第23回 消費者契約法専門調査会
日時
平成27年12月11日(金)15:00から
場所
消費者委員会大会議室1
出席者
- 【委員】
- 山本敬三座長、後藤巻則座長代理、阿部委員、井田委員、大澤委員、沖野委員、河野委員、古閑委員、後藤準委員、丸山委員、山本和彦委員、山本健司委員
- 【オブザーバー】
- 消費者委員会委員 河上委員長、鹿野委員
- 法務省 中辻参事官
- 国民生活センター 松本理事長
- 【消費者庁】
- 井内審議官、加納消費者制度課長
- 【事務局】
- 黒木事務局長、小野審議官、丸山参事官
議事次第
- 開会
- 不当勧誘行為に関するその他の類型
- 損害賠償額の予定・違約金条項(第9条第1号)
- 消費者の利益を一方的に害する条項(第10 条)/不当条項の類型の追加
- 条項使用者不利の原則
- 閉会
配布資料(資料は全てPDF形式となります。)
議事録
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≪1.開会≫
○丸山参事官 それでは、定刻になりましたので、始めさせていただきたいと思います。
本日は、皆様、お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。
ただいまから、消費者委員会第23回「消費者契約法専門調査会」を開催いたします。
本日は、所用により、増田委員、柳川委員が御欠席、後藤準委員、山本和彦委員が遅れての御出席との連絡をいただいております。
まず、配付資料の確認をさせていただきます。お手元の議事次第の下部のほう、配付資料一覧をお示ししております。資料1といたしまして、消費者庁からの提出資料となっております。また、資料2といたしまして、山本健司委員からの提出資料となっております。
もし、お手元の資料で不足がございましたら、事務局のほうへお声がけをよろしくお願いいたします。
それでは、ここからは山本座長のほうに議事進行をお願いいたします。
≪2.個別論点の検討≫
(1)消費者庁からの説明
○山本(敬)座長 それでは、本日の議事に入ります。
本日は、消費者庁から個別論点の検討のための資料として資料1を御提出いただいています。
本日の進行としましては、まず、消費者庁から資料1全体について御説明をいただき、その後に論点を区切って質疑及び意見交換を行わせていただくこととしたいと思います。
それでは、まずは消費者庁から御説明をお願いいたします。
○消費者庁加納消費者制度課長 それでは、どうぞ、今日もよろしくお願いいたします。
前回に続きまして、論点の検討ということで資料1を準備いたしました。資料の構成といたしましては、これも前回と同様でございますけれども、それぞれの論点ごとに、冒頭で枠囲みのところでありますけれども、今後の検討の方向性を掲げまして、1で中間取りまとめまでの議論、2で意見受け付け、それからヒアリングにおける主な御意見、3以降で、どうするかということの検討というような構成にしております。
では早速ですが、1ページ目の「第1.不当勧誘行為に関するその他の類型」の「1-1.困惑類型の追加」でございます。中間取りまとめの議論は、ここに掲げさせていただいたとおりでございます。
2ページでありますけれども、意見受け付け、ヒアリングにおける主な御意見をそれぞれの論点ごとに紹介させていただきました。
執拗な電話勧誘につきましては、こういった手当てが必要だというような御意見もあるところでありますけれども、2つ目のポツにありますように、特商法で対処すべきといった御意見もあります。
威迫による勧誘につきましては、2つ目のポツでありますけれども、その概念が曖昧ではないかという御意見があります。例えば「粗野又は乱暴な言動を交えて」というところについては、多分に主観的ではないかといった御懸念も寄せられているということであります。
困惑類型の追加につきまして、一般論的な御意見でありますが、2ページの下から5行目あたり「ただし」というところですけれども、「取消事由とするにあたっては、『誰が見てもこれが取り消されて然るべき』という要件、あるいは「取消しを受けるに足る消費者側の特別な事情」等を定義し、範囲を限定すべき」といった御指摘もいただいているところでございます。
3ページの「3.具体的な対応の検討」で、まず(1)の執拗な電話勧誘のところであります。
冒頭に書いておりますように、執拗な電話勧誘は、消費者にとって、その勧誘から逃れるためには契約を締結するしかないという状況に陥らせるという点で、不退去や監禁と同等なものというふうな見方もあり得ると思いますが、他方で、電話勧誘に関する規律としましては、特商法の中で幾つかの規律が既に設けられており、現在も電話勧誘販売の規定について検討されているという状況かと思いますので、消費者契約法でこの規定を設けることが適切かどうかというところについては、なお検討をする必要があるのではないかと考えられるところでありまして、特商法の見直し、運用の状況を注視した上で、必要に応じ検討していくのが適当ではないかと書いております。
続きまして、(2)の威迫による勧誘のところであります。
まず、アの「粗野又は乱暴な言動」及び「威迫」といった概念でありますが、3ページの一番下の「確かに」という段落に書いてあるところでございますけれども、こういったものが取消事由とするに足りるほどの行為類型として明確かという点につきましては、現行の不退去・監禁と比較すると、明確という点では、やや明確ではないのではないかと思われるところでありまして、4ページにも書いてありますが、民事ルールとしてこれで十分かというところにつきましては、さらに検討の必要があるのではないかということでございます。
イの行為類型の考え方というところで、できるだけ明確な行為類型として取消しを規定するという形で消費者契約法は今まで来ておりますので、そういった消費者契約法における規定ぶりとして何が適切かという点につきましては、さらに検討をする必要があるのではないかと考えておりまして、そういった検討課題として位置づけるのが適当ではないかと書かせていただいております。
以上が1-1の論点であります。
続きまして、6ページ「1-2.不招請勧誘」の論点でございますが、中間取りまとめまでの議論、それから意見受け付けの状況につきましては、6ページから7ページにかけてまとめているとおりでございます。
3の具体的な対応の検討というところでありますけれども、これもこの不招請勧誘の問題が典型的に見られますのは、訪問販売あるいは電話勧誘販売といったところであろうと思われますので、特商法の見直しの状況、あるいは運用状況を注視した上で、必要に応じて検討していくというのが適当ではないかと考えられると書いております。
続きまして、8ページ「1-3.合理的な判断をすることができない事情を利用して契約を締結させる類型」ということでございまして、ここは今回、一定の手当てを講じてはどうかということで提案をしております。
1の中間取りまとめまでの議論、これは今までの議論のおさらいということになりますが、従前、いわゆる暴利行為として対処されてきた事案、こういったものを念頭に置きながら、かつ、暴利行為準則の裁判例がじわじわと適用範囲を拡張していると見られる状況を踏まえて、どうやって要件を明確化していくかというのが課題であったかと思います。その際の考慮要素といいますか、着目点としましては、2段落目の「具体的には」と書いているところでありますけれども、大きく分けて2つの要素、マル1は判断力の不足、知識の不足などの消費者が当該契約をするかどうかを合理的に判断することができない事情を利用して、マル2不必要な契約を締結したという場合に、取消しまたは解除というのを設けるかどうかということであります。
この点に関しましては、9ページの2の意見受け付け、ヒアリングにおいて、さまざまな賛否両論の御意見を頂戴したところであります。9ページの最初のほうに書いておりますけれども、こういったいわゆるつけ込み型勧誘については、要件を設ける必要性が非常に高いのではないかと。2つ目のポツに書いていますように、とりわけ高齢化社会というのをにらんだ場合に、こういった規定は不可欠であろうというような趣旨の御意見はたくさんいただいております。
他方で、どうやって規定を設けるかという点については、なお検討の必要があるのではないかということでありまして、9ページの下から2つ目のポツにも書いておりますが、合理的な判断をできない事情というのはさまざまあるのではないかということでありますとか、不必要な契約というのはどうやって判断するのかということから、慎重な検討が必要ではないかという御趣旨かと思います。
それから、10ページのほうにも幾つか書いておりますけれども、10ページの意見の最後のポツのところでありますが、「合理的な判断を行うことができない事情」というのを抽象的に書いたままにとどまりますと、その有無を事業者において判断しなければならないということになりますので、消費者に機微情報まで根掘り葉掘り聞くのだということになりかねない。そうしますと、それが本当に消費者にとっていいのかといった御懸念かと思います。
具体的にどうするかということでありまして、(1)の方向性というところであります。1段落目に書いておりますけれども、これまでの専門調査会における御議論の状況、あるいは意見受け付け、ヒアリングなどの結果を踏まえますと、高齢者とか認知症問題といったものもありますので、被害救済の必要性があること自体については、おおむね賛同を得られているのではないかと思っております。ただ問題は、それについてどうやったら明確な規律を設けることができるのか、その要件が不明確であれば、取引時に混乱を招きかねないということでありまして、できる限り客観的な要件をもって具体的に規定することが必要ではないかという問題意識であります。
(2)具体的にどうするのかということで、アの客観的要素、それから12ページ、イの主観的要素と、大きく2つに分けまして検討をしてみました。
それを御紹介させていただきますと、アの客観的要素というところでありまして、10ページの下から11ページにかけて書いておりますように、もともと想定しているのは、要らないものを買わされたという事案でありますので、本来その消費者にとって「不必要な契約」だと。ただ、その不必要というのは、4行目から「確かに」と書いておりますけれども、契約を締結する理由というのは人それぞれ異なるものと思われますので、一律に不必要というのはなかなか判断に難しいところがあろうかと思います。他方で、やはり事業者の予測可能性を確保するという必要もあろうかと思いますので、「不必要な契約」の全てを捕捉することができるものではないとしましても、類型的に「不必要な契約」に当たると考えられるものを、客観的に要件立てをするということが考えられるのではないかと。
その際、参考になりますのが、特商法の過量販売の解除権の規律でありまして、「そして」という段落に書いておりますが、その「不必要な契約」の典型例の一つとしては、日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える、そういった契約について、給付が過剰な契約と、これを過量契約と仮に言うとしまして、そういった過量な契約というのがあるのではないかと思われます。
事例1-3-1、1-3-2と、これまでの専門調査会で検討の素材として御紹介をさせていただいたものでございますけれども、1-3-1でありますと、例えば宝石などについて、老後の生活に充てるべき資産をほとんど使い切るほど購入したと。そこまで要るのかということでありますし、1-3-2も、婦人用品ということでありますけれども、女性に対して6カ月の間に115点の服飾品を販売したということでありまして、客観的に見てこういったものはおよそ必要性がない、必要性を著しく超える、通常の分量を著しく超えるというような事案と言えるのではないかと思います。こういったところを一つ、客観的な要素として要件立てしてはどうかということでありまして、「なお」というところに書いておりますけれども、特商法の規定が既に設けられておりまして、解除権ということでありますけれども、民事効を伴う規定となっておりますので、要件としての明確性は保たれると考えてよいのではないかとしております。
ただ、これは過量契約についてということで客観的な要件を定めようといたしますので、そうしますと、そうでない場合、例えば本来は要らない印鑑とか、壷とか、そういったものを高額で買わせるといったものもあるわけですが、そういったものにつきましては、今回の提案内容からは外れてくると言わざるを得ないのですけれども、そういったところについては、今後の検討課題として位置づけてはどうかということであります。
以上が客観的要素の部分でありまして、12ページのイの主観的要素というところで、つけ込み型ということでありまして、そういった事情につけ込んで、利用してという場合、それをどう書きあらわすかと。具体例としては、判断力不足でありますとか知識・経験不足、心理的な圧迫状態、従属状態などなどを挙げていたところでありますけれども、これをどうやって明確にしていくのかというところであります。
この主観的要素は、さらに2つの要素に分けられると思います。すなわち、1つは消費者の置かれた状況。判断力不足などなどの消費者の弱い状況とでもいいましょうか、そういった状況。もう一つが、13ページのマル2に書いてある、事業者がそれを利用したと、積極的に利用して、あえて契約させたといった事業者の主観的な対応と、この2つに分かれるのではないかと思います。
12ページのマル1の消費者が置かれた状況、その判断力不足などの弱い状況をどう位置づけていくかということでございますが、事業者からの御懸念としましては、マル1の1段落目に書いておりますけれども、そういった判断力の不足などといったものは程度問題であろうということで、やはり個々の事情などによって異なり得るということで、これをそのまま要件としてしまいますと、非常に適用関係がわかりにくくなる、不明確であると、こういった御指摘であろうと思います。
ただ、「しかしながら」と書いておりますが、過量契約というのを客観的要素として今回、提案をしているわけでありますけれども、そういった過量契約を適用対象にすることを前提といたしますと、次のように考えられないかということでありまして、消費者が事業者から不実告知その他の不当勧誘を受けたにもかかわらず過量な契約、日常生活において通常必要とされる分量等を著しく超えるような給付を受ける契約を締結してしまうというのは、合理的に考えれば、そんな契約をしないはずのものでありますから、特に必要性がある場合を除きますと、通常は消費者にそういった合理的な判断ができない事情があるというふうに見てよいのではないかということでありまして、そうしますと、消費者が判断力不足といいますか、主観的要素というのが類型的にあらわれていると見られるのではないかということで、消費者にみずからの締結している契約が過量契約に当たるという認識がない場合ということに要件立てとしてなってくるのではないかと。
そういたしますと、こういった過量契約に当たるという認識がない場合には、類型的に判断できない事情があると見て要件立てをするということでありまして、12ページの「このように」という段落に今申し上げたことを書いておりまして、一つの要件立てとすることができるのではないかということでございます。
ただ、他方で、「なお」と書かせていただいておりますけれども、消費者には、通常は過量だというような契約であっても、あえて契約するといったことも、それぞれの事情によってはあり得るのではないかと。例えば、たくさんの友人がいるんだということで、贈り物をするので買いますよといようなこともあり得ると思いますが、そういった場合には、通常必要な量を超えるということ自体の認識は有していると思われますので、おのずと適用対象からは外れるのではないかというふうに整理できないかと考えております。
