第12回 消費者契約法専門調査会

日時

平成27年6月12日(金)16:00~19:15

場所

消費者委員会大会議室1

出席者

【委員】
山本敬三座長、後藤巻則座長代理、井田委員、大澤委員、沖野委員、河野委員、古閑委員、後藤準委員、増田委員、丸山委員、山本和彦委員、山本健司委員
【オブザーバー】
消費者委員会委員 河上委員長、石戸谷委員長代理、橋本委員
法務省 中辻参事官
国民生活センター 松本理事長
【消費者庁】
服部審議官、加納消費者制度課長、山田取引対策課長、消費者制度課担当者
【事務局】
黒木事務局長、金児企画官

議事次第

  1. 開会
  2. 不当勧誘に関する規律(4)
    不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果
  3. 不当条項に関する規律(3)
    不当条項の類型の追加
  4. その他
    抗弁の接続、複数契約の無効・取消し・解除、継続的契約の任意解除権
  5. 閉会

配布資料(資料は全てPDF形式となります。)

議事録

≪1.開会≫

○金児企画官 本日は、皆様、お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。

ただいまから、消費者委員会第12回「消費者契約法専門調査会」を開催いたします。

本日は、所用により、阿部委員と柳川委員が御欠席、井田委員、沖野委員、増田委員がおくれての御出席との連絡をいただいております。

配付資料の確認をさせていただきます。資料1が消費者庁からの提出資料、それに関連する参考資料1と参考資料2がございます。資料2が本日御欠席の阿部委員からの意見書でございます。資料3が山本健司委員からの提出資料です。参考資料3が古閑委員からの提出資料です。不足がございましたら事務局へお声がけをお願いいたします。

それでは、ここからは山本座長に議事進行をお願いいたします。

○山本(敬)座長 本日もよろしくお願いいたします。

まず、議事に先立ちまして、本日、古閑委員から、インターネット関連事業者等からの意見書を参考資料として御提出いただいておりますので、その内容について簡潔に御紹介いただきたいと思います。

○古閑委員 お時間いただきまして、ありがとうございます。

本日、参考資料3として出させていただいている資料について、簡単に説明させていただきます。本資料は、インターネット業界を中心に、事業者が懸念する事例や意見を書面にしたものであり、今後の審議に役立ててほしいという趣旨で提出されるものです。時間の関係で幾つかの論点に絞った内容を紹介しますが、それ以外については意見書を御参照いただければと思います。また、本意見書は、事業者全体の意見を集約しているものではありませんので、その他事業者の懸念等についても、経団連、その他を通じて適宜反映されることを願っております。

なお、1点訂正がございます。資料の31ページ、下から5行目の四角枠囲いの中で、「第10条の」という5文字を入れておりますけれども、これは削除でお願いできればと思います。

それでは、内容です。

1.情報提供の法的義務化と不利益事実の不告知について。情報提供を法的義務とするに当たっては、義務の発生要件及び提供すべき情報の範囲が明確になっていなければならない。しかし、第7回専門調査会で提案された4要件には、事業者の実務実態が考慮されていない。取引類型や実態を踏まえた上で、業法、個別法、ガイドライン等で既に規定されている内容にも配慮して要件を明確化すべきで、それができないならば法的義務とすることには反対である。

不利益事実の不告知の先行行為要件は、取消権を発動するための要件であるとともに、不利益事実の範囲を確定するという重要な役割があり、先行行為要件が削除された場合、先行行為と関係なく不利益事実の告知義務が発生することになり、結果的に情報提供義務化と類似する。不利益事実の範囲が広がり、不明確となるにもかかわらず、事業者が消費者にとって不利益な情報を提供しなかった結果のみをもって、消費者は契約を取消すことができることになる。また、事業者は消費者が求めても、提供不可能な情報や消費者から具体的なニーズを教えてもらわなければ、提供できない情報もある。

2.契約条項の平易明確化の法的義務化について。業界の専門用語をそのまま利用すれば明確ではあるが、平易ではないため、事業者は詳細を説明しようとする。その結果、情報量が多くなり、かえって明確でなくなることもあり得る。平易と明確は相反することも多く、事業者の実務において両立はなかなか容易ではない。何をもって平易明確と見るかについては、一般的な基準をつくるのは困難である。

3.「勧誘」要件のあり方について。インターネット広告以外が消費者の意思形成に影響を与え得る事情は多数考えられ、消費者が当該インターネット広告を見て誤認し、その誤認により商品・サービスを購入したと判断することはなかなか容易ではない。したがって、消費者の意思形成に直接働きかけるもの、当該広告等と意思表示の因果性が客観的に判断できるものの2要件では、具体的にどのような広告が規律の対象となるか、不明確である。予見可能性が低ければ、事業者の行為規範としての機能は期待できず、事業者は不明確な要件の該当性を争うので、裁判外での解決も期待できないと思われる。明確化が困難である以上、広告に関する規律は広告規制法に委ねるべきである。

4.第三者による不当勧誘について。委託関係がない第三者からの不当勧誘行為に取消権を導入することは、取引の安定性を著しく害することになるため反対である。商品・サービスに関する第三者によるインターネット上のでたらめなクチコミ等を見た消費者が、誤認して購入の意思表示をしたと事業者が知ることは、事実上不可能である。しかし、要件設定によっては、ウェブ上に公開された情報は全て事業者がその事実を知ることができたと主張される余地が生ずる。不当勧誘においては、民法の詐欺取消しとは異なり、二重の故意や違法性が不要とされていることからも、過失という要件によって第三者による不当勧誘行為の責めを事業者に負わせることは適切ではない。

5.不招請勧誘に関する規定などの新設について。救済を図るべき事案は、主に電話勧誘と訪問販売において発生している。現在、全く問題の起こっていないビジネスモデルまでも大きく見直さなければならない懸念もあるので、まずは特定商取引法の問題として検討すべきである。消費者契約法に一般的な規定を置いた場合、能動的に案内することで消費者に喜ばれている新たなサービスも存在しており、かえって消費者にとって不都合な場合が生じる懸念もある。

6.不当条項の類型の追加について。第11回専門調査会における提案は、いずれも要件が適切に設定されていないため、本来無効とすべきではない契約条項が無効となるおそれがある。現在、日常的に行われている取引慣行や、必要かつ合理的な条項が無効とされた場合には、取引の安定性を著しく害する。B to Cビジネスにおける商品・役務のビジネスモデルは多種多様であり、情報の不当性をあらゆる要素を考慮して個別に判断されてこそ、適切かつ妥当な結論を導くことが可能である。法10条の解釈を具体化・明確化する業界の自主規制等を活用する等で対応すべきである。もしも類型を追加する場合には、個別分野の実務への影響を丁寧に見きわめるプロセスが必須である。

というところが主なところでございます。詳しくは、繰り返しになりますけれども、資料を御参照いただければ幸いです。事業者が集まって検討したものですので、ぜひこちらも参考に今後の議論を進めていただければ幸いでございます。

お時間いただきまして、ありがとうございました。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。


≪2.不当勧誘に関する規律(4)(不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果)≫

○山本(敬)座長 それでは、本日の議事に入りたいと思います。

本日は、消費者庁から各論点の検討のための資料として、資料1及び参考資料1及び2を御提出いただいています。

資料1の目次にありますように、今回は「不当勧誘に関する規律」として「不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果」について、また「不当条項に関する規律」として「不当条項の類型の追加」、その他の論点として「抗弁の接続/複数契約の無効・取消し・解除」、「継続的契約の任意解除権」という論点が示されています。本日は、この表紙に記載された1から4の論点ごとに区切って、消費者庁からの御説明と委員の皆様による御議論をお願いしたいと思います。

それでは、まず、「不当勧誘行為に基づく意思表示の取消しの効果」について検討したいと思います。消費者庁から御説明をお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 それでは、本日もどうぞよろしくお願い申し上げます。

資料1の1ページの1の取消しの効果についてという論点であります。

事例も幾つか掲げておりますが、まず、現行法について御紹介したいと思います。解説を離れてしまいますけれども、10ページ、参考条文をおつけしておりますので、こちらをごらんいただきたいと思います。

消費者契約法11条で、この取消しの効果につきましては、「この法律の規定によるほか、民法及び商法の規定による」としておりまして、消費者契約法は特に規定を設けておりませんので、民法の規定に委ねるとなっております。

それで、民法の規定につきまして、次の丸は改正後の民法ですが、現行法は下の丸のところに書いております。ページが変わりまして11ページでありますけれども、取消しの効果としましては、703条の不当利得の返還というところに委ねると考えております。言うまでもないところでありますけれども、「その利益の損する限度」、いわゆる現存利益の限度において返還する義務を負うということかと思います。

それで、10ページに戻っていただきまして、今般、改正民法の法案がございますけれども、その中でどうなっているかということについても御紹介いたしますと、121条の2という規定が新設されまして、その1項で「相手方を原状に復させる義務を負う」という規定が入るということでございます。これは、その下の現行民法545条に解除の原状回復義務というのがありますけれども、それを踏襲するような形で、取消しの効果についてもこうなると聞いているところであります。

その121条の2の2項、3項で、無償行為であり、善意であると、知らなかったときとか、3項の意思無能力とか制限行為能力者、例えば未成年者の取消しということだと思いますが、そういった場合には、現に利益を受けている限度において返還の義務を負う。いわゆる現存利益の限度において返還義務を負うという規定が設けられているところでございますが、逆に、それ以外のところは1項の原状に復させる義務を負うとなるところであります。

では、具体的にどうなるかということでありまして、1ページのほうに戻っていただければと思います。幾つか設例を挙げております。

まず、1-1がエステティックでサービスを受けるのですけれども、監禁があった。これは取消事由があったということでありますが、永久脱毛のサービス契約、5万円を払ってサービスの提供を受けたということですが、監禁があるということで後日取消したという場合。

設例1-2がダイエットサプリメントを購入して2箱は食べたということでありますが、不実告知で取消し。

1-3は、中古自動車を購入してしばらく経過した。その間、この車を使用したという前提でありますけれども、取り消したということであります。

これで、先ほど申し上げた民法の規定が適用されることによってどうなるかということで、3ページの表1に整理しております。事業者のほうは、基本的にお金を返すということでありますけれども、消費者の返還義務はどうかということであります。

まず、設例1の脱毛サービスは、それなりに効果のあるサービスの提供を受けた。それで、消費者としては脱毛効果というメリットを享受しているということが前提でありますが、その受けた分の利益を返すということで、その価値をどう見るかというのは議論の余地があるのですけれども、基本的には代金相当額が通常であろうということで、5万円返すということであります。そうしますと、監禁があったのですけれども、5万円払ってサービスを受けて、その分の価値はあるから、また5万円を返さないといけない。その分、対等額で相殺ということになりますので、消費者としては取り消したとしてもお金は結果的に戻ってこないことになるというところが問題点の一つとしてあろうかと思います。

それから、設例2はダイエットサプリメントでありまして、2箱食べてしまったということで、その物はないということであります。その場合に、現存利益。3箱ありますので、それを返すということでありますけれども、2箱分についてはもうなくなってしまったということで、これは返す必要はないだろう。

ただ、脚注6で注意書きをしておりますけれども、ここは前提がございまして、このダイエットサプリメントは日常的に食するものではない。ダイエットサプリメントを食べたことによって、通常の食費分が浮いているものがないという前提で考えれば、こうなるのではないかということであります。ほかに通常の食費分が浮いているという事情があれば、その分、出費を免れているので、それを返す必要が出てくるのではないかと思うところでありますけれども、これはダイエットサプリメントというのは非日常的なものだという前提に立てば、こうなるということで書いております。

それから、設例3につきましては、中古自動車を現物で返還するというのが基本でありますが、その1カ月間、車を使用したことによって利益を得ているということであれば、その使用利益分を返還することが必要になってくると思います。

これが、今般の民法改正で、先ほど御紹介いたしました121条の2の原状に回復させる義務を負うという形で改正されることになりますとどうなるかということで、4ページに書いております。文章のほうで言いますと、上から5行目の「すなわち」というところに書いておりますが、原状回復ということでありますので、客観的価値を金銭で返還するというのが原則だろうと思われます。

そうしますと、表2でどうなるかを書いておりますが、変わってくるのが設例2でありまして、ダイエットサプリメント2箱分については、客観的価値としては2箱分を食べたということでメリットがあったということだと思いますので、それによって出費を免れたかどうかは関係なく、これについても返すというのが原則になるのではないかと思われるところであります。ここのところが、現存利益という考え方と原状回復で結果的に異なってくるのではないかと思われるところであります。

それで、以上を踏まえてどう考えるかということでございます。5ページでありますけれども、問題意識としましては、先ほど申し上げた設例1の脱毛サービスのような場合に、5万円、事業者から返ってくるのですけれども、消費者も5万円返さないといけないとすると、対等額で相殺になって戻ってこないということであります。5ページの(2)の3段落目あたりでありますけれども、先ほど申し上げたような場合であれば対等額で相殺されることになる結果、3行目ですけれども、消費者は代金の返還を結果的に受けられなくなるということかと思います。

そうしますと、いわゆる「給付の押付け」といいますか、監禁事由というものがあったのですけれども、お金については戻ってこないということになろうかと思いますので、そういう点で問題が残るのではないかということであります。

そうしますと、この取消権の実効性を確保するという観点からは、ここについても何らかの手当てを講ずることも考えられるのではないかということでありまして、具体的にどうするかというのが6ページの(3)以下であります。

まずは、アとしまして、特商法のクーリング・オフの清算に関する規律というものがございまして、これを参考に考えるということであります。先ほど申し上げたような脱毛サービスのように、役務の場合が典型的に想定されるのですけれども、特商法におきましては既にクーリング・オフに関して手当てが講じられております。

条文を御紹介いたしますと、15ページ、参考3、特商法の9条、これはクーリング・オフの規定でありますが、それの第5項に線を引っ張っております。いろいろ書いておりますが、事業者はこういった請求をすることができないという規定があります。何を請求してはいけないかといいますと、下から3行目の終わりぐらいから、当該商品の使用によって得られた利益。先ほどの車を使った利益が当たってくると思います。それから、役務の対価というもの。エステの対価5万円分といったものの支払請求ができないというのが明確に規定されておりまして、こういうことでクーリング・オフの実効性を確保するということかと思いますが、こういう規定があるということであります。

そこで、6ページに戻っていただきまして、こういう規定を参考にしつつ、同種の規律を設けるということであります。特に先ほどのエステのような場合でありますと、結果的に返ってこないという事態を防ごうということでありますが、類似の規律を設ける。

ただ、そうした場合に結果的にどうなるかということで、7ページの表3に書いておりますけれども、先ほどのエステの脱毛サービス、中古自動車の使用利益がなくなってきますよというのが現行と変わってまいります。

ただ、表3の下に書いておりますけれども、「もっとも」というところで、こういったクーリング・オフの規定について、それが取消権に入れられるかという点については慎重な検討も必要かと思います。マル1、マル2にその際の視点を書いてみましたが、まずクーリング・オフというのは8日間という、非常に短期間に限って無条件での撤回・解除というものを認めるものでありますので、そういった場合に限って特則として設けるということだと思います。また、マル2でありますけれども、特商法では取消権は設けられておりますけれども、それにはこのような規定はありません。クーリング・オフと過量販売解除の場合には類似の規定がありますけれども、取消権にはないというのがありますので、そことのつり合いを考える必要があるということだと思います。

それがアの考え方でありますが、次に8ページ、今回の民法改正で異なるところが出る。4ページの表2の設例2のサプリメントの2箱分というところが変わってくるのではないかということを申し上げましたが、そこについてどう考えるところでありまして、8ページのイですけれども、現行よりもちょっと広くなるということであります。

そうしますと、ここについては何らかの手当てをすることが必要ではないかと考えられるところでありまして、消費者契約において取消権を認めた趣旨ということを踏まえますと、2段落目の「すなわち」というところからですが、できる限り取消権を行使した意味を残しておく必要があるだろうということでありまして、原状回復とは異なり、現存利益の限度において返還させるという考え方を、現行法と同じように書いておくというのも考えられないかということで書いております。

もう一つがウの民法の解釈・適用に委ねるということでありまして、そこで適宜調整するということもあり得るかと思います。

御説明としては以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明の内容を受けまして議論を行いたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。では、山本健司委員。

