第38回 消費者契約法専門調査会

日時

平成29年5月12日(金)15:00から17:30

場所

中央合同庁舎第4号館8階 消費者委員会会議室(東京都千代田区霞が関3-1-1)

出席者

【委員】
山本敬三座長、後藤巻則座長代理、有山委員、石島委員、磯辺委員、井田委員、大澤委員、沖野委員、河野委員、後藤準委員、永江委員、中村委員、長谷川委員、増田委員、丸山委員、山本和彦委員、山本健司委員
【参考人】
適格消費者団体特定非営利活動法人 消費者支援機構関西・検討委員長  五條弁護士
【オブザーバー】
消費者委員会 河上委員長
法務省 中辻参事官
国民生活センター 松本理事長
【消費者庁】
小野審議官、加納消費者制度課長
【事務局】
黒木事務局長、福島審議官、丸山参事官

議事次第

  1. 開会
  2. 優先的に検討すべき論点以外の論点の取扱いについての検討
  3. 平均的な損害の額の立証に関する実態把握
  4. 閉会

配布資料(資料は全てPDF形式となります。)

議事録

≪1.開会≫

○丸山参事官 それでは、定刻となりましたので、会議を始めさせていただきたいと思います。

本日は、皆様お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。ただいまから消費者委員会第38回「消費者契約法専門調査会」を開催いたします。

本日は、所用によりまして、柳川委員が御欠席、それから、大澤委員、後藤準委員が遅れての御出席との連絡をいただいております。

お手元の配布資料の確認をさせていただきます。議事次第下部に配布資料一覧をお示ししております。もし不足がございましたら事務局までお声掛けをよろしくお願いいたします。

それでは、山本座長、以後の議事進行をよろしくお願いいたします。


≪2.優先的に検討すべき論点以外の論点の取扱いの検討について≫

○山本(敬)座長 本日もよろしくお願いいたします。

それでは、本日の議事に入りたいと思います。

本日は、「優先的に検討すべき論点以外の論点の取扱いの検討」ということで、事務局より資料1「消費者契約法専門調査会における論点の取扱いについて」と資料2「今後の審議スケジュール(案)」を提出していただいておりますので、まず説明をお願いいたします。

○丸山参事官 まず、資料1を御覧ください。昨年11月7日、第28回「消費者契約法専門調査会」での議論におきまして、今後の検討課題を優先的に検討すべき論点とそれ以外の論点に分けて、これまでの専門調査会におきましては、優先的に検討すべき論点を中心に、資料1に示しております「1.検討してきた論点」を御議論いただきました。他方、それ以外の論点につきましては、優先的に検討すべき論点の検討が一巡した時点で、その取扱いを検討することとなっておりました。そこで、「2.その他の論点」について、今後の専門調査会でどのように取り扱うかを今回、御議論いただきたいと考えております。

また、今後のスケジュールについてですけれども、資料2を御覧になっていただければと思います。スケジュール(案)でございますが、本日は「優先的に検討すべき論点以外の論点の取扱いについての検討」並びに「平均的な損害の額の立証に関する実態把握」について御議論いただくことになっております。

その後、5月下旬から6月にかけまして個別論点の二巡目の検討を行いまして、7月から8月上旬にかけまして専門調査会の報告書の取りまとめに向けた検討を行ってはどうかと考えております。

なお、5月下旬から6月の個別論点の検討といたしましては、4から5回の会議を開催することを予定しております。「1.検討してきた論点」のうち、「勧誘」要件の在り方を除いた7つの論点もこの中で検討していただくことになるということで考えております。

本スケジュール(案)も参考に、「その他の論点」の取扱いについて御議論いただきたいと考えております。

事務局からは以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明に関しまして、特に今後、優先的に検討すべき論点以外の論点の取扱いにつきまして、御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。

では、河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 委員長としてよりも、むしろオブザーバーの1人としてお願いしたいのですけれども、昨年11月にも追加すべき論点の中でお話しましたように、改正される債権法の定型約款の規定の中に、いわゆる表示型の定型約款に関しては、その定型約款を使うことを相手方に表示しただけで、その個別条項の内容についても合意したものとみなすという規定が入っていることは御承知のとおりであります。

これは、通常の契約法では考えにくいことです。通常は皆さん、事前に約款を開示して、それに対して包括的な同意があるという前提で約款が示されているということなのですが、この改正では、そのような表示型のものに関しては、相手方の請求がない限りは見せなくてもいいという立て付けになっています。この立て付けが果たして合理的かどうかも問題なのですけれども、恐らく法制審がこれに対して良しとしたのは、業法などによる一般的な約款開示義務が課せられている電力供給約款とかの特殊な公益的な約款に関して、こういうことが行われる可能性があるという判断をしたのだろうと思います。

ただ、それは分からないわけです。恐らく社会に対しては、そういう条項を一般的に開示しなくても、事前に約款条項を開示する必要はないのだという誤ったメッセージを送り出す可能性があり、特によろしくない事業者がそのようなメッセージとして受け取ってしまって、その結果として約款が顧客に示されないということが起こり得るということであります。そこで、できれば約款開示の事前開示を徹底してほしいということを、消費者契約法のほうからセーフティーネットとして示しておくことが必要ではないかということをあの当時申し上げて、何人かの先生方からセコンドをいただいた記憶がございます。

今、民法改正は既に参議院のところまで行っておりますので、このまま行ってしまう可能性が高いのですけれども、せめて消費者契約法でこのセーフティーネットを張っておくということは最低のラインであろうと個人的には思っておりまして、何とか消費者契約法の中でこの問題についてルールを明確にしておくということを検討していただければありがたいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、他に御意見は。後藤巻則代理。

○後藤(巻)座長代理 ただいまの河上委員長の御発言に全面的に賛成いたします。約款の事前開示を取り上げるということは、是非必要であると思います。

民法改正案では、相手方の請求がない限り、定型約款の内容を開示することは不要とされているわけでありますけれども、これは相手方には開示請求権があるというふうに条文を置きましたので、事前に開示しなくても、特に不利益はないという趣旨かもしれません。しかし、開示請求には一定の時間と労力を要しますし、場合によっては事業者の反感を買うということもあるかもしれません。そういう中であえて開示請求をするという行動は、実際には取りにくいと思います。

そもそも約款による契約も契約である以上、約款の内容を事前に認識する機会が相手方に与えられるということが、約款が拘束力を持つということの最低限の条件になるのではないかと思います。最高裁の判決を見ましても、消費者契約法10条関係でありますけれども、敷引特約の有効性につきまして、賃借人が敷引特約を明確に認識して契約を締結した場合には、敷引額が高額に過ぎるなどの特段の事情のない限り、消費者契約法10条に違反しないとしております。

また、更新料特約の有効性につきましても、最高裁は契約書に更新料特約が一義的かつ明確に記載されている場合には、更新料が高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条に違反しないという判断をしておりまして、契約内容を明確に消費者に示すということは、消費者契約法の判例におきましても要求されています。それから消費者契約法の規定自体も、3条に情報提供の努力義務が規定されておりますし、4条の誤認類型というのは、事業者側からの情報提供に何か問題があった場合についての取消しを認めていまして、契約内容の開示が消費者契約法の基本コンセプトであり、判例もそれを受けて、10条の解釈についての判断をしているのではないかと思います。

そういうふうに考えますと、定型約款が消費者契約に適用される場合には、事前の開示をするということが消費者契約法に正に適合した対応でありまして、民法でたとえこのまま定型約款の事前開示ということが義務付けられないとしても、特に消費者契約において約款を使う場合については、開示について義務があるのだということを、今回、この専門調査会で確認し、規定化するということは非常に大事なことだと思っております。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他に御意見があれば。

沖野委員。

○沖野委員 今の約款の事前開示の点について、同趣旨であるということを申し上げたいと思います。

繰り返しですけれども、民法の改正提案の中では、事業者間の約款取引もかなりの部分を占めるということになりますので、それも含めた一般的な規律の在り方として、一定の規律が示されているわけですけれども、1つは、それがもたらすメッセージ効果というものが大きいと思われますから、適切な消費者契約を取り巻く当事者の行動というものを促すという点からは手当てが必要だと思います。

それから、民法で想定されているのは、見たい人が見られるようにすれば最低限はそれでいいだろうということなのですが、見たい人というのがアクションを起こさなければなりませんので、それを消費者に期待できるか。本当に見たいと思っていても、遠慮があって言えないということもあるでしょうし、渡されれば見るのだけれどもということもあるかと思います。ですから、請求にかけているところだけれども、請求等を期待できる人間像といいますか、そういうことを考えたときには、両委員がおっしゃったような消費者契約法での手当てということが必要だと考えられます。

約款の開示の問題、さらには理解可能性の確保という観点も入れた開示の点というものが、消費者契約法に規律が置かれることが大事だと思います。それ自体、非常に大事な問題なのですけれども、時期の問題としまして、確かに今回、取りまとめの時期を考えたときには、回数も限られておりますけれども、民法改正とセットで対応すべき課題であると考えますので、今期、特に手当てをすべき事項であると考えます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他に御意見がありましたら。

丸山委員、次に河野委員。

○丸山委員 同趣旨の意見でございます。

民法改正の規定なのですけれども、その規定の趣旨というのが誤解されまして、約款の開示ができるのに、なされないような事態になってしまうことが懸念されます。したがって、消費者契約の特性を踏まえた約款の事前開示の規定の導入ということについて、今回、検討していくということに賛成しております。

また、沖野委員もおっしゃいましたように、民法改正との関係では、これも優先的に検討すべき事項になったと言えると考えますので、この点を優先的に検討していくということでお考えいただければと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

では、河野委員。

○河野委員 先ほど河上委員長から御提案がありました約款の事前開示に関する消費者契約法における何らかの手当てが必要だという御発言に、全面的に賛同いたします。

それから、それに続きまして、学識者の先生方からの御意見も同様であったと認識しております。

私たち消費者のあり得るべき姿として、消費者市民社会と言われておりますが、そこでの消費者の振る舞いとして、開示された情報に自ら接することで、合理的でかつ適切な判断をする。そのことが求められている消費者の役割だと思っております。今回の民法改正の議論の中で、多くの人が約款を見ないかもしれないという理由付けもされたやに聞いておりますが、不要か必要かを決めるのは私たち契約の一方の当事者である消費者であると考えております。事前開示は私たち消費者の基本的な権利だと考えております。是非この際、今の機を逃さずに御検討をお願いしたいと思っております。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他に御意見があればと思いますけれども、いかがでしょうか。

中村委員。

○中村委員 ありがとうございます。

約款の問題について、今回、取り扱うべきというところについては、議論すること自体について、必ずしも反対というわけでもないですけれども、限られた時間の中で議論が十分尽くせるかどうかということについては、私としては懸念があるということを申し上げたいと思います。と申しますのは、民法の議論を注視されていた方については御承知のこととは思いますけれども、この問題、事業者としては非常に重要な問題でございまして、先ほど公益的なものについて表示すればいいという内容だったのではないかというお話もございましたけれども、正にそういう事業者につきましても事業者対消費者ということでございまして、事業者として規定される対象にも入ってくるわけでございます。なので、実際にはそういう事例も含めながら、いろいろなケースについて考えなければならないということであります。

その約款というものの定義ということについても、民法の議論の中でも非常に議論になったところでございますので、そう簡単に結論が出ることではないのではないかというのが私の考えでございます。