それが消費者の置かれた状況というところでありますが、続きまして、13ページのマル2の主観的態様というところであります。そういった事情を積極的に事業者が利用したということで、あえて買わせるというような場合でありますが、それももともと想定していた暴利行為などでこれまで捕捉してきた事例を念頭に置きますと、こういった要件も設ける必要があるのではないかと思われるところでありまして、この点からどう検討するかということであります。
これに関しましては、「この点から検討するに」の段落の真ん中あたりに書いてあるところですが、結論としては「これに対し」と書いているところでありますけれども、客観的に過量契約に該当するにもかかわらず消費者がそのことを認識していないということを事業者が認識しながら、さらに契約の勧誘をする。認識しながら勧誘するというような場合であれば、類型的に利用したと言えるのではないかと考えました。
利用したということですから、あえてそのように仕向けるということでありますので、消費者が過量性について認識がないということを事業者が認識しながら、あえて勧誘するというようなことで類型化を図ってはどうかということであります。
仮にこういった考え方をとったといたしますと、「例えば」と括弧書きで書いてあるところのような結論になるかと思われます。スーパーに毎日、消費者が同じ商品を買いに来るということがありました。事業者が、どうもそれは過量だなということに薄々疑いをいただいたとしましても、単に消費者がレジに持ってきて販売する、レジを通過するだけだと、それで買っていったという場合であれば、認識していながらの勧誘にはならないと思われますので、この要件は満たさないということになろうかと思います。これに対して、過量になっている、かつ認識がないということを事業者が知りながら、あえて勧めるという場合には、この要件を満たすというところで差別化が図られるのではないかと考えました。
以上を踏まえまして、その枠囲みの中でありますけれども、これは幾つかの要素が出てまいります。1つは、客観的に過量契約。この過量契約といいますのは、括弧書きで書いておりますように、特商法の例などを参考にした考え方でありますけれども、日常生活において通常必要とされる分量などを著しく超えるようなものを過量契約としまして、それに該当するにもかかわらず消費者がそのことを認識していないということを知りながら関与するということで、それによって締結したという場合には取消し、解除ということを検討してはどうかということであります。
13ページ、その適用対象にならない事例ということでありますけれども、こういたしますと、一定の絞り込みをした上で、類型化を図った上で救済を図っていくというふうになるわけでありますが、14ページに書いてありますように、当然、入らないものもあると思います。例えばそもそも過量契約に当たらない場合とかはあると思いますので、そういった場合については、さらに検討していってはどうかということで書いております。
以上が合理的な判断ができない事情を利用した契約を締結させる行為というものであります。
16ページからは契約条項の論点に移ります。
まず、第9条の関係であります。第9条の論点は大きく分けて2つありまして、1つは、契約の「解除に伴う」といった要件をどうするのかという論点であります。もう一つが、20ページにありますように、「平均的な損害の額」の立証責任の問題をどう考えるかということであります。
まず、「解除に伴う」要件をどう考えるかということでありまして、16ページに中間取りまとめまでの議論を御紹介しつつ、2で意見受け付けなどにおける主な意見を書いております。
17ページを御覧いただきますと、例えば冒頭のところでありますけれども、契約の解除に伴う場合も、契約の解除は伴わないが実質的に契約を終了する場合も、事業者には損害が生じるということを踏まえて、慎重な検討が要るのではないかといった御指摘もございます。
それから、一番下のところでありますけれども、9条1号の適用範囲を拡大した場合に、損害賠償目的での違約金条項だけではなくて「同様の行為をさせない」という違約罰的な条項、例えばということでキセル乗車などと書いておられますけれども、そういったところについては慎重な検討が要るのではないかといった御指摘もいただいております。
17ページの3の「具体的な対応の検討」をどうするかということでありますが、事業者サイドから寄せられた御懸念は大きく2つあると理解をしております。1つ目が、アの早期完済条項というところでありまして、早期完済に伴う違約金について、消費者契約法10条で無効と判断して差止めを認めたという裁判例がありますけれども、金融機関からの御懸念としましては、18ページの2-1-1で御紹介いたしました固定金利型のローンというのが広く用いられていて、その中で早期完済がされた場合の損失の補?のような規定が設けられているということでありまして、これへの悪影響が本当にないのかどうかという点について、さらに慎重な検討が必要ないかというような御指摘をいただいているところでありまして、ここは現時点でどうなのかというところは何とも言えませんので、引き続き検討する必要があるのではないかと書いております。
それから、18ページのイの明渡遅延損害金を求める条項ということでありまして、先ほど、17ページの意見の中でキセル乗車の御意見も紹介いたしましたけれども、もう一つ、ここの事例2-1-2にありますような、建物賃貸借契約において明け渡しをしなかった場合の損害金の予定というものについて影響が生じるのではないかと。こういったところをどう考えるかということでありまして、19ページに書かせていただいておりますが、こういった明渡遅延損害金のうち、一定の部分については損害賠償の予定と思いますけれども、他方で、違約罰としての性質を有するものもあると思われます。そうしますと、これについて損害賠償の予定ではない部分についても、「平均的な損害の額」という概念で不当性を判断していくことの適否については、一歩立ちどまって検討する必要があるのではないかと思われますので、さらにそこは検討していってはどうかということであります。
他方で、19ページの(2)に書いておりますが、不当な早期完済条項につきましては、先ほどちょっと御紹介しましたけれども、消費者契約法10条で無効とした裁判例もあるところでありますので、さらには9条1号の類推適用なども確かに可能性としてはあり得ると思います。そういった裁判例などを逐条解説において紹介しながら、逐条解説において考え方を整理していくということも一つの方策としてはあり得ると思いますので、そういうことについては取り組んではどうかということであります。
続きまして、20ページの「平均的な損害額」の立証責任の問題であります。中間取りまとめまでの議論、それから21ページ、ヒアリングにおける主な御意見ということで御紹介をしております。
具体的にどうするかという点でありますが、21ページの3のところでありまして、中間取りまとめでは、当該事業者ではなくて、同種事業者に生ずべき平均的損害額を超える部分を当該事業者に生ずべき平均的な損害を超える部分と推定する規定を設けるということを検討してはどうかということでありました。ただ、その後のヒアリングなどの御意見の状況を見ておりますと、22ページの「もっとも」と書いているところでありますけれども、推定規定でありますので、推定されてしまった分につきましては、事業者が立証責任を負うとなりますので、そういった点については、まだ慎重な検討が要るのではないかという御意見も事業者サイドからございます。他方で、消費者にとって、同種事業者に生ずべき平均的な損害額の立証というのも困難な場合もある。それは業界によってはそういった場合もあろうかと思いますので、余り問題解決にはならないのではないかという御意見をいただいているところでありますので、ここについては現時点で直ちに導入するというのではなく、さらに検討していくことが必要ではないかと考えております。
23ページ(3)の今後の方針ということであります。
まず、アで裁判例の具体的な検討と書かせていただいておりますが、裁判例はもう既にかなりの数がこの分野では集積をしているところでありまして、最高裁判決もございます。最高裁判決をよく読みますと、上から3行目「事実上の推定が働く余地があるとしても、基本的には」という留保をつけているところが注目されるのではないかと思っておりまして、事実上の推定の活用というのが、消費者の立証の負担を軽減するものとして機能するということではないかと思いますし、さらには、弁論の全趣旨を活用するでありますとか、裁判実務におけるさまざまな考え方が提案されているところでありますので、裁判実務にある程度委ねるということであっても、それなりに消費者被害の救済が図られるのではないかと思われるところであります。
他方で、24ページ、イの、問題はむしろ消費生活相談でうまくいくのかというところは、やはり課題として受けとめなければならないのではないかと思っております。かつてのアンケートのやりとりの質問と回答を書かせていただいておりますが、事業者から根拠資料の提出が全くないということで、それ以上相談が立ち行かないといったこともあるようでありまして、これは裁判所のようなものではありませんので、そういったところへの手当てというのは、なお課題として受けとめなければならないのではないかと思います。
そこで、25ページの「事業者による情報提供の努力」というところでありますけれども、もともと事業者に生ずべき平均的な損害額として、事業者が契約条項においてみずから定めるわけでありますので、事業者にしかわからない情報であろうと思います。消費者契約法というのは、消費者と事業者はもともとも情報格差というものを踏まえて規定しているわけですけれども、その中でも3条というのは、努力義務としてではありますが、できるだけ説明をするといったことも規定しておりますので、規定から直ちにというわけではありませんが、この3条1項の趣旨に照らしますと、できるだけ事業者が平均的な損害額について必要な情報提供に努めるというのが望ましいと考えられるところでありますので、この点を逐条解説などで紹介してはどうかということで書かせていただきました。
以上が9条の問題であります。
続きまして、29ページの第3の論点は、ここも2つの論点を書いておりまして、1つは、10条自体をどうするのかという論点と、いわゆる不当条項類型の追加というところをどうするかという、この2つであります。29ページの1で中間取りまとめまでの議論ということで、10条の要件のあり方については、最高裁判決を踏まえて検討すべきであろうということを御紹介しております。
30ページの(2)不当条項類型の追加というところにつきましては、2段落目ぐらいからマルa、マルb、マルc、マルd、マルe、マルfという解除権放棄条項などについて、30ページから31ページにかけて検討してはどうかということを御紹介させていただいております。
32ページの2の意見受け付けやヒアリングにおける御意見ということで、それぞれに対応するような形で賛否両論の御意見を御紹介しております。
34ページの3、では具体的にどうするのかということであります。この内容は、大きく分けると2つありまして、まず1つ目が、例外なく無効とする、一律に無効とする契約条項の類型としては何があるのかということであります。アの、まずその検討の前提となる方向性でありますが、やはりいろいろと御意見などを見ておりますと、事業者の予測可能性を確保することが前提であるという御意見が事業者サイドからは多く寄せられているところでありまして、ここは私どもも受けとめなければならないのかと考えております。
35ページ、イですけれども、具体的にどうするのかということで、中間取りまとめにおいては、マルa、マルd、マルe、解除権放棄条項、解釈権限付与条項、それからいわゆるサルベージ条項の3つについて、一律無効ということが検討課題とされておりました。
そのうち、マルaの解除権放棄条項につきましては、一定の手当てをしてはどうかということでペーパーを書いております。その理由でありますけれども、35ページの真ん中の「この点について」というところで、できるだけ明確化を図りつつ、不当な条項を具体的に書きおろすという観点からいたしますと、解除権、解約権、放棄条項の中でも特に債務不履行あるいは瑕疵担保に基づく解除を放棄させるというものにつきましては、事業者に債務不履行や給付の瑕疵があったということで、契約を締結した目的を達成できない。解除権が発生するわけでもありますけれども、それでもなお契約の拘束力から解放されるすべがなくなってしまうということでありますので、瑕疵ある商品を受け取っても、そのままお金は払い続けねばならないということに理屈としてはなるわけでありますので、これは不当性が特に高いと言わざるを得ないのではないかということであります。
これに対しまして、いわゆる任意解除権につきましては、理由がなくてもいつでも解除できるという性質のものでありまして、債務不履行に基づく解除などとは同列には位置づけられないのではないかということと、35ページの「また」というところで、保険契約の分野でこういった商品類型があり、その中で任意解除権を放棄させるということにも合理的な必要性があると思われるようなケースがあるようでありますので、そういったことを踏まえますと、任意解除権については一律に無効とするという対象からは外すのが適当ではないかと考えられるところであります。
36ページの解釈上認められる解除権につきましても、検討の余地はあるわけでありますけれども、明文の規定があるわけではないという点で、やや明確性に欠けるのではないかということであります。
次に、解釈権限の付与条項というところでありまして、これも契約内容を事業者が一方的に決定できるのと変わらないという点については不当性が高いのではないかとも思われるところであります。ただ、この解釈権限の条項の問題の所在といたしましては、とりわけ裁判外において、裁判上であれば裁判所が適宜、解釈権限付与条項の有無にかかわらず合理的な解釈をコントロールするといったことが期待できるわけでありますけれども、裁判外において、当該条項があるということを奇貨として無理な解釈を事業者が消費者に押しつけるといったことがリスクとして考えられるわけではありますが、具体的にそういった被害の実例があるのかという点につきましては、この間、私ども、いろいろと実例を探したりしてみましたけれども、現時点では見当たらないという状況でございますので、こういった点については、引き続き、事例の収集・分析が必要ではないかと考えております。
37ページに行きまして、いわゆるサルベージ条項であります。これも適正な契約条項の策定のインセンティブをそぐといった問題でありますとか、強行法の脱法として機能してしまうということで問題があると理解はするところでありますけれども、それで具体的に消費者が不当な不利益をこうむった事例があるのかというと、現時点においては、私ども、それを探し当てるには至っていないという状況でありますので、引き続き、実例を収集・分析する必要があるのではないかということで書かせていただきました。
以上を踏まえまして、一律無効の条項としては、債務不履行または瑕疵担保に基づく解除権を放棄させる条項というのを、今回手当てを講じることとしまして、他の条項については、引き続きの検討課題としてはどうかということであります。
続きまして、38ページの(2)の一定の場合に無効とする条項。一律無効ではなく、一定の場合に無効とする条項でありますとか、あるいは法10条の要件、特に前段要件でありますけれども、この辺についてまとめて検討して、ペーパーにしております。
まず、アのところで、一定の場合に無効とするということでありまして、一律無効というわけではないということになるわけでありますけれども、(ア)の中で幾つか御紹介しておりますが、2段落目、これまでの御意見を見るとというところでありますが、そういったものについては、一定のニーズといいますか、事業者として必要性もあるのではないかという、そういった必要性が認められる可能性がある条項もあると思われます。例えばということでマルa、マルb、マルcと幾つか書いておりますけれども、例えば暴力団の排除条項とか、こういったものは確かにニーズはあるだろうと思われるところであります。
