第52回 消費者委員会 議事録

日時

2011年4月22日(金)15:00~16:56

場所

消費者委員会大会議室1

出席者

【委員】
 松本委員長、中村委員長代理、池田委員、川戸委員、佐野委員、
 下谷内委員、田島委員、日和佐委員、山口委員
【説明者】
 集団的消費者被害救済制度専門調査会 伊藤座長
 消費者庁 加納企画課企画官
 名古屋文理大学 清水教授
【事務局】
 齋藤審議官、原事務局長

議事次第

1.開会
2.集団的消費者被害救済制度専門調査会の中間的報告について
○説明者: 伊藤眞 集団的消費者被害救済制度専門調査会座長
消費者庁 加納企画課企画官 他
3.健康食品の表示の検討について
○説明者: 清水俊雄 名古屋文理大学教授
4.閉 会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

議事次第 (PDF形式:38KB)
【資料1】 集団的消費者被害救済制度専門調査会の検討状況について(PDF形式:334KB)
【資料2】 「健康食品の表示の検討」~海外の制度と今後の展望・提言~(清水教授提出資料)(PDF形式:275KB)
【参考資料1】 委員間打合せ概要(PDF形式:10KB)
【参考資料2】 特定商取引に関する法律施行令の一部改正について(答申)(PDF形式:78KB)

≪1.開会≫

○原事務局長 時間がまいりましたので、まだ委員でお見えになっていない方がございますけれども、始めさせていただきたいと思います。
本日は、皆様お忙しいところをお集まりいただき、どうもありがとうございました。ただいまから、「消費者委員会(第52回)」の会合を開催いたします。
それでは、委員長、どうぞよろしくお願いいたします。

≪2.集団的消費者被害救済制度専門調査会の中間的報告について≫

○松本委員長 それでは、議題に入ります。
初めに、「集団的消費者被害救済制度専門調査会の中間的報告について」です。集団的消費者被害救済制度専門調査会につきましては、昨年の10月に第1回の会合を開催して以降これまでに9回にわたって御審議をいただいてまいりました。本日は伊藤座長にお越しいただいておりますので、中間的報告といたしまして、これまでの専門調査会の検討状況について御報告をいただき、意見交換を行いたいと思います。なお、消費者庁企画課にも併せて御出席をいただいております。
それでは、伊藤座長から御報告のほど、よろしくお願いいたします。

○伊藤座長 専門調査会の座長をお引き受けしております伊藤でございます。
委員長からお話がございましたし、また、資料1の参考2をご覧になっていただきますと、これまでと今後のスケジュールが掲載されておりますけれども、現在第9回まで終了いたしまして、残すところ第10回~第14回ということになります。これまで、調査会にて検討すべき事項について相当の審議を積み重ねてまいりましたので、この段階で委員会に検討状況を報告申し上げ、御指摘、御注意を踏まえて、後半のとりまとめに向けて審議の再開を予定しているところでございます。
御承知のように、専門調査会の調査審議は、消費者庁において開催いたしました研究会の成果を踏まえまして、そこで訴訟制度に関して示された4つの手続モデル案、これはお手元の資料1の参考3として挙がっているかと思いますが、それを検討の素材として出発したわけであります。
検討の際の視点といたしましては、一方では、集団的消費者被害をできる限り一回の手続で解決することを目指し、他方、被害に基づく請求権の主体でございます個々の消費者の利益を侵害することがないようにという点を配慮いたしまして、このような基本的な2つの視点を踏まえますと、いわゆる二段階型手続と申しますか、一段階目の手続において個々の消費者の請求権の前提となる共通の争点、例えば事業者の行為の違法性があるか、ないかというような点につきまして、裁判所が違法性の有無などを確認して、違法性が認められるという判断がなされた場合には、それを前提としてその後の個々の消費者の権利内容を明らかにし、救済のための措置を講じる。これが二段階目の訴訟手続ないし二段階目の裁判手続を主たる検討の対象として審議を行ってまいりました。
お手元の資料1の参考3でございますと、A1案、A2案、B案、それぞれ考え方の違いはありますが、今、申しました二段階型という点では、これらの3つの考え方がそれに属するわけでございます。したがいまして、先ほど申しましたような基本的な視点を踏まえて、専門調査会におきましては、A案、B案を中心にして調査の審議を行ってまいりました。
ただし、それ以外のC案またはD案についてはどうかということでございますけれども、D案は、個々の消費者からの授権を受けて、その権利の実現を目指す訴訟手続を開始するという、一段階型の手続ということになりますし、C案は、個々の消費者からの授権を受けることなく、勿論、離脱する機会は保障するものの、積極的な意味での授権を前提にしないで、当初から追行主体が消費者全体の請求権の確定や救済を求める一段階型の手続ということになります。一段階型の手続は、二段階型に比較したときに、利点もございます。例えば紛争の一回的解決という意味では、C案がすぐれているという点は確かにあるわけでございます。そこで専門調査会におきましては、二段階型の手続であるA案及びB案を中心にして審議を行ってまいりましたが、同時に、C案やD案が持っている利点をどのように生かすかという点についての配慮も怠らない形での審議を行っております。
二段階型の手続の具体的内容につきましては、手続の追行主体の資格を何らかの形で限定するか。例えば、いわゆる適格消費者団体に限るのか、それともそれ以外の消費者団体、場合によっては消費者個人にも手続の追行主体としての資格を認めるのかというような問題についても審議を行いました。
また、一段階目の手続における判決でありますとか、あるいは二段階目の手続における判決、ないしそれに代わる裁判の形で裁判所の判断を示すことによって、紛争の解決を図ることが本来の姿であることは疑うべくもありませんけれども、それと並んで、ある程度紛争の全体像についての認識が共有され、その解決すべき方向が明らかになった段階で、裁判所が仲立ちをして両当事者の間での和解を成立させることが、紛争の早期解決の視点からも望ましいことは、否定する余地がないところであります。
そこで、二段階目の手続、つまり個々の消費者の権利の内容の確定、あるいはそれに対する救済の段階での和解の規律をどうするか、更に、一段階目の手続、共通争点についての確認を求めるための手続においても、場合によっては個々の消費者の請求権を含めた和解による解決を考えてもいいのではないか、こういうようなことについても併せて検討を行っているわけであります。
資料1の「2.検討状況」ということでございますが、これは今、私が申しましたようなことを個別の項目に分けて書いているものでございます。今まで、集団的消費者被害の実態について、研究会のモデル案、手続追行主体の問題、それから、ただいまの私の説明では立ち入りませんでしたけれども、この手続の対象とすべき事案をどのようなものとして想定するかということ、加えて、二段階型の手続を構想する場合には、一段階目の手続において何を審理の対象として想定するかというようなことについて審議を行ってまいりました。
「通知・公告」は、B案のようないわゆるオプト・アウト型では必須のものになりますが、権利行使の意思を持っている消費者に参加してもらう、いわゆるオプト・イン型であるA1ないしA2案の場合であっても、なるべく多くの消費者に二段階目の手続に入ってきてもらうことが、集団的な権利の救済という意味でも、また、責任があるとされた事業者の利益、つまり紛争をできる限り一回的に解決して、後々、更に紛争が再発したりすることを防ぎ、それに対して対応する負担を減少させる、という意味でも望ましいわけでございます。そのために、どのように個別の消費者に対してそういう裁判手続が係属していることを知らせるか、というのが通知・公告の問題であります。
また、二段階目の手続は、事業者に責任があることが第一段階の裁判によりまして明らかにされたことが前提になっておりますが、そうだとすると、個別の消費者の権利の内容等についてもできる限り簡易・迅速にそれを確定し、確定された権利に対しては救済を与えることが望ましい、そのための手続構造としてどのような制度設計をすべきかということがございます。
和解については、先ほど申し上げたとおりであります。
更に、管轄及び手数料についてでございます。やや技術的な問題になりますけれども、手続追行主体の資格をどのような形で限定するのか、しないのかという問題とかかわっておりますが、仮に限定するとした場合でも、ある具体的な事件について複数の手続追行主体が訴えを提起する可能性がございます。そのときに、特定の裁判所が集中的に事件を取り扱うような規律を設けるのか。それとも、複数の裁判所が事件を取り扱う可能性を開いておくのかというような問題、これも、消費者及び事業者の双方にとって重要な利害関係がある問題ですので、この辺りについても議論をしているところであります。
訴えを提起するに際して国庫に納付することも、算定の方式によっては、事案の類型に応じてかなりの違いが生じる可能性があります。その金額が合理的範囲を超えることになりますと、この手続の利用を抑止するといいますか、利用に対して抑制的な効果を働かせるおそれがございますので、この辺りについても十分検討しなければいけないというのが、これまで議論をしてきたところでございます。
ただいま要旨を申しましたけれども、以上申し上げた事項について、一わたり議論をいたしました。そこで提出された意見の概要は、資料1の参考4に出ておりますが、こういったものを御参照いただければ、私がただいま御報告申し上げたような内容について、より正確に御理解いただけるかと思います。
そこで、冒頭にも申し上げましたけれども、第10回以降の調査審議におきましては、これまでの調査審議を踏まえまして、二段階型の訴訟手続を中心にしてその具体的な内容を更に詰めて検討して、これまでの審議において考え方が分かれております論点につきまして整理を行った上で、調査会としての意見をとりまとめて委員会に御報告できればと考えております。
以上でございます。

