第11回 消費者契約法専門調査会

日時

平成27年5月29日(金)16:00~19:20

場所

消費者委員会大会議室1

出席者

【委員】
山本敬三座長、後藤巻則座長代理、阿部委員、井田委員、大澤委員、沖野委員、河野委員、古閑委員、増田委員、丸山委員、山本和彦委員、山本健司委員
【オブザーバー】
消費者委員会委員 河上委員長、石戸谷委員長代理、橋本委員
法務省 中辻参事官
国民生活センター 松本理事長
【消費者庁】
服部審議官、加納消費者制度課長、山田取引対策課長、消費者制度課担当者
【事務局】
黒木事務局長、金児企画官

議事次第

  1. 開会
  2. 不当勧誘に関する規律(3)
    法定追認の特則
  3. 不当条項に関する規律(2)
    不当条項の類型の追加
  4. 閉会

配布資料(資料は全てPDF形式となります。)

議事録

≪1.開会≫

○金児企画官 本日は、皆様、お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。

ただいまから、消費者委員会第11回「消費者契約法専門調査会」を開催いたします。

本日は、所用により、後藤準委員と柳川委員が御欠席との御連絡をいただいております。

配付資料ですけれども、議事次第の下のほうに一覧を示しておりますが、もし不足がございましたら事務局へお声がけをお願いいたします。

それでは、山本座長に議事進行をお願いいたします。


≪2.不当勧誘に関する規律(3)(法定追認の特則)≫

○山本(敬)座長 本日もよろしくお願いいたします。

それでは、本日の議事に入ります。

本日は、消費者契約法の「不当勧誘に関する規律」について、それから「不当条項に関する規律」について御議論いただきたいと思います。消費者庁から各論点の検討のための資料として、資料1及び参考資料1及び2を御提出いただいています。

資料1の表紙の目次にありますとおり、今回は「不当勧誘に関する規律」として「法定追認の特則」について、また「不当条項に関する規律」として「不当条項の類型の追加」に関する論点が示されています。2つ目のほうは、それぞれの類型ごとに4つに区切って、消費者庁からの御説明と委員の皆様による御議論をお願いしたいと思います。

それでは、まず「法定追認の特則」について検討したいと思います。消費者庁から御説明をお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 それでは、今日もどうぞよろしくお願い申し上げます。

まず、「1.法定追認の特則」について、資料を御説明いたします。

1ページでありますが、現行の消費者契約法に、取消しをした場合の効果につきましては、民法の規定に委ねるという規定がございまして、民法125条という規定がそのまま適用されることになっております。

事例でございますけれども、事例1-1はこれまで何回か出た事例でございますが、ちょっと待ちなさいなどと言われて退去するのが困難な状況に陥らされたということでございまして、いわゆる監禁、退去させてくれないケースと思われるものでございますが、契約を締結した後に、一旦退去した翌々日以降に授業料の一部支払いをしたというケースでございます。

それから、1-2も入り口が塞がれて帰してくれない監禁の事例でございます。期間はちょっとたっておるわけでございますが、5カ月後に事業者から求められて支払いをしてしまったという相談例でございます。

ここにつきまして、民法の規定の適用関係がどうなっているかということで、6ページの参照条文をごらんいただきますと、冒頭、消費者契約法11条で、取消しの効力につきましては、民法の規定によるというのが11条の1項でございます。

現行法の民法はどうなっているかといいますと、124条、125条というものがございます。まず124条で、「追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後」と書いております。この「取消しの原因となっていた状況が消滅した後」といいますのは、誤認類型と困惑類型に分けて考えておりまして、誤認類型の場合であれば、その誤認状況が解けたときということであります。例えば不実告知であれば、当該告知が不実であることを知ったとき以降と解しております。困惑の場合は、その困惑状況から脱したときということでありまして、先ほどの監禁の例で言いますと、監禁状態から解けた、出してもらったときということでございます。

法定追認の条文が125条でございまして、「前条の規定により追認することができる時以後に」一定の行為があったときは、追認したものとみなすというものがありまして、その第1号で、全部又は一部の履行というのがございます。先ほどの例で申し上げますと、消費者は代金の支払い義務を負っておりますので、一部であっても弁済しますと、この1号に該当することになりまして、特に困惑類型ということでございましたけれども、監禁状態から脱した、外に出たという形で取消しの原因となった状況が消滅したとなりますので、その後に一部払ったということで、残念ながら法定追認が成立するということでございまして、実際の裁判例もそのように判断しているということでございます。

参考資料1の1-1の冒頭に掲げているところで下線を引っ張っているところですが、そのように判断しているところでございます。

これについてどうするかということでございまして、問題意識としては、こういった形での法定追認の規定をそのまま適用するとしますと、消費者の保護にやや欠けるのではないかということでございまして、1ページから2ページにかけましては、現行法の規定について書いております。

3ページの「イ 法律を認めることに対する不都合性」ということでありますが、消費者契約において、法に詳しくない消費者が、先ほどの例は監禁でありましたけれども、その現場から逃れた後に事業者に請求されるまま代金を支払うという形で、明確に意図しないまま取消権を行使しなくなってしまうことがあり得るということで、これについては何らかの手当てを講ずべきではないかという指摘がございます。

「考え方」としまして幾つかお示ししております。

まず、「ア 法定追認の規定を適用しない」と割り切るという考え方もあろうかと思います。消費者の保護を重視すれば、こういう考え方もあり得るということだと思います。

ただ、4ページのイから書き始めておりますが、法定追認の規定を一切適用しないということにしますと、事業者からすると、消費者が取消権を有すると理解した上で代金を一部払う可能性もあるわけですが、そういった場合であっても法定追認はないという話になりますので、法定追認がそもそも認められている趣旨というのは、取引の安定といいますか、相手方の信頼の保護ということだと思いますけれども、そういう点からしますと、ややどうかという点もあり得るところでございます。これについては、例えば消費者が取消権を有することを知った後でなければという形で手当てを講ずることも考えられないかということであります。

この点につきまして、6ページに戻っていただきまして、今般の民法改正で、この規定がどうなっているかということについて御紹介したいと思います。

まず、124条につきましては、「取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後」でなければならないという改正がされるということでございまして、これはこの124条の適用に関する古い判例で、こういった判断が示されていることを踏まえまして、それを明文化するのだと説明がされております。

他方、上の現行法の125条と下の改正後の125条の違いは、「前条の規定により」というのが現行法ではあるのですけれども、それがなくなっているということでございます。これはどうしてかといいますと、現行法の125条の法定追認の規定につきましては、先ほどの認識といいますか、取消権を有することを知っているかどうかということについては、それは要しないという古い判例があるということでございまして、その125条の判例があるということを踏まえまして、改正後はその取消権を有することを知っていることを要するかどうかということは解釈に委ねるという観点から、前条の規定によりというものを残したままにしますと、124条の取消権を有することを知った後というのがもろにかかってきますので、そこは解釈に委ねるという余地を残すという観点から、このようにしたということでございます。

それで、先ほどの4ページのイに戻っていただきまして、法定追認を一切適用しないということについては、取引の安定からやや問題もあり得るということでありますけれども、上から6行目、「そこで」というところでありますが、消費者が事業者に求められて取消権を有することを知らずに代金の支払いをしてしまう。消費者の場合、法的意味がよくわからないということがままあり得ると思いますので、そうしますと、明確に意図しないまま取消権を行使できなくなるという事態が生じるということでありまして、消費者契約の世界においては、「消費者が取消権を有することを知った後に」という改正後の民法124条と同じような考え方に基づいて、こういった規定を入れるということもあり得るのではないかということをお示ししております。

こういうことである程度両者のバランスを図っていくということも、それなりにできるのではないかと考えられるところでございます。

ただ、「もっとも」というところに書いておりますけれども、そうしますと、この取消権を有することを知ったかどうかというのは主観に係ることでございますので、相手方からするとちょっとわかりにくいという点は残ろうかと思いますので、ここをどう考えるかというのは検討する必要があろうかと思います。

5ページ、「ウ 民法の解釈・適用に委ねる」ということでありまして、今回、民法が改正されますと、改正後の124条、125条の規定が消費者契約法11条を解して適用されることになりますので、それの適用に委ねるという考え方もあろうかと思いますので、お示ししているところでございます。

説明は以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明の内容を受けまして議論を行いたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。阿部委員。

○阿部委員 甲案については、取引関係を著しく不安定にいたしますので、絶対に反対いたします。丙案で十分かと思うわけであります。傍ら、民法改正法案が今、国会に提出されておりますし、いずれこのように変わるということを前提として考えれば、乙ダッシュというのでしょうか、今の考え方、11条が変わらないということであれば、改正後の民法124条あるいは125条と同じような規定を持ち込むということであれば、いずれはそうなるということでありますから、承諾いたします。甲案には絶対反対、丙案で十分と思いますが、どうしてもというのであれば、改正後の民法124条、125条の規律と同じものを消費者契約法に置くことがあり得るかと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、山本健司委員。

○山本(健)委員 御説明、ありがとうございました。結論として、甲案に賛成いたします。資料2を適宜引用しながら意見を述べさせていただきます。

消費者契約においては、法律に詳しくない消費者が、不当勧誘行為を受けた後に、取消権を行使できることを知らずに、当該事業者に請求されるまま契約代金の支払いをしてしまう場合が少なくありません。このような消費者に法定追認の規定の存在を理由に消費者取消権を否定することは、法が消費者取消権を認めた趣旨を没却させてしまいます。

また、もともと消費者取消権は善意の第三者に対抗できず、第三者との関係での取引の安定への配慮はなされています。不当勧誘行為を行った事業者と被害者である消費者との関係において、加害者の取引の安定を被害者の救済よりも重視すべきであるとは思われません。なお、例外的な考慮が妥当する事案には、信義則や権利濫用といった一般法理による対応も可能であると考えます。

実際に、資料1の事例1-1で紹介されております、いわゆる易学事件の控訴審判決である大阪高判平成16年7月30日が、法定追認を理由に消費者取消権の行使はできないとしつつ、公序良俗無効として消費者契約の効力を否定しているのは、法定追認という規定の存在が消費者契約で不合理な結論を招来することの証左であると考えます。

よって、消費者契約法の規定に基づく意思表示の取消しについては、法定追認の規定を適用しないという考え方(甲案)に賛成いたします。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

では、増田委員、続いて、河野委員、お願いします。

○増田委員 私も甲案に賛成いたします。乙案、丙案についての懸念を幾つかお話させていただきたいと思います。

まず、消費者の動揺が続くということもございまして、困惑の状況がどの程度であったのか、それから個人の差異によって困惑の状況を脱したかどうかということの判断が難しいと考えます。

それから、取消権を有するということを知ることが消費者にとっては非常に難しい。情報提供がされていないこととか、自分の経験が果たして取消事由に該当するのかどうかという判断ができないということがあります。

また、取消権を有するだろうと知ったとしても、その行使の仕方がわからないことが多くあります。誰にどのような方法で取消しを主張するのかということがわからないのが現状です。例えば消費生活センターに来て、自分の身に起こったことがどういうことであるのか、今、どういう立場にあるのかということが初めて整理されるということがよくございます。同時に、消費生活センターに来ること自体が、消費者庁のアンケート調査からも数%と言われていることからすれば、多くの方が理解・整理できない状況にあるだろうと思います。

それから、クレジット契約によって自動的に引き落とされるということを考えれば、自分が支払うという認識なく引き落とされて、それが支払いをしているという状況にもなりますので、そういうことから甲案に賛成します。

以上です。

○山本(敬)座長 続いて、河野委員。

○河野委員 ありがとうございます。

今の増田委員とほぼ同様の意見を持っております。ですので、甲案に賛成します。

一般消費者というのは、法律的知識が十分でないといいましょうか、ほとんど知らないと言っても言い過ぎではないと思います。事業者と締結した契約が事業者の不当勧誘による取消し可能なケースだとしても、それに気がつく消費者はほとんどいないというのが現実です。大多数の消費者は、事業者から請求があれば、本当に真面目に考えて商品・サービスの対価を支払ったり、それから事業者からサービスの提供を受けてしまうなどして、消費者が知らない間に、消費者が気づくこともなく法定追認が完成しているという現状が多いのではないかと思っています。

また、今は事業者が法定追認の状況に消費者を追い込むことが可能という状況になっていると思っています。このような状況というのは、一日も早く解消していただきたいと思います。

乙案ですけれども、今、申し上げたように、消費者は当該契約が取消し可能なケースだと一定の時期に知ったとしても、今の増田委員の御意見と同様に、法定追認について理解している人はほとんどいません。どんな形で自分の契約を取消しできるのかを、理解している人は少数です。その中で、事業者から契約締結しましたねと責められたり、早くお金を払ってくださいと執拗な連絡が来れば、契約締結時に住所とか電話番号などの個人情報を渡している経緯から、怖くなってしまって商品やサービスの対価を支払ってしまうケースというのもまま生じていると思います。ですから、乙案もやや採用には値しないと思います。

事業者側からすれば、法定追認が不適用となれば取引の安全が崩壊するという御意見もあるかと思いますけれども、取消しに該当するような不当な勧誘行為をそもそも行わなければよいだけだと思います。悪質事業者以外であれば、甲案が採用されても何ら心配される必要はないと考えます。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

甲案に関しては、その内容を少し確認する必要があると思います。これは山本健司委員にお聞きしたほうがよいのかもしれませんが、甲案を採用した場合には、民法の法定追認の規定が消費者契約については適用されないことになります。資料の6ページで言いますと、民法125条が適用されないということだと思います。ただ、その法定追認に当たるような行為が行われた場合に、それについて黙示的に追認しているのではないか。そうすると、124条の要件を満たしていると言えば、追認されたと見る余地があるのではないか。この点については、そのような余地があるということ自体は認めるのでしょうか、それとも、それも否定するという趣旨なのでしょうか。少し確認させていただければと思います。

○山本(健)委員 御質問いただきまして、ありがとうございます。

本日の消費者庁資料のように、追認の規定の適用は認めた上で、法定追認の規定だけ適用を認めないという考え方をとるとすれば、黙示の追認も追認であると思われますので、そのような事実関係が認められるときには追認の効力が発生するということになるのだろうと思います。

○山本(敬)座長 つまり、124条が適用されることは否定しない。ただ、その場合には、追認の意思をもってされたことに加えて、改正法案ですと、それが取消しの原因となっていた状況が消滅していて、かつ取消権を有することを知った後にされているということが事業者のほうで立証できるのであれば、追認の効力は認められる。これは否定されないということなのでしょうか。

○山本(健)委員 日弁連試案では、追認の規定についても適用しないという提案をしております関係で、ただ今のご質問に対するお答えはなかなか難しいのですけれども、124条の適用は認めて、法定追認の適用は認めないという前提に立つとすれば、今、座長がおまとめになったような形になるのではないかと考えます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、阿部委員。

○阿部委員 私も誤解していると思うのですけれども、日弁連さんは122条から125条を全て適用しないという提案でしたね。先ほどの山本先生の御説明は、それとはやや異なると思いますし、もしそのような御説明であれば、乙案で十分ではないかと思うのです。

○山本(敬)座長 もし御意見があるならばと思いますが、いかがでしょうか。

それでは、ほかに御意見は。河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 これは確認ですけれども、乙案の中に「取消権を有することを知った後に」という文言だけが入っているのですが、「取消しの原因となっていた状況が消滅し」という部分は意図的に落としたということになるのかどうかだけ、ちょっと確認させてください。

○山本(敬)座長 消費者庁のほうからご説明をお願いします。

○消費者庁加納消費者制度課長 そこは意図的にではなくて、「取消しの原因となっていた状況が消滅し」というのがあって、「かつ、取消権を有することを知った後」、改正後の民法の規律を念頭に。

○消費者委員会河上委員長 では、むしろ、ここには「状況が消滅し」、原因となる状況がやんだ後ということが入るのですね。

○消費者庁加納消費者制度課長 ええ。改正後の民法124条の規律のようなものを入れるということを考えております。

○消費者委員会河上委員長 では、そうして下さい。どうもありがとうございました。

○山本(敬)座長 それでは、阿部委員。

○阿部委員 そのような御説明なら、乙案を支持します。

○山本(敬)座長 丸山委員。

○丸山委員 今、行われている議論ですが、基本的にはお配りされている資料の4ページのイに書かれている、「他方」のところの懸念については、124条によって黙示の追認と扱えばよく、仮に甲案をとっていても黙示の追認があり得る。そういう整理になるのではないかとまずは思います。

その上で、ここで問題としなければいけないのは、取消権を有すると知った後に、一定の行為があったら直ちに追認とみなしてしまうことが、消費者契約において問題がないかどうかというところだと思います。1つ気になる点は、先ほどから相談現場の方からも出ておりますように、仮に乙案にした場合に、当初の誤認とか困惑状態からは脱しているのですけれども、誤認を理由とする取消しを申し出るには業者がちょっと怖くて言い出せないとか、あるいは業者の事後的な言動で、払った後にも取消しできるといった誤解のままに、支払いや商品の受領をしているという状況。このような状況のほうが、むしろ消費者契約の場合は多いと言えるのであれば、取消権の存在を知っていたとしても一律に代金の支払いや商品の受領をもって追認とみなしてしまうということで本当にいいのかというのは、少し慎重に考えなければいけないのかなと思います。

