第4回 消費者契約法専門調査会

日時

平成27年1月30日(金)16:00~18:02

場所

消費者委員会大会議室1

出席者

【委員】
山本敬三座長、後藤巻則座長代理、阿部委員、井田委員、大澤委員、沖野委員、河野委員、古閑委員、後藤準委員、増田委員、丸山委員、山本健司委員
【オブザーバー】
消費者委員会委員 河上委員長、石戸谷委員長代理、橋本委員
法務省 中辻参事官
国民生活センター 松本理事長
【消費者庁】
服部審議官、加納消費者制度課長、山田取引対策課長
【事務局】
黒木事務局長、金児企画官

議事次第

  1. 開会
  2. 委員からのプレゼンテーション(沖野眞已委員、阿部泰久委員)
  3. 意見交換
  4. 閉会

配布資料(資料は全てPDF形式となります。)

議事録

≪1.開会≫

○金児企画官 本日は、皆様お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。

ただいまから「消費者委員会第4回消費者契約法専門調査会」を開催いたします。

本日は、所用により柳川委員、山本和彦委員が御欠席、河野委員がおくれての御出席との御連絡をいただいております。

なお、橋本委員はテレビ会議システムを利用して出席いただいております。

まず、配付資料の確認をさせていただきます。

議事次第の下部に配付資料一覧がございます。

資料1は、前回の専門調査会において出された主な意見の概要です。

資料2が、沖野委員からの提出資料、資料3が阿部委員からの提出資料です。

もし不足がございましたら、事務局へお声がけをお願いいたします。

それでは、ここからは山本座長に議事進行をお願いいたします。

○山本(敬)座長 それでは、始めさせていただきます。本日もよろしくお願いいたします。

まず初めに、先ほども資料の確認がありましたが、前回、委員から出された御意見につきまして事務局から確認をお願いいたします。

○事務局 資料1をごらんください。

前回の専門調査会では、消費者契約法における契約締結過程の規律と、その周辺をテーマとし、丸山委員からのプレゼンテーションを受けて、具体的な見直しの方向性に関して要件となるものの定め方や、不利益事実の不告知に関して考えられるさまざまな改善案について、あるいは威迫困惑類型の拡張に関して、例示列挙という方法をとる場合の在り方についてなど、さまざまな御意見をいただきました。

また、実務上の観点から、「勧誘をするに際し」の要件を削除した場合や、状況濫用取消権が創設された場合などにおいて、その適用対象の範囲がどうなるのかという点についても御議論をいただきました。

そのような御意見の概要につきまして、この資料1で整理させていただいておりますので、御確認をお願いいたします。


≪2.委員からのプレゼンテーション≫

(1)沖野眞已委員からのプレゼンテーション

○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。

それでは、本日の議事に入ります。

本日は、委員からのプレゼンテーションとして、まず沖野委員から、消費者契約法と個別法との関係についてプレゼンテーションを行っていただきます。その後、続けて、企業実務から見た検討をテーマに、阿部委員より、消費者契約法の見直しについての考え方のプレゼンテーションを行っていただきます。両委員の御報告の後、それぞれのテーマに照らして消費者契約法の見直しのあり方を御検討いただくために意見交換を行いたいと思います。

それでは、まず沖野委員からお願いいたします。

○沖野委員 ありがとうございます。資料2がございますので、それに即してお話をさせていただきたいと思います。

報告させていただきますのは、個別法との関係、その総論についてです。個別法との関係につきましては、これまで3回の会議において、既に諸種の指摘がされてまいりました。また、本日御報告予定の阿部委員の配付資料におきましても、この観点からの指摘がございます。これらの御意見、御指摘の整理の観点は複数あると考えられますが、ここでは資料1におきまして若干の整理をしております。

個別法と消費者契約法との関係については、両者の役割分担として、個別法があれば消費者契約法に規定は要らないという指摘があります。そして、これに対しては、個別法がある場合は限定的であって、個別法がない場合には消費者契約法の規定が必要であるという指摘があります。また、さらに個別法がある場合について、個別法に民事効が定められているときは、それが特別法であって、適用関係としても優先するので一般法は必要ないという考え方があります。もっとも、その論理では、特別法のあるところは民法の規定も必要がないということになりかねませんけれども、その点は置きまして、個別法に民事効が定められていないときについても、さらに消費者契約法に規定を置く必要はないという指摘が2つの点でされています。

1つは、民事効の手当てをすることを前提に、その手当ては個別法によるべきだという指摘です。もう一つは、民事効の手当てが個別法でされていないという、まさにその判断を尊重すべきであるという指摘です。これらは、当該領域については、いわば個別法が専有すべきだ、専ら個別法が扱うべきだという考え方だと理解できます。なお、この考え方は、私法関係の総則はダイレクトに民法によるべきだという考え方と結びついているのではないかと思われますが、消費者契約法の存在意義をどう考えるかという問題がございます。

このような個別法と消費者契約法との関係の理解に対して、両者は全く併存するものであるという考え方があります。個別法の規律に対し、総則としての消費者契約法という理解です。各則の存在は、総則規定の必要性を排除しません。消費者契約についての総則を消費者契約法は定め、個別法によって、それがある領域においては、その特性に応じた一層の具体化、具体的規律を定めるというものです。実際、例えば特商法は、消費者契約法の不実告知等の重要事項について、一層詳細な定めを置いているという面があります。

また、重要事項について、消費者契約法が対価その他の取引条件として概括的に定めているところを、それぞれの取引特性に応じて何が重要事項、つまり契約締結の判断に通常影響を及ぼす取引条件と言えるのかを具体的に書き出すといった規律は、既に個別法の説明義務、情報提供義務に見られるところでございます。なお、個別法の規定が総則規定を充実させるという面も指摘されています。

さて、個別法との関係を問題にする場合、結局そこで問われているのは、消費者契約法をどう位置づけるかという問題だと考えられます。2に入りたいと思います。念頭に置かれているのは、民法、消費者契約法、個別法という3段階の把握です。このような3段階の把握には、留意しておくべき点、整理しておくべき点があると考えられます。

第1は、そこでの個別法のイメージです。現在、本専門調査会で検討対象となっている消費者契約法の実体法部分の見直しは、民事実体法としての契約法、そこには、契約締結過程における権利義務を含んでいますが、私法上の契約法のルールということになります。したがって、民法が消費者契約かどうかを問わない事業者間の契約関係、消費者間の契約関係をも含んだ私法ルールであるのに対し、消費者契約法はそれを絞り込んだ消費者契約に関する私法ルールという点で、民法を1段階目の最も基礎にあるルールとしますと、その2段階目、いわば対象領域を絞り込んだ2段階目のルールとして消費者契約を位置づけることができます。このように捉えたとき、3段階目になるのは、消費者契約法の対象領域からさらに領域を絞り込んだ、特有の規律を設ける特別法たる私法ルールです。

しかし、そのような法律は多くはありません。ここには、電子消費者契約特例法を挙げておきました。同法は、電子消費者契約についての意思表示の瑕疵、意思の欠缺に関する民事ルールとして、錯誤規定についての特則を設けています。現行の消費者契約法は、錯誤無効そのものを規定としては持っていませんので、厳密に消費者契約法からさらに対象を絞り込んでいると言えるかは、対象項目との関係で一概には言えない面がありますが、消費者契約の意思表示のうち電子消費者契約について特有の規律を設けているという点をとらえるならば、3段階目に位置すると言ってよいでしょう。

けれども、これまでの議論の中で、個別法とか、時に特別法という名称でイメージされているのは、このような消費者契約からさらに対象や場面を絞り込んで、特有の私法ルールを設ける法律ではなく、例えば特商法や割賦販売法などです。これらは、その法律の性格は、事業者ないし事業活動に対する事業者規制法であり、行政法規を中心とする法律です。いわゆる業法と言うこともできます。業法には定義はなく、基本的には国が事業者に対して作為や不作為を課す、一種の行政法的な性格を持つ法律とか、事業者ないし事業活動に対する監督官庁の監督指導権限を定める法律であり、行政法規中心の個別法などと言われます。

消費者契約に関する私法ルールとの関係も濃淡があります。割賦販売法や特定商取引法は、最初の登場は当該事業や当該取引手法の健全な発展を目的とした行政法規でした。それに数次の改正によって、クーリングオフや契約取消権、解除制限、違約金制限、抗弁の対抗といった私法ルールが追加されて、現在では総合的・複合的な法律となっています。

もともと登録制などの開業規制は基本的にとっていないことや、行為規制が表示義務や書面交付義務など、個別の契約締結過程に直接向けられているため、契約法との接合や関連が深いものであると言うことができます。事業を営むために監督官庁の許可や登録を要するなどの開業規制のあるもの、銀行法とか保険業法とか貸金業法とか、禁止行為においては同様の規律を持ちながら、それについての民事効が設けられていないもの、直接の契約締結過程に向けられているわけではないものなどと比べますと、特商法などは消費者契約法との関連性は深いと言えますし、また個別法における消費者契約法との関連性の度合いにはこのように濃淡があると言えます。

これらの個別法と消費者契約法との関係は、消費者契約一般に対して、より限定された販売方法とか事業形態とか契約類型とか、その点で消費者契約法の対象範囲よりも絞り込みがされており、3段階目に位置すると言うことができますが、個別法よりも消費者契約法のほうが適用範囲が限定されているという面もあります。例えば、特商法については、連鎖販売契約については、事業者間取引と見られる可能性の高かった契約であり、これを明示的に対象として取消権を認めた点が重要であるという指摘があります。消費者契約の概念次第ではあり、消費者契約と捉える余地もあると思いますが、少なくともこれを事業者間取引と見るならば、消費者契約法よりも対象を拡大しているということになります。

また、損害賠償の点で、民事効を定めている金融商品販売法は、金融商品の販売について重要事項の説明義務と違反に対する損害賠償責任、無過失責任と損害額推定を定めており、もとより取引類型、契約類型が限定されていますが、顧客には個人だけではなく法人も含まれ、その点では消費者契約よりも広い範囲を対象としていますし、対象とする項目は損害賠償責任ですので、意思表示の取消しと条項無効を規律内容とする消費者契約法とは対象項目のずれがあり、消費者契約法が扱っていない問題を扱っていることになります。

したがって、3段階目という位置づけは、余りきれいには当てはまりません。特別法が一般法に優先し、したがって、特別法でその問題が規律される以上は、一般法は沈黙してよいというのは、それ自体、そう簡単には言えないわけですが、個別法は消費者契約法との関係で、そうきれいに特別法とは言い切れない面があることに留意すべきでしょう。

また、消費者契約法が規律していない事項、そこから外れている事項については、当該取引方法、契約類型などの特性から、個別法が1歩あるいは1歩も2歩も踏み込んでおり、その特性ゆえの特別な扱いであるのか、それとも本来は消費者契約法で取り上げることが考えられてしかるべき項目であって、消費者契約法の欠落を埋めることが検討されるべき事項であると捉えられるべきものなのかも、留意が必要です。説明義務違反に対する損害賠償責任は、そのようなむしろ後者の項目とも言えます。

消費者契約法と個別法には、このような適用対象のずれがありますが、それとともに両者のずれとして、規律の性格の点でのずれも改めて確認しておくことが重要だと思います。すなわち、消費者契約法は消費者契約についての一般私法であるのに対し、特商法などは行政規制を中心とする、その意味での業法であって、それが民事効の導入等により、私法ルールの点で消費者契約法の拡充という意味合いを持ち、総合的規律という性格を持つに至っています。

