第16回 消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループ 議事録

日時

2019年1月15日(火)15:00~16:30

場所

消費者委員会会議室

出席者

【委員】
鹿野座長、池本座長代理、高委員長、樋口委員
【説明者】
青山学院大学法務研究科教授 河上正二氏
【事務局】
二之宮事務局長、福島審議官、坂田参事官

議事次第

  1. 開会
  2. 取りまとめに向けた検討(有識者ヒアリング)
    青山学院大学法務研究科教授 河上正二 氏
  3. 閉会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

≪1.開会≫

○坂田参事官 本日は、皆様、お忙しいところをお集まりいただき、誠にありがとうございます。

ただいまから「消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループ」第16回会合を開催いたします。

本日は所用により、山本委員は御欠席との連絡をいただいております。

議事に入ります前に、配付資料の確認をさせていただきます。

議事次第に配付資料を記載しております。

不足の資料がございましたら、事務局へお申し付けいただきますよう、よろしくお願いいたします。

それでは、鹿野座長に以後の議事進行をお願いいたします。


≪2.取りまとめに向けた検討(有識者ヒアリング)≫

○鹿野座長 それでは、本日の議題に入らせていただきます。

本日は前回に引き続き「取りまとめに向けた検討」を行いたいと思います。

前回の会議では、中間整理後の後半の議論を踏まえ、今後の進め方について議論を行いました。

その際、具体的に更に深掘りが必要だと思われる論点として、第1に「民事ルールと行政規制の役割分担」、第2に「適格消費者団体の権限の強化・充実」、第3に「事業者の取組を促す仕組み作り」、つまり、コンプライアンス体制整備などの点があることを確認し、これらについて今後の検討を進めることについて御了承をいただいたところでございます。

その上で「事業者の取組を促す仕組み作り」の論点につきましては、前回、高委員長からプレゼンテーションをいただいた上で議論を行いました。

本日も、引き続き、取りまとめに向けた検討を行いたいと思います。

本日の論点は「民事ルールと行政規制の役割分担」でございます。

本日は、検討に当たり、御意見を伺うために、参考人として、青山学院大学法務研究科教授の河上正二様にお越しいただいております。

河上教授の御専門は民法で、特に約款規制の法理に関する御研究は余りにも有名ですが、その他、契約法及び消費者法に関して、精力的に御研究をなさっています。

また、皆さん御承知のとおり、河上教授は2011年9月から一昨年8月末までの6年間、つまり、第2次から第4次までの3期にわたり当消費者委員会の委員長をお務めでいらっしゃいましたし、その間の数多くの法改正等にもかかわってこられました。

このような御研究や御経験も踏まえて、本日は消費者民事ルールの在り方、民事ルールと行政規制の役割分担、さらには自主規制との関係などについてお話をいただきたく存じます。

消費者民事ルールと一言で申し上げましたが、例えば消費者契約法における民事ルールと、特定商取引法における民事ルールとでは、その在り方に違いもあろうかと思いますので、そのような点も含めて、ルールの在り方についてお話を頂戴したく考えているところでございます。

それでは、まずは20から30分程度でお話をいただきますよう、お願いします。

○河上教授 青山学院大学の河上でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

御下問にちゃんとお答えできるかどうか、大変心もとないのですけれども、お手元に資料1として配付させていただいておりますので、大体これに従ってお話をさせていただこうと思います。

資料の中にゴシックで書いてあるところがあって、そこだけしゃべれば恐らく10分ぐらいで報告ができるという計算でおりますけれども、少し幅を持たせてお話しさせていただきます。

最初は消費者法制の多元的要素について、御承知のように日本の法制の中で、消費者法と称する単行法は存在しておりません。むしろ、消費者の利益を保護することに関連する様々な法令・裁判例などの複合体が消費者法と呼ばれているにすぎないわけです。場合によっては「消費者」という概念さえ必ずしも明確ではないという現状があります。

他方で、消費者あるいは消費生活、これも「消費」という言葉にこだわり始めるとミスリーディングになるのですが、むしろ日常生活を営む「個人(自然人)」と法の接点というところが問題になるのですが、これが極めて多様でして、そこで見出された人々の生活上の法益を保護して、そして、場合によっては被害を抑止するために、法によって仕組まれた諸制度の総体、これが消費者法を構成しているということになるわけです。

もう少し分け入っていきますと、この消費者法を構成しているものにおいて、付与されている効果も一様ではございません。事業者対消費者との関係での民事効、つまり事業者の民事責任や消費者個人の財産とか身体上の利益を保護し、被害回復をするといったようなことを考えた民事効。それだけではなくて、広く経済法的な視点からの市場における秩序の維持、あるいは事業者に対する行為規制、制裁といったようなものにも及びますし、その責任の内容としても民事、行政、刑事等、様々な責任と結びついております。当然ながら、規制目的との関係で、それぞれの要件はその効果にふさわしい形に整えられているわけでして、同一概念が使われる場合であっても、それが必ずしも同一内容とは限りません。いわゆる「概念の相対性」が妥当するだろうと考えられます。

国民生活センターのワーキング・グループが、最近、消費者法制についての比較研究を行っておりまして、そこで「消費者被害の救済と抑止の手法の多様化」ということで報告書を出しており、昨年の消費者法学会でもこの点が議論ましたされました。そこで、現理事長の松本恒雄さんが幾つかのパターンを法執行の主体に着目して整理したものがありまして、それがこの資料の1枚目の下のところに転載してあります。手続の性質は民事、行政、刑事のほか、自主規制なども含まれる。誰が執行主体になるかということで、一番左のところのマトリックスが並んでいます。結局、松本さんたちの研究の中で重点が置かれたのは、日本における行政的な規制のためのルール、行政の執行状況が、世界的に見て余りにもお粗末であることが強調され、その充実が求められております。

次のページに参ります。様々な効果にどういう機能があるかを考えたときに、民事効では、個人の損害とか侵害された利益に対する抑止あるいは賠償といったようなところについて議論をしている部分が多いわけでして、事業者の責任といっても、債務不履行とか不法行為といったようなものが目に付きます。行政規制が一体民事責任についてどういう意味を持つかとなりますと、これはせいぜい間接的な効果しかないと考えられてきました。しかしながら、消費者法における民事規範は、着実に「社会化」の一途をたどっていると考えるべきであります。同時に、伝統的には民事責任と考えられていなかったような規制、例えば取締規則などはそうですけれども、そうした規制が民事の世界にも影響を及ぼしつつあって、民事の責任と行政取締上のルールというものの相互の浸潤作用を見出すことができると思われます。

