第10回 消費者契約法専門調査会

日時

平成27年5月15日(金)16:00~18:55

場所

消費者委員会大会議室1

出席者

【委員】
山本敬三座長、後藤巻則座長代理、阿部委員、井田委員、大澤委員、沖野委員、河野委員、古閑委員、後藤準委員、増田委員、丸山委員、柳川委員、山本和彦委員、山本健司委員
【オブザーバー】
消費者委員会委員 河上委員長、石戸谷委員長代理
法務省 中辻参事官
【消費者庁】
服部審議官、加納消費者制度課長、山田取引対策課長、消費者制度課担当者
【事務局】
黒木事務局長、井内審議官、金児企画官

議事次第

  1. 開会
  2. 不当条項に関する規律(1)
    事業者の損害賠償責任を免除する条項(第8条)
    損害賠償額の予定・違約金条項(第9条第1号)
    不当条項の一般条項(第10条)
  3. 閉会

配布資料(資料は全てPDF形式となります。)

議事録

≪1.開会≫

○金児企画官 本日は、皆様、お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。

ただいまから、消費者委員会第10回「消費者契約法専門調査会」を開催いたします。

本日は、所用により、阿部委員と後藤準委員がおくれての御出席との御連絡をいただいております。

まず、配付資料の確認をさせていただきます。

資料1が消費者庁からの提出資料です。それに関連する資料として、参考資料1から参考資料3までがございます。

それから、資料2が山本健司委員からの提出資料です。

それでは、ここからは山本座長に議事進行をお願いいたします。


≪2.不当条項に関する規律(1)≫

(1)事業者の損害賠償責任を免除する条項(第8条)

○山本(敬)座長 それでは、本日もよろしくお願いいたします。

本日の議事に入ります。

本日は、消費者契約法の「不当条項に関する規律」について御議論いただきたいと思います。消費者庁から各論点のための検討資料として、資料1及び参考資料1から3を御提出いただいています。

資料1の表紙の目次にありますように、今回は現行法の8条から10条までの規定に関する論点が示されていますので、それぞれの条項ごとに3つに区切って、消費者庁からの御説明と委員の皆様による御議論をお願いしたいと思います。

それでは、まず現行法8条、つまり「事業者の損害賠償責任を免除する条項」について検討したいと思います。消費者庁から御説明をお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 それでは、御説明させていただきます。今日もどうぞよろしくお願い申し上げます。

8条でございますが、まず現行の条文を御紹介したいと思います。7ページ、参照条文をごらんいただきたいと思います。

8条、いわゆる事業者の免責特約に関して無効とするというものでございますが、まず1項、1号から5号までありまして、1号、2号は債務不履行により生じた損害を賠償する責任の免除をする条項の有効性について。1号は、全部免責の条項を無効とする。2号は、一部免責であっても、故意又は重過失による責任まで免除するものを無効とするというものでございます。

3号は、4号もそうですが、不法行為により生じた損害賠償を免除する条項を無効とする。3号は、全部免責条項を無効とする。4号は、一部免責であっても、故意又は重過失によるものまで免除する場合には無効とするというものでございます。

それから、5号は、瑕疵担保責任に基づく損害賠償責任の全部を免除する条項を無効とするというものでございます。

2項でありますが、その5号につきまして、1号、2号の場合には無効としないというものでございまして、1号は、代物の給付ないしは瑕疵の修補をするとされている場合。2号は、その事業者との特約ないしは第三者との間の特約において、その第三者が損害賠償の全部又は一部を、ないしは代物の給付又は瑕疵の修補をするという場合には、無効としないというものでございます。

さらに、今般の民法関係に伴う改正としまして参考資料3というのをおつけしております。これは、先ほど申し上げました8条1項5号につきまして、瑕疵担保責任の全部免責特約を無効とするという条項について、今回の民法改正において、瑕疵担保責任がいわゆる債務不履行の特則であるということで、債務不履行責任と位置づけられたことを踏まえまして、5号を削除する。

では、瑕疵担保責任はどうなるのかというと、債務不履行責任だというふうに帰着しますので、先ほど御紹介しました1号、2号の問題となるということでございまして、1号、2号の適用によって処理される。そうしますと、今までのような瑕疵担保責任につきましては、全部免責であって初めて無効となるということでございましたけれども、一部免責であっても、故意又は重過失に基づくものまで免責しようとしている場合には無効となるというふうに適用関係が変わってくるところでございます。それを踏まえまして、2項の無効としないという場合につきましても、1号、2号について、それぞれ一定の代物の給付などをすることとされている場合には適用しないと、所要の修正を行っているというものでございます。

1ページに戻っていただきまして、そういった形で全部免責の無効ないしは一部免責であっても、故意・重過失に基づくものを無効としているものでありますが、故意・重過失でないけれども、一部免責というものが残っているということになります。これにについてどう考えるかということで、とりわけ人身損害について、その損害の重要性といいますか、保護法益の重要性に鑑みまして検討する必要があるのではないかということでございます。

事例1-1は、最近の裁判例からの御紹介でございまして、プロ野球を観戦していたときに、ファウルボールが不幸にして観客の顔面に直撃ということで、失明という重大な傷害を負ったということでございまして、逸失利益なども含めたかなりの額の損害をこうむったという事案でございますが、当該約款には主催者などが負担する損害賠償の範囲について、治療費等の直接損害に限定されるものとし、逸失利益その他の間接利益などは含まれないものとする。ただし、主催者等の故意・重過失であった場合にはこの限りでないということでございますので、軽過失の場合には、先ほどの本文のほうの損害の範囲の限定というのがきいてくるとなっているものでございます。

これにつきましては、裁判例の判決内容を御紹介いたしますと、参考資料1にありますが、判決が出ております。ただし、これは控訴されているということで、未確定ということを前提に検討いただければと思いますけれども、1ページの判示内容の5の(1)の「しかし」という段落の2行目、3行目あたりですが、ドームの瑕疵があった、安全配慮義務があったということを前提に、この免責特約がどうきいてくるかということであります。

(2)の2段落目、「しかし」の下のほうでありますけれども、そういった損害賠償責任の相当部分を免除するというものであって、信義に反するということで、観戦者、これは消費者が当たるわけですが、その利益を一方的に害するものであるから、それ自体無効ということにしまして、2ページでありますけれども、そういった重大な後遺傷害を負ったということで、当該約款を援用して直接損害に限定するのは権利の濫用であると示したというものがございます。

それから、1ページに戻っていただきまして、事例1-1は今、御紹介したとおりでありますけれども、1-2で、運送約款につきましては後で御紹介いたしますが、近時の条約等の流れとしましては、責任制限について撤廃していく流れにあると理解されるところではございますけれども、損害の上限額を規定するといった約款が現在でも見られるところでございます。

こうしたものについてどう考えるかということでありますが、(1)のアについては、今、御紹介した8条の現行法の規定についてでございます。

2ページのイ、人身損害についてというところでございますけれども、生命・身体の法益の重要性に照らしというところをどう考えるかということだと思います。これについては、無効とすることを検討すべきではないかという指摘があったところであります。

(2)の考え方で、ア、イ、ウという形で幾つか案をお示ししております。

まず、アは、端的に人身損害については、一部免責であっても無効とするということでございまして、その理由としまして、まず1点目は、生命・身体の要保護性、法益としての重要性。さらには、契約締結時点でその損害の発生・内容が本来未確定であるにもかかわらず、決めてしまう、処分してしまうということの合理性があるかどうかといったところであります。

それに対しまして、3ページのイでありますけれども、原則無効としつつも、一定の場合には例外的に有効とするという考え方もあり得るのではないかということでございます。これは、確かにそういった法益の重要性もあるということでありますが、消費者にとって有益なサービスを提供する事業の保護ということをどう捉えるかということでございます。

例えばマル1の警備とか介護などがありますが、もともと危険といいますか、リスクがある事業である。どこまで事業者のほうでそのリスクを引き受けるかということでありまして、事業者としては、一定の免責が認められないと、そういった仕事はなかなか引き受けられないという立場もある。

それから、マル2旅客でありますけれども、事故が不幸にして起こった場合には、トータルで非常に大きな責任が事業者に発生し得るわけですけれども、そういったものについて保険で賄うということももちろん考えられるわけでありますが、保険料に与える影響でありますとか、さらには、それが最終的には運送費自体の高額化といった問題もあり得るのではないかというところをどう見るかだと思います。

ということで、最後の「そこで」というところでありますけれども、原則として無効としつつも、事案によって、合理性が認められる場合には例外的に有効とする考え方もあり得るのではないかと書いているところであります。

最後、4ページでありますけれども、現行法の規定を維持した上で、10条の解釈・適用によって委ねるということでありまして、先ほどのプロ野球の事例の判決を見ますと、10条と非常に似たような文言が使われているのがうかがえるところでありますけれども、10条の規定の適用によって処理するということも考えられるということで、お示ししております。

以上が1-1の論点でございます。

続きまして、1-2の論点でございます。

先ほど8条の1項3号、4号というのを御紹介いたしましたが、いずれも不法行為責任につきまして、「民法の規定による」不法行為責任という限定がございます。これにつきましては、(2)の考え方というところでありますけれども、立法当初としては、不法行為に基づく責任というのは各法にいろいろあるわけでございますけれども、何が適用対象になるかというのを明確にするという観点から、「民法による」と書いたと考えられるところでございます。

ただ、その後の状況としまして、6ページに書いておりますが、1つは、法人の代表者の不法行為責任というのがかつての民法44条にございましたけれども、この部分が一般社団法人法に移ったということで、形式的には民法の規定からは出ているというのがございます。それ以外にも、例えばここに書いておりますような会社法上の責任とかPL法とか自賠責保険の自動車損害賠償責任などの、性質上、不法行為と考えられる規定が各法にございますので、そういったものについて、性質としては不法行為ということだと思いますので、民法の不法行為と同一に扱うということも考えられるということでございますので、この際、「民法の規定による」という文言は削除してしまってはどうかということでお示ししているところでございます。

御説明は以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明の内容を受けまして議論を行いたいと思います。御意見、御質問のある方、御発言をお願いいたします。それでは、山本健司委員。

○山本(健)委員 御説明、ありがとうございました。資料2を引用させていただきながら、意見を述べさせていただきたいと思います。

まず、1-1の点については、甲案に賛成いたします。

以下、理由でございます。

生命・身体は他の法益に比べて要保護性が高く、そもそも合意による処分にも適しません。また、契約締結の時点では損害の発生及び内容が未確定であるにもかかわらず、消費者と事業者との構造的な情報・交渉力格差のもと、人身損害に関する損害賠償責任を減免する条項を含む消費者契約の締結がなされている実態があります。さらに、もし仮に事業者の責任限定が相当な事情があった場合には、個別事案ごとに信義則や過失相殺などによって合理的な結論が導かれるものと思われます。

よって、人身損害について損害賠償責任を一部免除する条項を無効とする甲案に賛成いたします。

次に、1-2の点については、「民法の規定による」という文言の削除に賛成いたします。

消費者契約における債務の履行に際してなされた事業者の不法行為責任を免除する条項の不当性は、その不法行為が民法の規定によるかどうかによって根本的に異なるものではありません。したがって、8条1項3号及び4号の「民法の規定による」という文言を削除することに賛成いたします。
以上です。

○山本(敬)座長 それでは、ほかに。阿部委員。

○阿部委員 まず、1-1でありますけれども、丙案と行きたいわけでありますが、2つ議論しなければいけないと思っております。

1つは、現行法の軽過失によります免責条項は、どのような根拠によっているかということです。例えば旅客運送関係だと、それぞれ業法があって、約款があって、その中で具体的な契約がありますので、そういうものを一度よく見直していただきたいということであります。例えば今、国際旅客輸送については、責任制限条項はないというのはわかっていますけれども、国内であるとまだ会社によっては残しているところがありますし、それを是としているものもあります。そのあたり、何でそういう仕組みになっているのかということはちょっと議論させていただきたいと思っております。そういう意味で、いきなり丙案と言いたいわけでありますけれども、なぜ現状、こういうことになっているのか、もう少し説明していただきたいなと思っております。

1-2については、特に異論はございません。特に民法に限ることも必要ないかなと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございます。

それでは、河野委員。

○河野委員 ありがとうございます。

まず、今、御説明いただきました1-1に関しましては、事務局提案の甲案を私は支持したいと思います。人身に関する法益というのは、本当にかけがえのない重大なものでございます。人身損害についての一部免責条項というのは、無効ということにしていただきたいと思います。人身損害について、軽過失の場合の一部免責を契約に際してあらかじめ定める必要性が想定できないと思っております。

実は、今お話になっております「商法(運送・海商関係)等の改正に関する中間試案」がパブコメにかかっているのですけれども、全国消団連では、商法590条第1項の規律、この中身は、立証責任の転換と人身損害の場合の免責を排除するという内容ですけれども、これをぜひ維持していただいて、これに反する特約は無効とするように求めています。旅客運送契約の債務の内容の主たるものが人身の安全確保であるという判断から、例外というのは認める必要はないという立場をとっています。こういった状況もございますので、1-1に関しましては甲案を支持したいと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかに御意見はいかがでしょうか。古閑委員。

○古閑委員 ありがとうございます。

まず、事例1-1は、現行法で補償がなされるということに、もちろん確定判決ではないわけですけれども、なっているということであれば、現行のままでどうして困るのかというのがよく理解できませんでした。

それから、軽過失ということですけれども、事例1-2も約款の条項そのものが書かれているだけでして、例えばどのような事案であれば軽過失に当たって、その結果どういう困ったことが起きるのかという事例があまり想像できなくて、軽過失における手当ての必要性というのがよくわからなかったので、本当にここの改正が必要なのかどうかというのが、この情報だけだと判断できず、必要性が必ずしもないのではないかと感じました。
以上です。

○山本(敬)座長 今の点は、消費者庁のほうから御説明をお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 まず、事例1-1は確かに未確定でございますけれども、こういう判決が出ておりますので、それをどう見るかということだと思います。これは消費者契約法の適用というよりは一般法理のような形で処理しておりまして、それがどうしてなのかというのが正直よくわからないところでございまして、判決文を子細に見ますと、当事者の主張として消費者契約法の適用が主張された形跡がなく、それでこういった形で処理したものではないかと推測される事案でございます。

ただ、こういった条項があるというのが恐らく現実社会でありまして、そういう条項について、不幸にして事件が起こったときにどうやって救済を図っていくか。一般法に委ねるというのも1つでありますけれども、こういうものは無効であるとすれば、こういう条項がなくなっていくという効果が期待できるところでございまして、そんなことはしなくてもなくなると見るか、書いてなくしていくと見るかというところがあろうかと思います。

それから、1-2も含めて、軽過失の場合のイメージがわきにくいという御質問であったかと思いますが、これは軽過失とは何ぞやというのを、私がそこまで奥深いことを端的にお答えする能力はございませんけれども、一般的に言われているところでは、恐らく重過失というのは故意と同視できるような、注意義務の著しい違反というものだと思いますので、実際の事例において、重過失が認定される事案というのは決して多くはないのだろうと推測されるところでございます。

事例1-1は、ファウルボールがぶつかったということで、判決文とかを見ておりますと、フェンスがどうであったとか、いろいろ認定していますが、ネット、網がなかったようでございます。直接打撃をこうむったということでありまして、ネットがないというあたりに着目していると思われるところであります。それを重過失と見るかどうかというのは、裁判所によって最終的に判断されますけれども、重過失とは言えないけれども、過失があるという判断がされた事例ということでございます。