また、今のお話の中で、請求というのはそう簡単にできることではないというお話があったのですが、すみません、私の事業者としてのイメージとしては、お願いというか、いただければいつでもお渡しできるように準備しておくという運用で通常は考えるのではないかということで思っておりますし、また最近はインターネット上での開示というのも多くなされておりますので、それでいつでも見られる状態にあるという事例の取扱いを、事前開示と見るのか見ないのか。そういったところも含めまして、いろいろなケースを慎重に考えるべきなのではないかと思いますので、それなりの時間を要する内容だと理解しております。

事業者の事情で恐縮でございますが、皆様もあるかと思うのですけれども、6月、7月と非常に多くの会合が設定されておりますが、その中では後から設定された日程もございますので、皆さんもなかなかそろいにくいという状況もあろうかと思いますので、基本的には「検討してきた論点」に絞り込んで、まずは御議論いただくというのがよろしいのではないかと考えているところです。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

では、増田委員。

○増田委員 残された論点自体も非常に重く、皆さんに十分議論していただいて、どこかで合意できることを探るということが重要だと思いますので、そこに尽力したいと思っておりますけれども、今、御提案があった件につきまして、消費者からしますと、約款がどういう形で表示・開示されているのか分かりにくく、消費者も表示がどこにあるのかということを知らない、請求する権利があるということも知らない、請求する方法も分からないということが現実でございます。そういう意味から言うと、ここで議論して、それを皆さんに公表するということ、それ自体が消費者教育にもつながっていくと考えますので、時間がない中ではありますけれども、是非検討事項の中に入れていただければと思います。

○山本(敬)座長 では、磯辺委員。

○磯辺委員 私どもは差止め請求の業務をやっていまして、不当な契約条項のある約款ということで消費者から提出を受けたときに、その約款自体が契約の時期が若干古いものだった場合に、今の新しい約款を何とか入手して差止め請求ができるかできないかを検討しようと努力するわけですけれども、割と悪質な事業者といいますか、不当な契約条項が入っている約款を使用しているところほど、要請しても御提供いただけない。Web上でも開示されていないという事情がございます。

そういう意味で言いますと、今回の民法改正でそういったことが許されるという誤解が事業者の間に蔓延する、合理化されるみたいなことがないようにしたいと思いますし、消費者契約に当たっては、ある意味約款を事前に開示する、契約内容をきちんと見せるということは当たり前のことですから、そういったことが消費者契約法で規定されるということについて、事業者サイドにどういった不都合があるのかということについての御議論も含めて、是非論点として挙げていただければと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他にいかがでしょうか。

大澤委員。

○大澤委員 ありがとうございます。

私も、今、多くの先生方から出ている、約款の事前開示に関して何らか検討するということに賛成いたします。

その前提として、1に挙がっている「検討してきた論点」というのも、数だけ見ても8個ありまして、しかもこの中には成年年齢引下げワーキング・グループで出された報告書に答えるという形で、絶対に対応しなければいけない問題も入っておりますので、この1番に掲げられた論点を十分に議論するという、この時間は必ず確保するという前提ではありますが、約款の事前開示という話につきまして、私自身は、別に今までだって事前開示するというのはある程度当たり前のことだったと思っています。

消費者契約の場合ですと、消費者契約法でも3条で、例えば消費者に対して情報を提供する努力義務があるとか、あるいは条項を明確にする努力義務があるという趣旨の規定が入っておりますし、先ほど後藤先生が挙げられていました複数の最高裁判決におきましても、その特約が明確に契約書に記載されているということが当然であるといった形で書かれております。

こういった趣旨を考えますと、今度の定型約款の規定で事前の開示も不要であるかのような条文になっているのは若干矛盾していると思いますし、逆に言いますと、消費者契約においては事前の開示を必要とするという考え方自体は、これまでの消費者契約法3条ですとか最高裁の判決の趣旨と全然違うものではありませんし、むしろそれらの考え方からすると当然だと思いますので、この点についても検討すべきではないかと思っております。そんなに新しいことを議論するわけではないのではないかと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他に御意見があればと思いますが。

長谷川委員。

○長谷川委員 結論から申し上げますと、今議論になっております約款の事前開示を今回の専門調査会の議論で検討することに反対いたします。

理由はいくつかございます。まず1つ目は、法制審議会の議論は消費者契約も当然念頭に置いて議論がなされたものと理解しておりますが、それが正に今国会で議論中ということでございます。そうした中で、その影響をある意味先取りして、本当に先取りしているのかどうかというのは後から申し上げたいところですけれども、議論すべきではないと思っております。

2点目は、先ほど中村委員もおっしゃられましたけれども実態として、約款をくださいという請求権がある中で、遠慮があって言わないということに本当になるのかどうかということです。消費者として関心があるものであれば、くださいと言うのではないか。私であれば言うのですけれども、本当に一般的に言わないということなのかどうか。もちろん従来の意思主義との関係でストンと理解できないことがあるのかもしれませんけれども、法施行以降の実態をもう少し踏まえたほうが良いのではないかと思います。

3つ目は、時間との関係でございます。何人かの委員がおっしゃられていましたけれども、先ほど事務局から提出された日程を前提といたしますと、そんなに時間がありません。そうした中で、先ほど中村委員がおっしゃいましたけれども、事前開示を議論するといっても、例えばその効果をどういうふうに考えるのかですとか、約款の定義でございますとか、事前開示というものをどういうものとして考えるのか-対面でなければいけないのか、ホームページ上の掲載も含めるのか-といった様々な論点がございます。時間のない中、そういった議論を進めるのは、他の論点との関係から余り現実的ではないと思っております。

以上でございます。

○山本(敬)座長 他に。

磯辺委員、続いて石島委員。

○磯辺委員 約款を請求したらくれるかということですけれども、現状として、問題のある約款を使用している事業者ほど、消費者が請求しても、それは契約が成立してから皆さんに渡していますからという形で拒まれるという例は、ままあるわけです。そういった事業者の行為自体が、民法が改正されて何か合理化されるみたいなことにならないように、ちゃんと消費者契約法で手当てするということは必要なのだろうと思います。ですから、結局、個別の請求で、それはいつの段階で渡すとか渡さないとか、直前になって、やっと契約成立前で渡すとか、いろいろな運用が考えられるわけですが、あらかじめ見せるようにしておくことで、契約内容を判断できるようにしておくという考えです。

特に、消費者契約の場合には、消費者一人一人が慣れて契約しているわけではありませんから、新しい商品・役務について契約するわけですから、事前に見せるようにしておくというのは、普通の事業者は皆さんWebサイトで開示をやっていらっしゃることですから、その水準をきちんと確保していくようにしておく。悪質な事業者の抜け駆けといいますか、そういうことをきちんと封じておくということが非常に大切だと私は、日頃感じております。

そうは言っても、それで結論付けるところまで行けるかどうかというのはここでの議論だと思います。ただ、民法の改正がそういう流れで来ている中で、消費者契約法でどういう手当てをすべきかという議論だけはしておく。議論して、できればもちろん結論まで行っていただきたいですけれども、議論しておくということが必要ではないかなと思います。

○山本(敬)座長 では、石島委員。

○石島委員 私も簡単にですが、意見を述べさせていただきます。

1つは、時間軸の問題で、これまで「検討してきた論点」も非常に数も多く、またもう少し掘り下げた議論が必要な論点もかなり残っているように思います。先ほどいただいたスケジュール案では、5月下旬から6月にかけて何度か入れていくということでしたが、1つ目を検討するだけでもかなり無理なスケジュールになる可能性があると思っている中で、約款の事前開示という、かなり多くの議論を必要とするものを今から新たに検討するというのは、時間軸的にちょっと厳しいのではないかという懸念があります。

また、実態的にも、民法改正案の影響を見てからの議論ということでもよろしいのではないかと思います。したがいまして、約款の事前開示について議論を追加するという点については、反対いたします。

以上です。

○山本(敬)座長 他に御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。

沖野委員。

○沖野委員 たびたび恐縮です。3点申し上げたいと思います。

1つは、民法改正の中で、消費者契約ということも十分勘案されて規律が設けられたのではないかということですけれども、消費者契約ゆえの特別な規律は、逆に設けられなかった。消費者概念は民法に入れないということで、それは、さらに消費者契約等の特有の規律というのは、例えば消費者契約法でということが、むしろ了解であったのではないかと考えております。

それから、今、国会の議論も進んでいる中、やや先取りして消費者契約法で特有の手当てをすることはどうかという点については、それは既にやっております。例えば、民法121条の2だったかと思いますけれども、原状回復の範囲などについては、消費者契約の場合に現存利益という返還範囲を維持すべきだということで、こちらのほうも改正が通って、民法改正に伴う施行と同時期になっているということがございますので、今、改正法案が検討されている中でも、必要な手当てはむしろ一緒に走り出すように打っておくということが重要ではないかと思います。

民法改正がされてから様子を見てということですが、むしろそれが非常に懸念されるということで、とりわけ最初に申し上げたメッセージ効果というものは、プラクティスとして、それが当然であるというのが定着してから、そうではないということを正すのは非常に困難であるということがございますので、あらかじめ分かっているならば、そういう事態は封じるように手当てしておくということが、今後の紛争などを起こさせないように、あるいは減じるようにするためにも重要だと考えております。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他に御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。

長谷川委員。

○長谷川委員 沖野先生から御説明のありましたように、民法改正について消費者概念を入れないということで議論が行われたというのは承知しているところでございます。私の発言の趣旨は、当然ながら民法適用の射程であるという意味で、消費者契約も視野に入れて議論されたのではないかということです。

また、既に先取りをやった事例があるではないかというのはおっしゃるとおりでございますけれども、それは実体法上の権利・義務の部分で手当てをしたということだと私は理解しております。今議論しようとしていますのは、契約を締結するに当たっての意思形成といいますか、契約締結過程あるいはその後の効果ということについてかもしれませんけれども、どういう影響を与えるかというところについて実証的なものもない中で、約款を事前開示すべきかどうかを考えることだと理解しております。法益が明らかに決まっている事象とは違うことから、実態を踏まえた上で検討しても良いのではないかということでございます。

要するに、民法が改正されることによって、どういうふうな困ったことが生じるのかというところがまだ見えていないのではないかというのが言いたいことです。

○山本(敬)座長 松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 今までの議論は、約款の事前開示の部分に集中されているわけですけれども、私が見る限りは、民法の定型約款のルールはここだけではなくて、もう一つ、変更のところで、従来の一般的な考え方に比べて消費者取引に適用された場合には消費者に相当不利になるというのが事実じゃないかと思います。したがって、本格的に議論するならば、開示に限定するのではなくて、変更についても取り上げるべきだと思います。ただし、今までの議論の中でも明らかなように、民法を変える修正であって、そう簡単にまとまるという感じはいたしません。

そこで、一つの考え方としては、河上委員長がこの論文の中でちょっと書いておられることですけれども、もともと消費者契約法3条の考え方との関係で、事前開示しなくていいというのは矛盾しているのではないか。そのとおりでございますから、定型約款全般をハードに議論するのではなくて、開示のところだけに限定した上で、3条と絡めて、この問題を一度議論するというのは、時間との関係ではあり得る案ではないかと思います。