金融関係での「適合性原則」については、行政規制だと一般に言われるわけですけれども、実際に判例は最高裁平成17年7月14日において顧客の意向と実情に反して明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性原則から著しく逸脱した証券取引の勧誘を行った場合は不法行為になるとして、民事責任と接合させたものが出ております。その他にも、様々な形で不正競争防止法や商標法違反、それが司法上の効果と結び付くといったような例もあります。少なくとも法益侵害の重大性と私法上の効果を結び付けることによって、市場の公正・安全の確保という観点を踏まえつつ、行政取締規制の効果もまた、民事責任の領域ににじみ出しているということになります。

最近、広告についての最高裁平成29年1月24日の判決がありましたけれども、これなども一面では、この文脈で読むことができます。さらに、適格消費者団体による差止請求、あるいは特定適格消費者団体による集団的損害賠償のための共通義務確認訴訟などは、実際は個々の消費者被害の救済の前提になっているというわけですけれども、それにとどまらないで、むしろ市場における事業者の行為規制あるいは行為規範の策定に向かっていると考えられます。

とは申しましても事業者の行動を積極的に変えていく、そういう矯正的・予防的機能、あるいは違法な活動に対するサンクションを与える機能、そして、違法な利益の吐き出しなどのためには、今のところ、やはり行政的規制や刑事責任の追及を待たねばならないことが少なくないのも事実であります。例えば景品表示法に課徴金制度が入れられましたけれども、あれはあくまで刑事責任であって、違法な利益の吐き出しまでは実現しておりませんし、それが消費者被害の救済と直結しているわけでもないのであります。そういうわけで、お互いににじみ出しが見えるけれども、しかし、全体として見るとモザイク模様をなしていて、それらの規制の在り方のベスト・ミックスを探る段階にあるというのが現状だろうと思います。

3枚目に移ります。最初のアスタリスクの部分は、実は刑事罰がどういう役割を果たしているかについて細かく書いた部分ですけれども、ほとんどが資料の適示ですので、ここは省略いたしますが、全体として見ると、法制度がそうやってモザイク模様をなしてでき上がっているけれども、徐々に変化が始まっていることを指摘しております。

民法は私人間の基本的なルールを定めた包括的な民事法ですけれども、それが一番頂点にあって、さらに消費者契約法があり、特定商取引法がありというように、段階をもってレベルが異なって具体化してまいります。

最後の特定商取引法辺りでは、行政的な規制のほか、民事効、場合によっては刑事罰が加わり、その実効性確保によるいろいろな手段が組み合わされている。それが実際にうまく執行されているかどうかはともかくとして、そういう組み合わせができ上がっている。消費者契約法ももともとは民事の一般ルールとして、民法をちょっと具体化した包括的民事法として出来上がったものですけれども、現在では、適格消費者団体による共通義務確認訴訟や差止訴訟が組み合わされて、むしろ個人の意思決定の問題による個別救済機能を超えて、事業者が何を市場においてしてはいけないかを問題としているという意味では、広範な市場におけるルール策定機能を果たしていると言えます。

こうして見ると、消費者法制には、事後的民事救済に関する民事効で専ら対処するものと、一般的な取締規定や登録制度あるいは規制基準の策定などを通じて行政規制で予防的あるいは市場矯正的に対処するもの、その実効性を確保するための行政措置・行政罰、さらには刑事罰を用意するものなどがあって、それぞれの手法がこの消費者の権益保護のために機能しているということになります。繰り返しになりますが、現段階ではかかる措置のいかなる組合せが最善かという観点から制度を考えるのが適切であろうということになります。

2にまいります。消費者契約法について申し上げると、実は先ほど申し上げましたように、民事実体法の包括立法としてスタートし、その基本的な性質は、法律行為論による「意思表示の瑕疵」についてのルールの拡張にあります。そのため、信義則上の情報提供義務に関する民事ルール、これは例えば損害賠償責任などが効果となるものですけれども、それは事業者の反対でルール化できなかった。一定の努力義務にとどめられたので、結果的には民法との重畳適用をすることで、そのルールが間接的な意味を持つにとどまったわけです。したがって、実体法部分では、現在でも当事者の意思決定に対する侵害や自由意思の抑圧を前提にした「取消権」と結び付いた効果だけがあり、今般の改正においても、その性質は基本的に変わっておりません。

今般の改正に対するいろいろな方の評価を見ておりますと、消費者契約法は、個々の消費者の属性に着目しつつ、消費者の行為規範を具体化するために拡張されていったと指摘されるわけですけれども、ルールの本質を見ると、それはやはり当事者の意思決定の自由あるいは意思決定における瑕疵、それを根拠にして司法が介入して取消権を認めるという構造を維持しております。

もちろん、同時にそれが適格消費者団体による差止請求等の要件ともなっているという場面では、むしろこれは個人の意思決定の問題ははるかに超えていて、実際に個々の消費者の属性などは、適格消費者団体は問題とすることができないわけです。その上で、事業者の行為規範、市場における適切な行為規範を考えている。もう少し客観化したルール、指標があれば何とかなるかということで、消費者委員会では「年齢等」という言葉を使いましたけれども、それさえ否定されました。結果的には、事業者の取引上の行為規範としての側面が、その差止請求というところや共通義務確認訴訟のところでクローズアップされ、認定の問題を複雑にすることになります。したがって、消費者契約法は現在では二面性を持った法律となっているということに留意する必要があります。

近時の改正法によって、脆弱な消費者である高齢消費者や若年成人の保護が問題となっている局面でも、同様の評価が可能であって、その一面のみを捉えて「個々の消費者の属性に着目した契約への介入」の進展として、消費者契約法の性格を論ずることは必ずしも適切ではない。明らかに客観化された事業者の行為規範、つまり、違法行為に対する抑止としての経済的な市場行動規制に踏み込んでいることは確かですけれども、個人の属性と市場の適正化の両面を見ていかないと、実は消費者契約法の本質は理解できないということになります。

3に移ります。こうした各種の規制の相互関係をどう考えるべきかという点す。です。そのためには、法律のそれぞれの規制目的における保護法益の違いと、その保護法益の重なり具合に注目する必要があります。

消費者取引や消費者問題における保護法益は、「消費者の権利」との関係である程度抽象的には定まっており、事業者の民事責任を考えるに当たっても、そうした消費者の権利をいかにして保護し、推進していくかという政策的配慮が不可欠となります。少なくとも市場の中で、生活世界との接点を持った生身の人間が、「消費者市民」として、果たしていかなる行動をとり、事業者との権利義務関係の一翼を担うかが、循環型社会の中で健全な市場を維持して発展させるための鍵となるわけです。

この消費者関連の保護法益を守る手法は、民事、刑事、行政と多様であることは既に述べました。さらに経済法的な観点からの組織法、あるいは法律よりも下位の政令あるいは通達レベルで実施される行政規制や行政指導、さらにその一歩手前で行政の意を酌んだ業界の自主規制ガイドラインなどが実際上重要な意味を持つことになりまして、そうした様々なレベル、様々な主体による規制が、結果的に消費者取引における事業者の民事責任にも影響を及ぼすに違いないと思われます。

