第22回 公益通報者保護専門調査会 議事録

日時

2018年11月22日(木)9:30~12:18

場所

消費者委員会会議室
東京都千代田区霞が関3-1-1 (中央合同庁舎第4号館8階)

出席者

【委員】
山本座長、柿崎座長代理、石井委員、浦郷委員、亀井委員、後藤委員、中村委員、林委員、春田委員、水町委員
【オブザーバー】
消費者委員会 池本委員長代理、樋口委員
【消費者庁】
高田政策立案総括審議官、廣瀬消費者制度課長、大森消費者制度課企画官、
消費者制度課担当者
【事務局】
二之宮事務局長、福島審議官、坂田参事官、友行企画官

  ※なお、柿崎座長代理の崎は、正しくは立つ崎

議事次第

  1. 開会
  2. 不利益取扱い等に対する行政措置等について
  3. 立証責任の緩和について
  4. 通報行為に伴う損害賠償責任について
  5. その他の論点について
  6. 閉会

配布資料 (資料は全てPDF形式となります。)

≪1.開会≫

○山本座長 それでは、定刻となりましたので、開始をいたします。

本日は、お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。ただいまから第22回「公益通報者保護専門調査会」を開催いたします。

最初に、配付資料の確認をさせていただきます。

お配りしております資料は、配付資料一覧のとおりとなっております。不足がございましたら、事務局までお願いいたします。


≪2.不利益取扱い等に対する行政措置等について≫

○山本座長 それでは、本日の議題に入ります。

まず、不利益取扱い等に対する行政措置等につきまして、消費者庁から資料1の説明をお願いいたします。

○大森消費者制度課企画官 消費者庁でございます。

資料に基づいて御説明させていただきます。

お手元の資料について、このテーマにつきましては第1のところから順を追って御説明させていただきます。

第1、審議の中間整理でございますけれども、中間整理におきましては、行政措置の導入につきましては、不利益取扱いを行った事業者に対する行政措置を導入する必要がある。紛争解決手続を整備した上で、行政措置は重大かつ悪質な事案に絞って考えるべき。

行政措置の種類については、是正を勧告し、事業者が従わない場合には公表すべき。その前段階として、調査及び事実認定をしっかり行い、助言や指導によって是正を促すなど慎重な手続を踏むべき。 他の行政機関との連携につきましては、行政措置の対象として考えられる事案の件数、行政措置の対象として想定される典型的な事案の内容、各行政機関による連携・協力や体制のあり方等を具体的に検討ということがございました。ここにつきましては、脚注にございますように、「各法令の所管省庁との協力も必要な話ですので、協力体制も含めて検討していただきたい。」あるいは「行政措置の制度を導入するべきかという話と、現実にどのような体制でできるのか、どういう可能性が考えられるのかという形で、今後、同時並行的に議論する」という宿題をいただいているところでございます。

2ページで紛争解決手続につきましては、不利益取扱いに関する紛争解決手続を充実・拡充させていくことが必要である。どのような手順に対応して、最終的な措置をとって解決していくのか、行政機関との間でどのような連携をとることができるのかを検討。あるいは労働者以外の者に対しても紛争解決援助を行うことについて引き続き検討とされているところでございます。

これにつきまして中間整理に対する関係団体・省庁の意見というところでございます。関係団体の意見としましては、ヒアリング等でありましたが、勧告までにとどめるべきではないか、あるいは命令も可能にするべきではないか。また、全ての通報対象事実の対象法令について、行政措置が重複することがないよう、慎重に検討する必要があるといった御指摘をいただいております。

3ページ、関係省庁の意見でございます。これにつきましては、意見といたしまして、まず事実関係は各行政機関において業務上知るべき情報ではないということと、措置を行うのであれば所管省庁である消費者庁において対応することが適切であって、任務規定に照らしても消費者庁以外の省庁が対応する法制理由がないというのがまず1点。

それに加えまして、もしも消費者庁以外の省庁が関与する場合においては、その業務の相当本質的な部分が消費者庁以外の当該省庁の本来業務と関係していて処理が現実的に可能なものでなければ対応が困難であるということで、現実の体制上も任務を遂行するために必要かつ最小限の人員体制で動かしている中で新たな事務を行うということが不可能というような御指摘。

3点目としては、紛争解決手続の充実・拡充の実現のために消費者庁において責任を持って体制を整備することが公益通報者保護法の目的達成及び実効性の担保に資するという意見をいただいているというところでございます。

これを踏まえまして検討に移りますけれども、まず立法時の考え方としましては、不利益取扱いが行われた場合に民事ルールを超えた措置を設けることについても積極的な意見もありましたが、比較的性善説的なものを念頭に置いて、それの法令の整備と事業者の活動がうまくいけば消費者利益が保護されるという期待で作られているということでございますので、民事ルールをまず設定する必要があるというようにされたところでございます。

しかし、2に参りまして、公益通報保護法の施行後、労働者が通報したことを理由として不利益取扱いがなされた事例は多数存在しているというところで、4ページに裁判例として3つ挙げさせていただいているというところでございます。

これら裁判例や調査結果から、公益通報者保護法の施行後も公益通報を理由とした解雇その他の不利益取扱いは依然として行われており、民事ルールだけでは、なかなか不利益取扱いの抑止の効果が十分でないことが明らかになっていると整理しております。

4ページの結論というところに参りますけれども、結論としましては、不利益取扱い等に対する行政措置を導入することの是非について、不利益取扱いに対する抑止の観点から行政措置を導入することの是非についてどう考えるかというようにさせていただいております。また、第20回の専門調査会におきまして、事業者に内部通報体制整備義務を課すことが議論されましたが、この義務の履行を確保するために行政措置を導入することの是非についてどう考えるかというようにさせていただいております。なお、不利益取扱いの抑止の観点からの行政措置につきましても、内部通報体制整備の義務履行を確保するための行政措置につきましても、後で御説明しますが、実効的な執行体制の整備が必須になるということに留意する必要がございます。

5ページに参りまして、導入する場合の行政措置の種類でございますけれども、比例原則に鑑みれば、過剰な行政措置を導入することは適当ではないという整理ができます。また、労働法制において、労働者が安心して働くことができる職場環境整備の推進を目的とするというものにつきましては、措置としては助言、指導、勧告、公表の制度が取り入れられているものが多く、まずは助言、指導、勧告によって助成を図っていくことが適当と考えられるところでございます。

また、勧告に従わなかった場合も公表を行うということで不利益取扱いの抑止効果が期待できるということでございます。これらのことから、導入する措置としては、助言、指導、勧告及び勧告に従わなかった場合の公表とすることの是非についてどう考えるかとしておるところでございます。

次に(3)行政措置に係る執行の体制整備でございます。行政措置を導入することとしても実効的に執行できなければ導入する意義がございません。法を所管する消費者庁において体制を整備し、一元的窓口における相談等によって得られた端緒情報をもとに、必要な調査を行った上で、助言、指導、または勧告、勧告に従わない場合は公表の措置を行うということが考えられますけれども、ここで消費者庁の性格といたしまして、地方支分部局を持たず、また、これまで労働関係法令に関する執行実績はなく、更に言えば、発足以来10年を経過せず、多くの府省各府省からの出向者が職員として支えて下さっているという現状にあるということがございます。

したがいまして、消費者庁における体制整備は、このような現状を踏まえまして、関係省庁からの協力を得て円滑な執行に向けた体制を構築するということが必須であると考えられます。消費者庁が行政措置を行う実務についても関係行政機関と連携・協力した対応が必要であると考えられます。

なお、実効的に執行するための体制を整備することが困難であるという場合につきましては、行政措置の導入、さらには体制整備義務を課すということについても再度検討する必要があることは留意する必要があるというところでございまして、この場合には義務を課すことではなく、事業者の任意の取組を促すことも考えられるということでございます。

次に、紛争解決手続のところに入りますけれども、行政措置を導入した場合に、その実施により、全体として公益通報者と事業者の紛争が解決することがあり得るということでございます。ただ、必要な調査を行ったとしても事実認定が十分できずに行政措置では紛争解決を図れないという事案もあり得ると。あとは行政措置を実施する場合には必要な調査もしなければならないので時間を要する場合もあると考えられます。よって、不利益取扱いが疑われたとしても行政措置が実施されない場合や公益通報者が行政措置を待たずに紛争解決を求める場合があり得ます。

また、行政措置を実施して法違反が是正された場合でも、なお、紛争が残る場合というものもあり得まして、そのような場合に公益通報者が紛争の解決を希望すれば公益通報者と事業者の紛争を解決するために行政措置とは別に紛争解決制度につなげていくということが重要と考えられるというところでございます。

具体的には、消費者庁の一元的窓口において、公益通報を理由とする不利益取扱いに係る情報提供、相談体制の充実を図りまして、現在も利用可能な紛争解決手続を説明するということが考えるとともに、通報対象者の範囲が拡大された場合においても、公益通報者のニーズに沿った体制とすることが考えられるかどうかというようにさせていただいております。

ページが飛ぶのでございますけれども、1枚おめくりいただきまして「(別添)一元的窓口の概要」というものがございます。

一元的窓口につきましては、このような機能を担うこととしてはどうか、2つに分類して精査したところでございます。

1つは、既存の事務で行っておるが機能を拡充するものというところでございまして、情報提供や相談対応といった既存の相談ダイヤルの対応の一層の充実というところと、引き続き法の施行調査を実施し、通報への対応状況の把握をする。さらには連絡会議の枠組みを活用しつつ、体制整備や職員の周知といったもののフォローアップをするということ。情報提供や相談体制の充実を図るほか、公益通報者のニーズに沿った紛争解決手続を説明するということが1つ目の機能の拡充というところでございます。

新たな機能の付与というところにつきましては、相談がなされた場合に一元的窓口が各行政機関と連携しつつ、権限を有する行政機関を特定して教示をするということ。もう一つは、行政機関の不適切な対応があった旨の苦情を受け付けた場合において、必要があると認めた場合には、当該行政機関に注意喚起するなどして適切な対応を求めるといった機能が付与されるのではないかと整理しております。

説明としては以上でございます。

○山本座長 ありがとうございました。

それでは、続きまして、林委員からEU等の公益通報者保護制度における本日の議題に関連する部分につきまして資料が提出されておりますので、御説明をお願いいたします。

○林委員 御説明させていただきます。

1ページ目のところ「不利益取扱いに対する行政措置・刑事罰等について」ということですが、EU指令案では17条1項で、通報を妨げ、または妨げようとする、通報者に報復措置をとる、報告人に不当な手続を提起する、通報者の個人情報の守秘義務違反をする自然人または法人に対し、効果的で比例的、抑止効果のある不利益措置、ペナルティーを課さなくてはならないとしておりまして、一定程度のペナルティーを課すことを前提にしております。なお、このペナルティーの意味ですけれども、刑事罰に限定するわけではなく、行政罰なども意識しているということで、これは参考になると思います。

以上です。

○山本座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまのテーマにつきまして意見交換を行います。御意見のある方は御発言をお願いいたします。

それでは、浦郷委員、お願いします。

○浦郷委員 この公益通報者保護法の直接的な一番の目的というのは、通報した人を不利益取扱いから保護することだと思います。この法律の中で不利益取扱いを禁止するとなっていますけれども、法施行の後も不利益取扱いがされた事例は多数あるということで、本当、民事ルールだけではこの不利益取扱いの抑止の効果が十分ではないというのは今までの議論の中でも明らかだと思います。

不利益取扱いを抑止するためにも行政措置は入れるべきであり、本来ならば命令以上のものを求めたいところですけれども、今回、提案のところが助言、指導、勧告及び勧告に従わなかったときの公表とするとなっていますので、公表まできちんと入れて規定すべきだと思います。先ほどEUの例も出されましたけれども、何らかのペナルティーはあるべきだと思います。公表が入ることによって、この抑止効果がやっと期待できるものになるのではないかと考えます。

以上です。

○山本座長 ありがとうございました。

そのほかにいかがでしょうか。

それでは、中村委員、お願いします。

○中村委員 ありがとうございます。

行政措置に関してなのですけれども、私ないし企業としては、行政措置が必要かどうかといいますと、これが多分内部通報を原因として不利益取扱いがされたのかどうかというのが、もちろん、意図的にやるところはあるのかもしれませんけれども、一般的には多くの案件ではそこが争われるということではないかと考えておりまして、そうなってくると、非常に裁判でも長く審理をしないと事実が明らかにならないという中で、それが例えば悪質というか多数そういうことをやっているとか、明らかにそうであるというようなケースについてであれば公表ということも仕方がないのかもしれませんが、そこの部分がなかなか消費者庁なりで判断することが本当に可能なのかというところがございまして、そういった意味において、行政措置に関して、そもそもどうなのかというところはありながらも、厳格な調査で、その内部通報を理由とする不利益取扱いではないかということをきちんと確認した上での指導であるとか、そういうことを条件として公表というところは先ほどの理由から反対でございますが、勧告までというところであればやむを得ないのかなというのが経済界としての意見でございます。

内部通報体制の整備ということに関しましても、従来から申し上げているような、あくまでも外形的にやっているかどうか、これがちゃんとしている、ちゃんとしていないという判断ではなくして、それらの判断が入ってまいりますので、外形的にやっている、やっていないということであることを条件に行政措置の導入には反対をしないという意見でございます。

