野口英世アフリカ賞ニュースレター 第4号平成22年 3月

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野口英世アフリカ賞記念シンポジウムの開催(於:ガーナ)

3月9日~10日、ガーナにおいて、野口英世アフリカ賞記念シンポジウムが皇太子殿下ご臨席の下開催されました。皇太子殿下は、同シンポジウムでお言葉を述べられるとともに、アフリカが抱える難題の一つである感染症問題に携わる第一線の研究者や活動家による講演を興味深く聴かれ、また夕刻のレセプションで、シンポジウム参加者と親しくご歓談されました。
 また、殿下は、80年以上前に野口博士が実際に使用していた研究室を訪れ、黄熱病の研究で亡くなられた頃の当時を忍ぶ顕微鏡等の置かれた研究室を御覧になられました。

皇太子殿下のお言葉

マハマ副大統領閣下、黒川清野口英世アフリカ賞委員長、ご列席の皆様,

黄熱病研究に心血を注がれた野口英世博士の最後の研究の地となったここアクラ市で,世界中から多くの著名な医療・保健関係者の方々の参加を得て、野口英世アフリカ賞の第一回記念シンポジウムが開催されることを大変嬉しく思います。

野口英世アフリカ賞は、アフリカに住む人々、ひいては人類全体の保健と福祉向上を図ることを目的として,アフリカにおける感染症などの疾病対策のため、医学研究及び医学活動分野において顕著な功績を挙げた方を表彰すべく創設されたと伺っております。第一回授賞式は、天皇皇后両陛下ご臨席の下、クフォー・ガーナ前大統領をはじめ多数のアフリカ元首のご参加を得て,2008年5月,アフリカ開発会議(TICAD IV)の機会に横浜で行われました。私は,国連「水と衛生に関する諮問委員会」名誉総裁として,世界各国が抱える衛生に関する問題につき深い関心をもっており,第一回受賞者であるグリーンウッド博士とウェレ博士による記念講演を興味深く拝聴致したいと思います。

昨日、私は、野口博士が83年前に志なかばで51歳でなくなられるまで研究を続けた研究室を訪れ,博士の感染症研究への思いを偲びました。博士の志を引き継いだ多くの関係者の努力もあり,博士が研究された時代と比べれば,ワクチンも発見され,黄熱病への対策は格段に進みました。しかしながら,21世紀に入った今日でも,アフリカは引き続きマラリアをはじめ多くの感染症に苦しんでおり,世界で最も深刻な問題を抱えている地域であることに変わりはありません。

例えば,HIV/エイズに関しては、アフリカには全世界のHIV感染者の約67%にあたる2240万人がいて、2008年には140万人もの人がエイズにより命を落としており,国際社会が一つになって,こうした深刻な問題に行動を起こしていくことが求められています。

本日のシンポジウムを通じて、この賞の使命であるアフリカの感染症分野における研究や保健システム強化の重要性について認識が深まり,アフリカの感染症と闘っている医学研究者や医学従事者の皆さんの方々が,改めてそれぞれの活動に励まれることを心より期待しております。

終わりに、副大統領閣下、本日御臨席の皆さまを始め、国際社会が力を合わせることにより、アフリカの感染症の状況が改善されることを強く願い、本シンポジウムに寄せる言葉といたします。

記念シンポジウムプログラム

3月8日(月)

15:00-17:00 サブサハラ・アフリカにおける保健政策研究の能力強化に関するラウンド・テーブル
17:00-17:30 パネリスト打合せ会議
19:00 黒川清 野口英世アフリカ賞委員会委員長主催歓迎夕食会(於:ラパーム・ロイヤル・ビーチ・ホテル内レストラン)
 

3月9日(火) 野口英世アフリカ賞記念シンポジウム
(於:ラパーム・ロイヤル・ビーチ・ホテル国際会議場)