こうした中にあって、従来の民事ルールが、その性格上、個別取引における消費者個人の被害救済では意味を持つが、あくまで限定的な事後規制にとどまるということの限界も逆に再認識されるようになってきておりまして、そうした客観的なものと個人の民事ルールの接合が少しずつ話題になっております。

消費者関連の種々のルールは、要件を異にしつつ、行政規制、刑事規制、民事規制、様々な効果と結び付けられて展開しております。更に言えば、消費者の一人一人がいかなる意識を持って市場における選択的な行動をなし、それを法がどのように支援するかが、市場秩序や環境などを整えるに当たって重要な意味を持つことが、今日では強く意識されるようになっているわけです。

次のページに行きます。国家の一般的な姿勢としても、取締規定で禁じた行為が民事でその有効性を認められることは理念矛盾であるという指摘もあるのが現状です。ただ、繰り返しになりますが、概念の相対性ということは依然としてあるわけです。例えば、自動車事故で人身損害が起きた場合の刑事の「過失傷害罪」に該当するかどうかの場合の「過失」と、不法行為での損害賠償責任の場合の「過失」、さらには自動車事故損害賠償責任法における帰責事由としての「過失」では、認定の仕方が全く異なることは十分にあり得るということが最高裁でも認められております。ですから、消費者法の世界でも、例えば「不当な勧誘行為」の「不当性」というのは法の目的に応じて全く同じではないということも考えざるを得ません。

景品表示法には、優良誤認・有利誤認という言葉が出てまいりますけれども、それは行政規制の対象ではあるとしても、直ちに消費者契約法における誤認惹起行為としての取消しの要件としての根拠事実に一致していないということになります。これを統一的に平準化して整理していくべきかどうか自体が、まだ今は課題とされる段階です。

ただ、そうはいっても「民事責任」は「行政責任・刑事責任」を全く異なる規制システムであると考えて、その独自の意義を強調していってよいという状況でないことは、繰り返し申し上げるまでもないところです。

4に移ります。前回のこの会議で高委員長の報告を拝見いたしました。それぞれの事業者の自主規制がどういう意義を果たしていくかについて、大変勉強させていただきました。事業者の自主規制が果たす役割についても留意する必要があって、重要であるという点については同感なのですが、これには事業者団体の組織率あるいは実効性あるサンクションに裏付けられているかどうかが大事でして、そうした自主規制が市場の監視機能を十分果たせるかどうかとなると、余り多くを期待できないというのが現状ではないかと考えられます。

とは申しましても、幾つかの有力な団体では、公正競争規約であるとか、事業者団体内部でのガイドラインの策定なども徐々に進められていることが、このワーキング・グループでの審議の中でもしばしば見出されていますから、これを現在の基本ルールの不備を補完するものとして位置付けることも期待できるのではないかと考えております。自主規制ガイドライン策定の場に、消費者などの外部委員が組み込まれることによって、消費者の意向もくみ上げる手続的保障があることは、そうしたガイドライン等の合理性を担保する上でも極めて有用であろうと考えられます。

7ページに移ります。ただ実は商品先物取引に関する法律で、不招請勧誘や再勧誘禁止ルールが定められているにもかかわらず、経産省の政令改正で例外を作り、業界の自主規制ルールに委ねる範囲を拡張しようとした際にも、消費者委員会が重大な懸念を示したことは御承知のとおりであります。さらに、美容医療関係では、本来、医療法で広告が禁止されているにもかかわらず、医療機関のホームページ等で広告まがいの表現が用いられているということで、厚生労働省に対して何度も何度も勧告をした経緯がございます。しかし、それにもかかわらず、厚労省はガイドラインと自主規制で対応しようとする。何度も同じことが言われたので、最後の最後、委員長からかなり強い譴責があったという問題もございました。現在、やっと医療法の見直しに向けて厚労省も動き始め、消費者団体がいろいろな広告を精査しているという現状があって、監視プロジェクトが始まったところです。余りのひどさに厚労省はそれにどう対応していいか分からず、プロジェクトを継続するためのお金がない状況にある。これなどは自主規制で済ませれば足りる、補完ができると、なかなか楽観できない現状を示しております。

第5では、訪問販売法と景品表示法を例にして、どういう規制の組合せが現在出来上がっているかの説明をしてあります。これは法律についての事実の問題ですので、後で御確認いただければ結構です。

全体として、訪問販売法の場合、クーリングオフや過量販売、それから、重要事実の不告知等を理由とする契約取消権、解除に伴う損害賠償の制限など、全体として見ると極めて「重層的な」民事、行政、刑事の規制が施されています。

この中で、刑事責任は今はかなり厳格に動いていて、ややもすると迅速性に欠け、直接の被害回復につながらず、その機動性に問題があるという感じがしないではない。その上、行政による執行がうまくいっていない。けれども、強制手段を用いた捜査が行えるという刑事手続、それから、これと密接に結び付いた犯罪調査手続ができるという意味では、刑事責任も要所要所でその規制を担保するために、かなり重要なものになってまいります。さらに、犯罪による収益移転防止に関する法律を初め、犯罪利用預金口座等にかかる資金による被害回復分配金の支払いに関する法律、振り込め詐欺救済法等々は明らかに被害者の被害救済にも貢献しているということになります。

8ページの後段の部分は景品表示法に関してであります。御承知のように景品表示法は、本来、課徴金という形で数%の利益について罰金がかけられるわけですが、これは刑事責任だという整理がされています。しかし、他方で「自主的返金」をすれば、その部分は課徴金からマイナスして構わないという制度にした。これなどは個別の被害救済と刑事責任の程度をリンクさせた法律になっているわけで、ここでも現在では両者の接合が図られつつあると言えます。

9ページに移ります。現在の相互浸潤からすると、恐らく景品表示法違反の、著しい有利誤認・優良誤認表示が民事の世界で契約取消権、あるいは損害賠償請求権と結び付いたり、不当な勧誘行為として行政庁が認定したものが、民事の不実表示や威迫困惑行為の立証に援用可能となるのは、それほど遠い将来ではないだろうと予想されます。

最後に6で、最近の消費者契約法の専門調査会における議論からの教訓について少し書いておきました。当時の調査会の運営は半分私の責任でもあるので、余り申し上げるのはばかられるのですが、ただ、この消費者法制で事後的民事救済に関する民事効で自ら対処するのと、一般的取締規定や登録制度、基準策定などを通じて行政規制で予防的に対処するもの、その実効性を確保するための行政措置・行政罰あるいは刑事罰を用意するもの、それぞれの手法が損害回復や予防・拡大防止、市場の適正化などを通じて、消費者の権利保護のために重層的に機能しているということになるわけで、これまで以上に民事責任論が、事業者の市場行動規制にシフトした議論をすることが重要になることを強く感じました。

