第452回 消費者委員会本会議 議事録
日時
2025年2月12日(水)10:00~11:19
場所
消費者委員会会議室及びテレビ会議
出席者
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- 【委員】
- (会議室)鹿野委員長、黒木委員長代理、小野委員
- (テレビ会議)今村委員、大澤委員、柿沼委員、原田委員
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- 【説明者】
- 消費者庁 参事官(公益通報・協働担当)付 安達企画官
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- 【事務局】
- 小林事務局長、後藤審議官、友行参事官
議事次第
- 公益通報者保護制度検討会報告書について
配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)
- 議事次第(PDF形式:174KB)
- 【資料1-1】 公益通報者保護法の概要(PDF形式:271KB)
- 【資料1-2】 公益通報者保護制度検討会報告書(PDF形式:915KB)
- 【資料1-3】 黒木委員長代理提出資料(PDF形式:1650KB)
《1. 開会》
○鹿野委員長 それでは、定刻になりましたので、ただいまから、第452回「消費者委員会本会議」を開催いたします。
本日は、黒木委員長代理、小野委員、そして、私、鹿野が会議室にて出席しており、今村委員、大澤委員、柿沼委員、原田委員がテレビ会議システムにて御出席です。
星野委員、山本委員は、所用のため御欠席と伺っています。
中田委員は、現時点では、御欠席ですが、遅れて参加される可能性もあると伺っているところです。
それでは、本日の会議の進め方等について、事務局より御説明をお願いします。
○友行参事官 本日もテレビ会議システムを活用して進行いたします。
配付資料は、議事次第に記載のとおりでございます。もしお手元の資料に不足等がございましたら、事務局までお申し出くださいますようお願いいたします。
以上でございます。
○鹿野委員長 ありがとうございました。
《2. 公益通報者保護制度検討会報告書について》
○鹿野委員長 本日は、消費者庁の「公益通報者保護制度検討会」の報告書について御議論いただきます。
公益通報者保護法は、労働者が不正の目的でなく、勤務先における国民の生命、身体、財産等の保護に関わる法律に規定する刑事罰などが課せられる不正行為を通報した場合に、通報を理由とする解雇の無効、その他の不利益取扱いを禁止することなどを内容とする法律として、平成16年に制定されました。
制定後、令和2年の法改正前には、内閣総理大臣より諮問を受け、消費者委員会、公益通報者保護専門調査会において、調査審議と報告書の取りまとめを行い、それを踏まえて、委員会より答申を行ったという経緯がございます。
今般、令和2年の改正法の施行から一定期間が経過したということから、近年の公益通報者保護制度をめぐる国内外の環境の変化や、改正後の公益通報者保護法の施行状況を踏まえた課題について検討を行うため、消費者庁にて公益通報者保護制度検討会が発足され、昨年12月に報告書が取りまとめられたと伺っております。
本日は、その報告書の内容について御報告いただき、意見交換を行いたいと思います。
本日は、消費者庁参事官(公益通報・協働担当)付の安達企画官に会議室にて御出席いただいております。
安達企画官には、お忙しいところ、どうもありがとうございます。
それでは、30分程度で御説明をお願いいたします。
○消費者庁参事官(公益通報・協働担当)付安達企画官 消費者庁の安達でございます。このような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
本日は、昨年末に公表された公益通報者保護制度検討会の報告書についての御説明ということですが、その前に、まずは、公益通報者保護法がどのような法律なのか、ポンチ絵に沿って御説明をさせていただきます。
御紹介がありましたとおり、公益通報者保護法は2004年、平成16年に成立した法律でございます。
経緯といたしましては、2000年代初頭に事業者による食品偽装ですとかリコール隠しなど、国民生活の安全・安心を損なう事業者の不祥事が相次いだということがございます。
これを受けまして、事業者の法令違反についてお勤めの労働者等による通報を保護するとともに、国民生活の安心や安全を脅かす事業者の法令違反の発生と被害拡大を防止するということを目的に、この法律が制定されました。
こうした経緯から、法律は当時、国民生活局が置かれていた内閣府が所管することになりまして、平成21年の消費者庁設置に伴って当庁に移管されました。
令和2年6月に、制定から16年ぶりに法改正が行われ、令和4年6月に改正法が施行しております。
このポンチ絵の2ポツのところでございますが、法では、労働者、派遣労働者または役員が不正の目的でなく、法の別表や政令に列挙された国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律、約500本ございますが、その規定に違反する事業者の犯罪行為もしくは過料対象行為、または違反状態の継続が最終的に刑罰もしくは過料につながる不正行為を所定の通報先に通報することを公益通報と定義しております。
また、3及び4のところになりますが、この公益通報が通報先に応じて定められた要件を満たした場合には、公益通報を理由とする解雇を無効とし、降格や減給、不利益な配置転換、嫌がらせといった、その他不利益な取扱いを禁止しています。
加えて、5のところでございますが、令和2年改正において、常時使用する労働者の数が300人を超える事業者には、公益通報に応じ適切に対応するために必要な体制の整備が課されることとなりました。
事業者の体制整備のうち、内部からの公益通報を受け付け、調査をし、その是正に必要な措置を取る業務に従事する者、これを従事者といいますが、従事者を定める義務及び従事者の守秘義務については、体制整備の中核的な役割を果たすものとして、法律に明記されています。
また、従事者が内部で通報した方を特定する情報を漏らした場合には、30万円以下の罰金が規定されています。
体制整備義務の具体的な内容、例えば、部門横断的な内部通報窓口を設置するといったことなどがありますが、必要な措置については、法律の定めにより、法定指針に委任されています。
資料の一番下でございますが、令和2年改正法の附則第5条に検討の規定がございます。この規定では、施行後3年をめどとして、不利益な取扱いの是正に関する措置の在り方や立証責任の在り方など、改正法の規定に検討を加えて必要な措置を講ずることとされており、今年の6月で丸3年を迎えるところでございます。
消費者庁では、この令和2年改正の附則第5条の検討の規定に基づいて、有識者による公益通報者保護制度検討会を設置し、去年の5月から12月まで議論を行い、検討会の提言を報告書として取りまとめ、公表しました。
検討会の委員につきましては、本日お配りしている検討会報告書の36ページのとおりでございますが、学会の有識者や弁護士の方のほか、消費者団体、連合、経団連、商工会のメンバーが参加しております。
報告書では、総論として国内外の動向を踏まえた制度見直しの必要性に関する検討会の考えを示した上で、検討会で議論された個別論点への対応を提言としてまとめております。
報告書の4ページから7ページに制度をめぐる国内の状況及び国外の動向の説明がございます。
まず、国内の動向でございますが、令和2年改正の効果として、事業者による内部通報制度の導入率が上昇したということがあります。一方で、事業者の体制整備の不徹底や実効性に関する課題も明らかになりました。
