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受賞者プロフィール 矢原 徹一

プロフィール

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矢原 徹一(やはら・てつかず)

九州大学大学院理学研究院教授

昭和29年5月1日、福岡県生まれ。
昭和52年、京都大学理学部卒業。
昭和57年、京都大学大学院理学研究科博士課程単位取得退学。
昭和58年、東京大学理学部附属植物園助手。
昭和59年、理学博士(京都大学)。
昭和62年、東京大学理学部附属植物園日光分園講師。
平成3年、東京大学教養学部助教授。
平成6年、九州大学理学部教授。
平成12年、九州大学大学院理学研究院教授。現在に至る。

平成10年、松下幸之助花の万博記念奨励賞受賞。

受賞者紹介

 地球のみどりは、多様に進化した植物によって彩られている。植物の多様性の現状を科学的に診断するには、生物進化の結果である植物相の動態の解明が必要である。

 同人の研究は、一貫して植物の進化における種の動態を明らかにするものである。最初はイラクサ科を材料に、倍数化、自然交雑を繰り返しながら種分化を重ねた過程を追い求め、有性生殖を放棄して種形成を促す無融合生殖種の進化について注目すべき成果を挙げた。

 次いで、ヒヨドリバナを用い、病原体との相互作用の下で多様性が有利になるという仮説を検証した。この種の無性生殖系統は、有性生殖系統よりも種子生産力が高いため、一見有利に見える。しかし、無性生殖系統はジェミニウイルスによる感染症にかかる頻度が高く、この感染症の流行による死亡率が高い。ジェミニウイルスは進化速度が速いために多様な系統に分化しており、例えばヒヨドリバナの1枚の葉に2~3系統の異なるウイルスが感染していることも多い。このような多様な病原体がある中では、親と遺伝的に同じ子孫をつくる無性生殖は不利になると推定される。この研究成果は、生物の多様性を生み出す有性生殖の意義を明らかにするものとして国際的に高く評価されている。ヒヨドリバナがジェミニウイルスに感染すると、葉緑体が分解されるために葉が黄色に変わる。この症状は孝謙天皇により万葉集に「この里は継ぎて霜や置く夏の野に わが見し草は もみちたりけり」と詠まれており、世界最古のウイルス感染の記録と考えられている。同人は、ウイルスDNA をヒヨドリバナに実験的に導入し、ウイルス感染だけで葉が黄変することを示し、その病原性を証明した。この成果は科学誌『Nature』に発表された。

 さらに、同人は、自家受粉と他家受粉の組み合わせの進化のしくみについて研究した。自家受粉をすれば確実に種子をつくり子孫を残すことができるが、近親交配の悪影響によって子孫の生存力が低下する。いっぽう、他家受粉をするには、美しい花弁を作り、花蜜を分泌して花粉媒介昆虫をひきつける必要がある。キツリフネでは、他家受粉をするための大型の花と、自家受粉専用の閉じた花をつけるが、閉鎖花の花弁は退化しており、花粉もごく少数しか作られない。同人は、花粉を運ぶ昆虫をひきつけるコストと近親交配の悪影響のつりあいの下で、2つの花をつける性質が進化していることを明らかにした。また、他家受粉をする植物においては、異なる花粉媒介昆虫に適応したり、異なる時期に開花したりすることによって、近縁な種が多様化していることを明らかにした。

 以上のような研究を通じて、植物は緑色の葉で光合成をし、根から水分や栄養分を吸収する点ではどれも似ているものの、繁殖のステージでは病原体や昆虫など他の生物との相互作用の中で多様化することを明らかにした。これらの研究は、既存の植物生態学では成長や生産過程の研究に重点が置かれてきた中で、「繁殖生態学」という新分野の開拓に貢献するものとなった。著書『花の性 その進化を探る』(1995 年)はこの分野の成果をまとめた好著である。

 同人は、多様な植物種の保全の研究にも力を注ぎ、保全生物学の発展に貢献した。日本の野生植物の絶滅リスクを網羅的に評価するために、全国の400 名以上の研究者やナチュラリストを組織し、約1500種の植物について現存個体数と減少傾向を調査した。その結果に基づき、これら植物の100 年後までの運命をコンピュータシミュレーションで評価し、絶滅確率にもとづくレッドデータブックのとりまとめに中心的な役割を果たした。レッドデータブックの国際基準を決める国際自然保護連合(IUCN)のワークショップにも参加し、国際基準の改訂作業にも貢献した。また、保全生物学については、鷲谷いづみ博士と共著の教科書『保全生態学入門 遺伝子から景観まで』(1996 年)や、永田芳男氏の写真とともに編纂した『レッドデータプランツ』(2006 年)などの一般向け著書も執筆している。

 同人が勤務する九州大学の移転においては、移転予定地の植物種の分布を網羅的に調べる方法を開発し、全種の保全を目標とする生物多様性保全事業を組織した。この事業では、市民ボランティアを育てるとともに、子供たちがキャンパスでどんぐりを拾い、苗を育て、森林を再生する「どんぐりの森をつくろう」というプロジェクトを市民ボランティアと進めている。これらの取り組みは、科学誌『Science』にも紹介され、国際的に高い評価を得ている。

 以上のように、同人は優れた研究によって繁殖生態学の領域において目覚ましい学術的貢献を行ういっぽう、多くの著書、論文などの執筆と実践面における行動を通して、みどりの保全について科学的立場から説得力のある発信を続けてきた。また、種生物学会、日本進化学会、日本生態学会の会長を歴任し、生物多様性国際研究プログラムコアプロジェクト議長をつとめるなど、学会活動でも主導的な役割を果たし、科学行政の面でも顕著な貢献を行っている。

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