イ 最高税率の引下げ
最高税率については、所得税37%、個人住民税13%、国税・地方税あわせて50%に引き下げられ、税率の刻みの数は、所得税は10%、20%、30%、37%の4段階(現行10%、20%、30%、40%、50%の5段階)、個人住民税は5%、10%、13%の3段階(現行5%、10%、15%の3段階)となりました。これにより、勤労意欲、事業意欲の維持・向上の観点、個人所得課税と法人課税の税率バランス等の観点から、累次の答申で指摘されていた最高税率の引下げという所得税制の抜本的改革の一部が実現したこととなります。最高税率の引下げは、本来、諸控除等課税ベースや資産性所得課税の見直し、納税者番号制度の検討などの抜本的改革の一環として実施すべきものと考えますが、現在の景気状況を考えれば、課税ベースの見直しなどは今後の課題と位置づけられます。
ロ 定率減税
平成10年(度)の特別減税では、昨秋以降の景気の急速な悪化を踏まえできるだけ早期に減税の効果を発揮させるため、1年限りの方式として定額方式が採用されました。
この減税方式は、結果的に低所得者層に手厚い減税となりますが、平成10年(度)の課税最低限(夫婦子2人、子のうち1人は16~22歳の給与所得者の場合)は、所得税でみると特別減税前361万円が491万円に、個人住民税では特別減税前303万円が427万円にまで上昇し、納税者が大幅に減少することとなりました。また、減税額が所得の多寡と無関係に世帯人員等によって決まるという点で所得税制にふさわしくない減税方式になっているとの意見がありました。
社会の構成員でそれぞれの経済力に応じて広く公平に負担しあう所得税の基幹税としてのあり方や、地域社会の費用を住民がその能力に応じて広く負担を分任するという住民税の性格に照らせば、個人所得課税の納税者が大幅に減るような形での減税は基本的に望ましくありません。
仮に、あらゆる所得階層において平成10年(度)よりも11年(度)において税負担が増加しないようにするためには、定額方式の減税を継続するほかありませんが、平成11年(度)以降の減税は、恒久的なものであり、本年(度)のようないびつな姿を恒久化させないようにする観点から、その継続は適当ではありません。
また、税率構造は、諸控除等の課税ベースや課税方式と相まって、課税の基本構造を構成していることから、個人所得課税のあり方を考える場合、課税ベース等の見直しを行わない今回の恒久的な減税において、税率構造だけを切り離して見直しを行うことは適当ではありません。
これに対し、定率方式の減税は、あらゆる所得階層に対して滑らかな税負担軽減とすることができ、納税者間の税負担のバランスを崩さない等の長所を有しています。したがって、今回の減税を将来の抜本的改革への“架け橋”としていく観点から、以上のような長所を有する定率方式を採ることが適当です。
また、定率方式を採ることにより、特別減税前の課税最低限の水準(平成11年(度):所得税361万円、個人住民税306万円)を維持することが可能となります。さらに、定率方式の控除額に頭打ちを設け、控除率をある程度大きくすることにより、中堅所得者層に配慮した形の減税が可能となります。
なお、定率方式を採ることにより、平成11年(度)の減税額が10年(度)よりも減少する所得階層が生じることとなりますが、1年限りで打ち切られる、文字通り「特別」な減税と、「恒久的」に効果が持続する減税とを単純に比較することは適当ではありません。また、わが国の個人所得課税は、高い課税最低限と低い最低税率により、諸外国に比べて低中所得者の負担が相当低いものとなっていることに留意すべきです。
| (参考) |
抜本改革等による個人所得課税の負担軽減 |
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負担割合(夫婦子2人の給与所得者の例) |
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昭和62年9月改正前 8.6%(平均給与528万円、税額45.2万円) |
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恒久的な減税後 5.4%(平均給与705万円、税額38.3万円) |
(4) 法人課税
平成11年度の税制改正においては、法人税の基本税率を30%に、法人事業税の基本税率を9.6%にそれぞれ引き下げることにより、法人課税の実効税率は40.87%に引き下げられることとなりました。この結果、この2年間で、法人税の基本税率が7.5%ポイント、法人事業税の基本税率が2.4%ポイントそれぞれ大幅に引き下げられることにより、法人課税の実効税率は10%ポイント近く引き下げられることとなります。
このように、法人課税の税率を国際的な水準に引き下げることは、わが国企業が国際競争力を十分発揮できるようにするという観点から評価すべきものと考えます。なお、こうした実効税率の引下げは、構造改革の一環として、将来の企業活動の活性化を図る観点からも評価できるのではないか、また、景気の状況が非常に厳しい中で、法人課税の税率引下げは企業の内部留保の確保につながり、ひいては設備投資が促進される効果も期待されるとの意見がありました。