例えば、従業員数が数千人を超える事業者においても内部通報制度が十分に機能せず、外部通報によって国民生活の安心と安全を脅かす重大な不祥事が発覚しました。
その中には、事業者が従事者の指定義務や体制整備義務を何ら履行せず、不正について内部で指摘があったものの特段対応せず、是正までに時間を要したといった事案がございました。
加えて、非上場の義務対象事業者において、義務を履行する意識が低い事業者が一定程度存在していることですとか、または内部通報制度を導入していても、窓口の利用は限定的である、ゼロ件であるとか、もしくは1から5件であるといった事業者が多いということも分かりました。
また、国際的な動向でございますが、6ページにございますとおり、ガバナンスや人権尊重の観点から、企業の内部通報制度の実効性に関する投資家の関心は高く、我が国においても投資家の意向を受けて、内部通報の年間受付件数を公表している事業者が一定程度存在するというところです。
また、OECDの贈賄作業部会が令和元年8月に公表した対日審査報告書ですとか、あと、国連のビジネスと人権作業部会が令和6年5月に公表した訪日調査報告書においても、日本の通報者保護制度を更に強化するよう求めているところです。
また、令和元年12月に施行したEU通報者保護指令や、同年の6月のG20大阪サミットで採択された「効果的な公益通報者保護のためのハイレベル原則」でも、各国に対し、一定水準以上の公益通報者保護制度の強化を求めており、こうした国際的な潮流と比べると、我が国の公益通報者保護は、依然として弱い状況にあるとされています。
7ページの下段でございますが、このような国内外の動向を踏まえて、報告書では、公益通報者の保護や事業者の体制整備とその実効性に引き続き課題が多く、我が国の企業が海外進出や投資などで悪影響を受けることがないよう、可能な限り早期に課題に対処し、制度の高度化を図る必要があるとしています。
具体的には、4つの観点から制度を見直すよう提言しています。
1つ目は、事業者における体制整備義務の履行の徹底や実効性の向上を図ること。
2つ目は、労働者等による公益通報を阻害する要因に適切に対処すること。
3つ目は、公益通報を理由とする不利益な取扱いを抑止し、救済措置を強化すること。
4つ目は、公益通報の実施状況や不利益な取扱いの実態に合わせて、通報主体の範囲を拡大することといったことがございます。
検討に当たりましては、諸外国の動向も踏まえつつ、国内の労働関係法規との平仄、民間部門と公的部門との平仄など、制度全体の整合性にも十分に留意すべきであると提言しています。
8ページから個別の論点と対応について、いただいた提言を御説明いたします。
まず、事業者の体制整備の徹底と実効性の向上についてです。
「(1)従事者指定義務の違反事業者への対応」ですが、現行法では従事者の守秘義務違反には30万円以下の罰金という刑事罰を規定している一方、事業者の従事者指定義務違反には刑事罰を規定していないというところです。
これが、事業者の義務の履行に対するディスインセンティブになっているとの指摘がございます。
報告書では、従事者指定義務の履行徹底に向けて、消費者庁の行政措置権限を強化すべきであると提言をしています。
具体的には、現行法の報告徴収、指導・助言、勧告、勧告に従わない場合の公表に加えて、立入検査権や勧告に従わない場合の命令権も規定し、事業者に対し、是正すべき旨の命令を行っても違反が是正されない場合には、刑事罰を科すこととすべきとしています。
次に「(2)体制整備の実効性向上のための対応」でございます。
令和5年度の消費者庁の実態調査によりますと、従業員数300人超の事業者に勤める就労者のうち、内部通報制度を理解している割合や、内部通報窓口を認知している割合というのは、全体の半数にも届いていないというところです。
事業者が整備した公益通報への対応体制の周知については、現状、法定指針で必要な措置として規定されてはいますが、労働者及び派遣労働者に対する周知が徹底されるよう、体制整備義務の例示として法律で周知義務を明示すべきであるとしています。
具体的な周知事項については、例えば、部門横断的な内部通報窓口の連絡先ですとか、連絡方法、調査における利益相反の排除、是正措置等の通知、不利益な取扱いの防止、通報者を特定させる情報の共有の防止に関する措置などが考えられますが、事業者が何を周知すべきかということが明らかになるよう、法定指針で具体的に規定すべきとしています。
10ページの「(3)体制整備義務の対象となる事業者の範囲拡大」についてです。
検討会では、中小規模事業者の自浄機能の発揮・向上に向けて、体制整備義務の対象となる事業者の範囲を、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者にも拡大すべきとの御意見がございました。
一方、義務対象事業者であっても、義務を履行していない事業者がいる中で、中小規模事業者の対応のハードルが高いといった意見もございました。
今後の対応でございますが、消費者庁は、努力義務対象事業者に対しても窓口設置の必要性と重要性について一層の周知啓発を行い、その認識を高めた上で、義務対象事業者が常時使用する労働者数の段階的な引下げについて、引き続き検討すべきとの御提言をいただいております。
次に、11ページの「2 公益通報を阻害する要因への対処」です。
(1)ですが、公益通報がなされた後、事業者内で誰が公益通報したのか、公益通報者の探索行為が行われることは、公益通報者が脅威に感じるほか、他の労働者が公益通報を躊躇する要因になり得ます。
しかしながら、消費者庁が収集した裁判事例などでは、通報者探索をすべきではないということが事業者に十分に理解されていないと考えられる事案がございました。
報告書では、法律上、正当な理由がなく、労働者等に公益通報者である旨を明らかにすることを要求する行為など、公益通報者を特定することを目的とする行為を禁止する規定を設けるべきであると提言をしています。
また、禁止規定の実効性が損なわれることがないよう、この正当な理由の例として解釈で認められる範囲は、従事者が通報者に対して詳細な情報を問う場合など、限定的な場合にとどめるべきであるとしています。
検討会では、探索行為に対して罰則を規定するべきではないかといった御意見もございました。
こうした御意見については、罰則を導入することで、調査担当者、従事者などが萎縮し、事実関係について確認するための正当な調査に支障が生じる懸念があることですとか、また、公益通報者の探索行為は不利益取扱いの予備行為とも言えますが、我が国において予備行為に罰則を規定している例は、基本犯が重大な犯罪である場合など、極めて限定的であることなどを踏まえ、今後必要に応じて慎重に検討すべきであるとしています。
次に13ページ(2)です。
事業者が、誓約書や契約によって労働者に公益通報しないことを約束させる、または、公益通報した場合には、不利益な取扱いを行うことを示唆することなど、公益通報を妨害する行為は、本法の趣旨に大きく反する行為であり、法律上、事業者が正当な理由なく、このような行為を行うことを禁止するとともに、これに反する契約締結等の法律行為を無効とすべきであるとしています。
また、正当な理由の存在によって、禁止規定の実効性が損なわれることがないよう、解釈で正当な理由として認められる範囲は、限定的な場合にとどめるべきであると提言をしています。
検討会では、公益通報を妨害する行為に罰則を規定すべきではないかといった御意見もございましたが、現状、こうした行為についての立法事実の蓄積が十分にはないことから、今後の立法事実の蓄積を踏まえて、必要に応じて検討すべきであるとしています。