例えば、プロ野球のこの事例について、どこまで言うかわかりませんけれども、事故が繰り返されているにもかかわらず、そういうことに対処しなかったとか。あるいは、単にネットがなかったというだけではなくて、グラウンドと観客席の距離が非常に近接していたという、いろいろな事情がかかわりますと、重過失認定がされやすくなってくるという違いがあるのではないかと思います。

○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。

増田委員。

○増田委員 消費生活相談の現場におきましては、例えばスポーツクラブでけがをしたとか、テニスのレッスンなどでけがをしたとか、ボールが当たったということで御相談が寄せられます。そうしたときに、施設の安全性は十分であったのか、インストラクターの指導が十分であったのか、消費者がその指導に従っていたのかなどを確認しなくてはいけないですし、損害賠償額の算定が難しいということから、最終的なところまで消費生活センターで解決することはなかなか難しいのが現状です。が、考え方を含めて、そのようなことを情報提供していくということはやっております。

そういう中で、今、消費者庁のほうからお話がありましたように、重過失かの判断は非常に難しいと思いますし、あと、例えば10条での解決ということになると信義則の判断にもなってくると考えますので、人身損害に関しましては一部免責というのをなくしていただきたいと考えております。

○山本(敬)座長 ほかに。大澤委員。

○大澤委員 先ほど札幌ドームの事件の判決、事例1-1が出されておりまして、これで解決しているので、何か問題があるのかどうかという御質問が古閑委員のほうから出ておりましたが、この札幌地裁の判決は、ファウルボールが飛んできたという事件で、結果的にはけがをした観客のほうの請求を認めている事案ですが、これと全く逆の判決というのも一応出ておりまして、仙台地裁で、年月をはっきり覚えていないのですが、同じくプロ野球の楽天イーグルスの主催試合においてファウルボールが飛んできて、受けた観客がけがをしたという事案で、恐らく工作物責任があるかどうかが問題になった事案だと思いますが、そこでは責任が認められていなかったのではないかと記憶しています。

ですので、この1-1に出ている事件の判断、控訴されているということもありますので、これがこのまま維持されるかどうかも全くわからないですし、現に過去にはそういうファウルボールの同じような事件で否定した事案がありましたので、現行の10条とか信義則の判断となると、恐らく判断がかなり分かれる事案なのではないかと思います。そうだとすれば、人身損害に関する特約について、何らか規定を設ける必要があるかと思っております。

また、先ほどもどなたかから意見が出ておりましたが、スキューバダイビングの講習における免責条項の効力というのが問題になった事案が今まであったかと思います。こちらにあります「消費者六法」の1,411ページに東京地裁の平成13年6月20日という事案が出ておりまして、これは一切の責任を負わないということですので、一部免責ではないわけですが、これは公序良俗に違反して無効だという判断をしているというものなので、過去にこういう事案は結構あったのではないかと思いますので、人身損害も含めて免除するような、あるいは一部制限するようなものにつきまして、今回何らかの規定を設けるという方向には、個人的には賛成しております。

ただ、甲案、乙案、丙案と並んでおりまして、人身というか、生命・身体の要保護性を考えると甲案と言いたいところではあるのですが、まだ若干迷いがありまして、乙案のほうです。原則として無効として、しかし例外を認めるということがあります。もちろん例外はかなり限られるのではないかと個人的には思っておりますが、果たして全く例外なく甲案で行って大丈夫なのかどうかというのが、まだ個人的には迷っております。

事案がちょっとずれるかもしれませんが、例えば製造物責任法4条には開発危険の抗弁というのがありまして、もちろん今回のケースと話が大分変わってくると思いますが、開発危険の抗弁の趣旨というのは、新薬の開発などを行うメーカーの意欲をそがないという理由で、非常に例外的にとはいえ、免責を認める場合があるということを定めております。もちろん、実際に開発危険の抗弁が認められた事案というのは存在していないのではないかと思っていますので、かなり限られるとは思うのですが、果たして甲案のように常に無効と言っていいのかどうかは、個人的にはまだ迷いがあります。
以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。今おっしゃっているのは、スキューバダイビングのような例ではなく、別の例について例外があり得るという御趣旨ですか。

○大澤委員 そうです。今日の資料の中に、医療契約とか人身そのものを対象にした事業があるという御指摘があったと思います。警備契約とか、そういうものがありましたし、あと、医療契約のこともどこかに書いていたのではないかと思いますが。ありがとうございます。注7ですね。書いていることがあります。こういうものを見ていきますと、その例外というのが全くゼロと言えるのかどうかというのが、まだ考えが詰まっていないという状況です。
以上です。

○山本(敬)座長 それでは、消費者庁のほうからお願いします。

○消費者庁加納消費者制度課長 先ほど、プロ野球について大澤先生が御指摘になった仙台地裁の判決でございますけれども、その事例は、設置・管理の瑕疵がそもそもないと判断された事例でございます。地裁で判決が出て、高裁まで争われて、高裁でも原告の請求が棄却されておりますから、高裁においても瑕疵がないということでございますので、免責特約の有効が争われた事例ではないということでございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ほかに。丸山委員。

○丸山委員 これまで免責条項、免責約款というものが実務で用いられてきた理由としては、3ページに消費者庁のほうでまとめていただいているような配慮があったのだと思います。

ただ、今回の提案というのは人身損害に限ってということでございまして、人身損害に限って、そういった軽過失の一部免責も認めないということは、政策的な判断としてはあり得るのかなとは思っております。既に山本委員のほうからも指摘がありましたように、基本的には不法行為とか債務不履行が成立しているという前提になりますし、場合によってはお客さんが無理を言ったというケースについては、過失相殺的な減額処理という対応をしていく可能性がもちろんございますので、そういったことを前提とした場合に、人身損害に限って一部軽過失免責も認めないというのは、立法的な判断としては私自身はあり得るのではないかと考えております。
以上です。

○山本(敬)座長 ほかに御意見はいかがでしょうか。沖野委員。

○沖野委員 私も今、丸山委員がおっしゃったように、人身損害という法益の重要性というのは、現行法の法体系の中でも認められており、今回の債権法の改正においても同様の考え方がとられていると思いますので、基本的にはむしろ甲案と考えられるように思います。

ただ、ここで挙げられております一部の免責について、合理性があると認められる場合が実際にもあるということであれば、それは検討する余地があるのだろうと思います。この点は、さらに追加の情報提供などをしていただけると期待しておるところですけれども、その場合も、現在、こういうような考え方から一部免責ないし責任制限がされているというときにも、それが本当に現在において、適切なものとして維持されるのかということは、きちんと検証する必要があると思います。

例えば、責任限定が責任保険の保険料の低減、それがさらには実際の運送費の低減化につながり、顧客にとってよりよいサービスがより低廉な対価で提供できるということが考えられますけれども、それは逆に言うと、個々人でその分をきっちり保険をかけて対処するということになりますから、全体として本当にそれが望ましいあり方かというと、むしろ多少対価が高くなっても安心であって、トータルで見れば保険料は実は全体として安いということも考えられると思います。

また医療の場合については、ここでは責任制限の問題ですので、過失が認定されるという場合です。そういった場合の責任制限や上限設定のようなものがあることで先端的な医療サービスの提供を確保しているのか、本当にそういう責任制限がないと先端的な医療サービスが十分にされないというのが通常なのかというのは、よくわからないところです。むしろ、そのときの責任は保険等でカバーされるものですし、医師について問題となっているのは、過失の判断そのものの合理性というか、容易に過失が認められ過ぎているのではないかという、そちらの問題のようにも思われますので、そういった点も含めて、現行法の免責が必要だと言われているものについては、その正当性というものを確認していく必要があると考えております。

○山本(敬)座長 阿部委員。

○阿部委員 例えばということでありますけれども、鉄道のような場合、過度な混雑でお客さんがけがをしたとか病気になってしまったということがあるかもしれません。こういうものに対応しなければいけないということになると、およそ公共輸送が成り立たなくなってしまう場合がある。現状でも幾つかの公共旅客輸送について免責約款を持っているところがあると思うのですが、まずなぜそういう免責約款みたいなもの、あるいは責任限度契約が認められたかという根拠をはっきりと整理していただきたいのです。恐らく航空ではそういう例外はほとんどないと思うのですけれども、陸上輸送とか海運では、まだかなりあるはずなので、それがどういう理屈でどういう効果を持っているか、これは一度ぜひ検証していただきたいと思います。

○山本(敬)座長 消費者庁のほうにお聞きしたいのですが、調べる方法としてどのような形が考えられるのでしょうか。

○消費者庁加納消費者制度課長 ちょっと検討はしてみたいと思います。阿部委員のおっしゃることはごもっともだと私も思いまして、それが残っている可能性は否定できない。それは、それなりの事情があるということだと思います。公共運送といいますか、そういうものを成り立たせないと、社会的な大きなインフラとして書けるという判断があるかもしれません。そこは、私どものほうでも調べてみたいと思います。

○山本(敬)座長 河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 まず、8条の性格について申し上げたいと思うのですけれども、8条そのものは、もともとかなり無理な要件立てをしておりまして、1つは、全部免責の場合は、過失も何も問わないで、全部だめだ。それから、一部免責の場合は、重過失と故意の場合はだめだとしているのですけれども、ちょっと考えればわかることですが、例えば一部免責と言って、1万円だけ払うからとして、限りなくゼロに近い賠償額にして軽過失のときに免責して、それで足りるかというと、恐らくそれは許されないだろうと思います。結局、それは10条に落ちていって、10条の信義則に基づいて、果たして一方的不利になっていないかどうかという判断をするという形で、10条は受け皿的には8条にもかかっている。

逆に言うと、全部免責だからといって、その内容が不可抗力に近いようなものであったりした場合には、それは援用したからといって不合理ではないという判断も行われるはずであります。ですから、その意味では、8条というのは、そもそもそういう限界がある規定だということをまず理解しておかないといけないだろうということであります。

その上で、消費者取引に限って身体損害・生命損害についてどうかという議論をするときに、さっき丸山委員がお話されたこととほぼ同じようなことになってしまいますけれども、基本的に考えると、本人には法益についての可処分性はないのだろうと思います。通常の取引の場で、相手が自分の体を傷つけてもいいということを予め同意する、あるいは自分の生命を奪ってもよいと同意するという形での可処分性はないのではないか。

もう一つは、生命損害に限って言うと、これは遺族の損害賠償請求権になりますけれども、遺族の損害賠償請求権をあらかじめ放棄するということが本人にできるのかという話にもなりかねない。身体損害と生命損害を分けたほうがいいのかもしれませんけれども、そこは免責特約によって顧客が合意したから、その部分に関しては制限してよいのだという理屈にはなじみにくい項目であろうという気がいたします。

その上で、特段の危険引き受けがあって、それによって、そういう危険な状態にみずから入っているという場合は、恐らく過失相殺の問題になるか、あるいはそれが難しければ、条文上、特段の危険引き受け合意がある場合にはこの限りでないという形で例外をつくるという手もあるのではないかという気がするわけであります。

先ほどの混雑してというのは、恐らく状況から見て、不可抗力であればしようがないということだけれども、危険だということがわかっていながら押し込んだとなれば、当然責任は問われるということになるわけですから、そこは不法行為が成立するという前提で考えたときに、なおかつ生命・身体に対する侵害について免責や制限特約を置くことが消費者取引において果たしていいのかということになります。消費者取引の場合は、特段の交渉がないというのが普通前提ですので、約款中でそういう責任制限をやったということが果たしていいのかどうか。今の国際的な動向から考えてみると、もう生命・身体に関する損害の免責条項は認めないという方向を考えてもいい時期に来ているのではないかという気がいたします。個人的な意見でございます。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございます。

今の件に関しましては、約款でこのような条項を定める場合と、消費者契約一般についてこのような条項が問題となる場合とで、重なる場合があるのですけれども、違ってくる場合があります。特に、約款でなく、個別の合意で消費者と事業者の間でこのような免責特約をした場合が、その違いが出てくる場合です。それについて、消費者が適切な情報提供を受けた上でということだと思いますが、なお、このような条項について同意した場合に、この条項が無効になるかどうかということが問題でして、この条項をいわゆるブラックリストとして定めるということは、幾ら納得して消費者が同意したとしても、それは無効であるという判断をするということです。

今のように問題を絞った場合に、河上委員長は、結局、どのような御意見を述べられたということになるのでしょうか。

○消費者委員会河上委員長 消費者契約に関しては、一律にやってしまったほうがよいと思います。ただ、理屈の問題だけから言えば、特段の危険引き受け合意があった場合には、そこは過失相殺なり、一定の減額の措置というものがあってもいい。これは民法的な考え方からは、そうなるだろうということです。消費者契約ですから、どこかで割り切らないといけないのではないでしょうか。

○山本(敬)座長 条項自体としての効力は無効であるけれども、民法の不法行為責任あるいは債務不履行責任の追及はできるので、その中で考慮されるべき事情ではないかという御意見だったと理解すればよろしいでしょうか。

では、阿部委員。

○阿部委員 簡単な疑問ですけれども、とんでもなく混んでいる電車に乗るということは、危険責任引き受けをしたということになるのでしょうか。

○消費者委員会河上委員長 もう乗れませんと言っているのに、乗ったらだめなのではないですかね。

○山本(敬)座長 それでは、後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 今、消費者が危険を引き受けるという話が出ていて興味深かったのですけれども、消費者が危険を引き受けているということ自体、かなり慎重に考える必要があると思います。約款の場合ならばもちろんですし、具体的に交渉して危険な内容の契約をしたということであっても、本当に危険性をきちんと説明して理解していれば、そんなに簡単に危険は引き受けないと思うわけです。そういうことから見ると、乙案の合理性がある場合に限りという部分は、そういう危険な契約で消費者が一定程度の危険を引き受けているような場合が1つは想定されるのではないかと思うのですが、実際はそういうことは余り考えないほうがいいのではないかという感じがします。

危険の引き受けを考える必要がある場合もあると思うのですが、それはきちんと説明を受けて、本当に危険であるけれども、自分は冒険的に行うとか、そういう例外のことであって、そのことは例外として処理するということはあり得ると思いますけれども、基本的な考え方は甲案の考え方で、例外的なものについての手当てを本当にすべきかどうかというのを、先ほどから私、合理性がある場合に限りということの具体的内容がまだよくわからないものですから、そういうことに本当に当たる事例があるかどうか、その辺について教えていただけたらと思っています。

○山本(敬)座長 いかがでしょうか。御意見がさらにあればと思いますが。井田委員。

○井田委員 私も甲案的な発想でいいと思います。乙案のような合理性がある事例というのは、絶無とは言えないし、そこまで言い切る自信はないのですけれども、それは消費者契約における原則として甲案というのを定めるというのは、最近の法律の傾向とか、もともとの法体系の中でも自然な発想ではなかろうかと思います。
以上です。

○山本(敬)座長 大澤委員。

○大澤委員 済みません、先ほどの私の言い方が余りよくなかったのかもしれませんが、私の気持ちとしては、消費者契約の場合には政策的に甲案で行きたいという気持ちが非常に強いのですが、先ほど阿部委員がおっしゃっていたように、現状、まだ残っている人身損害を一部制限するようなものがあるときに、それはどういう根拠というか、どういう理屈でまだ残っているのかというのはちょっと知りたいような気はします。

