第44回 消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループ 議事録
日時
2023年2月28日(火)13:00~15:06
場所
消費者委員会会議室及びテレビ会議
出席者
- (構成員)
- 【会議室】
- 後藤座長
- 【テレビ会議】
- 黒木座長代理
- 木村委員
- (オブザーバー)
- 【会議室】
- 中川丈久 神戸大学大学院法学研究科教授
- 板谷伸彦 特定非営利活動法人消費者機構日本専務理事
- 【テレビ会議】
- 大石委員
- 丸山絵美子 慶應義塾大学法学部教授
- 川出敏裕 東京大学大学院法学政治学研究科教授
- 山本和彦 一橋大学法学部教授
- (参考人)
- 【テレビ会議】
- 古角壽雄 金融庁企画市場局市場課市場機能強化室室長
- 山本和彦 一橋大学法学部教授
- (事務局)
- 小林事務局長、岡本審議官、友行参事官
議事次第
- 開会
- 行政庁による破産申立制度についてのヒアリング
- 閉会
配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)
- 議事次第(PDF形式:165KB)
- 【資料1】 報告用資料(金融庁提出資料)(PDF形式:247KB)
- 【資料2】 悪質事業者に対する破産手続開始申立権に関する若干の検討(山本教授提出資料)(PDF形式:466KB)
≪1.開会≫
○友行参事官 それでは、時間になりましたので始めたいと思います。
皆様、お忙しい中お集まりいただきまして誠にありがとうございます。ただいまから、消費者委員会第44回「消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループ」を開催いたします。
本日は、後藤座長、中川委員、板谷委員は会議室にて御出席、その他の皆様はテレビ会議システムにて御参加いただいております。
議事に入る前に、配付資料の確認をさせていただきます。お手元の議事次第に配付資料を記載しております。もし不足等がございましたら、事務局までお知らせいただきますようお願いいたします。
なお、報道関係者を除く一般傍聴者の皆様にはオンラインにて傍聴していただいております。議事録については後日公開いたします。
ウェブ会議の留意事項を申し上げます。ハウリング防止のため、御発言いただく際以外はマイクをミュートの状態にしていただきますようお願いいたします。御発言の際には、あらかじめチャットでお知らせください。座長に御確認いただき、発言者を指名していただきます。指名された方はマイクのミュート解除し、冒頭でお名前をおっしゃっていただき、御発言をお願いいたします。配付資料を参照する場合には、該当ページも併せてお知らせいただけますと幸いです。御発言の際には、可能であればカメラのマークをオンにしていただけましたら幸いでございます。また、音声が聞き取りづらいなどの場合にはチャットでお知らせいただきますようお願いいたします。
それでは、後藤座長、以降の議事進行をよろしくお願いいたします。
≪2.行政庁による破産申立制度についてのヒアリング≫
○後藤座長 座長を務めております後藤です。本日もよろしくお願いいたします。
それでは、本日の議題に入らせていただきます。本ワーキング・グループの中間取りまとめにおいて、破綻必至商法には時間がたつにしたがって破産状態に近づき、事業者の責任財産は散逸してしまうという特徴があることや、悪質な事業者による意図的な財産隠しに対応するためには、財産の保全を早期に行うことが重要であると指摘したところです。
これまで大規模消費者被害においては、債権者による破産手続開始申立てによって、事業者の財産を保全し、破産手続において消費者の被害回復を図ることが多くの事件で行われてきました。しかし、債権者の代理人弁護士ら、いわゆる弁護団が被害者を一定数集めて破産手続開始申立てをする手法には、第1に個々の被害者が被害を認識した時点では事業者の財産が散逸している、第2に多数の被害者を集めることが困難である、第3に個々の被害者の情報収集能力では証拠収集が困難である、第4に予納金の確保が困難である等の限界があります。
そこで、自己破産申立てでもなく債権者申立て、すなわち弁護団方式でもない他の道として行政庁等に破産申立権を付与することが考えられるのではないかと思います。
そこで、本日の前半では金融機関等の破産手続において、監督官庁に破産手続開始の申立権を付与している「金融機関等の更生手続の特例等に関する法律」を所管する金融庁へ当該制度の仕組み等についてのヒアリングを行いたいと思います。
また、後半では、行政庁等による破産申立制度についての論文等を御執筆なさっています当ワーキング・グループのオブザーバーでもあります山本教授にヒアリングをさせていただきます。
それでは、早速、前半の議題に入りたいと思います。本日は参考人として金融庁企画市場局市場課市場機能強化室、古角壽雄室長に御参加いただいております。
本日は大変お忙しいところをありがとうございます。
それでは、10分程度で御説明いただきますようお願いいたします。
○古角室長 金融庁の古角でございます。よろしくお願いいたします。
それでは、1枚目のスライドから説明をさせていただきます。
まず、破産手続による証券会社の破綻処理スキームということで、金融庁による破産申立てについて記載をさせていただいております。破産法上、破産手続の開始の申立てをすることができるのは、債権者、又は債務者とされているところでございます。スライドの上の真ん中辺りに書いております証券会社が破綻した場合の破綻証券会社でございますけれども、こちらに関します破産手続の開始申立ては、正に債務者自身による申立てでございまして、破産法上の申立てによるものです。
他方、スライドの左上にございます金融庁による破産手続開始の申立てというものを盛り込んでおります。これは監督官庁による破産手続申立てによっても破産手続が開始されるというものでありまして、更生特例法において定められた特別な規定によるものとなっております。
破産手続が開始されますと、基本的には、あとは破産法に従って破産手続が行われますけれども、破産対象が証券会社であるがゆえ、更生特例法上、特別な制度が定められているところです。この点については後ほど、次のスライドにおいて説明をさせていただこうと考えております。
ここで手続に関与する者として投資者保護基金というものが登場してまいります。これの右側の上のほうに書いてございますけれども、投資者保護基金は平成10年に旧証券取引法によって創設された機関でございます。現在、金融商品取引法になっているわけですけれども、金融商品取引法上、証券会社等の金融商品取引業者には分別管理というものが義務付けられております。分別管理とは金融商品取引業者が顧客から預かる金銭、あるいは株式といった顧客の資産と金融商品取引業者自身の財産等を厳格に分離しまして、それを管理することによって顧客の資産の保全を図るというものでございます。
分別管理が守られている限りは、たとえ証券会社などの金融商品取引業者が破綻した場合であっても、基本的には顧客の資産に影響はなく、金融商品取引業者に対して預けた資産の返還を求めることができることになります。しかしながら、金融商品取引業者が破綻しまして、この分別管理の義務に違反をしていたような場合にあっては、顧客の資産の返還が円滑に行われない場合もございまして、返還できない顧客の資産については投資者保護基金が顧客一人当たり上限1,000万円までの補償を行うこととされております。
投資者保護基金によるこのような補償は、証券会社が破産する場合には、破産手続に並行しまして行われますけれども、その他の場合、例えば登録取消しのような行政処分を行った際に、円滑な資産返還ができないと認められる場合にも補償がされる場合もあり得るという仕組みになっております。
投資者保護基金におきまして、顧客が提出した書類と証券会社の作成した帳簿を照合して補償額を算定した上で、顧客に対して支払いを行うという仕組みになっております。
スライドの2枚目にまいります。こちらは更生特例法の概要を記載させていただいております。まず、この表の一番上の囲みのところでございますけれども、通常の倒産手続では多数の債権者が関与する複雑な手続になるなど、金融機関については手続上、特別の取扱いが必要な場面が存在すること。それから、協同組織金融機関でありますとか、相互会社となっている保険会社のようなものに対しても更生手続の利用を認める必要があることなどから、更生特例法では、会社更生法、民事再生法、破産法を金融機関等に対して適用する場合の特例を定めております。
この更生特例法の特徴でございますけれども、まず、更生特例法が制定されたのは平成8年のことでございます。
更生特例法の主要な特徴を申し上げますと、まず1つ目は、会社更生法上、株式会社のみを対象としている更生手続を、先ほど申しました信用金庫でありますとか、協同組織の金融機関、それから、保険会社といった相互会社の形態を取っているものにも用いることができるようにしていること。
2つ目として、金融機関などの監督官庁に更生手続や破産手続の開始の申立権を付与したこと。
3つ目として、金融機関等の破産手続開始が決定された際の通知についての特例が置かれていること。
4つ目として、投資者保護基金等が顧客の代理をして、手続の中で行うことができる事項を規定したことが挙げられます。
更生特例法制定当初は、証券会社等の現在の金融商品取引業者というのは、その対象には明記をされておりませんで、後に改正が行われまして、平成10年までの法改正によって金融商品取引業者も更生特例法の適用対象とされております。
このうち1つ目の会社更生法の適用範囲、相互会社、協同組織に広げるといった点については割愛させていただきますけれども、その他の点につきまして、以下、順番に説明をさせていただきます。
