第12回 デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ 議事録

日時

2023年4月4日(火)14:00~15:40

場所

消費者委員会会議室・テレビ会議

出席者

  • (構成員)
    【会議室】
    後藤座長
    【テレビ会議】
    飯島座長代理
    清水委員
  • (オブザーバー)
    【会議室】
    大石委員
    消費者庁取引対策課
    【テレビ会議】
    木村委員
    黒木委員
    板倉陽一郎 ひかり総合法律事務所パートナー弁護士
    坂下哲也 一般財団法人日本情報経済社会推進協会常務理事
    丸山絵美子 慶應義塾大学法学部教授
    万場徹 公益社団法人日本通信販売協会専務理事
    独立行政法人国民生活センター
  • (参考人)
    【会議室】
    杉谷陽子氏 上智大学経済学部経営学科教授
  • (事務局)
    小林事務局長、岡本審議官、友行参事官、田村企画官

議事次第

  1. 開会
  2. 論点整理
  3. 有識者ヒアリング
  4. 事業者ヒアリング
  5. 閉会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

《1.開会》

○後藤座長 皆様、本日は、お忙しいところお集まりいただき、ありがとうございます。

ただいまから第12回「デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ」を開催いたします。

本日は、大石委員と消費者庁取引対策課の奥山課長、私が会議室にて出席しております。それから、飯島座長代理、清水委員、木村委員、黒木委員、板倉委員、坂下委員、丸山委員、万場委員、独立行政法人国民生活センターがテレビ会議システムにて御出席いただいております。一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構は御欠席です。また、有識者へのヒアリングとして、上智大学経済学部教授の杉谷陽子様に会場にて御参加いただいております。お忙しいところ、誠にありがとうございます。後ほど改めて御紹介いたします。開催に当たり、会議の進め方等について、事務局より説明をお願いいたします。

○田村企画官 本日もお集まりいただき、ありがとうございます。本日は、テレビ会議システムを活用して進行いたします。発言時以外は、マイクの設定をミュートにしていただきますようお願いいたします。また、画面は、皆様差し支えない範囲でオンにしていただければ幸いです。御発言の際は、混線を避けるため、チャット機能を使用して発言する旨お知らせいただき、それを確認した座長から指名がありました後に、発言をお願い申し上げます。本日は、報道関係者を除く一般傍聴者の皆様には、オンラインにて御参加いただいております。議事録については、後日公開することといたします。配付資料は、議事次第に記載のとおりです。お手元の資料に不足等がございましたら、事務局までお申し出くださいますよう、お願いいたします。以上でございます。

《2.論点整理》

○後藤座長 本日は、これまでのワーキング・グループの審議を踏まえて、論点を整理いたしました。資料配付を行っている参考資料と論点整理について、事務局から御説明をお願いいたします。

○事務局 消費者委員会事務局でございます。この後、資料1の論点整理について御説明申し上げますが、その御説明に入る前に「参考資料」と書いてございます資料2点につきまして、先に御説明申し上げたいと存じます。こちらの参考資料は、SNSやチャット機能といった用語などにつきまして、必要と考えられる情報についてまとめているものでございます。御紹介する内容は、今後も必要に応じて修正、更新することを想定しておりますので、あくまでも現時点版ということで御理解いただければと存じます。それでは、参考資料2点について、御説明に入りたく存じます。

最初に「参考資料1-1」と記載された、表紙が緑色の資料について御説明させていただきます。2ページに参りまして、SNSを主要な機能として2つに分けましたという内容でございます。「投稿機能型SNS」は、主に投稿機能を提供するサービスでして、例として、Facebook、Twitter、Instagram、YouTubeを挙げております。「投稿機能型SNS」には、LINEは含まれておりませんので、その点は御認識いただければと存じます。続きまして「メッセージング機能型SNS」を御紹介しております。こちらは、主にチャット機能を提供するサービスでございます。相手を特定してメッセージ等を送るもので、送られた相手以外は閲覧できないという特徴がございます。

3ページに参ります。先ほど来御説明しました2ページについて図にしたものが、3ページでございます。SNSは、サービス等が多岐にわたります。個別具体的な検討を行う際には、SNSは用語として曖昧なところがございますので、図のとおりに分けることが考えられます。左側の青枠は「投稿機能型SNS」としており、FacebookやTwitterなどを指しているところでして、右の赤枠では「メッセージング機能型SNS」を指しております。検討においては、SNSという主語で語らずに、SNSは、少なくともこれら2つを分けて考える必要もあろうかと考えております。また、ワーキング・グループにおきましては、チャット機能について検討しているところでございますので、主に赤枠の「メッセージング機能型SNS」が該当することになりますが、青枠の「投稿機能型SNS」においても、利用するユーザー間の連絡ツールとしてチャット機能を提供しているところもありますので、青枠については、(2)としまして「チャット機能ではありません(DM除く)」と記載しております。DM(ダイレクトメッセージ)とSNSのチャット機能について、次のページで御説明申し上げます。

4ページに参ります。現時点では、投稿機能型SNSは、投稿機能に加えまして、ダイレクトメッセージ(DM)と称して、利用するユーザー間の連絡ツールとしてチャット機能を提供しているところがありますので、それが赤枠の部分でございます。SNSのチャット機能をまとめますと、メッセージング機能型SNSに限らずに、投稿機能型SNSにおいて、DMでチャット機能を利用されているところもありますので、赤の点線部分がSNSのチャット機能の範囲となります。

参考資料1-1の説明のまとめとしまして、本資料は、大枠として2つの点を申し上げました。5ページを御覧いただければと存じます。1つ目は、SNSについて、青と赤のグループ「投稿機能型SNS」と「メッセージング機能型SNS」の2つに分けることができますと御説明申し上げましたが、それが5ページの上の図でございます。2つ目は、SNSを2つに分けまして、SNSのチャット機能は、双方のSNSに存在しますというのが、5ページの下の図でございます。

以上、参考資料1-1は、5ページのとおり、SNSという用語を投稿機能とチャット機能を2つに分類しまして、さらに、SNSのチャット機能は双方のSNSに内在していますという確認的な説明資料でございました。

続きまして、表紙がオレンジ色の資料となりますが、参考資料1-2の御説明に入らせていただきます。先ほど参考資料1-1で、SNSとSNSのチャット機能の整理をさせていただきました。ワーキング・グループでは、チャット機能という言葉が多く出てくるところでございますが、それでは、チャット機能はどのような商取引に利用されているのかにつきまして、御説明がなかったところでございますので、この機会に、参考資料1-2で、商取引に利用されるチャット機能の事例としまして、3パターンの利用例を御紹介させていただきます。2ページを御覧ください。商取引に利用されるチャット機能の事例を3つ御紹介しております。

利用例1つ目としましては、チラシ等の配信に利用されておりますので、こちらを御紹介させていただきます。例えば消費者がお友達登録した後に、事業者から消費者に対してチラシ等の広告が配信されるものでして、利用企業としてはかなり多いのではないかと思われます。消費者からのチャットの問合せには返信できない、事業者からの発信による一方向のもので、双方向のやり取りは不可のものを挙げておりまして、こちらは、電子メール広告に近いものではないかと整理しているところでございます。商取引に利用されるチャット機能の利用例1つ目として、チラシ等の配信でございました。

利用例2つ目としまして、Q&A(チャットサポート)で使われておりましたので、御紹介申し上げます。こちらは、事業者において用意したチャットに消費者から問合せをすると、AI、または人間が回答するものでございます。こちらは、双方向のやり取りではございますが、消費者からの問合せに対して回答・返信があるものであって、不意打ち性がないものと整理しております。商取引に利用されるチャット機能の利用例2つ目として、Q&Aの御紹介でございました。

利用例3つ目としまして、情報商材等の勧誘を挙げております。こちらは、氏名・勧誘目的等を告げずに、消費者とやり取りを行い、事業者が消費者を勧誘する場合があるもので、双方向のやり取りは可能なものと整理しております。いわゆる情報商材などの勧誘に使われることが散見されまして、右下にイラストを掲載しておりますが、ふだん多くの方にコミュニケーションツールとして利用されているものが商取引に利用されているイメージでございます。こちらは、例えば事業者からやり取りを開始したり、勧誘目的を告げずに、消費者にやり取りを開始させる場合には、不意打ち性があるのではないかと整理しているところでございます。商取引に利用されるチャット機能の利用例3つ目としまして、情報商材等の勧誘でございました。最後に、参考資料1-2のまとめでございます。

3ページに参りまして、先ほど来御説明しました、商取引におけるチャット機能の利用例として、①~③の利用例を掲載しております。広告規制は、例えば①~③のケースにかける必要があるといったこととか、勧誘規制は③のみにかけることになるのではないかといったように、この後御説明申し上げます資料1の論点整理の検討の際などに、実際の利用例があると検討の一助になるかと存じまして、先に御説明させていただきました次第でございます。