次に14ページの(3)です。
公益通報のために必要な資料収集・持出し行為が事業者による懲戒処分など、不利益な取扱いの理由となるおそれがあり、そのことが公益通報を躊躇する要因になっているといった指摘がございました。
これを踏まえて公益通報のために必要で、社会的相当性を逸脱せず、目的外で利用しない限り、資料収集・持出し行為が免責されるよう規定を設けるべきとの御意見がございました。
これに対して15ページですが、所有権や占有侵害が私人の自己判断で行われるということは、事業者における情報管理が企業秩序に対して悪影響を及ぼす可能性があるため、窃盗罪、横領罪、背任罪、不正アクセス禁止法違反、建造物侵入罪、個人情報保護法違反などの犯罪の構成要件との関係を整理した上で、免責のための具体的な要件を検討する必要があるとの御意見がございました。
また、民事免責について、具体的にどのような効果を念頭に置いているのかを整理した上で、刑事免責との関わりについて整理する必要があり、現状整理すべき課題が非常に多く残されているとの御意見もございました。
この点に関連して、令和2年改正では、行政機関への通報、すなわち2号通報と呼ばれる通報でございますが、その保護要件を緩和し、真実相当性がない場合、すなわち証拠等がない場合であっても氏名等を記載した書面を提出すれば、公益通報者が保護されることとなりました。
また、我が国では報道機関等の3号通報先に通報した場合の保護要件が、主要先進国と比べて緩やかであることも踏まえ、公益通報のための資料収集・持出しの必要性ですとか行為の影響を分析し、具体的にどういった場合であれば、民事上及び刑事上免責することが許容されるのか、検討する必要があるとしています。
このため、今後の立法事実を踏まえ、各犯罪の構成要件との関係を整理し、免責のための具体的な要件や通報者を免責した場合、事業者も免責する必要があるのか、ないのかについて、引き続き検討すべきであるとしています。
16ページの(4)ですが、公務員が公益通報する場合など、公益通報したことについて、あらゆる責任が免除されるのか予測可能性に欠けており、刑事免責を規定することを検討してはどうかとの御意見がございました。
この点については、現状、公益通報の刑事免責の具体的要件を検討するために必要な立法事実の蓄積が、必ずしも十分ではないことから、今後の立法事実を踏まえ、必要に応じて刑法の秘密漏示罪、名誉毀損罪、信用毀損罪のほか、国家公務員法、地方公務員法といった特別法の守秘義務違反時の罰則等の保護法益との関係を整理できるか、検討すべきであると提言をいただいております。
次に、17ページの(5)です。
内部通報対応の取組が進んでいる事業者の内部通報窓口において、公序良俗に反する形ではないものの、自己の利益を図る目的ではないかと考えられるような通報が、少なからずあるとの指摘がありました。
この点については、公益通報者保護制度の健全な運営を確保する観点から、事業者の適切な内部通報対応を阻害したり、風評被害などの損害を生じさせたりするおそれがあるような濫用的通報があるのであれば、その抑止が必要であり、消費者庁は実態を調査し、その結果を踏まえて対応を検討すべきと御提言をいただいております。
次に、18ページ「3 公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済」についてです。
(1)ですが、近年の裁判例においても、労働者に対する不利益な取扱いが不正行為を通報したことに対する報復等を目的としたものであると認定された事案があり、不利益な取扱いが、依然として労働者が通報を躊躇する大きな要因になっていることを踏まえ、民事上の禁止規定のみでは抑止力として不十分であるとの御指摘がございました。
検討会では、公益通報者保護制度に対する社会一般の信頼と公益通報をした個人の職業人生や生活の安定を保護法益として、禁止規定に違反した事業者及び個人に対して刑事罰を規定すべきであるとしています。
また、刑事罰の対象となる不利益な取扱いは、構成要件の明確性及び当罰性の観点から、不利益であることが客観的に明確であり、かつ、労働者の職業人生や雇用への影響の観点から、不利益の程度は比較的大きく、事業者として慎重な判断が求められているものとして、労働者に対する解雇及び懲戒に限定することが考えられるとしています。
一方、法律で禁止されている不利益な配置転換や嫌がらせなどを罰則対象とするには、構成要件の明確性及び当罰性の観点から、具体的に罰則対象となる不利益性の大きい行為の範囲や定義について、更に検討することが必要であり、我が国における今後の雇用慣行の変化や、他の法律における罰則の導入状況等も注視しつつ、今後、引き続き対応を検討すべきとしています。
また、法人に対する刑事罰については、自然人と比較した事業者の資力格差、不正発覚の遅れによって事業者が得る利益や社会的被害の大きさ、行為の悪質性、社会的な影響などを踏まえて、法人重課を採用すべきであるとしています。
24ページ(2)アの公益通報者の立証責任の転換について御説明をいたします。
現状、労働者が公益通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けた場合、その地位を回復するためには、労働者は裁判において、不利益な取扱いが公益通報を理由として行われたことなどについて立証責任を負っています。労働者が事業者の動機を直接に立証することはできないこと、事業者が通報以外の事情不利益な取扱いの理由として主張することが多いこと、情報や証拠資料が事業者側に偏在していることなどから、労働者は事業者の動機を立証するために様々な間接事実を立証しなければならず、公益通報を理由とすることの立証負担が重いと言われています。
一方、民事訴訟においては、自己に有利な法律効果の発生要件となる事実について立証責任を負うということが原則とされています。立証責任の転換は、立法政策に基づいてその例外を設けるものであり、非常に重い措置でもあります。
この点、主要先進国の通報者保護制度においては、各国内の労働関係法規や労働実務と一定の平仄を取る形で、不利益な取扱いが通報を理由とすることの立証責任を転換する措置が導入されています。
我が国を見ますと、労働訴訟実務上、労働者が解雇無効や懲戒無効を主張する場合には、解雇懲戒事由について、事実上事業者に重い立証負担があり、こうしたことや、情報の偏在、通報の公益性を踏まえれば、解雇や懲戒について、公益通報を理由とすることの立証責任を事業者に転換すべきであるとしています。
具体的には、公益通報後、近接した時期に解雇及び懲戒が公益通報者に対して行われた場合には、公益通報を理由とするものである蓋然性が高いということを踏まえ、公益通報した日から1年以内の解雇及び懲戒について、公益通報を理由とすることの立証責任を転換すべきであるとしています。
一方、不利益な配置転換や嫌がらせなど、解雇、懲戒以外の不利益な取扱いについては立法事実を踏まえ、どのような場合に公益通報を理由とすることの立証責任を転換という例外的な措置を許容することができるのか、より踏み込んだ検討が必要であるとされています。
このため、我が国の労働関係法規における取扱いですとか、雇用慣行、事業者の公益通報対応の実務、労働訴訟実務の変化も注視しつつ、立証責任の配分の在り方について、今後、引き続き検討すべきであるとしています。
30ページ「(3)不利益な取扱いの範囲の明確化」については、禁止されている不利益な取扱いとして、配置転換やハラスメントなどについても例示すべきであるとしています。
30ページの「4 その他の論点」「(1)通報主体や保護される者の範囲拡大」について御説明します。
