野口英世アフリカ賞ニュースレター 第11号

< ニュースレター第10号 | ニュースレター第12号 >

ブライアン・グリーンウッド博士(英国)

第1回野口英世アフリカ賞受賞者(医学研究分野)

ブライアン・グリーンウッド博士

2008年に第1回野口英世アフリカ賞を受賞して以来、私は野口博士が黄熱病の原因に関する最後の研究を行った国であるガーナをはじめ、西アフリカでの研究を継続してきました。主な研究対象は引き続きマラリアと髄膜炎です。

マラリアの抑制は過去数年で目覚ましく進展しましたが、サハラ以南のアフリカには感染が根強く残る地域がまだ多くあります。世界保健機構(WHO)による2013年のマラリアによる死者の推計値は58万4000人(36万7000人~75万人の範囲)で、過半数を占めるのはアフリカの幼い子供たちです。マラリア対策の新たな施策はまだ必要です。2006年、セネガル出身でロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)博士課程の学生バダラ・シセと私を含めたグループは、セネガル農村部で実施した研究の結果を発表しました。それによれば、短期の流行期に5歳未満の子供すべてに抗マラリア剤を3回投与することで劇的な成果が認められました。この結果は他の国々でも再現され、2012年にWHOは「季節性マラリアの化学的予防(SMC)」と呼ばれるようになったこの対策をマラリアの感染が極めて季節的に限定されているアフリカのサヘル地域およびサブ・サヘル地域で導入するよう勧告しました。国際医薬品購入ファシリティ(ユニットエイド、UNITAID)の支援のおかげでこの施策は現在、実施段階にあり、今後数千の命を救うと考えられます。またガーナではマラリアワクチンの最有力候補「RTS,S/A01」の評価に協力しています。このワクチンは現在、欧州医薬品庁(EMA)の認可に向けて審査中です。

ピーター・ピオット(中央)、ブライアン・グリーンウッド(右から2人目)。シエラレオネのケリータウン・エボラ治療センターのボランティアと、2014年12月(撮影/ハイディ・ラーソン)

ピーター・ピオット(中央)、ブライン・グリーンウッド(右から2人目)
シエラレオネのケリータウン・エボラ治療センターのボランティアと
2014年12月(撮影/ハイディ・ラーソン)

SMCが実施されているサヘル地域は、髄膜炎菌性髄膜炎が数年の間隔で乾期に大流行する地帯と重複しています。過去5年間、私はコーディネーターとして、この疾病の疫学的研究をとりまとめ、原因菌である髄膜炎菌の鼻咽頭保菌に関する研究を行いました。驚いたことに、アフリカの髄膜炎多発地帯における髄膜炎菌の保菌率は先進国より低く、それがこの地域における流行の傾向に影響している可能性があることがわかりました。さらに新しいA群血清型コンジュゲートワクチン(MenAfriVac)の劇的な効果を実証し、このワクチンによってチャドの流行は終息しました。

西アフリカ3カ国では2014年、同じく野口英世アフリカ賞受賞者であるピーター・ピオット教授らが1976年にエボラウイルスを共同発見して以来最大となる流行が発生しました。私が90年代に活動していたシエラレオネは特に大きな打撃を受けたため、何か役に立てることはないかと強く願っていました。従って、ジョンソン・エンド・ジョンソンが開発した抗エボラワクチンの評価を補佐する機会を与えられ、非常に嬉しく思っています。クリスマス前にはピオット教授、そして英ウェルカム・トラスト所長のファラー教授とシエラレオネを訪問しました(写真参照)。2015年前半には、シエラレオネでこのワクチンの第3段階の臨床試験を開始したいと考えています。野口博士がまだ生きていらしたら、この活動にきっと賛同していただけたことでしょう。

ミリアム・ウェレ教授(ケニア)

第1回野口英世アフリカ賞受賞者(医療活動分野)

ミリアム・ウェレ博士

2008年に2人の受賞者のうちの1人として日本から第1回野口英世アフリカ賞を受けた直後、私は「HIV/エイズのない世代の推進者グループ」の議長から同グループに招かれました。議長はボツワナの元大統領で、他のメンバーは、それぞれの国でHIV/エイズ問題に積極的に取り組んでいたアフリカ各国の元大統領(モザンビーク、タンザニア、ザンビア)、元副大統領(ウガンダ)、そして南アフリカのデズモンド・ツツ元大主教でした。私が参加メンバーとして選ばれたのは、ケニアの国家エイズ対策委員会(NACC)委員長としての経歴、そして日本での受賞によって国際的に評価されたことが理由であると知りました。すなわち日本の野口英世アフリカ賞の受賞者となることは、特別な立場に仲間入りすることだと、すぐに実感したわけです。

