
京都大学名誉教授、オーストラリア国立大学非常勤講師
昭和8年12月6日、京都府生まれ。
昭和31年、京都大学農学部卒業。
昭和33年、京都大学大学院農学研究科修士課程修了。京都大学食糧科学研究所助手。
昭和38年、農学博士(京都大学)。
昭和44年、京都大学食糧科学研究所助教授。
昭和60年、京都大学食糧科学研究所教授。
平成9年、京都大学名誉教授。福山大学工学部生物工学科教授(平成18年まで)。
オーストラリア国立大学非常勤講師。現在に至る。
昭和49年、日本農芸化学会「農芸化学奨励賞」受賞。
平成5年、日本農芸化学会賞受賞。ドイツ・フンボルト財団「フンボルト研究賞」受賞。
平成9年、日本植物生理学会「論文賞」(共同受賞)。紫綬褒章受章。
平成10年、日本フリーラジカル学会賞受賞。
平成13年、Highly Cited Researchers in Plant and Animal Science (Institute for Scientific Information, USA)受賞。
平成15年、マテリアルライフ学会「総説賞」受賞。
人類の生存に必要な食糧、繊維・木材・紙などの有機資源、さらに化石燃料も、すべて過去から現在に至る植物光合成の産物であり、さらに、地球環境の保持や温暖化の防止も「みどり」の機能に大きく依存している。今後、地球環境の変動により、植物は大きな環境ストレスにさらされることが予想され、こうした環境下においても、植物光合成による二酸化炭素(CO2)の固定を維持・向上させることが、人類の生存にますます重要になってきた。
同人は、ヒトの皮膚が短時間に日焼けする太陽光の下で、植物の葉はなぜ日焼けせずに「みどり」を保ちつつ植物光合成が進行できるのかに疑問をもち、これに対する回答を求めて研究を進めてきた。それまで、生物にとって危険なスーパーオキシド・ラジカル(O2-)は放射線によってのみ生成すると考えられていたが、同人は、葉で植物光合成が進行する場となる葉緑体において、これが可視光によって生成することを発見し、O2-をはじめとする「活性酸素」が葉緑体で生成する反応機構を明らかにすると共に、植物が活性酸素を速やかに消去して水に還元し、「みどり」の日焼けを防御するメカニズムを明らかにした。
植物光合成では、(1)まず、太陽の光エネルギーが「みどり」の色素であるクロロフィルに吸収され、色素の励起、電荷分離を経て還元力となる電子が生じる。(2)この電子が電子伝達系を経て生化学エネルギーであるNADPH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)、ATP(アデノシン三リン酸)を生成する。(3)ついで、これらを利用してCO2が固定される。(1)、(2)の過程は100分の1秒以下で進行する速い反応であるが、O2-はこの段階で生成する。したがって、O2-を初めとする活性酸素が「みどり」の機能に障害を与えないようにするには、(1)、(2)の反応よりも速い速度で活性酸素を消去しなければならない。同人は、生物物理学、生化学、分子生物学、光化学、細胞科学などの手段を駆使し、葉緑体において100分の1秒以下の速さで生じた活性酸素が拡散して「みどり」の機能に障害を与える前に、より速い速度でこれを消去するメカニズムの存在を証明し、これに関与する新しい酵素や、葉緑体内でのその分子配置などを解明した。
さらに同人は、自然環境の下で太陽光照度が高すぎるときや、たとえば水ストレスなど他の環境ストレスによって(3)のCO2固定が進行できないような場合、このシステムが、過剰の光エネルギーを“安全に”消失させ、光阻害を抑制する機能をもつことも明らかにしている。
葉緑体の活性酸素を消去する反応では、葉緑体の光化学系IIにおいて水から酸素が発生するときに生ずる電子によって、光化学系Iにおいて酸素が活性酸素を経て水にまで還元されることから、同人はこのシステムを“Water-Water Cycle”と命名した。植物光合成の効率に影響する環境ストレスの解析において、同人の解明したこのシステムは、国際的にも高く評価され、基本文献として多くの論文に引用され、定説として広く認められている。さらに、これをもとに環境ストレス耐性植物の分子育種が試みられている。
これらのシステムが確立されるまで、植物光合成に必要な光が植物光合成を阻害することはあり得ないとするのが常識であり、その当時、医学の分野でも呼吸に必要な酸素がヒトに障害を与えるとは信じられていなかった。しかし、同人は上記のように、植物では太陽光によって活性酸素が生じ、これを効果的に消去することが「みどり」を保つために必須であること、また、活性酸素の生成-消去バランスが好気性生物の生存にとって重要であることを約30年前に提唱し、反応性の高い酸素の分子種(O2-, H2O2,・OH, 1O2)をまとめて「活性酸素」とよぶことを提案した(生化学48 : 226(1976))。その後、ヒトを含むすべての生物において同様のことが認識されるようになり、現在、活性酸素は『広辞苑』などの国語辞典にも採録され、生物の環境ストレスを考える上で重要なキーワードとして広く使われている。たとえば「みどり」の成分を含む食品は活性酸素の消去成分を含むため、ヒトの体内で生成する活性酸素も消去できるといったように、「みどり」の分野と、ヒトの環境要因として最も重要な食品の分野の間で、活性酸素をキーワードとして相互に議論されるようになってきた。
また、同人は、日本植物生理学会会長、編集長として、さらに、活性酸素などに関する国際会議の開催によって、「みどり」の学術の日本での発展、社会的啓蒙、さらに国際的な発展にも大きく尽力している。
以上のように、同人は世界にさきがけて、生物に害をおよぼす反応性の高い酸素の分子種を「活性酸素」と名付け、植物光合成の場である葉緑体における活性酸素の生成と消去のメカニズムを解明し、活性酸素を中心に植物の環境ストレス耐性の機構を明らかにした。この功績は、人類の生存に必要な二酸化炭素の固定に不可欠である光合成のしくみを解き明かしたという意味で、誠に顕著なものといえる。