○山本(健)委員 御説明、ありがとうございました。資料3を引用しながら意見を述べさせていただきたいと思います。

消費者取消権を行使した場合の返還義務の範囲に関する消費者特則を設けるという考え方に賛成いたします。具体的な対応としては、甲案に賛成いたします。

以下、理由でございます。

まず、「返還義務の範囲に関する消費者特則の必要性」につきましては、消費者取消権を行使しても、提供された役務の対価相当額の原状回復義務を負担しなければならないのでは、契約上の対価の支払義務を負担しているのと同じであり、消費者は全く救済されません。これでは消費者取消権を認めた趣旨が没却されてしまうと思います。のみならず、不当勧誘行為を行った事業者の「やり得」「利得の押し付け」を許す結果になってしまい、極めて不合理であると考えます。有償契約の場合でも、無効原因が「不当勧誘行為の被害者による消費者取消権の行使」である場合には、原状回復義務を免除又は縮減する特別規定を置くことが必要であると考えます。

次に、「具体的な対応」に関しましては、上述のような不合理な事態を回避し、消費者取消権を無意味なものにしないためには、消費者取消権が行使された場合については、提供された役務の対価、費消されて現物返還が不可能になったものの客観的価値、提供された物の使用利益等の返還義務を否定するのが直裁であると考えます。この点、甲案の考え方に賛成いたします。

また、このように解しても、適用対象となる事業者は、不当勧誘行為の加害者である事業者のみであります。真っ当な事業活動を行っている多くの事業者には適用されないと思います。

なお、消費者取消権の行使期間と特商法のクーリング・オフの行使期間の長短は、効果の取り扱いに差異を設けるべき決定的な理由にはならないと考えます。特商法のクーリング・オフの行使期間も、書面不交付等によって起算日が進行しない場合には長期間となります。平成20年の特定商取引法改正で物の引渡しに関してクーリング・オフの清算規定の適用が認められたときには、書面不交付によって起算日が進行しないことが現に多いという実態を踏まえて、むしろ清算の範囲を拡張した経緯があったと思います。加えて、消費者取消権が行使されるケースでは、クーリング・オフのケースとは異なり、不当勧誘行為をしたという責められるべき事情が事業者にあるということについても考慮する必要があると思います。

最後に、個別事案において特に問題があるような場合には、信義則や権利濫用規定で合理的な解決を図り得ると思います。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

それでは、ほかに御意見等があれば。古閑委員。

○古閑委員 本日、経団連さんが資料2を出されていまして、それと非常に近しい意見になりますけれども、今、不当勧誘行為というのがどこまで広がるのかというのが議論中でございますが、広範に広がる可能性もある中で、クーリング・オフの8日間とは違って非常に長期にわたってということになり得て、それに関する証拠をどこまで残しておけるのかという問題が非常に大きいと思っております。

例えば迷惑を覚えさせるような行為も不当勧誘行為に入ってくるのだとすると、迷惑を覚えさせるようなやりとりがあったのかどうかというところも含めて、全てやりとりを残しておかないと、実際どうだったのかがわからないわけで、それを長期に残すというのは結構難しいと思いますし、それがそもそも不可能に近いような中、仮に後で大分たってから、実はという話が消費者のほうからあって、それを取消したいという話があったときに、事業者としては、それに対する対応が困難になると思っています。

甲案みたいなものを万一、採用する場合には、さんざん使った後になってから取消しを求めるような悪徳な消費者をどのように排除するか、その策とセットでなければ、甲案というのはあり得ないと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ほかに。河野委員。

○河野委員 ありがとうございます。

私自身も、原則として、ここに示されている甲案を支持したいと思っています。今回、事例として挙げられている1-1は、監禁状態から解放されていない状況下でサービス契約を締結してしまった。それから、設例1-2、1-3は、それぞれ不実告知があったことに気がつかずに売買契約を締結してしまったということでございます。このことを考えれば、事業者・消費者双方には、7ページでお示しいただいた表3のクーリング・オフの清算に関する規律を参考にした特則を設けるという考え方による返還義務を生じさせるのが、消費者側からするとすごく自然な考え方だと思っています。

一方、特商法におけるクーリング・オフの規定というのは、一定の販売類型に設けられた制度で、横断的な消費者契約を規律する消費者契約法に、その考え方をうまく盛り込むのはやや難しいかもしれないという感覚も持ったのは、これも事実でございます。

ただ、本件の1-2のダイエットサプリメントの事例で考えると、現行の取消効果の解釈であれば、表1のようにサプリメント3箱の現存利益の返還だけで済むものが、改定民法案に沿った取消効果となると、表2の返還義務が消費者に課せられることになり、現存利益の返還に加えて、使ってしまった2箱のサプリメントの客観的価値、つまり金銭の返還義務も生じることになることが示されています。そもそも大前提として、事業者に不当勧誘があったことによる取消しの効果ですから、現行の考え方以上に消費者の返還義務が広がることには反対したいと思っています。できれば、甲案のような特則を設けてほしいと思いますけれども、甲案が無理であれば、少なくとも乙案という形で特則を設けてほしいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ほかに御意見、御質問等がありましたら。後藤委員。

○後藤(準)委員 現在、民法の改正が行われていて、その方向性というのはこれとは逆のようなイメージを私どもは持っているのです。例えば、実際に何らかの利益を得たのであれば、その当該部分については事業者にその負担を回すというのは、ちょっと行き過ぎじゃないかと私どもは思っております。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ほかに。河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 これは確認ですけれども、乙案と丙案の違いが本当にどのくらいあるのかというのがいま一つわからない。今、後藤委員からは、民法の改正法の話が出て、違う方向を向いているのではないかということでしたけれども、私は民法の研究者として見た場合に、今回の改正法でもどうなるかは、実は流動的なのではないかという気がします。要は、現存利益をどういうふうに解釈するかということは、改正法ができ上がった後も問題となり得るところではないかという気がいたします。

もし、民法の解釈適用に委ねるとした場合に、改正法に委ねるという結果になってしまうと、逆に非常に流動的な状態の中にもう一遍落とし込むという結果になります。それは、事業者にとっても予見可能性を非常に損なうものになるという気がしますし、とりあえず乙案で、現在、ほとんどの場合は学説的にもおさまっているのではないかと思いますから、どうして乙案・丙案をこの際、分けて提示しないといけないのか、どこに違いが出てくるのだろうかというあたりをもうちょっと説明いただけるとありがたいのですが。

○山本(敬)座長 それでは、消費者庁のほうからお願いします。

○消費者庁加納消費者制度課長 ぜひ民法の研究者の御知見をおかりしたいところでありますけれども、恐らく改正民法では原状回復の原則というのが示されますので、受けた利益については返してください。ないのだったら、お金にかえて返してくださいというのが原則になりますということだと思います。

今、現行の取消しの効果がどうかというのは、さまざまな学説上の議論があるというのは承知しておりますけれども、実務では703条による処理というのが一般的だと思われます。そこが改正民法によって何らかの影響が生じるのではないか。そこを消費者契約の世界においては一定の手当てをしてはどうかということでございまして、改正民法においても、未成年者取消しとか無償行為においては手当てがされておりますので、それと同様に消費者契約における消費者というのも手当てを講じたらどうかということで、乙案を示させていただいたというところであります。

○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。

河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 むしろ、座長に民法学者としての御知見を披露していただければありがたいと思うのですが、基本的に取消権を行使されると、そこの後始末は703条の不当利得の問題として考えられるということですけれども、その場合の不当利得の考え方も、物の売買が無効になってしまった場合の後の給付の不当利得の場合と、人の物を勝手に使ってしまったという侵害利得の場合と、いろいろな場合があるので、類型的に考えましょうという議論があります。そのほかにも、もっと言うと、民法の秩序を表の街道に例えると、裏街道全部、不当利得法というのがあり得るので、それが規定されてきたのです。民法の箱庭的な不当利得論というのもあったりして、学説の中では華々しく議論されていて、非常に混沌としています。

ただ、今、消費者庁のほうから説明があった中でも出てきたのですけれども、無効になった原因がどういうものか。例えば意思無能力なのか錯誤なのか、あるいは詐欺とか強迫で取消されたのか。場合によっては、債務不履行による解除によって巻き戻しが起きたという場合なのか。その原因によって原状回復の具体的内容や結果は違ってくるはずで、その意味では改正民法で不当利得法のところも含めて一体どうなるかという、非常にわかりにくい部分があります。

このわかりにくいところをそのままにしておくというのが本当にいいのかどうかということがございまして、むしろ最低限、原状回復で、今の703条の考え方の中にピン止めしておいて、その後の解釈で済ませるということであれば、これは丙案と事実上、変わらないと私は思ったものですから、その辺、こういうふうに2つに分けて、特に経団連の意見書では丙案となっていたので、それだったら乙案でも同じかなという感じがしました。

○山本(敬)座長 後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 民法の考え方がどうかというお話ですので、座長にお話いただくのが一番よろしいと思うのですが、私の考え方ということで話をさせていただきますと、類型論の考え方だと、双務有償契約の場合には703条を適用しないと考えるので、現存利益の範囲で返すということがないということになると思うのです。そうすると、改正民法の立場と現在の民法の類型論、学説の有力な立場は、むしろ結論は同じなのではないかという気がします。

消費者庁の703条に基づくということも、民法の解釈としてはもちろんありますけれども、そこは考え方が分かれていて、一つの考え方によれば、むしろ改正民法と現在の民法の解決というのは変わらないという可能性もあるのではないか、私はそう考えるのですが、何か補っていただけるのでしたらありがたいですが。

○山本(敬)座長 余り学理的な話をここでするのは場違いだろうと思うのですが、既に先ほどの消費者庁の御説明の中でもありましたように、現在の不当利得法の解釈については、かなり議論があるところです。ただ、学説の中では、後藤委員から御紹介いただいたような、いわゆる類型論という考え方がとられていて、現在ではほぼ通説と言ってよいだろうと思います。しかし、学者の世界ではそうなのですけれども、広く実務界まで見ますと、そのような考え方がどこまで浸透しているかといいますと、これはそう簡単ではないだろう。昔から主張されてきた我妻先生などの考え方が実務では生きていると見る余地が十分あります。

そのような状況を踏まえて、現行法ではこうなるのではないかということが示されたのが、この資料の3ページの表1の考え方だと思います。学者から見ますと、これは古い見解であって、もはや過去のものであるということになるかもしれませんが、従来の通説からすると、このようになる。実務界では、このような考え方が生きている可能性があるという前提だったと思います。

ただ、これも御紹介いただきましたように、民法の改正案は、先ほど御紹介いただいた類型論の考え方とほぼ共通しているのではないかと思います。つまり、双務契約をしたけれども、契約は無効で法律上の原因がないわけですから、双方の当事者がそれぞれ給付し合ったものはもとに戻さなければならない。法律上の原因がないわけですから、受け取ったものは返さなければならない。それは、原物がある場合は、その原物を返さないといけないけれども、原物がなくなっている場合でも、その価値を受け取っているので、その価値分はお金にかえて返さなければならない。これが巻戻しの考え方でして、解除について545条という規定がありますが、そこで原状回復と言われているのも同様である。むしろ、それに合わせるような形で、改正案の考え方ができている。例外は、無償契約の場合のほか、意思無能力者と行為無能力者の場合で、受け取ったものを価値も含めて全部返すのではなく、現存利益の範囲で返せば足りるとしたということです。

仮にそのような考え方を前提として、消費者契約にもそれが適用されるとするならば、こうなるだろうということを示したのが、4ページの表2です。これは、考え方が分かれるかもしれませんけれども、審議の過程で出てきた議論と法務省の事務当局が示している説明からすると、恐らくこのようになっているのではないかということだと思います。ここでは、この当否を論じていただきたいと思います。つまり、改正案がそのまま通りますと、表2のようになる可能性がある。それを踏まえて、消費者契約法で本当にそのままでよいかどうかということが、ここでの検討課題だと思います。

もちろん、民法の改正案のもとで、どのような解釈が行われるかということは今後の課題でして、表2のような帰結を全ての場合についてそのまま認めるべきか。それとも、一定の場合には何かそれを限定するような解釈を採用すべきではないかということが解釈論として出てくる可能性はあります。しかし、現時点では、それは開かれている問題でして、表2のようになる可能性があるということを踏まえて、消費者契約法に規定を置くべきか、置くとすれば、どのようなものが望ましいかということを論じていただければと思います。

わかりにくい説明で申しわけありませんでしたが、もし御意見があれば。丸山委員。

○丸山委員 今、説明していただいたところを前提に、いわゆる民法の議論で言うところの類型論に立って、客観的価値というのは原則として返さなければいけないという見解を前提とすると、表2のような処理になる可能性があるので、何らかの手当てをしなければいけないのではないかという問題提起として受け取った場合については、民法に全て任せるというよりは、一定の手当てというのをしたほうがいいのではないかと考えます。

事業者さんのほうから指摘がありますように、確かに取消権の拡大という議論はしているのですけれども、恐らく何の義務違反もないようなケースに取消権が拡大されるということは、消費者契約法の世界ではないのではないかと思いますので、事業者の違法行為を前提とした場合に、そういった利得の押しつけで、消費者が取消しても意味がないといったケースを出さないことを出発点として考えてよいのではないかと思います。

その上で、甲案がいいのか、丙案がいいのかということですけれども、甲案に立った場合に恐らく問題となるのは、消費者が利得しているのではないかと言えるようなケースでも、事業者が何も請求できなくなるような事態、このような事態は恐らく考えられるとは思うのですが、そこを許容してまで取消権の保護を優先すべきかどうかというところがかかわってくるのではないかと思います。個人的には、差し当たり、そういった消費者契約法における取消権保護の必要性、特に錯誤みたいな事例というのは消費者契約法では扱われませんので、そういうことに鑑みて、行為無能力者とは異なりますが、現存利益のところまでにするという提案について一考の余地があるのではないかと思います。

その上で、1つ、考えなければいけないのは、現存利益という言葉を用いた場合は、その現存利益の解釈が恐らく問題となってきます。表1に整理がされていますが、果たして、設例1のような役務が提供されて、履行済みになってしまったような事例で、果たして現存利益はあるのか疑問となります。当該契約がなくても、同種の支出が予定されていた場合は、出費の節約は確かにあるのですけれども、監禁されておよそ要らないようなサービスを受けてしまって、そういった支出は全く予定外だった場合は、現存利益がないとして消費者に返還義務がないといった解釈も恐らくあり得ると思います。ケースに応じて現存利益の解釈で対応するという道もあり得るのかなと思いました。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、石戸谷代理。

○消費者委員会石戸谷委員長代理 ここは、実務界からすると大変重要なところで、一生懸命やって取消したのだけれども、金が返ってこないという事態が生じて、結局意味がないじゃないかということが生じてしまうので、この問題は大変優先度が高い問題だと思っております。

それで、学説のほうでいろいろ論じているというのは承知していますけれども、現在の判例というか、裁判実務の整理としては、消費者庁のほうでまとめていただいたようなとおりだと思っております。現存利益とは何かということを解釈でといっても、諸説がある中で、相談の現場で、諸説と言って、どの説が妥当かみたいなことをやり出していたら収拾がつきませんよ。ですので、ここは明確な形で整理するということがぜひとも必要な論点だと考えております。

その意味では、甲案で行くというのが妥当だと思っています。甲案の場合の論点で、7ページでマル1、マル2とありますけれども、クーリングは有責性といいますか、行為の非難可能性が全然ない場合にも解消するというルールであるのに対して、消費者契約法の取消しというのは違法なものを取消すわけですから、全然その状況が違う。

マル2の論点というのは、これは過量販売解除権を創設する場合に、法定解除権だということで特商法の範囲内における整合性というのを当然考えなきゃいけないので、クーリングのほうも持ってきたのだけれども、取消権となると、当然、消費者契約法の原理原則との関係を考えなきゃいけないので、そこまで踏み込まずということで、場面が全然違う話だと思いますので、消費者契約法の原則というのをきちんと打ち立てるというのが必要だと思っています。

そういう考え方というのは、損害賠償の場面で言うと、損益相殺に関して、708条に関して、最判の20年6月10日と24日に2つの判決が出ておりますので、ああいった考え方とも非常に整合した、妥当な考え方だと思っておりますので、ぜひここは甲案でお願いしたいと思います。

○山本(敬)座長 それでは、後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 私は、甲案を基本的に支持しまして、乙案でも次善の策という感じはしますけれども、今、石戸谷委員長代理のお話を伺っていたら、甲案でいいかなと改めて考えました。