「推進者グループ」は、訪問国と訪問の内容に関する計画の策定に着手しました。隔年開催のアフリカ地域エイズ・性感染症国際会議(ICASA)やその他の地域・準地域的な会合に出席して演説を行い、その後も順次こうした会合に出席して演説するとともに、各国を訪問しています。私自身は3回のICASAと7カ国の外遊に参加して各国のリーダーや国家委員会・評議会、また共同体レベルの伝統的指導者と率直に協議し、国家レベルのHIV/エイズ対策の強化やこの問題に対する沈黙に終止符を打つことに貢献してきました。2014年12月1日には、南アフリカ・エイズ基金(SAT)に招かれ、ヨハネスブルクで共同体レベルのHIV/エイズ対策・管理に重点を置いた文書「コミュニティ・マターズ」を発行しました。2015年4月には、「推進者グループ」のプログラムが再び開始される予定です。

地域医療サービスにおいては、2010年にケニア初の地域医療サービス全国大会で主席コンサルタントを務めたほか、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の実現に向けた地域医療サービスの拡充に関して引き続き保健省に助言を行っています。2014年7月以降はケニア各地の知事と連携し、UHC推進活動を継続するための先進医療サービスに取り組んでいます。また日本の国際協力機構(JICA)ケニア事務所のサポートを得て、質の高い共同体レベルの医療サービスを確保するための基準を関係者と協力して作成し、2014年に承認されました。アフリカでは国際保健機関(WHO)アフリカ地域会合に参加し、この問題と母子保健サービスに取り組んでいます。国レベルでは、視察のためにエチオピアとガーナ、マラウイ、ザンビアを訪問しました。国際的には2013年にブラジルで開催された第3回世界保健人材連盟グローバルフォーラムで地域保健員に係わる専門家として認められ、世界保健人材連盟で方針と施策実施の世界的な評価を行う専門家チームに所属しています。

母子保健プログラムは依然として極めて重要です。2011年以降、私は国連ミレニアム開発目標の第4目標および第5目標を世界的にモニタリングする独立専門家グループに参加し、その結果を年間報告書として国連事務総長に提出していますが、最後の報告書は2015年に予定されています。2012年にはJICAを初めとする日本の機関と協力して、「母子手帳国際会議」を初めてアフリカで開催しましたが、2014年に予定していたアフリカで2回目の同会議はエボラのために延期されました。

野口英世アフリカ賞受賞者であることは、非常に素晴らしいことです。日本で開催される会議やフォーラムに参加させていただくなど、日本の皆さんが私や私の仕事仲間に専門的知見を共有する機会を提供してくださっていることに、心から感謝しています。また日本以外の場所で行われる日本の専門家によるイベントにも参加しています。2015年1月28日には、2016年のG7/G8サミットの準備として開催されるマヒドン皇太子賞会合のサイドイベントであるバンコクでのワークショップに出席する予定です。

ピーター・ピオット博士(ベルギー)

第2回野口英世アフリカ賞受賞者(医学研究分野)

ピーター・ピオット博士

天皇陛下御臨席の下、安倍晋三総理大臣から第2回野口英世アフリカ賞(医学研究部門)を受賞したことは、私のキャリアにおいて最も輝かしい出来事です。きわめて名誉ある賞であり、グローバルヘルスに関わる者は誰でも野口博士を手本と仰いでいます。科学と公衆衛生、そしてアフリカに対する私の情熱が、日本政府から最高の賞をいただくというかたちで実を結びました。この賞によって私と日本、そして日本の政府関係者、政界の皆様、東京大学、京都大学、慶応大学、エイズ関連非政府組織(NGO)の皆様との絆が正式に認められ、強まったと感じています。加えて国連エイズ合同計画(UNAIDS)事務局長時代には厚生労働省から出向していた日本人の同僚といつも仕事をしていましたので、訪日時には会って夕食の席を囲んでいます。

賞金はロンドン大学衛生熱帯医学大学院(LSHTM)のアフリカ人学生の勉学支援、ならびに英医学研究会議(MRC)ガンビア支部におけるマラリア関連のポスドク研究支援のために使わせていただきます。2014年10月には、第1回野口英世アフリカ賞をもとにブライアン・グリーンウッド博士が出資されたアフリカ-ロンドン-ナガサキ奨学金をベースとして、小泉純一郎元総理ご出席の下、長崎大学とLSHTMの間でグローバルヘルスに関する新しいパートナーシップが発足しました。