以上、参考資料1-2は、チャット機能は、3パターンの商取引で利用がなされていますといった御紹介、御説明でございました。駆け足で御説明させていただきましたが、参考資料2点の御説明は以上でございます。続きまして、資料1の論点整理について、引き続き事務局から御説明申し上げます。

○田村企画官 それでは、論点を整理したペーパー、資料1につきまして御説明させていただきます。本ワーキング・グループにおきましては、昨年夏に一度報告書を取りまとめていただいておりまして、特商法の通信販売のうち、積極的な勧誘がなされる類型について、SNSのメッセージによる勧誘と電話勧誘の類似性を念頭に置きつつ、勧誘規制等を検討することが必要であるという点について、検討いただいておるところでございます。

なお、メッセージ機能のやり取りはSNSに限らないことから、チャット機能という言葉で検討を行っていただいているところでございます。前回(第11回デジタル化に伴う消費者問題ワーキング・グループ)にて、有識者の先生方から御発表いただきました点をベースに、事務局にて現時点で考えられる論点を5つにまとめてみましたので、御説明させていただきます。

おめくりいただきまして、1ページ目でございますが、論点の一覧と、各論点につきまして、時系列でどういうイメージになるか、整理させていただいております。

まず、論点1の承諾をしていない者へのチャット広告の提供禁止ですが、これは下の表で言いますと、④のチャット機能でのやり取りに入る前の段階、例えば③のLINEで言いますと「友だち追加」登録ボタンを行う段階などで承諾を取るといったことが考えられます。②とか③の段階で、論点1が関わってくるということでございます。

論点2と論点3は、チャット機能に関する勧誘規制の検討ですので、下の表で言いますと、論点2ですと、④のチャット機能の冒頭、あるいは論点3ですと、実際のやり取りの場面で勧誘規制が入ってくるところでございます。

論点4の「勧誘規制の対象」は、今申し上げた論点2と論点3について、どういった勧誘規制の要件を設けるかということでございます。

論点5につきましては「表示事項の項目追加」ということで、前回のヒアリングにて先生方から御提起いただいたものの例で言いますと、例えば最終確認画面に何らかの表示事項を追加してはどうかということですので、④あるいは⑤の辺りでそういった検討が必要になってくるところでございます。それでは、各論点の御説明を簡単に御紹介させていただきます。

2ページ目でございますが、論点1ということで、現行法におきましては、通信販売の広告規制として、電子メール広告等について、消費者の承諾を得ないで送信することは禁止されているということでございますが、チャット機能を利用した広告を送る際にも同様の規制を検討すべきではないかという論点でございます。

規制の必要な理由といたしましては、1つ目のマルにございますように、現状では、消費者がチャットが来ることを承諾する段階で、商品販売の広告が来ることを認識できずに、意図しない契約に至るといった消費者トラブルが発生していること。

2つ目のマルの2つ目の矢印に下線が引いてございますが「取引の公正と消費者が望まない取引に誘い込まれることの防止を図る」といった、電子メール広告と同様の趣旨、あるいは前回のヒアリングで先生方から御指摘いただいたように、容易性や低廉性から、販売業者が何度も、かつ、時間に関わりなく送信することが可能といった電子メール広告の特性とも共通する点があるのではないかといった点で御提案いただいたものでございます。論点1につきましては、論点2以下の規制項目との関係も踏まえながら、規制の必要性を御検討いただきたいと考えております。

4ページ目でございますが、論点2でございます。論点2と論点3につきましては、チャットを利用した勧誘規制の導入に関する論点でございます。後ほど論点4で勧誘規制を適用するに当たっての要件の話をさせていただきますが、まずは規制の内容について御説明させていただきます。まず、論点2でございますが、チャット勧誘の開始時に、販売業者の氏名・目的、商品の種類等の明示義務を課すべきではないかという論点でございます。こういった規定は、電話勧誘販売とか訪問販売にも現行法で設けられている規定でございます。

規制を必要とする理由といたしましては、例えば6ページ目の2つ目のマルに「氏名・目的等の明示の必要性」という項目がございますが、勧誘の端緒において、氏名や目的等を明らかにしないということは、消費者がそのような勧誘を受けるか、拒否するかを判断する最初の重要な機会を奪うものであるといった観点、あるいは下から3行目にありますように、勧誘目的を偽ってやり取りに入ることや、匿名性といったチャットの機能を踏まえると、チャット機能でのやり取りが始まる段階で、電話勧誘販売とかと同様の規制を入れることが考えられるのではないかという理由から御提案いただいているものと承知しております。

続いて、論点3でございますが、論点3-1にありますように、チャット機能を利用した勧誘について、電話勧誘販売など他の類型に規定されている勧誘規制を参考に、同様の行為規制を設けるべきではないかという論点でございます。また、民事ルール、例えば取消権とかクーリング・オフの検討も必要ではないかという点でございます。規制が必要な理由といたしましては、相談事例等を見ますと、販売業者による不実告知とか断定的判断の提供といった勧誘行為が見られるということでございます。さらに、チャットの特徴でございます密室性とか双方向性、匿名性といった観点を考慮すると、消費者が自由な意思形成を行うことを前提とした従来の広告とは違う性質をもっているのではないかといった理由が指摘されているところでございます。

続きまして、8ページ目の論点3-2でございますが、そういった規制を設けるに当たりましては、通信販売の中に「チャット機能を用いてやりとりする場面」を切り出して規制を設けるのか。これは、通信販売の広告規制をいかしながら、チャットでのやり取りを伴うものには、その広告規制プラスアルファの規制を設けるという考え方になります。それが①でございますが、そういったやり方か、あるいはチャットの場面を通信販売から切り離してしまった上で、電話勧誘販売の規制を当てはめるとか、通信販売から切り離して、別の規制をかけるのか、その場合に、どういった規制をかけるのかも含めて検討する必要があるということです。以上、論点3でございます。

続いて、論点4でございます。12ページまでおめくりいただきます。論点4-1でございますが、まず、規制の検討対象としているチャット機能について、どのような特徴を有するものを勧誘規制の対象とすべきかという観点でございます。1つ目のマルの最初の段落にございますように、通信販売は、基本的には、購入者等が販売業者等から圧力を受けずに、契約を締結する意思の形成を行うものであり、本来、購入者とは、自らの意思形成について全面的な自己責任を有する。これは逐条解説に記載のあるところでございますが、こういったことを前提に、法規制が考えられていると思います。一方、池本弁護士の発表にありましたように、チャット機能を利用した働きかけは、文字によるメッセージではあるが、個別の消費者に対する双方向性のやり取りによる具体的な働きかけが行われるものであると。こういったやり取りを通じて、当初の想定とは違う、意図しない契約をしてしまう事例が発生している現状があるということでございます。

それから、2つ目のマルでございますが「実際の被害が起きているチャット機能」の特徴といたしましては、密室性のやり取りであること。双方向のやり取りであること。情報のカスタマイズが可能ということですが、これは、個別の消費者の反応に応じて、具体的な働きかけが事業者から可能という意味でございます。また、勧誘目的や販売業者等を隠匿して、接触しやすい。匿名性とか覆面性という言葉で表現されておりますが、そういった特徴とか、短文のやり取りの繰り返しということで、会話的なやり取りであるということ。それから、プッシュ通知ですと、既読機能が相まって、返信を迫られる意識が生じやすくて、かつ、即時的なやり取りの性格を有するものであるといった特徴をヒアリングの中で示していただいたところでございます。こういった機能的な特徴が相まって、不当な勧誘行為が行われやすく、消費者に誤認を生じやすい取引形態であるということで、チャット機能を規制の検討対象としているということであります。

そこで、論点4-1でございますが、勧誘規制の対象となるチャット機能でございますが、先ほどの参考資料1-2で最初に御説明させていただきましたが、オレンジのほうの参考資料1-2の3ページにございますように、例えば勧誘規制の対象とするものとしては「①チラシ等の配信」は、一方的な配信なので、そこまで規制の対象にする必要があるのかという点、あるいは「②Q&A」に関する部分は、消費者からの質問に対して事業者が対応するという面で、そこについてまで規制の対象とするのかどうかという点を確認する必要があると存じます。

③については、現在、被害事例が発生している情報商材等の勧誘に関するもので、双方向性、密室性のあるやり取りで、会話性、先ほどチャットの特徴として御説明させていただいたようなやり取りが行われる場面ということでございます。チャット機能と申しましても、使い方がいろいろとございますので、対象をよく検討していく必要があるのではないかということで、論点4-1で、チャット機能のうち、どのような特徴を有するものを勧誘規制の対象とするかというところを挙げさせていただいております。