必ず検討する論点として、最後のところに、消費者に対する配慮に努める義務というのが挙がっておりまして、これは恐らく3条を広げるか、あるいは3条の2という感じになるのだとすれば、この問題の1コマとして、従来の3条を定型約款にも適用するという考え方、努力義務として入れる意味があるのではないか。普通の事業者であれば、そういうものに積極的に対応しているというお話もございましたから、その限りでは余り無理なく議論しやすいのではないかという印象を持っております。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他に御意見があれば。

中村委員。

○中村委員 中身の議論をする場ではないので、余り深くはよろしくないかと思いますが、磯辺委員から御提示がありました内容について、ちょっと気にかかったことを簡単に申し上げたいと思います。

事前開示ということの中で、先ほど長谷川委員からも事前開示の定義が問題になるということを申し上げたかと思うのですけれども、事前というのが、例えば全く契約の見込みがないというか、はっきりしていない人に対しても約款を印刷したものをお渡ししなければならないかという話になってくると、それは当然、事業者としては、そういう準備についてもいろいろな費用が掛かるという問題も出てまいりますので、そこはあくまでも契約のプロセスの中で締結に至るまでにお示しするということで、私どもとしては考えておりますので、そういったところも議論の対象になってくるかなと思っております。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。今の点は、最後におっしゃいましたように、あくまでも契約のプロセスの中で、締結に至るまでに示すものだというのが事前開示の本来の意味だと思いますので、最初の御懸念は余り当たっていないのではないかと思いました。

○中村委員 すみません。ただ、言い方の問題かもしれなくて、磯辺委員の御発言からは、それは契約をする際にお渡しするものですというような反論があったというお話がありましたので、事業者の側からすると、そういうケースもあるのかなと思った次第です。

○山本(敬)座長 差止めの問題になっている過程でのやりとりを取り上げると、そのような御意見があるかもしれないけれども、それは事前開示の問題とは別ではないかという御指摘だったと理解すればよろしいですか。

○中村委員 一般論として、その事前開示がどの段階で事前に開示しなければならないかというところについては、微妙な議論があるだろうと思います。

○山本(敬)座長 事前開示の問題は、恐らくはっきりしているのだろうと思いますが、先ほど指摘されたことは事前開示そのものの問題とは少し違うのだけれども、このような事業者こそ、事前開示をしないのではないかという御指摘だったということで理解してよろしいでしょうか。

○磯辺委員 はい。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

では、長谷川委員。

○長谷川委員 先ほどの私の発言が分かりにくかったようですので、改めて説明させていただきます。

要するに、発言の趣旨はこういうことでした。民法改正で契約当事者に与えられる定型約款の開示請求権というものがどれぐらい実効あるものとなるかというのは多分まだ分からないのではないかと思っております。この場でも遠慮があっておっしゃりにくい人もいるのではないかという御見解の方もおられました一方で、私などは先ほど申し上げましたように、非常に関心がある事項であれば、それが約款の開示請求になるかどうか分かりませんけれども、重要なことは押さえた上で契約するのではないかと思っているところでございます。

本来、Aだった危険をBに寄せますというように、法益の内容が明らかに変わった問題とは違うので、開示請求権というものがどれだけ機能するかというのを踏まえて議論しても遅くないのではないかということです。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 長引かせて申し訳ないのですけれども、御指摘のように事前開示によって実際に顧客が開示請求をして契約内容を交渉するということは考えにくいことであって、むしろ契約という以上は、契約をする前に知り得る状態に置かれている契約条件でなければならないということなのだろうと思います。ですから、ある意味では非常に手続的な保障の問題になってくるのではないかという気がします。

それから、先ほど事前開示はプロセスの中で契約が締結されるまでにとおっしゃったのは、正にそのとおりでありまして、それで構わないと思いますし、民法改正の議論の中でも、インターネットなどによる電磁的な開示でも事前開示の中に入れておりますから、大体手当てはされているところであります。ですから、あとはそういう誤ったメッセージ効果を否定するということが重要でありまして、むしろ私は民法改正の本来の趣旨を具体的に消費者契約法の中で明らかにしておくという意味でも、この段階で事前開示というのをはっきりさせておいたほうがいいという意見を申し上げました。

あと、長谷川委員がおっしゃった効果とか、そういうものがはっきりしていないのではないかという点ですけれども、実はこれは2000年の改正の段階のときには、事前開示をしていない約款は契約内容にならないという非常にダイレクトなルールから出発して、議論した上で最終的にその規定は落ちて、その上で、重要事項の中に物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途、その内容。それから、2番目に対価その他の取引条件という言葉を入れて、ここに契約条件や約款が入るという説明をして、約款の事前開示の議論を表から遠ざけた上で、開示を前提としたという経緯がございました。

3条で情報提供をして、重要な契約条件については、あらかじめ相手に分からせるようにするということは、消費者契約法の規定の中では当然のことであったわけです。ですから、その意味では、具体的な民法改正の効果で誤ったイメージが沸かないうちに、きちんと事前開示について消費者契約法で具体的にメッセージを発信しておく。しかも、そのときの効果は、恐らく今の段階では示す必要はなくて、民法との関係で事前開示が必要なのですよということを3条の辺りに示しておくだけで、差し当たってはいいのではないかということを考えております。

○山本(敬)座長 大澤委員。

○大澤委員 今の河上先生と、先ほどの松本先生の御意見に全面的に賛成いたします。

3条の規定の中で事前開示との関係を位置付けるという形であれば、別に一から議論するわけではなく、3条でもともと趣旨として要求されていた内容を、この定型約款の規定に照らすと、特に消費者契約における定型約款に照らすとどうなるかというだけのことなので、私は方向性としては、松本先生と河上先生がおっしゃっていた方向での検討に全面的に賛成いたします。

もう一点ですけれども、松本先生が先ほどおっしゃっていました変更規定の件ですが、これは前の専門調査会でも私も報告した記憶がありますが、一方的に契約内容を変更する特約を不当条項リストに入れるかどうかという議論がありまして、結局のところ、契約内容の変更が必要な場合が多いということで、かなり早い段階で頓挫したという記憶があります。本来であれば、それも手当てすべきだと思いますが、それを今からやるというのは、これこそ新しい規定を作るということになって、多分大変なのではないかという気もしますが、事前開示の件はそこまでの話ではないと思っています。今までの契約のルールの考え方からしても、あるいは消費者契約法3条からしても、そんなに新しい話では私はないと思っています。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

長谷川委員。

○長谷川委員 3点ほど申し上げたいと思います。

1点目は、確認でございます。法第3条に絡んで効果について議論せず入れますということだとすると、それは行為規範であってかつ努力義務であるという位置付けという理解の仕方をすればいいのでしょうかというのが1点目でございます。

2点目は、先ほど申し上げるのを忘れていたのですが、民法改正が誤ったメッセージとして受け止められるおそれがあるということに関しては、正に啓発活動を必要に応じて今後やっていくべきだろうと思います。

3点目は、河上委員長がおっしゃられたことについてです。私のような者が申し上げるのも恐れ多いのですけれども、契約内容を全部開示するのは当然のことになっている。当たり前ですが、それが契約の意思主義というものに照らして当然のことだろうと思います。しかしある意味、全部開示というのは相対的なものだという理解も可能なのではないか。事前開示しても契約当事者はほとんど読んでいません、認識していませんというケースもあれば、事前開示の代わりに開示請求権を与えているが、契約当事者は開示請求権を分かった上で行使していませんというケースもあるのではないか。そういった全体も含めて、どういうふうに契約締結過程を捉えるかという問題なのではないかと思います。

約款を事前開示するということ自体がすごく重要なメルクマールだというには、それが重要だというしっかりとした根拠が必要な気がいたしますという意見を申し上げます。

○山本(敬)座長 では、河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 契約として契約内容に入れるためには、少なくとも知ろうと思えば知り得る状態に当該条件が置かれているということが必要になるだろうと思います。要求すれば見せてもらえるというのは、見せてくれと言って、それに対して見せるかどうかというのを、事業者の側で、約款準備者の側で、言ってみれば一遍考えることができる状態ですね。でも、それは契約内容にしようとする人間の採るべき態度ではないと思います。自分がこれを契約内容にしようとしているわけですから、相手にこの契約条件でどうですかと見せるのが前提でしょう。

問題は、恐らく技術的に見て、それが難しいとか、あるいはなかなかコストが掛かるという場面の場合に、これは電磁的情報であるとか掲示で済ませるとか、相当な手段というものがあって、むしろ消費者が相手に何も要求しなくても、知ろうと思えば知ることのできる状態にあるというのが大事なことであります。裁判所で公示送達というものがありますけれども、あの裁判所にぴらぴら貼られた紙の内容が相手に伝わっているとは誰も思っていません。思っていませんが、それは一般の人に向けて、そういう形で知ろうと思えば知れた状態にしたというのが送達の条件になっている。それと同じでありまして、ちゃんと知らせるというのが契約を語る大前提だろうと思います。

もう一つ、効果の面で、これは行為規範になって努力義務なのでしょうねという確認をしたいということでしたけれども、それは行為規範になるということです。それを努力義務にするのか、それとも法的義務にするのかというのは議論していいことだと思います。ただ、知らせるべき努力は尽くさないと、交渉の場に身を置いた人間の信義則に従った態度とは思えないですね。ですから、契約条件を後ろに隠しておいて、これによるからねというような態度は、普通の事業者にはあり得ないことなのではないかという気がいたします。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他に。

大澤委員。

○大澤委員 効果の件ですけれども、努力義務にとどめるかどうかというのは今後の議論次第だと思いますが、仮に努力義務にとどまったとしましても、先ほど後藤先生がおっしゃっていましたように、現在の消費者契約法の10条の後段要件該当性を判断する上で、少なくとも最高裁は契約締結過程の事情なども含めて総合的に考慮して、その条項の不当性の判断を出しています。ですので、そのときに3条で書かれているような事前開示もなく、そういう不当条項を入れていたということが条項の不当性が肯定される理由にはなり得るのではないかと思います。

それは現に、先ほど後藤先生がおっしゃっていた判決ですけれども、複数の最高裁判決で、賃貸借契約書だったと思いますが、契約書に条項が一義的かつ明確に記載されている場合であればということを一つ要件として挙げているぐらい、契約書に記載されていて、その契約書が相手に事前に示されていることまで含んでいると思いますので、その考え方とも特に矛盾しないと思います。ですので、3条で仮に努力義務にとどまったとしても、例えば不当条項の10条のところで事前開示が不十分だったという事情は十分考慮されるのではないかというのが私の意見です。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他に。

山本健司委員。

○山本(健)委員 約款の事前開示について議論することに賛成いたします。

定型約款に関する規定が消費者契約に及ぼす問題点の存否・内容について、この専門調査会で議論し、それらを明らかにすること自体に意義があると思います。是非取り上げるべきであると考えます。したがって、資料1の「1.検討してきた論点」のうち「勧誘」要件を除く7つの論点と約款の事前開示の論点の8つについては、少なくとも議論すべき論点であると考えます。

この点につき、この専門調査会の時間的な限界があるのではないかという御意見が出ております。ごもっともな御意見であり、「1」の論点について取りまとめることは最重要の課題であって、これができないことになるような事態は避ける必要があると思います。しかしながら、そのような全体の進行に悪影響が生じないような方法ないしスケジュールにおいて議論するのであれば、特に弊害はないのではないかと考えます。

