諮問・答申・報告書等
三 金融商品に対する所得課税の在り方
今般の金融システム改革においては、フリーの原則の下、金融商品・取引に様々なイ
ノベーションが期待されており、これに対応して、各種金融商品に対する課税の在り方
を検討していく必要がある。特に、 1,200兆円に上る個人金融資産が有利に運用される
とともに、望ましい資金フローの実現を図るとの要請に応えるためにも、公平、中立、
簡素の税制の基本理念を踏まえ、金融商品間でのバランスのとれた課税を検討していく
ことが必要と考えられる。
1 総合課税と分離課税の問題
金融商品に対する所得課税については、そもそも総合課税、分離課税のいずれが適
当かとの問題が基本となる。この問題は、
[1] 納税者番号制度の導入ないし資料情報制度の充実など所得把握のための執行体制
の整備状況、
[2] 前提となる所得課税の税率の累進度との関係、具体的には、最高税率が国・地方
を含め65%である現状の下で総合課税化すれば、
・ 垂直的公平は確保される一方、同じ金融商品について税引き後収益の納税者間
の差異が生ずることによって中立性が損われないか、
・ 海外や不表現資産への資金シフトといった経済への影響が予想されるのではな
いか、
[3] 所得課税の税率構造をフラット化していけば、総合課税と分離課税との実質的な
差異は縮小するのではないか、
[4] 新たに申告が必要となる納税者の事務負担等をどう考えるか、
などの点についての判断と関係してくるものであり、十分な検討が必要となる。
当小委員会においても、垂直的公平を重視する立場や、所得種類間で同一の扱いを
行うことが望ましいとする立場から、利子、配当、株式等譲渡益に対し将来的には総
合課税化を目指すことが適当であるとの意見があった一方、水平的公平を重視する立
場や、最適課税論の立場から、むしろ分離課税を望ましい税制として評価する意見が
あった。
なお、総合課税を望ましいとする立場であっても、直ちに総合課税化することが難
しい現状の下では、現行の分離課税の枠組みの中での適正化を図ることでその要請に
応えようとする考えはあり得るところであり、例えば、株式等譲渡益の所得の性格や
保有階層等に着目し、分離課税の枠組みの中で累進性を設けるといった選択肢は十分
あり得よう。
いずれにしても、利子、配当、株式等譲渡益に対して総合課税を行うには、納税者
番号制度の導入等の執行体制の格段の整備が前提となるので、今後、納税者番号制度
の検討状況をも見ながら、金融関係税制の在り方にかかわる基本的問題として議論を
続けていくことが適当である。
2 金融商品に対する所得課税の在り方
(1) 金融商品に対する所得課税を概観するに当たり、まず、預貯金、株式といった典
型的な金融商品から発生する利子、配当、株式等譲渡益に対する具体的な課税方法
を見ると、利子については一律源泉分離課税、配当については総合課税を基本とし
つつ源泉分離選択課税制度や少額配当の申告不要制度が設けられており、株式等譲
渡益については分離課税を基本としつつ申告分離課税と源泉分離課税の選択課税方
式が採用されている。
預貯金、株式等以外の金融商品からの所得は、所得課税の基本原則に則り、一時
所得、本法上の譲渡所得、雑所得等に区分されて課税されるが、特に預貯金との競
合関係の見られる金融商品からの所得については、利子所得でない場合でも個別に
利子と同様の源泉分離課税が行われている(いわゆる金融類似商品課税)。
(2) 今後、新たな金融商品が出現してくることや、海外の多様な金融商品が利用され
ることが予想される中、このような商品個々の課税方法では所得分類をまたぐハイ
ブリッド商品やデリバティブ(金融派生商品)に対応し切れなくなるとして、むし
ろ、例えば、「金融所得」といった形で包括的な税制の扱いを考える必要があるの
ではないかという意見があった。これに対し、金融と金融以外といった形で法制的
に仕分けるのは難しいのではないか、金融商品は個々にリスクや必要経費の考え方
が異なるので一括して課税をすることは難しいのではないか等の意見もあった。