行政措置に係る執行体制の整備につきましては、整備をするということに反対ということではございませんが、この資料の書きぶりとして、実効的に執行する体制整備が可能であるかということがまだ確認できていないというような書きぶりになっているということで、そこはきちっと整備ができるのかどうかというのを見定めて専門調査会としての意見を取りまとめるべきではないのかと感じているところであります。

4番目の不利益取扱いに関する紛争手続につきましては、消費者庁案に反対するものではございませんが、同じように一元的窓口がきちっと機能するということが担保されることが必要でありまして、企業等でもありますように、内部通報なのかどうか、公益通報なのかどうかということでありましたり、そういうことをきちっと判断をして、でも、きちっと判断をしても、企業の実感としては我々としてきちっと判断をして調査をして、これは問題ないというフィードバックをした場合でありますとか、例えばもともとは通報された方に課題があるということで、ここはこういうようにしたほうがいいではないかというような指導をしたような場合について、それを不平に思われて体制が整っていないであるとか、内部通報に対して不利益を受けたというようなケースが企業の実感としてはかなりあるということでありますので、結果として一元的窓口においてもそういったことが起こらないのかどうかということ、そういうことも考えながらきちっと運営をしていただくということを前提に反対をしないということでございます。

以上です。

○山本座長 ありがとうございました。

そのほかにいかがでしょうか。

では、春田委員から。

○春田委員 私もこの行政措置の導入することの是非ということでは、公益通報者保護法の現状を見ると、行政措置を導入して不利益取扱いを行った事業者に対する制裁効果、抑止効果というのは期待できるのではないかと思っております。

行政措置の種類ということに関しましては、ここにも労働法制の例が出ておりますけれども、こういったことも鑑みながら、やはり助言、指導、勧告、公表。気持ちとしては、先ほど浦郷委員から話があったとおり、私は命令ということもありなのかなとは個人的には思っておりますが、まずは助言、指導、勧告、公表の制度を入れていくということが重要ではないのかと思っております。

「(3)行政措置に係る執行の体制整備」というところでは、消費者庁が発足以来10年を経過せずということで、各府省からの出向者が支えている現状にあるというような記載もございますけれども、ここのところは体制整備をきちんとやっていただくということがやはり前提になってくるのではないのかなと思っておりまして、そこも含めて行政措置の導入ということを意見したいと思っております。

以上です。

○山本座長 では、林委員、お願いします。

○林委員 先ほどの浦郷委員、それから、今の春田委員の意見とほぼ同じなのですけれども、さらに付言して言いますと、事実認定に関しまして消費者庁ができないのではないかというようなお話もありますが、事実認定を全て消費者庁がするという体制ではないと思っていまして、それは所管する省庁でされることだと思いますので、そこには問題ないと思います。

むしろ行政が連携してちゃんと協力体制がとれるのかというところのほうが問題ではないかと思いまして、先ほど一元的窓口のお話がありましたが、一元的窓口のところに来たときに、ここはA省ですよと言って紹介しただけで終わるという流れではなく、むしろ受け付けた事件に関しては責任を持ってA省に回して、その結果がどうなったのかというのをちゃんとフィードバックしていただいて、どのような結果になったのかというのを全て消費者庁のほうで把握するというのが公益通報制度をうまく回すことになるのではないかと思いますので、そういう体制づくりをしていただきたいなと思います。

紛争の解決の手続に関してなのですけれども、今、弁護士会で公益通報の相談窓口がありますが、その相談に来られる方の多くが消費者庁の窓口で相談をしたという方が結局具体的な相談をしたいということで来ています。そういう体制ももともとありますので、弁護士会のADRを用いることによって紛争を解決することができないかと考えています。

といいますのも、調停はいいのですけれども、裁判になりますとその内容が公開されるということになりますので、企業にとっても余りメリットがないということでADR、調停の手続を使って非公開で紛争を解決するということで穏便な解決が図れるのではないかと思っているところもあるので、そういう方法も試行されてはいかがかと思っています。

以上です。

○山本座長 ありがとうございました。

ほかにいかがでしょうか。

後藤委員、お願いします。

○後藤委員 不利益取扱いに対する行政措置については、導入には反対するものではないのですけれども、事務局にお聞きします。措置の種類として助言、指導、勧告、公表と出ていますが、措置を導入した場合に、想定されるボリューム感としてどのぐらいの数になるのか、そのあたりを想定できるものがあれば説明いただきたい。

○山本座長 それでは、お願いします。

○廣瀬消費者制度課長 これはあくまで想定でございますが、現在、都道府県の労働局に寄せられている民事上の個別労働紛争相談件数というものは年間25万件ぐらいございますが、全てが通報を原因としたものではないということからいたしますと、そのようなものが多数はないということでございまして、1%ぐらいと想定しますと、重大、悪質な事案もそれ以外のものも含めて、全て年間、約2,000件程度、そういった端緒となるような情報があるのではないかと考えております。

ただ、この中からもちろん、助言や指導で直ちに是正されるようなものもあると考えておりますし、不利益取扱いの内容の重篤性などを踏まえて、考慮要因としまして行政措置の対象となる案件が選定されていくようなものと考えてございます。

○山本座長 以前に議論した際に、特に公表に至る案件としてはかなり重篤というか悪質な案件を想定する。勧告に従わなかった場合に公表ということですから、勧告の段階でもかなり問題のある事案に絞られていると思うのですが、公表になりますと、更に絞られることからすると、それほどの数のものは想定をしていないという理解でよろしいでしょうか。

○廣瀬消費者制度課長 さようでございます。

○山本座長 制度としては公表まで作るけれども、実際上、そこまで本当に至るものとしては、それほど多い数を想定はしていないということだと思いますが、後藤委員、よろしいですか。

○後藤委員 極めて悪質なものということで公表するとのことで、措置の想定がかなり限られた数だということであれば、その制度を設けることに反対はしないということです。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにいかがでしょうか。

石井委員、お願いします。

○石井委員 今の点に関係いたしまして、労働局長をやっていた立場で勧告と公表の関係を申し上げますと、やはり非常に悪質な場合に勧告に至ったとしまして、次、公表という手続に移ります。まず労働局長が勧告して従わないと大臣の勧告に移ります。大臣勧告に移るということになると、そこで多くの場合、企業ではトップまで上げてしっかり議論されるようでありまして、ですから、公表に至っているのは今まで1件とか2件とかというのは、その結果でございます。よほど実は行政側の調査に不備があると思っていて確信を持っているか、争いましょうと恐らく訴訟まで行ってもいいというぐらいのときに公表の対象になるというのが現場でいたときの感覚でございますので、参考になればと思います。

あわせまして、もう一つだけ。基本的にこの度の事務局の提案、大変御苦労された上での提案だと思いまして、この方向でいいのではないかなと思っておりますが、1点だけ、こうしていただいたほうがいいなと思う意見がございます。最後の個別紛争解決のところです。今もあらゆる民事上の問題は労働局の個別紛争の窓口で受ける形になっておりまして、現実問題、どの程度周知しているかは別としまして、現在もこの窓口で処理をしているケースがあるわけでございます。ただ、今回、仮にこういう形で進んでいきますと、周知が徹底されるということになりますと、難しい事案もそうですし、数についても出てくることが想定されるわけでございます。その際に、適正な処理がなし得るようにするためには、今、業務を担っている方に対する新たな研修とか情報提供とか、そういう体制を強化する形でのてこ入れというのは不可欠だろうと思っておりまして、ぜひそのあたりは仮にこのまま進んだ場合には、お願いをしたい。これは双方のためになるだろうと思っております。

以上でございます。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにいかがでしょうか。

それでは、亀井委員、お願いします。

○亀井委員 事務局案に基本的に反対するものではないのですけれども、4ページ目の事例1、事例2、事例3というのは恐らく組織側、企業側が不利益取扱いを意図的に行うという非常に悪質で分かりやすいケースなのではないかと思います。

私が経験している実際の通報案件ですと、通報者の方が御自分の労働環境もしくはその中の人間関係がかなり悪化されていて同時に通報されるというケースが実は相当多いです。ですので、人事施策、今回は解雇が主たる論点になっているかと思うのですけれども、異動も含めて人事施策が不利益取扱いであるのかどうかという決断を下すというのは非常に微妙な判断が必要になってくると思われますので、そこが心配です。

あとは、ちょうどこの4ページ目の不利益取扱い等に対する行政措置のところに内部通報体制の整備義務を課すというのも併記しておられるのですけれども、実際に通報者の方と企業側が不利益取扱いだ、いや、通常の人事施策だというような議論になったときに、企業側の抗弁としては、内部通報体制をしっかり整備して運用していて、その上でなされた人事施策だというような、そういった理由、弁明というのが通常出されるのだろうなと思います。となりますと、内部通報体制が整備されていたということは一体どのようにして誰が判断するのか。

これは私どものグループ企業が監査を行っておりまして、もともと示された基準に合致した体制整備がなされているか、そして、それが継続的に運用されているかという判断を下すためには相当の手続を施します。ですので、先ほど石井委員がおっしゃっておられたように、この不利益取扱いに対する適切な措置を下していくということと、内部通報体制の整備義務に関して適切な措置を下していく、この両面で、その評価する側の体制というのが極めて負荷の高い重要な役割を果たすのではないかと思いますので、この点もしっかりと整備していただきたいと思います。

すみません、長くなりました。

○山本座長 柿崎座長代理から、挙手されましたね。お願いします。

○柿崎座長代理 6ページの一番上の「なお」のところなのですけれども、不利益取扱いの行政措置を実効的に執行するための体制を整備することが困難な場合に、行政措置の導入等、また体制整備義務を課すこと自体についても再度検討する必要があるという点についてです。今までの議論を踏まえてなかなか難しい状況での御提案なのだろうなということは十分承知はしているのですが、1点、やはり今、亀井委員のほうからもお話がございましたように、その体制整備の義務を課すということと不利益取扱いの行政措置が実効的に行われるということは、話を分けて考えるべきではないかと思っています。

実際に、少なくとも300名以上の従業員を持つ企業に体制整備を法的な形で義務付けるということであれば、それは株式会社の場合には当然取締役に対して民事責任の前提として、善管注意義務を問う作為義務の明確化という意味での根拠を与えることになって参りますので、行政措置を云々という前にそういうことを明示することの意味は十分にあるだろうなと思っております。

その上で、現実問題として、地方支分部局を持たない、まだできて10年目の消費者庁では、なかなか不利益取扱いの事実認定というのは、微妙なもので難しいというような状況で実際に何ができるのかということですが、ただ、今お話を聞いている中でADRにつなげるとか、他の所管官庁にきちんと事実認定をしてもらうという方向が恐らく1つ考えられるのだろうなと思っております。

私からも1つの提案なのですけれども、裁判だとやはり長引くでしょうから、例えば、ここは水町先生の意見もお伺いしたいのですが、労働審判などの場合には原則3回で結論が出てくるというように聞いておりますので、その労働審判において不利益取扱いが実際にあったのかどうかということの調査、事実認定等をしていただいて、そして、その事実から見て、和解にも応じない、審判官がきちんと不利益な取扱いがあったというように認定したにもかかわらず、その中での和解にも応じないというような場合であれば、それはかなり悪質なものだろうということで、つまり、事実認定とかそういう判断に関しては、裁判や労働審判を活用して、悪質な場合には公表するというような形をとるというのはどうでしょうか。

ほかの例で申しますと、現在、厚生労働省のほうでB型肝炎訴訟対応が進行していると思うのですが、その場合は厚生労働省が必ずしも事実認定を行っているわけではなくて、やはり被害者の方が裁判で和解を得た上で、その和解の成立をもって給付請求してくるということなので、そういう被害者の数が多数になる場合については、色々な工夫が考えられるのではないかと思います。消費者庁の現状では、不利益取扱いがあったかの事実認定を行う体制整備の点で問題があるというのであれば、そこの部分を何かで代替するというような方向性で考えておいて、その上で、消費者庁の体制整備が充実してきた段階では、もしくは他省庁からの協力が明確に得られるというような段階にきたときに、今度は消費者庁が主導して助言、指導、勧告、もしくは勧告に従わない悪質な場合に関しては公表というような、これまで議論してきたルートを追加していくというように考えられるのではないかと思います。

ここで、全てなくして、行政措置も入れない、内部体制整備義務もやめる、あとは事業者の任意でということであれば、それは今まで何のために議論してきたのかというようなことになりかねないのであって、少なくとも公表に関しては、こういった明確性もしくは法的な手続的保障がなされている代替案が用意されていれば、公表されても仕方ないと思いますし、不利益取扱いに対する一定の抑止力というのが公表によって確保されるのではないかというように思います。ですので、そういったことも考え合わせて、実効性が担保されるような仕組みを考えていただきたいと思います。

○山本座長 ありがとうございます。

それでは、水町委員、お願いします。

○水町委員 今、労働審判の話がありましたけれども、労働審判はそもそも非訟手続で内容が非公表、非公開ということになっていて、統計をとるのが極めて難しい状況で、推測から言うと、公益通報的な紛争も労働審判には少なからず行っていて、その中で実質的に解決をされているということはあると思います。ただ、労働審判自体が、今、高どまり状況で、これからどんどん利用が進んでいくという状況には必ずしもなっていないという状況の中にあります。