これに対し、そもそも法人課税の税率水準は国際的に区々であり、国際的水準は必ずしも一義的には言えないのではないか、法人課税は平成10年度に税率の引下げを行ったばかりであり、更なる引下げはその効果を見極めた上で考えるべきではないか、法人課税の税率引下げを行っても設備投資や配当に回るとは限らず、景気対策としてはその効果は限定的ではないかなどの意見がありました。
なお、法人課税の基本税率の引下げに関連して、景気対策の観点から、中小法人、協同組合等に対する軽減税率等についても引き下げる必要があるのではないかという意見があります。これらの軽減税率は、政策的観点から設けられているものであり、これまでの当調査会の累次の答申にもあるとおり、その税率水準については、基本税率との格差を縮小するという基本的な方向に沿って検討していくことが適当と考えます。また、法人事業税の基本税率の引下げの議論と関連して、個人事業税についても負担の軽減を図るべきではないかとの強い意見がありました。
2 住宅・土地税制
(1) |
従来より、住宅取得に関連した租税特別措置の一つとして、住宅ローン残高の一定割合を所得税額から控除する住宅取得促進税制があります。
平成11年度税制改正の審議においては、波及効果の大きい住宅建設を促進するため、税制上の措置を拡充すべきであるとの意見が多く出されました。
その具体的方式として、長期間にわたり住宅ローン利子を所得から控除する制度を導入すれば、より良質の持ち家を取得できる比較的余裕のある所得層に対しメリットがあること等から、効果が大きいのではないかとの強い意見が出されました。
この所得控除の方式は、多くの所得を稼得し、より高額のローンを組んで住宅を取得した者ほど大きな負担軽減が受けられることや、二次取得者の買換えを促すことが期待できるという点で評価すべきであるとの意見がありました。また、今後はこれまでのように年々賃金が着実に上昇するという事態が期待できない中では、負担軽減の方式として所得控除方式がより適しているとも考えられるとの意見がありました。
しかし、この制度については、各個人の選択に委ねられている所得の処分を所得課税の課税ベースから除くものであるため、課税ベースの浸食につながりかねず、所得税制の根幹に関わる問題があります。また、帰属家賃(持ち家を所有することにより家賃を払わなくてすむことによる利益)が課税されないこととのバランスがとれないこと、高額所得者に有利であり、最高税率の引下げに加えて住宅ローン利子の所得控除の適用による更なる負担軽減を受けられるようになること、景気対策の観点から臨時的に導入するとしても、たまたまこの時期に住宅を取得した者だけがローン返済の全期間にわたり特別措置の適用を受けること、節税策として利用され得ること、アメリカを含む先進諸国でも縮小の方向にあることなどから税制上難点があります。
以上のとおり、住宅ローン利子の所得控除方式については、導入すべきとの強い意見が出される一方、異論も多く出されました。
なお、現行住宅取得促進税制を拡充すべきとの意見の中には、そもそもこの制度は個人の資産形成に対する異例の税制上の措置であり、住宅建設に対して歳出も含めれば1兆円にも及ぶ公費を投入していることを考慮すると、基本的には適正化の方向で検討すべきであるが、景気対策の観点から、住宅税制の拡充を行わざるを得ないのであれば、難点の多い住宅ローン利子の所得控除方式によるのではなく、現行税制の拡充による方が適当であるとの意見がありました。
また、住宅取得は個人のライフサイクルの中で選択される面があり、税制面の措置による効果をどう考えるかといった指摘もあります。住宅税制の拡充に当たっても、将来のあるべき税制を見据え、その方向に背馳しないようなものとすることが必要です。
以上を総合的に勘案すれば、住宅税制の拡充を行う場合には、景気対策の観点、更には良質な住宅取得にも資するとの観点から、臨時的に現行住宅取得促進税制を大幅に拡充することで対処していくことが適当と考えられます。 |
(2)
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長期にわたる地価下落を背景に、資産デフレがバブル崩壊の清算や不良債権問題の解決を長引かせ、わが国経済の低迷を深刻化させているとの指摘があります。こうした認識の下、土地税制はこれまで累次の緩和により既にバブル以前の水準になっていますが、更に一層の緩和をすべきではないかとの意見があります。
具体的には、不動産流動化の観点から、不動産関連の流通税の負担を軽減してはどうかとの指摘もありました。一方で、流通税は、簡素で所得課税等を補完する税として一定の評価をすべきであり、幅広く、軽度の負担を求めるものであることを考えると、不動産取引についてのみ軽々に負担軽減を行うことは適当ではないとの意見もありました。