ただ、そうだとしても、それは合理性があると言える場合はかなり限られるかなと思っていますし、先ほど危険の引き受けという話が出ていましたが、危険の引き受けの話につきましても、例えばスキューバダイビングとかだとそうかもしれませんが、危険なスポーツの講習契約を結んだということになると、これは危険の引き受けだと言ってしまうのは、それは言い過ぎなのではないかと思います。そうだとすると、そう言える場合もかなり限られるのではないかと思いますので、気持ちとしては甲案に行きたいところですが、今、残っているものがあるというのであれば、それが一体どういう趣旨で、あと、コストとか保険との関係でどういう調整のもと、そういうふうになっているのかということを一度調べていただきたいなと思っております。

先ほどの河上委員長のお話を伺っていると、甲案のようにしつつ、ただ例外というか、合理性があり得るようなときは、例えば過失相殺とか、別途民法の話でという話だったと思うのですが、やり方としてはそういうふうにやるやり方か、あるいは乙案のようなものがあるのでしょうけれども、乙案は合理性があるという場合が余りに漠然とし過ぎているので、それはやり方としては問題があるのではないかと思っています。
以上です。

○山本(敬)座長 現行法では、この点については明文の規定が明確にあるわけではありませんので、問題のある場合は、一応の前提としては、消費者契約法10条に当たるかどうかで判断すればよいという仕組みになっているのだろうと思います。その意味では、現行法だと、消費者契約法10条の要件を満たすかどうかであり、それとこの乙案の「合理性」というのが同じなのか、違うのかという問題がありそうに思います。

ほかに御意見は。柳川委員。

○柳川委員 おくれまして失礼いたしました。

趣旨として、甲案という御意見が今、伺っていて多かったのは、よくわかる話だと思います。人身損害に関しては、大きな注意を払って、おっしゃったような責任の引き受け、リスクの引き受けみたいなことは安易に考えるべきではないという趣旨はよくわかります。ただ、何人かの委員からお話があったように、実態としてどういうことが起きているのかということは私もよく知りたいところで、現状の部分が甲案になることで、本当に必要とされるようなサービスとか事業が継続できないようなことがないかどうかというのをきちんとチェックしないと、安易にやるのは怖いと思います。

そのときのポイントの一つは、合理性というのが果たしていい切り口なのかというのは判断に迷うというか、余りよくないかなという気がしていて、結局、危険の引き受けとかいう話になったときに、その危険の確率、蓋然性と、実際にその危険を回避するのにかかるコストというのが現実にあるわけで、その兼ね合いの部分で、現実的には余り大きな可能性はない。非常に小さい確率なのだけれども、問題が起きると非常に大きな損害賠償が必要になる。

そのときに、それを保険か何かでカバーしようとすると結構高くなってしまって、通常はみんなが安心だと思ってやっている事業みたいなものが提供されなくなってしまうと、別に自分はそんなに危険だと思ってやっていないのだけれども、その危険が確率的に小さい危険の保険が乗ると、事業が継続できないとか利用するのにコストがかかることに仮になると大きな問題が出てくるので、私もそういう事例が本当にあると主張しているわけではないのですけれども、この種のところは現状、そういう可能性がある事業があって、実態としてそうなっている事業があるとすれば、そこは今の段階でどうなのか、これからどうなるかというところは、きちんと実例を少し見て判断すべきだと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございます。

河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 「必要とされるサービス」と言われますが、この8条が動くのは、債務不履行であったり、不法行為であったりするというのがあくまで前提であります。ということは、少なくともその事業提供者にとっては善管注意義務があると評価されるような事態であって、他方で言えば違法性があって不法行為になるような事態が問題となっています。それが現在の営業状態だとすれば、それはやめさせなければいけません。むしろ、善管注意が尽くされて、過失のない状態で行われているような業態を守ることが必要であって、むしろ違法な債務不履行になるような行為が萎縮するから困るという議論は立たないのではないかと個人的には思います。

○山本(敬)座長 ほかに。河野委員。

○河野委員 私自身は、今、河上委員長がおっしゃったようなことですね。人身損害に関しては、一部免責も無効にしていただきたいということで、先ほどから医療手術の同意書というお話が出ていました。今回、注のところに書いてあったので、全てではありませんが、幾つか手術の同意書というのをネットでとれるものをとって、中を見てみました。

そうすると、同意書では手術の内容とかリスク等について、がんの手術に関しては本当に細かくリスクを、ほぼ想定できる危険性を全て書いて、それらの内容について説明を受けて手術に同意するという記述のみであって、免責条項というのはどこにも書いてありませんでした。しっかりとリスクをよく説明していただいた上で、自分で同意するという形でしたので、医療手術の同意書には免責条項というのはない場合が通例かもしれません。例外はあるかもしれませんが、そんな状況でした。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。

それでは、皆様からの御意見、御指摘を受けまして、今後、さらに検討を進めることができればと思いますが、その際には、何人かの方から御指摘がありましたように、現在における責任制限条項の現実とその根拠に当たるものを可能な限り調べて、それをもとにもう一度議論できればと思います。次回までに十分な情報がそろうかどうかは、もちろん簡単ではないかもしれませんけれども、最終的に改正を行うのであれば、それまでには必ずしないといけないことだと思います。

それでは、1-2については最初に御意見が少し出ましたけれども、その他に御指摘いただくことがもしあればと思いますが、いかがでしょうか。「民法の規定による」という部分を削除するのは慎重に考えたほうがよいのではないかという御意見があれば、今、お出しいただければと思います。特にないのであれば、そういうことだという前提で次へ進ませていただきますが、よろしいでしょうか。

それでは、今回取り上げる8条の項目については、以上のとおりとさせていただきます。

(2)損害賠償額の予定・違約金条項(第9条第1号)

○山本(敬)座長 続きまして、現行法の9条1号で規定されている「損害賠償額の予定・違約金条項」についての検討に移りたいと思います。

消費者庁のほうから説明をお願いしたいと思います。

○消費者庁加納消費者制度課長 それでは、9条1号でございますけれども、まず、これもまた現行の規定を御紹介したいと思います。条文を17ページに掲げております。

9条は、損害賠償の額を予定する条項等の無効ということでございまして、1号でありますが、その消費者契約の解除に伴う損害賠償の額の予定、また違約金を定める条項で、これらを合算した額ということでありますが、その額が当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じとしております。これは、その解除の時期等によって区分しているというキャンセル料のおさめ方が多いということを意識しているわけでありますが、その額が当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるものについては、その超える部分について無効とするという規定でございます。

この当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者ということで、当該とか同種という言葉が出てきまして、なかなか読み取りにくい規定となっておりますが、ポイントとしましては、1つは当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴いとしておりまして、例えば消費者Aという人がある事業者と契約を結んでいた場合の、その解除に伴うというわけではなく、ある意味類型化しまして、同種の消費者契約の解除に伴うとしております。

さらにもう一つは、当該事業者に生ずべきとしておりまして、あくまでも当該事業者にどういった損害がキャンセル等によって生じたのかというのを見まして、その当該事業者に生ずべき平均的な損害額を超える場合には、超える部分について無効とする。これは、キャンセルによって一定の損害が事業者に生じることがあり得るわけであります。事業者が、契約が成立したことによって先行出費などをしているときもありますので、そこの部分、あるいは予約が入ったので、他の顧客を断ったことによって利益が取れなかったという部分もあろうかと思います。

そういった部分について何らかの損害があるとして、それを取ることは構わないのですが、損害賠償の額の定め方において、取り過ぎはよくない。それはあくまでも当該事業者に生ずる平均的な損害の額ということでございまして、同種の消費者契約、消費者契約は一つの事業者とたくさんの消費者の間で反復継続的にたくさんの契約が結ばれるということで、そこで賄ってもらえばいいという発想でございます。今回、論点としてお示ししておりますのは、その中の当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるというところでございます。

11ページに戻っていただきまして、学納金の返還請求とか建設会社の事例を御紹介しております。学納金の事例は非常に著名な事案でございますけれども、授業料等について損害賠償の予定というのに該当するということで、返還を命じたということでございますが、この事業者に生ずべき平均的な損害の額の立証責任につきましては、最高裁は、原則としては消費者にあるということを言っております。11ページから12ページに書いているところでございます。

他方で、現行の規定は当該事業者に生ずべきとしております。当該事業者ということでありまして、そうしますと、通常は当該事業者しか知り得ない帳簿等の内部資料がない限りは、消費者が外からそれを把握するというのは、一般的には困難なことが多いのではないかと思われるところでありまして、ここが手当ての必要があるのではないかと思われるところでございます。

それで、(2)の考え方ということで、イ、ウ、エが具体的な案となりますが、アで、その前に現行の工夫としてあり得るものを幾つか書いております。例えば12ページのアの「この点について」という段落で、事実上の推定のような形で適宜対処するというのもあろうかと思います。

あるいは、参考として書いております求釈明とか文書提出命令の活用などということで資料を入手することもあろうかと思います。

ただ、問題意識としましては、これがどこまで機能しているかということでございまして、脚注の17に裁判官のアンケートの資料を参考に御紹介しております。当事者、どちらも十分な主張・立証をしないということで、裁判所も苦労したという指摘でありますとか、13ページの脚注の18で、これも裁判官の方の御指摘でありますけれども、4行目、5行目に書いておりますが、「裁判例を見ると、事業者が全く証拠を提出しない等の訴訟活動をすることがままあるようである」という御指摘もあるところでございます。

こういったところを踏まえて、ではどうするかということでありまして、13ページのイ以下でありますが、1つは、立証責任を転換してしまうということでございまして、原則としては損害賠償の予定条項については無効とする。ただし、事業者において、平均的な損害の額というものを立証した場合であれば、それを超えないということが立証できた場合には有効とするということでございます。

参考として20ページに日弁連の提案をおつけしておりますが、もし仮に立証責任に転換するとすれば、こういった規定も1つあり得るのではないかと思われるところでございます。

ただし、これにつきましては、14ページ、理屈の問題かもしれませんが、「これに対しては」と書いていますが、もともとそういった損害賠償の予定というのは民法でも許容されているところでございまして、個別に事業者が一々立証しなくても損害賠償請求できますよというのが、損害賠償の額の予定の趣旨だと思いますので、それを無にしてしまう側面もあろうかと思います。

また、14ページの脚注22は阿部委員から御提出いただいたところで、事業者としての懸案事項を幾つか御紹介しているところでございます。

では、この立証責任の転換ではない方策としてはどういうものがあるかということでありまして、ウ、エに2つほど御紹介しております。

1つは、立証を制度的に促していくということでございまして、「例えば」という段落で書いておりますが、会社法などの類例を参考に、一定の書類の提出命令のような制度を設ける。文書提出命令の特則のような形に位置づけられるかと思いますが、こういうことも選択肢としてはあり得ると思います。ただ、注意しなければいけませんのは、会社法等の規定といいますのは、会計帳簿でありますとか、対象となる書類が明確に特定されておりますので、本件におきましては、平均的な損害の額が幾らかということに関する資料というのは多岐にわたることが想定されますので、ここまで類型的になっているわけではないという違いを踏まえる必要はあろうかと思います。

「その他」ということで、最後の行にちょっとだけ御紹介していますが、特許法の規定というのがございます。御参考までに紹介いたしますと、21ページでございますけれども、特許法の規定の中では、特許権侵害に関する訴訟において、相手方が侵害を否認する場合には、その理由をつけて積極的に否認しなければいけないという規定が設けられてございますので、こういった形の規定も参考にしながら、何らかの形で事業者がその平均的な損害というものを主張・立証していくことを促していく手当てを講ずることもあり得るかと思います。

次に、15ページは、そういった手続的な手当てというよりは、実体法で対処していくということでございまして、当該事業者に生ずべき平均的な損害というのが事業者の内部事情ということで立証しにくいということであれば、同種事業を行う通常の事業者という形で、ちょっと客観的なところにシフトさせるという考え方でございまして、下のほうに書いてありますが、例えば特商法における損害賠償額、契約の締結・履行に要する通常の費用というものについては、業界の平均費用が標準であるとされているところが、1つ参考になるのではないかと思うわけでありますが、当該事業者に生ずべき額ではなくて、同種事業を行う通常の事業者に生ずべきというものを立証主題としていく。

そうしますと、1つは、同種事業者の平均的損害額というのが大体相場になるでしょうという考え方でありまして、そこを線とするというので、それなりに実態的にも合理性があるのではないかと思われるところと、そういった通常の事業者に生ずべき損害というものについては、各種のデータ、例えば標準約款でどうなっているかとか、業界が公表する資料などを追っていくとか、そういうことをしていけば、当該事業者に生ずべき平均的損害額を探求していくよりはやりやすいのではないかといった面もございます。

ただ、そうしますと、16ページの(イ)につながりますが、「当該事業者に生ずべき平均的な損害の額」が、実は業界標準よりも高いということも可能性としては出てくるわけであります。そうしますと、事業者とすれば、その分は本来取ってもよいという考え方もあるわけでありまして、であれば、その取れる部分については事業者が主張・立証するということであれば、それが認められたときにはそこまで取ってもいいですよとしているという考え方もあろうかと思いますので、そういう考え方を書いているところでございます。

いずれもいろいろと検討すべき点はあろうかと思いますので、難しいということであれば、現行法の規定、事実上の推定の活用その他によって対処するということもあり得ると思います。

以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明の内容を受けまして議論を行いたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。山本健司委員。

○山本(健)委員 ありがとうございます。

結論として甲案に賛成いたします。

当該事業者に生ずべき平均的な損害は、通常は当該事業者にしか知り得ない事柄であり、消費者に主張・立証責任を課すのは不可能に近い困難を強いるものです。一方、当該事業者においては、みずからの帳簿その他の内部資料によって、平均的損害を主張・立証することは容易と思われます。したがって、主張・立証責任の公平かつ合理的な分担という観点から、「平均的な損害」の主張・立証責任を事業者に転換する甲案に賛成いたします。

一方、乙案のように、裁判所による資料提出命令規定等を設けることで、この問題に対応しようという考え方には賛成できません。現行法においても、裁判所による求釈明、文書提出命令といった事業者に証拠提出を促す制度は存在しております。しかし、これらの制度は必ずしも有効に機能しておりません。

その理由としては、まず、事業者が種々の理由、具体的には、訴訟の勝敗への影響のほか、内部手続やノウハウの秘匿の必要性、争点との関連性が希薄な記載内容から争点が拡大し、訴訟が長期化する事態を回避する必要性などの理由によって、内部資料の標目や内容の開示に消極的であるということが挙げられると思います。また、当該事業者以外の者による文書の特定の困難さという点が指摘できると思います。この当該事業者以外の者には、裁判所も入ります。

さらに、事案によっては文提事件の結論が確定するまで訴訟が長時間停止してしまう可能性がある、事案によっては1年以上基本事件が停止してしまう可能性があるということも、文書提出命令が使いにくい理由の一つとして挙げられると思います。

このような現実的な問題点をそのままに、文提類似の制度を設けたとしても、その実効性には疑問があるように思われます。

また、事業者にとっても、乙案のように権限を強化された裁判所から文書の性格や内容を正確に知らないまま内部文書の開示について過度に介入される制度設計よりも、立証(証拠提出)の仕方に関する自由度の高い甲案のほうがメリットがあるのではないかと思います。

丙案は、当該業種に属する多くの事業者が高額な違約金を定めた標準約款等に準拠していた場合を考えると、問題があると思います。

「平均的損害の立証責任」についての意見は以上でございます。

あと、別の論点のことなのですけれども、平成26年10月にとりまとめられた「消費者契約法の運用状況に関する検討会報告書」では、「平均的損害の意義」という論点があったと思います。本日頂戴した消費者庁のペーパーには、その論点に関する記載がないので、その点について、この論点に関する議論が終わった後に、質問のお時間を頂戴できればありがたく存じます。
以上です。