他方で、相談の現状を私自身、統計的な資料で認識しているわけではないので、逆に実務のレベルでそういった懸念は少なくて、むしろ取引の安全というほうを重視したほうがいいといった状況であれば、甲案というのはあり得ると考えております。果たして、どちらのほうが懸念として大きいのかというのが、判断しかねるところですけれども、甲案・乙案についてはそういった意見を持っております。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

相談現場で、このような法定追認に当たるような行為がどのようにして行われるかということについて、もし何か情報提供いただけることがあればと思いますが、いかがでしょうか。増田委員。

○増田委員 法定追認という言葉で表現することは少ないと思いますけれども、実際に商品を受け取って、それを消費するとか、それから支払いをしている状況で御相談に来るということがほとんどで、全く未使用だったり、契約直後に御相談に来るということはほとんどないわけです。消費生活センターに御相談いただくケースというのは簡単なケースでないことが多いものですから、そういう意味で言うと、非常に交渉に時間がかかり、解決が難しいということがよくあります。

場合によっては、商品が本来必要のないものだったり、特典が強調されて契約に至った場合にはで、自分の目的とは違うものを実際には渡されていたりということがあって、捨ててしまっているというケースもございます。そうした場合は、全額払わざるを得ないようなこともございますので、大変難しいです。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございます。

ほかには。古閑委員。

○古閑委員 今、こちらは不退去とか、そういったものを事例でも挙げられていますけれども、困惑類型を拡充しようという議論がされて困惑類型が随分広がりそうな議論の中で、そうした取引が全ていつまでも安定しないということは、相当影響が大きいと思っておりますので、そういった議論がある中で甲案というのは賛成できません。

それから、乙案に関しては、先ほど事務局の説明でもありましたけれども、結局、主観の問題なので、それを誰がどうやって立証するのかという問題とも絡んでくると思っていまして、その辺が明らかになっていない中、これでいいのかということは必ずしも言えないと思っております。私は、そういう意味では経団連さんと意見がちょっと異なりますけれども、乙案であっても、そこがはっきりしない以上、賛成できません。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

立証の問題は、消費者庁のほうから御説明をお願いします。

○消費者庁加納消費者制度課長 仮に乙案のような規定を設けたとしますと、取消権を有することを知ったという認識を当該消費者が持っていたということを、取消権の効力を否定する側である事業者のほうが立証しなくてはいけないという形にはなろうかと思います。

ただ、資料の2ページの脚注でちょっと書いております。これは法制審で議論されていたことをそのまま引用したものにすぎませんけれども、脚注2の下から3行目の末尾の「なお」書きのところであります。「取消権を有することを知った」ということについて、どこまで認識を要しないといけないかということについては、その取消しとは何ぞやという概念の正確な法的知識までは不要であるけれども、その法律行為の効力を否定する権利があることを認識していることが必要であると考えられると、民法の議論の中では議論されているということであります。

例えば不実告知のようなものでありますと、当該告知が不実であったとしますと、自分としては何か文句を言いたいということを認識しているということであれば、正確な法的知識までは不要であるけれども、何らか自分は言えるのだという認識ということになるのではないかと思います。ですので、中身が非常に厳格というわけではないと思いますが、事業者のほうで立証という問題はあろうかと思いますので、そこでどこまでバランスがとれるかということだと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。124条の通常の追認の場合と同じような立証責任の分配がされるということだろうと思います。

ほかに質問は。石戸谷委員長代理。

○消費者委員会石戸谷委員長代理 民法の規定を前提とするということになりますと、3ページの脚注7にありますように、「全部又は一部の履行」というものが、債務者として履行した場合だけじゃなくて、債権者として履行を受けた場合も含まれるというのが判例で、学説もこれを支持していると思います。そうしますと、ちょっと話が違うのではないかと金を返してくれと言った後に、例えば配当金を払います、利息を払いますと言って送金してくる。あるいは、監禁状態から脱したときに、やれやれと思ったら商品がどんと来るというのが全部法定追認になってしまって、およそ取消権が機能しなくなる。早期安定ということの関係は、ゆえに取消権の行使期間というのがあるわけですので、甲案でいいのではないか。

知ったかどうかというのは、実務的に大変難しい紛争が起こりそうな気がしますので、ここは余り賛成できません。

○山本(敬)座長 ほかに。山本健司委員。

○山本(健)委員 先ほど阿部委員から、乙案と同じことになるのではないかというお話を頂戴したのですけれども、125条各号に掲げる事実があったということをもって追認とみなすという点については違うだろうと思います。ただ、乙案については、「消費者が取消権を有することを知った後に」ということが明らかになるという面では一歩前進という側面はあるだろうと思います。それをまず1点、申し上げたいと思います。

2点目は、この法定追認の特則が問題となる場面は、不当勧誘行為をやった事業者と被害者である消費者との間の関係に限定され、事業者一般と消費者の関係ではありませんので、適用場面はかなり限定されると思います。そう考えた場合には、そんなに事業者の方々の事業活動が制約されるということにはならないのではないか、そんなに御心配になられるほど大きな影響はないのではないだろうかという気がしています。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 問題の捉え方ですけれども、取消権を行使する理由が幾つかありますけれども、未成年者取消権を想定すると一番わかりやすい。未成年者取消権の場合は、成年に達しないと、みずからは追認できない状態にあります。つまり、その取消しの原因となっていた状況が消滅して、かつ取消権を行使できるということを自分でわかったときから取消しができる。消費者がいつまでたっても消費者であって、未成年者並みだということになるのか、それとも一定の影響下を脱して、まともな判断ができるような状態になった後に、ここに掲げてあるような、まさに積極的に新たに取引を承認するような行為をしたときは、それは自分の自由な意思によって行った取引なのだから、ここで確定してもやむを得ないと考えるかという、そこの違いだろうと思います。

消費者が消費者である限りいつまでも未成年者並みにずっと劣位の状況にあるのだと考えるのであればともかく、ここはある意味では、状況が、つまり物理的・心理的な事業者の影響下から脱したということが言えればいいのではないかということになりますから、常識的には乙案のほうに傾くのではないかと思うのです。

物理的・心理的に事業者の影響から脱したかどうかの認定が余りにも軽くやられてしまうことこそが問題で、先ほどの判例の中にあったように、いつまでも恋愛感情をずっと持たされているとか、そういうものだって影響下にあるわけですから、スタート時点の運用の仕方については、私は厳格にやるべきであろうと思います。

○山本(敬)座長 ほかに御意見はいかがでしょうか。松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 誤認型と困惑型で、状況がちょっと違うのではないかという気がしておりまして、5ページのウに書いてある、「なお、動揺が継続していた」という場合は、困惑状態が続いているということになるので、その状況下における追認というのはあり得ないということだろうと思います。

ところが、誤認型の場合は、誤認していたということを認識しているかどうかが、外形的にはわからないという点で、困惑型よりは難しい部分が多いのだろうと思うのです。時間的な間隔がどれぐらいあればというのが、1つ基準になるかもしれないという気がするのです。難しいですが。履行すればもうアウト、あるいは履行を受ければアウトだということになると、契約と同時に代金を払う、契約と同時に品物を受け取ると、もうそれで追認ですかという話になって、そんなことはおかしいでしょう。これは誰だっておかしいと言いますね。それでは救済の意味がないわけですから。

そうすると、1時間後ならどうですか、1日後ならどうですか、1週間後ならどうですか。これは、大変難しい話になってくるだろうと思います。論理的には、現行の民法、改正提案によって「前条の規定により」の部分を削除する前の現在の民法の文言通りというのが正しいと思うのです。法定追認も、追認するという意思表示をしているわけではない、明示の意思表示をしているわけではないけれども、黙示の追認の意思表示と同じような扱いにして、ただ本人が意思表示と意識しているかどうかは考えないという立場であって、本人が取消権を有することを知らなくても法定追認が認められるという、大正の古い判例をここで持ち出してくる必要は全くないのではないかと思います。

したがって、現行民法の本来の趣旨ということになると、乙案ということになって、あとは先ほど河上委員長がおっしゃったような、知っている、知っていないというのをどういう要素で判断するのかというところだけが残ると思うのですが、これはそう簡単に一律に決められるわけではなくて、いろいろな事情を考慮して、救済すべきかどうかを決めるということになるのだろうと思います。法定追認そのものが、もともと一律のものではなくて、禁反言という考え方でいろいろな事情を考慮して、事業者の信頼を確保すべきだという場合に認められるものだとすれば、まさにいろいろな事情を考慮して判断すればいいだろうと思います。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

ほかに御意見は。後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 私は、基本的には乙案がいいのではないかと思うのですけれども、全く自信があるというわけではなくて、迷いがあるということです。

午前中にたまたま東京都の消費生活対策審議会がありまして、そちらに出席したのですけれども、そこで東京都の高齢者の消費者被害に関する調査というものが報告されました。これによると、消費者被害に遭ったことがあるという70歳以上の被害者の方ですけれども、被害後の行動を見ると、何もしなかったが約5割となっている。被害後に何もしなかった理由として、自分にも責任があると思ったからと回答した人が62.8%と最も高く、6割を超えている。

こういう報告が東京都でなされたのですけれども、この被害を受けても何もしなかったというのは、被害を受けている取引が終わって、代金も払っているという状況が想定されると思いますけれども、その後、何の行動もとっていない、何もしなかったということです。どうしてそうなのかというと、自分にも責任があると思ったからと回答した人が62.8%ということです。対象者は70歳以上ということでありますけれども、そういうことであると、すんなり代金を払ってしまって、これは自分にも責任があるという意識で払っているということが、現実にはかなりあるのではないかという認識を私は持ったのです。

そういうことで考えると、甲案のように、法定追認というのは認められないという話になるというのは一つの考え方だと思いますけれども、一方、こういう高齢者被害というところに焦点を合わせた議論というのを、消費者全体の議論の中でどの程度ウエートを占めたものとして理解するかということもありまして、消費者にはいろいろな消費者がいるわけですので、規定を置くとしたら、一般的なルールとしてどうなのかということを考えた上で、特により保護が必要な部分については、場合によったら別個手当てをするということを考えることも必要なのではないかと思います。

そうだとすると、一律に法定追認の規定を適用しないということよりは、一応適用するということにして、取消権を有することを知っているか、知っていないかというところを柔軟に解釈していくというほうが、対象が高齢者なのか、あるいは全く問題がない人なのかということを含めて、柔軟に解釈できることになるのではないかと思いますので、そういうことであれば、乙案を基本として考えていくということのほうがいいのではないかと思います。

消費者契約法は民法を受けた規定でありまして、その基礎となっている民法のルールを修正するということならともかく、適用しないと条文で書くというのは、適用しないということの根拠づけが結構大変ではないかと思いまして、そこをうまく根拠づけることに自信がなかなかないということがありまして、甲案については魅力を感じながら、最終的には支持しにくいという気持ちでおります。

○山本(敬)座長 いかがでしょうか。増田委員。

○増田委員 先生方の御意見に反対する立場ではないのですけれども、もしそういうことでありましたらば、商品を受領したとか支払ったという外形的なことだけでは法定追認になるものではないとか、知っていたことの立証責任が事業者さんのほうにあるというような具体的なことを解説などで書いていただくことが必要だと思います。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

沖野委員。

○沖野委員 2つあります。1つは、取消権の存在というか、それを有することを知っているということに関してです。その認識にかからしめられていると不確定であるという懸念が示されました。もしその不確定さを除去するとすれば、取消権があるということを伝えれば不確定さというのは除去されると思われ、その上でこのような行為をしたということであれば、まさに黙示の追認に当たるような話になりそうです。

それは、およそ期待できないことなのでしょうか。つまり、取消権の原因が拡大されたときに、必ずしも悪質ではないものの、しかし、いわゆる不当勧誘行為に該当することとなり、取消権が発生することになったときに、事業者側として優良な事業者といいますかそういう事業者が、法律関係を確実にしようと思えば、取消権はあるのだけれども、それが行使されるかを確認するという手段もありそうなのですけれども、そういう対応は非現実的なのでしょうか。これが1つめです。

もう一つは、「取消権を有することを知った後」という要件についての懸念は、取消権を有することを知るというのは、少なくとも法律行為から解放され得ること、つまり、文句を言えるだけではなくて、効力を否定し得るということを知っているということだと思うのですけれども、先ほど来、権利はあっても、その行使を期待できない状況というのが、取消しの原因となった状況とは別に存在し得るのではないか。あるいは、取消しの原因となっていた状況の延長というか、余後効というか、残存効というか、そういう事業者との関係の中で完全に払拭できない状態があって、取消権は知っていても、それを行使することが十分に期待できない。あるいは、後藤委員が御教示くださった、自分にも責任があって、行使してはいけないと思っているという感覚も、それに近いのかもしれませんけれども、そういう問題がこの要件についての懸念として示されており、それをどこかで取り込めないのかと思います。

松本理事長は総合判断と言われたのですけれども、総合判断をどこでしたらいいのかというのがよくわからないのです。その先の信義則ということなのかもしれません。信義則の働き方ですが、そのような追認という主張を言うことが信義則に反するということなのかもしれません。そういう考慮余地があるのかが気になっております。もし可能なら、松本理事長が総合判断と言われた点につきまして、総合判断をどこでするのかを、お考えがあれば教えていただければと思います。

○山本(敬)座長 松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 難しいですけれども、私の発想の前提には、この大正の判決が追認の前提に主観的要件は要らないといったことについて、そこの部分だけを取り上げてルール化すべきでないのではないかというところがあります。いろいろな状況のもとに、この事件ではこうだという判断をしたのではないかという気がするのです。いろいろ交渉があって、しかし、履行しているという状況があったのであれば、法定追認だと言われても仕方がないだろうけれども、そうでないような状況でも、単に履行があれば、あるいは履行を受ければ、それだけで法定追認だとまでは判例自体、言っていないのではないかという想像といいますか、想定がございます。

もしそうであれば、結局、法定追認の部分も、そもそもいろいろな事情を考慮した上で判断しているのだということになってくるので、そこは双方がいろいろな事情を出し合って、最終的には裁判所が判断するということになるのではないかと思うのです。消費者側が私は知らなかったということを証明する。これは口では言えるけれども、直接証明するのは不可能に近いので、こういう状況だから履行したのだ、履行を受けたのだという間接的な事実を主張し、立証する。他方、事業者側は、取消権があることを消費者が知っていたことの根拠となる事情を主張し、立証する。

したがって、消費者側としては、追認と評価すべき事情は全くないのだということを言っていくことになるだろうし、他方で事業者側としては、こういういきさつがあってこういう行為をしたのだから、当然わかっていて追認したのだと私は信頼したのだと主張して、その信頼が正当かどうかということになるのだろうと思います。

○山本(敬)座長 方向としては、そのような可能性もあるように思いますが、大正時代の判決をどう見るかということは、ここで議論すべきことではないのかもしれませんけれども、少し前提となる事情をお話ししておきますと、もともと民法の125条をつくった段階の民法の起草者の考え方は、これは124条の追認が定型的に認められるような場合であって、その意味では、黙示の追認が想定されるものを明確にするために列挙したという理解だったと見られています。

その後、特に鳩山先生以降の学説が取引の安全を強調するようになって、その意味で法定追認は通常の追認とは少しタイプの違う、取引安全のための規定だという主張がされました。そこから影響を受けて、この大正時代の判決が生まれたのではないかと思います。しかし、そのような背景のもとで出てきた判例だとしますと、これがそもそも民法一般について現在も維持できるかどうかも問題ですし、とりわけ消費者契約については、取引安全を強調するような解釈をもとに考えてよいかということが問われるように思います。

沖野委員の言われた、どこで考慮することができるかという点はさまざまな可能性がありまして、松本理事長が今、言われたような方向性もありますし、取消権を有することを知った、ないしは取消権を行使できることを知ったということの評価の中で、実際には判断していくということもあり得るのではないかと思います。このあたりは、解釈に開かれるかもしれません。

それでは、消費者庁。

○消費者庁加納消費者制度課長 ちょっと口を挟んで恐縮でございますけれども、お話をお聞きしておりまして、阿部委員とか古閑委員に御意見を頂戴いたしまして、乙案で取消権を有することを知ったときの立証をどうするかというところに懸念が残るという御指摘は、事業者としてはあると思いますので、そこは私どものほうでどうするのか、ちょっと検討したいと思います。

ただ、これは感想めいたことになって恐縮ではありますけれども、消費者契約法の取消権の追認が出てくる局面というのが、事業者が不実告知ないし困惑をしているということが前提となって、そうしますと消費者に取消権が発生し、それの効力を否定するということで事業者のほうで何かをしたいので法定追認を主張するとなっておると思います。そうしますと、もともとそういった不実告知ないし困惑があるということが前提でありますけれども、その効力を否定するという側の事業者において立証責任を負うということは、あながち証明責任の分配のあり方としては、そんなに不合理ではないのではないかという気もするところであります。

