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.租税と民主主義 |
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歴史的に民主主義が確立していく過程で、国民一人一人が社会や国の運営に参加する権利と義務を有するようになってきたことに伴い、社会共通の費用を賄う租税は国民一人一人が広く公平に分担する必要があるという考え方が浸透してきました。
租税については、
公的サービスの財源としてどの程度のものが必要か、それを具体的に誰が、どのように分担するか、というルール(税制)が必要です。民主主義の下では、このルールは最終的には国民の意思によって決定されます。租税を納めることは自らの受益と直接関係なく金銭等を拠出するものですから、あらかじめ定められた手続に基づいて国民の合意の下にルールが決められなければなりません。一方、国民皆がルールに基づいた納税を行わなければ、必要な税収は集まらず、また、不公平が生じますので、ルールに強制力を付すことによって実効性を持たせる必要があります。(これが国家の課税権と言われるものです。)
このようなことから、日本国憲法では、納税を国民の義務とし、また、租税法律主義を明記しています。
今日のわが国税制の礎を築いたシャウプ勧告(昭和24年9月)は、このような憲法の趣旨にも則り、個人所得課税を税体系の中心と位置付けつつ、申告納税制度を柱とした近代的で安定的な税制を提言したものでした。租税法律主義は、国民が経済社会の中でいつどの程度の租税を負担することになるのかについての予見可能性を保障し、また、法律が変更されない限り負担は変わらないという法的安定性を保障する役割も担っています。 |
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1)日本国憲法の規定 |
| ・第30条 |
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国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。 |
| ・第84条 |
あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。 |
| (注 |
2)シャウプ勧告
シャウプ勧告は、連合国軍最高司令官の要請により昭和24年5月10日に来日したカール・シャウプ博士を中心とする使節団により作成され、同年9月15日に日本税制の全面的改革案として発表されたものです。この包括的な税制改革提案は、昭和24、25年の税制改革においてその勧告内容の多くが実現され、現在までの日本の税制に大きな影響を与えています。 |
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議会制民主主義の下では、税制は主権者である国民の意思を反映して議会で決められます。具体的には、国権の最高機関であり国民の代表で組織される国会で法律として議決されなければなりません。実際に国会の場で審議するのは国民の代表者ですが、私たち国民は代表者を選出することを通じてその議論に参加するほか、様々な場で議論に参加していくことが必要です。
租税は、公的サービスと表裏一体であり、国民が自ら拠出するものです。また、後に述べるように、税制は、経済社会と相互に深く関係しています。このようなことから、私たち一人一人が、国民として、納税者として、かつ有権者として、税制について考え、議論に参加することが求められることとなります。 |
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) 現代の民主主義国家においては、20世紀後半における経済の発展や社会保障の充実などに伴い、国民全体が豊かになり、国民一人一人の経済力もより大きなものとなってきました。また、公的サービスも多様な分野で提供され国民がより幅広く享受するようになってきています。したがって、現代国家においては、公的サービスを賄う租税を国民皆が広く公平に分かち合うことが、それ以前の時代に比べて格段に重要なものと考えられます。
ともすれば、人は自らには多くの公的サービスを求めつつ、租税の負担はなるべく少なくしたいと考えがちですが、一定の公的サービスを賄う場合には、自らの租税の負担軽減は他の人々への負担の増加を意味することを忘れてはなりません。
また、民主主義の下では、公的サービスの充実については合意しやすいものの公的サービスを賄うための個々人の負担を定める税制についての合意は得にくいという指摘があることに留意する必要があります。公的サービスの財源の多くを公債に頼ると、それにより公的サービスの提供に必要な費用が本来の水準より低いものであるとの錯覚が生じ、将来世代にその負担を安易に先送りし続けることとなりかねません。
私たち現世代は、公的サービスや租税のあり方を選択することにより、同時に将来世代の受益と負担に関することも少なからず決めてしまっている面があることから、現在投票権を行使できない将来世代に負担を先送りする選択を行っていないかということに常に留意しなければなりません。私たち国民は、社会の構成員として税制についての議論に参加していきますが、その際には、将来世代のことも併せ考えておくことが必要です。 |
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租税のあり方を考えることは、社会の構成員であることを自覚し、公的サービスのあり方、社会や国のあり方を考えることや、今日に至る民主主義の歴史を顧みることにもつながります。21世紀の日本を担う子供たちにも、できるだけ早い時期から、租税について考える機会を持ってもらうことが重要です。
現在、学校教育の中で租税教育が行われていますが、租税の知識を学ぶだけでなく、外国の例に見られるように、租税の意義・役割などを身近な問題として受け止め、租税を通じて日常の社会生活を考えるようにしていくことが大切であると考えます。今後、学校教育の中で租税教育がより重視され、子供たちが、租税を通じて公的サービスのあり方、社会や国のあり方を考える機会が充実されていくことを強く期待したいと思います。 |
(参 |
考)租税と民主主義の歴史
かつて国の主権が国王などの統治者にあった時代、統治者によって恣意的に租税が課されることがありました。1215年イギリスにおける大憲章「マグナ=カルタ」において、「一切の楯金(軍役内納金)もしくは援助金は、朕の王国の一般評議会によるのでなければ、朕の王国においてはこれを課さない。」という条項が挙げられたことは、そのような歴史を転換するきっかけの一つでした。
近代になり、常備軍と行政組織を有するようになった国家が自国の富を増やす活動のために課税を行い、他方で、課税される資本家(国民)が自由な企業活動を求めるようになり、国の政治への参画を求める議会制民主主義への要求へとつながっていきました。
イギリスにおいて、権利請願(1628年)、権利章典(1689年)を経て、租税を含む国家による金銭の徴収一切は国民の代表で組織する議会で法律として決められることとなりました。
アメリカ独立(1776年)の際にも、「代表なきところに課税なし」として、国民がその代表者を議会に送り、国の政治に参加できなければ、租税を払う必要はないと唱えられました。
フランスの人権宣言(1789年)においては、「武力を維持するため、及び行政の諸費用のため、共同の租税は不可欠である。それはすべての市民の間でその能力に応じて平等に配分されなければならない。」、「すべての市民は、自身でまたはその代表者により公の租税の必要性を確認し、これを自由に承諾し、その使途を追及し、かつその分担額・基礎・徴収及び存続期間を規定する権利を有する。」として、およそ民主主義国家にあっては、国家の維持及び活動に必要な経費は、主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきものであり、国民がその総意を反映する租税立法に基づいて納税の義務を負うことが定められました。
このように、租税のあり方は、歴史的にも議会制民主主義の発展と深く結び付いてきました。わが国においてもこのような歴史の流れを経て明治憲法に租税法律主義が明記され、現在の憲法の規定へとつながっています。 |
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