第39回 消費者契約法専門調査会
日時
平成29年5月26日(金)12:00から
場所
消費者委員会会議室
出席者
- 【委員】
- 山本敬三座長、後藤巻則座長代理、有山委員、石島委員、磯辺委員、井田委員、大澤委員、河野委員、後藤準委員、中村委員、長谷川委員、増田委員、丸山委員、山本和彦委員、山本健司委員
- 【オブザーバー】
- 消費者委員会 河上委員長
- 法務省 中辻参事官
- 【消費者庁】
- 小野審議官、加納消費者制度課長、消費者制度課担当者
- 【事務局】
- 黒木事務局長、福島審議官、丸山参事官
議事次第
- 開会
- 不利益事実の不告知
- 「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方
- 閉会
配布資料(資料は全てPDF形式となります。)
議事録
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≪1.開会≫
○丸山参事官 それでは、時間になりましたので、会議を始めさせていただきたいと思います。
本日は、皆様お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。ただいまから消費者委員会第39回「消費者契約法専門調査会」を開催いたします。
本日は、所用によりまして、沖野委員、永江委員、柳川委員が御欠席、中村委員、丸山委員、後藤準委員が遅れての御出席ということで御連絡をいただいております。
まず、お手元の配付資料の確認をさせていただきます。議事次第下部に配付資料一覧をお示ししております。もし不足がございましたら事務局までお声掛けをよろしくお願いいたします。
それでは、山本座長、以後の議事進行をよろしくお願いいたします。
≪2.不利益事実の不告知≫
○山本(敬)座長 本日もよろしくお願いいたします。
それでは、本日の議事に入りたいと思います。
本日の進行としましては、消費者庁より資料1を御提出いただいていますので、まず不利益事実の不告知を御検討いただき、続いて「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方を御検討いただくことにしたいと思います。
それでは、不利益事実の不告知について、消費者庁より御説明をお願いいたします。
○消費者制度課担当者 それでは、消費者庁より資料1について御説明させていただきます。
まず、1ページ目でございます。不利益事実の不告知の論点については、第34回専門調査会において議論がなされたところでございます。その際に、不利益事実の不告知の主観的要件に「重大な過失」を追加するという提案をしておりました。この提案に対しては、この提案の方向性自体について反対する意見は見られなかったかとは思いますが、「重大な過失」がいかなる場合に適用されるのか、また、「重大な過失」の認定の在り方について確認すべきではないかとの指摘が見られたところでございます。
そして、第36回及び第37回の専門調査会において実施されました事業者団体の皆様からのヒアリングにおいても、例えば「重大な過失」と解釈される事例を具体的に示していただきたいといった御意見などを頂戴したところでございます。
このため、本資料では「重大な過失」が問題となった裁判例を紹介するとともに、仮に「重大な過失」を追加した場合に、「重大な過失」の有無が問題となり得ると考えられる相談事例を紹介しております。
2ページ目でございます。「重大な過失」が問題となった裁判例を紹介させていただいております。「重大な過失」については「ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解する」とした最高裁判決などがございます。
そして、「重大な過失」が問題となった裁判例として、アからウの裁判例をそれぞれ御紹介させていただいております。以下、それぞれ詳細を述べさせていただきます。
アの裁判例でございます。こちらは原告Xが被告会社Yの仲介によって、未完成物件であった建物を居住目的で訴外会社から買い受けた。ただ、その買い受けた建物については、Yが完成図面を取り違えてXに説明していたことによって、Xが希望する物件とは異なっていたというものでございます。そのため、Xは売買契約を解除して、Yに対して金銭の返還等を求めた事案でございます。
そして、本件仲介契約では、Yが一般媒介契約に係る重要な事項について故意または重過失により事実を告げていないときには本件仲介契約を解除することができる旨が定められておりましたので、Yの故意または重過失の有無が争われた事案です。
これについて、裁判所は、YがXから具体的な希望を聞いており、その希望にそった建物の間取り図をXに示して、重要事項説明の際にも同様の図面を交付するなどしていたことを認定し、Yが対象物件の図面を取り違えていたために、Xとしては希望にそわない建物の売買契約を締結するに至ったと認定しております。
そして、このような認定事実から、重要な事項についての事実を告げなかったことについて、Yには重過失があったと判示しております。
ページをおめくりいただきまして、イの裁判例でございます。こちらも土地建物の売買契約でございまして、被告Yから、Yの自宅たる土地建物を共同して買い受けた原告Xらが、本件建物の売買当時に説明を受けなかった火災による焼損があったとして、Yに対して損害賠償を請求した事案でございます。
この売買契約には、Yが瑕疵担保責任を負わない旨の特約が付されております。そして、Yは火災の存在を説明していなかったことについて、この火災の存在を忘れていた旨を主張しておりました。
これについて裁判所は、本件火災による焼損は隠れた瑕疵に当たると判示した上で、一般にということでございますが、資料に記載しておりますマル1からマル3の事情を挙げまして、Yがこのような火災のことを思い出さなかったのは不自然であるとしております。
そして、民法第572条によりYが焼損を知りながらXらにこれを告知しなかった場合には、当該特約の効力は及ばないことから、このYが火災のことを思い出さずに告知しなかった場合には、故意と同視すべき「重大な過失」があると言うべきとしまして、この特約の適用を認めることは信義則に反して許されないという判示をしております。
次に、ウの裁判例でございます。こちらは、アとイの裁判例と異なりまして、「重大な過失」と認められなかった事例でございます。
事案としては、原告であるXが、宅地建物取引業者たる被告Yから土地建物を購入した。ただ、その土地において鉛によって汚染されている、いわゆる土壌汚染が判明したことから、民法第570条の隠れた瑕疵に当たるとして、XがYに対して、損害賠償を求めたというものです。これに対してYは、Xは引渡し後6カ月以内に瑕疵を通知しなかったということで、商法第526条第1項・第2項により、瑕疵担保の請求ができないとして争った事案でございます。
裁判所は、Xが引渡しを受けてから6カ月以内にYに対してこの瑕疵の通知をしなかった以上、商法第526条第2項によって瑕疵担保責任を問えないとしております。その上で、商法第526条第3項は、瑕疵につき「悪意」の場合には前項の規定を適用しないとしておりますので、「悪意」とのみ定めておるのですけれども、売主に重過失があるかということを、仮にということで判断したものでございます。
そして、資料に記載しておりますとおり、マル1からマル4の事実を挙げまして、このような事実から、Yが宅地建物取引業者であったとしても、Yが本件売買に当たって、土壌汚染につき調査しなかったことに重過失があったとはいい難いという判示をしております。
以上が、裁判例の御紹介でございます。
次に、仮にということでございますけれども、消費者契約法第4条第2項の主観的要件に「重大な過失」を追加した際に、この「重大な過失」の有無が問題となり得るであろう消費生活相談事例を御紹介させていただいております。
それぞれ御説明させていただきます。まず、事例1でございます。こちらは消費者の方が集合墓地から自宅の庭先に墓を移転する契約を石材店と締結した後に、消費者の方が役場に相談したところ、役場から墓の移転を却下されたというものでございます。この消費者の方は、墓の建立に行政の許可が必要であることですとか、行政は自宅の庭への建立を認めない方針であるということは全く知らなかった。そのため、石材店が正しい情報を伝えてくれさえしていれば契約していないと主張しておる事案でございます。
次に、事例2でございます。こちらは中古自動車の売買の契約でございまして、中古自動車を消費者が購入する際に、事業者の側から、多少の傷がバンパーにあるが、安心して買ってくださいという旨の説明をされましたので、購入を決めたというものでございます。ところが、消費者の方が半年後、板金塗装業者へこの車の色を変える依頼をしたところ、この業者から、車体の中が何かにぶつかったようにぐしゃぐしゃになっているという指摘を受け、実際に中を見てみると緩衝部品が潰れていたというものでございます。
これら事例を検討しますに、事例1においては、墓石を取り扱う石材店であれば、通常は墓の建立に関する規定や手続などを知っているものと考えられます。そのため、故意があったとまでは認定できなかったとしても、自宅の敷地に墓を建立するための許可が認められるのは極めて例外的な場合であることを告げなかったことについて、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態、つまり、「重大な過失」があったと言い得るのではないかと考えられるところでございます。
また、事例2においても、中古自動車販売店であれば、通常は取り扱う中古自動車の部品などに目立った異常がないか、外見のみならず内部を含めて確認するものと考えられます。そのため、この中古自動車部品の緩衝部品が潰れていることを告げなかったことについて、「重大な過失」があったと言い得るのではないかと考えているところでございます。
以上を踏まえまして、この消費者契約法第4条第2項の主観的要件に「重大な過失」を追加するという考え方について、どのように考えるか、委員の皆様方に御検討いただければと思っております。
以上でございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
それでは、ただいまの御説明に関しまして、御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。
有山委員、お願いします。
○有山委員 通常の相談の中では、「故意」という文言が出てきますと、相談員は「故意」を証明するのはなかなか難しいと考えると思うのです。私が受けた相談でも、中古の車なのですが、後ろのシートに穴、焼け焦げがあった。いろいろ試乗したりして、この値段で焼け焦げがあるけれども、この性能の車を購入した。いざ契約して納車されると、その車に焼け焦げがなかったという相談がありました。その中で別の車を故意に販売したかどうかで争うのは非常に難しい。「重大な過失」が入ると違う車の車検証が別の車、その焼け焦げている車のところに載っていた。契約書自体は何ら問題がなかったのですが、別の車の車検証を故意に置いたのではないかと相談者は思っています。御自分は試乗して、焼け焦げのある自動車を購入したと思ったときに、「重大な過失」というところが入ることによって、話合いの余地が出てくると考えております。「故意」だと、どうしてもわざとそのようなことをしたということを証明しなくてはならないのではないかと相談員も考えるのではないかと思われます。「故意」プラス「重大な過失」を入れていただくことを望んでおります。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があればと思います。
河野委員、お願いします。
○河野委員 ありがとうございます。
また、本日は参考資料といたしまして、全国消費者団体連絡会が5月17日付で内閣府特命担当大臣、消費者庁長官、また、消費者委員会委員長宛てに、50団体の連名で出させていただきました「消費者契約法改正を求める意見」を採用していただきまして、誠にありがとうございます。この意見書のうち本日の論点に関わるところだけ申し上げたいと思います。
不利益事実の不告知、第4条第2項でございますけれども、これは、定めがあるにもかかわらず、消費者相談の現場でほとんど使われていないという、今、有山委員がおっしゃったそのことが、私たち消費者にとってみると一番重要なポイントだと思っています。消費者はすぐ裁判とはならず、まず身近なところに相談いたします。その一番頼りになるべき消費生活相談員が、「故意」を争点とすると、ほとんど消費者側の立場に立った解決方法に行き着かない。ここに「重過失」という考え方を入れてくださいますと、どちらにしても、客観的事実を積み上げてそういった見解になるとは思いますが、まず客観的事実の集め方にしても、「重過失」という形であれば、より消費者相談における解決が容易になるのではないかと考えております。今のまま、この法4条の2項を置いていると、既に制定後14年もたっておりますが、これ以降もなかなかこの法律によって、この規定によって、安心して契約を結べる消費者は少ないのではないかと思いますと、今回の「重過失」という視点は是非入れていただきたいと思っております。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があれば、お願いします。
増田委員、お願いします。
○増田委員 私も同じ意見でございます。「重過失」をどう考えるかという問題ももちろんあるかと思うのですけれども、例えばその事実がどれだけ多くの方に知られていることなのか、業界団体で広報しているようなことであるとか、広く一般的に知られているようなこと、あるいは当然販売のプロである者であれば知っているはずであるものというようなことで推測が働くだろうと思いますし、情報を集めやすいと思いますので、是非これは入れていただきたいと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。
長谷川委員、お願いします。
○長谷川委員 ありがとうございます。
2点確認させていただければと思います。これは資料から明らかなことだと思いますけれども、今回の提案が、判例における従来の「重過失」の考え方を変えるものではなくて、それを維持するものかどうかということが1点目でございます。
2点目は、今回の提案に伴って検討しやすいように、あるいは議論がしやすいようにということでいろいろな事例を挙げていただいているかと思います。例えば4ページから5ページにかけて書いてありますような中古自動車の購入の例について、重要な部品に瑕疵があってそれを見逃したとなると「重過失」に当たるような気もしますけれども、さまつな部品について瑕疵を見逃したときにどうなのかということもあります。今後ここに書かれている事例がどのように使われるのかは分かりませんけれども、仮に法改正がなされた後、逐条解説等で使われるということであれば、その中身については慎重に御吟味いただきたいということでございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
従来の判例の考え方を変えるものではないという確認でしたけれども、お答えをいただいてよろしいでしょうか。
○消費者制度課担当者 そのとおりだと思っております。
○山本(敬)座長 他に御意見あるいは御質問等があればと思いますが、いかがでしょうか。
石島委員、お願いします。
○石島委員 前回、「故意」と同等レベルの「重過失」を要件とするという方向性であれば検討可能性はあるとしつつ、適切な事例等をベースに御検討いただけないかということを申し上げたのですけれども、今回御紹介いただいたものが適切な事例なのか、まだ前回と同様に疑問があります。(1)に出していただいている裁判例というのは、いずれも「重過失」が裁判でどのように判断されているかを示したのみで、もちろん皆さん御認識だと思うのですけれども、消費者契約法において不利益事実の不告知に「重過失」を追加すべきであるということを導くものではないと思います。
(2)で相談事例として挙げていただいた事例1について、これは利益を告げておらず、結果として取り消すことはできないと思います。また、架空のケースとして、4ページの一番下の段落で補足をしていただいていますけれども、このケースでも、自宅の敷地にお墓を建立できると断定的に告げたのであれば、その内容にかかわらず、不実告知のほうに該当するのではないかという疑念があります。
また、事例2についても、不実告知や瑕疵担保責任によって解決できないのだろうかと思われますので、これらの事例をベースに不利益事実の不告知に「重過失」という要件を追加すべきと判断するのは早急なのではないかという印象を持ちました。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
山本健司委員、お願いします。
○山本(健)委員 御説明いただいて、ありがとうございました。
第34回会議でも申し上げましたとおり、日弁連の立法提案と比較すれば不十分な内容ではございますけれども、「重過失の付加」も一歩前進であると考え、資料1の内容での取りまとめに賛成いたします。なお、「重過失」というのは「故意」に準ずる過失ということですので、適用範囲の明確化は図られていると考えます。
そのうえで、報告書を取りまとめられる消費者委員会と、逐条解説を作成される消費者庁に対し、お願いしたい点が2点ございます。
第1に、不利益事実の不告知という論点については、種々の意見があった、今後も継続検討が必要な論点であるということを報告書に記載していただきたいと思います。具体的には、全ての行為類型について先行行為が必須の要件なのか、「重過失」まで必要なのかといった意見も専門調査会で相当程度に存在したこと、それを踏まえて今後の判例の動向や相談現場の意見等を注視した上での将来的な法改正の要否を継続検討することが必要な論点であるということを、報告書に記載していただきたいと思います。
