第18回 消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループ 議事録

日時

2019年2月14日(木)10:00~11:36

場所

消費者委員会会議室

出席者

【委員】
鹿野座長、池本座長代理、高委員長、山本委員
【事務局】
二之宮事務局長、福島審議官、坂田参事官

議事次第

  1. 開会
  2. 取りまとめに向けた検討
  3. 閉会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

≪1.開会≫

○坂田参事官 本日は、皆様、お忙しいところをお集まりいただき、誠にありがとうございます。

ただいまから「消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループ」第18回会合を開催いたします。

本日は、所用によりまして、樋口委員が御欠席との御連絡をいただいております。

議事に入ります前に、配付資料の確認をさせていただきます。

お手元の議事次第に配付資料を記載しております。

不足の資料がございましたら、事務局までお申しつけいただきますよう、お願いいたします。

それでは、鹿野座長、以後の議事進行をよろしくお願いいたします。


≪2.今後の進め方について≫

○鹿野座長 それでは、本日の議題に入らせていただきます。

本日は、前回に引き続き「取りまとめに向けた検討」を行いたいと思います。

中間整理後のこれまでの議論を踏まえまして、報告書の取りまとめに向けて、今後さらなる深掘りが必要と思われる論点として、主に3つの点について検討を進めてまいりました。

第1に「事業者の取組を促す仕組み作り」、第2に「民事ルールと行政規制の役割分担」、そして、第3に「適格消費者団体の権限の強化・充実」の3点でございます。

本日は、主に行政法の観点から、民事ルールと行政規制の役割分担、そして、恐らくは第3の点にも関わる話も出てくると思いますけれども、それらの点について、山本委員にプレゼンテーションの御準備をお願いしているところでございます。山本委員には、まずは20分程度御説明をいただきまして、その上で意見交換を行いたいと思います。

それでは、よろしくお願いします。

○山本委員 山本です。

本来はもう少し詳細な資料を用意するべきだったのですけれども、大変申しわけございませんが、若干時間が足りませんで、簡潔なレジュメを配るにとどまっております。

本日、私からお話をいたしますのは、特に民事法の規範・制度と行政法の規範・制度との関係について、後のほうでは、時間があればということになろうと思いますが、Ⅲの部分で違法収益の剥奪、非刑事的な制裁金と民事上の請求権との関係という点について、若干お話をしたいと思います。

そこで、まず前半の民事法の規範・制度と行政法の規範・制度との関係という点です。

この点につきましては、一番基本的なことからお話をいたします。1の部分ですけれども、民事法と行政法はどう違うかという点なのですけれども、民事法というのは私人間の個別の利益を調整する。そのために私人のイニシアチブによる契約あるいは処分権主義が原則として妥当する民事訴訟手続を使うという点にあります。言わば私人の自己決定権ですね。自分の利益に関わることは自分で決めるという考え方を基本にしています。

それに対しまして、行政法規は行政機関に関わっているわけでして、行政機関というのは民主的に正統化をされている。つまり、議会あるいは内閣からの付託を受けて行動をするということがございます。したがいまして、公益を実現することを正に任務としている。もう一段階ブレークダウンして言えば、不特定多数の者の利益を表現することを任務としていると考えられます。そして、特に行政機関に関して言えば組織的に行動する。つまり、継続的に、そして、あらゆる事項について担当するという特徴を持っております。そういった点で、民事法と行政法は対比をされるわけです。

これが基本なのですけれども、しかし、これに対しましては2つの方向から修正を施す必要がある。それが2と3のところで触れることですけれども、一つは2のところで、私人間に情報や交渉力といった資源の点で格差がある場合、消費者法の分野では正にそういったことが典型的にあるわけですが、そういった場合に先ほど申し上げた民事法の規範あるいは制度を用意するだけで十分かというと、それは十分ではない。それでは公正な権利利益の実現を図ることができないということがあるので、そこで行政機関が私人間の民事法関係にもさまざまな形で関与する。そして、言わば不利な状況にある利益の表出を助ける必要がある。これが1つ目です。

2のところで申し上げたのは私人の側の限界ということなのですが、3で申し上げるのは、行政機関のほうにも行動するのには限界があるということです。そこで私人、とりわけ私的な団体の助けを借りなくてはいけないことが出てきますというのが、3で申し上げることです。

そこで、2に戻ることにいたしますけれども、先ほど行政機関が私人間の関係にも関与していくということを申し上げましたが、これには更に大きく分けて2つのことがあります。一つは、正に直接関わるという場合です。今日はもうこれ以上お話をいたしませんけれども、(1)のところに書きました直接的関与、具体的に申し上げれば、行政機関がADRの機能を営んで私人間の法律関係を直接規律するといいますか、仲介するといったことを行うわけです。

今日主にお話をしたいのは(2)ですけれども、これは行政処分が、民事法関係の共通の要件になる部分、例えば損害賠償請求権であるとか、あるいは差止請求権といった民事法の権利義務の要件になる共通の部分をくくり出して、それを認定するといったやり方です。そういった形で民事法関係の形成を助ける役割です。

ただ、これに関しましては抽象的に申しますと簡単なのですが、具体的に考えるといろいろな問題があります。まず(a)のところに書きましたのが、以下に述べるようなことです。例えば民事の差止請求権の場合であれば、先に述べたことは非常に考えやすいわけです。つまり、民事の差止請求権に関しては、不特定多数の者が差止請求権を持つことが割と容易に考えられる。それが結局は行政処分とほとんど同じ役割を持つ。つまり、違法行為の禁止をするという行政処分と民事の差止請求権とはほとんど同じような機能を営むということがあります。

したがいまして、ここにおいては民事法と行政法との間の関係を考えることが比較的容易にできるのですが、問題になりますのは、損害賠償請求権のような場合です。過去の法律関係に基づく損害賠償請求のような場合になりますと、これは個別の事情によって、例えばそもそも被害者が誰かということからまず問題になるわけですが、被害者が誰であるのか、損害が発生しているのか、どれぐらい発生しているのか、損害と加害行為との間に因果関係があるのかといった個別の事情を考えなくてはいけないということがあります。したがって、共通の要件、例えば違法行為があったことを行政庁が認定したといたしましても、更に第2段階として個別の事情を考えて民事上の請求権が成立するかどうかを判断しなくてはいけないということがあります。

そういうときに、行政法規あるいは行政処分は役に立つのかが問題になります。最終的には個別の事情を考慮して民事法上の義務あるいは権利が成立するかを判断しなくてはいけないということになりますと、その前の段階で行政庁が行政処分の形で共通の要件、例えば違法行為があったことを認定することに意味があるのかが問題になるわけですが、結論から申し上げれば、それはやはり意味があるだろうと思われます。

