税制調査会 内閣府
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諮問・答申・報告書等

第一 基本的考え方

一 租税の意義と役割

.公的サービスと租税

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) 公的サービスと政府の役割
 日々の生活に必要な様々な財やサービスが消費されています。この中には市場メカニズムに委ねておいては十分に提供されないものがあり、それらは政府が「公的サービス」として提供しています。外交、防衛や警察、消防、司法などは、誰もがその負担の有無にかかわらず便益を受け、ある人が便益を受けても他の人の便益を妨げないという性格から、市場からは全く提供されない可能性があります。また、生活や産業を支える基盤となる水道や道路などの社会資本、次代を担う人材を育成するための教育、安心できる生活を確保するための社会保障などは、市場のみに委ねた場合には必ずしも必要な量や水準が確保されないおそれがあります。
 生命・財産を守り平和で安全な暮らしを確保するために、外交、防衛や警察、消防、司法といった公的サービスは、なくてはならないものです。これらは、およそ国というものが形成されるようになって以来その基本的な役割とされてきました。また、水道、道路といった社会資本は、便利で快適な生活を送ったり、産業を発展させ経済的に豊かな社会を築いたりしていくために、また、自然環境を守ったり災害を防いだりするために、重要な役割を果たすものです。さらに、教育によって子供たちが社会生活に必要な能力を取得していくこと、社会保障によって、貧しい人を社会全体で支えたり、病気、障害、老齢などに伴う生活上の不安を取り除いたりすることなどを通じて、より安定した社会を築いていくことが可能となります。
 以上のように、公的サービスは、家計や企業の働きを補完し、広く社会の構成員全体の利益に適う役割を果たしており、私たち国民は、日々、様々な公的サービスの便益を享受しています。公的サービスは、社会を形成し、その社会を安全で安心できるものとし、経済活動などを通じて豊かなものとしていく上で欠かすことのできないものです。
(注 )政府がどの範囲の公的サービスをどの程度提供するかは、最終的に国民が選択する問題です。政府の役割を、外交、防衛や警察、司法などに限定すべきという考え方(いわゆる「夜警国家論」)もありますが、現代では、その範囲は、国民の生命・財産を守ることに始まり、社会資本の整備、教育、社会保障、産業政策など、幅広い分野にわたっています。
(2 ) 租税の基本的な機能
 公的サービスは、このように国や社会を成り立たせるために欠かすことのできないものですが、その提供には費用がかかりそれを賄う財源が必要となります。様々な公的サービスの中には個々人が受ける便益が明確なものがあり、そのような場合には手数料や保険料といった形で費用を賄うことになります。しかし、公的サービスは、基本的には社会の構成員が広く便益を受けるものですから、個々人にとっての受益と負担とを直接結び付けることができない性格のものです。このため、公的サービスの費用は、価格を付けその対価を調達できないことから、直接の反対給付を伴わない租税という形で賄うことになります。
 このように、租税の基本的な機能は公的サービスの財源を調達することにあります。租税は、社会を成り立たせるためになくてはならないものですから、民主主義社会では、社会の構成員である国民が自ら負担しなければなりません。また、公的サービスによる便益は社会の構成員が広く享受するものであることからも、租税は皆で広く公平に分かち合うことが必要です。このようなことから、租税は「社会共通の費用を賄うための会費」ということができます。
(注 )租税の最も基本的な機能は以上のような公的サービスの財源調達機能ですが、経済社会との関連では、税制は所得再分配機能を担っているほか、経済自動安定化機能も有しています。
1) 所得再分配機能
 市場による所得や資産の分配は、遺産や先天的能力など個人の努力以外の要因による格差が存在することなどから、社会的に見て望ましいものになるとは限りません。税制は、個人所得課税や相続税の累進構造などを通じ、社会保障給付などの歳出とあいまって、所得や資産の再分配を図る機能を担っています。
2) 経済自動安定化機能
 個人所得課税や法人課税は、好況期には名目経済成長率の伸び以上に税収が増加して総需要を抑制する方向に作用し、不況期には逆に税収の伸びが鈍化して総需要を刺激する方向に作用することで、制度改正などを伴わず自動的に景気を安定化する役割(ビルトイン・スタビライザー機能)を果たしています。


