第33回 消費者契約法専門調査会
日時
平成29年2月24日(金)15:00から17:30
場所
消費者委員会会議室
出席者
- 【委員】
- 山本敬三座長、後藤巻則座長代理、有山委員、石島委員、磯辺委員、井田委員、大澤委員、河野委員、永江委員、中村委員、長谷川委員、増田委員、丸山委員、山本和彦委員、山本健司委員
- 【オブザーバー】
- 消費者委員会委員 河上委員長
- 法務省 中辻参事官
- 国民生活センター 松本理事長
- 【消費者庁】
- 小野審議官、消費者制度課担当者
- 【事務局】
- 黒木事務局長、福島審議官、丸山参事官
議事次第
- 開会
- 「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方
- 条項使用者不利の原則
- 閉会
配布資料(資料は全てPDF形式となります。)
- 議事次第(PDF形式:9KB)
- 【資料1】 個別論点の検討(消費者庁提出資料)(PDF形式:108KB)
- 【資料2】 井田雅貴委員提出資料(PDF形式:39KB)
- 【資料3】 今後の審議スケジュール(案)(PDF形式:17KB)
議事録
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≪1.開会≫
○丸山参事官 それでは、定刻になりましたので、会議を始めさせていただきたいと思います。
本日は、皆様、お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。ただいまから、消費者委員会第33回「消費者契約法専門調査会」を開催いたします。
本日は、所用によりまして、沖野委員、後藤準委員、柳川委員が御欠席との御連絡をいただいております。
まず、配布資料の確認をさせていただきます。議事次第下部のほうに配布資料一覧をお示ししております。
もし不足がございましたら、事務局までお声がけのほう、よろしくお願いいたします。
それでは、山本座長、以後の議事進行をよろしくお願いいたします。
≪2.「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方≫
○山本(敬)座長 それでは、本日の議事に入ります。よろしくお願いいたします。
本日は、消費者庁から個別論点の検討のための資料として、資料1を提出いただいています。本日の進行としましては、まず「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方について御検討いただき、その後、条項使用者不利の原則について御検討いただくこととしたいと思います。
まず、消費者庁から「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方について御説明をお願いします。
○消費者制度課担当者 それでは、資料1に基づきまして、担当者である私のほうから内容を御説明させていただきたいと思います。
まず、資料1の1ページをおめくりください。こちらで「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方について御説明を差し上げます。
1ページの1ポツで、これまでの検討ということを書いています。四角囲みで書いていますように、専門調査会の報告書でまとめられたところを掲載させていただいております。
その下に「これまでの検討においては」と書いていますように、「平均的な損害の額」及びこれを超える部分についての立証責任は消費者にあるとした最高裁判決を前提とした上で、「平均的な損害の額」に関する証拠の提出が消費者には困難であることへの対応策として、マル1立証責任を事業者に転換する考え方や、マル2推定する規定を設ける考え方などが検討されたところですが、これらについて引き続きの検討課題とされたものです。
それから、2ページの上のほうに書いていますのは、解釈の明確化による対応ということで、法第3条第1項の趣旨に照らして、この「平均的な損害の額」が問題となった場合においても、情報を提供するよう努めなければならないということについての記載がございましたので、この点についても御紹介させていただいております。
今回の資料では、2ポツのところから問題点の整理ということで整理を行わせていただいておりまして、最初の4行の「本論点は」で始まるところですが、これまで「『平均的な損害の額』の立証責任」の論点ということで議論されておりました。しかし、その問題点というのは、先ほど申し上げましたように、「平均的な損害の額」を算定するための根拠資料が主として事業者に保有されているという状況の中では、そのような資料が事業者からの提出に委ねられているわけですけれども、事業者からはそれが積極的に提出されないという点にあるということを書いています。
そして、この点は、「例えば」で始まる段落で、消費者庁の運用状況に関する検討会報告書で事例が報告されたり、意見が示されていたところでございますし、裁判官から見た実態としても、司法研修所の文献において、裁判官アンケートの結果でも、どちらも十分な主張立証を行わないことがあるという記載がございます。
それから、朝倉判事の論考においても、「裁判例を見ると、事業者が全く証拠を提出しない等の訴訟活動をすることがままある」といった記載が見られるところです。
3ページですが、もっとも、こうした証拠が提出されないという問題と、立証責任の所在の問題というのは、必ずしも直接的に結びつくものではないということが留意されるべきではないかということを書いています。
すなわち、「立証責任」、場合によっては「証明責任」とも呼ばれるものですが、これは立証する責任というものではなくて、ここに書いていますように、「訴訟上、ある要件事実の存在が真偽不明に終わったために当該法律効果の発生が認められないという不利益または危険」と理解されておりまして、この立証責任の所在というのは、真偽不明、つまり裁判所が事実の存否について確信を得られない場合に、裁判所がいずれの当事者を敗訴させるべきかという問題として考えられるわけでございます。
後ほどまた詳しく述べますが、立証責任を転換した場合には、結果として事業者が積極的に証拠を提出することが期待されると考えられますが、その立証責任が相手方にあるということは、自らは何らの反証活動をしなくてもよいということを意味するものではございません。立証責任の所在とは別に、誰がどのように事実を認定するために必要となる証拠を提出すべきかという問題とは必ずしも一致するものではございませんので、別途の問題として検討することが考えられるのではないかという整理をしています。
4ページの図が、これまでの考え方とあわせて、その点を記載しているところでございます。
上段が立証責任の所在の問題ということで、先ほど申し上げましたとおり、「平均的な損害の額」及びこれを超える部分が真偽不明となった場合にどうなるかということです。この場合に、立証責任を転換する考え方をとった場合は、ここは無効という形で変わるということですが、ここが有効になるか無効になるかということが大きい転換ではないかという議論であったわけです。
この論点でもともと問題とされています証拠の提出の問題という、下の段の記載を見ますと、現状は立証責任がないということで積極的に提出を行わない場合があるということですが、記載されている考え方はいずれもそれぞれ内容が違うわけですが、それぞれ証拠提出を促す手段になり得るわけでして、証拠の提出の問題として見た場合には、必ずしも立証責任を転換するという考え方のみならず、様々な選択肢があるのではないかということです。
5ページから、今、申し上げたような考え方を再度確認しつつ、整理してお示ししているところでございます。
まず、(1)立証責任を転換する考え方については、先ほど申し上げたことと重なる部分もございますが、最高裁が「事実上の推定が働く余地があるとしても」という留保をした上ではありますが、基本的には消費者の側に立証責任があるとしています。しかし、このような最高裁の判断を前提としていても、証拠は主として事業者に保有されており、消費者による立証が困難な場合があるということが問題意識です。先ほども申し上げましたが、立証責任を転換するという考え方は、そのような問題の端的な対応策の一つとして考えられます。
すなわち、立証責任を転換した場合には、必要な証拠が提出されず、裁判所にとって確信が得られない、真偽不明となってしまうと、効果としては当該条項が無効と判断されることになってしまいますので、結果として事業者は無効になるという不利益を避けるために、真偽不明という状態を解消するために積極的な立証活動を行うということが考えられるわけです。
損害賠償額の予定又は違約金を定める条項というのは、事業者のほうで定めている条項ですので、その額について争われた際に、事業者のほうで自ら定めた金額が平均的な損害の額を超えるものではないということを立証させることは酷ではないのではないかと考えられ、一方で、消費者からの立証は困難であるという状況を鑑みますと、政策的に立証責任を事業者に転換するという考え方自体はあり得ると考えられます。
しかし、他方で立証責任を転換するという考え方をとりますと、先ほども申し上げましたとおり、裁判所が「平均的な損害の額」を超えていないとの確信を得られない場合には無効と判断される。つまり、平均的な損害を超えていないという9条1号の要件を満たしているかいないかというところが、はっきり確信が得られない場合に無効となるということですので、この見方からすれば、損害賠償額の予定や違約金を定める条項が原則的に無効となってしまうということではないかと捉えられるわけでして、そういう趣旨での反対の御意見が示されていたところです。
最後の段落で書いていますのは、先ほど申し上げましたように、証拠提出という問題への対応策については、後述のような別の案も考えられるところでございまして、他方で、この対応策として立証責任を転換するということが適当であるかという点については、意見の一致を見ることがなかなか難しい問題でございまして、慎重に検討していく必要があるのではないかということです。
それから、6ページでは、推定規定により立証の困難を緩和する考え方というものを書いております。これは、これまで議論していたところを敷衍しているところでありますけれども、「平均的な損害の額」及びこれを超える部分の立証責任は消費者にあるとした上で、推定規定を設けるという考え方を示してございました。
ページの真ん中に掲載している図を見ていただいたほうがよいかと思いますけれども、左側で消費者から右下に伸びている矢印が、当該事業者に生ずべき平均的な損害を立証するということを示しています。この矢印が現行法でもともと予定されている立証活動ですが、ここで推定規定を設けた場合には、消費者から右上に伸びているマル1の矢印のように、同種の事業を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害というものを消費者が立証することができ、そうしますと、そこから下に伸びています矢印で推定と書いてありますが、この上の箱から下の箱が推定されることになります。すなわち、消費者は下のほうを立証しなくても、上のほうを立証すれば、その推定規定によって立証が緩和されることになります。
他方で、同種の事業を行う通常の事業者の損害額がそうだとしても、当該事業者にとっては違うものであるということで事業者が主張される場合には、事業者のほうでマル2の矢印ですが、下の箱の「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」というものを立証する。これによって、この推定が覆される。このような構造になっているわけです。
図の下の方の記載ですが、このような考え方を立法化すれば、「同種の事業を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害の額」というのは、当該事業者ということではありませんので、消費者にとっても公表されている様々な資料や調査結果、当該業種に生ずる損害というものを立証していくということが考えられ、消費者による立証の困難さを一定程度緩和することができるのではないかということでございます。
もっとも、このような考え方につきましても、「同種の事業を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害の額」の規定の前提となる事実について消費者が立証した場合には、その推定を覆すために事業者も立証しなければならなくなるという点において、立証の必要性が生じるわけですから、慎重な検討を求める意見ということが示されていたところです。
それから、7ページの(3)では、事業者による根拠資料の提出を制度的に促す考え方をお示ししています。これまでの専門調査会で、平均的な損害の算定の根拠となる資料を提出しない等の訴訟活動がままあると言われている中で、そういう事業者の訴訟対応が不熱心であるということを解消するために、これを制度的に促すということが考えられるのではないかということです。
ページの中段の「そのような制度としては」で始まるところで書いてございますが、ここで御提案しておりますのは、裁判所が「平均的な損害の額」の算定の根拠となる資料の全部又は一部という形で提出を命ずることができる旨の規定を設けてはどうかということでございます。
下に参考条文で会社法の条文を挙げていますが、会社法では、こういう会計帳簿とか計算書類等についての提出命令という規定がございます。しかし、上の「もっとも」ということで書いてございますが、この規定は、そういう会計帳簿や計算書類等、会社法の中でも明確に定められた文書について、提出させるという命令ですので、何を出さなければいけないのかということが非常に明確になっているわけです。他方で、「平均的な損害の額」の立証に必要と考えられる文書は、必ずしも会計帳簿や計算書類等のように明確に特定されるわけではございませんので、もし規定を設けるということであれば、この対象資料の明確化という点が課題になるのではないかということです。
それから、8ページで、似たような考え方ですが、別の条文もお示ししておりまして、ここは特許法の参考条文をお示ししています。特許法では、105条で、当事者に対し、当該侵害行為について立証するため、又は侵害の行為による損害の計算をするため必要な書類の提出を命ずることができると記載されているわけです。他方で、正当な理由があるときは、この限りでないというただし書もあるところです。