あと、消費者側の立場といいますか、例えば石戸谷先生とか増田委員とか河野委員から、乙案はむしろよくないという御指摘があり、そうしますと、甲案でなければならないのだとお聞きするわけであります。これについては、取引の安全への配慮というのがどうなるのですかというのは、率直に疑問として残るところでありまして、例えば消費者が認識していながら払ったとしても、それでもだめですかというあたりはどうなのかというところは残るところでございますので、その辺はまた、私どもでも別途検討したいと思いますけれども、どうしてもだめなのですかというところはお聞きしたいところでございます。

○山本(敬)座長 松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 大正の判決、事案が全然わからないので、単なる想像ですが、現行民法で取消しの話が出てくるとすれば、1つは詐欺・強迫という大変悪質性の高いタイプの場合と、それから制限行為能力の場合です。河上委員長がおっしゃったとおり、制限行為能力の場合は行為能力が回復するまでは法定追認の適用がない。となると、ここで言う法定追認は、恐らく詐欺・強迫のタイプについて、大審院がこういう判断をしたのだろうと思うのですが、不実告知による誤認や困惑に比べて、行為者の悪質性がもっと高い詐欺・強迫について、取消事由を知っていようが、知っていまいが関係ないという判決を出したのはなぜなのだろうか。

これを合理的に正当化しようとすると、恐らく事前のいろいろないきさつがあって、本件の場合はこうだということじゃないかなと思うのです。わざと騙しておいて、お金を支払ったら法定追認ですよというロジックは、普通はあり得ないと思うのですね。ということで、抽象的な論理ではなくて、恐らく事案との関係でこういう判断になるのではないかと。そうでないと、こんな法理が生き残るはずがないと思います。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

先ほど消費者庁のほうから今後の検討課題を暫定的にお示しいただきましたけれども、それを受けて、もし御意見があれば、今、お出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。特に、ここで出てきたようなさまざまな問題点を踏まえても、なお甲案でないといけないのかという問題提起がされていました。これは、最初、私が山本健司委員にお尋ねした、民法124条の通常の追認の規定を排除するのか、しないのかという点について、排除するという立場もあるかもしれませんが、もし排除しないとするならば、乙案とそう大きい違いがなくなってくるのではないか。このことも踏まえて、なお甲案でないといけないのかという問題点の指摘だったと思います。この点については、いかがでしょうか。増田委員。

○増田委員 法律的な中身はともかくとして、私がお伝えしたいのは、契約してしまった以上、それが不実告知であったり、退去妨害、いろいろあったとしても、商品を受け取ったら、しようがないから使うとか、しようがないからお金を支払うということは、消費者心理としては当然のことです。そこをきちんと御理解いただきたいと思います。

○山本(敬)座長 河野委員。

○河野委員 今の御議論を聞いていて、確かに法律の解釈の仕方はいろいろあると思いますし、後藤座長代理が解説してくださったように、いろいろな視点から見ると、必ずしも甲案でなかったとしても、消費者はしっかりと救われる状況になるというのは大分理解しました。

ただ、今、増田委員もおっしゃっていたように、消費者は、法律的な知識が十分でなく、いざ契約に臨んだときに、契約と認識するというよりも、目の前にある物とお金のやりとか、サービスを受ける、受けないということでしか考えないのですね。これはどういう権利があるというところまで考えて、消費者は日常的に暮らしていない。先ほど河上委員長がおっしゃったように、消費者はもう少し大人になりなさいというところも、確かに重要な御指摘だと私も思うのですけれども、現状というか、私たちも勉強しなければいけないけれども、それにも増して、先ほどからあるように、困惑とか誤認という状況で契約を結ぼうとする事業者さんたちから、私たち消費者を大きな意味でぜひ守ってもらいたいというのは申し上げておきたいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

乙案に関しては、乙案に使われている言葉は、改正民法案の125条について途中までの段階で考えられていたものを踏襲するという方向でしたが、その意味が実際にどのようなものなのかということをもう少し詰めて、さらに検討する必要があるということだろうと思います。

古閑委員。

○古閑委員 先ほど事務局のほうから、不実告知とか困惑しているという前提なので、立証責任が事業者にあってもあながち不合理ではない気もするというお話があったと思うのですけれども、繰り返しになりますけれども、例えば困惑類型にしてもそうですし、誤認にしても、どこまで広がっていくのかという議論とセットで考えるべきだと思っています。

例えば困惑類型についても、今、改めて議事録を確認しましたけれども、方言みたいなものが粗野だから威迫ということがあるのですかと聞いたときに、それはないですと明確には言っていただいていなくて、方言みたいなものも困惑類型に入ってくる可能性もあるときに、事業者としては、威迫を受けたと消費者の方が感じているかどうか、よくわからない中で、それで立証責任まであるというのは、どうやったらいいのか全然イメージがわかないところです。なので、ここについては、ここだけ議論して乙案とか立証責任が云々ということよりも、全体的にどこまで広がるのかということと密接にかかわってくるところだと認識しています。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。現行法のもとで、仮に法定追認の特則で乙案が採用されたとしたら、どのような御意見でしょうか。

○古閑委員 本当に悪質なケースにおいて、ここを考えなければいけないというのはわかるのですけれども、全体がセットだと思っていますので、そうだとすると話が違うということでございます。

○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。

山本健司委員。

○山本(健)委員 今のお話ですけれども、消費者が威迫と思えば威迫になるということではなく、客観的に一般人を基準に決められるのが原則だと思います。したがって、消費者の主観で威迫の存否が決まるというのはちょっと違うのではないかと思います。これが1点目です。

それから、乙案も一歩前進と評価できる側面はあると思っております。これが2点目です。

3点目は、大審院の大正12年6月11日の判決ですけれども、未成年の事案だったようです。

○山本(敬)座長 石戸谷代理。

○消費者委員会石戸谷委員長代理 乙案のほうが有力になっていると思うのですが、乙案のときに、みずから履行するタイプであれば、取消権を有することを知った後という法定追認のことはよく当てはまると思うのですけれども、そうではなくて、相手方の履行を受けるというのは、積極的な行為はないが、商品を送ってくるとか、継続的に送ってくる、あるいは配当利息を送金してくる。いろいろなことを受け取るということで、本人の意思とかかわりなく法定追認の効力が生ずるというのは、そこは乙案の場合、手当てが必須ではないかと思います。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 恐らく立証責任的には、乙案をとれば、消費者側が取消しの意思表示をする。事業者側が、いや、法定追認があったという抗弁を出す。抗弁の中で、取消権を有することを知った後における行為だということを主張・立証するのでしょうが、知ったということ自体を立証するというのは恐らくできないから、知って行った行為だと評価し得るような、いろいろな事情を挙げていくことに、結局はなるのだと思います。事業者側がこれは法定追認として評価して、事業者側の信頼を保護するに値するケースだということを、さまざまな事情を挙げて根拠づけようとする。消費者側は、いや、そうではないという事情をいろいろ挙げるということで、さっき私が言ったようにいろいろな事情で評価するということになると思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ここまでお出しいただきました御意見等を踏まえて、次回、さらに案を詰めた上でお出しいただいて、改めて検討するということにさせていただければと思います。

≪3.不当条項に関する規律(2)(不当条項の類型の追加)≫

(1)総論及び法律に基づく消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させ又は制限する条項

○山本(敬)座長 続きまして、「不当条項の類型の追加」についての検討に移りたいと思います。

まずは、「法律に基づく消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させ又は制限する条項」について、消費者庁のほうから総論とあわせて、説明をお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 次に、資料の7ページ以降になりますけれども、「2.不当条項の類型」について、いわゆる不当条項リストの問題であります。

まず、「(1)総論」で書いておりますのは、現行法8条、9条、10条があり、8条、9条はそれぞれ不当条項リストになりますけれども、10条がいわゆる一般条項として機能を果たしているということであります。8条、9条以外にも不当条項となり得るものは、世の中にあり得ると思われるところでございまして、そういったものをリストとして掲げていくということで、予見可能性を高めていくということが重要ではないかと考えているところでございます。

今般、マル1からマル4までを提示しているわけですけれども、なぜこれなのかということでございますが、8ページに「以上を踏まえ」と書いておりますけれども、今回、基本的には10条の規定で、それぞれ裁判例とか適格団体による差止請求事例というものを中心に、さらに加えまして消費生活相談事例や約款の例。

この約款の例といいますのは、必ずしもトラブルになっているかどうかというのはわからないのですけれども、私どもがいろいろ調査したり入手したりしたものの中で、問題があるのではないかと思われるものについてピックアップし、他方でいろいろな規定を検討する上で、約款の規定ぶりに問題があるというわけではないですけれども、こういう規定があるということも踏まえながら規定のあり方を考えなくちゃいけないという形で加えたものもございますが、そういったものをもとにしまして検討したというものでございます。

続きまして、9ページの「マル1 法律に基づく消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させ又は制限する条項」でございます。

事例2-1-1からごらんいただきますと、2-1-1と2-1-2と、2-1-3以下は事案が分かれております。

2-1-1は、キャセンルなどは一切できませんというものであります。

2-1-2は、裁判例でありますが、進学塾の冬期講習受講契約でありますけれども、代金払込後の解除は一切許しませんという特約があった。この一切許さないというところが消費者契約法10条で争われまして、結論としては10条によって無効であるという判断が示されているという事例でございます。

2-1-3以降は、一切できないとしているわけではありませんけれども、一定の制約を加えるというものであります。

2-1-3は講師養成講座でありますけれども、御自身の都合によるキャンセルはお受け付けいたしません。なお、一定のクーリングオフのみは有効とするとして、ここは認めるのですけれども、それ以外、御自身の都合によるキャンセルについてはお受けしませんという形で絞り込みをしているというものであります。

それから、2-1-4も予備校の受講契約でありますが、「本人の死亡若しくは重大な疾病又はクーリングオフによる場合を除き」解約は認めないということでありまして、解除事由について絞り込みをしているということであります。

それから、2-1-5は葬儀サービス契約でありますけれども、県外への移転でなければ解約できないということで、県外への移転だったら解約できるのですけれども、県内であれば解約できませんという形で解約事由を絞っているというものであります。

最後、2-1-6はちょっと毛色が変わってまいりますが、国際電話利用約款でありまして、「30日前までの書面による通知」によって解除できるとしておりまして、期日と、その解約の方法を書面によるという形で制約といいますか、絞り込みをしている。一切できないわけではなくて、解除するのだったら、こういう形でやってくださいと方法を絞っているということかと思いますけれども、こういったものもございます。制限する条項といいますと、制限の仕方は千差万別でありますので、字句どおり言いますと、例えば2-1-6みたいなものも入ってきますけれども、どうかという問題意識もありますので、こういったものもあえて掲げているところでございます。

こういったものについてどう考えるかということで、10ページの上から3段落目に「これらのうち」と書いています。まず、上2つの2-1-1と2-1-2は、一切できませんとなりますと、民法その他の法律の規定に基づき、本来であれば事業者に債務不履行など、あるいは瑕疵担保の瑕疵責任、瑕疵があるという場合であれば、本来、一定の解除権が発生すると思われるところでありますけれども、そういったものについても排除することになるのではないかと思いますので、消費者にとっては非常に制限的ではないかという気がいたします。

2-1-3以下のものにつきましては、一切できないとまで絞るわけではありませんので、それに比べれば消費者の制限の度合いが緩いと言えようかと思うわけでありますけれども、その中身はグラデーションがあるように思います。例えば2-1-6の国際電話の約款によりますと、こういった形で解除の期限と方法を指定するというのは、事業者からしますと、顧客管理といったことから、一定の方式を限定するというのはそれなりに合理性があるのではないかと思われるところでありますので、こういったところは余り念頭に置く必要はないのではないかという趣旨であります。

諸外国でございますけれども、参考としまして12ページ以下に幾つか書いております。本日、マル1からマル4という形で幾つか提示しておりますけれども、消費者の解除権を制限する条項につきましては、比較法的に見ますと割と厳し目といいますか、無効とするといった形での規律が設けられているのが見受けられるということでありまして、ドイツ法とか、13ページのオランダ法、14ページの韓国法に相当する規定があると思われるところであります。

それから、10ページに戻りまして、では、そういった例を踏まえながら、どう考えるかということでありますけれども、(1)と(2)の2つに分けて御議論いただいたらどうかということで書いてみました。

まず、(1)、一切できないという形で放棄することについては、消費者に本来、法定解除権があることを前提にするわけですけれども、それを一切できないとするのですから、制限の程度というのはかなり強いのではないかということで、無効とすることが考えられる。

他方、制限するというのは、制限の程度とか、どういった局面で制限の必要性があるのかといったところによるのだろうと思われるところでありますので、考え方として契約の性質や種類に照らし、民法その他の法律に基づく法的解除権を制限する合理的理由があるのかどうか。例えばということで、当該契約において提供される事業者のサービス内容が、一定数の消費者との間に契約が締結されることを見込んでいて、解除した場合に他の消費者との間の契約が締結される可能性があるかどうかといったことを見る。

あるいは、合理的な理由が仮にあるとして、それに照らして、その制限内容が相当か。必要以上に制限し過ぎていないかといったところを見て、消費者の利益を一方的に害する条項と言えるかどうかというのを検討することになるのではないかと思いますので、考え方の整理として書いてみたものでございますので、これをもとに御議論いただければと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの説明の内容を受けまして議論を行いたいと思います。

まず、「(1)総論」について御意見等がありましたら、先にお出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。山本健司委員。

○山本(健)委員 ありがとうございます。資料2の2ページを引用させていただきながら意見を述べさせていただきたいと思います。

まず、不当条項規定の追加には賛成いたします。消費者契約法10条の要件は抽象的であるため、これに該当する契約条項か否かの判断は消費者にも事業者にも困難という現状があると思います。消費者保護の観点及び予見可能性の確保という観点から、具体的な不当条項リストの追加を図るべきであると考えます。

さらに意見として、資料1の2の(2)のマル1からマル4に列挙していただいております4種類の規定以外にも、不当条項規定の追加は検討されるべきであろうと思います。資料2の2ページの下に具体例として、(1)から(5)を挙げさせていただきました。少なくとも下記のようなものが存在するのではないかと思います。

具体的には、(1)は事業者の法的責任(損害賠償責任以外)の減免条項です。(2)は消費者に過大な責任を負わせる条項です。これは、9条以外の条項でございます。(3)はサルベージ条項です。(4)は専属的裁判管轄合意条項です。(5)は金銭消費貸借の期限前弁済における利息相当額の賠償を求める規定です。これらは、消費者庁の消費者契約法の運用状況に関する検討会報告書にも検討すべき契約条項として列挙されていたものであります。(1)(2)は、ここに記載させていただいたように切り分け方はいろいろあると思いますけれども、このような契約条項についても検討されるべきではないかと考えます。

以上です。

○山本(敬)座長 それでは、阿部委員。

○阿部委員 総論ということでありますけれども、具体的に不当条項に追加するものがあるということは議論すればよいと思いますが、グレーゾーンは絶対やめていただきたい。日弁連さんの試案にも一部あったかと思うのですけれども、いわゆる白でも黒でもない、推定するとか反証があればというものです。要は、日本のこのような法律、ガイドラインの中で、グレーゾーンというのは事業者の受け取り方としては実際は黒なのです。あるいは、真面目な事業者は黒と限りなく受け取って、そうでない人たちは構わない。そういう意味で、白か黒か、どちらなのか、はっきりさせてほしいというのが総論であります。その上で、具体的な意見を後ほど申し上げます。

○山本(敬)座長 増田委員。

○増田委員 山本先生のほうに賛成いたします。

例えば、事業者の法的責任のところで、解約清算金の返還を不当に長期間、先に延ばすという条項もございまして、解除させないということではないのですけれども、消費者サイドからすれば実質的に解除という状況にはなかなかならないということもあります。

それから、解約料が合理的ではなく、非常に高額であるということになると、実質的に解除を制限しているということになると思います。

また、裁判の管轄合意のところですけれども、ほとんどの契約書にはそれが書いてありまして、少額取引がほとんどである消費者契約においては、消費者の法的手段を剥奪することになっていると思っております。

○山本(敬)座長 井田委員。

○井田委員 これは、消費者庁の方にぜひ確認したいのですが、先ほど山本健司委員から出ました御意見の中で、山本先生が出された書面の2ページの一番下の(5)金銭消費貸借契約の期限前弁済における利息相当額の賠償を求める規定ですが、これは御承知のとおり、民法改正案が出る前の話ですけれども、適格消費者団体における差止請求において、いわゆる期限前弁済において違約金を取るという条項が無効であるという判断が示されたという経緯はあります。もちろん、これは民法改正案前の話なので、改正案が出たからといって、異なる考え方はあると思うのですけれどもね。

期限前弁済における利息相当額の賠償を求める規定の是非に関しては、民法改正の議論の中でも、いわゆる消費者・事業者間の契約において適用除外にすべきではないかという意見もありました。ですので、金銭消費貸借の期限前弁済における利息相当額の賠償を求める規定について、消費者庁はどのようなお考えをお持ちなのか。適格消費者団体による判決がある中で、ちょっと御意見をいただければと思うのです。

○山本(敬)座長 今までの意見を全て踏まえて、消費者庁のほうからお願いします。

○消費者庁加納消費者制度課長 井田委員の御指摘の事例は、適格団体が差止請求して、その差止請求が認められた事例が確かにございますので、そこは踏まえて検討したいと思います。

