甘利内閣府特命担当大臣記者会見要旨 平成27年12月22日

(平成27年12月22日(火) 11:00~11:25  於:中央合同庁舎8号館1階S108会見室)

1.発言要旨

 本日の閣議におきまして、「平成28年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度」が了解されました。
 平成28年度の我が国経済は、各種政策の推進等によりまして、雇用・所得環境が引き続き改善し、経済の好循環が更に進展するとともに、交易条件が改善され、堅調な民需に支えられた景気回復が見込まれます。
 この結果、平成28年度の我が国の国内総生産の実質成長率は1.7%程度、そして名目成長率は3.1%程度と見込まれます。また、物価につきましては、消費者物価上昇率は1.2%程度、GDPデフレーター上昇率が1.4%程度と見込まれまして、デフレ脱却に向け更に前進すると考えられます。
 政府といたしましては、これまでのアベノミクスの成果の上に、「デフレ脱却・経済再生」と「財政健全化」を双方共に更に前進させる。名目GDP600兆円の達成を目標としまして、これまでの三本の矢を束ねて一層強化した新たな第一の矢であります「希望を生み出す強い経済」の推進に取り組むとともに、その果実を第二、第三の矢であります「夢をつむぐ子育て支援」、「安心につながる社会保障」にもつなげることで、新・三本の矢が一体となって成長と分配の好循環を強固なものにしてまいります。