まずは監督庁による手続開始の申立てについてでございます。更生特例法では監督庁に破産手続開始の申立権が付与されております。証券会社のような金融商品取引業者の場合、実質的には破綻した場合であっても、資金の流動性が確保されている限りは事業を継続することが可能となっております。そのため、事業を継続することによって更に経営状況が悪化し、破綻処理コストが一層増大しまして顧客に不利益をもたらすといった懸念もあります。そこで、証券会社等の金融商品取引業者の財務状況等を知り得る立場であり、また、投資者保護に責任を負っております金融庁に破産手続に関する申立権を付与しまして、早期の処理を可能にしようとするものといえると考えております。
次に、破産手続の開始決定通知の特例についてです。破産法上、裁判所は破産手続開始決定をしたときは、知れている債権者に対して、その通知をしなければならないとされております。しかし、先ほども申し上げたように、例えば証券会社のような金融商品取引業者につきましては、多数の顧客が存在しているため、証券会社に財産を預けている顧客一人一人に対して通知をすることは手続が非常に煩雑になってしまいます。そのため、更生特例法では顧客に対する通知は要しないとされまして、それに代わって投資者保護基金に通知をすることとなっております。
最後に、投資者保護基金による手続の代理について説明をさせていただきます。破産手続におきまして、顧客が証券会社に預けた資産は、破産者である証券会社に対しまして破産手続開始前の原因に基づいて生じた返還請求権たる財産上の請求権である破産債権となります。そのため、顧客は本来であれば、破産手続に参加するためには自ら債権を届け出て調査確定手続を経なければいけないことになるかと思います。しかし、大多数の顧客の顧客債権は比較的少額なものが多く、また、破産手続への参加は一定の負担が生じるものと考えられるところから、顧客自らに破産手続に参加するよう求めることは投資者保護の観点からは、必ずしも適切と言えない場合もあるものと考えております。
加えまして、顧客の数は一般の事業会社の破産手続での破産債権者のそれと比較しますと、極めて膨大になることが考えられまして、個別の届出を要するとすれば、破産手続を円滑に進めることが困難になると考えております。
そこで、更生特例法では投資者保護基金が金融商品取引業者の破産手続において、個々の顧客に代わって破産手続上の権利を行使するものとしております。
例えばその一つとして顧客表の作成というのがございます。具体的には、まず、投資者保護基金は破綻手続が開始された場合には、顧客債権について顧客表というものを作成しまして、これを顧客の縦覧に供した後に、裁判所に提出しなければならないとされております。投資者保護基金が提出しました顧客表に記載された顧客債権については、破産債権の届出があったものとみなされるとされておりまして、証券会社の顧客に関して個別の債権届出を必要としておりません。
それから、投資者保護基金は顧客表の提出によりまして破産債権の届出があったものとみなされる顧客債権に係る顧客のため、顧客債権をもって破産手続に属する一切の行為をするものとされております。破産手続に属する一切の行為としまして、債権者集会への参加や議決権の行使のほか、配当金の受領といったものが挙げられます。
以上のような手続の代理については、金融商品取引業者でございましたら投資者保護基金がその業務として行うことになっておりますけれども、その他、預金保険機構、保険契約者保護機構についても、対象となる債権が異なるものの、同様の趣旨で更生特例法において特例が定められているところです。
ここまで更生特例法、法律の概要について説明をさせていただきましたけれども、続きまして、実際に更生特例法を運用する際について、若干の説明をさせていただきたいと思います。
破産の申立てに至ります金融庁としての対応としましては、個別事案ごとにその実態に即して判断を行っていくことになりますので、必ずこういう流れになりますということは一概に申し上げることができないであろうと考えております。
その上で、一般論として申し上げますと、金融庁が所管する金融機関に対しまして、業務の健全性や適切性等を確保する観点から、定期的、あるいは継続的に経営に関する報告を求めるといった対応をしているほか、法令違反等の問題の可能性を認識した場合には、必要に応じて業法に基づく報告徴求命令等によりまして、事案の詳細等を確認しているところです。
こうした対応を通じまして、法令違反等の事実が確認された場合には、事案の重大性・悪質性に応じまして、業務改善命令や業務停止命令等の行政処分を行うこととしているところです。更生特例法に基づく破産申立ての是非につきましては、こういった行政対応の状況も踏まえまして、必要に応じて検討していくことになると考えております。
簡単でございますけれども、私どもからは以上の説明でございます。よろしくお願いいたします。
○後藤座長 どうもありがとうございました。
それでは、これより30分程度、質疑応答の時間とさせていただきます。まず、本ワーキング・グループから金融庁に対して事前に質問事項をお送りしておりますので、まずはその点について金融庁から御回答をいただきます。その後、更に御質問・御意見等のある方は御発言をお願いいたします。御発言をされる際にはチャット欄に御投稿ください。
それでは、金融庁から、事前の質問事項に関してということでいかがでしょうか。
○古角室長 いただいております質問のうち、まず1つ目の更生特例法に監督官庁による破産申立制度を設けた経緯と、金融機関等を行政主導で破産させる必要性についてお答えさせていただこうと思います。こちらにつきましては、証券会社のような金融商品取引業者の場合、実質的には破綻をしていましても、先ほど申し上げましたように資金の流動性が確保されておりますと、引き続いて事業を継続してしまうことが実質的には可能となっております。その結果、更に経営状況が悪化しまして、かえって顧客に不利益をもたらすといった懸念がございます。
そこで証券会社等の金融商品取引業者の財務状況等を知り得る金融庁、あるいは投資者保護の責任を負っていると考えております金融庁としまして、そちらに破産手続開始申立権を付与しまして、早期の処理を可能にするというものと考えております。
それから、制度の主目的が預金者等の被害の回復なのか、それとも、健全な金融システムの維持なのかといった行政監督の観点なのかといった御質問をいただいております。更生特例法につきましては、その名称のとおり、金融機関の更生手続の特例等に関して規定をしている法律でございます。金融商品取引業者等が破綻した場合には、破産法をベースとした上で多数の債権者が関与することになっておりますので、特別の定めを置いているところです。
したがいまして、債務者の財産等の清算に関する手続を定めることなどによりまして、債権者などの利害関係人の利害の調整や、債務者・債権者間の権利関係の調整を図りまして、債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るといった破産法の目的があって、更に監督庁の申立てや、投資者保護基金による顧客等のための破産手続の代理に関する必要な事項といったものを定めることによりまして、債権者の権利の実現を保護するといった目的を持っていると考えております。
このように破産手続におきまして、預金者でありますとか、顧客などの債権者の被害の回復、それ自体を目的としたものではないかもしれないのですけれども、一方で破産手続等の手続が公正・迅速に行われるということによりまして、健全な金融システム維持ということに副次的にはつながっているものと考えております。
次に、過去の事例なのですけれども、こちらにつきましては後日回答させていただければと思っております。
次に、他の行政処分との使い分けがあるのか、あるいは行政処分と比べた破産申立ての制度の利点はどういうところにあるのかということでございますけれども、行政処分というのは、基本的に業務改善命令、業務停止命令、それから、登録の取消しといったものが考えられるところです。当然財産状況が悪化した場合についても、例えば業務改善命令を打ちまして改善を促すことも考えられるわけですけれども、行政処分では必ずしも財産の散逸でありますとか、あるいは顧客の資産を他の方々が差し押さえしてしまうというようなことを、行政処分によって止めるということは難しい場面が多いと考えております。
一方で、破産申立てをした場合には、裁判所が関与した下で司法上の権限を持って手続に入るということですので、より顧客資産の保護と確保ということにつきましては、強い効果が期待できるものと考えておりますので、その辺りを判断しまして適用を考えるということかと思っております。かつ、そういう強い効果を持っているということが行政処分に比べた場合の破産申立制度のある意味での利点なのかと考えております。
次に、行政処分と他の破産申立ては同時に行っているのかということですけれども、基本的には破産申立てを行わなければならないような事案が生じるということは、業者の経営状況でありますとか業務の状況、そういったものに何らかの問題がある場合が基本的に考えられるのではないかと思っております。もちろん個別事案によるわけでございますけれども、そうした問題が考えられる場合には、何らかの行政処分を発出すると同時に破産申立てを行うことが一般的に考えられます。
次に、更生特例法に基づいて行政が破産申立てをする事案として、どのような事業者を念頭に置いているのかということです。こちらにつきましては、特定の事業者が念頭にあるわけでは必ずしもないわけでございますけれども、まずもって、破産手続の開始の原因につきましては、支払不能とか債務超過が必要となるものと考えておりますので、正に例えば詐欺的な事業者もターゲットにしているのかということでございますけれども、詐欺的事業者についても、そのように債務超過に陥っているという状況にございましたら、破産手続の対象にはなり得ると考えております。
ただ、ここはどういう場合というのは、あらかじめ確定しづらいわけですけれども、詐欺的な行為をしていることのみをもって、更生特例法上の手続に乗せるというものでは逆にないのかなと考えております。
次に、保全処分について、保全管理命令など、金融庁が申立て主体となる旨を規定するものもあるが、否認権行使のための保全処分など規定を置いてないものについて、その理由は何かという御質問をいただいております。