○松本委員長 ありがとうございました。
それでは、ただいまの御説明につきまして、どうぞ御意見、御質問がございましたら、お出しください。
佐野委員、どうぞ。

○佐野委員 どうも御説明ありがとうございました。非常に難しくて、ついていくのが大変なのですが、一つお伺いしたいのは、今までの御検討の中で、AからD案まで表になって「手続モデルの比較検討」とありますが、例えば具体的にA案、B案、どんな集団的被害の訴訟を設定されながらお考えになってきたのか。もしわかったら、簡単で結構ですので教えてください。
それから、御検討される中で、例えば消費者が国や自治体を訴えるときもありますね。そういうことも想定されているのか、事業者だけなのか。その辺も御検討なさったのかどうかをお聞きしたい。
それと、多分いろいろな案件によってかかる日数は違うと思いますけれども、例えばA案で給付判決まで行ったとき、どのくらいの期間がかかるのか。もしおわかりだったら教えていただきたい。
最後に一つ、意見ですが、追行主体についていろいろ御検討されているようですけれども、今のところ適格消費者団体というのは9つぐらいです。やはり少ないと思うので、ほかの団体にも権利をきちんと付与するという形で御検討いただきたいなと思います。
以上です。

○伊藤座長 御質問ありがとうございました。私の理解している限りで、従来の調査会の議論の内容を踏まえて、ただいまの委員からの御質問にお答えしたいと思います。
まず、どういう事案といいますか、あるいは事件を想定しているのかということですが、実はこれが大変難しいところでございまして、一つの典型的なものといたしましては、資料1の参考5にございます学納金の事案です。入学金等を返還しないという条項が消費者契約法などに照らして有効か、無効か。もし無効であれば、それを払い込んだ人に返さなければいけないというのが、比較的多数の消費者といいますか、被害者といいますか、存在していて、かつ、争点が(争点というのは、返還しないという取決めの効力ということですが)有効か無効かというのが、共通の前提になっているという紛争類型を想定して議論しています。
このような事件や同じく消費者契約法の規定に反するかどうかが争われる事例が私どもが構想している手続が当てはまる典型的なものであること自体については、専門調査会でも余り異論はないと思います。ただ、それを超えて、こういうものだけでなく、製造物の欠陥に起因する事件など、どこまで対象事案を拡大するのかにつきましては、まだ十分議論が煮詰まっておりません。それが現状でございます。
それから、国や自治体に関しては、そもそもそういうものがあり得るかどうかという話は別にして、私ども専門調査会では、その種の当事者を被告として想定する紛争については、具体的な議論はしておりません。
期間の点でございますけれども、資料1の参考3のA1案で考えてみましたときに、第一段階目で共通の争点について訴訟手続による審理があり、事業者のある行為について、違法性を認める判断が出るといたします。その後、その事業者の行為にかかわった消費者に対して通知・公告をして、これから二段階目の手続を始めますから、そこに入ってきてくださいというようなことを知らせて、二段階目の手続が始まって、最終的に裁判所が、参加した消費者のために被害の救済を命じる裁判をするところまで行くわけです。これが標準的に言ってどれだけの期間がかかるかを申し上げるのは、容易でないと存じます。
と申しますのは、参考資料の真ん中よりちょっと左のところですが、一段階目の判決というのがございます。この判決が、例えば地方裁判所で1年程度で出たとしても、それに対して、原告の側であれ被告の側であれ、それは不服だから高等裁判所、場合によっては最高裁判所の判断を求めたいということになりますと、その段階で相当の時間を要することになります。それが最終的に決まってから第二段階目の手続に移るということになりますと、更に時間を要することになります。
とはいえ、第一段階目の手続において事業者の責任の有無が確定していないときに、第二段階目の手続を始めてしまうこともまた、これはこれで問題がありまして、その辺りは私ども非常に悩んでいるところであります。先ほど第一段階目の手続における和解ということを申しましたのも、紛争の内容や違法性についてのある程度の共通の認識ができたとすれば、和解によって迅速な権利の実現、救済ができるので、そういった意味でも和解の可能性を検討しなければならないという委員の共通認識も、このようなことを背景にしております。
それから、手続の追行主体ですが、ただいま委員がおっしゃられましたように、一方では、責任を持って二段階目の手続までやってもらうには、やはり適格消費者団体に限るべきであろうという意見も有力です。他方、御指摘がございましたように、適格消費者団体の数も限られていますし、場合によっては、より適切な団体があり得るかもしれないので、適格消費者団体に限定すべきではないという意見も有力であります。
ただ、後者の意見に対しては、その団体がその訴訟を追行するのに本当に適切な団体なのかということをだれが審査するのか。訴訟手続の初期の段階で裁判所がそれを審査できるのかというような問題があるところで、今後、その辺りは十分議論をしていきたいと考えております。
以上でございます。

○松本委員長 池田委員、どうぞ。

○池田委員 池田でございます。担当委員として、大変専門的な議論の中に事業者ということで法律の素人が入ってきていますけれども、伊藤座長が大変わかりやすく毎回解説していただけるので、何とかついていっております。ありがとうございます。まず冒頭、感謝申し上げたいと思います。
私も、今、佐野委員が言われた3つのことで少し意見を言わせていただきたいのですけれども、この制度については、多数の消費者の少額の被害を司法的な訴訟で解決するということが最大の目的であろうと思います。本調査会では、我々あるいはみんなの議論をわかりやすくするために、今、伊藤先生がおっしゃったように、あるいは加納さん方の努力というのは、わかりやすい具体的な事例で議論を始めるのですけれども、専門の先生がたくさんいらっしゃいますから、具体的な事例を外れて多方面に様々な意見が出て議論が多岐にわたっていく。そうすると、私どもにとっては全く頭の中で整理がつかないということになっているわけです。
今、二段階型で議論を進めていますけれども、実際は、冒頭言われたように4つの仕組みもそれぞれメリットがあると思うのです。そうすると、今後の会合においては、もっと事例を具体的にしていかないと議論が収れんしていかないのではないか、ということを私は強く思っております。具体的な事例になってくれば、手続追行主体の問題や通知・公告の問題というのもある程度方向性が出てくるのではないかと私自身は考えています。
それから、一体的といいますか、一回的といいますか、早期の解決というのは、やはり一番に目指さないとこの制度を検討する意味はないと思いますし、それは消費者にとっても事業者にとっても最大のメリットだと思いますので、それを制度の中で保障できるかというのも大事な視点だと思います。
今、佐野さんが言われました手続追行主体の問題は、これは私も毎回話していますけれども、弁護士がついた個人でもやれるという議論も一部ありますけれども、消費者の信頼を得る、あるいは、多数の消費者に賠償金を分配することも考えなければならないので、対象を広げすぎるのはなかなか困難ではないだろうか。やはりある程度の信頼性のおける組織のようなものが必要になってくる。それが今は適格消費者団体ということになっていますけれども、前回も言いましたが、今、公益社団法人も出てきていますので、そういう新しい認定制度をつくるような、国なり、信頼性のおける団体というようにある程度考えていかないと、余りにも手続追行主体を広げると、また議論が収れんしないということになっていくのではないか。そのように私自身は毎回出席して感じております。

○松本委員長 御意見ということで、よろしいですか。

○池田委員 はい。

○松本委員長 日和佐委員、どうぞ。

○日和佐委員 御説明をいただきましたように、消費者被害に遭った個人個人で訴訟をして解決していくというのはなかなか大変なわけですから、このように類型的な形で集団的に解決ができる方法が確立することは、大変いいことというか、大変うれしいというように期待をしているのですけれども、ただ、本当に仕組みは難しいですね。消費者が被害に遭うときは本当に簡単に被害に遭ってしまうのですけれども、そこからいざ救済ということになると、簡易な形での救済というのがこんなにも難しいのかなというのが、私の素朴なといいますか、感想であります。ですから、よくわかりやすい仕組みで、実効可能性のある仕組みを是非お考えいただきたいというのが一つ。
それと、集団的消費者被害といいましても、被害額が大きいケースもあれば小さいケースもあるわけで、特に小さいケースということになりますと、一人の被害額が本当に少ない。100円にも満たないような、いわゆる不当表示等の問題もあると思います。なおかつ、これは被害者を特定できないということもあるわけです。ですけれども、一方では不当表示によって得た利益が事業者のところに蓄積され、なおかつそれがはく奪されないという、大変矛盾した問題が一つあると思います。その問題についても、どう解決していけばいいのかということについて、是非お考えをいただければ大変うれしいというように思います。