今、労働とか企業の現場で、特に日本では行政によるサポートというのが制度的に極めて重要で、この公益通報との関係でも、公益通報に絡む状況になったときに労働者の選択肢としては泣き寝入りするか、それとも裁判に訴え出て公表しながら闘うかという制度的には2つの選択肢の中で、実際に労働審判も含めて裁判に出て闘おうという決断をし、十分な資力を持った人たちがどれくらいいるかというとそんなにたくさんはいないし、では、泣き寝入りかというと泣き寝入りしている人たちがたくさんいるような状況の中で、やはり間に入って行政がどうサポートするかという制度を作ることが今の労働関係法令の運用の中でも極めて重要なので、この公益通報者保護の中でも真剣に考えなければいけない。

それで今回、行政によるサポートとして、指導、勧告等の行政措置と、あと紛争解決援助のための行政ADRが検討されている。これはどちらも大切だと思います。行政措置の中で1つだけ申し上げたいのは、指導、勧告、公表で、公表もちゃんと入れるべきで、公表は公表すること自体が目的ではなくて、ちゃんと勧告を守ってもらうために、勧告を守ってもらえば公表までいかないし、今、公表されている例は労働関係法令でもほぼゼロに近い状況なので、公表を制度的に入れて勧告をちゃんと従っていただくための公表はやはり入れたほうがいいと思います。

もう一つ、行政ADRで、行政として相談窓口を越えてあっせんとか調停をする。これは極めて重要で、行政によるあっせん、調停というのは無償ですし、特に裁判に行くよりも場合によっては専門性の高い形で間に入っていただきますし、企業にとっても実は裁判に行って公表されて時間がかかるよりも、あっせんの段階とか調停の段階で速やかに、かつ専門的なアドバイスを受けながら紛争の早期解決に至るということが企業にとっても極めて重要で、企業からも行政ADRでそれをちゃんと受けて真面目に対応していこうという動きが今、増えているので、企業にとっての便益という点でも行政ADRを充実させていくということは極めて重要なのですが、では、今回はどうするかというときに優先順位をつけるとすれば、限られた資源の中で今すぐやるということからすれば、恐らく公表も含めた形で、指導、勧告、公表という行政措置をまず充実させることが優先順位はより高いのかなと思います。

行政ADRのほうについては、ここに書かれているように行政庁の一元的窓口というのを発展させ、充実させていって、次の政策的なステップで人員等の整う見込みが出てくるようであれば、消費者庁を中心にあっせん、調停制度を充実させるかということを今、言ったような観点から継続的に真剣に考えていくということが必要で、そういう意味で、広い意味では今日の原案に対してはおおむね賛成です。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにいかがでしょうか。

それでは、お願いします。

○池本委員長代理 池本でございます。

調査、判断、執行という実務的な話なので少し発言させてください。

おおむね委員の皆さんが議論されている流れでいいのかと思います。最初のところでも経済界の中で勧告まではいいけれども、公表は反対だという、実はその理由もきちんとした調査、判断が抑制的になされないといけないのではないか、判断は非常に微妙で難しい問題があるからということで、本当に悪質なケースは公表されざるを得ないというような御意見もありましたし、抑止的な効果を目指して行政措置をとるという以上、それが最悪の場合は公表されるということがなければ抑止効果は出てこないわけですから、最後の制度として公表制度を加えておくということは制度としては不可欠だろうと思います。

誤った認定判断がなされないように、むしろ調査、判断の体制なり手順をしっかりすること。その意味では、今日のこの御提案の中にもありましたが、労働現場での労使の実情を調査して適正に判断するという労働局側の経験、労働行政での経験を人事的にも交流するというか、むしろ消費者庁の中にも補強していただいて、そこの体制をきちんと作るということを確認しておいていただくことが私は大事ではないかと思います。

その上で、もう一点、先ほどの体制整備の問題についても行政措置の対象に加えるというのも、体制整備は、300人を超えるのか、それ以下かという線引きで努力義務と法的義務にしたということのまさに実効性確保ということからすれば、行政措置は不可欠ですし、その行政措置の実効性を確保するという意味では、最後の最悪の場合は公表という制度も入れるということも不可欠なのだろうと思います。ただ、現実には例えば体制がまだ十分ではないですねというのは、では、これから努力しますという話ですから、それが勧告から公表まで行くということは通常は考えられない問題であろうと思います。いわばその体制を作っていくことを努力していただくということにつながるのではないかと思います。

その意味で、先ほど柿崎座長代理からも指摘があった6ページの上のなお書きのところは、今日の議論のための考え方として一文入れられたのかもしれませんが、これがなければもう義務を課すことではなくて任意の取組という、せっかく前回まで議論したことをひっくり返すようにも読み取られかねないので、今日の議論のためにあえて入れたことであるとしても、これ以降は不要ではないかと思います。

以上です。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにいかがでしょうか。

御意見を伺いますと、実は前半の、行政措置を入れる必要性等についてはほとんど意見の違いがないように承りました。皆さんが御懸念である、あるいは中村委員が公表まで導入するのには反対であると言われたことの背景は、結局、行政機関の側が本当にきちんとした調査をし、あるいは適切な措置をとる体制を実際にどこまでとることができるのかというところにありました。そこにほとんどの皆さんの関心があり、懸念があるということだった。あるいはそこについて拡充をするようにという強い要望があったと思います。

本日の資料は、かなり率直に書かれているという印象があります。なかなか大変な状況であり、人員予算の面でそれほど自由にならないということが非常に率直に書かれていると思うのですけれども、先ほど来、実際に行政機関の側の体制がどのように整備できるのか、あるいは労働関係ということで言えば厚労省ですし、それぞれの法令の所管省庁ということで言えば全ての省庁かと思うのですが、その辺の省庁等との連携体制の組み方あるいは消費者庁としての今後の体制の整備の進め方に関して、何か現時点でもう少し補足していただくことがあればお願いしたいのです。

どうぞ。

○廣瀬消費者制度課長 どうもありがとうございます。

1つ言えることは、指導、勧告、その上に公表があるわけですけれども、より法効果を高めていくと、それに伴って調査の必要性が高まっていくという関係にあります。ですから、どこまでやればどこまでの体制が必要かということで、経済界の御懸念もまさにその比例関係に沿っているのだと思います。

最後、池本先生から義務を課すということと任意の取組というところがイエス・オア・ノーみたいに書かれているという御指摘でしたけれども、私どもとしては必ずしもそういう理解というよりかは、義務を課すようなやり方から推進していくようなやり方というのは今のまさに同じ目盛りの比例関係にあるものだと思っておりまして、そこはどのあたりが、もちろん行政の体制を整えるということになりますと行政的なコストがかかりますので、そういったところも比例関係にございますので、そういったところで適切な水準というのを見極めていくことが必要なのではないかと考えております。

○山本座長 ありがとうございます。

さらにございますか。よろしいでしょうか。

どうぞ、浦郷委員、お願いします。

○浦郷委員 この公益通報という体制を充実させていくためにはというところで、亀井委員のほうからは人事施策が不利益取扱いかどうか判断は難しいとか、中村委員のほうからはちゃんと厳格な調査ができるのか、消費者庁が判断できるのか、体制のところがすごく問題だということで、今、座長が言われたようなことはあったのですけれども、実効的な執行のための体制、それを消費者庁における一元的窓口ですとか、紛争解決の手続とか、そういう体制を構築するのはもう当たり前のことだと思います。その中で、今、いろいろなアイデアが出てきましたので、そういうものもきちんと活用しながら、体制構築ができていないから行政措置の導入が難しいとかということではなくて、きちんと行政措置を立法することで体制もきちんと整ってくると思いますので、やはりここは両方を並行して進めるべきだと思います。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにございますでしょうか。よろしいでしょうか。

そういたしますと、全体の御意見ですけれども、まず不利益取扱いに対する行政措置を導入すること自体に対する反対はなかったように承りました。それは一般論として、水町委員が言われましたように、やはり行政が関わることが労働法制一般においても非常に重要な意味を持っている。そして、公益通報者保護に関しましても、当初の立法時以後、依然として不利益取扱いが行われている例が見られるといったことから、やはり行政措置の導入が必要ではないかという御意見が多かったといいますか、この点についてはご意見が一致をしていたと思います。

行政措置の種類に関しましては、中村委員から公表については反対であるという御意見がございました。その根拠は、先ほど少し申し上げましたけれども、そこまでの行政側の体制ができるのかという点に関する実効性といいますか、体制の点に対する不安があるということが根拠であったと思います。

理屈の上では、先ほど水町委員からも御指摘がございましたように、抑止という観点から、やはり公表の制度まで置いておくのが筋であろうと思います。法制上、望ましい行為に関して勧告をする制度のもとにおいては勧告までで公表の制度までは設けないのが通例かと思いますけれども、違法行為に対する指摘をして勧告を行うことになりますと、やはり行政側としては、それで是正されない場合にそこで終わってしまうのは制度として一貫しないところがあると思われますので、公表の制度まで入れるのが筋ではないか。不利益取扱いは、違法な行為ですので、したがって、そこまで入れるのが筋ではないかと思います。ただ、先ほどの体制という点で、そこまで入れられるのかという御疑問があったということかと思います。

執行の体制につきましては、先ほどから御意見がございましたとおりです。いろいろな意味での連携が必要であるということが指摘されました。労働関係部局との関係もありますし、各法令の所管省庁との連携の関係もあろうかと思いますが、それぞれが重要であるという御指摘がありました。

6ページのなお書きの部分についてもいろいろ御意見があり、また、消費者庁の側からも説明がございましたけれども、これは私も同じ思いですが、仮にここがゼロになってしまいますと、一体この場で何を議論してきたのか分からなくなってしまいますので、ここはぜひ何もないという事態は避けていただきたいという思いです。

ただ、今回、このような資料をお出しになったのは、しかし、さはさりながら、行政機関の側としても人員、予算の面に極めて大きな制約があることを率直に表明されたのであると思いますけれども、ぜひここのところは工夫をしていただきたい。先ほど、いろいろな段階があるという御説明もございました。例えば、体制整備義務の問題と不利益取扱いに対する措置の問題、これは確かに実際上の事案においては同時に生じるかとは思いますけれども、しかし、制度としては一応分けて考えることができると思いますので、あるいはその間で区別をするとか、それから、場合によっては勧告、公表の間で区別をするとか、いろいろなやり方があろうかと思います。

 柿崎座長代理からは、むしろ、もろもろのADRとの連携をして可能な範囲で勧告、公表等の制度を運用していくやり方も考えられるのではないかという御指摘がございました。制度としては整備をしておくけれども、ただ、運用の仕方の面でいろいろ工夫をする。あるいは初めはそれがパーフェクトに運用できないことがあるかもしれないけれども、まずは制度を整えるという御指摘だったかと思います。というようないろいろな御意見がございました。

6ページの2番目の不利益取扱いに関する紛争解決手続でございますけれども、この点についても拡充をさせる方向で意見が一致していたと思います。将来的には更に行政型ADRを拡充させていく。これは先ほどの行政措置に比べると優先順位としては1つ下になるけれども、そういったことも考えていくべきではないかという御指摘がございました。

もう少し手前の御指摘といたしましては、ぜひ紛争解決手続を充実させるために、そこで適正な処理が行われるために研修等を拡充させて、実際にこれがワークするようなサポートをしていくことが重要ではないかという御指摘がございました。

一元的窓口については、9ページの別添に更に加えて具体的に御指摘はなかったと思います。9ページの最後の注につきましては、前回いろいろ御意見が出たところであり、また、消費者庁として事案がどのように処理をされているかもよくウオッチをしていくべきであるという御意見が林委員からございました。

ただ、他方で、なかなか恒常的にそれをやることが制度上、あるいは先ほどの問題ですけれども、行政の体制上、難しい事情があると思います。対応としては、通報された方から、これは一体どうなっているのだといった問い合わせ等があったときに一元的窓口で適切に関係省庁につないで対応していただくことになると思いますし、最近の法令においては、大抵何年か後に見直しをするという条項が置かれるのが通常でありまして、そのときに法の施行状況がどうなっているかをきちんと把握しておく必要はあろうかと思いますので、そこのところが把握できるような体制を作っておくことは最低限、消費者庁側にやっていただかなくてはいけないと思います。ぜひその点はお願いをしたいと思います。

よろしいでしょうか。それでは、次の論点に入りたいと思います。

≪3.立証責任の緩和について≫

○山本座長 立証責任の緩和につきまして、消費者庁から資料2の説明をお願いいたします。

○大森消費者制度課企画官 資料2のほうの御説明をさせていただきます。

この論点につきましては、7ページの第4の検討及び結論のところから御説明したいと存じます。

立法時には民事訴訟の原則に従いまして、不利益取扱いが通報を理由としているということについて立証責任の緩和規定は設けませんでした。したがいまして、不利益取扱いが公益通報を理由としたものであることについて、不利益を受けた労働者において立証しなければならないというようにされております。

他方、法の制定後におきましても不利益取扱いの理由が争われる事案というのが3ページに書かれたようにございまして、中には紛争解決まで時間を要した事例が見られまして、このような事例における立証の負担への懸念を軽減し、法令遵守のための適切な通報を安心してできるようにするために、新たに立証負担の軽減規定を設けるということは、立法時の考え方に反しないという整理をさせていただいております。

その上で、事実関係の整理もさせていただいたのですけれども、他の不利益取扱いと比較して労働者に重大な影響を与える解雇について、通報から1年以内のものについて保護する必要が高いと5ページのところで整理いたしまして、これで7ページに戻って、行ったり来たりで申し訳ございませんが、事業者の負担との関係を次に整理しているというところでございます。