行政処分というのは、必ずしもそれだけですぐに執行できるものには限られないわけです。例えば行政処分の中でも計画といったものを考えますと、これはそれだけですぐに何か強制できるほどの具体性を持っているわけではありません。行政処分はもちろんその後にすぐに執行できることに意味がある場合もあるのですけれども、それだけでなく、後の法律関係を規律する。特に、後のいろいろな行為と結合することによって意味を持つことがあるわけです。例えば行政処分を基にして行政指導が行われるとか、あるいはそれを基にして更に民事訴訟手続が進むとか、そういった形で後の行為と接続することによって意味を持つこともあり得るわけです。したがいまして、例えば損害賠償請求権といったような個別性が強い請求権の共通の要件であっても、行政処分でもって認定をすることには意味があるだろうということが一つあります。

もう一つ、考える場合に問題となりますのは、行政法規に違反した事実と、具体的に損害が発生した、あるいは民事上の請求権が生じることとの間の因果関係を認めることが難しい場合があるということです。それは個別に考えなくてはいけない問題です。

一つ例を挙げたいと思います。そこに挙げました景表法、特商法の例です。議論として、景表法上の措置命令あるいは特商法における指示処分において、例えば返金を命ずるとか、あるいは損害賠償を命ずるといった形の命令ができるのかどうかという問題があります。その点に関しましては、立法論としてはそのような処分を考えることは可能ではないかと思われます。先ほど申しましたように、そういった命令を出してもそれだけですぐに強制執行ができるのかというと、それはできないわけですけれども、しかし、言わば民事上の請求権の共通の要件をそこで認定することには意味があるだろうと思います。したがいまして、そういった処分を考えることは可能であろうと思います。

ただ、現行法上、今の法律上それができるかというと、私は少し難しいのではないかと思っています。つまり、景表法の先ほどの措置命令は、あくまで現在及び将来における行為の禁止といったものを目的、内容としております。確かに31条の差止請求のところの規定を見ますと、要するに、違法行為を行った、景表法に違反する広告を行ったことを周知する措置を求める差止請求といったものも含まれております。

特商法のほうを見ますと、これは景表法に比べるともう少し指示処分に関する要件が緩やかに書かれていまして、もう少しいろいろなことができそうに思われます。つまり、当該違反または当該行為の是正のための措置、そして、契約の相手方等の利益の保護を図るための措置、その他の必要な措置をとるべきことを指示できるとありますので、もう少しいろいろなことができそうな感じがいたします。

そして、特商法の解説書などを見ますと、やはり誤認等を生じさせたということであれば、それを排除するために契約の相手方等に通知をすることが指示の一例として出てまいります。そこまでは現行法でも私もできるだろうと思いますが、それを超えて返金を命ずるとか、あるいは損害賠償を命ずるということになりますと、少し難しいのではないか。それは文言上、現在及び将来に向けての措置を命ずることになっているということと、もう一つは現在及び将来に対する規律を前提にしたような不実証広告あるいは不実告知の場合のみなし規定を置いているということがあります。もしも返金あるいは損害賠償のように過去の行為に基づく命令を行う場合であるとすると、本来は推定規定を置かなくてはいけない。つまり、これは現在の景表法で申しますと、課徴金の場合に正にこの推定規定が置かれているわけですけれども、むしろこちらのほうの規定を置くべきところなのですが、現行法上は一律にみなし規定になっているということがありますので、現行法の中でこれをやるのは少し難しいのではないかと思いますが、立法論としては十分考えられるということです。

(3)のところに入りますけれども、以上のように民事法と行政法はいろいろ組み合わせることが考えられるわけですが、民事法のルールと行政法のルールとの間に、在り方に違いがあるのかを補足的に申し上げておきたいと思います。

結論として申しますと、私はそれほど変わらないのではないかと思います。時々、行政法規というのは行政機関を縛るものなので、したがって、事細かに定めておく必要がある、民事法規はそういったことがないという対比が行われますけれども、私は必ずしもそうは言い切れないと思っております。

もう少し具体的に申し上げれば、確かに個々の取引関係を規律するという場面を考えますと、民事法規が取引関係を一般的に規律している。行政法規というのはその中の特定の場面を切り出して規律を行うという役割を持っていますから、その点だけで言えば確かに民事法規よりも行政法規のほうが細かく定められる。要するに、どういった利害状況について特別に対応する制度を設けるかを行政法規で書くわけですから、その点では確かに行政法規は細かくなるだろうと思います。ただ、これは考えてみますと、民事の特別法であっても同じような事情はあるわけです。更に言えば、行政法規も一般的に言えば非常に抽象的に書かれる例が実は多いということがあります。確かに行政法規に関しては、これは行政機関を縛る役割を持つので具体的に詳細に規定を書くべきだということが言われます。言われるのですけれども、しかし、実際の行政法規を見ると極めて抽象的な規定が置かれている例が多いわけです。

そして、最高裁判所の判例においても、その点は余り厳しくチェックをされていないといっていいかと思います。行政法規が白地に近い、言わば行政機関に白紙委任をするようなものなので、無効であると、はっきり言った最高裁の判例は実はないのです。

この点は、日本においては漠然と行政法規が書かれると言われることがあるのですが、外国を見ても、確かに理論上は行政機関を拘束するために細かく書けということが言われるのですが、実際にどうなのかというと、それほど事細かには書かれないことが、むしろ普通であるということがあります。

それでは予見可能性が全然確保されないではないかということになるわけですが、そこで実際上の意味を持っているのが処分基準あるいは審査基準とか、あるいはガイドラインと言われるものです。こういったものが日本においては非常に多用されている。これは言わば行政機関が機動的に個別の事情に応じて柔軟に行動できるようにするという要請と、予見可能性を確保するという2つの要請との間のバランスをとるための一種の仕組みであると考えられます。

つまり、予見可能性を確保するという点で申し上げれば、この基準とかガイドラインというのは、下級行政機関に対しては拘束力を持っております。ですから、下級行政機関はそれに縛られるということがありますし、裁量が認められるような行政作用に関しましては、裁判所に対しても一種の拘束力とまでは申しませんけれども、一定の法的な効力を持っております。つまり、裁判所はその基準の合理性あるいは基準の当てはめの合理性といった形で審査を進めるという意味では、基準に沿った司法審査が行われるということがあります。

しかし、他方で、それでは基準とかガイドラインががちがちに拘束力を持つかというと、それはそういうことではありませんで、まず、個別の特殊な事情があれば行政機関であってもそのガイドライン等から離れる判断ができると解されていますし、実際の基準とかガイドラインのつくり方を見ますと、例えば例を出すとか、あるいは考慮要素を示すといった形で、形式的にも普通の法律等のような規範の形をとっていないものが多く見られます。