第2に、この専門調査会における議論の成果が社会一般に広く還元されるように、消費者庁の逐条解説を充実させていただきたいと思います。現在の逐条解説の不利益事実の不告知に関する記載部分には、具体例として、立法時の想定例が記載されているのみでございます。しかし、この専門調査会に先立つ消費者庁の運用状況検討会では、立法後に実際に判示された裁判例が多数収集・分析され、この専門調査会でも、第8回会議や第13回会議の消費者庁提出資料において紹介されております。特に第8回会議の資料2で事例3-1から事例3-5として紹介された裁判例は、利益となる旨の告知が具体的で不利益事実との関連性が強い事案では必ずしも故意要件が厳格に求められずに誤認取消が認められているという点において、現行法下における「故意」の運用実態に関する社会への情報提供として有意義であると思います。
以上2点につき、お願いをさせていただきたいと思います。以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があれば、お願いします。
増田委員、お願いします。
○増田委員 今、先生がおっしゃったことであえてお伝えしたいのですけれども、もともと先行要件であるとか故意要件について、それを外していただきたいということは、かねてよりお伝えしていたとおりで、そこの部分は本質的なところでは考えは変わっておりません。今回については、御提案いただいたことについては賛成いたしますけれども、今後の検討事項であることは明記していただきたいと考えます。
商品・サービスが高度複雑化している中で、商品・サービスがもともと素晴らしいものなので利益を告げなくても買う方はいらっしゃいます。ですけれども、その内容について、不利益となること、しかも、重要事項という条件が付いているわけですから、それは消費者志向経営を目指す事業者のほうからお教えいただく必要のあることだろうと思います。そこの部分については、これからの社会において必要な意識だと考えますので、引き続き検討していただきたいと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。
丸山委員、お願いします。
○丸山委員 まず、提案されている方向性、「重大な過失」を入れるという方向性については賛成しております。4条2項がこのままでは機能しないということはもうかなり言われてきたことでございますので、ここで一歩進めるということは必要なことだと考えております。
1点、お考えいただきたいのは、現行法を前提とすると、これは利益告知がされていて、しかも、重要事項について不利益事実の不告知があるという事例なので、解説を書かれたり取りまとめをされたりするときに、挙がっている判例というのは、失火の問題であったり、不利益事実の不告知の場面とは違うものが挙がっている印象を受けますので、事業者としては、そういった利益告知とか重要事項が問題となっている場面でどういう義務を果たすべきで、著しい不注意というのはどういう場合に言えるのかということを丁寧に考察していただいて、解説などを書いていただけるとありがたいと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。
磯辺委員、お願いします。
○磯辺委員 「重大な過失」の規定を付加することに賛成いたします。御提案の内容に賛成します。
立法事実等の事実関係の御指摘等も改めてあったところですけれども、この件というのは、実際にいろいろな法律の専門家の方々に伺うと、「故意」という現状の要件であっても、客観的な事実を積み上げて立証を進めていけば、「故意」は推認がされて認められるということで、裁判実務上は、「故意」または「重大な過失」と、「重大な過失」まで加えなくても、故意規定だけでもかなり対応できているのではないかというお話も伺うところであります。
ただ、一方で、消費者相談の現場等で、この消費者契約法を使うときに、「故意」ということだけですと主観的な要件、行為者の主観がどうだったのかということを問われると一般的には受け止められるということがありますので、それで非常に相談員が難儀するという経過があったと思いますし、それは別に相談員だけではなくて相手方になる事業者の方、もしくは消費者もそういうものとして「故意」の記述を受け止めるということになります。そういう意味では、実際の裁判上の判断、本来、この法律の持っている趣旨というものがより分かりやすくなるという意味で、「重大な過失」という文言を付け加えていただくというのが本質的な性格ではないかと思っているところですから、そういう意味では、この「重大な過失」を加えないことによって、今まで救済されなかったような事案が「不利益事実の不告知」の要件に照らして存在するのかという詳細な議論というよりも、そういった傾向が相談の対応のところであるということを把握できれば、立法の事実としては十分ではないかと思っております。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があれば、お願いします。
後藤座長代理、お願いします。
○後藤(巻)座長代理 私が問題だと思っておりますのは、4条2項の適用を認めた判決の中に、「故意」について言及していなかったことや、消費者側で「故意」についての立証がないけれども、故意を推認する判決があるということでありまして、これは正に事案に即して、その場合については4条2項の適用を認めるのが妥当だと裁判官が判断したということだと思います。
それをより明確に分かりやすくというのでしょうか、根拠付けるという意味で、「故意」または「重過失」という形で「重過失」を加えるというのは、何の説明もなく「故意」がありますとか、「故意」について何も言及しないで取り消されるということ、こういう状況から見たら、事業者側にとっても望ましいことだと考えております。ですから、ここで消費者に有利になるとか事業者に不利になるとかというような観点ではなく、判決をもっと明確な形にして、事業者にも消費者にも使いやすくする。そういう意味で「重過失」を加えるというように考える必要があるのではないかと思っております。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があればと思います。
長谷川委員、お願いします。
○長谷川委員 何度も申し訳ありません。ありがとうございます。
先ほど何人かの委員の方から、今後の検討課題としてという御意見があったかと思いますけれども、それにつきましては2つございます。仮に今回こういった形で改正するということであれば、基本的には、その動向を踏まえてということではないかと思っております。その動向を踏まえての中身でございますけれども、これは今回の検討が再開してから何度も申し上げているような気がいたしますが、こういう事例がありましたということではなくて、その量的な度合いというか、ボリューム感も含めて検討すべきものであればすべきだということを考えております。
逐条解説等につきましては、事例については先ほど申し上げたとおりでございますけれども、内容についても先ほど確認させていただいたとおり、従来の判例の範囲ということも踏まえて記載いただければと思います。
以上でございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。
大澤委員、お願いします。
○大澤委員 ありがとうございます。
基本的に提案のとおりで賛成いたします。何名かの委員の先生から、従来でもその「故意」を推認するような形の判決などがあったということですけれども、それに関連する話ですが、恐らく不利益事実の不告知の場合には、重要事項という縛りがかかっていますので、要は、契約の目的物とか価格とか、そういった重要な事項に限定されています。その重要な事項について、事業者の側が消費者にとって影響を与えるような事実を告げていないということは、これまでは「故意」という要件でしたので、それが事実上「故意」に等しい、「故意」が推認されるという形で処理されていたと思うのです。これを仮に「故意」に「重過失」を付け加えたとしても、これまでの判断がそこまで変わるわけではないのではないかと考えています。不利益事実の不告知で、その「故意」を推認したという判決自体は今回の資料には出ていませんけれども、今回の資料で挙がっている事例は、従来の判決で「重過失」というものがどのレベルのものであるかということを示すために出された事例であると理解しています。
不利益事実の不告知そのものの判決が挙がっていないのは、それも従来、不利益事実の不告知に「重過失」という要件がないので、そのものの判決が出しにくい、または、ないということだと思うのですけれども、例えば同じようにこの情報、消費者側の契約締結に重要な影響を与えるような情報を付けていないということが問題になったものとしては、不利益事実の不告知だけではなく、従来でも民法であればそれが要素の錯誤に当たるかどうかという判断をするときに、錯誤が動機の部分であったとしてもそれが相手方の説明に誤りがあったことによって導かれたとか、そういう判決もございます。
あるいは、説明義務の判決などでも、事業者側の説明が不十分であったことが注意義務違反に当たるかどうかという判断をするときに、今回の「重過失」と同じように契約の中心部分ですね。本当に主要な部分について明らかに当事者間に情報の格差がある状況で情報をきちんと告げていないという形の判断をされていたと思いますけれども、今回「重過失」というものを付け加えたときに、その注意の程度が著しく不注意であるという程度に引き上げられるとは思うのですが、恐らくこれまでの錯誤あるいは説明義務とか、そういった判決を踏まえて、そんなに、実務上この「重過失」が付け加わることによって事業者にとってすごく高いレベルの説明が要求されるとか、あるいは常に「重過失」が認められるということには、個人的には余りならないのではないかと思っています。
ただ、明文上は「故意」という要件しか書いていないというのは特に相談現場などで「故意」と条文に書いていますので、わざと告げなかったという意図的に告げていないというところを立証しなければいけない。そういう印象を与える条文になっていますので、そこを改善する意味では、「重過失」を付け加えるということでよろしいのではないかと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があればと思います。
河野委員、お願いします。
○河野委員 意見書にも書かせていただきました。今後の検討に向けて、先ほど増田委員がおっしゃったことは私ども消費者としては非常に賛成するところでございます。ただ、更に踏み込んだ改正になるということになると、毎回のように立法事実の提示が不十分ではないか、改正が必要と判断するだけに十分な消費者被害の把握と分析がなされていない、それから、救済実態についての把握と分析も不十分であるという御意見が毎回のように出されます。ただ、本年度の消費者白書に載っておりますけれども、何らかの消費者トラブルに遭った人で消費生活センター等に相談をした人は7%程度であるという事実がございます。この事実を皆さんと共有したいと思います。このことをしっかり考えた上で、今後に向けて是非より踏み込んだ形での検討をお願いしたいと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があればと思いますが、よろしいでしょうか。
有山委員、お願いします。
○有山委員 相談事例の中で、事業者と相談員と当事者である相談者と話合いの結果、決着がつくときにこの「故意」が入っていると事業者はこれだけは認めたくないと、何とかそこは曖昧にしてほしいということがあります。結局、結果は同じなのですが、そういう形で「重大な過失」が入ることによって非常に事業者としては対応がしやすいのではないかと考えております。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
磯辺委員、お願いします。
○磯辺委員 長谷川委員から御指摘のあった立法事実を考慮するときの量的な問題という話なのですけれども、確かに量的な問題が把握できれば、それに越したことはないのですが、実は、私は差止め請求の実務をやっていて、法令上の規定が十分でないので、これはこれ以上なかなか検討するのが難しいかなといったものについては、ある意味落としていくわけです。つまり、裁判のそじょうに上らないということがあって、そうすると記録として残らないことになります。それは多分個々の事案でもそうだろうと思っておりまして、そういう意味では、余りにも量を重視し過ぎると、そうやって規定が不十分であるがゆえに、権利主張を制限せざるを得なかった埋もれた事実が、なかなか把握できないという事情があることも是非御理解いただければと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
長谷川委員、お願いします。
○長谷川委員 その点は、第1回の会合だったかと記憶しておりますが、山本座長から想像力を持ってということで御指摘をいただいたところかとは思っております。さはさりながら、量的に物事を把握する御努力もしていただきたいという趣旨でございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
今の点は、かなり以前にお話した記憶が私もありますが、こういった問題がとりわけよく現れているのが、この4条2項の不利益事実の不告知でして、何人もの方から御指摘がありましたように、やはり故意要件が加わると、民法の詐欺もそうですけれども、実際にはなかなか適用できない。それが障害になっていて、別の手段で救済を図らざるを得なくなる。その別の手段というのも、損害賠償を含めてですが、大澤委員が指摘されたのはそのような問題も含めてだったと思いますけれども、外延がはっきりしないところがありますので、なかなか量的に把握することが難しいということがあります。その辺りは、これまで何度も指摘されてきたことですので、了解されているのではないかと思います。しかし、実際に検討を進めるに当たっては、そのようなことを踏まえて、慎重に考えていく必要があることも確かだろうと思います。
多くの方から御意見をいただきましたが、この「重過失」を新たに追加するという提案については、特に反対の御意見はなかったように思います。「重過失」の意味についても、判例法があり、その判例法の理解を動かすものではないということも確認されたところだと思います。少なくとも、その限度で改正を目指すということで御了解が得られているのではないかと思います。
もちろん、どのような場面にこれが実際に適用されて取消しが基礎付けられることになるのかという点については、石島委員から御指摘があったところですけれども、これも先ほど申し上げましたように、現在の裁判例を基にその例を挙げるのはなかなか難しいことでして、そこは少し限界があるように思います。
ただ、この専門調査会でも最初から問題になっていましたのは、不利益事実の不告知と言われているものにも、大きく分けると2つの類型があって、利益事実と不利益事実とが密接な関連を有している場合には、「故意」の認定をしない、ないしは「故意」を推認するような形で取消しを認める、あるいは不実告知と併せて取消しを認めるというタイプの裁判例が見受けられる。と同時に、利益事実が必ずしも明確に告知されていないけれども、「故意」の不告知を理由として取消しを認めている裁判例もある。これらをどう受け止めて立法化するかということが課題でした。ただ、この2つの類型にきれいに分けて規定をすることについては、要件設定がなかなか難しいということもあって、なかなかまとまりがつきませんでした。
しかし、何の手当てもしないで先ほどのような問題を受け止めることができるかというと、やはり問題があるだろう。特に前者の実質的には不実告知に近いような形で取消しが認められるべき場合について、もし「故意」があることによって障害が出ているとするならば、それは取り除かないといけないし、「故意」の推認あるいは「故意」の認定をそもそもしないような形で対応しているのであれば、そのような結論を導き出すことができるように文言を手直しすることが必要である。そこで出てきたのが、「重過失」を追加するという提案だったと思います。
このような裁判例の動向があるということ自体は紹介もされ、了解もされているように思います。それへの対処の仕方として、今回「重過失」を追加することで対処することについて、御了解が得られたというのであれば、これを基に取りまとめをさせていただくということにしたいと思いますが、よろしいでしょうか。
逐条解説等でどのように整理をして、特に例をどう挙げるかということについては、なお慎重に検討していただければと思います。
報告書にどうまとめるかという点については、このように不実告知型と「故意」の不告知型があるということは、実は私自身、かなり以前にこの問題について論文を書いたときに示したものでして、思い入れが強いところです。問題意識としては少なくとも共有されているけれども、このような形で立法化することについては今すぐまとまりがつかなかったということですので、もともとの問題意識はこのような2つの類型があることにどう対処するかというところにあったことは何らかの形で示していただき、今後は、このような「重過失」を入れるという形で改正が行われた後に、それを踏まえて判例・実務がどのように展開していくかということを注目しながらまた考えていただきたいと思います。
最後に、個人的な願望を述べてしまいまして恐縮ですけれども、少なくとも「重過失」を入れるということについて御了解を得られたということで、次回に取りまとめしていくことにさせていただければと思います。よろしいでしょうか。
ありがとうございました。長引けば休憩を入れようかということは考えていましたけれども、ここで休憩を入れる必要は余りないように思いますので、恐縮ですが、議事を続けさせていただければと思います。
≪3.「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方≫
○山本(敬)座長 それでは、消費者庁より「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方について、御説明をお願いいたします。