これは、特許侵害訴訟という訴訟類型に着目して定められた規定と考えられますので、訴訟類型が異なる消費者契約において、そのまま使えるというわけではありません。こういう規定があるというのをあくまで参考とした上で、消費者契約においてどういうことが考えられるかということがここの検討課題であるわけですけれども、「もっとも」というところで、「平均的な損害の額」の立証に関する現状の問題点に対処するために資料提出を促す制度としては、民事訴訟法220条で一般的な証拠提出義務というものが定められているわけです。このような規定がある中で、消費者契約法に特別の規定を設ける必要性・合理性があるかという点については、しっかりと慎重に検討する必要があると書いております。
8ページの「4.取るべき対応策の検討」というところで、これまで御説明を差し上げたところをまとめているわけですけれども、これまでの専門調査会の検討では、論点のタイトルが「『平均的な損害の額』の立証責任」であったこともありまして、立証責任の所在というものがかなり中心的に捉えられ、議論されてきたのではないかと思います。しかし、この立証責任の転換という考え方については、先ほど御説明した効果の点もありまして、意見がなかなか一致しないというところで、この論点についての合意を得るための障害となっていたのではないかと思います。
他方で、先ほど申し上げたように、「平均的な損害の額」の算定の根拠となる資料が事業者から積極的に提出されないことがままあるという実態については、是正されるべき必要性というものがあるのではないかと思います。
そこで、今回、御提案しておりますのは、立証責任の所在については現状を維持することとする。他方で、マル1消費者の立証活動を容易にする制度、あるいはマル2事業者からの証拠提出を積極的に促す制度が設けられる必要があるのではないかということです。
まず、マル1の立証活動を容易にする制度としては、先ほど御説明差し上げた推定規定により立証の困難を緩和するというものが考えられます。この推定規定の規律というものは、提案している内容では、必ずしもあらゆる場面において立証の困難を緩和するというものではないと思われますが、他方で、立証責任の転換のように、全て事業者の方の立証を求めるというものではなく、可能な範囲で消費者から立証活動を行い、それに対して、事業者側にも立証活動を求めるということですので、立証責任を転換しない場合の対応としては、消費者側と事業者側の立証の負担についてバランスをとったものと考えられるのではないかということでございます。
これに対し、マル2事業者からの証拠提出を積極的に促す方法としては、先ほどの証拠提出の制度的なものが考えられるわけでございますが、この点は先ほど申し上げたとおり、文書提出義務が一般的な規定としてある中で、消費者契約法に特別の規定を設ける必要性・合理性があるのかといった課題があるわけでして、この点を慎重に検討する必要があると考えてございます。
「なお」というところで書いてございますが、ここは訴訟上の制度として御提案しているわけですが、先ほど申し上げましたとおり、法3条1項の趣旨に照らすと、努めなければならないという範囲で、必要な情報を提供することが求められているわけでして、これを訴訟という場面に限った場合に、より具体的な制度が設けられるのではないかということで提案しておりまして、こういったものを活用して、相談現場・訴訟の双方において、より改善することが可能となるではないかということで考えております。
最後の四角囲みのところでは、マル1のほうは、先ほどの推定規定の考え方をお示ししているところでございますが、消費者としては、「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」か「同種の事業を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害の額」か、いずれかを選択的に立証して、「同種の事業を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害の額」の方を立証した場合には、その額が当該事業者のものと推定されるということでございます。
マル2のほうは、先ほどの証拠提出の制度については、課題を慎重に考慮しつつ検討するということでお示しさせていただいたものです。
以上でございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
それでは、「平均的な損害の額」の立証に関する規律の在り方について御議論いただきたいと思います。
まず、議論に先立ちまして、本日、井田委員から資料2を御提出いただいていますので、その内容について簡潔に御紹介いただきたいと思います。
○井田委員 お時間いただきまして、ありがとうございます。私のほうから、資料2に基づきまして、実際の訴訟の実情というのを御紹介し、議論の材料にしていただきたいと思っております。資料2は、私が実際にこの事案を担当した訴訟代理人弁護士のほうから聞き取った内容に基づいてまとめたものです。事案の概要としては、資料2に書いているような事案でございまして、問題となった契約条項は、別紙契約条項という形で、3ページ目につけさせていただいております。この解約料というものが、平均的な損害を超えるかどうかということが争点になっております。
より細かく申しますと、そもそもまず平均な損害に逸失利益を含むのかどうかという点がまず1つ。仮に含むとして、その算出方法。別紙契約条項の各解約料が、その算出された逸失利益の額を超えているかどうかと、その3つが争いになったものです。ここで原告の主張・立証活動と被告の主張・立証活動ということを御覧いただきたいのですけれども、いわゆる逸失利益の算出方法といたしまして、見積額×粗利益率×非再販売率で算定されるべきということ。これについては、判決もこの計算方法を採用しているということでございます。
被告、つまり事業者側は、この粗利益率に関しましては、準備書面などで数値は出すのです。粗利益率は何%であるということは出す。あるいは、再販売率を算定するに当たっての解約数あるいは再販売数、そういうものは準備書面では主張されるのですけれども、その資料の提出を求めた適格消費者団体に対しては資料の提出はしないという訴訟活動をしばらく続けていらっしゃったようです。
最終的に事業者側が出してきた資料というのが、立証資料というところに書いておりますが、最終的に、被告のキャンセル時点での見積額、キャンセル確定後の同日同会場同時刻での販売の有無などが記載されたエクセル表、あるいは被告における粗利益表などの書類。一覧表みたいなものは提出されましたが、その一覧表の基となった資料については一切提出がなかったということでございます。
1つめくっていただくと、問題点というところで、これは適格消費者団体側から見た問題点ということで、原告側としては、単なる数字だけではなくて、実際にそのような解約件数があるのかどうか、再販売数が正しいのかどうか、粗利益率の記載が正しいのかどうか。それを検証する資料を出していただかないと、被告側の主張が正しいかどうかの検証のしようがないという状態でありました。それでも、原告としてはできる限りの証拠を提出したのだけれども、最終的に結局、被告のほうからは一覧表が提出されたのみであるということです。
この訴訟におきましては、適格消費者団体側のほうから文書提出命令の申立てがなされたわけですけれども、理由は、自己利用文書とか職業の秘密に該当する文書ということで、いずれも申立ては却下されたということでございます。最終的には、裁判でも事業者側が提出した一覧表に基づいた事実認定がなされ、前ページの数式に則って逸失利益を計算すると、いずれも別紙契約条項に定める解約金は、計算された逸失利益を超えるものではないという理由で団体側の請求が棄却されたということでございます。
先ほども少しお話がありましたけれども、特に粗利益率とか再販数、再販率というのは、適格消費者団体側では資料の出しようがないということでございまして、実際の裁判ではこのように苦慮しているということの一つの参考までに紹介させていただきました。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
それでは、引き続き、御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。
山本健司委員。
○山本(健)委員 御説明いただきまして、ありがとうございました。
平均的損害に関する消費者の立証負担の軽減促進という観点から、マル1やマル2のような趣旨の規定を設けることに賛成いたします。
9条1号は「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」を超える部分の違約金条項等を無効にする法文ですので、実際にそれを適用するためには、当該事業者の平均的な損害の額や平均値の算定の在り方が問題になることに加えて、そもそも「損害額算定の基礎資料」がなければ平均値の算定は困難です。
ところが、9条1号をめぐる訴訟では、事業者によっては、主張する平均的損害の合理性を裏づける証拠を提出しないとか、訴訟用に作成されたエクセル表や陳述書のみを証拠提出して、そこに記載された数値の信憑性を裏づける基礎資料を提出しないといった訴訟対応を行うと聞いております。先ほど井田委員が京都の適格消費者団体の裁判例を御紹介くださいましたけれども、私も大阪の適格消費者団体の方から同じようなお話を聞いております。9条1号の平均的損害の立証責任の軽減は、実務上、非常に重要な問題です。
この問題について、日弁連は「平均的損害の立証責任を事業者に転換する方法で対処すべき」というのが持論であり、第1ステージでもそのような主張をさせていただきました。
しかし、本日の資料1でも御指摘のとおり、この問題については専門調査会の中で見解の相違があり、このまま関係者が自説に固執すれば、何もまとまらない、何も変わらない、現状が今後も放置されるといった、望ましくない事態となることが危惧されます。これは回避する必要があると思います。
そこで、平均的損害に関する立証負担の軽減を現在よりも進めるという観点から、今回の法改正では本日御提案のマル1マル2のような趣旨の規定を設けるという方向に賛成いたします。
そのような前提で、マル1マル2の具体的な提案内容を比較すると、業界の標準約款が過大な違約金条項を使用しているという事案もあることを考えると、どちらか一方ということであれば、そのような事案にも対応できるマル2の提案の方向性のほうが望ましいと考えます。
もっとも、マル1の提案も、業界の標準約款よりも過大な違約金条項を使用している事業者に対しては立証負担の軽減につながるという点では一歩前進になると評価いたします。ただ、業界の標準約款よりも過大な違約金条項を使用している場合しか無効にならないといった誤った理解を実務に与えないよう、マル1を採用することになった場合には、業界の標準約款自体が別途に9条1号や10条に反することもあり得るという点について、一問一答や逐条解説で明らかにしていただく必要があると考えます。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
増田委員。
○増田委員 適格消費者団体として、私どもが美容外科クリニックに申し入れをした事案ですけれども、一定程度の改善をされた中で、キャンセル料については、2週間前を過ぎても手術予定日の変更・キャンセルには応じますが、既にかかってしまった実費相当額については御負担いただくことがあります。ただし、その費用の請求は、消費者契約法の規定に従い、平均的な損害の範囲内ですという回答で終わっている状況です。その立証が非常に困難であろうということで、このときにはこれで今後について様子を見るということで終了になってしまっております。
私どもは、週末電話相談室というものを開設しておりますが、そういう中においても、撮影サービス、結婚式のビデオを撮影するという契約において、契約して3日後にキャンセル料が30%というものであったり、結婚式場と美容外科もいつも一定の相談件数が入っています。例えば結婚式の場合ですと、463万円の契約で45%の解約料を請求されたという相談もありました。業界団体の規定ですと30%ですので、それよりも相当高いということがあります。もともと業界団体の規定が、現状の消費者契約法にのっとったものかどうかということもちょっと疑問があるようなケースもあります。
また、業界団体がない業種もありますし、業界団体に入っていないところが数多くあるような業態もあるということからすると、今回の御提案に関しては、以前から申し上げている問題というのが引き続きあると思います。ただ、今後、何らかの採決をしていかなくちゃいけない、合意をしていかなくちゃいけないということについては検討の余地はあるかなと思いますが、私どもの団体としては、こういう問題があるということはお伝えをしていきたいと思っております。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
大澤委員。
○大澤委員 2点が質問で、1点は意見を述べさせていただきたいと思います。
まず、質問の1点目ですが、これはどちらかというと実務に携わっている方に伺いたいのですけれども、マル1で「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」又は「同種の事業を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害の額」のいずれか又は双方を立証して、それで立証責任を緩和するという方法が提案されているのですが、これで本当にどれぐらい立証負担が緩和されるのでしょうかというのが1点です。「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」あるいは同種の事業者ですので、もちろんどちらかでいいのでしょうが、今までのお話を伺っていますと、これで本当に今までより立証が楽になるのかなというのが素朴な疑問です。これが1つです。
2つ目の質問は、これも実務の方か、あるいは訴訟法に詳しい先生に伺ったほうがいいかもしれませんが、マル2のような制度、根拠資料提出を促す制度ということで、もちろんこれができるのであれば、一つのあり得る方法なのかなと個人的には思いますが、先ほどの井田委員のお話などを伺っていて考えたのですけれども、営業秘密にかかわる部分もかなりあるのではないかと思っています。
もちろん、思い切ってこういう制度を作るのだということであれば、その根拠付けはかなり慎重にやらなきゃいけないのでしょうけれども、そもそも営業秘密にかかわるような資料を命令で出してくださいということが本当に可能なのでしょうか。私、訴訟法は全く詳しくありませんし、実務的な運用も分かりませんので、どなたか教えていただければというのが質問、2点目になります。
