諮問・答申・報告書等
四 金融関係税制の適正な執行の確保
1 執行の現状と税制
今般の金融システム改革によって、情報・通信技術の発展に伴う金融のグローバル
化が進み、新たな金融商品が展開される中で、資料情報制度の整備を始めとする金融
関係税制の適正な執行の確保が重要である。税制とその執行とは相互にフィードバッ
クする関係にあり、税制の構築に当たっては、それが適正に運営されるよう、事務負
担・費用をも勘案し、できるだけ簡素で実効性ある制度とすることが強く要請される。
(1) 我が国の申告納税制度においては、源泉徴収制度や法定調書の提出制度が適正申
告の担保として機能している。大量性、多様性、「足の速さ」といった特徴を持つ
金融所得に関しては、特にこの機能が有効に働いていると評価される。今後、新商
品の出現や海外商品の利用が進む中では、現在いずれの制度の対象ともなっていな
い金融商品についても、必要に応じ、これら制度の対象の拡大により対応すること
が求められる。
特に、源泉徴収制度は膨大な取引情報の提出・名寄せ等金融所得把握のための大
掛かりな仕組みを要せず実質的な税負担の公平を確保できる方法であり、納税者番
号制度を有するアメリカ、カナダ等を除く多くの国々で採用されている。金融市場
のグローバル化を背景として、OECDの議論においても、各国における利子への
課税方式には、源泉徴収を重視する方法と、情報交換を重視する方法とそれぞれに
得失があり、少なくともいずれかの方式で適切な課税を図っていくべきであるとさ
れている。
なお、公社債利子に関する源泉徴収について、非居住者の取扱いを含めた流通市
場への影響が指摘されているが、納税者番号制度をめぐる議論を視野に入れつつ、
流通市場の制度の在り方、取引把握の負担や実効性等を踏まえた幅広い検討が必要
である。
(2) 新しい金融取引であるデリバティブ取引については、課税の繰延べの問題は時価
主義の採用によりある程度対応できるとしても、その実態把握の困難性、非居住者
課税を含めた所得分類の変更や源泉地変更による国際課税上の問題が指摘されてい
る。
さらに、デリバティブ取引のみならず証券化、仕組み債、投資信託の多様化、電
子マネー・電子商取引等の新しい金融取引が展開される中で、適正な課税が困難に
なることが予想される。
(3) このような現状に対しては、後述の納税者番号制度の導入のほか、資料情報制度
の整備、質問検査権の強化、立証責任の転換、さらには租税回避否認規定の制定な
どを行う必要があるとの意見がある。
(4) また、執行の問題の税制へのフィードバックとして、所得課税の枠内での方策で
は限界があり、これを補完する税制が必要であるとして、特に取引があれば外形的
に課税できる流通税の重要性を指摘し、その観点から現行の有価証券取引税、取引
所税を評価する意見もあった。
(5) なお、金融関係税制については、従来より、金融資本取引の特徴から、納税者等
の事務負担の軽減にも配慮し、現行の税務執行の制度の下で、簡素な税制が要請さ
れてきた。(参考2)
今後、仮に納税者番号制度の導入など税務執行の制度が整備されることを前提に
すれば、所得税制として採り得る選択肢はかなり広がるものと考えられるが、取引
形態の多様化、複雑化の中で、簡素な税制への要請は引き続き念頭に置いておく必
要があろう。
2 改正外為法に対する税制面での緊急の対応
来年4月から施行される改正外為法は、一連の金融システム改革に先行して、国境
を越える資金移動を抜本的に自由化することを内容とするものであり、これにより、
内外の資金移動が飛躍的に自由化、活発化されることが予想される。
税制面では、これに対応し、租税回避行為の把握や防止に資するため、「国外送金
等に係る資料情報制度」と「民間国外債の利子非課税措置に係る本人確認制度」を緊
急に整備する必要があると判断した。
(1) 「国外送金等に係る資料情報制度」の整備
我が国の金融関係税制においては、利子や金融類似商品に対し、源泉分離課税が
行われており、これらの金融所得に関し、金融機関から税務当局に対する支払調書
が提出されていないため、税務当局は、預貯金口座の所在等に関する資料情報をほ
とんど有しない状況となっている。
これまでも外為管理は徐々に自由化され、内外の資本交流が活発化してきたが、
依然として、為銀制度や、資本取引における許可制等により国境を資金が越える段
階で送金内容等について一定のチェックが行われていたことから、外為管理のいわ
ば反射的効果として、クロスボーダーの資金移動をめぐる租税回避行為に対する牽
制効果と把握の端緒となり得ることが期待されていた。
今回、外為取引の抜本的自由化により、クロスボーダー取引をめぐる租税回避行
為が横行するような事態となるならば、税制に対する国民の信頼を損うとともに、
金融システム改革への国民の信頼をも失うこととなりかねない。このため、既に外
為管理を撤廃した先進諸外国の経験をも学びながら、我が国の外為取引の実態を踏
まえ、一定のルールの下で透明性・公正性、すなわち、フェアの観点から、税制と
して、適切な措置を講ずることが必要であると判断した。
具体的には、諸外国の状況や外為実務を踏まえ、改正外為法に対応して適正な課
税の確保に資する最低限の措置として、一定金額を超える国外送金等について銀行
等から税務当局に対し情報資料を提出すること等を内容とする制度を緊急に整備す
ることが適当であるということで概ね合意が得られた。
(2) 「民間国外債の利子非課税措置に係る本人確認制度」の整備
我が国の税制上、非居住者・ 外国法人が内国法人の発行する債券の利子を受け取
る場合には、国内源泉所得として課税することを原則としている。しかしながら、
企業の資金調達手段の多様化を図る等の観点から、特例として、国外で発行された