続いて、論点4-2の不意打ち性のある形態に限定すべきではないかという点でございます。ここにつきましては、13ページの2つ目のマルの「規制の対象の限定と規制根拠」でございますが、これは池本弁護士から御提案のありました点でございます。論点2や論点3の勧誘規制をかけるチャット取引ですが、要件として、不意打ち性のある形態を適用の対象としてはどうかという御提案をいただきました。具体的には、グループチャットなど、既に何らかの方法で入手した消費者のアカウントに対し、販売業者から勧誘を開始するケースとか、商品や役務の勧誘目的等を表示しないで消費者にアカウント登録させて、チャット機能による勧誘を開始するケースが挙げられておりました。これらは不意打ち的に個別勧誘が始まるという点で、電話勧誘販売と類似性があり、規制の要件としてはどうかという御提案でございます。また、不意打ち性のある形態に限定することで、クーリング・オフも含めた電話勧誘販売と同等の規制を入れることの根拠として十分であるかという点についても、併せて検討いただければと考えております。

続きまして、最後の論点5でございますが、広告表示に関する論点でございまして、消費者がトラブルに遭わないために、どのような表示がどこに必要かという論点でございます。具体的には、14ページの2つ目のマルにございますように、申込みの意思表示の内容を最終的に確認できるように、特商法の12条6で、分量等について最終確認画面の記載を定められておりますが、そこに消費者が申込みの意思表示の内容を最終的に確認できるように、商品の種類等についても追加すべきではないかという問題提起がございました。この点については、池本弁護士からは、チャットによる勧誘を伴う通信販売は、商品、役務の種類とともに、チャットの匿名性が特に強いことから、販売業者名、連絡先も必要との御意見もあったことを御紹介しておきます。

なお、規制の対象といたしましては、通信販売一般に規制をかけるのか、あるいはチャット機能を利用して契約に至ったものに限定するのかという点も御議論いただく必要があると考えております。以上、現時点で、前回の有識者の先生方の御発表を踏まえて、論点を5つに整理させていただきました。本日も有識者へのヒアリングを行いますので、そういった内容も踏まえまして、この資料の見直しを適宜行ってまいりますが、時間の都合上、本日は御議論いただく時間がございませんので、本日のヒアリングも踏まえて、また次回、御議論いただく時間を設けたいと思いますので、よろしくお願いいたします。本日は、論点の御説明までとさせていただきます。以上でございます。

《3.有識者ヒアリング》

○後藤座長 ありがとうございました。次に、有識者ヒアリングとして、本ワーキング・グループで検討対象にしております、チャット機能によるやり取りによる消費者の心理的な影響に関連し、双方向のコミュニケーションが消費者心理にもたらす影響や、デジタル空間における心理的な影響について議論しようと思います。

本日は、上智大学経済学部教授、杉谷陽子様にお越しいただいております。お忙しい中、御出席いただき、ありがとうございます。それでは、よろしくお願いいたします。会場にお越しの傍聴者におかれましては、御発表中の写真撮影は御遠慮願います。それでは、よろしくお願いいたします。

○杉谷教授 上智大学の杉谷と申します。ただいま御紹介にあずかりまして、ありがとうございます。本日は、チャットによる通信販売につきまして、消費者心理学、社会心理学の観点から、何か参考になる情報提供ができればと思っております。

私は、法律的なことは全く素人でございますが、例えば先ほど来御説明いただきましたチャットの無料通信アプリ等を使って働きかけを受けて、契約をしてしまったのだけれども、その消費者が本来望んだものとは違っていた、というような不幸な事例が最近増えてきていることに関しまして、社会心理学の視点からどのように考えることができるか、2つの視点からお話しさせていただければと思っております。

具体的には、前半は、チャットというコミュニケーションの特徴に関して、後半では、人間の認知の特徴、物事をどのように捉えるかに関して、心理学の理論を御紹介できればと思っております。

1点目は「コミュニケーションの特徴」なのですが、今回例に挙がっておりますLINE、あるいはInstagram、YouTube等、SNSには様々な形態が今ありますが、心理学では、アメリカでパソコン通信が普及したことをきっかけとし、1970年代ぐらいからコンピューターを介した人と人のコミュニケーションに関する研究が非常に多く積まれております。

その成果の一つに「社会的存在感の理論」があります。これは、コミュニケーションをとっている相手を「生身の人間として感じているかどうか」という点に注目した理論です。

コンピューターを介したコミュニケーション、例えばメールですと、相手の顔が見えない、声が聞こえない、表情が見えないということになります。一般的には、このようにコミュニケーションの手がかりが欠如していることに起因して、相手を生身の人間として感じられにくくなり、例えば極端なことを言ったり、攻撃的になったり、コミュニケーションの負の側面が露になると言われてきました。ただし、この問題は、コミュニケーションツールが発展することで、どんどん変わってきているとも言われています。

ここでは、社会的存在感、相手を生身の人間として感じているかどうかということを一つのキーワードといたしまして、今議論になっておりますチャットによる通信販売を考えてみたいと思います。例えば、事業者から広告やチラシが送られてくる場合、メールが来る場合、チャットで短い時間で短文のコミュニケーションが交わされる場合、あるいは、電話の場合を、メディアコミュニケーションというくくりで比較してみます。簡単な整理ではありますが、コミュニケーションが、①文字ベースか音声ベースか、②リアルタイムか非リアルタイムか、③一方向的か双方向的か、という3つの軸で整理できると思います。

一般的に、コミュニケーションの手がかりが多くなっていくと、社会的存在感が増す、と捉えられています。コミュニケーションの手がかりとは、コミュニケーションに際して相手に伝わる言葉、表情、身ぶり手ぶり、声の調子、服装や時刻など、その構成要素のすべてを指します。例えば、音声は、本人を特定するための手がかりを与える、匿名性を下げる力がありますから、より「リッチな」と表現されるのですが、文字よりは音声のほうがコミュニケーションの手がかりが多いとみなされます。文字は、タイプで打っている限りは、誰が打ったものかわからない匿名性がありますので、音声のほうがリッチなコミュニケーションであり、社会的存在感が高くなると考えられます。

そして、非リアルタイムとリアルタイムでは、リアルタイムのほうが情報交換が速く進んでいきますので、その分、手がかりもリッチであると考えられます。また、例えば、何時何分にコミュニケーションしているかということも、実は相手に情報を与えているのです。昼間にコミュニケーションをするのはフォーマルかもしれませんが、夜中に来るメッセージは、少しパーソナルな印象に変わったりと、時刻もコミュニケーションでは重要な情報になっていたりします。

そして、一方向か双方向は、先ほどの論点の整理の中でも度々出てきましたが、一方的なコミュニケーションでは、その後、その受け手がどうしたかはわかりませんが、双方向コミュニケーションの場合には、お互いに相手の反応が見え、相手に関する情報量が増えていくことになりますので、相手の存在感が高まっていくことになります。

こうやって整理いたしますと、実はチャットというコミュニケーションツールは、極めて電話に近い特徴をもっていると整理できます。文字か、音声かという違いはありますが、リアルタイムのコミュニケーションである点では同等です。リアルタイムの情報交換は、時間的な切迫感が生まれます。相手のペースに合わせて、すぐに返信しなければいけないので、じっくり考えてから返信するという受け手側の余裕も削られてしまうのが、リアルタイムのコミュニケーションの特徴です。メールは、「じっくり考えて、明日返信しよう」でも許されるところが、チャットだと、まだ返事がこない、既読にならない、といったところからプレッシャーが生まれます。時間的切迫感は、リアルタイムのコミュニケーションでは高くなり、それはチャット、電話に共通であると指摘できます。

また、メールとチャットは、どういった状況で使うことが多いかという社会的文脈の観点から見ましても、スマホのアプリを用いたチャットはプライベート、パソコンで打つメールは仕事で使うことが多く、メールは公的なもの、チャットは私的なものという使い分けが世の中で何となくコンセンサスとしてあります。その文脈において、チャットで働きかけをしてくることは、ややプライベートに踏み込まれてくるような感覚とか、パーソナルなコミュニケーションというイメージを相手に与えやすく、これが親しさをつくっていく手がかりになっているともいえます。

親しみのあるコミュニケーションは、社会的存在感を高めると言われています。つまり、相手の存在感を感じやすいコミュニケーションであることは、チャットの特徴といえます。そうしますと、相手の存在感がコミュニケーションではどういった効果をもたらすかを考える必要があります。相手の存在感が高いコミュニケーションは、相手が目の前にいるという感覚が強いため、ある種のプレッシャーを受け手に与えます。私たちは、人間社会が営まれていく上で、常識的にこのようにするものだというコンセンサス、「人間関係のルール」を、明文化されていないもの、法律的に定められていないものも含めて、有しています。それらの様々な人間関係のルール、社会のルールに基づいて私たちは生活していますから、相手が人間として目の前にいるのだと強く感じると、そのルールの働き方が強くなります。

私たちが社会関係を構築する上でもっているルールの一例としまして、「返報性の規範」があります。相手によくしてもらったら、お返しをするべきだというルール。このルールは、わたしたちは道徳として幼い頃から勉強しています。人に何かしてもらったら、お返ししたいという気持ちを持つことは、一般的な感覚かと思います。そうしますと、チャットによる通信販売の状況では、相手が丁寧に商品説明をしてくれたとか、一生懸命に働きかけをしてくれたことに対して、受け手側は何かお返しをしてあげたいという気持ちや、負い目みたいなものを感じて、お返しをしたいという気持ちから、望まない契約にオーケーをしてしまうことにつながる可能性があります。