○松本委員長 伊藤座長。

○伊藤座長 委員がおっしゃった前半の方でございますが、確かに参考3に書いてある「手続モデルの比較検討」をご覧になりますと、非常に複雑な印象がございますがけれども、これは、A1案からD案までずらっと比較対照して書いているものですから、わかりにくいようなことになっておりますが、最終的に専門調査会の意見が集約できる段階になりましたら、手続を始めにあたって、原告は裁判所にどのような事項について判断をもとめるのか、手続のどの段階でどういう判断を裁判所が示さなければいけないのか、判断を消費者の権利の救済にどうつなげていくのかというのを、先ほど池田委員もおっしゃいましたが、具体的な事例に即して明快な形でお示しすることができればと思っております。
それから、2番目におっしゃったことについても、私どもとしても問題意識を持っておりまして、特に少額の被害の場合には、被害者自身が、自分の権利がどういう内容のものであるのかについての認識が十分でない。そうなると、いくらこういう手続をつくっても、そこに参加してもらうこと自体が実際上は難しいという問題があるように伺っております。そこで、例えば二段階目の手続に入るに当たりましては、事業者から、その事件に関して、取引の相手である消費者を特定できる資料を提供してもらう。その上でそれらの人に対して参加を促す通知を行って、なるべく多くの被害者の方に手続に参加してきてもらい、全体として紛争を解決して、事業者側にもそれ以上に負担を残さないという仕組みを考えられないか、こういったことを、現在、検討している段階でございます。

○松本委員長 中村委員、どうぞ。

○中村委員長代理 大変な御苦労なのはよくわかりますけれども、消費者被害の事件というのは非常に多様です。学納金の例ならA案かB案で処理できるかもしれないけれども、2、3日下痢をした大量の食中毒のような案件はこれでいけるかというと、私は非常に難しいような気がします。そういうのはむしろ、CとかDを使った方がいい場合もあるのではないかと思います。ですから、こういうモデルを制度化するときに、法律上はAかBかCかDかのどれか1つでなければいけないというふうに一回法制化されますと、本当はCとかDが適当だったと思われるような事案が落ちこぼれる。将来の法改正があればよろしいのでしょうけれども、今回せっかくつくるのですから、多様な消費者被害に対応できるような複数の手続があってもいいのではないかと思います。
今、日本ではまだ起こっておりませんけれども、アメリカでは、トヨタのリコール問題があったために、リコールがかかっていないトヨタ車も中古車価格が一斉に下がった。その中古車価格が下がった分が損害だからというので、大量のアメリカの国民が賠償訴訟を起こしているわけです。例えばそういうものも、今後、日本でも起こるかもしれない。そういうものにも対応できるような仕組みを、あらかじめ想定してつくっておくのも必要なのではないかというふうに思いますので、できるだけ選択肢の多い制度構築を考えていただきたい。これが私の意見ですけれども、それについて伊藤先生の御意見がございましたら、教えてください。

○松本委員長 どうぞ。

○伊藤座長 消費者被害と申しましても、多種多様なものがあるということ、そして、私どもが中心として議論しておりますA案とかB案に適するものもあるけれども、そうでないものもあるという御指摘は、そのとおりかと思います。ただ、A案ないしD案と書いておりますが、D案に関しては、案とは書いていますが、現行制度の下でも同様のことができるわけでございます。権利の主体であると自分を認識している人が集まって、そこで一緒に訴訟をするとか、あるいは、その中でだれかを選んで訴訟をやってもらうというD案的な考え方は、現在の民事訴訟手続にもありますし、また、私どもの意見がまとまってそれに基づく制度が実現した段階でも、D案的な手続がもはや許されなくなることは全くあり得ないことだと思います。そういう意味では併存する結果になると思います。
ただ、それとの対比で言いますと、C案、いわゆるクラスアクションと呼ばれる制度に近いものですが、これも、冒頭の説明で申しましたように、紛争の一挙的な解決という意味では利点はあるのですが、ただ、訴訟追行主体が、自らの権利でない他の消費者の権利を授権を得ないままに訴訟を追行するという点が、我が国の制度として実現するための障壁というのが多いと受けとめざるを得ません。そうだとすると、仮にA1案とかA2案をとる場合でありましても、先ほど日和佐委員に対するお答えとして若干の発言をいたしましたけれども、なるべくC案の利点を生かせるような形で制度設計をするのが合理的なのではないか。私自身の意見も若干入っておりますけれども、専門調査会における委員の発言でもそういったことが言われているように思います。
以上でございます。

○松本委員長 今の中村委員の御質問と絡むのですが、確かに人身被害の場合は相当事件の個別性が大きい。他方で、約款の有効・無効が決まればもう解決したようなケースは、二段階案が合理的だというのはよくわかるのですが、その間にいわば悪質勧誘商法的なものがあって、特に投資勧誘の事件などは集団訴訟がよく行われます。
そういう場合に、契約が無効だという主張をする場合と、不法行為だからという主張をする場合と、あるいは、両方併せてやる場合もございます。どちらかが通ればお金は返ってくるということで、契約が無効だ、あるいは特定の条項が無効だという争い方でやる部分については、先ほどの約款のケースと同じように二段階にのってくるというのは理解できるのですが、不法行為の方の部分、この投資スキームはそもそも違法だという主張をして、したがって不法行為だから損害賠償だというのが二段階になじむのかどうかという辺りについて、先生はどのようなお考えでしょうか。

○伊藤座長 そこは非常に難しいところで、加納さんともときどき個別的に意見交換をしているところですが、もしお差し支えなければ加納さんから説明を差し上げてもよろしいでしょうか。

○消費者庁加納企画課企画官 今の松本先生の御指摘のところは非常に難しい問題もあると思いますけれども、ただ、典型的には法律行為の有効・無効というのがのりやすいというふうには思いますが、そうでない違法性というものについても、場合によってはあり得るのではないか。共通争点としてそれが非常にはっきりしている。かつ、それがその紛争の解決にとって非常に重要な位置を占めているということもあると思いますので、それは十分検討の余地はあると今の時点では思っております。

○松本委員長 山口委員、どうぞ。

○山口委員 どうもありがとうございます。この制度、とにかく消費者庁・消費者委員会ができるにあたっての最大の課題の制度だと思いますので、是非実現のために私どもとしても全力で御協力申し上げたいと思います。
特に、先ほど日和佐委員から出ました、不当表示などでやり得を許さないということについては、経済的不利益賦課制度、いわゆる課徴金制度で、行政的に利得をはく奪するという別の制度で行くしかないというところはほぼ全体の合意になっていると思います。それから、悪質商法で違法な収益を事業者が隠そうとするときに、これを止めるという保全の制度も、今日、御議論いただいた制度の外側で別の形でやるしかないということもほぼ合意ができていると思います。これは現実に消費者庁の別のチームで検討中なので、是非そこに期待したいと思うのです。
これはむしろ伊藤先生よりも消費者庁の方に伺うことになるかと思いますが、私自身もこの8月4日が最後の期日になっていますので、この辺でとりまとめ案を是非おまとめいただきたい。その上で、附帯決議なり附則などでは、来年の通常国会には法案が上程ということが一つの目標になっているかと思います。私は、大きな争点として3つほど、訴訟主体をどうするのかということと、先ほど中村委員が言ったように、対象の訴訟類型を、いわゆる損害の個別性もあるような、そういうPLや人身被害等も含ませるのかどうか。もう一つは、C案に適合するようないわゆる総額訴訟、被害者が1,000人なら1,000人、被害が1人100万円というような形ですっきりしている場合には、総額判決を出せるような、そういう特殊な事案はC案で行くとか、原則はAかBでとか、その辺のABとCとのつなぎ方はどういうふうにするのか。これが一番難しいし、実際、最終的なとりまとめができた後の法案作成作業も本当に大変だろうなと、消費者庁の担当に心から同情申し上げるとともに、期待も厚くするわけです。この争点について伊藤先生にお聞きしたいのは、私自身も悩ましいこの3つの問題について、小さく生んで大きく育てるというところから、もういいではないか、適格消費者団体に絞ればいいではないか、あるいは、訴訟の対象もPLとか人身被害もとりあえず今回は御遠慮いただこうと。もうC案はなし、とかいうことで狭く小さくやってしまえば、いろんなところから批判は出ると思いますが、実現可能性がスッと行くかと思うのです。一つひとつを広げていこうとすると、なかなかぎくしゃくぎくしゃくで難しいところがあると思うのです。この辺、確実に生み出すということと、せっかくつくるならいいものをつくろうよというところを、伊藤先生としてはどういうふうにお考えになっているのか。
それから、消費者庁の方に伺いたいのは、8月4日にとりまとめができた後、決意表明として、来年なりに法案上程ができるのかどうか、その辺の目途についてお聞かせいただければと思います。