その上で、3つ目は私の個人的な意見ですが、本日の資料の5ページの下から2つ目の段落の「しかし、他方で立証責任を転換する考え方を取ると」というところを読ませていただいて、1つ気になったことがあるのです。立証責任を転換するという考え方を取ると、損害賠償の額の予定又は違約金を定める条項を原則的に無効にすることになるのではないかという意見が出ているのですが、これは本当にそうなのでしょうかということです。
と言いますのは、賠償額の予定または違約金を定める条項というよりは、その中でも特に消費者にとって過大な金額を課すものを問題とするわけです。平均的な損害の額を超えるような賠償額の予定条項を無効とすることもおかしいのだということなのかもしれないのですけれども、過大な額を定めていれば、条項全部無効か一部無効かという問題はありますけれども、無効になるというのは、民法でも賠償額の予定であれば常に有効だと言っているわけではないことからもおかしくないと思います。
現に公序良俗違反などで過大な部分を無効にしているものもありますし、このたびの民法改正法案でも420条で賠償額の増減はできませんという部分は削除されていますので、例えばこの点に関して、「平均的な損害の額」を超える部分のみ無効と推定するということは、立法的に不可能じゃないのではないかという印象を持っていますが、先ほどの2点の質問を伺った上でもう少し考えたいと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
9ページのマル1、マル2、それぞれについて、これでどのような意味が本当に出てくるのかという御質問ですが、どなたにお答えいただければよろしいか。
では、磯辺委員。
○磯辺委員 マル1の形をとった場合の有効性という観点から、私どもの経験を1つ御紹介したいと思います。どの程度、大澤先生の問題意識にぴたっと沿った説明になるかどうか、確信がありませんけれども、とりあえず御紹介させていただきますと、美容医療外科医院の事案でして、キャンペーン料金と通常料金がありまして、当初、キャンペーン料金で申し込むと、申込みは2カ月ぐらい前から受け付けるのですけれども、キャンセルは一切できず、キャンセル料も手術代全額だという定めがあったもので、これは申入れをして、キャンペーン料金適用時にも時期に応じて手術費用の3割から100%ということで、それぞれ違約金規定が定められて終了している事案です。
これについては、手術予定日の2カ月以前だと手術費用の30%という違約金で今、終了しているわけですけれども、ほかの美容医療をかなり聞いて回りました。ウエブサイトで表示してあるキャンセル規定などを随分見たのですけれども、医療機関ですので、余りこういった長期、2カ月前から違約金を取るという事例はほとんどなかったのですね。かなりの部分は実際に手術をするかしないかで費用が発生したということで判断される場合が多い。もしくは、もっと直近で違約金が発生する場合が多かった。
そのことも含めて相手方にぶつけたのですが、相手方からは、いや、そこまで言うのだったら、キャンセル料はどういうものが適正なのか、そちらから提示してくださいという書面回答をいただいたという経緯がありまして、それ以上はなかなかこちらも突っ込めない。事業の実態は分からない。事業の実態の中でも、2カ月前からキャンセルしても、医薬品とかはほかにも回せるのではないですか等いくつか具体的に質問した事項についてだけは、いや、そういうことはありませんと質問した事項に限っての反論がきています。それ以上、どういう業務の事情でこういうキャンセル料になっているのかという総合的な御説明はないということで推移しています。
結局、実際に差止請求訴訟を考えたときには、当方に立証責任があるということで、従前よりも改善されているということと、それと、消費生活センター等に寄せられている被害情報もかなり減ってきたということで、そんな経緯を踏まえて終了したという事案がありまして、ここは立証責任のところが非常にネックになったなという経験がございました。
○山本(敬)座長 今のはマル1の有用性についての御指摘ですけれども、マル1についてもですが、更にマル2についても、このような意味が出てくるのではないかというお答えがもしあればお出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。
有山委員。
○有山委員 最近、調査業に調査依頼をしたという相談ですけれども、トラブルの原因は、外国にいる退役軍人と日本で生活するためにと騙されて、来日の航空券の代金を送った。それを取り戻したいということで探偵業者に申し込んだのです。、探偵業者では、一度契約した後は、調査を開始したら80%の違約金を取るという条項があるのですが、相談者は契約した翌日に解約したということで、違約金が高いのではないか。約7万5,000円です。何を調査するかというと、調査業者は、その退役軍人がその女性と付き合っているSNSにおけるサイトを見ることによって住所を確定するのだというのですが、そのSNSで住所を確定するような情報はとれない。
そして、大した内容も見ていないと思われるのですが、相談者が退役軍人のパスポートとか身分証明書、軍属である証明書なども提示しているので、そういうもので、SNSを見ても何ら調査が進行しているとは思えない状況で80%の請求をされたということがございます。
そうしますと、探偵業というのは身辺調査とか尾行というのが本来の目的ですから、探偵業の兼業のようなものに対して基準というものはないので、基本的にはマル2のような形で「平均的な損害の額」の表示というものを求めることによって解決したのです。この業務については、ある意味委任契約ではないかということで、それの実損の生じた部分については証明していただかなければ困るといい、基本的には書面代程度で損害額を決めて合意したという内容があります。
ですが、「平均的な損害の額」については、同業者の取り決めがないという新しい分野のところです。悪質業者がいろいろと理由をつけて請求してくることもありますので、マル2の案をとりたいなと私どもは考えております。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
山本和彦委員。
○山本(和)委員 マル1、マル2、それぞれで若干コメントですけれども、まずマル1については、あり得る推定規定なのではないかと思いますが、法律上の推定の規定でも、それを作る場合には、それを支える経験則の合理性というものが必要だろうと思っています。そういう意味では、同種の事業者であれば、通常、費用・コストの構造とかも基本的には同じようなものであり、解約とかがされる損害も通常は同じような額になるであろうという経験則が働けば、この規律は合理性を持っているものと思われます。
私は、同種の事業、これは業界ごとだと思いますけれども、各業界の費用の構造というものが十分分かりませんけれども、その費用構造が一種の正規分布になっているような業界に関して言えば、このような推定規定は経験則によって十分支えられるのではないかと思いますけれども、そうでないような業種、例えば大規模な事業者と小規模な事業者でコスト構造がかなり違うとか、あるいは老舗の事業者と新規参入事業者でコストの構造が違うという業種があるとすれば、それもかなり大きく違う業種があるとすれば、同種の事業というだけでは経験則を支え切れないのではないかという気もいたします。
その場合に、この提案では通常の事業者という言葉を使っていて、これがどういう趣旨か、必ずしも私もよく分からないのですが、同種の事業者の中でも、ある種、それを限定するようなフレーズとして、これが使われている可能性があるようにも思うのですけれども、通常かどうかが決め手になるかというと、当該事業者が通常である保証はないような気もいたしますので、むしろその事業者と類似している。この類似がどういう意味で類似しているか、難しいかもしれませんが、何らかの意味でコスト構造が同等であるような事業者の平均的損害額ということであれば、私はかなり合理的な経験則が得られる。そこでサブカテゴリー化するということだと思いますけれども、あり得る。ただ、そういうふうにサブカテゴリー化すると消費者側の立証が困難になって、結果として、この推定規定を作る意味がどこまであるのかという問題が当然生じ得ることになりますので、本当に作る意味があるのかという問題になると思いますけれども、同種の事業者だけで果たして規定が作れるか。そこは経験則の支えを外して政策判断するのだというのは一つの政策判断ですので、それはお任せしますけれども、そこの問題は1つ指摘しておきたいと思います。
それから、2番目の積極的に促す方策は、ずっと前に事案解明義務という民事訴訟法の理論を援用しながら、理論的にはこういうことはあり得るのではないかということを申し上げた記憶がありますが、今日、お話を伺っていて、2段階ぐらい問題があるように思いました。まず最初の段階で、そもそも平均的損害額を消費者側が主張したことに対して、事業者側がそれについて、なぜその額が自分たちの平均的損害になるのかということは主張せず、単に消費者の言っていることを争う、否認するという類型。これは、磯辺委員がおっしゃられたのがそういう形だと思います。
これに対応するには、事業者側にもっと説明させる。これは、今日の資料でも情報を提供するように努めなければならないと出ていたかと思いますが、そういう形の規律を訴訟法で訴訟手続の中で作るということは考えられるのではないかと思います。損害の中身を事業者側に具体的に陳述させる。
これは、特許法で言えば、今日は105条が書いてありますが、104条の2という規定がありまして、具体的態様明示義務と言われるものでありますけれども、これは特に方法の特許などで似たような製品ができているので、自分の特許を侵害したに違いないという主張をするわけですが、どうやってそれを作ったかというのは相手方の工場に入らないと分からないという場合に、原告側が自分のやつをそのまま使って侵害しているのではないかということに対して、相手方が単純に否認するだけではだめで、具体的にどういう態様で、原告の特許を侵害しない態様で作っているのだということまで明示する義務を負わせているのが、この具体的態様明示義務というものです。
発想としては、こういう原告側の損害額についての主張を否認するのであれば、被告側が具体的にどういうふうな費用構造になっているのか。なぜその損害が生じるのかということを主張させる規律というのが、あり得るものではないかと思います。これは現在、特許庁でも議論があって、実はこれは制裁がないので余り意味がないのではないかという批判もあるところですので、これを入れて、どれだけの意味があるのかという問題は一方であるかもしれません。
それから、もう一段階、被告の損害の構造が分かったときに、それを支える具体的な資料を出させようとしたときに、それが営業秘密等に当たって出せない。民訴法で言えば220条4号のハとかニで提出義務がないという主張がされる。これは井田委員が挙げられた具体例は、そういうことだったのではないかと思います。これに対応するには、確かに特許法105条のような規律は考えられなくはなくて、先ほどの大澤委員の御質問に答えるとすれば、この特許法105条のただし書の正当な理由というのが、私の承知している限りでは、事業秘密に係るから当然に正当な理由があるとは解されず、そこはもう少し緩やかに比較衡量の中で判断されるというのが特許法の理解ではないかと承知しております。
そういう意味では、営業秘密にかかわるものでも、正当な理由がないということで提出させられる可能性というのはある規律なのだろうと理解しています。ただ、これも恐らく限界があって、だからといって、全部を出させるということはできないので、営業秘密があるということは正当な理由の大きな要素であることは間違いないので、それを消費者側が覆せるような、もっと強い必要性というものがないと、こういうただし書でも出させることが難しい場合は多くあると思いますし、それから、特許法は出させた後の営業秘密の保護ということを非常に重視しておりまして、秘密保持命令というものを事業者側が申し立てて、罰則つきで秘密保持をさせられるという制度もあるわけです。
ですから、こういう形でもし営業秘密まで出させるという形になれば、それも第三者に公開しないということが前提ですが、当事者間でもそういう秘密保持命令のようなものをかけているという、かなり大がかりな制度が必要になってくるのではないかと思うところで、いずれもそんなに簡単な話ではないような気もしますけれども、方向性としては、私としてはこういう方向はあり得るだろうと思っております。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
1点目でおっしゃったことの確認ですが、現在のマル1では、同種の事業を行うという限定をかけていますけれども、この「同種の」というのが当該業界という意味であれば、先ほどのような問題が生じてくる。趣旨からすると、その事業者と類似している事業者ということであれば理解できるのではないか。とすると、「同種の」という表現ではなくて、「当該事業者と類似の」というような表現にしたほうがよいというアドバイスであったと理解すればよろしいでしょうか。
○山本(和)委員 全くそのとおりです。
○山本(敬)座長 分かりました。ありがとうございます。
長谷川委員。
○長谷川委員 ありがとうございます。
極めて技術的で確認的な質問を2点と、意見を2点述べさせていただきたいと思います。
質問は、資料の6ページの「推定規定を設ける考え方」と題した図に関してでございます。1点目は、立証と言った場合の立証すべき証明の程度についてですが、推定規定を設けても、なお、この資料の3ページの脚注8にある一般的な証明の程度と変わらないという理解でよいのかということです。
2点目は、6ページの図の事業者からの矢印が「当該事業者に生ずべき平均的な損害」のほうにしかないのですが、「通常の事業者に生ずべき平均的な損害」に関しても反証等の活動はできるという理解でよいのかということです。
続けて意見を2点申し上げたいと思います。
1点目は、プロセスに関してでございます。今回の資料では引用はされていないのですが、前回の検討の最終報告では、この「平均的な損害の額」の立証に関しては、「最高裁判決の趣旨と射程を分析するのはもとより、当事者の攻撃防御や裁判所の訴訟指揮の実情・実態を把握することが必要であり、そのためにヒアリング等を実施することが適当である」云々といったことで、今後の検討について手続的な内容を示唆するものがございましたので、まずその検討をすべきではないかと考えております。
