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受賞者プロフィール 井手 久登

プロフィール

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井手 久登(いで・ひさと)

東京大学名誉教授

昭和11年9月9日、東京都生まれ
昭和36年、東京大学農学部卒業
昭和38年、東京大学大学院生物系研究科修士課程修了
昭和38年、東京大学農学部助手
昭和43年、西ドイツ国立植生学・自然保護・景域保全研究所客員研究員
昭和45年、農学博士(東京大学)
昭和48年、東京大学農学部助教授
昭和59年、東京大学農学部教授
平成 9年、早稲田大学大学院客員教授(平成18 年まで)
平成 9年、東京大学名誉教授  現在に至る

昭和40年、日本都市計画学会石川賞
昭和47年、日本造園学会賞
平成 3年、日本公園緑地協会北村賞
平成 5年、国際芝草学会「1985-1989 の国際貢献」表彰
平成13年、日本都市計画学会功績賞

受賞者紹介

 <都市農村計画における景域保全論と自然立地的土地利用計画手法の確立と実践>

 みどりとか自然というものは、文字通り自然に残るものではない。みどりの多面的機能を踏まえて、社会の意志として政策を策定し、計画を立案し、行政的に事業が遂行されてこそ持続的に担保される。そのための緑地の保全創出、管理運営の計画や技術の体系が「緑地学」(Landscape architecture)である。

 井手久登氏の功績は緑地学全般にわたる広汎な研究、教育、社会活動にあるが、特に、都市農村計画における景域保全論と自然立地的土地利用計画手法の確立と実践については他の追随を許さない。

 同氏は1960 年代に西ドイツ(現:ドイツ)に留学するが、そこで地域秩序法(Raumordnungsgesetz)に「土地利用については、経済・社会・文化的要請と同時に自然的要素をも重視しなければならない。」ということと、同法、地域秩序の原則に「農業利用によく適合している土地は、他のすべての利用形態に対し無条件に優先されるべきである。」ことを見い出し、強く共感する。わが国では、狭い国土のなかで土地利用の競合が起こると必ず経済効率が優先されてきたし、災害時には自然条件に関心がもたれても一過性で終わってしまっていたからである。こうした状況を克服するには、自然条件を重視した土地利用計画の理論的手法の確立と、さらにはそのなかで緑地環境の保全育成技術を深化させ実践してみせなくてはならない、と同氏は構想する。

 土地自然のもつ潜在力を有効かつ永続的に利用しようという考え方は、凡そ農業時代の世界の常識であったし、第二次世界大戦後も各国で提案されてきた。ドイツの景域計画(Landschaftsplan)、イギリス、アメリカの自然保全論(nature conservation)、国連環境計画(UNEP)の生態学的開発(ecodevelopment)、戦後日本一時期の農林業土地利用分級などがその例だ。ただ多くは部分的適合で全体計画との関係が不十分であったり、わが国のように微地形が発達し多様で複雑な土地自然の場合の計画手法にはほど遠いものであった。

 そこで同氏のフィールド・サーヴェイと理論化への挑戦がはじまる。八郎潟新農村建設計画、筑波研究学園都市、多摩ニュータウン等々わが国を代表する大規模開発計画に参画し、景域保全の思想を、具体的な緑地保全計画・緑化計画に反映させ、わが国でもみどりや自然を重要視した計画の潮流をようやく主導することに成功する。その間、同氏はわが国江戸時代前期の『清良記』『百姓伝記』、沖縄の『林政八書』など農書の分析考察を経て日本の土地自然気候風土、文化に根ざした土地利用の特質を考究してもいる。

 同氏の方法を要約すると、景観(Landscape)に生態的、歴史的、文化的、社会的意味をすべて含めた統合概念として「景域」(Landschaft)を定義し、その景域を、永続的で美しく健全に保全すべく「自然立地的土地利用計画手法」を確立する。その方法は、生物的自然の代表指標として植生を調査、植生、土壌、地形を組み合わせて立地単位を区分する。立地単位毎に耕地、林地、集落、宅地、保全すべき緑地への適合性を評価した上で、これを総括した総合立地図を示す。この図を基に適合性の高い順に土地利用を配分し、自然立地的土地利用図を作成する。最初にこの図を作成し、これに社会経済条件、交通条件等を加味して最終的な地域総合計画図を導くことで自然重視が可能になる。これで、東日本大震災でも具体化している復興計画にみる災害に強い集落立地、適地適作の農業、自然風土に適合した緑地整備や植物種の選定、緑地造成後の維持管理方針適正化などの計画策定が可能になる。

 同氏の研究成果は、『景域保全論』(1971)、『緑地保全の生態学』(1980)、『自然立地的土地利用計画』(1985、武内和彦と共著)、『緑地生態学』(1993、亀山章と共編著)、『緑地環境科学』(1997、編著)などの著作を通じて、また同氏主宰の応用植物社会学研究会が中心となって、植生学的調査を基礎とした緑地環境保全計画が立案され、これがあらゆる開発計画に先立つ基本調査としてプランナーの常識に定着していく。こうして井手久登氏の景域保全思想は、国や自治体のみどり諸計画の理論的根拠となり、国土保全、農村整備、緑地緑化計画等における自然尊重、自然的立地による土地利用の普遍化に大きな力となったのである。

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