それで、それ以外の点でありますけれども、山本健司委員からもいろいろと候補が挙げられているところでありますが、私どもとしては、必要性があれば当然やるべきだと思いますし、その前提として、そういった契約条項がたくさん実態としてあるのかとか、そういったところを踏まえなければならないと。

確かに先ほど増田委員がおっしゃった専属的管轄条項というのは、実態としてはよく目にしますので、検討の必要はあろうかと思いますけれども、他方で、そういった管轄条項につきましては、移送の規定でかなり処理されているとも聞きますので、どこまで手当てを講じるべきなのかといった必要性のところは、よく見きわめる必要があろうかと思います。いずれにしても、一定の整理はした上で、やるならやる、やらないならやらない、理由はこうですというのは整理したいと思います。

○山本(敬)座長 大澤委員。

○大澤委員 総論の点だけ意見を申し上げますが、恐らくそうなのだろうと思うので、一応確認させていただきたいのですけれども、今回のリストの追加に当たっては、もう反証の余地なく無効とする条項を追加するという理解で、まず正しいのかということです。つまり、先ほど阿部委員がおっしゃっていた、いわゆる不当と推定される、そのかわり反証の余地を認めるというリストではなくて、推定の余地のないリスト、反証の余地のないリストとして考えているのかということです。

仮にそうであるという前提として、この資料を私、読んでまいりましたけれども、そうだといたしますと、7ページに4つの候補が挙がっていまして、この4つの検討を今からされると思いますので個別の意見は控えますが、この4つを見ただけでも、これは常に無効とは言えないのではないかという条項が幾つかあります。

そうすると、例えば合理的な理由なく制限しているとか、そういう評価余地の入る文言は残らざるを得ないのかなと思っていますので、先ほど阿部委員が、いわゆるグレーリストやグレーゾーンでは困るという話をされていましたけれども、形式的にグレーゾーン、グレーリストというのを仮に今回、とらないとしても、常に無効だというリストをつくるとしても、それだけにするとしても、そういう評価余地を残すような文言を設けないと、さすがにこれは常に無効というのは無理があるのではないかというものがここに見られるというのが、まず1つ目です。

もう一つは、最初に資料を拝見したときに、なぜこの4つなのかというのが直ちに気になりました。それは数が少ないということはもちろんですが、なぜこの4つが選ばれたのかということを非常に疑問に思いました。もちろん、8ページには、裁判例とか相談例とか、実際にあった条項を取り上げましたということで書かれておりますが、それに対して、あえて意見を申し上げますと、例えば諸外国のリストなども掲載されておりますけれども、別に諸外国のリストに掲載されているものが、諸外国で全部紛争になっているわけでは多分ないと思います。

つまり、諸外国でこういうものが具体的に紛争になったから充実したリストになったということではなくて、およそこういう消費者の権利を制限する可能性がある、あるいは絶対的に権利を制限すると言えるようなものを、ある程度網羅的に列挙しているのではないかと思いますので、今後、この専門調査会での議論のスタンスとして、基本的には現に問題となっている条項しか取り上げませんということであれば、それは個人的には非常に残念ですし、いまいち趣旨がよくわかりませんが、そうだということであれば、そういうものとして受けとめて、今後意見を言わせていただきたいと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 阿部委員。

○阿部委員 山本委員のペーパーの2ページに追加の具体例というのが並んでいるのですが、その中の、例えば(4)とか(5)というのは、現に通用している約款などで割と認められているものだという気がします。業法に基づく約款の中でも、こういう条項があるものが多いと思います。こちらでも調べてみますけれども、消費者庁御提案のマル1からマル4の事例も含めて、実際に現に認められているものはどこまでなのかというのは、逆に調べていただければと思います。特に、専属的裁判管轄に関する条項などは、あちこちにあるのではないかと思うのです。それが大臣が認めている認定約款の中になぜ入っているのか、あるいはそれが何か問題を起こしているのかどうか、何か事例があれば調べてください。

○山本(敬)座長 消費者庁からお願いします。

○消費者庁加納消費者制度課長 まず、大澤先生の御指摘のうちの1点目の、評価の余地を伴うといいますか、阿部委員のお言葉で言うところのグレーリストについてはどうするのかということでございます。それは、選択肢としてあり得ると思いますが、そういったグレーリストを導入することについて、どうなのかというところは、この場できちんと御議論いただいて、それで同意が得られるのだったらやればいいと思いますし、難しいというのであれば難しいという話になるのではないかという気がいたしておりますので、可能性として全くないですと今の時点で申し上げるつもりはありません。

他方で、阿部委員も前からおっしゃっていますけれども、グレーリストに対する懸念というのが示されているところであり、それに対してどう考えるかというのは、この場で御議論いただければよいのではないかと思います。

それから、なぜこの4つなのかというところでございますけれども、私どもとしては、これは立法政策としてやっておりますので、実態として、そういう不当条項があるのかどうかというのは重視すべきだろうと思います。そういう観点で冒頭申し上げました。確かに諸外国であるということは、それなりの理由があると思います。そういったところは注意すべきだと思いますので、それを参考にしながら、実態としてないかもしれないけれども、将来あるかもしれないので、入れておくのだという発想もなくはないと思いますので、そこまで一切排除するということを今、この時点で申し上げるつもりはありません。

そうであれば、そのリスクは何でしょうかというところがしっかりと検証されなければならないのではないかと思いますので、そこを御提示いただいた上で議論を進めるということは、いいのではないかと思います。

それから、阿部委員がおっしゃったところにつきましては、当然検証はいたしますが、あえて申し上げますと、専属的管轄条項というのは実態としてたくさんあると思います。実態としてあるのですけれども、それが合理的なものかというところはまた別途の問題としてあるように思います。実は、消費者契約法10条で無効とした裁判例は下級審でありますけれども、ございます。

ですので、これをリストとして加えるということも選択肢としてはなくはないと思いますが、他方で、冒頭申し上げましたけれども、実態として、専属的裁判管轄は既に民事訴訟法の分野でもさまざまな議論が積み重ねられているところであり、まずは専属管轄なのかどうかという解釈をする。その専属管轄であるというのは、かなり絞り込んで解釈するということだと思います。または、移送の処理によって、実務において、かなりしているのではないかと思われるところであり、さらに加えて不当条項リストとする必要性は、よく考える必要があるのではないかということで申し上げました。

とりあえず以上でございます。

○山本(敬)座長 大澤委員。

○大澤委員 今のお話を受けて、さらに申し上げたいのは、まず1点目のグレーリストの話ですけれども、まだ検討の余地が残されているというのは十分承知いたしましたが、私が先ほど申し上げたかったのは、グレーリストという言葉は使いたくもないですが、ブラックリストだけにしますということに仮になったとしても、その中にリストアップするときに、例えば今日出ている条項の中で端的に申し上げたほうが早いかと思いましたけれども、マル1の条項です。この条項についても、常に無効と言えるかは何とも言えないのではないかと思われるところがあります。

そうすると、常に無効とは言えない以上は、例えば合理的な理由なくとか相当な理由なく解約を制限するとか、そういう評価余地が残る文言は、仮にブラックリストに限定したとしても残るのではないかということなので、阿部委員がおっしゃっていたように、グレーリストというのがグレーで困るという懸念というのは、私個人としては、仮に反証の余地なく、常に無効だというリストをつくったとしても、そういう懸念ははっきり言って同じだと思っていますので、いずれにしても文言をつくるときに、評価余地が全くない文言でリストをつくるのは無理だと思っていますので、それを一言申し上げたいということです。

もう一点、実態としてどうなのかという話につきましては、率直な私の印象としては、これまでも、例えば平成19年だったと思いますが、河上先生が代表だった不当条項に関する研究会といったところで、実際にどういう条項が実務上、使われていて、どういう問題があるかを網羅的に検討されていたのではないかと記憶していますし、これまでも実際の裁判例でどういうものがあったかというのは、去年の消費者庁の研究会でもそうだと思うのですが、結構出ているのではないかと思いますので、手元に全く材料がないということではないです。特に、その平成19年の研究会などではかなり網羅的に調査されているという印象を持っていますので、そういったものを見ていって検討する必要があるのではないかと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 阿部委員とは、いつもこのグレーリストのことで議論させていただいているのですけれども、誤解がかなりあるのではないかという気がしています。消費者契約法という法律は極めて広範な適用範囲を持っておりまして、その意味では、ここで定めたルールで無効にするような規律をつくっても、全ての業態、全ての事業に対して、それが妥当するということは必ずしも言えない場合のほうが多い。これは、今、大澤委員がおっしゃったとおりであります。したがって、それに完全に適合するようなルールを探すということになれば、リスト化はあきらめるということと同じだと考えていいのではないかと思います。

現に今、リストがあるじゃないかと言われるかもしれませんけれども、例えば債務不履行や不法行為に基づく損害の発生についての免責条項は、故意か重過失という形で切っていくわけですが、重過失があるかないかというのも、既に評価が入っておりまして、その意味では、今あるルールでさえ、これはグレーと言えばグレーなのです。完全に客観的に無効にしてしまうというブラックリストと、そうではないものと一応2類型ありますけれども、リストを整備しようと思ったときには、評価余地を入れる必要性があり、明示的に、「相当の」とか「正当な」といった表現を用いていわゆるグレーリストと言われているようなものになることが多いというのが第1点です。評価余地の有無と立証責任問題は一応区別した方が良いと思います。

もう一つ、リストの選定の仕方でありますけれども、現に問題となって、裁判所で無効になったようなリストというものを示して、こんなものを使ってはいけませんよというのはいいことなのですけれども、他方で、当事者間で武器対等の原則に反して、一方的に有利になるような条項がある場合に、それを示して不当な内容の条項の利用をあらかじめ抑止する。そして、潜在的なトラブルの発生を取り除くということによって市場の透明化を図るということは、恐らく事業者にとっても、消費者にとっても望ましいことであろうと思いますので、その意味では、リスト化に関して、もう少し前向きな姿勢で臨んでいただけるとありがたいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

今の点に関して、もしほかに御意見があれば、お出しいただければと思います。山本和彦委員。

○山本(和)委員 個別のことに、どれだけこの段階であれするのが適当かわかりませんが、専属的裁判管轄合意について幾つか御意見がありました。消費者庁の御説明のとおり、民事訴訟法を先般改正したときは、法定の専属管轄と合意管轄を分けて、合意管轄については、いわゆる裁量移送、17条移送と言われるものが適用されるということを明確にして、その後の裁判例でも多くは移送で解決されているということは御指摘のとおりです。ただ、裁判例は多いのですけれども、本当に全部あるいは多くのものが移送で解決されているのかどうかというのは、裁判例を見ただけではわからないのではないかと思います。

本当に専属的合意管轄がされていて、消費者のほうは、遠い裁判所で訴えられて、もうこれはだめだとあきらめてしまって、結局、移送の申し立ても何もせずに、そのままいわば泣き寝入り状態で欠席判決がされているという事例が、そんなものは裁判例になりませんので判例集に載りませんから、そういうものが本当にないのかどうかというのが、これはどうやって検証できるのかどうかわからないのですけれども、恐らくそこまで見ないと実態として問題はないと言い切れないのではないかという感じがしておりまして、消費者庁がどこまで調査できるのかわかりませんけれども、そのあたりも考慮していただきたいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見があれば。古閑委員。

○古閑委員 仮にグレーリストみたいなものを設けるとした場合、多分、ケースに応じて総合的な判断をすることになるのだと思いますけれども、そういう総合的な判断は、ここに多くいらっしゃる法律家の方と違って、事業者にリーガルマインドを持った人がそんなに多いわけではないので、適切な判断ができないが故に、結果としてブラック扱いとして捉えざるを得ないという事業者が多くなってくるというのは事実としてあると思います。

今日、いろいろ御意見を聞いていて、確かにグレーという扱いになるものもあるのだろうなという気は私もしていますけれども、結果として、今、申し上げたとおり、グレーをブラックとして扱う事業者がふえた場合に、今まで規定してきた条項が入れられなくなるということになると、今までの処理とは異なる処理になる、取り扱いをせざるを得ないということになるがために、専属的管轄とかもそうだと思うのですけれども、その分事業者に運用コストが増えたりということがあり、そうするとどうしてもその分消費者に向けての価格に反映されたりということがあると思います。それでもいいからグレーを敢えて設けたいのかというのは、本来は多くの消費者がどういう制度設計を選びたいのかということで決めるべきと思いますけれども、事実としてそういうことがあるだろうということは、ここでお伝えしたいと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 私、この論点ペーパーをあらかじめ読みまして、大澤委員と非常に似た印象を持っています。新しく提案されている4つの類型は、結局、相当性判断に委ねられてしまうような規定の仕方をせざるを得ないのではないかと思うのです。そうなると、結局、8条、9条とは違って、10条をもう少しブレークダウンしたような書きぶりにならざるを得ないのではないか。8条、9条型のように、該当すれば、即アウトという形になかなかできないようなタイプが並んでいるのです。

現在の10条の性質はどうかというと、これははっきり言って一般条項的グレーリストなのです。民法・商法の任意規定あるいは最近の判例によると、確立した判例や学説から乖離した特約について、その離れ方が信義誠実の原則に反するほど不当な場合は無効になると言っているわけだから、全ての条文あるいは判例から離れた特約は一応グレーになるという立場だと思うのです。

その中で、今回、4つのタイプについて、特に解除権を制限するようなタイプのものとか、その他幾つかのものについては、特に問題になりやすいということをアナウンスするという意味はあると思うのですが、10条のままにしておくのとがらっと変わるかというと、がらっとは変わらないのではないか。そういう意味の評価的な要素、すなわち、消費者の権利の制限の仕方あるいは事業者への特定の権利の与え方が信義則に反するほど不当なものであるというところかどうかにかかってくるのだとすれば、10条の中で幾つか問題になる類型を特出ししたという扱いになる。

契約書を起草しようとする事業者に対して消費者の解約権を制限するときは、いろいろな事情を考慮して、不当にならないような配慮をしないとだめですよという事前の注意を与えるという点では意味があるだろうけれども、それだけでえいやっと、アウトかセーフか一目瞭然にわかるものではないと思います。

○山本(敬)座長 山本健司委員。

○山本(健)委員 ありがとうございます。

3点ございます。

1つは、グレーリストという問題ですけれども、今、松本先生がおっしゃったご意見に賛成でございます。現に10条があって、それに多くの不当条項の審査が委ねられているという状況を考えたときに、それよりも具体的な不当条項リストを定めるということは、予見可能性を高めるという意味で意義があるだろう、悪い方向に行かないだろうと思います。これが1点目でございます。

2点目はコストという問題ですけれども、現状、民法が改正され、種々の規定が変わり、約款規定も入れられるような状況であるということを考えると、契約書や約款は、どちらにしても見直さざるを得ないだろうと思います。その流れと並行して、消費者契約法の不当条項について、新しいルールが定められることになれば、同時に見直せるわけですから、独立のコストはかからないだろうと思います。それが2点目です。

3点目は合意管轄の問題ですけれども、現実問題として、裁判で移送という前に、そもそも東京地裁でしか争えないという条項があれば、地方の人からすると、もうそれで争うことをあきらめるという事実上の効果があります。この点は、かかる条項を放置しておくことのデメリットとして認識していただく必要があるだろうと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

阿部委員。

○阿部委員 私のほうの言い方がちょっと足りなかったのですけれども、要はグレーリストの意味づけです。どんなに細かく書いてあっても、最後はグレーが残るというのはわかりますけれども、事業者側からしてみれば、ある意味法律を読んだだけでわかりやすい規定になっていないと、EUの消費者権利指令の35条の付表に書かれているものをずらっと並べられて、これはグレーですと言われても非常に対応に困る。非常に煩瑣な書きぶりになるのかもしれないけれども、できる限り不当条項リストにきちんと載せるものは載せて、そうでないものは置いておくということで、日弁連の御提案のいわゆる推定規定が伴うようなもの、あるいは不相当みたいな要件がつくものはなるべく避けていきたい。これはお願いであります。

○山本(敬)座長 古閑委員。

○古閑委員 誤解があるといけないので、私が先ほどコストと申し上げたのは、約款等を変更するためのコストという意味ではございませんので、念のためにお話ししておきたいと思います。

○山本(敬)座長 河野委員。

○河野委員 ありがとうございます。

私自身も消費者の立場からすると、不当条項規定の追加には大賛成でして、今回、事務局のほうから御提出された4つの点以上に、山本委員から出された5つの部分もぜひ検討していただきたいと思っております。

私の手元にある、適格消費者団体の差止請求の事例集には、今回、事務局から出されたマル1からマル4の論点、それから山本委員がここに示してくださっています、特に山本委員の資料の2ページの一番上、事業者の法的責任の減免条項とか消費者に過大な責任を負わせる条項。このあたりは、現在、適格消費者団体が差止請求するときにも、10条で何とか一生懸命頑張っているという条件で、事例は数限りなくとは申しませんが、かなりの数がございます。