そう申し上げますのは、今日、実際の訴訟あるいは紛争を経験された方から極めて貴重なお話をいただいているわけでございますけれども、私どもの会員の中でも実際に訴訟を経験した企業もございます。そういったところからは、「平均的な損害の額」が争いになった場合、適宜、訴訟記録閲覧制限の申立て等も行いつつ、訴訟の進行に沿って具体的に証拠提出をした。資料を出しているという声もあり、実態についてもう少し踏まえる必要があるのではないかと考えております。
さらにプロセスのところを申し上げますと、先般公表されました逐条解説の中でも、前回の最終報告に沿って一定の改定が行われ、まさに事業者の情報提供義務に関連して逐条解説が出されているわけでございます。その解説の効果も踏まえる必要があるのではないかと考えております。以上が意見の1点目、プロセスにかかわるところでございます。
それから、内容に関しての意見がもう一点ございます。先ほど山本先生がおっしゃられたこととほぼ同じですけれども、法律上の推定を認めるにはそれだけの経験則が必要ということでございます。まさに私どもの中で議論していたときも、新興の参入者と、そうじゃないところで随分違うのではないかという議論があったところでございまして、それについて更に実情を踏まえた検討が必要ではないかと考えております。
以上でございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
それでは、質問にかかわる部分について消費者庁からお答えをお願いします。
○消費者制度課担当者 御質問、御意見、ありがとうございます。
まず、御質問の点でございます。証明の程度というところですが、先ほど長谷川委員に御指摘いただきましたとおり、3ページの注釈の8のところに、証明程度について判示した最高裁判決を挙げさせていただいておりますが、この提案しております推定規定によって、この証明の程度を何か変更するということではございませんので、その点は御指摘のとおり、変わらないということで御理解いただければと思います。
それから、2つ目の御質問で、6ページの四角の図の中で、「同種の事業を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害」に対しては、事業者からの矢印が伸びていないわけですが、これについて反証は可能かということです。この点につきましても消費者がそういう立証活動を行った場合に、推定の前提となる事実が違うではないかという意味で事業者が反証するということは当然、否定する趣旨ではありません。提案としてはそのように考えております。
それから、御意見の点ですけれども、プロセスのところで実態の把握というところは、個別の事案を出すのは難しいところを、今日、井田委員から資料を出していただいたと思っておりますが、我々の方でもそういう実態の把握に努めたいと考えております。
それから、山本和彦委員と、長谷川委員からも御指摘いただいたところですが、「同種の」というところが、今の文言のままでは、経験則が働かず、法律上の推定の前提の事実として不十分ではないかということですので、御意見の御趣旨を踏まえ、この文言も含めて検討してまいりたいと考えております。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
松本理事長、お願いします。
○国民生活センター松本理事長 大澤委員が御意見として言われた一部無効、全部無効との関係で、質問のような意見のようなものになります。
9ページのマル1、マル2という2つ提案がございますが、マル1の提案の下のほうに、同種の事業を行う通常の事業者であれば平均的な損害の額はこれだけだということを消費者側が立証すれば、事業者側としては、同種の事業を行う通常の事業者の平均的な損害の額よりも、当該事業者については平均的損害額がより高くなるということを立証する必要があるという書きぶりです。ここで、例えば、約款には損害額1万円払っていただきますと書いてある。しかし、同種の事業を行う通常の事業者については損害額は5,000円ぐらいであるということを消費者側が立証した場合に、事業者側は、いや、わが社については5,100円ですと立証すれば、あるいは6,000円だと立証すれば、それで当初の約定の1万円の損害賠償が取れるのかという疑問があります。
この文章からは取れるように思えるのですけれども、それはちょっとやり過ぎじゃないかなと思うのです。やり過ぎだということになると、結局、そういうふうに消費者側が同種の事業を行う通常の事業者の平均的損害額を立証した場合に、事業者側が、それを上回る額について、わが社の平均的損害額ですということを立証しても、その額が当初の約定額より低ければ、その額までしか損害賠償としては取れないのではないかという感じがいたします。
それと同じ問題が、立証責任を完全に転換した場合にもあります。すなわち、5ページの真ん中あたりで、立証責任を完全に転換した場合において、約定の損害賠償額が平均的な損害の額を超えないことについて、事業者側が証拠をきちんと出せず、真偽不明になって、裁判官として判断できないということになると、当該条項が無効と判断されることになってしまうと書かれています。それで大澤委員がこれは全部無効ですかと質問されたのだと思うのですが、先ほどと同じで、1万円の損害賠償を払っていただきますと書いてあって、事業者として平均的な損害額が1万円以上になるという立証を一生懸命やったのだけれども、できなかった。
しかし、例えば8,000円ぐらいという立証ができていたとした場合に、損害賠償額についての予定条項が全くなかったという扱いになるのか。それとも、その8,000円がわが社の平均的損害額ですということを立証しているのだから、その額までは取れるという話なのかということです。結局、消費者契約法では平均的損害額を超える部分について無効と書いてあるわけですから、平均的損害額がこれだけだということが立証できれば、それが当初の約定額を下回っていても、そこまでは取れる。あらかじめ約定しておいた額について、一部有効だという構造になるのではないかと思っているのですが、いかがでしょうか。
結局、立証責任の転換にしろ、推定規定にしろ、構造が似ていて、事業者側が、平均的損害額があらかじめ定めている額以上だということを立証できれば、約定額が認められる。約定額より低い額が平均的損害額だという立証しかできなかったとしても、その額までは取れるという構造じゃないかなという感じがいたしております。
○山本(敬)座長 お尋ねするのは申し訳ないのですが、山本和彦委員に、今の松本理事長からの御質問についてお尋ねしてもよろしいでしょうか。厳密な意味での推定の規定なのかどうかという性格の理解にもかかわるかもしれませんが。
○山本(和)委員 十分理解できているかどうかは自信がありませんけれども、結論的には松本理事長が言われたとおりのことになるのではないか。一方が立証できなかったときに、立証責任を負っているからといって、全部戻ってしまう。その額までは立証されているのに、全部元に戻ってしまうという構造は余り合理的ではないので、それを実体法としてどういうふうに御説明されるかという問題はあると思いますけれども、部分的な無効というか、よく分かりませんけれども、そういうふうに考えれば常識的かな、私もこの提案はそういう趣旨かなと理解していました。
○山本(敬)座長 消費者庁からお願いしてよろしいですか。
○消費者制度課担当者 私も十分に理解できているか自信がないところですが。まず、立証責任を転換する考え方をとった場合に、無効の効果が一部なのか全部なのかというのは、考えるべき点としてはあると思いますが、今回は立証責任を転換する考え方を提案しているわけではございませんので、この点は置かせていただきたいと思います。
最初のほうで松本理事長がおっしゃっておられた、マル1の推定規定において、事業者は推定を覆すためにどういう立証活動をするのかという点につきましては、恐らく事業者がはっきりと「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」がこの金額であるということで立証・証明したとすれば、それは推定規定による推定の先の事実について別途確証が得られるということですので、推定規定を問題にするまでもなく、事業者が立証したその金額で、平均的な損害の額を超えるか超えないかということが決まってくるのだと思います。
ただ、規定の仕方によっては、「より高くなる」ということで、結局、「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」は明確には分からないのだけれども、「同種」の場合よりは多いということだけが立証されるというような立証活動があり得るのかということでして、そういう立証活動があり得るとしたら、推定規定は覆りつつ、最終的な金額は分からなくなってしまうままだということがあり得るかもしれませんが、念頭に置いておりますところは、立証を覆すということにおいては、「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」自体を事業者の側で立証していただくということを想定した提案でございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
河野委員。
○河野委員 ありがとうございます。
消費相談の現場にいるわけでもなく、ごくごく普通の消費生活を送っている私から、この問題に関しての受けとめを簡単に申し上げたいと思います。
本当は履行したかったのだけれども、途中で消費者側から契約をやめた場合、その分の損害は支払います。ただし、そのときに言いなりにならず、しかも過大な請求かどうか、きちんと判断して、正しい数字で適切な金額を払いたい。そのためにはどうしたらいいかということを皆さん、考えてくださっているのだろうなと思っています。一番いいのは、当該事業者さんがこの契約において、自分のところはこういうふうに損害をこうむったので、この分は、ちゃんと支払ってくださいねということをちゃんと証拠を出してやってくださればいいのですけれども、消費者契約法ではそうはいかないというところが問題です。
立証責任の転換というのが、この間、ずっと課題になっていました。それが簡単に実現すればいいのですが、それはこの間の検討の過程では非常に難しいと理解しています。特に、今回は立証責任の転換ということを審議のテーマに挙げていないがゆえに、事業者の皆さんからは、そこそこ大きな御意見がないのかなと勝手に思っていますが、次善の策として、今回はマル1、マル2ということで提案をされていて、私自身も、このマル1とマル2を併用した形で、マル1アンドマル2という形でうまく法律上に落としていただければ、それは立証責任の転換をめぐって、ずっと負のスパイラルで堂々巡りの議論をするよりははるかにいいなと思います。
ただ、先ほど山本和彦先生がおっしゃったように、この2つの提案でもそれなりに不備なところがあって、そのあたりの穴を埋めないとだめなのだよという、私にも分かる御示唆をいただきました。そこを埋めた上で、事業者の皆さんは、これが実際に法律になったときに何か困ることがあるでしょうか。具体的に不利益を得るのであれば、それを言っていただきたいと思います。先ほど長谷川委員からは、実際に訴訟になったときには、真っ当な事業者であればちゃんと証拠を出して争っている、出せる証拠は出していますよというお話もありました。
私自身は、そういったことで前向きにこの議論を進めていっていただきたいと思っていますし、少なくとも前回の堂々巡りのような議論から一歩進むために、ぜひ事業者の皆さんから建設的な御意見をいただければなと思っています。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
大澤委員。
○大澤委員 済みません、今、いろいろ御意見を伺っていて、先ほどの私の質問と意見の趣旨としては、次善の策がこのマル1及びマル2であるというのであれば、これが全くないというよりはあったほうがいいという趣旨です。私が本当に申し上げたかったことは、先ほどの一部無効の話を出したり、あるいは資料の5ページで申し上げたのは、平均的な損害を超える部分のみ無効と推定する。これは、別に賠償額の予定条項自体を全部無効にするという推定ではなく、平均的損害を超える部分については無効と推定しますとということです。
そうだとすると、事業者の側で、いや、この賠償額は我が社に生じる平均的な損害におさまっているのですよということは、当然、今の訴訟でも争っていると思いますので、このマル1、マル2とはちょっと違う方策ですが、平均的な損害を超える部分を無効と推定するという規定は、これは実体法的にも訴訟法的にも本当にできないのでしょうかということを、この5ページを読んで、私は実体法学者ですけれども、特に疑問に思いましたので、このままマル1、マル2でどちらか次善の策でということであれば、それは全くとめるつもりもないのですけれども、もともとの原点というか、「平均的な損害の額」を超える部分のみ無効と推定するというのも、余り諦めないでいただきたいなというつもりでございます。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
後藤座長代理。
○後藤(巻)座長代理 立証責任を事業者側に負わせるという選択肢をとるかどうかということですけれども、これは大澤委員が先ほどからおっしゃっていることとつながると思うのですが、実体法上、無効だとか一部無効とか、そういう議論がそこにかかわってくると思います。ただ、そこで無効かどうかということと離れて、事業者側が一方的に実際上は決めるということであれ、賠償額の予定とか違約金条項が定まっているということは、それなりの重みがあると思いまして、そういう意味から言うと、それを無にするような解釈というのは避けたほうがいいのではないかと思います。
そういう意味から言うと、せっかくという言い方が適切かどうか分かりませんけれども、賠償額の予定条項が定まっているわけでありますので、それは基本的には事業者が一方的に作ったということがあったとしても尊重する。そうすると、事業者側は何も言わないでも、そこまでは損害として取れることになるということから言うと、立証責任を全部転換してしまうというのは、そこの部分と抵触してくると思いますので、実際の利益衡量から消費者が情報に接近することは無理だという、そこを重視して立証責任の転換を図るということも考えられなくはないけれども、そうするのは無理があるのではないかと思います。
実体法的な立証責任の要件事実としての考え方から言うと、基本的には消費者側が平均的損害についての立証責任を負っていると考えた上で、次善の策という言い方になるのかどうか分かりませんけれども、今、消費者庁が提案なさっているマル1、マル2のどちらかという形で考えていったほうがよろしいのではないかと思います。