○消費者制度課担当者 それでは、「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方について、資料を御説明させていただきたいと思います。
資料1の7ページからでございます。7ページには、この論点を検討しました33回の資料内容を書いてございます。マル1で、推定に関する規定について、それから、マル2として、制度的に資料の提出を促す方策という点についての提案をしていたところを書いてございます。
これについて、前回の御議論ではマル1のほうで、「同種の事業」で足りるのかといった点についての御指摘がございました。マル2については、民事訴訟法の規定との関係、あるいは営業秘密に関わる資料の提出の問題について御指摘をいただいておりました。
8ページでは、事業活動への影響等に関するヒアリングということで、事業者団体から御指摘いただいた点を主な意見として整理させていただいております。こちらでも、マル1については、やはり「同種の事業」というところについての御意見を頂戴しておりますし、マル2については、企業秘密との関係、あるいは現在の民事訴訟法上の制度との関係について御意見を頂戴していたところでございます。
9ページから10ページにかけましては、第38回の専門調査会において、この9条1号の実態把握ということで、井田委員からの御報告や消費者支援機構関西の五條検討委員長からのヒアリングの結果を簡単にまとめさせていただいております。
(1)では、消費者側の立証の困難性ということで、ヒアリング等の結果で御指摘いただいたところによれば、消費者側は様々に主張立証方法を工夫して訴訟活動を行っているということでありますが、事業者側からの資料の開示等がないことで立証が難しい状況にあるという御指摘がございました。
(2)で、事業者側の立証活動の現状ということで、ヒアリング等では実際に資料の開示が行われないケースがあるということとともに、その理由としては、現行の制度上、訴訟戦略あるいは営業秘密への懸念といった観点から、事業者側にそういう資料を開示するというインセンティブが働かないという問題があるのではないかという御指摘がありました。また、そもそも紛争が発生するまで、「平均的な損害の額」というものを算定せずに違約金等を定めているという場合もあるのではないかという御指摘がございました。
10ページの(3)では、裁判所による対応のことに触れてございますけれども、ヒアリングでの経験ということで御指摘があった点としては、裁判所による対応としては、様々であるということで、積極的に対応される場合もあればそうでない場合もあるということが御指摘されていたところでございます。
11ページからが、そういった御意見、ヒアリング等を踏まえまして、どうするかというところで整理させていただいているものでございます。「4.検討」というところでございます。(1)で、最初の段落で書いておりますのは、これは逐条解説でも既に書いているところを引用しているところでございますけれども、そもそもこの9条1号における平均的な損害とは、同一事業者が締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される「平均的な損害の額」という趣旨であるということでございまして、この額については、あらかじめ消費者契約において算定することが可能なものであると考えられております。
そして、事業者には、多数の事案について実際に生じる平均的な損害の賠償を受けさせれば足り、この「平均的な損害の額」以上の賠償の請求を認める必要はないということで、このような規定が置かれたものでございます。
このような考え方を前提とし、このような規定の趣旨に照らして考えますと、本来的には事業者が損害賠償の額を予定し、または違約金を定める条項を定める際には、あらかじめ「平均的な損害の額」を算定した上で、その額を超えない範囲というもので定めていただくということが求められるのではないかと考えてございます。
「さらに」ということで書いてございますのは、これは前回の専門調査会報告書にも同様の内容が書かれているものでございますけれども、消費者契約法3条1項については、消費者契約の締結過程における情報提供の努力義務というものを定めている規定でございますが、その趣旨に照らしますと、この「平均的な損害の額」が問題となった場合にも、事業者は消費者に対して必要な情報を提供するよう努めなければならないと解されるのではないかということを書いてございます。
「ところが」という段落で記載しているのは、先ほど整理させていただきました実態把握の中では、指摘された内容としては、現在の制度の下では資料を開示しようというインセンティブが働かない状況にあり、あらかじめ算定されることなく損害賠償額の予定等の条項が定められているという御指摘があったということでございます。
この点に関しては、より詳細にその実態を把握するべきものと考えてございますが、仮に事業者が損害賠償額を予定し違約金を定める条項を定めるという際に、あらかじめ平均的な損害額を算定するということがなくて、そのために算定の根拠を示すことができないというような実態があるということであれば、冒頭に書かせていただいたような消費者契約法9条1号の規定が置かれた趣旨が必ずしも全うできていない状況にあるということになると考えられます。そうであれば、そのような状況に対しては何らかの手当てを講ずるべき政策的必要性があるのではないかと考えられます。
その場合の手当てとしては、様々な手法が存在すると考えられます。しかし、ここではこれまでの専門調査会における審議を踏まえまして、消費者契約法において考え得る対応策ということで考え方を整理させていただいております。
12ページの(2)ですけれども、これまで御検討いただいておりました推定規定により立証の困難を緩和する考え方についてでございます。これについては、冒頭のところで33回の提案をお示しておりましたが、33回の専門調査会においては、この推定の前提となる事実を「同種の事業を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害の額」ということで御検討いただきましたが、この「同種の事業」ということで、法律上の推定の前提となるのかという御指摘があり、御懸念も示されたところでございます。
そこで、これらの指摘や懸念を踏まえますと、推定の前提となる事実関係としては、単に同種であるにとどまらず、類似しているということを要するのではないかということでございまして、御提案としては「事業の内容が類似する事業者に生ずべき平均的な損害の額」、こういうものを立証した場合に、その金額が「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」と推定されるという規定を設けてはどうかということでございます。
「あるいは」という段落で書いてございますのは、類似するというところをより具体化するという考え方でございまして、例えば「事業規模その他の事業の内容が類似する事業者に生ずべき平均的な損害の額」という形が考えられますが、このように考慮要素を明示するという考え方をどうするかということでございまして、「もっとも」というところで書いてございますが、このように規定を細分化・具体化するということについては、この推定規定によって立証の困難を緩和するという趣旨を失わせてしまう可能性があるという御指摘もありましたので、この点は慎重に御検討いただく必要があるのではないかと思います。
13ページですけれども、では、仮にそのような推定規定を置いた場合の立証の構造と言いますか、どのような立証活動になるのかということを図示してございます。(i)で書いておりますのは、現行法と同じような立証構造でございまして、「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」というものを消費者側が立証し事業者側は反証するということでありまして、これは推定規定が置かれたとしても、同じような立証構造もあり得るということになります。
他方で、(ii)のところが、推定規定を用いる場合ということになりますが、消費者は、この「事業の内容が類似する事業者に生ずべき平均的な損害の額」というものをまず立証するということになりますが、当然これに対しては事業者側も反証が許されるわけでありまして、例えば消費者はそのように主張するかもしれないが、類似しているとは言えないということを反証していくということは当然考えられるわけでございます。
このような消費者の立証活動、事業者の反証を踏まえた上で、裁判所は、その「事業の内容が類似する事業者に生ずべき平均的な損害の額」であると言えるかどうかを認定していくわけでございまして、それが認定でき、証明されたという心証を抱いた場合には、法律上の推定が働くということになり、当該金額が「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」であると推定されるということになります。
その上で、さらに事業者側は、その金額は自らの「平均的な損害の額」とは違うということで、いわばその推定を覆すために立証を行う場合には、自らの「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」についての立証活動を行っていくということになろうかと思います。
14ページですが、これはもう一つの考え方で、マル2として先ほどお示ししていた考え方でございますけれども、事業者による資料の提出を制度的に促すという考え方でございます。このような考え方については、一般的に証拠提出義務を定める民事訴訟法第220条という規定がございまして、これとは異なる特別な規定を設けるということになるわけでございますが、そういった必要性・合理性があるかという課題が存在しておりまして、他方で、営業秘密に関わる資料の提出ということをどう考えるのかという問題もございます。
先ほども御紹介させていただきましたように、これは前回の委員からの御指摘、あるいはヒアリングの中でも御指摘いただいた内容でございます。
一方、前回実態把握のために行ったヒアリングの中では、この「平均的な損害の額」の立証においては、事実そのものではなく、算定結果というものが立証目標となってくるということでございまして、相手方の手持ち証拠の開示という手法があったとしても、これは既存の制度が念頭に置かれておりますが、消費者側の立証が機能しないという指摘がございました。このような趣旨を踏まえますと、仮に事業者による根拠資料の提出を促す制度を設けるということにしたとしても、当該資料から「平均的な損害の額」を消費者が算定することができるかどうかということが問題になりまして、制度を置くのであれば、そういう算定が可能となるような資料が適切にその対象とされなければ実効性を欠くということになる恐れがあると思われます。
このような点に鑑みますと、事業者による根拠資料の提出を制度的に促す考え方につきましては、このほかに第33回では事案解明義務を背景として、具体的な態様を示す義務という考え方もございましたが、そういったもの等を含めまして、民事訴訟法等との関係を慎重に吟味して、より精緻な検討を積み重ねた上での将来的な方策と位置付けることが考えられるのではないかということで整理させていただいております。
このような内容を踏まえまして、この「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方ということで、皆様に御議論いただければと考えてございます。
以上でございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
それでは、ただいまの御説明に関しまして、質疑応答を行わせていただきたいと思います。御質問のある方は御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。
増田委員、お願いします。
○増田委員 今回こういう御提案をされていますが、立証責任の転換をしていただきたいというのが基本のところでございます。ただ、御提案をいただいたことについては一歩前進かなと思っているのですけれども、懸念するところがございまして、まず、「平均的な損害の額」の意味合いなのですが、11ページの上から4行目に書かれているように、「実際に生じる平均的な損害の賠償を受けさせれば足り、それ以上の賠償の請求を認める必要はない」という考え方については、これはそのとおりであるということを前提としていただかないといけない。今、それプラス逸失利益というようなことを言っている事業者の方たちもいますので、相談現場ではそこのところから説明をしていくということが、今、求められている状況にあります。
それと、「同種の事業」を行う事業者が損害の示すということも少ないですし、業界団体も全てにあるわけではない。業界団体があったとしても、そういう額を示すということは、どちらかというと避けたいという傾向にあるように思います。そういう中で、その額自体がまた妥当かどうかということも、消費者の側としては判断がつきにくいということがあります。中には消費者契約法が施行される前の段階で業界団体として示しているようなものがあって、それは今の段階ではいかがなものかと思うケースもございます。そういうことも懸念としてはございますので、それを前提とした上で御判断いただく必要があるのではないかと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があればと思います。
井田委員、お願いします。
○井田委員 御説明ありがとうございます。
私の意見といたしましては、推定規定により立証の困難性を緩和するという考え方、これにひとまず賛成したいと思っておりますが、1点懸念がございまして、12ページのところでは「同種の事業」ということでは少し推定を支えるのに十分ではないという意見があって、そこで今回類似というお話が出ていると思うのですけれども、懸念しているのは、類似性というところに争点が移ってしまうのではなかろうかという懸念があります。本来はこの平均的損害を加えるのかどうかと、要するに、解約金、違約金が高過ぎるのではないかというところだったはずが、その事業が類似かどうかというところがかなりの主戦場になるというのは、ちょっと本来の9条1号の在り方としてどうなのかなと思っております。
類似として、考慮要素として「事業規模その他の事業の内容が」と書かれているのですが、例えば事業規模といっても資本金なのか、人数なのか、支店の数なのかとか、力点が裁判所によって違う可能性がむしろ出てくるのではないか。例えば「同種の事業」かどうかというのは、総務省が出しているような産業分類とか、そういう分類指標とかがあって、これで同種性、大項目、中項目などと分かれているような、そういう一覧性があって、これは同種でいいよねという考え方のほうがむしろ分かりやすいのではなかろうかという気がします。
確かに同種と類似でどのぐらい違うのかという疑問はそもそもあると思うのですけれども、類似と書いたほうがかえって、経験として今まで余り実際の裁判の中で同種性というものは余り争ったことがないのですね。だけれども、この推定規定だと類似性というところでかなりのリソースが割かれてしまって、そこで終わってしまう可能性があるので、そこは皆さんの御意見をむしろ伺いたいと思っています。これは実際に現場で運用している者からの疑問でございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
後藤準委員、お願いします。
○後藤(準)委員 今の御発言は私も意見として似たところがありまして、実際にこの規定を設けた場合に実務においてどうなるのかについて、例えば同種というのは一体どのレベルの話であり、通常のという意味はどういう意味であるのかという推定する企業として適切かどうかといった入口の議論が活発になって、本来の損害額の算定の議論よりもそちらに時間を費やしてしまう形になりはしないかと考えます。ですから、このままだとなかなか思ったような成果が出ないのではないかという疑念を持っております。
特に「同種の事業」については、前回のヒアリングでも新経済連盟もお話をされていましたけれども、収益構造やコスト構造は、ほとんどの企業において異なりますので、「同種の事業」でもって違うものを同じものだとみなすということでいいのかどうかという議論になり、そこの議論から始まってしまうと、実際に損害の額の妥当性のところを議論できるのかという懸念があります。
むしろ、個人的には業界団体がきちんと損害に関するルール作りをし、まずはそちらに任せていって、それの積み重ねでうまく損害の額が算定できる仕組み作りを行うほうが、より現実的な対応ではないかと思っております。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。
中村委員、お願いします。
○中村委員 ありがとうございます。
私としては、今回出していただいた方向性でとりあえず整理するということではいかがかと結論としては思っております。その趣旨としては、今、問題になっているのは、なかなか事業者から欲しい資料が出てこないというようなお話であったか思っておりまして、ある意味、こういう形で類似の事業者ということを立証していただくことで、それはここの部分が違うというようなことの資料ということであれば、事業者としてもそれなりの対応ができるし、そこで実際の損害がどうなのかということの解明が進んでいくという方向に進むのではないかということを期待するところでございます。
他方で、後のほうでも若干検討がされておりますように、具体的に前回のヒアリングの中でもエクセルシートでの数値というようなものを出されても、それについてはその根拠がどれだけあるのかよく分からないというような御指摘もありましたが、更にお聞きをすると、その企業の信ぴょう性というか、その主張の信頼性そのものが場合によって異なるというようなことであったかと思います。