ところが、消費者契約法改正の作業において極めて残念であったのは、その議論が民法、消費者契約法、特定商取引法、景品表示法などの各種のレベルの異なる法律を、意識してかどうかはともかく、平板に捉えてしまって、「規制」ということで全てを評価した。その規制に対する事業者のコスト意識と衝突する局面が少なくなかったように思います。要件の曖昧さあるいは包括性に対する危惧は、事業者が表明したコスト面での多くの懸念に端的にあらわれています。それぞれの法規範が果たすべき役割あるいは要件の具体化に向けた手続が十分理解されないまま議論が進むことによって、ただ単にコスト増によって事業活動が萎縮するということを全てに渡る反論の根拠にするというようなことが行われました。私などは、法の性格によっては、そうであってはいけないのではないかと思うわけでして、出来上がった今般の改正消費者契約法は、実は特定商取引法化してしまっているとの評価さえできるようように思われます。

特に、消費者契約法におけるつけ込み型勧誘に対する取消権での包括的条項の運用と、事業者の自主規制基準による補完の可能性がもっと探られてしかるべきではなかったかという気がいたします。Q&Aを書いてくれとか、行政によるガイドラインを明らかにしてもらえないと事業者は萎縮するとかということが言われてルール化が断念されるとすれば、今後どれほど議論したとしても、日本の消費者保護法制は世界から立ち遅れたままになると思います。

我が国の行政的対応が世界的にも貧弱であるということは、最初にも述べたとおりですけれども、それならば、行政の人的・資金的限界を補完する手法として、民間の規制基準、あるいはガイドライン作りを推し進めることでこれを補完することを考えてどうかと思うわけであります。例えば「約款の事前開示」、これは改正前であっても当然要求されていたことすが、民法の改正によって、誤ったメッセージが出されて内容が不明確になったから、せめて消費者契約法ではそうではないのですよ、約款を事前に開示することが基本的なルールですよということを、努力義務の形で示そうとした。それだけにすぎないにもかかわらず、どこまで示せば約款を事前開示したことになるのか分からないから教えてほしいと事業者が言うわけです。事業者にはいろいろなタイプがあるわけで、それぞれについて消費者庁がガイドラインの中で示せと言われても示せるはずがない。ですから、むしろ事業者がこういう形で消費者のために事前開示しておけばいいのではないかということをみんなで考えて、それを実施していくことが、補完のための最大の方法になるということです。

「脆弱な消費者への情報提供の在り方」の問題や「脆弱な消費者へのつけ込み禁止」といったような包括的なルール、これだって当然のルールであるにもかかわらず、事業者としてコスト増を主張して反対している現状は、余りにもお粗末だという気がするわけです。市場を安全で安心できるものにするということは、消費者だけではなくて、健全な事業者にとっても必要なことなので、そのために両者が協同してガイドラインの策定作業をするということで、十分でない行政の対応を補完する。そうした補完作用を支援するというところに、差し当たって行政が力を尽くすということを第一歩とすべきではないかというのが、私の感触です。

時間が延びてしまいました。以上です。

○鹿野座長 河上教授、ありがとうございました。

今、御指摘いただいたところには、このワーキング・グループ発足のきっかけとなった私たちの問題意識と非常に関連の深い重要な項目が含まれていたように思われます。

それでは、ただいまの御説明を踏まえまして、御質問、御意見等のある方は、御発言をお願いします。いかがでしょうか。

池本座長代理、お願いします。

○池本座長代理 非常に明快な整理、御説明をありがとうございます。

特に最後におっしゃった消費者契約法の特定商取引法化、事業者のコストとか予測可能性という言葉であらゆる法律の規定を設けることについて消極意見であるというのは非常に残念だということを、どういう形で理論的にも切り分けていくかというところで、今日の御説明は非常に力を得た感じがします。

これは質問というよりは、感想を申し上げて、こういう捉え方でよいのかというところですが、先ほど民事ルールと行政規制という言葉がありました。これはそれを行使する主体が行政機関なのか、あるいは事業者、消費者、あるいは消費者団体も含めて当事者かという違いの問題という整理もあるけれども、個別の救済もしくは個別の抑止か、市場全体での包括的な抑止あるいは集団的な被害回復という、個別か包括的かの違いという区別もあるかと思うのです。もう一つ、消費者個人にしろ、消費者団体にしろ、裁判所へ訴えて裁判所の判断のもとでその法律効果が発生するものと、行政規制の場合は、行政機関自身が証拠を収集し、判断し、処分すれば命令の効力が直ちに発生する。裁判所が介在するかどうかによって、行政機関が自ら調査、判断、処分する場合には、いわゆる行政権の濫用を抑止するためという別の憲法的な概念が入るので、規定は明確でなければいけない、類推適用が自由にできるようでは困るというもう一つの価値観があると思うのです。

だとすると、適格消費者団体が差止請求をするのは、市場での行動そのものを抑止するという意味でいえば行為規制ですが、行為規制といっても、行政機関が行う行為規制とは根本的に違う、ルールとしては民事ルールの領域ではないかと。例えば、個別的な差止めというと、名誉毀損で出版を差し止めるとか、被害救済だけではなくて差止めも民事ルールの中にある。民事ルールか行政規制かというのは、裁判所に訴えて第三者機関が判断するのだというところに求めることができるのではないか。

そう考えていくと、消費者契約法には確かに差止請求という市場ルール的あるいは行為規制的なものはあるけれども、ルールの本質は民事ルールの領域だと。こう考えれば、特定商取引法における要件の書きぶりと消費者契約法の書きぶりは当然分かれていいのだという根拠にならないかなということをつらつら考えているので、その辺りについてお伺いできればと思います。

○河上教授 民事ルールなのか、行政規制基準なのかということについては、確かにその基準の適用に関しての判断者がどう違うかは一つの大きな違いであることは分かります。ただ、個別の消費者の被害救済のために裁判官が一つ一つの事案に基づいて判断をするという場合と、そうではなくて差止めということになったときには、むしろ個別の消費者の被害救済をどうするかという場面だけではなくて、その市場において与える影響ですね。差止めの効果が及ぼす影響、その影響についても判断せざるを得ないということになります。

判断者が行政に移ってしまって行政権における判断ということになったときには、もちろん裁量権の濫用の問題がありますので、裁判官がやるよりは更に具体的にきちんと定めておくということが要求されるわけですけれども、これだって、取消訴訟となれば最終的に裁判所が判断する点では同じです。ただ、その規範の持っている社会的な機能とか効果を考えたときは、それは市場の保護法益なのか、個人としての保護法益なのかというところは違ってくるのではないかという気がするわけです。

通常の不法行為の訴訟でも、例えば嫌煙権訴訟がございましたけれども、あれはたばこを吸ったその人がまずかったというか、健康被害を受けたということではなくて、そもそも列車の中でたばこを吸うことがいいのか悪いのかを問うていたわけですね。あれが司法の場で問われることが本当によかったのかどうか私は疑問ですけれども、しかし、そのように司法が使われているという意味では、政策形成や行為規範規定の部分に民事司法が踏み込んでいるという感じはいたします。