先ほどの(4)専属的裁判管轄合意条項に関しましても、山本委員がおっしゃっていたように、東京地裁と書いてあれば、自分にとってみると、これはもう無理な話なのだと、その時点であきらめてしまうということもございますし、それから(5)に関しましても、しっかりとやっていただきたいなという事例がございます。ですから、グレーなのか、ブラックなのかということではなくて、事業者の皆さんが消費者契約法の議論のときに明確でわかりやすくというところ、その初心に戻れば、この不当条項をしっかりと決めることが明確でわかりやすいという言葉を担保するということに近づくことだと理解しておりますので、ぜひなるべく広いところで論点を挙げて整理していただきたいと思います。

○山本(敬)座長 それでは、大澤委員。

○大澤委員 2点申し上げたいというか、質問になるのかもしれませんが、先ほどから出ているコストの件で、私は企業で働いているわけじゃないので、わからないところがあるのですが、若干よくわからないところがあります。

例えば不当だと推定されるというリストがあるときに、これは不当だと推定されますということは、その事業者の側でこれは不当じゃないのですよということを反証するということになるのですが、不当じゃないですよと言うときに、もちろん法的に不当じゃないですよということを言うわけですけれども、基本的にはなぜこういう条項を設けているのか、その設けている理由に合理性があるかどうかというところで反証していくのではないかと思うのですが、例えば解除のできる期間を制限している条項があるときに、なぜ期間を制限しているのですかというところで、これは例えば企業のコストとか、余り長々と解約されるといろいろコストがかかるとか、むしろ企業サイドの解除を制限している理由というのですか、合理的かどうかというのを反証する形になると思うので、例えば法的知識がないので余計コストがかかるとか、私は腑に落ちないところがあって、おっしゃっているほどコストがかかるものなのだろうかという疑問が1点あります。

もう一点の疑問でございます。これは、先ほどEUの指令案の話が出ていまして、こんなにたくさん出されると、しかも推定リストということだと困るというお話が出ておりましたが、仮にこの推定される条項のリストがないとどうなるかというと、例えば今回の調査会で、いわゆるブラックリストだけ、数カ条だけ残しました、新しくつくりましたというときに、それ以外の条項は別に有効ですよというお墨つきを別に与えられているわけではなくて、それ以外の条項についても、言うまでもなく消費者契約法の今ですと10条という一般条項で不当性が判断される可能性は、もちろん今後も残るわけです。

そのときに、一般条項で不当性が判断される。一般条項の文言のほうがはるかに抽象的なわけで、そちらでもしかしたら不当と言われるかもしれないという条項と、そうではなくて、少なくともこの条項は不当だとなる可能性があるものが幾つか示されているという点で、私自身は後者のほうが、まだ明確性があるのではないかという素朴な疑問を持っております。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。総論にかなり時間をとりましたが、とりわけ今、出ているブラックリストかグレーリストかという点については、どのようなものまでであればブラックと考えるのか、あるいはどのようなものであればグレーと考えるのか、抽象的に議論しますとなかなか収斂できないところもあります。その意味では、これから各論を見ていく中で、どのような規定の仕方であればコンセンサスの形成が可能なのかということをにらみながら検討し、そして、またどこかの段階でもう一度このような議論を進めるということにさせていただければと思います。

それでは、少し飛んでしまいましたが、「マル1法律に基づく消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させ又は制限する条項」について、改めて御意見、御質問等をお出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。阿部委員。

○阿部委員 9ページの上の四角でありますが、結論から言いますと、(1)、あらかじめ放棄させる条項は、甲案で結構です。

(2)については乙案と言いたいのですけれども、10ページの下の「規定を設けるに当たっては」というところに書かれているとおりでありまして、今の段階で具体的に、事例で言いますと、例えば2-1-3から2-1-6までを同じに扱うことはできないと思うのです。今の段階で決めろと言われたら、私ども、これは乙案としか言いようがないわけであります。そうではなくて、もう少しここをきちんと整理できるか、10ページの下のほう、あるいは11ページあたりに書かれているように、もう少し具体的に不当条項リストに追加するつもりであれば中身を書いていただきたい。

マル2以下も同じでありますが、今の段階で漠と示されたら、それは乙案だとしか言いようがないので、「規定を設けるに当たっては」というところでもう少し具体的な提案をいただかないと、反対としか言わざるを得ないということです。

○山本(敬)座長 それでは、山本健司委員。

○山本(健)委員 ありがとうございます。資料2の3ページ以下を引用しながら意見を述べさせていただきたいと思います。

まず、前段部分については、甲案に賛成いたします。

後段の甲案をとる場合にはどのような規定を設けるべきかという点に関しましては、資料2の3ページに具体的な提案を書かせていただきました。

まず、「(1)消費者の解除権をあらかじめ放棄させる条項」につきましては、日弁連改正試案の16条と17条9号で、「法令に基づく消費者の解除権を認めない条項」を不当条項とみなすという提案をさせていただいております。

これに対しては、別案として、1条文で書き切るようなワーディングをするとすれば、「法令に基づく消費者の解除権を認めない条項は無効とする」という案も考えられるだろうと思います。

次に、「(2)消費者の解除権の行使を制限する条項」につきましては、日弁連改正試案の16条と18条13項で、「法令に基づく消費者の解除権を制限する条項」を不当条項と推定するという立法提案をさせていただいております。もっとも、これに関しては、反証の具体的な場合が条文上書かれていないという点で不明確であるという御意見も頂戴しているところであります。

このあたりを1条文で、例外のケースも書き込むような形で、仮に条文にするとしたら、どういうものになるだろうかということで、別案を書かせていただいております。「法令に基づく消費者の解除権を制限する条項は無効とする。ただし、解除権を制限することに合理的な理由があり、かつ、その規定が相当な内容である場合を除く」、もしくは、「法令に基づく消費者の解除権を制限する条項は、解除権を制限することに合理的な理由があり、かつ、その規定が相当な内容である場合を除き、無効とする」といった書きぶりも考えられるのではないかということで記載させていただいております。

以下、理由でございます。

甲案を採用すべきことにつきましては、民法等で認められた消費者の解除権は、事業者が債務を履行しない場合などにおいて消費者が契約から離脱することを可能とする重要な権利であります。かかる解除権を排除したり制限する契約条項は、消費者の重要な権利を奪うものであり、類型的に信義則に反して消費者の利益を一方的に害する契約条項であると考えます。

また、消費者契約を律する契約書や約款には「いかなる理由があっても契約の解除は一切認めません」といった事業者の債務不履行を理由とする解除をも否定する契約条項が現に存在しており、そのような契約条項が消費者契約法10条に反する無効なものであることを明確にする社会的な必要性は高いと思われます。

さらに、消費者の解除権を排除・制限する契約条項を無効としても、事業者は、消費者の自己都合解除で被る合理的な損害の填補は可能であり、不合理な結論にはならないと思われます。むしろ、消費者による契約解除を排除・制限する契約条項が、契約解除に伴う過大な損害賠償予定条項を無効とする消費者契約法9条1号の潜脱手段として用いられていることを是正する必要があると思われます。

よって、民法等で認められた消費者の解除権を排除・制限する契約条項を不当条項とする規定を設ける考え方(甲案)に賛成いたします。

具体的な規定内容につきましては、消費者の解除権を排除する条項については、これは有効とすべき合理的な場面を想定しがたいと思われます。したがって、かかる条項はおよそ無効であると規定できるのではないかと考えます。

消費者の解除権を制限する条項については、解除権の排除と大差ない制限条項から軽微な制限条項まであり得るということを踏まえて、合理的な例外を許容した規定内容とすることが望ましいと考えます。この点、消費者契約法日弁連改正試案では、「不当条項と推定する」という条文案を提案させていただいております。

それ以外に、例外を書き込むという方向で考えるとすれば、別案のような形で書く書きぶりはあるかと思います。例外要件としては、当該消費者契約において、解除を制限する理由(目的)が合理的なものであること、及び、その理由に照らして規定内容(手段)が相当であることを必要とするという書きぶりが考えられるのではないかと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見、御質問、あればお出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。大澤委員。

○大澤委員 まず、マル1の件ですけれども、(1)の解除権をあらかじめ放棄させる条項というのは、これは常に無効ということでよろしいのではないかと思います。その意味では甲案に賛成ですが、(2)の解除権の行使を制限する条項のほうにつきましては、これは常に無効とは言えないのではないかと思いますので、規定を設けるとしたら、恐らく二通りあり得るかと思います。

1つ目は、まさしく今、山本健司委員がおっしゃっていた、そして山本健司委員が提出されているペーパーの中に出ている、いわゆる別案のところに書いてあるように、例えば「ただし、解除権を制限することに合理的な理由があり」といった例外を設けるとか、その際に「合理的な理由があり」という、まさしくこれは評価の余地が残りますが、そういう文言を設けるという形でないと、これは常に無効とは言いづらいのではないか。これが1つ目の方法です。

もう一つの方法としては、合理的な場合は除くというのでは、さすがに抽象的過ぎるということであれば、今日、消費者庁から出されている資料の10ページから11ページにかけて書かれているような事柄を、もうちょっと具体的に精査した上で、例えばフランス消費法典のR.132-1条の10号は、「期限の定めのない契約において、非事業者または消費者に対して、解約を事業者に対するよりも長い予告期間に服させること」といったように、具体的な一例を挙げていると思います。解除を制限することが、それでも妥当ではないと思われるような、1つの場面として、いわゆる予告期間が長過ぎる場合があり得るのだということを示している例だと思います。

具体的にこういう形で制限するものは、予告期間などもあり得ると思いますし、それは無効ですよという形で具体化するか、そのどちらかではないかと思っています。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見等がありましたら。後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 これは消費者庁に対する質問なのですけれども、9ページの(2)の「マル1法律に基づく消費者の解除権・解約権をあらかじめ放棄させ又は制限する条項」というところで、「法律に基づく」ということの意味です。その下の(1)を見ますと、「民法その他の法律の規定に基づく」と書いてありまして、法律の規定で明記されている解除権というのが前提とされているという意味なのではないかと思いますけれども、法律で明記されていなくても、解釈によって解除権が認められる、あるいはそれが要請されるという場合はあるわけです。

例えば最高裁で認めたものはありませんが、事情変更があったので解除する。あるいは、相手方に信頼関係を破壊するような行為があったから解除する。また、民法651条が根拠になると考える可能性もありますが、継続的役務提供契約で、特商法で規定している類型に該当しないものについて、その契約から離脱する。あるいは、継続的な商品の購入契約で中途で解約したいとか、法律の規定に基づかないものであっても解約が問題となるという場合があって、それを排除したり制限するということに関しても、法律上、解除権が明記されている場合と同じ問題が生ずるのではないかと思いますが、特にこれは法律上、解除権が明記されている場合に限定するという趣旨でしょうか。

もしそうであるならば、どうしてそういうことにするのかということも含めてお聞きしたいと思います。

○山本(敬)座長 消費者庁のほうからお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 このペーパーをつくった時点では、法律上の規定に根拠があるということを前提に考えておりましたけれども、今の後藤先生の、例えば事情変更とかの場合、どうかというのはちょっと考えてみたいと思います。どちらかというと、かなり法律の規定に近いような気もいたしますので、そこは検討する必要があるのかなと。

ただ、今、幾つか例でお示しいただいたもので、継続的契約の場合の解除といいますのは、継続的契約の性質が何かということにもよるのでしょうけれども、例えば委任契約みたいなものであれば、委任の法定解除権というものがあるケースだと思いますし、そうじゃなくて、一定の製造物の供給契約のようなものとなりますと、恐らく解約権が合意で留保されているものに基づく解除権ということだと思いますので、合意に基づく場合というのは、このペーパーをつくっている時点では念頭には置いておりませんでした。事情変更の解除というのは、合意に基づくものとは違うと思いますので、そこは性質が違うと思いますけれども。

ですので、法律上、判例法理とでも言いましょうか、そういったところは検討の余地があるのではないかという気がいたします。

むしろ、私どももそういうことを入れるということにしますと、阿部委員ではないですけれども、どこまでが範囲になるのですかという問題を引き起こすだろうなという気がいたしますので、そこは御議論いただいたほうがいいのではないかという気がいたします。

○山本(敬)座長 今の点について、もしあればと思います。法律に基づく解除権といいますと、典型的には債務不履行がある場合の法定解除が想定されるわけですけれども、このペーパーを読んでいましても、必ずしもそれに限定しているわけではなく、先ほども少し出ましたように、委任などで認められている、いわゆる任意解除権、つまり無理由解除も民法等で認められている限りでは、ここで言う法定解除権に入っている。それ以外に、明文の規定があるわけではないけれども、判例あるいは学説上一般に認められている解除権がもしあるとするならば、それは入る方向だろうけれども、明確性がどこまで担保できるかという観点から少し考慮したいという御提案だったと思います。今の点に関して、もし御意見等があればと思いますが。河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 今の話の中で考えていくと、法律の規定に基づく消費者の解除権と言っても、事業者に一定の義務違反があって、それに対して消費者がこの取引からはもう手を引きたいという場合の解除権の問題と、それから、そういったこととは無関係に契約関係から離脱したいという無理由の場合の任意解除権とでは、状況がかなり違うという気がします。義務違反を理由とする解除に対して、これを認めないというのは、その救済方法を奪うことになりますから、不当性はかなりはっきりしている。

他方で任意解除権に関して言うと、特定の契約関係に縛りつけるという点で不当性を帯びてくる可能性があるということなので、むしろ任意解除後の、通常は損害賠償が問題になりますから、その損害賠償額の規制の問題として取り上げておけば足りることなのかもしれないという気がします。ですから、一律にここで法定解除権という形の規律にするよりは、ちょうどドイツ民法がそうですけれども、義務違反解除という部分についての禁止条項を用意するほうが、むしろ話がすっきりするのではないかという気がします。

○山本(敬)座長 松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 今の点は、先ほど私が既に言ったと思うのですが、10条の解釈が条文どおりでは既にもうなくなっているということを考えれば、新たに不当条項類型を8条、9条型の絶対無効型と10条の一般条項型の間のタイプとして設けるのだとすれば、まさに10条の現在の考え方、明文の規定がなくても、判例等で認められている権利を制限する場合は対象になるのだということでいいのだと思うのです。したがって、わざわざまた10条と同じような明文の規定がなければだめとする必要はない。そんなことをしたら、また余分な紛争を起こすだけになると思います。それが1点です。

もう一点は、9ページの事例を見ていますと、本来、債務不履行等の解除権を制限するというタイプのものと、それから、契約をした後の任意のキャンセル。これが委任の任意解約権と同じかどうかはかなり議論があるところで、何でも準委任だと言えば入ってしまうのだけれども、かなり曖昧な部分があると思います。そういう中で、例えば8日間はクーリングオフできますと書いている場合に、これはいわば本来民法にない権利を新たに与えているのだ。クーリングオフの特約をつけているという、消費者にとって大変ありがたい規定だと読めば問題ないのです。ところが、その8日間の任意のキャンセル以外は一切認めません。幾ら債務不履行があっても認めませんという趣旨であるとすれば、それはもう無効だというのは当然の話になってくると思います。

ここの事例で挙がっている幾つかのタイプは、本来の権利につけ加えて、新たに消費者に権利を与えているものであれば、不当条項じゃなくて、消費者によりよい条項だということになると思うし、それだけに限定して、それ以外の権利を一切認めないということになれば、不当条項だということになると思います。

3点目は、甲案と乙案の2つしか書いていないということにちょっと問題があるのではないか。甲案という不当条項とする規定を設けるという趣旨が、8条、9条型の、これに該当すれば即無効ですよということを前提としているのであれば、今回、新設しようとしている条項のかなりは、そうではないタイプのものが多い。もしそうしたければ、もっと限定しないとだめだと思います。

そうじゃなくて、先ほど私が言ったことの繰り返しですけれども、10条の非常に漠とした民法・商法の任意規定、あるいは確立した判例とちょっとでも違う契約条項は、全て不当条項になる可能性がありますよという大変不安定な状況よりは、特にこういう条項については注意深くドラフトしてくださいという趣旨で、条項のドラフティングにおけるコストを引き下げるという役割を持つということであれば、甲案と乙案に加えて、丙案、3つ目の考え方を書かないと、甲案についてどういうイメージを持つかによって、甲案賛成、反対という人が出てくるのは、余り建設的じゃないと思います。

日弁連の御提案を見ても、絶対無効だというものと、そうでない、不相当な場合は無効だというものが混在しているわけですから、甲案でもない、乙案でもない、もう一つの考え方というものがあり得るということだろうと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。資料の10ページから11ページにかけて、「規定を設けるに当たっては」以下の部分では、(1)が、今、松本理事長が言われた意味での甲案的な書き方がされているのに対して、(2)が、このような要素を考慮してどう考えるかというもので、松本理事長の御意見によれば丙案的な書き方がされているのかもしれません。

そのような検討課題が示されていることを踏まえて御議論いただければと思いますが、少しだけ先ほど申し上げたことを踏まえてつけ加えておきますと、債務不履行がある場合の法定解除権について、それを排除ないしは大きく制限するような条項が不当条項であるとされるのは、先ほどの意見でも出ていましたように、救済手段を剥奪してしまうという意味で問題があるからであるということだと思います。