まず、破産手続を例に挙げますと、更生特例法の494条で監督庁に保全処分の申立てが規定されております。保全処分は破産手続開始決定までの間に債務者による不当な財産処分が行われるものを防止するための制度でございまして、保全処分が命じられると同時に、債務者による財産の処分が制限をされるものと考えております。
他方、否認権のための保全処分について、監督庁にその申立てを認める特例というのは現在設けられておりません。
否認権は債務者の行為によって破産財団に属すべき財産が破産手続開始前に第三者に流出してしまったような場合、この効果を否定して、流出した財産を破産財団に取り戻す破産管財人の権利によるものと認識をしているところです。
そう考えますと、否認権のための保全処分が命じられると、例えば破産手続開始前に、特定の債権者、ここでは破産者になるわけですけれども、そこから財産を譲り受けたというような場合において、当該債権者の譲り受けた財産の処分を制限するということになるかと思います。
金融機関等の監督庁に対して、当該金融機関等、この場合は債務者になると思いますけれども、財産処分を制限する申立てを認めることは、更生特例法の制度趣旨に沿う場合もあるかと思いますけれども、特定の債権者の財産処分を制限することになる否認権のための保全処分の申立てまで監督庁に認めるのは、公益的な立場である監督庁として行うべき範疇を超えるということも考えられまして、更生特例法の立法趣旨に照らしましても、やや広きに失するのではないかといった批判もあり得るところだと考えております。
さらに実質的に考えてみましても、当該申立てをする上で否認権を行使できる要件が備わっているのかどうか、具体的には債権者の悪意などを疎明しないといけないところでございますけれども、監督庁がそこまで判断するのは、実際にはなかなか困難であるものと考えております。
次に、予納金の仕組み、あるいは予算について御照会を受けております。特に支払った予納金は、後々財団債権として優先的に回収しているのかということです。予納金につきましては破産法上定められているものでございますけれども、破産手続の申立てをするときは、申立人は破産手続の費用として裁判所の定める金額を予納しなければならないということだと思います。この予納金の支出については、あらかじめ予算計上されているというものではないと考えております。予納した金額の返還につきましては、一般的には破産手続のために使用された余りの部分というのは、破産法にのっとりまして優先的に返還されるのではないかと考えております。
10番目でございますけれども、破産の申立てや破産手続開始決定が出たことについて金融庁として公表するなど、債権者に対する周知、あるいは個別の債権者への通知などを行っているのかという御質問でございます。一般的には先ほど申し上げましたとおり、例えば金融商品取引業者に更生特例法に基づいて破産申立てをするような場合は、行政処分と一緒に行われることが一般的かと考えております。その際、行政処分とともに破産申立てを行ったことについては、金融庁のほうから公表するのが原則であろうと考えております。ただ、個別の債権者に対して金融庁のほうから個別の通知は行う仕組みにはなっていないと考えております。
11番目でございますけれども、預金保険機構、投資者保護基金、それから、保険契約者保護機構の設立の趣旨は何かということと、併せて、平時のそれらの業務は何かという御質問をいただいているところです。
まず、最初の設立趣旨でございますけれども、1つ目、投資者保護基金については、平成10年に証券取引法の改正によって創設をされております。投資者は証券会社を通じて取引を行うに当たって、現金でありますとか有価証券を証券会社に預けることが一般的となっております。証券会社のそうした顧客資産の分別管理が強化されまして、顧客から預かった金銭等については信託をすることが義務付けられるようになっております。ただし、信託されるまでにタイムラグがあったり、あと、分別管理が確保されたりしていても、顧客に財産が返還されるまでに相応の時間を要する場合もあるということで、証券会社が破綻した際のセーフティーネットとして、顧客資産の返還の確実性、迅速性を確保するために投資者保護基金が創設をされております。
預金保険機構につきましてですけれども、預金者等の保護及び破綻金融機関に係る資金決済の確保を図るために預金保険制度を確立しまして、信用秩序の維持に資するという預金保険法の目的の達成に向けて、預金保険制度を適切に運用する等を目的として設立をされたものでございます。こちらは1971年に設立をされております。
次に、保険契約者保護機構でございますけれども、保険契約者保護機構は、破綻保険会社に係る保険契約の移転等における資金援助、それから、承継保険会社の経営管理、保険契約の引受け、補償対象保険金の支払いに係る資金援助及び保険金請求権等の買取りを行うことなどによりまして、保険契約者等の保護を図り、もって保険業に対する信頼性を維持することを目的とする組織とされているところです。
それから、平時の業務は何かということです。上記のとおりと言いますか、これまで申し上げましたとおり、投資者の顧客資産を守るという観点から投資者保護基金が設立をされておりますけれども、平時から個々の顧客の情報を把握・管理しているわけではございません。この点、預金保険機構でありますとか保険契約者保護機構も同様かと思っていまして、金融機関に破綻のおそれがないような平時、その金融機関の個別の顧客の情報を得ているものではないと考えております。
証券会社におきまして、例えば投資者保護基金でございましたら、証券会社において顧客資産の返還が困難であると基金が判断した場合、その旨を公告いたしまして、証券会社の顧客は、その基金による補償を受けるために届出を行う。顧客が提出した書類と証券会社が作成した帳簿を照合して補償額の算定を行って、顧客に対して支払いをするということなのかと。
平時におきましては、例えば契約に基づきまして、証券会社に対して監査を行ったりということもしているかと。もちろん実際に破綻のおそれがあるような情報がありましたら、投資者保護基金の職員等がその証券会社に対して監査を行うこともあり得ると考えております。
12番目の御質問でございますけれども、預金保険機構、投資者保護基金、保険契約者保護機構の権限について規定した趣旨は何か。また、手続開始決定の個別の預金者等への通知を不要とし、預金保険機構等が預金者表等を作成し、預金者表等が提出されると、債権届出がされたものとみなすなど、破産法の規律について特例を定めた理由、特例が許容される理由は何かということでございます。
投資者保護基金について、答えさせていただきますと、まず、権限について規定した趣旨でございます。これも先ほど申し上げましたけれども、大多数の顧客の顧客債権は、一般的には比較的少額であることが考えられる。また、破産手続への参加は顧客にとって一定の負担が生じるものであることから、顧客に自ら破産手続に参加するよう求めることは、投資者保護の観点から必ずしも適切なことであるとはいえないと考えられます。
加えまして、顧客の数が一般の事業会社の破産手続での破産債権者のそれと比較しますと、極めて膨大な数になるということがありまして、仮に個別の届出を要するとすれば、破産手続を円滑に進めることが困難になるということが考えられる。こうしたことを踏まえまして、顧客の手続参加に係る事務負担を軽減し、破産手続を円滑に進められるようにする観点から、更生特例法においては投資者保護基金が顧客を代理して破産手続を行うようにする権限を特例として規定をしているものと考えております。
手続の中で個別の顧客への通知を不要とした趣旨でございますけれども、証券会社のような金融商品取引業者につきましては、多数の顧客がおりまして、証券会社に資産を預けているような顧客一人一人に対して通知をすることは手続が非常に煩雑になってしまうということがございます。なお、顧客に対して通知はされないものの、基金によりまして顧客表を作成した旨の公告、それから、顧客表の縦覧がされることによりまして、顧客が自身の債権の内容について確認することが可能とされております。また、基金が顧客を代理して破産手続を行うこと、それから、代理する顧客のために公平かつ誠実に手続を行うこと、代理する顧客に対して善良な管理者の注意をもって手続を行うことが定められております。
顧客表の作成等につきましては、本来でありましたら顧客が債権の届出を行う必要がありますところ、顧客の事務負担を軽減しまして破産手続を円滑に進める観点から、基金が顧客表の作成を行うこととされております。また、顧客表につきましては、基金によりまして縦覧がされるということですので、顧客は自身の債権の内容を正確に伝えてもらえるか確認することが可能となっております。
それから、特例が許容される理由でございますけれども、顧客の手続参加に係る事務負担を軽減しまして、破産手続を円滑に進められるようにする観点から、更生特例法において特例として許容されているものと考えております。
預金保険機構、保険契約者保護機構におきましても、それぞれ対象となる範囲が異なるものの同様の趣旨で、更生特例法において特例が規定されるところです。
次の御質問ですけれども、会社法824条の解散命令、あるいはそのために必要な会社法826条の通知といったものについて、更生特例法による破産申立ての関係、使い分けについてどのように考えているかということでございます。
まず、前提としまして、証券会社について裁判所から解散を命じられたり破産手続開始の決定がなされたりした場合には、当該証券会社が解散をするという法的効果が生じるという点では同様かと考えます。会社法に規定されております解散命令は、業務執行社員等が刑罰法令に触れる行為を継続・反復するような場合等に公益維持の観点から法務大臣、あるいは株主等の利害関係人の申立てによりなされるものと認識をしております。
他方で、破産の申立てにつきましては、債務者の債務超過を前提とするものでございますので、それぞれ会社法とは適用場面が異なるものと考えております。そのため、それぞれ適用が必要な場面に応じまして使い分けて適用されるようなものではないかと考えております。