甲案を支持する理由というのは、乙案によると現存利益の返還の部分というのが出てきまして、資料では脱毛の話が出ておりますけれども、例えば美容整形で特に問題なく、満足できる形で顔がきれいになったという場合ですと、そこの部分は現存利益ということになりますので、対価としてその分の代金が取られることになるという、先ほどの消費者庁の課長の説明での問題意識と、そこは全く同じ問題意識でありまして、結局、取消権を行使したことの実質上の意味がなくなってしまうというところが、乙案の難点なのではないかと思います。

こういうふうに考えていきますと、改正民法の場合と結論が異なることになりますので、その正当化根拠というものを積極的に示す必要があるということになろうかと思いますけれども、それにつきましては、消費者が誤認・困惑状態に陥っていると、契約締結に関する消費者の意思決定に問題があり、消費者が自分の意思で決めたというリスクを引き受けたと考えることができない、そういう意味で、消費者に価値の返還を求めることはできないこととなってしかるべきだと考えております。

しかし、そう考えますと、民法の詐欺とか強迫の場合にも誤認・困惑と同じ話が当てはまるということでありますので、そうすると民法の議論との整合性とか接続ということが気になるわけでありますけれども、ここは思い切って、民法の議論がまだ熟していないので、消費者契約法で先取りして適正な解決を示すのだという姿勢をとってもいいのではないかという感じがいたします。

私の書いたものを引用していただいているところがありまして、資料1の2ページの注2で、現行規定としての問題でありますけれども、特定商取引法上のクーリング・オフの規定が同法の過量販売解除の場合に準用されているのに対して、特商法の不実告知ないし不告知に基づく取消しの場合には準用されていないことを理由として、消費者契約法上の誤認取消し等の場合にクーリング・オフの清算規定に準じた扱いをすることには無理があると論じていますけれども、これは現行法を前提とした説明でありまして、改正ということでありますと、消費者契約法と特商法を連動させて、同種の取消しの効果を認めるという形で考えていくということであれば、整合性が図られることになります。

むしろ、そういう形で特商法上の空白のところを消費者契約法に合わせる形で整合性を改正によって図ることができるのではないかと思いますので、そういう意味で改正の議論ということであれば、特商法も射程に入れた上で考えるということがあり得るのではないかと思います。

それから、先ほどの古閑委員のおっしゃったことは非常に重要で、さんざん使った後に取消しをする悪質な消費者を保護しないような方策とセットにする必要があるという問題。これは私もそう思いまして、先ほどの丸山委員の御発言の中にもそういう問題意識が出ていたわけであります。甲案をとったときでも、クーリング・オフと全く同じにする必要は別にないわけでありまして、取消しの場合については、甲案のようなやり方を原則としつつ、取消しをする人が取消権を行使することを認識した後に利得を消滅させたという場合については、その分については返還義務を課すという形の例外規定を甲案に付加すれば対応できるのではないかと思います。

原則的規定を置いて、また例外規定を置くというのは、ややシンプルさに欠けて複雑になるということがあると思いますけれども、甲案をとる以上は、そういう例外規定を入れることが必要だと考えております。

甲案というのはこういうことで支持できるということでありますが、心配なのは、改正民法とのバランスということでありまして、民法改正案ですと、意思無能力者でも現存利益の返還ということになるのに対して、消費者契約とはいえ、誤認・困惑という類型であれば返還しなくていいということになると、民法とのバランスは大きく失することになりますので、ここをどう考えるのかということが悩ましいと思いますが、一つの方向としては、民法の議論がまだ熟していないという言い方をすると、少し過激な言い方になるかもしれませんけれども、そういうことで消費者契約法による対応が必要であると考えるのも一つの方法だと思いますし、あるいはそこはもう少し穏当にと考えるとするならば、改正民法よりは消費者保護的な乙案ということで考えるのも一つの方法だと思います。

そういう意味では、次善の策の乙案ということも考えられるかなと思いまして、乙案をとった上でどういう対応が考えられるかというと、先ほどの御発言で、丸山委員の問題意識と共通していると思ったのですが、現存利益の解釈ということでありまして、先ほどの美容整形などの問題で、整形の結果、きれいな顔が残っているということだと現存利益があることになると思うのですが、例えば英会話学校で英会話がそれなりに上達したということだと、そこが無形な形での現存利益という評価をする可能性はあるものの、全然効果がなかった、英会話の授業を受けても全く上達しなかったということであると、これは現存利益がないことになるのではないかと思います。

そういうふうに考えると、現存利益の考え方で、現存利益がありませんということが結構広く言えるのであれば、乙案というのもあり得るかなと思うのですが、ここについては石戸谷委員長代理が、現存利益の解釈などでやろうとするのはよくないというお話で、そうだなと私も思いました。次善の策の乙案というのは考えたけれども、発言しようかどうか迷ったという状況でして、甲案を支持するというところが今の私の気持ちであります。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

少し前提を確認しておいた方がよいだろうと思うところがあります。それは、資料の8ページのイの最後の段落のなお書きの部分です。乙案による場合でも、現存利益の解釈が問題になるということがここに指摘されています。これは、現在の民法、つまり703条・704条があるだけの状況のもとでは、現存利益の意味は、表1で示されたような意味で解釈されているとしますと、それが今後もそのまま維持されるのか、それとも改正民法121条の2ができた後は、それとは違う可能性が出てくるのではないかということです。

と言いますのは、先ほど少し御説明しましたように、原則として原状回復をしなければならない。ですから、お互いが受け取ったものをお互いに全て返さなければならない。原物としてはなくなっている部分も、価値は受け取ったのだから、金銭にして返さなければならない。それが原則である。ただ、無償契約の場合と制限行為能力者、意思無能力者の場合には、現存利益に限る。これは、現に手元に原物が残っている場合は、それを返さなければならないけれども、それ以上の価値の返還義務を免れさせるための例外規定であると解釈される可能性が十分あります。法務省の事務当局の説明の中でも、そのような可能性があることが指摘されていました。

そうしますと、表3のような形と全く一緒かどうかは、もちろん解釈の余地が残るのですけれども、これと同じような解釈が行われていく可能性がある。ただ、後藤委員が今、問題点を指摘されたのは、従来の表1と同じような現存利益の解釈がされる可能性があるとするならば、やはり問題があるのではないか。少なくとも、そこがどちらになるかわからないような解釈の余地を残すのは、少し不安であるという御指摘だったと思います。

ただ、民法改正に関わった者から見ますと、従来の703条・704条のもとでの現存利益の考え方が、121条の2の現存利益の意味でそのまま残るかと言われれば、そのようなことではなかったのではないかと思いますが、そこはもちろん、解釈に開かれている問題だということです。そのような前提でお考えください。

では、松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 甲案をとる場合の最大の問題は、まさしく後藤委員がおっしゃったとおり、民法との逆転現象が起こるということです。それでもいいのだというのが後藤委員の判断ですけれども、果たしていいのかというところがあります。本来は、民法の改正案できちんと手当てすべきだった問題だと思うのですね。そこをしなかったというところから、こういう問題が出てくる。

何が言いたいかというと、錯誤による無効の場合は、現行法でも今度の改正法案でも、相手方が何をしたかは一切問わなくて、当事者が一方的に勝手に間違えた場合であっても錯誤無効を主張できる。重大な瑕疵さえなければ、不注意に間違えても無効になるということです。そういう場合に、受け取った利益を返さないのはおかしいでしょうと言われれば、それはおかしいのです。だから、今回の改正案、給付利得論に基づく改正案は、そこだけを見れば一貫しているわけだけれども、詐欺で故意にだましてお金を払わせたとか、強迫でナイフを押しつけて何かやったという場合も同じ扱いでいいのかというと、普通に考えたらそうじゃないと大部分の人はおっしゃるはずなのですね。

しかし、そこの区別をしないで無効・取消しを十把一からげにして、ただ行為無能力の場合だけは、もともとの民法に特別の規定があったから、それを残して承継した。無償契約については、また別の議論の流れだったと思うのですけれども、本来は詐欺・強迫のような一方の悪質性が高い場合について、きちんと民法が手当てをしてくれていれば、それを手がかりにして誤認・困惑の場合はどうなのだという議論ができたのだけれども、そこができない状況になっているというところに最大の問題があるのではないかと思っています。

もちろん、解釈で何とかやれるじゃないか。つまり、改正法の解釈に任せる。例えば、悪質性の強い場合については、不法原因給付の理屈を引っ張ってきて、一方は返さなくちゃならないけれども、他方は返さなくてもいいのだという解釈を立てることができれば、ここで言うところの甲案に近い解釈を改正民法の中でもできる。詐欺・強迫の場合には、甲案に近いような解釈を、改正民法の適用において実現するという可能性は開かれてはいると思いますが、はっきりしないところがあります。

そういう前提のもとに、誤認や困惑のタイプについてのみ甲案を導入すると、より悪質性の高い詐欺や強迫の場合と逆転してくる。他方で、消費者契約法の解釈論として、消費者契約法で言うところの誤認は、民法で言うところの詐欺を全部含むのだという解釈をして、原状回復のほうは詐欺の場合でも消費者契約法でカバーする。あるいは、強迫もすべて困惑だと持っていけば、消費者契約に関しては逆転現象は起こらないということになるかもしれないけれども、果たしてそういう解釈ができるのか。とりわけ困惑型についてはなかなか難しいのではないかという気がいたします。

そういうことを考えると、ここであえて逆転現象を起こすような明文の規定を置くのが果たしていいのかどうか。そして、実際の価値判断としても、悪質性が極めて高いわけではないけれども、消費者を取消しという形で救済すべきというタイプの、詐欺・強迫の拡張と呼ばれているところの誤認・困惑において、極めて悪質性の高い場合と同じほどのレベルの救済を、民法と逆転してまで、そこについてだけ与えるのがいいのかというと、若干危惧を感じるところがあります。

民法がきちんと手当てしていればいいのですけれども、そうでない状況下においては、なかなか難しいのではないか。となると、乙案を採用した上で、解釈によって現存利益が実はないのだ、あるいは押しつけ利得論をとるという形で一定の操作をして甲案に近い救済を図るというのが妥当なところではないかという気がいたします。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

大澤委員。

○大澤委員 もしかしたら時間がないのかもしれないので、手短に申し上げますと、私は今、いろいろ伺っていて、いろいろ考えたのですが、乙案を支持したいと思います。

理由は、消費者契約法で甲案を思い切ってとれるのかというのが、個人的には無理があるところもあるのではないかと思ったのが1つの理由です。資料の7ページにクーリング・オフ制度との違いが書いてあって、これに対するさらに反論があるということも、本日、意見を伺っていて、よくわかったのですが、クーリング・オフ制度というのは8日間という非常に短い期間というのがまず1つあります。あと、クーリング・オフ制度の性質をどう見るかというのも、また1つ議論としてあり得ると思うのですが、今の消費者契約法の取消権について、これと同じようにするのは、特に民法との関係もあり、なかなか無理があるかなと思いました。

改正民法で、基本的には原状回復を原則としているということだとすると、これはなおのこと、民法でも例えば錯誤とか、もっと悪質なもので詐欺とか強迫といった事例であっても、意思無能力者とかでない限りは、基本的には原状回復が原則だということになると、そうじゃなくて、消費者契約法では消費者の保護という観点から、甲案のようにするのだというのは、相当議論を詰めないと難しいのではないかと思います。

乙案ということですが、ただし、1つ問題になるのは、現存利益の解釈だと思います。特に、個人的に一番問題だと思っているのは、サービス契約の場合です。物の場合には、手元にあるものということで、それがいわゆる生活費として使ったかどうかという解釈は、また別途あり得ますが、物が手元に残っているということである程度明確ですけれども、役務の場合は現存利益として何が対象になるのかがわからないということになると、結局は受けた分のサービスの値段をということになり得ると思うのですね。

なので、個人的に今、いろいろ意見を伺っていて思ったのは、8ページの下のほうの「なお」のところです。現存利益の解釈ということで、「現物の返還に代えてその客観的価値を金銭で返還する必要までは」ないという解釈もあり得るということが書かれていますが、現存利益の解釈として、こういう解釈をとるのだということを前提とするのであれば、乙案でいいのではないかと個人的には思っています。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見等があれば。特に、甲案の賛成意見及び反対意見のそれぞれの理由はお出しいただいたところですが、乙案については、次善の案であるとか、消極的な賛成の理由が述べられていたほか、解釈に委ねるのが不安であるという問題点が示されていたと思いますけれども、それ以上に積極的な問題点の指摘がもしあれば、お出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。

先ほど、古閑委員は、乙案については何も指摘されませんでしたけれども、乙案についての評価はどのようなものでしょうか。突然お聞きして恐縮ですけれども。

○古閑委員 現存利益の解釈は難しいというところがあったので、積極的に乙案を検討していなかったところではあります。

○山本(敬)座長 ほかに御意見等があれば。

○消費者委員会河上委員長 今の議論を聞いておられた方は恐らくおわかりだと思うのですけれども、法律上の原因がなくなった後の巻き戻しにおけるやり方というのは、原因ごとに考えるべきことが違うし、消費者契約法において一律にその原因を捨象して、完全に全部巻き戻してしまえという議論はなかなか難しいということだろうと思います。

民法の世界での解釈・運用に投げ込んでしまったときのルールの不明確さというのは、ちょっと耐えがたい部分があります。消費者契約法の世界では、せめてこれまでの現存利益についての議論を確定しておいて、あとは現存利益の解釈の中で、消費者庁のコンメンタール等で、こういう場合は現存利益はないと考えられるということで基準を少しずつ明確化していくということであれば、乙案と甲案でも比較的調整はとれるのではないかという気がしているのです。その辺は、甲案の支持派の方はどういうふうにお考えなのでしょうか。

○山本(敬)座長 もしよろしければと思いますが、山本健司委員。

○山本(健)委員 理論的にはいろいろな難しい議論があるということは理解しております。けれども、典型事例の具体的な結論として、もし仮に今回の設例1-1のように監禁してサービスを提供したという事例で、契約を取り消したとしても対価を支払わなければいけないとか、もし仮に不実告知で物品を販売して、その場でちょっと試してみませんかということでパッケージをあけさせて使用させたという事例で、契約を取り消されてもその分のお金を取れるといったことになれば、違法勧誘行為が全くやり得になってしまうのではないか、むしろやらないと損といったことになってしまうのではないかと思うのです。このような結論は非常によくないことですし、あってはならないと思います。不当勧誘行為による利益や対価の請求はできないとしなければいけないと思います。

そのための方策として、甲案がいいのか、乙案の修正案がいいのかは議論の余地があるとしても、今、申し上げたような結論を許すことはあってはならないと思います。

なお、今回の資料1の18ページに、日弁連改正試案の第21条2項を掲載して頂いております。これは、「前項の場合において、事業者が行った行為の態様、消費者が受けた不利益の内容及び程度、当該消費者契約の性質及び内容等を総合考慮して、信義誠実の原則に反すると認められる場合には、当該事業者は、当該消費者に対し、利益の全部又は一部について返還を請求することができない。」という条文例で、事案によって柔軟に対応できるような規定の在り方も考えられるのではないかという立法提案です。一つのアイデアということでご紹介申し上げます。

いずれにせよ、少なくとも先ほど申し上げたような不正義な結論が許されないような法制度にする必要があると思います。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。さまざまな観点から御議論いただきまして、ありがとうございました。

先ほど松本理事長から御指摘がありましたけれども、改正民法121条の2が実際に法律になったとした後、どうなるかということですけれども、御指摘のあった詐欺・強迫による取消しの場合にも、双方について、表2のような原状回復を本当に認めるべきかどうかということは、今後大きな問題になるだろうと思います。もちろん、審議の過程でもさまざまな議論をし、いろいろ考えた結果、条文の形で明確に規定するのが難しいとして解釈に委ねられたわけですけれども、それは、この表2のままで本当によいという決定をしたわけではなくて、解釈に委ねるということだったと思います。その意味では、詐欺・強迫を中心として、今後どのように解釈するかということが議論されていくだろうと思います。

ただ、消費者契約法による取消しの場合についてどうなのかということを、民法の解釈の中で論じることになりますと、非常に大変になると思います。特に、規定の上では原状回復が原則になっていて、その例外が無償契約の場合と制限行為能力と意思無能力の場合となっていますので、そこで、例えば消費者契約法による取消しの場合に、例外的に現存利益の範囲に限定するという解釈を実際にしようとしますと、相当に理由づけを要することになるだろうと予想されます。