通報1年以内の解雇に限定して立証責任を軽減する規定というものを設けたとして、人事労務管理に大きな影響はないというように整理させていただいております。これにつきましては、例えば労働者が不当に解雇された場合、通常、労働者側において労働契約法16条に違反している旨の主張を行うのですけれども、実務上は労働者の側から何ら落ち度なく勤務してきたというような主張があれば、その解雇権濫用について解雇が客観的に合理的、社会的通念上相当でないということの規範的要件を根拠付ける具体的な事実の主張があったというところで、使用者において解雇の理由について、この評価を障害する具体的な事実、主張を立証しなければならないとされております。そのため、事業者は現状でも労働契約法16条に違反している旨の主張を排斥するためには、評価障害事実を主張立証するだけの証拠資料を用意しておくことが求められるというところでございます。

したがいまして、原則としては、公益通報後に行われた解雇は無効となるものの、解雇が別の解雇理由に基づくことを証明されれば解雇が無効とはならないというところでございますので、事業者としては、労働契約法第16条において立証されていることが求められている解雇権濫用の評価障害事実を立証すれば解雇を有効とすることが可能というように整理しております。

さらに8ページのヒアリングにおける指摘事項への整理でございますけれども、不利益取扱いが公益通報を理由としたものであることの立証責任を事業者に転換するということになりますと、正当な解雇に対して後付けで過去の公益通報を利用とするものであって無効だと主張される、解雇されそうになったらとりあえず内部通報しておくといった形で悪意のある労働者に制度が利用されることも考えられるという指摘もございました。これにつきましては、解雇された場合に後付けで過去の公益通報を理由とするもので無効と主張したとしても、解雇する場合、事業者としては解雇理由を裏付ける資料を十分準備していて、この資料に基づきまして別に解雇理由が存在することを立証すれば、公益通報を理由とするものではないということとされまして、解雇が無効となることはないのだから、不当な事態は生じないというように考えております。

また、解雇されそうになったので、とりあえず内部通報しておくという場合も同様で、不当な事態は生じないというように整理しております。(2)で、また、無用な争いを避けるために措置を一時凍結するなどの運用が必要になる可能性も高く、円滑な労務管理が阻害されるという指摘もございましたが、仮に解雇について言うならば、1年以内の解雇は無効であると主張して争ったとしても、(1)と同様にほかに正当な解雇理由が存在するのであれば、当該解雇理由を主義主張することによって法により解雇が無効になるものではない。そのため、ほかに正当な解雇理由が存在するのであれば、解雇を行うという措置を一時凍結するというような運用を行う必要はないと整理しております。

さらに、あえて立証責任を事業者に転換する必要性はないという指摘もございましたけれども、これにつきましては立証責任を事業者に転換することによって訴訟手続による紛争解決が促進されるということ、あるいは先ほど御議論になった行政措置を導入する場合においては、解雇についての是正を求める必要性が生じる事案が減少するということでございますので、その点においても行政措置に伴う負担も緩和されることが期待されるという整理をさせていただいております。

解雇以外の立証責任の緩和につきましては、ヒアリングにおいては解雇以外の不利益取扱いについても通報者の負担が軽減されるような制度を検討すべきという指摘がありました。

他方で、法が禁止する不利益取扱いという範囲は広くて、配転命令等の使用者に広い裁量が認められているものもございますので、この配置転換等の違法性を争うに当たっては、現状においても一般法理において労働者側に主張立証責任が課せられているというところですので、この点につきましては労務管理事務への影響の内容、程度について、更なる検討が必要という整理をさせていただきまして、以上を踏まえまして、9ページの結論でございますけれども、事業者が公益通報とは別の理由により解雇をしたことを証明しない限り、1年以内に行われた解雇を無効とするという規定を設けることの是非はどうかというようにさせていただいているところでございます。

以上でございます。

○山本座長 ありがとうございました。

それでは、林委員からEU等の状況につきまして御説明をお願いいたします。

○林委員 御説明させていただきます。

EU指令案についてですけれども、前回も説明しましたが、司法手続におきまして通報者の被害が通報または開示を行ったことに対する報復であると信ずるに至る合理的な理由を提示するときは、報復措置をとった側が、その措置が通報の結果ではなく、専ら正当な根拠に基づくものであることを証明しなくてはならないと15条5項に明確に定めています。

これは欧州委員会の立案担当者や欧州議会の報告者など、多くの関係者が、立証責任の転換がなされなければ実質的な保護を図ることができず、立証責任を転換することが通報者の保護のために必要不可欠であるという認識で一致しておりまして、欧州議会における指令検討の議論状況においても、立証責任の転換の問題が大きく取り扱われている、取り上げられているということでした。係る状況を踏まえますと、今後、EUにおいては立証責任の転換を含むEU指令が制定される可能性が高いと思います。

なお、この報復ですけれども、EU指令案では解雇だけにとどまるものではなくて、13条に停職、一時帰休、解雇、配置転換、金銭的不利益を含むあらゆる懲戒、けん責、その他の不利益を課すことなどなど、このように細かく規定していまして、このようなリストアップをしているというのが非常に参考になると思います。

英国の公益開示法につきましては、日本の公益通報者保護制度のモデルにしているものなのですけれども、立証責任は緩和されていないというように見られていました。しかし、今回の現地調査によって、英国においては明文の規定はないものの、労働法分野で特に差別的な不利益取扱いの場面における立証責任の転換のルールが判例法として確立しており、公益開示の分野でも、差別禁止立法の立証責任転換に基づいた主張が展開されていて、判例上は確立されていないものの、実務上は判例法の考え方からすると通報者の立証責任は転換・緩和され得ると解されているということです。

いずれにしても、情報の格差から、立証責任の転換については不利益処分の種類いかん関係なく、あらゆる不利益処分について処分した者がその根拠・理由を主張、立証するという責任を負うのは当然のことではないかと思います。

以上です。

○山本座長 ありがとうございました。

それでは、意見交換を行いたいと思います。御意見のある方は御発言をお願いいたします。

それでは、浦郷委員。

○浦郷委員 この法改正がされて不利益取扱いがなくなればいいのですけれども、もし不利益取扱いがあって裁判で争うことになったときに、やはり通報者のほうには、手元には資料がない。最初から通報者とその事業者には情報力の格差があるので立証は難しいと思います。ですので、立証責任、事業者に転換すべきだと思います。

今回、結論のところで1年以内に限定されているのですけれども、それの根拠がこの6ページの表にあるようなこれらの事例により、ほとんどが1年以内だからということなのですけれども、これだけが根拠なのかというところで、私はこの1年という数字がよく分かりません。たとえ年月がたったとしても事業者側がきちんとこれは公益通報によるものではないということを立証すればいいわけですから、年月は限定しないでこの規定を設けるべきだと思います。

今回、解雇だけについてなのですけれども、やはりそれ以外の不利益取扱い、例えば配置転換のところでも、本当に自主退職に持っていくような形で仕事らしい仕事をさせないという部署に配置転換ということも実例としてあったようですので、ここは解雇だけにとどまらず、不利益取扱い全般について立証責任の転換を図るべきだと思います。

以上です。

○山本座長 今、なぜ1年にしたのかという御質問がございましたけれども、事務局のほうから、その点はいかがでしょうか。

○消費者制度課担当者 資料4の6ページの破線で囲ませていただいている部分でございますが、法施行後に通報を理由として労働者に対して行われた解雇が無効と判断された事例について、判例検索システム等である程度網羅的に調査させていただきました。その結果、通報が行われた後、解雇までの期間が1年を超えている事案はわずかであり、おおむね1年以内にとどまっているということが分かりました。そのため、通報が行われた後、おおむね1年以内に解雇が行われる可能性が高いのではないか、そのような解雇について特に保護する必要性があるのではないかという観点から1年という打ち出し方をさせていただいた次第でございます。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにいかがでしょうか。

あるいは浦郷委員、今のことに関してでも結構です。いかがですか。

○浦郷委員 今、事例がこうだからということなのですけれども、では、これが今回、提案された規定で法律ができたとして、1年1カ月のところで解雇した場合というときは入らなくなるということになりますね。

○山本座長 お願いします。

○消費者制度課担当者 現行法の第3条には、公益通報を理由とした解雇は無効である旨の規定がございますが、その規定をなくすことは想定しておりません。そのため、例えば、通報から1年1カ月後に解雇されたという場合については、不利益取扱いが公益通報を理由としているということを通報者、労働者の側で立証しないといけないということにはなりますが、現行法の第3条の規定によって保護され得るということになります。

○浦郷委員 立証責任は労働者の側に来てしまうということですね。

○消費者制度課担当者 さようでございます。

○山本座長 それでは、林委員、お願いします。

○林委員 立証責任というのは裁判で非常に大事なもので、皆さん、御承知のことだと思いますけれども、その事実を主張できなければ負けてしまうわけですね。こういう裁判では労働者側というのは情報がほとんどない、事業者側にほとんど情報がある状態であって、それを主張、立証していくというのが非常に難しいからこそ立証責任を転換するという考え方が出てきているわけで、それに年限を区切るという理由は全くないと思います。

先ほど私、言い忘れましたが、EU指令案でも期限は全く決めていません。なぜなのかと聞きましたら、期限を決めれば、その期限を超えたところで解雇したらいいでしょうと、そうしたら全く意味がなくなりますよねということを言われましたので、期限を決めること自体、意味がないのではないかと思います。

この6ページの調査ですけれども、事例はこうでしたということなのかもしれないですけれども、これが全ての事案ではないと思いますので、裁判に出てくるものだけではないと思います。前の調査会でもオリンパスの話をさせていただきましたが、あれはもう4年間にわたって配置転換をされているという事案であって、解雇に限る必要もないのではないかと私は思っています。

○山本座長 そのほかにございますでしょうか。

それでは、春田委員、お願いします。

○春田委員 私も今あった意見とほぼ同じなのですけれども、やはり公益通報する側の立場からすると、自分たちで立証責任するというのは非常に困難だと思っています。先ほど話があったとおり、本当に情報も乏しい中でどうやって立証するのかというのが本当の実態だと思っていますし、そういう意味で、公益通報保護法の趣旨について、やはり不利益取扱いから保護されるということなのですけれども、公益通報する側が、これでは通報して不利益取扱いから保護されないのではないかという懸念が多くのしかかってくるのではないかというように思います。その意味で、立証責任の転換というのは非常に重要なポイントだと思っています。

先ほど話があったおり、解雇だけではなくて特に解雇以外の不利益取扱い、特に配置転換、出向等々を含め、これを本当に公益通報する側が立証できるのかというと非常に難しいというように思いますし、このあたりについても事務局案の中では更なる検討というように書いてございますけれども、どちらかというと、更なる検討というよりも公益通報を保護するという主旨からすると、解雇以外の不利益取扱いの立証責任の転換についてはもう待ったなしで議論するべきことではないのかと認識しているところでございます。

以上です。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにいかがでしょうか。

それでは、中村委員、お願いします。

○中村委員 この点につきましては、解雇を含めて立証責任の緩和について反対という意見でございます。理由につきましては、今回の資料の中にもある程度触れていただいているところではございますけれども、現実的には今の裁判でもある程度きちっと勤務していましたということで労働者が主張すれば、なぜ解雇したのかということの理由については企業側で立証するということになっているわけでございます。そういった意味では、私どもとしては、現実的には制度を入れたからといって労働者が争う状況というのが変わるのかどうかというところは疑義があるところでございます。

今回の制度に参照はされているものとして、妊娠、出産に伴う解雇という事例が御紹介されているわけでございますけれども、この妊娠や出産ということにつきましては明らかな事実でありまして、そこを起点にするというのは分かりやすいことなわけでございますが、そもそも公益通報が正当にされたのかどうかということ自体が非常に微妙なというか、先ほど来あるような事実認定の難しいことでありますので、そう簡単に判断ができることではなく、結果的には裁判でいろいろ争われなければいけないという事態は余り変わらないのではないかということです。

他方で、変わらないのであるからいいのではないかという御判断もあるのかと思うのですけれども、やはりここで通報をすると解雇は1年できないというようなことになりますと、どうしてもそういうことを意図的にやってくるという濫用的な通報というのが出てこざるを得ないのではないか。そのプラスマイナスを考えたときにマイナスのほうが大きいのではないかということであります。

そこにつきましては、消費者庁さんのまとめの中では、そういうものは不当な内部通報であるので該当しないからいいのではないかということなのですが、そうであるとするならば、結果としては、そこが争われるということでありますので、事態を変えるものではないのではないかというように考えます。

以上でございます。

○山本座長 ありがとうございました。

そのほかにいかがでしょうか。

今、両方の側から、提示された案に対する反対の意見があったわけですが、一方においては、1年以内に行われた解雇の場合に限定すべきではないという御意見がありましたが、そうすると、この結論のところに書かれている規定のイメージから申しますと、こういうことでしょうか。事業者が公益通報を行った者に対して不利益取扱いを行った場合には、その公益通報とは別の理由により不利益取扱いを行ったことを証明しない限り、不利益取扱いは違法とするという規定になるわけでしょうか。

限定をしないとすると、1年以内というのも、それから、解雇という条件もとるわけですね。とって証明責任の転換の規定を設けるわけですから、事業者が公益通報とは別の理由により不利益取扱いを行ったことを証明しない限り、公益通報を行った者に対して不利益取扱いを行うことは違法とする。不利益取扱いといいますか、全部言わないといけないですか。解雇、配置転換、その他もろもろの措置を行うのは違法とするという規定になるのですか。そういうことですね。

