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) 租税と社会保険料
社会保障制度は、国民に生涯健やかで安心できる生活を保障するため、国民の生活の安定が損なわれた場合に生活を支える給付を行うものです。生活上の不安を取り除くための方策は、自助、共助、公助と区分することができますが、社会保障制度は、年金・医療といった共助を中心とする分野と生活保護などの公助の分野とを含んでいます。
社会保障給付は、多かれ少なかれ、租税によっても賄われています。公助については基本的には租税で賄われ、共助については社会保険料を基本としつつ制度の安定的運営を確保する観点から租税も組み合わされています。これらの財源によって給付を行うことにより、社会保障制度は所得再分配を行っています。
租税と社会保険料とは、法律に基づいて国民に負担を求めるものであるという点において共通の性格を有していることから、両者を合わせた負担の水準が国民負担率と捉えられています。このため、税制を検討する際には、社会保険料の負担をも勘案することが必要であり、臨時行政調査会・臨時行政改革推進審議会以来、国民負担率を一つの政策的な目安としてきているのもこのためです。一方、後ほど述べるとおり、社会保険料は、国民生活の安定を損なうリスクに対して、自立した個人が社会連帯の精神を基礎として支え合うもので、給付を受けるために納付が求められるなど、給付と負担が強く関連付けられている点で、租税とは異なる性格を有しています。
高齢化の進展に伴い、引き続き年金・医療・介護といった社会保障給付は大幅な増大が見込まれます。
このことを踏まえ、社会保障の給付の水準やこれに見合う負担の水準についてどのような選択を行っていくのか、社会保障の財源として社会保険料と租税の組合せについてどのような選択を行っていくのか、といった点について国民的な議論が必要となります。これらは、社会保障制度のあり方そのものの問題ですが、今後の税制のあり方に大きく関わる論点の一つでもあります。 |
| (注 |
)厚生省が平成9年9月に行った推計においては、社会保障制度を現行制度のままとした場合には、年金・医療・介護に係る給付の増大から、2025年(平成37年)の社会保険料と租税を合わせた国民負担率は50%ないし56%(社会保障以外に係る国民負担率については不変との前提の下での試算。なお、財政赤字分は考慮されていません。)となるとされています。 |
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基礎年金等の全額税方式化をめぐる議論
年金制度においては、少子・高齢化の進展に対応し将来にわたり安定的で効率的な制度とするため累次にわたり保険料の引上げや給付の抑制が行われてきています。このような中で、制度に対する不安感や保険料の負担感が高まっているのではないか、実質的に賦課方式に近くなっており、現役世代から高齢者への所得移転が生じていることから、世代間で給付と負担の関係が不公平になっているのではないか、国民年金の未納・未加入が多くなっているのは問題ではないか、といった指摘があります。こうしたことを背景として、例えば基礎年金の財源として、保険料に代えて全額税を充ててはどうかとの議論(税方式化論)があります。
社会保険方式か税方式かという議論については、単に財源をどう調達するかという問題ではなく、社会保障の理念や給付の性格も含めた社会保障制度の基本設計をどうするかという制度の根幹に関わる問題であり、次のような点についてどう考えるか、ということを含めて議論が行われなければなりません。
社会保険制度は、「保険」という言葉が示すとおり、基本的には、加齢に伴う稼得能力の減退や疾病といった国民に共通するリスクに対し、各自があらかじめ保険料を負担しておき、実際に老齢になったり病気になったりした時に給付を行うことによって、そのリスクの分散を図る仕組みです。したがって、予防的性格が強く、自立した個人の自己責任を基礎とし、その社会連帯、相互扶助によって支え合うという考え方に適う制度です。このような仕組みにおいては、給付は保険料負担の見返りという位置付けとなりますので、税だけを財源にする場合と比べて、給付と負担の関係が明確で、給付における国民の権利性が明らかな仕組みといえます。また、このことを通じて、コスト意識に基づく制度改革インセンティブも期待できます。 |
| (注 |
)現行の年金制度は、積立方式の要素を持ちつつも実質的に賦課方式に近くなっていることや、基礎年金の給付費の3分の1が国庫負担となっていることから、各人の保険料負担額と給付額との間には差があります。しかしながら、税だけを財源とする場合と異なり、負担が大きいほど給付も大きい、本来負担すべき保険料を負担しない人は給付を受けることができない、といった点で給付と負担が関連付けられており、社会保険方式としての特徴を備えています。国民年金の未納・未加入問題を議論する際には、こうした点を十分踏まえる必要があります。もちろん社会保険方式において未納・未加入を放置しておくことは適当でなく、その防止に向けた取組みを徹底することが求められます。 |