そして、裁量が認められない行政処分に関しては、たとえガイドラインを定めたとしても、裁判所はそれに拘束されません。したがって、確かに行政機関の内部では拘束力を持っても、裁判所に対しては拘束力をおよそ持たないことになります。そうすると、それでは民事法規に関していろいろなガイドライン等が定められる場合とどれほど違うのかというと、実は余り違わないのではないかというのが私の感じです。ですから、その意味で余り行政法規と民事法規の在り方の違いを強調するのは正しくないのではないかと思います。

次に、3の公私協働の話に入ります。ここで団体との関係でございますが、ここまでで余り時間がなくなってしまいましたので、ここから先はごく簡単にお話をすることにしたいと思います。

先ほど行政機関が公益を実現するといってもそれには限界がある、私的な団体の助けを借りなくてはいけないということを申し上げたのですが、これには大きく分けて3つの原因があります。1つ目は一番単純な原因で、要するに、行政機関のお金が足りない、あるいは人が足りないという行政機関の側のリソースの不足という問題です。

2つ目は情報の問題でして、行政機関はもちろん情報をいろいろなところから集めてくる。そして、情報をつくり出すということがあるのですが、しかし、公益を実現するための情報はむしろ民間の側にある。あるいは民間の側にこそ情報を集め、あるいは情報をつくり出す能力がある場合が多いわけでして、このときに行政機関が幾ら情報を集める、民間から情報を集めるといっても限界があるということですね。

3つ目に行政機関は中立性あるいは平等取扱い等が厳格に要求されます。したがって、非常に平たく言ってしまいますと、思い切ったことをやろうというときに、確かにやるべきなのですけれども、やはり限界があるということがあります。つまり、実験的あるいは挑戦的なことを行うことが要求はされているのだけれども、しかし、行政機関がそれを行うには限界があるという問題です。そういう問題があるので、私的な団体ですね。民間の団体にもろもろの公益に関わる事務をやってもらうことが必要になります。

そのときに重要なことは、一つは民間の団体が備えるべき条件を設定するということです。これは一言で申しますと、まず、業務を遂行する能力、一定の中立性、非党派性、それから、関係する権利利益を全て摂取するということですね。そして透明性ということです。民間の団体がこういった一種の専門能力、中立性、関係利益の取り込み、そして、透明性といった条件を備える必要があるということです。

もう一つ気をつけるべきことは、幾ら民間にいろいろなことをやってもらうといっても、行政機関の側の役割は残るという点です。一つは、今、申し上げたような民間の団体が一定の条件を備えているかをチェックする役割ですね。もう一つは、先ほど申しました私人間に情報や交渉力の格差があるというときに、情報とか資源の格差を是正する役割は残るという点です。更にもう一つは、どうしても民間の団体には任せられないことがあります。それは例えば強制調査権限を持たせるというように、かなり強い権利侵害を伴うような公権力の行使を民間の団体に任せることは無理であるということ。それから、政策的な決定ですね。この政策的な決定を民間の団体に任せるのは難しいといったことがあります。したがって、行政の役割は残るということです。

そこで、ここでは特に消費者団体、適格消費者団体あるいは特定適格消費者団体に一定の役割を担わせる場面を想定いたしまして、少し具体的なことを申し上げたいと思います。

まず、確認をしたいのは、適格消費者団体が行う差止請求ですね。これは先ほどもちょっと申しましたように、実は違法行為を禁止する行政処分とほとんど同じ機能を持っているということです。それから、特定適格消費者団体が行うとりわけ共通義務確認訴訟ですね。この共通義務確認訴訟の場面に限って言えば、これもやはり行政処分に代替することができるといった意味を持っています。

そのように、実は行政法の研究者の目から見ますと、適格消費者団体あるいは特定適格消費者団体が行う共通義務確認訴訟というのは、かなり行政処分に近いということが言えます。もちろん、裁判所を介在させますから、手続は行政処分と違うわけですけれども、しかし、機能の点から言うと行政処分に近い。しかも、この適格消費者団体や特定適格消費者団体には、一定の要件を備えることが要求をされていまして、この要件が公権力の行使を委ねられている民間の団体に要求される要件にかなり近いものになっていると言えます。1つだけ例を挙げますと、守秘義務が役職員に課されまして、この守秘義務について違反をした場合に刑事罰が科されるという点があります。これはかなり重い措置であると言えるかと思います。

こういった形で適格消費者団体あるいは特定適格消費者団体に行政機関に近い一部権限が認められ、そして、公権力の行使を担う民間の団体に近い要件が課されているわけですが、問題は、それでは、こういった義務やあるいは権限に見合うだけのリソースがこの団体に保障されているのかという点にあろうかと思います。

先ほど権限はあると言ったのですが、細かく見ると、実はその権限も限定されているということが一つの問題です。そこにちょっと書きましたけれども、時々指摘をされていることでもあるのですが、例えば違反行為が中止された場合にも行政処分はできる。景表法上、これははっきり書かれており、違反行為が中止された場合にも行政処分ができるということがあるのですけれども、適格消費者団体の差止請求に関しては、違反行為が現に行われ、または行われる恐れがある場合という限定が加えられているという点です。これに果たして合理性がどれだけあるのかということが一つの問題です。

もう一つは、行政処分の対象にはなっているけれども、しかし、差止請求の対象にはなっていないといった行為がいろいろあります。これは特商法を見ますと細かくいろいろ書かれているわけですけれども、結局特商法上の指示処分の対象にはなるけれども、しかし、適格消費者団体による差止請求の対象にはならない行為が非常に多く存在いたします。どうもこれを見ますと、民事上の個別の請求権の成立に結びつくような違反行為については、これは適格消費者団体による差止請求の対象にするけれども、それ以外の違反行為については対象にしないという切り分けが行われているように見えるのですが、果たしてこの切り分けが合理的なのかという問題がもう一つあろうかと思います。

それから、先ほどリソースの問題と申しましたが、一つは適格消費者団体が情報を集めることに限界がある、もう一つは資金の面で限界があることはよく指摘されているところで、権限や義務に見合うだけのリソースを保障する必要があるのではないかということです。

最後に、違法収益の剥奪あるいは制裁金、民事上の請求権の間の関係の問題について、ごく簡単に申し上げたいと思います。

この違法収益の剥奪あるいは制裁金の制度は、外国に比べましても日本法で遅れている分野であると言ってもいいかと思います。例えば外国の例を見ますと、アメリカにおいては違法収益の剥奪がディスゴージメントという形で認められていますし、制裁金に関してはシビルペナルティーと言われますけれども、これが非常によく使われている。それから、例えばドイツ法を見ましても、この制裁金の制度が非常によく使われていると言えます。違法収益の剥奪についても規定が設けられております。

それから、よく言われるのがEUなのですけれども、EUにおいて制裁金が非常によく使われるようになっていることは報道等もされているところです。つまり、最近制定をされましたデータ保護基本規則ですね。個人情報保護基本規則ですけれども、この中でも非常に高額の制裁金が規定されているということがあります。そういった意味で申しますと、日本法においてはそこは遅れていることを率直に認めざるを得ないのではないかと思います。