特商法の目的規定を見ますと、現在では購入者等の利益の保護が入っており、この点では消費者利益の擁護が含まれていますが、特定商取引を公正にし、及び購入者等が受けることのある損害の防止を図ることにより購入者等の利益を保護し、あわせて商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にすることがうたわれています。取引の公正さの確保、損害防止、商品流通や役務提供の適正・円滑化というのは、次に述べます消費者契約法とはかなり性格を異にしています。

そして、規律のあり方として事業者に作為・不作為を命じる行為規制が出発点にあり、それに対する行政的効果、指示・改善命令、業務停止命令、報告、立入検査などの行政処分、さらに割賦販売法のほうですが、訓示規定といった規律も、行政指導や通達というソフト型の行政によるコントロールを可能とするものになっておりまして、そういった行政的効果が中心であり、刑事罰が設けられているものもある。また、それとともに、一定のものについて民事効が付加されているという構造です。このような構造は、契約締結過程における事業者の行為義務を定めるに当たっても、行政的な効果をもたらす前提として、とりわけ明確性が要求されることになります。ましてや、刑罰対象となる場合がそうです。それゆえの限界があることにも留意すべきでしょう。

そして、基本的な性格が行政的法規であるという点は、監督官庁の所管の関係で空隙ができやすいという面があることも留意が必要だと思います。特商法について言えば、2008年改正まではポジティブリストという指定制がとられており、対応が後追いであることが批判されていました。2008年改正によってネガティブリスト方式に転換しておりますけれども、全面的にではありません。

また、適用除外が設けられ、禁止行為や民事効、特に民事効については、個別法レベルでは空隙が生じている場合があります。電気通信事業法の電気通信事業者が行う役務提供は、近時、消費者トラブルが急増している分野の一つですが、特商法では適用除外とされ、それは本来、電気通信事業法で対処するという想定であったからですが、これは後手に回っているために、個別法レベルでは訪問販売で通信サービスなどの契約がされる場合には、取消しができない、クーリングオフもないといった事態が生じています。これもまた、業法型の法律による対応の限界と言えます。

以上の点を確認した上で、では、消費者契約法はどのような性格なのか。3で、この点を確認したいと思います。

消費者契約法は、私法としての契約法であり、両当事者の間の権利義務を定めるものです。そして、それは情報の質及び量並びに交渉力の格差が構造的に存在し、近代民法が契約の拘束力の前提とする、あるいは拘束力を基礎づけるに足る意思決定の十全さが確保されないことを見据えて、契約の拘束力、それは契約全体だったり、契約の条項だったりするわけですが、それを否定する規律を整備する。それによって契約の拘束力をもたらす、その基礎を確保するというものです。

特に、契約締結過程に関する規律においては、情報の質及び量並びに交渉力の格差の構造的な存在、及び契約当事者、これは交渉当事者を含むわけですが、その間の権利義務という性格から事業者の行為に着目し、意思決定のゆがみ、不十分さを捉えて、解消の方法を用意するというものです。

したがって、消費者契約法の見直しを検討するときの視点は、情報の質・量、交渉力の格差の存在を前にして、拘束力を基礎づけるに足る意思決定の十全さが欠如していることへの対処という点で、過不足がないか、とりわけ不足がないか。また、契約内容に対する事業者による一方的コントロールを踏まえて、規律内容に過不足あるいは不足がないか。さらには、意思決定の十全さが確保されないことが事業者の行為に起因し、消費者に損害を生じさせている点への対処として、意思表示の取消しと条項無効で十分であるのかでしょう。

ただし、このことは既に指摘されている行政規制的な形での規律を当然に排除するものではないと考えられます。損害賠償を射程に入れるとき、その義務違反が、不法行為であれば過失や違法性といった要件との関係で問題となります。私法ルールとしても、義務を書き出すというルールはあり得る方向です。また、消費者契約法をさらに契約締結過程の適正化をも目的とする法として位置づける方向も考えられます。そういう場合には、消費者契約法の3段階把握の中間層としての意義は、事業者に対する一定の行為あるいは義務づけという点でも、中間的性格を持つことになると思われます。

このように消費者契約法の基本的性格を踏まえた上で、改めて個別法との関係を考えたとき、次の3点を確認したいと思います。

個別法が存在し、民事効も定められている場合は、当該規律については個別法で対応できていると言えますが、これに対し、個別法があるものの、民事効は定められていないという場合には、個別法との連携があります。消費者契約の総則規定として、各個別法における行為規制を民事効へとつなげる役割です。

民事効へとつなげるというと、あたかも民事効を創設するかのように聞こえるかもしれませんが、それは必ずしも正確ではないと思います。これも既に指摘されていますように、いわゆる業法や各種の行政的効果を中心とした法律における行為規制が、民法における公序良俗規範へと取り込まれて契約の無効を招来することや、私法上の義務違反でもあると捉えられて、損害賠償、民事責任をもたらすことが認められています。裁判例を含めた意味での現行法と言ってよいでしょう。

しかし、それらは、どのようなものが、どのような場合に公序良俗規範へと取り込まれていくのか、民事責任を構成するかは明確になっていません。そのことは事業活動にとっても不透明性をもたらしていると言え、民事効をもたらす要素や基準を抽出し、それを消費者契約法に設けることができれば、それ自体、予測可能性を高めるものと評価することができます。例えば、各種の情報提供義務について、その義務違反が私法上の損害賠償責任を発生させ得ること、とりわけ消費者契約において、事業者による情報提供義務は専門家による情報提供義務と並んで、一つの領域となっていることが知られています。個別法における情報提供義務は、さまざまです。そのうち、どのようなものが損害賠償責任を発生させることになるのか。例えば、対象事項が重要事項に限られるとか、その重要事項とは何かといった内容や基準を明確にすることなどが考えられます。

また、義務自体についても、情報提供義務が課されていても、その内容等に関して、例えば一般的な想定顧客層たる消費者を対象とするのか、それとも個別の消費者を対象とするのかなどが明らかでないものも少なくありません。

第2の点ですけれども、個別法がない取引についての受け皿という面です。個別規定がないために、総則規定が及ぶという場面です。個別法の不存在というとき、個別法がない場合と、民事効がない場合とがありますが、後者については第1の連携の枠組みが妥当する場合もありますが、端的に消費者契約法が民事ルール、私法ルールとして妥当するという場合があります。

もう一つ、第3になのですが、消費者契約法には個別法における民事効の具体的規律のモデルを提供するという意味もあります。例えば、消費者契約法の制定は2000年、特商法に禁止行為の取消権が導入されたのが2004年改正によるものですが、そこでの規律が消費者契約法の規定に影響を受けているという点は疑いがないと思います。特に取消しをめぐる法律関係の詳細、対第三者関係、期間制限などは、消費者契約法と規定ぶりを含めて同一であって、消費者契約法が個別法における規律というのを具体化するための枠組みを用意しているということが見てとれます。

これらの点は、個別法との関係での消費者契約法の意義や役割を示すものであると同時に、民法との関係でも消費者契約法に規律を置くことに意味があることを示しています。いわば3段階構成の有意義性と言うこともできます。

個別法との関係で消費者契約法が持つ意味について、3点を挙げました。個別法に消費者契約法と同一の民事効が定められている場合は、それで規律としては完結していて、消費者契約法の出る幕はないと言えそうですが、そのときも本当に同一の民事ルールを置いているのかや、第2の点にかかわりますが、要件が行政的効果等と結びつけられているために、そもそも限定的になっていて、その周辺が切り捨てられていないかは、なお問題になるでしょうし、また当該ルールは本当に当該類型分野に特有であるべきなのか、契約法として考えるとき、共通する総則性を持った規律であるのか、そうではないのかというのが問われるべきでしょう。

例えば、2004年改正によって特商法に禁止行為、その取引権の規律が導入されました。そのときには、既に消費者契約法は存在しておりまして、重要事項の不実告知や不利益事実の不告知についての取消権が認められていました。特商法はこれと重なりつつも、不実表示や故意の不告知について消費者契約法の規律に対して拡充したものと位置づけられています。

そして、この拡充について、当時の説明は、商品を買わなければならない切迫した必要性があると思わせるような虚偽の事実・事情を説いて契約締結に結びつけてしまうとか、重要事項について、故意に事実を告げないといった不公正な勧誘行為は、一般の消費者契約では余り見られないが、特定商取引については禁止されるべきであり、それとともに、それに見合った明確かつ具体的な民事ルールを整備するとして、消費者契約法にはない規律を特商法に置くことの差別化、基礎づけが説明されていました。

しかし、改めて考えますと、これらの不公正な勧誘行為による意思決定のゆがみを捉えた私法ルールは、訪問販売等の特定商取引についてのみ妥当する規律なのか、また特定商取引以外では見られない勧誘行為なのか、その点は改めて考える必要があると思います。私には、必ずしもそのようには思われないのです。むしろ、2004年改正による取消権の規定は、最も問題の多いところにまず手当てをしたという性格のものであって、消費者契約一般についての民事ルール化を排除するものとは思われません。また、特商法に規定を置くということは、特商法が用意する行政的効果や、時には刑罰といった総合的な規律の中で、より具体的な内容を示しつつ、行為規制を拡充するという意味があることも無視できないと思います。

以上、非常に抽象的な話が続いて恐縮ですが、4でこれまでになされた指摘の中から幾つかを取り上げております。少なくとも、このうちの1つ目だけは解説させていただきたいと思います。

前回、第3回において、特商法との関係について、次の指摘がございました。講師は全員がイギリス人であることを強調し、ブリティッシュ・イングリッシュの習得をうたう広告を見て受講契約を締結した場合を例に、通信販売のみに関わるのであれば、虚偽・誇大広告の禁止に対し、特商法で民事効を規定すれば足り、法制上、消費者契約法で規律することを基礎づけられないのではないかという疑問です。

なお、この疑問自体について、前提条件が相当にあることは確認しておく必要があると思います。どういう前提条件かといいますと、第1に、これが通信販売のみにかかわる事項であること、あるいは、特定商取引にのみかかわり、適用除外などもなく、過不足なく特定商取引法でカバーされるものであることです。この点で、丸山委員の出された設例は、広告を見て店舗で契約したものですので、通信販売のみで問題になる事項ではなく、特商法だけの手当てでは不足があるということになります。

第2の前提条件として、特商法で取消規定の民事効が設けられることも必要です。特商法でと言いましたが、広告や表示の規制として景表法で取消規定等を設けるということでもよいのかもしれません。

第3の前提条件として、特商法と消費者契約法とで同一の結果をもたらし得る規律となるということが必要でしょう。

これらの前提条件が充足されない場合には、特商法において、特商法の目的に即した総合的な規律の中で、さらにはより具体的な規律を設けるとしても、消費者契約法での規定化を排除することにはならないでしょう。

では、仮に前提条件が充足される場合はどうでしょうか。これは、実は前提条件の第1の充足が無理ではないかと思われる点ではあるのですが、広告や表示の規制が完全に民事効を伴って規定化されるとしても、契約のルールとして、事業者により不特定多数の者に向けられた契約締結のための情報提供が虚偽であり、その虚偽の情報に基づいて誤認がされ、その誤認を基礎に契約締結がされた場合、なお契約の拘束力がそのまま維持されること、消費者契約法において、解消の方法は用意されないということの評価という問題はなお存在するように思われます。

資料では、ここに「<ちなみに>広告について」と記しております。広告の扱いは、第1回以来、重要な問題として意識され、たびたび指摘されています。しかし、広告の扱いには、広告の概念やその問題の所在自体が不透明な形で、あるいは土俵を明確にしないまま指摘が行き交っているという感がありますので、ちょっと時間が押して恐縮ですが、この機にもう一言申し上げたいと思います。