次の御質問でございますけれども、投資詐欺の事件等を念頭に置くと、行政庁による破産申立制度と並んで行政庁による解散命令制度があったほうが迅速な対応という観点から優れているという評価もあり得ると考えるが、2010年の更生特例法改正に当たり、そのような議論はなかったのか。また、先ほども出ました会社法824条等を参考にしつつ裁判所を介在させない金融庁による解散命令制度を導入するといった議論に対し、留意すべきと思われるような事項を指摘することは可能かといった御質問をいただいております。
私どもも調べてみたところでございますけれども、2010年の改正当時、このような御意見があったということは確認できていないところです。もちろん今後、裁判所を介在させないような金融庁による解散命令の制度の導入の是非が必要であるとか、問題であるとかということになりましたら、その際に改めて検討すべきことになるのかと考えております。
次の御質問ですけれども、悪質な投資詐欺事件の場合、無登録業者や登録を取り消された業者である場合が少なくないと考えられるが、登録がない業者に対して破産申立制度の対象とならないというのは、被害者救済の観点からすると欠缺があるという理解でいいのかというような御質問をいただいております。
今まで御説明させていただきました更生特例法による破産申立てというものは、基本的には法律の構成上、登録等を受けている業者に対して、行政上の監督権限というものを前提として、その行使を可能にしているのではないかなと考えております。そうしますと、無登録業者につきましては、金融庁としては監督権限が一義的には及んでいないところでございますので、そういったこともありまして、現状、破産申立ての特例の制度には乗ってきていないものと考えております。
次の御質問ですけれども、対象業者について2010年の更生特例法の改正によって、金融商品取引業者の全体に拡大をした趣旨はどのようなものか。
これにつきましては当時、2010年より前の段階では、いわゆる旧証券取引法で監督を受けておりました証券会社が更生特例法の対象、破産申立ての特例の対象となっていたところでございます。
ところが、その後、そういった特例の対象になっていない例えばファンドを販売する第二種金融商品取引業者でありますとか、あるいは顧客の資産を預かって投資運用を行うような投資運用業者について、いろいろな詐欺的な事件でありますとか、適切な運用が行われていないとか、資金が流出とか、そういった問題が発生してきたわけです。そういう事案がありましたものですから、行政処分を行っても、更に資金が流出してしまったり、返還が速やかに行われていないケースも生じまして、それを防ぐ目的から対象を広げまして、金融商品取引業者全般について更生特例法の破産申立て特例の対象とするという改正が行われたものと考えております。
17番目の御質問ですけれども、破産申立てと金融商品取引法の192条の緊急差止命令との関係について御質問をいただいております。金融庁に無登録業者等に対する裁判所への緊急差止命令の申立てがなされていることをどのように考えるかということと、証券取引等監視委員会に調査権限を付与されたことが関係しているのかということを御質問いただいております。
御質問の趣旨を十分理解できていないかもしれないのですけれども、いずれも投資者保護と、破産申立てと緊急差止命令というのは投資者保護を図るという点では共通するものでございますけれども、破産申立てにつきましては破産手続の開始の原因、債務超過でありますとか支払不能というものが必要になる一方で、金商法192条の緊急差止命令の申立てについては、無登録で金商業を行っていて緊急の必要があるといった場合というような、ある意味で法令違反状況が必要になるものであります。両者の射程は基本的には異なっておりますので、なかなか比べにくいものと考えているところです。
長くお時間をいただきましたけれども、いただいておりました御質問事項、以上のような御回答をさせていただければと思っております。
○後藤座長 丁寧な御回答をありがとうございます。
それでは、委員の方々から御質問・御意見をお願いいたします。いかがでしょうか。
黒木座長代理、よろしくお願いいたします。
○黒木座長代理 大変丁寧に御説明いただきましてありがとうございました。
先ほどのこういう金融取引をしている事業者というのは、手元流動性が高くて、支払いは続けているように見えるけれども、そのままでは投資家とか顧客のほうにいかない場合があるので、行政庁に破産の申立権限を付与したのだという御説明をいただいておりました。その場合、破産原因としては債務超過と認定できる資料をもって破産申立てをするのか、それとも、新たに手元流動性があるだけであって、実態として、これは持続可能性がないので、実質的な支払不能であるということで申立てをするのか、その辺りのところについてのお考えを教えていただければと思います。よろしくお願いいたします。
○古角室長 ありがとうございます。
実際には、どういった事由で申立てをするかというのは、個別の事案によりまして決めていくのですけれども、実務上は非常に判断が難しいところだと思っております。実際に支払いができないとかいうのを申し立てるためには、監督、あるいは検査におきまして認定をしていかないといけないことになるのです。私も監督を昔担当していたこともあるのですけれども、申立てにまでは至っていないのですが、破綻をして指摘をするというような段階に至りますと、実際にこちらからそれを通告するというようなきちんとした証拠をそろえて出していくというのは、非常に難しいものと考えておりまして、一概にこういうことでやりますというのは、実際にはあらかじめ申し上げるのは難しいかなと考えているところでございます。あまり答えにならないのですけれども、本当にそのときの状況に応じて考えていくということかと思います。
○黒木座長代理 分かりました。非常に参考になったと思います。ありがとうございます。
○後藤座長 どうもありがとうございました。
中川委員、よろしくお願いいたします。
○中川委員 御説明ありがとうございました。2点質問です。
一つは、更生特例法の破産手続における投資者保護基金であるとか、預金保険機構等の位置付けについての質問です。更生特例法が平成8年の制定で、投資者保護基金が平成10年設立で根拠法も違うので微妙にずれている感じがあるのですが、もともと更生特例法を作るときには、基金があるという前提で作ったわけではないという理解でよろしいでしょうか。後から、基金を使えばいいではないか、手続を代理してもらえばいいではないかとなったのか、それとも最初からセットで基金を破産手続に組み込むということだったのかが一つです。
もう1点は、やや抽象的な質問ですけれども、後半の質問事項のマル3、制度の主目的は預金者の被害回復か、それとも金融システムの維持なのかとか、12番目の質問、なぜこういう規定があるのかということ、その質問に対するお答えをこのように受け取ってよいのかという質問です。行政庁が消費者、あるいはこの場合は顧客ですけれども、顧客の被害回復、あるいはもっと一般的に言って消費者被害回復のためにアクションを起こすという権限を立法した一例として、この更生特例法に基づく監督官庁による破産申立てがあると言い切ってよいかということです。もちろん単純に消費者被害の回復だけを目指しているわけではなくて、被害回復を通じて金融システムの健全性の維持、あるいはそれに対する信頼の維持ということを目指していることになろうかと思います。
しかし、特に12番目の質問に対するお答えの中では、顧客が少額被害者であり多数であるので、一人一人の顧客に破産手続に参加させるというのはあまり効率的ではないというようなことをおっしゃったと思うのですが、それはひっくり返して言えば、顧客保護、消費者被害回復のために行政庁が権限を行使していくという意味で、正面から消費者被害を補填するための権限を行政庁が持っているという制度の一つだと理解できるかなと思ったのですけれども、そのような理解について、どのようにコメントをいただけるかというのが2番目です。
以上です。
○古角室長 ありがとうございます。
まず、1つ目の御質問ですけれども、これは更生特例法が制定された当初のお話かと思います。当初、どのように考えられていたのかというのが、今、分からないものでございますけれども、少なくとも証券会社につきましては、いわゆる預金取扱金融機関などよりも遅れて更生特例法の対象にされておりまして、制定段階ではそれを前提としたものではなかったと考えております。
投資者保護基金自体はいわゆる金融システム改革のときにつくられているわけです。なお、これが法律上の定められた機関として位置付けられたのは、その時期だったのですけれども、その前は、法律上は明記されていなかったのですけれども、業界が設立した機関として、ほぼ似たような機能を担う機関があったところでございます。
もう一つ、制度の目的でございますけれども、一番大きい目的は、業者が破綻をした場合に、顧客資産の返済をしていかないといけない、あるいは返還をしていかないといけないことになりますけれども、一番は返済、返還作業を速やかに進めて、なるべく投資者に時間が空くことによる御迷惑をおかけしないようにする。そのときに、なるべく手間がかからず、行政のほうで一定の手続を行って速やかに返還、返済をしていくことが一番の目的かと考えております。
ただ、そこで速やかに返還を進めることによりまして、時間をかけている間に財産が毀損してしまうでありますとか、あるいは流用みたいなものが、時間が経っていく間に進んでしまうというようなことを速やかな返還によって抑えるという意味では、被害の拡大防止と言いますか、そういった観点もあるといえると思っているところでございます。
○中川委員 ありがとうございました。
○後藤座長 板谷委員、よろしくお願いします。
○板谷委員 1点、質問させてください。預金保険機構や投資者保護基金などは更生特例法の手続きの中で重要な役割を果たしていると思うのですけれども、団体の財政については基本的には保険料を基盤に運営されていると思ってよろしいのでしょうか。何か政府の支援みたいなことがあるのか、ないのかということを教えてください。
○古角室長 私どもは証券関係の部署でございまして、預金保険機構の詳しい運営についてはちょっと疎いところがあるのですけれども、基本的には保険料で運営をされているものと考えております。