ですから、消費者契約法は基本的には裁判官が判断するのだから全て民事ルールだというのも、私はどうかと思いました。

○池本座長代理 民事ルール、行政ルールで、完全な二分論にしてしまえということで申し上げているわけではなくて、言わば、幾つかの領域でのレベルの違いがあるのだろうと思うわけです。つまり、行政規制は必然的に市場全体における行動を規制するものであるし、しかも、行政機関が専権的に判断して効果が発生する。消費者契約法は個々の消費者についての権利の実現かどうかというのと、市場における行動を規制する効果がある。2つの使い方があるけれども、そこでの使い方は裁判所を介在するものだから、行政規制におけるものとはルールのレベルが違う。その意味では、2分類というよりは3分類ぐらいになるのかもしれない。そういうイメージで考えております。

○河上教授 それであれば、ほとんど意見の不一致はありません。ただ、例えば後見法の適用のときに、個人が後見人としての選任を家庭裁判所の審判で求める場合と、市長とか首長が後見人の選任を求める場合があるときに、よく市やそういう公的な団体が、個人の利益のために動けるのかということを問題にする人がいるのですね。ただ、そこはそうした問題状況にある人が公権力によって一人であっても救われるという局面が、今は増えていると逆に思いました。ですから、それがうまく説明になるのか分かりませんけれども、公的な部分であっても、そこはにじみ出ている部分があると申し上げました。御指摘には全く同感であります。

○鹿野座長 今、池本座長代理から御質問があった点に関して、さらにちょっとだけ付け加えたいと思います。恐らく池本座長代理の問題意識の一つとして、消費者契約法には差止請求権の制度があるので、それは個別的な救済を超えて、行為規制として機能しているではないかとされ、そのことから、消費者契約法のルールは行政規制と同じような要件立てをしなければいけないのではないかという議論が時々聞かれたのですが、それは果たしてそうなのでしょうかという疑問があったのではないかと思います。

○河上教授 千葉惠美子先生が長い間差止め等々の議論が経済法的な市場規制の問題を扱っていて、消費者契約法は団体訴訟を入れたときから性格が変わったということをしきりに主張されています。そうなのか、それともそうではなくて、やはり個人を救うための民法の特別法としての側面が一方であって、それを客観的な指標でもって適格消費者団体が差止めに行くことを認めている。言わば、先ほどの第3の類型かもしれませんが、そういう二面性を持った法律に今はなっているのではないかという気がするわけです。ですから、他方で、消費者契約法の改正作業をするときは、個人の脆弱な心理状態とか意思決定の状態、個別の具体的な状態をくみ上げられるような包括的な条項を入れてほしい気がします。

他方で、適格消費者団体が取消権を認めて一定の差止めをやっていこうというときには、個々の人間の心理状態を客観化した指標でもってそれができるように仕組んでおく必要があって、そのためには、私は若年成人とか高齢消費者という年齢の要素はかなり大事な客観的指標であったという気がしております。

そういういろいろな性格があって、私はどちらかに倒してしまうことは危険だと思います。両面からの指摘というか、運用が可能な状態にしておくことが大事なのではないかと考えた次第です。

○鹿野座長 他にはいかがでしょうか。

高委員長、お願いします。

○高委員長 ありがとうございました。

我々が今、議論している内容に非常に近い御提言をいただいて、報告書をうまくまとめることができるのではないかと今日感じた次第です。ありがとうございました。

最後のページのところで、消費者契約法が特定商取引法化しているという指摘があるのですけれども、私はこの分野の素人なのでお聞きしたいのですが、これは「ジュリスト」ですかね。対談のところで何度も使っている言葉で、今日の話にも出てきているのですけれども、「実体法部分」という言い方をされていますね。そのときの実体法部分というのは、適格消費者団体などの差止めに関するところの事項は外した部分という意味で使っておられるのでしょうか。

そうすると、もしそういう解釈だとすれば、消費者契約法の特定商取引法化の傾向が見られるという話は、例えば差止請求権の話云々を外したところで、そういう傾向が現れていると整理してもよろしいでしょうかというのが、まず1点目に聞きたいことなのです。

○河上教授 実体法というのは、御承知のように手続法との対立概念でして、裁判手続の中で、どういう手続を踏んで、それを実現していくかを定めている部分が手続法、それに対して具体的な権利義務の内容について明らかにしている部分を実体法と申します。ですから、実体法でこういう場合にはこういう効果が与えられますという要件と効果の組合せでルールが出来上がっていて、その権利義務の内容の抽象度が法律によって相当違うということになります。

民法とか特定商取引法の中には、そうした抽象度の異なる要件事実がそれぞれ位置していて、それを具体的に実現していくときには民事訴訟法であったり、特定商取引法でも大概は民事訴訟法を使ったりしますので、これは手続法の問題になるという言葉の使い分けになります。

○高委員長 ありがとうございます。

いずれにしても、今回の消費者契約法の改正というのは、差止請求のところの議論ではないですね。今回行った16年と18年の改正というのは。

○河上教授 今回の改正も基本的には13条がかぶっていますので、ひとまず一緒です。

○高委員長 分かりました。

それで、私はこのWGの報告書を書くにあたり、具体的に今後何をやるのかを書き込むべきだと思っています。例えば消費者取引における包括的なルールとして消費者契約法を位置付けるといった場合に、条文の書き方として、例えば包括規定があって、その中に具体的なものを書き込んでいくようなことになっていくと、そういう形式にそろえていくべきだと提言するのはいかがでしょうか。

○河上教授 一方で、具体的なルールであればあるほど相談員は使いやすいと言います。何をしたらいいか、どういう場合に取消権が与えられるかがはっきりしているので、相談員はできるだけ具体的なルールにしてほしい、それができればうれしいとおっしゃいます。私はそれはそれで大事な要請なので、例えば具体的なA、B、C、D、その他A、B、C、Dを包括した要件を備えたルール、具体的ルールの受け皿となるようなルールを付け加える。そういう構造で不当条項についても、それから、不当勧誘行為についても規定を設けておくのがいいのではないかと思います。

○高委員長 ありがとうございます。

そうすると、包括ルールというのは、最初に一文あってその中に具体例を出すという方法でも、最後にその他という形で示すのでも良いということですね。

何でこういうことをお聞きしたかというと、今、河上教授がおっしゃったように、事業者側もできるだけ具体的にしてもらわないと、それが我々のところに適用されるから困るといって、それぞれの条項がどんどん具体的になっていく。それから、相談現場の方々もできるだけ具体的にしてほしいということですから、包括ルールと具体例を分けるという意識を持って、消費者契約法の今後の改正を考えていかないと、正に特定商取引法化していくということになってしまう。具体的なものの羅列だけになっていく。こういう理解で良いということですね、分かりました。