問題を広告あるいは広告の扱いとして捉えるときは、さまざまな問題があります。これを広告自体の適正化として問題にするのであれば、それは特商法や景表法の問題であるように思われます。行為規制の消費者契約法での充実や個別法との連携という場合に広告表示規制を取り上げることは考えられるわけですし、消費者契約法、行為規制法としての性格をあわせ持つものとして拡充していくという方向の場合には、なお別途検討の余地がないわけではありませんが、その場合も契約の拘束力や民事責任を前提としての行為義務でしょうから、端的に広告等の適正化や広告規制・表示規制とは性格は違うように思います。

消費者契約法で広告を問題とするときには、丸山委員が論点整理において、次の諸事項があることを明らかにされています。迷惑勧誘行為の一つとして、禁止行為の違反などを民事効に結びつける可能性。消費者契約法4条の勧誘に広告を含める方向での対応。わかりにくいウエブ広告やリンクなど、約款における開示や不明瞭条項への対応。広告の契約内容化と事業者の債務不履行の認定問題などを明確化する必要性といった問題と結びついているという指摘です。広告が消費者契約法において、いかに扱われるべきかについては、関連する各論的な問題が諸種あることが示されています。

これに対しまして、第3回の丸山委員の御報告にあったのは、このうち消費者契約法4条の勧誘の解釈の問題にかかわるものです。そして、これは広告をどうするかにかかわるものの、広告の適正化や広告そのものを取り出して、どう扱うかの問題ではありません。事業者によって提供された虚偽の情報、それが特定の者に個別のルートで提供されるのではなく、契約締結への誘引として不特定多数の者に提供されているときに、不特定多数の者に向けられたものである、宣伝・広告であるという一事をもって、不実表示、不実告知の規律から除外することの適否です。

4条とのこの関係では、さらに不実表示、不実告知が不特定多数の者に向けられた宣伝・広告で行われる場合と、不利益事実の不告知における先行行為に該当する場合とがあり、それぞれの問題を区別・整理して検討する必要があるように思います。

また、もう一点、この機に確認しておきたいのは、現状の理解です。この点も、消費者庁での検討会報告書にも示されているところですが、現行消費者契約法4条の勧誘の理解は、解釈問題であり、広告であるとの一事をもって該当しないというのは一致した見解ではありません。解釈論としては、両論があります。むしろ、不特定多数に向けられた宣伝の形での虚偽情報の提供であっても、それが当該消費者の意思形成に実際に働きかけがあったと評価される場合には、勧誘に当たるというのが学説では有力あるいは主流と言ってよいと思います。

また、裁判例でも、広告やパンフレットの記載を考慮して不実告知等による誤認に基づく契約と言えるかを判断しているという指摘がされています。立法提案として、勧誘要件を削除するという提案があることはたしかですが、これはむしろ、この点の明確化のためであって、現行法上の解釈として広告一律除外を当然視するものではありません。むしろ、裁判例の明文化という性格だとも言えます。

また、消費者庁の検討会の議論の中でも、具体的な契約条件や商品特性の説明が広告やパンフレットでされているときに、およそいかなる広告やパンフレットも4条における不実告知行為に該当しないというわけではないことは、意見の一致があったと思います。問題は、どのようなものが対象となるかについての不透明さへの懸念であり、逆に、およそ一律に広告での表示が考慮されるとされかねないことへの懸念であり、過剰な予防措置への懸念であったと理解しています。

そうしますと、ここでの議論は、広告を入れるか入れないかという形で論じるよりも、どのようなことがあれば、それが当該消費者の意思形成に実際に働きかけがあったと評価されるのかを整理するほうが有意義ではないでしょうか。その際には、不実告知、不実表示の話と、先行行為の話とを区別して、一旦整理するのが交通整理として望ましいように思います。

個別法等の関係についての指摘と考え得る事項としては、このほか幾つかを挙げておりますが、それらにつきましては資料に書いておりますことと、幾つかの点は阿部委員の次の御報告での御指摘にかかわるものでもありますので、省略いたしまして、報告はここまでとさせていただきたいと思います。

時間を超過して申しわけございませんでした。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

(2)阿部泰久委員からのプレゼンテーション

○山本(敬)座長 それでは、続いて、阿部委員からのプレゼンテーションをお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

○阿部委員 資料3でございます。まず最初にお断りでありますが、こちらの資料は、まだ経団連としての確定した意見ということではございません。大変恐縮ですが、日弁連さんが昨年7月に具体的な提案をされ、この検討会でも第2回に山本健司委員が御説明なさいました内容について、経団連の会員企業がどう思っているかというのを率直に整理したものでございます。それでは説明に入ります。

まず、総論でございます。ここで、2つだけお願いがございます。まず1つ目が、5行目からでございますが、平均的消費者を基準に検討していただきたいということであります。当然、高齢者の問題等、さまざまな論点があるかと思いますが、平均的な人を対象にしたときにどうなるかということを前提に考えていただきたいということでございます。

それから、もう一つのお願いは、2段目の「検討にあたっては」のところでございますが、消費者契約法の性質、これは私ども、中2階だということで理解しておりますが、民法や特別法との関係の中で十分に検討いただきたいということでございます。具体的には、民法の債権法の改正の中でもかなり議論になったところと重なりがございますし、あるものはそこで解決していると我々は考えているものでございますし、積み残されているものも当然あるかと思います。民法の特に債権法の改正と、この消費者契約法の改正というのはパラレルだと思っておりますので、その中でどのような議論があるかということを慎重に検討願いたいと思うわけであります。

各論に入りまして2ページからでございますが、先ほど申しましたとおり、昨年7月の日弁連改正試案を一つのターゲットといたしまして、もしこうなったらどうするかということを会員企業に聞きましたところ、いろいろな意見がございましたので、それを整理したものでございます。みんな反対しているのではないかということでございますが、強く反対しているところと単に反対しているところがございます。そういう意味では、皆さんこぞって抵抗があるところと、多少意見の幅があるところが分かれているかなと思っております。

最初に、民法との関係でございます。幾つか項目がございますが、まずは消費者有利解釈規定の新設でございます。これは私どもは、民法改正の議論の中で解消されていると思います。すなわち、現に、今回の債権法の改正に取り入れなかったものでございます。その蒸し返しだと思っておりますので、反対ということでございます。

3ページに参ります。不当勧誘に関する一般規定でございます。これも公序良俗や不法行為等の一般原則の中で、十分対応できているのではないかということでございます。特に、「不当」類型が非常に不明確になってまいりますとビジネスが混乱いたしますので、強く反対ということでございます。

次に、第三者対抗力でございます。善意に加え無過失が要件だということは、わかりますけれども、こういう言い方が本当にできるのかということについて、疑問でございます。慎重に検討していただきたいところでございますので、ここでは反対とは言っておりません。 (4)の追認・法定追認につきましては、強く反対ということでございます。特に民法124条の追認については、今回民法の規定が改正されますので、その趣旨で十分だと私どもは考えております。

それから、取消の効果規定につきましても議論があるかと思いますけれども、民法改正要綱仮案の中で、「現に利益を受けている限度において」ということについて、かなり詰めた議論がされておりますので、こちらでの議論を充分に踏まえるべきかと思っております。

それから、4ページ、(6)不当勧誘行為への損害賠償義務は強く反対ということでございます。これは、民法の不法行為の中で十分対応できるということであります。不当勧誘行為そのものが不法行為を構成するのであれば、それに対して、当然、損害賠償請求ができる。それ以上の話を、ここで新たに消費者契約法の中でつけ加えるということになると、恐らく消費者契約法で考えていることと、民法で想定していることが違ってくるのではないかと思います。そうなったときに混乱があるかなと思いますので、ここは十分に検討いただきたいと思っております。

(7)いわゆる遅延損害金条項規制の見直しも、前向きに議論できる部分はあるのではないかとは思っておりますけれども、現段階では慎重に検討してくださいということであります。

5ページに参りまして、(8)不当条項使用行為への損害賠償義務について、これは反対ということでございます。

それから、消費者公序規定の新設、これも反対であるということでございます。

次が(10)の約款の話でございますが、実は民法債権法の改正の中で最後まで残りましたのが約款でございまして、恐らく次回の法制審の民法部会で結論が出るかと思うわけであります。非常に慎重な議論を積み重ねておりまして、半年以上、この約款の話だけをしております。約款については、そこで出てきた結論というのが尊重されるべきかなと思っております。すなわちすなわち、新たに民法に定型約款という形で規定が入ってくることになれば、そちらで必要な改正としては足り、消費者契約法では見直しの対象とすべきではないと思っております。

それから、5ページの一番下の(11)複数契約の取消・無効・解除についての規定の新設でございますが、これは強く反対ということでございます。これは、かなり慎重な判断が必要かなと思っております。特に民法改正の中でも見送られたという経緯がございますので、そこの議論も参照いただければと思っております。

それから、6ページに参りまして(12)消費貸借に関する消費者特則の新設でございます。これも民法の中で議論済みではないかと思うわけでありまして、消費者契約法の見直しの中でやることではないという気がいたします。反対と書いておりませんので、議論していただきたいと思うわけでありますが、消費者契約法の話なのかというと、違和感があるところでございます。

それから、大きな2番目は、むしろ個別法、特別法でありますとか、個別のガイドライン等に委ねれば済むと考えられるものでございます。

幾つか大事な論点がございますが、まず「勧誘」要件というものを削除すること、これは強く反対いたします。勧誘というのは何かということは、さらに議論が必要だと思っております。その中で、広告というものの位置づけでありますとか、ほかにもさまざまな論点があるかと思いますが、「勧誘」という要件を削除することについては、強く反対をさせていただきたいと思います。

7ページでございます。断定的判断の提供、これは財産上の利得に影響しない事項に拡大することについては、いろいろ意見があるかと思いますが、これで何ができるのかということをよく検討いただければと思っております。ここも強く反対でございます。議論があるかと思いますが、果たして財産上の利得に影響しない分野にこのような規律を入れて、何か役に立つところがあるかなと思っております。

それから、ブラックリストの追加につきましても反対でございます。個々に対応していけばいいのではないかと考えております。

8ページに参りまして、賃貸借契約に関する消費者特則でございます。これもそれぞれの分野ごとにやっていくしかない話かなと思っております。消費者契約法の中に規定を置いて足りるということでもないかなと思っております。反対ではございませんが、消費者契約法に規定を置くことにどの程度の意味があるのか慎重な検討をお願いしたいいということでございます。

それから、3番目、私どもなりの整理でございますが、法適用の外延が不明確なものその他ということで、規定の新設等により実務が混乱するものでございます。ここは、慎重に御検討願えればということでございますが、まず目的規定の修正でございます。今の目的規定を変えることについて、どのような影響があるかは私どももよく整理できておりません。もう少し慎重に議論できればと思っております。

それから、消費者概念の拡張でございますが、ここは強く反対で、とりわけ慎重な検討を求めるということでございます。これから具体的な中身を申し上げてまいりたいと思うわけでありますが、今の消費者契約法の適用環境を大きく変えることにもなりかねないということであります。ビジネスの現場に非常に不要な混乱をもたらすかなと思っております。

9ページの(3)消費者的事業者への準用も同じような話であるかなと思っております。

次に、(4)事業者の情報提供義務・説明義務の法的義務化でございますが、これも、それぞれ必要があれば、個別法とか行政規制等も含めまして、ガイドラインで定めていくことが必要かと思いますけれども、消費者契約法の一般的な規定として、このようなものを置くことによって何が起こるか、非常に不安がございます。強く反対でございます。