一方、投資者保護基金につきましては、我々はよく知っているところでございますけれども、これは正に業界の方々が拠出をしたお金、会費で運営をされておりまして、国からはお金が出てございません。
○後藤座長 他にございませんでしょうか。どうもありがとうございました。
金融庁から、金融機関等を行政主導で破産させる必要性、制度の主目的、それから、破産申立てに至る大まかな流れ等、更生特例法における破産手続開始申立制度の仕組みについて、本ワーキング・グループに有益な御意見をいただきました。
報告徴求を求め、行政処分を行い、それでも改善されない場合に行政庁による破産申立てに至るという運用は、悪質事業者に対する行政庁の破産申立制度を検討する際にも参考になると考えます。
また、破産手続開始原因の調査能力の問題や予納金の問題など、いわゆる弁護団方式による債権者申立てのデメリットを解消し得るという利点もあると思います。
他方で、投資者保護基金等による手続代理の特例など、金融機関等の特性に応じた規律もありますので、そのまま導入することができない部分もあると感じました。
委員の方々の御意見で、特に重要と思いましたのは、金融機関等を行政主導で破産させるという制度が何を目指しているのかということでありまして、行政庁に一定の権限を与えているということでありますけれども、権限を与える趣旨というのが顧客の保護、消費者被害の回復のために行政庁に権限を与えるということ、正面からそういう制度だということで理解してよろしいのかどうか。ここは中川委員がおっしゃっていたところでありますが、重要なポイントになるのではないかと思います。
こうした課題、それから、本日御説明いただきました具体的な適用場面、どのような場合に適用されるかということ、そういった課題について、更生特例法を参照しつつ、このワーキング・グループでの具体的な課題についての参考にさせていただけたらと思います。
それでは、金融庁におかれましては、本日は、大変お忙しい中御出席いただきまして、誠にありがとうございました。どうぞ御退席ください。
委員の皆様方は準備が整うまでもう少しお待ちください。
(古角室長退室)。
○後藤座長 それでは、後半の議題に移ってまいります。
本日は、参考人として、当ワーキング・グループのオブザーバーでもあります一橋大学法学部の山本和彦教授に御参加いただいております。本日は、大変お忙しい中ありがとうございます。それでは、20分程度で御説明いただきますようお願いいたします。
○山本教授 一橋大学の山本です。それでは、私のほうから御説明したいと思います。
私の今日の話は、ここにあります悪質事業者に対する破産手続開始申立権に関する若干の検討ということです。お話しする時間は20分程度ということでありますので、基本的にはレジュメを作っておりますので、その全体についてお話しし、若干敷衍すべきと思われる点について敷衍するという程度にさせていただいて、あと、御質問があれば、より詳しくお話しするということにさせていただければと思います。
まず、破産制度の目的であります。本来的な目的は言うまでもないことでありますけれども、債権者に対する配当を最大化し、かつ公平な配当を行うということであろうと思います。悪質事業者の点に関して言えば、被害者保護というのが本来的な目的ということになるだろうと思います。
ただ、このような事案においては、一種の付随的な目的として被害の拡大の予防というものもあり、私自身は、それは破産手続の目的の一部として構成されるべきものではないかと考えております。
それを前提として、行政庁の申立権の根拠というところでありますけれども、今の本来的な目的との関係で言えば、この被害者保護というのを最も有効に実効的に行うための合目的な観点から誰に申立権を付与するのが最も妥当なのかという、破産手続の観点からすれば、そのような問題設定になろうかと思います。
先ほどの金融機関のような場合は、金融機関が自己申立てをするということは、それなりに期待できるのではないか。実際にも金融機関の破綻は多くの事件では債務者自らが申し立てるのではないかと思いますけれども、悪質事業者を前提にすると、自己申立てを期待するということは、およそ困難ではないかと思われるところであります。
そうだとすれば、破産法の一般からすれば債権者申立てになるわけでありますけれども、このような事案において多数のいわゆる消費者的な立場にある債権者、相対的に見れば少額の債権者が自ら破産を申し立てるというのは、情報面、あるいは破産手続開始原因の立証、それから、財政、予納金の納付等の面において限界があるのではないか。これは今日の冒頭に座長からもお話があったところかと思います。
そうだとすれば、適切に破産手続開始を申し立てられる主体がいないという中で、債権者保護の場合でいえば、消費者保護を任とする行政庁の申立てを認める必要があるのではないか。言わば債権者に代替する地位を持つ者としての行政庁の申立権というものが議論として出てくるのかなと思われるところであります。
さらに先ほどの付随的目的、被害拡大の予防という点も考慮に入れれば、正にそれは公益的な事項であり、行政庁が直接任務とするところということもいえるわけでありまして、それらの点を総合的に考えれば、行政庁に申立権を付与する可能性はあるのではないかというのが私の認識であります。
ただ、このような行政庁の申立権に対しては、かねてより消極的な意見があるところであります。これは以前、消費者庁の研究会で、消費者の財産被害に係る行政手法研究会というのが設けられ、そこで比較的本格的に行政庁の破産手続申立権というのが論じられているところであります。その報告書によりますれば、積極意見というのはもちろんあるけれども、消極意見として幾つかの理由が挙げられているところであります。
最終的に4つぐらいのことを挙げられていたかと思うのですが、後半の2つというのは、どちらかといえば申立権を付与すべきでないというよりは、付与した場合に、それだけでは十分でないと言いますか、プラスアルファのことを考えないといけないという意見ではないかと思いますので、正面から消極意見の理由ということではないように思われます。
大きくは前の2つの点、つまり消費者庁、要するに行政庁が事業者の生殺与奪を決めることは適切なのかということであるとか、今、お話があった金融庁を除いては、他の業所管庁が自ら所管する業者の破産手続開始申立権を有していない、そういう制度が存在しないということとのバランスをどう考えるかというようなことが指摘されたのではないかと思います。
この点について、私のコメントを申し上げると、確かに現行破産法を制定するときに、破産法自体の中に行政庁、官庁の破産手続申立権を規定すべきではないか。これはこういう消費者被害、当時、豊田商事とか、そういうようなものを担当された弁護士の先生方などから、そういうようなことが言われました。
しかし、当時の法制審議会においては、一般的な形でそのような申立権を認めることは困難ではないか。なぜなら、監督官庁といっても様々なレベルの監督がある。確か当時はクリーニング業者にも経産省だか通産省だかが監督官庁としてあるというような例が挙げられたのではないかと記憶していますけれども、そういう場合においても、なお破産を申し立てることを認めるのか、正にこの事業者の生殺与奪の権限を行政庁に与えるべきなのか、それは行政改革等の観点、規制緩和等の観点から望ましいのかというようなことが問題提起され、最終的には、それは破産法の中には規定をしない。それは各監督官庁がそれぞれ自らの監督権限の行使、そして、債権者保護という観点からそれぞれ考えていただくということが適切ではないかということになり、言わばボールが官庁に投げ掛けられたということであったのではないかと記憶をしています。
その結果として、確かに立法したのは金融庁だけということでありまして、正確に言えば農林水産省も農協その他、農林漁業関係の金融機関について、農林水産省も破産手続申立権を持っていると思いますけれども、大きな意味では金融分野だけに限られているというのが現状ではないかと思います。
私は、これは理由があって、実際上、こういうものが必要なのは結局消費者というか、消費者的な個人が業者に対して信用の供与をして、そして、多数の消費者等が債権者となって現れる場面ということに問題領域としてはなるわけです。しかし、通常は消費者が信用の供与を受けることがあっても、消費者が信用を供与するという取引形態が行われるというのは、それほど多くはないように思われます。
他に考えられるのは、金銭債権ではなくて、サービス業を行っている者に対して消費者が債権を有するという事態はあり、そういうサービス業者が破綻するということはあろうかと思います。例えば継続的なサービス提供契約を行うものとして学校とか、病院とか、あるいは保育園とか、そういうような業態は存在するのだろう思います。
ただ、そういうところが破綻しそうになったとしても、文部科学省が大学に対する破産の申立権を持つ必要があるかというと、それはそんなことはないと私には思われます。そういう場合の消費者の権利保護の形態としては、結局サービス債権というのは金銭債権ではありませんで、別の業者から同じようなサービスを受けられるように消費者を保護するというのが、むしろ行政庁の役割になるのではないか。
例えば学校であれば転校をするとか、病院であれば転院をするとか、そういうような形で別の事業者からサービスを受けるような措置を採ることがむしろ期待されるのであって、破産手続を開始して、債権の回収をより図るというような話にはあまりならないと思われます。病院について病院倒産法という独自の制度が必要ではないかという議論がされることはあるのですが、学校についてもあるのですが、その場合も行政庁の申立権という話にはあまりならないということかなと思っております。
必要な場面としては、例えば旅行業者とか、部分的に消費者が信用を供与している局面がある業種は他にもありますけれども、大きなところでは、消費者が不法行為債権を業者に対して持っているという局面ではないかと思うところで、そういう意味では、他の所管庁が申立権を持っていないバランスというのは、私はあまり説得的な議論ではないと思っています。