また、「社会的望ましさの規範」も大変強いルールと言われています。これは、人間として、より良い人間でありたいという人間の基本的な欲求です。社会において、悪い人間でありたいと思っている人は、絶対にないとは言えないかもしれませんが、通常は、人は人として正しくありたいと思っています。そうすると、できれば目の前の相手に快い返事をしてあげたいという気持ちから、自身が望まない契約を我慢して結んでしまうことが起き得ます。あるいは、もうこの会話をやめてしまいたい、この人間関係をやめたいと願っているのだけれども、いい人でありたいという気持ちから、相手からのチャットを無視できない、ブロックして会話から離脱することをためらう、という状況が出てくるものと推測されます。

さらに、「一貫性の法則」も重要です。人は一旦自分が発言したこと、行動したことを変えたくない、という基本的動機をもっていると言われています。1回オーケーと言ったことを後から取り消すことは、自分自身の中で矛盾を抱えることになるので、抵抗感をもつのです。1回いいよと言ったら、その後もずっといいよと言い続けるのが、心地よい状態なのです。この特徴を活用した説得の技法も、心理学ではたくさん知られていまして、たとえば、簡単なことを1回承諾させて、その後にだんだん要求を大きくしていくことで、大きな話も承諾させられるという説得技法が知られていたりします。

以上のような社会のルール、人間関係のルールが、チャットのような社会的存在感が高いコミュニケーションでは働きやすくなってしまうと指摘できると思います。以上が「コミュニケーションの特徴」に関するお話です。

次に「人間の認知の特徴」についてお話ししてまいりたいと思います。ここでは、私が心理学の功績として、もっとも興味深い理論のひとつであると思っている「認知的不協和理論」を御紹介したいと思っています。人間は基本的に、ものすごく自分にとって都合がよい世界の認識の仕方をしています。そして、非論理的で、直感的です。これは、教育レベルが高い・低いを問わず、人類全体にそういう特徴があるとされています。これは、人間が生物として生き残っていくために、必要だったからそうなったと考えられていて、決して悪いことではないのです。ところが、時にその特徴が悪い方向に働くこともあります。したがって、知っておくととても良い理論だと思っています。

「認知的不協和理論」は、人が、「こうだと思っていること」と事実が不整合だった場合に、不協和と言われる強い不快感を生じて、何とかその不快感を解消しようと動機づけられる、という理論です。この不協和解消の動機は、とても強いものと言われています。話を分かりやすくするために、例を挙げたいと思います。例えば、喫煙者の方は、たばこはそれほど身体に悪くないと思っていることが知られています。なぜならば、たばこが身体に悪いということと、自分がたばこを吸っているという事実は、不協和を起こすため、日常的にその不協和を解消しているからです。身体に良いものを吸っていれば、それは協和状態ですから問題ないのですが、自分はたばこを吸っているのに、たばこは身体に悪いとなると、非常に耳が痛い状態です。人は不協和状態をこのままにしておけないのだというのが、認知的不協和理論の指摘です。

では、どうするかというと、一つの解決方法は、喫煙をやめればいいのです。行動を変更することによって、たばこは身体に悪いのだという認知と、私はたばこを吸っていないという認知が協和状態となり、心地の良い状態に戻って、安定します。

ところが、なかなかたばこをやめられないとなったときに、人はどうやって自分を楽にしようとするかというと、認知を変えることをします。つまり、たばこは必ずしも身体に悪くない、ストレス解消に役に立つのだとか、たばこを吸っている人だって長寿の人がいるのだといったように、たばこは身体に悪いという認知の方を変更することによって、たばこを吸っている状態との協和状態をつくり出そうとします。

この理論を用いますと、チャットによる通信販売で詐欺の被害にあってしまうという問題の構造が見えてくるように思います。不協和の解消方法は、行動を変えるか、認知を変えるかの2つしかないのですが、次のスライドをご覧ください。チャットで簡単にお金が稼げるという勧誘があったときに、最初は、この勧誘は怪しいな、こんな良い話はあるはずないと、多くの人は思うかもしれません。ですが、もう一方に、お金が欲しいという自分自身の動機・信念が存在しています。そうすると、お金が欲しいという自身の希望に合うのは、楽にお金を稼げる勧誘の話を受け入れること、その勧誘を怪しいと考えることは、お金が欲しいという動機と不協和状態なのです。

ここで、こんな勧誘の話は怪しいのだから、私は今より条件のよい仕事に就いてお金を稼ごう、そのために人一倍努力をしようと思って、そのように実行できれば、あんな怪しい勧誘に引っかからなくてよかった、と思えようになる、すなわち、協和状態をつくることが出来ます。しかし実際、人一倍努力してお金を稼ぐことがなかなかうまくいかないとなってきますと、もう一つの不協和解消方法が必要になってくるわけです。つまり、この勧誘は怪しくないのだと、認知を変更し、お金を楽に稼ぎたいという認知との協和状態をつくることになってしまいます。

最初は怪しいと思っていたにもかかわらず、自分にとって都合が良い状態に認知を変更してしまう人間の認知の特徴は、悪用されてしまうと、詐欺に付け入られる隙になってしまうと理解することができます。こういった人の認知の特徴を知ることは、チャットによる通信販売の被害の問題を考える上で、すごく重要な観点と思っております。

これに関連しまして、人の認知の特徴として、「仮説確証バイアス」という現象が知られています。人は、あらかじめ自分がこうだろうと思っている方向、こうあってほしいと思う方向に沿って世界を認識しようとする、ということです。したがいまして、自分にとって都合が良い情報は積極的に耳に入ってきて、都合が悪い状態はあまり耳に入らない、という特徴もあります。これは無意識の過程なので、啓蒙したからといってコントロールできる問題でもなく、人はどうしても都合が良い情報だけを収集しようとしてしまいます。1回こうかなと思うと、その仮説を確証する、思い込みを支持してくれるような情報ばかりを集めて考慮に入れようとするので、第一印象は変わりにくいと言われています。チャットの働きかけの場合、最初に相手にすごく良い人だという印象をもってしまった場合、その好印象に見合う情報ばかりに注意が向き、詐欺だと気づきにくくなることがあるかもしれません。そういう意味でも、最初の一歩でどんな働きかけをするかという問題は、一つの注意するべきポイントになるかと思います。

駆け足ではございましたが、以上で、私のお話は終わりにしたいと思います。まとめますと、まず、チャットというコミュニケーションツールは、チラシや他のデジタルコミュニケーションと比較しまして、相手の社会的存在感が高い、相手の存在をリアリティーをもって感じやすいので、人間関係におけるルール、社会のルールが働きやすい状態となります。したがって、説得に応えてあげたい、契約の内容自体がどうかということは置いておいて、相手に対して良い人でありたい、優しくしてあげたい、親切にしてあげたい、という思いが働き、後で後悔するような契約も拒絶できなくなってしまうと考えられます。人間関係のルールが、悪質な事業者に「つけ入る隙」を与えてしまうのです。だとするならば、一旦クールダウンして、後から契約を見直すチャンスを与えてあげることが必要なのではないかと考えられます。

もう一つは、人間は、自分がこうであってほしい、こうであろうとあらかじめ思った方向で世界を認識しますので、最初の一歩でどういう印象を与えるかによって、後々の情報処理が引きずられていきます。

さらにいえば、先ほど認知的不協和理論の御説明で紹介しましたとおり、真っ当に努力しても、正当な金銭が得られないのだという認知、根強い社会不安とでも呼べるでしょうか、そういう不安が強い社会では、何かうまい話があったときに、そこに人々が心を動かされてしまう土壌としての隙のある心理状態が醸成されてしまっているのだと思います。チャットによる通信販売の被害をきっかけとして、より大きな社会問題も考えていかなければいけないということも、今日ご紹介した理論から示唆されているようにも思っております。私からの報告は以上になります。御清聴ありがとうございました。

○後藤座長 ありがとうございました。ただいまの杉谷教授からの御発表に関して、御質問や御意見がある方は、チャット欄にてお知らせください。清水委員、よろしくお願いします。

○清水委員 御説明ありがとうございました。私は、現場で消費生活相談員をしています。先生の話を聞いて、最初から最後までうなずいて、そういうことだったのだと思いました。

特に、7ページのスライドの相手の存在感というところで御質問があります。最近の相談では、SNSやメール、チャットだけで契約するケースが非常に多いです。これは、若者だけかというと、そうでもなくて、40代、50代でもある傾向で、今後、どんどんこういった被害が増えるのではないかと思っています。私は、これは特定商取引法の電話勧誘販売だ、頭を冷やす期間、まさしくクーリング・オフという制度が必要ではないかと思っています。チャットは、対話が文字で残っていきます。