具体的にマル1、マル2の考え方のどちらがいいのかということでありますけれども、これは一歩前進という意味で、私はマル1の考え方のほうが適切だと思います。その理由といいますのは、事業者による証拠資料の提出を制度的に促す考え方というのは、訴訟を前提としているのではないかと思われますので、消費者契約法は訴訟以外の場でも多く使われるということから、そこのところに問題があるのではないかと思います。
それから、制度的に促されたことによって、訴訟資料をどの程度提出すればよろしいかとか、あるいは提出しなかったときにどのような扱いになるのかということについて、このままだと明確ではありませんので、そこの制度設計ということが、先ほどの営業秘密をどれだけ事業者側が出さなければいけないのか、消費者側から見ると出させることができるのかというところで、山本和彦先生も御指摘になっていたような問題があって、制度設計はかなり難しくて、すぐにここでいい考えを出すというのは難しく、将来的な課題になるのではないかと思います。そういうことから考えると、マル1の考え方のほうが一歩前進ということで現実的であるし、優れていると私は考えます。
そういうことにプラスして、このマル1の考え方というのは、考え方として現在の消費者契約法9条1号の規定に基礎を置くというところが非常に安定性がある考え方ではないかと思います。すなわち、9条1号は、当該消費者契約の解除による損害ではなくて、当該事業者が締結する同種の消費者契約の解除による平均的な損害を問題としておりまして、個々の事案における具体的な損害ではなく、一般的・客観的・平均的な損害を問題としています。
他方で、算定される平均的損害というのは、同種の事業者の平均的損害ではなく、当該事業者の平均的損害となっておりまして、通常の事業者の平均的損害を基礎としていない点では、一般的・客観的基準を徹底していない。つまり、一般的・客観的基準ということに軸足を置きながら、それを徹底しないという面が現在の規定にはあって、この点については、消費者契約法の立法当初から一部では批判する意見も出ていました。
そこで、今回、そこを修正するという意味もあって、一般的・客観的基準を徹底させて、当該事業者ではなく、同種事業を行う通常の事業者、あるいは先ほど山本和彦委員が御指摘になったような、当該事業者と類似の事業者という考え方もできるかもしれませんけれども、そういう形に置きかえて考えていくというのは、消費者契約法の現在の規定に適合する考え方だと思います。
こういうふうに考えますと、難点もありまして、同種事業者が存在しない場合もあるのではないかとか、同種事業者が平均的損害額よりも高い予定額を定めているという場合にどうなるのかということが問題となってくることになりますけれども、これも仮にマル1の方向で改正するとすると、事業者側で適切な約款を整備するとか、種々の広報活動を促進するということをあわせて考えていく、要求していくことを通して、消費者側の主張・立証活動に重い負担をかけないような工夫をしていくということになろうかと思います。
そもそも平均的損害ということは、そこに含まれる損害内容というのは非常に多様でありますので、どこまで立証すればいいのかということに関しては、事案ごとにそれぞれ、仮に訴訟になったとしても裁判所としても気を遣うところでありまして、そこでマル1のような規定を置くことになった場合に、裁判所がそれをどう運用していくのかということが、裁判所に限りませんが、それがどういうふうに運用されていくのかということが大事なことでありまして、その運用を適切にすることによって、場合によって消費者側から出せないような、出すのがとても無理な証拠は出させなくてもいいという判例なり判断が重なっていくことを期待することも、十分あっていいのではないかと思います。
そういうふうに考えると、マル2の考え方の制度設計を精密にして、そこでしっかりした規定を設けることももちろん大事なことですが、当面の課題として一歩前進という意味でマル1の考え方がとれるならば、今後の運用ということに期待することも含めてマル1の考え方をとることが適切だろうと考えます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
かなり時間が押してきておりますので、そろそろこのあたりにしたいと思いますが、では、長谷川委員。
○長谷川委員 同じことを何度も申し上げることになるのですが、先ほど消費者庁の方からは当事者の攻撃防御や裁判所の訴訟指揮の実情・実態の把握はなかなか難しいという話がありましたが、前回、報告書を書かれたときはヒアリングをしますということが書かれているわけです。裁判所なのかもしれませんが、どこにヒアリングすればいいか念頭にあったと思いますので、それをやることが重要なのではないかと思っています。
それから、これも繰り返しになりますけれども、訴訟で証拠が提出されないことが前提になっているわけです。例えば先ほど井田先生のほうから御指摘があった判例を読ませていただきましたが、これは資料が出ているのだけれども、それを裏づける内部資料のほうが出ていないということでした。一義的に資料が出ているかという立証活動云々という話と、それを裏づけるものが出ているかという話、更に今まで議論が出ていますように、本当にそれが出せる種類のものなのかどうかというところもあるかもしれません。いずれにしても、資料の種類に応じて、それぞれが具体的に今どうなっているのかという情報がないと議論の進めようがないのではないかと思っております。
以上でございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
磯辺委員。
○磯辺委員 済みません、時間が押しているところ。
先ほども事例を御紹介させていただきましたけれども、マル1の対応も有用かと思いますし、さらに、それよりも幅広いものが対象になり得るマル2の方向性についても、引き続き消費者庁と消費者委員会で御検討いただければという要望を述べさせていただいた上で、立証責任の問題とは違うのですが、平均的損害にかかわって、逸失利益が原則含まれないと私は思っているのですけれども、その辺をどういうふうに明確化できるかという検討も、こういう場で必要ではないかと思っています。
私どもの裁判外の差止請求の事例で、建築請負契約ですけれども、消費者が契約を解除した場合の違約金を、解除の時期にかかわらず、請負金額の15%とか20%と定めている条項が割と散見されまして、順次是正を図っているところです。建築請負契約ですと、契約金総額が2,000万円から3,000万円ということで高額で、その15から20%の違約金となると、300万円とか600万円という額が、たとえ着工前解除であっても違約金として請求され得る条項だということになっています。さすがにこれは、契約の解除の時点を見たときに、事業者に生ずる平均的損害を超えているのではないかと思われるわけですね。
それと、個別のトラブルの情報に接する中で、事業者のほうから逸失利益を基本的に請求できるのだと主張されて、だけれども、今回はこれでいいよみたいなことで比較的高額な違約金を請求されるみたいな事例もあったりしますので、この辺、考え方を、特に未履行の業務についてまで相応の利益を損害として請求するケースというのは、余りにも消費者にとって酷だろうと思いますから、明確にしておいたほうがいいのではないかと思っています。
あと、継続的役務の分野では、契約を解除した後に新たな顧客との契約が可能であるケースなどでは、解除後の契約期間の逸失利益全額を損害と考える必要もないだろうと思いますので、こういう過大な違約金を消費者に請求する例は相変わらず多いですから、逸失利益は原則として含まれないという考え方はどうなのかということで、少し今後の検討論点に加えていただければとお願いしたい次第です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
最後の点は、もちろん問題としてあるところでして、逐条解説をはじめ、恐らく多数の理解では、これは、民法の416条の通常損害を定型化して規定したものであるとされていると思いますが、それについては学説上も異論があるところです。ただ、この問題は、優先的に検討すべき論点の中に必ずしも入っていないということがありまして、確かに隣接する問題ではあるのですけれども、こういったことも視野に入れながら、立証に係る問題を検討していく。完全には切り離せないかもしれませんけれども、その限度でということにとどめていただければと思います。これ自体、大きな論点でして、語りたいところはたくさんあるのですけれども、そのような問題として位置付けさせていただければと思います。
その他につきましては、今日、様々な御意見をいただきまして、理解がかなり深まったように思います。事業者側に情報があって、それが出てこないことには必ずしも立証が容易ではないということは共通認識としてあるだろうと思います。事業者がどれだけ情報を出しているか、実際の裁判ではどうなっているのかという点については、更にヒアリング等で聞いてみたいという御意見がありましたけれども、その実態がどうであれ、外から分からない事情ですので、それが何らかの形で出てこないと立証が難しいだろうということは言えそうです。
ただ、その上でどのような規律にするのが望ましいのかという点については、マル1、マル2、それぞれについて長所及び課題が指摘されたところです。とりわけマル2については、山本和彦委員からの御指摘もありましたように、かなり多くの制度的な手当てを要する問題が出てきそうです。全く立証しようとしない者に対して、必要な資料を出せという情報提供に係る義務付けをすることは考えられる。ただ、それは、現在の3条1項の解釈としても要請されるところである。そこから先に進もうとしますと、どうしても営業秘密の問題等が出てきて、所要の手当てをしないとなかなか難しいであろうということが、問題意識としては共有されたのではないかと思います。
マル1に関しましては、これも山本和彦委員が指摘されましたように、経験則の裏づけがないとなかなか難しいであろうということは、おっしゃるとおりと思います。では、どうすれば経験則の裏づけのある形で規定が置けるかということについては、同種で「類似の」というのはなかなか条文にはしづらいところで、同種同等の事業者ぐらいの形で絞り込めば、経験則の裏づけもあるかもしれない。ただ、そのような規定にすると、実際、どれぐらいの立証を軽減する効果があるのかという問題が更に出てきそうです。
さらに、効果につきましても、松本理事長等が御指摘されたような問題もあり、これも詰めておかないと、実際に規定したときに困ってしまうということがありそうです。
このように、検討すべき課題をお示しいただいたということで、次回に向けて、更に検討を進めていただき、改めてここで御議論いただければと思います。
ありがとうございました。
≪3.条項使用者不利の原則≫
○山本(敬)座長 それでは、続きまして、条項使用者不利の原則について検討したいと思います。予定よりも30分ぐらい遅れている状況ですが、重要な論点ですので、しっかり検討していただきたいと思っています。
まずは、消費者庁から条項使用者不利の原則について御説明をお願いいたします。
○消費者制度課担当者 それでは、御説明させていただきます。時間が押しておりますので、ポイントに絞った短いものになりますが、御了承いただければと思います。よろしくお願いいたします。
まず、1ポツでは、専門調査会におけるこれまでの議論をまとめておりまして、四角囲みのところでは報告書を引用しております。
マル1は、条項使用者不利の原則の意義でして、最初のところで、「契約の条項について、解釈を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残る場合には、条項の使用者に不利な解釈を採用すべきであるという考え方」と定義し、その下に趣旨とか根拠を書いております。ごく簡単に申し上げますと、事業者と消費者との間には情報と交渉力の格差があるため、条項が不明確であることによって解釈が分かれてしまった場合には、消費者が事業者から不利な解釈を押しつけられるおそれがある。だから、消費者を保護する必要があるのではないか。
もう一点が、このような条項使用者不利の原則を定めることによりまして、事業者に対して、解釈が分かれないような明確な条項を作成するようなインセンティブを付与することにもなるのではないかということが指摘されております。
マル2は、現行法の規定でございまして、法3条1項は事業者の努力義務として、契約条項を定めるに当たっては明確性に配慮することを定めております。条項使用者不利の原則は、この3条1項の趣旨から導かれる考え方の一つであると言えると報告書ではまとめられているところでして、先般、公表した逐条解説においてもこの点を書いております。
そうしますと、次の課題として条項使用者不利の原則を条文化・立法化することが考えられるところで、これまで専門調査会で検討が行われてきたわけですけれども、その点がマル3になりまして、結論としては、引き続き検討を行うべきであるとされました。検討事項としましては、11ページの一番下になりますけれども、条項使用者不利の原則の要件、それから適用範囲を定型約款に限定すべきかどうか、この2つが引き続き検討すべき課題として明示されております。
なぜ条文化するという結論にならなかったのかにつきましては、マル3の上のほうですけれども、ここは大事なところなので読みますと、「条項使用者不利の原則を適用するに至る条項解釈のプロセスが必ずしも明確とは言え」ない。そのため、「同原則が本来適用されるべきでない場合についてまで援用されるおそれがあるという事業者からの懸念を現時点では完全には払拭できない」ということで、引き続きの検討となったところでございます。
そうしますと、この専門調査会で検討すべき課題というのが12ページの一番上でございまして、条項使用者不利の原則の意義については一定の了解をいただいていることを前提として、これを踏まえて、条項使用者不利の原則の要件と、適用範囲を定型約款に限定すべきかどうか、これらの点を中心に検討することになると思っております。
12ページの2.検討の(1)で、要件について取り上げております。先ほど申し上げました条項使用者不利の原則の定義からしますと、端的に、「契約の条項について、解釈を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残る場合」という趣旨の要件が考えられるところでございますけれども、先ほど申し上げましたような御懸念が示されていることを踏まえまして、最高裁判決で解釈が争われたものを参考に要件の明確化を試みたというのが今回の御提案になっております。