行政庁が事業者の生殺与奪を決めることが適切かというのは、結局は研究会の報告書でも指摘されていたと思いますが、どういう場面においてそれを認めるのかということなのではないかと思います。単なる倒産原因があるときに、自動的に行政庁がそれを持つということは、この1番目に指摘されているような懸念が生じる可能性があるように思われるわけであります。したがって、これはその場面を区切るということで、今回の検討会で議論されているような、かなり限定的な場面においての破産手続開始申立権ということであれば、私は仮に行政庁が事業者の生殺与奪を決めることになったとしても、それはそれほど不適切なものとは思われないということでございます。
それから、他の選択肢との関係、これは当検討会でもいろいろな選択肢をこれまでも検討され、提言されてきたと思います。比較的最近議論された不当収益の吐き出し命令と個別執行を組み合わせるようなアイデアもあったかと思います。ただ、この場合は財産保全の局面において、ここで議論されているような包括的な保全処分を仕組むのはなかなか難しいだろうと思います。例えば保全管理命令のようなもので管理人を選任するとか、あるいは債務者に対して全財産について処分禁止を命じるというようなことは、個別執行を前提とした局面においてはなかなか難しい。倒産手続のような包括執行、あるいは解散命令に基づくような債務者の法人格を剥奪するような処分が後で予定されているような場面に限られるのかなと思われるところで、そういう意味では、早い段階で着手することができるという点においては、このような構造というのは一つ意味があると思われます。
最終的な被害者の救済という観点から言えば、そういったようなことを用意しながら破産につなげていくというようなことは、いずれにしろ必要になるのかなと思っているところであります。
特定適格消費者団体に破産手続開始申立権を付与する。これは去年、一昨年、消費者裁判手続特例法の改正の中でも議論された点でありまして、これは制度としてあり得るのだろうと私は思っています。ただ、これ最大の問題は恐らく実効性の問題で、現在の特定適格消費者団体に、そこまでの機能を期待することができるのだろうかという疑問はあります。
それから、今日の質問にもありましたけれども、解散命令というのは十分考えられるということで、解散命令に基づいて管理命令を発動して財産を保全し、最終的には清算人が選ばれ、清算人は債務超過であった場合には、破産手続開始申立義務を負いますので、最終的にはこれは破産で処理されることになるわけで、破産に連動していくことが担保されている。そういう意味では、この解散命令を一義的に考えていくことは、可能性としては十分あるのではないかということであります。ただ、ここに「法務省は動くか」問題と書きましたが、結局は、この制度によれば申立権を持つのは法務大臣になるわけであって、それをどう考えるのかということにはなるのかなと思います。
4番は付随的な話ですので簡単にやりますが、周辺的制度、まず、破産手続開始原因であります。これはもちろん債務超過が認定できれば、それは明確になるわけですけれども、債務超過の認定はなかなか難しいところがあるということだと思います。
他方で、支払不能というのは、もちろん債務者が支払いを一般的に停止していれば、それは当然支払不能が推定されることになって問題ないわけです。これまでの議論の中で問題になっていた話としては、事業者としては支払いを続けているということであるけれども、そういう意味では支払停止はないけれども、実質的には他の被害者から得たお金で、前の被害者に対して弁済していく。いわゆる自転車操業的な状態になる。しかし、表面的には支払いは継続しているという場合をどう考えるかということだと思います。
これは最近の破産法の学説においては、そういう場合も支払不能と考えられるのではないかということで、無理算段説とそこに書きましたが、弁済を継続していても、弁済を得る資金を無理算段して調達しているような場合には、実質的にはそれは支払不能と考えていいという考え方が多数になっているのではないかと思います。
そうだとすると、この場合は、正に典型的な無理算段であろうと思われますから、それが立証できれば支払不能というのは認定することは可能なのかと思っているところです。
それから、財産情報探知の在り方については、今のところ破産法は説明義務と、それに違反した場合の制裁ということですが、悪質業者の場合は果たしてそれで足りるのかということは当然問題になるだろう。行政庁からの情報提供、破産管財人等への情報提供ということも考えられるかもしれませんし、それ以外にも、より強力な方法というものが考えられるべきなのかもしれません。
最後に、債権届出・調査・確定手続等における特則の可能性ということであります。先ほども御質問が出ておりましたが、更生特例法において預金保険機構とか投資者保護基金というものが果たしている役割があるわけです。先ほどのように債権届出、あるいは債権調査・確定手続等において預金債権者等を代理するような機能ですが、そのうちの一部について、私はこの特定適格消費者団体を活用していく可能性がないだろうかということを前から考えているところであります。もちろん預金保険機構等とは、これは全く性質も違えば規模も違いますし、全ての機能を担わせるというのはなかなか難しいところがあるということは確かです。
他方で、破産手続における代理権というのは、特に消費者被害を考えたときには一定の意味があるのではないかと思っております。そして、破産手続における債権調査・確定の手続というのは、消費者裁判手続特例法における簡易確定手続と類似した面があると言いますか、簡易確定手続のほうが破産手続の調査・確定を言わば取り入れるような形で制度が作られている部分があります。そういう意味では、簡易確定手続において特定適格消費者団体が果たしている役割を考えたときに、これを少し破産のほうにも持ってくることができないだろうかということを思っているところです。
これはもちろん特定適格消費者団体の様々な意味でのリソースが乏しいという点があり、また、制度的に仕組むのはなかなか難しいところもあるだろうということは想像できるところでありますけれども、消費者保護という観点からは、手続的なところでも少し工夫が考えられないだろうかと思っているところであります。
以上、甚だ雑駁なお話でしたが、私からの報告は以上とさせていただきます。ありがとうございました。
○後藤座長 どうもありがとうございました。
それでは、これから40分程度、質疑応答の時間とさせていただきます。ただいまの御説明及び御報告を踏まえ、御質問・御意見等のある方は御発言をお願いいたします。御発言をされる際にはチャット欄に御投稿ください。
丸山委員、よろしくお願いいたします。
○丸山委員 山本教授、ありがとうございました。
山本教授が説明してくださった申立権の根拠の整理や、最後に述べていただいた手続の特則の可能性というのは非常に説得的だなと思って伺っておりました。
さらに教えていただきたい点になるのですけれども、消費者の財産被害に係る行政手法研究会において、課題として指摘されていた点に関連して、調査権限・調査体制というところです。無理算段の状況に至っているだろうということを消費者被害の場合は、必ずしも事業者に対して消費者庁が何か業法的な監督権限を持っているわけではないとすると、どのように調査に入っていったらいいのかというのが、私自身がなかなか想像できていないというか、アイデアが出てこないところなので、何か参考になる情報とかがあったら教えていただきたいというのが1点です。
もう1点なのですが、優先債権との関係で、被害者救済に結び付かないおそれということですけれども、この点は優先順位を上げるとか、少なくとも加害会社で働いていた従業員とかよりは上げるとか、そういったことは特別法の領域で可能なのでしょうかという質問になります。よろしくお願いします。
○山本教授 ありがとうございます。
まず第1点ですけれども、私にもアイデアがないところです。確か行政手法研究会の報告書においては、破産手続開始の申立てを実効的に行うためには、消費者庁が事業者に対し立入検査や報告命令とか、必要な書類や物件の提出を命令できる根拠規定が必要と考えられると整理されていると思います。私もそれはそういうことなのかなと思っておりまして、私も消費者法をよく知らないのですが、消費者安全法の中にいわゆる隙間事業者に対して、一定の調査権限が規定されている部分があったのではないかと思います。その範囲は制限されているのは分かっていますけれども、その辺りを、特にこういう悪質と認められる事業者との関係において、より強化していくということ、これは消費者保護法でお考えをいただければ、少し実効的な制度にすることはできるかなと思っています。
第2点ですけれども、確かにその点は非常に問題で、優先債権、実際上、破産手続においては特に租税債権と労働債権が問題となって、これはかなり強い一部財団債権になっており、それ以外のものが優先的破産債権になる。他方、消費者被害者の債権は不法行為債権であるとすれば、これは一般の破産債権にしかならないわけで、絶対的に順位は劣後するということだと思います。
恐らく実務的には様々な工夫がされていて、特に労働債権などは実際上、それは給料等には当たらない、実質的にも否認してしまって、だから、債権が存在しないというような形で取り扱うか、極めて例外的な立法としては、オウム真理教の立法があったと思うのですが、あれは結局、オウム真理教だけに適用するものだったのですかね。実質的には租税債権よりも被害者の債権を優先させるみたいな取扱いを確かしたような話だったのではないかと思います。そういうような立法をするということは、あり得ないではないかと思いますけれども、実際上、それは難しいところなのかなということです。
一方で、優先するものを引き下げると、被害者の債権を引き上げるというのはもちろんあって、引き上げるというのは民法の課題だと思うのですが、不法行為債権に優先権を付与するのは昔からある議論だと思うのですけれども、私が生きているうちには実現しそうにないということは、ずっと言っていますけれども、そういう方向でうまくしていただくか、これはなかなか難しいので、結局、できるだけ余剰金がある早い段階で手続を開始する。本当にもうお金がなくなって小さなパイを取り合うということで、優先権者に取り上げられてしまうということになってしまうのですが、少しパイが残っている間に手続を開始することが現実的な解決策なのかと、早期の手続開始ということなのかなと思っています。
