第410回 消費者委員会本会議 議事録

日時

2023年8月17日(木)14:00~15:37

場所

消費者委員会会議室及びテレビ会議

出席者

  • 【委員】
    (会議室)後藤委員長、受田委員長代理、大石委員、木村委員、星野委員
    (テレビ会議)青木委員、飯島委員、黒木委員
  • 【説明者】
    消費者庁 黒木消費者制度課長
  • 【事務局】
    小林事務局長、後藤審議官、友行参事官

議事次第

  1. 消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会における議論の整理について
  2. その他

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

  • 議事次第(PDF形式:70KB)PDFを別ウィンドウで開きます
  • 【資料1】消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会における議論の整理(概要)
    ※資料は消費者庁ウェブサイト(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/meeting_materials/review_meeting_004/)の
    消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会における議論の整理(概要) [PDF:459KB](https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/meeting_materials/review_meeting_004/assets/consumer_system_cms101_230724_03.pdf)を御参照ください。
  • 【資料2】消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会における議論の整理
    ※資料は消費者庁ウェブサイト(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/meeting_materials/review_meeting_004/)の
    消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会における議論の整理[PDF:575KB](https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/meeting_materials/review_meeting_004/assets/consumer_system_cms101_230724_01.pdf)を御参照ください。
  • 【資料3】消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会における議論の整理(参考資料)
    ※資料は消費者庁ウェブサイト(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/meeting_materials/review_meeting_004/)の
    消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会における議論の整理 参考資料[PDF:1.1MB](https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/meeting_materials/review_meeting_004/assets/consumer_system_cms101_230724_02.pdf)を御参照ください。

《1. 開会》

○後藤委員長 本日はお忙しいところ、お集まりいただきありがとうございます。

ただいまから、第410回「消費者委員会本会議」を開催いたします。

本日は、受田委員長代理、大石委員、木村委員、星野委員、私が会議室にて出席、青木委員、飯島委員、黒木委員がテレビ会議システムにて出席です。生駒委員、清水委員は御欠席です。

開催に当たり、会議の進め方等について、事務局より説明をお願いいたします。

○友行参事官 本日もテレビ会議システムを活用して進行いたします。

配付資料は、議事次第に記載のとおりでございます。もしお手元の資料に不足などがございましたら、お申し出くださいますようお願いいたします。

以上です。


《2. 消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会における議論の整理について》

○後藤委員長 本日の議題は、「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会における議論の整理について」です。デジタル化、国際化、それからとりわけ我が国においては高齢化の進展により、消費者を取り巻く取引環境は目まぐるしく変化しています。これらに対応するため、消費者庁では令和4年8月より、「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会」を開催し、消費者法を理念から見直し、その在り方を再編し、拡充するための検討を行ってきたと承知しております。先月、この有識者懇談会における議論の整理が公表されましたので、消費者庁より御説明いただき、意見交換を行いたいと思います。

本日は、消費者庁消費者制度課の黒木課長に御出席いただいております。本日はありがとうございます。

それでは、30分程度で御説明をお願いいたします。

○消費者庁黒木消費者制度課長 御紹介いただきましてありがとうございます。消費者庁消費者制度課の黒木です。

本日は有識者懇談会につきまして、御報告の機会を頂きましてありがとうございます。お時間の都合もあろうかと思いますので、早速御説明に入らせていただきます。

資料ですけれども、3種類お配りいただいているかと思います。資料1がいわゆる概要の紙で、ポンチ絵の紙です。それから資料2が議論の整理、いわゆる有識者懇談会の取りまとめの本体となっております。それから資料3は、その本体に付いております参考資料でございます。

参考資料につきまして若干御説明をさせていただきますと、この会議は1回から10回まで様々な分野の方々に御参加いただきまして、コアのメンバーの先生方と一緒に議論をしていただきました。その内容について、かなりいろいろな立場からいろいろな御意見を頂いておりますけれども、それらについて、取りまとめである議論の整理との関係で関連のあるような議論がどの回のどのあたりでどのような方が御議論されていたのかということを参照していただきやすいようにということでお作りしたものでございます。各回の議事録のページ数を書いてございますけれども、必ずしも議事録から正確に抜粋してきているわけではなくて、提出された資料を多少引用しないと分からないところは補足をしたり、あるいは概要にしてみたりということもありますので、正確には元の資料にお戻りいただいて、全て公表しておりますので御覧いただいたほうがいいかと思いますが、様々な論点についていろいろな角度からの御意見があるということを御参照いただきたいということで御用意しております。

本日はこの参考資料については、例えば御質問などで関係がある場合はお使いいただいたらと思いますが、私からの最初の説明では使用はしないということで、主に資料1と資料2に沿って御説明をさせていただければと思っております。

資料1と資料2は、基本的には内容はどちらを見ていただいても結構でございます。ただ、まず資料2の最後の13ページから14ページ、15ページを御覧いただければと存じます。13ページが、先ほど申し上げましたコアの構成員として全回御議論に参画いただき、取りまとめにも御尽力いただいた5名の先生方について挙げさせていただいております。

それから、14ページ、15ページにつきましては、先ほど申し上げました第1回から第10回までに様々な有識者の方をお招きしてヒアリングを行い、その方々と5名の先生方、あるいは有識者の先生方に大体毎回2名来ていただいていますけれども、その方々も交えて毎回御議論いただいたという状況で、どのようなテーマでということを御覧いただければということで一覧をお付けしております。

それでは、内容について御説明をさせていただきます。まず、概要の資料1であれば1枚目でございますし、本体のほうであれば、めくっていただいて目次と1ページを御覧いただければと思います。まず、この有識者懇談会が行われた経緯ということでございますが、先ほど後藤委員長からも御紹介がありましたとおり、高齢化、あるいはデジタル化、AI等の技術の進展によりまして、人間の限定合理性や認知バイアス等が容易に攻撃されて、消費者に不利益で不公正な取引が広範に生じやすい状況が生じている。あるいは、消費者取引の国際化も急速に普遍化しているという状況の認識、それからデジタル化とそれに伴う情報過剰社会が進展することによって、情報や時間、関心・アテンションといったものを提供して生活をするという新たな消費者取引も拡大してきております。これらも含むデジタル消費者取引の在り方というのは、法律もありますが、多くが法律ではなくデジタル技術によって規律されている面も多いという状況もございます。

このような消費者を取り巻く取引環境の変化に対応するため、消費者法をその理念から見直し、その在り方を再編し、拡充していくための検討が必要だということで、有識者懇談会で御議論いただいたということでございます。具体的には、消費者法で何を実現するのか、それから消費者法の対象主体をどのように捉えていくべきか、さらに消費者法に何が今後必要かといった観点から、将来の消費者法の可能性を議論していただいたというものでございます。

おめくりいただきまして、2ページからが議論の内容の御紹介になります。最初に、先ほど申し上げました消費者法で何を実現するかという点でございますけれども、(1)として「消費者法の目的」というテーマの下で御議論いただいた内容がまとめられてございます。

①にありますように、まず消費者法のメルクマールについての御議論状況でございます。消費者法によって消費者の支援や保護を図ることが正当化される根拠といいますのは、従来、特に消費者契約法などを御覧いただきますと分かりやすいかと思いますけれども、消費者と事業者の間の情報の質や量、それから交渉力の格差というメルクマールに求められているということが言えると思いますが、これはもちろん今後も重要な観点かと思いますが、これだけでは不十分になってきているのではないかということで、消費者の脆弱性というものを正面から捉えていくべきではないか。

また、能力に係る格差といたしましても、今、挙がっている交渉力以外にも、情報の活用能力、あるいは自らが有する脆弱性への対応能力といった要素も加味していく必要があるのではないかといった御議論を頂いたところでございます。

それから、②としまして、消費者法の目的という中で消費者の「幸福」ということがございます。幸福というといろいろなイメージがあろうかと思いますのでかぎ括弧が付いておりますけれども、消費者法の目的は、消費者の「幸福」という価値を実現することと捉えることができるであろうということです。もっとも、脆弱性を有する主体である消費者の幸福を実現するためには、消費者が自由で自律的に選択できるという主観的価値の実現はもちろん重要でございますけれども、それだけではなくて、消費者にとって苦痛がなく、利便性が享受できている安全な状態を確保するという客観的な価値の実現というものも含めていく必要があるのではないかという御議論でございました。