○山本(敬)座長 わかりました。

それでは、ほかに。阿部委員。

○阿部委員 まず、甲案には絶対に反対いたします。中身としては、丙案をもとにもう少し実効的なことを検討してみたいと思いますが、乙案については、これは山本委員もおっしゃったように、一体何を出せと言われることになるのか。それから、提出に応じなかったときにどういう効果があるのか、このあたりはどうお考えなのか、少し教えていただきたい。全く無意味な規定になるとは思わないのですけれども、かといって提出すべき資料の中身が特定できない場合、それらに関する資料一切などと言われても困りますし、出さないと一体どういうことになるのか。ここは、具体的な提案がもし何かあればいただきたい。

結論としては、丙案をもとに、少しでも実効的なものになるように、文言を検討してはどうかと思います。

○山本(敬)座長 大澤委員。

○大澤委員 私は、甲案を支持します。立証責任の転換規定を設けるということを支持します。

理由として、3つ申し上げます。

まず、1つ目の理由ですが、実質的な問題として、消費者の側で平均的な損害の額を主張・立証するのは非常に難しいというのは、もう以前からずっと言われていることですし、その点は今日のペーパーの特に12ページ以下の脚注などでも、現実にいろいろ指摘されているところですので、この点について何らかの手当てをすべきだというのが1つ目の理由になります。それならば、丙案、同種の事業を行うと変えればいいじゃないかという提案がなされておりますが、この「同種の事業を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害の額」というのであれば、果たして立証が簡単なのかというと、それはそうは思いませんので、この丙案では立証を容易にするということに余り解決になっていないのではないかというのが個人的な印象です。

2つ目の理由ですけれども、例えば海外の不当条項リストを見ていますと、もちろん日本の場合には原則として無効というリストですが、海外ではこれもいろいろありますけれども、例えば複数の国で、このような過大な損害賠償額の予定を定める条項は、無効であると推定されます。ただし、それが過大でないということを事業者が示した場合には、それが覆るという形で、推定されるリストという形で、この賠償額の予定条項がリスト化されています。

その際には、もちろんその反証を行うのは事業者になっておりますので、このように立証責任を転換して、原則として平均的な損害の額を超える分は無効としつつ、しかし、事業者の反証を認めるという形は、海外でのリストなどの状況を見ていても、そんなに不自然なことではない。少なくとも消費者契約では、この点を規定として立証責任を転換することがある程度説明できるのではないかというのが2つ目の理由です。

3つ目ですけれども、これは資料の14ページの上の「これに対しては」というところで、民法420条との関係というのが指摘されておりますが、この9条1号というのも、賠償額の予定条項は一切無効ですと言っているわけではなくて、平均的な損害額を超えるものに関しては無効としますよと。要は、平均的な損害を超えるような過大な額を定めるものに関しては無効としますと言っているので、420条と整合しないという点については、必ずしもそうではないのではないかと思います。
以上です。

○山本(敬)座長 それでは、山本和彦委員。

○山本(和)委員 大澤委員の御発言に対する御質問ですが、そうすると、消費者側は過大であるということは証明しなければいけないという前提であるということでよろしいのですね。

○大澤委員 現行法です。

○山本(和)委員 いや、今、言われたのは、過大な損害に関する条項については、不当条項リストに入ってと言われたように思いますが。

○大澤委員 はい。海外、フランスの場合ですと、過大な賠償額の予定を定める条項は不当だと推定されるとされていますが、その場合に消費者が行うのは、そういう条項が契約書に入っているということを主張する。

○山本(和)委員 そういう条項というのは、過大な損害額をおさめた条項ということ。

○大澤委員 はい。

○山本(和)委員 そうすると、過大性については立証しなければいけないということですね。

○大澤委員 済みません、ちょっとわからない。

○山本(敬)座長 二通り可能性がありまして、今、御指摘のように、過大な損害賠償額予定条項は無効であるとするならば、無効であるということは消費者が言わないといけないはずなので、それは過大な損害賠償予定条項であるということを立証しないといけないことになるというのが一つの可能性です。もう一つの可能性は、言葉は少し違ったかもしれませんけれども、過大でない損害賠償額予定条項を定めれば有効であるという前提で考えるならば、事業者側がこれは過大でない条項であるということを立証しなければならないということが出てくる。そのような理解をしているのかもしれません。うまく説明できていないかもしれませんが、山本和彦委員。

○山本(和)委員 それは、恐らく実質的には損害賠償条項を定めることは無効であって、過大でないということを立証すれば、その無効性を免れるということで、実質はここで書かれているように、それが果たして民法の原則的な規定と整合するのかというのが恐らく事務局の。

○山本(敬)座長 御指摘、どうもありがとうございました。少し技術的に感じられる問題だったかもしれませんが、問題になっているのが立証責任ですので、どうしても避けて通れないところがあります。

さらに御指摘いただけることがあればと思いますが、河上委員長、それから河野委員、お願いします。

○消費者委員会河上委員長 前提の部分で少し情報をいただきたいのですけれども、今般の債権法改正で420条第1項の後段が削除されるということになったかと思います。後段の部分というのは、当事者は損害賠償を予定することができるというのが前段で、それに対して裁判所は増減してはいけません。つまり、決めたものは裁判所はそのまま尊重しなさいというのが民法の建前だったのが、後段部分が削除された。これが、一体どういう意味合いで削除されようとしているのかというのがまず1点。民法の債権法改正にかかわっている方にお伺いできればありがたい。

その上で、消費者と事業者が損害賠償額の予定を行うというだけの情報を前提とした交渉が本当に期待できるかというと、これは極めて難しいわけですね。そうなると、そういう場合に、なおかつ損害賠償額の予定に関する民法の420条を前提にして考えないといけないのかというのがよくわからないところです。その意味では、損害賠償についての予定を定めるような条項があったときに、もうちょっとフリーハンドでそれが不当かどうかを端的に議論してみたらいいのではないかと思うのです。平均的な損害分については、損害賠償として請求されたときは、それは構わないけれども、それ以上を請求するときには、ちゃんとそれなりの理由が示されてしかるべきだということであれば、丙案のあたりに落ち着けて、あとは事実上の推定で対処することになるのではないかという気がいたします。

甲案でいくとしても、もともと事業者は自分にこれだけ損害が起きていると言って賠償請求をする立場にありますから、本来の損害賠償をするときの立証スタイルに戻るだけのことではないかという気がするのですけれども、その辺はどう考えたらいいのでしょうか。山本和彦先生もいらっしゃるから、立証責任の問題としても伺えればと思いますが。

○山本(和)委員 誤解があると思いますが、立証責任の問題は実体法の問題であるというのが私の認識でございます。先ほどの私の発言は、特に甲案に対して反対するという趣旨で発言したものではありません。実質を明らかにしてほしいというだけのことでございます。

○消費者委員会河上委員長 民法のほうはどういうことなのでしょうか。

○山本(敬)座長 不用意なことを申し上げるわけにはいかないのですが、いかがでしょうか。

○阿部委員 420条後段の削除というのは経団連は反対していたはずですが、そんなに大きな議論にはならなかったと記憶しています。

○山本(敬)座長 削除の理由を聞いておられたので、それをということですね。沖野委員、もしよろしければ。

○沖野委員 私も不用意な発言にならないように、それを確保することはできないのですけれども、記憶で申し上げます。420条自体は裁判所が増減することはできないという規定ですけれども、現実には公序良俗に反するとして実質的な減額がされています。ですから、もはや現在の運用が機能的、実質的にはこの規定に反しているという状況がありますので、規定を改めるということで、この運用をより正面から明らかにするのが削除の趣旨であり、それ以上に積極的にどうこうということではなく、既に減額処理がされているということから、増減できないのだけれども、公序良俗によれば、結局一部は減額できるということはかえってわかりにくいだろう、そのぐらいのことではなかったかと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございます。おっしゃるとおりだったと思います。現状でも、90条、ここでも話題に出ました暴利行為に関する判例の準則によって、この条項が無効にされる場合がある。そうすると、この420条1項後段の定め方と抵触しているわけですので、この部分はそれを削除するということで、御指摘のとおりだったと思います。よろしいでしょうか。

○消費者委員会河上委員長 ありがとうございます。そうだとすると、今までは裁判所が介入してはいけないとしていた部分を、特別な規定でこういう制限をかけたということですから、裁判所はむしろ介入することができるという前提のもとのルールに書ける条項ですから、これまでよりも若干フリーハンドがあるのではないかという感じはします。それだけです。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

それでは、河野委員。

○河野委員 私は、このことに関しましては、先ほどから何人かの委員の方もおっしゃっていますけれども、ぜひ甲案に書かれている立証責任の転換規定を設けていただきたいというお願いを消費者からしたいと思います。当然のことながら、当該事業者の平均的損害というのは当該事業者しか知り得ないですし、算出するための必要資料等は事業者の方が所有しているので、そもそも消費者に立証責任を求めていることが適切ではないと思います。

乙案では、裁判所による文書提出命令等の規定を設けると書かれております。現在あるということですが、ほとんど機能していませんし、実際、民事訴訟で言うと、このあたりで消費者は常に負けてしまうという状況になっています。

また、裁判所による文書提出命令というのは訴訟以降のことであって、国民生活センターさん等でやられているADRとか消費生活相談の現場、それから消費者個人の自主交渉の場面では、このことは全く機能しませんので、消費者は救われないという状況だと思います。

それから、丙案の「同種の事業を行う通常の事業者に生ずべき平均的な損害」ということについては、これでも依然、立証責任が消費者側にあることから、ハードルが高いと思っております。景品表示法においては、不実証広告規制というのが導入されています。行政でさえ、立証責任の困難さから立証責任の転換を行った経緯があることを考えれば、消費者契約法においては立証責任を事業者に転換してもよいと私自身は思っています。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

ほかにいかがでしょうか。山本和彦委員。

○山本(和)委員 先ほど申し上げたように、私は甲案についてはコメントはないですが、不人気なのかもしれませんが、乙案は訴訟法に関することだと思いますので、若干のコメントをさせていただきたいと思います。

立証責任が仮にこのままだとすれば、消費者に立証困難が生ずるということは恐らく異論がなくて、立証困難が生ずる場合に証明責任を負わない相手方に対して、どのような対応を求めるかというのは、我々の業界では事案解明義務の問題ということで、これはかなりの議論の積み重ねがあります。私の認識では、現在においては、そういう場合に証明責任を負っていない側の当事者についても、一定の主張・立証の負担を何らかの形で求めるということについては、現行民訴法のもとではかなりのコンセンサスができてきているのではないかと認識しております。

判例においてもいろいろな議論がありますけれども、いわゆる伊方原発事件において、行政庁が資料を独占しているような場合においては、まず証明責任を負っていない行政庁の側で一定の資料に基づく主張・立証をすべきであるということを最高裁も言っておりまして、竹下先生などによれば、これは行政訴訟に限らず、一般的な事案解明義務について一定の示唆を最高裁が与えたものであるという評価もされているところです。そういう意味では、この問題状況というのは、そういう場面と類似しているところはあるようには思いますので、広い意味での事案解明義務的な、あるいはそれは民訴2条の訴訟法上の信義則というもので基礎づけられるのかもしれませんけれども、それに基づく何らかの規定を設けるということはあり得るのだろうと思っています。

乙案的なもので、この資料に例えば特許法104条の2が挙がっておりますが、これは証明責任を負わないで否認する当事者について、単純否認をいわば認めずに、常に積極否認、理由づけをさせて一定の説明をさせるという規律だと思います。

同様のものとして、ここに挙がっておりませんが、行政事件訴訟法の中にも、裁判所が行政庁に対して一定の釈明処分をすることができるという規定が、これは司法制度改革の行政訴訟法改正の中で導入されました。これは、行政庁の側で処分する場合に、その行政処分の理由というのは、それについての資料は行政庁が全部持っていますので、その取消し訴訟が起こった場合に行政庁の側で自分の処分が合理的であったということを一定の資料に基づいて根拠づけて、それを説明しなければならないという形での釈明を行うということであります。これは、注に挙がっている後藤委員の御提案と類似した面があるような規律ではないかと思っています。

その効果をどこまで書くのかというのは、先ほど阿部委員も言われましたけれども、真実擬制というところまで書くのか。行政訴訟法の議論のときはそういう議論もあったようですけれども、最終的には効果は明確に書いていませんが、一般的な説明では、裁判所が弁論の全趣旨等によって、それを釈明処分に応じなかったことを心証に反映するということで、より柔軟な対応が可能なのではないかということが立案当局では説明されていたのではないかと思いますけれども、そういう形も考えられるということであろうと思います。そういうのがいいというところまで定見はありませんけれども、考え方としてはそういうこともありだろうというぐらいに思います。

○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。もし今の点について御質問があれば。後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 山本和彦委員に御質問なのですけれども、今、民事訴訟法上の事案解明義務というものを使うというお話があったと思うのですが、これは考え方の一つとしては、民事訴訟法でそういう議論があるならば、消費者契約法に特に規定を設けなくても、民事訴訟法の議論の進展に任せるというのか、そちらの扱いに任せるというのも一つの方法だと思うのですが、そうではなくて、事案解明義務に基づく考え方を消費者契約法に規定するとおっしゃいましたので、なぜ消費者契約法に規定したほうがいいのかということを教えていただけたらと思います。

○山本(敬)座長 山本和彦委員。

○山本(和)委員 規定するとか、規定すべきであると私は言ったつもりはありません。定見は特にありませんと、結論については申し上げたつもりでした。

ただ、民事訴訟法においては、基本的には民事訴訟というのは武器対等の当事者であるという局面を前提にして規定ができていますので、民事訴訟法の中に明文として、そういったそもそも武器が非対等的な場合であることを前提とした規律を書き込むというのは、一般的にはかなりハードルが高いと思っています。行政事件訴訟法で先ほどのような規定が書けたのは、行政庁とそれを争う側の当事者というのは、一般的に言えば武器が対等でない当事者間の訴訟についての法律であるということが、その背景としてあったのかなと思っています。

そういう意味では、消費者契約法の目的が消費者と事業者の間の情報等の格差を是正するという点にあるのだとすれば、そこには訴訟の場面においても武器が対等でないということを前提とした場面での法律であるとすれば、それは書ける可能性はあるのではないかと思っているということを申し上げたわけで、繰り返しですが、書くべきだと申し上げているわけではございません。

○後藤(巻)座長代理 どうもありがとうございました。

○山本(敬)座長 ほかに御質問等があれば。増田委員、それから古閑委員。

○増田委員 消費者契約は、少額であるために裁判所で解決することが非常に少ないということが前提だと思っております。したがいまして、私は甲案に賛成いたします。乙案であれば、消費者との話し合い、あるいはセンターでの話し合いでは提出されることはおよそ考えられないと思います。

それと丙案に関しましては、同種の事業を行うという平均的な損害を出すこと自体が非常に困難であって、業界団体がない業種も非常に多く、また業界団体の解約料自体も、時代が変わってきていて、その金額自体が不当なものもあるかと思いますので、丙案についても賛成できないと考えております。

