| 第二 個別税目の改革 |
一 |
個人所得課税 |
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1 |
.個人所得課税の現状と課題 -基幹税としての機能の回復-
わが国の個人所得課税(国税:所得税、地方税:個人住民税)は、累次の減税の結果、主要国との比較において、税負担水準(税収の対国民所得比、個々人の税負担割合等)が極めて低く(「狭く薄い」)、基幹税として本来果たすべき財源調達や所得再分配などの機能を喪失しかねない状況にある。個人所得課税制度の検討においては、こうした「空洞化」の状況を是正し、その基幹税としての機能を回復する必要がある。同時に、少子・高齢化など経済社会の構造変化の中で、税負担に歪みが生じている面があればこれを是正するとともに、根強い「不公平感」にも対処していかなければならない。
あるべき個人所得課税制度を将来にわたり構築する過程においては、税負担の増加も課題にならざるを得ない。その場合、負担増が急激なものにならぬよう、段階的に実施していくことが考えられる。 |
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2 |
.今後の改革の方向 |
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(1) |
基本的考え方 -広く公平に負担を分かち合う- |
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[1] |
諸控除
わが国の個人所得課税の「空洞化」を示すものとして、就業者総数に占める非納税者の割合や、課税最低限の高さが指摘できる。課税最低限は一定の基本的な控除の積上げであり、その水準は納税者と非納税者を分かつメルクマールとなるだけでなく、全ての納税者の課税所得金額を左右する。課税所得は、税率とともに税負担の最も基礎となる要素であり、諸控除のあり方の見直しは、「広く公平に負担を分かち合う」との理念の下、極めて重要な課題である。今後、その見直しを行っていくに際しては、次の3点が重要な視点となろう。 |
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イ |
.所得税・個人住民税においては、婚姻、育児、老齢等の様々な生活の局面に応じ、各種の控除が措置されている。個々人の事情を斟酌し得ることは、この税目の重要な長所であるが、これまでに社会保障等の生活関連の「インフラ」整備等が進展してきたことも踏まえれば、税制としてはできる限り簡素化・集約化する方向を目指すことが適当である。 |
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ロ |
.諸控除の見直しに当たっては、男女共同参画社会の進展や雇用慣行の変化等のライフスタイルの多様化、少子・高齢化の進展といった構造変化に対し、税負担に歪みが生じないような、また、経済社会の中で行われる個々人の自由な選択に介入しないような中立的な税制とすることも重要である。 |
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ハ |
.高齢化の進展により、公的年金等控除などによる課税ベースの縮小がますます加速する。この「空洞化」を是正するためには、課税ベースを拡大する方向で諸控除のあり方を見直すことが必要である。 |
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[2] |
税率構造
税率については、その引下げや刻み数の簡素化により最低・最高税率ともに主要国に比して低い水準にある。さらに、最低税率が適用される所得金額の範囲(ブラケット)が拡大されてきた。所得税について見ると、現在、納税者(民間給与所得者)の約8割が最低税率(10%)の適用のみで済むという主要国の中でも特異な状況となっている。このように見ると、わが国の所得税制は、これまでの累進緩和(フラット化)等により、大多数の納税者に対し極めて低い水準で負担を求めるものとなっている。
個人住民税については、その負担分任の性格のため、所得税よりも緩やかな累進構造となっている。また、納税義務者の約6割が最低税率(5%)のみの適用となっている。
こうした税率構造の累進緩和は、昭和62・63年の抜本的税制改革の際、有価証券譲渡益を原則課税化するなど課税ベースを拡大するとともに、勤労意欲や事業意欲等に配慮する観点から実施され、更にその後も景気対策等の観点から減税が行われた結果である。
本来果たすべき財源調達機能や所得再分配機能の発揮の観点から考えれば、これ以上の税率の引下げは適当ではない。むしろ、現在の最低税率のブラケットの幅を縮小することが今後の選択肢として考えられる。(補論参照) |
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[3] |
恒久的な減税
平成11年度に実施され、現在も継続しているいわゆる「恒久的な減税」は、所得税・個人住民税をあわせて約4.1兆円の規模にのぼる。この「恒久的な減税」、とりわけ定率減税(約3.5兆円)は、景気回復に最大限配慮した負担軽減を主眼とした措置であるので、経済情勢を見極めつつ、廃止していく必要があろう。 |
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(2) |
諸控除の見直し |
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[1] |
家族に関する控除 |
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イ |
.人的控除の簡素化・集約化 |
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(イ) |
所得税・個人住民税においては、家族構成など個々人の生活上の事情を納税者の担税力の減殺要因とみて、様々な人的控除等を設けている。これらについては、以下の点を考慮し、(1)[1]で述べた視点から検討されるべきである。 |
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a |
制度創設時と比べ社会保障や教育等の分野において各種の「インフラ」が整備されてきている一方、個々人の生活上の事情は様々であり、税制で個別に配慮することには自ずと限界があるほか、生活が豊かになり、配慮すべき事情についての国民の価値観も多様化していること |
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b |