働き方の多様化が進展し、従業員のいない個人事業者や一人社長など、いわゆるフリーランスという働き方が増えており、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の制定により、フリーランスの保護は強化されました。
これを踏まえて、公益通報の主体として、事業者と業務委託関係にあるフリーランスや、法人成りしているフリーランスの場合には、その代表者である個人を追加し、公益通報をしたことを理由とする業務委託契約の解除や取引数量の削減など、不利益な取扱いを禁止すべきとしています。
以上が報告書の個別論点と対応の方向に関する検討会の提言になります。
少し飛びまして、35ページの「おわりに」のところで、検討会では、制度の実効性を向上するため、個別論点のうち、検討会で一定の具体的方向性が得られた事項については、法改正も含めた対応を早急に検討するよう政府に要請しています。
また、具体的な方向性が得られなかった論点についても、国内の立法事実や主要国の動向等の実態調査を踏まえて、今後更に検討を行うこととし、引き続き、公益通報者保護制度の高度化に努めるよう要請しています。
このような検討会の提言を踏まえ、消費者庁においては、現在、公益通報者保護法改正案の今通常国会提出に向けて準備を進めているところです。
説明は以上になります。どうもありがとうございました。
○鹿野委員長 詳細な御説明、ありがとうございました。
それでは、質疑応答と意見交換をお願いします。時間は40分程度を予定しています。いかがでしょうか。
小野委員、お願いします。
○小野委員 御丁寧な説明をありがとうございました。
私は、消費者教育を専門にしているということもありまして、恐れ入りますが、8ページの個別論点となりますが、8ページ辺りから始まっている「(2)体制整備の実効性向上のための対応」について、教えていただきたいです。
「制度の実効性向上には」ということで記載をされていますように、利用者にいかに認知をされ、信頼されることが必要不可欠、そのとおりだと思います。
一方で、全体として、なかなか認知をして、それを利用している人が多くはないということでございました。
こうした状況を改善するための方策について、検討会でも具体的な議論がありましたら教えていただきたいのと、それから、対応ということで報告書にも言及をされていますが、既に消費者庁などで取り組まれているところも、少し補足をしていただけると理解が深まって助かります。よろしくお願いいたします。
○消費者庁参事官(公益通報・協働担当)付安達企画官 どうもありがとうございます。
実効性向上のために、利用者に信頼されるために、消費者庁としてどのような取組をしているのか、また、検討会の中でどのような議論があったのかという御質問でございます。
報告書には、周知について、非常に有益な御意見をいただきました。例えばですが、この10ページの対応のところですが、ただ法律で周知義務を明示するということだけではなくて、消費者庁においても事業者がより簡単に、迅速に周知ができるように、例えば周知媒体のひな形、このポスターを少しリメイクすれば、事業者で簡単に使えますよという周知のポスターのひな形を作成することですとか、あと、消費者庁として地方消費者行政強化交付金という交付金を持っていますので、地方自治体と連携して、事業者に対する制度の概要の周知を行っていく、このような交付金を活用していくことですとか、もしくは、この交付金が公益通報者保護制度の周知のために、活用できるということをしっかり地方自治体にも周知をしていくといったことをすべきであると、御意見をいただいています。
あとは、事業者の取組の好事例を収集して、それを広く周知していくことということで、制度がより浸透していくよう取組を工夫してくださいとの御意見もいただいているところでございます。
あとは、消費者庁の取組ということでございますが、いろいろと事業者にも、かなり従業員数が多い企業もあれば、本当に少ない企業もございますので、内部通報制度を導入したいのだけれども、そもそも何をどうしたらいいか分からないといった事業者様向けに、内部通報制度導入支援キットという受付表のサンプルとか、あと研修材料のサンプル、5分動画とか、簡単に手軽に勉強できるようなキットを用意しまして、広報活動にも努めております。
広報も事業者向けの広報もあれば、労働者向けの広報もございまして、労働者向けの広報ということですと、例えば電車のデジタルサイネージ広告を活用したりですとか、あと、広くネット広告を活用したり、事業者に対してはターゲティング広告をしたりですとか、あと、政府広報、ラジオも活用して、さらに週刊『ダイヤモンド』とか、雑誌、媒体なども活用して、広く周知に努めているところでございます。
あと、各省庁とも連携をしていまして、厚生労働省ですと、事業者様向けに、保険関係の資料を広く配付していますので、そういうものに相乗りさせていただいて、消費者庁のリーフレットを差し込んだりとか、いろいろな工夫をしているところでございます。
以上になります。
○鹿野委員長 よろしいですか。
○小野委員 ありがとうございました。
どうやって通報するかだけではなくて、制度そのものについても周知を図っておられるということが大変よく分かりました。
消費者教育も消費者向けだけではなくて、それをサポートする担い手にどうやってアプローチするかというのがとても大切なのですね。ですので、その辺りも、いろいろと試みられていること、それから好事例を積み上げていくという、具体的なものがあると、うちでも導入ができるのではないかという勇気につながるといいますか、取り組まれていくということが確認できまして、ぜひ進めていただきたいと思います。ありがとうございました。
○鹿野委員長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
今村委員、お願いします。
○今村委員 今村ですけれども、御丁寧な説明をありがとうございました。
具体的な話で、私がよく理解できていない部分があって、兵庫県の公益通報であるかどうかということが随分議題になりましたが、ああいう事例の場合は、今回の対応の中で、何か改善していくところがあるのでしょうか、その辺のところを、もう少し具体的に教えてもらえればと思います。
○消費者庁参事官(公益通報・協働担当)付安達企画官 ありがとうございます。
個別の事案については、お答えできるものではないのですけれども、ただ、一方で、公益通報者保護制度が非常に注目されるきっかけにはなったというのは、間違いはないと思っておりまして、公益通報者保護制度の在り方についても、いろいろな方が考えるきっかけにはなったのかもしれません。
その中で、例えば、刑事罰を導入するということで、まずは、その事業者が、受けた通報が公益通報であるかどうかというところを慎重に判断する、仮に法改正によって刑事罰が導入された場合には、より慎重に判断をするようになるという効果が期待できるのではないかと考えているところでございます。
御説明になっているか分かりませんが、以上です。
○今村委員 ありがとうございます。
個別の事例について、答えにくいのはよく分かっています。ただ、兵庫県の場合は、行政の長が最終的に公益通報の対象になっているという、通報される側の最終責任者と通報された側の人間が同じという、なかなか難しいケースだと思いますので、こういったこともちゃんと整理ができるように、今後、制度設計を考えてもらえればと思います。
今村からは以上です。
○鹿野委員長 ありがとうございました。
それでは、大澤委員、お願いします。
○大澤委員 御説明いただき、ありがとうございました。
私もこの分野にすごく詳しいわけではないのですが、非常によく理解できました。
