|
前述したようにこれから日本、そして世界は人類がかつて経験したことのない時代を否応なく迎えることになる。従来型の発想、それに基づく対応では、この時代を乗り切るのは困難である。
世界人口の増加やBRICsの急速な台頭の中で、地球規模の制約条件を打破し、成長を続けるための鍵はイノベーションしかないことに世界の先進各国も気づき、それぞれのイノベーション戦略を構築してきている。グローバル時代の競争の中で、日本の高い競争力を維持していけない場合には、世界のGDPの中で日本の占める比率は、現在の15%から2025年には4%になるとの予測もある(注1)。日本のような人口減少国家の唯一の持続可能な経済発展の手段は生産性の向上であり、その源泉が、世界を視野に入れたイノベーションであることは論を待たない。
そのためには個人の働き方、組織の体制、各種制度等に関し従来のやり方にとらわれることなく、新たな考え方に立脚することが必要である。すなわち、これからは個人個人の能力を高めるとともに、情報化社会の利点も活用した「外」、「異」との融合、協働を通じ各人が能力を最大限発揮し、新たな科学技術・サービスで新たな付加価値を社会に生み出し、その結果生活者の暮らし方等社会に変化がもたらされることがイノベーションであるという考え方を社会全体で共有し実践していくことで1人当たりの生産性を向上させていくことが基本である。
幸い日本には、消費者の厳しい要求から生まれた高い品質を誇る技術がある。また、資源に乏しい国として常に省エネルギーに努めてきた結果、高いレベルの省エネルギー技術もある。これらの例に象徴されるように、課題はピンチでなく次の新しい技術を生むチャンスである。
高齢化する社会は、新しい需要を生み、それが新しい技術やサービスを牽引する原動力となり、結果として我々の生活をより豊かにし経済発展する可能性を秘めている。地球温暖化等グローバルな環境問題は、日本の強い環境技術をさらに高度化し、世界に発信するとともに、新しい国際的枠組み作りへの努力を促すチャンスである。日本がこれらの課題にチャレンジすることにより、経済成長やより豊かな国民生活を可能とするイノベーションが起こるのである。
日本の直面する課題の解決に立ち向かうためには、強い分野の科学技術への投資をさらに拡充するとともに、弱い分野については、変動する国際環境の下での対応力を保持するため必要なものは強化し、そうでないものについては世界と協力して取り組んでいく必要がある。
イノベーションは、予想を超えたところのアイデアから生まれることから、多様でかつ成果が見通せない研究開発に常に投資をしておかなければならない。日本の国際競争力と国際貢献力の強化のため、イノベーションの原点たる科学技術への投資、その成果を最大に活かす人材の育成、仕組みの強化が今ほど重要な時はない。
また、イノベーションは社会の様々な壁を取り払う役割を果たしてきた。インターネットの普及というITイノベーションは、国境を越えた人々の瞬時のコミュニケーションを可能にし、人々の間に存在していた時間や空間、情報の壁は事実上崩壊した。様々な医療技術の進歩による病からの解放は、肉体的に弱い人々を救う大きな福音となっている。交通手段の高度化は、地理的距離を大幅に短縮し、人の活動をよりスムーズにし、どこに住むかという差を小さなものにしている。
このように、イノベーションは年齢、障害、性差等により従来生じているハンディを解消、あるいは小さくする上で大きな役割を果たす。さらに、イノベーションは、地域、国際、情報、家族形態等、個人の間に生じている様々な差を減らす、あるいは解消していく上でも大きな役割を果たす。
科学技術の進歩は様々な恩恵をもたらし、その恩恵が一人でも多くの人に届けられることが真のイノベーションの目標とするところであり、「イノベーション立国」の先には個々人の能力が最大限発揮される活力ある社会が見えてくる。
イノベーションについて、マクロ経済の観点からみれば、(1)生産性の向上や、女性・高齢者の労働参加率が高まることによる労働力人口の増加等によりGDP成長率を押し上げる効果、(2)新たな市場や価値の創造、雇用機会が創出される効果、(3)国民生活を新たな水準にさらに向上させる効果等がある。「イノベーション25」を含む諸般の政策取組により、このような効果が十分発揮されることが期待される。
|