今後のことなのですけれども、一つはこういった制裁金あるいは違法収益の剥奪といった制度の適用範囲を広げていくことが必要であろうと思います。現在、厚生労働省の審議会におきまして、医薬品医療機器法上の違反広告等が行われた場合の課徴金の制度の導入といったことが議論をされているということがあります。

もう一つは、やはり制裁としての性格をもう少し強めるような制度の設計が考えられないかという点です。これは具体的にはいろいろな加重あるいは減免の事由を更に広げていくということでして、少し前に独占禁止法上の課徴金に関してはいわゆる裁量型の課徴金に関する議論があったところでして、こういったように制裁としてもう少し加重減免といった事由を使えるようにしていく、定めていくようにしておくことが必要なのではないかと思います。

そして、特に消費者法の分野で申しますと、景表法上の課徴金の導入と、それとあわせて返金措置ですね。返金措置に関する制度ができたということがあるのですが、この返金措置に関する制度は非常に面白い制度であると。これについても更に考えていく必要があるのではないかと思います。

そもそもこの返金措置というのが何なのかが私にはよくわからないところが実はあるのですけれども、結局は一種の違法収益の剥奪を消費者に還元するといった特別な措置であると考えることになるのではないかと思います。そこから延長して、そういった課徴金相当額を返金という形ではなく一種の消費者利益の保護のための公的な基金に、もともと使われていた言葉ですと寄附するといったことが考えられないかということが言えます。

私は、それは特に返金制度の延長線上で考えることができるのではないかと思います。ただ、寄附という表現が果たして適切なのかという点については若干疑問を持っておりまして、もう少し自主納付とか何か適切なワードを考えるべきではないかと思いますけれども、いずれにいたしましても、そういった公的基金に課徴金相当額を入れていく制度は十分考えられるのではないかと思います。

最後のほうは少し時間がなくなりまして余り十分な説明ができておりませんけれども、以上で私のプレゼンテーションを終わりたいと思います。

○鹿野座長 ありがとうございました。

ただいまの御説明を踏まえまして、御質問、御意見のある方はお願いします。いかがでしょうか。

池本座長代理、お願いします。

○池本座長代理 どうも御説明ありがとうございました。

本当は2~3時間かけてじっくりお伺いしたいくらいの話を短時間でお話しいただき、後でまたじっくり議事録も読み直してそしゃくしていきたいと思いますが、今日の時点でとりあえず気づいた点、感想も含めた質問をさせていただきたいと思います。

これまで私自身がそうでしたけれども、民事ルールはある程度包括的なもので、原告、被告双方の主張を聞いて裁判所が判断する。だから、包括的なものでよい。行政規制は行政権限の濫用を防ぐためにある程度具体的に書かなければいけない。民事ルールのときに予見可能性がない、要件が不明確だ、だから反対だというのはよろしくないというように、民事と行政をあえて大きく切り分けて議論していたのですが、今日お伺いしたお話からすると、実は行政規制についても要件が不明確だから規律として不適切だということを余り正面から言うことも、正に何をどう規律するかの中身によってはある程度要件が抽象化することも十分あり得る。むしろそういう予見可能性の問題は規範を法律に置くかどうかではなくて、それを置くことプラスガイドラインなどを定めていくということでの対処だとお伺いしました。これは正に我々の議論の立て方の前提を、もうちょっと根本のところも軌道修正した上で固めていく必要があるのかと考えました。そのような理解でよろしいのかという点の確認です。

それに関連して質問です。法規範は民事ルールであれ、行政規制であれ、それに対して行政庁がガイドラインなり解釈運用の指針を示して、それが社会の中で、もちろん最終的には裁判所は立法趣旨から独自の判断はあるにしても一定の規範として目安になることがあると思うのですが、例えば民事ルールなどで業界団体が自主的なルールをつくる。これはその要件が抽象化されているものをある程度目安として使われるものとして評価してよいのかどうか。もちろんそれは業界といっても全く一方的に都合のいいものをつくられたのでは困るので、仮にそれが規範の具体化として社会で評価されるためにはどういう形で自主的なルールをつくれば社会的にも位置づけられることになるのか。その辺りの考え方についてお伺いできればと思います。

○山本委員 ありがとうございました。

業界団体の策定するルールの話は、今日は完全にはしょってしまったのですけれども、幾つかのことがあろうかと思います。一つは、これは裁判所に対する関係だけでなく社会的におよそ業界団体のつくるものが、つくったルールが受容されるための条件ということになるかと思いますけれども、先ほど申し上げた専門能力あるいは中立性とか、関係利益の取り込みとか、あるいは透明性という条件ですね。こういったような条件をまずルールを策定する業界団体における機関が満たすことが、社会的に受容され、あるいは裁判所に対して、行政機関に対しても受容されるための条件になるだろうと思います。

その上で、それでは、それが法規範としてどれだけの意味を持つかということなのですけれども、正面から一種の法的な効果をそれに認めるためには、やはり法律上の枠組みが何らか必要になるだろうと思います。ただ、法律上の枠組みを整備すれば、それが完全な拘束力を持つというところまでには至らないにしても一種のベースラインになることは考えられるのではないか。それを考慮して法律の要件等を具体化することは考えられると思いますし、そこまで行かなくても参考にすることはあり得るだろうと思います。行政庁の策定するガイドラインや基準に関しても、必ずしも法的な効力を外部に対して、裁判所等に対して持つわけではないものについても参考にされることはあるわけですから、業界団体のルールについても、そういった意味を持つことはあるだろうと。

つまり、一つは条件という点で言えば先ほど申し上げたような条件ですし、それが実際に規範としてどれだけ受容されるかという点に関して言えば一定の法的な枠組みは必要かと思いますけれども、それがあった上であればいろいろな段階の法的な意味を持たせることが可能なのではないかと思います。

○池本座長代理 ありがとうございます。

確認ですが、先ほど自主ルールが社会的に受容される、場合によっては裁判所もそれを尊重するという意味で社会的に受容されるために、専門能力あるいは中立性、関係利益の取り込み、透明性という民間団体の活動の場合の評価のことと共通であると。それをもっとありていに言うと、例えば業界団体の内部の業界の関係者だけでつくるのではなくて、その分野の専門家、学識経験者が入るとか、関係利益で言うと消費者側からも参加する、あるいはそういう自主ルールがきちんと公表されている。そういうことだと整理すればよろしいでしょうか。

○山本委員 そのように理解しています。例えば欧州における共同規制の議論がありますけれども、これは正に法的な規制の枠組みを具体化する段階で、そういった事業者団体等がルールを策定するといった在り方を想定しているわけですけれども、そこにおいても大きな条件といたしまして、関係利益の代表性ということが言われています。もう一つは透明性です。この2つは非常に明確に言われています。それから、これはその文書でなかったかもしれませんけれども、一種の利益相反の回避ということも言われることがあります。ですから、やはりそういったことが、社会的にルールが受容されるための、あるいは場合によっては裁判所もそれを一定の参考にするという場合の条件になるのではないかと思います。

