、推進のための体制づくりは必要と思う。」

消費者市民社会、エシカル消費を推進していくには消費者団体からの情報発信は大事になる。事業者との関係で姿勢を正していく、そういう方向に変えていく、消費者目線を持ってもらうということについても、適格消費者団体が重要な役割を果たしている。基盤がぜい弱であるし、市民に知られていない。行政はどういう支援を?また適格消費者団体を支援する検討会が立ち上がったと聞いている。適格消費者団体としてどう受け止めますか。

(植田氏)「設立の支援や設立された後の支援をしている。東北、北陸、四国の3ブロックにはまだ適格消費者団体が設立されていない。まずはそこに設立を目指している。国から補助金を直接支給することは難しい。都道府県を通じて支援をお願いしているところ。消費者庁には地方消費者行政推進交付金がある。適格消費者団体については、消費者被害回復制度の担い手として、支援を実施していただきたいということを、都道府県を通じてやっていただきたい。」

(長野氏)「KCCNは14の訴訟を提起しているが、年間予算は約150万円。弁護士や事務局もほとんどボランティア。非常に脆弱な体制。差し止め訴訟の制度ができた時に、使わないと良い制度にならないと、歯を食いしばって活動してきた。資金を作ったり、情報発信まで手が回らなかったのが実情。適格消費者団体の活動をもっともっと消費者に発信していかないといけないと痛感している。ただ、年間予算150万円と人員では、やれることは限られている。皆さんにできることでいいので適格消費者団体を支えて欲しい。京都府に対しては、適格消費者団体の支援の実施を申し入れているところ。」

(原氏)「社会的に支える仕組み、制度を作らないといけないと思う。消費者庁がコアになる基金があってもいいのではないか。心だけではうまくいかない。」

(長野氏)「かつて民間で適格消費者団体を支援する基金があった。支援しようという企業が基金を積んで訴訟の時に支援をしてくれたが、広がりがなく基金は枯渇して終わってしまった。適格消費者団体が、どういうものかということについても広がりが欠けていた。それは市民の皆様だけではなく企業に対しても欠けていたのかなと思う。重要な課題と考える。」

などのコメントがありました。

フロアからの質問の様子
(フロアからの質問の様子)

フロアからの質問・意見では次のようなコメントがありました。

  • 新しい制度、特定適格消費者団体について教えて欲しい。
  • 消費者問題は身近な問題なのに、制度になると難しい。問題は日常生活の中で起きている。その目線を。エシカル・コンシューマー、消費者市民社会、分かりづらい。皆に理解される言葉にしないと本物にはならない。
  • エシカル消費という言葉、心にもやもやが。倫理的消費、安いもの買ったらあかんのかと。ネーミングも、クールコンシューマーにしたらどうか。
  • エシカル消費はよりよい社会にするためのもの。その源泉は生活の現場にある。問題は社会が白黒一緒であること。例えば模倣品、偽物でもいいじゃないかという人も40%いるというアンケート結果もある。白が黒を抑え込むよう、またその力は、地方からくるものと考える。

パネルディスカッションで意見を交わすコーディネーターの野々山副理事長とパネリストの皆さん
(パネルディスカッションで意見を交わすコーディネーターの野々山副理事長とパネリストの皆さん)

パネルディスカッションの最後に、各パネリストからまとめや感想のコメントを頂戴しました。

京都生活協同組合の柴田副理事長から「自分の消費行動に気づく。いろんな方々がいろんな角度で、自分たちはどうすべきか、これができるなど、皆で話し合っていく時間があればいいと思いましたし、私自身の消費行動、日常生活も意識的に未来の子供たちのためにも地球のためにも楽しく取り組んでいきたいと思いました。」

コンシューマーズ京都の原理事長から「あなたの1票が市場を変えるという場合に当選させる投票もあれば落選させる投票もある。視野を広げて、今の時点でこれが選択肢なんだよとうまく示せるか。それが僕らの能力と評価されるところと思います。」

KCCNの長野理事・事務局長から「最終的には企業と対峙できる力をつけたい。我々の活動が少しずつでも事業者の活動を変えて、消費者の権利擁護に役立っているというのは非常にやりがいがあって、だからこそボランティアでもやっている。消費生活相談員、消費者団体の方々、弁護士、司法書士の方々、ネットワークになってやっている。この活動をもっともっと発展させていきたいと思います。」