その際、例えば私どもの会社ですと、裏には確かにデータがあるわけですけれども、そこを、例えば個々のお店で売られている商品の全てのデータを出してこれを立証しろと、そのデータをうちで解析するので出してくださいと言われても、なかなか会社としてそういう対応は難しいということになりますので、そういう生のデータを出すということではなく、相互の立証活動を活発化していくような形での立法というのがよろしいのではないかと思った次第でございます。
結論としては、いただいた案で原則立法化するということについて賛成という趣旨でございます。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他にいかがでしょうか。
大澤委員、お願いします。
○大澤委員 今回の御提案を拝見して、私自身は、率直に言いまして、どれが一番いいかは正直まだ決めかねていますが、強いて言いますと、この(2)のほうですね。推定規定により立証の困難を緩和するという、この12ページに書かれた考え方のほうがまだ検討の余地はあるのかなと思っています。ただ、出されている「事業の内容が類似する事業者に生ずべき平均的な損害の額」を立証するということに関して、この文言に関しては反対いたします。
と申しますのも、今、何名かの委員からも出ておりましたように、類似するというところで、結局うちの事業者とあの事業者は違うという、そういう争いになってしまうのは若干不毛なのではないかと思います。その賠償額の予定が平均的損害を超えているかというのが本来の主戦場のはずなのに、類似しているかどうかとか、あるいはあの事業者は特殊なのでうちの業者の平均額はもっと大きいのだとか、そういう形で裁判で争われるのは、若干論点がずれてしまうのではないかということがありますので、(2)の12ページのような考え方で進めていただければと思いつつ、しかし、何を消費者が立証すればいいかということについては、個人的にはこれ以外のことを考えたほうがいいと思っています。
この点に関しては、若干私の私見でもありますが、今回のこの御提案の中にはないのですが、私自身は前々からこの消費者契約法が制定された頃から、そもそもなぜこの基準が「平均的な損害」という文言なのかというのをずっと疑問に思っていまして、私自身は平均的な損害に関しては、もう何年も前からこれに関しては幾つか研究を重ねてきましたけれども、結局、この「平均的な損害」を基準としたというのは、確かに客観性は担保されると思うのですけれども、結局のところ問題なのはその賠償額の予定額が消費者にとって負担として重過ぎるということなのであって、従来の公序良俗、暴利行為で争われてきたこの種の賠償額の予定条項の場合には、それが課題かどうかというところで判断をされてきていたと思います。それをなるべく明確にしようということでこの「平均的な損害」という文言を付け加えたと理解しておりますが、ただ、その結果としてこういう「平均的な損害」はそもそも消費者が算定するのは難しいとか、あるいは何をもって平均とするのか、逸失利益を含むのかどうか、そういうことに結局論点が収れんしてしまったという印象を持っています。これをここで言っても致し方ないことだと思いますが、本来の趣旨というのは、この「平均的な損害」を超えるかどうかで争うということではなく、それが消費者にとって過大かどうかということなのではないかと思います。
ですから、私としては、この金額だと消費者にとっては過大過ぎると。それに対して、事業者の側では、これは別に過大ではなく、うちの会社に生じる損害の額を全然超えてないのですよという形で反証できる形にするというのが、本来の理想的な姿だと私個人的には思っています。このペーパーを拝見して、私がどちらがいいかがまだ全然まとまっていないというのは、はっきり言ってどちらでもないからということが一つの答えでございます。
ただ、これを今、ここで言っても仕方がないと思いますので、この12ページの(2)のような考え方が今のところは妥当ではないかと思いますが、ただ、これ以上「平均的な損害」だけでなくて、その他の例えば類似するかどうかとか、そういう方向で無駄なというか、争いを余り増やさないような形でしていただければと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
御意見はよく分かりましたけれども、もう既に取りまとめの段階に入ろうとしているところでして、平均的損害の要件自体を変えてしまうというのは意見としてはありますけれども、それはこの場では抑えていただいて、現行法を前提として、そこで出てきている問題を克服し、少しでも改善するためにはどのような提案がよいかという観点から、推定規定を置くという提案に反対はしないという意見を述べられたものと受け止めさせていただきます。
他に御意見があれば、お願いします。
長谷川委員、続いて丸山委員、お願いします。
○長谷川委員 ありがとうございます。
発言時間が長くなりますということをあらかじめ申し上げておきたいと思います。
大きな固まりとして3つのことを申し上げたいと思います。1つ目は資料の書きぶり、2つ目は今後更に検討が必要ではないかと考えることに関するもの、3つ目は今回の御提案についてということでございます。
まず1つ目の資料の書きぶりについてです。先ほど事務局のほうから11ページについて御説明がありましたが、最初のパラグラフで消費者契約法第9条第1号の趣旨を書かれていて、これはそのとおりだと思うのですけれども、その下に、この趣旨に照らせば事業者があらかじめ「平均的な損害の額」を算定した上でということが書いてある。さらに、11ページの一番下のパラグラフでも同様に、あらかじめ算定することが求められるといったようなことが書いてある。しかしながら法第9条第1号で「平均的な損害の額」以上のものの請求を認める必要がないと書かれていることと、あらかじめ「平均的な損害の額」を算定する義務があるということの間には、一定の距離があり、そういったことではないのではないかと思っております。
資料の書きぶりについてもう一点ございます。12ページの一番上の行で「このような状況に対しては」とあります。「このような状況」というのは何を受けているのかというと、恐らく事業者で平均的な額を算定していないということを受けており、何らかの手当てが必要ではないかということを書かれているというように文理上読めるわけでございます。しかし、今回手当てしようとしているのは、そういうことに対してでは恐らくなくて、正に12ページの(2)で書いてあるわけでございますけれども、立証の困難性に対してどう手当てしようかということなのではないかと思っております。
大きな2つ目ですが、先ほど磯辺委員からも座長からもいろいろ釘を刺されたところで申し上げにくいのですけれども、今後の検討課題に関して2点申し上げたいと思います。一点目は、既存の裁判例を更に分析してはどうかということでございます。今回、河野委員から本日配付された参考資料でも言及され、ここにおられる委員の方も多数関わっておられると理解しておりますけれども、消費者庁のほうで平成26年に「消費者契約法の運用状況に関する検討会報告書」が取りまとめられているわけでございます。しゃかに説法でございますが、この中で「平均的な損害の額」の裁判例が挙げられておりまして、全体で25の事例が挙げられていると理解しております。その中で少なく見積もっても半数以上は消費者側が勝っている状況になっていて、この率は消費者本人、要するに、適格消費者団体によるものを分母から除けば、一部勝訴も入れて更に8割近くに勝訴率は上がると理解しております。こうした事案でどのような訴訟指揮が行われたか、あるいはどのような資料が出されたかも含めて十分に検討してはどうかと思っているところでございます。
今後の検討課題に関して2点目でございます。前回のヒアリングあるいは磯辺先生からのプレゼンテーションでもあったところでございますが、前回のヒアリングでのKC’sさんからの御報告では、「平均的な損害の額」の事例だけではありませんけれども、100件以上事業者と交渉して訴訟に至っているのは9件だということでございました。磯辺委員からも110件超交渉して80件程度は不当条項が改善されていると伺っております。つまり、裁判の「平均的な損害の額」の立証云々という限界的な局面の前に、実質的に法第9条第1号が機能していて、それなりに改善がなされている部分があるのではないかと思っているところでございます。これは場合によっては、違っているかもしれませんけれども、先ほどの大澤委員からの消費者にとって過大かどうかというところと関わるような気もしますけれども、どういうようにこの条項が実態として機能しているのかということも検討が必要だと思っております。もし仮に法第9条第1号が実は実効的に機能しているのだということだとすれば、今回の御提案のように民事法の原則を修正してまで対応すべき事態がどの程度あるのかということについてきちんと検討すべきだと思っております。
最後は今回の提案についてでございますけれども、2点ございます。1点目は何人かの委員の方がおっしゃっていますが、今回の文言でどの程度経験則が働くようになったのかというのは必ずしも分からないところがありますので、その点については、もしイメージがあれば教えていただきたいということです。もう1点は、今回租税特別措置法が資料の15ページに引用されておりまして、後ろのほうは移転価格についての文言かと思いますけれども、これには「同種の事業」というものが書いてあるので、消費者契約法においても「同種の事業」と「事業規模その他の事業の内容が類似する」というのは両方かかるような文言のほうが望ましいのではないかと思っているところでございます。
以上でございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
丸山委員、お願いします。
○丸山委員 今回の提案に関してですが、平均的損害というものが「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」という、そこの定義が変えられないということを前提とするのであれば、現在の状況だと、消費者にとってはその損害の額というものを証明するのは非常に困難だとは思います。したがって、推定規定という形での手当てをしていく方向性には賛成したいと思います。
ただ、やはり懸念点というか留意点があるのではないか。この辺りは大澤委員とも共通する感触を持っております。こういった手当てがなされることによりまして、例えば同種の業界全体で過大な損害賠償額の予定というものが置かれるようになっては、これは困るということがございます。解除があっても節約費が非常に多いとか、損害のカバー取引が可能であるという場合であるにもかかわらず、例えば前払いの報酬というものを一切返却しないみたいな、そういったひどい例というものが見受けられる状況でございますので、こういった推定規定というものを置くのと同時に、そういった過大な損害賠償の予定条項を置いているような場合については、10条というものを活用して全部無効を考える、あるいは、これは今後の課題とならざるを得ないと思うのですけれども、そういった過大な損害賠償額の予定条項については、平均的な損害の規律と並んで、その類型についても別途手当てをするといったことも考えられていいのではないかと、そういった感想を持っております。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
山本健司委員、お願いします。
○山本(健)委員 御説明いただきまして、ありがとうございました。
前回の五條弁護士と井田委員の御報告から、9条1号をめぐる交渉や訴訟では、少なくない事業者が、自ら規定した違約金条項の算出根拠や平均的損害との関係を説明しない、違約金の合理性を裏付ける証拠を開示しないといった対応を行っている実態が明らかになったと思います。また、現状のままでは事業者に証拠開示のインセンティブが働かないというもっともな御指摘もございました。実務上、立法において立証や証拠開示のルールを規定する必要性は極めて高いと思われます。
この点、日弁連は元来「立証責任の転換」を提言しており、それと比較すれば、前回の「同種の事業を行う通常の事業者」ないし今回の「事業の内容が類似する事業者」に生ずべき平均的な損害の額を立証した場合には、その額が「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」と設定される趣旨の規定を設けるという在り方は不十分なものではありますけれども、業界標準よりも高額な違約金条項を使用している事業者に対しては立証負担の軽減につながるという点で、現状よりは一歩前進であると考え、そのような取りまとめに賛成いたします。
ただ、「事業規模その他の」という例示を入れることについては、事業規模が同程度であることが推定の必須の要件であるかのような誤った理解や不適切な運用を招来する恐れがあるように思われますため、消極意見です。
もともと推定規定の考え方は、14回会議の資料1の61ページでも記載されていたとおり、標準約款の存在が不可欠な前提ではないものの、もし標準約款がある場合には、多くの事業者がそれに従っているのが通例と言えるので、標準約款で定める額が「同種の事業」を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害であると言うことができると考えられるといった実務運用を念頭に置いていたはずです。また、業界のビジネスモデルを踏まえた違約金条項を規定した業界横断的な標準約款があるといった場合が、このような推定規定が最も機能する場面ではないかと思います。その点、種々の業界の標準約款においては、必ずしも事業規模による差異を設けてはおりません。事業規模という要素は、個々の事業者の反証を基礎付ける要素と位置付けるべき場合も多い考慮要素であり、推定自体に必要な要素として過度に重視するのは不適切ではないかと考えます。そこで「事業規模その他の」という記載を入れない形での立証責任の推定規定を設けるという取りまとめに賛成いたします。
なお、このような推定規定を設ける場合、実務に「業界の標準約款よりも過大な違約金条項しか無効にならない」といった誤った理解が広がらないよう、業界の標準約款自体が別途に9条1号違反や10条違反になり得るということは、逐条解説で明らかにされる必要があると思います。
あと、業界の標準約款自体が高額な違約金条項を定めている場合に関して、この推定規定は有効に機能しない、その場合にどう対応するのかという問題があると思います。とはいえ、立証責任の転換という考え方がコンセンサスを得られておらず、証拠提出を促す制度についてもまだ検討すべき点が多いという状況かと思います。その点、平成29年の改訂で消費者庁の逐条解説の118ページに新たに記載が付記された、法第3条第1項の情報提供努力義務の規定の「趣旨に照らすと、事業者と消費者との間で『平均的な損害の額』が問題となった場合にも、事業者は消費者に対して必要な情報を提供するよう努めなければならないと解される」という考え方を、推定規定と併せて、せめて法文化することはできないものだろうかと考えております。御検討いただければと思います。なお、この逐条解説における「必要な情報」という記載部分に関しては、五條弁護士の御報告などで、具体的には、違約金の算定方法及びその根拠資料がその中心であるということが明らかになったように思います。今回の議論を踏まえた記載の具体化ないし例示を併せて御検討いただきたいと思います。
以下、立証責任に関する立法の在り方という問題の周辺部分に関する意見ないし希望を、少し長くなりますが、続けさせていただきたいと思います。
まず、継続検討の必要性です。
9条1号については利用の多さ、運用上の難しさ等から、今後も法改正に向けた継続検討の必要性が非常に高い条文であるということを、報告書に記載していただきたいと思います。
次に、「平均的な損害」の意義ないし判断基準に関する検討の必要性です。
9条1号については、平均的損害の意義や判断基準に関する踏み込んだ検討が必要であると思います。本条号の本来の趣旨は、契約終了時に事業者の不当な焼け太りを許さないというものであったはずです。未提供の役務や商品に関する履行利益を損害に加えることを認めることは、本来的な法の趣旨に反する帰結であるように思います。この点、改正民法の消費貸借契約において目的物交付前解除時や期限前弁済時の損害賠償請求権を定めた規定について、国会の審議で、損害が現実に認められる場合についての規定である、資金を転用する可能性が高いことを踏まえれば基本的に損害は発生し難いと考えられるから適用場面は限定的である、その点を弱者保護の観点から周知する必要があるといった議論がなされていると議事録で拝見しております。消費者契約法9条1号の平均的損害の議論においても、類似の議論が妥当するのではないかと思います。そのような観点からの詰めた検討が必要であると思います。
最後に、事業者への再度の周知と業界等での自主的な対応の必要性です。
前回の五條弁護士の指摘にもございましたけれども、消費者契約法の立法時に、9条1号で平均的損害を超える違約金規定は無効となることが明定された際、当然に、その効果として、各企業や各業界で、個々のビジネスモデルに照らした平均的損害の検討とそれを踏まえた違約金規定の確認ないし見直しが進むこと、それにより違約金条項の適正化が自主的に図られることが期待されていたと思います。それが義務とまで言えるかどうかはともかくとして、そのような対応が期待されていたと思います。
ところが、実際には、そのような自主的な取組は限定的ではないか、少なくとも多くの企業がそのような取組を終えているという状況ではないのではないかと思われます。学納金も集団訴訟を提起されて初めて見直しがなされました。集団訴訟の序盤では、学納金全額が大学生の地位の対価であるといった主張がなされておりましたけれども、最終的に入学金部分だけが大学に入学し得る地位の対価であるという契約解釈に落ちついたという経緯でした。有料老人ホームの入居契約における入居時前払金の初期償却についても、消費者委員会の建議や法改正などの外的要因から本格的な見直しが開始されたと聞いております。