10ページに参りまして、(5)契約条項の明確化・平易化規定の見直しということでございますが、何が明確・平易かというのを一律に言われても困るわけでありまして、主観的な内容に当たるものでございますので、最初に申しましたように、平均的な消費者というものを考えていただければ済む話かなと思っております。ここは、あえて法的義務といたしますと余計な混乱が生じるかなと思っております。

(6)不利益事実の不告知でございます。ここは、先行行為要件削除、故意要件の削除について、これは実務にとって抵抗感が非常に強いところで反対でございますが、もう少し細かく中身を分けた上で議論していただければと思っております。

それから、(7)「重要事項」の動機への拡大、ここは強く反対するところでございまして、不利益事実の不告知については、とりわけ慎重にお願いしたいということです。言わなかったことについて何が問題になるかということで、グレーゾーンが非常に広がりかねないところでございます。ここも平均的な消費者を前提として、ここまでのことをやれば済むはずだという話を前提に考えていただきたいと思います。

12ページの(8)判断能力、知識不足を利用する行為、ここも同様でございます。

それから、(9)媒介者・代理人の不当勧誘は、媒介者・代理人以外の第三者への準用には強く反対させていただきます。特に、民法96条2項と同じようなことをここに書かれましたときに、民法ではそれなりに限定的に解釈されているという理解でありますけれども、消費者契約法に置かれますと、事業者の責任がどこまで広がるかわからない。ここは非常に不安が強いところでございます。特に第三者のかかわりにつきましては、さまざまな業態によって違ってくるかと思いますので、きめ細かく議論していきたいと思っております。

13ページの(10)取消権の行使期間の伸張は反対ということでございます。

それから、不当条項の一般規定でございます。具体的に個々の議論はあるかと思いますが、一般規定として何かこのような見直しの必要性があるとは私どもは考えておりません。強く反対いたしております。

14ページの(12)過大な違約金条項規制の見直しも、場合によるかなと思いますが、無効だということを主張する側が、この不当条項該当について立証責任を負うのが当然だと考えております。それを転換するというと、一体どういうことになるのか、具体的な立証責任の転換ということがどういう場合にあり得るかということは、かなり具体的に事例に即して議論していきたいと思っております。

(13)グレーリストの新設でございます。実は、ここは非常に事業者側から、経団連の会員からの反対が集中したところでありまして、ともかく見てわからないようなものはやめてほしいということであります。グレーと言われますと、事業者は一般的にはこれは黒としか見ないということであります。ブラックリストが広がることにつながると思っておりますので、強く反対でございます。

15ページの(14)不当条項規制の効果でございます。ここも、当事者の合意が基本的には尊重されるべきだろうと思っております。そこを乗り越えるにはどういうことが必要かということについて、十分検討していただければと思います。

最後に、4.既存のビジネスモデルが変容してしまうものということでございます。

まず(1)は不当勧誘規制の困惑類型についてでございます。これは、「その他心理的な負担を与える方法」とは一体どういう範囲なのだろうということでございます。事業者にとって、やっていいことと悪いことの区別がつかなくなることがあるかなと思っております。

(2)不招請勧誘・再勧誘につきましても強く反対という声が多いわけであります。不招請勧誘がだめだとなりますと、およそセールスというものができなくなってしまう。あるいは八百屋の御用聞き、今はそんなにないかと思うわけでありますけれども、そういうものもできなくなるということでありますし、特に新たに事業に参入しようとする人たちにとっては、非常に不利な状況になるかなと思っております。経済を新たに広げていくということ、あるいは憲法上の営業の自由にもかかわる問題でありますし、慎重に検討願いたいと思っております。

それから、(3)適合性原則ということでございます。これは、まさにそれぞれの商品とか顧客の属性をどう勘案しなければいけないかということでありまして、一般法としての消費者契約法で書き切れるか疑問でございます。書かれたとしても非常に漠然とした内容あるいは過剰な規制になるのではないかと心配しております。

それから、(4)中心条項への適用でございますが、これは強く反対ということでございます。価格というのはビジネスの根幹ではないかということでございまして、事業者・消費者双方の合意が当然生きるべきだと思っております。

17ページの(5)継続的契約の中途解約規定の新設でございますが、これも強く反対でございます。どういうニーズがあるかということをよく教えていただきたいと思っております。具体的にこのような規定が存在せずに困っている例があるかということを示していただきたいと思います。

18ページ、最後でございますが、消費者の努力義務の在り方でございます。ここも努力義務の規定が削除されるということは、消費者契約法というのは何なのかということにかかわるかなと思っております。消費者契約の一般法ということでありますと、消費者は当然、こういうことを考えるべきだ、このように努めるべきだということがあってしかるべきだと思っております。実は、現行法3条2項が削除されると世の中が変わるとは必ずしも思っておりませんけれども、消費者契約法の位置づけということであれば、消費者側に対するグラウンド規定でも結構でございますけれども、こういうものを置かれてしかるべきと思っております。

以上、軒並み反対してまいりましたけれども、強く反対しているところと反対しているところは使い分けております。それから、最初に申し上げましたが、経団連としてまだ詰めた議論はしておりません。これから消費者契約法の中身について具体的な検討、先生方の御議論を参考にさせていただきながら内部でも引き続き議論していきますので、また改めて経団連としての意見は別途、正式に提出させていただきたいと思っております。

以上でございます。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

≪3.意見交換≫

○山本(敬)座長 それでは、ただいまの2人の委員からのプレゼンテーションの内容を受けて意見交換を行いたいと思いますが、なかなか難しいテーマですので、まず沖野委員に整理いただいた内容についての質疑応答、意見交換を行って、問題点あるいは検討の視点についての認識をより深めていただき、その上で、阿部委員のプレゼンテーションの内容をベースにして、企業実務から見た検討を踏まえた上での消費者契約法の見直しのあり方について御検討いただくという形で進めさせていただければと思います。

まず、沖野委員のプレゼンテーションに関して、質疑応答及び意見交換を行いたいと思います。御質問あるいは御意見のある方は御発言をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。

阿部委員。

○阿部委員 3ページの上のほうでございますが、先生の御説明で非常によくわかったつもりでございますございが、1つ目のポツの「『個別法』の不存在に対する受け皿(個別規定がないところを総則規定が規律)としての消費者契約法」と、それから、その下の「『個別法』における民事効のモデルとしての消費者契約法」の部分について、特に、下のほうの民事効のモデルとしての消費者契約法と個別法の有無というものの関係が、いま一つわかりにくかったので、もう少し丁寧に御説明していただければと思います。

○山本(敬)座長 それでは、沖野委員。

○沖野委員 ありがとうございます。

3ページの御指摘いただいたモデルとしての消費者契約法というのは、個別法に具体的な民事効を置くような場合について、その規律の検討にとって、消費者契約法がモデルになるという意味での個別法と消費者契約法の関係ですとか、消費者契約法の意義・役割というものもあるのではないかというのが3つ目の、ここで書いたものです。ですから、具体的に念頭に置いておりましたのは、特商法に民事効というか、取消権などが入るときに、消費者契約法の存在と、そこでの規律内容がかなり参考になっている部分があるのではないかという点です。

その意味では、一方でむしろ個別法を充実させていくときにも消費者契約法がそれなりに充実しているということが、参照されるものとして意味合いを持ってくるという意味での消費者契約法の役割というのもあるのではないかというのがここで書いたものです。

○阿部委員 では、上のほうの個別法の中で民事効自体の不存在と同じターゲットになるわけですね。

○沖野委員 ここは、民事効自体の不存在という場面において、どのような役割を持つかという意味では、確かに共通した面だと思います。ただ、上のほうで言っておりますのは、不存在であるというときに、消費者契約法によって民事効が補充されるという話と、後のほうは、個別法の中に規定を置くときに一つの手がかりになるということですので、対応の場面が違うというつもりです。

○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。それでは、ほかの点についての御意見あるいは御質問、ありましたら。どうぞ、井田委員。

○井田委員 個別法と消費者契約法の関係について、非常に示唆に富むお話をいただいたと思います。

私が特に意見として申し上げたいのは、1ページの「事業者の不当な行為についての特商法省令での例示」ということで、これは皆様御承知のとおり、訪問販売という場面で事業者側の迷惑勧誘あるいは判断力不足に乗じた契約、知識経験、財産条件に照らして不適当な勧誘というものについて、これは禁止しているという関係がございます。消費者契約法には、現在そのような規定はないのですが、今、私が申し上げた勧誘が果たして訪問販売だけに限られるものか。例えば、判断力不足に乗じた契約というのは、何も訪問販売に限らない、いろいろなところで見られる契約であると思います。

特商法の規定では、実際にこのような勧誘で消費者が損害をこうむった場合の救済規定にはなり得ないところでございますので、このような既に特商法に定められているような禁止行為を消費者契約法に並べることで、不当な勧誘行為の損害賠償の足がかりにするという検討の仕方は十分にあると思いました。これ自体が不明確という意見はあり得ると思いますが、あまたある勧誘行為の中で、特にこういうものを規定したというところは非常に重要だと思います。

済みません、以上です。

○山本(敬)座長 御意見ということでよろしいでしょうか。

○井田委員 はい。

○山本(敬)座長 それでは、その他の点について御質問あるいは御意見いただければと思いますが、いかがでしょうか。河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 個々の問題については、特定のターゲットもあるみたいですから、そちらから意見が出るとして、議論の土俵とか方向性に深くかかわることについて、ちょっとお話をさせていただきたいと思います。

この一般法と特別法の関係ですけれども、規律対象にずれがあるという沖野先生のお話と、要件的にもそれぞれが相対的に解釈される部分があって、規律対象ごとに若干の変化があり得るものだという前提を置いた上で申し上げます。まず、一般法があって、その包括的な部分の不明確さを取り除いて明確化するというために特別法が制定されることがあります。さらに、一般的規律をより具体化して、そして個別のルールとして立てていって、全体としての法規範を補充するという局面もございます。第3番目が、一般法の例外的な形で一定の修正を加えるために、特別ルールを立てるという役目もございます。

それぞれ特別法が一般法との関係で果たしている機能は、違い得ることなのですけれども、少なくとも一般法で処理できるのだから特別法が要らないとか、あるいは特別法があるのだから、その特別法のほうに任せておけば一般法は要らなくなるという関係にはないということを、まず指摘しておきたいと思います。その意味では、ここでの議論が、一般法があるじゃないか、あるいは特別法に持っていけばいいじゃないかという議論になってしまうと、非常に非生産的な話になりかねないということです。

実は、委員会では、特商法に関する見直しについての諮問を受けておりまして、下部組織としてもう一つ、専門調査会を立てることになりました。したがって、特商法で受けるべき問題と消契法で受けるべき問題がオーバーラップしている部分については、両委員会の間で調整する必要があるだろうと考えておりまして、その辺に関しては改めて座長に御相談させていただきたいと考えておりますが、オーバーラップしても後で調整がありますという前提で、ここでは広目に議論していただければありがたいというのが第1番目でございます。

それから、もう一つ、一般法と特別法の中で効果の違いがかなりございまして、民法は民事効だけの一般法ですけれども、特商法になりますと、これは行政規制、それから場合によっては刑事罰がつきますから刑事法などの効果もついております。消契法の場合は、基本的には民事効であります。そうしますと、民事効でいくものと行政規制でいくもの、あるいは刑事罰でいくものがいろいろあって、それぞれの手法が被害回復とか消費者の権益保護のために、どういう組み合わせをすればベストミックスかという観点から考えていただく必要があるのではないかと思います。その辺も全体の議論をするときに御配慮いただければありがたいということでございます。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