対面で話すと目に見えないのですが、チャットだと、画面で対話が残っていくのは、逆に言うと、対話よりも洗脳されるのではないかと最近思うのですが、この点はいかがでしょうか。ほぼ対面の対話に近いというのはそのとおりなのですが、逆に言うと、印象に残ってしまう。そして、自分が一旦、はい、良いですね、私もやってみたいですと言ってしまったら、だんだんこんなうまい話はないかもと思いながらも、否定できない自分が、文字化することによって、存在感を増してしまうことによって、洗脳されてしまうと思っていますが、いかがでしょうか。よろしくお願いします。

○後藤座長 いかがでしょうか。お願いします。

○杉谷教授 御質問ありがとうございます。「洗脳」という表現はここでは少し難しいかなと思うのですが、文字で見えることの効果に関しましては、御指摘のとおり、文字は後から見直したときに履歴が確認できるという、音声と異なる特徴があると思います。

音声は、その場その場で発信し、録音されていなければ基本的に残らないものですから、後で「言った、言わない」みたいな問題になったりします。通常は、例えば1週間前に自分が何を言ったかということを振り返ることはあまりないわけですが、チャットは後から読み返すことができますので、それを見て、私はこういう発言をしたのだということを再確認し、自分自身がそれを発言したのだ、という認識が強まっていく可能性はあると思います。

そうしますと、プレゼンテーションの中でも一貫性のルールについてお話させていただきましたが、1回自分が言ったことを覆すことに抵抗を覚えるという基本的な傾向が人にはありますから、発言が文字に残っていることによって抵抗感が強まる可能性は否定できないように思います。

実際、オンラインで口コミを書き込んでいる消費者を対象とした研究では、口頭の口コミと、文字でSNSなどに書いた口コミでは、後者の方が書き込んだ本人に対する効果が強い、という研究もあります。文字と音声とでは、誰がしゃべっているかが特定可能で、匿名性が低いという観点から音声の方が影響が強いという議論もありますが、自分が言ったことを振り返るという点を考えれば、文字に残っていることは、後から意見を翻す抵抗感が増すという考え方も十分にあり得ると思います。

○清水委員 ありがとうございました。相談の現場では課題山積でして、不意打ち性や広告による誘引とか、数多く規制が必要だと感じますが、まずはチャットの対策です。ありがとうございました。

○後藤座長 板倉委員、よろしくお願いいたします。

○板倉委員 弁護士の板倉です。ありがとうございます。心理学で、どれが正しいのか判断がつかない、単純接触効果もよく言われるのですが、そうすると、チャットでも、普通はしつこくされると、うっとうしいなというのがあるのですが、何度か来ると信じてしまうというのは、どうなのでしょう。消費者心理学の観点から、単純接触効果はあるとされているのか、それは俗説なのか、いかがでしょうか。

○杉谷教授 御質問ありがとうございます。単純接触効果は非常に有名なので、度々引用されることがありますが、単純接触効果が起きるとされる条件は結構厳しくて、かなり特定的な状況でしか起きないと言われています。単純接触効果が生じるのは、最初に接触した時点ではニュートラルな刺激の場合に限られます。最初に接触したときに、何の意味合いもなく、何も知らない刺激であるときには、接触が繰り返されると、一切の事前接触なしで出会ったときと比べると、多少好意度が高まる、という話です。今回のように、例えば最初から怪しいとか、あるいは、相手と仲良くなりたいとか、良い話だといったような、最初から人の評価が入り込んでいるような状況において、繰り返し接触が起きれば必ず好意が高まるという議論は当てはまらないと思います。

むしろ最初に嫌だなと感じる刺激、一瞬にして嫌だなという感じがあるものは、何度も接触すると、もっと嫌いになっていくのです。最初の時点がニュートラルというのが大前提でして、もともと好きなものや嫌いなものは、接触すればするほど、どんどん評価が極端化するだけなので、その議論と今回の話は、状況を吟味して当てはめていかなくてはならないと思います。

○板倉委員 ありがとうございます。勉強になります。

○後藤座長 大石委員、よろしくお願いします。

○大石委員 御説明ありがとうございました。お話のなかで一番気になったのは、12ページの仮説確証バイアスのところです。例えばチャットでお金もうけの勧誘があったとき、最初は怪しいと思うのに、チャットなどでやり取りをしていると、だんだんそれを怪しくないと思ってしまうというところです。その下の仮説確証バイアスでは、第一印象は変わりにくいと書いてあるのですが、それが最初の自分の印象と変わっていって、最初は怪しいと思っていたものが、だんだん怪しくないと思えてくるのは、チャットの特徴ということになるのでしょうか。それとも、最初の怪しいという印象を変えないために、何か手立てのようなものがあり、直感を信じきれるようなことができればと思うのですがいかがでしょうか。教えていただければありがたいです。

○杉谷教授 ありがとうございます。確かに御指摘のとおりです。最初は怪しいという印象があったのに、認知的不協和理論の話では、それが後から変わっていくプロセスの御説明でしたし、一方で、仮説確証のプロセスは、第一印象は変わりにくく、むしろどんどん強化されていくという話でしたので、予測が逆になっていくのではないかという御指摘だと思います。これはとても難しいのですが、両方あり得る話、というのが答えになります。

ただ、今回の問題を考えるうえでは、私は認知的不協和理論の予測はものすごく強いと思っていまして、自分の認識を変えたほうが都合が良い場合、認識は変わると思います。仮説確証バイアスが起きるプロセスも、結局、自分が最初に思ったことが正しいほうが自分にとって都合が良い、心地よいので、自分がこうあってほしいという動機づけの方向に向かって情報収集をして、認知が強化されていくということです。受け手側の動機、自分がどうしたいかということによって世の中のとらえ方が変わっていくところがポイントになります。どうしてもお金が欲しいという動機が強い人は、きっと、図でお示ししたようなプロセスで、怪しくないのだと思いたい方向で仮説確証が起きてしまうのでしょうし、一方で、最初からお金儲けにあまり関心がなくて、勧誘を怪しいと感じている人は、その仮説を確証し、やはり怪しいと思うでしょう。

本人の動機によって先々の認知が変わってくると考えるべきなので、そういう意味では、うまい言い回しで、本人の深層心理というのでしょうか、欲しいと思っているものをうまく突かれてしまったときに、人は説得に弱くなるということだと思います。

○大石委員 よく分かりました。ありがとうございます。

○後藤座長 黒木委員、よろしくお願いいたします。

○黒木委員 御説明ありがとうございました。認知的不協和理論は、非常に興味深く聞いておりましたが、行動経済学でヒューリスティックという概念も使われていると思っておりますが、認知的不協和理論とヒューリスティック、あるいは認知バイアスとの関係について教えていただければ、大変ありがたいと思います。よろしくお願いいたします。

○杉谷教授 ヒューリスティックとは、経験則のことです。教科書的に言いますと、人間の認知の特徴を理解するという章で勉強する内容であるという共通点はあると思うのですが、今回のプレゼンテーションは、ヒューリスティックの議論とはちょっと別の視点からのお話だったと御理解いただいたほうが良いかと思います。

ヒューリスティックが構築され、維持されるプロセスで、仮説確証バイアスのプロセスが働いているということは言われておりますが、ヒューリスティックは、過去にこのようにやって、うまくいったから、このようにしたら良いのだといった経験則が積み重なったもの、「こういうときはこう」みたいな一種のステレオタイプのようなものです。もし今回のチャットによる通信販売の話にヒューリスティックの話を当てはめるとするならば、過去に通信販売の経験がすごく豊富で、しかも成功体験が豊富で、だから、過去の経験則、ヒューリスティックに当てはめて判断をし、結果的に失敗してしまった、というような議論はあり得るのかもしれません。つまり、過去の通信販売経験が一種のヒューリスティックとして悪く働く可能性がある、みたいな議論でしょうか。過去にカタログ通販でたくさん良い経験をしたため、通信販売の成功体験のヒューリスティックがあり、チャットでもそれが枠組みとして意思決定に影響する…という議論はあり得るのかもしれません。そんなところでお答えになっていますでしょうか。

○黒木委員 ありがとうございます。逆のことで、例えば事業者のほうで、そのような認知バイアスとかヒューリスティック、簡単な結論にぽんと出ていったほうが楽だという消費者心理を利用しながら、チャットで勧誘するという側面では、ヒューリスティックは考えにくいということでよろしいのでしょうか。

○杉谷教授 そうですね。事業者のほうが、例えば過去に通信販売で成功体験を積んでいる人たちに対して、そのヒューリスティックを使わせるような形で、例えばチャットで勧誘しているのだけれども、枠組みがものすごく昔の通信販売の形に似ている訴求をする等して、つまり、受け手のヒューリスティックを活性化させて利用する、みたいなことは、議論として可能かもしれません。何か新しい事象に遭遇したときに、ヒューリスティックを利用して判断することは、基本的には悪くない結果をもたらすので人間はそうしてきたわけですが、たまにそれが悪い結果をもたらすことがある。その方向で議論することは可能かと思います。