具体的には2つの最高裁判決を御紹介しておりまして、1つは、平成26年12月19日判決で、これは消費者契約ではないのですけれども、請負契約約款における賠償金条項について、条項使用者不利の原則ともとれるような考え方を用いたものを御紹介しております。詳しい内容は時間の関係で割愛させていただきますけれども、一番最後の行になりますが、平成26年判決は、この条項の意味が「文言上、一義的に明らかというわけではない」場合に条項使用者不利の原則の考え方を用いたと評価することもできる点で参考になると考えております。
もう一つの判決が平成19年6月11日判決でございます。これは、条項使用者不利の原則ではないのですけれども、「条項解釈のプロセス」について一般的な判示をしているものでして、ここに書いてありますとおり、「契約書の特定の条項の意味内容を解釈する場合、その条項中の文言の文理、他の条項との整合性、契約の締結に至る経緯等の事情を総合的に考慮して判断すべき」という一般論を示しておりますので、これも参考になるのではないかと思っており、一番最後に申し上げますような立法提案をしたという次第でございます。
以上が要件でして、次に(2)の適用範囲になります。これは従前から議論があったところですけれども、先ほど申し上げました条項使用者不利の原則の意義からしますと、本来であれば考え方としては広く妥当するものではないかと考えております。ただ、その一方で、今回、条項使用者不利の原則を条文化する場合には、事業者に不利な解釈を採用するという法的効果を伴う規定ができるわけですから、それとの関係で、要件や適用範囲を明確化する必要があると考えておりまして、そういう観点で考えると、適用範囲として、今、民法改正法案で示されている定型約款という概念を用いて適用範囲を画することが考えられるのではないかと思いまして、今回、御提案しております。
(3)の条項使用者不利の原則を立法化する政策的な必要性についてですけれども、これは既に御議論いただいたところを補足するような位置付けになりますので、詳しいことは割愛いたしますが、少しだけ言及しますと、最高裁の補足意見の中でも、条項の明確性について、より明確に作成すべきであるという補足意見が幾つか出されております。それから、これは既に指摘があるところですけれども、諸外国ではこの原則が法制化されていることも踏まえますと、条項の明確な作成を動機づけるという政策的な観点からこのような原則を設ける、立法化することも考えられるのではないかと思っております。
最後に相当性として書いてあるところですが、政策的な観点から必要だとしましても、その目的を達成する手段として、この条項使用者不利の原則を定めることが相当かという御意見もあるかと思っておりますけれども、今まで申し上げましたように、要件と適用範囲をかなり限定した上で、解釈を尽くしても、なお解釈が決まらないというかなり限定された場面に限って適用される原則でございますので、手段として過剰とか行き過ぎということにはならないのではないかと考えております。
1枚めくっていただいて、最後、結論になりますけれども、ここに書いてありますとおり、「消費者契約に該当する定型約款の条項について、その条項中の文言の文理、他の条項との整合性、当該契約の締結に至る経緯その他の事情を考慮してもなおその意味を一義的に確定することができない場合には、事業者にとって不利に解釈しなければならない」という趣旨の規定を設けることを今回、御提案する次第です。
私からは以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
それでは、条項使用者不利の原則について御議論いただきたいと思います。御意見、御質問ある方は御発言をお願いいたします。
丸山委員。
○丸山委員 御説明ありがとうございました。
基本的には、条項使用者不利の原則について導入するということは、導入の意義について説明していただいたところが当てはまると思うので、賛成しております。ただ、問題提起していただきました導入の範囲ですけれども、これを定型約款に限定するということには反対しております。なぜかといいますと、これも適切に13ページのところで、その意義というのを考えると、定型約款に限定されるものではないということが既にこの文章自体に指摘されているところだと思います。
民法の改正で導入されるであろう定型約款に関しては、どういったものになるのか、定型約款というものをどのように解釈するのかというのは、今のところ幅があり、もしかするとかなり狭い概念になり得る可能性もあると思います。そういったことを前提としますと、条項使用者不利、条項作成者不利の原則というものが狭い範囲にだけ妥当するという誤解を与えてはいけないのではないかと思いますので、導入自体には賛成なのですけれども、定型約款に限定するというところは、かなり慎重に検討する必要があるのではないかと思っております。
もう一点ですけれども、仮にこういった条項使用者不利の原則というものを消費者契約法に定めた場合なのですけれども、その場合に1つ注意してほしいのは、例えば不当条項無効を主張する場面、差止めも含めてですけれども、そういう場面で条項使用者に不利に解釈すれば問題ないから有効だみたいな主張がなされてはいけないのではないかと思います。曖昧な契約条項というのは、本来、不当条項規制の場面でも無効のほうに判断が傾くはずでございますので、差止めの場面も視野に入れながら、そういった運用がなされないよう、解説のレベルとかになるのかもしれませんが、そういった点も留意する必要があるのではないか、このように考えております。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
最後におっしゃった点は、むしろ河上委員長にお聞きすべきかもしれないのですが、ドイツでは、旧約款規制法の時代から、差止めの場面では条項使用者不利の原則を適用しないという扱いにしていたのではないかと思います。そのような配慮が必要であるという御指摘と承りました。
それでは、中村委員。
○中村委員 ありがとうございます。
その前に1点だけ。先ほど事業者から意見がないということで御指摘があったので、一言申し上げますと、私どもの業界で違約金条項というものが余りございませんので、皆様の御議論を聞きながら、今後、意見を述べさせていただきたいと思います。
条項使用者不利の原則に関する今回の御提案についてですけれども、ちょっと疑問の点がございまして、今回、裁判所の例として、特に2つ目のものとして私どものグループ会社のセブン-イレブンの事例を挙げていただいています。この事案に関して申し上げますと、実際にはいわゆる消費者契約とはかなり事情の違う状況下での契約書でございます。と申しますのは、まず加盟店になられる方について5日間の座学の研修がございまして、契約書の意味につきましてもいろいろな説明がある。さらに、3カ月の実習を踏まえた後で、初めて契約を締結する。この契約書以外にも様々なマニュアル等が備えられているという状況下で、確かに最高裁の中では結論的に、この売上商品原価の意味が不明確であったという評価であったわけですけれども、こういう状況の下で、更に不明確であると言われ方をしたものについて、それを消費者契約に当てはめて、このような形で単独で説明されていたものについて、不明確であるから条項使用者不利に解釈するということであると、事業者としては、それはある意味不可能を強いるものだと考えます。と申しますのは、消費者に対する契約に関しては、少なくとも私どもの会社では、例えばインターネット販売での約款等について、逆にどちらかというと平易というところに重点を置いて作成を心がけておりまして、できるだけ普通の一般的な方でも分かりやすく、読みやすく、おおむねこんなことだろうなということが理解できるような形で作成するようにしております。そうしたときに、このような形で詳しい説明といいますか、非常に詳細にわたって二義を許さない内容での条項でないと、それは不明確だから条項使用者不利の原則を適用するということであるとするならば、この条項使用者不利の原則をここに入れることについては反対いたします。
例えば、1つ目の最高裁判例ですけれども、これについては、「乙」というのがA建設または上告人という共同企業体の両方が入るかどうかということが議論されているわけでございまして、例えば約款といいますか、お客様に対するお約束事の中に、あらゆる場合を想定して記載するということはこれまでやっていないことでございます。
そうすると、例えばアメリカの契約等で言いますと、同義の言葉をいろいろ並べ立てて、漏れがないようにするということが実際に行われておるわけですけれども、その結果として、六法全書よりも厚いような契約書が作られて、それを消費者の方は読むのですかという話になるわけでございまして、この条項使用者の原則が本当に意図的に曖昧なものを作っているとか、そういうことについて不利に解釈することについて否定するものではないのですけれども、こういう事例を挙げて、こういう事例のような場合に適用されるということであるとすると、それについては私は反対です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
大澤委員。
○大澤委員 ありがとうございます。
結論といたしましては、丸山委員と全く同じ意見でございます。この原則を消費者契約法に入れることには賛成しますが、定型約款に限定するのには反対します。
理由も丸山委員とほぼ同じですが、定型約款の捉え方自体が恐らくいろいろな考え方があり得る中で、定型約款に限定する形にしてしまうと、そもそもまずこれが定型約款に当たるのかというところからの争いがあって、せっかくこれだけ明確な要件立て、今回、15ページで書いていらっしゃいますけれども、定型約款にそもそも当たるのかというところから争うことになってしまうと、これは本末転倒な感じがいたしますし、あと、捉え方によりましては、先ほど丸山委員もおっしゃっていましたけれども、定型約款が狭い範囲になることもあり得ると思います。そうすると、消費者契約で更に定型約款に限定するのには私は反対します。
補足をさせていただきたいのは、外国法の状況ですが、本日の資料の22ページにフランス民法の規定が引用されております。ただ、このフランス民法の規定は実は古い規定でして、フランスでは、2016年3月に政令、オルドナンスという形で契約法を改正するとなって、それが昨年、2016年10月から施行されておりまして、今は条文が変わっております。本当であれば、本日、資料を追加でお送りしようと思ったのですが、私が22ページに気が付いたのが2日前で、大変申し訳ないのですが、次回出させていただきます。
ただ、ここに書いていないことを1点補足しますと、フランスでは、この作成者不利の原則、もっと言うと消費者側に有利な意味で解釈されるべきであるということが、そもそも消費法典に定められています。その際には、先ほどドイツの話で出ておりましたけれども、消費者団体による不当条項の削除の請求には適用されませんという形もあわせて書かれております。今回、民法典1162条は変わっているのですが、変わった内容も次回、お配りしたいと思っていますが、もともとの古い条文ですと、債権者に不利に解釈するのだという原則になっていまして、これは民法典ですので、言うまでもなく消費者契約以外、広く適用される原則になっています。
古くからこの規定は存在していますが、今回の改正でどのように変わったかといいますと、当事者同士が交渉を経ている契約の場合には、この1162条の趣旨がそのまま当てはまる。要するに、債権者に不利に解釈するのですと書いていますが、附合契約、要するに日本で言うと約款のようなもので、日本の定型約款よりはかなり広く捉えられると思いますが、その約款の場合には、その約款を提示したものに不利に解釈しますという規定が、新しい条文で言いますと1190条という条文になっています。
見た目は、約款の場合に、約款を提示した人に不利に解釈するのですよと限定しているかのように、今回、改正されているのですが、それはなぜそういう改正をしているかといいますと、まずそもそもの問題として、向こうの附合契約、日本で言うと約款のような概念が、恐らく今回の日本の定型約款よりはかなり広い概念であるということなので、適用範囲をそんなに絞ることにならないというのが1つ。
もう一つ大事なこととしては、そもそも消費法典に作成者不利の原則が書いてあるので、そこに書いてあることを考えて、更に民法でこの1162条のように広く原則をとる必要がないということで、民法典の場合には、その交渉を経ているかどうかで区別をするという条文にどうも変わったようです。ただ、これ自体にも批判がないわけではなくて、別に約款の場合に限定する必要はなかったのではないかという批判も当然あります。これは次回出させていただきますが、ここにフランスの消費法典の規定がないので、お話をいたしました。
ですので、消費法典では、フランスの場合、当然のように、別に約款かどうかに限らず、そもそも作成者不利の原則はとられていますし、そのことによって、例えばフランスの経済活動が非常に停滞しているとか、これによって何か契約書をめぐる混乱が起きたという話は、私は聞いておりません。その点を付け加えさせていただきます。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
長谷川委員。
○長谷川委員 ありがとうございます。
何点かございます。結論的には、名前がこれでいいのかどうか分からないところがあるのですけれども、条項使用者不利の原則の導入については、慎重に検討してはどうかと思っております。
幾つか理由がございまして、1つ目は、中村委員が御指摘されたとおりですけれども、多分、明確にしようと思うと平易じゃなくなる。平易という言葉も法第3条第1項に明確に書かれているところでございますけれども、明確にすることで平易じゃなくなるケースはあり得るというか、相当幅広く存在するケースとしてあると思っております。法第3条第1項というのは、恐らく明確性というだけよりも、むしろ消費者に理解をちゃんとしてもらった方がいいのではないかという理解のところに重点があって、明確さや平易さというのはその手段だと思っております。明確さだけを強調するというのはやや違和感があるところでございます。
また、条項といたしまして、将来の出来事を予測することは不可能でございますので、一定程度、解釈の余地を残すというのも、当事者の意思を表す上での一つのドラフティングテクニックではないかと思っているところでございます。
それから、前回来の議論で、条項使用者不利の原則の前にどういう解釈が行われるか分かりませんという話に関連して、今回、一つの御提案をいただいているわけでございます。その中で「条項中の文言の文理、他の条項との整合性、当該契約の締結に至る経緯その他の事情」ということでございますけれども、これは、この判例の事例にやや引っ張られている文言のような気もいたします。