09:00-09:20 開会挨拶
黒川清 野口英世アフリカ賞委員会委員長
マハマガーナ共和国副大統領
皇太子殿下おことば
09:25-09:55 ブライアン・グリーンウッド ロンドン大学衛生熱帯医学校教授(第一回野口英世アフリカ賞医学研究部門受賞者)記念講演
09:55-10:25 ミリアム・ウェレ ケニア国家エイズ対策委員会委員長(第一回野口英世アフリカ賞医療活動分野受賞者)記念講演
10:40-11:40 第1セッション:「医学研究分野」パネルディスカッション
(モデレーター)
    ブライアン・グリーンウッド博士
(パネリスト)
    アレクサンダー・クワド・ニャルコ 野口記念医学研究所所長
    スレイマン・ムブー アフリカAIDS研究ネットワーク会長
    北潔 東京大学大学院教授
11:40-11:50 質疑応答
12:00-12:45 昼食
13:00-14:00 第2セッション:「医療活動分野」パネルディスカッション
(モデレーター)
    ミリアム・ウェレ博士
(パネリスト)
    マレガプル・マゴバ クワズル=ナタール大学学長
    黒川清 野口英世アフリカ賞委員会委員長
14:00-14:10 質疑応答
14:10-14:30 コーヒーブレイク
14:30-15:30 第3セッション「アフリカの将来/貧困と疾病対策」パネルディスカッション
(モデレーター)
    パスコール・モクンビ ヨーロッパ途上国臨床医学パートナーシップ上級代表
(パネリスト)
    デイビッド・オフォリ=アジェ 野口記念医学研究所前所長
    ポール・ルザンバ=ディカサ WHO/AFROプログラム管理局長 
    笹川陽平 日本財団会長
15:30-15:40 質疑応答
15:40-16:00 ウジマ財団による野口英世紙芝居実演及び詩の朗読
16:00 閉会挨拶
アレクサンダー・クワド・ニャルコ 野口英世研究所所長
18:30 片上慶一 駐ガーナ日本大使主催レセプション(於:同ホテル内)
 

3月10日(水)(第三日目)視察プログラム

09:00 ホテル発
09:45-10:15 アチモタ病院視察
10:30-11:00 野口記念医学研究所内視察
11:00-12:00 野口記念医学研究所研究者とのラウンドテーブル・ディスカッション
12:00-12:30 コーヒーブレイク、軽食
13:15-13:45 野口英世記念研究室視察
14:30 ホテル到着

記念シンポジウムパネリスト略歴

  1. 黒川清 (1936年生まれ)
    野口英世アフリカ賞委員会委員長。政策研究大学院大学教授、東京大学名誉教授。東海大学総合医学研究所所長、日本学術会議会長、内閣特別顧問などを歴任。
  2. ブライアン・グリーンウッド(1938年英国生まれ)
    英ロンドン大学衛生熱帯医学校教授。英国ケンブリッジ大学で医学を修得。30年以上にわたる現場に密着した先駆的なマラリア研究の業績により、第1回野口英世アフリカ賞医学研究部門を受賞。
  3. ミリアム・ウェレ (1940年ケニア生まれ)
    ウジマ財団共同創設者・保健問題専門家。ナイロビで医学を修得後、米国ジョンズホプキンス大学で公衆衛生博士号を取得。コミュニティに立脚した保健サービスの提供・HIV/AIDSとの継続的戦い・NGOの力の活用などの業績により、第1回野口英世アフリカ賞(医療活動部門)を受賞。
  4. アレクサンダー・クワド・ニャルコ
    野口記念医学研究所所長および国際寄生虫対策西アフリカセンター長。ガーナ大学で生化学の学位取得後、米国でも研究。主な専門は、糖尿病と高血圧に関する臨床化学、化学的誘導による中毒障害、および薬草の薬理学・毒物学研究。
  5. スレイマン・ムブー
    アフリカAIDS研究ネットワーク会長。セネガルを中心とした西アフリカにおけるHIV/AIDS研究の専門家。マラリアと結核の研究にも関わっている。ダカールで薬理を学び、フランスで免疫学修士号と細菌・ウィルス学博士号を取得。
  6. 北潔
    東京大学大学院生物医科学教室教授。マラリアやトリパノゾーマの治療薬の開発につながる、寄生虫や細菌における低酸素適応の分子機構を研究。1984年、JICA専門家としてパラグアイに滞在。
  7. マレガプル・マゴバ
    南アフリカのクワズル・ナタール大学学長。分子免疫学者。英国オックスフォード大学で免疫遺伝学博士号取得後、米国国立衛生研究所、ロンドン大学などで研究。クワズル・ナタール大学はアフリカにおける HIV/AIDS研究プログラムの一大拠点。
  8. パスコール・モクンビ
    ヨーロッパ途上国臨床医学パートナーシップ上級代表。フランスで医学を修得後、モザンビーク国内で産婦人科医として働く。モザンビーク共和国保健大臣、同国外務大臣、首相などを歴任。
  9. デイビッド・オフォリ=アジェ
    野口記念医学研究所前所長。ガーナで医学を修得後、英国エディンバラで研修。1982年に帰国後は、臨床薬理学・薬理遺伝学・マラリアや住血吸虫やHIV などの感染症・医薬品管理の専門家として、ガーナおよびアフリカ全体の保健改善に貢献。
  10. ポール・ルザンバ=ディカサ
    WHOアフリカ地域事務所プログラム管理局長。医師・公衆衛生学修士・疫学博士。1996年にWHOに参加するまで20年間、母国コンゴ民主共和国で公衆衛生に貢献し、キンシャサ公衆衛生大学院学長、キンシャサ大学医学部副学部長などを歴任。
  11. 笹川陽平 (1939年生まれ)
    日本財団会長。明治大学経済学部卒業。ハンセン病制圧をライフワークとしており、2001年よりWHOハンセン病制圧特別大使。2007年よりハンセン病人権啓発大使。