○松本委員長 どうぞ。

○消費者庁加納企画課企画官 いろいろと御指摘いただきました点ですけれども、まず、課徴金の問題であるとか、財産保全の問題というのは、私どもとしてはそれはきちんと受けとめなければならないというふうに思っておりまして、今、先生が御指摘のような別途の検討チームというのをやっております。そちらの作業をできる限り加速して、この集合訴訟の議論にも追いつけるようにしたいというふうに、そこは全力でやっていきたいと思っております。
法案提出時期等につきましては、現時点では私の方から何とも言えないところでありますので、例えば来年必ずということは、現時点ではまだ何とも言えませんとしか申し上げられませんけれども、8月のとりまとめをどこまでできるかというところが一つのポイントでありまして、とりまとめてからも、更にいろいろと詰めなければいけない点はたくさん出てくるだろうと思っておりますので、そういう中で法制化作業をできるだけ頑張っていくことというふうに思います。
それから、いわゆる総額判決の問題につきましては、これは、手続論というよりは実体法の問題が非常に大きくて、そもそも損害とは何かとか、先生の今の御指摘だと、要は消費者全体でトータルでこれだけの金額があるはずだということで、これだけ取るということだと思います。ただ、被害者は、100人なら100人、1,000人なら1,000人いるからそうだというふうになっているはずでありまして、そうしますと、それは個々の消費者の個別の損害額とどう関係しているのですか、というふうな問題が必ず出てくる。そうすると極端に言えば、個々の消費者の損害額はわからなくてもいいけれども、損害賠償請求権が発生しているんだという損害賠償請求訴訟というふうになると思いますが、そういう訴訟は残念ながら、今、日本にはない。日本の損害賠償請求制度はそうではないということになっていると思いますので、単なる手続法の問題を超えた、もっと大きな話になってしまう。
そこは残念ながら、正直なところ、私どももまだそこに対する回答は持ち合わせておりませんし、責任を転嫁するわけではないですけれども、学界、その他における議論の中でもそこまでの議論の深化は多分ないのではないか。日弁連でも、残念ながらそこまでの議論の深化はないのではないかというふうに正直に思わざるを得ませんので、一気にというのは難しいところが多いと言わざるを得ないと思います。

○伊藤座長 私からも一言申し上げます。ただいま山口委員の御指摘もございましたし、先ほど中村委員長代理からの御指摘もございましたが、紛争や被害の多様性を考えたときに、必ずしも一つの案に集約して、それに基づいて立法するということでなくてもいいのではないかという御指摘、おっしゃるとおりかと思います。ただ、先ほどの繰り返しになりますが、D案の考え方は、すでに現行制度の中でも実現可能なものと思われます。そうすると、主としてA案とC案を念頭において検討することになりますが、これは私自身の考えというよりは、専門調査会におきまして、国民生活センターの野々山理事長から御紹介あるいは提案のあったお考えですが、一応A案の手続を基本にするけれども、事案の性質、手続の成り行きによっては、それをC案的な手続に移行させる考え方もあり得るのではないか、そういう御意見がございました。
確かにおっしゃられることは私も理解できますし、他の委員の方々も理解を示しておられると思います。その考え方自体を制度化することについては、いろいろ難しい問題があるかと思いますし、また山口委員からも御発言いただいて、制度の構想を固めていかなければならないかと思いますが、常にそういう発想を忘れてはいけないので、C案が持っているような利点を、A案的な手続の中でも生かせる制度設計をということは、恐らく専門調査会の多くの委員の方の共通の認識ではないかと思います。

○松本委員長 下谷内委員、どうぞ。

○下谷内委員 御報告ありがとうございました。遅れまして申し訳ありません。
私ども各地の消費生活センターで相談している者にとりましては、非常に救済が難しいものがたくさんございます。少額多数被害というものは非常に多くありまして、今まで、それを裁判にするというのは裁判費用もかかるし、なかなか難しいというところがありました。ですから、今回、このような集団的消費者被害救済制度の専門調査会がつくられまして、こういう検討をされたことに対しては非常にありがたいと思っております。
そういたしますと、少額多数被害の消費者の方たちが、この裁判が、A案であろうが、C案であろうが、それの重なったものであろうが、自分がどの位置にいるかということはなかなかわからないのではないかと思います。やはりなるべく簡略な構造をつくっていただければいいのではないかと思っております。
ただ、「簡略な」になりますと、今度は追行主体の問題が出てまいりますので、追行主体につきましても簡略というのは、非常に問題があるのではないかなと思います。よくありますのは、私も何度か申し上げておりますが、別なところからそういう団体をつくりまして、別な判決を先にとってしまわれるということもなきにしもあらずなこともありますので、できるだけ追行主体につきましてはある程度の厳格性を持ってやっていただければいいのではないかと思っております。ただ、余りにも厳格なのは参加が難しいかと思いますが、現在の適格団体の認定につきましても非常に厳格なところがございます。そのくらい厳格性を持ったものが必要なのではないかというふうに思います。そうすることによって、被害を受けられた消費者の方々も安心して参加できるのではないだろうかと思っております。
先ほど来、座長の先生もおっしゃっていらっしゃいますように、現在、ほかに全く訴訟制度がないというのであればあれですが、そうではなく、いろんな形で訴訟ができることになっておりますから、集団的消費者被害救済制度については、ある程度のかたまりのような形、小さくてもできるのではないかなと思っております。要は生命・身体にかかわるものというのは非常に難しゅうございますので、まず最初は財産的被害の方から入っていく形のものを提案したいと思っております。いつもそれしか言っておりませんけれども、そのように考えて、手続追行主体もそのような考え方で、現在の適格団体も約款上の問題ばかり扱っておりますので、そのような形になっておりますが、できれば適格団体のようなもので追行主体が認定できるようにしていただけるとよろしいのではないかというふうに思います。
ただ、理事会の構成が非常に難しいものですので、できれば理事会では、今、適格団体は理事会の全員の過半数をもって成立するというふうになっておりますので、できればそこのところは「出席者の」というような形で、変更していただくことも御検討いただければいいのではないかというふうに思っております。ありがとうございました。

○松本委員長 御意見だということですね。

○下谷内委員 はい。

○松本委員長 わかりました。ほかにございませんか。
どうぞ。

○佐野委員 今の下谷内委員の御意見だと、要するに契約に特化していくような形ですけれども、いわゆる健康被害とか、環境とか、薬害とか、いろいろなものがありますけれども、そちらの方は対象外になるのですか。

○松本委員長 それは中村委員とのやり取りでかなり出てきたと思いますが、恐らく最初から対象外としているわけではないけれども、制度設計をしていく中から、Aタイプだと入りきれないものは当然出てくるだろうということで、それについては別途、被害救済を迅速に進められるような、従来の訴訟に加える何らかの手立て等についても御検討いただけるという御回答だったと思います。

○佐野委員 わかりました。それと、最初に質問しましたが、自治体、国なども対象に入るのか、今後検討されるのか。それとも、今のところ検討されていなくても、ここに当てはめればやれるということなのか。それとも今までのような形でやれというのか、その辺り、もし何か御意見がありましたらお聞かせください。

○消費者庁加納企画課企画官 今のところは、行政が対象から外れるというふうにはなっておりません。典型的な事案として、悪質商法事案であるとか、約款とか、そういうのを検討していますが、国は悪質事案というのは余りやっていないものですから、そういうのを検討していないというだけでありまして、場合によってはあるのではないかと思います。
少し議論がずれて恐縮ですけれども、例えば「父権訴訟」という言葉があります。国が主体となって何かするというような制度をつくる場合には、国が国を訴えるという構造になりますから、理屈の上で難しいというような意見とか御指摘がありますけれども、そうではなく、例えば適格団体のような場合は国ではありませんので、そこは少なくともそういう問題はないというふうに思います。

○松本委員長 実際に国を相手に集団訴訟をやっているケースは、例えば薬害において、国が当該医薬品の製造承認をしたことが違法だ、国家賠償責任だという話ですから、これは薬害訴訟そのものが例えばA案になじむのかというところをクリアーしないと、その次のステップになります。薬害訴訟は入らないということであれば、恐らく国賠訴訟も入らないということになる。あるいは取引被害でも、金融庁がこういう業者に営業の許可を与えたから被害が出たんだという趣旨の訴訟が過去にありました。これも不法行為の問題になりますから、不当勧誘、悪質商法、不法行為の集団訴訟がこの制度にのってくれば、国もそれを助長したんだということで論理的には国賠訴訟ものってくることになるのではないかと思いますから、その前の段階の、どういうタイプの被害についてまず事業者を訴えられるのかというところを、先に議論していただくのが順番ではないかと思います。
よろしいでしょうか。
それでは、伊藤座長におかれましては、引き続き、専門調査会における御審議をどうぞよろしくお願い申し上げます。本日は、お忙しい中を御協力ありがとうございました。

