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給与所得 給与所得に関しては、近年における雇用形態、就業構造の変化が重要となる。被用者は就業者の約8割を占めるに至り、かつ、正規雇用者の割合が大幅に低下する一方で、パート・派遣労働者・業務請負等の非正規雇用者の割合が急上昇するなど雇用形態の多様化も進んでいる。また、日本型雇用慣行の揺らぎとあいまって、「会社」を通じた雇用・生活保障機能が低下するなど個人にとって生活の不確実性が高まる中、自らの市場価値を高めるべく様々な自己努力を行っている給与所得者もいる。 そもそも給与所得も事業所得も、勤労を通じた経常的所得であるとの点では差異はない。こうした雇用形態の多様化等の状況も踏まえれば、雇用関係の有無だけをもって給与所得者と個人事業者を比較し、その置かれた立場の強弱を一律に論ずることは難しくなりつつある。すなわち、給与所得者であることを理由として、所得の計算にあたって特別の斟酌を行う必要性は乏しくなってきているといえよう。 そうした意味では、給与所得控除の見直しが課題となる。給与所得控除については、従来より、給与所得者にかかる「勤務費用の概算控除」のほか、被用者特有の事情に配慮した「他の所得との負担調整のための特別控除」という二つの要素を含むものとして整理がなされてきた。このように被用者特有の事情を画一的にとらえて一律の控除を行うという現行の仕組みを見直し、後述の事業所得にかかる必要経費の取扱いの見直しとあわせて、給与所得者の控除や申告のあり方についても、経費が適切に反映されるような柔軟な仕組みを構築していくべきである。つまり、より勤務の実態に即したものに変えていくとともに、職務遂行上の経費として認められる特定支出控除の対象範囲の拡大について検討する必要がある。 また、被用者が享受するいわゆるフリンジベネフィットに対しては、税負担の公平を失することのないよう、引き続き適正な課税を行っていく必要がある。 |
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退職所得 退職所得については、従来から、勤労に起因する報酬である点において給与所得の変形と考えられるものの、それが一時に支給される点や、老後の生活保障的な所得であること等を考慮し、累進性を緩和する観点から、特別な負担軽減措置が講じられてきた。 近年においては、前述の雇用形態、就業構造の変化ともあいまって、退職金を支給しない代わりに在勤中の給与を引き上げる、退職一時金に代えて退職年金を支給するといったように退職金の支給実態は多様化している。 こうした中、退職所得控除は勤続年数20年を境に1年当たりの控除額が急増する仕組みとなっており、また、勤務年数が短期間でも所得の2分の1に課税されるなど、現行制度には必ずしも合理的とは言えない面がある。特に、短期間勤務に対しても2分の1課税が適用されるという点に関しては、給与を低く抑え、高額の退職金を支払うといった操作を行うことで、事実上租税回避に使われている側面があることに留意すべきである。 こうした状況を踏まえれば、退職金については、全体として多様な就労選択に対し中立的な制度となるよう課税のあり方を見直すべきである。 制度の見直しにあたっては、多年にわたって支給されるべきものが一時に集中するとの退職所得の性格に照らして、引き続き何らかの平準化措置が必要となる。また、重要な人生設計上の期待にも関わる問題となることから、所要の経過措置も含めた適切な工夫が必要であろう。 |
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事業所得 |
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| イ |
)事業とは、自己の危険と計算において営利を目的とし対価を得て継続的に行う経済活動のことであり、そこから生じる所得が事業所得である。事業所得については、事業者が売上げ及び必要経費を適切に記帳し、適正な申告を行わねばならない。 振り返ってみれば、戦後、シャウプ勧告に従い、記帳慣行が未成熟という状況の下で申告納税制度の定着を図るために青色申告制度が導入され、その後、同制度の下で記帳水準は着実に向上してきた。また、適正・公平な課税の実現に向け、税務調査をはじめとする課税当局の努力が今日まで継続されている。 しかしながら、事業所得に係る必要経費についてみれば、その範囲が必ずしも明確ではなく、本来、必要経費に算入できない家事関連経費について混入を防止する制度的担保が存在しない。そうした中、一般の給与所得者にとって、日常生活において目にする事業所得者の行動に納得し難い思いを抱くこともあり、税負担の不公平感が醸成されている。 現在、情報技術の進展により、それほど困難を伴わず事業所得者が記帳を行い得る環境が整ってきている。事業所得について、売上げ、必要経費の記帳に基づく申告納税の趣旨の重要性を再認識する必要がある。簡素な税制を構築する狙いから、事業所得に関しては、実額での必要経費は正しい記帳に基づく場合のみ認めることとし、そうではない場合には一定の「概算控除」のみを認めるとの仕組みを導入することも考えられよう。 |