38ページの(イ)でありますけれども、それを踏まえますと、一定の場合に無効とする一律無効というわけではないといたしましても、やはりそれなりに類型的に不当性が高いものを抽出するといった努力が必要ではないかと思われるところであります。
そこで、39ページのところでありますけれども、ここで10条前段要件の規定のあり方という論点と重なってまいりますけれども、(ア)のところで、具体的な対応といたしましては、こういった一定の場合に無効になる契約条項でありますので、類型的には、10条の前段要件を満たす契約条項の類型にも位置づけられると思います。そうであれば、そういった条項を前段要件に当たるものとして例示していくという方向性が1つ、選択肢としてはあり得るのではないかと。実際に無効になるかどうかは、後段要件、信義則に反するというところもあわせ満たした場合に無効ということになるわけですけれども、そういった形で一定の場合に無効となる条項を位置づけていくということが考えられるのではないかということであります。
現行の10条前段要件については、規定が抽象的であるということもありまして、一般消費者あるいは相談現場において、なかなか活用しづらいという指摘は従前からあったところでありますので、そうであれば、こういったところを例示していくというのが一つの対応策としてあるのではないかと。ただ、その場合に何を例示していくかということでありまして、やはり例示する意味のあるものを例示していかなければならないと考えられます。
そういたしますと、39ページの(イ)に書いておりますけれども、例えば解除権の制限条項などにつきましては、前段要件に該当するということは、わざわざ法律に書かなくても明らかでありますので、法律で規定すべきものとしては、逆に余り意味がないのではないかと。どうせ書くのであれば、前段要件に該当するか否か、わかりにくいようなものを書くべきではないかと思われます。
さらに、(ウ)で書いていますように、翻って考えますと、もともとの議論の出発点は、前段要件がいわゆる不文の任意規定も含むのだという最高裁の判決を踏まえて、そこをどう書きおろすかという検討課題でありましたので、そうであるといたしますと、任意規定が明文で規定されていない場合について例示していくというのが両者の課題を解決する道筋ではないかということでありまして、(エ)に書いていますが、では具体的にどうするかといいますと、任意規定がわからない、不文であるということで、マルcの意思表示の擬制条項というのが考えられるのではないかということであります。
ただ、この意思表示の擬制条項については、実務上、一定のニーズもあると思われるところでありまして、特に消費者にとって不意打ち性が高いといいますか、問題があると思われるものをさらに抽出するということが適当ではないかと思われるところであります。
具体的には、41ページにありますように、消費者の不作為をもって新たな契約の申し込み、承諾の意思表示をしたとみなす条項、事例の3-1、3-2と書いていますが、こういうものを念頭に置いておりますけれども、それを書いてはどうかということでございまして、「以上を踏まえ」というところでありますが、10条前段に該当する条項の例示として、消費者の不作為をもって新たな契約の申し込み、承諾の意思表示をしたものとみなす条項を挙げることとしてはどうかとしております。
これに関しましては、10条前段にこのように例示したからといいまして、直ちにこの条項が無効となるのを意図するものではありません。現行の10条後段に該当して初めて無効になるという枠組みは維持するものであります。かつ、その10条後段該当性、信義則に違反するのかというところについては、これは諸事情を総合的に考慮して判断するというふうになると思われますので、当該条項がそもそもどういう内容なのかと、消費者の利便性を図るためにあえて意思表示をみなすといったものもあると思います。
また、条項が意味するところについて、事業者が消費者に対してどういった説明をしているかといったところも、総合考慮の中の事情として判断されると思いますので、直ちにこれに該当するから当該条項が無効になるというものではなくて、10条の該当性の判断の枠組みは維持しつつ、わかりにくいものの一つとして例示するということをしてはどうかということでございます。
続きまして、44ページの最後の論点になりますけれども、「条項使用者不利の原則」ということであります。
1で書いておりますように、この論点につきましては、解釈を尽くしてもなお複数の可能性が残る場合に、条項の使用者に不利な解釈を採用すべきということでありまして、考え方としては一定の合理性を有するものと思われます。ただ、これにつきましては、44ページから45ページにかけて御意見を御紹介しておりますけれども、その適用範囲の明確性を図る必要があるのではないかといった御指摘が寄せられているところであります。
46ページに(2)としまして、今回またもう一つ裁判例を追加的に御紹介しておりまして、保険契約の事例でありますけれども、免責条項で言うところの文言の解釈が争いになったという事案でありまして、一義的にわかりにくいということから、結論としては、消費者にとっての有利な、事業者にとっての不利な解釈をしたという事案でありまして、こういったものもあるというところでございます。
ただ、この裁判例につきましては、ちょっと留保もあわせて必要ではないかと思われます。事案といたしましては、生活協同組合との間で組合員が共済契約を締結したという事案でありまして、保険業界においては、この免責条項の書き方を、他の保険会社は変更していたにもかかわらず、この事業者はそれがされていなかったというような状況の中で、かつ生活協同組合の組合員である消費者が契約を締結したということもしんしゃくされているということでありますので、一定の留保をつける必要はあろうかと思います。ただ、46ページに判示を御紹介しておりますが、事業者の主張する解釈を排斥したという結論は、そういう結論ではないかと思います。
47ページの(3)で、こういった原則を定めることの問題点というところでありますけれども、やはり適用範囲の明確性というところでありまして、とりわけ通常の方法による解釈というのが法律で定められているわけではありませんので、その原則を適用するに至る解釈プロセスが必ずしも明確とは言えないということは言わざるを得ないのではないかということでありますので、その点については、さらに検討をする必要があるのではないかと。
また、定型約款において典型的に見られる問題だと思われますので、定型約款においての規律がどうなのかということについては、現在の改正民法が実際どうなるのかという運用状況も見据える必要があるのではないかと思われるところであります。
今後の方針というところでありますけれども、ここは引き続きの検討課題と位置づけざるを得ないのではないかと思うところでありますが、他方で、先ほどの裁判例などもあるところでありますので、逐条解説において、そういった裁判例があることを御紹介しながら、実務における運用を促していくということもあり得るのではないかということであります。
長々と御説明いたしましたが、御説明は以上でございます。
(2)不当勧誘行為に関するその他の類型(困惑類型の追加、不招請勧誘)
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
それでは、ただいまの説明の内容を受けまして議論を行いたいと思います。
初めに、「第1.不当勧誘行為に関するその他の類型」のうち、「1-1.困惑類型の追加」と「1-2.不招請勧誘」について御議論いただきたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。
山本健司委員。
○山本(健)委員 御説明をいただきまして、ありがとうございました。
まず、1-1のマル1の点についての意見です。前回の第22回会議で、「今後の検討」とは「報告書パート2」の取りまとめに向けた具体的な継続検討を意味することを確認させていただきました。そのような前提のもと、マル1の点について、今後の検討課題とすることに賛成いたします。なお、継続検討の際には、電話勧誘に限定せず、執拗な勧誘ということでの検討が必要と考えます。
次に、1-1のマル2の点についての意見です。マル2の「威迫による勧誘」の困惑類型への追加については、今回の取りまとめ、「報告書パート1」に入れる方向で位置づけるべきであると考えます。非身体的拘束型の困惑惹起行為による被害は多く、相談現場などからは法制化が切望されています。
その中でも、「威迫」事例は、非身体的拘束型の困惑惹起行為の最も典型的な行為類型で、悪質で、かつ、わかりやすい不当勧誘行為類型であると思われます。この行為類型くらいは、報告書パート1で法制化を実現すべきではないかと考えます。
「威迫」という概念ないし用語に対する「不明確である」「曖昧である」といった批判は、合理性にかけると思います。本日、参考資料として「資料2」という書類を提出させていただきました。私が確認させていただきましたところでは、少なくとも「威迫」という文言を用いている法令は、資料2の1ページに列挙させていただきましたとおり、41法令もございます。その中には、会社法、破産法、民事再生法、保険業法、貸金業法、特定商取引法、割賦販売法、宅地建物取引業法、公職選挙法、政治資金規正法、地方自治法、刑法などといった、有名な法律も数多く含まれております。
また、一般的に刑罰法規には、厳格な明確性が求められると言われているかと思います。その刑罰法規の要件としても、「威迫」という字句は、これらの法令で広く用いられている文言であると言うことができると思います。
さらに、特商法、割販法においては、「威迫による困惑」は「不実告知による誤認」と並列関係に立つ典型的な不当勧誘行為として規定されております。
具体的には、まず、資料2の5ページのとおり、特商法6条には、第1項のところで不実のことを告げる行為をしてはならないという規定があり、第3項のところで人を威迫して困惑させてはならないという規定があります。このように両者は並列関係で規定されております。割賦販売法においても、資料2の6ページの上から4行目から5行目にかけて、「不実のことを告げる行為をしたことにより当該告げられた内容が事実であるとの誤認をし」といった要件が規定されており、かつ、その4行下のところで、「威迫したことにより困惑し」といった要件が規定されております。特に割賦販売法のこの規定は、民事効を定める条文としても規定されております。したがって、消費者契約法においても、現在規定されている「不実告知による誤認」と並列関係に立つ不当勧誘行為類型として、「威迫による困惑」という行為類型を規定することに大きな障害はないものと考えます。
以上のような理由により、マル2の問題について、威迫による勧誘という困惑類型を追加して、今回の取りまとめ、報告書パート1に入れる方向で位置づけるべきであると考えます。
最後に、1-2の不招請勧誘についての意見です。この点については、まだ議論があるところですので、今後も具体的な継続検討をするという前提のもとで、今後の検討課題とすることもいたし方ないと考えます。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見は。
阿部委員。
○阿部委員 まず、1-1でありますが、マル1はこのとおりでよいかと思います。
マル2についてでありますが、山本先生のお話もわからないわけではないのですが、現実に今、特商法とか割販法以外の場面でこのような規律が必要なことはあるか。特商法に規定が置かれていることは十分存じておりますし、現実にそのような規定で特段の問題はないと思うのですが、それ以外の場面で、何かここを新たに困惑類型として追加するような必要があるか、これはまだ十分に点検できていないと思います。将来の課題として検討することは当然でありますけれども、今の段階では入れるべきではないと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見は。
丸山委員。
○丸山委員 御説明の中では、退去妨害と不退去の概念と比較して、威迫とか粗野または乱暴な言動というのが曖昧であるといった説明もあったところなのですけれども、しかしながら、もともと立法当時から、退去妨害とか不退去自体が非常に狭過ぎるという意見もあったところでございます。規定の位置づけが、強迫取消しの要件を緩和する意思表示の瑕疵の特別規定なんだというところから出発する、そこを捨てないのであれば、ここに載っている威迫とか粗野または乱暴な言動のほかに、消費者が困惑し、その行為と困惑との間に因果関係も必要だという要件も課されるわけですから、これによって不当に広がるというような懸念も少ないと思います。やはりこの点については、特商法だけでは民事効があるわけではございませんので、手当てをする必要というのは高いのではないかと考えます。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見はいかがでしょうか。
大澤委員。
○大澤委員 今の丸山委員の意見とかなり重なるところもあるのですが、私も、このマル1に関しては、今後必要に応じて検討するということであれば、これは賛成いたします。
マル2に関しては、疑問が2つほどありまして、まず1つは、威迫という文言がそれほどに抽象的なのかというのは個人的には疑問を感じています。仮に不退去、退去妨害と比べて抽象的だということであれば、先ほどから出ていますような粗野または乱暴な言動というのに限定するのがいいのか、私個人的にはわからないですが、もうちょっと具体的な例を挙げるという形でも対処できるのではないかと思います。ただ、個人的には、威迫という言葉がそれほど抽象的だとは感じないということです。
2つ目の疑問といいますのは、ここでの問題がどこにあるのかということです。2番の規定を設ける上で、何がその障害になるのかということを私なりに考えてみたというか、資料を読んで考えさせていただいたのですが、1つは、威迫という文言が抽象的であるということかなと思いました。それは個人的にはそうではないのではないかと思っています。
もう一つは、恐らく威迫による勧誘に取消しという効果、民事効を付与するということについての、やはりそこまで行くのにまだ現段階でコンセンサスがとれていないというふうに伺いました。
もちろん、今の2点というのは重なる問題ではあるのですが、確かに取消権に関しましては、今、丸山委員がおっしゃっていましたように、特定商取引法の6条に関しては、不実告知に関しては取消権、民事効を付与していますけれども、威迫行為に関しては取消権を付与していないという、そこで何らかの区別がされているというのは事実だと思います。ですので、単純に特商法にこういう類型があるのでということだけでは、少なくとも民事効まで付与するということであれば、比較はちょっと難しくなると思います。
ただ他方で、これも今、丸山委員がおっしゃっていましたけれども、いわゆる民法の強迫の拡張だということであれば、例えば粗野、乱暴なというのを、程度にもよると思うのですけれども、例えば大声を上げて暴言を吐いて脅したという場合ですと、これは民法の強迫にも十分当たり得ると思います。過去、民法の強迫による契約の取消しを認めた事案というのは、確かにそれほど多くはないと思います。私が調べた限り、そんなにたくさんないと思います。しかし、だからこそというか、そうはいっても全くゼロではないということも事実で、過去の判決で、昭和62年ぐらいの判決だったと思います。下級審だったと思いますが、自宅の前で大きな声でハンドマイクを使って悪口を連呼する形で脅したという事案で強迫が認められた事案もございますので、こういう暴言、大きな声を上げて怖がらせたとか、そういう事例において、民事効まで認めるということは、今の96条の強迫でも全く不可能な話ではない以上、威迫に関しても取消権を付与するというのは十分に考えらえるところだと思っていますので、これはできましたら、個人的には、今後検討することとしてはどうかという将来にお任せするようなことではなくて、もう少し前向きに検討していただきたかったなというのが率直な意見です。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見はいかがでしょうか。