○河上教授 特定商取引法はむしろワンポイントで、この業態においてこういう行為をしたときは行政措置の対象になるというようにワンポイントでその規範を定めていくので、その意味では非常に具体的になります。ただ、相談員にとってみると、行政がやってくれないと相談員自身は何も言えない状況になっていますので、それは消費者契約法でも言えるようにしておくというのは大事なことです。ですから、私も高委員長がおっしゃるように、具体的なものと包括的な受け皿を組み合わせて消費者契約法のルールを定めていくということに賛成です。

○鹿野座長 他にいかがでしょうか。

樋口委員、お願いします。

○樋口委員 私も法律には素人なので、自主規制ガイドラインのところだけお伺いしたいのですが、国際的ないろいろな動きがあって、そういう中で企業の自主規制が一定の役割を果たす場面もあるのではないかと思いました。確かに河上教授のお話のように、組織率とかサンクションの問題がしっかりしていないと実効性が上がらないことになってしまうのですが、ただ、この世界のいろいろな動きを見ていますと、こんなことを言っては何なのですが、経済の立場で見ていると、法律がなかなか、各国の法律が整備されたとしてもグローバルなルールができないので、ネットの話ですとか、そういうところでは、かなり企業に踏み込んだ自主規制をしていただかないといけないのではないかとも感じるのです。その辺についてどのようにお考えなのか、お伺いできればと思います。

○河上教授 自主規制は、行政や刑事の規制策定が遅れがちになるのに対して、事業者の人は物すごく敏感ですので、進んだところでの自主規制は非常にいいレベルのものができつつある。国際的ないろいろな規制というものも存在してますいますので、私は行政や司法がうまくいかないときの一つの補完的な方法としては大事だと思います。

たしかに、企業の方が、自主規制で示されているガイドラインを守っていても裁判所がそれを認めてくれないのではないかなどとおっしゃるけれども、それはそうではなくて、ガイドラインの内容が合理的であり、場合によっては消費者の団体の意見も組み入れて作られた手続保障があるようなガイドラインが実施されていれば、当然民事の裁判所でのルール化のところでも十分にそうしたガイドラインが意味を持つと思います。

ただ、これまでの自主規制は、いいところもあればかなりひどいところもあるし、本当に悪質な事業者には全く歯が立たないのです。ですから、そこら辺の限界もあるので、いいところ、悪いところをちゃんと見きわめた上で、悪質な事業者に対しては刑事規制でも何でもきちんと規制をするほうがいいような気がいたします。

○樋口委員 分かりました。ありがとうございました。

○鹿野座長 池本座長代理、お願いします。

○池本座長代理 今の御発言に関連して補足の質問なのですが、御報告いただいたレジュメの6ページでは、現状の評価のところでは、事業者の自主規制が、組織率とかあるいは実効性あるサンクションとの兼ね合いでなかなか十分な効果が期待できないのではないかという評価の面と、ただ、その後に基本ルールの不備を補完するものとして位置付けることも期待できる、あるいは手続的保障が不可欠だという御指摘があります。そして、最後の9ページのところでは、包括的条項の運用と事業者の自主規制基準による補完の可能性が探られるべきだという御指摘があります。

この2つの関係はこういう理解でよろしいのかというところなのですが、ルールがはっきりしない段階で、例えば現代で言うとネットの分野における新しい業態とか、ルールがまだ定まらない、法律できちんとルール化できないときに、言わば市場のルールを先取りする意味で自主規制を先行的にどんどん作ってもらう。もちろんそこは適正なもの、公正なものでなければいけないので、外部の学識経験者とか、あるいは消費者の意向も取り込む必要がある。ただ、組織率との関係で、アウトサイダーには効果がない。だとすると、自主規制を先行させた上で、アウトサイダーをきちんとそのルールに近いところまで引き上げる、あるいは真面目にやっている人がばかを見ないためにも、後で追いかけて法規制が必要になる。こういう流れが一つ。

もう一つは、先ほどの民事ルールなどとの関係ですが、行政規制の細かいルールまではまだ作れないけれども、消費者の権利を尊重する包括的な民事ルールはまず定めておく。ただ、それを具体化するための自主ルールを各分野で作ってもらう。包括ルールの大きな方向性があるのでその枠の中で作っていただくし、それは各業態の実情を踏まえたものであるし、そこもまた先ほどの御指摘にあった消費者の意向をくみ上げたり、あるいは外部の学識経験者の見解もきちんと受けとめれば、裁判所が包括ルールの具体化のところでは当然尊重する流れになるのではないか。

そういう自主規制先行から後追いで法規制になるというのと、包括ルールがある中で分野ごとに自主規制で具体化するという2つの流れがあり得るのかなと思うのですが、その辺りはどう考えればいいでしょうか。

○河上教授 おっしゃるとおりだと思います。なかなか法律で定めるところまで行かない新分野はたくさんありますから、そういうところはむしろ民間の自主ルールからスタートせざるを得ないことになります。少なくとも消費者被害などが多発しているようなところでは、包括的なルールを一つ立てておいて、それに対してこういう効果と結び付けた包括ルールですけれどもというのを示しておいた上で、それを具体化していってもらう。そこでは民間の自主ルールを補完的な形で利用すると。そうでもしないと、一つ一つ行政に委ねていることになってはいつまでたっても前に進まないのではないかと思います。

○池本座長代理 正に最後におっしゃったとおり、行政が全てやるというお話になると、ちょうど今ネットの分野でどういうルールにするのか手探りですが、本当にいろいろな業態、もう細々とある中で、しかも新しく出てきている中で、いきなり行政規制で具体的な要件を定めるのはためらいがある。だからといって何もしないで放っておくと混乱そのものだと。

本当はそういうところで業界の中でリーダーシップをとって自主規制のモデルをどんどん作っていただきたいのですが、その流れもまだもう一つ見えにくいときに、包括的な民事ルールという後押しがあれば、自主ルールを作ろうというエネルギーになるのかもしれない。そこをどういう形で誘導していくのかはまだ私も分からないのですが、法的なルールと自主ルールは、必ずこっちが先、こっちが後ではないような気がするのですが、どうなのでしょうか。

○河上教授 そうだと思いますね。しかも、立法があるからというよりも、行政がそうしたフォーラムを作るという形で自主規制のための規範策定を支援する。これだったらできると思うのです。ですから、そういう形で行政がかんでくることは大事だろうと思います。