長崎大学主催「グローバルヘルス・フォーラム2014」(東京)

野口英世アフリカ賞受賞式は横浜で開催された第5回アフリカ開発会議(TICAD)の場で行われましたが、時を同じくして日本の製薬会社5社と日本政府、そしてビル&メリンダ・ゲイツ財団によってグローバルヘルス技術振興基金(GHITファンド)が創設されました。この組織はマラリアや結核、その他の見過ごされがちな感染症の新しいワクチンや薬、診断法に関する日本のノウハウを活用する最も革新的な官民連携の1つであることから、私も理事会に名を連ねています。

2014年には、西部アフリカのエボラ危機がグローバルヘルスに関する報道を席巻しました。中央部アフリカ以外では初の発生でした。中央部アフリカでエボラ出血熱の発生が最初に確認されたのは1976年でしたが、私はその際、調査に参加しました。私はエボラ研究に多くの時間を費やしており、LSHTM も西部アフリカで精力的にさまざまな活動を行っています。このウイルスが3カ国全域を襲う大流行を発生させるとは思いもよりませんでした。2014年末の時点で、死者数はすでに7500人超となり、1976年以降に確認された死者の総計の数倍に達しています。

初の症例が確認され、「エボラ」と名づけられた
コンゴ民主共和国・ヤンブクを再訪し(2014年2月)
1976年エボラ大流行の生存者の1人である
スカト氏と歩くピオット博士

この悲劇から最初に分かることは、感染症の流行は今後も世界を脅かし続けるだろうということです。どこで発生しようと、その地域の人々にとって大きな打撃となるだけでなく、数千キロも離れた場所の人を感染させる可能性もあります。ですから、西アフリカにおけるエボラウイルスとの闘いは、感染発生国の人々の苦しみを緩和するにとどまらず、世界全体に恩恵をもたらす「世界的な公益」と見なされるべきです。米誌タイムは「パーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)」に私自身を含めた「エボラと闘う人々」を選出しました。

最後になりますが、私の回想録『No Time to Lose』の日本語版が2015年前半に慶應義塾大学出版会から刊行されますので、日本の皆さんにも手に取っていただきやすくなると思います。

アレックス・G・コウティーノ博士(ウガンダ)

第2回野口英世アフリカ賞受賞者(医療活動分野)

アレックス・G・コウティーノ博士

2013年6月、私はピーター・ピオット博士とともに野口英世アフリカ賞を受賞しました。私自身にとっても母国にとっても、そして何より私が長年主導してきた活動の恩恵を受けてきた、そして今後も貢献していく数百万のアフリカ人にとって、この上ない栄誉でした。

受賞・表彰

受賞後、2013年10月にはウガンダ政府から民間人に対する最高賞である国家英雄独立勲章を受け、ヨウェリ・カグタ・ムセベニ大統領から授与されました。また英王立内科医師会(RCP)からは特別研究員の資格を与えられました。

アフリカ向け医療サービスの拡充

所長を務めるマケレレ大学感染症研究所(IDI)の活動を中心として、引き続き数百万のアフリカ人を対象とした医療サービスの拡充を図っています。2013年6月以降、100万人以上のウガンダ人にHIV検査を実施し、IDIの支援で治療と投薬を受けるHIV陽性者は10万人を突破しました。また割礼(包皮切除)プログラムを立ち上げ、2014年末には13万人以上のウガンダ人男性に包皮切除を行い、同国におけるHIV予防に大きく寄与しました。さらに世界的にも重要なプログラム「セイビング・マザーズ・ギビング・ライフ」を指揮し、200万人規模のグループでわずか18カ月の間に妊産婦死亡率を最大38%下げることが可能であると実証しました。この画期的なプログラムは現在、ウガンダおよびアフリカのその他の地域で制度の拡充に活用されています。私の指揮下でIDIが運営するその他のHIV対策も含めて、これらの施策は野口英世アフリカ賞の精神を引き続き反映させながら、知識とテクノロジーを数百万人のための医療サービスへ転換し続けています。