○黒木委員 ありがとうございます。

○後藤座長 板倉委員、よろしくお願いいたします。

○板倉委員 引っかかる人の特徴として、自分にだけ良いことが起きるというのを割と信じやすいというのが我々の経験則上あるので、これは、心理学では何か議論とかはあるのでしょうか。合理的に考えれば、同じようなことをやったら、事業者のほうは絶対に赤字で、そんなことが成り立つわけがないのに、なぜか自分だけは良い目にあうと信じやすいと、消費者問題に関係している相談員や弁護士は、経験則上、そう思っているのですが、これに何か名前がついていたらと思うのですが。

○杉谷教授 なるほど。「自分だけがラッキーだ」みたいに思う傾向については、実は、国際比較調査などを見ますと、日本人は、結構幸せなのに不幸だと答える割合が高いという傾向がむしろ指摘されているぐらいなので、私はそれが強い原因になっているような気はあまりしませんが…。もしその傾向に名前があるとするならば、「楽観主義」のようなものと思います。実は人間は、世の中のリスクを正確に捉えていったら、みんな精神的健康を失ってしまうぐらい、毎日の生活にはリスクが多く綱渡りで生きている存在、といわれています。精神的に健康に生きるために、人は基本的に、「私は大丈夫」と思いながら生きている、みんなポジティブ方向のバイアスをもっているのだと思うのですが、程度問題があって、とりわけポジティブ・バイアスが強い方は、確かに御指摘のとおり存在していて、社会調査みたいなものをやってみますと、人口動態や社会的属性など様々な変数と相関しています。もしかしたら、だまされやすいかもしれない人たちの層、みたいなものを発見できる可能性もあるかもしれません。ただ、「自分だけがラッキーだ」みたいな傾向に何か名前がついているかというと、私は今すぐに思いつけないです。申し訳ありません。

○板倉委員 ありがとうございます。

○後藤座長 奥山課長、お願いいたします。

○消費者庁取引対策課 大変分かりやすい御説明をありがとうございます。この手の商法のやり方のもう一つの特徴として、最初に小額なものを買わせて、それでうまく効果が上がらない。それでもう一度相談させると、もっと高い、例えば50万円とか、最初は1~2万円の普通に手が届くもので、2回目に事業者が狙っているものを買わせるという手口を使うのですが、わざわざこういう仕組みを使うのは、行動経済学なり、心理学なりをうまく使っているということなのでしょうか。

○杉谷教授 おっしゃるとおりだと思います。段階的要請法と言って、よく知られた手法の一つで、「フット・イン・ザ・ドア技法」ともいうのですが、最初は小さいところから要求を承諾させ、あとから本来の大きな要求を承諾させる説得方法です。先ほど私がプレゼンテーションの中で申し上げました通り、一貫性の法則が人間にはあるので、小さな要求を1回オーケーすると、その後もオーケーするほうが心地よい、協和状態になるので、小さな承諾をオーケーした後にちょっと大きな要求をするとオーケーがもらいやすくなると言われています。まさにこの要請法を利用した販売方法が実際行われていることは昔から知られています。逆に、最初にあり得ないぐらい大きな要請をして、断らせてから、今度は返報性の規範に訴えかけ、断ってしまって申し訳ないから、小さいものなら買ってあげようという心理を利用した譲歩的要請法も存在します。いずれにしても、効果が高いと言われています。

○消費者庁取引対策課 ありがとうございます。

○後藤座長 ほかにいかがですか。私も質問したいのですが、スライドの表紙は「消費者心理学の視点から」となっており、3ページ目だと、「人間の認知の特徴」となっていて、「消費者」という言葉と「人間」という言葉と、違う言葉を使っています。消費者も、もちろん人間なのですが、法律では、問題を考えるときに、人間と人間との間の契約なのか、そうではなくて、事業者と通常の人間の間の契約なのかを分けて考えます。

事業者との関係では「消費者」という言い方をして、その間の契約が有効かどうかといったことを考えるのですが、今、先生が御指摘していただいた人間の認知の特徴は、人間対人間という場面と、事業者対人間という場面で、その当てはまる度合いや強さとかは異なるのでしょうか。事業者と消費者の間だと、人間一般の問題と比べて、また違う判断要素が出てくるとか、そのようなことはあるのでしょうか。その点を教えていただくとありがたいのですが。

○杉谷教授 ありがとうございます。このプレゼンテーションの中では、特に「人間」と「消費者」という言葉を、あまり区別せずに使っておりまして、消費者はみんな人間なので、ほぼ読み替えていただいて良いかと思っています。消費者心理学は、主に社会心理学をベースとしていまして、たとえば人間と人間の間で生じる認知の理論を、そのまま消費の問題に当てはめていたりします。ただ、相手が1人の人間ではなくて、事業者という「集団」となったときに、どう変わるかといいますと、そこについては、社会心理学の理論の中で、対商品や事業者(企業)であっても使えるものは使うし、合わないものは使わないという形で研究が積まれてきていて、集団だからこそ変わるという議論は、少なくとも消費者心理学ではあまりされてきていないなと、今気づきました。一方で、組織心理学という領域では、個人と組織、という視点からも議論されています。例えばさっきの話でいきますと、社会的存在感、人を生身の存在として感じるかどうかは、相手が1人だと強く感じるのだけれども、集団となると存在感が薄れていくといった形で働いていると思います。相手が一人だと、その人がどんな人かということが分かってくるほど、リアルな人間として感じてしまって、断ったらかわいそうかなという感情が生まれるところが、人の名前ではなくて、企業の名前になったとたん、不特定多数に見えてきて、人間らしさを感じなくなり、抵抗なく断りやすくなったりすることもあると思います。チャットの怖いところは、対企業でも、相手と1対1の会話に見える点だと思うのです。だからこそ働きかけが強くなって、相手が企業ならば、心理的負担なく断りの連絡をできるところが、チャットだと人に見えるために断ったらかわいそうかなという心理が働きます。そこを突くという意味では、パーソナルなコミュニケーションに見せられるところがチャットの特徴の一つなのかなと理解しています。

○後藤座長 ありがとうございました。杉谷先生の御報告で、チャット機能でのやり取りと従来の広告の違い等について、双方向と一方方向のコミュニケーションの違いなど、心理学の観点から、消費者へもたらす影響について御説明いただきました。よく理解できました。

○杉谷教授 ありがとうございました。

《4.事業者ヒアリング》

○後藤座長 次ですが、ワーキング・グループで検討されている、チャット機能を用いた商取引に対する規制に関連して、万場委員より、通信販売事業者からの御意見をいただきたいと存じます。万場委員、御説明をよろしくお願いいたします。

○万場委員 本日は、このような機会を設けていただきまして、ありがとうございます。それでは、資料を1枚めくっていただきまして、本日の御説明の内容ですが、まずは、大上段に構えてしまっていますが、真に実効性ある規制を行うために、何が必要かというところの考え方と、事業者からの立場として、過剰な規制とならないためには、どうしたら良いのかということと、最後にまとめ、その他ということで進めていきたいと思います。

2ページですが、まず、これまでのワーキングで検討されました被害者事例については、幾つか共通点があるのだろうと思っています。メインの規制のターゲットは何なのかということですが、チャットを通じて不当な勧誘が行われている、いわゆる勧誘目的を隠して勧誘を始めるところが問題であろうということ。それから、一般的な通販の場合、1回当たりの注文金額は、単価で言いますと5,000~6,000円ぐらいかなと。

ところが、これは被害が非常に大きな、高額な商材が使われている。特に情報商材であったり、副業についてもそうですし、何段階かに分けての勧誘でどんどん金額が大きくなるということで、非常に高額なものが販売されているところがあろうかと思います。それから、被害回復が非常に困難であるところも非常に特徴的だろうと思います。これらの販売は、一般的な通販の事業を行う事業活動とかけ離れていると思います。下の図で示していますが、被害者の事例を見ると、勧誘目的を秘して近づかれて、それにだまされる。それから、先ほど言いましたように、高額な商材が非常に多い。それから、購入してから初めて内容が分かるケースもある。特に情報商材などはそうだろうということで、それに比べて、一般的な通販は、広告上で売るものは明らかですし、売る目的も明らかである。しかも、大体日用品程度のものを扱っている。それから、契約の内容、その他は、広告上で明らかにしている。被害事例は、明らかに一般的な通販とはかけ離れたものではないかと思います。したがって、通販の規制というよりも、不適切な勧誘行為について、そこに絞って規制を行うべきではないかと思います。

次に、チャットについては、第11回ワーキング・グループで坂下委員からも御説明がありましたように、リアルタイムで情報交換する、あるいは送信し合うシステムだということでありますが、特に被害事例では、チャットの相手方の意思形成に能動的に働きかける勧誘行為、あくまで勧誘に利用されているところが問題であると思います。一般的な通販は、御存じのとおりで、一方的に広告を発信するわけですが、お客様からの注文を待つという受動的な販売が一般的な通販であると。または、チャット機能を利用したとしても、それは双方向で、一部例外はあるかもしれませんが、能動的に勧誘するのではなくて、事務手続の御案内であったり、そういう使い方をしている。これは後ほど、またどういう使い方をしているかという実際のお話をさせていただきますが、少なくとも勧誘行為を行うものではないということであります。