後藤巻則委員。
○後藤(巻)座長代理 私も今の丸山委員と大澤委員、それからもともとの山本健司委員と同じ感想を持っています。理由として、困惑というのが強迫の延長線上にあるということ以外に、この後に扱います「合理的な判断をすることのできない事情を利用して契約を締結させる類型」というものが、従来、判断力の不足、知識・経験の不足、心理的な圧迫状態、従属状態というような要素を入れていって、それを利用した場合に契約の解消を認めるという方向の規定になる可能性があったと思うのですが、そこの部分で、例えば心理的な圧迫状況とか従属状態を利用するというのは、困惑と同じではないけれども、隣接するような場面があるのではないかと思います。
そういう意味からいうと、困惑と、先ほど述べました「合理的な判断をすることのできない事情を利用して契約を締結させる類型」というのは、場合によってはどちらに入るかわからないのだけれども、救済の要請が強いというものをどちらかで受けるという側面があったと思うのですが、「合理的な判断をすることのできない事情を利用して契約を締結させる類型」が、過量契約に特化したという言い方がいいのかどうかわかりませんけれども、そういうことで規定される。このこと自体には、私は賛成するのですけれども、そこのところで漏れる部分があるということも考慮すると、やはり困惑のところをもう少し現在よりは豊富な内容にしたほうが、現時点の立法ということからすると、適切ではないかと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見はいかがでしょうか。よろしいですか。
たくさん御意見が出ましたけれども、消費者庁のほうからお答えいただけますでしょうか。
○消費者庁加納消費者制度課長 幾つかの御意見を頂戴しましたが、それぞれごもっともな御意見だと拝聴しておりまして、威迫が概念としてそれなりの明確性があるという点につきましては、確かに行政規制などの対象になっているのはそのとおりでありますし、他方で、いわゆる立法事実といいますか、問題となっている事例が消費者契約一般にどこまで汎用性があるのかといった御指摘も逆の立場から御指摘いただきまして、それもそのとおり受けとめなければならないと、私としてはお聞きしながら思いました。
ただ、現時点で、威迫による取消しという形に直ちにするかどうかということについて、威迫で直ちに取消しするということについては、やはりまだコンセンサスが得られている状況ではないのではないかと思いますので、引き続きの検討課題として、私どもとしては受けとめたいと。その際には、できるだけ類型化を図りつつ、検討していきたいというふうに受けとめました。
○山本(敬)座長 今のお答えを受けて、御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。
もちろん、これで改正をしないというような提案がされているわけではなく、現時点ではコンセンサスが必ずしも得られていないとしても、今のような方向性で引き続き検討を進め、もしコンセンサスが得られるのであれば、それに即した改正を行うという御提案と受けとめていただければと思いますが、いかがでしょうか。この段階で特にさらに御意見があればお伺いしたいと思います。
河上委員長。
○消費者委員会河上委員長 要件としての明確性とか具体性にどこまでこだわるかということとも関係してくると思うのですけれども、消費者契約法というのは相当抽象度の高い、かなり汎用性のある法律ですから、その言葉で、余り細かく具体的に決めるというのは期待できない部分もあると思うのです。ですから、場合によっては解釈であるとか、裁判上の判決によって具体化していくということに委ねたほうがよいものも結構あるだろうという気がいたします。
威迫という概念は、実は民法の世界でももう既に取消事由として認められている部分は相当あって、諸外国ではデュアレスといいますけれども、威迫の部分について取消事由にしている。これは民法レベルでです。
ただ、そこでは社会的な経済的関係などを前提として、相手方に対する心理的な圧迫が加わっているからというようなことを言うのですけれども、消費者契約法の場合は、情報交渉力の格差というのを一応前提にしていますから、その意味では、威迫を端的に取消事由として加わって構わないものではないかという感じがします。その意味では、そこそこの具体性はあるので、この部分については中に入れる方向でぜひ考えてみてはどうかと思います。
事業者の方は、恐らく一部の消費者が、この規定があるから怖かったのだといってごねてくるというか、いろいろと文句を言ってくるというのが嫌なのだろうという気はするのですけれども、もうちょっと日本の消費者を信頼してはどうかという気がいたします。
○山本(敬)座長 先ほどの消費者庁からのお答えもありましたように、改正するとすれば、どのような場面で取消しによる救済を図る必要があるのか、その特定ないし詰めが現時点ではまだ十分ではない、少なくとも十分に特定されるには至っていないので、今回直ちに改正提案として出すのは少し早いのではないかという御意見だったように思います。この点に関しては、これまでもかなり議論していただき、一定の方向性は見えているのかもしれませんけれども、適用場面として具体的にどのような場合を想定し、また、それをどのように規定するかという点については、もう少し検討してみる必要があるように思われるところです。
御意見が対立している状況で、まだコンセンサスが得られていないということなのだろうと思います。今のような御意見を受けて、引き続き検討するという方向でよろしいでしょうか。
河野委員。
○河野委員 ありがとうございます。
私自身も、困惑類型をもう少し広げていただきたいなというのは最初から思っていたところです。4ページの今後の考え方のところに、「裁判例や消費生活相談事例を収集・分析して検討することとしてはどうか」ということで、適用する場面が具体的にイメージできないとなかなか難しいというお話だと思っています。ただ、消費者問題は裁判例がそもそも集まるものなのでしょうかというのを、私は皆さんに伺いたいと思っています。消費生活相談事例もそうなのですけれども、消費者のさまざまな問題というのは、金額的には少額ですし、それから、何か問題、トラブルに陥ったときに、先ほど、これがつけ加えられたから脅されたといってごねる消費者も出てくると、最近は悪い消費者というところがかなりクローズアップされていますが、でも、日本のほとんどの消費者は、やはり泣き寝入りをしてしまう、自分のほうが悪かったのではないかという形であきらめてしまい、何かに訴えて、それを解決していこうというところには、まだまだ距離があると思っています。これがアメリカなどの訴訟社会になれば、また全然状況は違って、それを利用してというところは想像できるかもしれませんが、日本においては、やはりそれはとても考えにくい。なので、裁判例や消費生活相談事例を収集・分析しているうちに、本当に山のような被害事例が実は見えないところで積み重なっていくのではないかと危惧します。現在でも威迫という言葉において、ある程度の対処ができるというふうに専門家の先生もおっしゃっているのに、これに何もアプローチしないということは、私は不作為に近いのかなというイメージを受けました。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
今の御意見について、消費者庁のほうからお答えをお願いいたします。
○消費者庁加納消費者制度課長 まず、今後検討していくとした場合にどうやって検討するのかということにつきましては、私どもとしては、できるだけの努力をしなければならないと。裁判例、相談事例という点についても、なかなか裁判例も少ないかもしれません。ただ、大澤先生がおっしゃったように、民法の規定で争われたという事例もなくはないと思いますし、相談事例につきましても、相談事例としてPIO-NETなどで出てくるものの中にどういうものが潜んでいるのかというところは、さらに深掘りをした検討をしていく余地があるのではないかと思います。
また、悪い消費者か、いい消費者かということは、私は特に述べる立場にはありませんし、消費者が悪い消費者だというふうには私も思いません。思いませんが、ただ、企業として、悪いと言うかは別にして、消費者からの苦情相談に対応するという努力をされているというのもあるのだろうと。お客様対応ということで、お客様からのいろいろな苦情やクレームなどについて真摯に対応しておられるという企業もあろうかと思います。
そうしますと、非常に不幸な構図としましては、真面目な事業者と真面目な消費者の間で対立点があると。私どもとしては、悪質な問題について適切に対処するとともに、健全な事業活動は発展していただくというのが一番望ましいと考えているわけでありますけれども、どうしても対立的に悪い消費者と悪い事業者を双方が想定すると、お互いになかなか議論が成立しないということになりがちだろうと思います。そこはそういった議論にならないように注意する必要があろうかと思っておりますので、必ずしも悪い消費者を想定しているわけではありませんが、ただ、いい事業者を想定しつつ、いい事業者に迷惑をかけないようにする必要があるだろうと考えているところでございます。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見があればと思いますが、よろしいでしょうか。
大澤委員。
○大澤委員 これに関しては、次に多分出てくると思うのですが、1-3の合理的な判断をすることのできない事情を利用してという、この類型と、恐らくもう少し整理して考える必要があるのではないかと思っています。今回提案されている案ですと、1-3に関しても、ある一定の場面にとりあえず特化したと、この言い方がいいかわかりませんが、そういうふうにしていると思うのですが、恐らく想定されている事案というのは、もしかすると、1-3のような事例と、あるいは今の強迫の拡張のような場面でうまく整理ができているのかというのは、ちょっと疑問を持っていますので、これは今後検討していくべきではないかというのがまず1つ。
あと、先ほど河上先生が諸外国の話をおっしゃっていましたけれども、私も1つ申し上げたいのは、強迫を拡張するという形で、例えばフランスなどですと、今、民法改正の案の中で、経済的強迫という類型が提案されています。それは従来の、いわゆる日本の民法の強迫の場面だけではなくて、例えば経済的に当事者の間に格差があるような場面ですとか、そういうものについて、いわゆる経済的な強迫というのを認めていくというものです。これについて、私は今、実は論文を書いているところでございますので、もっと研究を深めていきたいと思っているのですが、海外で一応そういう状況があるということは、つまり、強迫をいわゆる物理的なものだけではなくて、経済的な格差などを利用しているようなものに関しても、要件はもちろんかなり厳しく設定されていると思いますが対応しようという規定が、しかも民法典の中で設けられようとしている国があるということは、これは言っておきたいと思います。この点はお含みおきいただきたいと思っています。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかによろしいでしょうか。
両論が対立しているところでして、どのようにまとめればよいのか、苦慮するところがありますが、途中でも申し上げましたように、これで改正しないという提案をしているわけではありません。引き続き検討するという提案でして、その引き続き検討する中でどのような点を考慮すべきかという点について、御意見をいただいていると理解しています。
今回すでに提案として入れてよいのではないかというかなり強い御意見があるところではありますけれども、それで必ずしもコンセンサスが得られているわけではないというのも事実のようです。その意味では、今回は案としては出さずに、引き続き検討を進めるということでまとめさせていただいてよろしいでしょうか。
ありがとうございました。
(3)不当勧誘行為に関するその他の類型(合理的な判断をすることのできない事情を利用して契約を締結させる類型)
○山本(敬)座長 それでは、続きまして、「1-3.合理的な判断をすることのできない事情を利用して契約を締結させる類型」についての検討に入りたいと思います。今も御指摘がありましたように、両者は関連するところがあります。その点も含めまして、御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。
阿部委員。
○阿部委員 ここは御提案に賛成いたします。特に13ページの「事業者の主観的態様について」というところで、私どもが危惧しておりましたような事例については正確に解説されておりますので、この範囲であれば了解いたしたいと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見はいかがでしょうか。
丸山委員。
○丸山委員 3点ほど述べさせていただきたいと思います。
まず1点は、確認事項でございます。説明のときは専ら判断力不足で過量で買ってしまうというような事例が挙がっていたのですけれども、例えば情報不足で過量と認識していないような事例も射程に入ってくるという理解でいいのかという確認です。例えば、床下点検商法などで、複数の換気扇を設置させられたのだけれども、1個で十分だったみたいな事例もあると思います。そういうものも射程に入ってくるというのでいいのかという点が確認の1点でございます。
2点目としましては、仮に御提案の方向でいく場合の留意点なのですけれども、恋人商法とか霊感商法のような事例を想定しますと、過量だとわかっていながら、認識していながら、しかしながら購入させられてしまうというような事例もあると思います。こういった形の条文ができることにより、事業者から、あなたは認識していたのだから、この取引は問題ないというような形での運用がされないよう、これは解説書とかになるのかもしれませんけれども、留意が必要なのではないかという感想を持ちました。
第3点は意見なのですけれども、今回の提案は、先ほどから指摘されておりますように、かなり狭い範囲の射程を有する条文になっております。問題のある行為類型というのを並べていくと、必ず常にすき間に落ちてしまうような事案というのは出てきてしまうのではないかと思います。このつけ込み型の不当勧誘に関しましては、これまでも、例えば暴利行為論の現代的な展開というものを参考にしながら、主観要件と客観要件というのを相関的に考えて、問題に対応してはどうかという提案、昔ながらの暴利行為の定義に引きずられないように、現代的な消費者契約に合致するような要件を立ててはどうかといった検討が積み重ねられてきていたところでございます。射程の広い条文、法律行為法の特別法としての条文というのをしっかり設計することも可能な領域なのではないかという印象を私自身は持っておりましたので、そういった点に鑑みますと、狭い射程を有する条文を置くことが、今後の消費者契約法の展開の足かせにならないような配慮をしていただきたいと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見があれば。
井田委員。
○井田委員 合理的な判断をすることができない事情という典型的なものとしての過量契約だけを取り出すということについては賛成いたします。これで足りているかという問題はあると思うのですけれども、その辺は引き続き議論するということを排除されていないという前提で、賛成いたします。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