その際、両者のバランスをどのように図るかということは消費者法における重要なテーマであろうということで、そのバランスを取ることによって取引社会からの排除というものを誘発しないようなインクルーシブな社会を実現するということも消費者法の目的として重要なポイントであろうということでございます。

それからもう一つ、消費者法の目的ということで、健全で自律的な取引社会を実現していくということがあろうかということでございます。消費者法は消費者の脆弱性でありますとか、消費者と事業者間の様々な格差を不当あるいは不適切に利用する悪質な取引というものを排除することによって、消費者の「幸福」を実現するだけではなくて、健全な取引を促進するものでもあるということでございます。

消費者法は、既存の取引を対象とする場合はもちろんですけれども、さらに昨今、急速に拡大しているデジタルエコノミーにおいて消費者が責任ある参加と選択をすることを可能にし、それを通じて健全で自律的な取引社会を実現することを目指すべきであるという御議論を頂きました。

その次に、消費者法で何を実現するかというテーマの下で2つ目としまして、「(2)消費者法の役割」というテーマで御議論いただいた中身でございます。消費者法の役割としましては、まず消費者の脆弱性の利用に対する規制という側面を捉えて御議論いただいております。消費者法はまずもって消費者の脆弱性を事業者が意図的に利用する場合でありますとか、事業者が意図的に操作して消費者の脆弱性を引き出す場合にこれを規制するということがある。これは既存の今までの消費者法でもメインストリームであったかと思いますが、更にこれに加えまして、必ずしも事業者の意図、いわゆる主観的要因によることなく消費者の脆弱性が利用されてしまう状況でありますとか、不当な取引結果がもたらされる場面というものが生じ得るということで、そのようなことがAI等の技術が進展することによって加速され得るということを踏まえまして、このような客観的要因に着目した介入を行うことも、消費者法の役割の射程範囲に含まれると考えられるのではないかという御議論がされたところでございます。

それから、消費者法の役割の2つ目として、消費者のエンパワーメントによる格差是正、あるいは脆弱性対策ということの御議論を頂きました。消費者教育でありますとか、消費者の理解促進ということで消費者をエンパワーメントするということは、消費者と事業者間の格差を是正して消費者に自由で自律的な選択を確保するための方策としてこれまでも重要な役割を果たしておりますし、これからも重要であろうということでございますけれども、これに加えまして、技術によって消費者をエンパワーメントする方策というものにも今後目を向けていくべきではないだろうか。AIエージェントを始めとする技術というものは、消費者の脆弱性を補う方法の一つとして有益でありますし、消費者の安全の実現に資するという面もあろうということでございます。

それから、消費者法の役割の3つ目としまして、社会におけるガバナンスのコーディネートということを挙げていただいております。既存の消費者法に既に多様なレギュレーションがございますけれども、その最適配置を図るということに加えまして、法律だけに依拠するのではなく、インセンティブでありますとか、あるいは技術的手段の活用も視野に入れて、それらも含めた多様なレギュレーションをコーディネートするということが消費者法の重要な役割であろうという御議論を頂いたところでございます。

続きまして、資料1ですと2枚目になります。本体の資料2ですと4ページ以降になりますけれども、「消費者法の対象主体とその考え方」というところでございます。消費者法の対象主体といいますと、まず消費者ということになるわけでございますけれども、「消費者概念の再考」ということで、まず消費者法が捉えるべき消費者というのをどのように考えていくべきかという点について御議論いただきました。従来の消費者法におきましては、事業性ということに着目をして、事業者ではない者という形で言わば裏から消費者を定義しているという捉え方が主たるものであったのではなかろうかということで、具体的には事業として活動しているのではない自然人が「消費者」であるという形でありました。

しかしながら、この従来の消費者像に加えて、生活空間における主体である生活者として捉える消費者像にも広げて「消費者」を考えていくことが必要なのではないかという御議論を頂いたということでございます。

それから2つ目としまして、現在の消費者法が前提としている「一般的・平均的・合理的」消費者概念というのがございますけれども、その根底には、情報であるとか判断の機会というものが十分に与えられれば適切かつ合理的な決定ができるという、古典的な、言わば「強い消費者」像というものが想定されていて、したがって、そこからは本来のあるべき「強い消費者」の状態に戻すという目的に沿って消費者法というものが構築されていくこととなっているということかと思っております。

しかしながら、現実にはそのような「一般的・平均的・合理的」な消費者でありますとか、あるいは「強い消費者」といった消費者概念が妥当する場面は限定的なのではないか。現実の消費者は、情報等が与えられてもなお不合理な行動をしてしまうという脆弱性を有しているということですので、そのような現実の消費者像を正面から捉えて、客観的に公正で合理的な状態を確保するという目的に沿って構築される消費者法も必要になると考えられるということでございます。

その際、この消費者の脆弱性というものでございますけれども、大きく分けて3つのパターンで考えられるであろうということです。1つは限定合理性等の誰もが常に有する脆弱性。それから2つ目が、一定の状況から生じる状況的な脆弱性。それから3つ目が、若年でありますとか、高齢でありますとか、あるいは貧困等々の様々な一定の属性から導かれる類型的・属性的な脆弱性というものがあり、それぞれに必要な対応を考えるべきであろうということです。なお、客観的アプローチというのは、行き過ぎた介入であるとか、過干渉の危険が伴うということには十分注意が必要であるという点も指摘をされていたところでございます。

それから、消費者概念の再考という中の3点目ですけれども、「金銭を支払う人」としての消費者以外の「消費者」というものにも目を向けていく必要があるのではないかということで、従来、消費行動の対価として金銭を支払う者というのが「消費者」ということですけれども、そのような消費者だけではなくて、デジタル化の進展や情報過剰社会においては、自らに関する情報でありますとか、自分自身の時間、あるいは関心といったものを事業者に提供することによって生活をしていくという生活者として取引に参加するという場面が拡大しているかと思います。そのような「消費者」も視野に入れていく必要があるのではないかという御指摘でございます。

それから、消費者法の対象主体とその考え方という中で、事業者については、事業者の多様性を考慮していく必要があろうということで、特に悪質性の度合いに応じた対応というものに留意していくべきという御議論がされました。事業者には意図的・積極的に消費者被害を発生させるような悪質な事業者もいれば、そうではない優良な事業者もいるということで、このような事業者の性質に応じてグラデーションのある規律とすることが必要ということです。優良な事業者については事業者自身が不適切な状況を是正するということを許容し、あるいは更に評価をする仕組みといったものを取り入れていくことが有益なのではないか。他方で、法令を遵守しないことに経済的メリットを見出して行動するといういわゆる悪質な事業者というものについては、もはや民事ルールや事前規制といった制度では、そのような事業者は反応しないということですので、行政規制、更にはそれだけでなく刑事規制も視野に入れた対応が必要であろうということでございます。

そのような事業者の悪質性の度合いを踏まえた規律のグラデーションの視点というものが不十分なまま、一律な規制というものにしてしまいますと、優良な事業者を萎縮させる反面で、悪質な事業者には効果がないといったことで、制度として適切に機能しないということに留意をすべきであるということでございます。

ここでいう事業者の悪質性の考え方でございますけれども、2つの段階で評価することができるという御指摘もございました。

第1段階としては、消費者被害を発生させる不当な行為であることを知りつつ実行するのか否かという事前の評価軸でありまして、2つ目の評価軸は、消費者被害が発生した場合にその解消・救済を実行するのかそれとも拒否するのかという事後の評価軸というものに分けて評価していくということが有益なのではないかといった御議論もあったところでございます。

次に、消費者法の対象主体という意味では、対象主体の広がりについても御議論を頂きました。

1点目としましては、取引当事者である消費者に依拠する者というものに目を向ける必要についてでございます。消費者法が生活者としての消費者の幸福というものを実現することまで射程範囲にするべきだと考えるとするならば、その取引の当事者である消費者だけでなくて、これに加えて、その者と生活を共にして自身の生活を取引当事者に依拠しているような者の幸福や利益の実現も消費者法によって考慮する余地があるのではないか。典型例としては未成年の子供というものが考えられますが、もっとも、その際、あまりその範囲を無限定に拡大するべきではないだろうという御議論もあったところでございます。