また、法制化については実態を踏まえて考えるべきではないか、効果をどう考えるのかという御意見が出ております。あり得る御意見内容であるとは思いますけれども、それらの御意見は、法制化の当否・内容に関する御意見として、話合いの土俵設定がなされた後に再度言っていただければ良い御意見内容ではないかと思います。全体の進行に支障が生じないようなスケジュールの下であれば、話し合うこと自体を否定する必要性はないのではないかと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他に御意見があればと思いますけれども、いかがでしょうか。

沖野委員。

○沖野委員 約款の事前開示の問題の取り上げ方について、どのぐらいの時間がかかるのかというのは直ちには予測しがたいことですけれども、それは工夫によって絞り込みができるというのも既に明らかにされたことですので、全体のスケジュールを見ながらどの範囲で取り上げられるのかということも勘案しつつ、取り上げるということでいかがかなと思っております。

それで、単に例えばこのようなことも考えられるという意味で申し上げるのですけれども、約款の事前開示の問題として問題は定式化されておりますし、もともとのこの問題の発想は、民法における定型約款の規定にいかに対応するかという問題ですから、そこから展開しているわけです。民法の定型約款の定義自体については、それ自体、いろいろな議論や評価があると思いますし、中村委員からは約款の定義をどうするのかという問題も提起されました。

それについては、私自身は約款については比較的広く取ったほうがいいと思っておりますけれども、その点に力を割くのは余り望ましくないと考えておりますから、とりあえず今回は定型約款への対応ということで定型約款とするか、あるいは消費者契約法は消費者契約の内容という言葉を使っておりますから、消費者契約の内容は表示しなければならないという形で、約款という言葉を使わずに対応することも考えられますので、それは論点の絞り込みといいますか、例えばそういうことであるならば対応できるというのであれば、そういった形で、いろいろな工夫ですとか可能性とかは、むしろこの後、その問題を取り上げるときに検討してはどうかと思います。そういうことを考えるならば、取り上げる余地は十分あるのではないかと思います。

○山本(敬)座長 松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 沖野委員の御指摘に賛成いたします。

定型約款とは何ぞやというのは、私もいまだに分からないところがあります。実際に改正法が施行された後、裁判所が定型約款に当たるか当たらないかという個別判断を積み重ねていかないと分からない定義になっております。ひょっとすると、既に事前開示が当然に行われているようなタイプの運送約款とか保険約款とか銀行約款といったものは当然定型約款だけれども、先ほどのような、なかなか見せてくれないようなものは、そもそも定型約款の定義には入らないという考えもあり得ると思います。

そういう点を考えると、定型約款とは何かもはっきりしない状況で、定型約款について議論するとよりは、もう少し広めに、本来のプリンシプルを理念としてでもいいからきちんと掲げるというほうが生産的ではないかと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 私も沖野先生、松本理事長のお考えに基本的に賛成で、幸か不幸か消費者契約法は、定型約款か約款かそれとも一般の契約条項かという区別は全然していない法律であります。ですから、その意味では、契約内容もしくは条件という書き方で十分対応できると思いますから、定型約款とか約款の定義は今のところは置いておいて議論するということのほうが手っ取り早いという気がいたします。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

中村委員。

○中村委員 これについて議論するという御意見が多いようですので、ちょっと申し上げたいのですけれども、この点、非常に各事業者に大きな影響を与える可能性がある。決め方によってということですけれども、内容かと思いますので、もしこれを議論されるということであれば、事前にその資料等を早めに御提示いただいて、先ほど御指摘もありましたように、例えば運送とか保険という部門の話なのか、あるいはもっと広くということによって、それに関わる人たちもいろいろ違ってきますし、その中でも十分議論しなければいけないことだと思いますので、そのような形で進めていただきたいと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

長谷川委員。

○長谷川委員 今の学者先生の方々からの御提案とどう関わるのかについてちょっと頭の整理がついていないのですが、私の理解では、例えば交通機関とかの約款については事前開示は非常に難しいのではないかという議論が法制審議会で行われていたと理解しております。そのこととの関係で、約款という言葉を使わずに契約内容は事前に開示しなければならないとした場合、それがどういう意味を持ってくるのかというのはすぐに理解できないところがございます。それはすぐ理解できるので時間も掛からないのだということであればいいのですけれども、そういった点も含めて、今提示されている日程の中で議論できるのかというのは、やや疑問に感じるところでございます。

○山本(敬)座長 有山委員。

○有山委員 相談員としてシンプルに考えますと、契約の際には当然合意が必要なわけです。その合意内容について新しい分野の約款などが出てきたときに、きちんと事前に開示されないで、勝手に想像を膨らませて契約されてしまうと、事業者も大変なことになると思います。シンプルに合意が行われる内容について、事前にちゃんとまとめて話しなさいという感じでもいいのかなと思っております。その議論を沖野先生、松本先生たちの議論の中に入れていただければいいかなと思っております。独自の解釈をする消費者の方も大変増えておりますので、事前に契約内容を開示するというのは重要だと思っております。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他に意見は。全て御意見が出たと理解してよろしいでしょうか。

では、河野委員。

○河野委員 今の御議論を伺っておりまして、GDP600兆円を目指す日本経済のその6割を一般消費が占めるというときに、契約の安定にとって一番重要である契約条件、ないしは契約内容の事前開示に対して、事業者の皆さんがなぜこれほどまでに御懸念を示すのか、私はそこが全く理解できません。消費者保護を基本に置いた契約の安定性にこそ、皆さんはもっと前向きにしっかりと意見を言っていただきたいと思っております。このまま堂々巡りで話が尽きないかもしれませんけれども、先ほど沖野先生が御提案くださったような内容で、このことをしっかりとこの場で確認していただければと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

大澤委員。

○大澤委員 一言だけ申し上げたいのですが、先ほど事業者の委員の方から、3条に読み込むとしても、何か新しい形で事前開示を書くとすると事業者の影響は大きいというお話が出ていて、私にはその影響がどれぐらい大きいのか、正直言って理解できないのです。

と言いますのは、既に3条にも消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が消費者にとって明確かつ平易なものになるよう配慮するとともに、3条1項の最後のほうにも、その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならないという言葉が書いてありまして、内容を示すというのは、価格、目的物はもちろんのこと、契約条件を事前に情報として提供しなさいということなのであって、それからそんなに大きく外れた話には、事前開示に関して議論しても恐らくならないのではないかと思っていますので、すごく影響を心配されているようですが、それは御心配のしすぎではないかというのを1つだけ申し上げます。

○山本(敬)座長 では、長谷川委員。

○長谷川委員 先ほどGDP600兆円を目指す中で、契約の安定性について前向きな意見をというお話がございました。事業者の立場でお話しするつもりは余りなかったのですが、事業者の立場でも契約の安定性は当然重要であります。それに加えて効率性というのも重要だと思っております。

以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他に御意見はありませんでしょうか。

「その他の論点」としまして、約款の事前開示を新たに検討すべき論点として加えるかということで御意見を伺いました。少なくとも、民法の定める定型約款の規定を前提として、その定型約款の事前開示を消費者契約法において何らかの形で規律するという形で新たに議論をすべきであるという御意見はなかったのではないかと思います。

最終的には、もう少し一般的に、ないしは少なくとも消費者契約法の現在の規律に適合した形で、契約内容に相当するものをあらかじめ示すことを、とりわけ3条につなげるような形で定めることの可否について検討するということであれば良いのではないかという御意見がありました。この意見であれば、少なくとも民法の規定と完全に重なる形での立法を検討するということではなくなっているように思います。その意味では、最初のほうに示されていた懸念は直接には当てはまっていないと言える可能性があります。

ただ、問題は、そうであるとしても、タイトなスケジュールの中で1に挙がっている論点、少なくとも7つは今後、6月末まで、合計4回の間に一巡させ、そして7月から8月にかけて取りまとめを目指すというスケジュールの中で、先ほどのような少し違った形で契約内容の事前開示についての規律の可否を検討することがうまく収まるのかどうか。収まるのであれば検討してもよいのではないかという御意見はありましたが、問題は収まるかどうかということです。この点については、見通しをどう見ればよろしいかということですが、いかがでしょうか。

賛成しておられる方々はこの程度のものであれば何とか収まるのではないかということだと思いますが、「1.検討してきた論点」で「勧誘」要件の在り方を除くものが7つあり、6月末までですと合計4回ぐらいですので、各回で2つないし3つぐらいを取り上げていくということですけれども、これでうまく収まるのかどうかということが、恐らく残っている最大の懸念ではないかと思います。

松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 その点を踏まえて先ほどの発言をさせていただいた次第であります。定型約款そのものが本来は消費者契約の立場から議論すべき大きな問題だと思いますけれども、時間的には不可能なので、したがって、このスケジュールで挙がっている検討すべき論点の一番最後の部分に付け加えるというのが一番合理的ではないか。3条をどういうふうに拡張するかという議論ですから、大きな2つの論点というよりは、1つ半ぐらいか2割か3割増しぐらいの論点になると思われるので、その辺りが時間との関係では一番合理的ではないかと考えています。

○山本(敬)座長 このような御指摘ですけれども、御意見があれば。

長谷川委員。

○長谷川委員 今の座長からのお問いかけに対しては、分からないというのが正しい答えではないかと思っております。なぜ分からないのかというと、他の論点にどれだけ時間が掛かるかが分からないからです。その上で、松本理事長からの御提案ですけれども、他の論点にどれだけ時間が掛かるかということが分かった段階でもう一度議論するということが良いのではないでしょうか。

○山本(敬)座長 もちろん、今おっしゃっていただいたのが御提案だとするならば、それもあり得る1つの考え方です。しかし、もう一つあり得る考え方は、とりあえず取り上げる論点として入れておくけれども、それは時間の許す限りにおいてであるというものです。これもあり得る考え方でして、現時点において今後のスケジュールを決めるとしますと、後者のほうが合理的ではないかと思います。しかし、御提案の中身自体はそう変わらないのではないかと思います。

もし御異論があればお出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。

沖野委員。

○沖野委員 異論というわけではないのですけれども、松本先生がおっしゃったような形で、消費者に対する配慮に努める義務というのは、既に「検討してきた論点」の一つとして挙がっており、かつ、これもまた成年年齢の引下げとの関係、あるいはワーキングの提言を受けてやらざるを得ないという中の、どうなるか分からないですけれども、取り上げざるを得ないというと何か外在的ですが、重要な問題だと思っておりますので、このときに併せて取り上げるような形で取り上げるということでスケジュールを組んでいただけないかと思います。

時間があったらやってもいいというよりは、もう少し積極的に併せて取り上げるということで、成案が得られるかどうかは、もちろんどれについても分からないわけですが、そのような形で一応のスケジュール感を組むということは可能ではなかろうかと思っております。

○山本(敬)座長 山本健司委員。

○山本(健)委員 沖野委員の御意見に賛成です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

消費者に対する配慮に努める義務は、確か3条に関わる提案ではあるものの、出発点が成年年齢の引下げとの兼ね合いだったものですので、今、問題にしている事柄と性質がかなり違います。しかし、同じ3条に関わる問題として、更に追加して、独立の論点とするかしないかは形式的な問題ですので、少なくともこの回と併せて検討するということでどうかという御提案でした。そのような方向でよろしいでしょうか。ありがとうございました。