○山本(敬)座長 古閑委員。

○古閑委員 こちらについては、幾つかの事業者にも御意見を聞いてまいりましたけれども、非常に懸念が多いところでありました。消費者による立証の必要がもしなくなるということであると、濫訴が起きるのではないかということを懸念しているところが結構多かったです。そうなりますと、適正に設定したものであっても、対応のコストがかかってくることになり、事業者としては、その分、それに今まで以上にコストがかかってくることになりますので、例えば消費者に対する価格に悪影響が及ぶということにもなってしまうので、その濫訴が起きないようにという対策なしに、ここを安易に転換するというのはないのではないかという意見です。

それから、一般的には約款等に入っている想定が多いと思うのですけれども、そうだとすると、例えば同業他社のことを引き合いに出している丙案もありますけれども、同業他社で本当に同じようなサービスを提供しているところがあるのであれば、その約款を見比べて、この損害賠償の条項は嫌だなと思えば、他社のサービスを使うという選択肢も消費者にはあるので、どうしてもここを変えなければいけないのか、本当に必要性があるのか疑問に思います。そこは、消費者にも選択の自由があると思っています。

それから、丙案については、同業他社が約款等を必ずしも公表していなくて契約ベースでやっている場合には、参考にできないのではないかというのと、ものによっては、ぴったり同種と言える事業がない場合もあると思うので、そうすると丙案というのは必ずしも実効性がないのではないかと思っております。
以上です。

○山本(敬)座長 ほかにはいかがでしょうか。井田委員。

○井田委員 結論としては、甲案に賛成したいと思います。適格消費者団体として差止めを検討するときに、平均的損害を超えるか超えないかというところが毎回、一番悩みでございまして、我々も事業者側の内部資料がないので、立証はちょっと無理だねということで、実際には差止めか、あるいは申し入れを断念するというケースが多々あります。僕たちでもなかなか判断が難しいというところを、一般消費者がこの条項が平均的損害を超えるのかどうかというのを判断する。しかも自分たちが証拠を出していかないといけないということになると、およそ消費者のほうから積極的に条項の無効性を主張するというのが困難になるのではないかと思っております。

消費者庁が出された資料には、民法420条という御指摘もあるのですけれども、ある程度損害があるということを前提にして、ただ実際に裁判所の場で立証することなく、約束で定めているから取れるということだと思うので、本来、違約金条項がなければ、事業者の側としては個別の損害を立証していく。その意味での立証責任があるわけで、消費者契約法において立証責任の転換を行ったからといって、過度に負担になると言われると、そこは必ずしもそうじゃないのではないかと思います。

濫訴の懸念ということもございましたけれども、それは事業者側としても約款の決め方、違約金の定め方、設定の仕方によって工夫できると思います。僕らが差止め訴訟などをやっていると、ある事業者のほうでは業界団体のほうで違約金条項というのをきちんと検討して、実際に金額を下げるとか割合を変えるということで工夫しているような団体もございます。消費者と事業者の不毛な争いを避けるという意味でも、甲案というのは紛争の減少には寄与するのではないかと考えています。
以上です。

○山本(敬)座長 ありがとうございます。

沖野委員。

○沖野委員 細かいところかもしれないのですけれども、私自身、決め切れないところがあるのですが、3つの案で言うと甲案が望ましいのではないかと考えております。乙案は、次善の策だろうと考えられまして、こういう手続なり、山本和彦委員がご教示くださった事案解明義務というのが置かれたとしても、訴訟においてのことです。増田委員がおっしゃったように、多くは訴訟まで行かないという状況です。しかも手続的な手当てで、実体的に訴訟に行けばこうなるということで動くところもあると思いますけれども、消費者相談の比重などを考えますと、消費者契約としての規律の実効性は疑わしいのではないかと思われます。しかし、証明責任が現行のままでとどまるのであれば、乙案を組み合わせるという位置づけではないかと思います。

それから、証明責任を少し緩和する、中間的な案が丙案だと考えております。丙案の内容に関しまして、16ページに平均的な損害の額との関係をどう考えるかという問題が指摘されています。平均的な損害の額のほうが通常額よりも低いというときにも、それを超えて取れる、それは経営努力の結果として正当化できないかということが書かれていますけれども、こういうことを言い出すと、逆の場合は経営努力が足りないということにもなりかねず、説明がなかなか難しいのではないかと思います。

むしろ丙案の考え方は、基本は、平均的な損害の額で画されるのだけれども、その証明が当該事業者についてでは一層ハードルが高いので、通常の事業者がどうかというところで推定していくというものと考えられます。そうしますと、実際には立証は難しいでしょうけれども、当該事業者の平均的な損害について消費者のほうが、平均的な損害のほうが低いことを証明できるのであれば、平均的損害を主張・立証できることになります。そういうタイプの規律なのではないかと考えております。ただ、懸念は、丙案の平均的損害についての推定が立証困難という問題に対して、どこまで対応できるのかです。また、多くの事業者が平均的な損害を超えるような条項を使っているという状況の場合、通常の事業者の場合を証明するのも難しいという山本健司委員のご指摘も確かにそういう面があるのかなと思いました。

甲案についての14ページの民法420条との関係ですけれども、ここの指摘が必ずしもよくわからないところがあります。420条で賠償額の予定を定めることで、実損の有無や額を問わず、それで賠償を決着させる、あらかじめ紛争を低減するような形で決めることを民法は認めているわけですけれども、まず、それは当事者が合意して、そのようにするならばということであり、消費者契約のそのような条項の場合、両当事者の合意によるという実質が十分にはないというところが問題ですので、民法420条の素地については、そもそも同じレベルでは語れないということがあります。

それから、民法420条につきましても、既に公序良俗に反するようなものは無効、一部無効となることが認められております。そして、消費者契約法のこの規定は、消費者契約の場合に、このような場面における損害賠償額の予定においては、当該事業者の平均的損害を超えるようなものは取れない。いわば公序良俗の内容をより具体化したもので、平均的損害ということで頭打ちになるということですから、その点でも民法の規律とそごはないと考えられます。そうしますと、この部分は余り反論にならないのではないか。むしろ証明の問題としてどうかという観点で考えていくことができるのではないかと思います。

○山本(敬)座長 ほかに。後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 私も基本的には甲案に賛成ですが、気になることがありまして、私の理解不足だろうと思うのですけれども。

先ほど大澤委員と山本和彦委員の間で少しやりとりがあったところなのですけれども、具体的に事業者側に立証責任を負わせるということになった場合に、規定としてどういう規定になるかということを考えると、解除に伴う損害賠償額の予定条項は無効とする、として、ただし、という形で無効にならないという形の規定になると思うのです。

先ほど、その無効になる条項を不当条項と言うためには、過大な損害賠償額予定でないと不当性がないのではないか、というような議論も出ていましたので、その過大性というものを消費者側で立証責任を負うということになると、これは事業者に立証責任を負わせるという趣旨に反することになりますので、解除に伴う損害賠償額の予定は無効であるという記述になるのではないかと思います。現に、日弁連の提案でも、20ページですが、そのようになっているのですけれども、そこの部分だけ見たときに、損害賠償額の予定が、消費者契約で予定するとはいえ不当なのかという問題が出てきてしまうと思うのです。

それをどうするかということを解決しないと条文化するのは難しいと思うのですが、その辺、どうお考えなのかということを、消費者庁か、どなたか教えていただけたらありがたいと思いますが。

○山本(敬)座長 これは、消費者庁への質問というよりは、甲案を支持されている方々への質問と言うべきかもしれませんが、もし御指摘いただけることがあればと思いますが、いかがでしょうか。では、沖野委員。

○沖野委員 問題意識を十分に把握しておらず、誤解に基づくかもしれません。例えば、消費者契約における消費者の解除の場合という場面設定が適切かどうかはともかくとして、消費者の損害賠償責任に関し、賠償額を予定する条項は、事業者側の平均的損害の範囲におさまる限りにおいて効力を有するという規定にするとどうでしょうか。実質ないし実体的な内容はそういうことだと思うのです。およそ損害賠償額の予定は認められないということではなくて、大澤委員が指摘されたように、実体的なルールは平均的な部分までは取れる。当該事案では損害は実はゼロかもしれないけれども、賠償額の予定として平均的な損害が取れるという規律であり、ただ、証明責任を考えたときの書き方としても、いろいろな書き方があるのだと思います。甲案のような証明責任の分配を明らかにするような形になると、一つのあり方はまず、無効だとしたうえで、ただし一部は有効になるというものですが、有効で、ただしこの範囲に限るという形も考えられますし、前者であっても、結局、一部は有効としている規律ですので、実体的なルールとして、およそ無効だと言うものではないと考えられないものかと思うのですけれども。

○後藤(巻)座長代理 私もきちんと理解していないのですが、日弁連の試案で、ただし書の前のところに平均的損害という文言もないので、これを読んで、今のような感想を持ったのですけれども、その辺、どうなのでしょうか。

○山本(敬)座長 山本健司委員。

○山本(健)委員 御質問、ありがとうございます。

本文とただし書きはワンセットです。本文だけでおよそ全ての損害賠償額の予定を無効と考える趣旨ではなくて、立証責任の割り振りを明示的に明らかにするために、このような書きぶりにしたということです。先ほどからの御議論で出ているように、過大な損害賠償額の予定が無効になるということを前提に、こういう書き方であれば立証責任の割り振りがわかりやすいのではないかという趣旨で、このようなワーディングにしたという経緯でございます。

○山本(敬)座長 技術的な話になっているのですけれども、仮に立証責任を甲案に従って事業者に課すとしたときに、どのような形でそれを条文で示すかというのは、答えは1つではありません。

今の御指摘にありましたように、原則として無効とする。ただし、こういう場合には無効にならないという形で、原則・例外という形式で書くという定め方もあれば、沖野委員が指摘されましたように、こういう場合には有効なものとするという定め方もありますし、逆に現行法に即して言うならば、平均的な損害を超えないものを除いて無効とするという定め方もあって、表現の仕方はさまざまですが、どの表現をとっても、突き詰めて考えると、原則を無効にして、例外的に平均的な損害を超えないものは有効とするという考え方がとられていると考えないと、立証責任が事業者にあることが説明できないだろうと思います。

ですので、沖野委員が指摘されたのも、わざわざ有効とすると定めるのは、何もない限りは無効なのでしょう。こういう場合には有効とするということを示しているのであって、原則は無効、例外的に平均的な損害を超えないものは有効とするという考え方がとられている。ですから、後藤委員が指摘された問題、つまり原則として無効とするということが出てきてしまうので、それを消費者契約法ではどのようにして正当化すればよいでしょうかという問いが残るのだろうと思います。

ただ、少し気をつけないといけないのは、原則だけではなくて、例外規定を置くということも同時に消費者契約法で定めるわけですので、なぜ例外を定めるのか、それも理由があるわけであって、それとあわせて検討しないといけないというところがあります。

何を言っているかわからないようなことを申し上げて、大変恐縮ですけれども、問題点を整理したつもりなのに、全く整理したことになっていないかもしれません。

河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 さっき沖野委員がおっしゃったことと同じことになってしまうかもしれないのですけれども、要するに過大な損害賠償額の予定に関する条項は許さないというだけのことなのだと思うのですね。それで、問題は過大かどうかのところなのですけれども、もし条項がなかったら、事業者が請求できるのは通常損害と予見可能特別損害の合算値、これが民法で請求できる額であって、それは事業者が立証しないといけなかったはずのものであります。

ただ、それを一つ一つについて考えるというのは、大量の契約の中ではほとんど不可能なことですし、あらかじめ一定の額をもって損害賠償について予定しておくというのは、今でもいろいろなところでやっていることでありますから、これはひっくり返すわけにはいかない。考えられる合理的な線というのは、恐らくその業界での平均的な損害額というものについて示されている限りにおいては、その条項は有効になるということなのだろうと思います。

あとは、それを立証責任の話として、どのくらいが相場なのですかというところを明らかにするのが、どちらの役目になるかということですけれども、これは実質的には、自分の領域にある事業者の側で一応の説明責任はあるのだと考えれば、条文の書き方としては、先ほど出てきましたように平均的な損害額を超える賠償額の予定は無効とするという書き方になるのだろうと思いまして、平均的損害額は事業者によって立証されるということが明らかにできればいいのではないかと思います。どうでしょうか。書きぶりが無効か有効かというのは、必ずリンクさせないといけないものなのでしょうか。

○山本(敬)座長 問題点としてはあるだろうということで、それだけで答えが決まるわけではないのかもしれません。

甲案、乙案、丙案、それぞれ支持される御意見、ないしは積極的に評価できるという御意見と同時に、それぞれについて問題点があるという御指摘があり、今後の検討がなかなか難しいところではあるのですが、ただ、甲案をとると濫訴のおそれがあるというのは、もう少し正確に言い直す必要があるように思いました。賠償額予定条項や違約金条項をおよそ無効にするとなりますと、いろいろな形で訴訟が出てくる可能性はあるわけですけれども、ここで問題になっているのは立証責任の問題です。今後、仮に甲案をとったとした場合、当該損害賠償額予定条項、違約金条項は平均的な損害を超えるものではないということについての、河上委員長が言われた説明責任が事業者側に課せられてくる。今までですと、消費者側からの損害賠償請求訴訟に対して、事業者はこういう損害賠償額予定条項、違約金条項があるとだけ言えば、それ以上の請求は拒否できたのですけれども、仮に甲案をとったとした場合には、こういう条項があるというだけではなくて、これは平均的な損害を超えるものではないという説明責任が事業者側に課せられてくる。その説明ができれば問題はないわけですけれども、説明が十分にできない場合には、消費者側の損害賠償請求が認められる可能性が出てくる。こういう形で問題点を把握する必要があると思いました。

つまり、条項を定めるのはもちろん構わないわけですけれども、それが平均的な損害を超えないものであるということを積極的に説明する責任が、定める以上は事業者側に課せられてくるという案が甲案であり、そのような案を採用することがよいのかどうかというのが論点ではないかと思いますが、もし今の点についてさらにご意見があれば。柳川委員。

○柳川委員 大分技術論になっていて、よくわからなくなっていたのが、今の座長の整理でわかるようになったのですけれども、今の甲案をとった場合に濫訴という懸念が何人かの方から示されたポイントですけれども、恐らく事業者の側に立証責任のための情報を提供するのに、どのくらいの実質的なコストがかかるのかという問題なのだろうと思います。片方の側から見れば、それは明らかに事業者がやっていることなのだから、いつでも出せるでしょうという考え方もあるかと思います。

ただ、実際に事業をやっている方からすると、先ほど何人かの方からお話があったように、訴訟に対応するのは大変ですと。あるいは、注にありましたけれども、余り個別性のある数字を出すのは、ほかの人に知られてしまうという情報の問題があります。そこで本質的なコストがかかりますという御指摘もあろうかと思います。このあたりのところが実はどのくらいの負担になるのかというのは、少し知りたいところでございまして、そこに余りコストがかかるようなことであれば、少し考える必要があるだろうというのが1点目です。

だから、丙案みたいなこともあり得るかなと思うのですけれども、これも同種の事業というところがなかなか難しいというのはよくわかるところで、これを言われても、僕が実際やろうと思ったら大変だという気がします。

一方で、根拠も何もなしに提訴ができて、それで事業者側はコストをかけて、それに全部対応しなきゃいけないということであれば、ちゃんと出せば勝てるという話であっても、コストはかかりますねというのは事実で、丙案みたいな厳しい条件でなくて、もう少し何か合理的に消費者がわかる、比較的容易に判断できる範囲で計算して、過大であると思われる合理的な根拠が何らかの形であるような条件をつけるというのは何かできないのか。丙案の変形みたいな話ですけれども、何らかの形の条件をつけて、その条件を満たして提訴すれば立証責任が事業者側にあるような工夫はできないのかなという気がいたします。