その意味では、民法の解釈の負担を軽くしていただきたいという観点からは、何らかの形で、消費者契約法において方針が決められることが望ましいということは、私自身、かねてからそう思ってきたところでありますけれども、実際にどのように規定することができるかということが一番大きな問題です。その点については、今日、たくさん御議論いただきましたので、それを踏まえて、さらに案を詰めた上で、次回改めて検討していただくということでよろしいでしょうか。

松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 民法の負担を減らすために消費者契約法で明確なルールをつくりましょう。それはそれでいいのですが、今度は消費者契約法の解釈として、現存利益は何ぞやという非常に大きな負担を負わされるということになるのが事実なのです。それで、先ほどちょっと例が出ましたエステとか美容とかで、美しくならなかったのだから現存利益はないという理屈が通るのかというと、通らないのではないかと思います。というのは、美しくならなかったからということを持ち出せるのであれば、それは美しくするという債務の不履行だから、解除してお金を全額返還してもらってもいいのではないか。つまり、契約の内容がそうであればということで、普通、エステや美容というのは、はっきりと美しくしますという約束などしないと思います。

そういう中で、現存利益のところだけで美しくなったかどうかを問題にするというのは、すごく難しいし、主観的な判断が入るから大変だと思います。このようにサービスの場合の現存利益というのは、本当に評価が難しいところがあって、個人的には、押しつけ利得論をうまく使えばという気もするのですけれども、どういう場合を押しつけと評価するのか、大変難しいところがあります。

そう考えると、先ほど日弁連の改定試案として提案された、いろいろな事情を考慮した上で利益の全部または一部について返還請求することができないというのは、いい案じゃないかなという気がいたしまして、これが入れば現存利益についての難しい議論を少し曖昧にして、裁判官の判断で一定の救済ができるということになるのではないかという気がいたします。

○山本(敬)座長 ありがとうございます。

後藤委員。

○後藤(準)委員 先ほども申し上げましたけれども、民法が改正される方向が、例えばこちらで改正したものと逆方向に結果としてなると、現場は混乱する。同じ解釈がきちんと成り立つようであればいいのですが、民法で定めた内容と、こちらの消費者契約法で規定した内容がきちんと整合性がとれていればいいのですが、それがなっていないと現場は非常に混乱するということだけ申し上げたい。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

規定するとすれば、消費者契約の場合にはこのようにするというルールを定めることになるだろうと思います。したがって、その限りでは明らかに民法の特則ですので、消費者契約法によるということになると思います。ただ、危惧されているのは、仮に乙案によりますと、現存利益という言葉が書かれることになると思いますけれども、その意味をどう解釈するかが問題になるということではないかと思います。

これは、松本理事長の御指摘に対して確認する必要があるのですけれども、現存利益という言葉は民法121条の2の中にも例外として出てくるわけです。民法で言う現存利益の意味と、消費者契約法で乙案による場合の現存利益の意味が違ってくるということになりますと、これは大変なことでして、統一して解釈しないと、混乱するだろうと思います。ですので、消費者契約法の負担というよりは、民法121条の2でも明らかにしなければならないことでして、そこは統一して、その意味内容を明らかにすることが、今後、いずれにせよ解釈の問題としては重要になってくると思います。少なくとも不整合を来すことは、あってはならないと思います。

松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 おっしゃるとおりで、従来の民法にも現存利益という言葉があったのだけれども、適用される場面が大変限定されていたのが、今回、消費者契約法でこういう文言が入ると、もともと民法の概念なのだけれども、消費者契約法の世界において、もっと使われるようになって、しかも評価の難しいサービスについて、紛争がいっぱい出てくるだろうということから、消費者契約法の解釈として争われるケースが多くなるのだろう。それは、同時に民法の解釈を豊富にするということでもあると思いますから、その限りでは、座長の御意見と一緒でございます。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

では、次回に向けて、さらに検討を進めていただければと思います。

≪3.不当条項に関する規律(3)(不当条項の類型の追加)≫

○山本(敬)座長 続きまして、「不当条項の類型の追加」についての検討に移りたいと思います。

この点については、マル5からマル7の各論がありますが、全体についてあわせて消費者庁から御説明いただいて、その後、意見交換を行っていきたいと思います。では、消費者庁のほうから説明をお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 それでは、不当条項類型の追加、19ページであります。

今回、幾つか追加的に取り上げておりますけれども、その1つ目がいわゆるサルベージ条項と言われるものであります。これはどういうものかということで、事例を2-5-1、2-5-2という形でおつけしておりますけれども、例えば2-5-1というのをごらんいただきますと、利用契約にこういうものがあったということでありまして、消費者に対して、これらの広告宣伝物や情報提供などについて、法律で許容される範囲内において一切の責任を負わないものとしますという条項であります。

また後ほど触れますが、一切の責任を負わないというのは、本来、全部免責条項ということで、消費者契約法の規定により、無効となってしかるべきものと思いますが、法律で許容される範囲内においてという修飾語が一言入るということでありまして、そういうことにより、本来無効となるべきものが、一見有効になったかのように見えるというものかと思います。

それから、2-5-2でありますけれども、それが解釈という形であらわれてまいりまして、利用契約にこういうものがあったということでありますが、裁判所において、規定が無効または執行不能とされた場合には、その規定は「有効かつ執行可能となるために必要な限度において限定的に解釈されるもものとします」ということでありまして、その規定の解釈について、限定的に解釈される。その限りにおいて、本来無効なものが有効になるということを効果として生じさせるということかと思います。

19ページの下のあたりに書いておりますが、先ほどの2-5-1に即して申し上げますと、本来、消費者契約法8条の規定によって全部無効となるはずの条項だと思いますが、それについて、こういった修飾語をかけるということで、一見有効になっているかのような見え方がされるものであります。

こういった条項について、19ページの下から書いておりますけれども、これが文字どおり有効だということになりますと、本来は一切負わないというのは、消費者契約法の規定により全部無効とされるべきものでありますが、そういった条項であるにもかかわらず、20ページの上のほうに書いていますけれども、無効とされない範囲でということで、一部無効にとどめるということを可能とするという機能を有するものだと思いまして、そういう意味で、この条項の意味が不明確になってしまうという形で、言うならば、本来は8条で無効になるべきものが有効に見えるということで、脱法的に機能するおそれがある条項ではないかと思います。

そうしますと、この条項がそのまま流布されますと、消費者に対しては、どこが無効なのかということを明らかにしない限りは、この規定でよいのだという取り扱いでありますとか、その無効の範囲が最終的に裁判所によって確定されない限りは、この規定で取り扱いがされるかもしれないということでありまして、結果的にこの条項をそのまま文字どおり、一切責任を負わないという形で、消費者がその条項に従ってしまう。

あるいは、事業者側が法律で許容される範囲内においてということを書きさえすれば、一切責任を負わないという規定でもいいのだということになりますと、本来、消費者契約法の規定にのっとった条項でなくてはならないところ、そうでなくてもいいという条項をつくってしまうという、インセンティブを削ぐという問題点もあるのではないかということでありまして、問題はあり得るのではないかと思うところであります。

諸外国の例では、これを明示的に不当条項としたものは見当たらないところでありますけれども、ドイツ法においては、いわゆるサルベージ条項、本来、無効とされて沈没していたものを浮上させる条項だということで、無効という解釈がされているようであります。こういったものについて、消費者契約法の中でどう検討するかということであります。以上がマル5であります。

22ページ、マル6消費貸借契約における目的別交付前の解除に伴う損害賠償というところであります。

こちらも改正民法との関係を踏まえる必要があります。32ページをごらんいただきますと、改正民法において、消費貸借契約について一定の手当てがされております。現行では、いわゆる要物契約ということで、物が引き渡されない限り契約は成立しないということかと思いますけれども、諾成的に消費貸借契約の成立を認めるということでありまして、その場合に物が交付される前に解除することができる。改正法587条の2の第2項でありますけれども、そういうことを認めつつ、その場合において、貸主は、解除によって損害を受けたときには、借主に関し、損害賠償の請求をすることができるという規定が設けられております。

これは、貸主のほうがさまざまな手間暇を講じたということで、それによって損害をこうむった場合には損害賠償をすることができるという、現行の規律でも認められているところを明確化したものであると説明されておりますが、そういった規定が設けられるということであります。

ついでに、591条というのがその次の期限前弁済という論点であります。これにつきましても、期限前の弁済をすることができるとしつつ、第3項でありますが、借主がその期限前に返還した、弁済したということで、貸主が損害を受けたときには、借主に対して、その賠償を請求することができるという趣旨の規定が設けられております。

これも、その下に136条の期限の利益の放棄というところがありまして、債務者が期限の利益を交付して、相手方によって利益を害することができないということで、認められる損害賠償請求というものを明確化したという説明がされているところでありますけれども、今般の民法改正においては、この目的物交付前の解除に伴う損害賠償、それから期限前に弁済された場合の損害賠償、それぞれ明確化する、明文化するということで規律が設けられているところであります。

それで、22ページに戻っていただきますと、これについて問題点が指摘されているところであります。2-6-1という事例を1つ御紹介しておりますが、たくさんの借金があるということで、一括して借りかえるということかと思います。別の業者から350万円借りるということですが、その際、業者から差し当たり、返済額に当たる23万円をまず支払ってくださいということを言われて支払った。さらに、追加で23万円支払ってくださいという形で追加の支払いを求められ、それについては困りますということで断った場合に、違約金ということで貸金350万円の30%を支払うことが求められた事例があるということで、御紹介させていただいております。

22ページから23ページにかけましては、今、御紹介しました民法の規定について書いておりますが、23ページのイ、こういった場合を主に念頭に置いているということかと思いますが、指摘としましては、(i)、(ii)に書いておりますけれども、諾成的消費貸借において解除権を認めるとしつつも、損害賠償請求を他方でできるということになると、その解除権の実効性を失うのではないかということでありますとか、(ii)は、事業者の履行利益を賠償するのが当然という実務慣行が生じることによって、悪質業者の濫用のおそれが指摘されているところであります。

それについてどうするかということで、24ページから考え方ということで、ア、イと書いております。

1つは、借主に対する損害賠償請求をすることはできないという立法提案もあるところであります。他方で、こういった民法の規定が設けられることによる弊害といいますか、懸念が実際どの程度かというところを見きわめる必要があるのではないかと思われるところでありまして、アにはその旨を書いております。

それから、イの損害賠償予定条項につきましては、現行法の関係で申し上げますと、消費者契約法の9条1号によりまして、平均的損害額を超えるところについては無効となる手当てが講じられておりますので、それを超えて無効とする規律を設ける必要があるかどうかというところかと思います。これも、そこまでしなければならないようなおそれ、弊害があるかというところに議論が帰着するのではないかと思います。

それから、26ページのマル7期限前弁済に伴う損害賠償というところで、先ほど先走って改正民法の規律を御紹介いたしました。これにつきましては、マル6と異なりまして裁判例がございます。事例2-7-1と2-7-2ということで御紹介しております。

2-7-1は、消費者契約法施行前の事案でありますけれども、早期の返済に伴う利息が、最終完済の約定利息をそのまま支払うと非常に高利になるということで、公序良俗無効と判断された事例であります。

2-7-2は、早期弁済の場合の一定額の違約金の負担という条項があったということでありますが、これにつきまして、その返済時期においては約定利率を超える利息、あるいは利息制限法所定の利率を超える利息を違約金で取るということでありまして、消費者契約法10条に照らしまして、適格団体による差止請求が認められた事案であります。

26ページから27ページにつきましては、今、申し上げたような事例の御紹介をしております。

28ページ、それについてどう考えるかということであります。

まず、ア、損害賠償請求を民法で今回規定するわけでありますけれども、その規定による弊害。先ほど、目的物交付前の解除に伴う損害賠償について申し上げたのと同じ問題意識でありますけれども、そういう弊害についてどう考えるか。そういうものがあるのであれば、手当てを検討する必要があると思いますけれども、まずそこを検討する必要があるだろうと思います。

それから、損害賠償を予定する条項につきましては、裁判例がありますので、それを踏まえて検討するということもあり得ると思います。実際、どういうふうにするかということにつきましては、29ページの「この点について」というところであります。

1つは、消費者契約法9条1号、これは解除に伴う損害賠償の予定条項に関して、平均的損害額を超える部分は無効とするという規律でありますけれども、それを参考にいたしまして、同じように平均的損害額を超える部分については無効とするといった手当てを講じることが考えられるのではないかということで書いております。

他方で、現行法の10条によって個別具体的な事情も考慮しながら考えるということもあろうかと思いますので、29ページの(イ)でそういうことを書いております。

御説明は以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明の内容を受けまして議論を行いたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。山本健司委員。

○山本(健)委員 御説明いただきまして、ありがとうございました。資料3の2ページ以下を引用させていただきながら意見を述べたいと思います。

まず、「マル5サルベージ条項」の問題につきましては、サルベージ条項を不当条項とする規定を設けることに賛成いたします。

以下、理由です。

このような契約条項は、事業者が強行法規に違反しない限界まで権利を拡張し義務を免れ得ることを内容としているものであり、仮にかかる契約条項を有効とすれば、事業者は消費者に対して、消費者契約の条項が強行法規によりどこから無効なのかを示すよう迫り得ることにもなりかねません。また、適正な内容での契約条項の策定へのインセンティブが事業者に働かないという問題や、不当条項が「法律の範囲内で」といったワンフレーズを入れただけで放置されるのでは、何も言わない消費者、法律の知識のない消費者には、不当条項がそのまま適用されることになるという問題があると思います。さらに、問題意識を持った消費者においても、結果的に無効の主張をあきらめ、泣き寝入りすることにもなりかねません。サルベージ条項については、現実的な弊害ないし、その危険性が著しく、消費者の利益を不当に害する契約条項として無効とすべきと考えます。

次に、「マル6消費貸借における目的物交付前の解除に伴う損害賠償」の問題につきましては、このような場合の損害賠償に関する消費者特則を設けるという考え方に賛成いたします。

具体的な対応としては、資料3の3ページに書かせていただきました日弁連試案第24条2項、3項のような規定、具体的には、「借主は、前項の規定による解除がなされた場合、消費者である借主に対し、これに基づく損害賠償請求をすることができない」という原則規定を定めた上で、一定の合理的な理由がある場合に例外を許容するという対応があり得ると思います。

また、今回、別案として、最も問題となるのが利息金であることに鑑み、かつ、1文で書きおろした形式で、もう1つの条文例を付記させていただいております。「貸主が事業者で借主が消費者である書面でする消費貸借契約について、事業者から金銭その他のものを受け取るまでに消費者が契約の解除をした場合、事業者は、消費者に対し、合意していた利息ないし利息相当金を、その契約の解除によって受けた損害として賠償請求することはできない」という条文例です。このような規定の在り方もあり得るのではないかと思います。

以下、理由です。

改正民法においては、諾成的消費貸借契約において、借主の目的物交付前の解除権行使によって貸主に損害が生じたときは、借主に賠償を請求できると定めることになっております。

しかし、消費貸借は有用性を有する契約である反面、同時に大きな危険を内在する契約であります。商工ローン問題やサラ金問題などで顕著なように、立場の弱い借主を貸主の高利収受から保護する視点が必要であると思います。この点、消費者である借主が目的物交付前に解除したときに、借主は約定利息金など事業者の履行利益を賠償するのが当然であるといった誤った実務や悪質な業者による濫用的な運用を防ぐ必要があると思います。

また、消費者金融の場面を想定すると、貸主である消費者金融業者は一般に多数の小口貸付けを行っているため、借主が受領を拒否した金銭を他の顧客に対する貸付けに振り向けること等によって特段の損害が生じないことも多いと思います。少なくとも消費者金融の場面においては、借主の損害賠償義務を観念するのは相当ではないと思います。

さらに、期限前弁済時に約定の返還期間までに生ずべきであった利息相当額を支払うという条項(早期完済条項)について、消費者契約法10条や公序良俗違反として無効とされている裁判例がありますところ、借入れから返還までの期間が0日である目的物交付前解除の場合には、利息相当額の損害賠償請求を否定すべき必要性・相当性はより高いと思います。

そこで、消費者を借主、事業者を貸主とする消費貸借契約については、消費者である借主の目的物交付前の契約解除が、損害賠償の負担によって困難ないし無意味にならないような特則規定を設けるべきであると考えます。