○林委員 そういう規定の仕方はいろいろあると思うのですけれども、まず不利益取扱いについて定義付けをするというのは1つの手だと思うのと、そういうことをした場合に、それが不利益な取扱いを受けたものと推定するというような規定にして、それの反証を事業者側がする、そうではないという反証をするというような建付け方もあるかと思います。なので、それはやり方次第だと思います。それと濫用的な通報についてどうするのかという手当ても1つ考えるのも御懸念されていることですので、濫用的な通報というのは何なのかという定義も入れるというのも1つの考え方ではないかなと思います。

○山本座長 ありがとうございます。

それから、他方で反対があったのは、今の一方の御意見は、証明責任の転換の規定が非常に重要であること、それによって非常に状態が変わることを前提にした御意見だったのですけれども、中村委員の御意見は、逆に解雇に関しては余り変わらないということを前提にされていて、しかし、規定を入れることによってどういう影響があるかという点から言うと、例えば解雇事由があって解雇されそうな人が公益通報するというようなことが生じるのではないか。そういった実際上の問題が生じる可能性があるので反対であるという御意見であったと御理解してよろしいですか。

○中村委員 今の御整理の方向で結構だと思いますけれども、若干補足をいたしますと、今でも再三、議論されていますように、不利益取扱い自体はもうもともと公益通報に基づくものとしては禁止をされているわけでございまして、それで現実問題としてはヘルプライン等を運用している企業としては、そういう通報をされた方の取扱いについて、意図的に不利益取扱いというのは当然しないわけですが、そういうように見られるようなことがないようにというのを非常に注意するという運用が必要になってきているわけであります。

それが更にこういう形でなりますと、現実問題としては、そういう特に今、御意見がありましたように解雇以外のことも含めて立証責任の転換というようなことを書いていくというようなことになりますと、現実的にはそういうことの言った者勝ちではないですけれども、少なくとも言おうとする人が公益通報ではないかみたいなことを言ってくることによって、結果的には人事の有利さを獲得することができる。結果として、人事政策がゆがんでしまうというようなことを企業としては懸念しています。

以上です。

○山本座長 前提として申し上げておかなければいけなかったのでしょうけれども、中村委員は解雇に関しては現在でも事業者側がかなり証明責任を負っているということがあるので、したがって、それほど実際には変わらないのではないか。ただ、規定が入ることによって、今のようなやった者勝ちというか、行為をすることを誘発するのではないかという御意見であったかと思いますが、今の点は若干法律論にも関わってくるところですけれども、ほかの御意見はいかがでしょうか。

水町委員、お願いします。

○水町委員 なかなか難しいところですけれども、裁判の実務でどういうように立証責任が分配されているかということと、実際に裁判が起こったときと法律に明確に書くということの意味があって、恐らく解雇については、真面目に働いていました、公益通報したからこういう解雇がされましたということを言えば労働者としては概括的な評価根拠事実を立証したことになり、では、解雇に具体的に公益通報以外についてどういう理由があったかというのは企業側が立証責任を負わなければいけないというので、ほぼ書いたとしても書かなかったとしても、実務上、裁判になったときの影響は余りないということは言えるかもしれません。

そのほかの解雇以外に広げていくと若干難しい問題が出てきまして、解雇以外の明確な不利益取扱いは例えば降格とか減給とか懲戒処分というのは解雇とそんなに明確に区別する必要はなくなるかもしませんが、日本の企業の人事はいろいろなことがありまして、例えば普通の配転。これが有利なのか、不利なのかは不当労働行為の審査でも不利益取扱いかどうかという判断は実際にはできないので、労働者が不利益と言っていたら不利益だよねというようなことで判断をしたりすることがありますし、どちらから見れば有利、どちらから見れば不利ということを人事の中で概括的にいろいろな形で展開してやっているので、不利益取扱いと定義したところにどこに線引きをできるか。

これは法律上、立証責任を転換するという裁判の実務とは別に、法律上、明確に書くという場合には、その線引きが非常に難しくなってくるということであれば、1つの線引きの仕方としては、解雇というところで線引きをする。解雇はもう関係が断たれて企業の外に出るという重大な行為なので、このことについてはきちんと立証責任を転換しますよというので法律上、アナウンスしておくということがあるかもしれませんし、その他の例えば降格とか減給とかが入ってくると、普通の人事上の措置として賃金上げ下げとか配置転換の中で労働者が不利益と思うようなことも普通にやっていますので、そこまで例えば無効とするとか違法とするというように、その場合には裁判になったら、会社側がきちんと立証責任を尽くさないとそれはゼロになってしまう、無効になってしまいますよということを法律上、書けるかどうかというところは、やや過剰な抑止効果とか予防効果になってしまうような、特に日本の人事関係からすると、そういうような懸念もなくはないと思います。

そういう意味で、法律上、明確に書いて、やはりこれは少なくとも公益通報という明確なことをやっていて、一定期間内は解雇とか明確な不利益取扱いをするということは、裁判になったときに立証責任としてこういうサンクションを企業も負うことになるので慎んでくださいね、ちゃんと立証できないとやってはいけませんよということを法律でアナウンスして予防抑止を図るという意味であれば、どこかで線引きをして、それも20年、30年間、解雇してはいけませんということはやり過ぎかもしれないので、例えば解雇とか不利益取扱いで線を引いて、期間もある程度線を引きながら明確にし、それ以外は裁判の一般的な主張立証責任の中で、解雇の場合にはもう実質的には会社側がかなりの立証責任を負わされていることになるので、そこは裁判に委ねますという割り切りをすることも考えられるかな。

いろいろな意見が今、1つの方向に向かっていないので、今の時点でどこまでフィージブルな形で立法化するかという場合には、1つの今日原案としてお示しされたようなものも選択肢としてはあり得るかなと私は思います。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにいかがでしょうか。

それでは、浦郷委員、お願いします。

○浦郷委員 解雇については、もう既に企業の側がある程度立証しているということならば、解雇はもちろんですけれども、私は逆に解雇以外のところできちんと立証の転換を図らなければいけないと思います。ここの結論は無効とするとなっていますけれども、無効とするではなくて企業側のほうがきちんと証明をするということで、その中で、裁判でそこでは争ってもらえばいいことだと思うのです。ただ、通報者側はなかなか自分で立証するものがないではないですか。出せないではないですか。だから、やはり事業者のほうがそこを立証するものをきちんと明示して、その上で、そこは裁判での判断になるのではないかと思うのですが、すみません、余りよく分かっていないのかもしれないです。

○山本座長 ありがとうございます。

ほかにございますでしょうか。

それでは、お願いします。

○柿崎座長代理 人事政策の問題も絡んでくるので大変難しいとは思うのですけれども、ただ、例えばEUに関しても年限を区切ったわけではない立証の転換が図られていて、アメリカの場合も不利益取扱い禁止違反に関してはSOX法に刑事罰が入っていますし、不利益取扱いが解雇に限定されるということもありません。あらゆる不利益取扱いが対象となりますし、またドッド・フランク法のほうでも内部告発者保護の内容を拡大しております。そういったグローバルの視点ということを考えると、なぜ日本だけがこういう限定的な対応しかできないのかというのは少し疑問に思うところで、要するに、この法律は何を一番大切なことと考えていくべきかをもう一度考えた上で、特に現状の裁判においても、立証責任の転換が事実上図られているということがあったとしても、やはりアナウンス効果ということがありますので、解雇についての不利益取扱い違反の立証責任の転換は法律に明示するべきでありますし、更にできるならば、それ以外のものについても入れていく必要性は高いのだと思っております。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにいかがでしょうか。

それでは、お願いします。

○池本委員長代理 池本でございます。

これも立証責任という極めて実務的な問題の影響がどこへどう出るかという話なので発言させていただきたいと思います。

解雇に限るか、その他の不利益処分まで広げるかという論点の前に、事務局から提案があった解雇について無効とするという立証責任の転換を入れるかどうか。先ほど浦郷委員から御発言があった無効とするという前にきちんと立証というのは、実は9ページの結論として提案されているところは、事業者が公益通報とは別の理由により解雇したことを証明しない限り無効とすることであって、それをきちんと証明してくださいということが出ているわけですから、これがまさに立証責任を転換するということそのものだと思います。

問題は、この立証責任の転換を入れると、先ほど中村委員から御意見があり、あるいは経済団体からも出ているような濫用的な通報ということにつながるのではないか、あるいはそれが人事政策そのものに対する不当な制約にならないかという危惧論をどう受けとめるかが問題であろうと思います。

恐らくこれは全く影響がないかというと、影響がゼロではもちろんないけれども、他方で、裁判実務での立証責任の配分からすれば事実上、先ほど水町委員から言われたような配分はされているというが、この資料にも出ているように不利益取扱いが行われたと考えられる事案で解雇がまた訴訟でも争われた。確か3ページから4ページは、結論的には、争いになったけれども最終段階では労働者の主張が認められた。そこまで裁判で争わなければならない事態になった。そういうある意味では公益通報をやった者に対して解雇が次々と行われて訴訟にまで至る案件が複数、少なくない案件が現実に出ているという問題をどう抑止していくかということと、規定を入れたことによるアナウンス効果として濫用的な通報が起きはしないかという危惧論との比較衡量の問題に最後は帰着するのだろうと思います。

その比較衡量の中で言うと、これも事務局の資料の中にもあったかと思うのですが、事業者の側は公益通報が行われた者に対して、別の理由があって解雇をするときには第三者から見ても解雇の正当性が認められるかどうかを一段慎重にやってくださいという、まさにそのアナウンスのために規定を置くことで、間違いなくこれは正当事由になるというときには、もちろん、それは解雇が許されることになるでしょうし、そこを十分慎重に見極めないでやるケースが残念ながら少なくない件数、起きているので、こういう規定を置くべきではないかという問題と、濫用的に通報が起きるのではないか、しかし、それに対してはその通報の中身とは別に今のような慎重な対応はしながらも見極めができたときは解雇そのものが禁止されているわけではないということのきちんとした解釈を明示しておくということで、過剰な反応ということにはならないのではないかという問題です。

そして、解雇以外の不利益処分についても立証責任の転換が必要ではないかというような、EUの法制などを見ると、なるほど、そうだなという気もしますし、立論としてはそこへなぜ線引きしなければいけないかという問題です。ただ、これはその他の不利益処分まで立証責任転換ということを入れた場合の人事政策への影響ということとのまた比較衡量の問題になって政策判断でぎりぎりの妥協線をどこに持っていくかということになるので、ここは、こちらでなければ絶対いけないというところまでは申し上げるのは控えたいと思います。

以上です。

○山本座長 ありがとうございます。

この指令案についてですけれども、林委員が調査をされた1ページの2の(1)の冒頭に指令案の条文がございますが、「通報者がその被害が通報または開示を行ったことに対する報復であったと信ずるに足りる合理的な理由を提示するときは」という条文案につきまして、例えばかなり長年たってからの場合、5年とか10年たってから不利益取扱いが行われたと主張するような場合に、公益通報した人は過去に通報したことがありましたと言えば、ここで言う、信ずるに足りる合理的な理由を提示したことになるのですか。

私、条文を読んでいてよく分からなかったのは、通報者の側も一定の事実をやはり提示することは要求されているのですね。それが例えば解雇のような場合で非常に通報から短期間の間に行われたとすると、それは通報したから解雇されたのですと言えば一応合理的な理由とされる可能性があると思うのですけれども、余り長期間たってしまうと、それだけでは合理的な理由を提示したことにならないような気もするのですが、これはまだ運用されていない案の段階のものですから、はっきりしたことは言えないだろうと思うのですが、その点は何か議論があるのでしょうか。

○林委員 その辺のところの議論は聞いてはいないですけれども、期限を区切るかと聞いたときにそれは意味がないというようにおっしゃったのは、期限を区切っていないのではないか、何年たっても言えるのではないかという御主張なのだと私は理解しました。

○山本座長 通報者の側がどのような事実を主張する必要があるかという部分で、そこのところはある程度フレキシブルに調節ができるという前提で議論をされているのではないかという印象も受けたのです。

水町委員、お願いします。

○水町委員 立証責任のあり方というのが恐らくヨーロッパと日本では訴訟上、大分違っていまして、ヨーロッパは典型的には立証責任がどちらにあるかというので立証責任の分配ということをよくやって、要は差別的な解雇を初めとする差別的取扱いのときには、基本的には差別がされたと言われれば、その具体的な合理的な理由は企業側が立証してくださいねというのでほぼ全ての法律でそういう立証責任の明確化が図られていますが、実は日本は必ずしも立証責任が明確にどちら側にあるというように決着をつけるようなやり方をとっていなくて、そういう意味で特にこういう規範的概念という場合には、評価根拠事実、評価障害事実という抽象的にして、自分たちで持っている情報を全部出してくださいと言って、企業側にその情報がある場合には企業側がちゃんと立証してくださいねというように言う中で実務が積み重ねられてきています。

なので、余り法律上、どちらかが立証責任を明確に持ちますということを少なくとも労働法令で、国籍とか信条とか社会的身分、性別、障害、妊娠、出産に関する不利益取扱いは法律上、禁止されていますが、立証責任の転換というのは立証責任をきちんと明確にしたのは、恐らく私が知る限り、男女雇用機会均等法の9条4項で、これはマタニティーハラスメントについては非常に社会的にも重要な問題が起こっているので、妊娠して1年以内についての解雇のみは立証責任を企業側に課しましょう。それ以外のところは一般的な規範的概念で裁判例の中の一般法理の中でやりましょうというようにしています。