それから2つ目は、また違った点からの対象主体の広がりでございますけれども、消費者法は、取引当事者ではないけれども、取引に影響を与えている主体も視野に入れて制度設計をしていくべきではないか。具体的には、取引の場を提供するプラットフォームでありますとか、決済手段を提供する者、あるいは取引の判断材料となる情報や広告を提供する者といったものが考えられますということでございます。

それから4点目として、国を主に考えていますけれども、行政の役割ということと、それから事業者団体や消費者団体といった民間団体の役割についても再考していくべき点ということで御議論を頂きました。

まず、国(行政)の機能の拡充の必要性についてでございます。これは大きく3つの観点がございます。1つは、伝統的な規制者としての役割についてでして、これは規制のスマート化を推進するとともに、行政が消費者団体や事業者団体と協働して、例えば契約条項の適正性を評価する仕組みでありますとか、インセンティブ設計などを通じて規制のソフト化を進めていくといった役割への機能拡充というものがあるであろうと。

それから2点目として、消費者の合理性を回復して取引行動を支援する支援者としての行政の役割という側面から言いますと、消費者の脆弱性に起因するリスクでありますとか、脆弱性をカバーする仕組みを見える化するといった機能、それから、消費者の合理性の回復に資する技術等を実装する事業者を支援することで消費者の支援をしていくといった機能についても役割を拡充していく必要があるだろうという点が議論されました。

それから3点目としまして、消費者取引の際に必要な情報の基盤を確保するトラストアンカーとしての役割でございます。情報の発信主体の信用性を担保したり、あるいは情報発信者の真正性を確認することで、消費者が取引を行うに当たって必要になる情報の調査や評価に要するコストを小さくすることにより情報の利活用のための環境を整備するということを、これはもちろん国や行政しかできないわけでは当然ございませんけれども、国や行政もしっかり積極的にそのような役割を担っていくことが求められているのではないかということでございます。

それから、民間団体の役割でございます。この民間団体の役割に着目したという点につきましては、先ほど来述べております客観的価値の実現を目的とするような客観的なアプローチというものにつきましては、法や制度による介入の度合いが増すという点があります。そこで、それを国や行政のみに委ねるとしますと、経済的不合理が出たり、あるいは過干渉の危険といったものがあり得るということで、民間団体が参画することでマルチステークホルダーで対応していくという視点が重要であろうという意味で、民間団体の役割というものも重要であろうということでございました。

まず、消費者団体につきましては2点ほどございます。第1に、適格消費者団体、あるいは適格消費者団体の制度というものが今後更に新たな役割を担う可能性について検討していく必要があるのではないか。例えばデジタル化の進展によって、これまでは契約によって規定されてきたことが技術やシステムによって規定される場面が増加しているということを踏まえて、そのようなデザインの監視や評価の役割を担うようなことも考えられるのではないか。それから、加えてこのような新たな役割に対応できるリソースを備えた新しい消費者団体の在り方を検討する必要もあろうといった御議論がありました。

事業者団体につきましては、個々の事業者では対応困難な事象に対して組織横断的なガバナンス機能を積極的に担っていただくということが期待されるのではないか。さらに、先ほどもありましたけれども、契約条項の適法性を評価するような仕組みにおいて、事業者団体が積極的に役割を担っていくということが規制のソフト化を可能にするのではないかといった御議論がされたところでございます。

また、そのような消費者団体、事業者団体だけではなくて、それらの団体と、その他の団体、例えばデジタルサービスデザインの専門家の団体でありますとか、高齢者のケアサポートの団体などとの連携の促進といった点も検討していくべきという御指摘があったところでございます。

次に、資料2ですと8ページでございまして、資料1のほうは3枚目、あるいは4枚目のところで、消費者法に何が必要かというところでございます。

(1)として、「デジタル化の進展が法にもたらす影響」というテーマの下で御議論を頂きました。1つ目は、「技術が果たす役割、法と技術の関係の整理」ということでございますけれども、取引が行われる環境がどのように構築されるかによって取引の在り方というものが画されるということで、すなわち法だけではなくて技術も取引の在り方を規律することができるということでございます。殊に、デジタル社会における取引は、契約やそれを規律する法律ではなく、その外側でデジタル技術によって広く規定されるという状況にもあろうかと思います。

他方、デジタル取引においては、消費者の脆弱性がより顕在化しがちであるとともに、技術によってそれが容易に引き出されやすいと考えられる。他方で、技術はそれを適切に構築することで安全・公正な取引を担保することにも寄与するということが考えられるであろうということで、消費者法としては、消費者を取り巻く取引環境のデジタル化が急速に進展する中で、そのような技術が果たす役割や可能性との関係で消費者法によってどのような対処・規制が必要なのかといった場面を整理し、あるいは新しく構築をしていく必要があろうという御議論を頂いたところでございます。

とりわけということで、デジタルプラットフォームを介した取引が圧倒的に拡大していることに鑑みれば、プラットフォーマーが自ら適切な規律を実践することができる仕組みを構築するといったことが必要になってくるであろうといった御議論もありました。

それから、技術の中でも特にAIについて留意すべき点ということで御議論いただいたのが②のところでございます。「AIの発展・普及が消費者法に与える影響」というところでございますけれども、AIというものの特徴は、人間どうしの取引、あるいは人間の意思に基づく取引においては考える必要がなかった新たな状況を生み出している。それは、すなわちAIが人には扱うことのできない大量の情報を統計的に処理することができるからということでございます。それによって個々人のニーズに応じた取引の個別化というものが可能になっているわけでございますけれども、しかし、ここでいうAIによる個別化というのはあくまでも統計的処理に基づく推定であるということで、伝統的な法制度が考えてきた人の真意や意思に基づくものという考えとは異質のものであるという点を押さえておく必要があろうということでございます。

そのことから、第1に、AIによる個別化には統計的に必然的に生じる誤推定の問題があるという点が挙げられます。それから第2に、現在、消費者取引においてAI技術を活用しているのは圧倒的に事業者であるということから、消費者と事業者との間に新たな非対称性が生じてこれによる格差が拡大しているという点にも目を向ける必要があるということでございます。このような問題に対しましては、AIそれ自体を含む技術やシステム設計が取引を規律することを前提に、そこでの規律の在り方を体制整備義務や透明性確保、あるいは事後的監査の仕組みなどを組み合わせることで法によって担保するアプローチというのが有効なのではないかという御議論を頂いたところでございます。

また、消費者がAIを活用していくということも重要であるということで、それによって、先ほどありました新たな格差を縮減することにつながり、あるいは消費者の多様な脆弱性を個々人に応じて個別的に補完することも期待できるのではないかといった御議論がございました。

それから、消費者法に何が必要かの(2)として、「社会の多様化・複雑化に対応して新たに必要になる規律」ということで、一つは「多様な主体への対応」ということが議論されました。ここでいう多様な主体というのは消費者の多様な主体ということかと思いますけれども、高齢化が急速に進展している我が国においては、加齢に伴って認知機能が低下した消費者が主体となる消費者取引というのはもはや少数・例外の事象として対応することは不可能、あるいは不適切であろう。また、デジタル化が進展して、それに伴って情報過剰になったり、あるいは複雑化する社会の中では、自身の取引に必要とされる判断力が十分でないという原因も広がっており、例えば認知症に至らない軽度認知障害でありますとか、発達障害、境界知能などの方々にも広がるということで、相当割合の人々が、あるいは多くの人が自分の人生の相当長期にわたって、認知機能上の課題を抱えている社会というものを前提とした仕組みというものを考えていく必要があるであろうということでございます。

そのようなことを踏まえますと、類型的・属性的脆弱性に対していわゆる本人の権利を幾つかの段階で制限をする民法の成年後見制度のみで対応するということは困難であろうということで、消費者本人の意思を保存したり、あるいはその判断をサポートする仕組みを導入する、あるいは認知機能や判断能力を推定する技術の利活用を促進するといった多様な手法を通じて、多様な消費者、多様な主体が安心して消費者取引を続けることができる社会を実現するといったことを消費者法において整備していくことが求められるといった御議論を頂いたところでございます。