また、土地譲渡益課税についても、更なる緩和を求める意見もありましたが、既に平成10年度税制改正において広範な緩和措置が講じられていることに留意する必要があります。今後は、所得・消費・資産等の間で均衡のとれた税体系の確立、及び土地基本法の基本理念(土地の公共性など)を踏まえた総合的な土地政策の推進という現行土地税制の基本的考え方を含め、各種特別控除等によって狭くなっている課税ベースのあり方等、幅広い観点から抜本的な検討が必要であるとの意見もあります。 |
(3)
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いずれにしても、住宅建設の促進、不動産流動化など、政策税制について検討を行うに当たっては、税制の枠組みを崩すことにならないか、政策目的が合理的か、手段として妥当かなどについて十分吟味する必要があります。 |
(4)
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なお、固定資産税については、平成9年度より、負担水準の均衡化を図るための措置が講じられています。平成12年度以降の税負担については、同年度の評価替えの動向及び負担水準の状況や市町村財政の状況等を踏まえた上、更に負担の均衡化・適正化を進める措置を講ずることとされており、今後、平成12年度の評価替えに向けて、具体的な措置の検討を進める必要があります。
さらに、固定資産税に対する納税者の関心が高くなっており、固定資産評価審査委員会に対する審査の申出制度についての見直し等に取り組むことが必要です。 |
3 金融関係税制
(1) 円の国際化と非居住者の受け取る国債の利子等に対する源泉徴収制度
| イ |
経済のグローバル化と金融の自由化に適切に対応するため、金融関係税制については、昨年の金融課税小委員会で検討が行われ、所要の措置が講じられてきました。
昨年秋のアジア通貨危機や来年1月のユーロ導入との関連で、円の国際化を促進すべきではないかという強い意見があります。このため、非居住者にリスク・フリーかつ流動性の高い円資産(国債)を提供し、その運用・保有の一層の促進を図る必要性が高まっています。このような観点から税制面においては、国債について利子等に係る非居住者に対する源泉徴収制度のあり方を検討すべきではないかとの指摘があります。 |
ロ |
非居住者に対する源泉徴収制度のあり方は、国家間の課税権に関わる問題ですが、居住者と非居住者との間の税負担の公平をどう考えるか、租税回避防止のための適正課税の担保が図られるかなどの観点から幅広い検討を行っていく必要があります。
主要国では、外資導入促進の観点から、非居住者の受け取る国債の利子等の源泉徴収が免除されています。それらの国の国債流通システムは、わが国と異なり、ブックエントリー・システム(振替決済制度)に一本化され、これを前提として、本人確認及び資料情報の収集が効率的かつ的確に行われる仕組みになっており、適正な課税が確保されています。他方、わが国の国債流通市場においては、主要国と異なり、ブックエントリー・システムに一本化されておらず、無記名の現物債が発行・流通し、また、登録債の流通過程においては、必ずしも国債の権利の移転と登録名義の移転との一致が保証される制度とはなっていないことから、適切な本人確認及び資料情報の収集を確実に行うことが困難です。
大量、頻繁に発生する利子等に対し適正・公平に課税を行うには、実効性ある所得把握体制が必要となります。源泉徴収制度は効率的で簡素な仕組みであり、わが国の利子等への課税の基本となっているほか、多くの諸外国でも採用されています。アメリカでも納税者番号を申告しない場合には、源泉徴収によって課税を担保しています。さらに、金融市場のグローバル化を背景に、OECDやEUにおける議論でも、源泉徴収、または本人確認に基づく情報収集・交換の少なくともいずれかを採用することがグローバル・スタンダードとされています。 |
ハ |
したがって、わが国において国債の利子等に係る非居住者に対する源泉徴収を免除する場合には、適正・公平な課税の観点から、グローバル・スタンダードに沿ったブックエントリー・システムを前提に、本人確認・調書制度に基づく情報収集・交換といった、代替的な適正課税の担保措置が併せて講じられることが不可欠です。 |
(2) 有価証券取引税・取引所税及び株式キャピタルゲイン課税等
当調査会は、平成10年度税制改正に際し、金融課税小委員会における検討を踏まえ、有価証券取引税及び取引所税の負担軽減を行うことが適当であるとの考え方を示すとともに、将来仮に「取引課税を廃止する場合には、株式等譲渡益課税について申告分離課税一本化といった適正化を行う必要がある」旨答申したところであり、金融システム改革の進展状況、市場の動向等を見極めた上で、適切な取扱いを検討することが適当です。
また、長期低迷する株式市場の状況を踏まえ、有価証券取引税等の早期廃止を求めるとともに、株式キャピタルゲイン課税の適正化の実施時期や具体的な方法について慎重な判断を求める意見がありました。
なお、個人住民税が非課税となっている株式等譲渡益などについては、課税の適正化について、利子割方式も参考にしながら引き続き検討する必要があります。