例えば、今回の資料だけ見ても、13ページの注19に出てくる最高裁判例、昭和51年の判例の当事者の目的とか当該法律行為に至った事情、慣習、取引の通念といったものとの関係をどういうふうに理解するのかでありますとか、あるいは、2年前、中間取りまとめがなされていますが、そのときも意図した目的、慣習・取引慣行を斟酌しながらという考慮要素が挙げられているわけでございます。また、法制審の債権法の検討でも、当事者の共通の意思とか当事者の合理的な理解といった概念も入っているところでございまして、今の文言で尽きているかどうかというのは、非常に自信のないところでございます。
以上のような状況の中で、具体的に条項使用者不利の原則をいつ、どういう形で使っていくのかというのは、引き続き判断が難しいところでございまして、仮にそれについて誤解があれば、濫用という形で使われるリスクもあるではないかと思っているところでございます。
それから、今回、提出された資料の中で余り理解できないところがあったのですけれども、14ページに「手段としての相当性について」という項目が立っている。下のパラグラフを見ると多分2つのことが書いてあって、その2つのことを理由に、相当である、過剰ではないのだという指摘があると思います。1つ目として、法第3条第1項に既に努力義務として書かれているので、法的効果を持つものにしてもいいのだということが書いてある。しかし、その論理は相当飛躍しているのではないかと思います。2つ目は、定型約款に限るので過剰ではないのだということのようなのですが、着目すべきは当該個別の取引に関連して過剰であるかどうかなのであって、定型約款に限るので過剰でないということではないと思います。この書きぶりは再検討していただいたほうがいいのではないかと思います。
以上でございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
中村委員と長谷川委員が同じことを言われたましたので、少し確認をさせていただきたいのですけれども、明確性を追求すれば、平易という要請が後退してしまう。それは、消費者の理解という観点からは望ましくないのではないかという、その御意見はよく分かるのですけれども、そうすると、平易であれば不明確でよいのかという問いに対しては、どう答えることになるのでしょうか。
○長谷川委員 それについては、メルクマールは消費者の理解というところに究極の目的を置くべきだと思っております。明確性を確保するためのインセンティブを与えるためにやるのだというのが、法第3条第1項の射程を広めているのか狭めているのか、ちょっとよく分かりませんが、平易というのを捨象した上で一気に突っ込み過ぎているのではないか。むしろ、消費者の理解というところに重点を置いて、その他の条項についても制度設計すべきではないかと思っております。
○山本(敬)座長 大澤委員。
○大澤委員 今の山本敬三先生の御質問にかかわると思うのですが、本日出されている事案ですけれども、12ページですね。これは、前回までの専門調査会でも、そもそもこの条項使用者不利の原則があったほうがいい場面というのがどういう条項なのかというのが、最終報告書の前の段階で相当議論されていたと思います。そのときに出ていたのが、まさに今回の12ページに出ているような、A上告人。これは「乙」という書き方しかしていなくて、「乙」というのが一体誰を指すのかが分からない。両方なのか、片方なのか、オアなのかアンドなのか分かりませんという事例だと思うのですが、恐らく前回までの専門調査会で出されていた一つの典型例は、多分こういう事案だったと思うのてすね。
そうすると、これを明確にするためにどうなるかというと、それはまず「または」なのか「かつ」なのかをはっきりさせてくださいという話だけであって、それを今まで点で続けていたところを「かつ」か「または」と書いたことによって、消費者にとって分かりにくくなることは多分ないと思っています。これがどういう条項、どういう場面を念頭に置いているかというのを、前回も議論を十分やった記憶はあるのですけれども、恐らくここでもう一度そこを整理しないと、先ほど中村委員がおっしゃっていたと思うのですが、契約書がすごく詳しくなって分厚くなってしまって、かえって分かりにくいのではないかという話が出ていましたけれども、果たしてそういうことになるのでしょうかという疑問を持っていまして、この12ページのような事案をもし対象にしているのであれば、これは「または」か「かつ」を書けば済むだけであって、別に日本語として分量はそんなに増えませんし、消費者にとって読みにくいことはないわけなので、どういう事案を念頭に置かれているかという確認をもう一度させていただきたいと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
山本健司委員。
○山本(健)委員 ただ今の点については、大澤委員の御意見と同意見です。条項使用者不利の原則を採用しても、契約書を詳細にしないといけないとか、分厚くしないといけないといったことはないだろうと思います。想定される適用場面は、合意の意味が不明確で多様に解釈される場合であることが前提ですので、消費者にも平易で分かりやすい契約文言になっているのであれば、そもそも合意の意味が不明確で多様に解釈される場合に該当しないだろうと思います。
次に、今回の提案に関する意見です。
日弁連は、消費者契約一般を対象として条項使用者不利の原則を立法することを提案しております。法制審議会における債権法改正の議論でも、条項使用者不利の原則は、約款または消費者契約を対象とした解釈原則として位置付けられて議論されていたと記憶しております。
この点、今回の御提案で「消費者契約に該当する定型約款の条項」という適用範囲の限定がなされているのは、消費者契約というアプローチからも、約款というアプローチからも、不明確な条項を使用した帰責性が二重に認められる契約類型に対象を絞ることで、慎重意見にも配慮した御提案をされているものと推察しております。
なかなか悩ましいところですけれども、法改正に関するコンセンサスを形成するという観点から、一歩前進と考え、今回の御提案に賛成したいと思います。
なお、民法改正法案における定型約款の規定には、不当条項規制と不意打ち条項規制に対応する規定はありますけれども、明確性原則に関する明文の規定はないと理解しております。その点を消費者契約分野で補完する意味合いはあるのではないかと考えております。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
増田委員。
○増田委員 消費者の理解力については、いろいろなレベルがあるかと思いますので、読んだときに分からないということはいろいろなことがあると思います。解釈を尽くしてもなお複数の解釈があるというレベルのことなので、少なくとも消費者が分からないと言って消費生活センターに相談してきたときに、消費生活相談員が理解できるものであってほしいと思います。それで解釈がいろいろあるということであれば、それは平易ではないという問題ではなく、分からない条項なのだろうと思います。そういうものについては条項使用者不利の原則であるべきであると思います。
また、定型約款そのものについても、これは何だろうという理解の問題はありますので、今後の民法の問題も含めて、状況を見ながら考えていただきたいと考えます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
石島委員。
○石島委員 中村委員、長谷川委員の御意見と重なるところが多いのですけれども、申し上げます。
今回、既に出ているところですけれども、もともと報告書で懸念されていた事業者側の懸念に配慮するという形で、「その条項中の文言の文理、他の条項との整合性、当該契約の締結に至る経緯その他の事情を考慮してもなおその意味を一義的に確定することができない場合」と御提案いただいていると理解しています。しかしながら、まだ審議中である定型約款について、当該契約の締結に至る経緯がどのように考慮されるかというのも現時点では分からないですし、その他の事情が何を指すのかというのも不明確であると思います。報告書の懸念が、事業者にとってはまだ払拭されていないように思います。
あと、資料に掲載されている裁判例のほとんどが事業者間の取引を対象としたものであるように思います。現段階では、どのような具体的事情の下で、この原則の適用・運用が必要かについても十分検討が尽くされていないように思います。当原則を適用すべき具体的な事例や実務上生じ得る影響について、慎重に検証を行うべきじゃないかということを改めて事業者として申し上げたいと思っております。
また、今回の原則導入の目的が明確な条項作成のインセンティブとしたいという御趣旨については、かねてより影響の大きさが問題とされている保険業界の方による御意見をいただいておりまして、保険業界としては、監督官庁からも、業界団体としても、明確な情報作成を求められてきていて、日本の保険会社はそれに沿うよう、明確になるよう、これまでも非常な努力を払われており、参考2において諸外国の制度として紹介されている国々の保険会社の契約条項よりも明確になっているという御意見をお持ちでした。したがって、今回の原則のある国の事業者が条項を明確にしているという事実との関連性がないのではないかという御意見でありましたので、この点についても再度、御検証いただければと思います。
また、保険業界のように長年努力して約款実務を積み上げてきた業界もある中で、そうした一般的努力義務を超えて、条項使用者不利の原則によって、将来における予測不可能なリスクを事業者に広く負担させるということは適切なのか。少なくともその不利益を超えるような立法事実というものをお示しいただいていないということを改めて申し上げたいと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
井田委員、続いて磯辺委員。
○井田委員 私は、条項使用者不利の原則導入ということについては賛成いたします。要件立て、適用範囲については、いろいろ議論するべき点もあると思うのですけれども、方向性には賛成いたします。
今までの議論を聞いていて1つ思うのは、適用場面がなかなかイメージが一致していないかもしれないと思っております。私、実際、弁護士として法廷で仕事をすることもあるのですけれども、ある文言の解釈が問題になったような場合には、資料にもあるように、最高裁の基準でいろいろな事情を含めて、その文言を解釈し、それでもなお、その言葉が一義的に確定できないという事例が、僕がこんなことを言うのも変ですけれども、それほどたくさんあるのか、という気はします。
ひょっとしたら、事業者の方は、使用者がそう言いさえすれば不明確だという誤解があるのかもしれないですけれども、実際そうではなくて、使用者側が不明確だと主張するにはそれなりの理由が求められる。それについて、きちんとした理由が言えないとなると、それは事業者側の解釈が妥当じゃないかという考え方も当然あるわけでして、一義的に確定できない場面というのは余り多くない。そのときにどうするべきかというルールを定めることについては、事業者の懸念というのは、僕はそんなに当たらないのではないかと思っております。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
磯辺委員。
○磯辺委員 契約条項を作成もしくは使用する側がどうしても判断がつかない文言・表記になっていた場合に不利に解釈されるのは、普通に考えても仕方がないかなというのが率直なところでして、そこに事業者サイドの方々がどうしてそんなにこだわるのかがよく分からないというところが1つあります。
それで、保険の例も出ましたけれども、保険などは約款そのものが商品みたいな、ほかの分野とは違った特異な分野だと思いますし、その分、約款も相当大部になっていて、消費者も読むのが大変。そのことをより分かりやすくするために、約款の重要事項説明とか、いろいろなものを作って契約の内容を正確に理解してもらうという手立てが業法などを通じて行われているという、非常に特異な分野でありまして、保険約款などは、約款を読み込んでいくとかなり明確になっていて、消費者が争うのはなかなか難しいということがむしろ通例ではないかと思っております。
そのほかの今日の事例にあるような、文言上、不注意でどちらでも解釈できるというものについての手当てというのは、こういう形で置く必要があるのではないかと思う次第です。
○山本(敬)座長 河野委員。
○河野委員 先ほどから事業者の方が条項使用者不利の原則の検討で、不利というところに非常にこだわっていらっしゃるかなというイメージを受けました。では、なぜこれが条項使用者不利と書かれているのか。消費者有利の原則でもいいのではないかと思ったのですが、そうじゃないところにこれの意味があると思っています。これは、消費者に有利に働くのではなく、条項を作った人がその条項に責任を持つという意味で、これが置かれなければいけないと感じているところです。取引をする、契約をするときに、条項を作られた方が消費者との間で合意を得るためにしっかりと配慮する。そのときに条項使用者不利というところは、しっかりと根底に置かなければいけない。非常に重要な、基本になる考え方だと思っています。
さらに、今回、御提案いただいた規定の中身ですけれども、文言の文理、他の条項との整合性、当該契約の締結に至る経緯、更にそのほか事情があるならば、そういったことを考慮してもなおその意味を一義的に確定することができない場合と書かれています。これは、ほとんど専門家の判断の領域ですね。私たち消費者が条項をさっと読んで、よく分からないから、これは違うのではないかというレベルの話ではないと考えていただきたいと思います。作った方が責任を負うということで、契約の本当の大原則であると考えれば、そもそもこういった原則が日本の消費者契約法の中に置かれていないことに対して、消費者とするとなぜなのだろうという単純な疑問を持つところでございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
中村委員、続いて長谷川委員。
○中村委員 先ほどの部分で若干認識のそごがあるのかなというところで、もう一回、御説明申し上げたいと思うのですけれども、私が申し上げているのは、条項使用者不利というのは、本当に突き詰めて最後まで行ったときに、最終的に条項使用者不利ということを必ずしも否定するわけではないのではありませんが、少なくともこの平成19年の判決のレベルで契約書が普通の消費者のいわゆる約款よりも厚いものがあり、かつ研修もし、これはロイヤリティの計算方法に関する争いなのですけれども、計算についても研修をしているという状況の中で不利に解釈されるという一つの事例として、そういうレベルでこの条項が不明確だと解されるのであれば、それについては、そういう場合にも必ず条項使用者について不利なのだということであれば反対ですということを申し上げております。
