諮問・答申・報告書等
一 金融システム改革と金融関係税制
1 21世紀を目前に控え、我が国の金融システムは大きな変革期を迎えている。我が国
金融市場を2001年にはニューヨーク、ロンドンと並ぶ3大国際市場として再生させる
ことを目指して、金融システム改革が昨年11月に総理のイニシアティブにより開始さ
れた。
既に高齢社会に突入している我が国において、国民経済を活力あるものとして保っ
ていくためには、現在 1,200兆円にも上る個人金融資産が有利に運用されるとともに、
次世代を担う成長産業への資金供給が円滑に行われることが重要である。また、我が
国が世界に相応の貢献を果たしていくためには、海外との間でも活発な資金フローが
実現することも不可欠である。そのため、市場の透明性・信頼性を確保しつつ、大胆
な規制の撤廃・緩和を始めとする金融市場の改革を行うことにより、マーケット・メ
カニズムが最大限に活用され、資源の最適配分が実現される金融システムを構築して
いかねばならない。
国際的にも魅力ある市場は、商品、価格、業務、組織形態等の大胆な自由化を通じ、
市場原理を十分に機能させることによって生まれる。改革によって、幅広いニーズに
応える商品・サービスが多様な価格で提供され、これまでの銀行・証券・保険等の垣
根は取り払われることになる。組織形態の選択肢の拡大は、専門化・高度化した金融
サービスの提供を可能とし、競争促進と経営の効率化を通じて、利用者の利便を向上
させる。市場機能の発揮のためには公正で透明なルールが要請され、市場参加者には
市場規律と自己責任原則の徹底が求められる。かつて護送船団方式と呼ばれた行政の
態様は消えつつあり、事前的な商品・業務規制の行政からルールに基づく行政への変
革が求められる。
現在、金融・資本市場においては、競争原理の下、各金融機関の経営の在り方が問
われている。今後、金融システム改革の進展に伴い、金融機関間の競争がより一層活
発となることが予想される。金融システム改革は様々な苦痛を伴うものではあるが、
21世紀の日本経済に不可欠なものであることから、金融システムの安定に細心の注意
を払いつつ、改革を推進していく必要がある。
このような今般の金融システム改革の理念は、フリー(市場原理が働く自由な市場
に)、フェア(透明で信頼できる市場に)、グローバル(国際的で時代を先取りする
市場に)の3原則に示されている。
2 税制も以上のような金融システム改革という新しい流れの中で、時機を失すること
なく対応していかなければならない。
金融関係税制については、従来より、税制調査会において、公的サービスの財源と
しての基本的性格や公平、中立、簡素といった租税の基本的考え方に基づき、大量性、
多様性、「足の速さ」といった金融資本取引の特徴に配慮した税制の構築に努めてき
たところであるが、フリー、フェア、グローバルの三原則の下で進められる金融シス
テム改革を税制としても受け止めていくことが求められている。
(1) グローバルな資金シフトが容易となり、金融資本取引の「足の速さ」が増してい
る新たな状況変化を受けて、今後の金融関係税制の税制全体の中での位置付けを検
討していく必要がある。
(2) フリーの原則の下では、既存の法制度の枠組みにとらわれない様々な機能を持つ
商品・取引が、行政の事前的な審査を経ることなく、市場からのイノベーションと
して生じてくる。これに対応して、今後、各種金融商品に対する課税の在り方も検
討していく必要がある。
(3) フェアの原則に関しては、税負担の公平確保が税制の原則として最も基本的なも
のであることは言うまでもない。また、租税回避行為を把握、防止する方策も、整
備されるべき公正・透明なルールの重要な一部分である。金融関係税制については、
従来から、金融資本取引の特徴に配慮して、適正な執行の確保、そのための資料情
報制度の整備が重視されてきたが、グローバル化とフリーの原則の下での改革に伴
い、その重要性はいよいよ高まっている。
当小委員会は、設置後、第一弾の対応として、「国外送金等に係る資料情報制
度」や「民間国外債の利子非課税措置に係る本人確認制度」について精力的に審議
を行い、今秋、措置を講じたが、これは来年4月からの改正外為法への緊急の対応
であった。今後は、納税者番号制度を含め、適正な課税の確保のための資料情報制
度の充実について積極的に検討していくことが強く要請される。
(4) このような観点から見た金融関係税制の課題は、所得課税を中心に多岐に及ぶが、
第二弾として早急な検討が求められるのは、総合的な改革が進められている証券市
場に関する税制の分野である。すなわち、金融システム改革の中で、資本市場を市
場原理の働く効率的で活力あるものとし、個人を始めとする市場参加者のリスク管
理能力の向上を通じて、資源の最適配分を実現していくことの意義は極めて大きい。
そこでは証券税制の在り方も問われており、具体的には、有価証券取引税等につい
て、フリー、グローバルの流れに対応した金融市場活性化の観点からその在り方を
問う見解と、フェアの流れの中で所得課税を補完する簡素な税であること等を評価
する見解とがある。また、株式等譲渡益課税についてはフェアの流れの中で適正化
が求められており、これら全体について検討が必要となる。
このほか、金融持株会社、特別目的会社(SPC)、会社型投資信託などについ
て、金融システム改革の進展に伴い具体的な措置が講じられるのに合わせて、税制
面でも適切に対応していくことが求められている。
3 なお、金融関係の各審議会の報告や金融関係者からのヒアリングにおいては、「中
立的」な税制や、いわゆるグローバル・スタンダードに合致した税制を求める意見が
多く出されている。これらについての当小委員会の受け止め方は、以下のとおりであ
る。
(1) 「中立性」は租税の基本的考え方の一つであるが、論者により様々な意味で使わ
れている。税はいかなる税であれ、税引き後のリターンに何らかのマイナスの影響
を与えることはその性格上避けられないが、なるべく資産選択を歪めたり、取引を
阻害することがないような税制の在り方を追求していくことは重要である。そのよ
うな意味の「中立性」については、公平性等の要請とともに税制を検討していく場
合の基本として位置付けていく必要がある。特に、上記のようにグローバル化が新
たな状況変化として生じており、開放経済を前提として国内と国外の「中立性」も
視野に入れる必要がある。
なお、具体的に、「中立性」が問題となる局面は、リスクが異なる商品間、期間
が異なる商品間、金融機関間や個人間など様々であり、異なった性格の商品・取引
間で、形式的に同じ扱いをすることが必ずしもその趣旨にかなうわけではない。
(2) 他方、いわゆるグローバル・スタンダード論については、国際的に税制に単一の
スタンダードがあり、それに我が国も合わせなければならない、という意味の議論
であれば、当小委員会として採り得ない。(参考1)
諸外国の税制は、基本的に各国の様々な事情を反映して多様なものである。グ
ローバル化に伴い、少なくとも国際的な資金移動にかかわる税制について、一国だ
けの突出が許されなくなってきており、その意味で税制の国際的整合性について配
慮する必要はあるとしても、我が国が目指す金融システムに合った税制は、我が国
なりの事情を考慮しながら、構築していくべきものである。
4 今回の中間報告は、多岐にわたる金融関係税制の諸課題の中で、基本的な問題から
順次検討を加えつつ、特に、平成10年度税制改正において早急に検討すべき課題につ
いて、具体的方向を示すものである。
なお、現時点で問題提起にとどまらざるを得なかった部分も多いが、それらについ
ては、今回示した全体の大きな方向の中で、今後さらに検討を進めていくこととした
い。
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