実際に実効性を確保していくためには監視機能を果たさないといけないのですが、そういうときにはそれぞれのアクターがやっても無理な部分があって、むしろ消費者個人個人が監視機能を果たす。ちょうど天気予報などで、気象庁がアメダスでいろいろなことを言って説明をして、今度は寒くなりますとかと言っている。それに対して各地の人が、今、ここは雨が降っていますとか、今、ここは雪が積もっていますというものを何万と出してきている天気予報がございますね。あれがヒントになると思うのです。監視機能は、個別の現場にいる消費者のほうが適切に果たし得るということになると、それぞれの得意技というものがあるわけで、その得意技を生かして行政にはできないもの、あるいは事業者だけではできないものを消費者団体などが実現していくというように全体を組み合わせていかないと、日本の消費者行政はなかなか実効性のあるものになりにくい気がいたします。

○鹿野座長 高委員長、お願いします。

○高委員長 全体の組合せでとおっしゃったのでお聞きしたいのですけれども、河上教授の資料で、8ページに景品表示法の話が出ておりますね。御自身が課徴金制度の導入のときにお仕事をされておられたのでお聞きしたいのですが、2つ聞きたいのですが、一つは、この中で課徴金制度は刑事罰の一種だと説明されているのですが、私は素人的でよく分かっていないですけれども、独占禁止法であれば、不当な取引制限の場合の課徴金は、これは恐らく行政罰と言ったらいいのでしょうか、別途刑事罰というのもありますので、そういう位置付けでいいのかどうかをお聞きしたいのが一つ。

もう一つは、当時、自主返金をやってもらおうという意図でこういう仕組みにされたのでしょうけれども、それがあれば課徴金は減免するという仕組みを作ったけれども、実態として見ると、ほとんど課徴金で済ませたほうがいいという状況になっている。もし河上教授が今この課徴金制度を作り変えるとすると、どういうところを、例えば自主返金と課徴金を結びつける必要はないとか、いろいろ御提案されるようなことがあるのではないかと思ってお聞きするのですが、2点、お願いできますでしょうか。

○河上教授 難しい問題で、当時、私は課徴金の問題というのは利益の吐き出しを求めるものだという理解で考えていたのです。民法の世界では、実はこれは事務管理などと同じ話でして、相手がそれで稼いだものは全部利益として吐き出させて、消費者に還元するという民事の頭で最初は考えようとしたのです。それは結局は認めないということになり、結果的には、行政罰についてのルールが一方であるにもかかわらず、なお課徴金というものを置くことについては、どういう性格のものになるのだという議論の中で、これは刑事罰ですから、行政罰とは二重処罰にはなりませんという説明の仕方をしたのです。

ただ、二重処罰にはなりませんと言ったけれども、それは国庫に全部入ってしまうのですかということになって、消費者が誤って払ってしまったものについて、そのまま国庫に入って何の消費者に対するリターンもない状態では、課徴金を入れても消費者は救われませんという話になって、それならば消費者に対する返金をやったら課徴金の額をそれに連動させて減らすというようにすれば、間接的に消費者が救われますという形で現在の仕掛けが出来上がったと記憶しています。

ただ、実際に返金を求めるときの証拠などいろいろ考えると、なかなか返金できない。インターネットの通販などで買った場合には何とかなるかもしれないと考えたのですけれども、現実には返金制度が個別の消費者の被害の救済には機能していないということです。

今、作れと言われれば、私は3%から30%ぐらいに引き上げておいて、そのお金を消費者の利益のための基金に回す。つまり、今後の消費者のためにその課徴金を利用する仕組みを導入するというほうが、まだ実効性があるかなとは思っております。諸外国の課徴金はべらぼうに高いですね。日本の事業者はその意味では甘やかされていると思うのです。外国に行ったときに日本の消費者によって鍛えられていないですから、大変ひどい目に遭っている気がするのです。

いずれにしても、あの課徴金制度をどう変えていくかは、まだまだ考えるべき余地があるような気がします。

○高委員長 今、御指摘されたのは、課徴金の制度、課徴金額そのものが重たいものになれば、それよりも返金したほうがいいと事業者が考える方向に持っていくということ。こちらのほうが単純で合理的ではないかということですね。

○河上教授 はい。

○高委員長 ありがとうございます。

○鹿野座長 池本座長代理、お願いします。

○池本座長代理 何もかも教えを請うばかりで申し訳ないのですが、先ほど自主規制を行政がフォーラムなど議論の場を作るなどしてどう推進していくかということが重要だという御指摘がありました。なかなか自主規制というものが、特に業界分野が許認可、登録制のように一つの分野が決まっているところはいいのですが、例えば特定商取引分野のほとんどは、いわゆる業界としての固まりがない。通信販売の業界とか、訪問販売の業界といったものは、その中にいろいろな業種が入っているので、一つのくくりとはなかなか言いにくい、結集がしにくい。

そういう中で実効性のある自主ルールというと、ある程度同質の業界である必要があると思うのですが、その自主ルールを策定していくための後ろ支えというか推進策というものが、ただ行政が呼びかけるだけではなかなか動きが出てこないのではないか。あるいは、現実にこの間もやってきているのではないかと思うのですが、そこがもう一つ見えていない。最近、消費者志向経営というものを事業者向けに消費者庁は頑張っていますが、これもなかなか抽象的な呼びかけだけでは動きになっていない。ましてや、一定の実効性がある自主ルールとなると、ますます業界そのものが率先して作るという流れになっていかないのではないか。この辺りを促進するための法制度なのか、それとも予算を伴う政策になるのか分からないのですが、その辺りで何かヒントをお伺いできればありがたいのですが、いかがでしょうか。

○河上教授 新規事業であったり、零細な分野になると、なかなかみんなが集まってルールを作るのは難しいのかもしれません。ただ、経団連とか、いろいろなところは企業憲章を作って抽象的ながらも一定の方向性を示し、さらに個別の業界においては公正競争規約みたいなものを作るというようにして、少しずつ具体化しています。どうしても問題が起こりやすい企業体になったときには、もうある意味では登録制を導入するのもも一つの手で、そうすると無登録の業者に対しては徹底的に違法行為だと言えますので、問題が大きいところは登録制度を使うということも考えざるを得ないのかなと思うのです。

決済代行業者が日本でいろいろなことをやって問題になったときに、金融庁があれは登録制度にしようということで、少なくとも日本で活動する決済代行業者は登録制にしましたね。あのように登録制にしてしまえば、少なくとも決済代行業者はこうあるべきだということが言いやすくなることは確かなので、そこは効果的にそうした制度もあわせる、それ以外のところは個別に考えてもらうということでしようがないかなと思います。

○池本座長代理 ありがとうございます。

正にそこは我々の悩みの種なのですが、今、こちらで考えている中の一つの発案として、例えば最近の議論では、公益通報者保護法については内部通報の窓口を整備するようにというのを法律上の義務、零細事業者は努力義務ですけれども、そういうものを入れるというのがありました。