それでは、本日のただいまの御意見を受けまして、今後の専門調査会におきましては、資料1の「1.検討してきた論点」の二巡目の検討とあわせて、最後の消費者に対する配慮に努める義務に合わせる形で、契約内容の事前開示に係る事柄も検討対象に含めるということで、以後、これらの論点について検討を行っていくことにしたいと思います。どうもありがとうございました。

この後の議論があるのですが、それは一定の時間を要するのではないかと思いますので、少し早いですが、ここで10分程度休憩を取らせていただくことにしたいと思います。しかし、早く終わったほうが良いと思いますので、4時15分まで休憩ということとさせていただきます。

(休憩)

≪3.平均的な損害の額の立証に関する実態の把握≫

○山本(敬)座長 それでは、次の議事に入りたいと思います。「平均的な損害の額の立証に関する実態の把握」に関する議事の進行としましては、まず、本日資料を御提出いただいております井田委員より御説明をいただき、次に、適格消費者団体からのヒアリングを行った後に、併せて委員の皆様からの質疑応答をしていただくという形で進めさせていただければと考えています。

それでは、井田委員より資料3-1及び資料3-2について御説明いただきたいと思います。

○井田委員 私から資料3-1と資料3-2について御説明申し上げます。

まず、資料3-1に関しましては、前回、同じ論点が議論になった際と全く同じ事例でございます。京都地裁の事例でございます。これは、前回も少しお話しをさせていただいたのですけれども、実際に消費者団体が訴訟でどのようなことをしたのかということの経緯をもう少し知っていただいて、今後の議論の参考にしていただければと思い、このような資料を提出いたしました。

実際のやりとり、今回、強調したいのは、資料3-1の2ページ以下でございます。

これは平均的損害が問題となった事案ですけれども、まず、被告、つまり事業者のほうで、裁判の早い段階で平均的な見積額、再販率、粗利益などの具体的な数字を出されて、その計算の結果、解約金は平均的損害を超えないのだという御主張がございました。こういう御主張がございますので、消費者団体側としては、そうしたら資料とかは当然あるのだろうということで、例えば数字の根拠となる資料の提出を求めたところ、これは立証責任は消費者団体側にあるということで出されなかったということで、以下2ページの1段目、2段目、3段目のようなやりとりが続いたわけです。

3段目の右側、被告事業者側として、平成25年2月1日付で、ここに書いていますが、エクセル表で作成したキャンセル一覧、部門別実績というものを一覧表を証拠で出された。これは、当初の被告の第1準備書面における主張から約1年後にこのような資料が出てきたということでございますが、この内容を消費者団体側で見た結果、少し誤りがあるのではないかという御指摘をしたところ、それは一部記載の誤りがあるということで、事業者側のほうがエクセルデータを出し直したということでございます。

出し直したのだけれども、その元資料は提出しないという対応を続けられたので、3ページ以下、消費者団体側において文書提出命令を申し立てましたが、却下された。即時抗告でも抗告を棄却、最高裁でも抗告を棄却されたということでして、資料を出す、出さないというところでそれなりの時間を要する裁判ということになりました。

1つ記載を忘れたのですが、もともと京都の団体がこの裁判を起こした日付が、平成23年10月11日に提訴いたしました。文書提出命令についてのやりとりがあったものの、第一審、京都地裁における判決が平成26年8月7日ということで、文書提出命令の部分を割り引いても、第一審にしてはかなり時間が掛かっているということは事実として言えると思います。

この件について、小括ということで書かせていただきました。判決までに時間が掛かったのは、消費者団体側の対応もあるだろう、関係するだろうという御意見はあるのかもしれませんが、この件に関しましては、当初出されたエクセル表自体に少し誤りがあった。であれば、素朴な当事者の発想として元資料が見たい。どうしてそういう間違いが出てくるのかという疑問が起こっても、これはごめんなさい、個人的意見です。おかしくはないのではないかと考えます。

裁判所の対応ですけれども、いわゆる訴訟指揮ということの中で、証拠が提出されるのが望ましい。つまり、消費者団体側の求める証拠が提出されるのが望ましいとは述べるのですけれども、それ以上積極的に資料提出を促すということはされていなかったと聞いております。実際の裁判のやりとりとして、ひとつ御参考にしていただきたいと思います。

もう一つ、これは資料3-2でございます。この事案は裁判中ということで、具体的な団体名は控えますけれども、適格消費者団体が、事業者と消費者のパソコン保守契約を解約したときの解約料が平均的損害を超えるのではないかという裁判でございます。まだ現在、第一審の訴訟継続中ということで、原告の主張・立証活動というのを1ページに書かせていただいたのですけれども、これにつきましては2ページ目を少し見ていただきたいと思います。

この事業者のほうは解約料を設定していたのですけれども、もともと設定していた解約料の内容というのは、差止め訴訟に至る経緯の一番上のポチのところにあります。消費者が、契約期間残月数、あらかじめ何年契約というのを結ぶわけですね。解約した時点での契約期間残月数×月額料金に相当する金員を支払う。つまり、全額支払えということでの契約条項が存在した。これについて適格消費者団体が削除を申し入れたところ、事業者からは明確な回答はありませんでした。

ただ、この団体が更に調査したところ、既に契約が改定されている。どう改定されたかというと、契約残月数×月額料金×一定割合。この一定割合は、契約期間の長短に応じて少し割合を変えています。こういうふうに修正していたことが分かった。これについても団体としては事前請求したのだけれども、事業者から回答がなかったということで訴訟に至ったという経緯でございます。

現在は、その下にも書いているのですけれども、原告の消費者団体側が一度目の釈明をした際には回答を拒否している。それは関連性がないことだということで拒否された。さらに、釈明事項を修正して釈明をなしているのだけれども、現在はまだ回答されていないということでございます。ちなみに、この裁判は平成28年2月24日に実施され、以後10回、期日が実施されているのですけれども、平均的損害を超えないということに関する具体的な資料とかは提出されていないということでございます。

資料3-2に関して、ここから先は私の個人的意見ですけれども、もしこの事業者が自分の設定した割合、先ほど算式で示した割合が正しいとだけ述べて、何も積極的な資料の開示もしないということをした。それならば、消費者団体側で考えられるやり方としては、同種事業者の約款ではもうちょっとパーセンテージが低いとか、そういう主張をやっていくしかないと思うのですけれども、それでも、それは自分のところとは数字が違うと言われたときに、最高裁判例である事実上の推定というものが果たして働くのかどうか。

僕がもし団体の当事者としてやっているなら非常に怖いところでございまして、約款は消費者契約法9条1号に違反しないとだけ主張して、あと何もしないというときに、これでもし消費者団体側の主張が認められないということになると、正に本当に打つ手がないと思います。やるべきことをやっても、それで勝てないというのは、それが9条1号の実際の運用としての在り方なのかと思います。

今回、私が申し上げたかったことは、消費者団体としてもやれることはやっているということです。それを申し上げたくて、現状を報告いたしました。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。ただいまの御説明についての御意見や御質問は、この後のヒアリングの後に併せて行いたいと思います。

続きまして、適格消費者団体特定非営利活動法人消費者支援機構関西・検討委員長で弁護士の五條操様に御出席いただいております。お忙しいところ御出席いただきまして、ありがとうございます。

それでは、御説明をよろしくお願いいたします。

○消費者支援機構関西・検討委員長五條弁護士 弁護士の五條と申します。消費者支援機構関西、通称KC’sと言いますが、そこで差止めの検討をする部門の責任者という立場にあります。KC’sは去年、10周年を迎えた団体で、私は当初から関与しています。KC’sが提訴した差止め訴訟は確か9件です。その他差止め検討案件については、基本的には利益相反がない限りは全件について関与しています。法9条1号が問題になる訴訟もそうですが、交渉等についても関与しているということでお呼びいただいたと理解しております。

今日、この交渉や訴訟の実情について述べさせていただきますが、意見の要旨は以下のとおりです。判例上、平均的損害を超えることの立証責任が消費者側にあるとされているので、消費者側は平均的な損害を超えることを主張・立証する必要があるわけですが、実際には消費者側が事業者の協力なしに立証を行うというのは事実上困難で、なおかつ事業者の側が常に協力してくれるとは限らないというのが現状ですので、制度変更したほうがいいのではないかということを、経験に基づいて、今日、御説明します。

次に、資料に「前提問題としての『損害』の解釈」とありますが、これは法9条の要件の話で、立証の問題とは直接は違う問題ですが、実質上密接に関わり合っている問題です。私もこの9条の問題に関わっているのですが、この「平均的な損害」が一体何なのか、特に履行利益、平たく言うと「もうけ」の部分について、これが含まれるのか、含まれるとしてどの程度考慮するのかというのが、正直、裁判例等を見ても、よく分からないところがある。結局、はっきりしない部分があることが、立証の問題にも事実上影響しているところがあると思いますので、今回のヒアリングには、直接関係しないことですが、冒頭にこういった記載をさせていただいています。

次に本筋に入ります。まず、法9条1号の紛争の場合の主張・立証構造ということですが、平均的損害を超えること等について、実際にどういう立証手法が用いられているかということを説明します。

1つは、「足し算」型と資料に書いていますが、これは単なる私の造語で、分かりやすく説明しているだけのことです。これは、要は考え得る損害を列挙していって、これを足していくことによって平均的損害がどのぐらいなのかということを算定する方法です。これが本来の法9条1号の立証のあるべき姿だと思うのですが、消費者側がこれを立証しようとした場合に、個々の損害については事業者からの開示がないと算定がそもそも困難ですし、特に「もうけ」の部分については、これが含まれると考えた場合には、事業者側から教えていただかないと事実上算定することが難しいということになっていて、原告側の立証が常にできるわけではないというのが実情になっています。

次に、「引き算」型と書いていますが、これは差止め訴訟でこういった立証手法を採られる場合があるということです。これは例えば相手が100%に近いような違約金設定で、解除しても一切お金を返しませんという規定を置いている場合に、解除したら少なくともこの費用は掛からないはずであるから、100%取るのはおかしいのではないですかといった手法で立証する方法です。差止め訴訟に関しては、この立証が成功すると、少なくとも平均的損害を超えた条項を使っていることになるので、差し止めろという判決が出るのですが、正味のところ、どの程度の違約金の設定が正しいのかというのは必ずしも明らかにならない。

ということで、普通の個別訴訟では、こういう立証が成功しても、それでお金が返ってくるのは微々たる額になるということもあり得るので、個別訴訟では余り使われないのかなと考えています。

それから、もっと一般的なというか、間接的な立証の手法として、同業他社の違約金規定と大きな差があるということを根拠にすることがあります。ただ、これは御承知のとおり、9条の規定というのは、当該事業者に発生する平均的損害であって、同業者に発生する平均的な損害というわけではありませんので、これも直接立証というわけではないということです。こういった立証活動を行った場合に、裁判所がどの程度、これで事実上の推定になっていると考えるのかは、裁判例等でも必ずしも明らかになっていないのではないかと考えております。

次に、具体的にどんな立証が出てくるのかについては、先ほど井田委員が事例の説明等されているので、大体重なり合った話だと思いますが、まず事業者の側からは、平均的損害を計算した結果、こういうものですよという、エクセルの表であるとか、そういったものが資料として出てくる。これが出てくるだけでも、もちろん参考にはなるのですが、これは信憑性があるのかということを確認するためには、その裏付け資料が出てくる必要があります。しかし実際問題、裏付け資料を出してもらおうとすると、ものすごく大変というのが実情です。