2.質疑応答

(問)来年度の経済見通しですが、実質が1.7%程度、名目が3.1%程度ということで、政府が掲げる2020年のGDP600兆円、これにどのように向かうのかというところの考えをお聞かせ願えればと思います。
(答)御案内のとおり、2020年を超えたあたりに名目GDP600兆円、今の2割増しにしていく、その過程は名目成長率が3%、実質成長率が2%程度確保しているという段取りになっております。名目3.1%、実質1.7%というのは、それに近い数字であると思いますし、これを確保していくことが600兆円を実現する道筋に沿っていくことだと思っております。
(問)試算を見ますと、来年度、物価の上昇率が2%に届かない。これをまた更に試算の書いていない再来年を考えてみますと、消費増税で物価は恐らく下押し圧力になりますし、それから、名目成長率もそれほど高くはないだろうと思われます。そうすると、来年度、デフレ脱却を宣言できる状況になるのかどうかということが質問の一つ目。質問の二つ目は、そうすると、もしデフレ脱却宣言ができないのだとするといつごろに、少なくとも2020年までにはできるのか、若しくは、いつごろデフレを脱却できる状況になり得るのか、その辺のところを教えてもらえますか。
(答)来年度物価上昇率1.2%、日銀の物価安定目標が2%でありますから、これには届きません。1%台後半であれば、物価目標に対してそう注文はつかないのだと思いますが、1.2%をどう評価するかということは確かにあります。
 ただ、GDPデフレーターや、あるいは需給ギャップ、ユニット・レーバー・コスト等々、四つ五つ判断材料があります。それを総合的に判断するので、必ずしもCPI2%が必須条件ということではないと思います。物価が1.2%という数字は、原油価格が下がっていくということがCPI全体を押し下げている要因になるという判断があります。ただ、これは交易条件の改善で、日本経済にはプラスになるものでありますから、痛し痒しという点がございます。成長率を押し上げる材料にはなる。ただし、総合物価を押し下げる条件にもなってしまうということで、この辺は少し判断が難しいところです。
 油価がどう変化するかというのは、機関によって見方が随分変わります。それによって物価自身は1.2%になるのか、あるいは1.5%になるのか、それは変わってくるのだと思います。要は、申し上げたような各種の要素が、総合的判断としてデフレ脱却にふさわしいものになっていくように全力を上げたいと思っております。
 物価安定目標は、日銀が主たるお仕事としてされていきますから、成長路線がきちっといくように、成長戦略をしっかり具現化していくということになろうかと思っております。
 それから、いつごろということですが、2020年まではかからないと思います。来年、デフレ脱却ができるように、政府としてできることは最大限やっていきますし、できなければ、その近傍で実現できるような努力をしたいと思います。
 消費税を引き上げるということになりますと、景気の下押し圧力になります。でありますから、基本的なスタンスは、来年度は全体の底上げをする。企業でいえばベースアップを図るみたいな努力が必要だと思います。消費税率引上げ時には、駆け込み需要と反動減、これをどう平準化していくかということだと思います。これには税制による努力、それから、あるいは場合によっては財政によるてこ入れということも考えていかなければならないと思います。
 消費税率を5%から8%に引き上げたときの駆け込み需要が想定より多いということが、反動減が予想より激しかったということと、それから大事なことは、それがなかなか終息しなかったということです。過去の消費税率引上げのインパクトよりは、8%から10%は少ないですけれども、この過去の経験をしっかり読み取って、経済財政運営をしっかりしていくということが大事だと思います。もちろん財政健全化目標をしっかり視野に入れながら、どこまで来年度全体の底上げ、そして再来年は消費税導入の前後での平準化を図っていくかということが政策的課題だと思っております。
 補正予算のGDPに対する効果が全体で0.6%、来年度に関して言えば、寄与度は0.3%あります。それらをうまく使いながら目的達成をしていきたいと思っています。
(問)そうすると、来年度はやはりこの政府の見通しどおりであれば、デフレ脱却したとはなかなか言えないということですけれども、それより先に、早期にデフレ脱却をしたいという趣旨だという理解でよろしいのでしょうか。
(答)ほかの要素も、総合物価以外にデフレ脱却の判断要素はありますから、この数字をもって絶対に脱却はできないとは断言できませんけれども、物価安定目標はできるだけ2%に近い方が総合判断はしやすいということです。ほかの要素が非常にいい要素で、油価が想定を超えて下がっていて、それが物価にはね返ってきているという場合には、総合判断として、デフレ脱却という判断ができるかもしれませんが、物価安定目標はできるだけ2%に近い方が総合判断としてはしやすいと思うということです。
(問)11月末に安倍総理にお会いされた経済学者の先生、野口旭先生などが、10%に消費税率を上げるときには、物価が2%になっていれば上げても大丈夫ではないかと、必要条件としての2%達成を挙げられて、極めて慎重な御進言をされたようですけど、その辺、甘利大臣としてはどう受け止めているかお願いします。
(答)私は、財務省に申し上げているのは、2%、8%から10%に引上げるのを延期したときに、景気要件を外すと。つまり大きな経済ショックがない限り、これは政府の決意として上げていくということを総理が言われたわけでありますけれども、私は財務省には、これはもう10%はいただきという感覚は持たないでもらいたい。10%引上げができるような経済環境を全力でつくるということが政府の使命であり、財務省の使命でもありますよということを申し上げているのであります。
 でありますから、補正予算に関しても、2015年の中間目標の達成に関しては、総理は、達成は必ず政府の約束としてやる。しかし、過達成に足をとられる必要はないということを言われたわけです。つまり、上振れ分があるから、とにかく補正の規模をできるだけ小さくして、財政再建を前倒してどんどんやっていこうという姿勢があると、これは将来大変なことになるということを、総理自ら財務省に、成長があって初めて財政再建があるという基本方針を忘れないでほしいという注文をつけられたのだと思います。