.租税と民主主義

(1

) 歴史的に民主主義が確立していく過程で、国民一人一人が社会や国の運営に参加する権利と義務を有するようになってきたことに伴い、社会共通の費用を賄う租税は国民一人一人が広く公平に分担する必要があるという考え方が浸透してきました。
 租税については、 公的サービスの財源としてどの程度のものが必要か、それを具体的に誰が、どのように分担するか、というルール(税制)が必要です。民主主義の下では、このルールは最終的には国民の意思によって決定されます。租税を納めることは自らの受益と直接関係なく金銭等を拠出するものですから、あらかじめ定められた手続に基づいて国民の合意の下にルールが決められなければなりません。一方、国民皆がルールに基づいた納税を行わなければ、必要な税収は集まらず、また、不公平が生じますので、ルールに強制力を付すことによって実効性を持たせる必要があります。(これが国家の課税権と言われるものです。)
 このようなことから、日本国憲法では、納税を国民の義務とし、また、租税法律主義を明記しています。
 今日のわが国税制の礎を築いたシャウプ勧告(昭和24年9月)は、このような憲法の趣旨にも則り、個人所得課税を税体系の中心と位置付けつつ、申告納税制度を柱とした近代的で安定的な税制を提言したものでした。租税法律主義は、国民が経済社会の中でいつどの程度の租税を負担することになるのかについての予見可能性を保障し、また、法律が変更されない限り負担は変わらないという法的安定性を保障する役割も担っています。
(注 1)日本国憲法の規定
・第30条 国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。
・第84条 あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。
(注 2)シャウプ勧告
 シャウプ勧告は、連合国軍最高司令官の要請により昭和24年5月10日に来日したカール・シャウプ博士を中心とする使節団により作成され、同年9月15日に日本税制の全面的改革案として発表されたものです。この包括的な税制改革提案は、昭和24、25年の税制改革においてその勧告内容の多くが実現され、現在までの日本の税制に大きな影響を与えています。
(2 ) 議会制民主主義の下では、税制は主権者である国民の意思を反映して議会で決められます。具体的には、国権の最高機関であり国民の代表で組織される国会で法律として議決されなければなりません。実際に国会の場で審議するのは国民の代表者ですが、私たち国民は代表者を選出することを通じてその議論に参加するほか、様々な場で議論に参加していくことが必要です。
 租税は、公的サービスと表裏一体であり、国民が自ら拠出するものです。また、後に述べるように、税制は、経済社会と相互に深く関係しています。このようなことから、私たち一人一人が、国民として、納税者として、かつ有権者として、税制について考え、議論に参加することが求められることとなります。
(3 ) 現代の民主主義国家においては、20世紀後半における経済の発展や社会保障の充実などに伴い、国民全体が豊かになり、国民一人一人の経済力もより大きなものとなってきました。また、公的サービスも多様な分野で提供され国民がより幅広く享受するようになってきています。したがって、現代国家においては、公的サービスを賄う租税を国民皆が広く公平に分かち合うことが、それ以前の時代に比べて格段に重要なものと考えられます。
 ともすれば、人は自らには多くの公的サービスを求めつつ、租税の負担はなるべく少なくしたいと考えがちですが、一定の公的サービスを賄う場合には、自らの租税の負担軽減は他の人々への負担の増加を意味することを忘れてはなりません。
 また、民主主義の下では、公的サービスの充実については合意しやすいものの公的サービスを賄うための個々人の負担を定める税制についての合意は得にくいという指摘があることに留意する必要があります。公的サービスの財源の多くを公債に頼ると、それにより公的サービスの提供に必要な費用が本来の水準より低いものであるとの錯覚が生じ、将来世代にその負担を安易に先送りし続けることとなりかねません。
 私たち現世代は、公的サービスや租税のあり方を選択することにより、同時に将来世代の受益と負担に関することも少なからず決めてしまっている面があることから、現在投票権を行使できない将来世代に負担を先送りする選択を行っていないかということに常に留意しなければなりません。私たち国民は、社会の構成員として税制についての議論に参加していきますが、その際には、将来世代のことも併せ考えておくことが必要です。
(4 ) 租税のあり方を考えることは、社会の構成員であることを自覚し、公的サービスのあり方、社会や国のあり方を考えることや、今日に至る民主主義の歴史を顧みることにもつながります。21世紀の日本を担う子供たちにも、できるだけ早い時期から、租税について考える機会を持ってもらうことが重要です。
 現在、学校教育の中で租税教育が行われていますが、租税の知識を学ぶだけでなく、外国の例に見られるように、租税の意義・役割などを身近な問題として受け止め、租税を通じて日常の社会生活を考えるようにしていくことが大切であると考えます。今後、学校教育の中で租税教育がより重視され、子供たちが、租税を通じて公的サービスのあり方、社会や国のあり方を考える機会が充実されていくことを強く期待したいと思います。

(参

考)租税と民主主義の歴史
 かつて国の主権が国王などの統治者にあった時代、統治者によって恣意的に租税が課されることがありました。1215年イギリスにおける大憲章「マグナ=カルタ」において、「一切の楯金(軍役内納金)もしくは援助金は、朕の王国の一般評議会によるのでなければ、朕の王国においてはこれを課さない。」という条項が挙げられたことは、そのような歴史を転換するきっかけの一つでした。
 近代になり、常備軍と行政組織を有するようになった国家が自国の富を増やす活動のために課税を行い、他方で、課税される資本家(国民)が自由な企業活動を求めるようになり、国の政治への参画を求める議会制民主主義への要求へとつながっていきました。
 イギリスにおいて、権利請願(1628年)、権利章典(1689年)を経て、租税を含む国家による金銭の徴収一切は国民の代表で組織する議会で法律として決められることとなりました。
 アメリカ独立(1776年)の際にも、「代表なきところに課税なし」として、国民がその代表者を議会に送り、国の政治に参加できなければ、租税を払う必要はないと唱えられました。
 フランスの人権宣言(1789年)においては、「武力を維持するため、及び行政の諸費用のため、共同の租税は不可欠である。それはすべての市民の間でその能力に応じて平等に配分されなければならない。」、「すべての市民は、自身でまたはその代表者により公の租税の必要性を確認し、これを自由に承諾し、その使途を追及し、かつその分担額・基礎・徴収及び存続期間を規定する権利を有する。」として、およそ民主主義国家にあっては、国家の維持及び活動に必要な経費は、主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきものであり、国民がその総意を反映する租税立法に基づいて納税の義務を負うことが定められました。
 このように、租税のあり方は、歴史的にも議会制民主主義の発展と深く結び付いてきました。わが国においてもこのような歴史の流れを経て明治憲法に租税法律主義が明記され、現在の憲法の規定へとつながっています。