今後の予定

6月13日~14日、アフリカン・フェスタが横浜の赤レンガ広場で開催されます。アフリカン・フェスタは、毎年外務省が主催して実施するイベントで、ステージでのコンサート、トークショーやファッション・ショー、各国大使館やNGO、外務省やJICAなどの関係機関によるブース展示、ダンスや音楽、民芸品政策のワークショップなどアフリカに関する多彩な行事が行われるイベントです。今年も野口英世アフリカ賞担当室では、外務省ブース内で野口英世アフリカ賞に関するパネル展示を行います。

片上慶一 駐ガーナ日本大使主催レセプション

レセプション

3月9日、「野口英世アフリカ賞記念シンポジウム」に引き続き、同日夕刻、片上慶一 駐ガーナ日本大使主催によりレセプションが開催されました。このレセプションには、皇太子殿下の御臨席のもと、シンポジウム参加者やガーナをはじめアフリカ各国の医療研究者、外交団など幅広い分野の方々およそ300名が出席しました。

レセプション会場では、直前に大盛況のうち成功を収めたシンポジウムの名残りもあり、和やかな雰囲気の中で開催されました。会場内では、皇太子殿下がご到着されると出席者から大きな拍手が挙がり、続いて片上大使から、今回の皇太子殿下のガーナ訪問が、日・ガーナ両国関係を超えて、日・アフリカ間の関係強化に極めて大きな意義を有するとともに今回のシンポジウムを通してアフリカの感染症分野における研究や医療活動強化の重要性について議論が深められたとの挨拶が述べられました。皇太子殿下は長時間にわたり終始、シンポジウム参加者らと親しく御歓談されました。

野口英世アフリカ賞記念視察プログラム

シンポジウムの翌日は、ガーナ市内に残された野口英世博士ゆかりの地を訪れました。最初の訪問先は、英国植民地時代から続くアチモタ病院です。1927年設立当時の建物を今も使用していますが、すみずみまで手入れが行き届いていました。受付から待合室、診察、薬局、支払いまでの動線もスムーズで、清潔な院内で大勢の患者が静かに順番待ちをしている様子から、病院管理のレベルの高さがうかがわれました。

次に訪れたのは、ガーナ大学構内にある野口記念医学研究所です。1979年に日本の無償資金協力によって建設されて以来、日本人による基礎研究の技術協力が続けられてきました。今では日本の支援から自立しつつあり、世界中の研究所と肩を並べて革新的な研究成果を競い合っています。視察チームは、アフリカ感染症の課題や展望について、本研究所の研究者たちと熱心に討議しました。

それから、野口英世博士がその生涯の最後の日々を過ごした研究室を訪れました。当時の様子を残した建物には、博士の研究室が再現されています。博士の生い立ちの紹介とともに、博士から日本やアメリカの家族に宛てた手紙や電報、亡くなるまでの数日間の博士の容体を記録したカルテ、亡くなったあとの病理解剖結果なども公開されており、皆、大変興味深そうに目を通していました。敷地の一角には日本庭園が整備されており、そこに、ガーナの明るい太陽のもと、博士の金色の胸像がまばゆく輝いていました。写真は、黒川清委員長と、第一回受賞者のグリーンウッド博士とウェレ博士です。

野口英世アフリカ賞基金への寄附実績
(2010年3月末日現在)

451,468,972円  [個人:1,853件、法人:316件 (計2,169件)]

 

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