思いますに、「消費者契約でキャンセル料や解約違約金の条項を定めるに当たっては、あらかじめ平均的損害を検討しておかないといけない」「さもないと契約条項が無効になる」ということや、それを踏まえた対応の必要性に関する事業者への周知や実際の対応が必ずしも十分ではないのではないでしょうか。そのような事前対応ができていれば、仮に適格消費者団体から違約金規定の合理性について疑義を呈された際にも、自社の定めた違約金について、算定方法とその合理性に関する説明と根拠資料が速やかに提示できるはずであるように思います。
消費者庁、各種業界を監督・指導している官公庁、業界団体においては、「消費者契約でキャンセル料や解約違約金の条項を定めるに当たっては、あらかじめ平均的損害を検討しておかないといけない」「さもないと契約条項は無効になる」ということや、それを踏まえた自社の違約金規定の確認について、いま一度周知すること、違約金規定の確認等の対応を促すことが必要ではないかという気がいたします。業界によっては、特商法の特定継続的役務提供契約における中途解約時の違約金の上限規定のように、キャンセル料につき「金○円」「○カ月分の料金」「○%」といった上限規定や目安金額を検討することも有用ではないか、そうすることによって適格消費者団体からの無用な団体訴訟を提起されるリスクも低減できるのではないかと思います。
立証責任に関する法改正の問題とは次元を異にした問題となりますが、法改正という対応とは別個に、9条1号をめぐる紛争の削減という観点から、そのような行政や業界の対応も検討されてよいのではないかと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があれば、お願いします。
後藤巻則座長代理、お願いします。
○後藤(巻)座長代理 私もこの推定規定を置くという立場に賛成いたします。制度的に促す考え方というのは、この資料の14ページに書いてありますように、将来的な方策として位置付けられるということで、とりあえず何の手当てもできないということに、現時点でなると思います。そういうことに比べれば、先ほどから出ております「同種の事業」や「類似の事業」、そういうところで訴訟になったときに時間が掛かってしまうのではないかとか、そういう御指摘もありますけれども、その場面である程度時間を取られるということがあったとしても、一歩前進ということで推定規定を置くということを現在考えたほうが望ましいと思います。
推定規定を置くということは、より積極的な意義もあると考えておりまして、先ほど丸山委員からも出ましたけれども、9条と10条の関係というのは考えていく必要があると思っております。特に、対価保持条項、対価の不返還を定める条項という性格を持つものについては、10条の問題であるというような考え方も学説上あるわけですけれども、消費者庁が先ほどの資料の中で、今インターネットのWebサイトに載っている最新の逐条解説の部分ですけれども、本来的には事業者が損害賠償の額を予定し、または違約金を定める条項を定める際には、あらかじめ「平均的な損害の額」を算定した上で、その額を超えない範囲において定めることが求められる、こういう記述があるわけであります。この点に対して、先ほど長谷川委員からも疑問というお話があったわけでありますが、そのことも含めて、対価保持条項の場合にもこういう言い方がどこまで当てはまるかということを考えていくというのは、今後の消費者契約法の歩みにとって重要だと思います。
私は9条1号の適用範囲というものを考えていく際に、先ほどの消費者庁の今回新たに追加なさったここの部分は非常に大事な視点だと思っておりまして、逆に言うと、もともと「平均的な損害の額」というものを、賠償額の予定、違約金条項として、事業者側が本来的にはその水準を定めるということが当てはまらないような場合には、むしろ9条の問題から外すという方向も出てくるのではないかと考えます。そういう意味からいうと、ここで推定規定の立法を置くということは、そのような方向性を考えるということを促すという点でも、積極的な意味があるのではないかと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
磯辺委員、お願いします。
○磯辺委員 9条1号の平均的損害の在り方については、幅広く更に研究するということは必要だと思いますし、その中から運用状況を踏まえて適切な規定ぶりをどう置くかというのは、改めて広く検討する課題があるのだということは認識しつつも、当面のところは推定規定により立証の困難を緩和する考え方を是非採用していただきたいと思っております。
従前も一度御紹介したところなのですけれども、ある美容医療の医院の解約損料について、当初はキャンペーン価格を適用した場合には一切返金しないとされていたものが、私どもの9条1号の申入れで、一定の解約水準が示された。ただ、その解約水準についても、相当期間前から解約料が発生する規定になっておりまして、結局、私どもは同じ個人経営の美容医療院で、主な施術が似通っているところに複数件ヒアリングをしまして、業務の実際の進行状況をお伺いして、どういったタイミングであればどれくらいの損害が発生するのだろうかというお話を聞いたわけです。
そのことで、具体的な実務上のこういった進行状況であれば、そんなに損害は発生しないのではないかということをお示ししたのですけれども、残念ながら、そこまで言うならば、具体的なキャンセル規定をそちらで作りなさいというような御返答であったり、もしくは私どもが一つ一つ指摘した範囲についての業務の実施状況については当院の事実とは異なるという反論があったりしただけで、どうしてそういうキャンセル料の水準になっているのかという御説明はいただけないままだった。しかし、やはり立証責任の問題があり、一旦その状況で、消費者の苦情も減っていたものですから、今後の推移を見ましょうということで終了した事案があります。設けられた新たなキャンセル規定が、同業種の業務進行状況から言うと、消費者にとって不利益なものと考えられたわけなので、どうしてそういう額になったのか、そのことをきちんと証明してほしいなという気持ちは引き続き持っておりまして、そういった事例にこういう推定規定を置いていただくとぴったり当てはまってくるなと思っております。
長谷川委員からありました9条1号で相応に改善されている例があるのではないかということなのですが、それはそのとおりでして、9条1号を論拠に過大な違約金ではないかということで条項が改善されるという例は多くあります。ただ、結局先ほどのお話もそうなのですが、最初の契約条項が一切返金しないとか、明らかに過大な違約金であったという場合で申入れをしたときに、どういった改善がされるかというと、例えば「実際に事業者に生じた損害は消費者に負担してもらいます」というような非常に抽象的な規定になって、具体的に違約金がどの程度の水準になるのかということの予見性が逆に低くなってしまう。本来、約款の意味からすると、平均的損害を振り返っていただいて適切な水準を示していただいて、その内容を説明していただいて改善事項としていただくとありがたいわけです。しかし、そこにまでは至らずということで、そうすると、今度はまたその文言をめぐってさらに私どもが立証できるだけのものがあるかということになるということになりますので、非常にそこは悩ましい決着の仕方をしているものが多くあるということです。キャンセル規定自体が具体的に設けられたとしても、それが妥当なのかということについてはなかなか十分な確信が持てないまま終了せざるを得ないものもあるというのも事実ですので、その辺、立証の困難を緩和する方法が採用されれば、同種業種の他事業者の状況なんかも例に出しながら、更に協議ができるのではないかと、そのような経験をさせていただいております。
とりあえず、以上です。
○山本(敬)座長 河野委員、お願いします。
○河野委員 前回の井田委員と五條先生の御報告を伺っていまして、私は消費者として暗たんたる気持ちになりました。9条1号で消費者に対して担保されている権利が、2人の御報告を伺いますと、今日の事務局提案の11ページにもございますが、規定が置かれた趣旨が必ずしも全うできていない状況にあるということを改めて自覚したところでございます。本来でしたら、やはり消費者契約法の趣旨にのっとって、情報は全て事業者の方が持っているのだというところで、立証責任の転換を本当に望みたいところでございます。13ページに示されているスキーム案は2つしかございませんが、本当にその大前提として、立証責任は事業者側が負うという形を望みたいところですが、一方では、最高裁判例というものがございまして、これは事実として受け止めなければいけないと思っております。
ただ、先ほど大澤委員が言ってくださったように、この9条1号というのは、契約したものの中途でいろいろ問題が起こり解消しなければならなかったときに、消費者側が事業者側に賠償金を支払う際に、支払わないと言っているわけではなくて、適正額を支払いたい、つまり、納得して支払いたいということだけなのですね。納得する金額を示してください、それをお支払いしますよということなのです。是非、そのことを事業者の皆さんにしっかりと分かっていただきたいと思っています。
今日の説明資料の11ページに、先ほども御意見がありましたけれども、2パラのところですね。「規定の趣旨に照らせば」というところで「本来的には、事業者が、損害賠償の額を予定し又は違約金を定める条項を定める際には、あらかじめ『平均的な損害の額』を算定した上で」と、これは事業者が求められていることなのです。さらに、次のパラグラフの最後のところ、「その趣旨に照らすと」というところで、これは法3条の努力義務のところなのですけれども、「事業者と消費者との間で『平均的な損害の額』が問題になった場合にも」と書いてありますが、「には」だと思います。「事業者は消費者に対して必要な情報を提供するよう努めなければならない」と逐条解説に書いていただいています。この辺りを、法規制といいましょうか、それももちろんなのですけれども、事業者側がしっかりと自覚していただきたいということでございます。
今回の御提案、私も次善の策として事務局提案に賛成したいと思います。多少文言等の問題がありますので、その点は紛争解決の現場で混乱が起きないように、本来の争点からずれないようにということで、有識者の皆さんの御検討に任せたいと思いますけれども、是非本質的な法が何を目指しているのかというところは、しっかりと確認の上、今回の議論に臨んでいただきたいと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
山本和彦委員、お願いします。
○山本(和)委員 まず(2)の推定規定についてのコメントですけれども、前回のものに比べれば、恐らく「同種の事業」ということに比べれば「事業の内容が類似する事業者」ということになれば、その損害のコスト構造等の同一性というものが、より経験則上認められると言えると思いますので、経験則による支えは強化されたと見ることはできるのではないかと思います。
何人かの委員から、この論点が事業の内容の類似性ということにずれるのではないかという御指摘がございました。ただ、我々が教室で教えているのは、法律上の推定というのは基本的には論点をずらす技術でありまして、要証事実を転換することによって、証明責任を転換するということです。問題は、ずらされる要証事実が、当初の要証事実よりも立証が難しいか、あるいは同じぐらい難しいようなことであれば、余りそういう推定規定を作る意味はないということになります。あるいは、委員が御指摘されたのは、そういうことなのかもしれません。ただ、当該事業者の平均的な損害額を直接立証するよりも、類似する事業者の平均的損害額を立証するほうが相対的に容易であれば、推定規定を作る意味はあるのだろうと思っておりまして、私は訴訟の現場を知りませんからよく分かりませんけれども、そういうことであれば立法事実といいますか、合理性は支えられるのではないかと思います。
(3)の点ですが、これも委員の皆様は先の問題でいいということのようですので、ここで私が論評する意味は基本的にはないのかもしれないので、やめておけばいいのかもしれませんけれども、やめると忘れてしまいますので、一応考えてきたことを申し上げます。
私は前回のヒアリングを聞いて興味深かった点は幾つかありますけれども、一つは釈明等の対応が裁判官によってまちまちである。しかし、積極的な裁判官が対応すれば、それなりに事業者のほうは資料の提出に応じているようだということがありました。これを前提にすれば、一つの考え方としては、現在裁判官の訴訟指揮というのは、一般の釈明義務、釈明権の行使のみによって支えられていて、これは通常の民訴でも裁判官によってまちまちだということは私もよく承知していますので、それはそれに任せておけばまちまちになるのだろうと思います。ですから、裁判官を積極的にさせるためには、もう少し裁判官の背中を強く押すような何らかの規定というものがあっていいかもしれないと思いました。
参考になりそうな規定としては、これは前のときにも申し上げたかもしれませんが、特許法の具体的態様明示義務というものは考えられるのではないか。これも方法の特許を取ったような場合に、同じようなものが生産されているのだけれども、相手方がどういう工法でそういうものを作っているのかというのは分からない。だから、特許侵害を主張したくても、なかなか主張立証が難しいというときに、その方法の特許に違反しているのではないかということを主張された場合に、相手方は単純にそれを否認するだけでは駄目で、自分がどういう方法で、特許が取られているのとは別の方法で生産しているのだということを説明しなければならないという義務です。
私はこれまでずっと皆さんのお話を伺っている限りでは、状況はかなり似ているのではないかという気がしておりまして、そうすれば、例えばこの相手方が損害を否認するときは、相手方は自己の損害額の具体的な内容を明らかにしなければならないというようなルールです。特許法にはただし書が付いていて、ただし、明らかにできない相当な理由があるときは、この限りでないという条文が付いていますけれども、何かそういう規定は考えられないか。それによって、裁判官の背中を多少でも押すことはできないか。これは先ほど山本健司委員が言われた考え方とも近いかもしれませんが、そういうことは考えられないか。
もちろん、これは相手方がそれに応じなかった場合の制裁の規定というものは特許法にもなくて、だから、弱過ぎるのではないかという議論があるわけですけれども、これを私が毎回言っている事案解明義務の一つの表れであるとすれば、その事案解明義務に違反した場合の一つの効果として立証責任を負っている者の証明度を軽減するということも主張されています。それを規定に表そうとすると、前回河上委員長が言われたような相当な損害額を裁判官は認定する権限を付与すると。民事訴訟法248条も通説的には証明度の軽減の規定だと言われておりますので、そういうようなことを効果として規定するというところまでいくということは、あるいはあり得るのかもしれないとは思います。ただ、他の分野での規定のバランスということを考えたときに、そこまで書き切るということが現段階で果たしてできるのだろうかということは思います。
もう一点、営業秘密の問題で、これも前回のヒアリングで、この必要となる資料というのがかなりの程度営業秘密と関わる部分が多いということは非常によく分かったところです。この解決策はなかなか難しくて、前に特許法の規定などで秘密保持命令というようなことも申しました。ただ、前回伺っていて思ったのは、第三者に対して秘密が開示されるという部分は訴訟記録の閲覧等制限決定という民事訴訟法の中に既にある制度で、一定程度外に流出することは担保できる。問題はそれを知った相手方がどこかに漏らすのではないかということだと思うのですが、ただ、適格消費者団体などは、差止め等関係業務等で知り得た情報については、基本的には秘密を保持することになっていて、それを消費者庁が監督する仕組みになっています。そういうことを考えると、少なくとも適格消費者団体、あるいは特定適格消費者団体が原告となるような訴訟については、何らかの工夫ができないだろうか。それは、要するに消費者団体訴訟か、消費者裁判手続特例法上の手続、訴訟ということになりますが、その中で何らかのそういう形での守秘を保証することによって何らかのそういう営業秘密が関わるものついても、それを出させるような仕組みの工夫、これも文字どおり将来の課題だと思いますが、そういうことは考えられないだろうかということを思いました。
ただ、最初に申し上げたように、私がこうしろともちろん言っているわけではなくて、忘れないようにということです。
○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。
いずれにせよ、忘れないように、報告書に何らかの形で取り込むようにしていただければと思います。
長谷川委員、お願いします。
○長谷川委員 何ども申し訳ございません。2点ございます。1点目はお礼でございまして、磯辺委員から貴重な事例を御紹介いただきまして、ありがとうございます。それを踏まえて検討すべきだと思います。
2点目は、先ほどこの推定規定が入った場合、「事業の内容が類似する事業者に生ずべき平均的な損害の額」を証明するために、業界の標準約款が使えるという話が出たかと思います。いろいろな業界があるのだと思うのですが、業界によっては、特に許認可の対象となっている約款はそうだと思いますけれども、かなり保守的に違約金等を定めているところがございますので、それが「平均的な損害の額」だということでは必ずしもないのではないかと思っております。そういう場合もあるとは思うのですけれども、業界の標準約款に定めた損害賠償の額がイコール「平均的な損害の額」ということを今の文言が含意しているものではないということを確認させていただければと思っております。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。
磯辺委員、お願いします。