古閑委員。
○古閑委員 事業者の主観的態様における「事業者が、~知りながら」のところなのですけれども、具体的に組織の中の誰のどのような行為を指すのかというのが、ケース・バイ・ケースというか、なかなか確定しないところなのかなと思っておりますけれども、そういった中で規定を設けるに当たっては、何をもって「事業者が、~知りながら」として認定されるのかについて懸念を感じますので、不当に広く認定されることのないように、知っていたという認定がどのようにされるのかというところについては、十分御留意いただければと思いますので、よろしくお願いします。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
今の御指摘は、かつてから議論の中で出ていた事柄ではありますが、そのときに指摘があったかどうか、定かではないのですけれども、この問題は、法人について悪意や故意、過失を問題とする場面全般に共通する事柄でして、消費者契約法のこの場面でのみ問題となる事柄ではないという点は押さえておく必要があると思います。とりわけ不法行為の領域では非常に重要な問題ですので、それを無視して解説等で書くわけにはいきません。慎重にお願いしないといけないところであるという点は申し上げておきたいと思います。
では、ほかに。
大澤委員。
○大澤委員 まず、全般的な感想といたしまして、私、個人的には非常に迷っておりまして、一方で、とりあえずこの一場面だけでも、こういう規定を設けるということは一歩前進なのではないかという肯定的な気持ちもありますが、他方で、先ほど丸山委員がおっしゃったこととも重なりますが、果たしてこの規定を置くことがかえってよくないのではないかという危惧も持っております。なぜ、そういう危惧を持っているかということを今から申し上げたいと思います。
まず、その1つの理由は、この規定の位置づけというのが今回こういう条文にしたことによって、ややわかりにくくなったと思っています。といいますのは、もともと想定されていたのは、合理的に判断できないような事情を悪用してというか、利用して、意思表示をさせたと。その場合に意思表示を取消すことを認めるという規定、完全に意思表示の取消しの規定で、先ほどの強迫との関係で言いますと、強迫の拡張版とも言えると思うのですが、今回この過量販売の場面に限定したことによって、過量販売というのは従来どちらかといえば公序良俗規定で暴利行為に当たるという形で契約の無効が認められていた事案ですので、この条文を見ると、これはもしかして暴利行為の一場面を規律したのではないかというふうにも見えてきます。
そうすると、これは意思表示の取消しでは厳密に言うとなくなってしまって、いわゆる過量性という契約内容の不当性というのも重要な要件に入っているということになりますと、この規定を一体どこに位置づけるのかということは、もし入れるにしても、規定の場所ですとか、あるいは解説での位置づけは非常に慎重な対応が求められると思っています。
例えば、4条の今の意思表示の取消しのところにこれを並べたときに、それはほかの意思表示の取消しの規定との整合性というのがどのように見出せるのかというのが、私はまだはっきりと意見があるわけではありませんが、やや疑問は持っております。例えば、量が多いということを消費者が認識していないことを知りながらという要件になっていますけれども、これは何の拡張なのかなというのが先ほどから考えていてよくわからないところもあって、錯誤のような、量について錯誤に陥っているということであるようにも見えますし、一体何の拡張なのかということが、果たしてこれは意思表示の取消しの規定なのだろうかという疑問を持っています。
そういうふうに説明できるとも思いますし、今回のペーパーの中では、もともと想定されていた合理的に判断できない事情を利用したというのをより具体化したという、そういう御苦労の上に成り立っている条文だということを鑑みると、確かに意思表示の取消しの規定として説明はできるのですが、果たしてこれまでの公序良俗の規定が用いられた判決との整合性をどのように説明するのかというのは慎重に考えないといけないと思います。仮にこれができないとなると、むしろ規定を設けるとかえって混乱を招くのではないかとも思っています。
もう一つですが、これはより具体的な要件ですけれども、特定商取引法の過量販売の規定ということで、15ページの9条2のところと比較して見てみますと、特定商取引法の過量販売の規定というのは、私の理解が間違っていなければ、量が多過ぎる、必要とされる量を超えるものだということを事業者が認識しているという要件だと思いますが、今回の場合はそれではなくて、過量販売に該当するということを消費者が認識していないということを事業者が知っているという要件になっていますので、実はちょっと条件が違っています。
そうすると、今回の要件立てのほうが実はかなり限られていると、限定されていると見ることもできます。別に特商法と完全に足並みを合わせることもないということも言われるかもしれませんが、こういう要件になっていることで、かなり限られてきた場面に実はなってしまっているのではないかと思っております。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
先ほどの御提案の説明の際に述べられていたことを受けとめるならば、さまざまな要因がここに入っているようでして、1つの要因は、消費者の広い意味での誤認が典型的にされている場合であると同時に、もう1つの要因として、判断能力が十分ではないことが典型的に示されている場合である。そのような要因からすると、意思表示の取消しという効果も基礎づけ可能ではないかという説明がされたのではないかと受けとめました。
ただ、今の大澤委員の御指摘は、そのように捉えるならば、取消しという効果の説明はいけるのかもしれないけれども、果たしてそのような位置づけだけでよいのか、特商法の規定は必ずしもそうはなっていないということもありますし、他方で、公序良俗違反、暴利行為で処理されてきた例は必ずしもそのようなものでもないとすると、主観的要件の立て方も含めて、もう少し整理し直す必要があるのではないかという御指摘というように理解しました。
たくさん手が挙がっていますが、後藤巻則委員から。
○後藤(巻)座長代理 私も大澤委員と似た感想を持っておりまして、この規定の位置づけをどう考えるのかということはやはり大事だと思っています。結論的には、ここでお書きになっている提案を支持したいと思いますが、どんな位置づけができるのか考えますと、この提案の中で、取消しまたは解除によってという表現になっていまして、解除という効果が初めて出てきた。消費者契約法が規定しているのは無効、取消しという効果なのですけれども、解除というものをもし規定するならば、新たに入れるということになる。この点に関して、この規定自体は過量契約を問題としているということで、特定商取引法の過量販売解除が一つ手がかりになっていると思います。
そういう意味で、特定商取引法の規定ですと、過量販売解除は解除であって、それから、効果としてはクーリング・オフの規定が準用されているということでありまして、そのような側に寄った制度として仮に位置づけるとすると、ここでの提案というものを、効果としては解除で、クーリング・オフと同じようなことを考えるというようなことが一つ、あり得ないではないと思うのですけれども、これは、特定商取引法の過量販売解除の規定に引きずられた理解という感じがしまして、やはりここは消費者契約法自体の問題として、専門調査会の中での従来の議論も含めた意味での考えというのをとっていくことが必要なのではないかと思います。
とはいえ、先ほどの過量販売解除というものが参考にはなりますので、それがどんな位置づけをされているのかというと、立法の過程などでも暴利行為ということが言われたり、状況の濫用ということが言われたり、それから、適合性原則違反というようなことにも少し言及されているということでありまして、そのようなものが過量販売解除の位置づけというのでしょうか、根拠というようなことになっているのではないかと思います。
そういう中で、「合理的な判断をすることのできない事情を利用して契約を締結させる類型」をどう位置づけるかということに関して、暴利行為とか、それから、適合性原則ということも、この類型の根拠になるのではないかという話が、この専門調査会の場でも出ていました。
そういうことで考えたときに、根拠づけとして、適合性原則というものがここにあらわれていると考えるのが、私はこの規定の根拠になるのではないかと思います。意思表示の瑕疵ということで取消しをするというふうに位置づける可能性もあると思いますけれども、むしろ、過量だということをメーンに据えて契約の効力の解消という形にするということであるならば、通常は適合性原則違反の効果は損害賠償なのですけれども、損害賠償ではなくて効力否定というところに結びつくというような形での位置づけが可能なのではないかと思います。
適合性原則違反で契約の効力を否定するということは、若干の議論はありますけれども、それほど議論が深化しているということではありませんので、考える必要はあると思いますけれども、ここで仮に先ほどの過量販売解除に引きずられて、効果を解除にしてクーリング・オフのような形にすると、4条の誤認・困惑の取消しのところでは改正後、善意の消費者は現存利益の返還義務を負う。取消しの効果はそういうふうになりますので、4条の取消しとの整合性がなくなってきて、位置づけが難しくなるのではないかと思います。
そういう意味からいうと、適合性原則があらわれた規定というものとして位置づけて、効果は取消し。過量販売解除の場合ですと、契約のときから1年間、解除の期間があるということでありますけれども、ここでの取消し、今、提案されている意味での契約解消については、取消しであって、追認可能時から何年行使できるかというところについては、誤認・困惑とあわせるというような形になるのではないかと思います。そのような形で処理していけば、一応の位置づけはできると思います。取消し原因が何なのか、それは意思表示の瑕疵というところで説明できるかもしれないけれども、必ずしもそう説明しなくても、適合性原則違反というような側面からの位置づけも可能ではないかということで、そういう位置づけができるという根拠づけのもとに、この規定を採用することに賛成いたします。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
では、続いて、沖野委員。
○沖野委員 大澤委員、後藤委員が御発言になった点ですけれども、それに関連しまして、私も結論としては、後藤委員がおっしゃったように、取消しという構成で一貫したほうがいいのではないかと思います。位置づけ自体としましては、今、意思表示の取消しというか、意思表示の瑕疵、それから内容面を勘案した暴利行為型、それから適合性原則違反という3つの根拠なり位置づけの可能性が示唆されています。また、適合性原則についても損害賠償の原因という話と並んで、契約等、意思表示等の効力にかかわるような話としては、むしろ適合性原則で言われているのは、意思能力にかかわる問題と暴利行為型のものとがあるのではないかといった議論もあると承知しております。
これらが一体どういう位置づけであるのかということの解明自体は確かに大澤委員のおっしゃるとおり残ると思いますけれども、いずれにいたしましても、契約締結においてその拘束力をそのまま妥当させるだけの基礎の点で広い意味での瑕疵があるということですから、これは解除よりも取消しというのが適切な場面であると思います。
それから、これまでこの効果ですとか、後藤委員がおっしゃったような原状回復についての範囲の問題、そのほか期間制限の問題、さらには第三者が関与したときの問題とか、消費者契約法は取消しについての各種の法律関係を明確にしてきました。ここで取消しまたは解除ということになってしまいますと、解除のときの効果ですとか期間制限といったものが一体どうなるのか。全て類推でいくのか、それとも規定を設けていくのかといった問題が生じます。そういった実践的な意味もございますので、ここは取消しとして構成していくことが適切ではないかと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
それでは、山本健司委員。
○山本(健)委員 ありがとうございます。
高齢化社会の到来を見据えて、消費者被害の防止・救済のためには、ぜひとも日弁連が提案するようなつけ込み型不当勧誘取消の法制化を実現すべきと考えます。しかし、まだ議論が必要な状況ですので、つけ込み型については、今後も継続検討すべき論点と位置づけることと、今回の取りまとめ、報告書パート1では、過量販売という被害類型の救済に絞って法制化を目指すという今回の御提案には理解をいたします。過量販売の救済規定だけでも、ぜひとも今回の取りまとめで実現すべきであると考えます。その意味で、今回の提案内容には基本的に賛成をいたします。
ただ、事業者の認識に関する要件部分、主観的要件の部分については、推敲ないし微修正の余地があるのではないかと考えます。資料1の15ページで、特定商取引法の過量販売の規定について御紹介をいただいております。特商法に定められている条文ないしルールでは、過量販売がなされた場合には、その申込みの撤回等をすることができる、ただし、申込者等に当該契約の締結を必要とする特別の事情があったときはこの限りではないという規定内容になっております。このような特商法の過量販売規定の条文ないしルールとの連続性・親和性という観点、条文及び民事ルールとしてのわかりやすさという観点、並びに、事業者さんの御懸念への配慮という観点からは、事業者の主観的要件については、例えば「過量な契約を必要とする特段の事情が消費者にないことを知りながら」といった要件にしたほうがよいのではないかと考えます。
全体像としては、「過量な契約を必要とする特段の事情が消費者にないことを知りながら、事業者が消費者に対して過量販売を勧誘し、それによって過量契約が締結された場合、当該消費者は、当該過料契約を取消すことができる」といった規定内容とした方が良いのではないか、消費者・事業者という立場にかかわらず、平易でわかりやすい条文になるのではないか、既存の特商法の規定内容との共通性・連続性という観点からの納得感や実務的な運用のしやすさという観点からも望ましいのではないかと思います。そのような微修正ないし推敲について、御検討いただきたいと思います。
効果面については、先ほどから御意見が出ております取消のほうに賛成いたします。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
後藤準委員。
○後藤(準)委員 過量契約の規定を設けることについては賛成なのですが、我々事業者の立場の懸念として、先ほど古閑委員のお話にもありましたけれども、消費者がそのことを認識していないということを知りながらとありますが、この知りながらというのは一体どのようにして法律に規定するのか。
これは先ほど、他の委員からも出たかもしれませんが、事業者が知り得たはずという推定でもやってしまうのかどうなのか。それから、各業界において、適量契約となるか、適量ではないのかということを、事業者がどの基準で判断をするのかというのは非常に事業者側からとってみると難しい。
例えば、特商法に基づいて、日本訪問販売協会はガイドラインを作っているようなのですが、そのガイドラインで、過量契約の過量には当たらないと考えられる分量の基準を作られている。この基準を作ることすら業界ではかなり時間をかけてやったと聞いております。例えば、この消費者契約法において規定することになると、分野が非常に広範になって、それぞれの分野で、過量ではないとする基準や、この場合は過量の可能性があるから、そういう申し出があって買いたいという消費者がいたならば、それを確認する必要性があるといった、ガイドラインに匹敵するようなものを作る必要がでてくる。こういうことをやっていかないと、なかなか現場で対応することは難しい。