今回、立証責任の転換をするとすれば、これが労働関係との関連では2例目になるかもしれませんが、そういうヨーロッパと立証責任の考え方、裁判実務が違うという中で、日本で立証責任を転換すると法律上書くということの意味がちょっと違うよということを考えた上で、ただ、やはりマタハラが社会的に大きな問題だと言われているのと同じぐらい公益通報の保護というのは非常に大切なことなので、部分的にアナウンス効果を考えるとして立証責任をするとすれば、ある程度、明確な形で立法化をするということがほかの法令との関係で言うと日本の立証責任論からすれば、そういう線引きをしてやることが必要かなとは思います。なので、ヨーロッパの例はヨーロッパの例ですが、それを日本でそのまま持ってきた法律にほかの法律でなっているかというと、ほかの法律ではなっていない。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかに石井委員、お願いします。

○石井委員 先ほど1年で切ることが結局1年を超えた解雇というのをなし得るので余り意味がないのではないかという議論がありましたが、座長がいみじくも整理してくださいましたし、私もそうだと思っておりましたが、事務局の案の中にも現実問題、裁判実務では解雇の問題、特にこの問題については立証責任が転換されているということからしますと、1年を超えた後も、そこで大きな段差が生ずるものではないということではないかと思います。ただ、やはり事案が起きてから1年以内というのは極めて疑いも濃厚でありますし、企業の側もそこはきちっと本来整備しておくべきでしょう。それだけの根拠があって解雇するならば、そこはよくよくしっかり子細に、本当に解雇が必要かどうか、これは本当に内部通報が理由でないのか、もう一度、これはしっかり見てくださいねという精査を促すというような意味合いが強いのだろうと思います。

そして、今、水町委員からマタニティーハラスメントとおっしゃいました。これは妊娠を理由とした解雇で、ハラスメントではないのでありますけれども、なぜこういった規定が置かれたかというと、やはり妊娠をしている女性、かつ産後1年の女性というのは体の状態が通常と違う。目に見えた生物的な通常とは異なる状態に置かれているわけでありまして、その女性が解雇された場合、その女性が争うということは大変厳しい状況に置かれるわけでして、これはその置かれた状態が相当着目されて、それでこうした労働法の中では初の立証責任の転換という規定が、特に法改正の時期に問題になっておりましたので導入することができたわけですが、この公益通報の保護の場合は、論理立ては違ってくるのだろうと思います。

たまたま1年という同じ期間での解雇についての立証責任の転換ということでありますが、例えばの考えですが、やはり昨今起きている企業での問題などを考えると、場合によっては国民の生命、身体に極めて大きな影響を与えかねない、極めて悪質なものもあるわけでして、これは事柄の重要性からして、そういうことを通報したがゆえに解雇されるという方の保護というものは少ししっかり考えてみるべき時期に今あるのではないか。

解雇というのは大変です。雇用関係を断ち切られて収入の道も断たれて、不利益取扱いの中でも重たい事案でありますから、やはりここについては今の状況を見たときに一歩出る必要があるのではないかというような、例えばそういうような論理立てが必要なのではないかと思います。そこは理屈の面でなのですが、ただ置かれた状況が厳しいとか、企業に比べて情報を持っていないという情報格差だけではなくて、ほかの法令も見渡した上で、特にこの規定を設ける意味合いというのを更に理屈を強化する、理論武装する必要があるのではないかなという印象を持っております。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにさらにございますか。

それでは、亀井委員、お願いします。

○亀井委員 2点ございまして、立証責任を事業者側に転換するのでありましたら、匿名通報に対する運用に関しては特に気をつけて何らかの処置を施していただきたいと思います。と申しますのは、匿名通報は特に日本では奨励されていると思いますけれども、匿名通報であるがゆえになかなか調査に着手しづらい、あるいは匿名通報であるがゆえに明示的に通報者を保護できないという悩みを常に抱えます。匿名で通報したのですけれども、後から解雇されましたですとか、減給されました、降格されましたということを無効にしてくださいというのは事業者側にとってはかなり無理な注文になってくるので、匿名通報の場合には何らか特殊な運用が必要になるのではないかなというように思います。

2点目なのですけれども、これは綿密に調査をしたわけではありませんで単なる私の印象にすぎませんが、私どものグループは欧州にも仲間がおりまして、基本的に欧州では労働者側が希望をしない配置転換というのは余り行われません。日本の場合には、たとえ希望しなくても組織の効率性ですとか、その方の将来性を考えて、希望していない場所に配置転換するということが施策的には行われています。

この事業者側の立証責任がその降格ですとか減給ですとか給料に関係する、もらえる報酬が減ってしまうという非常に分かりやすい事例を超えて配置転換にまで拡張されるということですと、すごく大げさな言い方ですが、日本企業に対して、従業員が希望しない配置転換に関する考え方を今までとは変えてくださいというメッセージを発信するにほぼ等しくなってしまうのではないかという気がいたします。

以上です。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにいかがでしょうか。

おおむね御意見をいただいたかと思いますが、かなりいろいろ意見が分かれたところで、意見の一致を見ていないと全体としては感じました。

事務局の9ページに出された案について、大きく言うと、この範囲であっても証明責任の転換をする規定は設けるべきでないという御意見と、この範囲であれば一応合理的と言えるのではないかという御意見と、この範囲では不十分である、証明責任の転換を更に広い範囲で図るべきである。大きく言うと3つぐらいの御意見があったかと思います。

まず、このような規定を設けるべきでないという御意見と、この範囲では合理的ではないかという御意見との間の様々な根拠といたしましては、基本的にこの範囲であるとすると、現在の裁判実務上の証明責任の配分の仕方とそれほど大きく変わるわけではないという点は認識が一致をしていたかと思いますが、1年以内に行われた解雇を無効とするという規定を設けた場合の事実上の効果としてどういうものが考えられ、それをどう評価するかという点について意見が分かれたと思います。

一方においては、このような規定を設けると、濫用されるおそれがある。解雇事由があって解雇されそうになると公益通報するという人が出てくるのではないか。そうすると、人事の上で支障が生じるという御意見が一方にありました。

他方におきましては、しかし、やはりこのような規定を置くことによって、解雇が特に公益通報を理由にして安易に行われないようにする抑止効果がやはり大きいのではないか。そういった抑止をすることは重要なのではないかという御意見がございました。

その場合に、妊娠、出産の場合が1つ現行法としてはあるわけですけれども、御注意といたしまして、それとは若干違う理屈を立てる必要があるのではないか。参考になる規定ではあるけれども、妊娠、出産の場合にはそのような身体的な状態に置かれていることに配慮しているという面があるのに対して、公益通報の場合はどちらかというと、いろいろな公益通報の重要性等に鑑みると、規定を置くべきであるという、もう少し政策的な色彩が強い根拠になるのではないかという御意見があったかと思います。

あわせて濫用的な通報に対する対策としては、法律の解釈をきちっとコメンタール等に書いておいて、そのようなことが行われないようにする。これは濫用的な通報、一般について言えるかと思いますけれども、そのような御意見があったかと思います。

他方におきまして、これでは不十分である。より広くもろもろの不利益取扱い一般について、1年という限定をしないで証明責任の転換を図るべきであるという御意見がございました。御意見の趣旨といたしましては、例えば解雇を1年以内とすると、1年を過ぎたら、それでは解雇される、解雇が容易にできるようになってしまうといった御懸念であるとか、解雇とその他のもろもろの不利益取扱いとを区別する合理的な理由はないのではないかといった御意見があったかと思います。

ただ、他方におきまして、御意見としてありましたのは、証明責任の転換の規定を置くことが極めて大きな意味を持つことになるのではないか。先ほどいろいろな御指摘がございましたけれども、例えば諸外国と比べても日本の法令において明確に証明責任の配分を決める規定は多くはない。その中でこのような規定を置くことによって、いわば実体的な判断の面にまでかなり強く影響が生じる可能性があるのではないか。そういたしますと、企業の人事政策上の支障も生じるのではないかといった御懸念があったかと思います。

ここのところは証明責任というかなり法技術的な色彩の強い問題でもありますので、実際に証明責任の転換規定を置いた場合に、どのような実際上の効果あるいは法的な効果が生じるかというところを更に整理した上で考えるべき問題かと思います。ここのところにつきましては、今日のところは結論として合意は得られなかった。さらに今、申しました、こういった規定を置いた場合を想定して法的な、あるいは事実上の影響を一つ一つ見ていくことになるのではないかと思います。

それでは、よろしいでしょうか。今のテーマにつきましてはこれぐらいにいたしまして、次に、損害賠償責任につきまして、資料3です。

≪4.通報行為に伴う損害賠償責任について≫

○山本座長 それでは、消費者庁のほうからお願いをいたします。

○大森消費者制度課企画官 こちらにつきましては、2ページ「第3 事実関係」以降の御説明とさせていただきたいと思います。

事実関係でございますが、立法時の考え方として、法における民事ルールとしては、公益通報を理由とした解雇を無効として、その他の不利益取扱いを違法とする規定があるのみで、公益通報者が通報行為に伴って生じた損害を賠償する責任を負わないという規定は設けられていませんでした。

損害賠償を免責する必要性についてというところでございますけれども、法の施行後、不正を知った者が通報したところ、損害賠償請求という形で不利益を受けた事例が見られるというところで5つの事例を挙げておるというのが2ページでございます。

法においてはどのような場合に通報に起因する損害賠償を負わないのか明確とされていないというところがございますので、不正を発見した者が損害賠償責任を負うことを懸念して通報をちゅうちょするおそれがあるというように考えられるというところでございます。

3ページに参りまして、法における保護との関係というところでございますけれども、現行法で違法とする不利益な取扱いの内容に損害賠償請求が含まれると考えられるのでございまして、公益通報者に対して公益通報を理由として損害賠償を行うということは違法となり得るというところでございますが、他方で、判例によりますと、訴訟の提起が違法行為になるのは訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる場合に限られているということでございますので、損害賠償請求が訴訟を通じて行われた場合には、その訴訟の提起が常に違法とされるというわけではないというところでございます。

これを踏まえまして、検討及び結論というところでございますけれども、立法時には先ほど御説明しましたように損害賠償責任を免責する規定は設けなかったわけでございますが、他方で、事業者に発生した通報事実に係る「公益通報」に起因する損害について賠償責任を免責する規定を設けるということであれば、それ以外も一律に免責する規定を設けるものではないということでございますので、立法時の考え方には反しないというように考えられるというところでございます。

一般法理との関係につきましても、一般法理において損害賠償責任が成立するためには、損害が違法性を有する行為に基づいて生じたことが必要であるということがございまして、公益通報は適法行為であると考えられることから、一般法理においても当該適法行為を理由として損害賠償を負わないということは考えられるというところでございます。

4ページに参りまして、ヒアリングにおける指摘事項の整理でございますけれども、通報付随行為について損害賠償を免責することには反対だという意見がございましたが、他方で、損害賠償を負わないという規定を設けた場合にあっても、賠償責任が免責される損害というのはあくまで公益通報に起因する損害に限られていて、それ以外の行為に起因する損害について賠償責任を免責することを定めるものではないということがございます。したがいまして、公益通報以外の行為について損害を受けた事業者がその損害の賠償を請求することは制限されないということを踏まえまして、公益通報者が不利益取扱いから保護される要件を満たした場合に、公益通報したことを理由として損害賠償責任を負わないという規定を設けることの是非についてどうかというような結論としております。

以上でございます。

○山本座長 先ほどのところで私、まとめるときに重要なことを言い忘れましたけれども、解雇以外の不利益取扱いに関して証明責任の転換を拡張することに対しては、水町委員と亀井委員から御指摘があったかと思いますが、日本の人事の仕方として様々な人事上の措置がとられるといった実態があり、したがって、その点で例えばヨーロッパ等と違う事情があるのではないか、その点にも注意をする必要があるという御指摘がございました。亀井委員から最後に匿名通報をどうするのかという御指摘もありましたので、その点はつけ加えておきたいと思います。

その上で、今の損害賠償責任につきましてですが、林委員からEU等の状況につきまして御説明をお願いいたします。

○林委員 EU指令案についてですけれども、EU指令2016/943で付与されている措置、手続や対応策の免除に加え、名誉毀損、著作権侵害、秘密漏えい、私法、公法または労働法上の損害賠償請求に関する訴訟手続において、通報者は本指令に基づいて通報または開示を行ったことに基づいて訴えの棄却を求める権利を有すると15条7項で規定しています。

証拠の収集過程での違法行為があった場合、免除する規定が明確に規定されているというものではありませんが、他の条項を見るに好意的に対応されるという可能性が高く、違法性は阻却されるのではないかというようなコメントもいただいています。

英国公益開示法ですけれども、コモンローでは不正を隠蔽するための法的アクションというのは禁じられています。また、会社が証拠を持ち出した者に対して責任を追及する裁判を起こすということは会社の社会的な評判を低下させることになり、適切ではないと言われていまして、そういう損害賠償請求の訴訟自体も余り起きないのではないかという印象でした。