きょうの議論は、もちろん個別の論点にかかわる部分ではありますけれども、それらに共通して問題となり得る事柄として、一般法と個別法の関係についてプレゼンテーションをしていただいて、共通の理解を深めるというところに本来の目的がありました。一般的な形でこの問題についての共通理解を述べるとするならば、恐らくは河上委員長が今、おっしゃっていただいた通りで、このこと自体については、御異論はないのではないかと思います。もちろん、この一般的な枠組みを前提にした上で、それを個別の問題に当てはめ、とりわけ消費者契約法でどこまで、どう規定するかという判断については、意見が分かれるかもしれませんけれども、その前提となる共通理解ができていれば議論はしやすくなるだろうと思います。

今の共通理解として、河上委員長におまとめいただいたところについて、沖野委員から何か補足なり、あるいは、いや、私はそんなつもりではないということがもしありましたら、補足いただければと思いますが、いかがでしょうか。

○沖野委員 ありがとうございます。

河上委員長の御指摘を聞きながら、私が25分かかったものをこのようにまとめられるものなのだと、非常にその力量を感じたところで、まさに御指摘いただいた点を一般論として確認し、もう少し細部にわたって申し上げたいというのが私の報告の趣旨でございました。既に共通理解になっているかと思うのですけれども、時にそうではないように捉えられるところもあるものですから、この理解を共通にして、次の問題というか、それぞれの問題に取り組むことができればと思っております。河上委員長のご指摘については、私自身もそれを申し上げたかったというつもりです。

○山本(敬)座長 阿部委員。

○阿部委員 まさに委員長がおっしゃるとおりで異論はないのでありますけれども、ちょっと私の説明が言葉足らずで誤解を招いたということであれば、補足させていただきます。個別法に委ねるべきもの、あるいはそれぞれの分野ごとに行政がガイドラインを含めて対応すれば済むものというのは、まさに本当に個別性が強く、あるいは特定の組織や業態の中での固有の事情に縛られているものでございまして、一般法に近い消費者契約法はなじみが薄いだろうということでございます。そこはきちんと峻別して考えていただければと思います。民法に規律がおかれたものは民法でおしまい、個別法に規律があるものは個別法でおしまいということであれば消費者契約法の議論の必要もないわけでありますけれども、必ずしもそういうつもりではございません。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

古閑委員。

○古閑委員 今の河上委員長の御説明、非常にわかりやすくて、ありがとうございます。私のほうも、特にその点について理解に異論があるということはございません。

気になっていますのは、個別法において、業法などは特にそうですけれども、私も時には委員になったり、もしくは傍聴することによって議論を拝見するところ、かなり個別性を鑑みて細かい議論をした上で物事を決めているように思います。ですから、消費者契約法の各論点についても、それと同等の議論をした上で決めていくのであればいいと思うのですが、「個別事例においては、こういう対策がもっと有効であろう」とか、「本当に効果的な内容は何なのか」ということをきちんと詰めて、いろいろな個別分野において議論がされてきている、その議論を台なしにするような形で、消費者契約法でざっと全体的に網をかけてしまうようなやり方というのは、物によってはビジネスを萎縮させてしまったり、影響が大きいと思います。

なので、今のこの辺の議論について異論があるというよりは、丁寧さといいますか、そういった観点できちんとビジネスを台なしにせずに、消費者の選択肢も減らさないようにという観点で議論していく必要があるのかなと考えております。これが1点目です。

済みません、せっかく当てていただきましたので、もう一点だけ意見を言わせていただきますと、沖野先生の御説明の中で個別のところになりますけれども、広告のお話がございまして、これは御説明いただいたとおり、広告というのはうまく定義して確定するのはなかなか難しいと思いますので、方向性としてはこういった方向性がいいのではないかなと私も思っております。まさにここに書いていただいているとおり、意思形成に実際働きかけがあったと評価されるのが何かということの整理が非常に重要だと思いますので、この整理をいかにうまくやれるのかというところについて、もし今時点でもうちょっと詳しい御意見があればお聞きできればと思っております。よろしくお願いします。

○山本(敬)座長 きょうのテーマそのものではありませんけれども、特にということでお話しをしていただきました点ですので、補足いただければと思います。

○沖野委員 その点は、まさにこれからの問題ではあると思うのですけれども、1つは、私自身は情報提供のあり方というものが不特定多数に向けた形で提供されること、それ自体によってそこで一律対象から除外されるという議論が非常に問題だと思っております。また一方で、情報提供という点について不実告知があれば、それは重要事項に関することでありますので、通常、判断に影響を及ぼすという縛りがそもそもかかっております。ですので、例えばこれまでの議論の中でイメージ広告の問題が言われますけれども、イメージ広告と言われるものが通常消費者の当該契約を締結する意思決定にどのような影響を及ぼす重要事項と言えるだけの情報を含んでいるのかということを検討する必要があるのだと思います。

それが不実告知と先行行為では、判断が多少違うのかもしれません。ですから、そこに含まれている情報の内容とか詳細度、それから全体としての最終的な意思決定に至るルートといったことを考えていくことになるのではないかと思います。ただ、それを法文化できるかというのは、また別の問題ですし、一番問題であるのは冒頭に述べた点でありまして、それが勧誘という表現があることによって、そのような一律除外を招くという議論に強くつながっているということであれば、勧誘という要件自体は見直す必要があるだろうと思っております。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。今後の検討すべき論点を御指摘し、まとめていただいたところだと思います。

それでは、先ほどの沖野委員からのプレゼンテーションでほかに御質問あるいは御意見がありましたら、お出しいただければと思いますが、いかがでしょうか。よろしいでしょうか。

続きまして、阿部委員のプレゼンテーションに関する意見交換に移りたいと思います。ただ、阿部委員からの御報告の中では、6ページから8ページまでの部分、つまり特別法やガイドライン、周辺法に委ねるべきものの部分は、今の沖野委員からのプレゼンテーションと重なるところがありますので、この部分にまずは限定して御意見あるいは御質問をお出しいただきたいと思います。その後に、残りの時間でこれ以外の部分について意見交換を行わせていただきたいと思います。それでは、今の点について、大澤委員。

○大澤委員 まさしくここの点に非常に疑問がありましたので、そのような順番にしていただいて大変助かったのですが、沖野委員と阿部委員の報告、両方にかかわるところだと思います。具体例を挙げたほうが多分早いと思いますが、7ページのブラックリストの追加というところです。これに関しましては、私も今、報告を準備しているところで、恐らく次回、不当条項に関する報告をさせていただきます。実は、準備をしているところで、阿部委員のこのファイルをメールで拝見させていただいて、率直に申し上げて、強くここを書かなきゃいけないなと思って、今、慌てて修正しています。

ブラックリストの追加のところで1つ気になったので、確認させていただきたいのは、「業界ごとの実情を踏まえ、ガイドライン等で個別に定めるべき」という、この1行です。

まず1つ目として、このガイドラインというのは、端的に言って誰がつくるものを想定しているのか。いろいろあり得ると思います。業界団体がつくるものを想定しているのか、それとも行政機関もありなのか、あるいは両者ミックスのものなのか、この点が非常に気になります。それによりましては、ガイドラインの内容の正当性にもかかわってくると思いますので、ここを1つ確認させていただきたいというのが1点です。

2点目は、これは質問というよりは、ちょっと確認しておきたいという個人的な意見ですが、「業界ごとの実情を踏まえ」というのが、ここに限らずいろいろな場面で出てきておりますので、個人的な意見を申し上げたいと思います。ブラックリストに関して、過去いろいろな提案がなされております。日弁連試案の2014年版でももちろん提案がされておりますが、もちろん全てではないかもしれませんが、それらで提案されているものというのは、基本的にどのような業種であっても、およそ無効となるようなものとして提案されているはずであって、例えば民法上の権利を端的に奪っているような条項ですとか、どんな業種であってもこれは許されないものを恐らくは提案しているはずです。

そこのブラックリストに挙がっているものが、業界によっては、これはさすがに厳し過ぎるのではないかということは、およそそれはないというか、法律上で考えてみて、そういうふうに言えないのではないかというものが、恐らくこれまでの提案ではされていると思いますし、外国のリストを見てもそうなっているはずであるということを、次回、この点はお話しするつもりだったのですが、念のため確認させていただきたいと思います。ですから、私が一番気になっているのはこのガイドラインというのがどういうものを念頭に置いているのかということです。

○山本(敬)座長 阿部委員。

○阿部委員 まさに、業界団体の自主的なものもあれば、行政が規制的なものとしてつくるものもあるかと思います。それぞれの中身次第であると思います。

それから、先ほど申し上げたのは、これはあくまでも日弁連さんの具体的な提案に対する反論でありますので、まさにブラック条項の議論をすることは当然必要かなと思っております。日弁連さんのご提案どおりのリストが入るのであれば反対と言っているわけでありまして具体的に中身の議論には当然入っていくべきだと思っております。

○山本(敬)座長 ありがとうございます。

後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 消費者契約法か、特別法ないしガイドラインか、ということにも関係することだと思いますので、総論の所ですが、お尋ねします。「平均的消費者を基準に検討すべきである」と書いてありまして、まさに今の御報告でも、そのことを最初に強調なさった。

それから、個別的な問題点のところでも「平均的な消費者」ということをおっしゃったと思いますけれども、その場合、その「平均的な消費者」とはどのような消費者なのかということが少しわかりにくいと思いまして、端的に「平均的でない消費者」というのはどのような消費者なのでしょうか。

○阿部委員 余りにも端的ですが、認知症である方とか非常に年少で判断力が低い方だと思います。

○後藤(巻)座長代理 例えば高齢者というのはいかがでしょうか。

○阿部委員 難しい場合もあると思います。もっとも、高齢者で経験を積まれて、しっかりした判断力もある方が多いかなと思っていますので、まさに社会的な常識が通用する範囲の人としか、今の段階では申し上げられません。もうちょっと詰めてみます。

○後藤(巻)座長代理 高齢で認知症ということでなくても、若いときに比べて判断力にだんだん問題が出てくる。そういう場合はいかがでしょうか。

○阿部委員 皆様も御案内かもしれませんが、成年後見制度みたいなものがきちんと機能していれば、こういうことが起こらなかったということまで一般論の中で議論していただきたくないということであります。

○後藤(巻)座長代理 例えば病気とか、あるいは身体とか精神の障害があるとか、そういう場合は平均的でないということになるのでしょうか。

○阿部委員 そうなるケースもあるかと思います。

○後藤(巻)座長代理 例えば、一定の困窮した状況に置かれている場合は、平均的になるのでしょうか。

○阿部委員 通常の状態だということがあくまでも平均的なということの前提だとは思います。

○後藤(巻)座長代理 例えば販売店の従業員が、上司の指示があるため、購入する人の判断力に問題があるという状況を知りながら、次々と過量の販売をしたという場合の購入者はいかがでしょうか。

○阿部委員 平均的を外れている場合だと思います。

○後藤(巻)座長代理 そうすると、平均的というのは、もう一度確認したいのですが、典型的にはどういう人なのでしょうか。

○阿部委員 社会的な常識が通用する範囲の人としか言いようがないと思います。

○後藤(巻)座長代理 すみません、しつこいようで申しわけないのですけれども、消費者契約法がどういう人を対象にするかというときに、阿部委員のお書きになったペーパー、きょうの御報告は、割と健全な消費者というのでしょうか、それを前提にしたアプローチという印象を受けました。これは私の意見ですけれども、消費者契約法は、事業者と消費者を対比して問題点を考えていますけれども、消費者の中でも特に弱いといいましょうか、保護を要する消費者ということを考える必要もあると思いまして、消費者契約法でそういう特に保護を必要とする消費者という類型を一切考慮しないということを仮にお考えだとすると、その出発点自体に賛成できないということになるのですけれども、そういうお考えだということでしょうか。