もう一つの委任などに規定されている任意解除、つまり無理由解除に関しては、今回の民法改正の案では、任意解除はできるけれども、解除する以上は、委任の場合ですと、消費者契約で言うと事業者なのかもしれませんが、相手方の利益も目的としている契約であるならば、解除はしてよいけれども、損害賠償はしなければならないとされています。もちろん、解除しますと、それから後は履行する必要がなくなりますので、履行を免れた分の費用等はそこから差し引くことになるだろうと思いますけれども、損害賠償はしなければならない。では、やむを得ない理由があるときはどうかと、さらに続いていくわけですが、このような解除を認める場合は損害賠償をしなければならないということがデフォルトルールになりますと、委任解除をおよそ認めないのは、契約からの離脱をさせないことによって、損害賠償よりも多い利益が事業者にもたらされるとするならば、それは民法の規定に比べても不当に不利な条項になっているということができます。ただ、このような見方をしますと、そこには損害賠償額の予定の問題と重なる問題が出ていることがわかってくると思います。

その意味では、解除ができないということを不当条項として見るか、仮にそれを不当条項とみるとしても、そこから後の損害賠償額の予定に当たるものとして、どこまでであれば有効であり、無効であるかという点は、現在の9条ともかかわる部分ですので、それに照らして考えることになっていくのではないかと思います。

思いのほか複雑な問題がここで出ていることに気づかされるわけですが、もしさらに御意見があれば、お出しいただければと思います。後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 松本理事長の御発言が非常に示唆的でしたので、私も考えたのですけれども、先ほどからグレーリストというのはどういうものなのかという問題が出ていまして、10条自体もグレーリストだという話が出ていますので、これからグレーリスト的なリストをつくるときに、10条の規定を参照するような形でつくるというのが1つあるのではないかと思います。

消費者の解除権を排除するということになると、これはブラックリストでいいのではないかと思うのですけれども、制限するということになりますと、先ほどから制限の仕方として合理的な理由があるとか、そういう表現の仕方というものが出ておりますが、むしろ10条の定式に載せたような形で、消費者の解除権を制限する条項は、その制限が民法1条2項の規定する基本原則と比較して、消費者を一方的に害するものでないことを事業者が証明しない限りは無効とする、というような規定の仕方もあり得るのかなという感じがします。

そのときに10条の構造で、先ほど松本理事長も指摘なさっていましたけれども、この10条自体が任意規定というのを判例では排除しておりまして、この専門調査会でも前回の議論で、当該条項が存在しない場合に比し、という形で10条前段を考えていくという方向が出ておりますので、そういうところも考えながら、それと整合的な形で不当条項リストをつくるというのが一つの方向としてあるかなという感想を持ちました。

○山本(敬)座長 私自身、実は年来、8条・9条も10条を具体化したものだということを主張しているのですが、余り顧みられていない見解ですけれども、そのような方向に近い御意見だったと理解しました。

阿部委員。

○阿部委員 そうなると、具体的な規定はそのまま10条の各号みたいなものになっていくのでしょうか。

○後藤(巻)座長代理 特に、権利を制限するというものについては、そういう規定の仕方があり得るのではないかと思いますが、いろいろな不当条項がありますから、10条的な形で条文化できる不当条項というものがそんなに多いとは思いませんけれども、10条的な不当条項の規定の仕方ということをすれば、グレーリストでも、10条はグレーリストだという理解のもとに、いわば従来と同じものがより明確になったという御理解をいただけるのではないかと考えたのですが。

○山本(敬)座長 わかりました。

大澤委員。

○大澤委員 すみません、私の言い方が誤解を招いていると思ったのですが、私は10条はグレーリストだと言っていません。10条は一般条項ですので、現行法のままだとしても、例えば信義則に反してとか、評価的な評価余地の残る文言はありますよということで、この10条だけという状況と、10条を具体化したものが私も8条、9条だと思っていますが、8条、9条に追加して、さらに10条を具体化できるようなものが並んでいるというのと、どちらが明確ですかという趣旨で申し上げましたので、ちょっと言い方が悪かったとすれば訂正します。

○山本(敬)座長 ありがとうございます。

では、松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 今の議論の混線は、恐らくグレーリストと言うことによって何を言っているかという話だと思うのです。8条、9条は、それに該当すれば基本的に無効になるというリストだから、それ以外の評価は原則要らないわけです。ところが、10条だと、法律から離れていれば、それだけでアウトになるわけではなくて、さまざまな評価を加えた上で不相当かどうか判断するということです。

それで、グレーリストという言葉でもって、10条的な評価の余地のある部分を考えるのか、それともEUの一部の国のように、推定規定を考えて、立証責任をひっくり返すというところまで持っていくのかによる、その2つの違いであって、大澤委員は恐らく推定規定まで行くものをグレーリストだと考えられているのだと思います。私は推定規定まで行かなくても、10条の評価的な部分をもう少し具体化したタイプに当てはめるという10条の展開、それは8条、9条とは全然違う展開なのですけれども、それでも十分じゃないかと考えています。この種の条項について不相当な場合はだめですということを明示するという意味で。

○山本(敬)座長 阿部委員。

○阿部委員 はっきりと申し上げれば、私がグレーリストと言っていますのは、日弁連試案18条あるいはEU規定35条のような推定規定を前提とした規定ぶりです。

(2)事業者に法律に基づかない解除権・解約権を付与し又は事業者の法律に基づく解除権・解約権の要件を緩和する条項

○山本(敬)座長 ありがとうございました。不手際な議事進行で、かなり時間が押しています。 同様のことは今後も問題になると思いますので、次の論点に移らせていただきます。「事業者に法律に基づかない解除権・解約権を付与し又は事業者の法律に基づく解除権・解約権の要件を緩和する条項」についての検討に移ります。消費者庁から説明をお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 できるだけ手短に御説明いたします。17ページのマル2でありますが、法律の規定に基づかないということを前提にしたいと思いますけれども、事業者に法律に基づかない解除権・解約権を付与し又は法律の規定に基づく解除権・解約権の要件を緩和するという条項も見られるところでありまして、これについてどう考えるかということであります。

事例の御紹介でありますけれども、2-2-1は古物買い取りということでありますが、「上記物品は不正品ではありません」と誓約しながら、御社において上記商品について不正品の疑いを抱いた場合には解除することを承諾しますという形で、事業者の解除権を認めているということになりますが、この「不正品の疑いを抱いた場合には」という書き方が問題ではないかと思います。

不正品ということになりますと、通常売買契約だとしまして瑕疵担保責任その他の責任が発生すると思いますので、それは法定解除権という形で事業者が当然解除することができるということになろうかと思いますけれども、疑いを抱いたというところで、それが不正品かどうかという問題と離れて解除することができるということになりまして、解除権が広がっていると見ることができるのではないか。

ただ、この問題は、後でマル4で取り上げていただければと思いますけれども、契約の該当性の判断の問題という側面もあろうかと、契約の要件の該当性の問題というところもあろうかと思いますので、そちらでも問題となり得ることかと思います。

それから、2-2-2、建物の賃貸借契約でありますが、賃借人にいずれかの事由が該当するときには、賃貸人が直ちに本契約を解除できるということで、「直ちに」という点と、それから解除事由として、成年被後見人などの申立てなどを受けたときというものがございます。これは、成年被後見人などの申立てなどを受けたからといって、直ちに債務不履行等に該当するわけではありませんので、解除事由として法律の規定に定めるところ以上のものを定める、付与するということかと思いますが、この事例は、下の脚注13に書いておりますけれども、適格団体による差止請求の訴訟が起こされ、差止請求が認められた、10条によって無効と解すべきと判断された事例でございます。

ただ、後ほど、具体的にどういうふうに要件立てを検討していくのかという話になりますが、建物賃貸借契約であるということで、安易に解除を認めますと賃借人が生活の本拠を失うとか、あるいは成年被後見人の申立てを受けたということは、賃料不払いのリスクがふえたというところかと思いますけれども、他方で、後見人がつくことによって財産管理がしっかりされる面もあるというところを勘案して、こういうふうに判断したのではないかと思われるところでありまして、契約の性質などを見ていく必要があるのではないかと思うところであります。

それから、2-2-3は保証会社との契約ということでありまして、電話を持たない場合には解除するということであります。連絡などをしっかりとりたいということで、解除事由として、こういうことをつけているということだと思いますが、電話でなければならないのかどうかというところが評価の余地があり得るということだと思います。

それから、2-2-4はDVDの予約をしたときに、1週間を経過しても引き取りがなかったらキャンセルしますという条項であります。これは恐縮です。書いておけばよかったのですけれども、店舗において置いておくということで、1週間してもとりに来ないときはキャンセルさせてもらいますということですが、あわせて、その場合にお金を返してくれるかどうかという点が実はございます。

参考資料1のほうをごらんいただきますと、これは苦情相談の事例ということで、現物を見ているというわけではないという点は留保する必要があります。5ページ、相談事例のところで、キャンセルするということで、返金はない、物は引き渡してもらえないわけですけれども、その場合に払ったお金も返してもらえない。売れ残っていたときは引渡しをするという取扱いがされたということでありまして、そのお金が返ってこないという点もあわせてみますと、ちょっと不当性が出てくるのではないかという条項であります。ただ、ここは先ほど座長の話にありましたけれども、損害賠償の予定というところが絡んでくる可能性がある条項であります。

それから、2-2-5はちょっと毛色が変わってまいりまして、信用組合の預金規定でありますけれども、暴力団員とか、そういった構成員であると判明した場合、あるいは暴力的要求などをした場合には解除させてもらいますという規定であります。これは、反社会勢力を排除するという観点から、一定のニーズはあるのではないかと思われるところでありますけれども、法律に基づく解除事由かと言われたら、必ずしもそうではないと思われるところでありますので、法律の規定に基づかない解除権を事業者が持っているからといって、必ずしも不合理ではないものもあり得る例として掲げてみました。

それから、2-2-6もちょっとまた毛色が変わってくるわけでありますが、賃貸借契約で家賃を7日以上滞納したら無催告で解除。無催告という点が一般原則とは変わると思います。あと、7日以上ということでありまして、これはいわゆる信頼関係の破壊がこの程度で認められるかどうかといいますと、必ずしもそうではないのではないかと思われるところであります。そうしますと、判例法理からするとちょっと問題があるという条項ではないかと思いますが、そういった例として挙げております。ただ、7日以上滞納した場合に無催告解除ということで、少なくとも法律の規定以上に解除権を広げているということになろうかと思われるところであります。

それで、諸外国の規定につきましては20ページ以下で御紹介しておりますが、先ほどの消費者の解除権の制限ないし排除に比べますと、どちらかといいますと、やや緩めといいますか、評価の余地を伴う、あるいは推定されるというものがあるのではないか。オランダ法とか、フランス法132-2条、印象論ですけれども、そういう気がするというところであります。

18ページから19ページでありますけれども、そういったことを踏まえつつ。これも先ほどの(2)と同じような書き方になってしまいますけれども、契約の性質や種類などに照らしつつ、事業者に法律上認められていない事由による解除や法定解除権の要件の緩和を認める合理的な必要性。例えば、契約の解除をしないと事業者の事業活動に不当な支障が生ずる。先ほどの暴力団排除などはそうだと思います。あるいは、対価を回収することができないリスクとか、賃貸借契約の解除の場合などが当たるかと思いますが、必要性が合理的かどうか。

さらに、疑いを抱いた場合には解除できますよという不正品の例を申し上げましたけれども、そういった解除事由の要件の該当性の判断の客観性の担保という問題もあろうかと思います。

さらに、最後に書いていますのは、消費者に認められている解除権との均衡ということでございまして、これは諸外国の例を見ておりますと、例えば20ページのフランス法のR.132-1条の8項を見ますと、「事業者に契約を裁量により解約する権利を認め、非事業者または消費者に同じ権利を認めない」というのがございまして、事業者だけ解除権を持って、消費者に与えないというのは無効。反証の余地がない形で禁止と推定するということで、ブラックリストということかと思いますけれども、事業者が裁量による解除権を持っていることをあわせ持ってということかもしれませんが、こういった要素がありますので、ちょっと掲げてみたところでございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明の内容を受けまして議論を行いたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。山本健司委員。

○山本(健)委員 ありがとうございます。資料2の5ページ以下を引用しながら意見を述べさせていただきたいと思います。

まず、前段の問題については、甲案に賛成いたします。事業者に民法その他の法律の規定に基づかない解除権・解約権を付与する契約条項や解除権・解約権の要件を緩和する契約条項は、事業者に消費者に対する契約責任を一方的に消滅させることや緩和することを許容する規定内容であることから、不当条項の一類型として位置づけるべきであると考えます。

後段の問題、甲案を採用する場合の規定内容としては、このような契約条項については、種々の態様が考えられることを踏まえ、合理的な例外を許容した規定内容とすることが望ましいのではないかと考えます。

この点、1つの条文に例外となる場合を含めて書き込むとすれば、資料2に条文案として書かせていただいたような形、具体的には「事業者に民法その他の法律の規定に基づかない解除権・解約権を付与し又は民法その他の法律の規定に基づく事業者の解除権・解約権の要件を緩和する条項は無効とする。ただし、解除権・解約権を付与又は要件を緩和することに合理的な理由があり、その規定が相当な内容である場合を除く。」といった条文案が考えられるのではないかと思います。

この点、資料1の19ページに列挙されている4つの事由につきましては、この問題を考える上で重要な御指摘ではないかと思っております。これらの位置づけについては、個々の事案について、目的の合理性、手段の相当性の考慮要素として考察されることが相当な事由ではないかと考えます。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

阿部委員。

○阿部委員 今のままだと乙案としか言いようがないのですけれども、具体的に事例2-2-1とか2-2-5から外れるような規定ぶりというのを提示していただかないと、ここは判断しかねます。ちょっと余計なことを言いますと、山本先生の提案というのは意外とありかなと思っているので、ちょっと考えさせてください。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございます。ほかに御質問、御意見、あればと思いますが、いかがでしょうか。古閑委員。

○古閑委員 この資料にあるとおり、消費者の利益を一方的に害する条項かどうかということの検討が非常に必要だと思いまして、これを入れている事業者さんはそれなりにいると思うので、きちんといろいろな事業者さんをヒアリングしたほうがいいと思うのですけれども、例えば1つあり得るものとしては、不正な形で利用しているということで、サービスもしくはほかのユーザーに迷惑をかけるような場合というのは、解約という形でサービスを打ち切るようなケースがあります。

これは、何に当たるので、よって、それは約款のどこに抵触して債務不履行に当たるのでという説明を細かくすると、悪いことをする人はもぐらたたき状態で、これがだめだったら、あの手を使おうという形をとってくるので、細かく説明すると、また別の手段に出るということがあるので、そういった説明をせずに解除するということはよくやられていることだと思います。これは、そのいきなり解除された人からすると不利益があったという見え方になるかもしれないのですけれども、ほかの影響を考えるとそういったこともせざるを得ないと思います。そういったこともあるので、それとは別の事情により、こういうものを入れている事業者さんもいると思いますし、この辺はよくヒアリングをお願いしたいと思っています。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御質問、御意見等があればと思いますが、いかがでしょうか。大澤委員。

○大澤委員 私自身は、このマル2のような条項については、二通りあり得るかと思っています。

1つは、山本健司委員が提案されているように、ただし、合理的な場合は除きますという形で、無効な条項、いわゆるブラックリストとして掲げるというのが1つです。もう一つは、これは不当条項と推定されるというのが限界じゃないかと思っていますので、要は常に無効とはこういう条項は言えないのではないかと思っていますので、そのどちらか。

あるいは、これも18ページから19ページにかけて書かれているような、例えば消費者に認められている解除権との均衡といったもの。これだけを取り出して、例えば規定化する。フランスはそういうふうになっていますが、こういった方向しかないのではないかと思っています。つまり、このマル2を常に無効とするのは難しいのではないかと思っています。

その点で、事例2-2-4、DVDの件で1つ気になったことがあるのですが、これは問題なのは、具体的な事例を見るとキャンセル扱いにしますということが書いてあって、しかもあらかじめ払ったお金を返さないというところに問題があるのではないかと思います。ただ、実際には、CDとかDVDの予約をするときに、広く店舗などでよく行われていると思うのですが、例えば入荷して5日間たっても来なかったら、そのままキャンセル扱いにしますという場合は、私などが経験した場合ですと、お金を別に前払いしているわけではなくて、単に取り置きをしてもらっているというだけの話ですので、こちらがとりに行かなかったときに、商品をもらってもいないのにお金を取られるということにはならない。

そういったように、この事例2-2-4のようなものが常に無効と言えるかというのは、これは場合によって、かなり変わってくるのではないかと思います。その観点からも、個人的には常に無効というリストにしたいのであれば、山本健司委員が出されているような案が一番あり得るかなと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに。増田委員。

○増田委員 古閑委員の御発言については、私もよく理解していまして、例えばオンラインゲームを一方的に退会させられたという御相談が入りますけれども、その理由については明らかに説明しないし、消費生活センターにもしない。ただ、裁判上、恐らく合理的な根拠ということで示すということは事業者さんのほうでできるはずですし、それをすれば認められるだろうと思いますので、合理的な理由があるということが事実であれば、それは当然だと考えております。