まだ細かなところがあまり理解できていない可能性もあるので、確認と意見という形で2点申し上げたいのですが、1点目は、小野委員がおっしゃっていた内部での周知の話と関係することで、たしか報告書の中で記載があったのではないかと思うのですが、要はハラスメント窓口と混同している従業員がいたということが、たしか書いてあったと思います。
中にこういう体制がありますということを、中で勤めている、要は従業員がどうやって知るかということだと思うのですが、例えば、私は大学に勤めていますけれども、大学でもハラスメント相談室の存在とかは、研修が行われています。大体1年に1回ぐらいです。ハラスメントというのは、私たち教員が学生に向けてやらないようにというのもありますが、私たちが、例えば職員間で何かあったときとかに、そういう窓口がありますよということを周知するためのものだと理解しています。
もちろん、ハラスメントの種類とか、やってはいけない行為とか、そういう研修でもありますが、当然その中で大学内にはこういう窓口がありますということで、教員も相談できますということは周知されます。
特に大きな会社であれば、あるいはそういう中で研修を定期的に行えるような会社と、恐らく、なかなかそれが人的な数の問題で難しいとか、いろいろな会社があると思うので、なかなか一概には言いにくいところはあるのですが、消費者庁さんで、既にかなり工夫もされていて、そもそもこういう内部通報制度、公益通報者保護法というのがあるのですよということを周知いただいているということは、本当に御尽力いただいているということは、よく分かりますし、今回の説明でも、さらにそれはよく分かりました。また、支援キットのお話も出ていまして非常に興味深いと思いました。
あとは、結局会社の中に、ハラスメント窓口と混同していたというのは、もしかすると、ハラスメントは最近かなり話題にもなっていますので、会社内で年に1回研修が行われたり、あるいはポスターが貼られたりとか、そういうことがされているのだろうなと思っているのですが、私の職場でも恐らくそうなので、内部通報制度についても、従業員が、自分が勤めている会社にそういう制度があるのですということを知らせるための方策として、やはりハラスメント研修と同じような形で、中で研修をするとか、あるいは中でなかなか研修の講師が難しいということであれば、それこそ地方自治体から派遣をするとか、何かそういう工夫はできないだろうかということを思った次第です。これは感想になります。ハラスメントとの間違いとは何だろうかということを考えたということです。
2点目なのですが、これは、質問でもあり、意見でもあるのですが、例えば、刑事罰を今回つけるべきであるということと、やはりつけるべきと、いや慎重になるべきというのが分かれたものと、あるいは立証責任についても、立証責任を転換すべきだとされたものと、いや、そこまで踏み込むことはどうかということで分かれたものがあって、恐らくは、懲戒というものと配置転換のような、いわゆる懲戒以外の不利益な取扱いで分かれたのだろうと理解しております。
書かれている報告書を読ませていただいて、本当に思い切って刑事罰をつけるかどうかということに、例えば、配置転換等々の不利益の扱いで、いろいろ慎重な声があるというのも非常に理解ができるところであるのですが、ただ、今回、懲戒とそれ以外の不利益取扱いで区別が何となくされていて、その理解が正しいかどうか、間違っていたら教えていただきたいのですが、そうだとしたときに、例えば、今後懸念されるのは、懲戒とかは確かに抑制されるかもしれないですけれども、それこそ配置転換とか、それ以外の不利益取扱いをするという形で、事業者がこの通報をした個人に対して、嫌がらせというか、そういうことをしないだろうかというのを若干懸念しているところがあります。
理論的には、懲戒とそれ以外で区別するというのはよく分かるところもあるのですが、実効性とか、あるいは今後の刑事罰がついているものと、ついていないものとで、変な形で区別がついてしまうということを若干懸念しているのですが、この辺り、何か御意見等が検討会の中でありましたら、教えていただければと思います。
以上です。
○消費者庁参事官(公益通報・協働担当)付安達企画官 ありがとうございます。
不利益な配置転換や嫌がらせなども罰則対象にすべきといった御意見も、検討会の中ではございました。喧々諤々の議論がされたというところでございますが、そこのところで結論が出なかったというのは、まずは、刑事罰をつけるのであれば、どのような配置転換であれば不利益であるという、公益通報を理由とする不利益であるとみなすことができるのか、嫌がらせといっても、いろいろな嫌がらせ、かなり主観面に依存する部分というのもございますので、どこをどう定義するのか、罰則を規定するに当たっては、対象となる行為が明確でないと、構成要件が明確でないといけませんので、どのように範囲や定義を決めるのかというところで、議論が十分に煮詰まらなかったというところが正直なところでございます。
ですので、ここも引き続き検討事項とされていますが、例えば、海外のほうを見ますと、職場内いじめについて罰則を導入している国などもございます。ただ、日本の場合は、まだそこまではいっていないということで、諸外国の動向ですとか、あと、日本の法制、他の労働法制なども見ながら、そこをどのように定義づけ、範囲を決めていくかということが、今後、引き続き検討すべき事項であると考えております。
御回答になっていますでしょうか。
○大澤委員 御説明いただきまして、ありがとうございました。
懲戒とそれ以外に不利益取扱いと分けたときに、それ以外のものの中にも恐らくいろいろなものがあるのだろうというのは、改めて御説明を伺って思いました。
配置転換というのと、あるいはそれ以外の、例えば、いわゆる嫌がらせというもので、その嫌がらせに関しては、確かに受けた本人の主観とか、そういったものとか、あるいは構成要件をすごく決めにくいというのもあるかなと思うのですけれども、配置転換に関して、もちろん配置転換は、例えば、部署替えとか、そういうのは別に普通に行われますでしょうから、これが公益通報と結びついた配置転換なのかどうかというのを立証するというのは、なかなか難しいということだろうと思いますが、ただ、労働者にとっては、それはもっと立証は難しいのではないかと思いますし、何か例えば推定規定のようなものとか、例えば、公益通報から何年以内の配置転換だったりとか、何かうまくいかないだろうかということを、今、伺って思った次第ですが、また、今後検討されるということですので、ぜひ、引き続き私のほうでも考えてみたいと思いますが、御検討をいただければと思います。
海外で非常に厳しいというか、そういう法制があるということとか、あるいはEUなどの動向も、たしか御紹介されましたけれども、恐らくビジネスと人権というのが、今、風潮として高まっているというか、まさにこういうのは人権侵害行為であるということかなと理解していますので、ぜひ引き続き御検討をいただければと思います。
ありがとうございました。
○消費者庁参事官(公益通報・協働担当)付安達企画官 ありがとうございます。
少し補足になりますが、配置転換そのものというのは、日本のメンバーシップ型雇用において、必ずしも不利益な取扱いとされていないということです。
海外ですと、ジョブ型ですので、特定のジョブで採用した方を、別のジョブにするということは、かなり解雇に等しいような措置であるとも考えられる面がございますが、日本の場合は、配置転換そのものは、必ずしも不利益な扱いではないですし、あとは本人にとって不利益でも、ほかの人にとってはそうでもない、本人にとって望ましい配置転換が、ほかの方にとっては望ましくない配置転換であるということも多々あるので、非常に難しい、日本のメンバーシップ型雇用において、この配置転換のところを不利益であるとみなして立証責任を転換するということは、今のままだと、かなり難しいなと思っているところでございます。