○山本(敬)座長 ほかに御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。

この立証責任の問題に関しましては、以上、お出しいただいた御意見を踏まえて、次回、どのような形で検討できるかという点については、消費者庁のほうでさらに詰めていただければと思います。それぞれの案の長所・短所を指摘されて、その上でどうするかというのはなかなか難しいところがありますけれども、いずれにしましても重要な問題ですので、何らかの対処を考える方向でさらに詰めるということでよろしいでしょうか。

○消費者庁加納消費者制度課長 ちょっと検討はしないといけないと思いますけれどもね。

先ほどの柳川先生の御指摘に関連して、それ以外の点についても若干申し上げますと、まず甲案の考え方といいますのは、書きぶりはどうかというのはいろいろあると思いますけれども、結局、原則として無効とするというところに立たないと、立証責任の転換とは多分ならないということですから、そうすると後藤巻則先生がおっしゃったように、消費者契約においてはなぜ損害賠償の予定はだめなのかというところが問われることになるだろうと思います。

1つは、座長がおっしゃったみたいに、一種の説明責任みたいなものです。損害賠償の予定をすると契約上で定める、あるいは約款において規定するということであれば、それはそういったことを定めた側において、何らかの説明なりがあってしかるべきだから、それがあることを前提に有効になり得る。ないのであれば無効とするのですという価値判断。それが条文としては、原則無効ですという形であらわれるということなのかなと思いますけれども、消費者契約において、そこまで割り切るのかというところは、もうちょっと詰めないといけないのかなという、これは感想めいたところで恐縮ですけれども、お聞きしてそういう印象は持ったところでございます。

丙案については、確かに同種の事業者が行うと言ったところで、同種の事業者がなかったらどうするのかというのが増田委員の御指摘でもありますし、また山本健司先生がペーパーで書いておられるように、同種の事業者がそもそも不当な価格設定をしていたら意味がないじゃないですかというのは、そのとおりでありますので、そういうふうに言われますと丙案も難しいという話になってしまいますので、何とも言いようがないのですが。

ただ、根のところは、柳川先生がおっしゃったのと結構近いところがあるのは、私どももそのとおりでございまして、丙案の考え方は、立証責任は消費者にあります。あるのですけれども、当該事業者に対する平均的な損害額の立証というのは難しいでしょうから、同種事業を行う通常の事業者ぐらいは立証してくださいと。あとは、事業者において当該事業者に生ずべき額はもっと高いのだ、自分はもっと取れるのだというのだったら、そこは事業者によって立証してください。

さらに言いますと、例えば沖野先生がおっしゃっているようなことなどを踏まえますと、実は当該事業者に生ずべき平均的損害というのは、もっと低いはずであるということであれば、そこはむしろ消費者のほうでさらに主張・立証して追加的に頑張るということによって、そこまで取り返せるということをするというのもあり得るのかなと思いました。

ちょっと感想めいたことで恐縮ですが、以上でございます。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

最後に、山本健司委員のほうから、9条についてさらに御意見をいただければと思います。

○山本(健)委員 発言の機会を与えていただきまして、ありがとうございます。

消費者庁の「消費者契約法の運用条項に関する検討会報告書」では、55ページ以下に、9条1号について、「平均的な損害の額」の意義という論点があります。そして、上記論点に関する「検討会の議論状況」として、2つの問題意識がとりまとめられております。

1つ目は、「平均的な損害」に関する考え方は、法律家でも分かりにくく、裁判例も考え方にばらつきがある。「平均的な損害」については、分かりやすい算定基準及び条文にできないかが検討される必要があるというものです。

2つ目は、「平均的な損害」の内容に、得べかりし利益を含めると、解除権を否定するのと同じ結果になる点には留意する必要があるというものです。

しかし、本日の消費者庁の配付資料1には、この「平均的な損害の額」の意義という論点に関する記載がないように思います。この「平均的な損害の額」の意義という論点については、今後どのようになるのでしょうか。平均的損害が問題となる事案の解決の透明性を高めるために何らかの手当てを御検討いただきたいという趣旨からの質問でございます。よろしくお願いします。

○山本(敬)座長 それでは、消費者庁のほうから。

○消費者庁加納消費者制度課長 山本健司先生がおっしゃった御指摘は、確かに検討会で指摘されておるところでございまして、要するに「平均的な損害の額」としておりますけれども、その概念がよくわからないとか、さらにその損害の額の内容につきましても、一定の規律、例えば逸失利益が含まれていると、裁判例においてはそういうことを前提に判決したと思われるようなものも幾つかございますけれども、そういったところに手当てを講じてはどうかというところ。さらに、条文で言いますと、解除の時期・事由等に照らしという規定がございますけれども、こういったところについても検討は加えてはどうかと。そういった御指摘はあると、私ども認識しております。

ただ、まず「平均的な損害の額」というものにかわる概念を入れるかどうかということになりますと、冒頭、簡単に私、補足的に御説明したつもりであったのですが、消費者契約、消費者と事業者の間で反復・継続的にたくさんの同種契約がある中で、当該個別の消費者と事業者との間の契約の解除でどれだけの損害を事業者がこうむったのかということを見ていくのではなくて、平均的な損害ということで、たくさんの消費者との間でのキャンセル料の取り方で、全体として賄われていればいいのだという発想のもとに、今、こういう規定が加えられていると思っております。

そのこと自体は、消費者契約の特性といいますか、そういうものに着目してこういう規律を設けたと思われるところで、概念としてわかりにくいところはあるかもしれませんけれども、平均的なというのを加えているというのは、この法律特有の概念でありますけれども、そのこと自体は特に問題があると私どもとしては思っていなかったところでございます。

ただ、損害の内容として、どんなものが入るかということについて、裁判例を見ますと、多種多様なものがあるというのはそのとおりだと思います。典型的には、いわゆる逸失利益が入るのか入らないのかというところで、いろいろ争われ、逸失利益が入らないとした下級審の裁判例もあれば、入るということを前提に平均的な損害額を出しているという裁判例もあるところでございますが、これは私どもの認識としましては、「平均的な」というよりは、損害というものが一体何なのかというところに、むしろ由来するのではないかと考えているところでございまして、この消費者契約法のたてつけは、「平均的な」というのを加えているというのがこの法律の世界で、先ほど申し上げたような価値判断で加えておりますけれども、損害というところは特にいじっておりません。

これは、民法の先ほどの河上先生の御説明の中にもありましたけれども、相当因果関係がある損害、ないし予見可能性がある損害の中のものですよと。それは、個別の具体的事例の中で、逸失利益が入ることもあれば、入らないこともあると個々の事案ごとに判断されているということではないかと思われますので、あえて手当てを講じるとしますと、さらに解除権の実効性を高める等の観点から、その損害の内容を絞っていくという考え方もあろうかと思いますが、そこはもう少し事案の集積なども見ていく必要があるのではないかと考えております。

さらには、解除の時期・事由等に応じてというのが例示として出されておりまして、これが合理的なのかという指摘が従前からあるところでございますけれども、そこは解除の時期・事由等に応じてという規定があるからといって、裁判所の判断において消費者にとって非常に不合理な問題があるのではないかというところではないと、私どもとして思っていたところでございまして、この平均的な損害の額の意義については、さまざまな論点が凝縮しているところであろうかと思いますけれども、問題があるところとは思われなかったということでございます。

ただ、そこについても、引き続きさらに検討すべきということでありましたら、そこはまた御指摘を踏まえて検討していきたいと思います。

○山本(敬)座長 山本健司委員、よろしいですか。

○山本(健)委員 御説明いただきまして、ありがとうございました。

9条1号が適用される事例について、例えば、継続的契約関係が中途解約された場合の違約金に関する紛争類型については、9条1号とは別に、特商法49条のような規定を設けるといったあり方も考えられるのではないかと思います。平均的損害が問題となる事案の解決の透明性を高めるような方向での逐条解説の記載の充実等も含めて、今後、現在よりも透明性が高まるようなあり方をご検討いただきたいと思います。
以上です。

○山本(敬)座長 今の点について、ほかに御指摘いただくようなことがあればお出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。また別の機会に御意見をお出しいただくということでも、もちろん結構ですが、よろしいでしょうか。

それでは、差し当たり、以上の論点についてはここまでとさせていただきます。

(3)不当条項の一般条項(第10条)

○山本(敬)座長 続きまして、現行法10条が規定する「不当条項の一般条項」についての検討に移ります。資料1の22ページからの部分につきまして、消費者庁から説明をお願いいたします。

○消費者庁加納消費者制度課長 それでは、第10条につきまして御説明いたします。22ページの冒頭に書いてございますが、第10条につきましては、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」について無効とするという規定でありますが、民法その他の規定による場合に比しというところと、消費者の権利を制限し、又は義務を加重する条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するといったところ、その2つについて問題がございますので、それぞれ前段要件、後段要件という言い方で検討させていただければと思います。

まず、「前段要件」でありますが、民法その他の規定の適用による場合に比しと言っている、この「規定」というものにつきましては、立案当初はいわゆる明文の規定を前提にするということを考えておりましたが、近時の最高裁の判決において、必ずしもそうではないという判断が示されたところでございます。それが22ページから23ページに書いているところでございますが、そういった最高裁の判決を踏まえまして、この前段要件はいわゆる明文の規定に限るわけではないということを明らかにする観点から、修正を加えてはどうかということでございます。

ただ、そのときに書き方をどうするのかというのは、よく検討する必要があると思いますけれども、ここでお示ししておりますのは、もともと10条の規定の考え方といいますのは、当該契約条項が設けられることによって、ない場合に本来消費者にあった権利ないし消費者が負わなければならない義務について、不当に制限したり加重することを許さないということでございますので、端的にその趣旨を書きおろすことを検討してはどうかということで書いております。それが3-1の「前段要件」でございます。

それから、24ページの3-2の「後段要件」というところでございますが、先ほど申し上げましたように、消費者の権利を制限し、又は義務を加重する消費者契約の条項であって、民法1条2項の原則に反するかどうかというのを見ているところでございますが、民法1条2項の原則に照らすというところがなかなかわかりにくいといった御指摘があったところでございます。

事例として、3-2、3-3のフィットネスクラブの事例をお示ししております。これは免責特約でありますが、一切責任を負いませんとしつつ、ただし、会社の調査により過失があると認めた場合には、一定の補償をいたしますという規定が設けられていることがございます。

私どもの問題意識は、この一定の補償というのは一体何なのかというのが、この契約条項を見る限りでは判然としないというところでございまして、先ほどプロ野球の観戦でけがをしたという事例がございましたけれども、あれと似たような効果を生じさせる可能性がある。会社のほうで、一定の補償というのは実はこれだけですと示した額が非常に低額である可能性がありまして、いや、それはこの契約条項にそう書いているから、そうなのですとなりますと、非常に不当性を帯びてくるおそれがあるのではないかということでございます。

こういったものについて、どう考えるかということで、いろいろと今まで議論されたこと、あるいは諸外国の規定などを参考にいたしますと、24ページの(2)のアに書いているところでありますが、一つの考え方としましては、条項が平易かつ明確ではないことを後段要件として明記する。あくまでも後段は信義則に照らしてということでありまして、その枠組みまで変えるということではありませんが、平易かつ明確でないということは、不当性を根拠づけ得るということを明記するということでございます。

この平易明確というのは、現行の3条1項の努力義務というところで、契約条項作成者は、できるだけ平易明確にしなければならないように努めるという規定がございますけれども、さらにそれに法的効果を持たせるようにしていく意味合いもあろうかと思います。そうしますと、こういう規律を設けますと、例えば先ほどのフィットネスクラブの例の一定の補償をするといったものにつきましては、内容が定かではないということでございまして、こういったものについて不当条項に該当するという判断を導くことを可能にするということでございます。

こういった条項につきましては、内容が明らかでないという隠蔽効果が生じるということのほかに、実は金額はこれだけですと事業者が言うことによって、濫用的に活用される余地を残すものとして、こういう規律の対象にすることを検討してはどうかということでございます。

似たような考え方は、25ページの3段落目の最高裁判決を引いておりますが、契約条項が一義的明確に記載されているかどうかというのを考慮事情としたというのがございます。

また、適格団体による差止め請求の事案、事例3-4というところで、金銭消費貸借契約における早期完済をした場合の違約金条項について、一定の場合には利息制限法の利率を超える、著しく高利な利率として機能してしまうというところから、そういったことが生じることが一見して明らかであるとは言えないということも、考慮事情として後段要件該当性を判断したというのもございます。そういったことなどを参考にしながら、こういった規定を設けるということでございます。

あと、1点補足させていただきますと、ここで私ども、お示ししておりますのは、あくまでも平易かつ明確でない場合に、それを考慮事情とするということでございまして、平易明確であるから有効にしんしゃくするということではなく、平易明確でないということについて不当性考慮事情とするということで検討することをお示ししているということでございます。

御説明は以上でございます。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

それでは、ただいまの御説明の内容を受けまして議論を行いたいと思います。御意見、御質問のある方は御発言をお願いいたします。いかがでしょうか。では、山本健司委員。

○山本(健)委員 ありがとうございました。

平易性・明確性を欠く契約条項を無効とする旨の法文を独自に制定する法改正ならば賛成いたします。しかしながら、10条後段要件の判断要素の一つとして明確性・平易性を付加することには反対でございます。

事業者の作成した契約条項の表現が曖昧であったり、消費者にとって理解困難な用語や表現のものである場合に、事業者・消費者間の認識の不一致に起因する消費者契約が発生することは広く認識されているところだと思います。この点、ドイツ民法などを参考に明確性・平易性を欠く契約条項を不当条項として無効とする旨の法文を制定することは検討に値すると思います。

しかしながら、10条という一般条項における総合考慮の判断要素の一つとして明確性・平易性を位置づけるということについては、それによる消費者契約の内容の適正化の促進という効果よりも、平易かつ明確でさえあれば、不当な内容の契約条項でも有効になり得るといった誤った運用を招きかねない危惧のほうが大きいように思われます。そのような理由からの反対でございます。
以上です。

○山本(敬)座長 第10条の前段要件についてはいかがでしょうか。今、後段要件についての御意見をいただいたかと思いますが。

○山本(健)委員 失礼しました。3-1の前段要件の問題については、消費者庁の御提案内容に賛成でございます。
以上です。

○山本(敬)座長 それでは、阿部委員。

○阿部委員 前段・後段とも、どう考えるかということでありますけれども、変えたらどう変わるのかということがよくわからない。御指摘の中身はわかるのですけれども、この文章の文言を変えることによって、何か今と現実の救済のレベルとか効果が違ってくるのか、そこがよくわからない。そういう意味では、変えても何かわからないことは変えなくてもいいということで、現状のままでいいというのが1点です。

もう一つ、後段につきましては、結局、3条をどうするのかということをきちんと定めないと、3条でできることと、こちらで読み取ることというのをどちらか変えるのだったら、まず3条をはっきりしてほしいということをお願いしたいと思います。

○山本(敬)座長 それでは、大澤委員。

○大澤委員 前段要件につきましては、提案に賛成します。

後段要件の平易明確ではないということにつきましては、私がこちらの専門調査会のほうで2月に報告させていただきまして、その際に平易明確でないということが内容審査の上で考慮できるかどうかというのをこちらでたくさん御質問いただきまして、その後2カ月以上、いろいろ考えてまいりましたことを前提に今から申し上げたいと思います。