具体的な対応につきましては、この問題は、民法の解釈に委ねられた損害賠償請求権の存否・範囲という問題、契約の定めの有無にかかわらない問題であると思います。その点、民法の原則的な権利義務関係からの契約条項の乖離を重要な判断要素の一つとする消費者契約法10条等の不当条項規定によってこの問題を適切に規律することができるのかは、不透明であると思います。その意味で、この問題に関する消費者特則は、10条などの不当条項規制に委ねるのではなく、民法の例外規定として明文で規定すべきであると考えます。

具体的には、先ほど申し上げましたような規定例などが考えられると思います。規定例の再度のご紹介は省略させていただきます。

最後に、「マル7の消費貸借における期限前弁済に伴う損害賠償」の問題でございます。意見としては、消費者である借主が事業者である貸主に期限前弁済をした場合の、損害賠償に関する消費者特則を設けるべきであるという考え方に賛成いたします。

具体的な対応としては、資料3の4ページに紹介させていただきました日弁連試案第25条2項、3項のような規定が考えられると思います。規定内容につきましては、先ほどの目的物交付前解除の問題における日弁連試案の規定内容と類似しておりますので、読み上げるのは省略させていただきます。

また、ここでも別案として、「期限前弁済の場合に弁済日以降の利息ないし利息相当金を期限前弁済によって受けた損害として賠償請求することはできない」という規定例も考えられることから、付記させていただいております。

以下、理由です。先ほどの目的物交付前解除の問題における理由とほぼオーバーラップいたしますので、読み上げるのは省略させていただきますけれども、目的物交付前解除の問題と同じく、期限前弁済した後の金利を損害として認めることは否定すべきと考えます。

また、実際上も、健全な金融機関では、個人の住宅ローン等の期限前弁済時に将来金利の損害賠償などはなされていない例が多いと聞いております。したがって、事業活動に対する大きな悪影響もないのではないかと考えております。

具体的な対応としては、先ほどの目的物交付前解除の問題と同じように、この問題に関する固有の消費者特則を明文で規定すべきと考えます。

具体的な規定例としては、先ほども御紹介させていただきました、資料3の4ページ部分に書かせていただきましたような条文案が考えられると思います。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

それでは、ほかに御意見等があればと思いますが、いかがでしょうか。井田委員。

○井田委員 私は、まずサルベージ条項についてのみ、マル5についてのみ述べさせていただきますが、結論としては、今、山本健司委員の述べられたことと同じです。不当条項として規定することに賛成です。

理由も山本健司委員が述べられたこととほぼ同じですが、適格消費者団体の実務においても、ある団体が2-5-1のような条項に関して申し入れをしたという例もございます。私たちが団体の業務で調査する限りは、2-5-1とか2-5-2というのは、日本だけではなくて、世界的に事業をやっていらっしゃるような事業者さんが往々にして用いられる傾向があるなと理解しております。だから、世界のどこでも通用するようにという趣旨で使われているのだろうと思いますけれども、日本で事業をするということになると、日本の法令とかもきちんと調べた上で条項をつくってもらいたいというのもありますので、このような条項は不当条項であると明示するのには非常に意味があると思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ほかに御意見がありましたら。河野委員。

○河野委員 まず、マル5のサルベージ条項ですけれども、いわゆるサルベージ条項を不当条項とする方向での検討をお願いしたいと思っています。事務局から2つの事例が示されていますが、この2つの事例を読んでも、消費者側はこの契約で何を示されているのかが本当によくわかりません。事例2-5-1であれば、法律で許容される範囲で、事業者が一切責任を負わない範囲を消費者が想定することはほとんど無理だと思います。

また、約款の条項というのは、予見可能性とか後日の無用なトラブルを避けるためなどにおいて、具体性や明確性が求められるところですけれども、このサルベージ条項と呼ばれるものは、内容の明確性という観点からも問題があると思います。ぜひ不当条項とする方向で検討をお願いしたいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見等がありましたら。古閑委員。

○古閑委員 まず、マル5のサルベージ条項ですけれども、これはほかの事業者さんからも結構声が挙がっていたところで、今、消費者庁さんに御説明いただいた内容は、理論的にはすごくよくわかるところでありますけれども、具体的にどういう事情のもと、どのように困っている消費者の事例があったのか、それはどの程度あるのかというのが明確に示されていない中、立法事実がわからないというところだと思います。

この条項というのは、一般的には、そもそも強行規定と任意規定のメルクマールがわかりづらいとか、裁判例が変わることによって、解釈上、今まで有効だったものが無効になる、逆もあることがある中、それを全て把握して、直ちに契約なり約款なりに反映させるというのは、事実上できないので、そのときのために入れてあったり、実務上の事情があって入れているものです。これが本当にだめだということだとすると実務上は困ることになるので、それはどの程度立法事実があるのかということとのバランスだと思っております。どの程度困っている人たちが、どうしてそういうことになるのかという事実をもうちょっと出していただきたいというところでございます。

それから、マル6とマル7に関しては、ほかのものに比べると不当条項としてピンポイント過ぎるので、業法等で済まないのかというのが1つと、それから、この事例自体は相当悪質なものなので、確かにそうかなという感じもするのですけれども、とはいえ、正当に金銭消費貸借をやっている事業者さんというのは世の中に幾らでもあるわけでして、そういったところが、こういったケースで、どういう事情で、どうして損害が生じるのかというのを丁寧に調査して、それを一律に賠償請求できないという制度が本当に合理的と言えるのかどうか。どういった損害が生じているのかというのを、もうちょっと丁寧に調査していただく必要があるかと思いました。

以上です。

○山本(敬)座長 よろしいですか。

では、ほかに。大澤委員。

○大澤委員 マル5、マル6、マル7、まとめて申し上げたいと思いますが、まず前提として、このマル5、マル6、マル7と、前回出された不当条項リストの例を今回検討されているということで、それは必要性が特にあるものということで列挙されているとか、そういう事情は重々承知しておりますが、あえて申し上げますと、前回挙げたもののほうがもうちょっと一般的な適用場面が想定されていたと思いますが、マル5はともかく、マル6、マル7というのは、今回、消費貸借の場合に限定されているというところが1つあるので、これを不当条項リストとして設けることに対する若干の違和感が正直言ってあります。

それが前提ですが、その上で申し上げますと、まずマル5につきましては、これは確かに事例2-5-1とか2-5-2のような条項があって、こういう必要性があるというのはわかりますし、海外でも、例えばドイツで、一般条項とはいえ無効にされているというのもよく承知しています。ただ、サルベージ条項の不当性がどこにあるのかなというのを考えてみたときに、先ほど河野委員もおっしゃっていたと思うのですが、これは消費者から見て、一体何を言っているのかわかりにくいというか、法律で許容される範囲においてというところがとりわけ非常に不明確であるというところだと思います。

というのは、この情報の内容とか情報で想定されているものがそもそもわかりにくいという話と、今回、不当条項リストの中で検討されている条項の内容として、そもそも不当であるというのが果たして同じなのかと思っていまして、その条項が不明確でわかりにくいという問題は、本専門調査会でも別途、その条項の不明確性とか解釈のところで問題にされていますので、この不当条項リストとして入れることが果たして妥当なのか、それとも解釈とか条項の明確さを要求するというところで、こういうルールを一筆書くのと、どっちがいいのかというのは、これは検討する必要があるのではないかというのが個人的な意見です。

マル6とマル7ですが、まずマル6につきましては、確かにこれも実務上、問題があるということは、いろいろお話を伺っていますので、それは非常によくわかるのですが、その上で1つ申し上げますと、特にマル6のマルa、貸主は借主に対して、契約解除によって受けた賠償を請求することができない、損害賠償を一切請求できないという規定を、消費貸借限定とはいえ、設けるということがどのように正当化できるかというのが、理論的には非常に気になります。実務上の必要性があるというのは重々承知していますけれどもね。

仮に本当にそうであるとすれば、これは今さらこういうことを言っても仕方がないのですが、消費貸借の規定とか貸金業法とか、そちらのほうで、本来だったら、仮に賠償は請求できないというルールを設けるのであれば、それは本来そこでやるべき話なのではないかと思っていまして、そこでできていない手当てというのを、しかも不当条項リストとして設けるというのが、個人的には違和感があります。

あり得る対応とすれば、マルbかなと思っています。今の解釈・適用にそのまま委ねるというのは非常に乱暴ですので、折衷案としては、例えば賠償として事務手数料とか、実際に生じた損害しか取れない。平均的損害という言葉を使うかどうかも一考を要しますが、そういうやり方ならまだあり得るかなと思うのですが、マルaのように賠償を一切取れないというのを、しかも消費貸借のときに限定して、しかも不当条項リストで設けることが、基本的に果たして正当化されるのかというのが気になります。

マル7のほうが、必要性としてはまだよくわかる場面だなと思っています。期限前弁済をしたときに、結局、事例2-7-1、2-7-2が出ていますけれども、実質的に非常に高利な金額を取られるというのが現に見られるところですので、こちらのほうは対処の必要性があるのではないかと個人的には思っています。では、どうすべきなのかというのは、まだ迷っているところですが、今回のマル5、マル6、マル7で言うと、不当条項リストとして設けるときに考えられるのはマル7かなと考えています。ただ、それにしても、今回の不当条項リストの候補で挙がっている中で、マル7のような消費貸借に特化したものだけを設けるということに対する違和感は、正直言って拭えません。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見等がありましたら。増田委員。

○増田委員 サルベージ条項に関しましては、消費者にとってわかりにくいという点からも、不当条項と規定することに賛成いたします。現在、こういう条項がどの程度あるのかということは、私も承知しておりませんけれども、こういうことがあり得るということで、今後、悪質な事業者がこういう条項を活用するということはたやすく想定されますし、1つの事業者が始めれば、それがすぐに広まるということは過去にもよくありましたので、懸念があるということをお伝えしたいと思います。

それから、マル6、マル7に関しまして、特にマル6については損害が想定しにくい。例えば書面作成料、何十円か何百円かわかりませんけれども、その程度の損害があったのかなという程度だと思います。

多重債務を国を挙げて解決してきたわけで、やっと相談が減少しました。それまでは非常に数が多く、上位に入る御相談件数だったと思います。それをやっと解決して減少した中で、こういうことを認めますと、借りないという選択がしにくくなると思いますので、ぜひとも不当だということで入れていただきたいと思います。

○山本(敬)座長 それでは、丸山委員。

○丸山委員 まず、サルベージ条項に関してですが、こういう種類の条項に問題があるという点は消費者庁の解説で説明されたとおりで理解できるところですけれども、ほかの委員からも既に指摘がありましたように、大澤委員のように不明確条項の準則との関係で対応できないのかという点であるとか。あと、実際の現場でこの種の条項というのが、どれだけ困る条項として現在問題とされているのかという資料が不足しているのではないかという、古閑委員の意見についても共感できるところがありましたので、そういった資料がもう少し出てくることが望ましいのではないかと思いました。サルベージ条項に関しては、以上です。

次に、マル6とマル7の条項について、少々述べさせていただければと思います。

マル6の条項に関しては、大澤委員と同じような感触を持っておりまして、恐らく理論的に考えると、損害がゼロのケースばかりではなくて、損害が生じるケース、資金調達を既にしてしまっているようなケースなども想定すると、常に損害はゼロではないような気がいたします。そこで、しかしながら、貸金業の現実の問題状況というのに鑑みて、あえてできないという政策的な判断のもとに何らかの立法というのをするのであれば、これは消費者契約法でやるべきことなのかどうかという点については、やはり疑問があるところでございます。

もう一つの期限前弁済に対する損害賠償ですけれども、恐らく現行法でも消費者契約法10条あるいは9条1号が問題となる面と似ているので、9条1号の類推みたいな形での対応は、私自身考えられるのかなと思っておりました。

問題となるのは、消費貸借契約に限っての規律で不当条項規制という形で設けるとすると、恐らく消費貸借契約類型には厳密に言うと当てはまらないような立て替え払い契約とか、その他の支払い猶予における早期完済条項というのは、また別途対応しなければいけない。そういった問題が出てくるのではないかと思います。

そうであれば、むしろ9条1号には契約の解除と書いてしまっておりますが、それを広く、期限前弁済なども含められるような形で9条1号の改正というのを検討してはいかがでしょうか。さらに平均的な損害も解釈が難しいという議論をしているところでございますけれども、確かに約定していた利息そのものが丸ごと損害になるというのは行き過ぎでございますので、そういったことにはならないということを示すような平均的な損害の考え方の詳細化を、条文や解説で対応していく方向性が、むしろよいのではないかといった感想を持ちました。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ほかに御意見がありましたら。では、松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 サルベージ条項については、若干理屈っぽい話になりますが、一つの契約条項の全部無効か一部無効かという話と密接に関連しているという印象を持っておりまして、山本座長はこの分野の専門家ですから、後でお話ししていただければいいのですが。すなわち、ここで出ている条項は、とりあえずがばっと全て責任を負わないとしておいて、しかし、裁判所がだめだと言った場合は、そこは無効になるかもしれないけれども、ほかは有効で生き残るのですという、全部無効にはならなくて、一部無効にとどまる。裁判所がだめだと言った部分だけ無効になります、残りは生き残りますという一部無効、一部有効論的な条文なのです。

そして、そのようなことをする理由が、事業者側としてどういう場合なら裁判所が免責を許してくれるのか、許してくれないのかわからないから、投網を打ったのだということで、それで事実上の一部無効論、一部有効論、最大限の一部有効論をとっているということなのでしょうが、そうであれば、もう少し限定して、この場合には私は責任を負いませんという条文を立ててみる。そこで、そういう場合に、裁判所が全部無効論をとるという考えだとすると、事業者が引いた線が間違っていれば、免責が一切認められないことになってしまうから、それは事業者としてリスクが高いから、こういう投網を打つという条文の立て方をすることになる。

となると、もう一度もとに戻って、一定の条項が不当な場合に全部無効になるという考え方自体を再検討したほうがいいのかもしれないという印象を持っておりますので、山本座長、どうぞ後はよろしくお願いします。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

前提だけは明らかにしておいたほうがよいだろうと思います。どのような場面が問題になっているかといいますと、これは消費者契約法ができる前の場合としてお考えいただければと思いますが、例えば契約において、「債務不履行があっても一切責任を負いません」という免責条項を定めていた場合に、条項が全部無効になるのか。それとも、「過失があっても責任を負いません」、「故意や重過失があっても責任を負いません」ということがこの「一切責任を負いません」という中には含まれているのであって、そのうち、「故意や重過失がある場合に責任を負いません」というのは、当時でも、公序良俗違反で無効である、少なくとも故意の場合はそう考えられていました。しかし、「過失があっても責任を負いません」というのは、有効と考えられていましたので、この「一切責任を負いません」という条項のうち、「過失による場合は責任を負いません」という部分は有効なものとして残る。それ以外は無効にする。つまり、このような場合は、一部の無効だけになるのか。それとも、「一切責任を負いません」という定め方をすれば、それは全部無効になるのか。全部無効になりますと、民法の任意規定が適用されますので、この場合ですと、415条が適用されて、過失があれば責任を負うということになる。このように、条項のうち一部分が不当な内容を含んでいる場合に、不当な部分だけ無効になるのか、それとも全部無効になるのかという問題があります。

このサルベージ条項は、放っておくとそれで全部無効になると考えられる場合に、全部無効にされると困るので、法律上許される範囲内で有効にしてもらうということを可能にしようという条項です。したがって、古閑委員の御指摘に対しては、これは本来、全部無効にされる場合であるという前提のもとで、このサルベージ条項が使用されたときに、それは不当条項として、効力を認めるべきではないかどうかという問題であるということができます。

余りわかりやすいと思えない説明で恐縮ですけれども、松本理事長が言われましたように、前提として、条項の一部が不当な場合に、その条項が全部無効になるのかどうかという問題があり、それによると全部無効になるという前提のもとで、この議論であるということだけは確認しておいたほうがよいだろうと思います。

河上委員長、補足をよろしくお願いします。

○消費者委員会河上委員長 このサルベージ条項に関して、私の書いた部分がかなり引用されていて参考にしていただいているので、少し補足いたします。

実は、「横断的検討」という、かつて消費者庁のほうでやった研究で、段ボール2箱ぐらいの約款のコピーを読まされました。その中でいろいろな条項があったのですが、特徴的な条項の一つにこのサルベージ条項がありました。読んでいくと、法が許容する範囲で私は責任を負いませんということをしきりに書いているのですけれども、それが結果的に見ると、法律によってどこまで顧客が保護されているのかということの判断をしないと、顧客はその内容が見えないという意味で、ある意味ではさっきの不明確準則などに近い問題なのかもしれないのです。要は表現方法の問題だと言ってしまえばそれだけになってしまうかもしれない。