それから、「取引の国際化への対応」といった点も御議論いただきました。デジタル化の進展によりまして、消費者取引におきましても越境取引というものが普遍化しているということでございます。これを踏まえますと、日本の消費者市場で日本の消費者を対象に事業をするという事業者側の活動に着目して、そのような事業者との関係において消費者取引に係る日本法による消費者保護を確保するという観点で規律の在り方を検討していく必要があるのではないかといった御議論、それから、行政法規等においてもエンフォースメントというものを引き続きしっかり考えていく必要があるという御指摘がございました。

また、ここでもプラットフォーマーが自ら適切な規律を実践することが重要な役割を果たすであろうという御議論を頂いたところでございます。

それから、(3)としまして、「様々な規律手法の役割分担と関係性の検討」ということで、1つ目に「社会全体として効率的に機能する規律のコーディネーション」をしていくと。消費者法の目的を実現するためには、法律による規律だけではなくて、技術による規律を組み合わせていく、あるいは法律の中でもいわゆるハードな要素とソフトな要素を組み合わせていくということで、全体として効率的に機能するような規律をコーディネートするということが重要であろうといった御議論でございます。

また、一つの施策を実現するための実効性の確保の手法というのは複層的に整備するという意識が重要であろうといったこと、加えて、様々な形での公私協働を積極的に組み入れていくべきといった御議論を頂いたところでございます。

それから、かぎ括弧を付けているのは既存の契約法からするとかなりはみ出した御議論になっているということですけれども、「『消費者契約法』の可能性」ということで御議論をまとめていただいております。令和4年の通常国会における改正時の附帯決議等におきまして、消費者契約法の消費者法制における役割等は、多角的な見地から整理した上で、既存の枠組みにとらわれない抜本的かつ網羅的なルール設定の在り方について検討が必要とされていたところでございます。この消費者契約法につきましては、民法の特別法としてのみ位置付ける見方から脱却して、消費者の脆弱性に正面から向き合い、また、生活者としての消費者像を視野に入れて、消費者が関わる取引を幅広く規律する新たな姿を追求するべきであるということで、具体的には4つの観点に分けて指摘をしていただいております。

まず、規律の対象範囲につきましては、契約締結の段階、締結過程だけではなくて、履行でありますとか継続の過程、更には契約から離脱する過程にも目を向けていくべきであるといったこと、それから、金銭だけでなく、情報や時間、関心を消費者から事業者に提供する取引についても視野に入れていく必要があるのではないかといった指摘がございました。

それから、規定の法的効果につきましては、契約の拘束力からの解放を認める新しい制度の導入についても検討する必要があるのではないかということで、例えば解除の制度でありますとか、あるいは損害の分担や分配を可能にする不法行為法的な観点からの規定を導入することができるのかといった可能性といったものも検討していく必要があろう。また、行政規制の導入可能性も含めて規律の在り方を検討することも有益だろうといった御議論でございました。

それから、規定の抽象度という観点からでございますけれども、司法の一般原則と個別具体の行為や条項に対する規制との中間を埋める規律が整備される必要があると考えられるわけですけれども、いわゆる零百の民事効の下で規定の抽象度だけが高まりますと、事業者の予測可能性との緊張関係が問題になるということで、規定の抽象度を高めるならそれに見合った柔軟な法的効果と組み合わせるということを検討するべきといった御議論があったところでございます。

それから、4点目としまして、消費者取引の国際化に対応するといった視点も必要であるといった御議論を頂きました。

③としまして、「被害・損失をリカバリーする仕組みの検討」ということで、現在は消費者の意思表示のダメージを基盤にした取消しといった制度がございますけれども、そのような契約法制だけではなくて、取引の内容も考慮要素としつつ一定の手続・配慮の欠如を付加要件とするような契約解除の仕組みでありますとか、先ほども出てきましたけれども、不法行為法制による損害賠償制度の活用可能性を検討していくことが考えられるのではないか。また、一般的な民事裁判手続だけではなく、ADRの活用や消費者団体訴訟制度の活用促進も重要であろうといった御指摘がございました。

「他方で」というところでございますけれども、AIが特定の者の判断に帰し難い損害を生じさせる、あるいはデジタル化の進展によって複雑に重層化して相互依存したシステムにおいては、責任の所在を把握することが極めて困難になってきているということで、そのような場合に個別責任を追及することによってはおよそ救済を図れないような場面というものが発生するのではないか、これに対してどのように対応していくのかといった検討も必要になるかもしれないといった御議論がございました。

最後でございますけれども、これは「消費者法の再編・拡充にあたって」の留意点のようなものをおまとめいただいております。1点目としましては、ハードな法律だけでなく、ソフトな法制度や法律以外の技術の活用も含めた広い意味での消費者法制度といったものを考えていく必要。2つ目としまして、規律の密度や実効性確保のバリエーションを適切に組み合わせるという視点が必要であるということ。それから、消費者保護というものが消費者の自由や自律性の否定につながらないような配慮が必要であるといったこと。それから、新たなイノベーションによる将来の消費者利益を阻害しないよう、健全な取引を促進する形で対応を検討していくといった視点が必要であるといった点について留意点として御議論いただいたということでございます。

すみません、ちょっと時間を超過してしまいましたけれども、私からの御説明は以上でございます。

○後藤委員長 どうもありがとうございました。非常に丁寧な御説明を頂いて、よく内容が分かりました。

それでは、質疑応答と意見交換をお願いいたします。時間は30分程度でお願いいたします。

大石委員、よろしくお願いいたします。

○大石委員 御説明ありがとうございました。

本当に基本的なことで最初に質問させていただきたいと思います。この報告書の中で一番私が気になったのが、2ページにある消費者の幸福というところにかぎ括弧が付いているところで、消費者法の目的が消費者の「幸福」という価値を実現することと書いてあるのですけれども、この幸福というものにかぎ括弧が付けられている理由について、御説明の中でも少しあったかと思うのですけれども、ここでこういうかぎ括弧を付けて論じたという内容について、もう少し詳しく教えていただければと思います。お願いいたします。

○消費者庁黒木消費者制度課長 御質問ありがとうございます。

ちょっと正確に再現できるかというのは分からないのですけれども、御議論のまとめの話が始まった頃に、自律や自由というものと幸福というものを対峙させたようなまとめになるのかなといった御議論が最初にあったのですが、幸福といったときにそういうふうに幸福を捉えることもあるけれども、自由で自律的に判断できるといったものが幸福であると考えることもあるので、それはどうなのだろうという御議論が交わされまして、結局幸福はかぎ括弧を付けて、「幸福」ということで、自由に対峙させているわけではないということで、主観的価値と客観的価値の両方必要だよねという位置付けで使っていると御理解いただければ恐らく問題ないかなと思いますが、そのような御議論をたしか12回ぐらいのときに頂いていたかと思います。

○大石委員 ありがとうございます。

幸福というのはその人の心の持ちようなので、定義すること自体がすごく難しいなという思いもあって、それと消費者法の目的ということなので、今おっしゃられたような内容で付けられたということは理解できました。ありがとうございました。

○後藤委員長 どうもありがとうございました。

ほかにいかがでしょうか。

星野委員、よろしくお願いいたします。

○星野委員 御説明ありがとうございました。

3つほどありまして、まず幸福に関して、経済学ですと社会厚生や消費者厚生という話になるかと思いまして、資料3を詳細に見ているわけではないので、そういった議論があったかもしれませんが、やはり一人の消費者に対して一事業者があるというわけでなく、複数の事業者があって、その中から消費者が選択をするという中で考えますと、特定の業者が消費者をだますことによって何が起こるかというと、ほかの事業者と取引をする機会が失われる。何なら、そういった搾取的なことをしている事業者がのさばることによって、健全な事業者がよりきちんとした製品を出したり販売する機会を失うということで、もちろんそれは他の事業者にとっての損害ということでそういった厚生が失われるということもありますが、経済学的な概念で考えますと、カウンターファクチュアルというか、機会費用概念というか、もしこういった変な事業者に捕まらなければもっと良い物を買えたであろうみたいな観点の実現していないような損失というものもあり得ると考えますと、自由、自律性の尊重や安全の実現というものだけではなくて、そういった厚生概念というのを考えますと、もう少し広い形でこういった消費者保護をするということの意義というものが出てくると思いますので、もちろんこちらで様々な有識者の方々に御議論いただいているとは思いますけれども、そういった機会費用概念というか、本来だったらもっと良い物を買えたのにといったものを、そしてこういった搾取的な事業者が存在することによってほかの事業者にとっても損失になりますし、将来的な消費者の厚生を失わせるという観点で、よりこのような消費者法の保護というものが重要なのだという観点ももう少し入れていただけると有り難かったかなというのは議論の中であったと思いますので、まとめでそこら辺が少し弱いような印象を私としては持っておりますので、そこは今後、議論する際に参考としていただければと思います。

