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受賞者プロフィール 沈 建仁

プロフィール

沈 建仁(しん・けんじん)

岡山大学異分野基礎科学研究所 教授

昭和36年11月10日 中華人民共和国出身
  同57年 中国浙江農業大学 卒業
  同61年 東京農工大学大学院農学研究科 修了(農学修士)
平成 2年 東京大学大学院理学研究科 修了(理学博士)
  同 2年 理化学研究所 太陽光エネルギー科学研究グループ 基礎科学特別研究員
  同 5年 理化学研究所 研究員
  同10年 理化学研究所 先任研究員
  同15年 岡山大学理学部 教授
  同17年 岡山大学大学院自然科学研究科 教授
  同28年 岡山大学異分野基礎科学研究所 教授
  現在に至る

受賞者紹介

<光合成の酸素発生機構の原子レベルでの解明>

 光合成は植物の最も基本的な属性の一つであるとともに、人を含めた地球上の生物の活動を支えるエネルギー源ともなっている。植物や、植物の葉に存在する葉緑体の起源となったシアノバクテリアは「酸素発生型光合成」を営む。酸素発生型光合成においては、生体膜上にある巨大なタンパク質複合体である「光化学系II複合体」が太陽の光エネルギーを利用して水分子から電子を引き抜き、副産物として酸素分子を発生させる。この過程で生ずる電子は植物による二酸化炭素から有機物への合成に利用され、酸素は大気中に供給され、酸素呼吸を行う全ての生物にとって不可欠なものである。以上のように、光化学系II複合体の営みは、地球の生命を育む基として極めて重要である。

 このため、光化学系II複合体による酸素発生機構の解明は光合成研究の中心的課題として、多くの研究者が取り組んできた。そして、長年の研究から、酸素発生反応は、光化学系II複合体中のマンガン原子とカルシウム原子と複数の酸素原子からなる金属・酸素化合物(クラスター)によって行われると考えられるようになってきた。しかし、この金属化合物の正確な化学組成も原子配置も明らかにされておらず、光合成を原子レベルで理解するにはほど遠い状態であった。

 沈氏は、光化学系II複合体の酸素発生機構の研究に長年にわたって取り組み、和歌山県の温泉で採取された好熱性シアノバクテリアを材料に、室温で安定な光化学系II複合体を調製する方法を開発し、高解像度で解析可能な結晶を作出した。そして、大型放射光施設SPring-8を利用したX線構造解析により、1.9Åという未曽有の解像度で原子レベルでの構造解析に成功した。これにより、この金属・酸素クラスターがMn4CaO5の組成をもち、Ca原子と一つのMn原子に2個ずつの水分子が結合した歪んだ椅子型構造をしていることを明らかにした。この成果は、神谷信夫氏との共同研究として、2011年のNature誌に掲載され、同年のScience誌による世界10大ブレークスルーの1つとして選出されるほどのインパクトを与えた。この研究により、沈氏と神谷氏は朝日賞を受賞している。一方で、この構造は、放射光の強いX線を用いて解析されたため、一部損傷を受けて変化したものであるとする意見が多く提唱されるようになった。そこで、沈氏は無損傷の光化学系II複合体の構造解析を進め、新設のX線自由電子レーザー施設SACLAのフェムト秒X線パルスを利用して、歪んだ椅子構造が光化学系II複合体の本来の特徴であることを証明し、さらにその構造中の各原子間距離を無損傷状態で精密に決定した。この成果は2015年のNature誌に掲載された。この2つの論文により、光合成の酸素発生系の初期遷移の構造が確定した。

 この研究成果のインパクトは様々な分野に及び、酸素発生系の中心機構を原子のレベルで述べることを可能にしただけでなく、酸素発生機構の精密な構造情報に基づき、大型計算機を利用した理論計算に道を拓き、また、太陽の光エネルギーの人工利用(人工光合成)の具体的なモデルを提供した。これにより、金属・酸素クラスターを模倣した水分解触媒の開発に道を拓いた。実際、沈氏らは共同研究により、Mn4CaO5クラスターに類似したモデル化合物を人工的に合成することに成功し、その成果は2015年にScience誌に発表し、人工光合成研究を前進させている。

 また、沈氏はこれらの研究で培われた巨大膜タンパク質複合体の高品質結晶作製技術を光合成研究全体に展開し、光化学系Iとそれを取り囲む光収集アンテナタンパク質の巨大複合体の立体構造を明らかにし、その成果を2015年にScience誌に発表し、光エネルギーが光収集アンテナから光化学系Iに効率よく渡される仕組みの解明に貢献した。

 以上のように、沈氏は、地球の生命にとって基盤である光合成の酸素発生機構を原子レベルで解くことにより、光合成研究を新たな地平へと導いた。この成果は、基礎科学としての光合成研究の進展にとどまらず、太陽をエネルギー源とする再生可能エネルギーの効率的利用にも大きく貢献することとなった。

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