ただ、例えば事例2-2-1のような買い取りのケースというのはよくありまして、ブランド品とか貴金属とか中古バイク、そのような価値判断が消費者にとっては非常に難しい。それから、真贋判定ができない。それは本物だと理解していたというケースで、事業者のプロの目から見て買い取りをしたにもかかわらずということでのトラブルが、実際にあります。また、新しい住居を購入した後、前の中古住宅を解除されるということがあったとしたら、非常に大きな損害が発生してしまう、困った状況になるということもございますので、基本的には甲案賛成で、合理的な理由があればということで理解しています。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。現在、出ている提案はこのようなものですけれども、より立ち入った形での要件設定が可能であれば、それが望ましいという御意見もかねてから出ているところです。そういった点について、もしさらに御意見をいただけるのであれば、今後、詰めをしやすいのですが、いかがでしょうか。

あるいは、その他の問題点についての御意見、御質問等でも結構ですが、いかがでしょうか。では、沖野委員。

○沖野委員 個別に挙がっている事例の評価はグラデーションがあると考えています。一般的にそう言えますし、特に2-2-5などは認められないと問題だというのはあると思います。2-2-1も、問題点は不正の疑いを抱いたというのが一方的な判断であるという点にあるのであって、もしこの条項が「不正品であったときは」となっていればどうかというと、それは、不正品の解釈の問題があってこれがかなり広いとまた別ですけれども、不正品であったときに解除をするというのは合理的な内容のように思われます。

さらに気になりましたのは2-2-3とか2-2-4です。事例を見てみないとわかりませんけれども、2-2-3について、例えば一定の連絡方法を設営する必要があり、その連絡方法として電話を持つことを約束しますという形になって、それがなかったときには解除するという条項だったら、一体どう評価されるのか。つまり、その部分の義務を負ったという約定だと考えると、義務違反に対する解除とも見られます。また、2-2-4についても、かなり一般化している条項だと言われますけれども、恐らく通常は入荷がされたら、そこから1週間以内にとりに来てくださいという連絡があると思います。入荷の時期が不明だからこそ、こういう話になっているのではないかと思うのです。そうすると、受領義務との関係が出てくるのではないかと思います。解除自体は合理的なもので、受領義務違反に対する解除だけれども、問題は清算条項の方で、ここが不当であるということが問題だと考えられます。

そもそもこれらの事例を民法その他の法律に基づかない解除権を付与している条項と見てよいのかということ自体も問題になるように思われますので、その観点も考慮に入れたうえで具体的に検討する必要があると思います。

○山本(敬)座長 御指摘、どうもありがとうございました。

ほかに御質問等があればと思いますが。大澤委員。

○大澤委員 具体的な事例で言うと、2-2-6という条項がありますけれども、7日間滞納した場合に無催告で契約解除することができますということで、そもそも家賃を7日滞納しただけで解除は、今の民法の判例上はできないのではないか。そこまで信頼関係が破壊されているとは、多分言えないと思いますので、そういう問題もまず1つあるのですが、そこはとりあえずさておくとしても、この問題は7日以上というのが短過ぎるということが1つだとすれば、これは今の民法の判例でもクリアできます。

もう一つ、無催告でという、要は解除するときの手続を一部省略するということが問題になっているのではないかと思います。以前に最高裁で保険契約の無催告失効条項の効力が問題となったことがありますが、こういう形で解除するときの手順を一部省略するような形で勝手に解除してしまう。そういうタイプのものであれば、不当になる可能性はあるかなと思います。

そうすると、2-2-6と、それより上の5つの事例というのは、今の沖野先生の意見と重なるところがあるのですが、かなり性質が違うところがあるのではないかと思います。1つは、こういう催告をやらないでといった、形式を踏まない形で解除してしまうという具体的な例を挙げるということであれば、検討の余地があるようにも思います。

以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

時間が押しておりまして、専ら私の不手際のせいなのですが、まだ検討するべき課題が残っているだろうと思いつつも、さらに論点がございますので、次へ進むことにさせていただいてよろしいでしょうか。

(3)消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったものと擬制する条項

○山本(敬)座長 続きまして、「消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったものと擬制する条項」についての検討に移りたいと思います。消費者庁のほうから説明をお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 23ページの「マル3消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったものと擬制する」というものであります。

事例2-3-1、ウォーターサーバーのレンタルというものがあるわけですけれども、それの無料お試しキャンペーンというのがあって、そのキャンペーンの規約の中に、無料お試し期間中にキャンペーンの終了手続がある。それが行われず、かつレンタル商品が指定の配送センターに返却されなかった。ですので、これは不作為をもってということになろうかと思いますが、そういった場合には、本サービスを継続して利用する意思があるものとみなし、有料サービスへ移行して課金が発生するというものでございます。最初は無料サービスですが、一定の不作為があった場合には契約をする意思があるとみなすというものだと思います。

それから、2-3-2、ソフトウエアの使用条件ということで、「理由のいかんを問わずメディアの包装を開封されたお客様は」、一定の使用条件を承諾したものとみなしますということで、いわゆるシュリンクラップ契約というものだと思いますけれども、これも多々見られるところでございます。

こういったものについてどう考えるかということでありますけれども、一定の作為又は不作為をもって意思表示とみなすということでありますので、当該作為又は不作為というのが意思表示に近いということであれば、消費者にとっての予測可能性を害することはなかろうかと思いますけれども、それが必ずしも予測できないとなりますと、消費者にとっては不意打ち的に機能するおそれがあるのではないかということであります。

諸外国の規定でございますけれども、25ページにドイツ法と韓国法が書いてありまして、一定の作為又は不作為によって意思表示とみなすというものについては、無効にするといったものがございます。ただ、例は、私どもが見渡す限りは、この2つであります。

それで、23ページの末から24ページ、どう考えるかということでありまして、まず24ページの冒頭の、作為の場合と不作為の場合で同様に取り扱うか、差をつけるかということもあろうかと思います。作為の場合であれば、一定の作為を消費者がしておりますので、その積極的な行為があるということをもって意思表示を擬制するというのは、一種あり得るというか、認めやすいのではないかと個人的に思うところでありますけれども、不作為でしなかった場合にみなすという形になりますと、消費者からするとやや飛躍が大きいのではないかと思われるところであります。

また、意思表示の擬制について十分な説明がされたかという点でありまして、消費者にとっての不一致性からしますと、いつまでにこういうことをしていただかないと、こうなりますよということが重要かなと思われるところでありまして、そういった説明がきちんとされていたかどうかというのも考慮事情に入ってくるのではないかということで書いております。

また、擬制される意思表示の性質が何かというところも重要な視点ではないかと思いまして、2-3-1の事例では、課金されるということで、金銭の支払い債務が発生するというものであります。また、無料のお試しキャンペーンが単なるサービスだとしますと、ここで初めて契約を締結することになると思いますので、そういった非常に基本的な重大な影響のあることになればなるほど、不当性がふえてくるのではないかという考え方であります。

最後は、当該作為・不作為と擬制される意思表示との関連性ということでありまして、恐らく消費者にとっての予測可能性というところを配慮してあげないといけないということだと思いますから、当該作為・不作為と擬制される意思表示の関連性が近いのであればいいのですけれども、飛躍がある場合には不当性が高くなってくるということではないかと思います。

こういったところをたたき台にして検討していただければと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明の内容を受けまして議論を行いたいと思います。御意見、御質問のある方、御発言をお願いいたします。阿部委員。

○阿部委員 ここは明確に乙案だと思います。さらに、24ページにあるような条件で書き加え、あるいは詳細にしたとしても、複雑になってわかりやすいものになるとは思いませんので、まさに10条に委ねるべきものだと思います。ここは明確に乙案だと思います。

○山本(敬)座長 それでは、山本健司委員。

○山本(健)委員 ありがとうございます。資料2の6ページ以下を引用しながら意見を述べさせていただきます。

まず、前段の部分については、甲案に賛成いたします。消費者が何らの意思表示をしていないにもかかわらず、一定の作為又は不作為をもって当該消費者の意思表示を擬制する契約条項は、当該消費者の真意に反する法律効果が擬制された場合には、当該消費者に予期せぬ不利益を与えることになります。

また、実際にも、商品を開封したことを細かい契約条件の承諾の意思表示とみなす事例や、「無料お試し」「無料キャンペーン」「無料体験」等とうたって申込手続をさせ、消費者が積極的な解約手続を行わない限り有償契約を締結する意思があるとみなして有償契約に移行する事例(特に解約手続に関する説明がない又は不十分である、解約可能期間が短い、解約手続を要式行為にするなど困難にしてあるといった事例)におけるトラブル事案が問題となっております。

よって、このような契約条項を不当条項とする規定を設ける考え方(甲案)に賛成いたします。

甲案を採用する場合の具体的な規定内容ですけれども、事業者が消費者に意思確認をしなくとも消費者の意思を擬制することが合理的であると考えられる場合、例えば、当該作為又は不作為と擬制される意思表示との関連性が強く、当該作為又は不作為をもって特定の意思表示があったものと評価することが合理的である場合などは、意思表示擬制条項について有効性を許容できると思われます。このような合理的な例外を許容した規定内容とすることが望ましいと考えます。

この点、日弁連試案では、「一定の作為又は不作為により、消費者の意思表示がなされたもの又はなされなかったものとみす条項」を不当条項と推定するという条文案を提案しております。

1つの条文に例外となる場合を含めて書き込むとすれば、別案として書かせていただいたような条文案も考えられるように思います。具体的には、「消費者の一定の作為又は不作為により、消費者の意思表示がなされもの又はなされなかったものとみなす条項は無効とする。ただし、消費者の意思表示がなされたもの又はなされなかったものとみなすことに合理的な理由があり、かつ、その規定が相当な内容である場合を除く」というものでございます。

例外要件としては、当該消費者契約において、事業者において意思表示擬制条項が必要な理由(目的)が合理的なものであること、及び、その理由に照らして規定内容(手段)が相当であることが必要と考えるものであります。この点、資料1の24ページに列挙された事由については、この問題を考える上では重要な指摘事項だろうと思います。個々の事案において、目的の合理性、手段の相当性の考慮要素として考慮されるべき事由と考えます。

なお、3つ目の「消費者が明示の意思表示をするための機会が与えられたか、その期間は合理的なものであったか」という御指摘を頂戴しておりますけれども、加えるとすれば、明示の意思表示をさせる方法ないし手続が合理的なものであったかという点も重要ではないかと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

では、丸山委員。

○丸山委員 まず、今回提案されている消費者の一定の作為又は不作為をもって消費者の意思表示があったものと擬制する条項というのは、恐らくいろいろなバリエーションがあり得るのではないかと思います。具体的に何らかの手当てをしていくという方向には賛成しているのですけれども、どういう形で条文化をすべきかという点については、幾つかの考え方があり得るのではないかと思います。

例えば、ここには直接挙がっていなかったのですけれども、配付された資料の12ページ、13ページの比較法の資料で、自動更新条項があがっていると思うのですけれども、期間の定めがある契約において、消費者が解除するような意思の表明の機会というのを十分に相当に適切に与えていないような場合については、そういった条項を無効とする余地を認めていくといった提案もされているところでございます。実際にこういった意思表示の擬制が問題となっている条項の中でもバリエーションがあると思いますので、その中で、特に実務のレベルで問題となっているような条項があったら、それを少し具体化するような形で条文化するということも考えられるのではないかと思いました。

あと1点、自分で整理がつかなかった点があるので、ちょっと教えていただきたいのですけれども、23ページの説明で意思実現の話が出てきているのですが、民法の意思実現の規定の解釈によって契約が成立されると解釈されるような場合でも、不当条項規制が及ぶといった趣旨の話なのか。ここでの御指摘がどういう趣旨なのか、教えていただければと思いました。

○山本(敬)座長 では、消費者庁のほうから。

○消費者庁加納消費者制度課長 意思実現は意思実現の考え方が既にあると思いますので、そこまでという意識はございませんでしたが、その切り分けがむしろ課題になってくるということかなと、先生の御指摘を踏まえると思いました。

○山本(敬)座長 それでは、河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 これはかなり射程が広い問題で、作為・不作為で問題にするときに、作為というのは、その作為があったら、どの程度の意思表示が合理的に推定できるのかということと関係してまいります。不作為については、消費者の側に一定の作為義務が課せられるべき状況かどうかということとも関連してまいりますので、ここを一気に全部まとめていくというのはかなり難しいのではないかという感じがします。

もう一つは、今、丸山さんが言ってくれたことですけれども、消費者の意思表示がどういう効果と結びついているかということと関連してまいります。契約の成立という効果と結びつくこともあれば、一定の責任を承認するような意思表示になる可能性もありますし、一消費者が負担することになる事由の重大さということと比較考量しながら、こういう作為・不作為による意思表示の擬制ということの当否を問うていかないといけないと思われます。

そうすると、そこに何かしら評価余地があるような、正当な理由なくとか、そういう言葉を入れるようにするか、あるいはもう少し具体的にワンポイントで、こういうときに意思表示の擬制をするのは不当であるという形で絞り込みをするか。どちらかになるのではないかという気がいたします。そうでないと、結果的には乙案で行かないと、現時点では難しいということだろうと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

恐らく事例2-3-1のように、消費者が何もしなければ、それまでは無料のはずだったのに、有料の質的に全く異なる契約をすることになってしまうという条項が不当な条項であるということは、共通の了解が得られるのではないかと思いますが、それだけにするのか、それとももう少し拡張していくのかという問題があると同時に、それだけにしたとしても、それをどのような形で明文の規定で示すことができるかなど、もう少し詰めて、さらに検討することが必要になると考えられますが、より一般的に規定するのであればなかなか難しいというのが今の御指摘ではなかったかと思います。

増田委員。

○増田委員 無料とか格安という特典やキャンペーンを勧誘の際うたって、それから自動更新、自動継続になるケースというのは大変多くあります。そのときに、ここに指摘があるように、どれだけ説明していたのか、どれだけ明確に記載していたのかということが重要な要素になるかと思いますが、現実的には十分な説明・記載がなく、トラブルになっているということがあることをお伝えしたいと思います。

それから、特にネット取引上の継続的な役務サービスに関しては、自動継続、自動更新ということが原則になっているようですが、そこの理解が十分ではない。適切な例かどうか、ちょっとわかりませんが、例えば携帯電話の2年の縛りが自動更新するときに非常にトラブルになっていた時期があって、十分に説明を尽くしても、なおトラブルがある。そのときに、それを減らすために、その期間にメールを事業者側から送信して、今の期間だけですよということをさらに言いなさいと総務省から指導されているような状況もあることをお伝えしたいと思います。

○山本(敬)座長 大澤委員。

○大澤委員 手短にお話ししますけれども、今の増田委員の御発言は、多分2つの問題が入っているのではないかと思っていまして、1つは、2-3-1のようなものが明確な形で書かれていないとおっしゃっていたと思うのです。そうだとすると、これは条項の内容そのものの問題かもしれませんが、条項についての明確な説明とか記載がない、あるいは条項の内容が非常に曖昧に読み取れるという問題のような気もします。

それと関連することですが、事例2-3-2の条項はシュリンクラップ契約ということで、よく出てくる話ですけれども、どちらかといえば約款とか契約条項の組み入れの問題なのではないかという印象を持っています。あけただけで条項に承諾したものとみなされるということで、果たしてそういう形で約款の組み入れを認めていいのかという問題と恐らく絡んでくると思います。

そうだとすると、今の増田委員のお話の中に出ていた、記載が明確でないとか、あるいは2-3-2のような、果たして組み入れをしていると十分に言えるのかという問題というのは、これは不当条項の内容とまた別の問題として、今後、例えば次回に約款の話が出るということですので、そういう形で議論する必要があるのではないかと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

古閑委員。

○古閑委員 今、組み入れの話ということも出ましたけれども、裁判例もそれなりにあると思うので、それとここでの議論の関係がちょっとよくわからないところがございます。先ほど来、何名かの委員の方からも出ているとおり、これはもうちょっと細かく分類して検討していただく必要があると思います。

多分、例をいろいろ出していったほうがいいと思うのですけれども、例えば飛行機の予約をして72時間以内にお金を払わないとキャンセル扱いにされるということもあります。それは、72時間以内の支払いという行為を一定の作為・不作為と見るのかどう見るのかということですが、仮にそういったものもだめだとなると、予約と同時にお金を払ってくださいみたいな話にせざるを得ないのかということにつながって、それは消費者にとってかえって不利益になると思います。

あるいは、定期購読というのがあって、続けているとそれがずっと届くのだろうと思っていたのに、手続を失念していたために届かなくなって不便を感じるケースもあります。本当にいろいろなケースがあると思います。

まさに24ページにいろいろ書いていただいていますけれども、細かい分類をした上で、細かく議論していかないと、おかしなことになると懸念しています。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 私も、これを一般化するのは大変難しいと思います。やれるとすれば、特定の条項を、例えば自動更新条項などを取り出して、こういう形で自動更新になるのは不当だという形にせざるを得ないのではないか。これだけ漠とした条項では、大変難しい。

とりわけ、事例の2-3-2のどこが不当なのか、わからないです。これは、ソフトウエアの開封の前に使用条件がきちんと明示されていて、読む機会が与えられているというケースです。シュリンクラップの典型は、読む機会が与えられていない場合です。封を破れば契約条項が中から出てくるというのは、それは不当だと。だけれども、今回の民法の定型約款に関する改正案は、それでもいいと言っているのです。契約条項を見る機会をあらかじめ与えなくても構わない。見せろと言われても見せない場合のみ約款が契約に組み入れられないということなのです。民法は別の話ですけれども、2-3-2は読む機会を十分与えられているのだとすれば、そんなに不当じゃないと思うのです。