あと、ガバナンスのコーディネートというところでインセンティブを活用するということなのですが、これはもう少し具体的になりますと、事業者にとってのインセンティブということになるのかなと思うのですが、つまり例えばダークパターンを積極的に防止するだとか、あと、消費者被害に関して情報提供するみたいな、より消費者保護に積極的なプラットフォーマーに対しては何か表彰するといった制度みたいなものを導入するといったことをお考えになっているのかなと思ったのですが、このインセンティブというところに関して、誰のインセンティブなのだというところが少し不明確だったので、これも資料3をよく読めば書いてあるのかもしれませんが、そこはちょっと分かりにくかったのですが、私としてはそういったことがあり得るのかなと思っておりました。

あと、消費者法に何が必要かという観点も非常に重要で、網羅的なのですけれども、網羅的だからこそもう少し具体的に頂ければというところで、他国との比較で考えますと、これはデジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループの議事録を私も見て、そういった議論があったというところでございます。例えばEUでは、いわゆる技術中立性ということがキーワードとされている。つまり特定の取引に関して、例えば電話やチャットであろうが、どのようなものであろうが、手段は何であれ、取引の内容が同じであれば、そこは同一の観点で保護されるべきだといった議論があって、特商法とも関連すると思いますが、あると思いますので、そういった取引手段に関してどうなのかということで、将来性のことに関してここで具体的に記載があるのかどうか、あまり時間がございませんので、そこはもう書かれているのかもしれませんが、もしそういったものがあるのであれば、どこに書かれているのかということを伺えればと思います。

3つになって恐縮です。

○後藤委員長 よろしくお願いします。

○消費者庁黒木消費者制度課長 1点目につきましては、貴重な御示唆を頂きましてありがとうございます。

2点目のインセンティブ設計につきましては、御指摘のとおりかと思います。主として当然事業者により良い取組をしていただくようなインセンティブ設計で、その事業者は取引の当事者である事業者もありましょうし、あるいは先ほどのプラットフォーマーなどという当該取引の直接の当事者ではないけれども取引に影響を与える者というものもあろうかと思いますけれども、そちらのインセンティブというものが主として議論されていたかと思います。もっとも、必ずしもインセンティブ設計という中であったかは不確かですけれども、消費者が例えばアプリを導入するかといったようなインセンティブを与えるという形での御議論もあって、ある意味そういうインセンティブもありますかねといった議論が先生方の中でされていた回もあったかと思います。

それから3点目は、私が正確に先生の問題意識を理解できているか分からないのですけれども、この有識者懇談会自体が、まず今後の消費者法あるいは消費者制度の在り方を考えていく土台となるような考え方のところの整理ということで、具体的に例えばどのダークパターンにどんな対応をしていくのかとか、あるいはEUのこういう法制度があって、それを日本でどうするのかといった具体的な個別の対策まで深く御議論いただいたということではございませんので、いろいろな回でそのようなEUの制度でありますとか、あるいはアメリカでの意見や提言などの内容について様々御紹介があって、それについて御議論がされた回もございますけれども、取りまとめのところで個別のものを取り上げてこれをすべき、あれをすべきという取りまとめ方というよりは、考え方の土台をつくるという観点からおまとめいただいたということかと思います。もし個別どんな例が取り上げられて議論がされていたかということですと、大変恐縮ではございますが、資料3なども活用いただきまして、各回の内容、あるいはヒアリングにお越しいただいた先生方に御提出いただきました資料なども御参照いただければと思います。

○後藤委員長 星野先生、よろしいでしょうか。

どうもありがとうございました。

それでは、黒木委員、よろしくお願いいたします。

○黒木委員 黒木です。本日は詳細な御説明をどうもありがとうございました。

特にいわゆる平均的・合理的な消費者という伝統的法律学がおっしゃっているみたいな消費者等ではなく、具体的な脆弱性を持った、しかも様々なシチュエーションにおける脆弱性を持った消費者というものを消費者法の基本の消費者概念として考えるというのは、私が第63回日弁連人権擁護大会の実行委員長をしたときの問題意識とも通底するものがあります。そして、それが恐らくヨーロッパなどの今の最先端というか、そういう契約概念に関するところまでこの論点の整理、議論の整理のほうでは進んでいただいたのだと思っておりまして、その点では非常に興味深く聞かせていただきました。ありがとうございました。

質問なのですけれども、この「有識者懇談会における議論の整理」と消費者基本計画の工程表との関係を教えていただきたいと思います。工程表では重点項目3の「社会経済情勢の変化に対応した消費者契約法を含めた消費者法制度の整備等」という項目の中にこの議論の整理というものは位置付けられるのだろうと思って聞いております。確かにアウトプット資料としては、消費者契約法などに関する有識者の意見交換会、ヒアリング等の実施、5回以上/毎年度というものがありますけれども、これについては最終的なアウトカム指標は、消費者契約法に関する学術研究の数というものをアウトカム指標にするということになっておりまして、それについての取組として、消費者法の在り方を検討する会議を開催するということになっているのですね。そうなってくると、ここで議論の整理をされて、この後これをどうされるのか。この議論の整理を踏まえて、例えば報告書という形でやっていくのかということについてどうお考えになっているのかという点について、この消費者基本計画工程表重点項目3との関係で、今後、消費者庁の中でこの議論の整理を踏まえて、どういった分野をどういう形でやっていくのかということを、沖野先生や大屋先生が委員でいらっしゃるからいっぱい論文が出ますね、みたいな話ではないのだろうと思っておりますので、その辺りを少し教えていただければと思います。

よろしくお願いいたします。

○後藤委員長 お願いいたします。

○消費者庁黒木消費者制度課長 消費者基本計画の工程表などについてはちょっと今、手元にないので、正確にというのは分からないのと、消費者基本計画につきましては、今、御指摘のものというのは今の消費者基本計画に基づいてのものだと思いますが、たしか基本計画自体が見直しの時期になって、5年計画ですのでそろそろ5年が経つということもあって、また次のことを考えていくということになろうかと思いますので、そことの関係につきましては、よろしければ消費者基本計画についてここで御議論いただくときに政策課の政策課長などに聞いていただければと思います。この議論自体、今後どうしていくのかというのは、先ほど申し上げましたように、考え方の土台をつくっていただいたということでして、懇談会の最後の回にも大臣から御挨拶も頂きましたし、あるいは当時会見でも御発言いただいておりますけれども、この有識者懇談会の御議論というものをしっかり今後の新たな消費者法制度の根幹になる土台としていきたいということで、今後更に私法、公法双方のアプローチで幅広く規律するような消費者取引全体の法整備でありますとか、あるいはデジタル化といったものの影響をどのように考えていくのかといったことについて更に具体的な議論を進めていきたいと言っていただいております。

どのような形で進めるのかということにつきましては、庁内でも検討中でございますけれども、有識者懇談会の取りまとめを出したらあとは学説の論文で何が出てくるかを見守るだけということではないかなと思っております。

○黒木委員 分かりました。まだ議論の整理という段階なのかもしれませんけれども、大変アグレッシブというか、非常に意味がある議論をされていることはよく分かります。更に、消費者契約法やその辺りの法制度のところについても御提案いただいているところですので、様々な形で今後具体化していっていただく取組をしていただければいいなと本当に強く思っております。

以上です。

○後藤委員長 どうもありがとうございました。

それでは、ほかにございませんでしょうか。

受田委員長代理、よろしくお願いいたします。

○受田委員長代理 御説明ありがとうございました。大変勉強になりました。

これを拝見していて、いわゆる事業者の立場から見ると、経営資源というのは人、物、金というのがあって、これに今、情報が入り、更には、私たちは時間という因子が入っていると認識をしています。

これまでの消費者法というのが経営資源における金銭の授受というところで成り立っていたところを、経営資源として例えばここに明確に書いてある情報や時間というやり取りも含めていこうという観点は極めてよく理解できます。特に情報については、情報銀行とか、データそのものが本人の自覚なしに価値を生み出して、それによって金銭のやり取りが進んでいくということが一般的に認められつつありますので、そういう理解は非常にスムーズにいくと思います。