○阿部委員 うまく説明できるかどうかわかりませんけれども、特に認知症とか、非常に困窮した状態という、普通ではあり得ないような状態の方を全てカバーし尽くすような立法ではないと思っております。そういう意味で、先ほど最後に申し上げました消費者契約法3条2項にありますような努力義務というようなことを伝えても違和感がない程度の人、このぐらいのことはしてくださいと言っても違和感がないような人がまず前提であって、あとは場面、場面の問題かと思います。先ほど申し上げました、例えば無理な状況に置かれているとか、病気とか困窮という場合で正常な判断力が失われている場合については、これは当たり前の話かと思いますけれども、そういったケースは平均的だということではないと思います。

○山本(敬)座長 よろしいでしょうか。

○後藤(巻)座長代理 ありがとうございました。

○山本(敬)座長 重要な論点の一つが今、議論されているということだろうと思います。

それでは、今の点あるいはその他の点について。沖野委員。

○沖野委員 2点ございまして、1つはガイドラインについて、1つは平均的消費者という点についてです。

今の流れからすると平均的消費者のほうから申し上げるのがいいのかもしれないのですけれども、ガイドラインについて、お伺いしたいことがございます。各省でガイドライン等によって手当てをするのが適切であるとされているもの、そのガイドラインのあり方はさまざまであるということを先ほど御説明いただいたのですけれども、私には、このガイドラインがどのように充実させられるのかというイメージがつかめないでおります。仮にこの場所がいわゆる業法の検討のところでありましたならば、業法における、例えば行政的規制を入れるに当たって、まずは自主的な取り組みに委ねて、その様子を見ようといった議論は、よく行われると思います。それは、監督官庁等の指導等のあり方の中で、段階的に様子を見ながらというのはあるわけです。

ただ、そういうものがあるときに、そちらで全てお任せということで本当に動くのかという問題が1つありますし、そのようなものがない場面もかなりあるわけです。そういったときに、ガイドラインの充実というものがどのように期待されるのかというのが私にはよくわかりません。例えば消費者契約法で民事効を伴う形であれ、規律が置かれるというときに、そこにガイドラインによって、その具体化を図っていくということが一つのあり方として考えられる場面もあるように思うのです。先ほどは、特別法というものが持つさまざまな意義の中で、一般法に規定が置かれたときに、より具体化というのをもう一つ下位の規範といいますか、特別法でしていくということを申し上げました。

その中には、特別法ではなくて、自主的な形で、当該の、まさに業態等に応じた内容は一体何であるのかというのを明らかにしておくことによって、それがソフトローとして働き、法的なというか、規範として展開していくというのはあるのですが、そういう手がかりがないところでガイドラインをいかに充実していくのか。その点について、どういったことをお考えなのかというのをお聞かせ願えないでしょうか。

○山本(敬)座長 阿部委員。

○阿部委員 まず、私の説明の中で、個別具体的なことで、これはガイドラインによれば足りると言っておりますのは、8ページの(4)の賃貸借の話でございます。これは、不動産賃貸借でありますとか、規制色のかなり強い行政のガイドラインがあります。それ以外のところは、極めて一般的な前書きとしておりまして、何かガイドラインがあるから、それで済みだという主張をしているつもりではございません。そういう意味では、特別法やガイドラインと言っておりますけれども、まず個別法の規定で終えるもの、分野ごとに対応すべきものについてしっかりと峻別して考えていただきたい。その中の一つの考え方として、ガイドラインというものがあり得るかなということでありますが、具体的にはガイドラインで足りると言っておりますのは賃貸借のところだけであります。

○山本(敬)座長 沖野委員、よろしいでしょうか。もしよろしければ、2点目の質問を。

○沖野委員 ありがとうございます。2点目の平均的顧客のところは別の項目になるのですけれども、構いませんか。

○山本(敬)座長 はい。

○沖野委員 一般論のほか、個別のところでも平均的消費者で考えていくべきだと説明された箇所の中で、その意味がよくわからなかったところがありますので、それを説明していただければと思います。

1つ目は、10ページの(5)契約条項の明確化・平易化規定の見直しという点ですけれども、ここで平均的消費者を前提とすべきだと説明なさったと思います。もしそういう御趣旨であれば、どういうところを基準として、この明確化・平易さというものを考えていくのか、誰の理解を基準としてなのかという点を明確化すべく、むしろその内容を見直すべきだという議論もありそうに思うのですけれども、そういった話は特にないのかというのが1つです。

○山本(敬)座長 阿部委員。

○阿部委員 沖野先生のおっしゃることであれば当然かなと思っております。そういう意味でまさに平易化・明確化ということについて、具体的にどのような状況で、どういうことをすれば足りるという話であれば、前向きに議論させていただければと思います。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

河上委員長。

○消費者委員会河上委員長 余り方向づけることはしないほうがいいかもしれないですけれども、平均的顧客というのは、取引目的物とか取引の種類によって、かなり違ってくるのではないかと思います。介護契約であったり、有料老人ホームの平均的顧客は、大体かなりの高齢者で判断力が落ちているという前提での話になりますけれども、郵便局やデパートに来る顧客というのはいろいろな人がいるだろうと想像がつきます。ですから、事業者が想定できる顧客圏というと、一定の類型の顧客層、顧客圏は当然予想して事業者も事業活動をしているのだと思います。

例えば、郵便局の窓口に老眼鏡が何種類か置いてありますが、想定される顧客をある程度考えながら、事業者の方は議論を当然されているものと私は思います。ですから、全く一律の平均的顧客と阿部委員がおっしゃっているのではないと、むしろ思いました。ということでどうなのでしょうか。

○山本(敬)座長 阿部委員、補足はあるでしょうか。

○阿部委員 そのとおりかなと思います。

○山本(敬)座長 山本健司委員。ただし、先ほどの限定された枠内で、できればお願いしたいと思います。

○山本(健)委員 わかりました。まずは、日弁連の改正試案について御意見をいただきまして、ありがとうございます。日弁連の改正試案は、実際に現行の民法や消費者契約法や個別法でうまく救済できていない消費者被害の救済の促進という観点から提案させていただいております。これに対して、本日、阿部委員から、弊害のおそれがある、反対であるという御指摘をたくさん頂戴いたしました。御指摘には、真摯に耳を傾ける必要があろうと思っております。

しかし、反対理由の中身を拝見いたしますと、およそ杞憂ではないかと思われるような御心配や、まともな事業者ならば事業への悪影響といった御懸念など無用ではないかと思われるような、いささか過剰な御心配からの御意見も少なくないように思います。

また、理由の中身をさらによく拝見しますと、被害救済という方向性自体に対する反対意見ではなく、日弁連が提案している具体的な規定内容ないし要件立てには反対という御意見の箇所も少なくないように思います。このような論点については、今後の議論でコンセンサスの形成は可能ではないかと思っております。

この会議は、消費者被害の救済と弊害の回避という2つの要請を両立させるために、委員が知恵を出し合って建設的に議論を進める場と理解しております。ぜひ阿部委員ともそのような方向での建設的な議論をさせていただきたいと思っておりますので、よろしくお願い申し上げます。

○山本(敬)座長 ありがとうございます。強く反対とおっしゃっているのも、今のような趣旨であり、今後の検討を通じてコンセンサスの形成が可能だろうという御趣旨だろうと思いますが、阿部委員。

○阿部委員 そうなればいいなと思っております。

○山本(敬)座長 山本健司委員。

○山本(健)委員 次に、7ページのブラックリストのところについてですけれども、経済活動への御懸念という点については、不当条項リストがたくさんあるドイツや韓国でも経済活動は円滑になされており、不当条項リストがふえれば経済活動が萎縮するというのは杞憂ではないかと思います。

また、不当条項リストの該当性判断が難しいという点については、全てを10条の一般条項に委ねるよりも、具体的なリストを定めたほうが、予見可能性が高まり、適用範囲が明確になると思います。

なお、先ほどから出ておりますガイドラインに委ねればいいのではないかという点については、ガイドラインを守るような健全な事業者はもともと心配いらないのであって、むしろルールを守らないような事業者、秩序を乱すような事業者への対処が問題であると思います。 ここでの問題は、ブラックリストを追加するか、しないかというレベルではなく、具体的にどのような内容の不当条項リストをどのように規定するのがよいのかという、具体的な規定内容ないし要件論の問題だろうと思います。今後の議論はそこを中心にやるのが建設的であると思います。

以上です。

○山本(敬)座長 悪質な事業者が現実に存在し、被害が生じているということは、これまでの検討を通じてたくさんの資料が実際に挙がっているところでして、これに対する対応が必要であるということ自体は、恐らく御異論はないのだろうと思います。ただ、それに対応する規定を設けたときに、本来ならば問題が少ないはずの事業者の事業活動に対して不適切な影響が及ぶことになるとすると、やはり反対せざるを得ないというのが阿部委員のおっしゃっている基調ではないかと思いますが、いかがでしょうか。

○阿部委員 具体的に、日弁連の御提案の17条、さらに18条のそれぞれの個別の条項の中には、ある程度は前向きに議論できる部分はありますし、まさに強く異論があるところもございます。個別にまた機会があれば申し上げさせてください。全部反対しているわけではなくて、かなり広範にいろいろなことを書いていただいておりますので、これを全部認めてしまうというのはとんでもないということであります。

○山本(敬)座長 ありがとうございました。

沖野委員。

○沖野委員 今のブラックリストについて、これも確認させていただきたいという趣旨なのですけれども、7ページの反対される理由の3つ目に、日弁連試案で提案されている条項にはこれこれが含まれており、いずれも慎重に検討すべきということですから、慎重に検討すべきというところに力点があるのだと思うのですけれども、その理由の1つに「民法の公序良俗の規定で対応できるもの」という点がございます。これは、今までの御指摘からすると、公序良俗で対応できるという一事をもってブラックリストに挙げる必要がないということではなく、民法による対応可能性とともに、他の考慮、かえってマイナスのビジネスに与える影響などが懸念される等々の考慮があって、という御趣旨と伺ったのですが、そのような理解でよろしいでしょうか。

○阿部委員 そのとおりでございます。

○山本(敬)座長 丸山委員。

○丸山委員 6ページから7ページにかけて紹介していただいているところに関して。今までの議論の確認の側面もあります。「勧誘」要件の削除や断定的判断の提供について意見を述べられている中で、景表法があるからいという形で書かれている部分があります。

消費者契約法おける議論というのは広告規制の話をしているわけではないので、先ほど沖野委員からのプレゼンテーションでもございましたように、勧誘要件であるならば、消費者の意思形成に実際に働きかけるのはどういった行為なのだろうという点についての議論を深める必要があり、断定的判断の提供の場合については、意思決定の不十分さという観点が法による手当ての根拠になっており、どういう場面のどういった状況まで拾い上げられるべきなのか、事業者のどういった行動があれば帰責できて、どういった行為なら帰責できないのかといった、もう少し具体的なレベルから実務における懸念を示していただいたほうがよいのではないかと思いました。広告規制の問題ではないので、景表法があるからという形での議論は成り立たないのではないかと思いました。