結論といたしましては、平易かつ明確ではないことということであれば、それを考慮要素にすることはあり得る考え方ではないかと思っております。理由を申し上げますと、2月の専門調査会のときに私が申し上げました懸念といいますのは、契約締結時の事情をおよそ全て考慮してよいということを考慮要素として書くという提案などが見られますけれども、契約締結時の事情の中には、そういう条項についての説明があったかどうかとか、あるいは条項の記載があったかどうかといったレベルのものが入っていて、これを内容審査の面で考慮するのは妥当ではないのではないかと申し上げました。

そのときに、では、説明の有無などではなくて、この条項自体が不明確であるということは考慮できるかどうかという質問をいただきまして、それについて考えてみたわけです。これにつきましては、今、言ったような条項の説明があったかどうかとか、あるいは条項が書いてあったかどうかという条項の成立要件といいますよりは、その条項自体の問題点として、条項が不明確であるとか、条項が非常に曖昧であるという条項自体に内在する問題ということを考えますと、単なる説明の有無などとは切り離して、その内容を審査の上、考慮することもあり得るのではないかと、2カ月余り検討して結論に至りました。

ただし、これを要素として入れる場合にも幾つか気をつけなきゃいけないことがあり得ると思っています。

まず、1点目は、先ほど山本健司先生のほうから御指摘がありましたが、あくまで平易かつ明確ではないことであれば考慮できるとしておかないと、平易や明確である場合には、条項自体の内容が不当であっても、平易明確なので有効になりますとつなぐことは避けなければいけないと思っていますので、あくまで不明確であることという、消費者庁はそういう趣旨で提案されていると思いますので、そういうことであれば、まだあり得るかなと思っています。

ただ、その上でもう一点気になりますのは、2月の専門調査会のときにも報告させていただきましたけれども、ほかの考慮要素との関係でございます。条項内容を審査する上で、どういうことを考慮することが考えられるかということで、その場では私は、例えば対価とか、ほかの条項の存在とか、いろいろ列挙して、それを明記するかどうかはともかくとして、いろいろあり得るのではないかということを申し上げました。ただ、結論としては、なるべくその条項あるいは対価といった客観的な要素によって内容は審査すべきであるということを申し上げましたが、ほかの考慮要素を条文に設けるかどうかということにも、これは大きくかかわると思います。

仮に、ほかの考慮要素は特段設けないけれども、平易かつ明確でないということだけを切り離して、これだけを明記するということであれば、それはなぜこれだけを取り上げるのかという説明が求められるのではないかと思いますので、ほかの考慮要素との関係で、この平易かつ明確ではないということもなり得るのだということであれば、まだわかる話ではありますけれども、ほかの考慮要素については解釈に任せるけれども、この平易かつ明確ではないということは特別に記載したいということであれば、それはなぜなのかということは伺いたいと思います。

あと、これは最後の点でございますけれども、今の阿部委員のお話にもありましたが、仮に平易かつ明確ではないことを要素として明記する場合にも、前々回だったと思いますが、条項が不明確である場合の解釈原則といったものは排除されないというか、そちらのほうも今後議論はすべきであると考えています。
以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

それでは、丸山委員。

○丸山委員 まず、前段要件につきまして少しわからない点があるので、教えていただければと思います。

まず、質問の第1点ですけれども、前段の、特に「当該条項がない場合に比し」の「当該条項がない場合」に関連してですが、これはいわゆる中心条項には10条は介入しないということもあらわしているのでしょうかというのが第1の質問です。例えば、中心条項ですので、価格などを念頭に置いた場合に、価格そのものが高過ぎるという場合、しかしながら、その価格が定まっていないと契約自体が全体として維持できないとも言えるわけですけれども、そういうものは射程外となるという趣旨なのか。それとも解釈によっては、対等当事者だったら合意されたであろう価格みたいなものと比較してみたいなところまで想定しているのか。

類似の問題として判断が少し難しいと思ったのは、長期間の拘束期間の定め、長期の契約期間の定めなのですけれども、これは当該条項がなかった場合というのは、期間の定めがない契約になるという考え方は1つあり得るのですけれども、商品とかサービスの種類によっては、対等当事者間でも期間を定めるのが普通だという契約はあり得ると思います。そういう場合に、妥当な期間と比較してという思考パターンをすることになるのでしょうかというのが質問の内容でございまして、「当該条項がない場合に比し」というのがあらゆるケースでうまく機能するのか。特に中心条項とか、民法では許容されているような期間の定めについて不当性が問題となったという場合に、果たして、前段要件をどのように運用していくのかというのが質問の第1点です。

第2点としてお伺いしたいのは、前段・後段という要件の立て方というのは必ず維持しなければいけないのかという質問でして、例えば後段のところの「一方的に害する」とか、これ自体もどのように変えるのか、それとも変えないのかという議論があり得ると思うのですけれども、審査の過程で、任意規定や一般的な考え方からの逸脱の程度みたいなものを考慮要素の一つとして挙げていくといった立法のあり方を採用することは、選択肢の一つにはなり得ないという判断が既になされているのかという点、教えていただければと思います。

○山本(敬)座長 消費者庁のほうから。

○消費者庁加納消費者制度課長 まず、2点目の逸脱のあり方というところでございますけれども、そこは別に議論の余地がないとまで申し上げるつもりはありませんで、例えば日弁連とかもそういう御提案だったと思いますけれども、任意規定がどういう内容かというのを一つの考慮事由にするという立法提案もあるところでありますので、それも一つの考え方ではないかと思います。ただ、具体的にどういうふうに定めていくのかというところは、よく検討しないといけないのではないかと思います。

それから、1点目のほうがより深刻な問題なのですが、まず中心条項の問題でございますけれども、中心条項については、少なくともこの提案自体は意図しているものではないと申し上げたいと思います。ただ、現行の消費者契約法10条がそもそも中心条項をターゲットにしているのかどうかというのは、解釈に委ねるとしか言いようがないところでございます。

立法過程を見ますと、いわゆる中心条項ではないところを念頭に、かつての国民生活審議会においては検討がされ、そういう過程でこういうことになったのだと思いますが、実際の10条が適用されている事案でどうなっているのかというのを見ますと、例えば更新料のような事案についてどうかと見ますと、対価の一部払いであるという性質もあるかもしれず、そういったところについて10条の適用というのを検討しておりますので、下級審の裁判例においては10条を適用したというのもあるところでありまして、それを一律に10条の射程外であるというところまで断言することができない状況である。

そう言うと、ちょっと無責任な言い方のように聞こえますが、立案過程に鑑みると中心条項というのは念頭に置かれていなかったのではないかと思いますけれども、実際の実務においては、そこは割と緩やかな運用がされているというのが現状ではないかと思います。

御参考までに、定型約款の民法の規律については、中心条項については排除することまでは言っていないというのが、ここの専門調査会においても法務省の方から御説明があったかと思いますので、あとは解釈に委ねると、民法においてもそういうことだと思いますので、消費者契約法においてもそこは委ねるということだと思います。

ただ、悩ましいのは、そうしますと、こういう規定の書き方をしますと、中心条項に思わぬはね方をすることはどうかというのを検討しなくちゃいけないというのが丸山先生の御質問の趣旨だと思いましたので、そこはよく検討したいと思います。そうしますと、意図せぬところに適用が広がる余地があり得るという御指摘だったと思いますので、こういう書き方自体がそもそも好ましくない、そういうおそれがあるよというのが丸山先生の御指摘の意図だと思いますので、そこは私どももよく考えないといけない。

それは、期間の定めがない場合についても同様だろうと思います。これについてどうかというのは、私も今、直ちに答えがなくて、それがどういうふうに反映するのかということはよく考えなくちゃいけないと思いますが、少なくともここに提案として書いておりますのは、中心条項でない部分について、消費者契約法が典型的に想定している条項について、本来のデフォルトルールから外れた権利義務を設定している場合については無効とするという、いわゆる明文の規定に限らないという趣旨を明らかにするという意図を出したものでございますけれども、この書き方では思わぬ波及効果が生ずることがあるという御指摘だと理解しましたので、そこは検討させていただきたいと思います。

○山本(敬)座長 丸山委員のほうから、より適当な規定の仕方について御提案があるのであれば、御指摘いただければと思いますが、いかがでしょうか。

○丸山委員 適切かどうかわからないのですけれども、10条の現在の運用を見た場合に、前段というのがハードルにしかなっていなくて、その第1段階のハードルの時点で、例えば任意規範とか一般的な考え方からの逸脱があったとしても、後段ではその点が考慮された上での総合判断がなされていないのではないかという疑問がありました。

あとは、「当該条項がない場合に比し」という言葉の曖昧さが、運用の面で困らないのかという懸念が少々あったといったことでございます。

○山本(敬)座長 これは、中心条項について消費者契約法の規律を及ぼすべきであるという考え方と、それは抑制的であるべきであるという考え方とで、条文の定め方についての提案も変わってくるだろうと思いますが、「当該条項がない場合に比し」に当たる言葉が何もありませんと、恐らく中心条項への適用をより後押しするような改正になっていくのではないかと思います。

仮にそのような解釈は否定しないけれども、そこまで明確に後押しするような改正にすべきではないとするならば、「当該条項がない場合に比し」というもの、ないしはそれに当たるものを、前段なのか後段なのかわかりませんが、どこかに書き込む必要がある。それをどうすればよいかというのが、ここでの検討課題だろうと思いますが、さらにお聞きして恐縮ですけれども、もし御提案があるならば、もう一息お願いできればと思うのですが、いかがでしょうか。

○丸山委員 私自身は、基本は不当条項規制は、付随条項の規制であるという考え方の持ち主でしたので、判例で出てきたような任意法規その他、書かれざる一般的な法原理、そういったものと比較してということでよいと思います。ただ、前段に分けてしまうとハードルにしかならないので、後段の総合考慮の要素にしてはどうかという話をしました。

ドイツの話で恐縮ですけれども、非常に長期間の契約というのが問題となった場合に、任意規範を見てみると、期間を定めること自体は自由だとドイツ法でもなっているのですが、ドイツの不当条項規制の一般条項のつくり方というのは、第1ハードルとして任意規範との比較をしているわけではなくて、不当性の推定としてそういった比較を置いているので、1項の総合的な考慮の中で不当性の審査というものを行っている実情があります。そういった比較法も参考にした上での発言でした。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

それでは、ほかに。河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 まず最初の前段要件ですけれども、これはもともと当該条項なかりせば、両当事者に分配されていた権利義務がどういうふうに当該条項によって変更されているかというところを見るのだという言い方をするために、持って回ったような言い方になっている。任意規定との関係ですね。もしその条項がなければ、裁判所ではどういう契約内容であったかということを任意規範とか契約の趣旨や当事者の合意とかを見ながら考えて権利義務を分配するということになるわけで、とりもなおさず任意規範によって補充されたルールとの関係で、その中身が消費者の側に不当に不利になっていくということであれば、信義則によって無効になりますよという条文になっていると思います。

ですから、それが今の条文のままであると非常にハードな基準になっているように見えるので、最高裁のものに合わせるという意味では、当初の当該条項なかりせばという中身に変わっていくというのは、ごく自然な改定ではないかと思います。

問題は2つ目のほうでして、本来はよく中身がわからない条項だということになれば、条項そのものが意味を持っていないということになって、読んでもわからない、見ても理解できないという条項は、そもそも効力を持たない。もし規制をするのであれば、わかるように書きなさい、理解できるように書きなさいという条項の明確化のほうの議論で処理するべき筋合いのものだろうと思います。先ほど阿部委員からも御指摘があったように、条項が不明確だということについての対応というのをどうするのかということとの関係で、ここは考えてくださいというのは、私はごもっともな御意見だと思いました。

ただ、もう一つ言うと、内容が非常に曖昧模糊としてわかりにくい条項がそのままそこに存在していることが、消費者契約にとっては大変危険なことで、不適切な条項であるということはたしかであって、そういう条項自体の存在が取引に不用意なリスクを持ち込んでいるのだという評価をすることも可能です。そうであれば、解釈の問題でもなく、内容の当不当とも別に、そのような条項が無効になる可能性がありますとつけ加えるということであれば理解できます。全体を一気に混ぜて考えましょうというのは、どうも違ったものを盛り込んでしまう可能性があるので、少し理解しづらいし、ルールとしては望ましくないところがあるのですけれどもね。

○山本(敬)座長 ほかによろしいでしょうか。古閑委員。

○古閑委員 全体について質問になります。これは、最高裁の判決の内容も踏まえてということなのだと思うのですけれども、最高裁は22ページの一番下に書いていただいているとおり、「ここでいう任意規定には、明文の規定のみならず、一般的な法理等も含まれると解する」とおっしゃっていると思うのですけれども、最高裁でこう言っていることと、それから今回、御提案いただいている「当該条項がない場合に比し」ということは、同じことなのかどうかというのが疑問だったので教えてくださいというのが前段についてです。仮に同じじゃないのだとすると、広げているのか、縮めているのか。広げているのだとすると、なぜ広げる必要があるのかという点についても教えてください。

それから、後段については、これはほかの事業者さんにも御意見を聞いてきたところですけれども、今、曖昧模糊とした規定だという話も出てきましたけれども、確かにそういったものはよくないと思います。それはそれですけれども、平易明確と言ってしまうと、相当主観的なものになってくるのかなと思っております。顧客間の平等待遇とか画一的処理とか規約適正に応じた適切な処理の必要性から、専門用語等をどうしても使わないといけない場合もありまして、でも、それが平易じゃないねと言われてしまうとどうしたらいいのか。かえって正確じゃない言葉を使うようになってしまったり、トラブルにもなり得るので、平易明確という形で盛り込むことには賛成できないという、こちらは意見になります。
以上です。

○山本(敬)座長 それでは、前半について、消費者庁のほうからお願いします。

○消費者庁加納消費者制度課長 古閑委員の御指摘は、最高裁の判決で示しているところが、一般的には法理等も含まれると言っているのに、どうしてこうなるかがわからないという御指摘だと思いますが、先ほど河上先生もおっしゃったのですけれども、もともと10条の発想が、当該条項があることによって消費者の本来の権利義務がどう変容されているかと。そのいわば物差しとしまして、いわゆる任期規定というものを想定して、そこからどれだけ消費者の権利義務が条項によって変容しているかというのを見るのが10条であると。そこは立案過程に照らしても、10条というのはそういう趣旨の規定であるということだと思います。それは明らかだと思います。

そうした場合に、この任意規定というのが明文規定に限るのか限らないのかというのは、立案時は限りますよという解釈を旧経企庁以来、とっておりましたけれども、最高裁において一般的な法理も含まれるという判断が示されたと。これは、必ずしも明文規定がないものについても、不当性判断の対象に10条の適用があり得ると。

典型的には、民法で言うところの非典型契約といったものが想定されるわけで、民法には規定は何もないのですけれども、そういったものについて契約条項でどういうふうに変容させているかということで、一般法理も含むと最高裁が判断したのを前提としますと、それを明らかにするには本来の趣旨に戻るしかないということで、こういう書き方をお示ししているということでございまして、立法趣旨に沿ったことをやろうとしているということでございます。

ただ、今日の議論を聞きますと、丸山先生の御指摘は深刻な問題でありますので、そこはよく考えないと、要は中途半端な書き方をすると不当な影響が生じるという御指摘だと私は理解しましたので、どのように書けるかというのは慎重に検討しないといけないのかなと思いました。