その意味では、もう少しそのあたりを御検討していただいたほうがいいのではないか。理屈の話は先生方にお任せするとしても、現場対応として、それは一体、事業者として過量契約になるかどうかの判断が生じるという問題がある。これは、現場対応としていつも問題になることですが、大変難しい。そのことを御理解いただきたいと思っています。
○山本(敬)座長 山本健司委員。
○山本(健)委員 今の御指摘にも絡むのですけれども、何が過量販売に該当するのかという点や、事業者の主観的要件については、既存の特定商取引法の規定にある概念であれば、ただ今、後藤準委員からも御指摘があったようなガイドライン等が存在するので、分かりやすいと思います。できるだけ要件は共通にした方が良いのではないか、新しい概念を導入するよりも実務上運用しやすいのではないか、わかりやすいのではないか、予見可能性があるのではないかと思います。そのような観点から、先ほど述べましたような、事業者の主観的要件の対象については、特商法に定められている規定ないし概念を生かすような形にしたほうがよいのではないかという御提案をさせていただきました。ただ今の後藤準委員の御指摘については問題意識として若干共通するところがある、そのような問題意識から先ほどのような意見を述べさせていただいたということを補足させていただきます。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
それでは、消費者庁のほうから。最初に丸山委員から、情報不足の場合も入るのかという御質問もありましたので、それも含めてお願いいたします。
○消費者庁加納消費者制度課長 どうもありがとうございました。
丸山委員の冒頭の御質問も含めまして、いろいろと御意見を頂戴いたしましたので、お答えできる範囲でお答えしたいと思います。
まず、丸山委員の最初の御質問で、情報不足で誤認したような場合も入るのかという御質問かと思いますけれども、今のところ考えておりますのは、とにかく過量性について誤認をしたということであれば、これは射程に入ってくるのではないかと思っております。
それから、古閑委員の事業者の主観の問題でございまして、座長に補足していただきましたように、これは民法一般にも通じる問題がありまして、非常に難しいところではありますけれども、例えば逐条解説などでも典型的に想定しているものはこういうものであるとか、逆にこういった場合には事業者に責任を追わせるべきではないとか、そういったところの書きぶりは工夫をしていきたいと思います。
それから、大澤先生がおっしゃっていた、あるいは後藤巻則先生、沖野先生も同趣旨の御指摘だったと思いますけれども、位置づけの問題でありまして、まず前提としまして、私どもとしては、理論的なところは正直ちょっと詰めているわけではなくて、やろうとしていることは、これまでは暴利行為で拾ってきたと、従来の暴利行為準則からするとちょっと無理がある解釈といいますか、当てはめをしたといいますか、裁判所が非常に苦労しながら救済を図ってきたと思われるような事例について、それが救済対象になるということを明確に位置づけたいというのがもともとの問題意識でありまして、言うまでもないことでありますけれども、詐欺もない、強迫もない、不実告知もない、誤認もない、困惑もないと。しかし、契約として効力を認めるのは合理性がないと思われるようなものを、現行制度の穴を埋める観点から、消費者契約法で受けてはどうかということがそもそもの問題意識であります。
民法の暴利行為で言われている要素を念頭に置きながら、ただ、それが明確に規律されていないと事業者の予測可能性を害するというところは受けなければなりませんので、できるだけ明確に規定するということを工夫してきたつもりでありまして、1つの現時点の案として、こういうことをお示ししたということです。ただし、これが完璧であるかどうかというのは、まだ検討の余地があるのではないかと思います。今日幾つかの御指摘をいただきましたので、さらにより練った案を考えなければならないのではないかと思いました。
取消しか解除かということにつきましては、片や暴利行為、これは無効ということになります。片や過量販売解除、特商法、これは解除ということになりますので、そういった中でどうするかということだろうと思います。
ただ、消費者契約法は取消しという世界でやっておりまして、取消権の行使期間でありますとか、取消しをした場合の効果というのも、消費者契約法の世界の中ではそういうふうにしておりますので、それで一貫させたほうがよいのではという御指摘は、そのとおりだろうと思いますので、もう少し詰めてみたいと思いました。取消し構成でうまく位置づけられるのかどうかという点につきましては、従来の取消し規定との整合性なども踏まえながら、うまくいけるのかどうかという点をさらに検討する必要があると思いました。
また、山本健司先生の御指摘もごもっともであろうと思いまして、できるだけ既存の特商法の概念をうまく活用しながら要件立てをしたほうがよいのではないかと。結局、後藤準委員の問題提起ともつながるわけですが、適用範囲がどうなのかということについて、過量とは何ぞやとかいうことだと思いますので、ここは先ほどの古閑委員の御指摘とも重なるのですけれども、私どもとしてどういうものは想定しているのか、逆にどういうものは想定されていないのかということについては、逐条解説などで具体的に明らかにしていく努力をしなければならないと思いましたけれども、あえて申し上げますと、著しく分量を超えるとかそういった言い方をしておりますので、相当たくさん購入させているような場合を想定しておりまして、従来は暴利行為で拾ってきたような、かなりの事例を想定しております。
また、知りながらというところにつきましては、これは推定ではございませんので、事業者が知っていたということが要件となりますので、取消しを主張する消費者の側が、知っていたことを立証する必要があるということになろうかと思います。
私どももいろいろ試行錯誤を繰り返しながら、現時点ではこういった提案になっているところでございますので、規定の明確化でありますとか、位置づけでありますとか、そういったところはさらに検討を重ねてまいりたいと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
河上委員長。
○消費者委員会河上委員長 消費者庁のほうで一遍引いて、もう一遍練り直してみるということを考えていただければ、それでいいと思うのですけれども、判断力不足を利用してということで問題になっていたという出発点が、過量販売のほうに引きずられ過ぎているのではないかという気がするので、そこはもう一度考えてみる必要はないのだろうかと思います。
「利用して」となっていますが、結局、判断力不足があることを知っていないと、利用しては使えないので、主観的態様は、判断力不足についての認識に関してはそこで満たされている。問題は、その後、「不必要な」という部分がどのくらい認識できるかです。客観的に「過量」というところで抑えようということなのでしょうけれども、量だけでは、先ほど後藤委員がおっしゃっていたように非常に難しい。それぞれによって違ってくる可能性がありますし、どこかの国の人みたいに炊飯器を爆買いする人もいます。
それはともかくとして、「量的な必要性」の問題と、それから「質的な必要性」の問題がございます。通常必要とする量をはるかに超えているという場面と、こんな人はこんなものは要らんでしょうという質的必要性というのもあるのではないかと思うのです。ですから、かなり限定されてしまうので、そこの部分の落ちてしまうところをうまく拾えることができないだろうかという気がするのです。
もし、消費者庁でもう一遍引いて検討するのであれば、そのことも一緒に検討していただければと思います。
○山本(敬)座長 次回までにこの案を練り直して、もう一度検討していただくという趣旨と理解いたしました。そこでどれだけのことを検討するかということと、仮に過量販売について規定を置くとしても、つけ込み型がこれだけでよいのかという問題があり、引き続きそれも検討するとするならば、そこでどのように考えるかということがあり、両方にまたがるお願いを河上委員長からされたと理解しますが、少なくとも、仮に過量販売に限定するとしても、なお、とりわけ主観的要件を中心としてもう少し整理し直す必要があるのではないかということが。先ほど山本健司委員から具体的な提案もされたところでして、その点を踏まえてもう一度考え直した上で、改めてここで検討していただくということでよろしいでしょうかという確認なのですけれども、いかがでしょうか。
松本理事長。
○国民生活センター松本理事長 要件の議論ばかりされているので、少し効果のほうについて御質問したいのです。効果については、解除、取消し、無効といろいろあって、暴利行為の無効の場合は一部無効的な処理がなされることが多くて、もう撤回されましたけれども、債権法改正の議論で損害賠償額の予定のところでは、著しく過大な額の場合は、相当な部分を超える部分について無効だというような提案がされていました。解除や取消しという効果を持ってくる場合に、どの部分が取消しの対象になり、あるいは解除の対象になるのかというところが必ずしもはっきりしない。これは特商法の規定を読んでもよくわからないところがあるのですね。1回の契約で過量な売買が行われているということであれば、全部解除あるいは全部取消しというのが筋ではないかということになるのだろうと思うのですが、この資料の中で挙げられていますような次々販売型の場合に、どこを取消すのか、あるいは解除なのか。何回目以降の部分が救済対象になるのかというところが必ずしもはっきりしていないところがあります。
考え方としては、同一業者がつけ込んでやる場合については、懲罰的意味も含めて1回目から全部解除だ、取消しだというのも十分にあり得るのだろうと思われます。他方で、この条文の立て方からいくと、他の業者から相当買わされているのに、さらに、この消費者は断らない消費者だということで、別の業者が名簿をもらってつけ込むというタイプの次々販売もございます。そういう場合には、当該事業者の売った分は1回目であっても、過量販売に該当するから取消しあるいは解除の対象になると、そこはかなりわかりやすいと思うわけですけれども、同一事業者が次々という場合に、そのあたりはどうなのか。提案では、要件のところはいろいろ議論されているのですけれども、効果のところは議論していない。特商法自体がそうだからということがあるのかもしれない。そのあたりについて、お考えを。
○山本(敬)座長 今の点に関しては、実際に規定があるわけではありませんので、民法の例でいいますと、暴利行為で無効が認められたケースが参考になるのだろうと思います。それを見る限りは、初めからつけ込んでやろうという場合ではなく、最初は恐らく問題があまりなかったと思われるけれども、次々と高額の商品を売っていくというケースに関して言いますと、実際の裁判例では、ある一定の時期以降は少なくとも公序良俗に反し無効であるというような処理の仕方をしているものが目につきます。それはやはり、この時点、ここまで来て、もう過量であるということが認識できるにもかかわらず、なお契約に応じているという、その部分に関して無効としているということだと思います。これは現在の規定のない中での判断ですので、そのようなものとして受けとめるしかないわけですけれども、仮に、取消し構成なのか、解除構成なのか、無効構成なのかは別として規定を置くときには、一つの参考になるように思います。
そして、特商法も、そういう目で見れば、そのような規定になっていると見る余地が十分あるのではないかと思います。余計なことを言いすぎたかもしれませんが、消費者庁からお願いします。
○消費者庁加納消費者制度課長 今の松本先生の問題提起のところでありますけれども、基本的には、今の座長と同じような考え方ではないかと思っておりまして、まず、特商法の過量販売の解除でありますが、15ページに条文をおつけしております。この9条の2の第1項でありますけれども、1号と2号と2つございまして、1号は1回で過量な分量を販売する場合。2号は次々というものでありまして、次々の中でも、次の契約で過量となる場合と、既に過量であるのにさらに次々とやる場合というのを両方書いておりますが、1号につきましては、1回で過量だということを前提に、その契約全体を解除の対象とするということではないかと思います。
それに対しまして、2号の次々の場合には、次々とやった分について解除の対象とするというふうに思われますので、全てが解除の対象となるというよりは、次々とやったことによって過量となる。その過量になった部分について、契約の解消をさせていくという発想ではないかと思います。
今回の消費者契約法の規定についてどうするかということにつきましては、まず、取消しにするのか解除にするのか。無効というよりは、取消しか解除ではないかと考えて、こういうふうに提案をさせていただいたわけでありますけれども、取消しというふうにするのであれば、取消しの効果は既存の誤認困惑取消しというのにそろえていくことが筋ではないかと思います。
それに対しまして、解除とした場合の効果については、ちょっと検討の余地がありまして、特商法は、過量販売解除につきましてはクーリング・オフ並みの規定という形で特則を設けているところでありまして、今回の規定についてもそういった道筋もあろうかと思いますが、そこはもう少し詰めて考える必要があるのではないかと思いますので、もうちょっと検討したいと思います。
いずれにしましても、効果の点につきましても、ちょっと検討させていただきたいと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
松本理事長。
○国民生活センター松本理事長 理屈の面ではそのとおりだろうと思うのですけれども、実際の認定がそうできるのかというところでございまして、例えば事例1-3-2ですと、6カ月の間に115点、1,286万円の服飾品という例なのですが、例えば99点までは過量ではないけれども、100点から過量だとか、ここを一つ超えれば過量だというような線が果たして引けるものなのかという実務的な疑問がございます。現在のこの115点というのは過量だという評価はやりやすいと思うのです。あるいは1回に115点は過量だと。しかし、毎月1つずつ増やしていって、何月分以降は過量だというのがそんなにうまく引けるのか。ここを超えれば過量だということが理念的にはあり得るのでしょうけれども、実際に争われた場合にそんなことができるのかと。和解で解決すればいいということは十分あると思うのですが。
○山本(敬)座長 問題点の御指摘を受けたということで、検討していただければと思います。
特に御意見がもしなければ、1-3に関しましては、要件だけでなく効果も含めてかもしれませんが、もう少し詰めた検討をしてみた上で、次回、改めてここでお諮りをするということでよろしいでしょうか。
1-2の不招請勧誘について、先ほど確認するのを怠りましたけれども、これにつきましても、最初に御提案のあったとおり了承するということでよろしいでしょうか。
ありがとうございます。
それでは、かなり長時間になってまいりましたので、ここで一旦休憩をとりたいと思います。17時に再開しますので、よろしくお願いいたします。
(休憩)
(4)損害賠償額の予定・違約金条項
○山本(敬)座長 少し時間を過ぎてしまいまして申しわけありません。ただいまより議事を再開いたします。
続きまして、「第2.損害賠償額の予定・違約金条項」について、「2-1.『解除に伴う』要件の在り方」と「2-2.『平均的な損害の額』の立証責任」の部分をあわせて御議論いただきたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。
阿部委員。