なので、そういうレベルでやらなければいけないということだとすると、一つ一つの約款を厚くして、更にいろいろな説明書をつけて、先ほどの保険の話じゃないですけれども、あらゆるものについて、そういう形にしないと不利に解釈されてしまうということを懸念しているということを申し上げているので、それは私は契約の作成等を結構やっておりますし、注意してやればいいのではないかというお話があったのですが、当然のことながら、これはフランチャイズ加盟店契約というのは年月を積み重ねて、ずっとやられているもので、考えないで作っているということはあり得ないことは御理解いただけると思うのですけれども。
その上で、結果的にはこういう解釈をされたというレベルのものについて、それを消費者の契約について適用して、それを条項使用者不利の対象とすることに反対するということを申し上げている次第です。
以上です。
○山本(敬)座長 少しよろしいですか。この平成19年判決が資料に挙がっている趣旨ですけれども、私が読んで理解した限りでは、これは解釈の方法ないし解釈の際に斟酌される要素を明示した裁判例として、このようなものがあるという紹介であって、これも条項使用者不利の原則が適用されるべき場合として挙げているという趣旨ではないと理解しました。ですから、御懸念はよく理解しましたけれども、資料が作られている趣旨は、むしろそうではないと思うのですが、いかがでしょう。
むしろ、この判決は、文言自体は曖昧だったのですけれども、おっしゃるような研修等があり、そこで示されているマニュアルの記載等を手がかりにしながら、解釈を実際に行っているというもので、その意味では、条項使用者不利の原則で問題にしているものとは少し違います。しかし、ここでは、契約解釈に際して、このような考慮をすべきであるということを示したものとして挙がっているということではないかと思いました。
どうぞ。
○中村委員 そうとはちょっと読みにくいのかなと思います。というのは、補足的意見のところで、「一方的な作成になる本件契約書」の条項の解釈が問題となった事案ということで紹介されておりますので、そういうことからすると、消費者契約ではないけれども、一方的なものとして作成されたものの解釈などで参考になるということで挙げられていると読めると思います。
○山本(敬)座長 これ以上は結構ですけれども、長谷川委員も最初のほうに御指摘されていたとおり、契約の解釈に際して何を基準にするかということが以前から問題になっていて、その手がかりとして裁判例を見たところ、最高裁判所の判例としてはこういうものがあるという御紹介として、少なくともそのように位置付けることができるものがここに出されていると思います。
ただ、注19に昭和51年判決が挙がっていて、必ずしも一致していないという御指摘がありましたけれども、少し補足して申し上げますと、注19に書かれている当事者の目的等は、民法の一般的な教科書に書かれている考慮事由を、若干省略していますけれども、ほぼ挙げたものでして、通説的な理解を確認したものではないかと思います。平成19年判決のほうも、それを更にブレークダウンしたような表現を使っているものでして、両者は矛盾するものではなく、むしろ両者合わさって契約解釈についての裁判実務における一般的な手法を書き表そうとしたものではないかと思います。
これは、消費者契約に特有の解釈準則があるのかという問題でして、契約一般に共通した解釈準則があり、それが、本来ならば民法に規定が置かれればよかったのですけれども、残念ながら民法には規定が置かれなかった。では、契約の解釈準則として確立したものがないのかというと、そんなばかなことはないはずでして、もし確立した解釈準則がなければ、日常行われている裁判実務が成り立たないはずです。共通した解釈準則を法律の文言に書き表すのは難しいかもしれませんけれども、共有はされている。そのような解釈を尽くしてもなお条項の意味を一義的に確定できないということを、ここで示そうとしていると理解したということだけ申し上げておきます。
長谷川委員。
○長谷川委員 先ほどの私の発言に対して、山本座長は多分おっしゃりたいことがあったのだと思います。それを我慢していただいている中、2回目の発言をして申し訳ございません。
大澤委員のほうから、具体的に資料に記載の請負契約ですか、地公体の調達の話がシンプルな例ではないかということで、ほかにどうなるのかという指摘があって、磯辺委員のほうから損保の話が出ました。資料17ページの平成7年の最高裁判例が、まさに自動車損害保険契約の争いになった事案でございまして、一番上の「事案の概要」のところにある「正規の乗車用構造装置にある場所に搭乗中」という文言が議論になった話でございます。これは、椅子を倒して、後ろが平面になるようなタイプの車でございまして、そこに乗っていて事故が起きました。そこが保険のカバーの対象になるかどうかというのが争われた事例で、最高裁まで行っているということでございます。
多数意見は、それは対象にならないでしょうという結論を出しているわけでございますけれども、千種裁判官の補足意見で、もっと明確に書いておけばいいじゃないかという御指摘をいただいているということでございます。仮にこの補足意見をされた裁判官のような意見の方がたくさんおられて、裁判所の判断となるということですと、事業者としては、これはもうちょっと明確に書いておくべきだったのではないかということになって、保険約款の記載がたくさん増えていく。例えば、暴走族の箱乗りみたいなものをしたのはどうかとか、そういうのも想定して入りませんというのをたくさん書いていくという実務になるのではないかということです。手元にある具体例から申し上げると、そういった懸念があるということでございます。
それだけ申し上げようと思ったのですけれども、先ほど山本座長が解釈準則についておっしゃられたので、もう1点申し上げます。裁判所に対して失礼なのかもしれない、また、名だたる専門家がおられる中で恐縮ですけれども、多分、裁判所はある程度結論を見据えながら法律構成あるいは契約の解釈というのをするのではないかと思っています。そうであれば、解釈準則というものがばしっと書かれて、それに従ってやっていくということになると、不都合な結論が出る場合もあり得るのではないかと思います。そうした中、もちろん消費者契約法に限らないわけでございますけれども、解釈の仕方について一定の法律的なものを置くということについては、条項使用者不利の原則だけに限らず、もうちょっと大きな議論が必要なのではないかなと思う次第です。
以上でございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見ありますでしょうか。既に15分オーバーをしていますが、御意見いただければと思います。いかがでしょうか。
では、河上委員長。
○消費者委員会河上委員長 作成者不利の原則とか条項使用者不利の原則というのは、実は古くから民法にあった議論でして、裁判官の契約解釈心得というもの、これは山本座長のほうが専門家なので、本当はいっぱい言いたいことがあるのだろうと思います。
民法の中で実際に債務者とか弱い立場にある人間にとって、どちらか分からないという曖昧な部分が出てきたときに、その弱いほうの人たちのために有利に解釈してあげなさいということになっておりました。これは当たり前のことだから、民法の中にはもう書かないでいいでしょうということになって、今、民法の中にも入っていないのですけれども、附合契約とか約款の問題になったときに再び浮上して、約款条項を実際に自分が作成できるような立場にある人ですから、その人の側に不明確な部分のリスクを負っていただくということになります。
さっき石島委員が、将来における不明確なリスクを全部負うことはできません。では、消費者が負うのですかということになります。それよりも、分からなくなったときには、約款を契約に持ち込んだ、あるいは条項を作り上げた事業者の方に負っていただくということがルールとしてあったほうが、契約内容の確定のためには最終的に必要だということであります。
裁判所は、恐らくある契約条項が無効だというのはとても言いづらいと思います。無効だと言うためには、一定の理由を言わないといけない。ところが、あなた方が作った契約書の解釈によれば、こういうことになるのですよと言えば理由を言わなくて済むので、裁判官が解釈の手法でもって、一定の望む結論へ導くことがあった。それが諸外国では、隠れた内容規制になってしまっていたという批判を浴びた。ですから、それを考えると、この解釈準則の正しい位置付けというのをQ&Aなどではっきりさせておいていただく必要がありそうです。
もちろん、契約内容は当事者の理解を得ることが大事ですから、解釈の基準は平均的な消費者でいいと思いますが、その人たちの理解を基準にして、ある条項を目的論的に、合理的に解釈してみればどうなるかを突き詰めていただく。突き詰めたけれども、解釈としてはどっちもあり得るというときには、申し訳ないけれども、事業者に引き受けてもらうという位置付けのもので、これ自体がそんなに大きな武器になって活躍するということはないと考えたほうがいいと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
以前からずっとこの議論をしてきているわけですけれども、今日もかなり詰めた御意見あるいは問題点の指摘をしていただきました。ほぼ出尽くしてきたのではないかという印象があります。今日の議論をもう一度整理し直して、とりわけ要件立ての部分について、更により正確な規定の仕方が可能かどうかを検討する。その際に、今日、たくさんの方から、定型約款に絞ることが本当によいことなのかどうかという問題の指摘もいただきました。これもあわせて検討する必要があるのではないかと思います。
もう時間が過ぎていますけれども、一言だけ申し上げさせていただきますと、現在、民法の改正法案が国会でも審議中で、まだ成立する段階には至っていないのかもしれませんけれども、かなり詰めた議論が行われているところです。定型約款について規定が提案されていて、これがどうなるかということはもちろん問題ではあるのですけれども、もし提案のように民法に規定されると、どうなるかということを押さえておく必要があると思います。
改正法案の定型約款はかなり限定されているように見えますけれども、これが何を意味するかといいますと、定型約款に関してはこういう民法のルールが適用される。ただ、従来から約款と言われていたもので、定型約款に当たらないものはどうなるのかというと、民法には直接の規定がない。しかし、約款についてはこれまでも議論がたくさんあって、書かれてはいないけれども、共有されている不文の約款法理というものがあり、それが今後もその限りでは生きていくだろうということが共通了解だったと私は理解しています。
ですので、広い意味での約款に関しては、従来どおりのルールが適用されていく。もちろん、それがどのようなルールかということについては、一部には争いがあるかもしれませんけれども、その状況は変わらないのだろうと思います。
ただ、定型約款として提案されている規定の中身も、従来の約款法理と全く違うものかというと、必ずしもそうではなくて、共通する部分も一部にはあります。そのような部分は、定型約款について定められているけれども、約款一般についても当てはまるだろうと思います。そのような仕分けを今後はしていかなければならないことになる。
そうしますと、仮に消費者契約法で消費者契約における定型約款についての規定ができたとしましても、それが定型約款に限った特殊なルールなのか、約款一般にも当てはまるものが定型約款ルールとして書かれているのかという、民法と同じような仕分けの問題が出てくるだろうと思います。
余計なことを言いすぎたかもしれませんけれども、問題点はそこにあるということだけは申し上げておきたいと思います。いずれにしましても、以上を踏まえて問題点を整理していただき、次回、更に検討できればと思います。
20分以上も遅れてしまいまして、大変申し訳ありません。
それでは、最後に、本専門調査会の今後の審議の進め方等について事務局から御説明いただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
○丸山参事官 お手元に資料3と右上に付されている資料があるかと思います。そちらが今後の審議スケジュール(案)となっております。
本日ですけれども、「平均的な損害の額」の立証責任、それから条項使用者不利の原則について御検討いただきました。
翌月の3月の専門調査会につきましては、さきの専門調査会で優先的に検討すべき論点ということで区分けされた事項のうち、検討が残されている「勧誘」要件の在り方、不利益事実の不告知、困惑類型の追加、消費者に対する配慮に努める義務について御検討いただきたいと考えております。大体2回程度という形で考えております。
さらに、4月の専門調査会につきましては、事業活動への影響等に関するヒアリングの実施を予定しております。さらに、優先的に検討すべき論点以外の論点の取扱いについても御検討いただきたいということで予定しております。
今後の審議予定につきましては、以上のとおりです。
○山本(敬)座長 永江委員。
○永江委員 1点、事務局にお願いがあるのですが、今後のスケジュール予定について、3月に「勧誘」要件の在り方についての議論が予定されていますが、この論点は実務への影響が非常に大きく、かつ昨今、重要な判例も出ているところでもあり、当協会として関連団体と事前に協議をしたい部分ですので、できればこの論点につきまして、例えば2週間前等、可能な限り早く案を出していただいて、事業者間で検討する時間を与えていただけると非常に助かります。これは希望ですので、御検討をよろしくお願いいたします。
○山本(敬)座長 承ったということで、よろしいでしょうか。
○丸山参事官 了解いたしました。
○山本(敬)座長 ほかにあればと思いますが。ありがとうございました。
それでは、時間をかなり過ぎてしまいまして、大変申し訳ありません。本日の議論は、このあたりとさせていただきます。
最後に、事務局から事務連絡をお願いいたします。
≪4.閉会≫
○丸山参事官 本日も熱心な御議論をどうもありがとうございました。
次回の日程につきましては、追って御連絡させていただきます。よろしくお願いいたします。
○山本(敬)座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。お忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございました。
以上