○磯辺委員 それで、推定規定により立証の困難を緩和する場合の規定の置き方なのですけれども、「事業の内容が類似する」ということで今回御提案があり、更に「事業規模その他の事業の内容が類似する」ということで、考慮要素の明示をしてはどうかということも考えられるという提案になっているのですが、これは事業規模というものが、必ずしも平均的損害とリンクする場合としない場合とかと、業種によってあり得るのだと思います。そのようなことも考えますと、あくまで例示なのだというお話なのかもしれませんけれども、余り平均的損害の推定のために事業規模を必ず示さないといけないとか、そういったことにはならないようにする必要があろうかと思っています。もちろん事業規模が著しく異なる事業者ばかりを集めて類似だといって、しかもその損害の要因に事業規模が大きく影響するような業種だったみたいなことだと、そもそもその類似ということをどう考えたのかということが問われるということにはなると思うのですが、でも、必ずしも求められるものではないということは規定するときには留意していただけるとありがたいと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。
河上委員長、お願いします。
○消費者委員会河上委員長 遅れてきて申し訳ございません。
前にも申し上げたかもしれませんけれども、もし、この損害賠償額の予定に関する条項がなかったら一体どういうことになるかということを考えてみると、比較的問題が分かりやすいと思うのです。もしなければ、結局契約を解除して事業者が解除に伴う損害賠償をするという立場にあります。そのときは、当然ながら416条によって通常損害は何かということと、今回についての特別損害は何かということをそれぞれ立証して、その内容を請求していくことになります。それに対して、消費者側としてはそんな損害はないはずだと言って反論をするということになって、その間のやりとりのコストが大変だから、そうすると一件一件についてそのようなことをするよりも、この際、通常生ずる損害というものを賠償額の予定としてやっておきましょうと。420条はそのためにあります。ですから、当事者は生ずるであろう損害の内容を、より具体的に知っているとの前提があり、420条に対しては、裁判官は簡単には介入できないような仕掛けになっているわけです。
しかし、この仕掛けを使って事業者の側が一方的に過大な損害賠償の予定をしてしまったときには、これは消費者の側からそれはおかしいだろうと言えないといけないのですが、そもそもその額だったということの立証をしないと本来はいけないはずのことであって、それに対して消費者側がそんなに要らないでしょうと逆に言うという本来の立場に戻っていく話であります。ましてや、損害の判断材料は事業者側の領域に関するものです。
ですから、私は教室では最初からこの規定に関しては「ゼロの推定」が働きますという話で、損害額はゼロだという推定を働かせて、事業者には、そうではなくてこれだけかかったのですということを言ってくださいとやったほうがいいのではないですかという話をしているのです。そこまでダイレクトにいかなくても、先ほど話がありましたが、次善の策ですが、類似の事業者等々で出ている通常生ずる損害、平均的な損害というものがあるのであれば、それをまずは基準に据えて、そこからお互いに立証し合って正しいところを見つけてもらうというのは、次善の策としてはあり得る選択ではないかと思いますので、その意味では今回の案はないよりはいいという気がいたします。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。
少し論点を整理させていただきますと、9条1号そのものの当否の問題があります。それは、大澤委員だけではなく、何人かの方も間接的にあるいは直接的に指摘されているところでして、そして、現在生じている問題の多くは、9条1号がこのような定め方をしているところに由来しますので、根本的に問題を解決しようとしますと、9条1号をもう一度見直すということが必要になってくるかもしません。
しかし、それは、現時点でこの専門調査会において取り上げるべき論点ではありません。現在、取り上げるべき論点は、9条1号の規定を前提にして、立証困難という問題があるか、あるとしてその問題にどう対処するかです。このうち、立証困難から非常に困った状態が生じていることに関しては、とりわけ前回のヒアリング等を通じて、状況がかなりよく分かってきました。先ほどからの御意見を伺っていましても、立証困難という問題が現実に発生していないのではないかという御意見は出ていなかったように思います。その意味では、こうした問題自体は存在するということは共有されているのではないかと思います。
その上で、そのような問題があることを前提にして、改正によってそれにどう対処するかという点については、なお議論があったところです。資料ですと、14ページの(3)で、事業者による根拠資料の提出を制度的に促す考え方は、以前からも提案があったところですが、これについて今すぐ改正の手当てをすることはどうも難しそうであり、なお検討を要する。その検討課題は、先ほど山本和彦委員におまとめいただいたとおりでして、それは報告書に、何らかの形でまとめて、次に引き継ぐように残していければと思います。
そうしますと、現時点で残っている論点は、12ページの(2)の推定規定により立証の困難を緩和するという考え方、特に前回と異なり、「類似する」という表現にするという提案、ないしは、もう少し更に基準を具体化するという観点から「事業規模その他の事業の内容が類似する」という定め方をすることが、現時点で提案として出ています。
このような形で規定を置くことについて、賛成であるという御意見も多数ありましたが、これはなお問題があるのではないかという御意見が明確にどの程度出たのかはよく分かりませんが、少なくとも慎重に考える必要があるということを間接的に示唆される御意見もあったところです。しかし、この点は詰めませんと、改正の提案をするかどうかということが定まりません。この点は、なおこの場でもスコープを絞って議論していただきたいと思います。
同時に、もう一つは、仮に規定を置くとしても、先ほど長谷川委員からだったかと思いますけれども、単に「類似」だけでは足りなくて、「同種の事業」ということを付け加えて、それに「類似」が更に基準として付け加わってくる。前回は「同種の」ということのみを基準として挙げていましたけれども、これを完全に落とすのは問題ではないかという御提案がありました。そこで、「同種の」という限定を更に付け加えるべきかどうか。
もう一つは、「類似」のみとするのか、先ほどの「事業規模その他の事業の内容が類似する」とするのかということで、賛成される方もおられましたけれども、明確にこのような限定をするのは不適当であるという御意見もありました。ここも詰めませんと、提案することがそもそもできないことになります。限定する際のとりわけ大きな問題は、事業規模というものが明確にこの平均的損害の額を左右する要因ではないのではないか、その意味では、これを明示するのは不適当ではないかという御意見がありました。この点についても、更に検討していただきたいというところです。
いずれにしましても、全体として見ますと、証明困難に対処することが必要かどうかという点については、必要であるということにコンセンサスがあると申しました。ただ、必要であるとしても、今、出ている(2)の提案は、この問題を全面的に解決しようという提案ではないということも確認しておく必要があると思います。当該事業者と異なる他の類似する事業者について、より平均的損害を容易に確定できる場合がある。そのような場合であれば、この推定をするという限りで対応を行う。しかも、他の類似の事業者が定めている「平均的な損害の額」が、果たして本当に適正な額なのかどうかということも前提問題としてあって、それが不適正なものである場合にまでこの推定により、それに従っていれば当該条項は確定的に有効になると考えるわけではない。その意味では、この推定を置くことによって、全ての問題が一律に解決されるわけではなくて、部分的に、しかし、相当程度実践的な意味のある範囲で対応を行うという提案であるという位置付けも、確認をしていただく必要があります。
より根本的に対応を図るべきであるという御意見も出てはいましたけれども、現時点では、その提案が出ているわけではありません。留保をつけて、しかし、この限度でなお立法化を図るかどうかというところに絞って、もう一歩議論をいただけませんと、次の取りまとめでどう提案するかどうか定まりませんので、もう一歩御意見をいただければと思います。今の点に絞って御意見をいただければと思います。いかがでしょうか。
積極的に立法化を図るべきでないという御意見があれば、それを明確に出していただければと思います。そうでないと議論が前に進まないように思います。議論しにくい方向へ論点を持っていったかもしれませんが、もうこのような時期ですので、御協力をお願いいたします。
山本健司委員、お願いします。
○山本(健)委員 まず、立法化を図るべきであるという意見です。また、「事業規模その他の」という記載は無い方がいいという意見です。もっとも、もともと考慮要素の例示と思われますので、逐条解説等で「あくまで例示である。必須の要件ではない」ということが明記されるのであれば、「事業規模その他の」という記載の存否については、固執するほどの問題ではないのかもしれません。そのような意見内容です。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
磯辺委員、お願いします。
○磯辺委員 私も先ほどお話ししましたように、事業規模というのは例示としても余り適当ではないのだろうと思います。差止め請求の経験から解約時の平均的損害の議論をするときに、どちらかというと事業者の勧誘から契約締結、そして、その後の業務進行といったプロセスのほうが平均的損害に大きく影響すると思っていまして、例えばそこのプロセスに何か大きい投資をされている事業者は事業規模が大きくても平均的損害は大きいのですとおっしゃる場合もあります。そういう意味でいうと、余り事業規模というよりも業務プロセスのようなところに着目をするのだろうと思いますが、それも余り細かく要件化すると、業務プロセスというのはやりとりの中で初めて分かってくるので、あらかじめどういう事業者がどういう業務プロセスでということを示して類似だとまでは言えないというところがありますから、そこはおおむね「同種の事業」を営んでいて、「類似の事業」を営んでいてという観点でキャンセル規定は違うではないですか、だから、平均的損害を超えているのではないですかというところから始めさせていただくということが適当かと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。
大澤委員、お願いします。
○大澤委員 私が変なことを申し上げましたので混乱させて申し訳ないのですが、1点質問をさせていただきたいのですけれども、私はいまいち理解できていないところがあるのです。12ページなのですが、第33回では「同種の事業」というだけでは法律上の推定を支えるには十分ではないという指摘があって、それはそのとおりだったと思います。この「同種の事業」というだけでは不十分なので、その下のところにある「事業規模その他の事業の内容が類似する」というように考慮要素を明示すると書かれているのですけれども、これはどういう条文の作り方を考えているのかを確認させていただきたいのです。
要は「同種の事業に」という言葉を残しつつ、同種の事業性の具体的な例示として、事業規模とか事業内容の類似というのを考えているのか、そうではなく「同種の事業」という言葉自体はやめてしまうというか、それだと、ヒアリングでもありましたように混乱が大きいのではないか、含意が不明確であるということで、より具体的に事業規模を入れるかどうかはともかくとして、事業規模や事業内容の類似性といったものも要件とするという趣旨なのか、それを確認させていただければと思います。
○山本(敬)座長 それでは、消費者庁のほうからお願いいたします。
○消費者制度課担当者 この資料の提案自体は、従前「同種の事業」としていたところを、この「類似する」ということに置き換えた形で御提案させていただいておりますが、この点について、先ほど長谷川委員から「同種の事業」プラスこの「類似」という要件が適切ではないかというお話があり、先ほど座長からもその点について更に御議論いただきたいというお話だったかと思いますので、その御議論を待ちたいと考えてございます。
○山本(敬)座長 大澤委員、お願いします。
○大澤委員 後者の「同種の事業」でかつ「事業の内容が類似する」という見解は、それは単に限定するという趣旨だということは分かるのですが、ここでの同種というのは、例えば携帯電話や通信であれば通信業界ということで、特にその通信業界の中でも例えばスマートフォンを中心に行っているとか、そういうところで更に事業内容の類似性という形に限定するのかどうか。私自身は「同種の事業」というのと「事業の内容が類似」ということの言葉の違いというか、それを二重に置くことにより限定されるのかどうか、そこの意味合いが余りはっきりしないような気がしておりまして、それでしたら、もう「同種の事業」は使わず、端的に「事業の内容が類似する」という言葉のほうが、まだすっと落ちるところがあるのですが、いかがでしょうか。
○山本(敬)座長 もともとは税法の規定がこうなっているものをそのまま参照してはどうかということではありましたけれども、消費者庁からお答えがありますか。それとも、議論に委ねたほうがよろしいでしょうか。
長谷川委員、お願いします。
○長谷川委員 積極的に提案してこういったことを入れるべきだということで申し上げているわけではなく、また余り大した知見もなく申し訳ないのですが、税法も多分そうだと思いますけれども「同種」というと標準産業分類的な業種の違いをイメージするのだと思います。「類似」というのは分かりませんが、前回の議論を踏まえると、山本和彦委員も私も発言させていただいたかと思いますが、業者の大きい小さい、あるいは新規参入か老舗かどうかによってコスト構造等に違いがありますので、そのコスト構造等が比較的似ているという含意があるのではないかと認識しているところでございます。
その上で、今回税法の規定を参照してということだとすると、しゃかに説法でございますけれども、税法は担税力といいますか、要するに利益に着目しているのですが、今回議論になっている「平均的な損害の額」というのは、利益のほうではなくて支出のほうに着目すべき性格のものだと思っており、若干性格は違うのではないかと思っております。
また裁判例のことを言うと怒られてしまうのですけれども、2点あって、今の民法の損害賠償額の推定の規定というのは一体どのような運用がなされているのか。多分これも先ほど申し上げたような支出を踏まえて、使ったコストを踏まえて考えられているような気もいたしますので、もし御知見がある先生がおられれば教えていただきたい。また、その民法の規定と今回の推定規定との関係はどうなるのですかということも併せて教えていただきたい。
○山本(敬)座長 河上委員長、お願いいたします。
○消費者委員会河上委員長 民法に損害賠償の推定に関する規定というものは、基本的にはありません。むしろ、損害賠償というものについては、賠償する人間が通常生ずべき損害を立証して、それについて請求する。さらに、特別損害があればその特別損害を明らかにするという形でいきます。民法上、推定がよく働くのは、因果関係や過失のところでしょうか。
損害について推定をしないといけないというのは、恐らく具体的な額というのがなかなか見えてこないというような場合なのだろうと思います。それはもう経験則に従って考えるほかないわけで、これは通常の立証の中の一場面と考えたほうがいいと思います。
ここから先は、山本和彦先生のほうが詳しいということになります。
○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。
御質問の趣旨がやや図りかねたのではないかと思いますが、民法における損害賠償の規定がどのように運用されているかというのは、損害賠償の内容について質問されていたのではないかと私は受け止めました。そして、それに答えるとすれば、契約ですと、契約が履行されていれば得られたであろう利益、つまり契約を実現する方向での損害賠償が認められていることは間違いありません。ただ、実際の運用を見ていますと、それのみが認められているわけではなくて、無駄になった費用等、契約を清算する、つまりもとに戻す方向での損害賠償も、通常損害、特別損害でも予見可能であるという形で認められているケースがある。両方はもちろん取れませんけれども、どちらかを選択するような形で損害賠償は認められる。このようなことが実際には行われているのではないかと思われます。ですから、平均的損害の額も逸失利益を含めて考えるのか、それとも清算の方向で考えるのかということは、それと対応した問題になっているように思います。その意味では、どちらもそのような解釈の問題になっているとお答えすれば、先ほどの質問に答えたことになっているでしょうか。
○長谷川委員 私の質問のせいで混乱を招いて申し訳ありません。もし質問内容の整理ができましたら、改めて申し上げます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
それでは、先ほど私から御提案させていただいた問題に絞って、御意見を更にお出しいただければと思います。
大澤委員、お願いします。
○大澤委員 先ほどの質問の続きなのですけれども、趣旨はよく分かりました。「同種の事業」で「事業の内容が類似する」という重ねる場合の趣旨というのは「同種の」というのと他の文言の違いはよく分かったのですが、恐らく、私が今こういう疑問を持ちましたのは、この12ページの下から7行目に出ている文言が「事業規模その他の事業の内容が」という形になっていて、これは私の日本語の理解が正しければ、これは「事業の内容」というところに事業規模や、あるいはそのヒアリングなどで出ていた例えば参入時期とかコスト構造とか、そういうものが「事業の内容」という言葉で包括されているようにこの日本語を見ると読めるのです。