○阿部委員 結論についてはこれで結構かと思います。特にお願いですが、「2-2.『平均的な損害の額』の立証責任」のところの事業者の情報提供努力義務なのですけれども、中身としては反対しませんけれども、ここで求められる情報の中に、いわゆる営業秘密にかかわるものは入らないということは、解説書か何かではっきりとさせてください。それだけです。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見はいかがでしょうか。
山本健司委員。
○山本(健)委員 まず、2-1につきましては、今後も具体的な継続検討をするという前提で、今後の検討課題とすることに賛成いたします。
2-2のマル1部分も同意見でございます。
マル2の部分については、賛成いたします。事実上の推定に関する考え方が妥当してしかるべき場合であることや、その点に言及した裁判例などを併せ、御説明・御紹介いただきたいと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見はいかがでしょうか。
山本和彦委員。
○山本(和)委員 2点コメントですが、マル1につきましては、もしこれを真剣にやろうとするのだとすれば、どういう局面で、どういう問題が起こっているのかということを知るために、消費者側がどういう主張をして、それに対して事業者がどういう認否をし、裁判所がそれでどういう釈明をしているのか。あるいは、消費者が文書提出命令を申し立てた場合に、それに対して裁判所はどういう対応をしているのかということがわかる必要があるのかなと思っていまして、それだと裁判例を見て、本当に分析して、そこまでわかるのかというのは、ちょっと疑問なところはあります。裁判例の、要するに判決文の中にそこまでに事情を、書いている場合はあると思いますけれども、書いていない場合も多いような気がして、そうだとすれば、訴訟記録とかまで分析しないといけない。あるいは、当事者なり裁判官に対してヒアリングをしないと、なかなか本当にどこで問題が生じているかというのがわからない部分があるのではないかと思うというのが第1点です。
第2点はマル2で、私は、こういうことはあり得て、恐らく情報提供努力義務というのは、契約締結段階だけには限らずに、契約締結後、あるいはその紛争が発生した段階においても、なお事業者はそういう義務を負うという考え方は十分にあり得るのだろうと思いますし、前に申し上げましたが、それを前提に一定のルールを設定するということはあり得るのだろうと思っています。
ただ、今回はそこまではやらずに、こういうことを確認するということであるとすれば、それはそれでという感じがします。
ただ1点、非常に形式的なことなのですけれども、ほかのところでも出てきているのですが、逐条解説等において記載することというのをこの会議体の意見として出すというのが、どうも私には余りぴんとこないというか、一省庁がつくるある書物について、この公式の審議会というものが、そこに記載してはどうかみたいなことを意見として述べるというのが、ちょっと私自身からすると違和感があるということです。ただ、これは、ほかの委員の皆さんが特にそれで差し支えないということであれば、美意識の問題かもしれませんので、こだわりはしません。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
消費者庁のほうからお願いいたします。
○消費者庁加納消費者制度課長 今の逐条解説の点でございますけれども、確かに逐条解説は、法所管省庁として消費者庁が責任を持って記載して発刊するものでございますので、それをこの専門調査会でどうという筋合いのものではないというのはそのとおりでございます。ただ、私どもとしては、そういった逐条解説で考え方を広く周知していくということも、広い意味での消費者政策の一環と考えておりまして、何も立法だけが全てではなくて、そのほかに既存のルールも含めて広く消費者、事業者に周知していくということも重要な責務を負っていると思いますので、そういった中の一つとして、こういったことを提案させていただいているということでございます。
○山本(敬)座長 山本和彦委員。
○山本(和)委員 その実質を全く否定しているということでありません。だから、書くのであれば、努めなければならないというふうに解すべきであり、それを一般に周知すべきであるというようなことが、この審議会としての意見ではないかというのが私の認識だということです。
○山本(敬)座長 表現の仕方について御示唆を受けたということで、御検討いただければと思います。
ほかに御意見等がありましたら。
古閑委員。
○古閑委員 マル2のほうですけれども、第3条第1項の射程としては、勧誘時におけるものということだと思いますので、まさに事務局のほうでも御説明いただいていましたけれども、第3条第1項の規定から直ちにということではないという御説明だったと思いますが、そのことを明確にしていただきたいなと思っております。当初の射程ではないところからなし崩し的に義務の範囲が広がっていくということは、余りよくないことだと思いますので、そこはその趣旨を明確にしていただけないかと思っています。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見等がありましたら、お出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。
大澤委員。
○大澤委員 現時点でのコンセンサスということであれば、全てについていたし方ないのかなというのが率直な感想です。
ただ、その上で申し上げたいのは、19ページの一番下の囲みの「解除に伴う」という要件のあり方についてはということで、引き続き検討するのが適当ではないかと書かれていますが、同じ19ページの上から3行目、4行目あたりにまさしく書かれていることだと思うのですけれども、いわゆるこれは本来的には損害賠償の予定というよりは、実質的には違約罰だと思います。そうしますと、これは現行法ですと本来は10条の射程ということになってしまうわけですけれども、ただ、裁判例において9条1号で判断しているものがあるというのは承知しておりますが、本来であれば、私はこの「解除に伴う」という要件は削除すべきではないかということをずっと申し上げていましたけれども、それも含めて引き続き検討するのが適当ではないかと思いますが、と同時に、恐らく今後検討するべきなのは、こういったいわゆる違約罰に関するルールを、そこにもまさしく書いていますけれども、「平均的な損害の額」という概念で規律している9条1号で規律するということが果たして妥当なのかということは、将来の課題として追加したほうがいいのではと思いました。それがまず1点です。
もう一点は、私は訴訟法の専門家ではないので、全然わからないのですが、2-2のマル2のところですけれども、事業者は情報を提供するよう努めなければならないということを逐条解説においてというのは、私も若干違和感がなかったわけではなくて、なるべく情報を提供してもらいたいと、これを書くというのはまず最低限だと思うのですが、前に、この消費者契約法に関する検討はいろいろなところでなされていますけれども、はっきりとした記憶はないのですが、こういったような必要な情報を提供させるとか、文書を提供させるといった、そういう形で立証の負担を軽減するということが別のところで提案されたことがあったと思うのです。こういった形で逐条解説に書くということではなくて、それを超えて、文書提出など、もちろん営業秘密にかかわらない限りでですけれども、少なくとも「平均的な損害の額」に必要な範囲で提供させるということが、これは条文上できないのだろうかというのを個人的には疑問として持っていますが、これも現時点では難しいということであれば、それは強く反対しませんけれども、本来であれば、そういう手続法的な対処はできないのだろうかという疑問は持っています。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
先ほどの山本和彦委員の御指摘とも重なるところと思います。今後に向けた検討課題と言うべきかもしれません。よろしいでしょうか。
それでは、2-1については、引き続き検討を行う。2-2については、マル1に関しても、裁判例、消費生活相談事例を収集、分析するだけでどこまで詰められるかという問題があります。その意味では、その他の関連するデータ等も収集、分析しながら、さらに検討するということになろうかと思います。そして、マル2については、表現は少し考えるとしましても、逐条解説において明確にすることによって周知を図ることを最低限行う。それ以上のことについては、引き続き検討していくことになるのだろうと思います。よろしいでしょうか。
どうもありがとうございました。
続きまして、「第3.消費者の利益を一方的に害する条項/不当条項の類型の追加」についての検討に入りたいと思います。御意見、御質問のある方は、御発言をお願いいたします。
大澤委員。
○大澤委員 これにつきましても、現時点では、これ以上難しいということは空気としては読んでおりますので、これ以上強くは反対いたしませんが、個人的には、この間、これまで約1年近く、さらにそのワーキンググループなども含めれば、もう三、四年やっている。もっとそれ以上かもしれませんけれども、その間、いわゆる一律に無効とされる規定のリストというものと、それと同時に、無効であると推定されるリストということに分けて、しかもそれを、やはり予見可能性という観点から明確にする必要があるのだということは、いろいろな形で私も申し上げましたし、あるいはほかの先生方もおっしゃっていたと思いますが、その必要性というのが必ずしも今、事案としてはまだ出ていないような場合でも、いわゆる契約書作成に当たっての予見可能性などを担保するために、こういうリストを分けて規定を設けることがすごく必要であると。その観点から見て、今の日本の不当条項リストは非常に不十分であるということを申し上げてきたつもりではありましたけれども、これをうまくちゃんと説明できていなかったと、御趣旨を理解していただけなかったことは、私自身、非常に反省をしております。それを申し上げた上で、疑問を申し上げたいと思います。
まずマル1ですけれども、例外なく無効とする規定を設けるべきか否かについてはということで、最低限、今回、こういった一定の場合の解除権を放棄させる条項を例外なく無効とする規定を設ける。これは、1つだけまずつけ加えるということだと思うのですが、ぜひやっていただきたいと思っておりますし、解除権といっても、任意解除権の場合は今回除外されています。その当否は今後検討する必要があると思っていますが、少なくともここに挙がっている債務不履行の規定に基づく解除権と瑕疵担保の規定に基づく解除権を放棄させる条項は正当化できないと思っていますので、これはぜひ設けていただきたいと思っています。
マル2に関してなのですが、これも今後、法改正をするときの規定の書き方というのか、どういう条文として位置づけるのかが若干気になるところなのですが、マル2は、10条前段に該当する条項の例示としてというのは、趣旨としては、恐らく先ほど説明がありましたように、後段要件でもちろん有効になることはあり得るという、そういう含みを持たせていると思いますので、これは先ほど申し上げた話で言うと、無効と推定されるリストに恐らく近い形なのかなと思いつつ、しかし、単純に10条の前段要件を具体化して1個例示しただけという感じにも読めますけれども、条文を書くときに、10条の前段要件の一例としてこういうものがありますという形で、しかも不作為をもってその意思表示をしたものとみなす条項だけを一つ切り出して条文化するというのが、まだちょっとイメージが湧かないといいますか、例示としてなぜこの条項だけを挙げているのだろうということが、後で条文として出てきたときに若干奇異な印象を、少なくとも私が何もこの議論を知らずに見れば、そういう印象を持つと思いますし、そこについて、どういう条文をイメージされているのかということを伺いたいと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 それでは、消費者庁のほうからお願いいたします。
○消費者庁加納消費者制度課長 例示するということで考えておりまして、もう例示するということに尽きるわけであります。推定規定ではございません。10条の前段要件に該当するということの例示であります。
書きぶりはちょっと法制的な問題もありますので、そういった観点から検討したいと思いますけれども、現行で言うところの民法、商法、その他の規定云々というのはありますが、それに当たる条項の例示として、これを位置づけてはどうかということで考えております。
○山本(敬)座長 沖野委員。
○沖野委員 私も、結論としてはしようがないのかなという感じを持ってはいるのですが、説明は結構難しいのではないかと思っております。1つは、今のような形で10条に単純に接続されるということになりますと、10条の前半部分について、現行法ではわかりにくいところを明らかにしていることになります。それはどこかというと、明文のいわゆる任意規定がないという点であって、従前は、この部分をもう少し改正して、一般法理を含めて考えるということですとか、あるいは民法の改正法案の定型約款についての規律の部分は、この前半に当たる部分を置いていないわけですので、そういった規定も参考にしながら、この前半部分の改正を図れないかというところを例示で受けている。つまり、明文の規定がないものについても例示されていることによって、明文の規定がなくとも前半に当たるものがありますというのをこの例示で明らかにするという話なのだと思います。
しかし、従前この問題が取り上げられていたのは、前半部分の該当性というよりは、基本的には無効になるところを、合理的な理由があるならば無効になりませんと。その意味で、10条に接合するならば、例えば不作為をもって意思表示をしたものとみなす条項その他の消費者の権利を制限し、消費者の義務を加重する条項であるときは、1条2項に照らして消費者の利益を一方に害するものでないと認められる場合でない限り無効とするというような、後半部分がむしろ転換するはずのものとして、この条項は今まで議論していたと思うのです。
ところが、今回は、これまでの議論のうち、当該条項について論じられていたわけではない前半部分の見直しの例示として使うという結果になってしまうので、それが非常にいびつな感じがします。
そうはいっても、規定が置かれれば、こういう条項はそもそも問題で、後半部分も本当は何も言わなくても該当するような話ですねというような理解が展開していくならば、条文上は無理があると思いますけれども、そういう趣旨を実は含意していたのだというような解釈を展開していくならば、それなりの意味はあるのかなと。ただ、そうしたときに、なぜこの1個なのだろうかというのは、なお疑問を持ちますけれども、ないよりはいいのかなというようなことを感じております。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに。
丸山委員。
○丸山委員 大澤委員や沖野委員と全く同じ感想で、10条の前段の例示を置くことに対する、やはり違和感があります。もともとグレーリストと言うかはともかくとして、議論していたのは、事業者の立証によって不当性が覆る余地のあるリストというものを考えていきましょうということでした。したがって、明文の任意規定の中でも特にそれが変更されると、消費者に対して不利益が大きいというものを考えていきましょうということだったと思います。前段の例示であり、不当性の推定にもならないとすると、不当かどうかは、基本的には立法者意思としては、ゼロベースから後段に関して主張するということになるので、果たしてこの1個だけ例示を置くということの意味が大きいのか、小さいのか。戸惑うところがございます。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
後藤巻則委員。