消費者庁消費者教育・地方協力課の植田課長から「消費者庁は消費者市民社会形成のために作られた。消費者市民社会、エシカルという言葉もなかなか分かりやすい発信ができていなく、消費者教育推進会議や研究会で勉強して皆様に分かりやすく発信できればと思います。適格消費者団体の支援についても、庁内で検討してまいりたいと思います。消費者教育に関しますと、若い方を巻き込んだムーブメントにできればと考えておりますので是非皆さんのご協力をお願いします。最後に、7月1日から消費者ホットラインが3桁になりました。188『いやや!』と覚えていただいて、何かありましたらセンターにご相談いただければと思います。」

コーディネーターのKCCNの野々山副理事長が「エシカル消費や消費者市民社会といった難しいテーマを議論したが、もっともっと考えていかなくてはいけないと感じるところ。キーになるのは『意識すること』『選択する力をつけること』がとても大事だということが確認できたと思います。またそれには、情報を発信する主体として消費者団体の役割、行政の役割がとても大事だと分かってきたと思います。こういう意識的な行動は、もちろん皆さんやっているわけです、今日紹介した若者たちは積極的にやっていきている。私たち自身もできるところから自分たちの生活の中でしっかり考えて、しっかり選択してこれからの消費生活をおくっていきたいと思います。」と述べパネルディスカッションを締めくくりました。

最後に、河上委員長が「自分の頭で考えて、どういう選択行動をとるのが社会にとっていいのか。きちんとわきまえていけるような消費者でないといけない。そのための情報の共有であったり、あるいは考え方について人間力を養うための教育であったり、今まで以上にしっかりやらないといけないという気がします。今日の議論を、これからの消費者委員会の活動に是非活かしていきたいと思います。消費者庁の試算では消費者被害は6兆円を超えるとある。これが根絶されれば、健全な市場にまわっていくお金。それをいい市場をつくるために、消費者団体などが活動しているとすれば、これを支援すべく投資するというのは効果が一番ある投資だと思います。できるだけいろんな形の支援をお願いしたい。エシカル・コンシューマーという難しいテーマでありましたが、本日の議論でイメージがわいたのではないでしょうか。」と総括して、会合は終了しました。

参加者のアンケート結果から

会場では参加者にアンケート調査を行いました。アンケートには、

  • 自覚を持って社会や環境を考えて行動する消費者教育が必要だということが良く分かった。
  • フェアトレードについては、企業も積極的に乗り出してきていることを知った。学生達も活発に活動している取り組みが聴けて良かった。
  • 「教科書に掲載⇒フェアトレードは善、それ以外は悪」という構図になるとすると違和感があると思っていました。今日のお話の中身が全国に正しく伝わることを期待します。倫理的と言われる事柄の悪い側面にも注目すべき点があると思います。
  • もっと消費者の声が事業者、行政に届きやすい制度が必要。今日学んだエシカル・コンシューマーとは、適格消費者団体を理解し支援することも含んでいると思った。
  • 消費者団体が経済的にも自立して活動していけるように、それまでは行政(国や都道府県)が金銭面で支援をしていくべきであると思います。いつも直接の援助は難しいと発言されますが、それを工夫して他を説得して、支援に向けて全力で取り組んでほしいと思います。
  • 消費者市民社会を構築するためには、学生だけではなく、次世代を担う親子及びエシカル消費、フェアトレードなどの情報が届きにくい一般の方々にも広げていくことは必要と思います。
  • 消費者問題は行政をはじめ、様々な組織・団体との連携がとても必要であることが良く分かりました。

など、数多くのコメントが寄せられました。

京都府、京都市への表敬訪問

開催前日である6月26日(金)河上委員長は表敬訪問のため京都府庁、京都市役所を訪ね、西川京都府府民生活部長と門川京都市長へ開催にあたっての後援のお礼を述べ、当シンポジウムついて、京都の消費者被害、取組みについてなど幅広く意見交換しました。

西川京都府府民生活部長と撮影
(西川京都府府民生活部長と撮影)                (門川京都市長と撮影)

以上