○丸山委員 ありがとうございました。
○後藤座長 どうもありがとうございました。
それでは、黒木座長代理、よろしくお願いします。
○黒木座長代理 ありがとうございます。大変明確に教えていただいたと考えております。
前のワーキング・グループの中間取りまとめで、対象事業者について、いわゆるぐるぐる回りをやっているような人たちを対象事業者として絞ったらどうかという議論をしていました。それと無理算段説の関係についてお尋ねします。この対象事業者であれば、先ほどもちょっと聞きましたけれども、手元流動性が多少あるので、いわゆる債務不履行にはなっていないけれども、ビジネスモデルとしても破綻している。したがって、対象事業者であるということはほぼイコールで、破産原因にあるという形で申立てが可能になるのではないかと、私は教授のお話を聞きながら考えたのですけれども、そのように対象事業者を絞ると破産原因が推定されているみたいな考え方でよいのかというのが第1点です。
2点目は、調査権限との関係についてです。例えば特商法のような取引規制法で、消費者庁は、取引事業者に関する調査をして、例えば24か月間の業務停止とかをやるわけです。そうすると、業務停止命令発令のための調査の結果24か月間も業務停止命令を発令することになったときに、業務停止をし続けたら財産状況はどうなるのか、今の顧客はどうなるのかということは一定程度分かるだろうと考えられます。そうすると、ぐるぐる回しを対象事業者とすることとの関係で、やはり法人格それ自体の利点を停止させるということ自体は、先ほどの金融庁の話でも行政処分と実体法的に法人格を消滅させることを考えるみたいなことをおっしゃったと思います。すると、そういう考え方で調査権限の問題は、取引規制法との関係でクリアできるのではないかと思っています。その辺り、教授のお考えはいかがかということが第2点です。
3点目は、特定適格消費者団体の取扱いの問題です。例えば破産法110条の代理委員とか、債権者委員会に関する破産法144条、その辺りの債権者委員会の亜種として特定適格消費者団体を組み込むことによって、破産法上の一定の地位や権能を与えることによって、破産管財人との間でも、単なる破産債権者というだけではなく、一定程度の権限を持って対応できる債権者グループとして取り扱うことはできないか。また、そのような権能を付与することによって、特定適格消費者団体が債権届出を代行する権限を付与することはできないか、一種の預金保険機構ほどではないかもしれませんが、今の破産法の考え方を前提としても、特定適格消費者団体にそのような機能をもたせることはあるのではないかと思っていまして、その辺りのところの教授のお考えをお聞かせください。
以上3点、お聞かせいただければと思います。よろしくお願いします。
○山本教授 ありがとうございました。
第1点は、私は正にそういう認識をしています。こういうぐるぐる回りに対象を絞る一つのメリットとしては、そういうビジネスモデルは、基本的にはその時点で支払不能になっていると考えていいのだと、破産原因の推定とおっしゃりましたけれども、正にそういうことなのかなと思っていまして、その点は私もそのように考えています。
第2点の調査権限の点です。調査権限というのはどういうことでしたか。
○黒木座長代理 事業者に対して特商法とかでいろいろ調査をするという権限があり、24か月の業務停止命令を発令するような中で、事業者の財産状況自体も分かるのではないか。破産申立原因があるとの判断も、ある意味で付与されているのではないかということかもしれません。
○山本教授 確かにおっしゃるとおりで、24か月かどうか分かりませんが、そういう業務停止命令が出されるような状況になった場合には、業務停止の状態が続いたときに、なお支払いを継続することができるかどうかということを考えていくことになりますから、それに基づいて破産手続開始申立てに行政庁としては、比較的直結していくということは考えられると思いますので、現状の特商法等の調査権限で一定の対応が行える場面もあるのだろうと思います。
最後の第3点で言われた代理委員というのは、確かに私もあまり気付きませんでしたけれども、おっしゃるとおりのような気がします。破産法もそうなっていたかどうか記憶が定かではありませんけれども、倒産法改正のときに、代理委員等の権限をより強化すべきだという観点から、裁判所のほうで代理委員の選任の勧告等をすることができるという制度を作ったように記憶しておりますので、そうだとすれば、確かに特定適格消費者団体を代理委員として裁判所が活用するということで、預金保険機構等と類似した役割を果たせる、あるいは簡易確定手続と同じような局面を作ることができる可能性はあるなと思いました。そういう意味では、現行法でももう少しの手当が必要になるのかもしれませんけれども、一定程度は確かに対応できるなと、お話を伺って思いました。
○黒木座長代理 ありがとうございます。今後も勉強させていただければと思います。よろしくお願いいたします。
○山本教授 よろしくお願いします。
○後藤座長 他にいかがでしょうか。
中川委員、よろしくお願いします。
○中川委員 中川です。どうもありがとうございました。2点質問です。
一つは、1の破産の目的ですが、被害拡大の予防というときの被害の意味は、被害者がもっと増えていくという意味での拡大の予防と理解してよろしいかということです。放っておくとどんどん取引をする人が増えてきて、結局破産手続しても1人分の取り分が少なくなるわけですけれども、1人分の取り分が少なくなるという意味での被害なのか、それとも被害者が拡大していくのか、両方なのか。債権者申立てとか債務者申立ての場面を考えると、結局、被害者が拡大するから取り分が少なくなるということなのか、資金が流用されて取り分が少なくなるということなのか、という辺りです。
他方、先ほど金融庁からは、行政機関が申し立てるときには早め早めにとおっしゃっていたので、そのタイミングという意味では、被害者が拡大することの防止という意味に捉えやすいなと思います。これは行政法的に分かりやすい。被害者の拡大防止という公益のための制度ということになります。
他方、被害の充足度、回復度合いが減っていくというのは、公益なのかどうか微妙な気がして、その辺りの被害という意味について説明していただきたいのが1点目です。
もう1点は、3番目の個別執行の場合の保全は難しいのではないかということです。私は保全のイメージがほとんどないので教えていただきたいのですが、ここである包括的保全処分というのは、管財人を任命して、とにかく全財産をという手続で、それはなるほどと思いました。
他方、個別執行という場合、例えば1,000万円までとか1億円まで保全したいというような、被害額が大体このぐらいだと、最大で1億円だと、そうなので1億円分まで保全したいという場面かと思います。仮に預金口座等が見つかって、それで1億円いくのだったらそれでよろしいというような場合であれば、それは非常にラッキーかもしれませんが、個別執行でも保全は可能ですよね。個別執行の例として、組織的犯罪処罰法でしたか、確か没収保全という規定があったと思います。あれは恐らく金額が決まっていて、その分だけ保全するということなのかなと思うのです。そういうタイプを個別執行に対する保全と考えてよいのか。そして、その場合には管財人は付ける必要がないのか、それでも付けることはあり得るのか、この辺り、初歩的なのですけれども、御教示いただければと思います。
以上の2点です。
○山本教授 ありがとうございました。
まず、1番目の破産による処理の目的というところですが、私の書いた趣旨としては、下の被害拡大の予防というのは、中川委員の今の御指摘からすると、その前者です。要するに被害者が増加することを防止するという趣旨で書きました。
中川委員の言われた後者、個々の被害者の取り分が少なくなるというのは、むしろ本来的目的に属するものという整理をしておりまして、つまり被害者というのは要するに債権者ですから、そのまま放置することによって債権者の取り分、つまり債権の回収額が減少していくということを防止して、配当の最大化を図るというのは、私は破産法の本来的な目的であると考えています。これは一般企業でもあることなのです。つまり赤字をずっと垂れ流していて、そのまま業務を継続すればするほど、債権者が債権を回収できなくなる。早く出血を止めて清算してしまったほうがいい。これは正に私は破産の本来の目的であろうと考えているところであります。
それが公益かというところで言うと、おっしゃるように、それ自体は公益と言えない。つまり個々の破産債権者の問題だと思います。ただ、ここでの局面というのは、個々の債権者が自ら破産手続を申し立てることが難しい局面ということを前提にしておりますので、一種の後見的な作業が入ってくるところかなと思っていまして、そこに行政庁が入ってくるのかなということです。これは先ほどの預金者、あるいは投資家保護の具体的な内容がどういうことなのかということですが、私はそこにそういう後見的なもの、行政が果たす後見的なものも入っているのではないかなと思って伺っていました。少なくとも私のレジュメの趣旨としてはそういうことであります。
それから、第2点の個別執行の点ですけれども、これは正に中川委員に整理していただいたとおりになります。包括的保全処分と私が言っているのは、管財人的な保全管理人を選任して、それが事業者の業務遂行権、あるいは財産の管理処分権を奪って、要は中に入っていって、どういう財産があるのかということを調査していくのが究極の形として考えられるかなということです。あるいは債務者の財産を特定しないで、全ての財産について処分を禁止するというのも、それに準ずる形での包括的保全処分と理解をしております。
そういうことができるのは、先ほど申し上げたように限定的な場面だと、それに対して中川委員が言われた1億円なら1億円というものについて金額を限定、特定して行われる保全処分というのは、これは個別執行の局面においてもちろんできることだと思います。