 それゆえ、2015年の達成は、とにかくぎりぎりは達成する。そして、それ以外は成長を重視するという形になったと思っております。2017年の消費税率引上げは、政府の決意として申し上げていますけれども、重要なことは、それが躊躇なくできるような経済環境を全力でつくることだということを政府としては肝に銘じておりますし、財務省もそう受け止めてもらいたいと思います。
(問)経済見通しに戻って、来年度の名目3.1%、実質1.7%、民間の予測よりはやや高いですけれども、これは、大臣の感覚では、普通に巡航速度でやっていけば達成できるものなのか、あるいは企業にかなり賃上げなどをやってもらって、かなり努力しないと達成できないというイメージなのか、そのあたりを教えてください。
(答)政府の見通しは、きちんと政策努力をした上での見通しであります。あらゆる好循環について、しっかり目配り、気配りをしながらこれを実行していくということが大事だと思っております。手放しで達成できる目標だとは思っておりません。
(問)再増税の前にデフレは脱却しておくべきだと大臣はお考えですか。それとも、デフレを脱却していなくても再増税はあり得るとお考えでしょうか。
(答)経済が確実に巡航速度に戻りつつある、デフレ脱却に向けて強力な前進があるということが必要だと思います。大事なことは、消費税率を引き上げてデフレに戻ってしまったということにならないようにすることが前提条件です。
(問)経済見通しの賃金の方ですけれども、最近、各労組のベア、要求水準が出てきましたが、大体1%と、連合の要求水準よりも大分低い状態になっております。これについてどうお考えになるのかということと、昨年は政労使でやって、かなりベアを達成しましたが、今年は政労使の労を抜いて官民対話でされましたけれども、労をやはり入れておいた方がよかったのではないかという批判もありますけれども、これについてどうお考えになりますか。
(答)労の当初の要求より政府の要求の方が高いのではないでしょうか。やはり過去20年間のデフレというのは、いろいろなところに染みついてしまっているのです。組合にしてみると、デフレ下ではまず雇用が大事です。このデフレ下で企業行動というのは、賃金を抑えて負債を減らすという行動をとってきました。その際に組合、労働側は、やはり雇用が優先で、賃金は二の次と、賃金要求よりも雇用をしっかり守ろうということで、そこで経営側と労働側の利害が一致したわけです。そこから経済成長に移っていくにはマインドを転換していかなければならないわけです。政府は、環境をつくって儲かるようにしました。事実、儲かりました。利益は過去最大になっています。そうしましたら、今度は次なる循環は、雇用を守るのは当然です。人が足りなくなりますから。賃金を上げていくということが成長への足掛かりであるということを我々は提言してきました。ただ、組合は、デフレ下でのマインドから、どうしても脱し切れなくて遠慮がちになったのではないかと思います。だからこそ、「官製春闘」と言われながら、我々は先導してきたのです。
 今回も経営側に対してかなりきつい要請をいたしました。その結果、経団連からは昨年を上回ると、もちろん企業業績が上がっているところについては昨年を上回る回答を出そうではないかという呼びかけがあったわけです。これは、我々がかなり強い要請をし、何度も水面下で根回しをいたしました。その結果得られた成果だと思っております。それがあったからこそ「昨年を上回る」という言葉が出てきたのだと思います。
(問)組合の組織率が大体18%ぐらいで、政府が主導してやってきたというのはわかるのですけれども、デフレに逆戻りしないためには、組合の組織率を上げていく方が、大臣のロジックからいうといいのではないかと思うのですけれども、それは民主党の支持母体を増やすことになるので、痛し痒しだと思うのですが、大臣は組合の役割についてはどうお考えになっていますか。
(答)何度も申し上げていますけれども、我々は賃金引上げについて、いつまでも介入するつもりはありません。これは民民の契約ですから、経営側と組合側が交渉して決まるのが筋です。あえて我々がなぜやっているかというと、デフレから脱却するには相当なエネルギーが必要だからやっているわけです。これは自然循環です。賃金が上がり、経営がよくなり、内部留保が増え、更に賃金が上がるという自動循環です。手を離して自動循環が達成できるまでは、押していかないと循環が止まってしまうのです。だから我々は介入をしているということです。
 政労使の会議を開きました。そのときに思い出していただきたいのは、三者がこの苦境を脱出するために何ができるかを考えようよと言ったわけです。我々は事業環境を整えます。法人税を下げ、投資減税を行い、規制緩和を行う、金融緩和を行う。やれることはみんなやりました。事業環境は確実によくなったわけです。だから、企業収益は過去最大規模になったのです。そこで経営側は何をやるか。それを好循環に使ってくださいということです。今まで賃金を抑えて、それを過剰負債の削減をするという原資に使ったわけです。それはもうでき上がったわけです。しかし、そのマインドから脱していないから、どんどんたまっていくだけだったわけです。本来の好循環に使うことを思い出してくれということを我々は要請しました。そこで賃上げ、ベアをやってくれたわけです。
 それでは、労働組合は何をするのか。新しい事業環境に対する柔軟性のある雇用形態について踏み出していこうではないですかと。これは労働環境を悪くするようなことではないです。労働基準はしっかりやっていきます。しかし、いろいろな働き方があります。いろいろな働き方が全てアクセスできるような柔軟性を持ってください。あるいは固定して雇用を守るのから、成長分野に移動して守るという考え方に変えてくださいということを要請しました。しかし、労働基準が改悪されるという錯覚に陥ってフリーズしてしまったということであります。政労使会議というのは、三者ができることをやろうよと、日本の経済的苦境を脱するために、やれることはやろうではないかということでスタートしたはずであります。ですから、私は元労働大臣でありますから、連合とのパイプは多々あります。そこで申し上げているのは、日本全体の生産性を上げていくために三者がやれることをやろう、昔と同じ形態で成長できるほど世の中は甘くない、労働基準をしっかり守っていく中で、多様な働き方に対応できるような柔軟性を持ってほしいということを言い続けているわけであります。

(以上)