第12回 消費者契約法に関する調査作業チーム会合 議事要旨

日時

2012年12月3日(月)17:45~20:15

場所

消費者委員会大会議室1

出席者

 河上正二消費者委員会委員長、山口広消費者委員会委員長代理、
 大澤彩准教授、沖野眞已教授、鹿野菜穂子教授、北村純子弁護士、千葉恵美子教授、
 中田邦博教授、平尾嘉晃弁護士、丸山絵美子教授、山本健司弁護士
 消費者庁消費者制度課 加納克利企画官
 【事務局】 原早苗事務局長、浅田英克参事官、山田茂樹委嘱調査員(司法書士)、戸上真語政策調査員

議題

 不当条項リストの補完における論点整理

議事要旨

(1)消費者契約法における不当条項リストの見直しについて

 1) 不当条項リストの法形式

  • 該当すれば不当条項であるとみなされる「ブラック・リスト」と、不当条項であると推定される(当事者が不当性を阻却する事由を主張立証することによって不当性が覆る)「グレイ・リスト」を設ける必要がある。
  • ブラック・リスト、グレイ・リスト以外に例えば業種毎のリストなどを政令レベルで設けることも検討に値する。
  • 10条の一般基準をどのような基準にするのかにも関わる問題であるが、不当性の基準をどのように定めるかは、リスト化に当たっても考慮が必要である。

 2) 不当条項リストに掲げられる条項の種類の候補

  • いかなる条項がそれぞれのリストに該当するかについては、これまでの裁判例や学説、諸外国の立法例を踏まえた上で検討する。
 (ア) 事業者の責任を不相当に軽くする条項
  • 事業者の債務不履行・不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
  • 事業者の債務不履行・不法行為(その者の故意又は重大な過失によるものに限る)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
  • 瑕疵担保責任の全部又は一部を免除する条項
  • 事業者の被用者又は代理人による責任を免除ないし制限する条項
  (イ) 事業者に一方的な権限を与える条項
  • 事業者に契約内容・条項の一方的な変更権限を与える条項
  • 事業者に契約内容・条項の一方的な決定権限を与える条項
  • 契約文言の排他的解釈権限を事業者に認める条項
  • 事業者は、正当な理由なしに自己の債務の履行をしないことができるとする条項
  • 事業者が第三者と入れ替わることを許す条項
 (ウ) 消費者の権利を不相当に制限する条項・消費者の義務を加重する条項
  • 消費者の同時履行の抗弁権(又は留置権)を排除又は制限する条項
  • 消費者の有する相殺権限を奪う条項
  • 消費者の権利行使に対価を設ける条項
  • 消費者に過重な又は不相当に長期にわたる物品又は役務を購入させる条項
  • 消費者に与えられた期限の利益を相当な理由なしに剥奪する条項
 (エ) 契約の解除・解約に関する条項
  • 消費者の解除権・解約を制限する条項
  • 事業者に不相当な解除権・解約権を付与する条項
  • 事業者の解除・解約要件を緩和する条項
 (オ) 消費者にとって過大な損害賠償額の予定(違約罰)を定める条項
  • 消費者の債務不履行について過大な損害賠償額を定める条項
  • 消費者の解除の場合に過大な損害賠償額を定める条項
  • 対価の不返還を定める条項
 (カ) 意思表示に関する条項
  • 一定の作為又は不作為に表示としての意味を持たせる条項
  • 消費者にとって重要な事業者の意思表示が、仮に消費者に到達しなかった場合においても消費者に到達したものとみなす条項
  • 消費者の意思表示の方式その他の要件について、不相当に厳しい制限を加える条項
 (キ) 紛争解決に関する条項
  • 消費者に不利な専属的合意管轄を定めた条項
  • 事業者の証明責任を軽減又は消費者の証明責任を加重する条項/li>
  • 紛争解決に当たっては、事業者の選定した仲裁人による仲裁によるものとする旨の条項

 3) 不当条項リストの文言のあり方について

  • 条項の「実質」との関係で、例えば、条項の「実質」を重視すると、対価不返還条項は消費者契約法9条1号の「賠償額の予定条項」と見ることができるが、対価と構成することによって規制を免れるという弊害も生じている。あらゆる条項をもれなく列挙することは難しいが、形式的に区別できるものをもれなくリスト化することが望ましいのではないか。