一方で、ここで書いてある時間というもののやり取りを事業者と消費者という関係で見ていくときに、一体どういうビジネスをイメージしているのか、そこを素朴に知りたいというのが一点です。

それからもう一点だけ、もともとこの議論というのは、高齢化の進展により認知機能が不十分な消費者の割合が拡大するというところから始まっています。今からのイノベーションにおいて、いろいろな製薬会社がこの認知機能の改善、あるいは薬による、最近も承認の話題があるような抜本的に治療をやっていこう、あるいは認知機能の悪化を食い止める薬剤を開発していこうという方向もある中で、これを中心にしていくということをどう正当化していくのかというのが私はよく理解ができなかったのです。

更に言うと、後半のほうの議論というのは、いろいろな脆弱な消費者を中心に据えてはいますけれども、認知機能が低下していく人たちが増えていくような社会に対して一体どう対峙していこうとしているのかという動的な動きが少し薄いのかなと感じました。すなわち、問題の起点と議論の後半のロジックの部分を起承転結でどう結び付けていこうとされているのか、やや不明瞭に思えたので、少し補足をしていただきたいなと思いました。

○後藤委員長 お願いいたします。

○消費者庁黒木消費者制度課長 ありがとうございます。

どちらも直接先生の問題意識にお答えできるか大変不安なのでございますけれども、1点目が、情報というものを介した取引というものは分かるのだけれども、時間というのはどういうイメージかという御指摘であったかと思います。資料2の5ページの上のほうの③と書いてあるところの本文の3行目辺りに書いてありますけれども、時間あるいは関心・アテンションといったことが書かれておりまして、例えば有識者懇談会の先生方の中ではアテンションエコノミーといった言葉も出てきておりました。人の時間なり、あるいは自分の関心を寄せるというのは限りがあるわけですけれども、それをどこにどれだけ注入するのかといったものをなるべくたくさん、それを消費者と呼んだ場合の消費者の時間なり関心をどれだけ多く獲得するかといったもので回っている経済活動というものがあるであろうということで、そういったものについても見ていく必要があるということでした。ちょっと良い例かは分かりませんけれども、例えばゲームにのめり込んでずっとやるという時間であるとか、あるいはサブスクなどでもいろいろなサービスがございますけれども、その中で自分仕様にしていくことにいろいろな時間や労力を掛けていって、出来上がったものの価値というのをどう考えていくのかといったものについて、それはお金を払っていないから消費者法としては何もなくていいということではないのではないだろうかといった観点からの御議論であったかと思っております。

具体的に何かこれについてどうしろこうしろという議論ではございませんでしたけれども、他方で、EUなどでは特にプライバシーなどの情報を金銭と同視してはいけないのであるといった視点が強いという御紹介もございましたので、様々な考え方があるだろうということかとは思いますけれども、いずれにしましても、そこについても考えていく必要があるであろうといった御議論であったかと思います。

それから2点目ですけれども、この議論自体が必ずしも高齢化だけということではなくて、脆弱性というものも、もちろん認知症などが典型かと思いますけれども、そのような類型的な脆弱性というものも当然視野に入れていますけれども、それをメインにしてというよりも、それも一つあるし、あるいは状況的な脆弱性、いろいろな状況をつくられたらうっかりクリックしてしまうみたいな状況的な脆弱性などもあるでしょうし、あるいはそもそも人の認知機能というのはいろいろなバイアスがあってということもあって、様々なのですけれども、またそれを必ずしもきっちり分けられるわけではなくて、グラデーションの問題ということもあるので、最初のほうにありますが、そういういろいろな脆弱性を精緻に考えながら、それぞれどう対応していくのかといった議論をしていただいていました。したがって、高齢化の対応、認知症への対応としてはあまりつじつまが合っていない出口のことも書いてあるのではないかといった御指摘ですと、必ずしもそこだけを見て御議論されていたわけではないため、違う視点からの対応といった、別に高齢者ではなくても一般的にどのような消費者にとっても脆弱性があるという前提で、そのようなものに対して消費者法として必要なものという観点からのものも含まれているということかと思っております。

○受田委員長代理 分かりました。

どれぐらいの時間軸でその有識者懇談会が議論されているか、その時間軸によってはイノベーションの創発というのが議論の根底を完全に覆してしまう大きなブレークスルーを伴うことがあると思いますので、そういう意味で時間軸的なところ、あるいは社会の変革の予想というところと更に重層的に議論が展開されていると、極めてこの議論の整理というのがより長期的に活用できるのかなと感じました。

ありがとうございました。

○後藤委員長 お願いします。

○消費者庁黒木消費者制度課長 御指摘ありがとうございます。

確かにどのような時間軸でということで、例えば末永く基盤になるようなものであればいいというのは当然あるかと思います。

他方で、今の御指摘からはずれるかもしれませんけれども、この有識者懇談会は昨年の8月末に開始をしていただいております。その段階ではほとんど想定をしておらず、ヒアリングの対象の方々にもあえてその点についての方を入れていなかった論点として、例えば生成AIの話がございます。それについては昨年末ぐらいから急速に話題になってということで、この検討会でももはやいろいろヒアリングも終わった頃に出てきてしまったのだけれども、それについて何も言わないわけにもいかないねということがございました。そういう中、時間が経つと、おっしゃったようにいろいろなものが出てきて、そこも考えなくてはいけないといったことも出てくるかと思いますので、あまり短い命でも困るのですが、あまりずっと一緒ということにもならないのだろうと思います。いずれにしましても、根本的な議論として今後活かしていければということだと思います。

あと、先ほどの黒木委員の御指摘とも関係いたしますけれども、今後、更にもう少し具体化した議論をどんどん進めていくということで考えていると申し上げましたけれども、やはり有識者の方々、あるいはもっと広くいろいろな方々にこういう議論に関心を持っていただいて、こんなことも考えなくてはいけないという御指摘なりお知恵を頂かないと、消費者庁の中だけで考えていてもあまり広がりがないということもあろうかと思いますので、是非多くの方々に御議論いただいて、お知恵を頂ければと思っているところでございます。

○受田委員長代理 ありがとうございました。

○後藤委員長 ほかにございますでしょうか。

木村委員、よろしくお願いします。

○木村委員 木村です。御説明ありがとうございます。

今の話に少し関係するのですけれども、この有識者会議は今後も引き続き続いていくという理解でよろしいのかというのが1点目と、あと、報告書の12ページ、4番目の「消費者法の再編・拡充にあたって」というところの最後のところで、デジタル技術はAIを含むと書いてあって、検討していくことが重要だとあるのですが、ここを例えばもう少し具体的にどういったことが出されたのかを説明していただけませんでしょうか。

○消費者庁黒木消費者制度課長 1点目のこの有識者懇談会が今後も続くのかという御指摘につきまして、この有識者懇談会自体は一旦これで取りまとめをしていただいているということですので、更に次のステージの検討をするに当たっては、次の場面なりを設定してということで考えていく必要があろうかと思います。もちろんこれまでお世話になった先生方やヒアリングなどでお世話になった先生方に更にお知恵を頂くことは当然あろうかと思いますけれども、有識者懇談会という枠自体は、一旦は閉じているということでございます。

それから、最後のところのイノベーションを阻害しないようにデジタル技術やAIを使ってという辺りは、具体的にどんなことが議論されたかという点についてですが、最後のところというのは、必ずしもまとめというよりは、これまで1、2、3で言ってきたようなことを考えていくに当たって、こういう点に留意していく必要があるという形でまとめていただいていますので、デジタル技術やAIに対する問題点としてどう対応するかという点でありますとか、あるいはその技術を活用していくという点というのは、その前の1や2や3に書かれていたこと、あるいはその議論、あるいは各回のヒアリングなどでもいろいろな御議論があったかと思いますが、それのことではないかなと思います。4について更に1、2、3で議論をしていること以上に突っ込んで議論をした何かがあったのですかということであれば、特にそういうわけではないということになろうかと思います。