○鹿野座長 高委員長、お願いします。

○高委員長 いろいろな論点を取り上げられておられたのでどこから聞いていいのか、整理がついておりませんが、まず初歩的なところから確認させてもらっていいですか。

民事ルールと行政規制のところの説明で、まず両者の間にはそれほど大きな違いはないという御指摘をいただいたのですけれども、そこで言わんとしている意味は、抽象度とか具体性に関して、それほど大きな違いはないという御説明をされたのかを確認したい。実際、先生も御発言されていたと思うのですけれども、民事ルールと行政ルールはかなり違いがあると。こういう解釈がいいのかどうかわかりませんが、民事ルールはあくまでも被害救済のほうにウエートがあって、行政は被害防止にウエートがある。防止ということはできるだけ迅速に動かなければいけないから、行政ルール、かなり具体的につくり上げた上で行政が動けるような、あるいは行き過ぎた権限の行使がないような仕組みになっている。

それから、ガイドラインとか逐条解説などを用意したとしても、これも常に効力を持つわけではない、法的な拘束力を持つわけではないというお話をされたと思います。これは行政規制だけではなくて、民事ルールについても言えることとおっしゃっておられた。ここにも、民事ルールと行政規制、同じ問題を抱えていると解釈してよいのでしょうか。規範としての両者にそれほどの違いがないというのは、あくまでも抽象度・具体性のレベルで、それぞれが果たす役割は明確に違っている、このように解釈してよろしいのでしょうか。

もう一点は、適格団体については備えるべき前提を4つほど挙げていただき、その上で、それらの団体が、差止請求や共通義務確認訴訟をやっているけれども、それは行政処分とほとんど機能的・役割的には同じことであるとおっしゃられました。もしそのように理解されるのであれば、例えば、適格消費者団体とか特定適格消費者団体に対し、行政が資金的な支援を行う、活動の担保となる基金を設けるなど、これらの団体に対し、こういった機能を果たしている部分に対し、資金的な措置をとることは、行政法上、可能なのか、教えていただけませんでしょうか。

○山本委員 ありがとうございます。

第1の規範と制度全体と申しますか、その間の区別でございますけれども、それは高委員長が御指摘のとおりでして、私が言われているほど違わないのではないかと申し上げたのは、これはルールそのものの在り方、規範そのものの在り方の問題でして、制度全体を見れば、あるいは果たしている機能、役割という点で言えば、それは違うということです。この中でも先ほども申しましたように、民事法あるいは民事のルールというのは、究極的には個別の私人間の間の関係を規律するものである。それに対して行政法の制度というのは、もう少しマクロの面から利害の調整を行う、あるいは情報を出しやすくするような環境をつくるといった意味を持っていますので、その点は違っているのではないかと思います。

もう一つは、事前に規律を行うことに重点があるのか、事が起こってから規律を行うという点に違いがあるのかという点なのですけれども、これは確かに伝統的には大まかに言えばそういった違いがあったであろうと思います。行政機関はとにかく何か起きる前に動くものであって、民事ルールは後から救済を図るためにあると言われてきたところだと思います。ただ、この点は若干最近も動いているといいますか、少し変わってきているところがあるのではないか。これはもう鹿野座長の御専門ですので私は話す能力はありませんが、民事においても事前に差し止めることがよく行われるようになっています。

それから、行政の場合も、事後救済のための特別な制度をつくることがあります。例えば、公害に対する補償などについては行政上の特別の制度をつくることをやっていますので、したがって、そこは若干境目が曖昧になっている部分もあるのではないかと思います。

行政機関が伝統的に行ってきたいろいろな被害防止という点なのですけれども、そういった被害防止をするためのルールの在り方について言えば、そこは非常に難しいところがあって、確かにそこのところでルールを曖昧にしておくと、行政機関が好きなことをやる危険性があるのは確かなのですが、逆に申しますと、何かが起きる前ですので、ルールをがちがちに定めてしまうと被害の防止ができないということもあります。

脱線するかもしれませんが、ドイツの警察法の中に、公共の利益のために必要な措置を警察はとることができるという一般条項が置かれています。これは見方によっては非常に危ない規定です。しかし、逆に言えばそれぐらいの包括規定を設けておかないと危険に対処することはできないという考え方に基づいてつくられていて、よく言われる比例原則というのは、正にそういう一般条項を置かざるを得ない状況で、行政権の濫用を防ぐために一般的な行政機関に対する制約の法理を設けるという趣旨で言われたわけです。つまり、行政機関は必要な場合に相当な範囲に限って権利侵害をすることが認められるという考え方が説かれるようになったわけでして、実はそこはいろいろ突っ込んで考えていくと、非常に難しいバランスの問題になるかと思います。

適格団体に関して申し上げれば、先ほど高委員長が言われたとおりでして、一つ大きなことを申し上げれば、そもそも消費者と事業者の間に一種の資源、交渉力あるいは情報等の格差がある状況があり、それを克服するために適格消費者団体の制度ができたわけですけれども、しかし、適格消費者団体の活動において依然としてそのような格差が残ってしまっているのではないかということがあって、それを是正する役割は行政機関のほうに残されているはずではないかということがあります。

もう一つは、適格消費者団体については活動がかなり制限をされています。それは先ほど中立性とかと申しましたけれども、そういった観点から、ほかの事業をやることをかなり制約をされているといったことがあって、そういたしますと、財源を確保するためのいろいろな活動をすることが制約されるわけですから、そこのところの担保は必要になってくるだろうということですね。

そして、高委員長が言われた前提としては、行政処分に機能として類似する、同じようなことをやっているということがありますので、そういう観点から申し上げれば何らかの方策を考えていく必要があるのではないかと私も思います。

○鹿野座長 池本座長代理、お願いします。

○池本座長代理 今の適格消費者団体、特定適格消費者団体に関連したところで少し確認的な質問が一つと、もう一つは行政機関の権限についての質問があります。

まず適格団体、特定適格団体について、先ほど来指摘していただいているように、体制の整備をして認定をする、しかも、一定の差止請求訴訟という権限を与えるということの割には、情報や資金に関する、言わば資源に関する措置が不十分だということで、実は適格団体の側からも権限に見合う情報収集あるいは資金的なところの手当てが全くないということでの意見が出ています。