≪3.健康食品の表示の検討について≫

○松本委員長 続きまして、「健康食品の表示の検討について」です。健康食品の表示の検討につきましては、消費者委員会においてこれまで5回にわたって関係団体や有識者よりヒアリングを行っているところでございますが、本日は、清水俊雄名古屋文理大学教授においでいただいておりますので、健康食品の表示に関する海外の制度や今後の展望等について御説明をいただき、併せて議論を行いたいと思います。
それでは、御説明をお願いいたします。

○名古屋文理大学清水教授 それでは、資料2の「健康食品の表示の検討~海外の制度と今後の展望・提言~」ということでお話をさせていただきたいと思います。
今日の話は、まず海外との比較という意味で、日本の今の立ち位置を背景というところでお話しさせていただいて、次に海外制度の現状、そして最後に、今後の展望・提言につなげたいと思います。
まず最初に、背景でありますけれども、ちょっと古い歴史になりますが、この分野の研究開発につきましては、当時の文部省が特定研究プロジェクトとして、世界で初めて「機能性食品」という言葉を1984年に定義いたしました。これが「体調調節機能を有する食品」というもので、これを国家プロジェクトとして約10年にわたって総合的に研究いたしました。その結果、多くの食品成分に機能が見出されたということがまずあります。
次に、健康表示に関してです。このプロジェクトで食品が持っている健康の機能が明らかになりました。これらの研究の結果も含めて、消費者は健康に対していろいろな情報を知りたがっている、知る権利があるということです。企業の方からすると製品の差別化をするという意味で、健康に関する表示を中心とする情報が非常に重要であったということがあります。
それに対して法律的には、何度もお話がありましたように薬事法という法律があって、「身体の構造と機能に影響を及ぼすことが目的とされている物」は医薬品であるとされています。医薬品として許可されていないものにこのような表示をすれば、薬事法違反ということになるわけです。皆さん方考えていただければおわかりのように、我々の骨とか筋肉というのは決して医薬品を毎日摂っているからできているわけではなく、毎日の食事によって筋肉や骨ができているわけです。脳が機能しているのも、皆さん方がお昼に食べた炭水化物のグルコースが脳の機能を果たしているわけで、法律とサイエンスのギャップがここにあるということです。新たな表示の制度が必要ということで、食品の機能を個別に評価して、そして許可をするという特定保健用食品という制度が、1991年にできました。これは世界で初めての個別評価の制度です。ですから、研究開発と健康表示の制度という意味では日本が世界の先駆けであるというのがこの分野の前提ということで、日本の立ち位置ということになります。
では、海外の状況について、それぞれの国ごとにお話をしたいと思います。まず、EUですけれども、EUは「フードサプリメント指令」という制度が2002年にできております。フードサプリメントというのは何かというと、通常の食事で不足する栄養素を補う目的で、濃縮された栄養素を含む医薬品的な錠剤・カプセルなどの食品ということで、現在、ビタミンとミネラルについて上限値、下限値、安全上の注意喚起表示というのが定められております。
ここで注意していただきたいのは、この制度というのは健康表示についての規定はなく、次にお話しする「栄養・健康表示法」によって健康表示は定められております。現在、この法律・制度の対象成分をビタミン、ミネラル以外に拡大していこうということで、植物成分についての検討がされているわけですけれども、これにつきましては、安全性をどう評価するのかという評価の方法と、問題のある植物成分は何を優先的に安全上の評価をすべきかという内容が、2008年に公表されております。植物成分についてはEUの加盟国は、例えばフランスではPositive listがあり、イギリスやスウェーデン、オランダではNegative listがあり、両方があるのがオーストリア、ベルギー、デンマークということで、植物成分については、現状、統一されていないという状況であります。
それ以外の成分、アミノ酸、必須脂肪酸、それ以外の天然物の抽出物について、拡大は、検討事項にはなっておりますけれども、実施は未定ということになっております。
それでは、食品の健康表示というのがどういう制度がEUにはあるかということですが、これはできたのは2007年であります。4つの表示が健康表示として定められております。まず1つが機能表示(Function claim)というものですけれども、体の成長、機能に関連したもの、それから心理・行動に関係したもの、体重調節に関連したものです。これらを機能表示と定めるということが法律に書いてある。そのうち、既に確立し、異議のない科学的根拠に基づく健康表示を一般機能表示、そして、新規の科学的実証が必要なものが新規機能表示、この2つに分けるということであります。それと疾病リスク低減表示、子どもの健康に関する表示、この4つのカテゴリーに分けて定められております。
現在、一般機能表示といいますのは、2008年から2009年にかけて加盟各国を通して申請が行われ、それがまとめられて、今、約4,400あります。4,400の表示の審査をEuropean Food Safety Authority(EFSA)が、現在、実施しております。それ以外の新規機能表示、疾病リスク低減表示、子どもの健康関連表示につきましては、申請ごとに一定の期間内にEFSAが科学的根拠を評価するということになっております。
ただし、現在実施されていますのは科学的根拠の評価までで、実際にEUの中で定められた健康表示、許可された健康表示というのはまだ公表されておりません。最終的な健康表示の許可は、EUが現在審議中という段階であります。
次はアメリカですけれども、アメリカは1990年に「ヘルスクレーム」の制度を、栄養表示教育法で設立し、FDAがこれを規格基準として定めるというものであります。ここでちょっと注意していただきたいのは、アメリカのヘルスクレームはCodexやヨーロッパ等と異なった定義になっております。アメリカのヘルスクレームは、栄養成分と健康との関係、一般に国際的に使われている言葉で言いますと、疾病リスク低減に非常に近いものになっております。例えば、カルシウムと骨粗鬆症との関係を1990年に規格として定めております。
次の「ダイエタリーサプリメント健康教育法」、これは94年に定められております。これは、構造・機能表示(Structure and function claim)といいますけれども、例えばこれを維持する、サポートする、調節するというような言葉を使って表示ができる制度であります。ただし、この中に、病気を診断、治療、予防、または、病気の指標がダイレクトにつながるような指標は入れてはいけないという規定があります。
成分に関しましては、ビタミン、ミネラル、ハーブ、植物成分、酵素、器官組織、代謝物など、非常に広範囲の成分が定められております。この制度が定められた後、新しく出てきた新規成分は、New Dietary IngredientとしてFDAに届け出て安全性の審査をすることになっております。基本的にはこれはダイエタリーサプリメントですので、形状は錠剤・カプセルということです。
この法律の特徴的なことは、構造・機能表示はFDAに通知するだけで表示ができるというものであります。FDAは一応通知を受けて、これが医薬品の病気を治療したり、予防する表示でないということだけは確認しますが、構造・機能表示の内容に科学的根拠があるかどうか、有効性ついての評価はしないというのがこの法律の定める手続の進め方であります。
次に中国ですけれども、中国は、保健食品という制度を96年に日本の特定保健用食品を参考にしてつくっております。2005年にかなり大幅に改定しております。その内容について簡単にお話しいたしますと、定義としては「特定の保健効能を有する食品」、「ビタミン・ミネラルの補充を目的とする食品」の2つあります。このカテゴリーの分け方は、日本の特保と栄養機能食品と似ているということになります。
健康表示の審査方法としましては、既に担当の行政機関が健康表示を食品に認めていい、そのためにはこういう評価法があるという健康表示につきましては、関連資料とサンプルを提出すれば行政機関が評価をしてくれます。それ以外の新しいものについては、申請者が動物・ヒト試験を実施して機能を確認後、資料を提出して、更に行政機関が評価をするということになっております。
成分としましては、食用とされるもの、及び一般食品の生産に使用される原料や副材料ということになっておりまして、それ以外のものについては、安全性の試験の結果を提出しなければならないということです。形状としては、錠剤・カプセルは認められるが、舌下錠や噴霧剤は認められない。これも特保と類似した内容になっております。
次が韓国ですけれども、韓国は、健康機能食品という制度を2004年につくっております。これは、日本の特保とアメリカのダイエタリーサプリメントと、後でお話ししますCodexをうまく取り入れてつくった制度であります。表示の制度としては、規格基準としてビタミン、ミネラル、それに加えまして、韓国で従来から使われてきた朝鮮人参とか、スッポンのような健康補助食品を、規格を定めて規格告示型ということで表示ができるようになっています。それ以外の個別の製品ごとに評価をして認定する個別認定型というものがあります。これも大きな枠としては、日本の栄養機能食品と特保と類似しているということであります。