割増・加算措置が追加されてきた結果、本人に係る控除に比べ家族に係る控除の方が大きくなっており、また制度が複雑になっていること |
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(ロ) |
具体的には、次のような適正化措置を講じることにより、基本的には、家族に関する控除を基礎控除、配偶者控除、扶養控除に簡素化・集約化すべきと考える。 |
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a |
特定扶養控除、老人扶養控除等の様々な割増・加算措置、勤労学生控除や寡婦(夫)控除等の特別な人的控除は、廃止を含め、制度をできるかぎり簡素化すべきと考える。なお、障害者控除のように真に配慮が必要な者についての控除については引き続き存置する。 |
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b |
配偶者特別控除については、配偶者の収入の増加に応じて世帯主本人の控除額が減少する仕組みがとられていることにより、パート労働者の就労調整の原因とされる世帯の税引後手取りの逆転現象は税制上解消されている。しかしながら、配偶者控除の上乗せという仕組みであるため、配偶者については世帯主本人に二つの控除が適用されることとなり、本人や、他の扶養親族に係る配慮とバランスを失することとなっている。また、男女共同参画社会の形成の観点からは、男女の社会における活動の選択に対し中立でないという指摘も多い。これらを踏まえれば、配偶者特別控除については、基本的に制度を廃止することが考えられる。なお、その際、税引後手取りの逆転現象について税制上何らかの配慮は必要であろう。 |
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ロ |
.人的控除の基本構造の更なる見直し
次に、これらの3控除(基礎控除、配偶者控除、扶養控除)からなる人的控除の基本構造の更なる見直しについては、論点を明確化するため、あえて次の三つの異なる考え方を示し、国民の議論に付したい。
この際、考え方2または考え方3のように、配偶者控除や扶養控除を廃止する場合には、基礎控除を拡充することをあわせ考慮に入れる。 |
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(考え方1-基礎控除、配偶者控除、扶養控除の三つの人的控除で構成する) |
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扶養による担税力の減殺に配慮するという、現行の人的控除の趣旨を踏まえたもの。さらに、配偶者と扶養親族との区別をなくすことにより、「家族控除(仮称)」と基礎控除の二つに集約する案もある。ただし、男女共同参画社会の形成の立場からは、配偶者特別控除の廃止(前述)にとどまらず、配偶者控除そのものも廃止すべきとの意見もある。 |
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(考え方2-配偶者控除を廃止するとともに、扶養控除については児童及び老齢の親族のみに対象を限定する) |
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基本的には本人の基礎控除のみとするとの考え方に基づくもの。成人は自ら就労して所得を稼得し、自らに基礎控除を適用する可能性を持つため、これを扶養する者について扶養控除の適用を認めない。しかし、児童及び老齢の親族については、就労する機会も乏しく、自らに基礎控除を適用する可能性が少ないことから、扶養控除として取り込むという趣旨。扶養に伴う担税力の減殺に配慮しないことに加え、親族が一定の年齢に達するだけで本人の税負担が急変してしまうなどの問題がある。 |
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(考え方3-配偶者控除及び扶養控除を廃止する一方、児童の扶養について税額控除を設ける) |
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本人の基礎控除のみとするとの考え方を徹底しつつ、別途、児童の養育に対し、税額控除という形で配慮するもの。所得控除と異なり、所得の多寡にかかわらず同等の配慮が可能となる(ただし、非納税者には及ばない)。他方、扶養に伴う担税力の減殺を全く認めないといった考え方は個人所得課税制度になじみにくく、また、他の所得控除と税額控除が混在することとなるため制度として複雑になる。 |
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[2] |
高齢者に関する控除
現在、高齢者本人に対しては、老年者控除(適用所得要件1,000万円以下)や公的年金等控除の定額控除等の割増が適用されているなど、税負担面で様々な配慮が行われている。一方、高齢社会対策大綱(平成13年12月 閣議決定)においては、「年齢だけで高齢者を別扱いする制度の見直し」が課題とされている。
少子・高齢化が進行していく中、高齢者に関する控除を見直し、高齢者と社会保障制度等を支える現役世代との間の公平確保を図ることは喫緊の課題である。OECDの調査によれば、わが国は社会保障給付に対する課税額の割合が極端に低いと指摘されている。公的年金等収入を課税対象として取り込んだ上で、能力に応じた負担を求めることは、実質的な給付水準の調整を通じて世代間の公平のみならず、高齢者間の公平にも資することになろう。
公的年金等については、拠出段階で社会保険料控除により全額控除されているにもかかわらず、給付段階に公的年金等控除等が設けられ、拠出・給付両段階で実質的に非課税に近いものとなっている。また、年金以外に給与を得ている者にとっては、給与所得控除と公的年金等控除が各々適用されることとなっている。
こうした観点を踏まえ、老年者控除については、その適用所得要件を見直すなど、真に配慮すべき高齢者に対する控除としての位置づけを明確にすべきである。また、公的年金等控除については、社会保険料控除がある以上、本来不要とも考えられる。しかし、当面、少なくとも世代間の公平を図る観点から、定額控除の割増と老年者控除との関係を整理するなど、大幅に縮減する方向で検討する必要がある。なお、社会保険料控除等については、年金制度が多様化し、任意性の強い拠出も見られてきているので、その対象範囲を吟味していかなければならない。 |
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給与・退職金に関する控除 |
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イ |
.