これらの課題のほか、累次の答申において指摘されてきた生損保控除、課税繰延べ、非課税貯蓄制度などについて引き続き適正化に向けた取組みが必要です。
4 租税特別措置等
(1) |
租税特別措置・非課税等特別措置については、累次の答申で指摘してきたように、特定の政策目的を実現するための政策手段であって、税負担の公平・中立・簡素という税制の基本理念の例外であることから、その時々の経済社会情勢を踏まえた整理・合理化を進める必要があります。
特に、今回は、法人課税の実効税率が大幅に引き下げられることも踏まえながら、租税特別措置等については、課税の適正化の観点から、政策目的が合理的か、政策手段として妥当か、利用の実態が低調となっていたり、一部の者に偏っていないかなどの点について十分吟味を行い、引き続き整理・合理化を行うことが適当です。 |
(2)
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また、事業税における社会保険診療報酬に係る課税の特例措置についても、税負担の公平を図る観点から、引き続きその見直しを検討することが必要です。 |
(3)
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軽油引取税については、地方税法上の軽油を大量に輸入し、申告のないまま、国内で大規模かつ広域に流通させる事案が発生していますが、輸入軽油等について都道府県による早期の事実把握が困難な現状を踏まえ、軽油の輸入等に係る課税の適正化を図る観点から、関係機関等との連携により輸入実績等を把握するための仕組みを構築するほか、無申告者に対する罰則を強化するなど所要の措置を講ずることが必要です。 |
(4)
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また、個人住民税においては、特に低所得者層の税負担について配慮を加えるため、所得割や均等割の非課税限度額の制度が設けられていますが、最近における国民生活水準の動向等との関連を踏まえて、所得割の非課税限度額を引き上げることが適当です。 |
5 利子税等
税の延納等の際に課される利子税及び滞納等の際に課される延滞税については、現在の金利の状況を勘案すれば、その割合を見直すべきではないかとの意見がありました。利子税及び延滞税は、期限内に納付した納税者との間の負担の公平の確保、滞納防止等の観点から設けられており、特に年14.6%の割合の延滞税は、納税に対する誠意が見られない滞納者に強く納付を促すために設けられたものです。加えて、納税者が自ら計算して納付するものであることを併せ考えれば、制度の安定性や明確性について十分な配慮が必要です。したがって、その負担水準の見直しは、基本的には今後の金利水準の動向を見極めた上で、より長期的かつ広範な観点から判断すべきです。しかし、過去に例を見ない超低金利の現状を勘案すれば、暫定的な措置として、利子税や年7.3%の割合の延滞税については、還付加算金との均衡を図りつつ、一定の負担軽減を図ることが望ましいと考えます。
あわせて、地方税における延滞金等についても、同様の措置を講ずることが望ましいと考えます。
6 その他
当面の景気対策、とりわけ消費促進策として、一定期間、消費税の税率引下げ又は凍結を行うことを検討してはどうかとの主張があります。
当調査会としては、わが国社会において少子・高齢化が急速に進展する中で、勤労世代に偏らずより多くの人々が社会を支えていくことができるような税体系を構築する観点から、所得課税を税制の中心に据えつつも消費課税のウェイトを高めるための努力をしてきました。今後、更に少子・高齢化が進展する21世紀を展望するとき、消費税の役割はますます重要なものになっていくものと考えられます。たとえ一時的にせよ、消費税率の引下げ等を行うことは、今後の税制のあるべき姿に背馳することとなるため、採り得ないものと考えます。
また、将来の少子・高齢化への対応に関連し、消費税の使途を福祉目的に限定してはどうかとの考え方があります。
これに対しては、社会保障給付のあり方についての国民的な議論を経ないままに、その財源調達の方法のみを論ずることは適切でないとの意見、歳入の大きな柱の一つである消費税収の使途を特定することは資源の適正な配分を歪めるおそれがあるとの意見、社会保障と消費税との間に受益と負担の密接な対応関係は見出し難いのではないかとの意見、地方消費税を含め消費税収の4割強は地方公共団体の一般財源とされていることを考えるべきである等の意見がありました。
他方、消費税が国民の福祉の充実に資するといった趣旨が何らかの形で明確にされれば、消費税に対する国民の理解を深める上で有益であるとの意見、消費税の使途について議論することは重要であるが、今後の消費税を含む税体系全体の見直しの中で検討すべき問題ではないか等の意見がありました。
いずれにせよ、この問題は、消費税の基本的な性格に関わるものであり、諸外国における社会保障に係る財源の考え方をも参考にしつつ、社会保障制度のあり方を含め、種々の観点から慎重に検討していくべきものと考えます。