○木村委員 ありがとうございます。

資料3を読んでも1から3を参照と書いてあったので、理解しました。

先ほどお話もあったように、AIやコロナ、災害など、今後もいろいろと不測の事態が起こると思いますので、是非また引き続き御検討をと思います。ありがとうございます。

○後藤委員長 ほかにございませんでしょうか。

飯島委員、よろしくお願いいたします。

○飯島委員 飯島でございます。

最先端の理論状況を踏まえて、スケールの大きく刺激的な消費者法の考え方の土台を提示してくださったことに対して敬意を表します。その上で、十分な読み込みができていないままで恐縮ですが、いくつか申し上げたいと存じます。

まず、脆弱性、生活者、客観的価値・客観的アプローチといったキーワードを基に消費者法の射程を拡張していくということかと思いますが、拡張というのは拡散でもあり、また、過剰にもつながり得るおそれはあるだろうと思いました。

また、広い射程を持つものについて、全体を一体として制度設計することが果たして可能なのか、また、適切なのかということの見通しがつかないところもございます。

例えば、悪質事業者対策が必要であり喫緊の課題であるということは共通認識になっていますが、なかなかできていない。それは恐らく資源、そして特に能力の制約もあるだろうと思います。また、生活者という捉え方をしますと、全ての人の全ての側面をカバーすることになります。関心やアテンションが重要であることはもちろん承知しておりますけれども、こういった内面に関わることに踏み込む非常にセンシティブな規律をどのように組み立てていくのかは難しい課題であろうと感じました。

あと、特に意思について、意思の役割の低下ということが民法学において議論されていることは門外漢ながら承知しておりますけれども、11ページの②「消費者契約法」の可能性や③の辺りを拝読いたしますと、消費者法はどこに向かうのだろうかという思いにも駆られます。

有識者懇談会での議論は、学問的に非常に興味深いことは確かですが、現実と乖離している部分があるのではないかというのが率直な感想でもあります。委員との様々な御議論がありましたが、この成果をどのように生かしていくのか、所管課としての受け止め方をもう少しお伺いできますと幸いです。どうぞよろしくお願いいたします。

○後藤委員長 お願いいたします。

○消費者庁黒木消費者制度課長 まだ確たるいつこれをしますみたいなことがあるわけではないので、多分に個人的な考えも入ってしまうかもしれませんが、それを御容赦いただきながらお聞きいただければと思いますけれども、例えば消費者契約法で言いますと、今の消費者契約法の枠組みからすれば、先生が御指摘いただいたようにかなり今の現実の消費者契約法と乖離があるというのは御指摘のとおりかと思いますが、先生がそのことをおっしゃったかどうかは別にして、例えばその例で言いますと、だから何もできないというよりは、むしろそういう検討が求められているのではないかということでございます。

例えば資料2の11ページに書いてある令和4年の通常国会での改正時の附帯決議などで、正に既存の枠組みにとらわれない抜本的・網羅的なルール設定の在り方を考えよということを御指摘いただいていたということでございます。また、消費者契約法に限らない話かとは思っておりまして、この有識者懇談会自体は必ずしも消費者契約法の検討ということではなくて、消費者法の現状を検証して将来の在り方を考えるということですし、かつ、そこでいう消費者法というのは必ずしも狭義の法律に限ったものではない広義のものとして捉えていく必要があるであろうと考えております。消費者庁の、必ずしも消費者制度課関係だけの問題というよりは、いろいろな今後の法律、あるいは制度、仕組みや取組を考えていく上でも、この有識者懇談会の議論などがいろいろな場面で土台として使っていけるものではないかなと思っております。

そういう意味では、たしか大臣あるいは長官からは消費者法のパラダイムシフトをしていくのだといった発言がございます。それを具体的にいつ頃、どんな形で、何に実現していくのかというのは今後考えていく必要があろうかとは思いますが、必ずしも何か消費者契約法だけをどうするかといったものではなく、より幅広い影響があることかなと思っております。

すみません、ちょっとお答えになっていないかもしれませんけれども、今時点ではそのようなもので、なるべく今回の議論の整理を機会を捉えて活かしていければいいと考えているということでございます。

○飯島委員 どうもありがとうございました。

○後藤委員長 どうもありがとうございました。

ほかにございませんでしょうか。

星野委員よろしくお願いします。

○星野委員 先ほどの受田先生の意見、そして飯島先生の意見を踏まえてもう一点だけ、資料1のこの図の目的のところは、消費者と事業者が、つまり契約のある人たちが一対一だというところがちょっと私としてはどうしても混乱して納得がいかない。納得がいかないというか、法律といった点なのかもしれませんが、先ほど申し上げたのは、本来事業者が複数あるべきだと。だから、もしかしたら潜在的にはほかの事業者とも取引をする可能性があるという観点で申し上げました。

もう一点、同じような観点で考えますと、消費者間の相互作用というのがあり得るということです。そう考えますと、これはつまり金銭を伴う直接的な取引だけを対象にしていていいのかというのがございまして、先ほどのアテンションを奪うという観点では、消費者の脆弱性を利用して、例えば「いいね」をさせるみたいなこと自体は当然ながら金銭取引を伴わないので消費者保護の対象にならないといっても、例えば「いいね」が非常に押されている商材は、ほかの消費者がそれを見て、そういう情報として購入することがあるわけですね。そういったことで、間接的というのはありますけれども、ほかの消費者に対して害をもたらすということがあり得るので、つまり金銭だけを対象にしていいのかというのは、アテンションを奪うという行為が実はほかの消費者の公平性を失わせるということも可能性があるのかなと思いまして、消費者も事業者も複数あるといったことが実情なのかと。しかも特に今はデジタルの時代ですので、そんなことを考えました。

すみません、こういったものを今後、盛り込んでいただけるような方向があると、直接的な金銭が伴う取引以外のことも対象になり得るのかなと思っております。意見でございます。

○後藤委員長 どうもありがとうございました。

何かございますか。黒木課長、よろしいですか。

○消費者庁黒木消費者制度課長 結構でございます。

○後藤委員長 大丈夫ですか。どうもありがとうございました。

ほかにございませんでしょうか。よろしいでしょうか。

それでは、議論は以上にしたいと思います。

「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会における議論の整理」については、高齢化や社会のデジタル化の進展など、消費者を取り巻く環境変化に対応するために、消費者法を理念から見直し、消費者の脆弱性を踏まえた新たな消費者概念、事業者の悪質性の度合いに応じた対応の必要性や社会のデジタル化や高齢化がもたらす影響と消費者法としての対応の可能性、そして消費者契約法について、民法の特別法としてのみ位置付けるという見方から脱却すべきことなどを御報告いただいたと思います。

この議論の整理は、これからの消費者法を考えるについての正に基盤となるものであって、非常に有益な整理がされたと思います。その点で、この取りまとめまでに至ったことに対して敬意を表します。どうもありがとうございました。

私が個人的に少し気になったことを申し上げたいのですけれども、先ほど委員の方々からも、今後、これがどうなっていくのかということで、まだこれは基本的なところの議論の整理をしただけだということになるのですけれども、むしろ今までの議論との接続ということについて私はちょっと気になるところもありまして、2003年に「21世紀型の消費者政策の在り方について」という報告書が国民生活審議会から出ておりまして、それから20年経ったということであります。このタイトル自体が今回と違って、20年前のものは消費者政策の在り方であって、今回は消費者法の在り方ということで、そこは扱う対象が違っているということでありますが、政策と法というのは関係していることでありますので、20年前の議論との関係で今回の議論がどういう意味を持つのかということに関心があります。

20年前の2003年に先ほどの報告書は出ておりまして、2004年に消費者保護基本法の抜本的な改正がありましたけれども、消費者保護基本法が消費者基本法になったという改正でありますけれども、この消費者基本法も、2003年の消費者政策の在り方についての報告書を踏まえてできているわけでありまして、2003年時点では、市場メカニズムの活用や市場の公正性の確保、それから市場の透明性の確保ということが重点として置かれていて、ただ、もちろん補足的に適合性原則なども入って、そういうものがセットになって消費者基本法に取り込まれたと私は理解していますけれども、そういう議論の流れで言うと、今回、市場という従来大切にしてきたものが、むしろ人間というのでしょうか、先ほどの議論の整理で挙げられていた、人間の限定合理性や認知バイアスというところが消費者の脆弱性ということにつながっていくわけでありますけれども、その脆弱性という問題、それから、これは20年前とは比較にならないほど大きな進展があるデジタルの問題、この2つが今回の議論の整理では大きな柱になっているのではないかと思います。