以上でございます。

○山本(敬)座長 今の点は、よろしいでしょうか。

ほかに。後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 消費者庁に対して質問なのですけれども、前段要件で「当該条項がない場合に比し」と改めた場合に、強行規定の扱いはどうなるのかということです。当該条項がない場合には、そこに強行規定があるという状態で、強行規定違反は消費者契約法10条を待たずに無効ということだと思うのですけれども、そういう場合に、従来、差止請求を認めるかどうかということで勿論解釈みたいな形で、強行規定違反の場合についても差止請求は認められるのではないかという意見が、多分有力だったと思うのです。

そういう場合の扱いですが、具体的に任意規定と強行規定の区別というのは判断が難しい場合もありまして、そういうことを考えると10条で無効にするということについてメリットがあると思うのですけれども、純粋にこれは強行規定だという場合、例えばクーリングオフ権を剥奪するとか、そういう条項について無効にするという場合に、消費者契約法10条で無効ということになって差止請求するということが、ストレートに認められることになると理解していいのかどうかということをお聞きしたいのですが。

○山本(敬)座長 よろしいですか。消費者庁のほうから。

○消費者庁加納消費者制度課長 私どもがお示しした書きぶりがちょっとわかりにくいというところに由来する問題、丸山先生の御指摘が1つでしたし、今の御指摘もそうなのかなと私なりに受けとめないといけないと思いましたけれどもね。

ただ、書きぶりはよく検討する必要があるのですが、ここでやろうとしていることは、あくまでも任意規定について、デフォルトからどういうふうに当該条項によって変容させているかということを、消費者契約法10条によって射程として考えていると。これは、もともと10条が立案当時からそういう条項として位置づけられたところを踏まえて検討したいというものでございまして、そこを今回の改正において変えるというところまで念頭に置いているものではございません。ですので、これはあくまでも任意法規、任意規定についての問題であり、強行規定については10条の射程の外であると。強行法規は、10条によるまでもなく、強行法規違反それ自体が直ちに無効になるというだけの話であって、10条に委ねる必要はないものと考えております。

適格消費者団体の差止請求の対象として強行法規はどうかというところは、問題として残ると思います。そこはまた別途、検討を要する問題だろうと思います。にわかにこの場で直ちに結論を出すのは、非常に難しい問題ではないかと思います。

○山本(敬)座長 ほかに御意見、御質問があれば。大澤委員。

○大澤委員 私も消費者庁のほうに質問したいことがあるのですが、この条項が平易かつ明確ではないこと、後段要件該当性の判断を得るのに重要な要素として明記する考え方について、どう考えるかという御提案がなされているのですが、先ほどの意見の中でも少し申し上げたのですけれども、これ以外の、例えば後段要件該当性の考慮要素を設けることについて、今回のペーパーでは特に何も記述がないように思うのですが、それについてどのようにお考えなのかということが気になります。

というのも、先ほどの私の言い方が、また下手でよくなかったなと思ったのですが、この平易かつ明確ではないということだけを切り出して書くのであれば、それは個人的には余り賛成できないということです。平易かつ明確ではないということは、解釈原則とか3条で本来は検討すべきですが、条項の不当性を判断するときに平易かつ明確ではないことを考慮に入れることが否定できないことはない。

その意味では可能性はあり得ると思うのですが、これだけを考慮要素に挙げるということであれば、それは賛成できないということですので、ほかの考慮要素についても2月の専門調査会などで私も申し上げましたし、これまでの議論でも多々あったと思うのですが、その点について、今回のペーパーで特に記述がないというのは、これはどういうことなのかということを教えていただければと思います。

○山本(敬)座長 消費者庁のほうから。

○消費者庁加納消費者制度課長 明確性以外の要素が後段の考慮事情とならないというところまで、私ども、意図しているわけではなくて、それは恐らく現行の信義則の原則に違反するかどうかというところで、現行の規定についてはさまざまな事情が考慮されているのだと思います。それについて、1つはそれらのほかの要素も含めて考慮事情として書きおろしていくという判断もあると思います。そこは否定しておりませんので、そこは今後検討すればいいだけの話であると思います。

ただ、私ども、今回、明確性と書きましたのは、何を言っているかよくわからないと言ったら、ちょっと言い過ぎかもしれませんけれども、やりようによっては事業者がやりたいようにできる余地のある条項というのは、これは特に問題性が高いのではないかと考えたというのがございます。事例として、そういうものがあるというのもございまして、また私どもが見た限りでは、ドイツ法も似たような発想を立っていると思われる規定を設けているというのもございますので、それで案としてお示ししたということでございます。ただ、明確性以外の要素も検討していくという話は、別に今の時点で私ども、それを否定するということではございません。

○山本(敬)座長 河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 今、まさにおっしゃっていただいたとおりでして、ドイツ法だと、例えば瑕疵の認定権、こういうことを瑕疵と言うのだという認定権を約款使用者が持っているというものも無効条項にしています。その条項を使うことによって自分に有利な判断ができるような条項については、これは無効とするというのを考えていくとすれば、その一部がここに入ってきているという発想でつくられたというのは、理解できるところであります。

もう一つ、さっき丸山委員がおっしゃっていた期間ですけれども、これは民法ではもともと定めがないのではないでしょうか。つまり、期間何年にするということについての、相場が相当期間というのが入っているような条文があれば、その期間との関係で行けるのですけれども、継続的な契約期間をどうするかというものは、民法では基本的に自由だということになるから、むしろ合意でそこは決めないといけないのに、約款で不当に長期に拘束しているということになったときに、その長期の拘束そのものの条項が有効かどうかということを考えないといけないので、これは恐らく一般条項では捕捉しづらい問題ではないかと個人的には思っておりました。

その意味では、不当に長期の期間、当事者を拘束する条項を無効とするというグレーリストが本当は必要なのではないかという気がいたします。

○山本(敬)座長 ほかに御質問、御意見があればと思いますが。河野委員。

○河野委員 前段に関しては、いろいろ御意見がありますので、私自身、前段要件はこれで問題がないかなと思ったのですけれども、皆様のより深い御協議をお願いしたいと思っています。

後段に関しましては、先ほど大澤委員がおっしゃったように、私も今回の事務局の御提案、つまり後段要件が非常に抽象的でわかりにくいということの解決策として、当該条項が平易かつ明確でないことを重要な要素として明記することに関しましては、これだけ平易かつ明確な条項であれば、前段要件を満たす条項であっても、機械的に有効との判断に傾いてしまうということが懸念されるということを申し上げておきたいと思います。

それで、消費者からするとどういうことが平易かつ明確に記載されているかということも、なかなかわからないのですけれども、実態として合意に至らない場合が多々あると思います。ですから、先ほどから幾つか御意見、出ているように、当該条項が平易かつ明確でないことだけではなくて、消費者契約の特性である当事者間の情報力とか交渉力格差を踏まえた考慮要素というのを、もう少し皆様のところからお知恵を出していただいて明確にしていただきたいと思っています。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

ほかにはいかがですか。後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 これは消費者庁のほうの提案には出ていないところですが、山本健司委員のペーパーで、10条後段の信義則という言葉の使い方ということです。現在の条文でいきますと、民法1条2項の規定する基本原則に反してということになっていますので、民法上の信義則というものが念頭に置かれて、消費者契約に適合的な信義則の判断をすることの阻害要因になるという感じを私は受けていますので、そういう意味から考えたときに、この民法第1条第2項に規定する基本原則というところを、「民法」を言わないで、「信義誠実の原則」と言ってしまうことはできないでしょうかということです。

これは日弁連の提案そのものだと思うのですけれども、確かに基本的な規定としては、民法1条2項に信義則についての規定がありますけれども、民事訴訟法とか家事事件手続法とか、そういう他の法律でも信義誠実の原則というものを入れているということがありますので、消費者契約法に独自の信義則ということを考えるかどうかという、これはよく考えなければいけない問題にはなると思うのですけれども、民法ということを必ず言わなければいけないのかということについては、少し疑問がありますので、もし何かお考えがあれば伺いたいと思います。

○山本(敬)座長 よろしいですか。消費者庁のほうから。

○消費者庁加納消費者制度課長 民法1条2項と書いていることによる問題点の御指摘というのはあると認識しておりますが、信義則と裸で書きおろすことによって、何がどう変わるのかというのは、私どもも検討がそこまで至っているわけではございません。山本健司先生のペーパーにも似たような御指摘がありまして、それはあらかじめ読ませていただきまして、最高裁の判例の引用などもありまして、その御指摘自体は理解できるところでありますけれども、それを何らかの条文上の措置とするにはどうするかとなりますと、この民法1条2項というのは、抽象的とはいえ、それなりに確立した概念だと思いますので、それにかわるものが何か見出せるかというところが、ちょっと難しいのではないかという気がするところであります。

○山本(敬)座長 山本健司委員。

○山本(健)委員 今の点につきましては、後藤先生の御意見に賛成でございます。後段要件については、「民法第1条第2項の基本原則」という表現の無い条文に改正する必要があると考えます。

現在の後段要件については、消費者庁の逐条解説(第2版増補版)227ページで、「法文上『民法第1条第2項に規定する基本原則に反し』と明記していることから、本条に該当し無効とされる条項は、民法のもとにおいても民法第1条第2項の基本原則に反するものとして当該条項に基づく権利の主張が認められないものであり、現在、民法第1条第2項に反しないものは本条によっても無効にならない」という解釈論が記載されております。

しかし、民法の信義則や公序良俗規定を柔軟に考える近時の新しい見解に立つならばともかく、伝統的な信義則や公序良俗規定の考え方に立つ限りは、このような解釈論は10条の適用範囲をかなり狭めてしまうように思われます。

また、最判平成23年7月15日は、10条の後段要件は消費者契約法独自の立場から考えるべきものだということを明瞭に判示しております。

したがって、現行法の「民法第1条第2項の基本原則」という表現については、最高裁判例の判示内容を踏まえて、これが無い形の条文にするとともに、逐条解説の改訂も御検討いただく必要があると思います。

平成23年7月15日の最高裁判例については、参考資料1の4ページの「10条の後段要件の在り方」というところで判示が引用されておりますけれども、最高裁判例自身が「民法1条2項に規定する基本原則、すなわち信義則」と言い換えているので、「民法第1条第2項の基本原則」という条文を「信義則」に変えることについては、全く問題ないと思います。ここについては「信義則」と言い換えた条文にすることが、最高裁の判示内容に適合すると考えます。
以上です。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

最高裁がこのように判示しているというので、現行法のもとでもこのように解釈されるということかもしれませんが、条文表記の上でもそれを反映させる必要があるか、あるいはどのような影響が出るかという点について少し御検討いただいて、そして先ほどから指摘がありましたように、他の考慮要素をどうするのかということもあわせて引き続き検討の上、場合によっては、また御審議いただくということになろうかと思いますが、それでよろしいでしょうか。

前段要件については、先ほどからずっと御議論ありましたが、後段要件に関しては、たくさんの御意見をいただいたのですけれども、御指摘がありましたように、現行法の3条、平易かつ明確に定める努力義務と今はされていますけれども、これをどうするかという問題と連動している話だというのは、そのとおりだろうと思います。この点については既に一度、この場でも検討いたしました。その際に具体的に検討していたのは、実際に不明確な条項であった場合にどう解釈するかという点について、条項を作成した事業者側の不利に解釈するという形で、その一つの具体化として規定を設ける。あるいは、それと関係するけれども少し違う問題として、情報提供義務に当たるようなものを定めるかどうかということでした。

ただ、いずれにしましても、特に前半のほうの事業者側の不利に解釈するという準則は、事業者側に不利な意味内容を確定できる場合には、それによって契約を解釈するということでして、どのようにも確定できない場合が問題として残ります。この場合は、現行法のもとでは、むしろ民法の一般原則の問題であって、それによりますと、契約内容が確定できない場合は、そのような契約は効力を有しない。効力を認めても実現のしようがないわけですので、そのようなものは確定できないので無効である。明文の規定が民法にあるわけではないのですけれども、当然のこととして一般に認められているところです。

そのような考え方からしますと、ここで例として挙げられるようなものは、消費者契約法以前の民法の一般原則で効力を有しないと判断できるのかもしれませんが、必ずしもその点は定かではないのをどう考えるか。放っておきますと、民法の一般原則によることになるのをどう見るかという問題が残っているように思います。

それと同時に、先ほどからお聞きしていて、2つの問題があるように感じました。実際に意味内容を確定しようがないという問題と、それと重なりはするのですけれども、事業者側が条項を使うときの裁量の余地が非常に広い形で条項が定められていて、実際の契約を締結した後になって、事業者側がこのように事業者側に有利な内容になっているというような主張を消費者に対してするという問題も、もう一方で語られていたように思います。これは、消費者と事業者の間の情報・交渉力の格差が、別に契約の締結時だけではなく、締結後も当然残ってくるわけですので、そのような事業者側の裁量の余地が非常に広い条項があると、情報・交渉力の点で優位にある事業者が、それを有利に運用する可能性が出てくる。それが危険であるので、内容そのものの不当性とどこまで同じかと言われると、いろいろな考え方があるかもしれませんが、そのような意味での危険な条項は無効とするということを定めてもよいのではないかという御提案もあったように思います。

そのように問題点を整理した上で、これだけを書き出して、ほかの要素を書かないと、ほかの要素が無視されてしまう危険性をどう見るかということが指摘されていたところです。

沖野委員、どうぞ。

○沖野委員 今の座長のお取りまとめの中で、平易かつ明確でないという条項として、どのような条項群が考えられているかについて2点おっしゃったと思います。意味内容が確定しないものと、それから裁量の余地が非常に広く、濫用的な使われ方を可能とするという2つです。

それらとともに、もう一つ、意味内容は確定できるのだけれども、隠蔽効果と言われる問題があります。つまり、あちこちに散在しているものを突き合わせると、効果としてはこういうことになる。しかし、それが直ちにはわからないという定め方がされている場合です。それは情報提供の問題だと言えば、そういう問題としても整理されると思うのですけれども、そういったものも捉える余地のあるものとして考えられていると思いますので、そのことだけ1点申し上げたいと思います。

○山本(敬)座長 御指摘、どうもありがとうございました。

それらの点が問題とされていて、そこから後は、それを改正において取り上げるべき問題として考えるかどうか。考えるとして、どの部分でそれを受けとめるかということで、今日話題になっていたのは、この消費者契約法10条の改正の中で受けとめることができるかということでした。これも受けとめるとすれば、先ほど出てきた問題を全部受けとめるのか、それともその一部を受けとめるのかということもさらに検討しなければならない課題として、今日、明らかになったということではないかと思います。

今の前提について、さらに御質問あるいは御意見があればと思いますが、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。

それでは、本日の議論はこのあたりにさせていただければと思います。熱心な御議論をいただきまして、ありがとうございました。

だんだんと残っている問題が絞られてきていますけれども、次回は、不当勧誘に関する規律について積み残した問題として、法定追認の適用除外と不当勧誘の効果に関する論点、それから不当条項に関する規律については、不当条項の類型の追加に係る論点をそれぞれ取り上げて検討することにしたいと思います。その他の論点については、次の次の回で取り上げたいと考えています。引き続きよろしくお願いいたします。

それでは、事務局のほうから事務連絡をお願いいたします。


≪3.閉会≫

○金児企画官 本日も熱心な御議論をどうもありがとうございました。

次回は、5月29日金曜日16時からの開催を予定しておりますので、よろしくお願いします。

○山本(敬)座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。お忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございました。

以上