内閣府 Cabinet Office, Government of Japan

内閣府ホーム  >  内閣府の政策  >  みどりの学術賞  >  過去のみどりの学術賞  >  第10回みどりの学術賞 受賞者  >  受賞者プロフィール 井上 勲

受賞者プロフィール 井上 勲

プロフィール

井上氏の写真

井上 勲(いのうえ・いさお)

筑波大学特命教授、筑波大学名誉教授

昭和25年2月7日、沖縄県生まれ
昭和49年、東京教育大学理学部卒業
昭和54年、筑波大学大学院生物科学研究科博士課程修了
昭和54年、理学博士(筑波大学)
昭和54年、筑波大学研究生
昭和55年、筑波大学技官
昭和56年、筑波大学生物科学系助手
     ナタール大学植物学部奨励研究員
昭和58年、国立公害研究所客員研究員
昭和59年、筑波大学生物科学系講師
平成 2年、筑波大学生物科学系助教授
平成 8年、筑波大学生物科学系教授
平成16年、筑波大学大学院生命環境科学研究科教授
平成24年、筑波大学生命環境系教授
平成27年、筑波大学名誉教授
平成27年、筑波大学特命教授
現在に至る

平成14年、日本藻類学会 論文賞
平成16年、The Luigi Provasoli Award(アメリカ藻類学会論文賞)
平成18年、The Tyge Christensen Prize(国際藻類学会論文賞)
平成19年、日本植物学会 学会賞特別賞(教育)
平成27年、第25回南方熊楠賞

受賞者紹介

 <葉緑体を獲得した『藻類』の系統分類学と多様性進化解明>

 海に囲まれている日本では、藻類は食料として、また、赤潮など漁業や環境問題などにおいて、古くから私達の生活に深く関わってきた。そして最近ではバイオエネルギーへの利用にも注目が集まっている。藻類とは、酸素発生型光合成を行う生物のうち、主に水中生活をするものの総称で、単細胞性藻類から、多細胞性で大型の海藻類まで実に多様な生物群を含む。井上氏は、これら藻類の系統解析ならびに多様性進化解明に大きな研究成果をあげてきた。

 約15億年前、捕食性の原生生物がシアノバクテリアを取り込んで葉緑体を進化させ、最初の藻類が生まれた。それら原始的な紅色藻類や緑色藻類のあるものは、さらに別の捕食性原生生物に取り込まれて共生藻となり、これらも葉緑体に進化したと考えられている。つまり、葉緑体は一次共生だけでなく、二次共生によっても作られたのである。井上氏は、一次共生で生まれた緑色藻類(一次植物)や、二次共生に由来する葉緑体を持つ生物(二次植物)であるハプト藻類や不等毛類等を中心に研究を行ってきた。特に、ハプト藻類について、ハプトネマと呼ばれる鞭毛様の細胞器官の構造と機能解明を行い、ハプト藻類が光合成により自ら栄養を作り出すだけでなく、ハプトネマによって餌粒子を細胞内に取り込むという動物的な栄養摂取(食作用)を行っていることを初めて発見した。また、これら二次植物の分子系統解析を進めた結果、二次共生が様々な系統の生物群で平行的に起きた事や、二次共生こそが現生の藻類の多様性進化の大きな原動力となった事を示唆する様々な研究成果を得るに至っている。井上氏は、こうした研究成果により藻類の起源の多様性を明らかにし、藻類の系統分類学の発展に寄与したばかりでなく、藻類をはじめとする生物の多様性を生み出した進化の道筋の解明にも大いに貢献したと言える。

 葉緑体進化をもたらした細胞共生は遠い過去に起きた現象であり、現生生物においてその過程を目にすることはできない。しかし、井上氏らが発見した「ハテナHatena arenicola」は、半藻半獣モデルとして、葉緑体の獲得による植物化のプロセスを解明する上で特筆すべきものであり、高校教科書でも紹介されている。ハテナは、和歌山県の海岸の砂浜で発見され、鞭毛をもつ単細胞性の原生生物で葉緑体(共生藻としてのネフロセルミス藻)をもつ。有性生殖はみられず、二分裂で個体を増やす。細胞分裂時、多くの生物では葉緑体が均等に分配されるが、ハテナでは常に一方の娘細胞にのみ共生藻が受け継がれる。葉緑体が受け継がれなかった無色の細胞は、細胞の一部に捕食装置を作り、新たにネフロセルミス藻を捜して取り込む。すなわち、ハテナには植物相と動物相があり、二次共生による植物の進化が現在進行形の状態にあると考えられる。

 生物の大系統の分子系統解析が進んだ結果、今や藻類はいくつものスーパーグループにばらばらに属していることが明らかとなり、動物、植物、菌類の関係と同等、あるいはそれ以上の進化的な隔たりがある。井上氏は、藻類を通して生物界を俯瞰的にとらえようとし、それらを大著「藻類30億年の自然史」に著している。井上氏のアイデアは、葉緑体とミトコンドリアを生み出した一次細胞共生システムが、さらに進んで二次共生を起こしたように、生物間の相互作用こそが、この地球の多様性を生み出した原動力であると捉えるものである。地球の歴史を、地球と生物、さらに生物間の相互関係によって理解すべきとする井上氏の観点は、地球上で生活する我々ヒトに大きな示唆を与えるものである。また、井上氏は、大量の藻類画像データを世界で初めてウェブで一般公開した。これら画像データは研究者のみならず藻類に興味をもつ多くの人々に広く活用され、本功績から日本植物学会から学会賞特別賞(教育)を受賞している。

 以上のように、井上氏は、シアノバクテリアを共生させて光合成能を獲得して誕生した「藻類」が30億年の歴史を重ね多様に進化してきた道筋を、細胞共生を軸として解明し、系統分類学の発展と多様性進化の解明に多大な貢献をした。

内閣府 Cabinet Office, Government of Japan〒100-8914 東京都千代田区永田町1-6-1
電話番号 03-5253-2111(大代表)