ただ、ドイツなどで10条の解釈論をしているときに、10条を脱法する効果を持っている条項として、これが取り上げられていて、こういう形で脱法することは、事業者の、よりよい条項をつくろうとするインセンティブを削ぐということで、そういうことは好ましくないとされています。

もう一つ、こういう条項が仮に入ってしまって、裁判所に持ってこられると、裁判官はこの解釈に大変苦労する。つまり、ぎりぎり有効なのはどこかというところを探して、その範囲でこの条項は残りが有効ですと言わないといけない。これは、事実上、不可能ですね。そんなわけで、ドイツでのこのサルベージ条項に関する議論では、こういう条項は認めないということにして、むしろ明確な準則を立てた上で、有効・無効は約款あるいは条項に関する合理性のレベルで争っていただくという方向にしてはどうかということにしたということであります。

実際に幾つも約款条項を読んでいて、問題になっている事実は知識としては余り持っていないものですから、その意味では立法事実がないのではないかと思われるかもしれない。しかし、読んだ人間として見ると、心理的な権利を主張することについての抑制効果は、これはかなりあるという実感を持ちながら読みました。

こういう条項があって、うちは法律の許容している範囲では責任は負わないことにしているのだと言われたときに、それに反論できるだけの知識を持っている消費者はまずいないのではないかという気がするのです。ですから、実際に問題がないというのは、本当に問題がないということではなくて、そういう心理的な抑制効果というものを前提とすれば、問題になっていないというだけであって、この条項は問題がある問題だということについては、恐らく一般的に言えることではないかという気がいたしました。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見、あるいは御指摘いただくようなことはありますでしょうか。山本健司委員。

○山本(健)委員 ありがとうございます。

まず、サルベージ条項の問題ですけれども、1点目として、立法事実というお話がありました。平成19年度の内閣府の不当条項研究会の報告書でも、昨年10月に取りまとめられました消費者庁の消費者契約法の運用状況に関する検討会の報告書でも、具体例としてたくさんあるとされております。実際、こういう条項が世の中にたくさんあって、それが現に使われております。それが望ましい状況なのかは問題であるというのが、立法事実であると思います。それが1点目です。

2点目は、明確性の原則との関係でも問題となり得る条文ではないかという御指摘に関してです。そのご指摘はそのとおりだろうと思います。しかしながら、もし仮に「不明確な契約条項は無効とする」といった規定が新たに設けられるのであれば、その規定に委ねればいいということになるのかもしれませんけれども、明確性原則に違反した場合の法的効果が不明朗な状況では、サルベージ条項を無効にするという規定を、明確性の原則とは別個に考えないといけないと思います。それが2点目です。

3点目は、阿部委員のペーパーにもございます、サルベージ条項は10条に委ねればいいのではないかという御指摘に関する疑問です。果たしてそうだろうかという気がしております。10条は、原則的な権利義務関係と、不当条項が定める権利義務関係との比較というものを重要な判断要素としていると理解しております。この点、サルベージ条項は、それ自体は特定の権利義務を定める条項ではなくて、他の不当条項とワンセットになって初めて意味を持つ、特殊な条項です。10条で無効とできるかは、不透明であるように思います。したがって、10条とは別に、こういう条項は無効なのだということを、独自に規定しておくべきであると思います。先ほど座長からも御指摘があったように、全部無効となるような不当条項に「法律の範囲内で」といったワンフレーズを入れることで当該条項が有効になるといった帰結ではなく、「法律の範囲内で」という部分を読み飛ばすような形で不当条項規制が及ぶ帰結にならないといけないと思います。サルベージ条項を入れたからといって不当条項が当然に有効にはならないのだということを独自の規定として明定しておくべきであると思います。

以上がサルベージ条項に関する意見です。

次に、マル6とマル7の問題について、不当条項リストとしては違和感があるという御指摘がありました。もっともな御指摘で、この問題は、もともと民法の債権各論の消費貸借の例外規定、消費者契約分野における例外規定という位置づけの問題であると思います。資料1では、便宜上、不当条項リストのところで整理していただいておりますけれども、基本的に、消費貸借に関する民法の例外、消費者契約における例外を消費者契約法に定めるかどうかという問題であると理解しております。

御承知のように、民法の改正議論の中では、消費貸借の議論において、期限前弁済をしたときの損害賠償請求、目的物交付前解除をしたときの損害賠償請求の問題について、消費者に関する例外規定を一緒に民法に定めるかという問題が論点設定されていたところ、消費者に関する規定自体が民法にいっさい定められないことになりました。その過程では、消費者に関する特則規定は消費者契約法での立法を考えればいいじゃないかという議論もあったと記憶しております。今、まさに、民法の原則規定に対する消費者契約の特則規定を消費者契約法で定めるかどうかを考えないといけないときであると思います。民法で原則論だけが規定されて、消費者契約の例外規定が何もない状態で民法が施行されてもいいのかを考えないといけないというのが、ここでの議論の中心的な問題であると思います。

したがって、不当条項規制の問題は、典型的には契約に定められている条項の有効・無効の問題であるのに対し、マル6マル7の問題は本来、民法で解釈を委ねられた損害賠償請求権の存否・範囲の問題であり、契約条項がある、ないにかかわらず問題となりえる点で、典型的な不当条項リストの問題とは違いますけれども、だからといって消費者契約法で考えなくてもいいという問題ではなくて、むしろいま考えないといけない問題であると思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 1つはサルベージ条項ですけれども、私はこれは不明確性よりは不当性の問題だという印象でありまして、どこに不当性があるかというと、契約書というのは双方の権利義務をできるだけ明らかに事前に定めておくものであるはずなのだけれども、こういう書き方が許されるとなると、事業者側としては、我が社は裁判所がだめと言わない限り、一切責任を負いません。逆に、裁判所がだめと言わない限り、あらゆる権利を行使しますということを言っているようなもので、余りにも一方的ではないか。もう少し具体的に、これこれ、こういう場合にこうなると書いた上で、それが不当かどうかという判断を別途裁判所に仰ぐのはいいのだけれども、さっきから言っていますけれども、投網を打つような感じでやるのはいかがなものかという意味で不当だという感じがいたします。

それから、あとの2点に関しては、これは消費者契約法の性質論とちょっと絡んでくると思いますが、消費者契約法をどういう法律として位置づけるのか。民法という1階があって、それから個別契約あるいは個別取引類型についてのさまざまな特別法が2階にあって、その間に中2階として、消費者契約共通のルールを入れるという形で当初はできてきたわけですが、金銭消費貸借に特化した規定を入れるということになると、消費者契約法の性質を変えるのだ。そういう消費者契約共通の中2階ルールじゃなくて、この際、特商法と一緒にしてもいいじゃないかというタイプの法律に性質を変える決断をするのかどうかというところと、ちょっと関係してくるかなという気がいたします。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御質問あるいは御意見等がありましたら。よろしいでしょうか。

サルベージ条項に関しては、実際に、この種の条項がかなりたくさん使われているということは、先ほど河上委員長からの御指摘もありましたし、山本健司委員からの御指摘もありました。それが紛争としてどれだけ顕在化しているかという問題提起もありましたが、その点については、裁判例という形で日本では現実にはまだ問題になっていないのかもしれませんが、抑止効果のようなものがあるのではないかという御指摘もありました。

いずれにしましても、このサルベージ条項がなぜ問題かということがもう少し明確にされる必要があったところでして、一方では、明確性の問題ではないかという御指摘もありましたが、他方では、不当性の問題である。とりわけ先ほど申し上げましたように、これは、本来ならば条項が全部無効になってしまうのを、そうならないようにしようとする手法の一つであって、しかも非常に包括的な形で安全策を講じようとしているというところが、恐らく一番大きな問題点なのだろうと思います。その意味では、条項が全部無効になるのを簡便にかいくぐることができることを容認するのかどうかということが、この問題の本質ではないかと思います。その結果として、不明確であり、事前に何をどこまで事業者はしなければならないか、あるいはできるかということが明確になっていないと思います。

そのあたりを消費者契約法10条でつかまえられるのかということも、問題点として指摘されていたところです。しかし、10条の本来のパターンとはかなり違うのではないか。本来であれば条項が全部無効になるのをかいくぐろうとしている意味での不当性の問題なのだろうと思いますが、それが消費者契約法10条でつかまえられるのか。このあたりについてもう一歩、御指摘を踏まえて詰めた上で、さらに検討して御審議いただくことになるのではないかと思います。

マル6、マル7については、もちろんこれ自体としての問題もありますし、松本理事長から、消費者契約法の現在及び将来にわたる位置づけをどう見るかという大きな問題にもつながるという御指摘もありました。なかなか難しい問題ではあるのですけれども、このような規定を特に設けるべきではないという御指摘、及び設けるべきだという御指摘のそれぞれについて理由を挙げていただきましたところですので、これをもう一度整理した上で、次回、さらに詰めた案が出せるのであれば検討していただくことになろうかと思います。

あと1点、問題点をまだ十分に出していただいていないかもしれないと思いましたのは、マル7の期限前の弁済を伴う損害賠償についてです。借主に対する損害賠償請求を規定するかしないかという点については、御指摘をたくさんいただきました。それに対して、マルbの損害賠償を予定する条項で、甲案の指摘がありましたが、平均的な損害の額を超える部分を無効とする規定を設けるということの是非については、必ずしも御指摘がなかったかもしれません。この点について、このような規定を設けることも問題であるという御指摘がもしあれば、お出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。

山本健司委員。

○山本(健)委員 ありがとうございます。

9条1号で解決できる問題なのかどうかという点なのですが、マル6マル7にわたる一番の問題は、将来の利息に相当する金額を損害賠償請求することを許容していいのか、得べかりし利益について請求することを許容してよいのか、合理性がないのではないかという問題かと思います。

一方、9条1号については、「平均的損害」自体、得べかりし利益が入るのか入らないのかが議論になっているところです。

前述のとおり、期限前弁済とか目的物交付前解除権が行使された場合に、事務手数料とか実損害がある場合には、それを請求することは許容できるとしても、約定の弁済期日までの利息金、利息相当金の損害賠償請求まで認めるのは問題である、否定すべきであるというのが、ここでの問題意識だと思います。それを平均的損害という、得べかりし利益が入るか入らないかに争いがあるような要件を含んだ9条1号を使った解決に委ねてしまうのは、結局、問題の解決にならないと思います。

したがって、この問題については、今回の資料3で別案を書かせていただきましたけれども、利息金を取ってもいいのかというところをストレートに規定したほうがいいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございます。

前提として、民法の改正案が「損害賠償」というときの損害の内容をどう見るかという問題がありまして、そこに得べかりし利益のようなものをおよそ含めるべきではないという考え方は、もちろん意見としては考えられますが、契約の拘束力の考え方からすると、それを排除することはできないのではないか。その上で、損益相殺等も問題になりますので、一体どれだけの損害賠償の請求が実際にできるのかということが問題になる。このあたりが民法の解釈として問題になるところで、それを踏まえて消費者契約法でどう考えるかが問題となります。平均的損害というものが、それと整合するのかどうかという御指摘をいただいたと受けとめました。

松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 今の座長の問題提起との関係では、現行法の平均的損害の概念が非常に曖昧であるというのは山本健司委員がおっしゃるとおりで、そこをもっとクリアにする必要があるというのは、別の議論としてあると思うのですが、期限前弁済という言い方をするから、解除に伴う損害賠償と全く違うという議論になってくるのだけれども、これは中途解約のようなものだと考えれば、実はほとんど解除の場合と同じだと思うのです。期間を定めた賃貸借契約の期限前退去というのと貸金の期限前弁済とどこが違うのだというと、かなり近いのではないかという気が私はいたします。

そういうふうに考えれば、特別の規定を置かなくても、現行法の解除に伴う損害賠償の部分は、中途解約の場合も恐らく解釈に入っていると思うので、期限前弁済を中途解約類似の問題と評価すれば類推適用でカバーできるのではないかと思います。それでも、平均的損害の概念が曖昧だというのはおっしゃるとおりです。

○山本(敬)座長 今の点は、この後で扱う論点と重なるところでして、中途解約、つまり任意解除を認める場合でも、契約は本来守らなければならないわけですので、相手方に生じた損害は賠償しなければならないというのが、任意解除についての民法のルールです。そのときの損害賠償の中身は、契約の拘束力があることを前提にすれば、得べかりし利益ないしは履行利益に相当するようなものを排除する理由はないのではないかということが、改正のときにも議論されていた事柄です。それと、ここでの問題とがどれほど違うのかという御指摘をいただいたということだと思います。ただ、平均的損害の当否については今、御指摘いただいたような問題があるということだと思います。

沖野委員。

○沖野委員 今のやりとりの中で気になった点を1点だけ申し上げたいと思います。

ここでの提案の趣旨が、最初に大澤委員もおっしゃったことかと思うのですけれども、損害が発生していても賠償をおよそ請求することができないという規律を提唱するものなのかというと、山本委員が示してくださった日弁連試案もそうではないのではないか。つまり、同試案は、不当であるという推定ですから、合理的な理由があれば請求が認められるというものです。ここでの問題は、損害はないはずであるというところからスタートしているのではないかと思われまして、要物契約の場合ですと、ほかに金銭を回せるはずであるということがあります。ただ、若干問題となるとしたら、契約締結費用などをどうするかというあたりは残ってくるのかと思いますけれども、損害があっても賠償請求できないというよりは、典型的に損害がない類型だというところからスタートしていたのではないかと思います。

マル7の期限前の弁済についても、貸主が一般的にはまさにそれを業とするようなタイプのものが想定されるときに、ほかに回せるはずなので、利息全額を取れるというのは、そもそも実損害以上を取っているということだと思われます。ですから、得べかりし利益以上を取ることになるという、そこの問題が1つあるのだと思います。それに加えて、およそ得べかりし利益は取れないということまで行くのかどうかというのは、もう一つ別の問題だと思いますので、既に御指摘のあったところだと思いますけれども、念のため申し上げたいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

後藤委員。

○後藤(準)委員 貸金業者の場合も、実際に資金調達するということも行われているわけですね。そのコストというのは当然かかっているわけで、それを全く見られないというのはちょっと違うのではないか。お金は自分が持っているわけではなくて、他人から借りて、それを人に貸すということも当然あるわけで、その場合はちゃんとコストがかかっていて、一定の期間に借りたお金で一定の果実を生むということが前提になっているので、その利息を早目に返してもらうと、その果実が返ってこない、想定した果実が得られないということになるので、ビジネスモデルとしては、ちょっとそれを否定するような印象を我々は受けるのです。

○山本(敬)座長 山本健司委員。

○山本(健)委員 沖野委員、後藤委員から御指摘があった点ですけれども、日弁連試案も、実損害とか、合理的な理由のある損害賠償請求はできるということを前提として考えております。主に着目しているのは、利息金でございます。その点、改めて強調しておきたいと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 私もそこの損害の意味というのがよくわからなくて、議論を伺っていたのですけれども、例えばマル7のマルaで、貸主は、借主に対し、期限前の弁済によって受けた損害の賠償を請求することができないという規定を設ける。この文言だけ読むと、一切の損害の賠償を請求できないと読むほうが、読み方としては普通な感じがします。

もしそうだとすると、日弁連の御意見あるいは消費者庁の御提案の内容が、今、山本健司委員がおっしゃったような提案なのだということははっきりさせていただいたほうがいいと思うのです。ここがはっきりしているということであれば、非常に理解できて、私はむしろ実損害の賠償というのは、損害があるということを事業者が証明できれば、賠償請求できて普通じゃないかなと思っていたものですから、ここの部分をどう考えるか。何か御説明がありましたら。

○山本(敬)座長 では、今の点について。

○山本(健)委員 御質問、ありがとうございます。

資料3の5ページでご紹介させていただいております、期限前弁済に関する日弁連試案第25条を例にご説明させていただきますと、損害賠償請求できるという民法上の原則に対して、第25条2項において、消費者契約においては損害賠償請求することができないということを原則としたうえで、第3項において、それに反する定めがあるときには、「推定する」ですので、合理性があることを事業者が立証した場合には損害賠償請求を許容するという建て付けで作っている条文提案です。