○山本(敬)座長 阿部委員。

○阿部委員 6ページからのところであります。まさに勧誘とは何かということをきめ細やかに議論していけばいいかと思います。その中で現在の理解では勧誘に当たらないものだけれども、これは勧誘として捉えるべきなのかということもあり得るかと思います。特に広告につきましては、景表法があれば足りるという主張をしたつもりはございませんが、勧誘要件を外されますと、例えば世の中で商品、サービスに関する広告、コマーシャルというのがほとんど規制対象になるかのような錯覚を与える。まさに直接消費者に物品やサービスの購入を呼びかけているつもりじゃないものまで、何かこの対象になるかのような漠然とした不安がございます。

まさに勧誘とは何かということをきめ細かく議論していただいた上で、広告につきまして、私どもも具体的な主張をこれからさせていただきますけれども、何をどこまですれば勧誘行為になるのかということで議論していただければと思います。

断定的判断のほうも同じようなことだと思っております。

○山本(敬)座長 今の点は、勧誘の概念だけの問題ではなくて、重要事項の要件の立て方、その他全てを含めて規制の対象がどれだけ特定し、明確化されているかということなのだろうと思います。

後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 念のための確認なのですけれども、民法改正との関係です。2ページの消費者有利解釈規定の新設とか、6ページの消費貸借における消費者特則の新設とか、それから、12ページの判断能力、知識不足を利用する行為、こういうところで、立論の中で、民法改正において強い反対意見があったとか、民法改正における議論に収れんさせるべきであるとか、あるいは暴利行為については、民法改正の議論において合意形成が困難な状況にあったとか、そういう民法改正で採用されなかったということを、消費者契約法でも取り上げる必要がないということの一つの根拠となさっているように思います。

しかし、民法改正の審議で採用されなかった問題というのは、民法で取り上げるのが適切なのかどうかという判断が働いたもので、消費者契約法で取り上げるかどうかについては、特にそこで否定的な判断がされたということではないのではないかと思いますので、その辺について、どうお考えでしょうか。

○山本(敬)座長 阿部委員。

○阿部委員 これは、法制審民法部会の議事録を細かく見ていただくしかないと思うわけでありますが、それぞれのテーマごと、項目ごとに、私どもは、これは例えば消費者契約法とか、あるいは、ほかの法律に委ねるべきだということも申し上げております。そういう意味では、民法の議論から外れたものについては、まさにここで議論すべきだと思っております。

もっとも、ここで具体的に挙げました、例えば消費者有利解釈規定の新設とか消費貸借にかかわる特則の新設などは、民法改正の中で取り組むという前提で議論されて、そこでは解決できなくて、最終的には要綱仮案までたどり着かなかったものであります。

そういうものをここでもう一度同じ議論をすることについては反対でございます。私ども、4年半、5年にわたりました民法改正の議論の中で、かなり精密な議論をやってきた上で、民法だからというわけではなく、法律の規定とするには及ばないとされている部分だと解釈しています。ですので、民法に書かれていないことが、あるいは、改正の要綱仮案に入っていないことが全部できないとかやれないという話ではございません。ここに具体的に挙げておりますのは、まさに一般的な規定としての議論も、あるいは消費者契約法の議論としてもなじまないということで、ある意味解決済みだったかなという理解を私どもはしているものであります。議論することにはやぶさかではございませんけれども、私どもは民法の議論のときと同じ主張を繰り返させていただくことになるかなと思っております。

○山本(敬)座長 もちろん論点ごとに状況が違うというのは、そのとおりでして、定款約款はまだ確定していませんけれども、その問題、あるいは情報提供義務に関しても、私の記憶しているところでは、むしろ民法は一般法なので、非常に緩やかな形で規定を置くよりは、しかるべきところできちんとした規律を置くほうが、立法としては適切ではないかという御意見が経済界からも出されていたように思いますので、そのようなものを否定される趣旨は恐らくないのだろうと受けとめました。

沖野委員。

○沖野委員 消費者契約法の場合にどうかということが民法改正の議論の中で決着済みということは、もちろんないのだと思います。そこでの議論が参考になる部分があるというのは、その一般論の限りではそうなのだろうと思いますけれども、必ずしも消費者契約の場合にどうかという観点から議論がされているというわけではなかったと思います。個別には、それぞれ今後検討されるべきものですし、その際に、これまでにいろいろな面でされてきた議論というのは、当然参考になるという趣旨ではないかと思います。

1点だけ個別問題なのですけれども、2ページに書かれております消費者有利解釈規定の新設についてですけれども、いわゆる約款の場合の条項解釈の話と、消費者契約の場合の話と2つの問題があり、むしろ最終的にというか、民法改正の中でどうするかという点で主に取り上げられたのは約款のほうではなかったかと理解しております。

それで、約款の場合と消費者契約の場合とが同じなのか、とりわけ消費者契約法の場合には、もともと情報・交渉力の構造的格差というのがまず出発点にあってというのに対して、約款の場合に同じように言えるかという問題はまた別に出てくるかと思いますので、そういう区別もしていく必要はあるのではないかと思います。ただ、個別には、ここで取り上げるということではなくて、それが出てきたところで、また改めて検討ということになると理解しております。

○山本(敬)座長 否定はされないということだろうと思います。

では、大澤委員。

○大澤委員 済みません、しつこいようですけれども、ブラックリストのところで、きょう決める話ではないと思いますので、細かな内容はまた後日にしたいと思っているのです。1つだけスタンスを確認させていただきたいのですけれども、特別法との関係とか、あるいはガイドラインに委ねることが適切な場合ということで、1つブラックリストということを挙げられており、それが沖野先生のきょうの御報告のレジュメの4ページとも非常に大きく関係するのではないかと思います。

私、非常に共感しているのは、沖野先生のレジュメの4ページの上から4行目、行政規制がこういう指摘に対してというところでベストミックスとかを書かれていまして、そのすぐ下のところに行政規制が充実しているならばということで、「消費者契約法でそれに対し取消等を認めるとしても問題は起こらない」とか、いろいろ御意見が書かれております。さらに共感を持ちましたのは下のところで、「消費者契約法に、取消しや無効といった効果を伴わない形での行為規範としての規定を設けることがもつ、他の法律やガイドライン等、より根本的には市場参加者へのメッセージ効果」。このメッセージ効果というところに非常に興味を持ったというか、基本的には同じような感触を持っております。

伺いたいのは、例えば特商法の49条だったと思いますが、損害賠償の予定に関する具体的なルールがあります。あれは、特定継続的役務の提供の場合に限定していますが、ああいう賠償額の予定を具体的に定めた規定があるので、消費者契約法で賠償額の予定についてのルールを設ける必要がないということは、さすがにそういうことではないのではないかと私はいつも理解していたのですが、例えばああいう話で、特商法に規定があるので、わざわざ消費者契約法に設ける必要がないということでは、さすがにないのだろうと思っているのです。

私、個人的には、むしろそういう特商法など、下位と言っていいのかわかりませんが、いわゆる個別法でのルールを設けるに当たってのガイドラインと言ったら、また誤解を招くかもしれませんが、その指針として消費者契約法に例えば一定のブラックリストを置くとか、そういうことはむしろ積極的にやっていくべきではないかと考えておりますので、特商法49条があるから消費者契約法でわざわざ設ける必要はないということであるとすれば、それはさすがに余り賛成できないなと思っています。特別法があるので、消費者契約法では特に規定を設ける必要はないのではないかという議論は、徹底してしまうとそういう意見にもつながってしまうのではないかという懸念を持っているということだけお伝えしたいと思います。

以上です。

○山本(敬)座長 この点は、次回以降にまた取り上げるべき事柄ですので、今の段階でもしお答えがあるならば、何か。

○阿部委員 特商法は、ある意味で極めて限定された場面であります。そこに書いてあるから一般的な規制である消費者契約法に置かなくていいという主張はしておりません。

○山本(敬)座長 それでは、既に他の論点についても御意見が出ていますので、ほかの部分に関しても御質問あるいは御意見をいただければと思います。ただ、先ほどから何度も出ていますように、具体的な問題については、これからさらに検討していくことですので、反論するというよりは、せっかくきょうは阿部委員からお考えをお示しいただきましたので、それがどこまでのことをおっしゃっているのか、あるいはどのような理由からおっしゃっているのか、その理解を深めるという観点を中心にしたほうが、恐らく今後の議論のためになるのではないかと思います。そのようなお願いをした上で質問、御意見をお出しいただけるでしょうか。

松本理事長。

○国民生活センター松本理事長 阿部委員のプレゼンの中で約款絡みのところが2カ所ございまして、1つ目が5ページで、消費者契約約款に関する規定の新設には、強く反対する。理由は、民法改正案のほうで約款規制が入りそうだからということをおっしゃっているのですね。

他方で、後ろのほう、16ページ、中心条項への不当条項規制の適用には反対である。理由は、価格などは合意で決めるべきものだから、それを規制するのはけしからぬということですが、今回の民法改正案の約款規定は、中心条項と付随的条項を区別しない立法として事務局は提案しております。もちろん、契約関係に入るときには価格が幾らかというのを普通は気にしますから、そこの合意は少なくともあって、それ以外の付随的な部分について約款による補充をかなり容易に認めるという内容になっているわけで、その点は中心条項は別だという考え方と、ある程度は両立するのですが。

他方で、今回、ほかの国の立法にはないところの約款の変更がかなり自由にできるという特別の条項が民法に入るという提案がされております。そこで、私、法務省の事務局に何回も確認しまして、中心条項と付随的条項を区別していないのか。つまり、価格・料金の変更も約款の変更でできるという趣旨かと聞いたら、その点は排除しないという御説明だったのです。ただ、いろいろな事情を考慮して、合理性があるかどうかという歯止めはあるわけですが、価格を個別合意によらないで一方的に変更できるという非常に大胆なルールが入ってまいります。そうなると、阿部委員に中心条項についても合意なしで変えられるというのはおかしいと思われないのかというところをちょっと明らかにしていただきたいと思います。

○山本(敬)座長 もしお答えがあれば。

○阿部委員 まず、民法のほうの改正の中での約款の規定の変更条項というのは、特例的な規定が置かれていれば、自由に価格を含めた内容を変えられるという趣旨のものではないと私も理解しております。それなりに合理的な理由・根拠等が必要になってくると思いますので、ここはむしろ法務省のほうにもう一度聞いてみたいわけでありますが、変更規定の役割・許容度みたいなものをきちんと議論させていただいた上で、こちらの議論にもつながればと思います。

○国民生活センター松本理事長 私が言いたいのは、価格の変更も可能であるけれども、いろいろな条件との絡みで合理性があるかどうかというところで、最終的に判断しようという考え方に対して反対はしないというお立場であれば、この不当条項規制の中に価格のファクターも入れるということと全く同じじゃないかという気がするのですが。

○阿部委員 おっしゃるとおり矛盾しているようにも思います。その点はもう少し整理したいと思います。

○山本(敬)座長 それで松本理事長も納得されるだろうと思います。

それでは、増田委員。

○増田委員 阿部委員の提案を見せていただいたときに、どうしたものかと思いましたが、先生がたからいろいろ聞いていただいて、意図がわかりまして、ちょっと安心したところです。広告に関しても、これから意思形成がどれだけ強く働きかけるかということも含めて、御検討いただけるということであれば、それについては私も了解したいと思います。

それから、ブラックリストに関してですけれども、消費者にとってもわかりやすいということと同時に、中小の事業者にとってもわかりやすいものになるだろうと思いますので、これは進めていただきたいと思っております。