| ロ |
)また、事業所得をはじめとし、組合形態を用いるなど多様な事業形態によって所得を稼得する場合が見られるようになってきている。こうしたものに対しては、事業形態の性格や他の事業形態とのバランスを踏まえつつ、適切な課税が確保されるような対応を更に検討していく必要がある。 |
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譲渡所得 譲渡所得については、資産価値の増減を単年度毎に所得として把握することは困難であることから、実現した時点での課税を行っている。その結果、例えば長期譲渡所得については、長期間蓄積された利得が一時に実現し、かつその額が比較的大きいのが通例であるので、累進税率を緩和する観点から2分の1課税が適用されている。 譲渡所得は経常的な所得とは異なり、その実現のタイミングを選択することが可能であることから、損益通算による租税回避に用いられ易い。また、長期譲渡所得に関しては、譲渡益は2分の1課税となる一方、譲渡損はその全額を総合課税とされる他の所得から差し引くことができる点で不均衡な制度となっている。 土地、株式にかかる譲渡所得については既に分離課税とされている。その他の資産の譲渡益についても、同様の取扱いとすることを検討する必要があろう。 |
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不動産所得 不動産所得は、不動産、地上権などの不動産の上に存する権利、船舶・航空機を貸し付けることによって生じる所得である。不動産所得は、昭和22年の税制改正において、同居親族の所得の全面的な合算制度の導入とともに事業等所得に統合された。その後、シャウプ勧告に基づく昭和25年の税制改正において個人単位課税が採用された際、その例外措置として、生計を一にする夫婦と未成年の子など最小の世帯単位において、利子、配当、不動産といった資産所得を合算する制度が設けられた。現行の不動産所得は、この合算課税の対象となる資産所得の範囲を確定するために設けられたものである。しかし、合算課税制度が税制の簡素化の見地から平成元年に廃止されたその後も、独立した所得区分として存続し今日に至っている。 不動産所得の実際の計算にあたっては、不動産所得を生ずべき事業と事業以外の業務とを区分し、前者については事業所得と、後者については雑所得と同様の取扱いがなされている。 今日、このような所得の計算の実態、また所得区分の改廃にかかる経緯を見ると、独立の所得区分としての不動産所得を廃止することを検討すべきである。 |
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一時所得 他の所得区分に該当しない所得のうち、その発生が一時的・偶発的であり、対価性を有しないものについては一時所得に分類し特別な取扱いを行っている。個々の納税者にとっての主たる所得である「経常的な所得」以外の所得、という意味では一時所得は雑所得と同様であり、対価性の有無をもって雑所得とは別の所得区分を設けていることについては合理性がないと考えられる。制度の簡素化の観点をも踏まえれば、雑所得に統合することを検討すべきである。 |
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雑所得 |
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| イ |
)雑所得は、10種類の所得区分のうち、利子所得から一時所得までの他の9種類の所得区分に該当しない様々な所得を一括したものである。その内容を見ると、公的年金等に係るもの、先物や私的年金等資産運用に関連するもの、その他のもの(原稿料・講演料等)が混在する状況にある。 |
| ロ |
)このうち公的年金等については、かつて給与所得に分類されていた。しかし、給与所得と同一の事情にない公的年金に、勤務費用の概算控除等の趣旨から設けられている給与所得控除を適用することは合理的でないとの理由に基づき、昭和62年の税制改正において公的年金等控除が設けられ、所得区分も給与所得から雑所得に変更されて現在に至っている。公的年金等については、公的年金等控除の適用があり、他の雑所得とは所得計算方式が全く異なること、公的年金の受給者が増加していること、年金に係る所得が増大していることを考慮すれば、雑所得の中に留めておくことは適切ではなく、独立の所得区分を設けることを検討すべきである。なお、世代内・世代間の負担の公平を図る観点から、給与所得控除の見直しも踏まえ、公的年金等控除のあり方については引き続き見直しが必要である。 |
| ハ |
)資産運用関連の雑所得について見れば、外貨預金の為替差益は総合課税、先物取引にかかる所得や割引債の償還差益などは分離課税とされるなどその課税方式は区々となっている。しかしながら、これらを総体として見れば性格的に金融所得に類似しており、課税方式の均衡性を考慮すれば、分離課税に一本化する方向で検討を行うべきである。 |
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