そういうものも一つのヒントなのですが、例えば特定商取引分野の業態、これはトラブルが発生しやすい業態だとすれば、そういう分野についてはコンプライアンス体制の構築義務のような規定を入れる。登録制まではなかなか行政的な事務負担が大きいので、内部統制構築義務というと会社法だと一定の大企業だけになってしまう。そうすると、トラブルが多発しやすい業態についてはコンプライアンス体制の構築義務という中で、例えば法令遵守の自主的なルールもちゃんと作りなさいとか、苦情の窓口を作り、あるいは記録をちゃんと残しなさいとか、一般の中小・零細のところでも実施可能な線を探って、そのようなものを定める。

先ほど来出ている包括的なルールを自主ルールとして、個別事業者というよりは業界の中で自主ルールを作れば一つの包括ルールの具体化になるし、さらに個別事業者の法令遵守の行動につながるというようなことはできないかなということも考えているのですが、登録制もない分野のところへそういった法令遵守の体制構築義務のようなことを入れるというのが制度的に可能なのかどうか。全然民事の分野とは違う話になっていきますが。

○河上教授 少なくとも代表的な事業者は分かっているわけですので、その人たちに一本釣りで声をかけて集まっていただいて、あなたたちの業態でこういう取引にするときにはどういう取引ルールにしたらいいか検討しましょうというようにして、例えば10社ならば10社で検討してもらって、それに入っていない人はこの指とまれで、そこで作ったガイドラインみたいなものを守っている限りあなたたちは守られますよという体制にしておけば、寄ってくる事業者は結構いるのではないかと思うのです。

有料老人ホームが昔、最初の段階ではほとんど組織化がなかったのですが、寿マークを作ることで結果的には組織化が進んでいったということがございました。消費者委員会がやったケースでは例の終末期のサービスですね。あれはまだ組織化がなされていないわけですけれども、終末期のサービスの中で典型的に問題となるようなものが出てきて、しかも、幾つかの大きな有名な団体が集まったところで、こういう問題があるので自主的な約款の改定に取り組んでくださいということは言っているらしいのですけれども、あれがうまくいけば他のところでも似たようなことをしようとするときに、ここに沿って動けば余りとがめられないなというように、メリットを感じてもらえれば動くのではないかと思うのです。

余りお役に立てませんで、すみません。

○鹿野座長 高委員長、お願いします。

○高委員長 今、池本座長代理がおっしゃったことで思い出したのですけれども、かつて国民生活審議会で自主行動基準を策定して、それで開示してくださいと呼びかけました。これに呼応して対応してくださったのは、特定商取引法を適用される事業者の方々でした。当時、事業者団体が中心になってひな形みたいなものを作って、会員に呼びかけ、取組を促してくれました。ただ、おっしゃるとおり、それを構築義務にはしなかったので、事業者団体の会員数は増えなかったと。一度そのステップを踏んでいるので、つまり、自主的な取組というステップを踏んでいますので、いろいろな人の意見を聞かなければいけませんけれども、構築義務というのは、この業界で考えてもいいのかもしれませんね。

○鹿野座長 私から追加で一つ質問させていただいていいですか。先ほど議論のありました受け皿規定などとも関連するかもしれないのですけれども、消費者法分野の民事法ルールの立法をするときにも、立法事実ということが繰り返し言われるのですが、その立法事実についてどのようにお考えかという質問です。

特に消費者契約法の改正の議論の際に、立法事実が必要だという主張がありまして、立法担当の事務局は具体的な被害事例を持ち出すことに追われていた感が見ていてございました。そして、その結果として非常に特別な被害事例だけを意識したような厳格で細かな要件のルールが、あるいはそのような形でのルールのみが、取消権の規定の中に追加されたというような印象を受けているところです。

立法をするのだから、ルールがこういうことで必要なのですよという必要性を示すという意味での立法事実であれば、それが要求されることは否定しないのですが、消費者契約法においても具体的な被害が相当数発生しなければルールが作れないというような意味合いで立法事実が語られるとすると、そういう立法事実が果たして必要なのだろうかと、個人的には非常に疑問を感じるところであります。

特定商取引では、規定の性質も違いますので、そのような形での立法事実論が語られてきたということがあるかもしれません。けれども、それと同列で消費者契約法の立法事実の必要性が強く主張されたのではないか、そのような形で今後も議論を繰り返すことでよいのかということについて、河上教授のお考えをお聞かせいただければと思います。

○河上教授 最近、立法するときには、何らかの立法事実をきちんと出して、それに従ってそのルールが社会に対して過剰な影響を与えない、あるいは過少な形での規制にとどまらないようにという過剰規制、過少規制にならないようにするためにも、ある程度全体を説得できるような立法事実が必要なのだと言われることが多いのは事実だと思います。恐らく消費者契約法を考えている際も、事務局や一定の方々は、そうした具体的な立法事実があれば何とかできるのにと皆さん考えたのだろうと思います。ただ、私は立法事実というのは、具体的な被害が出ていますということではなくて、場合によって、社会の状況においてこうした変化がありましたと、そのことが一定の被害の発生の蓋然性を高めますという程度のことであっても、立派な立法事実として消費者契約法は動くべきだと思います。

例えば、成年年齢の引下げという新しい環境が青少年のところに生じたと。そうだとすると、青少年の上級生、下級生の間で一定の影響関係があるときにマルチのようなものがはやったら困るのではないかとか、学校の中にそういう問題が含まれてくる可能性が出てくるのは目に見えているわけです。目に見えていると言っては言い過ぎかもしれませんが、そういう問題が起きるであろうということは相当の蓋然性をもって予想できる。そういうときに、あらかじめ手当てをするというのが、包括的な立法の一つの重要な役目であろうと思います。

ですから、被害事例A、被害事例B、被害事例Cというものを出して、その要件を一つ一つ細かに固めて、ここまでだったら取り消せますという今のようなやり方は、幾ら積み重ねても新しい問題には対応できない。消費者契約法はそういう法律ではということを先ほど来申し上げているわけでして、その改正に必要な立法事実というものの性格も異なるだろう思います。その意味では、私は鹿野座長の意見と一致しているところです。

○鹿野座長 ありがとうございました。

他にはよろしいでしょうか。

それでは、予定していた時間も参りましたので「民事ルールと行政規制の役割分担」についての本日の検討はこの辺りにさせていただきたいと思います。

河上教授からは、本日、非常に貴重な示唆に富む御意見を多数頂戴いたしました。これも踏まえて、今後、報告書の作成に取り組んでまいりたいと思います。

河上教授におかれましては、本日、お忙しい中御出席いただきまして、本当にありがとうございました。

○河上教授 どうもありがとうございました。


≪3.閉会≫

○鹿野座長 本日の議事は以上です。

最後に、事務局から事務連絡をお願いします。

○坂田参事官 本日も長時間にわたりまして御議論いただき、誠にありがとうございました。

次回の日程につきましては、改めて御連絡をさせていただきます。

以上です。

○鹿野座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。

お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございました。

(以上)