.公的サービスと国民負担

(1

) 租税の十分性
 租税の量はどのようにして決まってくるのでしょうか。私たち国民が必要とする公的サービスを求めることと租税でその費用を賄うこととは、国民全体として受益と負担という表裏一体の関係にあります。
 公的サービスの提供を求める場合、それに対応する租税の負担を受け入れる必要があり、それができないのであれば、公的サービスの享受をあきらめなければなりません。このように、公的サービスは租税などで賄われる財源の範囲内で供給されることとなります。言い換えれば、租税は、公的サービスを賄うのに十分な量であることが求められます。
 公的サービスは、市場における競争を経ないことから、ともすれば無駄な供給や過大な供給が行われかねないことに注意が必要です。租税の十分性を考える場合、公的サービスの供給が最も効率的なものとなっているかどうかについて常に点検が必要であることを忘れてはなりません。
(2 ) 政府の大きさと国民負担
 現代においては公的サービスの中でも社会保障給付が重要な位置を占め、その費用は社会保険料でも賄われています。このため、租税負担にこのような社会保険料による負担(社会保障負担)を加えた全体の負担(国民負担)と、社会保障給付を含めた公的サービスとの関係を考えておかなければなりません(国民負担については「四 2.財政の現状と課題」で、社会保険料については「四 3.税と社会保障」で詳述します。)。
 国民負担の大きさも、公的サービスの大きさに一致することが基本です。一方、租税や社会保険料は基本的には個人や企業の経済活動の中から分担していくものですから、過度に大きな負担は国民にとって自分の判断で自由に使える所得を小さくし、ひいては社会全体の活力を損なうおそれがあります。
 このような国民負担を伴ってもなお必要な公的サービスの大きさとはどの程度のものなのでしょうか。「大きな政府か、小さな政府か」、「高福祉・高負担か、低福祉・低負担か」ということが言われます。これは、最終的には私たち国民がどのような公的サービスの水準とそれに対応する国民負担の水準を選択するかにかかっています。その際、公的サービスが最も効率的に提供されていることが前提であることは言うまでもありません。


.税制と経済社会との関わり

(1

) 一般に、社会は様々な年齢・職業にある人々や企業等の営みから成り立っています。その中で「社会共通の費用を賄うための会費」として、必要な租税を、誰が、どのように分担していくべきなのでしょうか。その方法を決めているものが税制です。私たち国民は、個々の税制をどのような仕組みとするのか、税制全体としてどのような税体系を構築していくのか、といったことを具体的に決めていかなければなりません。その際、様々な社会の構成員がいる中で、どのような税制が公平なのかという観点が特に重要です。租税は個々人が公的サービスから受ける便益と量的には直接結び付かないものであるだけに、すべての人が完全に満足するような税制というものは現実には見出しがたいのかもしれません。しかし、その中においても、私たちは、民主的手続を通じて、国民全体として最も納得のいく税制を選択していかなければなりません。
(2 ) 経済活動は、個人や企業等により行われ、その内容も様々なものがあります。例えば個々人は、働くことや事業を営むことなどにより所得を得て、所得や資産の取崩しによって財やサービスを消費し、所得のうち消費しなかった部分を貯蓄あるいは投資するなどの経済活動を行っています。租税は、これらの経済活動の循環の中で様々な局面において課されています。
(3 ) 租税は、公的サービスに必要な費用を基本的には個人や企業が経済活動の中から分担していくものですから、税制が経済社会に何らかの影響を与えることは避けられません。しかし、その場合でも、税制は、公的サービスの財源調達機能を十分に果たした上で、社会の活力や経済の発展の妨げとならず、個人や企業の自由な経済活動にできるだけ影響を与えないものであることが望まれます。このようなことから、税制は制度として安定していることが求められると同時に、経済社会に大きな構造変化が生じる場合には、それに対応して見直していくことが必要となります。
 以上のように、税制と経済社会とは相互に深く関わりますので、税制のあり方について検討を行う場合には双方の調和を保つという観点が重要です。
(4 ) 税制は国の様々な制度の中でも根幹的なものであり、個人や企業が経済活動を行う上で主要な「インフラ」とも言うべきものです。個人や企業は、自らの行動を計画する際、その時点の税制をも前提として織り込みます。したがって、先に述べたように税制の安定性が大切であるとともに、皆に理解しやすい仕組みとしていくことも重要です。

[続きがあります]

 

 
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