例えば品質、効能、効果に関する不当表示や不実告知について、行政措置の場合には合理的根拠資料を提出せよ、提出がなければ不実告知あるいは不当表示とみなすという規定がある。適格団体の場合はその後の差止請求訴訟を起こして裁判所で判断だから、みなし規定は性質に合わないとは思うのですが、品質、効能、効果について資料の提出要求、それを推定規定という形にしておけば、出してもらったものをもちろん適格団体も更に専門家と協力をして分析しなければいけませんが、これまでは契約条件に関する不当表示は取り扱うことができたけれども、品質、効能、効果についてはそもそも情報が手に入らないので取り上げられなかった。そういう提案が出ているということと、今日お伺いした権限に見合う資源の不均衡があるということがつながってくるのかなと思います。この点はむしろ確認的なこと、具体的なあらわれとしてそういうところと理解してよいかというところです。

資金面で言いますと、これは自治体から設立に向けたいろいろな活動支援というので、地方消費者行政推進交付金という形でこれまで支援はあったのですが、設立した後になると途端に、交付金の枠組みでなかなかそれが十分でないこともあって、全く違う委託事業をして、それをやっていく中で多少利益として残せる、活動費として残せるという程度で、正面からというものがなかなか認められてこなかった。その辺りがやはり公的な性格を担う団体なのだから、それに見合う活動の場所を低廉な価格で提供するとか、あるいは消費者からの情報を受け付ける窓口として機能できるだけの最低限の人を置ける程度の費用とか、要するに、切り分けの仕方によっては公的な資金をもっと注いでもいいのではないかと私は理解しました。

そういった理解はどうかということと、行政から資金を全部投入することが究極的に正しいかというと、独自性などからすると独自財源であることが望ましいことは間違いないと思うのですが、その場合、先ほどの一番最後の課徴金制度のところで、消費者への返金措置が課徴金の減免事由になる。それを返金にかえた自主納付制度などを位置づけることで公的な基金に入れ、それが適格消費者団体などの活動の財源として活用できるようにすれば、行政の下請ではなくて自主的な活動であり、しかも公的な役割を果たせるということにバランスとして置けるのかと感じました。今のような理解でよろしいのかという点。ここまでの話は更に詳しい質問というよりは、こういう理解でよろしいのかという確認です。

もう一つは全然性質の違う話で、先ほどの行政庁の行政処分は違反行為が中止された場合もできる、これは景表法には明確にその規定があります。ところが、特商法にはそういう規定がないために、実は実務の運用の中でもその広告をやめたら業務停止命令までは出せないのだ、もしくは出すべきではないか、裁量として出さない。裁量としてそこまでやる必要があるかという裁量判断の要素ならばいいのですけれども、むしろ出すことが違法であるというような議論が一部に出てきたりしているのです。これは中止した場合にも処分ができるという明示的な規定を置かなければいけないのか、あるいは現在の取引の公正及び購入者の利益を害する恐れがある場合は処分できるという規定の解釈として形式的に中止していても処分できる、現に誤認している人がいて、その人たちに対して違法であることを宣明しあるいは通知をさせるためにやることは解釈論としても可能と考えたらよいのか、あるいは規定が必要なのか、お考えをお伺いできればと思います。

以上、2点です。

○山本委員 前半に関しましては、適格消費者団体、特定適格消費者団体の資源に関する御指摘であったかと思います。まず、情報の点ですけれども、この点に関してはいろいろな方策が考えられようかと思います。一つは情報連携ですね。つまり、団体間の情報の連携と行政機関と団体との間の情報の連携です。これをうまくとっていくことが必要かと思います。PIO‐NET情報の活用といったことも、初期の段階、発見の段階では更に有益かと思いますけれども、そういった情報の連携が重要かと思います。

もう一つは、現在の景表法の7条2項でしたか。不実証広告規制に当たるものが適格消費者団体等にはないというところなのですけれども、結局、景表法の7条の2項等は、一種の証明責任あるいは情報提供ないしは調査義務に関する規定であって、その基になっている考え方は情報の偏在の問題であると。要するに、事業者の側が情報を持っているはずであるし、情報を持つべきであるという考え方に基づいているとすれば、これは適格消費者団体についても言えるのではないか。適格消費者団体と事業者との間の関係においても情報の不均衡の問題はあるわけでして、そうすると何か一般的な証明責任あるいは情報提供義務、調査義務の話として同じことが、私は現在でもある程度言えるのではないかと思います。もちろん、その点を明確にするにははっきり規定を設けるべきと思いますが、この点に関してはある程度解釈論としてもいける余地があるのではないかと思います。

それから、資金の点ですけれども、これは全くそのとおりでして、考えなくてはいけないのは、確かに適格消費者団体にお金がないということなのですが、行政の側もお金がないということが言われるわけです。それは事実なわけですけれども、そういうことがあるので、したがって、これは一般論としては私が今日申し上げたように資金の面でも何らかの保障を考えるべきだということなのですけれども、いかに現実の行政機関の財政難の状況においても通るような形でそれを確保していくか。これは極めて戦略的な問題になろうかと思います。

確かに非常に短期的なスパンで短期的な視野で配られるお金だけですとなかなかうまくいかないというのはそのとおりでして、ある程度長期的に継続的に資金を確保できるような方策をとらなくてはいけないということは確かなのですが、これは実は大学も同じような問題を抱えております。関係者がおられるからよくわかると思いますけれども、そうすると、余り平場で言うことでないのかもしれませんが、いかに戦略的にうまくやっていくかを考えなくてはいけないということかと思います。

課徴金に関しましては、私が先ほど申しましたように自主納付という形も考えるべきだと思います。また、課徴金自体も消費者保護のために使うことを、本来は考えなくてはいけないと思います。それがないと、実は違反者が違法収益に当たるものをどう使うかを決めることができることになってしまうわけです。つまり、それを公的な基金に納める、消費者のための基金に納めるのか、一般的な国庫に納めるのかを決めることができることになってしまうことが、そもそも本当にいいのかという問題があるように思います。ですから、本来の筋から言うと、課徴金自体についても消費者保護のための資金として使うと考えるほうが筋だとは思うのですけれども、それが現実になかなか難しいとすると、先ほどの御指摘のようなやり方になるのではないかと思います。自主納付といった形で、それを消費者保護のための資金に使っていくことになるのではないかと思います。

最後の行政処分の問題ですけれども、これは確かに特商法には余りはっきり書かれていないということで、これは結局、法律をどう解釈するかという問題かと思います。一番狭く言えば、問題となっている行為が繰り返される恐れがあるかどうかというところだけで判断する。こういたしますと、当該行為がもう一回反復される恐れがなければ処分はできないということになろうかと思います。