○大澤委員 ありがとうございました。
確かに配置転換もいろいろあると思いますし、会社の中でもあると思うので、ある部署とある部署との違いが歴然としていたりとか、いろいろ本人の希望に反するとかもあるでしょうし、いろいろ確かに職業によっても違うように思いますので、なかなか難しいなとは、伺っていて思いました。
以上です。ありがとうございました。
○鹿野委員長 ありがとうございました。
原田委員、お願いします。
○原田委員 ありがとうございます。
詳細な御報告をいただきまして、ありがとうございました。
報告書の内容について、特にここを変えたほうがいいということではないのですが、意見として2点ほど申し上げたいと思います。
1つは、33ページ辺りにありますネガティブリストとかポジティブリストという問題で、書いてあることはよく分かるのですが、他方で、やはり今の限定列挙というものだと、本当にこれは行けるのだろうかというか、きちんと保護されるのだろうかという部分が明確ではあるけれども、限定されているという問題がありますので、ネガティブリストとポジティブリストの間で、中間的な解決として、現在の政令による指定というか、それを例示みたいな形にして、その法律の本則は変えずに、政令が例示ですということにすれば、ネガティブとポジティブの間ぐらいで、法律に書いてあるような趣旨の法令については、対象になり得るというような解決があり得るのかなという気がいたしました。
もう一点は、これは、別に報告書に書いてあるわけではないのですけれども、13条の条文上、公益通報者保護は、その後の行政調査と連動することが予定されていて、行政機関が一定の措置を講じるということが条文上も書かれておりまして、それは、もちろんそのとおりだと思うのですが、現在の13条の書き方は、情報を受けて必要な措置を取りますという程度のことであって、公益通報者を行政機関が保護するという側面があまり出ていないような気がします。
これまでの議論を聞いていますと、立証責任の転換とか、刑事罰を科すとか、そういったことも確かに重要だと思いますけれども、その立証責任の転換については、実際に裁判になったときに、どのように解決されるかという問題が後ろにありますし、刑事罰についても、実際にそれが刑事訴訟に持っていくのかという、その実効的な解決との関係で、両方ともそんなに簡単に使えるようなものではないような気がいたします。
それに比べますと、行政機関による措置のほうがまだ柔軟で、即効性があるものなので、その公益通報者を保護するという趣旨の行政活動を授権するという在り方も考えていいのではないかという気がしております。
以上です。
○鹿野委員長 ありがとうございました。
お答えは、何かありますか。
○消費者庁参事官(公益通報・協働担当)付安達企画官 ありがとうございます。
今回の検討会の議論の中では、あまり行政機関による救済ですとか、抑止のための措置というところは、正直なところあまり議論はされていなかったというところでございます。
令和2年改正で従事者の守秘義務違反に対して刑事罰が導入されたということもあって、不利益取扱いにも刑事罰がないのはおかしいのではないかといった御議論がなされて、そこを行政機関による柔軟な保護のための措置が必要ではないかという議論は、あまりされなかったのかなというところでございます。
○鹿野委員長 御指摘の点に関する議論は、あまりされなかったということですが、原田委員、何か加えてありますか。
○原田委員 本当は、議論してほしいなという希望はありますけれども、この手の問題が、この公益通報者保護法に関する議論では、あまり注目されていないことは事実なので、今後、論点化していただけると大変ありがたいなと思います。
以上です。
○鹿野委員長 ありがとうございました。
黒木委員長代理、お願いします。
○黒木委員長代理 ありがとうございます。
報告書と公益通報者保護法について、私の考えをお話しさせていただきます。
報告書は、実に様々な論点を丁寧に検討していて、その内容は評価できるものですが、いくつか気になる点があります。まず、実務の運用に関して「今後の検討課題」として先送りされている部分が複数あることです。
報告書を読んでみると、行政法的な要素が増えてきていることや、立証責任の転換など、裁判手続きに関する重要な論点が含まれています。また、不利益な取扱いに関する部分は、労働契約法14条以下の出向、懲戒、解雇が濫用であれば無効だという実体法上の特則としての性格を持つようになってきていると理解できます。
これを裁判実務でシミュレーションをしてみると、まず普通解雇については、公益通報を理由としていないことの立証責任が使用者側にあるため、通報者にとってはある程度の前進と言えるでしょう。
ただし、懲戒解雇については大きな問題があると考えています。特に内部資料の持ち出しに関する部分です。実際の現場では、詳しく調査する前に怒りに任せて資料を持ち出して特に3号通報してしまうケースが少なくないと考えられます。多くの企業、特に今回体制整備義務が義務付けられる従業員300人以上の企業では、同時に就業規則の作成が義務付けられています。そして、就業規則では内部情報の持ち出しを懲戒事由としています。
そのため、使用者側は簡単に懲戒の正当性を立証できてしまいます。この点が解決されないままでは、実際に事業者と通報者が具体的な事件で争う労働審判や訴訟の場面では、通報者が不利な立場に置かれる可能性が高いと考えています。
また、配置転換や出向に関する問題もあります。労働契約法14条では使用者の行う出向命令について権利濫用による無効を定めています。しかし、資料1-3の3ページのところに少し問題点を書いていますが、東亜ペイント事件の判例で使用者側に配置転換や出向命令に広い裁量が認められています。事業者は業務上の必要性は比較的容易に立証できる一方で、不当な目的や動機の立証は通報者側にとって非常に困難であろうと思います。
この点については、日本特有のメンバーシップ型雇用制度との兼ね合いもありますが、通報後の突然の配置転換などについては、一定期間、使用者側に立証責任を負わせるような制度設計も検討に値すると考えています。
今回、公益通報者保護法というのは、社会の耳目を集めることになりましたので、今後、法改正に伴って様々な紛争が予想されます。特に資料持ち出しの問題と、配置転換などの不利益取扱いに関する立証責任の問題は、通報者保護の観点から重要な検討課題だと考えています。
報告書自体は綿密な検討がなされていますが、これらの課題については今後更なる議論が必要であると考えています。以上です。
○鹿野委員長 それでは、お答えをいただけますか。
○消費者庁参事官(公益通報・協働担当)付安達企画官 どうもありがとうございます。非常に重要なコメントだと思います。
資料の持ち出しそのものは、懲戒事由にはなってしまうと、それはおっしゃるとおりでして、ただ、実際の裁判例を見ると、この報告書の14ページ、脚注28に書いてあるとおり、就業規則違反など、懲戒事由該当性が広く認められる傾向にあるというのは、本当におっしゃるとおりであると。
一方で、処分相当性の判断の段階で、公益目的であるという通報者に有利な事情を斟酌するなどして、処分無効となったものというのが複数あったというところでございます。
ここは非常に難しい議論でして、確かに資料の持ち出しといっても、その資料を持ち出したことによる影響というのが、実際どのような影響があったのかと、あとは、その資料の持ち出し方もいろいろあって、自分が手元に、業務上普段から扱っている資料を持ち出すというケースもあれば、もしくは自分が本来タッチすべきではない資料を、例えば、全然関係がない隣の課の資料を公益通報目的のために、勝手に持ち出してしまうという態様なのかどうかとか等を総合的に勘案して、懲戒の有効性というのが、恐らく決まってくるのであろうと思っています。