次に、資料の「3 問題点」のところに移ります。実際、法9条に関する訴訟については、十分に資料とか証拠が出た上で裁判所が判断しているかというと、どちらかというと証拠を出す、出さないというところの議論がずっと続き、ぐるぐる核心の周りを回っているような形で争いがあって、平均的損害が一体幾らなのかというところになかなかたどり着かないというのが現状です。

その理由を消費者側から見ると、結局、資料は全て事業者が持っていることに帰着するわけです。もちろん、消費者側で用意できる資料というのもあるわけですが、直接的に平均的損害を計算するための資料は事業者側がお持ちである。立証責任は消費者側にあるということで、そこが難しいということが1点。

それから、平均的損害の資料というのは、ある証拠を出してもらったら、それで分かるというものではなくて、算定結果が主張内容であり、立証内容であるので、結局、何と何を足したら平均的損害が計算できるのかということも、これも事業者でないと分からないという部分があります。あと、現在の民事訴訟法には、文書提出命令等の制度があるのですが、「こういったもの、この資料を出してきたら分かる」ということが言いにくいという側面があります。

資料の3ページ目に移ります。私たちが差止め関係の実務をやっていて感じることですが、本来であれば、事業者は平均的損害を超えないように違約金の定めをしているはずなのですが、我々が指摘するまで平均的損害が何なのかということを算定していなかったのではないかと思われるところがあります。後になって資料が出てくるということもそうですし、あるいは私たちが質問で、「平均的損害をどういうふうに算定して、この規約を作ったのですか」と聞いたら、平均的損害については計算していませんという回答が返ってきたことがある。そうなると、もともと計算していない平均的損害が何なのかということを議論しても、なかなか議論が深まらないというところを感じております。

それから、資料の3(4)に書いていますが、今の制度では、事業者の側に証拠等を開示するインセンティブが働かないのではないかと考えております。これは、立証責任の構造がそうであるということです。

あと、私は弁護士ですので、当然いろいろな立場で依頼を受けて訴訟しているわけですが、相手方に立証責任がある事項について、立証責任がない側が積極的に資料を出して反証して何かをしようという場合は、2つあります。1つは、この証拠を出してしまえば相手は反論できないから、それで勝てますというケースです。もう一つは、ある程度相手の立証が成功していて、これを出さないと負けますよというケースでは証拠を出すことになるのですが、そうでないケースで、わざわざ立証責任もないのに証拠を出して、例えば依頼者から有利ですか、不利になりますかと言われた場合に、不利になるかもしれないですということを出すのはなかなか難しいのではないか。弁護士としての立場からすると、それはある意味当然なのかもしれません。

さらに、立証の対象が、先ほど言った利益や原価の部分に関わることなので、結局、営業秘密等に触れるのではないかとなると、なおさら事業者の側はこれを開示することをちゅうちょするというのは、相手の立場としても分からないではありません。

次に具体的な立証の問題について入っていきますが、先ほど来の御説明と重なり合っていますので、要点だけ述べると、事業者側の対応としては資料4ページの上ですが、普通は開示を拒否して抽象的に平均的な損害を超えていませんということが多い。算定根拠を示してくれた場合でも、本当にこの算定が正確かどうかということを判断するのが事実上難しい。というのは、先ほどの話で言うエクセルの表レベルのものは出してもらえることがあるのですが、それ以上、根拠になる元資料まで出すかというと、交渉段階で出てくることはまずないので、なかなか判断が難しいということです。

それから、適格消費者団体KC’sの個別の話でありますが、適格消費者団体で工夫していることについて若干説明させていただきます。私どもの団体では、交渉の際に公開段階と非公開段階というのを設けていて、非公開段階のやりとりについては基本的に開示しないというルールです。そうすることによって、平均的損害に関する資料を出していただいた場合にも、それを公開しないことで話合いをしやすくしていて、現にこのルールがうまくいって改善につながったり、こちらも「こういう収益構造になっているから、これぐらいはやむを得ないかな」ということで話合いができるケースもあるのですが、あくまでこれは任意のお願いでありますから、十全ではないということです。

あと、非公開下で見せてもらったものについて、その後訴訟になった際に、これと矛盾するのではないかと思われる資料が出てきた。おかしいのではないですかと言いたいのだけれども、あくまでこれは見せないということでいただいているものなので、「これを裁判所に見せてもいいですか」と相手方の事業者に訴訟で聞いたら、「駄目です」と言われて、結局、諦めたとなったという経験もあります。現在はこの非公開条件で見せていただいたものについても、訴訟になったら出すことがありますという内容でルールを改定しております。ただ、そうなると事業者の側としては、「訴訟になったらこれが出るかもしれないのなら、安心して出せない」ということで、工夫はしているのだけれども、痛し痒しの状態でやっている状況です。

それから、裁判外の話合いから、次に提訴するかの判断に至るわけですが、今、言ったように開示が不十分な状態で方針を判断しないといけない。その場合に、適格消費者団体は、あくまで敗訴した場合でも一般消費者の権利に影響がないというのが法律上の建前であるけれども、適格消費者団体が敗訴したときの影響が事実上大きい。本当にその平均的損害が下回っているということで敗訴するというのはやむを得ないのですが、立証が不十分で敗訴するということはできるだけ避けたいということもあって、なかなか難しい判断を迫られています。

提訴した後の状況についても基本的には同じなのですが、感じますのは、平均的損害に関する紛争がそんなにたくさんあるわけではありませんので、立証責任についてどのように考えるかというのは、裁判体によってかなり違うということです。ですから、あくまで消費者側に立証責任があるということは前提にしつつも、事業者側に資料の提出を強く促すような裁判体もありますし、あくまで立証責任の原則どおりに考えて、特に何もせずに淡々と進んでいて、結論が出たらあっさり負けてしまったという事例もあります。

あと、文書提出命令の申立てを行うこともあるのですが、先ほど井田委員からも説明があったとおり、結局、検討資料というのは内部文書であるとか営業秘密であるかというと、確かにそれはそうなのかと思うところも立場を離れればありますので、文書提出命令で資料を出してもらうというのもなかなか難しい状況です。

あと、内部文書であるとか営業秘密であることを理由に提出を拒否できないような文書としては、決算書類とか会計帳簿とか営業報告書等があり、これらは必要性があれば文書提出命令が認められるはずです。ただ、先ほど申し上げたように、それを見ただけで平均的損害を消費者の側で適切に算定できるかというと、なかなか難しいところであります。

あと、経験したところで言うと、算定結果について出てくるケースというのは、まだいいほうというか、極端な例になると、陳述書でこういった損害があります、こういった損害があります、大変なのですと証人尋問で立証される。もちろん、それに対して私たちも反論していくわけですが、数字がないとなかなかかみ合わないという例もあったので、御紹介しております。

最後に、適格消費者団体は事業者と和解をすることもあります。というのは、差止め判決というのは、あくまで今、使っている約款について使うなというだけで、特に法9条の関係の紛争では、差止め判決が出たとしても、事業者が約款を変更して少し料率を下げたら、今度はまた別の紛争になってしまうわけで、際限なく紛争が続くことがあり得るわけです。ですので、適切な線で和解するというのも大切なことなのですが、出てきている資料が不十分な状態だと、本当にこの和解をしていいのだろうかという判断が非常に難しいというのが実感です。私どもの団体は、現状では訴訟上の和解しかしていません。裁判外では資料が十分出てこないということもあって、裁判外で和解することはないのですが、訴訟上和解する場合でも判断が非常に難しい状況です。

今、申し上げたところに関して、最後に御意見を申し上げたいのですが、資料の5ページから6ページ目にかけてです。

法9条1号の立法によって、平均的な損害を超える金員、違約金等の支払規定が禁止されたわけです。それによって、本来であれば事業者は、違約金等の条項を作成する場合には、平均的な損害を調査・算定して、これを超えない範囲で違約金等の規定がされ、既存の違約金等についても見直しがされると期待されていたと理解しています。

その結果、事業形態ごとに違約金の相場としては大体これぐらいだという水準ができて、これと極端に乖離するような高い違約金を取っているところについては、事業者ごとに事情はあるにしても、それはおかしいのではないかとなるように期待されてされていたというか、私はそうなると考えていたのです。しかし実際、現状はそういうことが実現しているとは言い難いですし、裁判例とか判例のレベルであっても、冒頭に述べたように平均的損害というのが一体どういうふうにすれば算定できるかというのがなかなか分からない。

あと、学納金訴訟に関する平成18年最判で、事実上の推定が活用できる余地はあるけれどもと言われていたのですが、どういう場合に事実上の推定が成り立って、立証責任が事実上事業者の側にボールが投げかけられるのかも、裁判例等を分析しても現状でなかなかよく分からない。こういう現状には、いろいろな理由があるのだとは思うのですが、1つはこの立証上の問題で、立証責任の分配が実態に則していないということです。あと、先ほど申し上げたように、紛争類型の立証上の特徴に則したような立証上の手当てがされていないというのが大きな要因になっているのではないかと思います。

この状況を改善するためには、端的に平均的な損害の立証責任を事業者側に転換するというのが、最も直截かつ効果的であるとは思いますが、現行の立証責任の分配を前提にするにしても、推定が生じる場合を法的に明確化したり、あるいは事業者側に資料の提出責任を課すという方法にすれば、現状よりはよくなるのではないかというのが意見の要旨です。

ありがとうございました。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、先ほどの井田委員の資料とただいまの御説明に関しまして、質疑応答を行っていただきたいと思います。御質問のある方は御発言をお願いいたします。

中村委員。

○中村委員 御説明ありがとうございました。私どもは、こういう訴訟を余り経験したことがございませんので、非常に理解が深まったと思っております。

御質問、大きく2点ございまして、1つ目は、以前からもエクセルシートのようなものが出てくるというお話があって、どういうイメージなのかと思っていたのが、今日のお話で大体分かったのですけれども、私ども、こういう訴訟ではなくて、一般的な訴訟ということの中では、例えば売上げとか利益をエクセルシートの形で証拠として提出するというのは割とあることでございます。訴訟によってはそういう形、あるいは先ほど御説明ありましたように、陳述書でありますとか、証言ということで証拠が済んでしまうようなケースもままあるという印象を持っていますけれども、もう少し何かそれを裏付けるとして、例えば月別とか、もうちょっと詳細なデータを提出すれば少し助けになるということなのでしょうか。

と申しますのは、先ほど御指摘もありましたとおり、事業者の側からすると、個別の全ての利益構造を赤裸々に出すというのは、かなりハードルが高い部分もあるというところがある中で、どの程度まで出せば何とかなりそうなのかというところを若干伺えればというのが1点目でございます。

2点目につきましては、裁判上、営業機密に当たるようなことを開示する場合には、裁判の中では開示するけれども、裁判外に対しては開示しないという手続がございますけれども、そのような形で提出することについて、御協力というか、得られるのかどうかということ。

2点について教えていただければと思います。以上です。

○山本(敬)座長 これは五條さんにお願いすればよろしいでしょうか。

○中村委員 そうです。

○山本(敬)座長 それでは、お答えお願いします。

○消費者支援機構関西・検討委員長五條弁護士 どの程度資料を出せばということについては、正直、ケース・バイ・ケースです。先ほども申し上げたように、裁判外の段階では、大体エクセルのシート的なものしか出てこないのですが、それをもって事実上よしとして、こういうふうに改定されたので、差止め活動としてはこれで終了ということをやっている場合もあります。