そこで言っている事業の内容というのは「同種の事業」とは違うということは今の説明でよく分かったのですけれども、ただ、こういう誤解をするのは私だけなのでしょうかということです。要するに「その他の事業の内容」という言葉の書き方で、こういう誤解を招くこともあるのではないか。仮に、そうだとすると、仮にこういう文言で推定規定を作るとしても、少なくとも逐条解説でそこでの事業の内容というのは具体的にどういう事業を営んでいるかということだけでなく、例えば適切かどうかはともかく規模の違いやコスト構造など、そういうものを含んでいる、そういうものを総合的に考慮するのですよということは示さないと、結局同種というところと事業の内容というのは、今、ここの専門調査会のこの場では私はお話を伺ってよく分かったのですが、条文としてもし作ったときに「その他の事業の内容」という言葉だと、今のお話を伺っているといろいろ含まれるようにも思えるのですが、それを明確にする必要があるのではないかという意見です。
○山本(敬)座長 分かりました。
山本和彦委員、お願いします。
○山本(和)委員 私もちょっと覚えていないのですが、前回発言したのかもしれないと思うのですが、私自身の頭の中には、この「事業の内容が類似する」というのは「同種」の中を更に絞り込む概念として理解していたところがあって、事業の内容が類似するにもかかわらず、事業が別の種類のものであるということは、私は余り思い浮かべていませんでした。
その内容については、事業の種類だけではなくて、先ほど長谷川委員が言われたような規模の問題もあるでしょうし、どれぐらい長くその事業をやっているかということもあるでしょうし、そういうもろもろの事柄を、今、大澤委員が整理されたように総合的に評価して類似するかどうかということが考えられるような概念なのかとイメージをしていましたので、そう考えると、この「同種の事業」を別分けに取り出して「同種の事業」で「事業の内容が類似する」というようなことは必ずしも必要ではないのではないかという認識を私自身は持っていました。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
中村委員、お願いします。
○中村委員 私も結論的には同じようなことなのですけれども、表現の仕方をどうするかということは最終的な検討だと思うのですが、趣旨としては、例えば私どもで言うと、小売業でございますので、大きな店を構えて従業員をたくさん抱えているような企業と1人でトラックだけで販売をしているような企業とではコスト構造等が違うので、そういうところも踏まえた上での、同種だけれども似たようなコスト構造のというような趣旨ですので、そこに「同種」という言葉を入れるほうがいいのか、必要ないのかというところについては、そういう趣旨が全て包含されていればそれでいいのではないかと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 河上委員長、お願いします。
○消費者委員会河上委員長 恐らく、コスト構造の類似性や細かい分類をした上で平均的損害を出すというのは、消費者には無理だと思います。むしろ、やるのではあれば「同種の事業」をやめて、事業の内容が類似しているようなものを使ってまずは平均的損害を出していく。そこから後は、立証責任を転換していって、事実上の推定を使ってやっていくということにならざるを得ないでしょうから、最初の段階での立証の入口はできるだけ簡単なものにしておいて、その中でできる範囲で消費者は平均的損害というものを出すということで足りるのではないか。でないと、余り細かく切っておりますと、それに合うだけの材料を探すこと自体が逆に難しくなっていきかねないという気がします。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
磯辺委員、お願いします。
○磯辺委員 河上先生の意見に全く同感です。ですから、基本的に「同種の事業」といったときに、同じような種類の商品もしくは役務を提供しているということと、あとは販売形態、もしくは契約の締結の形態みたいなことですね。通信販売なのか、訪問販売なのか、店頭販売なのかといったぐらいで大体「類似」と言えるのではないかと思いながら、私は先ほどこのことを言い忘れましたので、すみません。
○山本(敬)座長 大澤委員、お願いします。
○大澤委員 私の言い方がよくなかったと思うのですが、私自身は、その「事業の内容」というところにそういうものを全部いろいろ入れたものを書いたほうがいいという趣旨で言ったのではなく、先ほど申し上げましたように「同種の事業」と「事業の内容」の違いがよく分からなかったので、要は、この「同種の事業」というものに尽きないものが、この「事業の内容」に入っているのですねということを確認させていただきたかったことと、仮にそうだとすると、今のようにいろいろな考慮要素を別に積極的に書くべきことがあるということを申し上げたかったわけではありませんので、それならば「同種の事業」という言葉は、私は個人的には要らないのではないかと思っています。
もう一点、関係することなのですが、今、河上先生からもお話がありましたように、結局消費者が「事業の内容が類似する事業者に生ずべき平均的な損害の額」をどうやって計算するのかというときに、これは細かい資料を手にするというのは難しいでしょうから、そうすると、例えば同じような業者でどういう約款が使われていて、その中で賠償額の予定額は幾らになっているとか、そういうものを入手して参考にするしかないのかなと思います。
ただ、そのときに、先ほど出ていた標準約款のようなものがあり得るのだと思うのですが、これはお願いなのですが、前に他の先生からも出ておりましたけれども、標準約款自体が、私自身、決して金額的に賠償額の予定として妥当とは言えないものもあるとは思っています。なので、標準約款で消費者がとりあえず類似する事業者に生ずべき損害額を算定する。これはもう仕方がないというか、それしか参考資料がないという可能性がありますので、これはこうなってしまうと思うのですが、そのときに、標準約款の額が絶対的であるかのような印象は持たれないような逐条解説等、要は、標準約款自体が9条1号の審査の対象に当然なり得るというか、そこまで書く必要もないですけれども、要は、標準約款に書かれているものでお墨つきを与えるかのような、そういう誤解を与えないようにはしていただきたいと思っています。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
大澤委員の今、おっしゃっている点は、先ほどからも御主張されているとおりでして、異論のないところだろうと思います。それはどう説明するのかというところはありますけれども、標準約款で定めれば、そのとおりやっていれば当然有効だということはあり得ないということは、ここで確認しておけばよいことだろうと思います。
御意見をいろいろとお出ししていただいていますけれども、もし他にあればと思いますが、いかがでしょうか。
山本健司委員、お願いします。
○山本(健)委員 要件としては「事業の内容が類似する事業者に生ずべき平均的な損害の額」としたうえで、事業の内容が類似しているかどうかについて、これまでの議論で出ているような、事業の目的ですとか、事業の態様、やり方とか、場合によっては規模などの諸要素を総合的に考慮して判断するのだということを逐条解説に書き込んでもらうということでいいのではないでしょうか。
○山本(敬)座長 ありがとうございます。
コスト構造が類似するというのも、コスト構造が同じであるとなっていきますと、恐らく、推定ではなく、反証の余地はなくなっていくと思います。つまり、この要件は限定すればするほど推定の問題ではなくなるという構造になっています。ですから、これはあくまでも推定の規定で反証の余地を残すということが規定の趣旨だということになりますと、この「類似」というのも、今、山本健司委員が指摘してくださったように、一定の要素を含めて総合判断することにならざるを得ないのではないかと思います。今の点も確認しておくべきことかと思いますが、その上で、このままでよいのかどうかということは、もちろん更に考えないといけない点です。
長谷川委員、お願いします。
○長谷川委員 ありがとうございます。
新しいことを申し上げるのではないのですけれども、要するに、先ほど河上委員長がおっしゃった消費者にとっての立証のしやすさと、前回議論があった経験則がどれだけ働くのかというのはトレードオフなのだろうと思うのです。どちらに重点を置いて考えるのかということは、価値判断なのかと思っております。
その上で個人的な意見なのですけれども、それを考えるのに、やはり実態は大事なのではないですかということは申し上げたいということでございます。
○山本(敬)座長 今の点は、実態というのは、どのような意味での実態でしょうか。
○長谷川委員 余り申し上げると議論をひっくり返すことになってしまうのかもしれないのですが、先ほど申し上げましたように、現に消費者側が勝っている事案はそれなりにあるわけです。それをどう考えるかも含めて、もうちょっと判例を読み込む必要があるのではないか。皆さんは読み込まれているのだと思いますけれども、実際にこの推定規定でどの程度変わるのかを考える必要があるのではないかという意味でございます。
○山本(敬)座長 河野委員、お願いします。
○河野委員 今の長谷川委員の御意見に対して、消費者側からしますと、裁判で勝っている事例は結構あるではないかとおっしゃいますが、最初に申し上げたとおり、裁判まで行き着かずに、つまり立証が困難であるから仕方がない、これを円満に終了するためにはこれだけ払わざるを得ないと払ってしまっている消費者が、実は氷山の下の部分があるわけです。そのことに注視していただきたいと思います。今回の推定規定は立証困難を少しでも緩和してくださるということですから、とりあえず入口のところの要件は広く広く取っていただいて、先ほど河上委員長がゼロ円でもいけるのではないかとおっしゃって、私も非常に力強く感じたところでございますけれども、そうではないとしても、こういったことで前向きに円満な終了ということを考えていただきたいと思います。
○山本(敬)座長 長谷川委員、お願いします。
○長谷川委員 誤解されたかもしれないので、2点申し上げます。まず1点目ですが、立証のしやすさと経験則というのはトレードオフにあるのだと思っているということを申し上げたのであって、条項そのものを入れるのに絶対反対だということを申し上げているわけではありません。ただ、条項の作り方を考えるときに、どれぐらい間口の広いものにするのかというのは、それの必要性との関係で議論すべきことだろうということを申し上げたということでございます。その必要性を議論するに当たっては、どれだけ困っているのだろうかという実態の把握が必要なのではないかという趣旨でございます。
もう1点申し上げますと、河野委員のおっしゃることはそのとおりだと思っております。適格消費者団体の皆さんも苦労されて訴訟されていますし、ましてや個人の消費者で裁判までやられるというのは相当大変で、そのようなことは余りないのだと思っており、裁判例に表れていないいろいろな事例があるというのはおっしゃるとおりだと思います。
他方で、事業者にとっても裁判で争っていくというのは相当なことだと理解しておりまして、これも繰り返しになるところがあるのですけれども、この条項の裁判における局面・立証責任の局面に限定して議論するのではなく、社会的に今の条項が果たしている意義をもう少し踏まえたほうがいいのではないかということを従前から申し上げているところでございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
磯辺委員、お願いします。
○磯辺委員 その点については、私も訴訟の中でこのことがどう機能するのかということを、まず十分検討していただいてということは当然なのですが、そういうことが実際に訴訟外の、裁判になる前の事案解決にどう貢献していくかという観点も非常に大切だと思います。
こういうように推定規定を置いていただいた場合に、やはり事業者サイドの対応としては、同種の事業者のものも含めて御考慮いただいて、自らも約款を見直していただくということも改めてこの機会に生じようかと思いますし、消費者や消費者団体からの問合せに対しても、できるだけ具体的に回答していくということで、そのための準備を進められるという効果も十分期待できるのではないかと思いますので、そういう意味では、訴訟になって平均的損害と聞いて初めて計算するのではなくて、あらかじめ事業構造等を見ていただいて、約款を作っていただく。そうすると、非常に透明性の高い予見性のある約款がだんだん増えていくと思っていまして、先ほどお話ししていましたように、9条1号でやっていても最終的には実際に個々の事案の損害に応じてみたいな条項になると、何のために約款の是正の活動をやっているのだろうかと思うものですから、そういったことが少しずつ変化してくるのではないかということを期待しています。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
効果としては、最初に後藤準委員だったかと思いますけれども、より効果的なのは、業界等で自主的な基準を作っていくということではないかということでしたが、このような規定を置くことによって、業界等において自主的にルール作りをすることを後押しするという側面が出てくるのではないかと予想されます。もちろん、それで定められる内容の当否は、次の問題として必ずあるわけですけれども、そのような取組を促していく関係に立つだろうということは予想されます。
更に御意見はございますか。
井田委員、お願いします。
○井田委員 要件の話をさせていただくのですけれども、私も山本健司委員も同様ですが、「事業の内容が類似する」ということでよいと思っております。類似性というのは、どのみち総合的判断にならざるを得ないということで、その中では、様々な要因を考慮して類似性を決めるわけなので、そこに例えば「事業規模その他の」という言葉が入ってしまうと、例示とはいえこの言葉が入った意味を考えれば、これを重視するべきではないかという理解もあり得るし、先ほどの磯辺委員の御意見のとおり、それが常に正しいことだとは思いません。類似性判断は「事業の内容が」ということで、例示を付けないほうがすっきりすると思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
「同種の事業」と更に入るかもしれませんが、「事業の内容が類似する」ということであれば、前回山本和彦委員が指摘された経験則の支えとして十分かということだろうと思います。例示があったほうがよいか、むしろないほうがよいかという点に関しては、ないほうがよいという意見も多数出ているところですけれども、やはりあったほうがよいという意見があればお出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。この辺りまで詰めておきませんと、次回に取りまとめができませんので、御協力をお願いしたいと思います。
中村委員、お願いします。
○中村委員 絶対にそうでなければならないという主張ではないのですけれども、何もなく「事業の内容が類似する」と言うと、若干漠然としているのではないかという感じがいたしまして、何らかの例示はあったほうがいいのではないか、その一つの指標として事業規模というのはあったほうが分かりやすいのではないかとは思います。
以上です。
○山本(敬)座長 長谷川委員、お願いします。
○長谷川委員 先ほど申し上げましたように、まず損害賠償なので、利益に着目するかのような要素よりもその支出なり、磯辺委員のおっしゃるところのプロセスなのかもしれませんが、仮に例示するとしても、そういったもののほうがいいと思っております。そういう観点で考えると、事業規模というのはいまいちピンとこない気はしております。
その上で、一般的に例示するのがいいかどうかについてですけれども、支出構造を表現するような要素というのがうまく例に出せないのではないかという感じもいたしますので、法文上は例示しないほうがいいのではないかと思います。その上で、先ほど大澤委員なり山本委員なりが幾つかの要素を挙げられていたかと思いますけれども、それを逐条解説等に書いていくということが考えられるのではないかと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
余り私が言うべきではないのかもしれませんが、支出構造という言葉が先ほどから出てきています。これを表すような要素を明文で書き出すとしますと、どのような影響が出てくるかということを考えますと、現在、平均的損害の意味については履行利益を含めるかどうかについて争いがある状況です。もちろん、逐条解説には一定の立場が書かれてはいますけれども、争いのある状況であることは、先ほど私も指摘したとおりです。ここで、支出構造と定められますと、履行利益よりはむしろ信頼利益等の原状回復に係る損害がここで賠償されるべき平均的損害であるということを示唆することになるかもしれないという印象があります。
その意味で、そこまで含めてよく考える必要があり、そして、今、にわかに一定の立場を採るようなことは避けたいというのであれば、事業規模はニュートラルかもしれませんけれども、例示をせずに「類似する事業の内容」と書くにとどめるということも十分あり得る方向性ではないかと思います。結論は、長谷川委員が今、示唆されたことと同じですけれども、私としてはそのような印象を持ちました。
増田委員、お願いします。
○増田委員 問題となるのは割と小規模事業者になるわけなのですけれども、事業規模ということを書いたときに、同規模の事業者でそういう額を提示しているようなところがあるのか、信頼できる事業者であるのかという点を考えると、非常に少ないのではないのかと思います。実際に使えなくなるのではないかと思うので、事業規模ということは書かないほうがよいと思います。
大規模な事業者の出しているものと違うのであるというのであれば、どういう点で違うのかということを御説明いただくということが順序ではないかと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見はございますか。出尽くしたということでしょうか。