今回、別案をつけさせていただいたのは、要するに弁済日以降の利息ないし利息相当金を損害賠償請求することを許容しないということが言いたいところなのですということを、よりわかりやすいように付記させていただいたということでございます。

以上です。

○山本(敬)座長 いわゆる強行規定として主張されているのではなかったということだと思います。

それでは、以上の御議論を踏まえて、さらに検討した上で、次回改めて御審議いただくことにさせていただきます。

≪4.その他の論点≫

(1)抗弁の接続、複数契約の無効・取消し・解除

○山本(敬)座長 続きまして、「抗弁の接続、複数契約の無効・取消し・解除」の論点についての検討に移ります。消費者庁から説明をお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 それでは、「3.抗弁の接続/複数契約の無効・取消し・解除」、36ページであります。

事例をまず御紹介いたしますと、先輩から誘われて一定のソフトを購入するということでありますが、その際に金融機関から借金をしたということで、資金を調達して商品を購入したということであります。

後で御紹介いたしますけれども、割賦販売法でありますと、商品購入契約に何らかの瑕疵がある。この場合であれば、もうかるシステムがあるということで、これは断定的判断の提供あるいは不実告知に当たるかどうかというのは評価の余地があるのですけれども、そういった瑕疵があるということを前提に検討するということでありますが、その場合に、その商品購入契約に瑕疵があった場合には、クレジット、与信契約について一定の主張をすることができるという規律があるところでありますけれども、金銭消費貸借ということになりますと、割賦販売法の適用がないと思われる事案ということで、3-1を御紹介しております。

それから、3-2は携帯電話の機種変更をするということで商品を購入するわけでありますけれども、その際、別途のルータ契約というものをすると通信料が安くなるということで、両契約をパッケージでしたということでありますが、その通信契約については安くならなかった。一方の契約について、不実告知と思われるようなものがあったということであります。

問題の所在は36ページ、(1)に書いておるわけでありますけれども、いわゆる抗弁の接続というものについては、割賦販売法で一定の手当てがされております。37ページにかけて書いておりますけれども、抗弁の接続規定というものが設けられておりまして、一定の要件のもとでこの規定が適用され、今も活用されているということですが、「しかし」というところに書いておりますけれども、マンスリークリア方式、その他、適用範囲にならないものもあるというところであります。

また、先ほど申し上げましたように、事例3-1-2のような金銭消費貸借契約の場合には、そもそも割賦販売法の適用はないということかと思います。

それから、イの複数契約の無効・取消し・解除につきましては、民法改正の中でも議論があったところでありますけれども、複数契約が密接に関連する場合に、一方の契約に何らかの瑕疵が生じた場合に、他方の契約についても効力を失わせるといった最高裁の判決もございまして、そういったものを参考に、消費者契約法でも規律を設けるべきといった御意見を頂戴しているところであります。

ただ、38ページから考え方を書いております。

1つは、この抗弁接続の問題というのは、典型的にはいわゆる消費者信用の分野で問題になるのではないかと考えております。そこを踏まえる必要があるだろうということであります。

また、アの民法改正における議論のところに書いておりますが、抗弁の接続にしましても、複数契約の無効・取消し等にしましても、その場合の要件立てをどうするかというのでさまざまな議論が重ねられ、そこについて結果的にコンセンサスが得られなかったので、導入については見送られたという経緯ではないかと思います。

39ページ、他方でちょっと視点を変えますと、関連法制の状況ということで、割賦販売法につきましては現在、見直しの検討がされているということであります。この状況を見据える必要があるだろうと思います。

また、「割賦販売法改正前の事案についてであるが」と書いてあるところでありますけれども、一定の場合には民法の公序良俗無効による処理というのもあり得ると読める判決がございますので、そういうところも踏まえる必要があるだろうということであります。

それから、消費者契約法におきましては、消費者契約法5条の活用というのも考えられると思いますので、そういった点を踏まえつつ、この規定を消費者契約法に設けることについては、その必要性も含めて検討する必要があると考えております。

以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明の内容を受けまして議論を行いたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。山本健司委員。

○山本(健)委員 ありがとうございます。資料3の6ページ以降を引用させていただきながら発言させていただきたいと思います。

まず、意見ですけれども、現時点で立法を見送るということには反対でございます。特に、抗弁の接続については、種々の消費者契約被害において横断的かつ重大な問題となっており、私法上の立法対応は重大かつ急務ではないかと思います。

去年の10月に取りまとめられました消費者庁の消費者契約法の運用状況に関する検討会報告書の75ページでも、抗弁の接続が問題となった事例、販売契約や役務提供契約が解約されたのだけれども、結局、被害者に与信契約上の債務が残ってしまって被害者が苦しんでいるという事案が非常に多いということが紹介されております。

例えば、リース契約を伴う事例でしたら、電話機、ホームページ製作、クレジット契約を伴う事例でしたら、広告用端末、情報商材、美容医療、パソコンのソフト、貴金属のデート商法、リフォーム契約等、高齢者の呉服、認知症の人のふとん購入、高齢者の商品購入などが紹介されております。他に、消費者金融での借入れを伴う事例としては、研修受講、投資用DVDの事案が紹介されております。また、金融機関での借入れを伴う事例としては、収益用不動産の事例がたくさんあるということが紹介されております。

これらの被害について、役務提供契約、商品販売契約を取消したとしても、結局、与信契約が残ってしまって、被害者がその支払に苦しむ結果となっているものですから、問題を抜本的に解決するためには、与信契約をどうするのだということは避けて通れないだろうと思います。現在、割賦販売法において抗弁の接続規定が定められ、活用されております。しかしながら、与信契約の種類、方式、取引対象等で救済されない場面も少なくありません。

最高裁平成2年2月20日の判決は、信義則上相当とする特段の事情がある場合には、購入者が、供給業者に対して生じた事由をもって与信業者に対する債務の弁済を拒むことができる旨を判示しているかと思います。この最高裁判例などを手がかりに、私法上のルールを整備すべきであると思います。

複数契約の無効・取消・解除につきましては、最近では複数の契約が一体になっている取引がよく見られるところでございます。最高裁平成8年11月12日の判決も、「2個以上の契約からなる場合であっても、それらの目的とするところが相互に密接に関連づけられていて、社会通念上、甲契約及び乙契約のいずれかが履行されるだけでは、契約を締結した目的が全体として達成されないと認められる場合」には、甲契約の債務不履行を理由に甲契約とあわせて乙契約も解除できる旨を、判示しております。この最高裁判例などを手がかりに、私法上のルールを整備すべきであると思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見等ありましたら。松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 この事例で挙がっております3-1ですが、問題があるのはマンスリークリア方式と金銭消費貸借の場合だと書かれているのですが、マンスリークリアは明確に割販法上、抗弁を対抗できないということで、今、割販法改正でも論点になっているわけですけれども、金銭消費貸借だというだけで割販法の適用は除外されません。これは、何回か前の割販法改正で、その趣旨が加えられたと私は理解しております。

法的な名称がどうか、立替払いか債権譲渡か金銭消費貸借かによって割販法の適用の有無が変わるのではなくて、個別信用購入あっせんという言葉に変わりましたけれども、これの定義に当てはまるかどうかで決まるわけで、立替払いではなくて金銭消費貸借という形式をとったとしても、この定義に当てはまれば割販法が適用されます。

さらに、お金の動き方が、立替払いであれば与信業者が販売業者あるいは役務提供事業者に直接金銭を渡すわけですが、金銭消費貸借であって、一旦、消費者が金銭を受け取り、そして、その消費者が自分の契約をした販売業者、役務提供事業者に金銭を支払うという場合であっても、個別信用購入あっせんの定義に入るということになっておりますから、その限りで金銭消費貸借が落ちているわけではございません。

ただし、事例3-1は、この説明からだけでは救済が難しいのではないか。すなわち、消費者金融3社とDVDソフトの販売会社が事前に提携して与信するという話をしておらず、フリーローンとして3社から借りているということであれば、割販法の適用は極めて困難、不可能だろう。あとは、消費者金融業者がそういう悪質なDVDソフトの販売だということを知って、なおかつ与信しているという場合には、また別の救済が考えられるかと思うのですが、事例3-1をここで挙げているのは余り適切ではないのではないかと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見等がありましたら。増田委員。

○増田委員 現状の割販法で救済されないケースというのはたくさんございまして、マンスリークリアもそうですけれども、デート商法による投資用マンションの契約のような場合で同じ金融業者が繰り返し登場してくるというケースですと、非常に関連性が深いと推測されるようなことも多くあるかと思います。現状のそういういろいろな支払い方法というのが出てきている中で、関係性の深いケース、複数の取引に同じ事業者が登場してくるケースには、推測されることも多いと思いますので、今、ここで見送るというのはどうかと考えております。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見等がありましたら。石戸谷代理。

○消費者委員会石戸谷委員長代理 事例として2事例挙がっているのですけれども、運用状況に関する検討会の話が先ほど出ましたけれども、そこでは裁判事例3例、相談事例が二十何件、合計30件ぐらい事例が出ていて、非常に事例が多い論点なので、実務的には重要なところだと考えております。

割販法の適用のない部分というのはいろいろあるわけでして、運用状況検討会報告書で挙げられているもので比較的多いものは、消費者リースの問題と、電話機リースとかホームページの作成といった問題で、実態としてはクレジットとほとんど変わらないのだけれども、法形式としてリースの形態をとっているとか、そういうことがありますので、ここは要件立てをどう具体化できるかというところなので、もうちょっと検討の余地を残していただきたいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 今の消費者庁からの説明文を見たのですけれども、消費者契約法5条でどこまでカバーできるか。前回もちょっと問題になりましたけれども、それで行ける部分と、それから割賦販売法の改正で考えている部分で拡張がどこまで行けるかというあたりとの関係で、消費者契約法で今、これを定める必要がどのぐらいあるかということが決まってくるのかなという気がいたします。

もともと平成2年の最高裁判決で、割賦販売法の抗弁の接続は創設的なものだ。本来であれば、信義則でない状態で認められていた考え方ですから、あそこで創設説がとられたというのは、私はかなりびっくりしたのですけれども、最近、平成23年でしたか、デート商法か何かであの最高裁の考え方が尾を引いていて、複数の契約の影響関係というものについてのハードルはなかなか高いなという気がいたしました。

それだけに、もしそのハードルを超えようとするのであれば、かなり慎重に考えていかないといけなくて、契約の相対性というものを前提とした上で、消費者契約に関しては、5条あるいは5条に準ずるようなお互いの連絡関係、共同関係にあるものがどこまで認められるかということと、割販法上の加盟店管理義務が、抽象的にせよ、どこまで手を伸ばしていけるかというあたりを見定めてからでもいいのかなということで。余り引き延ばすのはいかがかと怒られそうですけれども、もうちょっと慎重にやらないと足元をすくわれる可能性があるので、この辺は気をつけながら検討していただければと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに。後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 私も河上委員長と同じ感想を持っておりまして、1つ気になるのは、最高裁判決が、平成2年の判決で抗弁の接続は創設的な規定だと言っていて、今、河上委員長がおっしゃった平成23年だったと思いますが、そこでも同じ考え方が繰り返されている中で、消費者契約法でどういう規定を置くのかということは難しさがあると思いますので、そこのところを考慮して、改正というところまで行くことができなければ、ここで取り上げなくてもやむを得ないかなという印象を持っています。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御指摘をいただくことはあるでしょうか。問題があるという御指摘をたくさんいただきましたが、それと同時に、河上委員長、後藤委員から御指摘いただいたような点もあります。それらを踏まえて、もう少し検討してみて、さらに5条の問題も含めて検討しなければならないと思いますので、そのあたりも含めて、さらに検討の機会を設けられればと思います。

(2)継続的契約の任意解除権

○山本(敬)座長 それでは、既にかなり時間が押しているのですが、毎回、大変恐縮ですけれども、進ませていただきます。「継続的契約の任意解除権」の論点についての検討に移ります。消費者庁から説明をお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 4ですが、48ページであります。事例を1つ挙げておりますけれども、雑誌の定期購読で2年分を支払ったということで、途中で解約したいということでありますけれども、2年間という期間を定めておりますので解約できないと言われたということであります。この種の苦情相談というのは、他にも見られるところであります。長期間の契約を最初にしてしまったけれども、後でいろいろな事情がありまして、解約したいというケースであります。

(1)問題の所在でありますが、まず役務の提供契約でありますと、民法651条の任意解除権の行使ができるだろう。特商法の特定継続的役務提供に該当するのであれば、中途解約権が行使できるということだと思いますが、それに該当しない、役務でない、例えば商品購入契約につきましては、任意解除権のような解除権あるいは中途解約権のようなものはないということであります。こういった場合に、消費者が契約から解放されるように規律を設けるべきだという御指摘もいただいているところであります。

それで、どのように考えるかということでありますけれども、現行の役務受領型契約につきましては、確かに任意解除権あるいは特商法上の措置もあるところでありますが、特商法上の継続的役務といいますのは、49ページの3行目に書いていますが、「身体の美化又は知識若しくは技能の向上」といった、実現が不確実なものが念頭に置かれているのではないかと思われますので、そこは踏まえる必要があるだろうと思います。

また、トラブルとして、例えばレンタル商法というものがあるわけですが、それにつきましては、また預託法、その他別途の措置も考えられるところであります。

こういった商品購入型契約につきましては、確かに法律上、消費者に任意解除権はありませんので、そこからの解放というのは、問題の所在としては理解できるところでありますけれども、他方で、そういった長期間契約を締結しつつ、料金の割安サービスを受けるでありますとか、中途解約権のような規律を設けることによって、契約関係が不安定になる影響も検討・考慮する必要があるのではないかと思われますので、そういった状況を見ながら検討する必要があるのではないかと書いております。そういった関連法制の運用状況なども踏まえる必要があるのではないかということでございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明の内容を受けまして議論を行いたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。では、大澤委員。

○大澤委員 多分、2点考える必要があって、1点は、ここで問題になっている任意解除権に関する規律のあり方ということで、要は解除を認めるような規律を設けるということだと思います。設例4-1を見ても解約できないと言われたというトラブルですので、継続的な契約において解約をする権利、任意解除権を与えるべきだということだと思うのですが、この話というのは、前回の審議会、5月末日の審議会の解除権を排除する条項を不当条項リストに入れるかどうかというところで議論があったところで、恐らくそこともあわせて考える必要がある。

その際の議論の印象として、解除権を一切排除する条項というのは、基本的に不当性が強いのではないか。しかし、解除権を制限するような条項に関しては、例えばそこでも出ていましたが、例えば長期割引というものがあることから、一律に無効というのは難しいという話だったと思うのですけれども、そこも不当条項リストとの兼ね合いで検討するべきところではないかというのが、まず1点です。

もう一つは、そうではなくて、継続的契約に関するトラブルが実際多いので、特別規定を設けたいという、その趣旨としてはわかるのですが、そこで問題となるのは、まず役務を提供する契約というのと、設例4-1で出ているのは雑誌の定期購読なので、商品を提供する契約なのですが、それを果たして同じように考えていいのかということと。

あと、もっと問題なのは、その「継続的」という言葉の意味というか、どれぐらい長期だったら継続的と言えるのかとか、そういう問題もあると思いますので、継続的契約に関して特別に規定を設けるとなると、しかも役務の場合と商品の場合というものが果たして同じなのかどうかということと。あと、継続的契約を法的にどのように定義するのかということを考えていかないといけない。かなり慎重な検討が必要だと思います。

特定商取引法の特定継続的役務というところも厳密に定義がされているかと思います。英会話学校の場合だと何カ月以上とか、厳密に定義がされていると思いますが、ああいう商品に特化した定義を消費者契約法に設けるというのは、なかなか現実的ではないにしても、少なくとも継続的契約と言えるには、どういうものが契約として想定されているかというのは定義しなくてはいけないので、端的に継続的契約なので任意解除権のルールを設けるべきだというルールを設けるのは慎重な議論が必要ではないか。個人的には、長期割引などの問題ともあわせて、解除権を排除する条項とか制限する条項のリスト化のところで検討するのがいいのではないかと思っています。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ほかに。山本健司委員。