ただ、処分の趣旨をもう少し広げて考えることができるかどうかが恐らくポイントで、一つは、確かに全く同じ行為を繰り返す可能性はないのだけれども、しかし、同種の行為を反復する、繰り返す可能性があるといったようなときにも、直接の法的な効果はないにしても処分をする余地がないだろうかということ。それから、これは池本座長代理も言われましたけれども、過去の行為、過去の違反行為があったことを明確にして、それが民事上の責任に直結するわけではないかとは思いますけれども、しかし、場合によってはそれが民事上の損害賠償請求の根拠になることもあるわけでして、あるいは何らかの過去の行為に対する措置と結びついていく可能性もあるわけです。これも直接法的な効果があるわけではないにしても、過去の行為の違法性を明らかにすることによって救済措置につなげていく必要が残っている限りは依然として指示処分等ができるという考え方もあり得るかと思います。

ですから、処分の趣旨をそこまで、つまり、過去の違法行為の確認であるとか、あるいは将来の同種の行為の反復の防止というところにまで広げて考えることがもしできるとすれば、それはもう少し処分を行う余地が広くなるということかと思います。解釈論上、私はそこまでできそうな気もするのですけれども、あるいはそこは意見が分かれるかもしれないですね。ですから、もし明確にするとすれば景表法のように書くことになろうかと思います。

○鹿野座長 ありがとうございました。

それでは、私からも質問させていただいていいですか。

今日はいろいろと示唆に富むお話をありがとうございました。最初の民事ルールと行政規制に関するお話では、両者の役割の違いが指摘され、ただしルールの在り方については、言われているほどには違いがないのだという御指摘もありました。

その点も非常に勉強させていただいたところです。質問ですが、例えば民事ルールに関して言いますと、消費者分野の民事ルールといっても、御存じのとおり、消費者契約法と特商法などとでは大分つくりが違ってございます。消費者契約法は契約の分野においては、消費者と事業者との間の契約に関する一般法的な役割を有します。もちろん民法との関係では特別法ですけれども、消費者分野における契約ルールとしては一般法的な役割を持っている。これに対して特商法については、一定のトラブルの多い取引形態を切り出して、それに関しての特別なルールを設けているという形であると思います。そういう段階があることを踏まえると、同じく民事のルールと言ってもつくり方が違ってくるのではないかという気がしております。

行政ルールについて、先ほど、確かに民事ルールは取引を一般的に規律する側面があって、行政規制はある場面を切り出して定めることが多いこと。ただ、この点は民事の特別法においても共通しているのではないかということの御指摘もありましたが、行政ルールといっても段階があると認識してよいでしょうか。あるいは、例えば景表法も基本的には行政ルールが中心となっていると思いますけれども、景表法の対象は、不当な景品類と表示の問題に限られてはいますが、かなり広い適用対象を持ったルールで、そのつくりも、法律に規定された優良誤認とか有利誤認に関して見ても、かなり柔軟性のあるようなつくりにもなっているように思われます。一方、特商法の行政ルールは少し定め方に違いがあるようにも思われます。そこで、同じ民事ルールとか行政ルールといっても、その中での段階性というものがあるようにも思われますが、それについてどのようにお考えかお聞かせいただければと思います。

○山本委員 ありがとうございます。

行政ルールが特別な状況を切り出して規律すると申しましたけれども、これは行政機関の縦割り構造からきているところも一つありまして、要は、それぞれの行政機関の権限の範囲を切っていかなくてはいけないというところに由来してそのようになっている部分があるのではないかと思います。ここが民事の場合の特別法と若干事情が異なるところかと思います。

ただ、とはいっても、鹿野座長が言われましたように、行政ルールの中にもある程度一般的なものは存在いたします。正に消費者安全法の中のすき間事案に関する規定のように、行政法規の中にもバスケットクローズのようなものが置かれる、あるいは一般的な横串の規定が置かれるといった例はありますので、確かに御指摘のように民事ルールと同じように行政ルールだから必ずこうだとは言えないと思います。ただ、先ほど申しましたように、やや外在的な要因ではあるのですが、行政組織の構造の面に由来する行政ルールのつくり方の民事ルールとの違いという面はあろうかと思います。

○鹿野座長 ありがとうございました。

もう一点、先ほど池本座長代理からの御質問に対するお答えをいただいたところに関連しての質問です。現在は中止している事業者の行為であるとしても、過去には一定期間違反があったという場合に、行政処分が解釈上できるのか、あるいは解釈の可能性があるとしても明確に立法するほうがより確実だといったお話もありました。この点について、差止請求についてはいかがでしょうか。

差止請求も、一定行政処分と同じような役割を果たしているところがあります。差止めという言葉で語ると、また従来の民事上の差止めの概念からすると、現在は止んでいるものについて差し止めるというのはおかしな話だということになるかもしれません。けれども、この適格消費者団体による差止めは、伝統的な、個人が自己の権利を守るために行使する差止めとは違います。むしろ消費者が関わるような市場を正す役割、あるいは間接的にせよ不特定多数の消費者の利益を守っていく役割が担わされているものと考えますと、適格消費者団体による差止請求についても、同様に考えてよいのではないか。確かに現在の法律の要件立てから言うと難しいかと思いますので、立法論的な観点からということになるかもしれませんが、今は中止されているとしても過去の違反を明らかにし、今後につなげていくという形での差止請求を認めることはできないだろうか。そういう質問でございます。

○山本委員 ありがとうございました。

私は行政法の研究者ということもあって、民事法について言うことには遠慮しているところがあるのですが、今の鹿野座長が言われた点は、正に私が考えているところでして、こういうことを言ってしまうといけないのかもしれませんが、適格消費者団体の差止請求を、民事の場合の個々人の差止請求に引きずられて、それと同じように考える必要はないのではないかと思います。むしろ行政処分のほうに近づけて考えてよいのではないかというのが私の率直な感じでして、その意味では民事法の専門家である鹿野座長にそのように言っていただいたので、私としては非常に意を強くしたのですけれども、私は今、鹿野座長が言われたこととほとんど同じ意見を持っています。

現在、そこのところで行政処分の対象と適格消費者団体の差止請求との間の違いが生じている部分も、どうも民事の通常の個々人の差止請求の延長線上で適格消費者団体の差止請求を捉えていて、そのために何か限界ができているのではないかという感じを全体として持っていまして、ただ、それは必ずしもそうではない制度設計があり得るのではないか。むしろ行政処分のほうに引きつけて考えるほうが合理的なのではないかと私自身は思っています。鹿野座長にそのように言っていただいたので、大変意を強くした次第です。

○鹿野座長 ありがとうございました。

もともとこの適格消費者団体の差止請求は、伝統的な民事の差止請求では説明がつかないところがあることを前提にしています。伝統的な差止請求では、自分の権利が現に侵害され、あるいは侵害されるおそれがあるというときに、その被侵害者が自己の権利を守るために差止請求権を行使できるという考え方がとられていたところ、そこを破って、不特定多数の消費者の利益を守るための制度として導入されたというところで、一つ殻は破られたのだろうと思います。ただ、どうしてもつくるときに伝統的な差止請求の考え方になお引きずられたところがあるのではないか、そこを改めて考え直してもよいのではないかという御示唆をいただいたと受けとめました。