ただ、それを事前的に、アプリオリに、法律に免責をうまく書けるのかどうかというところが、今後の課題であろうと思っております。より精緻に、個別のケースに照らして、より精緻な議論をしていかないといけない論点だと思っております。
あとは、2つ目の、確かに配置転換を認めるべきでは、立証責任を転換すべきではないかというところですが、繰り返しにはなってしまうのですけれども、やはり立証責任の転換というのは、非常に重たい措置ではあります。立法政策上、限定的な場合には認められるということで、日本の労働法規においては、マタハラの妊娠・出産後1年以内の解雇に限定して、立証責任の転換というのが認められていると、こちらは労働法上、公益通報者保護法を労働法というのか分かりませんが、労働法だとすると、2例目と、仮に転換規定を入れられれば、2例目ということで、極めて限定的な範囲で措置を入れてきているという沿革的なところもございますので、御指摘の点も検討会の中では、十分議論はさせていただいたのですけれど、今後更に検討していくべき非常に重要な論点だと思っております。ありがとうございます。
○黒木委員長代理 ありがとうございます。
法律家として報告書を読ませていただき、公益通報者保護法の複合的な性格について感じたことをお話しさせていただきました。
この法律は、ここ数年の事案を通じて社会的な注目を集めてきました。ところが、公益通報者保護法の性格を見てみると、司法手続を通じた裁判実務において、立証責任を転換するという特別法であり、労働契約法14条から16条の特別法でもあり、更に事業者に体制整備義務を課し、その違反には行政処分を行うという行政法でもあるという、複数の側面を持つ複合的な法体系として発展してきていると理解しています。
このような複合的な法制度である公益通報者保護法について今後の周知活動について、様々なキットを作成していただけるのは大変ありがたいことです。しかし、その中で特に配慮していただきたい点があります。法定指針などを作成する際には、例えば内部資料の持ち出しに関する裁判例、具体的には宮崎信用金庫事件(福岡高裁宮崎支部)のような重要な判例で示された規範をできるだけ分かりやすく示していただけると良いと思います。
このように、具体的な判例での議論内容を指針などに盛り込んでいただくことで、実務家としても今後の運用の参考にしやすくなるのではないかと考えています。ありがとうございます。
○消費者庁参事官(公益通報・協働担当)付安達企画官 貴重な御意見をいただきました。ありがとうございます。
○鹿野委員長 ありがとうございます。
ほかにいかがでしょうか。
中田委員は、まだ、参加されていないのですね。
それでは、友行参事官、お願いします。
○友行参事官 委員長、中田委員は、本日まだ御参加されていないのですけれども、もし自分が本会議に出席するのに間に合わなければ、意見を代わりに発表してほしいということでお預かりしております。
○鹿野委員長 それでは、お願いします。
○友行参事官 中田委員から、3つのことについてコメントをお預かりしております。
まず、1つ目は、中小企業や小規模組織における公益通報者保護についてでございます。
中田委員の言葉をそのまま述べます。私は、幾つかの上場企業の社外取締役をやらせていただいているのですが、公益通報者保護制度対応に関しては、上場企業においては、コーポレート・ガバナンス・コード対応の一環として、内部通報外部窓口の設置が求められており、社内研修等による周知徹底も行われていることで、体制整備という点においては、コーポレート・ガバナンス・コードの要件を満たさなくてはいけないという企業責任が功を奏しているのではないかという印象を持っています。
一方で、従業員300人以下の中小企業に対しては努力義務のままで、体制整備と周知が実効性あるレベルまで浸透すると、消費者庁様ではお考えでしょうか。
国内の中小企業の従業者数は、雇用全体の7割を占めているとも言われており、中小企業や小規模な組織における公益通報者の保護も急務ではないかと感じております。
2つ目でございます。
制度の活用状況のモニタリングについてです。
制度の周知が徹底され、通報窓口が設置されている企業において、通報先として、社内、社外いずれの通報先がより利用されているかのデータはありますでしょうか。
その背景といたしましては、制度が浸透していて窓口があっても、それがフルに活用されているかは、別途検証が必要であると考えており、御紹介いただいた内部通報窓口の年間受付件数は比較的低いと感じるのですが、この件数結果について、消費者庁としてはどのような見解をお持ちで、どのような理由や背景が考えられますでしょうか。
3つ目でございます。
通報後の対応が適切に運用されているかの検証方法についてです。
通報後の企業や組織の対応が法律にのっとり、適切に対応されているという検証は、どのような方法で行うことが可能であるとお考えでしょうか。企業へのヒアリングからは、企業にとって都合の良い結果が出てくる傾向への懸念も想定されますが、例えば、企業に対する内部通報制度に対するアンケートで、通報後の対応が的確であったかどうかの検証が可能であるとお考えでしょうか。
以上、お預かりしております。
○鹿野委員長 ありがとうございました。
3点御指摘等をいただきましたが、お答えいただけますか。
○消費者庁参事官(公益通報・協働担当)付安達企画官 ありがとうございます。
従業員数300人以下の中小企業の内部通報体制を、どう徹底させていくか、実効性あるものにしていくかということでございますが、今回の報告書の中で、例えば、従事者の指定義務違反に対して刑事罰を導入すべき、行政措置権限を強化すべきといった提言をいただいたことというのは、非常に大きなことだと受け止めております。
と申しますのも、令和2年改正の効果ということで、内部通報制度の導入自体はかなり進んできています。周知義務が法律上明示されれば、更に周知ということでも強化されていくということが期待されます。また、従事者の指定義務違反に刑事罰が導入されるというところまで来れば、中小企業に対する、この制度の義務付けということも、恐らく近い将来、検討の視野にかなり入ってくるのであろうと、個人的には思っております。
また、周知についても、この報告書の中では、この閾値の引下げですね、300人という労働者数の閾値の引下げに向けて、引き続き検討すべきであるという方向性が示されたということで、中小企業に対する消費者庁の周知を一層徹底していくということで、中小企業のための環境は整備されつつあるということなのかなと考えているところです。
あと、通報先として、いずれの通報先が利用されているかのデータはあるかということなのですけれども、少し難しい御質問だなと思っておりまして、どの通報先がどの程度利用されているかという、マクロでのデータは持っていないところですが、ただ、労働者の方々にアンケートをすると、重大な法令違反を目撃した場合に、あなたはどこに通報しますかとお聞きすると、事業者に、お勤め先に通報するという方が圧倒的に多いという結果が出ていますので、やはり内部通報を利用している方というのは、他の行政機関や、マスコミなどへの通報と比べるとそれなりにいらして、当然、上司との関係とか、あとは窓口の担当者の雰囲気とかということも左右するのだと思いますけれども、内部通報というのは、より利用しやすいツールではあるのだろうと思いますし、事業者側にアンケートを、実態調査をした結果を見ても、内部通報が不正発見の端緒であると回答した事業者が、平成28年度の調査結果と比べると、かなり多かったところです。今回、内部通報制度導入済みの事業者のうちの80%弱、70%台後半ぐらいの事業者が、内部通報は不正発見の端緒であると回答していまして、平成28年度よりも20%ぐらい上昇していますので、かなり活用はされるようにはなってきていると思います。