そういうことで、今回の議論の整理自体は非常に意味があるものであって、今後の議論の展開のための基礎になるものなのですけれども、過去の今までの営みとの関連性ということがやや見えにくいのではないかなという感じを私は受けました。

もちろん今後、例えば消費者の脆弱性ということを取り込んだ意味での法制度の制定や改正というところに具体的に生かされていくということが予想されますけれども、今回の時点だけで言いますと、消費者法の目的というのが消費者の幸福であるということに関して、かぎ括弧付きの幸福だということでして、これは本日の議論の冒頭でも自己決定というものの外にあるということなのか、あるいは自己決定ということと同じ内容のものなのかということで議論があったということでありますけれども、そういうところが今後のこの議論を発展させるためには詰めていく必要があるところだと思います。

そういうことで、従来の議論との接続という点では、私は割と適合性原則というのが重要な概念になってくるのではないかと思いますけれども、そういうことも含めて、今後、検討会が展開されるということであるならば、考えていただければよろしいかと思います。

すみません、私の意見を少し長く言ってしまいましたけれども、今日の議論は委員の皆様の問題意識が展開されていて参考になるものでした。その中でも、私として重要だと思った問題でありますけれども、金銭のやり取りだけでなくて情報や時間を含めて消費者法の展開ということを考えていくというのは非常に重要な視点だと思います。

それから、今回の議論の整理は、消費者法の射程を広げていくという方向性があると思いますが、それについて、やはりバランスというのでしょうか、過剰になるということは避ける必要がある。このことについては議論の整理の中でも十分意識されていることではあるのですけれども、脆弱性ということが3つに整理されて説明されておりますけれども、実際に法的に脆弱性ということを取り込んで、例えばある法律に組み込んでいくようなことになると、なかなか概念として使うのが難しいのではないかと思いまして、3つに分類していただいたもののそれぞれの場面に応じて適正な意味での脆弱性の考え方を示していくことが大事ではないかと思いました。

その他、非常に重要な議論がなされていて、具体的には消費者基本計画の工程表との関係ということも質問がありましたし、そのほか重要な御指摘がありました。そういう点についてもお答えいただきましたけれども、それらを含めて今後の検討に生かしていただけたらと思います。

この議論の整理というのは、社会の変化に合わせて消費者法を理念から見直そうとするものでありまして、その内容を評価するとともに、今後、消費者被害の予防、拡大防止及び救済の観点からも更に検討が深められることを期待しております。

消費者庁におかれましては、お忙しいところ、審議に御協力いただきありがとうございました。

何かありましたら、コメントいただけると有り難いですが、いかがですか。

○消費者庁黒木消費者制度課長 大変様々な観点からいろいろお知恵を頂き、御示唆を頂きましてありがとうございます。今後も様々検討を進めてまいりたいと思います。

ありがとうございました。

○後藤委員長 どうもありがとうございました。

どうぞ御退席ください。

(説明者 退室)


《3. その他》

○後藤委員長 続きまして、その他事項といたしまして、消費者委員会に寄せられた意見等の概要につきまして、事務局から説明をお願いいたします。

○友行参事官 それでは、令和5年7月の1か月間に寄せられました要望書、意見書の一覧でございます。資料はお手元にあるかと思いますが、御覧いただけますでしょうか。

今月は、まず特商法に関する見直しを求める意見が2件ございました。それから2ページ目にまいりますけれども、電力関係についての意見書が1件、参考送付として来ております。また、マイナンバー法を廃止し、健康保険証を存続させることを強く求めますといった内容の意見書も頂きました。

今月の整理としては、最後のところに「その他」としておりますPLオンブズ会議報告会提言でございます。右側の「要望書・意見書等のポイント」のところを見てみますと、インターネットでの取引による製品事故は地球規模で生じており、海外ではデジタルプラットフォーム事業者に賠償責任を命じる判決や、デジタル社会、デジタル化に対応する行政法規の改正・整備、取引商品からの事故に対する損害賠償責任を負う者の範囲を広げる製造物責任法改正案の提案がなされているといった事柄が書かれております。

その次の行のところで、製品安全4法の見直しが検討され、「消費生活用製品の安全確保に向けた検討会報告書」が公表されたという記載があり、以下4か条ほど、この団体として報告会、連絡会で検討された提言が4つ並べられているところでございます。

この「消費生活用製品の安全確保に向けた検討会報告書」について少しだけ補足いたします。令和5年6月末に経済産業省から「消費生活用製品の安全確保に向けた検討会報告書」というのが公表されています。こちらは製品安全4法に関わることにつきまして問題意識を持って検討が始められ、報告書を取りまとめられたものであります。

その問題意識としては、昨今、インターネット取引が増えておりまして、インターネットモールで販売されて、主に海外から輸入された製品において法令に違反したものがあり、それによって重大製品事故が増加しているということが一点。

それからその関連で、子供用製品については大人向け以上の安全性が求められているけれども、海外で製造された安全性が担保されていない玩具などの子供用製品がインターネットを通じて流入しやすくなっている。これが2つ目ということで、主にこの2点について問題意識が持たれ、検討がなされ、取りまとめがされているものであります。

1点目のインターネット取引の拡大ということについては、着目されている論点は、海外から入ってきた製品をどうやってリコールしていくのか、あと、日本の消費者が買うわけですので製品安全4法が適用されるわけですが、その規制をどうやって実効性を持ってかけていくかということが議論されております。

また、子供向けの製品のことについては、現状の法体系の中に子供向け製品という項目を1項目加えて新たな体系としてはどうかということも提案され、議論されております。

今後、この製品安全4法がこの報告書を基にどうなっていくのかということは消費者委員会としても注目していくべき事柄ではないかと考えました。

御報告としては以上です。

○後藤委員長 どうもありがとうございました。

委員の方々から何か御意見等がございましたら、お願いいたします。

木村委員、よろしくお願いします。

○木村委員 木村です。

主婦連合会が提出した、2ページ目にあります改正マイナンバー法の意見書についてなのですけれども、こちらはマイナンバー法についてなのですが、これの本当に言いたいことは、デジタル化に当たって一体何をしたいか、つまりデジタル化の本当の目的は国民の生活が豊かに便利になることだと思うのです。今回、いろいろ拙速なことがありまして、取り残される方が多いということがすごく問題だと思っております。

ですから、きちんと誰も取り残さずに施策を行っていただきたいと思いますので、そこのところは消費者委員会としても是非今後消費者に不利益が起こらないように、豊かな生活を送れるようにフォローしていただければと思います。

以上です。

○後藤委員長 どうもありがとうございました。

ほかにございませんか。

大石委員、よろしくお願いします。

○大石委員 大石です。

今、木村委員がおっしゃいましたように、今日の前半の消費者法の検討会の中でも感じたのですけれども、本当にデジタル化が進んでいて、便利になる、利益を得る消費者がいる一方、本当にスピードが増して、逆に言うと取り残される消費者が増えているということで、もちろん法の検討も必要だと思うのですけれども、そういう消費者をどうやって今後速やかに救済していくかということをもっとスピードを持って考えていかなくてはいけないなというのは今の木村委員のお話を聞いていて思いましたので、一言申し述べました。

それから、最後のところのインターネットの取引ですけれども、確かにこれもデジタル化の恩恵がある一方、これによりいろいろな被害を受ける消費者が増えているということで、逆に海外の様子を見ますと、確かに子供の製品などは日本よりかなり細やかにいろいろな規制がきちんと書かれていて、日本は逆に遅れているなと思うようなこともありますので、是非今回御提案いただいたような内容が進められるように、消費者委員会としても後押しができればなと思います。

以上です。

○後藤委員長 ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。

ありがとうございました。

これらの意見等については、今後の動向を注視するとともに、必要に応じて消費者委員会の調査審議において取り上げることにいたします。


《4. 閉会》

○後藤委員長 本日の議題は以上になります。

最後に、事務局より今後の予定について説明をお願いいたします。

○友行参事官 次回の本会議の日程などにつきましては、決まり次第、委員会ホームページを通してお知らせいたします。

以上です。

○後藤委員長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。お忙しいところ、お集まりいただきましてありがとうございました。

(以上)