ただ、その場合、一つの限界は、処分禁止で差し押さえられる財産を特定しないといけないというのが、現在の日本の制度の立て付けになっているところかと思います。これは先ほどの調査権限と関連してくるところかなと思うのですけれども、調査権限が充実すれば、個別執行に伴う保全でも対応できる。つまり個々の財産をかなりの程度調査で特定できれば、それを特定して保全を申し立てることで足りるということはあるのかなと思います。そういう意味では、これは調査権限と裏腹の問題かもしれませんけれども、中に入って実際に帳簿とかを調査して保全するということが必要なのだとすれば、こういう包括的保全処理が必要だということになっていくのかなと、私自身は思っています。
とりあえず以上です。
○中川委員 よく分かりました。ありがとうございました。
○後藤座長 どうもありがとうございました。
それでは、板谷委員、よろしくお願いします。
○板谷委員 1点教えてください。最後のところで特定適格消費者団体の活用の可能性に触れていただきました。その御説明の中で触れられた破産手続における代理権のイメージなのですが、更生特例法における預金保険機構のように個々の契約者への通知を不要として全体を代理するという意味なのか、それとも、現状、私たちが行っているように個々の消費者に通知した上で授権契約をしてその範囲で代理するという意味なのか、どちらのイメージかということを教えていただければと思います。
○山本教授 ありがとうございます。
私は特定適格消費者団体を使う場合には、今おっしゃったうちの前者はなかなか難しいのだろうと思っています。ガバッとやるのは、預金保険機構等が平時から預金者の名寄せとか、そういうことをやって預金者を把握する。今日御説明がありましたように、預金保険機構とかの本来の役割は、正に保険者として銀行等が潰れた場合に1,000万円なら1,000万円までをきちんと預金者に保険金の支払いという形で支払うために、どの銀行についてどういう預金者がいるか、同姓同名の場合、これは同一の人なのかどうか、そういうことを平時にもやっていることを前提として、預金債権者表等の提出というのがあると思うのです。
特定適格消費者団体はもちろんそんなことやっているわけではないので、そこをやるのは無理なのだろうと思うのです。ですから、必要最低限、届出を簡易確定手続のように個別に消費者団体のほうに通知してもらって、それをまとめて届け出ることは可能なのかなと思いますが、できるのはその後の段階です。あと、債権者側が破産者側、あるいは管財人が争ったような場合に、債権者を代理して一定の活動をする。そういったようなところが限度だし、しかし、それでも意味はあるのかなと、先ほど黒木座長代理からは破産法における代理委員として、そういう活動をするということの御指摘がありましたけれども、そういうようなイメージを私自身は持っております。
○後藤座長 よろしいですか。
黒木座長代理、お願いいたします。
○黒木座長代理 ほとんど意見になりますけれども、倒産手続自体が教授のおっしゃるとおり、債権者の公平と満足と付随的な目標というようなことをおっしゃっていますけれども、現状、御指摘との関係でも、この前の事業再生研究機構で、伊藤眞教授とか、松下教授とかのお話を聞いていると、様々な価値観を倒産手続は包摂し得る手続として、今認識されつつあるのではないかなと思っています。
そういう意味で、それに多様なプレーヤーが包摂されてくる方向での拡大が十分考えられるかと思っています。その意味で、今日の教授のお話を聞いて、今までの手弁当方式といってもいい被害者による弁護団方式での申立ては、もう持続可能性がありません。そういう意味でも消費者庁といった行政機関による破産申立てと、行政処分と法人格、取引規制法で業務を停止させた場合に、この法人格がどうなるのかという問題について真正面から議論して、何とか成果を出したいと思いました。そのために今日の教授のお話は非常にエンカレッジになりましたので、どうもありがとうございました。
○後藤座長 それでは、大石委員、よろしくお願いいたします。
○大石委員 山本教授、お話をありがとうございました。
私も先ほどの金融庁のときに質問しようかと思っていた部分があって、更生特例法のお話のときに、投資者保護の観点から手続というか、顧客への連絡というのは不要であり、既に金融機関から行うというのに対して、今回のこの消費者庁にという場合には、適格消費者団体が関わらないと、なかなか個々の消費者への連絡ですとか、そういうものは難しいのだなというのは、今の教授のお話を聞いて大変問題点として感じました。
そういう意味で、本当に感想になるのですけれども、なかなか先は長いからこそ、消費者保護で今回のような御提案いただいた内容をしっかり検討していかなくてはいけないのだろうと、本当に雑駁ですけれども、感想までです。ありがとうございました。
○後藤座長 どうもありがとうございました。
他にございませんでしょうか。それでは、以上にさせていただきます。
後半では、山本教授から、行政庁による破産申立制度について、特に破産法の目的との関係において行政庁による破産申立ての趣旨をいかに考えるか、また、消費者である債権者が債権届出を行うことの困難性といった問題点等について、非常に有益な御意見をいただいたと思います。
行政庁の破産手続申立権については、既に消費者の財産被害に係る行政手続研究会においても一定の議論がなされていたということでありまして、本日も山本教授から、行政庁の申立権についての消極的な意見に対する反論という形で、注目すべき御意見が開示されたと考えております。
例えば金融庁を除き、他の所管庁が申立権を有していないこととのバランスをどう考えるのかということに関しては、問題となる事例が悪質事業者による多数消費者被害という場面で生じているということですので、他の所管庁がこの権限を有していないということであっても、それとのバランスが問題となるような状況ではないのだということで、悪質事業者による多数消費者被害の場面においてこそ、破産手続の申立てが行政庁によってなされることが必要であるということ。これは私もそのように考えればよろしいということで理解したところであります。
それから、消費者庁が事業者の生殺与奪を決めることは適切かということに関しても、これは適用場面、ぐるぐる回しとよく言われますけれども、破綻必至商法の場面で問題となるということで、対象を限定することにより解決できるのではないかということです。これは確かに説得性がある議論だと私も考えます。
その他、調査権限・調査体制の検討が必要であることに関しても、本日、質問が出ており、従来、このワーキング・グループでもその点について触れた部分もあるわけでありますけれども、やはり行政庁が行う行政処分、例えば、業務停止命令とか、そういう行政庁が把握している材料を精査することによって、かなり実際の問題性に迫ることができるのではないかという方向で考えられるのではないかと思います。ただ、具体的な調査権限・調査体制の検討ということについては、今、申し上げたような方向性は確かにありますけれども、今後、より具体的に詰めていく必要があると感じております。
それから、事業者の財産状況や優先債権との関係で、実際に被害救済に結び付くのかどうかということについても、既にこのワーキング・グループでも一定の議論はされておりますけれども、なかなか決め手がないという状況だと思います。具体的には租税債権とか労働債権に優先するようなものとして、不法行為債権を考えてよいのかということですが、一般の債権として扱われるものをより優先する形で考える。そういうことを法律で規定することができるのか、その理屈付けをどうするのかということです。不法行為債権に優先権を付与するということについて、これは民法上の課題でもあるという御指摘を山本教授からいただきましたけれども、そういう点についても更に深める必要があるのではないかと感じました。
いずれにしても余剰金がある段階、そういう早い段階で手続を開始することが可能であれば、優先権の問題についても一定程度解消されることになると思いますので、早い段階での問題状況の探知、これは先ほど言いました調査権限や調査体制の検討と結び付く問題であります。そういう問題についても、これまで議論してきておりますけれども、より深く検討する必要があるのではないかと感じました。
一般的な方向性として、破綻必至商法は必然的に破産に至る商法であるわけですから、破産手続を前提とした制度的手当を検討するということは、方向性としては基本的に正しい方向だと思います。それを具体的にどのような形で進めていくかということについても、次第にこのワーキング・グループの成果として、方向性と具体的に詰める点というのが、明らかになってきつつあると思いますけれども、以上、申し上げたような問題点がまだあるということでして、既に繰り返し議論がされている部分もありますので、そういう従来の議論も振り返って考えていきたいと思います。
それから、適格消費者団体の役割というのも非常に重要な問題で、特にどのような形で代理の機能を果たすのかということに関しても、具体的に板谷委員から御質問が出ておりました。こういう問題についても簡易確定手続に類似するような側面があると、山本教授からも御指摘していただいておりますので、こうした点についても考えていく必要があると思います。
本日いただいた御意見も踏まえた上で、次回以降、引き続き検討を進めてまいりたいと思います。
本日の山本教授の御報告からは、今後に対して非常に示唆に富む御教示をいただいたと考えます。どうもありがとうございました。
≪3.閉会≫
○後藤座長 それでは、本議題については以上といたします。
最後に、事務局から御連絡をお願いいたします。
○友行参事官 本日も御議論いただきまして誠にありがとうございました。
次回の会合につきましては、確定次第、御連絡させていただきます。
○後藤座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。お忙しいところ、お集まりいただきましてありがとうございました。会議画面の赤色のアイコンを押していただいて御退場ください。よろしくお願いいたします。
(以上)