2013年末には、国際エイズワクチン推進構想(IAVI)の委員会において、アフリカ出身者としては初の委員長に選出されました。IAVIはHIVワクチンを発見すること、そして特にアフリカにおいてワクチンを必要としている数百万の人々へ提供すること目指しています。日本は継続的にIAVIへ資金提供を行い、中でもワクチン候補の1つであるセンダイウイルスベクターの初期試験を強力に支援しています。IAVI委員長として、私は世界的な疾病予防のためのワクチンを追究した野口英世の足跡をこれからも継承していきます。

2014年10月以降

2014年10月、自由な立場でより幅広くグローバルヘルスの問題に取り組み、私の考える野口英世アフリカ賞のビジョンを推進するため、IDI所長を退任しました。本賞のおかげで正規雇用の立場を降り、アフリカの人々のために包括的なさまざまな活動に従事する財政的手段を得ることができました。現在携わっている活動は下記の通りです。

  • エボラ出血熱の流行は西アフリカに惨禍をもたらしましたが、私はナイジェリアにおける感染拡大の防止、そして早期発見とエボラウイルスの封じ込めに関する最前線の医療事業者の訓練に向けた準備強化を指揮しています。2014年11月にはナイジェリアに2週間滞在し、あらゆる関係者と面会して2015年1月16日に発足する大規模な研修活動の下地を整えました。研修の新しいカリキュラムは、世界保健機関(WHO)と米疾病予防管理センター(CDC)そして、国境なき医師団(MSF)のカリキュラムを私が応用したもので、ナイジェリアにより適したものになっています。2014年12月には、米サンフランシスコでエボラに関する啓発・資金調達活動にも参加し、フェイスブック本社やカリフォルニア大学サンフランシスコ校 (UCSF)、そして全米国際問題評議会で最新情報を発表することができました。またエボラ出血熱に対する世界的な理解を広げるために、フェイスブックページを開設しています。
  • UCSFと提携し、早産発生率対策の大規模な世界的取り組みにも参加しています。1億ドルの巨額な予算が組まれたこの10年計画は、早産の原因を理解し、その発生と予後の問題を軽減するための対策の実施を目指しています。早産は依然として新生児死亡率の主な原因であり、結果的に幼児死亡率にも影響を及ぼしています。私はウガンダでこの活動を指揮し、同時にケニアとルワンダ、アメリカではプログラムに対する情報提供というかたちで貢献していきます。
  • 野口英世アフリカ賞をウガンダの大学院生研修プログラムに活用するプロセスにも着手しました。まずは精神衛生と母子保健、そして熱帯医学に重点を置きます。ワキソ県カジャンシーの研修センターは完成間近ですが、この施設は常時400人の学生を受け入れ可能で、グローバルヘルスに関わる他の組織・団体も利用できます。さらにウガンダのフォート・ポータルでは各界の関係者と協議し、アフリカの農村地域で医療と公衆衛生の現場を経験したいと考える大学院生向けの臨床研究研修施設を構想しています。どちらの施設も、2015年末には完全に準備が整う予定です。

まとめになりますが、野口英世アフリカ賞は私に対する国際的な認知を高めるとともに、グローバルヘルス分野のリーダーとして、組織に所属せずに世界が現在抱えるさまざまな課題の解決に貢献し、数百万のアフリカ人の健康に寄与することを可能にする財政的な手段を与えてくれました。私はあらゆる機会を活用して野口英世について語り、彼の人生とビジョン、そして業績に対する世界の認識を高めています。ゆくゆくはそれが日本の皆さんへの認知と賞賛にもつながっていくでしょう。

野口英世アフリカ賞基金のための御寄付のお願い

本賞の賞金のために、本賞の趣旨にご賛同いただける方々から広く寄付を募っています。皆さまからいただいた善意が、アフリカにおける医学・医療の向上のため活躍されている方々の活動を支えるために使われます。(寄付は控除の対象になります。)

  • 野口英世アフリカ賞基金への寄附実績(2014年12月時点の累計)
    514,123,972 円[個人1,955件,法人328件(計2,283件)]
 

寄付方法のご案内

ご寄付は以下のウエブサイトからオンラインでお申込み頂け、クレジット・カード、コンビニ店舗端末、払込票(郵便局・銀行・コンビニ)、ペイジーでのお支払いが可能です。ご不明の点はフリーダイヤルまでお問合せください。

JICA(独立行政法人 国際協力機構)国内事業部 市民参加推進課 寄付金担当
野口英世アフリカ賞基金ホームページ(JICA)別ウィンドウで開きます
フリーダイヤル:0800‐100‐5931
FAX番号:03‐5226‐6377

 

< ニュースレター第10号 | ニュースレター第12号 >