他方で、訴訟になってエクセル的な資料が出てきた場合であっても、これは必ずしも信用できないから、その基になる資料を出せというケースもあって、これは正直、ケース・バイ・ケースとしか言いようがありませんし、あとは交渉や訴訟のどの段階で出てきたのかということ。あるいは、事業者がそもそも信用できるような相手なのか、単に違約金の料率が高いだけなのか、それ以外にも勧誘等でもおかしなことをいろいろやっている事業者なのかによっても出てきたものの信用性が違うので、一概には言えないというのが正直なところです。私たちの対応もケース・バイ・ケースです。

それから、閲覧制限に関しては、私たちは直接経験したことはありませんが、裁判所が閲覧制限の決定を出すのであれば、それで協力するというのが一般的な対応ではないかと考えます。ただ、一部、判決そのものについて閲覧制限がかかったりして、研究する際にはちょっと支障があるなと思うようなところは、第三者として見たらありますが、特に収益構造を広く適格団体として公表したいわけではないので、信憑性をあくまで確認したいという趣旨です。

○中村委員 ありがとうございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他に。

丸山委員。

○丸山委員 御説明ありがとうございました。

井田委員と五條先生にお伺いしたいことがあるのですけれども、9条1号を巡る訴訟が非常に大変だということは理解できたのですけれども、問題の所在ですが、証拠が出ないというのが最大の問題なのか、それとも損害の考え方、あるいはあるべき計算式とか基準が不明確という点がむしろ問題なのか、その辺の御感触を教えていただきたいということと。

そして、もし、同種の消費者契約を行っている事業者が用いている計算式とか違約金額から逸脱していれば、その逸脱の合理性について訴訟の相手になっている事業者に証明してもらうといった手当てがなされると、その問題状況というのは割と改善するのか、それとも同種の消費者契約を行っている事業者の損害額とか算定式との比較ということ自体もかなり困難を抱えるのか、この辺りを教えていただければと思います。

○山本(敬)座長 では、五條さんにまずお答えいただいて、井田委員にお答えいただくことにさせていただければと思います。

○消費者支援機構関西・検討委員長五條弁護士 まず、1つ目の御質問については、正直難しいというか、両者相まってというところだと思います。根本的には、確かに要件事実があって、立証の問題があるので、それは要件そのものが曖昧だということが問題だろうと思うのですが、少なくとも立証が改善されれば、裁判所は平均的損害が何なのかをもっと判断しやすくなることは間違いないと思います。学納金に関する最高裁判決を見ても、結局、ある分野で平均的損害が何で、それを超えないためにこうなりますという判断は一種の立法だと思います。裁判所は、あくまで法9条1号の要件を解釈しているのだけれども、事実上、3月31日に線を引いたりとかやっているのは、一種の立法ではないかと私などは思っています。

その際に、十分に証拠であるとか、業界の実情であるとか、そういったものが出ているのであれば裁判所は判断しやすいと思うのですが、そうではなく、不十分な立証しかされていないと、単純にその事案に対しての判断だけをして切ってしまう。レジュメにも少し書きましたが、例えば冠婚葬祭の問題については、高裁のレベルで結論が分かれていたのだけれども、最高裁は2個目の福岡の事件について上告受理しないで、結局、あの問題についてはどちらの高裁判決の判断が正しいのか、よく分からない状況になっています。そういった状況も、証拠の問題の影響というのが大きいのではないかと、私は直接代理人しているわけではありませんが、そういうふうに感じています。

次に、標準約款というか、業界団体が作っている約款の問題に関しては、逸脱について、逸脱していることの理由を証明する責任があるという規定を設けること自体は意味があることだと思います。ただ、消費者団体の立場から言うと、標準約款であっても、これはちょっと高過ぎるのではないかと思うものがあるので、それで全て解決というわけではないと思います。

○山本(敬)座長 では、井田委員。

○井田委員 御質問ありがとうございます。

前者に関しては、私も五條さんと同じ意見で、両方ともということにならざるを得ないと思います。特に私が示した資料3-1などは、資料が出ないとやりようがありません。なので、これも両方だと思います。

後者に関しましては、少なくとも同種の事業者の平均的な損害が立証できれば、事業者側から積極的に説明しない限りは平均的損害を超えるのだというルールが確立していただくと、それで全ての問題が解決するわけではもちろんないですけれども、やりやすくなるのは間違いございません。今、事実上の推定というお話もありますけれども、では、同種事業者の約款を幾つそろえればいいのかとか、変な話になるのです。それは、裁判官は独立判断、独立ですから、事実上の推定が個々ばらばらでは困るのではないかと思いますので、推定規定のようなものができれば随分変わってくるとは思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他に。

河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 今日はどうもありがとうございました。

一番初めに、この違約金条項は高過ぎるという感触を持たないと、差止め請求に行きませんね。あるいは、交渉しない。そのときの相場観というのは何で形成されているのですか。何でもかんでもいいから、これは高過ぎるのではないかと言って場当たり的にやっているわけではないはずで、その最初の相場観というものが何で形成されているのかというのが知りたかったものですから、お願いします。

○山本(敬)座長 それでは、お答えをお願いします。

○消費者支援機構関西・検討委員長五條弁護士 確かに資料が出ないと言いつつ、どうやって案件を決めているのだという疑問があるのは当然だと思います。いろいろな要素はあるのですが、1つは、業界の平均的な約款があるようなケースについては、それから逸脱しているかどうか。

それから、もう一つの要素としては、実際訴訟になっているものもそうなのですが、役務提供型の契約で履行するまでにかなり間があるようなものです。貸衣装とか結婚式の契約などについては、1年前だろうが、2年前だろうが、かなりの割合の違約金を取っているようなものについては、それは再契約の可能性があるので、幾ら何でも行き過ぎではないか。実際に私たちが提訴したものでも、1年半前ぐらいには実際に契約の実績はあるのだけれども、貸衣装の契約で30%ぐらい違約金を取っていたというケースがある。それは、1つは契約までの時期がものすごく長いのに一定額を取っているという例がそれに当たるということです。

もう一つは、先ほどもちらっと述べましたが、約款そのものの問題にプラスして、勧誘に問題があるようなケース。不意打ち的に勧誘させて契約させて、契約させたら、1日後やめたいと言っても、2日後やめたいと言っても違約金は払えという、事実上勧誘の問題と組み合わさって案件を決めているところは確かにある。というのは、勧誘の問題についても消費者団体は差止めできるのですが、勧誘については立証の問題と、あと勧誘の定型性の問題があって、差止めの俎上に乗ることがなかなか難しい局面があります。適格消費者団体が今までやっている事例でも、契約状況の問題と表示・広告の問題が圧倒的に大多数を占めているはずなので、そういうところもあって、事実上勧誘の問題が影響しているところはあると思います。

○消費者委員会河上委員長 何となく分かりますけれども、勧誘の在り方と違約金の額の多寡というのはちょっと別問題になるはずなので、そこはなかなか難しいかなという気がします。むしろ、最初の段階で、これは提訴したほうがいいかどうかと判断した、その部分を事実上の推定の議論とリンクさせることができれば、ある意味では両当事者にとって客観的な水準でもって立証責任が転換していくような仕掛けができるのではないかという気がいたしました。

ここから先は個人的な考え方ですけれども、通常、違約金に関する議論というのは、416条の通常の損害で決まってくるものなので、さっき逸失利益が入るのだろうかということをおっしゃっていましたけれども、これは入るのは当然だろう。本来であれば、事業者が相手の債務不履行を理由として損害賠償請求したときに出してくるものがあって、それと相手方がそれに対して、いやいや、損益相殺はこうだろうとか、いろいろなことを言って額を調整する。そういうことをいちいちやっていたのでは、コストがいっぱい掛かるからあらかじめ決めておきましょうというのが賠償額の予定の本来の趣旨です。

ところが、一方的に決めてしまっている賠償額の予定というのは、本来そういうベースがないところで行われているということになります。しかも、相手は自分の側の計算の基礎は出さないとか、いろいろなことがあったときには、これは山本先生のほうが御専門ですが、民事訴訟法248条で裁判官が適当なところで賠償額を決めています。そのような形で相場を決めて、そこで結果的には処理をするとすれば、立証責任の問題が少し別の方向で処理できるのではないかという感じがするのですけれども、この辺、もしよかったら山本先生、教えてください。

○山本(敬)座長 御指名ですので、山本和彦委員、お願いいたします。

○山本(和)委員 それに直ちにコメントするのは難しいのですけれども、248条というのは、損害額の立証が極めて困難であるという要件がかぶっていて、そういう意味では適用される場面というのはかなり限定されている。

ただ、実務においては、最近は比較的緩やかになってきているというところがあって、私の理解では、それは一方当事者の立証困難を救うというよりは、どちらかといえば、そもそも立証すること自体が非常に難しい。証拠自体がこの世の中に余りないというような、幼児の逸失利益が代表的なものですけれども、およそどちらの当事者も立証できないという場面がかなり主たる適用範囲で、相手方が多くの証拠を持っていて、自分が持っていないという場合には、民事訴訟法はむしろそれは証拠開示の問題として解決していこうとしているというのが私自身の民事訴訟法の理解ですので、248条的考え方が、どこまでこの問題に適用し得るのかというのは、なお慎重な検討が必要だろうと。

○山本(敬)座長 河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 すみません。あくまで可能性の問題ですけれども、事業者のほうが自分の営業利益とかもうけについて、経理の構造を明らかにするのは嫌だと考えているような場合に、消費者側としても立証はできない。事業者も出したくないという状況で、なおかつ、あるべき平均的損害を探さないといけないという場合に、これを消費者側に不利に落とすぐらいであれば、248条を使ってでも、裁判所の目で大体こんなところが相場かなというのを探す可能性というのは、解釈論としては難しいでしょうか。

○山本(敬)座長 山本和彦委員、お願いいたします。

○山本(和)委員 裁判所ではないので何とも言えませんけれども、裁判所はすごく嫌がるだろうなという想像はしますけれどもね。

委員長が言われるのは一つの考え方であるとは思います。ただ、民訴法的には事業者が嫌がるところを、できるだけ嫌がらないようなシステムを作っていく。例えば、特許でも同じ問題がありますけれども、特許法においては秘密保持命令という制度を作って、相手方当事者に秘密を刑罰付きで保持させることによって営業秘密を開示させる。それによって正しい解決を図ろうというシステムを作っているわけで、そういうところをぎりぎりやっていって、しかし、どうしても、そんなことによりは裁判所に適当に決めてもらったほうがいいのだという一般的なコンセンサスができるのであれば、もちろんそういう制度というのは論理的にはあり得るだろうと思います。

ちょっと続けて。

○山本(敬)座長 では、続けてお願いいたします。

○山本(和)委員 質問よろしいでしょうか。今のところに関連することで2つあります。

1つは、五條さんのレジュメの4ページに、相手方が否認、算定根拠について明らかにすることを拒否した場合の裁判体の態度として、積極的に釈明を求めていくか、どの程度働きかけるかというのは裁判体によって相当異なるという御指摘がありました。ということは、積極的な態度を取られる裁判体もあるということなのだろうと思いますが、その場合は、その事業者は裁判体から積極的に働きかけられたときには、それに応じるものなのかどうかということです。算定根拠を明らかにするとか、それについての資料を提出するという裁判体の求めに応じた態度を取るということが一般的と理解していいのかどうかというのが1点です。