形状につきましては、日本の制度と逆になっておりまして、2004年にできたときは、錠剤・カプセルに限定する、一般のコンベンショナルな食品の形態は認めないということでありましたけれども、2008年には、対象食品を「製造・加工した食品」に拡大し、コンベンショナルフードの形状も認めるということになっております。
次に、オーストラリア、ニュージーランドですけれども、サプリメントに関して両国で異なる制度があります。ニュージーランドは食品法の中に定められております。一方、オーストラリアは医薬品法の下にあります。問題なのは、この両国では「タスマニア相互認証条約」というものがありまして、一方の国で生産・販売できるものは他方の国でも販売できるということで、それぞれの国がばらばらの法律の上にあるにもかかわらず、例えばニュージーランドで販売している食品のカテゴリーのサプリメントをオーストラリアでも売ることができるという困った状況があったわけです。その問題を解決するために、2000年に、Food Standards Australia New Zealand(FSANZ)という、食品についての統合を進める組織ができました。健康表示の制度については2003年に案ができまして、2008年に最終案ができて、閣僚評議会に諮問して、現在、最終的な検討が実施されているということであります。
簡単にFSANZの健康表示の制度を次のページで見てみますと、2つの健康表示の制度があって、General-level claimsとHigh-level claims。High-level claimsいうのは、重篤な病気や診断指標に関連する健康表示、これはFSANZの審査が必要だということです。それ以外のものについては事前許可は必要でないというのがGeneral-level claimsということになっております。
これらが主な国の制度ですけれども、国際的なCodex委員会の表示部会で、健康表示は栄養素の機能、栄養素以外の機能を越えた機能表示、それと疾病リスク低減表示の3つが2004年に総会で採択されました。これらの健康表示の科学的な基準としては、well-designされたヒト介入試験によって得られた科学的根拠をもとにされるべきであるということが定められており、一回の試験ではなく網羅的な科学的根拠の検証が必要であるということも含めて、2009年の総会で指針が採択されております。
国際比較を表と図を使って12ページにまとめましたので、それについてお話ししたいと思います。
健康表示につきましては、栄養素機能表示、構造・機能表示、または栄養素の機能を越えた表示、高度機能表示とも言いますけれども、それと疾病のリスク低減表示、この3つの表示があるというのが国際的に言われているものだと思います。これらの表示をレギュレートする制度として、規格基準。一定の規格を満たしていれば表示できる制度。もう一つが、個別の商品ごとに評価して表示を許可する制度。それと、届出で表示できる制度という3つのレギュレーションがあると考えられます。
日本の制度としては、栄養素の機能表示を規格基準型の栄養機能食品、そして、主に栄養素の機能以上の構造・機能表示について個別の評価をしたトクホ、2005年以降は、トクホの中に疾病リスク低減も加えられたということになっております。次に年表をあらわしておりますけれども、日本が研究及びトクホの制度を世界に先駆けて始め、それがアメリカ、ヨーロッパに影響を与え、それらがCodexに影響を与えたことで、日本にも栄養機能食品、疾病リスク低減表示トクホができてきて現在に至っていると思われます。
これらをもとに、「今後の展望と提言」ということでまとめたのが13・14ページであります。まず、健康表示につきましては、今の国際比較のまとめの表から見ていただいてもおわかりのとおり、日本は、個別評価型のトクホと規格基準型の栄養機能食品という制度をつくっております。これは科学的にも法律的にも非常に合理性が高く、国際的整合性があるものであるということで、これ以上の表示の制度をつくるのは不要ではないかと考えます。実際には、現在ある制度をどのように改善していくのかということが重要であると考えます。
改善点としましては、科学的根拠、国際的整合性から判断して、トクホの健康表示を拡充していくことで、いわゆる健康食品の表示でいろいろ問題になっているものを抑制できるのではないかと思います。それから、トクホについては現在、許可が無期限ですけれども、やはりこれは新規の知見を入れていくということからも、許可期限を5~6年に設けるのがふさわしいのではないかと思います。
また、現在、栄養機能食品は規格基準が決まっているだけですので、どのぐらい販売量のどういう商品が実際に世の中に出ているのかというのを把握するのが非常に難しい状況になっております。健康被害がどうなのかも届出がなく、新規の知見があった場合の届出もなされないということです。栄養機能食品は届出にして、どういうものがあるのか、そしてそこに問題があれば、行政が整理して、指導できるようにするのがいいのではないかと考えております。
形状・成分の管理規制であります。食品から錠剤・カプセルを除けというのが今までの消費者委員会で議論があったと思いますけれども、今、御説明いたしましたように、主要国ではすべて食品の形態の中に錠剤・カプセルを含んでおります。ですから、これを除くというのは国際的な整合性からもかなり外れるということであります。
一つ考えられるものとして、保健機能食品以外。これは、トクホはすでに錠剤・カプセルが入っておりますし、栄養機能食品を届出制にするという前提での話ですけれども、錠剤・カプセルの形状をした食品はすべて届出制にするということを提案したいと思います。それらの食品形態を持ったものについては、品質管理、製造管理、成分、表示内容、安全性のデータを届け出ることによって健康食品の安全性が確保できるのではないかと考えます。また、今、問題になっております医薬品や保健機能食品と類似した表示というのも、表示内容を届出制にすることによってチェックができますし、医薬品成分が混入していることもチェックができるということになりますし、健康被害や新規知見の届出の義務化ということもできるのではないかと思います。
3番目が情報発信・啓発啓蒙です。食品成分の有効性・安全性データベース、これは国立健康・栄養研究所が、私も委員として参加しておりましたけれども、データベースをつくっておりますが、アップトゥデートで網羅的なデータベースにはなかなか手が回っていないところもあります。国内外の公的機関の評価レポート、今、European Food Safety Authorityが出しているようなものや、システマティックレビューの論文を中心にして、有効性・安全性のデータベースを最新のものにしていくことが重要ではないかと思います。これは、社会保健福祉協会で私が座長として今年からデータベースをまとめておりますので、発表できると考えておりますし、更にサポートするプロジェクトがあればいいというふうに思います。
2番目が、健康被害情報の調査と発信です。これは、医学的な因果関係が非常に難しいわけですけれども、海外の情報も網羅的に調べて発信していくことが重要だと思います。
もう一つ重要なのが、消費者の啓蒙です。特にこれは、誤解を解いていくことが重要でありまして、食品のリスクがゼロというのは基本的にはあり得ないわけで、いかにバランスをとってリスクを最小化するかということが重要なわけです。例えば、水産物に水銀が入っている、カナダでそういう情報を多く流したことで水産物をとらなくなり、高度不飽和脂肪酸の摂取量が減ってしまうということがあります。有名な言葉として、「すべてのものは毒になり得る。毒になるか否かは用いる量による」という言葉があって、これが食品も含めてベースになる考え方だと思います。
また、天然物、食品だから安全ということも誤解ですし、食品は医薬品への影響がない、または動物試験の結果がヒトにも当てはまる。有効成分は入っていればいいということではなく、含有量が問題であります。マスコミの情報は間違いがないといったようなことも問題です、このような誤解を解いてゆく消費者啓蒙が必要になってくると考えます。
先ほど、消費者庁の栄養成分検討会でお話をしてきたのですけれども、日本には消費者調査とか市場調査というのが、企業サイドではありますが、中立公正な消費者研究が殆どありません。ヨーロッパやアメリカではFood consumer scienceという学問として確立しております。ちょっと調べただけでも15~20ぐらいの学部でFood consumer scienceというものがありますし、EUのプロジェクトの中でも、2億円、3億円のFood consumer scienceのプロジェクトが進行しているものがあります。実際に中立公正な消費者研究をすることで、健康増進、政策立案、消費者保護、このような観点に立った消費者行動の研究を、大学や国家プロジェクトで実施することも重要ではないかと考えております。
以上です。御質問があればと思って参考資料は幾つかありますけれども、御質問があればお話したいと思います。