「理由のいかんを問わず」というところが、ひょっとすると使用条件があらかじめ外に書いてあるということも知らされないで、封を破ったというだけでその条件に拘束されるのだとすれば不当だという評価はできるだろうし、あるいは、ソフトウエアが全く機能しない場合であっても一切返金しないということが書かれているとすれば不当だけれども、それはまた別の理由による不当性だろうと思うのです。事例が2つしかない中で一般化するというのは大変難しいのではないかと思います。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

一般化するのは難しいという御意見がたくさん出ているところで、仮に規定を置くとしても、少なくともこれは不当条項だと言えるものをどうつかまえられるかという点について、御示唆はいろいろいただきましたので、それを踏まえて、さらに検討を進めるということでよろしいでしょうか。

既に7時になっているわけですけれども、さらに先に進むということでよろしいでしょうか。申し訳ありません。

(4)契約文言の解釈権限や契約に基づく当事者の権利・義務の発生要件該当性又はその内容についての決定権限を事業者のみに付与する条項

○山本(敬)座長 それでは、次の4つ目の論点、「契約文言の解釈権限や契約に基づく当事者の権利・義務の発生要件該当性又はその内容についての決定権限を事業者のみに付与する条項」について、消費者庁のほうから御説明をいただいて、御意見を伺い、もし時間が足りないということであれば、次回ないしは次の適切な折にさらに検討するする機会を設けることにさせていただければと思います。

よろしければ、消費者庁のほうからご説明をお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 最後のマル4、26ページでございます。

事例の紹介をさせていただきますと、2-4-1、フィットネスクラブの会則。これは前も取り上げたことがございますが、会社は一切責任を負いません。ただし、会社の調査により会社に過失があると認めた場合には、一定の補償をするというのがございます。前回は一定の補償をするというところで、一定の補償の内容によっては不当性が出てくるのではないかということで取り上げさせていただきましたが、さらに今回指摘をさせていただきましたのは、「会社に過失があると認めた場合には」という書き方であります。

当然、過失があるときには客観的であるからいいのですけれども、会社が認めたときというのは、これが文字どおり有効だとしますと、認めなかったら補償はしませんとなりかねないところであります。そういった形で条項で定めた該当性を、会社、事業者の側だけが持つというものには不当性があり得るのではないかということでございます。

2-4-2はサービスの利用契約でありますけれども、会員の責めに帰すべき事由により機器が正常に作動しないと判断した場合は、その費用につき会員が負担するということでありまして、恐らく機器が正常に作動しないというのが会員の誤作動等によるのかもしれないということであり、それは会社のほうできちんと判断させていただきますということなのかもしれませんが、その判断の客観性が担保されないと、これも場合によっては一律に会員が負担することになりかねないという条項だと思います。

それから、2-4-3はポイント・サービスの規約ということでありますけれども、「本規約の解釈等に疑義が生じた場合、当社は、信義誠実の原則に基づいて決するよう努め、会員はその決定に従うものとします」となっております。規約はいろいろあると思いますけれども、例えば2-4-1や2-4-2のように会社が判断しますという条項と相まって、こういう解釈権限も会社が持ちますとなります。まさに会社が非常に裁量性を強く持つということだろうと思います。

最後、2-4-4の霊園の使用規程でありますけれども、定めのない事項については、法令に定めるほかは、その都度理事長が定めますとなっておりまして、規約の内容そのものについて理事長に委ねるというところでございますので、そういった面では、理事長が定める内容にもよりますけれども、不当性が出てき得るということではないかと思います。

それで、そういったものについて、どう考えるかということでございますけれども、28ページでは諸外国の規定の例を書いておりまして、契約文言の解釈あるいは契約内容の適合性については、これも印象でありますけれども、諸外国の規定をざっと見る限りは割と厳し目ではないかという気がするところであります。フランス法とかオランダ法で、いわゆるブラック条項として規律が設けられているかと思います。

それで、27ページに戻っていただきまして、下のほうでありますけれども、どう考えるかであります。

まず、(1)、先ほどの2-4-3の解釈であります。これは、他の規定とも相まってということもありますけれども、事業者の裁量性を非常に広くするおそれがあるのではないかと思われますので、これについては無効とすることを検討してはどうかと書いております。

(2)の要件該当性などの決定権限を事業者のみが持つという条項については、これも諸外国の例で結構厳しい規律があるのではないかと思うところであります。ただ、その中身によっては、いわゆる付随的なことを事業者が決めるとかということであれば、それなりに合理性があることもあり得ると思いますので、そういった対象が契約の本質的部分からどうかとか、事業者の裁量性の程度といったところを見ながら検討していくのがいいのではないかということで書いております。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明の内容を受けまして議論を行いたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いします。阿部委員。

○阿部委員 ここは先ほどのマル3と違って、明確に乙案と言わずに、27ページの下のほうの「規定を設けるに当たっては」というところでもう少し子細な提案をしていただければと思います。特に、(1)、文言を解釈する権限を事業者のみに付与する条項はあり得ると思いますし、(2)については、具体的にどういうふうに分けるのか、もう少し明確にしていただかないと判断できないかなと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ほかに。山本健司委員。

○山本(健)委員 ありがとうございます。資料2の8ページ以下を引用しながら発言させていただきたいと思います。

まず、前段部分については、甲案に賛成いたします。事業者に契約条項の一方的な解釈権や契約適合性の判定権を認める契約条項が存在した場合、契約の一方当事者が他方当事者に対するみずからの法的責任の存否や契約内容を自らの意思で決定できることになる点において、不当条項と考えるべきであろうと思います。

また、現行法のもとにおいて、契約文言の解釈権限等を事業者のみに付与する条項は散見されるところであり、かかる規定を不当条項であると規定する社会的な必要性は大きいと思います。

よって、甲案に賛成いたします。

具体的な規定内容につきましては、これらの契約条項は、結局のところ、契約の一方当事者である事業者に契約内容の一方的な決定権を認めるのと同じ効果をもたらすものであり、正当化できないと思われます。したがって、このような契約条項はおよそ無効であると規定すべきと考えます。

具体的な条文案としては、日弁連改正試案のほうでは不当条項とみなすという提案をさせていただいております。1つの条文に書き込むとすれば、別案として記載させていただいたような書きぶりもあるのではないかと思います。

なお、細かい事由については、個別の事案において許容するという考え方が可能ではないかと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに。大澤委員。

○大澤委員 私の意見としては、先ほどの阿部委員の引用されたことと全く同じことですけれども、27ページの下の(1)は常に無効ということでいいのではないか。解釈の権限を一方的に付与するというのは、これは無効とするということでいいのではないかと思いますが、(2)の決定権限を付与するという場合について、とりわけ問題となるのは、決定権限の対象になっているのが、いわゆる目的物・対価といった本質的部分なのか、あるいはそれ以外の付随条項なのかというのが1つ分かれ目かと思っております。ですので、(2)の決定権限を付与する条項は、常に無効とまでは言えないのではないかと思います。

その上で、もう一点、次回以降のために申し上げたいのは、決定と解釈ということに限定されていますけれども、もう一つ問題になるのは、変更権限を一方的に認めるという条項だと思っています。契約の例えば目的物や価格を一方的に変更する権限を事業者に付与するという点も問題になると思いますので、決定解釈に限定するのではなくて、変更権限を一方的に付与する条項をリスト化するかどうかも、今後検討していただきたいと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 それでは、河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 この条項ですけれども、私も今の意見で結構だと思いますが、2番目のほうの、瑣末な内容に関して、それが裁量の範囲内と見られるような場合には許容されてよいのではないかという話ですけれども、例えばあるものに適合しているかどうかとか、これが瑕疵のあるものであるかどうか、あるいは欠陥があると認定できるかどうかといった認定権の問題は、実はそれを認定することによって免責等の効果をもたらすというところにこそ問題があるわけでして、そのような免責が一方的で不相当な内容になり得るというものであれば、そのような認定権というものも無効条項になる。

ですから、これは免責条項についての一定の判断基準とリンクした判断にしないといけない問題だろうと思います。ですから、(2)の書き方は相当工夫しておかないといけないということであります。

○山本(敬)座長 古閑委員。

○古閑委員 27ページにある解釈権限と決定権限というのがどの程度違うか、よくわからないのですけれども、例えば他のユーザーに迷惑のかかる行為を禁止するとして、他のユーザーに迷惑のかかる行為というのは、いろいろな行為を、もともと想定できないような悪いことをする人がいて起こり得るので、そういう書き方をしていたりするわけですが、そういう場合は、これは解釈権限ということになるのか。あるいは、禁止してしまうわけなので、決定ということなのか、この違いがよくわからなかったので、どういう解釈になるのでしょうかというのが1点目です。

それから、2点目ですけれども、例えば何かを補償しますみたいな補償条項があった場合に、とりあえず想定されるものを並べ立てて書いてあるのですけれども、想定ができないような場合で、救ってあげたほうがいい場合があり得るので、それに追加して事業者側で適切だと判断した場合には補償対象にしますみたいに書いてあるケースがあると思います。そういったものは補償の対象なので、本質的部分なのだと思うのですけれども、それもこの(2)で言うとだめだということになるのだとすると、それをだめにしてしまうと、かえって消費者のためにならないので、この(2)でもよくないと思うので、そういうことだとすると乙案であるべきではないかと考えます。

以上です。

○山本(敬)座長 消費者庁のほうから。

○消費者庁加納消費者制度課長 2点、御質問というか、疑問を呈していただいたと思うのですけれども、まず解釈権限なのか、それとも適合性・該当性の判断なのかというところであります。

私ども、ここで書いておりますのは、適合性の問題と解釈権限というのは一応分けたらどうかということでありますけれども、問題意識としては、先ほど申し上げましたように、過失があると認めた場合。過失というのはどういう意味なのですかというのは、解釈は事業者がしますとなりますと非常に不当性が高くなるので、少なくとも解釈をするというものについては無効としてはどうかということであります。

先ほどの古閑委員の例で言いますと、他のお客様に迷惑をかけるお客様は解除しますというのがあったとすると、迷惑をかけるという意味は何ですか。例えば、こういう場合は迷惑をかけます、こういう場合もありますということを解釈で事業者が決めますというものがありますと、それはここで言うところの(1)である。ですから、迷惑をかけるということの意味内容は事業者が判断するのですというのが(1)である。

それに対しまして、解釈して迷惑をかけるというのはこういうことですというのを前提に、それに当たるかどうかを判断するというのは(2)に当たるだろうと思いますので、迷惑をかける場合にはというのが一時的に明確になっていて、それに当たるかどうかを判断するということであれば、(2)に当たってくると思いますし、迷惑をかけるということがよくわからない条項で、かつ、それを解釈する権限は事業者が持ちますという条項があって、それを使うということになりますと、(1)になってくるということではないかと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに。松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 事例の2-4-1、2-4-2は、河上委員長がおっしゃったように、免責条項の話じゃないかと思います。当社に責任ありと認める場合以外は、一切責任を負いませんと言っているのが2-4-1ですし、2-4-2も似たようなものです。他方で、2-4-3、2-4-4は約款の変更の問題に置きかえるとどうなるのか。当初の約款ではっきりしていなかった部分について、新たに約款変更という形でつけ加えるという場合がどうなのかというと、今回の民法改正案では、少し縛りはありますけれども、約款作成者の側で約款の変更を一方的にやってもいいということになっているわけです。

契約の相手方が誰かによって、合理的理由もなしに違った解釈、判断を事業者側がやれるのだということだとすると、それは確かに不当だということになると思うのですが、従前の約款では明確でなかった部分について、明らかにする変更を今回しましたという場合に、そんなことをしてはいけない、それは無効だということまで、ここで言いたいのかどうかというところが気になるところです。

○山本(敬)座長 ほかに御質問あるいは御意見があれば、お出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。(1)と(2)の関係をどう理解するかということも御質問としてありましたけれども、仮にそこが明確になるとすれば、(1)のような条項は、契約の拘束力を否定するような条項ですので、基本的には無効とする扱いにすることについては、そう大きな御異論はなかったのではないかと思います。

(2)については、このままの形で一般的に規定するということについては慎重な御意見が幾つかありました。免責条項の問題の一つであるとして、そのような観点から規定することも一つの道ですし、それ以外にさらに問題になるものがあるとすれば、それを明確につかまえることができるかということがさらに検討課題になりそうです。もし御示唆いただけることがあればと思いますが、いかがでしょうか。

既に時間を大幅に過ぎていますので、大変申しわけありません。検討課題がひとまず明確になったとも思いますし、この問題はほかの不当条項の問題と重なって出てくるところがありますので、今後、さらに不当条項について検討する機会に改めて問題提起していただくということもあり得ると思います。

それでは、大変恐縮ですけれども、もう1項目だけ残っておりまして、資料3の「今後の審議のスケジュール」について、事務局のほうから説明をお願いいたします。

○事務局 事務局のほうから御説明申し上げます。資料3をごらんください。

本専門調査会第7回の会議で一度スケジュールを御確認いただきましたが、これまでの審議状況を踏まえまして変更を加えさせていただいております。改めて御確認いただければと存じます。

次回の会議では、残された論点として、こちらに記載している内容、不当勧誘の規律、そしてその他の規律についての論点を御検討いただくことを予定させていただいております。

その後、さらに議論を要する論点については、6月30日及び7月10日の会議で引き続き議論を重ねていただくこととした上で、7月下旬から8月上旬ころまでに議論内容を一定の形に取りまとめることを目指して進めていただきたいと思っております。

なお、スケジュール欄外に記載させていただいておりますが、ここでお示ししている8月までの日程以外に、審議状況によっては追加の審議日程を加えることがございますので、御承知おきください。

また、こちらも欄外に記載しておりますが、本専門調査会につきましては、8月上旬ころの取りまとめを踏まえた上で、事業者団体等からのヒアリングなどの審議を行うために、9月以降にも会議を開催することも予定しております。この点も御確認いただければと存じます。

今後のスケジュールに関する御説明は、以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございます。事務局から説明のありました今後の審議のスケジュール(案)について、もし委員の方から御意見、御質問がありましたら。河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 これは委員長として発言させていただきますけれども、松本理事長が第1期の消費者委員会の委員長をされて、その最後の段階で消費者契約法の見直しを急いでやれという建議をしていかれました。私、第2期、第3期と受け継いでまいりましたが、何とか第3次の委員会の任期が終了します8月までには、この問題について一定の目鼻をつけていきたいとずっと考えて、私自身もそうですし、委員会としても最重要の課題の一つとして取り組んできたつもりでございます。

昨年、景表法の課徴金制度についての答申を出した直後に、あえて諮問をいただいたのも、それなりの時間が必要だろうという前提で急いだわけですけれども、諸般の事情から、この専門調査会の実質的立ち上げがおくれたことや、審議の開始が若干おくれたということもございまして、この第3次の委員会の間に答申にまで達するということは、かなり困難であるということが状況としてわかってまいりました。個人的には早目早目に手を打とうとしたつもりでありますけれども、結果的には力が及ばなかったということで、委員長として、大変責任を感じておりますし、申しわけなく思っております。

しかし、とはいえ、できれば来年の通常国会に向けて改正案を用意したいという点では、消費者庁の姿勢も変わっておりませんので、その意味では残された時間は余りないという状況は変わらないということであります。公正な消費者契約法の整備をやって、市場環境を整えることは、事業者にとっても、消費者にとっても非常に大事な課題であります。したがって、中間取りまとめの段階で余り漠とした内容にとどまるという形にして、また一からリセットされるようなことがあっては、絶対にいけないと思います。したがいまして、できるだけ基本的な方向と今後詰めるべき課題を明らかにした上で、中間取りまとめをできるだけ具体的な形でまとめていただければありがたいと思います。

専門調査会での議論は9月にリセットされることはなく、継続的に続くように、委員会としても最大限の努力をしたいと考えているところであります。取りまとめまでの間、まだ時間が若干ありますけれども、その後も山本座長を初め、専門調査会の皆様には、いろいろな意味で御負担をおかけする可能性が高いということでして、話が違うじゃないかということになるかもしれません。大変恐縮ですけれども、まずは8月の中間取りまとめに向けて、何とぞ前向きな議論を加速させていただきますよう、心からお願いしたいと思います。

一言、お詫びの言葉を言っておかないといけないと思いまして、発言させていただきました。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

もしほかに御意見あるいは御質問があればと思いますが、よろしいでしょうか。

それでは、次回以降は、本日確認いただきましたスケジュールに沿って今後の議論を進めていきたいと思います。

最後に、事務局から事務連絡をお願いいたします。


≪4.閉会≫

○金児企画官 本日も熱心な御議論をありがとうございました。

次回は、6月12日金曜日16時からの開催を予定しておりますので、よろしくお願いいたします。

○山本(敬)座長 大変不手際で、もっと早く終わるべきだったところをここまでかかってしまいまして、大変申しわけありませんでした。

本日はこれにて閉会とさせていただきます。お忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございました。

以上