以上です。

○山本座長 ありがとうございました。

それでは、意見交換を行いたいと思います。御意見のある方はお願いいたします。いかがでしょうか。損害賠償に関して何かございますか。

それでは、中村委員、お願いします。

○中村委員 まず、消費者庁さんに御確認でございますけれども、今回の御提案につきましては公益通報と関係のない機密情報や個人情報の持ち出し等につきましては損害賠償の免責がないという理解でよろしいでしょうか。

○山本座長 お願いします。

○廣瀬消費者制度課長 資料の中で申しますと3ページの第4の1、立法時の考え方との関係でございますが、冒頭の部分でございますが、事業者の営業秘密を漏らしたり、関係者の名誉を毀損したりするなど、他人の利益を害する場合などに一律に免責することは適当でないとの判断から、損害賠償責任を免責する規定を設けなかった。この部分については、考え方は変えない上で文末の提案をさせてもらっているということでございます。したがいまして、今回、免責を御提案させてもらっているところにつきましては、あくまでも公益通報対象事実を知らせること、この行為に基づく部分に限るという提案でございます。

○山本座長 よろしいですか。

○中村委員 それを前提といたしまして、そのことを最終報告書にも記載をいただくということを条件にいたしまして通報行為そのものに対する損害賠償を免責するということについては反対しないという意見でございます。

以上です。

○山本座長 ありがとうございました。

その他の行為に起因する損害については、したがって、一般法理で処理をすることになるわけですね。

そのほかにいかがでしょうか。特段ございませんか。

それでは、事務局のペーパーの4ページにあります公益通報をしたことを理由として損害賠償責任を負わないとする規定を設けることについては、皆さんの同意が得られたと思います。今、中村委員から御指摘がありましたように、その他の資料の持ち出し等に起因する損害については、一般法理の適用によって判断をすることになる。特にその点について規定を設ける趣旨ではないということかと思います。ありがとうございます。

≪5.その他の論点について≫

○山本座長 それでは、次にその他の論点につきまして消費者庁から資料4の説明をお願いいたします。

○大森消費者制度課企画官 その他の論点でございます。

その他の論点、幾つかございまして、1ページ目に一覧で中間整理の概要のところで整理してございますけれども、論点としては行政機関の調査措置義務の対象を拡大するか、切迫性の要件、これを緩和するのか、2号通報で保護の対象となる通報先を拡張するのか、あるいは不利益取扱いに対する刑事罰を設けるのか。その他の論点として通報行為に伴う刑事責任をどうするのかというところと、あとは通報者の探索及び通報妨害というものがございまして、さらに中間整理概要には書いてございませんでしたが、通報者へのフィードバックの義務化という論点もございました。したがいまして、これにつきまして4ページ以下で順に御提案してまいりたいと思います。

まず、行政機関による調査措置義務の対象についてでございますけれども、現行法におきましては、行政機関の調査措置義務の対象となる通報者の範囲というものは労働者に限定されているということでございます。

2で、ところが、法施行後の公益通報者保護制度の周知等を背景に、労働者、退職者、役員、関係事業者以外の方、が内部で改善を求めたり行政機関やマスコミ等の外部に通報するといったような事例が見られる。3つほど紹介させていただいているというところでございます。

また、次の5ページに参りまして、行政手続法の改正という事情がございまして、行政機関が処分等の求めに対して調査措置義務を負うという規定が設けられました。同法においては、行政機関による調査措置義務の対象となる主体の範囲について限定を設けていないということでございます。これを踏まえますと、公益通報者以外からの通報対象事実に係る通報についても調査措置義務の対象とするということも考えられますが、これにつきましても行政機関の負担の程度や法令の遵守が負担に見合うだけ図られるかということはまだ未知数というところがございまして、これについては更に検討する必要があり、今後の検討課題とすることが考えられるということがございます。

第4で切迫性の要件ということで、まさに生じようとしている場合の通報を公益通報としているというところがございます。この要件につきましては、早期の通報を促し、不祥事の芽を早期に摘む必要がある等の理由から、「生じるおそれ」とすべきという指摘がございました。他方で、おそれがあるか否かについては主観に依拠する部分が多く、当該状況の有無については明確性に欠けるというようなことも考えられて、このような要件をもって不利益取扱いからの保護という明確な法律効果を発生させることは困難であるとも考えられるというところでございます。

6ページにかけてでございますけれども、また、違法行為が実際に起こる前に通報する場合においても、「まさに」という限定によって通報ができない事案がどの程度に存在するのかというのは必ずしも明らかではなく、切迫性の要件について「生じるおそれ」とすることの必要性を基礎付けるに足りる事実が存在するとは言えないということは考えられますので、この要件については現時点では維持すべきというような整理でさせていただいているというところでございます。

また、次に保護の対象となる通報先の拡大というところで6ページの中ほどにございますけれども、一元的窓口や権限を有しない行政機関への通報というものは、権限を有する行政機関の教示がなされるものの、通報対象事実については調査・是正に直結するものではないということがございますので、また、誤って権限を有しない行政機関になされた通報に対して不利益取扱いがなされた事案というものはこれまで把握されていないということがございますし、相談というものに対して不利益取扱いがなされた事案もわずかであるという状況にございます。

したがいまして、一元的窓口や、処分や勧告等の権限を有しない行政機関へ拡張するということについては慎重に検討すべきというように考えられるというところでございます。

さらに権限を有する行政機関が指定する者へ通報した場合の拡張ということでございます。これは規模等の制約から単独で通報・相談窓口を整備することが困難な地方自治体においても、方策としては広域連携の仕組みである「協議会の設置」「機関等の共同設置」「事務の委託」「事務の代替執行」といったものを活用して当該窓口を指定することが考えられるということでございますので、これにつきましては権限を有する行政機関が指定した者を通報先に加えることについても引き続き検討する必要があるということでございます。

第6で、8ページでございます。不利益取扱いに対する刑事罰を科すかどうかというところにつきましてですが、まず命令制度を設けることを前提とした上での罰則導入について、意見が出されているというところでございますけれども、この前提となる命令制度につきましては、先ほど行政措置のところでありましたが、行政措置を導入するにしても、まず助言、指導、勧告によって是正を図っていくことが適当と考えられるところでございますので、したがいまして、命令制度の導入あるいはそれを前提とした間接罰の導入については、今後の検討課題とするのが適当と考えられるという整理でございますので、刑事罰については慎重に検討すべきというような御提案になっているところが9ページにかけてでございます。

第7の通報行為に伴う刑事責任の免責というところでございますけれども、通報行為に伴いまして名誉毀損罪などの刑事責任も生じ得るというところでございますが、これは法ではこれらの刑事責任を免責するような規定は設けられていないというところでございます。他方で、通報を目的にするからといって一律にどのような行為でも刑事責任を問わないとすることについては困難と考えられるということでございますので、一般的な規定として通報あるいはそれに伴う行為について刑事責任を問わないという規定を置くことについては、その必要性や規定の内容について精緻な検討等が必要であると考え得るので、これにつきましては慎重に検討すべきというような整理でございます。

通報者の探索、通報妨害というところでございます。これにつきましては、現在、明示的な規定はないのでございますけれども、探索や通報妨害というものが公益通報を理由として行われた場合は、法第5条によって違法となり得るというところがございます。

また、通報の妨害があった場合においても法第3条3号ハに該当するとされております。これらを踏まえまして、通報者の探索や新たに通報妨害に関する規定を設けることはどうかということについては慎重に検討すべきと整理させていただいているというところでございます。

最後、フィードバックのところでございます。通報者へのフィードバックを法的義務とすることについてでございますけれども、これにつきましてはフィードバックを法的義務とすべきという意見もありまして、まず内部通報制度に関し行政機関に義務を課すことを議論した上で、その後、事業者に関して議論すべきという指摘もありました。

他方で、こうした義務を課した場合における事業者、行政機関の事務負担の増加という懸念もございますので、これについては将来の検討課題とするということが考えられると整理させていただいているというところでございます。

説明は以上でございます。

○山本座長 ありがとうございました。

それでは、意見交換を行いますが、論点が極めて多岐にわたっておりますので、大きく3つに分けて議論していただければと思います。

まず第1のグループと申しますか、内容的に余りまとまりがないのでグループとも言えないのですけれども、4ページの「第3 行政機関による調査措置義務の対象について」、5ページの「第4 切迫性の要件について」、6ページの「第5 保護の対象となる通報先の拡張」という3つの論点、8ページの最初の3行までの部分につきまして御意見をいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。

それでは、春田委員、お願いします。

○春田委員 5ページの切迫性の要件について、これは以前から我々、「まさに」というところをもう少し広げて、まさに生じようとしているというところを生ずるおそれというようにすべきという指摘をしてきたところでございます。

ここにもありますとおり、不祥事の芽を早期に摘む必要があるというように考えておりまして、昨今、企業不祥事が多発する中で、早目の対処ということも含め、生じるおそれというのを入れていったらどうかというように考えているところで意見させていただきたいと思います。

その反対理由もここにはいろいろ記載されているのですが、やはりここにあるとおり、まさにという限定で通報できない事案がどの程度存在するのか明らかでないとあるのですけれども、ただ、今のそういった事案がなかなか存在するのを証明するのも難しいのですが、昨今の状況を踏まえると「まさに」というところよりも早期の段階での対応ということを鑑みれば、少し広げて考えることも重要ではないのかと思って意見させていただきます。

以上です。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにいかがでしょうか。

お願いします。

○柿崎座長代理 私もその切迫性の要件については春田委員と同意見であります。ただ、生じるおそれというだけでは明確性が欠けるというお話でしたので、時間軸だけではなくて、これに追加するという形でのご提案なのですけれども、例えば将来の実現可能性が高いとか高度の蓋然性があるという場合、切迫はしていないのですが、いろいろな事情から、将来、重大な不正が行われるということを知っている場合に、それをまだ「まさに」とは言えないから、通報をちゅうちょされては困るわけで、そういう点を救済する意味でも、「まさに生じている、もしくは例えば高度の蓋然性があるとか将来の実現可能性が高い」というような形で併記することで、このちゅうちょが少しは緩和されることになるのではないかと思います。いずれにせよ、現状よりももう少し早い段階で、不正の芽の早期の発見、早期の是正ということにフォーカスをした公益通報の保護ということを考えていく必要がある段階に来ているのではないかなと思っております。

○山本座長 ありがとうございます。

今の点は例えば違法行為を行うことが計画されている。しかし、その違法行為が行われる時点は例えば1年先とか2年先である。そういう場合に、まさに生じようとしているに当たらない、したがって、公益通報ができないことになるのか、ということですか。

○柿崎座長代理 はい。

○山本座長 その点は事務局の側ではどのようにお考えですか。お願いします。

○廣瀬消費者制度課長 検討はしないといけないものだとは考えておりますが、先ほどのまさに生じていると同様のことでありまして、実際にそういったことが本当にあるのかという立法事実的な、なかなか立法事実は難しいというのは春田委員、御指摘のとおりでございますが、そういったところも含めて検討していかなければいけないことだと思っております。

○山本座長 ありがとうございます。

中村委員、お願いします。

○中村委員 全般的に消費者庁のまとめに賛成なのでございますが、今、切迫性の要件につきまして御意見がありましたので意見を申し上げたいと思います。

今、内部通報、不祥事が多く起きているからという話があったのですけれども、例えばですが、ごく最近、今、一番話題になっている件では、まさに内部通報によって発覚をしたというように言われておりまして、不祥事がいろいろ出ているということと切迫性の要件をそもそも内部通報ができていないのかということと切迫性の要件を変える必要があるということは、私は違うと思っていまして、今、座長から御紹介のあったように1年先に不法行為をやることを計画しているということを誰かが知るということ自体が現実的には余り想定されないと思っていまして、現に違法行為が積み重ねられているというようなことについて内部通報が行われるか、行われないかというようなことが今、問題ではないかと思いますので、ここの要件について変更する必要は現状、認められないのではないかというように考えます。

以上です。

○山本座長 今、議論がかなり出ていますが、第4の切迫性の要件について、何かさらにございますか。この点につきましては、今、御意見がございました。立法事実と言えるだけの想定される事案があるかという点と、現行法上のまさに生じようとしているという部分で、どこまでの事案を解釈として読むことができるかという2つの問題があろうかと思いますので、その点を更に精査していただきたいと思います。

この場の意見といたしましては、特に多かったというわけではないのですけれども、一部の委員から、まさにという要件について、これは削除し、あるいは高度の蓋然性があるときという具体的な提案もございましたが、そのような意見があったということかと思います。それに対しては、この事務局案でよいという意見も提示をされたとまとめてよろしいかと思います。

そのほかございますか。第3とか第5の点についてございますか。

第3の点につきましては、5ページにありますように、1つには今回、かなり各法令所管省庁に負担をお願いすることがあり、この場でもそこまで求めることが現実にできるかという問題提起がしばしばあったところですので、それを更に拡張することになりますと、なかなか現実には難しいのではないか。優先順位としては残念ながら少し後のほうにならざるを得ないのではないかと思いますし、やや技術的な問題としては、行政手続法の平成26年改正がありまして、これが1つの例になるという面もあるのですけれども、逆に申しますと、この規定との関係を整理する必要が生じるであろうとも思いますので、法技術的にも、もしこれをやろうとするとさらに精査が必要になると思います。ただ、その手前の部分で、現実になかなかそこまで今回、制度整備をするのは難しいということかと思います。