債券(民間国外債)の利子については非課税とする措置が従来より設けられている。
改正外為法に伴い、資金が自由に国境を越えて移動することが可能になるが、そ
の結果、居住者・内国法人が直接国外で民間国外債の利子を受け取ることにより、
この特例が濫用され、市場や税制における公平の観点が損われることのないよう、
利子の受領者が非居住者等であることを確認する制度を新たに整備する必要がある。
米国等の先進諸外国においても、ユーロ債利子は非居住者に対しては非課税とし
ているが、居住者に対しては当然課税としており、一定の本人確認手続きや罰則等
による適正課税の担保措置を講じている。
本人確認制度の具体的な仕組みを検討するに当たっては、内国法人の民間国外債
の発行に支障が生じないよう、市場の慣行に十分配意する必要があるとされた。
(3) 政府においては、当小委員会のこのような議論を踏まえ、「国外送金等に係る資
料情報制度」に関しては、 200万円を超える国外送金及び国外からの送金等の受領
について銀行等から税務当局に対し、調書を提出すること等を内容とする法案を、
また、「民間国外債の利子非課税措置に係る本人確認制度」に関しては、利子受領
者の非居住者性の確認を利子の支払取扱者による利子受領者情報の通知を基に行う
こと等を内容とする法案をとりまとめた。
これらの法案は、第 141回臨時国会において可決・成立したが、現行の金融取引
実務や市場慣行の下で、適正課税の担保に不可欠な措置を講じたものである。これ
からのクロスボーダーの資金移動の推移、外為取引形態の多様化、外為実務の担い
手の拡大・多様化等新たな事態の下で、今後、これらの二制度が適切に機能してい
るかどうかを注視し、税に対する国民の理解と信頼が損われることのないよう、必
要に応じ適切に見直していく必要があろう。
3 納税者番号制度
(1) 納税者番号制度については、税制調査会の昭和54年度答申以降、昭和63年度及び
平成4年度の2度にわたり納税者番号等検討小委員会で審議の上、報告を行う等、
これまでに鋭意検討を重ねてきている。同制度は、かつては、主として利子・株式
等譲渡益の総合課税化との関連で議論されてきたが、近年、税務行政の機械化・効
率化による課税の一層の適正化の観点から、また、納税者の所得等の把握により所
得・資産課税の適正化に資するということから、多角的な検討が進められてきた。
(2) 最近、納税者番号制度をめぐる環境には変化が見られる。高度情報化、電子化の
進展は著しく、日常生活においても各種のカードが普及し、これに伴い番号の利用
が身近なものとなっている。こうした中で、行政においても全国一連の番号の整備
が図られてきている。基礎年金番号が本年1月から実施され、これまでに付番が完
了するとともに、住民票コードについて住民基本台帳法の一部改正試案が本年6月
に公表されている。これらの番号の整備が進展するのに伴い、納税者番号として利
用し得る番号について、より具体的な検討が可能となっている。
また、金融システム改革に伴い、グローバルな資金シフトが容易となり、金融資
本取引の「足の速さ」が増していくという新たな状況変化を受けて、税負担の公平
を確保するとの観点から、資料情報制度の充実が求められている。OECDにおい
ても、海外資料情報制度や情報交換等を強化すべきであるとの方向で検討が行われ
ている。今後、こうした資料情報の増大等を踏まえると、何らかの番号を利用した
効率的な対応が求められる。
さらに、グローバル化、情報化の広がりの中で、電子商取引の進展も含む取引内
容の複雑化・広域化等に対処し、今後とも適正・公平な課税を行う必要があり、そ
のため番号を利用した迅速かつ効果的な税務行政が要請されている。
納税者番号制度に関する国民の理解については、各種番号の普及等を背景に、最
近のアンケート調査等によれば、従前に比較して理解が進んでいると見られる。
(3) このような状況変化を踏まえ、納税者番号制度について改めて検討を深めていく
べきであり、同制度の目的についても議論を展開する必要がある。税務行政の機械
化・効率化による課税の適正化に関連して、税務執行面から、資料情報の処理の現
状を踏まえ、納税者番号制度が所得把握の向上、納税者の意識向上、税務行政の効
率化の観点から、基本的に有効であると考えられる。また、納税者番号制度と言う
と直ちにすべての所得の総合課税化をイメージする向きがあるが、同制度は分離課
税あるいは源泉徴収制度と相容れないものではなく、適正・公平な課税の実現の観
点から意味がある、さらに、金融システム改革に伴う金融資本取引の自由化、グ
ローバル化の進展に対する適正・公平な課税の確保のため、何らかの番号を利用し
た資料情報制度の充実が不可欠である、との議論がなされた。これらを踏まえて、
検討を進めていく必要がある。
また、納税者番号制度を導入した場合の資金シフト等の経済取引への影響、民間
及び行政のコストと効果の比較等についても、引き続き具体的な検討を進めていく
必要がある。
さらに、プライバシー保護については、国民の理解を深めるため、問題となる局
面を整理して示すことが求められる。
納税者番号制度の是非については、国民の理解が更に深められ、より具体的で活
発な議論が行われることが重要であり、政府において、パンフレットの作成・配付
等が行われてきているが、さらに国民の理解を深めていく方策を考える必要がある。
(4) 納税者番号制度をめぐる環境は新しい局面を迎えており、税制調査会において、
国民の受け止め方を十分に把握しつつ、より具体的かつ積極的な検討を行わなけれ
ばならない時期に来ている。
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