また、消費者有利解釈の規定についてですけれども、消費者にとってわかりにくい条項というのは実際にありまして、本来、事業者において明確な解釈を示すべきところ、それができていない場合、柔軟な解釈ができるようにするというところはどういうメリットがあるのかということをお聞きしたいと思います。一般的には、約款の話になりますけれども、1対多数ということで、事業者のほうが一律に決めることが多いですし、1対1で柔軟な解釈ができるケースというのは大変少ないのではないかと思いますので、その辺のところを教えてください。

○山本(敬)座長 阿部委員。

○阿部委員 2ページの消費者有利解釈規定の問題は、まさに契約を交わした段階では想定できなかったようなさまざまな事象が生じたときに、一方的に事業者側が不利に置かれるという考え方であれば反対ということでございます。要は当然消費者契約法でございますので、情報判断力、その他の点で格差があるということの前提としては規定になるかなと思っておりますが、何かわからないことが起こったら全部事業者のせいだというやり方になるのであれば反対でございます。

○山本(敬)座長 河野委員。

○河野委員 ありがとうございます。阿部委員から、今回、考え方ということでお示しいただきまして、ほとんどが強く反対するということなので、今後の個別議論に私も期待したいところで、個別の検討が始まったところで消費者も主張していきたいと思っているのですけれども、総論のところで2つだけ、意見、受けとめをちょっと話させていただきたいと思います。

先ほど河上委員長から非常に的確な形で一般法と個別法の関係性を整理していただいて、私もそういうことなのだと理解したところですが、業法を含む特別法との関係について、ここは阿部さんが書かれていることですけれども、景表法はもちろん、業法の多くには、民事的効果というのは規定されていません。例えば特商法の一部の規定には、不実告知に対する取消権とかクーリングオフの規定とか、それから中途解約の際の違約金の上限規定等があります。また、金融商品取引法にも、一部民事的効果が定められているのですけれども、それぞれ対象となる取引分野というのは非常に限定されています。

消費者契約に横断的な民事ルールとしてあるのは、消費者契約法だけだと思っています。また、民法の一般原則では今後検討が加えられると思いますけれども、規定が抽象的過ぎまして、消費者が交渉の際の論拠として活用することはなかなか困難です。ですから、消費者契約におけるトラブルの実情を踏まえていただいて、現行法では民事的救済が困難なケースに対応するという観点を重視していただいて、今後の本調査会の議論を進めていただきたいというのが1点目です。

それから、2点目ですけれども、これも事業者対消費者というところで感想を申し上げますと、事業者の過度に予防的な対応についてということでございます。消費者契約法は民事ルールですから、個別事案に即して裁判所に適宜判断していただけるように、一定の抽象性というのは持たざるを得ないということは私も理解しています。民事ルールが充実すれば、どの程度の情報提供を行えば消費者の選択に資するかは、それぞれ対象となる商品とか役務を販売・提供する事業者自身が一番よくわかっていらっしゃると思いますので、余りに過度に心配される必要はないのではないかと思います。

私たち消費者団体の経験から言いますと、消費者契約法が施行されて以降も、旧来のままの約款を何ら見直しせず使用されている事業者さんも決して珍しくなく、私たち、契約の際に約款をなかなか丁寧に読みませんので、後になってこんなことが放置されていたのかと思うことも多々あります。結果として不当と思われる契約条項が残っている状況です。ですから、過剰な心配をされるよりも、民事ルールの充実にあわせて情報提供のあり方とか契約条項を点検してくださって、必要に応じて、ぜひ見直していただくように、業界団体の皆さんもぜひリーダーシップを発揮していただきたいですし、そうしていただければ、決して過剰な反応にはならないのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

○山本(敬)座長 阿部委員。

○阿部委員 特段の異論はございません。

○山本(敬)座長 後藤委員。

○後藤(巻)座長代理 今、河野委員がおっしゃった最後のほう、あるいは先ほど山本健司委員がおよそ杞憂ではないか、とおっしゃったことと関係するのですけれども、消費者契約法に規定を設けるということでどんな影響を受けるかということを考えますと、事業者側で大きく御心配になることはないのではないかと思っています。例えば、12ページに「つけ込み型不当勧誘や状況の濫用については、外延が不明確であり」ということが書いてありまして、それから、ほかのところでも事業者の予見可能性が問題となるということを指摘なさっています。

しかし、例えば、前回、丸山委員がつけ込み型の不当勧誘、状況の濫用の不当勧誘について取消しを認めるという御提案をなさいましたけれども、その要件というのを見ると、明確性という点からは、公序良俗違反、民法90条に比べたらずっと明確で使いやすいという感じがします。日弁連試案のつけ込み型不当勧誘についても同様ですし、私が前々回、紹介させていただきました山本座長の暴利行為論につきましても、従来の裁判例を参考にして、暴利行為が認められるための要件化をしたということですので、民法90条の適用ということを考えるよりも、より明確な基準になっているし、従来の消費者の保護を特段にアップさせるということではなく、むしろ従来の取り扱いを確認しているという側面が強いのではないかと思います。

そういうことから見たときに、消費者契約法のルールというのは消費者にわかりやすいということと、それから裁判でも重要ですけれども、相談現場で相談員の方々が使いやすい、そういうことの要請が強いわけですから、例えばつけ込み型の不当勧誘の禁止というものが消費者契約法で規定されたとしても、事業者側は従来と比べて特に負担が重くなるということもないし、むしろ事業者にとっても、消費者にとっても、実際の取り扱いが明確化するということで、両者にとって非常にいいことなのではないかと考えるのですけれども、いかがでしょうか。

○山本(敬)座長 阿部委員。

○阿部委員 私自身、消費者契約法が制定されるときからのおつき合いでございます。経企庁国民生活審議会の時代からのおつき合いでございまして、この法律がどういうものかということはよくわかっているつもりでありますし、一昨年の夏になりますけれども、消費者委員会の論点整理の後のパネルでいろいろなことを申し上げたわけでありますが、当然、現行規定で足りないところもあると思っておりますし、さらに精緻にされれば、事業者にとっても使いやすい法律になるかなと思っております。だからこそ、この検討会に参加させていただいているわけでありまして、それぞれの中身の議論には参加させていただきたいし、具体的な意見も言わせていただきたいと思っております。

○山本(敬)座長 大変建設的な方向で御意見をいただきまして、ありがとうございました。

石戸谷委員。

○消費者委員会石戸谷委員長代理 消費者契約法の立法作業と同時並行的に金融商品販売法の立法作業をやっておりまして、私はそちらのワーキングで関与していましたので、きょうの議論で若干関連するかなと思うようなところだけ、ちょっとピックアップして何点か。

まず、民法との関係ですけれども、金融商品販売法こそ、判例で説明義務を認めているのだから要らないのではないかという議論が実際問題としてあったわけですが、立法された意味合いというのは、目指したのは予見可能性を高めると。判例法理で形成されてきているといっても、当該訴訟において、その裁判官がどういう判断をするかはわからないわけなので、お互いに説明義務があるとかないとか、全力で論争をしなきゃならない。地裁、高裁、最高裁と行くのは非常に消耗じゃないかということで、まず義務の存在をきちんと明確にしようということでありまして、予見可能性を高めるという意味合いは大いにあったのかなと。

その後平成18年に大きく改正されておりまして、判例が進展してきましたので、説明義務の範囲を判例に合わせて拡大しました。拡大したという意味は、判例が先行しているのですけれども、これも要件の明確化という形で、予見可能性を高めていこうという考え方です。

それと、先ほどの平均的な消費者かどうかというところと多少関係するのですけれども、説明の程度として、当初立法時では、一般的大多数の顧客が理解できる程度に説明するという、先ほどの平均的消費者に近いような考え方ですが、2004年の改正のときに、当該顧客が理解できる程度ということで当該顧客基準という考え方に大きく転換しております。

それから、特別法であるという所以ですね。民法において説明義務違反というのは認められており、新たに説明義務違反で法律というものの所以をどこに置くかについては、3点ありまして、1つは、無過失責任である。取引的不法行為で過失を問題にするというのはほとんどありませんで、違法性の有無ですので、過失は余り問題にならなかったという背景があります。

それと、因果関係と損害の推定規定を置くということ。因果関係の立証というのは、実際問題としては原告側の負担として非常に重いわけでありまして、広告がおかしくても、後で訂正されている場合もあるではないかというのが阿部委員のペーパーの中にありましたけれども、立証責任として、そういう因果関係があるというのは、まさに請求側が立証しなきゃいけない。これは実際問題としては非常に重いのですね。したがって、そこに推定規定を置くと。これも余り異論はなかった。

3点目が、民法715条ではなくて、直接責任ということでありまして、法人自体の責任ということで、これは勧誘の要件は要らないということにしたこととの関係も若干あります。

それが特別法を置く所以ということでありまして、日弁連試案のほうで不当勧誘の一般規定を入れておりまして、激しく攻撃されておりますけれども、金融の分野から見ると随分遠慮しているなと。もうちょっと特別法らしさを入れてもいいじゃないかと思うぐらいであります。

それから、業法との関係では、断定的判断の提供なども平成18年改正で組み込んだのですけれども、これも先ほどの論点との関係で言えば、民法上不法行為法上の違法性が認められているし、消費者契約法にも入っているじゃないか。なぜ、わざわざまたそれを金融商品販売法に入れる意味があるのだという議論になってくるかと思いますけれども、そこは冒頭にもありましたとおり、要件が若干違うということと推定規定が入っている。最も大きく違うのは、民事効があるので業法とは違うのだということで、ここも問題がなかったということです。

もう一つだけ、勧誘の要件との関係で言いますと、金販法のほうは勧誘の要件を外そうというのは早い段階からコンセンサスが得られておりました。それは勧誘というのを入れると、何が勧誘なのか判然としないので、かえって紛らわしいということがあって外したということがあります。これは、説明義務だからということはあるかもわかりません。契約する場合には、契約するまでの間に説明するということなので、どこかのプロセスで説明する必要がある。

金融商品取引法のほうも阿部委員のペーパーの中で出てくるので、若干そこのところを関連で申し上げますと、こちらのほうは勧誘という概念を使っております。広告は広告で規定を置いておりますけれども、それとは別に勧誘の概念も置いております。けれども、それはその規定との関係で勧誘をどういうものかということを定めています。金融商品取引法の4条1項2項3項に勧誘というのが出てくるのですけれども、その規定との関係では、企業内容等開示ガイドラインというので、文書の頒布とか説明会における口頭による説明、新聞、雑誌、立看板、テレビ、ラジオ、インターネットによる広告というものも含まれるという意味での勧誘にしております。

要は、規定の趣旨との開催でどの辺まで含めるかということを議論するというので、消契法との関係でいえば、意思形成に影響を与えるかという範囲で決めていくというアプローチと同じなのかなと思っております  済みません、長くなりました。

○山本(敬)座長 どうもありがとうございました。

それでは、そろそろ時間も参りましたので、本日の意見交換はこのあたりにさせていただければと思います。沖野委員、阿部委員のおかげで、大変充実した議論をすることができました。

本日の意見交換の内容につきましては、事務局のほうで整理していただいて、3月以降の個別論点の検討に生かしていきたいと思います。


≪4.閉会≫

○山本(敬)座長 それでは、最後に事務局から事務連絡をお願いいたします。

○金児企画官 本日も熱心な御議論をありがとうございました。

次回は、2月13日金曜日、17時からの開催を予定しております。議題等、詳細については後日御案内いたしますので、よろしくお願いいたします。

○山本(敬)座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。お忙しいところをお集まりいただきまして、ありがとうございました。

以上