○山本(健)委員 ありがとうございます。資料3の8ページ以下を引用しながらお話させていただきたいと思います。

現時点で立法を見送ることには反対です。以下、理由です。

継続的契約の場合には、契約期間が長期間となり、消費者契約においては対価が高額になることが多いという特徴があります。契約締結後に転勤など契約を継続することが困難となる事情が生ずる場合もございます。また、継続的役務提供契約の場合には、役務の内容を事前に把握することが困難で、実際にその提供を受けてからその内容を知ることも多いです。希望しない継続的契約に長期間拘束され続けることは、消費者にとって大きな不利益です。

また、継続的契約には、委任、準委任など相互解除の自由ないし中途解約権が民法に規定されているものもございますけれども、継続的な物品販売契約など中途解約権を肯定する明文規定が存在しないものもございます。実際にも、長期にわたる新聞、食品、学習教材等の購入契約などの中途解約をめぐる問題が、大きな紛争や苦情の対象となっております。このような消費者トラブルを手当てするという観点からも、継続的な物品販売契約などについても中途解約権を明定しておく必要があると思います。

中途解約権がもともと民法等で認められている場合には、不当条項リストで対応することが可能ですけれども、もともと中途解約権が認められているのか明確でないものについては、中途解約権を与えるところから始めないと救済になりません。

さらに、事業者の利益保護という観点からは、中途解約の際には事業者から消費者に対して合理的で相当な違約金などが請求できるなど、金銭による解決が可能であることを明らかにすれば、大きな弊害はないはずではないかと思います。

このように消費者契約にかかる継続的契約においては、消費者に対し、将来的に契約から離脱できる中途解約権を認めることが必要かつ相当であると思います。

具体的な対応としては、資料3の9ページから10ページに書かせていただいたような規定例が考えられると思います。

日弁連の改正試案第23条1項では、継続的なという要件が不明確だという御意見もあることを踏まえて、一つの試みとして、「有償で2カ月以上の期間にわたり継続して役務を提供し」といった範囲設定を試みております。その要件を満たす役務提供契約や物品販売契約や権利販売契約などについての中途解約権を規定しております。また、第2項から第4項で、その中途解約権が行使された場合の清算のルールについても規定を試みております。

また、資料3の10ページに、日弁連試案の清算部分の規定内容がわかりにくいという御意見を踏まえて、物品販売契約に特化して1文に書きおろす形式での条文例を別案として付記しております。具体的には、「事業者である売主が消費者である買主に対し一定の期間を定めて物品を継続的に販売する契約について、消費者は、事業者に対し相当な期間を定めて通知することによって、当該契約を将来に向かって解約することができる」「前項の場合において、事業者は、消費者に対し、違約金を請求することはできない。ただし、当該消費者契約の性格に照らして合理的な理由があり、かつ、その金額が相当である場合を除く」といった条文例です。2項については、「前項の場合において、事業者は、消費者に対し、当該消費者契約の性格に照らして合理的な理由があり、かつ、その金額が相当である限度において、違約金を請求することができる」という定め方もありえると思っております。

特に継続的な物品販売契約について、このような中途解約権の規定を設けておくことは、現場の消費者トラブルを解決する上で非常に有用であって、ぜひ御検討いただきたいと思います。

なお、長期間契約だからこそ安価な料金でサービス提供できるのだ、そのサービスができなくなるのではないかというご意見を耳にします。しかし、そのようなことにはならないと考えております。例えば6カ月間の電車の定期の契約を想定していただければ、1カ月で転勤とかになったときに解約する場合には支払金の6分の5が返ってくるのではなくて、1カ月分の定期代はちゃんと事業者がもらった上で、残りの金額が清算されるという形で円滑な運用がなされていると思います。

すなわち、長期間だからこそ安い単価になっているという契約を途中でやめた場合には、短い期間に応じた単価で計算した対価を事業者が留保できることにすれば、それで事業者に損害はないと思います。6カ月間一切解約できないといった形で縛り続けることに合理性はないと思います。中途解約時の利益調整は、賠償金、違約金、清算金の定め方によって、事業者にも無理のない形で対応することが可能であると思います。

したがって、長い契約期間だからこそ単価が低いというサービス契約が存在するということから、中途解約権を認めること自体に問題があるという帰結を導くことには、論理的な飛躍があると思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

井田委員。

○井田委員 私、継続的商品購入型契約に関しましては、山本健司委員と同じでございます。確かに商品購入型契約に関しましては、民法に任意解約権が認められていない。それはそのとおりでございますけれども、紛争を見ていると、料金の割引をしていないような継続的な販売契約も実際、あるにはあると思われますので、ここに書かれているような任意解約権に関する規律を導入したからといって、安価な料金での提供が困難化するということは、必ずしもそうではないのではないかと思っております。

解約権を認めたとしても、結局は清算の問題として適切な規律が設けられれば、事業者側としても損がないところはあると思うので、任意解約権を認めるということはもう少し検討してもよいのではないか。特に、継続的商品購入型契約については、もう少し検討したらいいのではないかと思っております。

以上です。

○山本(敬)座長 丸山委員。

○丸山委員 議論の中で、役務型の契約については、民法の規範とかで任意の解除権というものがデフォルトルールとして認められているけれども、物品購入型とか賃貸借、その他貸借型の契約については、必ずしも中途解除の規律というのがないので、不当条項規制だけで対応できるかという疑問があるという指摘がなされているのだと思います。

そこで1点、確認させていただければと思ったのは、任意法として存在しないというところが問題の出発点となっているので、例えば消費者契約の特徴に鑑みて、デフォルトルールとしての継続的な契約に対する解除権というものを消費者契約法に整備した上で、理由もなく、例えば割引とか特典とか選択権もなく、長期に拘束しているような場合を不当条項規制に乗せるという発想というのは、片面的強行規定を前提とする消費者法の世界では実現が難しいという感触なのか。事務局になるかもしれませんけれども、考え方をまず教えていただければと思いました。

○山本(敬)座長 消費者庁のほうから。

○消費者庁加納消費者制度課長 丸山先生の御指摘は、考え方としてはなくはないと思いますけれども、大澤先生もおっしゃっていましたけれども、その場合に継続的な期間をどうするのですかとか、そもそもその場合の長期契約を不当条項化するとした場合の長期間をどこで線を引くのですかとか、そういったところはしっかりと検討しないと難しいのではないかと思います。

○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。

後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 この継続的契約の任意解除権というのは、消費者の任意解除権と考えると、かなり重要性は高いと思います。必要性がないようなものについて購入するとか、あるいは継続的にサービスを受けるという契約をした場合の、最初の入り口のところで何か問題があるということであれば、これは誤認とか困惑という類型で考えることができるものもあると思いますけれども、契約締結当時は必要だったのだけれども、途中で必要でなくなったという場合などを考えると、その後、長期間、契約に拘束されるというのは、消費者にとって非常に大きな不利があると思います。

役務提供契約ということでありますと、委任とか準委任ということであれば、現行の民法651条を使えるということで考えることが可能でありますけれども、そうでない、その他の無名契約ということになったときに、651条で処理できるかということも問題となります。

それから、必要がなくなったというような場合に、もともと651条が予定していたような委任者、受任者間の信頼関係がなくなったということ等を理由として解除する場合に当たる状況なのかどうかということも問題となりまして、そういう意味から言うと、651条解除ということについても本当は考えなければいけない問題があると思います。

そういうふうに考えると、48ページの問題の所在でお書きになっているマル1の考え方の展開ということよりも、むしろマル2の考え方で、特定継続的役務提供の場合の中途解約の問題の延長線上のような形で、具体的に特商法で指定されていないような場合についても考えるというのが一つの方向だと思うわけです。

ただ、そのような解決が必要であり、望ましいと思うのですけれども、それを理論づけるというのがかなり難しいのではないかと思います。どうして継続的契約で消費者が中途で解約するということを認めることができるのかということを考えると、継続的契約に余り長い間拘束されるのはよくないとか、さらに場合によったら事情変更があるということも考えられるかもしれませんが、そこできちんとした理論的な説明をするというのはなかなか難しいという感じがいたします。

そういうことから、結局のところ、中途解約権があるという形で規定するという方向を考えるよりも、より安定的なものとしては、大澤委員が御指摘になっていたように、むしろ不当条項のリスト化のほうで処理するというのが現実的だと思います。

そういうふうに考えますと、前回の専門調査会の議論と少しつながるところがあると思います。前回、法律の規定に基づく解除権を排除・制限する条項を不当条項とするかという議論がありましたけれども、その機会に私は、法律の規定に基づくということは必ずしも要らないのではないかという発言をしましたけれども、それと同じことでありまして、中途解約権ということが特にどこかで法定されているこということでなくても、中途解約が望ましいという判断はあるわけでありまして、その中途解約が望ましいという状況を破るような形で中途解約できないという条項を認めているということでありますと、不当条項の判断をする、そこのところの手当てということが1つ考えられるのではないかと思います。

○山本(敬)座長 河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 解除の問題は、法定解除の場面と任意解除の場面があって、ここで問題になっているのは任意解除のほうです。自分が好きなときに、一旦約束した契約期間の拘束から外れて撤退できるというのは、かなり特殊な場面ではあります。ただ、正直言うと、私は将来のことを余りきちんと予測できる人間ではないので、どんなに考えても2年先の自分はほとんど自信がありません。そういうことで、2年ぐらいたったら、もう一遍、本当にこれを続けていいですかというのを聞いていただくようにして、理由について問わないでやれるとして、ある程度細切れにして考えてもらうとありがたいなと思います。

そうでないと、長期間、無用になった契約に縛りつけられるということがあるので、どこで切るかというのは確かに問題なのですけれども、通常の人間のいわば予測の範囲といいますか、そういうもので一旦切って、将来を考えていくというのは悪いことじゃないと思います。

もう一つは、条項でやるということになりますと、条項規制ですが、解除権の制限条項のところと、解除に伴う損害賠償の制限の条項というので、リストのところである程度対応できますが、期間そのものは、不当条項でやるのは恐らく対応が難しいと思います。ですから、その意味では、不当に長期にわたる契約について、どこかで相当な理由というグレーリストにするのは、阿部委員がいたら絶対反対と言うかもしれないのですが、普通の人間にとって自分の予想の確実な範囲で、1年とか2年でもう一遍考え直すチャンスというものを与えてみるというのは、これは悪いことじゃないのではないかという気がいたします。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

古閑委員。

○古閑委員 先ほど山本委員のほうから、合理的で相当な違約金などが請求できるのであれば、大きな弊害はないはずというお話がありましたけれども、リースなどにおいては、ビジネスモデル自体が成り立たないという話も聞こえてきていますし、本当に大きな弊害が出ないのかどうかというのは、イメージではなく、ちゃんと調査する必要があるかと思っています。それから、定期券の話も出ていましたけれども、長期契約のメリットで全てが割引ということだけではなくて、例えば特典をつけるとか、いろいろな形があり得ると思います。もちろん事情変更ということもあると思うので、ここをどうするかというのを考えていく必要があると思いますが、とはいえ、長期契約しか選べないというパターンはむしろ少ないと思っていまして、いろいろな期間が設定されていて、あえて特典や割引があるので長期契約を結んでいるというケースも結構あると思います。それについて、とりあえず特典があるから長期契約にしておきます。でも、いつでもやめられますみたいな形になってしまう。そうすると、金銭的に精算すればいいじゃないかと言うのは、理論的にはそうだと思うのですけれども、そこを精算するというのは、それなりに手間暇、コストがかかります。そうだとすると、事業者はそこまでして長期プランをつくるのはやめようというふうになり、消費者の選択肢がなくなっていくというのは、事実としてはあると思っています。それがいいのかどうかという問題だと思っています。そういうことをいろいろ考え出すと、もうちょっと状況を注視してもいいのではないかという今回の案に私は賛成です。

以上です。

○山本(敬)座長 河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 ちょっと追加的ですけれども、民法のデフォルトルールの中には、雇用とか、幾つか長期的な契約類型の中で、やむを得ない事情でもって、その契約を解消するということは認めていることなのです。ですから、グレーでよければ、まさにそういうやむを得ない事情による解除権を制限するという条項を規制するということであれば、もう少し柔軟な処理はできるということを1点だけつけ加えておきます。

○山本(敬)座長 大澤委員。

○大澤委員 私、以前に携帯電話の2年縛りの契約に関して論文を書かせていただいたことがあって、そのときに長期間にわたる、あの場合は携帯電話のサービスを供給するという契約ですが、そういう長期契約の一体何が問題なのかを考えましたときに、確かにそんな先のことは見通せない、私も全く同じような人間なので、それは河上先生がおっしゃっていることはよくわかるのですが、恐らくあそこで問題になるのは2つある。

まず、1つは、ほかのプランがちゃんと示されているのかということだと思うのです。2年で、そのかわり割引にしますよというプランと同時に、期間は定めないけれども、料金は全額取りますという2つの選択肢が消費者にちゃんと与えられるかということで、仮にお金は高いけれども、いつでもやめられますというほうは提示されずに、割引のほうだけ提示されていて、そちらに消費者を引き込むような形になっているとすれば、それは問題なのではないかというのが1つ。要するに、今の古閑委員の話にも出ていましたけれども、ほかのサービスというか、ほかの期間の定め方の選択可能性があるかどうか、それがちゃんと提示されているかというのが1つ問題かと思います。

もう一つの問題としては、この設例4-1の場合には、記事の内容に興味がなくなったのでという、自分の好みの問題だと思うのですが、解除したいという場合、例えば海外に転勤しなきゃいけなくなったとか、あるいは自分が病気になったとか、いろいろな事情があって、その事情を一切問わずに、とにかく解除はできません、割引しているのだから絶対だめですよというのは問題になるのではないか。つまり、解除できる理由というものを一切限定せずに、とにかく解除は認めませんということであれば、これは問題なのではないかと思います。

フランスなどの携帯電話の規制などを見ていましても、例えばサービスエリア外に転勤してしまったような場合には、ちゃんと解除を認めているかどうか。それもやっていないとすれば、それは不当な条項とか不当な契約になり得るという議論もありますので、この問題というのは、先ほどリストに入れればいいという安易な言い方をしてしまったかもしれませんが、どういう理由でやめたいのかということですとか、ほかのサービスがどういう形で提示されているかとか、そういうものもあわせて考えないといけないと思いますので、規律するのはなかなか慎重にやっていかないと難しいのかなと思いました。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。関連はしているものの、少し異なる問題が混じっていまして、本来、ここで問題提起されていたのは、消費者契約について任意解除権を認めるか、つまり無理由で解除することができるようにするかどうかという問題でした。それと同時に、今、大澤委員などから御指摘を受けているのは、一切解除を認めませんという条項、ないしはそれに類するような条項を不当条項と見るかどうかということでして、これは理由のある場合の解除まで否定していることを不当条項と見るかどうかという問題だろうと思います。その意味では、この2つは分けて考える必要があるところだと思います。

そして、今日の話題に関して言いますと、消費者契約一般について任意解除を認めるべきである、特に継続的消費者契約については任意解除を認めるべきであるという御意見もある一方で、これは民法改正の審議でも、継続的契約について一般的に解除権を考えることができるかということを議論したときにも出ていたことですけれども、契約一般あるいは継続的契約一般について規定しようとしますと、相当多数の多様なものが含まれてきまして、なかなか一律にこうだという規律を示し切れないということが大きなネックになっていたかと思います。消費者契約に限定しても、多様なものが含まれますので、仮に規定を置くとしますと、どのような影響が本当に出るのかということをさらに精査する必要があるのではないかと思います。そのような御意見が出ていたのではないかと私も受けとめました。規定するのは、現時点ではなかなか難しいかもしれないということが否定し切れないところではないかと思います。ただ、何が問題かということについて御指摘を受けましたので、それを今後に生かしていただくことができればと思いますし、不当条項に関しても、さらに詰めなければならない問題があるように思います。

それでは、また大幅な時間延長をしてしまいまして申しわけありませんが、本日の議論は、このあたりにさせていただきたいと思います。

次回は、不当勧誘に関する規律を中心に、これまでの御議論を踏まえて、さらに検討を要すると考えられる論点を取り上げて御議論いただくことを予定しております。引き続きよろしくお願い申し上げます。

最後に、事務局から事務連絡をお願いいたします。


≪5.閉会≫

○金児企画官 本日も熱心な御議論をどうもありがとうございました。

次回は、6月30日火曜日13時から16時の開催を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。

○山本(敬)座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。7時15分過ぎまで大変申しわけありません。大変お忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございました。

以上