特商法の11条でも、そういう形で、通信販売については、あくまで受動的なものであると定義されているところだと思います。規制のメインターゲットは、チャットで、画面の表示があるから通信販売だという単純な規定ではまずいのではないかと思っております。チャットを利用して、顧客の意思の過程に能動的に関与するケースを通販としての枠内で捉えるのは、無理があるのではないかという気はしております。実際に、仮に代用して、通販の規制で規制しようとした場合でも、勧誘の目的の明示とか、書面の交付、クーリング・オフといったところの効果は得られないわけで、通信販売の規制を代用するのは不適当ではないかと考えているところでございます。したがって、双方向でやるチャットで勧誘を行うことについては、一般的な通販とは切り離して、区別して議論する必要があるのではないかと考えているところでございます。

次のページですが、そもそも不適切な勧誘行為が行われていることが原因であるということでありまして、勧誘ではない通信販売とはしっかりと区別していかなければいけないと思っております。チャットが利用される場面において、一番問題であるところは、勧誘行為として問題となる事案と、通信販売とは切り分けて、新たな勧誘規制を行うべきではないかと考えます。後ほど事例を出しますが、勧誘とは言えない通信販売のチャットの利用については、明確に今回の勧誘規制については除外すべきではないかと考えているところでございます。実際に、通販事業者からの意見を聞いたところで、我々の会員社がどういったチャット機能を利用しているかについて、御紹介したいと思います。

1番目は、入力補助型といいまして、広告バナーを自らクリックして、LP(ランディングページ)に遷移した人たちに、入力を補助するためにチャットを利用したり、自動音声応答で入力を補助することをやっている。最終的にはホームページに飛んで、そこで申込みをしますので、そこにおいては、特商法に基づく表示をきちんとしている。それから最終確認を行う形をしています。

それから、クロス型と言っていますが、チャットを利用しているのですが、例えば注文商品の消耗品とか、関連の商品の購入を案内するケースはございます。関連商品を追加購入するときには、必ずそれはまた特商法に基づく表示とか、そういうことによって最終確認を行うということであります。

また、情報発信型のSNSのアプリ。友達登録をされた方に対して、特定の登録者に対してですが、イベントの通知をしたり、キャンペーンとか紹介のメッセージを配信するといったことは行っております。

また、もう一つの情報発信型としては、SNSのチャットを利用して、リンクも使いながら、ECサイトを案内したり、あるいは電話番号を表示したりということで、あくまで通信販売の販売経路として、アカウント名も、もちろん社名もしっかりと表示した上で行っているということであります。

もう一つは、顧客対応型ということで、商品の返品とか交換、定期購入の休止、変更とか、契約関係に関する事務手続的なことに対しての問合せに答えることもやっております。実際に人が応答する場合もありますが、そういう形でやっているということであります。

したがって、次のページですが、チャットということだけで規制ということになると、通販全体に与える影響が非常に大きい、広過ぎるということでございます。したがって、不当な勧誘があるという切り口で問題を整理していただけないかと思っております。下に図を書いておりますが、特に言いたいところは、チャットはいろいろと利用しています。一般的な事業者もいろいろな形で利用はしていますが、問題となる行為は、そこの下に示したとおりで、オレンジの部分ではないかと思います。本ワーキング・グループのターゲットは、オレンジの部分ではないかと考えているところでございます。

次に、実務ベースで見ますと、規制そのものに対しての疑問点といいますか、その辺についての意見がありましたので、御紹介したいと思います。自動応答の場合の問題ですが、勧誘を行う者の氏名について表示するべきでないかといった議論がありますが、顧客の問合せ対応のときは、AIで対応することが多くて、自動的にやり取りする場合もかなり多くなってきております。その場合、勧誘を行う者は誰なのかというのが不明なケースがあるのではないかということでございます。それから、従業員の保護というところで言いますと、最近、カスタマーハラスメントの問題等もありまして、店頭でもそうですが、なかなか従業員の氏名を開示しないことがあります。あまねく勧誘を行う者の氏名を明らかにするのは、過剰な要求ではないかという意見もございました。

それから、企業と事業者間、消費者間のコミュニケーションを阻害するという問題ですが、消費者に商品やサービスを販売するだけではなくて、消費者とのコミュニケーションを取るために、チャットを利用したり、いろいろな形でやっております。そのやり取りの中で、売り買いの話も出てくることはあろうかと思いますが、せっかくコミュニケーションを深める意味で利用しているところが限定的になったり、規制を受けることになると、明確な要件をきちんと定めた上で、どれが適用されるか、どれが除外されるかということを明示的にしっかりと範囲を限定してやっていただきたいということでございます。そうしないと、せっかくSNS、あるいはチャット機能を使って、消費者としっかりとコミュニケーションを取ろうというところをやりにくくなる事態を招いてしまうのではないかという懸念があるという意見もございました。

あくまで不当な勧誘行為に至らないケースまで広く規制が及ぶことがないように、ぜひともお願いしたいと思います。特に、さきの特商法の改正でも、検討会においては、詐欺的な定期購入がターゲットだということで議論していたわけですが、結果的には、定期購入だけではなくて、単品の通販についても大きく網をかけられたということで、業界側としては、システム改修に非常に多額の費用がかかったりということで、一般的な通販をやっている事業者にとっても、非常に大きな影響があったということでございますので、ぜひともその辺は配慮いただきたいと思います。実際、コミュニケーションを取ることにつきましては、消費者志向経営というところも言われておりまして、消費者に情報を提供して、情報交換することが推奨されているわけで、そこの部分がやりにくくなるような規制だけは、ぜひとも避けていただきたいと思います。

最後に「まとめ」ですが、結果的には、チャットを利用するということではなくて、いわゆる不当な勧誘が行われているところを切り口にぜひともお願いしたいところであります。これは論点2にもつながるところでございます。それから、通信販売と不当な勧誘はしっかりと切り分けて、規制の対象にしていただきたいということでございます。また、仮に新たな勧誘規制を設ける場合につきましては、諸外国の在り方も参考に、ぜひとも明確な要件をしっかりと特定していただきたいということと、適用除外を明確にしていただきたいと思うところでございます。

最後に、その他ですが、実際に今までの検討会におきましてもお話しさせていただきましたが、勧誘行為が見つかった場合に、自動的にアラートを表示する、あるいはSNSを提供されている事業者と協働して、いろいろな取組があるかと思います。もちろん、SNSのガイドラインといいますか、そういうものには、アカウント停止という強力な措置もあるように、たしか発表もございましたが、そういう強力な措置を採らずとも、もうけ話や投資の話とかのチャットがあった場合には、機械的にアラートが出て、しっかりと警告して、消費者が危ないものに近づかないという早期警戒アラートシステムができれば、それに足るものはないのではないかと思います。それから、消費者保護と消費者教育ですが、まさしく技術発展とか社会変化に合わせた、アップデートした消費者の属性ごとの消費者教育をやるべきではないかと思います。心理学の先生からも、いろいろと落とし穴がいっぱいあるお話もありましたが、基本的にもうけ話は駄目なのだということをしっかりと消費者教育で教えていただきたいと思います。

また、消費者被害を防止する観点ですが、特に特商法とかだけではなくて、消費者安全法に基づく注意喚起とかそういうこともできますので、新たな悪質商法の芽が察知された場合には、そういったあらゆる法律を駆使して、防止に努めていくことも必要ではないかと思いますし、そういうことをやることによって、効果的な対処ができるのではないかと思います。また、収入が得られるとか副業、情報商材の販売もありましたが、そういうものについては、既存の業務提供誘引販売取引の規制もありますので、そういったこともしっかりと活用していけば、事足りるのではないかと思う次第でございます。私からは以上でございます。ありがとうございました。

○後藤座長 万場委員の御説明を受けまして、意見交換をしたいと思います。発言のある方は、チャット欄にてお知らせください。丸山委員、よろしくお願いします。

○丸山委員 万場委員、ありがとうございました。基本的な整理の方向性は、これまでの本ワーキング・グループでの検討にも沿っていると捉えましたので、異論ということではないのですが、確認したい事項が幾つかあるので、確認させていただければと思います。

まず、4ページで、通信販売とは明確に切り分けて勧誘規制を行っていくべきではないかと御指摘しております。これに関連してなのですが、例えば販売目的などを秘匿して、チャットで勧誘していて、仮にその後、現実に会って、対面で勧誘する場合は、訪問販売のくくりで対応することになる。また、チャットで始まって、電話に至った場合は、電話勧誘で対応することになるということで、恐らく、落ちている部分は、チャットで始まって、そのまま画面上で契約してしまう、今の規制でいうと、通販の部分となると思いました。勧誘にフォーカスしてという点は、そのとおりかなと思ったのですが、恐らく、ほかの状況に至った場合については、ほかの規制がかかってくることもあって、通販というくくりで議論しているのかなと私自身は理解していましたので、これが第1のコメントになります。