○松本委員長 ありがとうございました。
ただいま、詳細に御説明いただきました海外の制度の比較、それから、日本での今後の展望と提言につきまして、どうぞ、御質問、御意見がございましたら、お出しください。
山口委員、どうぞ。

○山口委員 資料2の13ページのところで4つほど御質問させていただきたいのですが、「今後の展望と提言」のところです。一つは、「健康表示を拡充する」という記述がありますが、これは具体的な運用としてどういうふうにするという意味なのか。もう一歩よくわからないので、実際に即して、現状はこうだけれども、こういうふうにしたらどうかというその辺の具体的なところを教えていただければと思います。
2つ目は、「新規知見届出の義務化」というのもよくわからないので、具体的にこういう場合に届出を義務化すると。その辺の意味がよくわかりませんので、もう一言おっしゃっていただければと思います。
3つ目は、「カプセル・錠剤形状食品を届出制とする」、これはわかるのですが、では、粉末はどうなのでしょうかというところについて、教えていただきたい。
もう一つ、マル3に「健康被害届、新規知見の届出の義務化」とあります。新規知見届出の義務化というのはその上にもあったのですが、受付をどこでして、どこでどう管理するということで先生はお考えなのか。
すみません、4つお願いします。

○名古屋文理大学清水教授 まず、第1点ですけれども、「健康表示を拡充する」というのは、科学的根拠が十分にあるということがまず第一。科学的根拠が十分にあることが海外でも認められているということで、国際的整合性ということも拡充の重要な要件として挙げております。健康表示というのは特定保健用食品を考えておりまして、特定保健用食品は、今、9と数えるか、10と数えるか、数え方にもよりますけれども、おなかの調子、血圧、コレステロールといった健康表示があるわけですが、それ以外の健康表示について申請して、そして許可を得るというのが非常に難しくなってきております。
これにつきましては、まだ国際的に評価方法が認められていないというのが評価調査会での判定の理由のひとつです。国際的に最新の情報をもとにして、科学的な根拠が十分にあるものについては、健康表示として現在認められている9または10のカテゴリー以外を認めていくということが必要であると考えます。このことで、いわゆる健康食品でそれに近いもの、例えば疲労とか免疫に近いものが特保として許可されれば、健康食品の中にそのような内容を暗示するものがあるわけですけれども、そういうものを抑制する方向に行くだろうというのが一つの考え方です。いずれにしてもベースは、科学的根拠が十分にある、そして、国際的にもそれが認められたものは現在のトクホの範疇を拡大するというのが考え方です。
2点目は、栄養機能食品の届出制の新規知見ということです。これにつきましては、健康被害は出ていないけれども、安全上の問題が海外で発表された場合には、それを発売している企業が常にウォッチングすることで、新規の知見を届出していくということで考えております。
最後の御質問と重複すると思いますけれども、どこへ出すかということについては、最終的には、これは消費者庁がアクセスできるようにしておかなければいけないわけですが、手続上は何らかの第三者機関というところが受けて、問題があったときに消費者庁がすぐアクセスするようなことも、消費者庁の人的資源からして考えられるかもしれないと思っております。
それと、カプセル・錠剤、これは「等」と書くべきだったわけですけれども、粉末も一つ考えられると思います。ただし、粉末は、例えば粉末ジュースをどうするかとか、この辺は難しい問題です。カプセルははっきりしていますけれども、錠剤についても、錠剤の錠にお菓子の菓と書く錠菓というのがあって、例えば動物の形をした錠菓みたいなものをどうするかとか、これは、いろいろ細かい検討をしていく必要があると思います。

○松本委員長 佐野委員、どうぞ。

○佐野委員 御説明ありがとうございました。健康被害届けのところでお聞きしたいのですが、「健康被害届、新規知見届出の義務化」とありますが、この義務化は両方にかかっているということでしょうか。

○名古屋文理大学清水教授 そうです。

○佐野委員 そうすると、いわゆる健康被害というか、事故報告を義務化するという形、つまり報告義務制度と考えていいのか。

○名古屋文理大学清水教授 そうですね。発売している企業の健康被害が挙がったら。

○佐野委員 義務化をしてきちんと報告すると。

○名古屋文理大学清水教授 そうです。

○佐野委員 わかりました。もう一つお聞きしたいのが、「カプセル・錠剤形状食品を届出制とする」とあり、これで安全性の確保をするとおっしゃったのですが、これでできるかなと。許可制ではなく届出制とされた理由をお聞きしたいと思います。
それから、ここのところがよくわからないので教えていただきたいのですが、17のところ。17でなくても4でもいいのですが、「小児関連表示」というのがあります。17で見ますと、申請数が216で承認件数が8となっています。小児の健康に関連する表示というのは一体どういうものなのか、例を教えていただきたいと思います。
もう一つは、健康表示の科学的根拠というのはすごく難しいと思いまして、いわゆる成分だったら何かエビデンスがあるかなと思いますが、健康食品など、まるごと食品を考えたときにエビデンスというのはどのように先生はお考えなのか、教えてください。

○名古屋文理大学清水教授 まず、なぜ届出制かということです。許可制というのが一挙に行くのかどうかというのがあるわけですけれども、許可制というのも一つ考えられるとは思いますが、現状よりも一歩でも前進する、安全を確保するために届出制にすることで全体をまずつかむということが必要で、届出制でも安全上の確保が難しいという段階で、許可制というのは考えられるのかなというふうに私は思っています。
2番目が子どもの関連の表示ということで、子どもの健康関連の表示というのはEUだけが出しているものです。Codexにもありませんし、アメリカやほかの国でも、子ども関連のチャイルドヘルスクレームというのはEUだけになっています。これはどういうものかといいますと、例えば、カルシウムは子どもの発育に必要です。DHAは、子どもの目だったか、認知の発育に必要ですという表示です。発達とか発育という言葉を使って、子ども関連のヘルスクレームというものが例として挙げられています。
それと、最後の科学的根拠ですけれども、表示の科学的根拠については資料2の13ページにまとめております。まず、大原則としてヒトの無作為化比較試験、これはプラセボと比べて本当に効果があるかどうか。それと、従来の一回のヒト試験で効果があったとしても、それだけでは不十分で、従来の知見を網羅的に調べてそれとちゃんと整合性がとれているかどうか。有効成分が定性されて定量されていること。それと、社内試験や学会発表だけではなく、査読者のいる学術誌や行政の審査許可、第三者の許可がなされているものというふうに考えております。
成分なのか製品なのかということですけれども、私は、成分だけでは不十分で、有効成分がたとえ一定量入っていたとしても、一緒に入っている副性成分がその吸収に影響を及ぼす、または代謝に影響を及ぼすこともあるわけで、そのまるごとの製品で、今、お話しした科学的根拠、特にヒト試験を実施して科学的な根拠の実証がされていなければいけない。これはトクホの考え方で、今、日本はやっているものです。
これについてはヨーロッパでも非常に問題になりまして、私はヨーロッパの制度ができる前のワーキンググループで話をしたのですけれども、成分のヒト試験をすれば十分で、製品については必要がないという意見がものすごく多かったのですが、日本はトクホとしてこういうふうにやっていて、ちゃんとできるということを話をしました。製品と成分両方の考え方がありますけれども、少なくともヒトのRandomized controlled trialが必要だということは、現在、EFSAの考え方として十分に取り入れられているというふうに思っております。

○松本委員長 田島委員、どうぞ。

○田島委員 御説明ありがとうございました。資料2の13ページの将来の展望のお話ですけれども、この中で、トクホは今のところ許可無期限で、それを5~6年の許可期限制にしたらどうかというお話がございました。ほかの諸国で許可期限を持っているところがあるかどうかということをまずお聞きしたいのと、それから、トクホに医薬品などで行われているような再審査制度を取り入れたらどうかという議論もあるように思いますが、それについては、諸外国で再審査制度を取り入れている国があるのかどうかというのをお聞きしたいと思います。あるいは、先生の御意見はどんなところにあるのかというところもお聞かせ願えればうれしいです。

○名古屋文理大学清水教授 まず、制度としてはその辺が明確になっていない。特にEUはまだ評価が始まったばかりで、先ほどお話ししましたように、健康表示が実際の商品にはまだ出ていないという状況で、今後どういうふうになっていくのか、わからないところがあります。はっきりと許可期限が定められているところはないのではないかと思っております。
ただ、日本はこの分野のイニシアチブをとっている国として、新しい知見ができてきたら、それを加味した許可の審査が必要だと考えます。または、今、トクホで私が問題だと思っておりますのは、1991年にできたときにはヒトのRandomized controlled trialの試験はやらないで許可を出しております。そのころ許可されたもので、現在も残っている製品があるかはちょっと調べなければいけないなと思っているのですが、そのころのトクホはもうほとんど取り下げになって、トクホとして販売されているもの、許可を持っているものはないと思いますけれども、スタートの時代には許可期限は2年ありました。1994年に4年間の許可期限になって、1997年に規制緩和ということで、8年にするのか7年にするのかという議論があったときに、8年というのは、食品のライフスパンから考えると無期限も同じだろうから無期限にしようということで、97年に無期限になった。
そういう意味では、94年か95年以降許可されたものがRandomized controlled trialをされないで許可されております。現在、それをどのように検証していくのかというのが日本のトクホの問題の一つではないか。そういう意味からも許可期限が一番いいと思いますけれども、それをやっていくことで、日本の今のトクホの制度の科学的根拠をレベルアップできるだろうというふうに思っております。

○田島委員 ありがとうございました。

○松本委員長 中村委員、どうぞ。

○中村委員長代理 将来の展望のところで一定の考えを示されていますが、冒頭にもちょっと言われていましたけれども、薬事法の関係はどういうふうにしようとお考えですか。やはり薬事法の改正も伴うという前提でしょうか。

○名古屋文理大学清水教授 これは食品衛生法に、「すべての飲食物をこの法律で対象とする。ただし、医薬品及び医薬部外品を除く。」という文章がありますので、そこを何らかの形で変えていけば、薬事法を変更しなくてもいいのではないかというのが私の考えです。

○中村委員長代理 今、健康食品に関して、マーク制度だけでも5つぐらいあったり、認可する団体もいっぱいあったり、所管庁もばらばら。この辺についてはどういうふうにしたらいいとお考えでしょうか。