磯辺委員、お願いします。
○磯辺委員 事業規模で考えると、例えば同一の大きな事業体であっても、いろいろな業務を営んでいらっしゃっていて、ある種の役務の提供の事業規模が分かるかというと、それは分からないということもあったりします。先ほどお話したように、どちらかというと事業規模が平均的損害に絡む要素は余り多くないのではないかとも思うものですから、事業規模の明示は避けたほうがいいなと。できれば、取扱商品とか販売形態とかで、そういった要素で類似のということで見ていただけると、消費者も比較的入りやすいのではないかと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
よろしいでしょうか。
消費者庁からお願いします。
○加納消費者制度課長 いろいろと御意見をいただきましたので、また私どものほうで検討させていただきたいと思います。
いろいろと、この消費者契約法の9条1号の平均的損害という規定の在り方がどうかとか、民法の規定との関係とか、いろいろ御示唆をいただきまして、そういった点も含めて考えないといけないのではないかと思いましたけれども、若干付言をさせていただきます。現行法のこの平均的損害という考え方自体が、ある意味、消費者の立証責任の緩和といいますか、条文においては、ある消費者契約があって解除した場合のキャンセル料はどうかということですけれども、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴って生ずべき平均的損害ということで、実は、同種という概念は、既に今の消費者契約法9条に入っておりまして、具体的に、ある事業者と消費者との間の個別の契約が解除されてどういう損害が生じたかということではなくて、その契約と同種の消費者契約の解除で通常生ずるであろう平均的損害額という範囲にとどめてくださいよということでこの規定を設けております。既に、平均的損害額という規定の中に、ある意味、一定程度の類型化をした上でそこで線を引きましょうという発想が出ている規定ではないかと思います。
この現行の9条1号については、いろいろと裁判もあり、相談で使われているということもあり、どう見るかというのはいろいろと御意見があると思いますけれども、学納金返還請求事件のように、かつての民法の規定だけでは学納金は返ってこなかったわけですが、消費者契約法が適用された後については返ってくるとなっておりまして、それなりに効果は生じている分野もあるのではないか、その裁判例を前提として、苦情相談でもいろいろ活用をしていただいているということもあるのではないかと思っておりまして、それなりに機能しているのではないかと私どもとしては見ております。
また、立証の問題についてもいろいろと難しい点はあるという点は前回のヒアリングでもそういう御指摘がありましたし、確かに事業者の内部の事情に関わるところが大きいですから、消費者がそれを立証するのは困難なことが多いのではないかと推測されるわけでありまして、そこに対する手当てというものは何らかしていく必要があるのではないかという認識は持っております。他方で、この9条1号の規定が全然使い物にならずに機能していないのではないかというと、それは必ずしもそうではなくて、機能している場合もあると思っております。
今の委員の御意見で、私なりに非常に示唆的だと思いましたのは、例えば現行9条1号が規定されている意味をどう捉えるかということで、山本健司委員などからでしたが、業界に対する周知をしっかりしていくとか、あるいは後藤準委員からもまずは業界団体ごとにきちんとしたルール作りをしていくということが必要ではないかと、こういった御意見をいただいておりまして、消費者政策を進めるという観点からは非常に示唆的ではないかと私としては思いました。
今回の資料の中で申し上げますと、11ページのところで、「4.検討」と書かせていただいておりまして、これはこれまでの私どもの提案や、それに対する委員あるいはヒアリングにおける御意見などを踏まえて整理し直したものでありますが、とりわけ大事だと思っておるのが、この2段落目であります。ここは長谷川委員からはちょっと飛躍があるのではないかという御指摘もあったところでありますが、本来的にはこうではないか。これを義務付けと見るかどうかは別にしてでありますが、損害賠償の額の予定をする。このこと自体は事業者として可能なわけでありまして、それは民法の420条の規定があり、河上先生からも御説明をいただいておりますけれども、その都度その都度損害を立証して損害賠償請求するというのはコストがかかるということを踏まえて、額の予定をするということは、これは民法が認めているというものであります。
ですから、それはそれでやっても構わないのですけれども、そこで勢いその額の予定が過大になってしまって、取り過ぎることがあるという実態を踏まえてこの9条1号が手当てされているわけでありますから、そういう9条1号の規定の趣旨に照らしますと、事業者も適当に損害賠償額を予定するというのは好ましくないのではないかと考えられるところであり、適当に決めておいて、後は裁判で結論が出ればそれに委ねるということになりますと、そこまでしないと適正な額が分からないということになってしまいまして、これは非常によくないと私どもとしては考えます。ですから、実はこの2段落目は、非常に重要な考え方ではないと私どもとしては思っておりまして、まずは、こういったことをできるだけ推し進めるということが政策的には重要ではないか。
他方で、それでは、この現行の規定自体、立証の困難性を緩和するということをどう考えるかということにつきましては、推定規定を設けるとか、あるいは14ページの(3)の資料の提出とか、こういった考え方もあったところでありますけれども、(3)のところは、山本和彦先生の御指摘のような考え方というのは非常に示唆的であり詰めなければならないと思いますが、特許法のような規定を設けるということを考えますと、それなり詰めた検討をしないと実現するのは率直に言って困難ではないかと思われます。
そうしますと、現実的な選択肢としては(2)をどこまで伸ばすかということではないかと思われるわけであり、ただ「同種の事業」というので、どこまで推定を正当化するだけの経験則の裏付けがあるのかという点は受け止めなければいけませんので、更にそれをもう少し正当化されるような概念として、「類似」ということで考えたものでありますが、この「類似」というものでいいのかどうか、さらにはそこにどこまで含ませるのかということで御意見をいただいたと思いますけれども、その点はある程度何らかの事例といいますか、実例といいますか、そういうものを想定しながら議論を進めないと実態から離れるといったことになるのを懸念いたしますので、その辺をもう少し詰めてみたいと思います。
この検討は率直に申し上げると、時間が掛かる可能性がありますので時間をいただければと思いますけれども、本日の御議論のすう勢を踏まえますと、このところをもう少し検討していくということではないかと私としては認識をいたしました。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
今の点について、御質問あるいは御意見等があればと思いますが、よろしいでしょうか。
後藤準委員、お願いします。
○後藤(準)委員 小規模企業の話が出ましたので、そこにだけ少しお答えをしておきたいと思います。皆さん御承知だと思うのですが、日本の大企業というのは、1万社ぐらいなのです。それから、いわゆる小規模企業という従業員が20人以下というのは、325万社ぐらいです。また、小規模に該当せず、かつ大企業になっていないところは、大体55万社から56万社ぐらいなのです。そうしますと、先ほどの比較で、大企業の1万社ぐらいのコスト構造を平均値として20人以下の小規模な事業者のコスト構造を同じだと言われても相当に無理がある話なのです。ですから、日本の経済において見れば、企業規模を全く無視し、同視するというのは少し乱暴な議論ではないかと思っております。そのため、比較する企業の対象については、企業規模も十分に加味した上で、「同種の」とか「類似の」という形に是非していただきたいと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
他に御意見があれば、お願いします。
長谷川委員、お願いします。
○長谷川委員 加納課長、御説明ありがとうございました。
従前の発言と同じことか確認させていただくのですけれども、今回検討している手当てというのは、消費者の側から見て立証の困難性を緩和するための措置という理解をすればよいのか。それとも、事業者があらかじめ平均的な損害額を算定していない状況に対して、政策的な必要性があり、そのための手当てであると理解すればいいのかどうか。繰り返しになりますが、中心的に議論してきた、あるいはされているのは、立証の困難性を緩和するための措置ではないかと思っております。
○山本(敬)座長 消費者庁からお願いします。
○加納消費者制度課長 もともとは、この9条の立証の困難を緩和するという問題意識の下でこういう議論が今までされてきたと認識しております。
ただ、それはそれとして、例えば前回のヒアリングで五條弁護士のお話などをお聞きしておりますと、要するに、事業者のほうで損害賠償額の予定をするのに根拠を持っていないのではないかと思われる事例があるという御指摘があり、そうかもしれないということがうかがわれたのではないかと認識をしておりまして、それを消費者政策の観点からどう評価すべきかということについて問われますと、それは好ましくないとお答えをせざるを得ません。それは9条があるということを踏まえると、それなりに根拠を持って事業者としては定めていただくのが本来の姿と思われますので、看過できないと私としては認識しております。そういう課題があるのであれば、それはそれとしてそれに対する手当てを政策的に考えないといけないのではないか。それに対してどうするかということでありますけれども、先ほどの繰り返しになりますが、山本健司先生がおっしゃったような業界に対するしっかりとした周知でありますとか、あるいは後藤準委員がおっしゃったような業界団体ごとのルール作りというものを推進するとか、これはこれとして必要な施策ではないかと考える次第であります。
○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。
長谷川委員、お願いします。
○長谷川委員 実態把握が十分かどうかということはあるのですけれども、要するに、今回議論しているのは、出口としては民事的効果を持つものについての規定をどうするかということだと理解しており、あるいは、その中の立証に係るところについてと理解しております。加納課長が今おっしゃったやわらかい行政手法的なことについて議論をしているのではないと思っています。
ですから、消費者庁として、行政目的を達成するためにそのような認識を持たれるというのはあり得ますし、消費者行政の推進のためにそういった取組を行われるのはあり得るのだと思うのですけれども、それを今回の消費者契約法の改正の議論と直接結び付けて議論されるのは、ちょっと違うのではないかと思っております。
○山本(敬)座長 大澤委員、お願いします。
○大澤委員 また混乱させたら申し訳ないのですが、この9条1号というのはそもそも不当条項リストなのであって、その意味では、もともとこの不当条項リストを消費者契約法に作った時点で、不当条項リストというのは一般に何のためにあるのかというと、それは別に紛争解決のためだけではなく、ここにリストアップされているような条項を、もう契約書を作る段階でこれは留意してくださいという意味があると私は思っています。これは日本だけではなくて、海外でもそういう認識で、いろいろな国で不当条項リストというのは設けられているわけです。
そうだとすると9条1号において、この平均的な損害を超える部分は無効としますというのは、これは別に裁判規範としてだけではなく、本来であれば今日11ページに書かれているように、事業者の側であらかじめ平均的な損害額を算定して、それを違約金の額の参考にしてくださいというのが、もともとこれは今回に始まった話ではなくて、消費者契約法の9条1号ができた時点で、これはそうだったのだと思います。ですから、それは新しく付け加わったとか、恐らくそういうことではないのではないかと思います。
ただ、現にヒアリングでもありましたように、実際には「平均的な損害の額」を全く考慮せずに賠償額を予定している事業者がいる。その結果、それが課題だということで消費者が訴えを起こしても、しかし、消費者はその平均的な損害額を立証するのが非常に困難なので、そもそも訴えること自体を諦めてしまうこともある。
なぜそういう問題が起きているのかというと、それは多分両方だと思うのですが、平均的な損害を無視するような賠償額を予定している業者がいるというのはもう一方であり、もう一方で、それをいざ裁判規範として9条1号を使うときに立証するのが困難であるというのがあるわけなので、そういう意味では、どちらかという問題では恐らくないでしょうし、ここに出ているあらかじめこういう損害額を算定してというのは、これはもともと消費者契約法にこの規定ができたときから当然ある話なのではないかと思います。その上で、現実的な問題として、ただ立証は非常に困難であるというところを議論しているのではないかと私は理解しています。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
余り私の理解を言っても仕方がないのですけれども、申し上げますと、現在9条1号があって、平均的損害が不当条項かどうかの基準と掲げられている。とするならば、今、大澤委員にも補足していただきましたけれども、条項を作る側においても、不当条項にならないように気をつけて条項を定めていくということが、一般的には要請されるし、そうすることが可能になっているはずである。それが十分に徹底されていないようなので、啓発等を通じて働きかけをしていくことは、恐らく現行法のままでも必要になっていくる事柄であり、むしろ現行法のままであればより一層必要になってくる事柄でして、それはいずれにせよ要請されることである。それが消費者政策として今回よく分かった重要なポイントであり、それは是非進めていただく必要があると思います。ここでどのような結論が出ようと、やっていただく必要があるということです。
ただ、ここでの議論の直接の対象は、途中から何度も繰り返し強調していますように、消費者側の立証困難の問題があるということにコンセンサスがあるとすると、それにどう対処するかでして、現在出ているのが推定規定による対処である。ただ、この推定規定は、これもまた途中で申し上げたつもりでいるのですけれども、これを置くことによって、他の類似の事業の内容を行っている事業者が平均的損害の額として一定のものを示している、ないしはそれが分かるという場合には、それが手掛かりになって、自分自身それと異なるかどうかということを考えて、損害賠償の額の予定を定める。その意味では、事業者側にとっても一つの目安を与えるというもので、少なくとも見直し促す重要なきっかけになる、その点では、全く無関係ではなくて、つながりがあるのではないかと理解しました。
その促す際の基準として、今提案されているような内容でよいのか、より適切なものがあるかというのが、先ほどから議論していただいたことだと思います。
丸山委員、お願いします。
○丸山委員 法文として、どういった文言が妥当なのか、慎重な検討が必要と思いますが、現在提案されている中では、余り例示というのを出さずに「事業の内容が類似する」と言葉で示す方向での法文化を考えたほうがいいのではないかと考えております。
そもそも9条1号の平均的な損害というのは、同じ一人の事業者でもいろいろな取引をしていて、同じ事業者でも例えばオーダーメード型の取引をしていれば損害が高くなることがあり得るし、定型的な多数相手に取引をしていれば、損害というのが低くなることがあり得ると思うのです。そう考えると、中小規模の場合でも、多数相手に定型的な取引をしていれば損害は低いといったことはあり得るので、事業規模ということが決め手になる場合もあれば、決め手にならない場合もあり得るのではないかと考えます。条文で余り拘束がかかるような書き方をするのは賛成しかねる状況でございます。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
よろしいでしょうか。
規定にするかどうかはともかくとして、事業規模等、今日の議論で挙がっていたようなものが有力な考慮要因であるということは、もちろん精査する必要はありますけれども、理解できるところです。もし実際に改正ができるならば、逐条解説等で何が考慮要因になるのかということを少なくとも分かるように示していくことは、いずれにせよ必要である。ただ、それだけでよいのか、規定に明示的に盛り込む必要があるのかという点についてなお考えが少し分かれるかもしれませんが、結論は恐らく変わらなくて、そのようなものが考慮要因になるということについては一致が得られているのではないかと思います。
今日は非常に建設的な御議論をいただいたと私は認識しておりますけれども、御協力に心より感謝するとともに、それを踏まえて、次回に、取りまとめに向けて、更に精査をして御提案いただいた上で改めてここで御検討いただくということにさせていただいてよろしいでしょうか。
どうもありがとうございました。
以上で、本日の検討課題の検討を終えたということとさせていただきます。
最後に事務局から事務連絡をお願いいたします。
≪4.閉会≫
○丸山参事官 本日も熱心な御議論をどうもありがとうございました。
次回は6月9日金曜日15時からの開催を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。
○山本(敬)座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。お忙しいところ、お集まりいただきまして、ありがとうございました。
以上