第17回 消費者契約法に関する調査作業チーム会合 議事要旨

日時

2013年5月20日(月)18:00~20:30

場所

消費者委員会大会議室1

出席者

 河上正二消費者委員会委員長、山口広消費者委員会委員長代理
 大澤彩准教授、沖野眞已教授、鹿野菜穂子教授、北村純子弁護士、角田美穂子准教授、
 千葉恵美子教授、中田邦博教授、平尾嘉晃弁護士、山本健司弁護士、
 加納克利消費者庁消費者制度課企画官
 【事務局】 原早苗事務局長、小田克起審議官、浅田英克参事官、稲生奈実参事官補佐、山田茂樹委嘱調査員(司法書士)、戸上真語政策調査員

議題

 人的・物的適用範囲における論点整理

議事要旨

(1)消費者保護法の人的適用範囲に関する規定の在り方の整理

<報告の骨子>

1.各種消費者保護法の人的適用範囲に関する規定の在り方の整理
(1)消費者契約法、消費者基本法、電子消費者契約法
  規制対象:「事業者」(団体+個人事業者)
  保護対象:「消費者」(個人。ただし、個人事業者を除く)
(2)特定商取引法、割賦販売法など
  規制対象:「販売業者」「役務提供事業者」「割賦販売業者」
  保護対象:「相手方」「購入者若しくは役務の提供を受ける者」「申込者等」
  ただし、「営業のために若しくは営業として締結するもの」は適用除外
(3)金融商品取引法、金融商品販売法、商品先物取引法など
  規制対象:「金融商品取引業者等」「金融商品販売業者等」「商品先物取引業者」
  保護対象:「顧客」
  ただし、「特定投資家」「特定顧客」「特定委託者」は適用除外
(4)貸金業法、宅地建物取引業法、旅行業法、保険業法など
  規制対象:「貸金業者」「宅地建物取引業者」「旅行業者」「保険会社等」
  保護対象:「資金需要者」「相手方」「旅行者」「保険契約者等」

2.消費者契約法の人的適用範囲をめぐる実務上の問題意識
(1)問題意識(i):個人事業者への不当勧誘行為等を消費者契約法で救済することは可能か。
 ★1:契約の主目的が事業外の場合 例:生活と仕事の双方に使用する電話機
 ★2:個人ビジネス勧誘型 例:マルチ商法、内職商法
 ★3:事業目的に直接関連しない取引 例:変電器、消火器
 ★4:事業目的内の取引の不当勧誘 例:ホームページリース
(2)問題意識(ii):団体・法人への不当勧誘行為等を消費者契約法で救済することは可能か。
 ★5:営利活動をしていない団体 例:PTA、マンション管理組合
 ★6:事業目的に直接関連しない取引 例:変電器、消火器
 ★7:事業目的内の取引の不当勧誘 例:ホームページリース
(3)アプローチの違い
(ア)上記「1(2)~(4)」の消費者保護法
 規制対象の行為・主体に着目+保護対象が個人に限定されていない。
(イ)消費者契約法
 規制対象の行為類型は非限定・主体は事業者一般+保護対象が「消費者(個人事業者を除く個人)」に限定されている。

3.弁護士会の試みと課題
 2012年消費者契約法日弁連改正試案(日弁連)
 ※ 人的適用範囲に関する「消費者」「事業者」という現行消費者契約法の基本的な枠組みは維持したうえで、適用範囲の修正を試みるもの。
 ※「『消費者』を保護対象とする法律」で事業者を保護しようとする点への批判も有り。

(2)消費者契約法の物的適用範囲

<報告の骨子>

 本報告では、主に物的適用範囲という観点から消費者契約法の適用範囲をどのように画定するのかについて、消費者契約法以外の民事特別法との関係に着目して整理を行うことを目的としている。もっとも、消費者契約法以外の民事特別法は多数の法律に散在しており(山田茂樹氏作成の資料参照)、本報告では、借地借家法と割賦販売法・特定商取引法を取り上げ、消費者契約法の適用範囲について検討する際の視点を提供することをねらいとしている。
 上記(1)の報告では、特別に保護されている人的範囲の再整理という点から消費者契約法の適用範囲について考察が加えられることになるが、物的適用範囲について、消費者契約法・民法・消費者契約法以外の民事特別法との関係をどのように分析するのかがまずは問題となる。本報告では、民事の法律関係を主体・客体・行為という3つの要素からなる関係と整理した上で、「客体」「行為」という観点から消費者契約法の適用範囲について検討を加えることにしたい。
 消費者契約と「行為」という観点からみるということは、契約上の履行のプロセスという観点から観察することを意味するが、現行の消費者契約法は、(i)労働契約については適用がない(消費者契約法48条)が、それ以外の契約については適用になること、(ii)契約の締結過程を問題として消費者取消権を付与するとともに 、契約内容について消費者の利益を一方的に害する条項について契約を無効としているにとどまること、(iii)客体という観点から見た場合に何ら制限が加えてられていないこと、以上の特色がある。
 消費者契約を契約上の債務の履行過程という観点からみた場合、消費者契約法では、履行過程の一部についてしか特別な規律がなされていないことになり、したがって、消費者契約法の物的適用範囲を画定しているのは、主に(ii)の点ということになる。
 すでに先日の報告で消費者売買という観点からどのよう規律が必要となるのかについて考察を加えられているかが、消費者契約においては、契約関係の終了・解消という観点からの規律が重要であるにもかかわらず、不当条項となるような場合を除き、消費者契約以外の民事特別法に委ねられていることになる。
 (ii)の点については、消費者契約法とその他の民事特別法の適用範囲についての解釈問題となる。消費者契約法11条は、消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し及び消費者契約の条項の効力について民法及び商法以外の他の法律に別段の定めがあるときは、その定めるところによる規定しているところから、消費者契約法以外の民事特別法が優先することになる。消費者契約法以外の民事特別法の適用範囲は、その法律の目的との関係で決定されることになるから、消費者と事業者間の取引以外にも適用になる場合がある。したがって、上記(ii)の範囲に該当する規律が、その制度趣旨との関係で、消費者契約の場合に特別な規律を与えているのか検討する必要がある。当該法律の趣旨が、消費者契約法と同様の目的をねらいとしているときには、規律相互間の調整が必要になる。