第5のほうに関して何かございますか。第5の1のほうは、もちろん一元的窓口に通報したとか、誤って権限のない行政機関に通報したからといって保護が与えられず、それによって仮に不利益取扱いを受けたとして、それが違法とならない、という意味ではないと理解しますけれども、それはそれでよろしいですね。

○廣瀬消費者制度課長 不利益取扱い自体は公益通報者保護法以外の一般法理のところでは救済され得るものであります。仮に不利益取扱いがあればということでございます。

○山本座長 ここでの6ページに書かれていることは、ただ、ここのところも立法事実として、こういうことが現実に行われているとは言えないのではないか。そうすると、そこのところは一般法理で救済を図るということでよいのではないか。

2のほうは、いささか技術的な問題にもなるのですけれども、今回の議論の中で、とりわけ地方公共団体について窓口をいろいろな形で置くことを考えないといけないという議論がございましたが、もちろん、そこに通報すれば通報したという効果が得られるのでしょうが、法令上、これをどういう形で書くことが必要かという問題なのでしょうか。

○廣瀬消費者制度課長 おっしゃるとおりだと思います。そうしたものが法改正をしないと機能しないのかという問題だと思います。

○山本座長 窓口を置いていただく、そこの窓口に通報すればそれは通報としての効果を持つということは前提として、それを法律の規定としてどのように整理するかということかと思いますので、その点は更に精査をしていただきたいと思います。

それでは、その次の「第6 不利益取扱いに対する刑事罰」と「第7 通報行為に伴う刑事責任の免責」という2つのテーマに関してはいかがでしょうか。御意見のある方、お願いいたします。特にございませんか。それでは、この点につきましては事務局案で賛成が得られたということかと思います。

それでは、最後の「第8 通報者の探索、通報妨害について」「第9 通報者へのフィードバックについて」という部分でございますが、この点についてはいかがでしょうか。

それでは、浦郷委員、お願いします。

○浦郷委員 このその他の論点についてはおおむね消費者庁の提案に賛成です。ただ、最後の通報者へのフィードバックのところで、やはり通報しても、その後、どうなったか全然分からないのでは、通報者のほうも何のために通報したのかということになってしまいますので、そこはきちんと応答してあげることが今後の通報の促進にもつながっていくと思います。

ただ、やはり事務負担の増加であるとか匿名通報の場合、どうするのか。いろいろ問題はあると思いますけれども、このフィードバックに関しては、多分ガイドラインのほうにも書かれているかとは思うのですが、受け付けた側において、少なくともどうなったか知りたいという通報者に関しては、きちんとフィードバックをしていくという方向で考えていったほうがいいのではないかと思います。

以上です。

○山本座長 そのほかにいかがでしょうか。

では、まず林委員からお願いします。

○林委員 フィードバックに関しましては、今の浦郷委員と同じ意見です。せっかく通報したものがどうなったのかという経緯については、きちんと通報した人に伝えるべきであると思います。

匿名通報についてフィードバックできないではないかという御意見もあるかもしれませんが、匿名の人はフィードバックしてもらいたくないからそういう匿名にしているだけですから、その問題をここに入れ込むべきではないと思います。

それと、通報者の探索、通報妨害についてですけれども、必ず通報があると誰が言ったのだという話をまず探索するというのがありがちなことであるのですが、そういう探索活動であるとか通報妨害をしたときには、それはもう不利益措置を受けたと推定するというような規定を置くとかというような取扱いというのも考えていただいたほうがいいのではないかというように思っています。

以上です。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにいかがでしょうか。

柿崎座長代理、お願いします。

○柿崎座長代理 ほぼ林委員からのお話に尽きていたと思うのですけれども、特にフィードバックについて、どこまでを要求して事務負担の増加ということが懸念されているのかというのは疑問だったので、まさに匿名通報の場合にはフィードバックを要求していると解すことはできないと思いますので、その点を考える必要はないであろうし、また、代理人を立てて、例えば弁護士などに匿名通報をお願いして弁護士に代わりにやってもらうというようなことも今後考えられるかと思いますが、その場合はその代理人にフィードバックすればいいだけのことだと思います。

ですので、むしろ通報者の満足感といいますか、自分がせっかく公益のために通報したのに、その後、どうなっているのだということについて何も知らされないということでは、やはりこの制度全体の実効性の確保としては片手落ちなのではないかと思いますので、ここは何らかの手当てが必要だと思います。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにいかがでしょうか。

それでは、中村委員、お願いします。

○中村委員 この部分も事務局の提案に賛成でありますので、反対意見のありました部分についてのみコメントさせていただきたいと思うのですが、まずフィードバックについてガイドラインにも書かれておりますとおり、方向性としてそのフィードバックをするのがいいということ自体について反対するものではないのですけれども、現実的には、いわゆる窓口に寄せられるものとしては公益通報ではなくて、例えば同僚の個人の問題についてこんなことをやっているとか、そういったような通報などもありまして、要は言ってきた方に対して調査の結果をお知らせするのがふさわしくないような事案も見られます。

そういった中で、そこは企業の判断としてやっているところがありますので、それを一律に、もちろん本当に公益のいろいろな通報ということに対してフィードバックができるときはやるということ自体に反対するわけではないのですけれども、それを一律に書くことによって、そういったことについて、どうして教えないのだみたいなことが起こると懸念されるところでありますので、そこはガイドラインのレベルでとどめておくべきではないかという意見であります。

通報者の探索、通報妨害につきましても、通報妨害ということに関しては既に法令違反になるということでありまして、探索ということに関しては、探索して不利益を与えるということであれば、それは問題であるわけでございますけれども、以前も申し上げておりますが、現実には特に匿名で通報があった場合に、そういう問題が起こっていると言われている部署はどこなのだということをやるというのは逆に問題を明らかにするということに対して必要な行為でありまして、そこがやはり通報者から探索というように言われるというのは現実問題としてございます。ですので、そういう違法な事実を解決しようとする行為がそういう形でとられるという可能性が結果的には問題を解決できなくなるというようなことが実際に起こってくると思いますので、そこを殊更に規定を置くということについては慎重に考えるべきだと考えております。

以上です。

○山本座長 ありがとうございます。

その他に、春田委員、お願いします。

○春田委員 先ほどの通報者の探索、通報妨害のところなのですけれども、9ページにありますとおり、消費者庁の検討会の報告書の中で現行法の不利益の取扱いの範囲に含まれるかどうか明確ではないということで、これを逐条解説、ガイドライン等に新たに記載することが適当であるということにされたということでありますが、それはそれでその方向性で私はいいと思っております。ただ、実際、やはり通報者の探索の禁止ということを明示的に規定がないというところで、ここを明確にすることによって、通報者が通報することをすごく懸念、ちゅうちょするときに、こういった探索の禁止というのが非常に明確になっていると、逆にそういったちゅうちょが取り払われて通報しやすくなるというようなこともありますし、不利益な取扱いの防止という観点でも明示するということは1つ重要な視点ではないのかなというように思っているところであります。

この第8条のところの書き方でも、これらについては慎重に検討すべきと考えられるということで少し後ろ向きな表現になっているのですけれども、今後の検討にもう少し前向きな表現の記載にしていただければと思っています。

以上です。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにいかがでしょうか。

それでは、亀井委員、お願いします。

○亀井委員 この第8と第9がそれぞれ慎重に検討すべき、あるいは今後の検討課題というように書いておられますので、単なるコメントなのですけれども、まず通報者の探索行為についてなのですが、先ほども申しましたとおり、日本では匿名通報が奨励されますので、匿名のまま調査をしてくださいという通報が非常に多くなっています。匿名のままという場合に通報者の方に名前を明かしていただいて協力を得られるような情報が得られないことが多く、企業側としては事実を突きとめるために、通報内容に含まれる文字列、キーワードなどでメールサーバーを全部さらうとか、具体的な調査行為をせざるを得なくなるケースがあります。

ところが、メールサーバーを全部さらうというのは他の角度から見ると、通報者が誰だかを探索している作業もしくは行為であるというようにみなされる可能性もあります。ですので、通報者の探索というのが一体何なのかというのは非常に難しい判断がまた伴われると思われますので、そういったこともあり得るということで慎重に検討していただきたいと思います。

次の通報者へのフィードバックでございますけれども、通報してくださった方に何らかのフィードバックをするというのは、私の知る限りにおいて、どの企業様も励行しておられますが、困っておりますのは、そのフィードバックされた内容について納得ができないという御主張でして、これも匿名通報に多いのですが、十分な調査の根拠となるような情報を御提供していただけない状況で調査を打ち切らざるを得ないという御返答に対してフィードバックが甘い、フィードバックが十分ではない、あるいはこれはフィードバックとは言えないというような押し問答が続くようなケースが結構ございまして、こういった事実があるということに関しても今後の検討課題の中に少し御念頭に入れておいていただきたいなと思います。

以上です。

○山本座長 ありがとうございます。

お願いします。

○消費者制度課担当者 先ほどの中村委員と亀井委員の御意見につきまして、少し事務局から補足説明をさせていただきたいと存じます。現行法では、通報者の探索についても法第5条の不利益取扱いに当たり得るということで禁止されているわけでございますが、同条で不利益取扱いとして禁止されるのは、あくまで客観的に見て労働者に対して不利益と考えられるような取扱いでございまして、例えば、匿名通報の場合に、緊急の必要性から通報の情報元を探るとか、そういった場合は、個別事案にもよるとは存じますが、客観的には労働者に対して不利益がないとして、場合によっては本法の不利益取扱いの対象とはならないと判断される可能性もあり得るということをつけ加えさせていただきたいと存じます。

○山本座長 ありがとうございます。

そのほかにいかがでしょうか。

では、順番にということになりますが、「第8 通報者の探索、通報妨害について」ですけれども、これにつきましては基本的に9ページの案に賛成という御意見が多かったと思いますが、林委員はこの点についても、もう少し法律に何か規定をすべきであるという御趣旨で発言されたのですか。

○林委員 その趣旨で話をしました。

○山本座長 具体的には通報者の探索や通報妨害がされた場合には、不利益取扱いと推定すると。

○林委員 そういう規定を置いてはどうかということです。探索であるとか通報妨害がどういうものであるかということの定義付けもきちんとしておくべきであると思います。調査することによって発覚するということが探索には当たらないとは思いますので、そういう定義をきちっとすることによって、通報した方からのクレームというのもなくなると思いますので、そういう手当てをしたらどうかと思います。

○山本座長 ということで、林委員からは、今のように具体的に通報者の探索、通報妨害について定義をした上、その点は先ほど若干の御意見がございましたけれども、調査の必要性がある上で行われる活動は、ここで言う探索からは除くといった形で定義をした上で、規定を置いたらどうかという御意見がございました。ほかの委員からは、ここについては原案で特に異論はなかったと思います。

その次のフィードバックですが、この点については複数の委員が、法的義務にするという御意見であったということでしょうか。通知を事業者側の義務とするという御趣旨ですか。浦郷委員もそういう御趣旨である。

○浦郷委員 はい。

○山本座長 柿崎座長代理もそういう御趣旨ですか。

○柿崎座長代理 はい。

○山本座長 ということで、これに関しましては、かなり多くの委員から通知を法的義務とすべきであるという御意見がございました。これに対しましては、むしろ反対に、この原案の方向でという御意見といたしまして、現実に企業としては通知を行っている。しかし、これが法定されることになると、実際上、いろいろな形の対応を求められることになる。それは厳密に言えば、例えば公益通報でないとか、フィードバックが義務付けられる場合に当たらないという振り分けはできるかもしれないけれども、ただ、実際上、それにも対応しなくてはいけなくなることに対し懸念があるという理解でよろしいでしょうか。

亀井委員もそういうことですか。

○亀井委員 はい。

○山本座長 ということで、確かに現実に行われているし、法定をすることも論理的には考えられるけれども、しかし、それをやると現実問題として、いろいろな形の求めに対して対応することが現実に要求されることになる。それが企業にとって非常に負担になるという御意見であったかと思います。

行政機関に対してという部分でございますけれども、これは私の記憶するところ、5ページの先ほど少し言及いたしました行政手続法の36条の3、この規定を置くときにも議論がありまして、結果的にはフィードバックの規定は置かない。しかし、とりわけ所管省庁である総務省において、各省に対してフィードバックをするようにという形で通知をしているのでしょうか。フィードバックを奨励する方向としている。しかし、法定までは現在のところされておりません。

これもどうも聞くところによると、ということですので不確実ではあるのですけれども、やはり各省から、これを法定すると対応が非常に大変になるといった意見があり、フィードバックを現実に適切にやっていくことには特に異論はないのだが、しかし、それを法定することになると、様々な求めに対して綿密に対応しなくてはいけなくなるといった問題が生じるということで、かなり強い反対があったと伺っております。ですから、そういったことも少し考慮する必要はあろうかと思います。

もちろん、行政手続法の36条の3と今回の公益通報の場合とでは建付け等が異なっています。今回の場合には、要件自体を緩和するという話もありましたけれども、行手法の場合にはとにかく求めればいいという建付けになっていますので、そのあたりが少し違うのですけれども、しかし、その際にも議論があり、結果的には法定されなかったということがあります。そういったことも考慮して、さらにもう少し検討していただきたいと思います。よろしいでしょうか。

ほかに全体を通じて言い忘れたことはございますでしょうか。よろしいですか。

事務局のほうから何かございますか。特にございませんか。


≪6.閉会≫

○山本座長 それでは、以上をもちまして本日は閉会とさせていただきます。長時間にわたりまして、ありがとうございました。

(以上)