それから、2点目は今の河上委員長の質問とも関係するのですけれども、非公開ルールというか、このローカルルールを設けて営業秘密等についての一定の配慮を示されているという実務を大変興味深く伺ったのですけれども、ということは、その事業者の主たる懸念というのは、秘密を保持するというのは、自分たちのコスト構造が知られて競争上不利になるという、直接、競業者等の第三者に対する懸念と、それから相手方当事者に対する懸念。この場合で言えば、適格消費者団体に対して、それを開示して、場合によってはその適格消費者団体から外部に漏れてしまうという懸念があるように思うのですけれども、どちらかといえば、ここで多くの事業者が問題にしているのは、その前者の懸念と理解して、第三者に直接漏れるということなのかどうか。

もしそうだとすれば、先ほど中村委員が御指摘になった訴訟記録の閲覧等制限決定が出れば、第三者は記録閲覧できなくなりますので、基本的にはその第三者に対して直接情報が漏れるということは訴訟上もないと考えていいだろうと思いますが、相手方に対しても、更に漏らすなということをやろうと思えば、先ほど私が申し上げた秘密保持命令のような特許法のような制度まで作らないと非常に難しいということになるような気もするのですが、その辺り、事業者の抱く営業秘密に対する実質的な懸念というのがどの辺りにあるのかということをお伺いできればと思います。

○山本(敬)座長 それでは、お答えをお願いいたします。

○消費者支援機構関西・検討委員長五條弁護士 裁判体が積極的に開示したほうがいいのではないのですかというケース自体がそんなに多いわけではないのですが、そういったケースでは、結論としては事業者は開示には応じてきました。開示した内容については、再契約率等が書かれたものについて、主張として出してきました。今の立証責任の構造だと、事業者側に立証責任がないので、そのエクセルの表的なものを主張として出しても、証拠として出しても同じだろうという判断があるのだと思いますが、そういったケースでは出してきました。

ただ、紆余曲折あったというか、たまたまその事件は差止め訴訟で、同じ裁判長が3件目だった。当初は冷たい感じだったのですが、いろいろ訴えかけた結果、証拠を出したほうがいいのではないですかというスタンスになりました。弁護士としての話に戻ると、私たちは裁判官の顔を見て訴訟活動を常にしています。裁判所が積極的にこれを出したほうがいいのではないですかと言ったら、出さないと負けるかもしれないなと思い、少しずつ小出しにしながら様子を見るというのが弁護士の活動になるので、そんなに他の例も違いはないのかなと思います。

○山本(敬)座長 2点目の、非公開ルールで営業秘密について一定の配慮をしていることについて、更に山本和彦委員から御質問があったように思いますが、この点についてはいかがでしょうか。

○消費者支援機構関西・検討委員長五條弁護士 すみません、これも私に対する質問だったのですね。

基本的には、こちらのスタンスとしては、文書提出命令の申立てをして、相手が営業秘密だという反論をしてきた場合には、むしろ訴訟記録の閲覧を制限する制度があるのだからいいのではないかという反論をしているくらいなので、適格団体として、それを広く漏らすということも想定していません。

あと、団体内部の話で言うと、訴訟の資料などは理事等には回付したりしていますが、全てしているわけでもありませんし、基本的に差止めを検討する部門とその他の部分は分かれていて、別に適格団体の会員だったら何でも見られるという制度になっていませんので、基本的には営業秘密的なものが出てきたときに漏れないようにする配慮は、団体としてはできると考えています。

○山本(敬)座長 事業者側は、むしろ他の競業者に秘密が漏れることを恐れているのかどうかという御質問だったと思いますけれども、感触にすぎないかもしれませんが、実際の経験からしますとどうでしょうか。

○消費者支援機構関西・検討委員長五條弁護士 その辺りは、適格団体としてそこまでは分からないです。ただ、相手方のことなので、適格団体がどういう団体に見えるかは事業者によって違うことは確かだと思います。

○山本(和)委員 であれば、ローカルルールを作っておられるということですけれども、これは相当の事業者が応じているという理解でいいのか、こういうことも拒絶する事業者はいるのか、その辺り。

○山本(敬)座長 お願いいたします。

○消費者支援機構関西・検討委員長五條弁護士 これもケース・バイ・ケースですね。応じてくださるところもあるし、全く応じてくれないところもあって、対応はいろいろです。

あと、平均的損害が争点になるケースとそうでないケースもあります。比較的大きな企業であるとか公的な性格を持っているようなところについては、開示が得られやすい傾向があるということは言えると思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他に御質問がありましたらお出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。

長谷川委員。

○長谷川委員 2つ質問をさせていただきます。五條先生と、できれば井田先生にも質問させていただきたいと思います。

先ほど五條先生の御説明では、訴訟に至ったのは9件と伺ったのですけれども、恐らく事前に交渉過程があってということだと思います。どれぐらいの案件を交渉されて、最終的に訴訟に至るのはどれぐらいなのかということが質問の1点目でございます。これは、今回の検討が始まった際に磯辺委員から伺ったことですが、たしか不当条項についてだったと思いますけれども、110件ぐらい案件があって、80件ぐらい是正されているということでした。多分、訴訟に至る前にということだったと思います。相場観といいますか、どれぐらい案件があり、そのうちどれぐらい訴訟に至るのかを教えていただきたいということです。

個別の紛争の解決はもちろん重要なのですけれども、それが今の御説明であったように立証が十分できないために訴訟で負けてしまうということで、法第9条第1号そのものが社会的に効果がなくなってしまうということだとすると問題だと思っています。要するに、訴訟に行ってもどうせ消費者側が勝つことはないのだからと事業者側が高を括り、この条項を使い続けるということになってしまっているのか、あるいはそういうことではなくて、そういった消費者団体の活動も尊重されて、もちろんこの条項を尊重して是正が行われているのか、実態が知りたいということが質問の背景でございます。

質問の2点目は、五條先生も井田先生もおっしゃられたと思いますけれども、同種事業者の事案を示して、当該事業者の損害賠償の予定額が平均的損害の額よりも大きいのではないかということを主張されたときに、裁判官の訴訟指揮みたいなものに何か変化が生じるのかどうかということでございます。

○山本(敬)座長 それでは、お答えをお願いします。

○消費者支援機構関西・検討委員長五條弁護士 交渉案件と実際に訴訟に至っているものの関係ですが、すみません、正確な数字は出てこないのですが、KC’sも少なくとも100件以上の事業者とは交渉しているはずです。KC’sは、恐らくは全国の適格団体の中では2番目に訴訟をたくさんしている団体だと思いますが、それでも訴訟に至っているのは9件なので、実際は多くの事例は交渉で終了し、ごくごく一部が訴訟になっているというのが実情です。

それは、理由としては、提訴してもなかなか難しいという案件もあれば、一定の改善が得られたので、これで終了ということもあるので、いろいろであります。訴訟に至っているケースというのは、いろいろな要因がありますが、1つは事業者側のビジネスモデルに関わるような契約条項で、事業者側も裁判外でなかなか改善が難しいケースと、もう一つは、コミュニケーションがうまくいかなかったケースです。話合いをしていると、普通の交渉と同じで落としどころというのが見えてくることがあるのですが、全然話にならないようなケースで、なおかつ放置できないようなケースは、提訴せざるを得ないと判断していることが多いです。

○山本(敬)座長 2点目が、同種事業者を基準にして不当条項かどうかを判断するとした場合に、裁判官の訴訟指揮に変化が生じるかという質問だったように思いますが、この点はいかがでしょうか。

○消費者支援機構関西・検討委員長五條弁護士 これは確実に変わるだろうと思います。というのは、先ほど申し上げたように、9条1号の条文構造があくまで他の同業者とは別ですという立て付けになっているので、他の同業者に比べて高いからといって、それだけで裁判所としても訴訟指揮しにくいところがあると思います。

○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。

長谷川委員。

○長谷川委員 申し訳ありません。

私の質問は、資料4の2ページ目の「2 立証」の「マル3その他の証拠」のところで、現行の法律制度の下でもこういった立証活動をされているということなので、そういうことをされたときに、現行法の下で裁判官の訴訟指揮に変化があるかどうかということです。

○山本(敬)座長 もう一度お願いいたします。

○消費者支援機構関西・検討委員長五條弁護士 裁判官の心証がはっきり分かるかという問題はあるので、何とも言えないところではありますが、同業他社の規定とかモデル約款とか裁判例は、主として消費者団体側から出しているものですから、私たちとしては、こういう立証をすることによって裁判官の心証を動かそうと思ってやっていることは、それは間違いないことだと思います。

○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。

他に質問があればと思いますが、いかがでしょうか。

松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 質問というよりは感想と言ったほうがいいのですけれども、五條先生の発言の中で私が一番共感したのは、勧誘に問題があるケースで、かつ違約金、損害賠償額の予定が高額と思われる一群のケースがあるという部分です。日々、消費者相談を見ていますと、確かにそういう一群のケースがございます。強引な勧誘でわっと契約を取って、最後の履行までやるのではなくて、消費者から解約させて解約損料の形で収益を上げようと仕組まれたビジネスモデルではないかと思われるような感じのものがあります。

現在の消費者契約法は、勧誘は勧誘、契約条項は契約条項ということで完全に2つに分かれているところがあります。今回は全く間に合わないですけれども、将来の課題としてはそういうタイプの問題もあるのだということで、両者をあわせて1本にするような感じのルールを考えていく必要があるのではないかという印象を持ちました。

ありがとうございました。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

他に御質問等があればと思いますが、よろしいでしょうか。

では、山本健司委員。

○山本(健)委員 御報告をいただきまして、ありがとうございました。

資料4の3ページの上から4から5行目で「違約金等の料率等を算定していないと思われるケースがある」という御指摘を頂戴している部分について、業種的に特定の業界に絞られていることなのか、それとも、業種横断的に広く妥当していることなのかという点と、量的にどれぐらいのボリュームなのかという点について、教えていただけますでしょうか。

○山本(敬)座長 それでは、お答えをお願いいたします。

○消費者支援機構関西・検討委員長五條弁護士 これについては何とも言えないところはあるのですが、私たちが当初、レターを送って、この違約金規定についてはどういう根拠でやっているのですかということをお聞きしたときに、具体的な算定根拠を示して、こうなっているから、この条項は妥当なのですという説明をしてこられるケースはほとんどないというのが実情です。ですから、そういったところを見たり、あるいは先ほど言ったように、質問したら、そもそも平均的損害について計算していませんという業者もあります。私たちの経験では、最初から計算した上で違約金の料率を決めているというのは、業界団体が作っておられる約款等を除けば余りないのではないかという印象を持っています。

○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。ありがとうございました。

他に質問があればと思いますけれども、よろしいでしょうか。

それでは、適格消費者団体特定非営利活動法人消費者支援機構関西へのヒアリングはこの辺りとさせていただきます。お忙しいところヒアリングに応じていただきまして、誠にありがとうございました。

井田委員もありがとうございました。

最後に、事務局から事務連絡をお願いいたします。


≪4.閉会≫

○丸山参事官 本日も熱心な御議論をどうもありがとうございました。

次回につきましては、5月26日金曜日12時からの開催を予定していますので、よろしくお願いいたします。

○山本(敬)座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。お忙しいところ、お集まりいただきまして、ありがとうございました。

以上