今後の金融所得課税の在り方を考える上では、総合課税か分離課税かといった問
題とあわせ、こうした問題提起も含めて検討していくべきであるが、今後どのよう
な金融商品が出てくるかを現時点で見通すことは難しく、少なくとも当面、現実的、
実務的に考えれば、租税法律主義の下で、現行制度の枠組みの中で個別商品ごとに
時機を失せず検討していくことにならざるを得ないと考えられる。
(3) 現在の利子、配当、株式等譲渡益への課税方式についての従来の税制調査会にお
ける考え方は、所得の性格や把握体制等との関係で以下のように整理することがで
きよう。
[1] 利子については、発生の大量性、その元本である金融商品の多様性・代替可能
性といった利子所得の特異性を踏まえ、課税の費用面、手続面等からの諸制約を
も考慮して一律源泉分離課税が採られている。
[2] 配当については、その基本的な性格は法人等からの事業収益の分配であり、利
子等の金融収益とも性格を異にしている面があることや、所有者の所得階層分布
もかなり異なっていること等から総合課税の考え方が採られつつ、少額の受取配
当については税負担の軽減措置が講じられており、多くの場合はこの軽課措置の
対象となっていると考えられる。
[3] 株式等譲渡益については、金融所得としての特異性はあるが、利子との比較で
考えると、所得者数等発生の量的規模も相対的に小さく、また、必要経費の概念
が認められているように、資金を調達した上で行う事業参加的な投資という事業
性のある所得という性格がある。また、預貯金よりも株式の方が高所得者層によ
り保有されており、一人当たり所得で見ても極めて多額に上る場合もある。この
ため、基本的に総合課税を目指すべきであるとしても、把握体制の現状や市場へ
の影響等を考慮し、分離課税が採られている。
こうして見ると、利子、配当、株式等譲渡益への現行の課税方式は、それぞれの
所得の性格を踏まえつつ現実の把握体制や保有階層等をも考慮すると、相応のバラ
ンスが図られており、むしろ現実的な方策と考えられる。当面、金融所得課税につ
いて現行の法制度の枠組みの下で個別商品ごとに検討していくということにならざ
るを得ない中では、利子、配当、株式等譲渡益課税についても基本的には現行の枠
組みを維持しつつ、その中で必要な適正化を行っていくことが適当である。
(4) 利子、配当、株式等譲渡益以外の金融商品から生じる所得については、現行制度
上は基本的には総合課税されることになるので、そのために必要な把握手段につい
て適切に整備することが必要である。ただし、個々の金融商品の特質から総合課税
が必ずしも適当でない場合には、所得発生の態様、性格、保有階層、把握手段等を
総合的に勘案し、既存の商品とのバランスを図りながら、適切な把握体制と組み合
わせつつ課税方式を考えていく必要がある。
その場合、例えば、現行の金融類似商品の利子並み課税の対象を拡大してはどう
かとの意見もあるが、この方策は、利子と競合する商品、源泉徴収に適する商品に
限られるほか、リストアップされる商品とされない商品とのバランスが問題となる
可能性があるので、商品個々の特性を十分勘案すべきである。また、金融商品のス
キームの法制化を待つのでは、金融商品の多様化に対応できないことも考えられ、
行政的には、アドバンス・ルーリング(税法解釈の事前照会手続き)などの手続き
により課税の明確化が必要であるとの意見もあった。
(5) 金融課税における地方税の課題として、株式等譲渡益や割引債の償還差益など個
人住民税が非課税となっているものの取扱いがあるが、地方税の課税の適正化を図
る観点から、利子割方式も参考にしながら検討する必要がある。
(6) 金融所得課税の在り方を考えると、所得課税の税率構造を始めとして税制の基本
にかかわる問題に触れざるを得ない。したがって、今後、金融所得課税を議論する
場合には、所得課税や税体系の在り方について総合的な見地からの議論が必要であ
る。
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