 4) 各論:リスト化にあたって特に検討を要する条項

  • 現行消費者契約法8条関係では、とりわけ、人身損害の場合の免責条項、事業者の軽過失による場合の責任制限条項、責任制限条項と債務免除条項の区別について留意する必要がある。
  • 現行消費者契約法9条関係では、「平均的な損害」基準を維持するか、それ以外の「損害」概念を用いるかが問題となる。

(2)損害賠償の予定・違約金条項、清算条項の規制について

  • 消費者契約の解約に伴い、損害賠償の予定又は違約金を定める条項への規制について、基本スタンスは、現行法と同じく、消費者の債務不履行に基づく解約も含め、解約に伴う損害賠償額の予定・違約金条項を規制対象とした上で、以下4点の方針に従って、条文案を作成する。
    1. 当該事業者に生ずる「平均的な損害」を超える部分を無効とする。
    2. 平均値の算出方法を明示する
    3. 「平均的な損害」の立証責任を事業者側に転換する。
    4. 解除に伴う損害につき、履行利益は含めず、信頼利益に限定する。
  • 消費者の事由(消費者の債務不履行、自己都合)によらない事由(消費者の支配領域外の事由)での解約、途中終了の場合に、消費者に損害を負担させる条項は無効とする。
  • 解約を伴わない、消費者の債務不履行(義務違反)に対する損害賠償額の予定・違約金条項への規制として、レンタルの追加料金や賃料相当損害金の2倍条項等金銭債務不履行以外のものがある。また、金銭債務不履行については、現行法9条2項を維持としつつ、現行法の14.6%は、民法の法定利率の2倍以上利率であり、高すぎるともいえ、数値については金利情勢の実情を勘案し検討の余地がある。
  • 消費者の債務不履行によらない場合の、対価不返還条項として、(消費者契約が終了した場合に、)当該消費者契約の給付の目的物である商品、権利、役務の対価に相当する額(既履行給付の対価)を上回る金員を、理由なくして消費者に請求することができる(ないし不返還とできる)とする条項を無効とする。
  • 特約の性質決定に関するルール(解釈準則)として、不明確条項に関しては、消費者の合理的意思を重視する解釈準則を創設する。(ないしは、消費者契約の条項が不明確であるため、その条項につき複数の解釈が可能である場合は、消費者にとって最も有利に解釈しなければならないという準則を創設。)

(3)インターネット取引における消費者契約の現状~規約の成立要件と有効要件(不当条項)~

  • インターネット取引におけるWeb上での規約の表示については、規約の開示場所、規約の開示方法、といった点が、消費者にとって、その認識可能性が十分に担保されないまま契約締結に至る一要因となっているのではないか。
  • インターネット取引に関する条項については、取引の非対面性ゆえか、取引の相手方をID・パスワード等で区別せざるを得ないという特徴から、これらの管理につき消費者の義務を過重する条項、意思表示擬制条項、契約適合性判定権条項、契約内容変更条項が少なからずみられる。
  • 対価保持条項が役務提供契約において少なからずみられる。
  • 特にID・パスワードの管理責任及び第三者による不正利用の場合における責任条項については、ID・パスワードが無体物であり、管理にも限界があることからすれば、かかる規定は消費者契約法10 条により無効となる余地が大きいのではないか。

その他、ディスカッションは以下のとおり。

【条項の解釈準則について】
  • 条項の性質決定の解釈準則化が必要。
  • 更新料条項のように、条項の性質の決め方によって、不当性の判断基準が異なってくるものがある。不当条項審査の前段階で、性質の解釈準則を定めておくことは重要。
  • 中心条項と一口に言っても、実は、条項の性質の解釈の仕方次第のところがある。解釈準則を適切に定め機能させることにより隠された対価条項を排除することが可能となる。
【対価関連条項について】
  • 不透明で隠されているものについては、そもそも私的自治が機能していないのであり、自らが決定したという正当化根拠が成り立たない。
  • こうした条項は対価関連であっても不当条項の規制対象に含めるべきである。
  • ただし、リストの形にするのか、解釈準則の中で解消していくのか、ミニ一般条項で対応するのか、あるいは組み合わせで行くのか、さらなる検討が必要である。

(以上)