給与所得控除は、マクロ的に見るとその総額(平成14年度予算ベースで62.8兆円)は、給与総額(222.8兆円)の約3割の水準になっている。これは、給与所得者の必要経費に関する概算的な控除としては説明しきれない高い水準と言える。主要国における勤務費用の概算控除は定額であったり控除限度額が設定されており、これと比較してわが国では控除額の上限がない点も問題である。
当調査会は、従来、給与所得控除の性格について、「勤務費用の概算控除」のほか、被用者特有の事情に配慮した「他の所得との負担調整のための特別控除」という二つの要素を含むものと整理してきた。昨今、被用者は就業者の約8割を占めるようになっており、また、多様な就業形態を選択する者が増加している。このような中で、被用者特有の事情に特に配慮する必要性は低下してきていると考える。
上記のような事情を踏まえると、給与所得控除については、勤務費用の概算控除としての合理的な水準を見極めつつ、縮減を図る方向で検討する必要がある。
なお、一般の被用者の間では、事業経営者は法人形態を利用して税負担の軽減を図り得る、その所得捕捉が十分に行われていないのではないか、といった不公平感が根強い。このため、給与所得控除の縮減を図る上では、こうした不公平感をも念頭に置いて対処する必要がある。
また、勤務に直接必要な特定の支出を実額で控除する仕組みとして特定支出控除制度が設けられている。しかし、その適用例は未だ僅少である。今後、給与所得控除の水準を縮減すれば、特定支出控除の選択的適用が増加することになろう。また、同制度の対象となる特定の支出の範囲は主要国と比較して狭いものではないが、社会経済情勢の変化を踏まえ、その範囲についての検討も必要であろう。 |
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ロ |
.退職金については、その支給実態が企業によって様々であるにもかかわらず、勤続年数に応じて一律に控除額が算出され、また、勤務年数が短期間でも所得の2分の1のみに課税されるなど制度的に必ずしも合理的とは言えない面がある。特に退職所得控除は、勤続年数20年を境に1年当たりの控除額が40万円から70万円に増える仕組みとなっている。
近年、中途退職や転職の増加、退職金の支給形態の変化、退職金を支給するかわりに給与を増額する企業の存在など、雇用環境や慣行が変化している。
退職金に対する課税のあり方については、就労や退職金支給の実態を踏まえつつ、税負担の公平・中立を確保するよう見直す必要がある。 |
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政策的措置としての控除
生損保控除や住宅ローン控除など、特定の政策目的のために控除が設けられており、税制の歪みを助長し、更には空洞化の一要因となっている。
今般、人的控除などの税制の基本構造に関わる部分についても、課税ベース拡大という視点から廃止、縮減の方向を検討する以上、政策的措置としての控除については、より厳しくその妥当性を吟味の上、廃止を含め見直す必要がある。 |
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(3) |
個人住民税のあり方 |
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基本的考え方
個人住民税は、地域社会の費用を住民がその能力に応じ広く負担を分任するという独自の性格(負担分任の性格)を有するとともに、地方公共団体が少子・高齢化に伴い提供する福祉等の対人サービスなどの受益に対する負担として、対応関係が明確に認識できるものであり、また、税収入の面で見れば、税源の偏在性が少なく、税収の安定性を備えていることなどを踏まえ、地方税の基幹税として充実確保を図る必要がある。 |
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所得割
所得割の所得控除及び課税最低限については、個人住民税の負担分任の性格から所得税に比較してより広い範囲の納税義務者がその負担を分かち合うべきものであるため、所得税より低い水準で設定すべきである。 |
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均等割
均等割の税率は、これまで数次にわたり改正が行われてきたが、国民所得等の推移と比較すると、なお低い水準にとどまっている。
均等割の税率について、人口段階区分に応じた税率の格差の縮小を含め、その水準の見直しを図る必要がある。
また、生計同一の妻に対する非課税措置については、男女共同参画社会の進展を踏まえ、個人単位課税の観点からそのあり方を見直す必要がある。
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