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受賞者プロフィール 中村 太士

プロフィール

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中村 太士(なかむら・ふとし)

北海道大学大学院農学研究院教授

昭和33年11月11日 愛知県生まれ
昭和56年 北海道大学農学部卒
昭和58年 北海道大学大学院農学研究科林学専攻修士課程修了
昭和59年 北海道大学農学部助手
昭和62年 農学博士(北海道大学)
平成元年 北海道大学農学部講師
平成2年 日本学術振興会海外特別研究員(米国北太平洋森林科学研究所留学)
平成4年 北海道大学農学部助教授
平成12年 北海道大学大学院農学研究科教授
平成12年 北海道大学大学院農学研究院教授

平成17年 日本森林学会賞
平成21年 生態学琵琶湖賞
平成23年 尾瀬賞

受賞者紹介

 森林、河川、湿地、湖沼などのさまざまな生態系が組み合わされて構成される流域の環境を保全するためには、個別の生態系内の現象を解明するのに加えて、生態系間の相互作用と結びつきを解明することの必要性を明らかにしたのが同氏の研究である。流域一貫の思想を提唱し、それを裏づける生態系管理の方法を提示して、荒廃した水辺環境の修復に貢献した研究成果は国際的に高い評価を得ている。

 流域内では洪水、山崩れ、火山噴火などさまざまな自然現象による地表変動が絶えず起こり、生態系の撹乱が生じている。過去の撹乱の履歴を樹木の年輪、炭素、火山灰による年代測定などのデータを積み重ねることにより明らかにし、その後に生じた森林の生育と更新過程との関係を解析した結果、地表変動と攪乱は環境破壊という側面だけではなく、生態系の維持機構として欠くことが出来ない役割を果たしており、流域の生態系は空間的にも時間的にもダイナミックなシステムを維持していることを解明した。

 まず、河川や湿地の周辺に成立する渓畔林(水辺林)を構成する樹種と生育過程を調べ、生育場所の地形とそこで生じた撹乱の強度と頻度の関係を定量的に分析した。撹乱に伴う土砂の堆積、水分と養分の変化に対応して稚樹が発生し生育して新たな渓畔林が更新される。これが繰り返されて場所が移動し、生育段階の異なるモザイク模様が出来る。これにより渓畔林が維持されて生存できることを実証した。

 つぎに、渓畔林の生態的な機能の解析を進めた。水辺に繁茂する樹木によって起こる日射遮断と水温安定、落葉リターと倒木の供給による有機物収支および水質変化を定量的に測定して、そこに棲む底生動物と魚類の生息場所の形成と餌供給への影響を明らかにした。

 これらの研究成果から明らかになった流域内の生態系の相互作用を、全国で生じている氾濫原・湿地の乾燥化・樹林化による環境劣化の問題に応用した。日本最大の釧路湿原は広大な森林と農牧地とを上中流域にもち、最下流に位置している。高度成長期における流域周辺の土地開発により1990 年代から深刻な環境破壊が生じたが、そのための総合調査と修復事業は日本の自然保護の考え方に画期的な転機をもたらす出発点となった。森林伐採と大規模農牧地開発、それに伴う河道改修により土砂と栄養塩の流出が加速されて湿原の陸地化と富栄養化が進行した。同氏はこの調査で中心的な役割を担い、流域内のそれぞれの生態系の役割を解析して、統合的で自然に順応した流域管理の方法を提案した。そして、従来の工学的な手法を主とする方法に代わって、同氏の順応的な方法で事業は進められ、流域生態系管理の有効さが証明された。水辺や湿地保護の重要性が認められ、修復方法について画期的な転換が実現した。

 また、北海道の標津川流域や知床世界自然遺産地域の河川環境を調査して、サケの回帰と生息を可能にする自然復元計画を作成し、生物種と生息環境による河川の健全性評価と復元の方法を確立した。

 この流域生態系管理の方法は、その後、日本の森林、河川、湿地の管理指針として広く受け入れられ、今日では、流域を一貫して保全する順応的な生態系管理の考え方と受動的な再生方法が確立されている。さらに、現在の森林・林業基本法、自然再生推進法、生物多様性国家戦略制定の科学的根拠となり、国内の自然保護だけでなく国際的な河川・湿地の管理原則となった。

 同氏の一連の研究成果は「流域一貫」(1999)、「水辺域管理- その理論・技術と実践」(2000)、「流域社会と森林」(2007)などとして出版された。また、Landscape and Ecological Engineering の編集委員長として国際的にこの分野の研究水準を飛躍させた。

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