他にいかがでしょうか。

高委員長、お願いします。

○高委員長 3番目のところに関して、2点ほど先生のアイデアを頂ければ、有り難いのですけれども。1点目は自主納付あるいは課徴金といったものも、そもそも消費者行政等に役立てるものとして位置づけてもいいのではないかという説明があったのですけれども、これに対し、国側から来る反論の1つは、特別会計はできるだけ減らし一般財源化するという流れの中で、そうした使い方は避けなければならない、ということになろうかと思います。こういった説明や反論があったとき、今、山本委員がおっしゃったような課徴金の使い方を導入するには、これまでのように国庫に収めるのではなく消費者のために活用するためには、一体どういう説明をすれば、どのような理由を持ってくれば、説得力を持ってくるのか、アイデアがあればお聞きしたいのですが。

2番目は、これは課徴金制度のところの説明で、例えば加重減免の事由はもっともっと広げていくべきではないかとおっしゃられた。本当にそのようにできるのであれば、私も望むところだと思っておるのですけれども、例えば既存の独禁法の課徴金の決定プロセスを見ても、それほど複雑ではないですね。例えば、自主申告の順番がどうか、あるいは再犯かどうかという点ぐらいで終わっている。

それを更に広げて、例えばアメリカの先ほどディスゴージメントとか民事制裁金の話が出ましたけれども、ああいったものが比較的うまく動いている背景にはプロセスの評価、例えば自主申告があったかだけではなくて調査に全面的に協力的であったかとか、あるいは非を早い段階で認めたか、そういうプロセス的な評価の話と、そもそも会社の中にきちんとした内部管理の体制ができていたかどうかという評価とか、いろいろな視点でもって、チェックしていると思うのですけれども、こういう方向に持っていきたいと思ったときに、行政側から出てくる、よく耳にする反論というのが、加重減免に関して手のうちを明かしてしまってはだめだというものです。行政はできるだけそこは見せないでやりたい、と言うのですけれども、この種の反論を論破し、加重減免の事由を広げるには、どのような説得方法を用いたらよいか、これもアイディアがあれば教えていただきたく思います。

以上、2点、お願いします。

○山本委員 大変難しい問題なのですけれども、1点目に関しましては、現在の課徴金の制度が違法収益の剥奪というところから出発していて、そこからだんだん離れてそれだけでは説明ができない要素が加わって、正面から言うとすれば一種の制裁的なものだという説明が少なくとも理論上はされるようになってきているということがあるのですが、ただ、依然として違法収益の剥奪という要素がその中に入っていることは否定できないと思います。実際の金額の算定の仕方などを見ても、基本はそうかと思います。

違法収益の剥奪が一体どういう意味を持っているのかというと、それは違法行為によって一種社会において財の分配の仕方に不公正が生じている。要するに、一方で損をした、これは消費者一般なのでしょうけれども、そういう人がいて、他方で事業者が得をしている。違法行為によってそのような状況が引き起こされた。それを元に戻すという意味を持っているのではないかと思います。

そうだとすると、剥奪したものを国庫に入れることが必然なのかというと、実は必ずしもそうではなく、むしろできるだけそれによってマイナスが生じたところを埋めることに使うほうが、違法収益の剥奪という制度の趣旨に適合するのではないか。したがって、返金の制度などにおいて正に直接被害を受けた人、その人が民事上の請求権を持つかどうかわかりませんけれども、被害を受けた人のマイナスの部分を埋めるために使うというのが返金の制度ですし、そうだとすればマクロで見た場合の一種違法行為によって生じたマイナスは、市場における集団的、集合的に捉えられた消費者の利益のマイナスですので、そこを埋めるために使うという考え方は合理的であり、また、違法収益の剥奪という制度の趣旨にも合うのではないか。むしろ単純に一般財源として国庫に入れるよりも合うのではないかということが一つ考えられるのではないかと思います。そうはいっても、なかなか政治的にこれを通すのは難しいかと思いますが、そのように思います。

第2の点に関して申し上げれば、制裁的な機能が課徴金に加わってきたといっても、先ほど申し上げたように違法収益の剥奪というところから出発している制度で、正に経済的な取引を規制するための制裁であると。しかも、刑事処分とは違うということがあります。したがって、最近強調されているのは、こういった課徴金は抑止機能を持つ、これが重要だと。課徴金は抑止という機能が非常に重要だということがいろいろなところで言われるようになっています。そうだとすると、抑止機能が重要だということになれば、それは正に政策的にいろいろ行動を誘導するために使うことができるはずの制度であるということが言えるかと思います。これが刑事の場合ですとなかなかそう言うことは難しいと思いますし、一種の非刑事的な制裁一般についてそう言うのは難しいかと思いますけれども、課徴金に関しては抑止機能が中心であるとすると、行動を誘導するためにいろいろな政策的な目的のためにも本来使えるはずではないかということが言えるのではないかと思います。ただ、実際にこれが本当にそれで通るかどうかという問題はありますが。

○高委員長 ありがとうございました。

○鹿野座長 他に質問等はございませんでしょうか。よろしいでしょうか。

予定していた時間も参りましたので、本日の議事は以上にさせていただきたいと思います。

山本委員におかれましては、本日、民事ルールと行政規制の役割の在り方あるいはルールの在り方についてまずはお話をいただきましたし、そこでは、私たちが今まで抱いていたイメージに対し、行政法としてもそれほど厳格なルールを設けなければならないことにはなっておらず、むしろ機動性と予測可能性との調和を、場合によってはガイドラインなどの助けも借りながら確保していっているのだという貴重なお話もいただきました。

それから、いわゆる消費者団体訴訟制度の関係でも、適格消費者団体等に与えられた役割や制度目的に見合った権限やリソースが保障されていないのではないかということで、幾つもの御指摘をいただいたところです。

更に、最後のところでは、課徴金の制度についても、違反行為の抑止あるいは制裁といったその機能を十分に働かせるためには、更に仕組みの工夫が必要であるということ。最初の御報告の中では、独禁法を引き合いに出されて、加重減免の制度などもう少し柔軟な制度の在り方も考えられるのではないかとのご指摘もありましたし、あるいは、返金ということに関しても、例えば基金への自主納付を返金の延長線上の仕組みとして位置づけることもできるのではないかというご指摘もありました。今、申し上げたところだけではありませんけれども、そのような数多くの貴重な御指摘をいただいたと認識しているところでございます。どうもありがとうございました。


≪3.閉会≫

○鹿野座長 それでは、本日の議事は以上となります。 最後に、事務局から事務連絡をお願いします。

 

○坂田参事官 本日も長時間にわたりまして熱心な御議論をいただき、誠にありがとうございました。

次回の日程につきましては、改めて御連絡をさせていただきたいと思います。

以上です。

○鹿野座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。

どうもありがとうございました。

(以上)