(3)ヨーロッパにおける消費者概念の動向

<報告の骨子>

 本報告では、EU法の消費者概念と各国の消費者概念の状況について、EU指令を基軸としながら整理することにしたい。というのは、EU法における基本的な方向性を確認し、「市場法」としてのEU消費者法における消費者概念と各国国内法の消費者概念を対比し、その偏差を明らかにすることで、消費者概念の意義を探ることができるように思われるからである。


(4)消費者・事業者概念

<報告の骨子>

  • (i) 消費者・事業者概念は、「人」の固定的・絶対的な属性ではなく、取引の性質・目的との関連で現れる流動的・相対的な属性であるとの理解は維持されるべきである。しかし、事業者は「人」のうち消費者でないものをいうとの理解については、検討の余地があるのではないか。概念の画定・判断基準を検討するにあたっては、消費者の要保護性と法的介入の正当化根拠を中心に構成する。
  • (ii) 消費者法関連諸法との関係では、各法で考慮されている要保護性とその法的介入の正当化根拠は異なっていることから、「消費者」概念の相対性の承認、概念の弾力化、ないし中間概念の創設も視野に入れて検討してはどうか。
  • (iii) 消費者概念については、事業者概念・事業概念の再検討と合わせて引き続き検討する。
  • (iv) 事業者概念については、学説における問題提起にとどまらず従来の理解を揺るがす下級審裁判例もみられるようになっていることに加え、比較法的にも異例な立法であることも考慮に入れながら、検討するものとしてはどうか。

<主なディスカッション>

  • 現行消費者契約法で「団体」であれば一律事業者とされる点については見直しが必要である。「団体」の中でも消費者としての保護を当てることが必要な場面はあるのではないだろうか。
    「事業者」「消費者」概念を見直すことで消費者法を一定の事業者へ拡張して適用する方向性を模索するとしても、拡張が必要となる場面については、不当条項規制や約款規制の場面、契約締結過程の場面など、更に考察が必要である。また、不当条項規制や約款規制の場面を念頭に置くとしても、消費者約款と事業者約款では介入のレベルや根拠が異なるということを考慮に入れるべきではないだろうか。
  • 民法改正の動向との関係が問題となる。民法において事業者間取引を含めた不当条項規制に関する一般条項が入るかどうか等によって、消費者契約法でどのように対処するかも影響を受けるのではないか。
  • この点について、例えばフランスでは判例が「事業活動と直接の関連性」基準によって消費法典の規定を一定の事業者に適用する可能性を抽象的には認めているが、実際に適用が認められた判例はほとんど存在しない。その背景には、消費法典の規定はあくまで消費者保護のための規定であり、事業者の保護や事業者間取引は民法典で規制をすべきであるという考え方が存在する。この考え方を参考にすると、一定の事業者への拡張は消費者契約法ではなく民法典に対処すべきという方向性も導かれる。
    現在の民法改正の中間試案でいえば、当事者の情報量・交渉力の格差に配慮すべきという一般規定(第26-4)が今後実現するかといった点も含めて、民法による保護が可能となるかどうかを見据えて消費者契約法がどのように対処するか検討する必要がある。
  • 比較法的見地からみれば、DCFRのように当該契約における当事者が事業者にあたるのか消費者にあたるのかを個別に判断するという方向性が1つの考え方としてありうる。
  • 消費者契約法の適用範囲の拡張に当たっては、中小零細事業者のみならず、投資家である個人なども念頭に置く必要がある。
    その際に、消費者概念の解釈や定義を拡張するという方向で足りるのか。しかし、そうは言っても消費者概念や定義の操作で一定の事業者・投資家への拡張を行うことには限界もあるのではないか。

以上