第2のコメントとしましては、8ページになるのですが、新たな勧誘規制を設ける場合には、諸外国の規制の在り方も参考にしてはどうかという御指摘をいただいております。私が知っている範囲ということになるのですが、恐らく、EUやEU諸国を参照した場合については、通信販売については、全体にクーリング・オフや情報提供義務が入っておりますし、不当な勧誘については、不公正な取引方法の指令がありまして、そこに一般条項的な規律があり、攻撃的な取引方法については、不招請勧誘のようなものも含めて全般的にかけていける規制を置いていることになりますので、要件を明確・具体化することの参考となるというよりは、海外では、より一般的なアプローチをしている状況になります。アメリカでも、FTC法5条あたりが参考となりますので、もしかすると諸外国を見ても、具体的な要件の明確化という情報は出てこない可能性があるという点は指摘できるのではないかと思います。ただ、一点、私のほうでは調べ切れなかったこととしまして、LINE等の非マッチング型のいわゆるDPFにおきまして、その場で取引への不当勧誘がされている場合に、警告義務や注意喚起義務などを諸外国ではどの程度求めているのかという点については、情報が整理できませんでしたので、その辺りは調べてみる価値はあるのかなと思いました。これがコメントになります。

最後に、9ページになりますが、質問としまして、最初のご提言で、勧誘行為に自動的なアラートの表示が行えればどうかと、非常に魅力的な御指摘をしていただいているのではないかと思いました。その関係で、私は技術的なことは分からないので、教えていただきたいのが、LINEのような通信の秘密がかかってきそうなチャットのやり取りに、自動的にこれはPRですよ、勧誘行為ですよ、といったアラートを出していくことは、果たして技術的に可能なのかという点を教えていただければと思いました。最後は質問となりますので、もし情報があれば、教えていただければありがたく思います。以上でございます。

○後藤座長 万場委員、いかがでしょうか。

○万場委員 私も、技術的なところは全然詳しくないので、通信の秘密とかそういうことについて、できるかどうかは分かりませんが、私がイメージしたのは、検索サイトなどで、怪しいサイトとか、危ないウイルスにかかっているサイトに近づいた場合に、このサイトは危険ですよというアラートがポップアップで出ることがありますね。そういうことがSNS上でもできれば、非常に問題を防げるのではないかということで、期待を込めて書かせていただきました。以上です。ありがとうございます。

○後藤座長 万場委員にお尋ねしたいのですが、今、丸山委員からは3点の御指摘が出ておりまして、3点目については御回答いただいたのですが、1点目、2点目について、コメントがありましたら、教えていただくとありがたいのですが。

○万場委員 それは、先生のおっしゃるとおりではないかと私も思っております。ヨーロッパとかアメリカで、SNSに対する規制は、具体的にどういう被害が起こっていて、どのように対処されているかが分かれば良いのかなと私は思っているところでございます。以上です。

○後藤座長 第1点目の通信販売と切り離してということであるならば、訪問販売の規制とか電話勧誘販売の規制が適用されるので、結局、今している議論は、位置付けとしては通信販売の問題になるのではないかというのが、私の理解の範囲ですが、丸山委員の御指摘だったと思うのですが、そうなると、通信販売とは切り離して、不当勧誘という形で議論するということに関して、万場委員はどうお考えなのか、教えていただくとありがたいのですが、いかがでしょうか。

○万場委員 情報商材であったり、もうけ話とか投資と、そもそも一般的な商品ではないところもあると思うのです。我々が普通に通販というと、日用品の物販であって、もうけ話などとは異にするものであると私は思います。

○後藤座長 ありがとうございました。清水委員、よろしくお願いいたします。

○清水委員 清水です。説明ありがとうございました。最後の9ページの消費者被害を早急に防止するためにというところと、問題ある事案は業務提供誘引販売取引でというところは、本当にそのとおりでございます。消安法で早期に注意喚起することが必要だと思っています。私たち消費生活センターも、消費者庁が処分した内容は、Twitterとかホームページで公表していますが、なかなか見てくれる人がいなくて、情報発信の仕方は、現場でもどうしたら良いかと考えているところです。早期の処分、また、できれば景表法などで課徴金を請求していただくことも本当に必要ではないかと思っています。現場では、業務提供誘引販売取引で交渉するのですが、あの手この手で逃げられてしまう現状がありますので、業務提供誘引販売取引として処分していくのも必要だと思います。

そこで、万場さんに質問なのですが、ちょっと言い過ぎかもしれませんが、詐欺的な定期購入は、後払い決済サービス業者が排除すれば、こんなことにはならなかったのではないかと思っております。通販業界としては、どうお考えですか。後払い決済サービスの法規制が必要だと思われますか。私たちは、加盟店管理、消費者トラブルの対応、与信審査の点において、割販法と同等の法規制が必要だと考えております。いかがでしょうか。よろしくお願いします。

○万場委員 後払い決済は、何社かが集まって、団体をつくられていて、そこがしっかりとカバーするのだとおっしゃっているので、そこの活動に期待したいと思っています。とにかく、悪い人たち、詐欺的なそういう人たちが決済できないことが結構最後のとりでのように思っておりますので、そこをしっかりと見ていただきたいと思うのと、クレジット業界と同じように、会員管理というのか、そういうことをしっかりとやっていただくことが必要なのではないかと思います。特に、大手の決済代行会社はしっかりとやられているのだろうと思いますが、どうも海外の事業者を使ったり、日本の法が及ばないところを悪質なところがうまく利用しているところが問題なのだろうなと認識しているところでございます。

○清水委員 後払いの業界団体ができて、多少はよくなったのですが、なかなか改善されず、極悪層は本当にどうにかしたいです。ありがとうございました。

○後藤座長 板倉委員、よろしくお願いします。

○板倉委員 御発表ありがとうございます。この会議の冒頭から申し上げていたように、普通に通販しようとしている人たちではないので、かみ合わない。それは何がいけないのかというと、特商法を選ぶと、特定の商取引のどれかに押し込めないといけないので、こういう話になっているのだろうと思います。一番近いのは、一応、通販の一形態ではあるので、通信販売の規制ということになるわけですが、別に通信販売を規制したいわけではないのは、恐らくこの会議の構成員みんなそのとおりで、不適切なところを不適切だと言って止めたいわけですが、景表法は景表法で、広告主しか規制できません。ステマもそうですが、この間、ネットテレビで解説してくれと言うので、一生懸命に解説しましたが、事業者しか規制していないというのが直感に反するのです。だから、インフルエンサーが悪いのでしょうとすごく質問されるのですが、そういう話ではないということになってしまって、結局、誰だか分からない人が途中で介入してくるという話なので、景表法でもこれはやりづらいわけです。なので、どれでやるかというのは限定しないほうが良いですし、別に消費者安全法に入れられるのであれば、サンクションのところはいじらないといけないかもしれませんが、それで良いと思いますし、これは黒木委員からも度々あるように、ネット取引法というか、総則みたいなもの。

特定商取引法は、特定商取引だから、特定のものを縦割りでやるわけですね。総則みたいなものがないわけであって、別に我々は、どれでやるかと縛ってやっているわけではない。通販協会の立場からすれば、波及するところは嫌だというのは全くそのとおりだと思いますし、名前も出さない人たちがあおりを食らうのは困るというのは、それはそれで今回みたいに言っていただければと思いますが、どれでやるかというのは、あまり問題ではないのだというのは、もしかしたら最後、取りまとめるときには言ったほうが良いと思いますし、ステマと併せて考えれば、景表法が事業者しか規制していないのも私はよくないと思っていますので、景表法で主体を限らないようにするか、特商法の通則を入れるか、消安法でやるか、どれでも良いので、まとめましょうということだろうと思います。ただ、どれもやらないところに行きがちなので、どれもやらないのは駄目ですよというのは強調したいと思います。

○後藤座長 万場委員は、何かコメントはございますでしょうか。

○万場委員 とにかく悪質商法をたたくことは、皆さん共通だということは間違いないと思います。あとはやり方次第だと思います。

○板倉委員 ありがとうございました。

○後藤座長 それでは、ほかに御意見や御質問がありましたら、お出しください。よろしいでしょうか。特に御質問、御意見はないようですので、以上にしたいと思います。ありがとうございました。本日の検討は、ここまでとさせていただきます。

前回までの御説明に基づき、事務局より論点を整理していただきました。それから、チャット機能をどのように考えるかについて、心理学の側面から御報告いただきました。また、通信販売事業者の現状の取組を踏まえ、御意見をいただきました。これらを踏まえて、引き続き検討してまいりたいと思います。

《5.閉会》

○後藤座長 では、本日は以上になります。最後に、事務局から今後の予定について、説明をお願いいたします。

○田村企画官 本日は大変ありがとうございました。次回の開催につきましては、日程が決まり次第、消費者委員会のホームページを通じてお知らせいたします。事務局からは以上でございます。

○後藤座長 それでは、本日は、これにて閉会とさせていただきます。お忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございました。

(以上)