○名古屋文理大学清水教授 これは、実際に第三者の協会、またはいろいろな団体があるわけですけれども、統一された考え方も示されておりませんし、すべてを網羅的に私が知っているわけではないので、余り否定的なことを言ってはいけないのかもしれませんけれども、その団体の基準というのは企業のメンバーがつくっていくことが問題ですし、また、企業のメンバーが作った基準に基づいて認定していくということを幾つかの団体でやっているわけですから、そういうものはやはり第3者を入れて統一した基準が必要であると思います。そして行政が何らかの考え方を示して、それに基づいて実施していって一本化していく、ということが最低限必要ではないかというふうに思っております。

○松本委員長 ほかにございませんか。
どうぞ、山口委員。

○山口委員 今、中村委員が言ったことをもう少し具体的に言いますと、農産物の表示についてはJAS法で農水省、食品衛生法は厚労省がやっていて、表示の関係では健康増進法などで消費者庁が表示の適正化を担当しているわけです。3つの法律上は都道府県の権限もばらばらですし、この3つの省庁がきちっと連携して、先生が今おっしゃったような総合的な対策ができるような状況になっていないと思うのですが、その辺は諸外国に比べるとどういうふうに先生はお考えですか。

○名古屋文理大学清水教授 諸外国も、今、お話ししましたように、EUはまだ、植物成分とか、フードサプリメント法も検討が始まったばかりで、ビタミン、ミネラルについてやっと上限値、下限値ができ、各国の現状制度はばらばらです。栄養・健康表示についても、本当は去年終わって、もう表示された製品が出ていくはずであったにもかかわらず、まだ出てこないということもあります。
アメリカについても、この2月に行って幾つか話を聞いてきたのですけれども、FDAは、ダイエタリーサプリメントのStructure and function claimの内容を、ちゃんとヒト試験がやられているものでなければいけないというガイドラインを2008年に出しておりますし、FTC(公正取引委員会)が2001年にダイエタリーサプリメントのガイドラインを出し、去年ぐらいから、非常に厳しい規制というか、裁判が起きています。FDAとFTCの規制が統一されていないのが問題だと聞いております。
そういう意味では日本だけが決してばらばらであるということではなく、この分野は食品と医薬品とのちょうど中間にあって、両方の担当部署、または両方の制度が十分にハーモナイズできていないというのが難しいところです。日本は、トクホを1991年につくって、世界の中で最初に個別評価をしている国なので、早く一本化するということで、日本がイニシアチブをとるべきだとは思いますけれども、なかなか難しいものだなと考えます。海外のものを調べれば調べるほど、日本の制度を今後どうやっていくかを、この分野で、日本が国際的イニシャティブをとる上からもよく考えていかなければいけないというふうに思っております。

○松本委員長 私も一つお聞きしたいのですが、先生の「今後の展望と提言」では、現在、日本にある2つのタイプの法律上認められた健康食品の制度はいじる必要がなくて、中身をもう少し充実させていくといいましょうか、きちんとした根拠があるものについては、この枠の中できちんとやっていただくようにすればいいということですが、それでも残るのが、十分な根拠も出せないけれども健康食品として売りたいという商品が、現在でも相当あると思います。
それについて、「2.形状・成分の管理強化規制」というのが主として考えられているのかなという印象ですが、つまり、そういうきちんとした法律上の制度にのらないものについても、カプセル・錠剤形状で出すものについては、少なくとも安全性はきちんと確保すべきだから、届出制にした上で一定のデータを届出させるなり、被害等があれば届出させるという、規制をかけようという御趣旨と理解してよろしいでしょうか。

○名古屋文理大学清水教授 それが2のマル1で、マル2番として、保健機能食品類似の表示や医薬品的な表示がしてあれば、届出の製品を見てこれはだめですとチェックするということができますし、品質管理データを届出させることによって、医薬品成分が入っていますということでこれもチェックできます。製品の中身及び表示の両方についてもチェックができるということになると思います。

○松本委員長 現在でも、保健機能食品ではないのに保健機能食品類似の表示をすると、食品衛生法上違反行為になるということですが、それは事後的に行政がチェックをするということで、先生の提案では、それが発売前の段階でチェック可能になるということですか。

○名古屋文理大学清水教授 そうですね。発売前に届出することによって、これはだめですと。今は、行政または委託された保健所も含めて、収去したり、いろいろ調べて初めて氷山の一角がわかるという状況なわけですけれども、届出をさせることで全体が事前に網羅的に把握できて、その中で問題があるものを事前に指導することができると考えております。

○松本委員長 ただ、売り方の問題として、現在でも製品の表示の部分には保健機能食品類似とは書いていないけれども、広告の方は、かなりそれを暗示するような感じの広告がなされている。あるいは、販売促進用のパンフレットは製品そのものの表示ではないから、かなりいろいろなことが書かれているという部分は残ると思いますが、そこは別途また取り締まりをやるということでしょうか。

○名古屋文理大学清水教授 それは非常に難しいところですけれども、届出された製品が広告をしているということであれば、その届出した製品をチェックすることで広告の指導もやりやすくなるだろうと思います。一挙になくなるのは難しいし、または、特にインターネットなどは問題が残ると思います。インターネットはまさにモグラたたきになってしまっているわけで、これを事前に届け出ているということであれば、指導、それから、いろいろな改善もしやすいのではないかというのが私の考えです。

○松本委員長 わかりました。
ほかに御質問は。
山口委員、どうぞ。

○山口委員 別の先生にお聞きすると、いわゆる想像力をかきたてる、「40歳のお肌にぴったり」とか、とにかく効能は言わないけれども、読んだ消費者は、例えばお肌にいいとか、血液さらさらということが想像できるような、そういう宣伝がまん延しているわけですね。それが消費者の健康被害とか、あるいは摂り過ぎという問題にもなっているので、その辺はどうしたらいいのかというのは、非常に難しいところだと思います。でも、これはもうあきらめかなという議論もあるのですが、その辺は先生のご意見で少しでも改善されるのかどうか。
他方、これがもし実現するとしたら、行政の肥大化というか、こんなもの届出を一々やっていても無理だよと。例えば同じ錠剤でも、国センなどのデータによりますと、季節によって、あるいは商品ごとにかなりパーセントが違っている。露骨に言えばいい加減な成分のものもある。だから、恐らく何%~何%ぐらいのアバウトな表示しか現実には難しいのではないか。それをどの程度厳しくするかというのは相当難しいと思うのですが、その辺の実効性はどうなのかということと、行政の肥大化とか、その辺との関係でどうお考えなのか、教えていただければと思います。

○名古屋文理大学清水教授 広告を暗示する、または非常にやわらかく暗示するのを、どこまで規制できるかというのは、非常に難しい問題です。例えば「血液さらさら」というのは明らかに違反なんですね。ただし、例えばDHAやEPAの油であれば、この製品を「さらさら油」ということで、血液がさらさらになるようなことを暗示していくということが、現状では、規制は難しい。ただし、それはどう考えても法律的に規制するのは無理だと思います。
ただ、規制をもっとしなければいけないのは体験談ですね。体験談で、3人か4人の人がやせたといってテレビに出てきて、テレビ画面の下に「これは体験談です」と書いてある。そういうことについては、何らかの広告規制で実効性のあるやり方があるのではないか思います。
それと、行政の肥大化ということは、最初に御質問があったときにもちょっとお話ししたのですけれども、栄養機能食品の届出と、カプセル・錠剤型のいわゆる健康食品の届出にした場合、どこに届出するかというのは、最終的には行政、消費者庁がアクセスできるようにしておかなければいけないわけですけれども、これは届出をする第三者機関をつくれば、良いと思います。幾つかの団体が既にあるわけで、その団体がまとまることで一本化した届出の協会なり団体をつくって、そこに常に消費者庁がアクセスして、そこで問題があれば指導をかける。または、問題があればすぐ事情聴取が行えるような状況をつくれば、私は、行政の肥大化にならないような工夫はできるのではないかと思っております。

○松本委員長 ほかに、御意見、御質問ございませんか。
ありがとうございました。我々の今後の審議に大変参考になる御提言をいただいたと思います。実効性を確保しつつ行政を肥大化させないために、民間の第三者機関をうまく活用するというのは、そういうふうになれば業界としてもプラスだろうし、行政にとってもプラスになると思います。
清水教授におかれましては、お忙しい中、審議に御協力いただきまして、誠にありがとうございました。
本日の議題は以上でございますが、事務局より、今後の予定について御説明をお願いいたします。

≪4.閉会≫

○原事務局長 どうも審議に御協力、ありがとうございました。
次回の委員会は、連休明け、5月13日(金曜日)の15時から行う予定にしております。ちょっと時間がございますので、議題につきましては決まり次第、御案内したいと思います。
事務局からは以上です。

○松本委員長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。お忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございました。

(以上)