ただ、それも企業によって活用されていない企業もあれば、積極的に活用する企業もあるということで、逆に活用度合いというものの幅が広がって、ギャップが広がっているのではないのかなと思っているところでございます。
あとは、適切に対応されているかどうかをどう検証するのかということなのですけれども、私ども消費者庁では、例えば第三者委員会とか、企業が公表している不祥事に対する調査委員会の報告書などもかなり読み込んでおりまして、それを拝見すると、匿名の通報によって、この不正を発見したのであるというような記述もそれなりにあるところでございまして、そういうところからも内部通報は、不正発見の端緒としてかなり活用されるようには、なってきているのだろうなと思います。
一方で、労働者側で通報しない理由として、どうせ通報しても相手にしてもらえないだろうとか、ちゃんと調査してもらえないだろうといった声が一定数ございますので、そこは、消費者庁の定期的な実態調査の中で、そういった回答の傾向を分析することで、内部通報制度の信頼度とか活用度合いというのを検証していくことができるのではないかと思いますし、あと企業のほうでも、かなり積極的に取り組まれている企業は、定期的にアンケートも実施していまして、通報のしやすさといったところも確認している企業もあると思いますので、そういった取組を好事例としてしっかり周知していくということが対応として考えられると思います。
説明は以上です。
○鹿野委員長 ありがとうございました。
ほかはよろしいでしょうか。
ありがとうございます。それでは、今、御議論いただきましたので、ただいま出されました御意見等に私の意見も若干加えて、簡単にまとめさせていただきたいと思います。
まず、全体としては、今回の報告書は、実効性の向上に資する内容となっており、これについて早期の法改正に期待したいと思います。
委員からも、この報告書の内容については、理解できるということで、前向きな評価が複数あったところでございます。
ただし、今後、将来に向けて、将来に向けてというのは、運用の面もありますし、あるいは更なる法改正に向けてというところもありましたけれども、複数の意見が出されました。
まず、実効性の向上のための取組のうち、周知ということについて、小野委員あるいは大澤委員からも御意見があったところでございます。
今回、体制整備義務の一環として、労働者等に対する周知義務を明確化するということでございました。この周知ということが図られないと、せっかくこの制度をつくっても、実際には活用されないということになってしまいます。
そこで、周知というのは非常に大切なものと思っておりますし、本日のお答えでも、消費者庁としても、これについての取組を行っていらっしゃるということでございました。
それは、引き続きやっていただきたいということでございますけれども、制度の概要に関する周知ということが重要であることはもちろんですが、それに加えて、どこに通報できるのかということについても併せて周知することが重要であると思います。
また、大澤委員からは、ハラスメント研修を比較の対象として挙げ、ハラスメント研修と同じように、毎年の研修を行うなどの取組が推奨されるのではないかという御意見もあったところでございます。
2点目ですが、体制整備義務の対象事業者について、現在は努力義務となっているところの労働者300人以下の事業者についても、制度の周知や実態調査を行うとともに、将来的な対象事業者の拡大についても検討していただきたいということでございます。これは、中田委員からの御意見の中にも含まれていたところでございます。
3点目として、通報対象事実についてでございますが、これは原田委員から、現在、限定列挙という形になっているのだけれども、現在の在り方について、将来的には検討が必要なのではないかという御指摘もありました。
この限定列挙というのが、対象の範囲もさることながら、これに関わる人、特に労働者にとっては分かりにくいということもございますし、何らかの工夫が求められるのではないかと私も思うところでございます。
それから、黒木委員長代理からは、公益通報のための資料の持ち出し行為についての免責等に関わるルールを明確化する方向で、引き続き議論を進めるべきだと、そういう趣旨の御意見もありました。
また、同じく黒木委員長代理、そして、大澤委員からは、立証責任の転換の対象に不利益な配置転換を含めることについても、引き続き検討すべきではないかという御意見がありました。
この点について、御回答にジョブ制とメンバーシップ制との違いがあるということで、海外がこうなっているから、日本で直ちに同じように考えてよいかというと、なかなか難しい面があるという御説明もあったところです。しかし、そのような違いを踏まえながらも、先ほど黒木委員長代理からは、実務的に、この点は非常に重要であるということの御指摘もありましたので、さらに、今後の検討を、引き続きお願いしたいと思います。
それから、原田委員からは、行政機関による救済や防止のための行政措置について、今後、議論をしていくべきではないかという御指摘もございました。
それから、本日、直接的には出なかったかもしれませんけれども、公益通報者の探索行為や、通報妨害行為に対する罰則や不利益取扱いにおける罰則対象行為の範囲等についても、これは、引き続き検討していただきたいと思います。
それから、今後の一層の改善のためには、やはりこの制度がどのように活用されているのかということを適切に把握することが必要でございます。
中田委員からもありましたように、この実態把握、そして、通報後、これが適切に対応されているのかということなどについて、引き続き、偏りのないような形で実態が把握され、検証されるように、努めていただきたいと思います。
それから、先進主要国と比較すると、日本のこの制度は、まだ弱いということについて、報告書にも記載がありましたし、先ほど口頭でも御紹介があったところでございます。
もちろん、先ほどの立証責任の転換等も含めて、前提の状況に違いがあるということも、少なからずあろうかと思いますので、外国がこうだから、日本も直ちにということにはならない部分もあるかとは思いますが、公益通報者保護制度に関する国際的な動向を注視しながら、このうち、日本の実情に合うものについては、今後も積極的に取り込んでいくという方向での議論が必要なのだろうと思っているところでございます。
概ね以上のような御議論があったものと思います。
先ほど言いましたように、報告書の内容につきましては、制度の実効性の向上に資するものと評価しているところでありますが、それとともに、今後、公益通報者保護法の法改正や運用に当たっては、本日の委員の意見なども踏まえて取り組んでいただきたいと思っております。
消費者庁におかれましては、お忙しいところ審議に御対応いただき、大変ありがとうございました。
○黒木委員長代理 ありがとうございました。
《3. 閉会》
○鹿野委員長 本日の本会議の議題は以上になります。
最後に、事務局より今後の予定について、御説明をお願いします。
○友行参事官 次回の本会議の日程と議題につきましては、決まり次第、委員会ホームページを通してお知らせいたします。
以上です。
○鹿野委員長 それでは、本日は、これにて閉会とさせていただきます。
お忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございました。
(以上)