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これに対し、税だけを財源とする場合には、各自の負担と無関係に給付が行われることから、結果としての救済の性格が強くなり、社会保障給付の性格は現行の「共助」から「公助」に変わることとなります。その場合には、給付の要件として負担の有無が問われませんので、負担能力の乏しい人も含め必要性に応じたより確実な保障を行い得るのではないかという指摘もあります。一方、一般財源による場合には、生活保障という政策目的に照らした給付の必要性が問われることや他の歳出分野との優先度の問題が生じることから、税方式を採用しているカナダなどに見られるように、所得が少ないなど一定の要件に該当する人々のみを給付対象とする制度となるものと考えられます。
社会保険方式か税方式かという問題は、上記のように、個人の自立を基本とする社会における自己責任のあり方についてどう考えるかといった問題でもあります。また、消費税を財源とする場合には現在事業主が負担している社会保険料が個人の租税負担に置き替わることになることをどう考えるか、社会保険料を廃止する分の税負担増のあり方をどうするのかなどの論点を含め幅広い観点から、国民的な議論が行われる必要があります。 |
| (注 |
)平成12年3月に成立した年金改正法においては、基礎年金について、「平成16年までの間に、安定した財源を確保し、国庫負担の割合の2分の1への引上げを図るものとする」旨の附則が設けられています。基礎年金の国庫負担割合の引上げは、相当規模の財源(平成12年度において約2.3兆円)を要することから、安定した財源確保のための具体的な方法と一体として幅広い国民的な議論の中で検討する必要があります。 |
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(参 |
考)消費税と社会保障
先に述べたとおり、消費税の福祉目的化によって、消費税収(国分)の使途は基礎年金、老人医療及び介護とされていますが、消費税収(国分)ではこれらの経費の国庫負担分を賄いきれていません。
税方式化論に関して、消費税を「福祉目的税化」し、その収入によって基礎年金等の社会保障給付を賄うべきとの議論があります。この点については、「第二 三 消費課税」で詳述しますが、消費税の「福祉目的税化」については、目的税化は財政の硬直化を招くおそれがあること、諸外国においても消費税等を目的税としている例は見当たらないことなどの問題点が指摘されています。
仮に基礎年金、老人医療及び介護に係る給付の全額を消費税収によって賄う場合、先に述べた厚生省が平成9年9月に行った推計などを基に機械的に計算すれば、現行の消費税収(国分)に加えて消費税の税率引上げ分はすべてこれらの給付のみに充当したとしても、国・地方を合わせた消費税率は、平成12年度(2000年度)ベースで約13%、平成37年度(2025年度)ベースで約28%まで引き上げる必要があると試算されます。
また、この税率引上げ分についても現行の地方交付税制度(国の消費税収の29.5%を配分)が適用されると仮定した場合には、国・地方を合わせた消費税率は、平成12年度ベースで約16%、平成37年度ベースで約37%まで引き上げる必要があると試算されます。さらに、現行の地方消費税制度(国の消費税額の100分の25が地方消費税額)も適用されると仮定した場合には、その分国・地方合わせた消費税率は高くなります。
なお、追加的な消費税負担が社会保障給付に与え得る影響(年金額の物価スライド等)や国・地方の歳出に含まれる消費税負担の増加などを勘案した場合、必要な税率の引上げ幅は更に大きくなることに留意する必要があります。 |
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) 社会保障給付と控除をめぐる議論
一定の政策目的のために、社会保障給付による方法と個人所得課税の控除により税負担を調整する方法との関係を検討する必要があるのではないかとの指摘があります。
これに関連して、少子化対策の観点から、個人所得課税の児童に係る扶養控除を児童手当に代替させてはどうかという考え方があります。
児童手当のあり方については、少子化対策としての効果や保育サービスなどの他の施策との関係、費用負担のあり方、さらに、給付費規模に見合う具体的な財源確保の方策などについてそれぞれ考える必要があります。
他方、児童に係る扶養控除の部分のみを縮減する場合には、扶養親族の人数等の世帯構成に応じた税負担能力の調整機能を損なう、あるいは、他の基礎的な人的控除とのバランスを失するといった個人所得課税の基本に関わる問題があります。 |