みどりの学術賞

鈴木 和夫 プロフィール

鈴木 和夫 すずき・かずお

写真

東京大学名誉教授、独立行政法人 森林総合研究所理事長

昭和19年9月15日、茨城県生まれ。
昭和43年、東京大学農学部卒。
昭和48年、東京大学大学院農学系研究科博士課程修了(農学博士)。
昭和49年、農林省林業試験場。
昭和58年、東京大学農学部助教授。
平成元年、東京大学農学部教授。
平成8年、東京大学大学院農学生命科学研究科教授。
平成17年、日本大学生物資源科学部教授。
平成17年、東京大学名誉教授。
平成19年、独立行政法人 森林総合研究所理事長。

平成9年、樹木医学会会長(平成13年まで)。
平成12年、日本学術会議会員(平成17年まで)。
平成13年、国際森林研究機関連合理事(平成17年まで)。
平成14年、日本林学会会長(平成16年まで)。

昭和62年、日本林学会賞(「マツの水分生理状態と材線虫病の進展」に対して)。
平成17年、樹木医学会功績賞。

受賞者紹介

 同氏は、樹木と他の生物との相互関係が森林の健全性に大きく影響していることに注目し、多様な生活型をもつ菌類と森林の健全性や多様性に関する研究を行ってきた。特に、マツ林を対象に、様々な生活様式を示すナラタケ類、機能が謎とされてきたマツタケ、線虫が関与するマツ材線虫病などを中心に、森林における生物間相互作用を明らかにしてきた。
 ナラタケは、寄生から共生まで多様な生活型を示し、特に、カラマツ、アカマツ、ヒノキなどの主要な樹木の根系を腐朽し、多大な被害を与えてきた。従来、わが国では子実体の柄につばを持つナラタケ属菌は1種とされていた。そこで同氏は、日本各地で採集された菌株を用いて、欧米種との対峙培養やアイソザイム解析、また制限酵素によるDNA解析を行い、欧米種7種を含む10種のナラタケの生物学的種がわが国に存在することを明らかにした。わが国における狭義のナラタケは、担子胞子形成・発芽過程において、核の挙動が欧米のものとは異なり、担子胞子には2nの核が1個と2個存在するものがあり、世界的に特異な種であることを明らかにした。一方、アカマツ林を精密に調査した結果、同じ林の中に、異なった種が共存し、種の特性によって、腐生や寄生などの異なった生活様式を示すことを明らかにした。
 アカマツとマツタケの関係については、野外における調査と平箱を用いた実験によって、マツタケ外生菌根形成過程を追跡した。顕微鏡とDNA解析を併用して、形態的変化に富む菌根組織から明確に菌糸細胞と根系細胞とを識別し、クロラゾールブラックE染色法によって、菌根の特徴であるハルティッヒネットが形成されることを明らかにし、このハルティッヒネットのもつ掌状分岐菌糸構造を生体内で観察することを可能にした。ハルティッヒネット菌糸がもつ酵素であるATPaseの活性が菌糸隔壁に局在し、根系細胞との接触部位で高い活性があることを明らかにした。また、マツタケの8つある系統の1つがわが国に優占すること、東アジアと欧州に分布するマツタケは日本に優占する系統と同一であることをDNA解析によって明らかにした。さらに、マツタケ菌糸を粉砕し、炭素源を含まない栄養培養液で培養した菌糸をアカマツの根系に無菌的に浸漬し、接種1〜2週間後に菌根を形成させ、さらに、菌糸の細胞膜透過性を高める界面活性剤や親水性を高める天然植物油を含む培養基質を用い、マツタケの人工シロを誘導する方法を確立した。
 マツ材線虫病について、樹体内での線虫の動態と樹体の水分生理状態から萎凋枯死に至る病徴進展過程を明らかにした。樹体の水分生理状態の変化は、潜伏期を経て2〜3年生葉の変色という可視的な病徴と同時に現れ、マツ樹体の水ポテンシャルや細胞壁の体積弾性率の変化から、樹体が浸透調節機能を失うことがこの病気の特異な現象であり、浸透調節機能の低下は水ストレス下で著しく進展する。このことから、気象条件や土壌環境などによるマツの水分生理状態がマツ材線虫病進展に重要な役割を果たし、宿主樹木と病原との双方向的相互作用がマツ材線虫病の病徴進展に決定的な影響を及ぼすことを明らかにした。
 同氏は、『樹木医学』、『森林保護学』の他、多数の編著書によって、樹木医学の発展に貢献してきた。さらに同氏は、持続可能な社会には森林・樹木の健全性が重要であるとして、樹木の保全に関する専門技術者の資格となる樹木医制度の創設と発展に尽力した。このような樹木医学のマイルストーンを築いた功績によって、樹木医学会功績賞が授与されている。その他、日本林学会会長、樹木医学会会長、国際森林研究機関連合(IUFRO)理事・森林の健全性部会長などを務め、また日本学術会議会員として「森林の多面的な機能の評価について」の取りまとめに参画するなど、森林の多面的な機能の高度な発揮に向けて主導的な役割を果たしてきた。