○後藤(巻)座長代理 私も今、何人かの委員の方々から出た意見に近い考え方を持っていまして、ただ、より形式的なところでの意見なのですけれども、ここで消費者の一定の作為または不作為をもって消費者の意思表示があったものと擬制する条項、これを挙げることの意味というのは、任意規定がない場合についても前段の適用があると、そういうことを示すことだと思うのですが、逆に私は、任意規定がある場合を想定したように読める規定の中で、例示として任意規定がない場合を挙げるというのが、形式的にやや違和感があります。おっしゃっていることはよくわかるのですが、例示としてふさわしいのかなということには、やや疑問があるということです。
○山本(敬)座長 御指摘いただきまして、どうもありがとうございました。もちろん、従来の最高裁判例を知っていて、そして民法などもよく知っている人間からすると、この例が挙がっているのは、明文の任意規定がない場合も含む趣旨であるというメッセージとして読むべきであることはよくわかるところですが、一般の消費者が見てわかるかと言われますと、解説を見て初めて意味がわかるということになるのかもしれません。ただ、メッセージとしては、今のようなことを伝えたいという提案であるという御趣旨だと思います。
阿部委員。
○阿部委員 結論としては、マル1もマル2もこれでよいかと思いますが、どうせ解説書を見なければわからないようなことであれば、特にマル2について、当たり前に許されること、例えば雑誌の定期購読でありますとか、定期預金などの期限が切れたら普通預金に変わるみたいなことは、ちゃんと書いていただければありがたいです。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。解説に当たっての要望という御趣旨だと理解いたしました。
山本健司委員。
○山本(健)委員 まず、「例外なく無効とする契約条項の類型」に関する問題については、御提案の「債務不履行の規定に基づく解除権又は瑕疵担保責任の規定に基づく解除権を放棄させる条項を例外なく無効とする規定を設けること」について、残る不当条項リストが継続審議となるという前提のもと、賛成いたします。もっとも、今回の取りまとめ報告書パート1で追加されるブラックリストは1つだけなのか、もう少し入れられないのかという思いはございます。例えば、解釈権限付与条項などは今回の報告書パート1に入れられてしかるべき不法条項リストではないかという感想を持っております。
次に、「一定の場合に無効とする契約条項の類型」に関する問題については、御提案されております「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな契約の申込み又は承諾の意思表示をしたものみなす条項」を10条前段に該当する契約条項の例示として挙げることについて、残る不当条項リストの内容や10条との関係については継続審議となるという前提のもと、半歩前進ということで賛成いたします。無いよりは良いと思います。もっとも、今回の取りまとめで追加されるリストはここにおいてもこれ1つだけなのか、もう少し入れられないのかという思いはございます。例えば、法定解除権の制限条項などは今回の報告書パート1に入れられてしかる不当条項リストではないかと考えます。
この点、報告書1の38ページにおいて、マルaのうち、消費者の解除権・解約権を制限する条項について、定期預金契約における満期前の解約の制限条項等があるから現時点では入れ込めないのだという御解説をいただいております。しかし、定期預金についてはもともと期限の定めのある契約で満期前解約権がなく、御指摘の契約条項は解約権の制限条項ではないと思います。
最後に、10条本文の文言に関する意見です。今回の御提案では10条本文の文言変更が提案内容に入っていないように読めます。しかし、現在の10条の前段・後段については、法文の形式的な文理や現在の逐条解説の記載内容とは異なる内容の最判平成23年7月15日が判示されているところですので、10条本文の文言修正の要否・内容は継続審議の対象としていただきたいと思います。また、10条本文の法文の改正に関する議論の結論を待たずに、現在の逐条解説の記載については前段・後段ともに前記最高裁判例の判旨に沿った内容に書き改めていただきたいと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見があれば。
古閑委員。
○古閑委員 マル2のほうですけれども、先ほど来、どういう条文のイメージになるかという御質問も出ていましたが、前段と後段の両方に当てはまって初めて適用されるという構成のものなので、2つある要件のうちの片方のみの要件について例示がされるというのは、ミスリーディングとなるのではないかと考えております。これは消費者とか中小企業というところも使う法律になりますので、この案では、前段だけがかなりのボリュームになって、そちらだけを読み込んでしまって、当たるのではないかと混乱するのではないかと懸念しております。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに。
井田委員。
○井田委員 ありがとうございます。
方向性としては、これで仕方ないと思うのですけれども、10条に関しても継続審議が許されるというか、していただきたいのですが、できるのであれば、やはり文言の変更ということを勘案いただければと思います。研究者であったりとか法律家であると、ここである議論というのはよくわかるのですけれども、何も変わっていないのに解釈が変わったとか、あるいは解説書が変わったということになると、かえって戸惑うのではなかろうかと。これは、前回申し上げた勧誘の部分とも少し似ている部分があるのですけれども、外見は変わっていないのに意味内容が変わってあるかのごとき記載だとか解説が来ると、それはかえって混乱を招くのではなかろうかという気もいたしますので、そこはぜひ御検討いただければと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。
松本理事長。
○国民生活センター松本理事長 ややテクニカルな質問になるのですが、例外なく無効というほうの解除権を放棄させる条項について、現行の8条2項に当たる規定は必要がないのかどうかということです。つまり、現行8条1項5号で損害賠償の責任を免除する条項は無効だと言っておきながら、2項で修補義務を誰かが負っていれば無効にならないという手当てをしているわけです。保証書がきちんと出ているということであれば構わないということだと思うのですが、解除についても同じような手当てをしなくてもいいのか。つまり、瑕疵があれば修補しますという特約が当該売主あるいは第三者との間で行われている場合であっても、解除権を放棄させるという条項は一律無効なのか。そのような特約を行使してもなお修補してくれないとか、修補できないという場合に、それであっても解除はできないという条項は当然無効としてもおかしくないと思うのですが。
そのあたり、債権法の改正案が成立すれば、瑕疵担保の特則はなくなってしまうので、そうすると催告解除が原則になりますから、このままでもいいのかもしれないのですが、そのあたりはいかがでしょうか。
○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。消費者庁のほうから。
○消費者庁加納消費者制度課長 ちょっと検討させていただきます。
○山本(敬)座長 ただ、松本理事長御自身が既に示唆されていますように、解除できる場合に解除権が発生し、その解除権をあらかじめ放棄させるということになっていまして、そもそも解除権が認められる場合であるということが前提になると思います。それにもかかわらずその解除権を放棄させるのは、このままでも不当条項とする可能性は十分説明できそうに思います。ただ、精査しませんと確たることは言えませんので、その点は御検討いただければと思います。
ほかにはよろしいでしょうか。
それでは、第3につきましては、マル1、マル2について、ここに提案されていることで御了解いただいたものとさせていただきます。
(5)条項使用者不利の原則
○山本(敬)座長 続きまして、「第4.条項使用者不利の原則」についての検討に入りたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。
阿部委員。
○阿部委員 ここはもともと民法債権法改正の結論を待ってくれと言いたいところでありますが、この範囲の結論については特に反対いたしません。
ただ、1点気になりますのは、裁判例として具体的に46ページに書かれている地震免責のケースについてでございます。これはちょっと詳しく見てみると、かなり特殊な事例のような気もしますので、これが唯一の事例だということになると、ちょっと裁判例だといって紹介するには足りないのかなと思います。何かほかにもう少し一般的に当てはまる事例があるのだったら、それに取りかえていただければと思います。実際にどういうものが逐条解説に並ぶかというのを私は見てみたい気もしますので、ここは何かの機会にお願いいたします。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見等がありましたら、お出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。
山本健司委員。
○山本(健)委員 今後も具体的な継続検討をするという前提で、今後の検討課題とすることに賛成いたします。また、逐条解説に資料1で提案されておりますような記載を補充することについても賛成いたします。ぜひ記載いただきたいと思います。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
ほかに御意見があれば。
大澤委員。
○大澤委員 結論としては、これもいたし方ないのかなという、今日ずっとそういうふうに言っていますけれども、そういう感想です。
今、阿部委員がおっしゃっていたことと関連することなのですけれども、46ページにある裁判例、これだけを紹介するというのは避けていただきたいと思います。といいますのは、今夏にこの条項使用者不利の原則について検討をしたときに、私が、例えばこういうのがあるのではないかということを申し上げたのは、例えば点の場所によって、「または」なのか、それとも「かつ」なのかがわからない場合があるとか、そういうことを申し上げたと思いますけれども、具体例として、どこまで逐条解説に書くのかわからないところもありますが、この事例4-1だけを挙げるというよりは、今、申し上げたように、単純に要件が列挙されているだけで、それを全て満たさないといけないのか、そうではないのかわからないようなものがあるといったことも、できればそういった、要するにほかの事例というか、そういうものも本当は挙げていただいたほうがいいのではないかという意見は持っております。
以上です。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
どのようにこの条項使用者不利の原則についての情報を提供するかということでして、裁判例がここに1つ挙げられておりますけれども、このような裁判例があることは客観的な事実でして、それをどのような意味を持つものとして説明するかという点については注意していただきたいという御指摘があったと理解すべきだろうと思います。それ以外に、必ずしも裁判例として挙がっている例ではないけれども、条項使用者不利の原則がどのような場合に適用されるかということがよりわかりやすく示される例が示せるのであれば、それも少なくとも挙げるのが適当ではないかという御示唆だったと受けとめました。
ほかに議意見、御質問等があればと思いますが、いかがでしょうか。
河上委員長。
○消費者委員会河上委員長 定型約款のところの規定とも関係してくるのかもしれませんが、民法でこれが入ってくるということは、ほとんど期待できないし、あり得ないと思うのですけれども、消費者契約法の場合は、やはり消費者がわかりやすい形で契約条項が認識できるというのが大前提だろうと思います。ですから、合理的に読んで、二重の意味があって、そのうち自分にとって有利な意味とそうでない意味が出てきたときには、事業者側に不利な解釈を消費者が期待しても、それはやむを得ないことではないかと思います。
条項規制に関する諸外国の立法例の中で、これが入っていない立法例はほとんどありません。世界中の法律の中で作成者不利原則というのはルール化されているわけですね。それを今、日本で、逐条解説に書くということをみんなで議論するなどというのは、このグローバル化した時代に、とても残念なことだと思います。先ほど山本委員がおっしゃっていましたけれども、私は、逐条解説に書くというよりも、ルール化することに意味があるのだと考えておりますので、今回はここまででとめておくにしても、できるだけ早期にルール化するという方向を模索していただければと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。
それでは、「第4.条項使用者不利の原則」につきましては、要件や適用範囲をさらに検討をしつつ、あわせて逐条解説等において紹介することとしてはどうかという提案のとおり了解したということで、よろしいでしょうか。
それでは、本日の議論はこのあたりとさせていただきたいと思います。
次回は、本日までの議論を整理した上で、報告書の取りまとめに向けた検討を行うこととしたいと思います。よろしくお願いしたいと思います。
最後に、事務局から事務連絡をお願いいたします。
≪3.閉会≫
○丸山参事官 本日も熱心な御議論をどうもありがとうございました。
次回の会議につきましては、12月中の開催を予定しておりますが、日時等の詳細については追って御案内させていただきます。よろしくお願いいたします。
○山本(敬)座長 来週に予定が入っていたと思うのですけれども、その点については、今の御発言はどのように受けとめればよろしいでしょうか。
○丸山参事官 来週のその予定につきましては、当初、そちらのほうで委員の御予定を確認させていただきましたけれども、消費者庁のほうと準備状況を相談させていただきまして、今、申し上げたように、追って御連絡を差し上げたいと思いますので、よろしく御容赦いただきたいと思います。
○山本(敬)座長 次回についても、ごく近いうちにどうするかという御連絡がくると理解してよろしいでしょうか。
○丸山参事官 そのようによろしくお願いいたします。
○山本(敬)座長 大澤委員。
○大澤委員 18日がということは、なるべく、できれば早く教えていただきたいというのがあるのですけれども、つまり、18日はもう1週間切っていますので、その点は御配慮いただきたいと思います。よろしくお願いします。
○阿部委員 逆に、18日はもう開催されないと思っていてよろしいでしょうか。
○丸山参事官 済みません。その点につきまして、至急、早いうちに御連絡させていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
○山本(敬)座長 ごく近いうちに連絡が来るというように解釈しましたが、それでよろしいでしょうか。委員の皆様方には大変御迷惑あるいは御心配をおかけすることになりますけれども、最後にかなり詰めた検討を行っているところでして、どうか御容赦いただければと思います。
○消費者委員会河上委員長 18日は一応予定しておいたほうがいいのですか。
○山本(敬)座長 私が答えることではありませんが、いかがでしょうか。
○丸山参事官 当初は18日の御予定について確認をさせていただきましたけれども、その18日について、開催するか否かについても含めて、至急御連絡させていただきたいと思います。
○山本(敬)座長 ありがとうございました。大変申しわけありませんが、どうか御理解のほどお願い申し上げます。
それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。
お忙しいところ、お集まりいただきまして、ありがとうございました。
以上