このコーナーの記事は私見に基づくものであり、
イノベーション25特命室の公式な見解を示すものではありません。
黒川顧問からのメッセージ・第8回「日本の強みを伸ばして活かすイノベーション」(2007/1/29)
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私は昨年10月から出口俊一氏が主催している"Digital New Deal"という大学発ベンチャー起業支援サイトで、「学術の風」という企画をはじめています。また「『イノベーション25戦略会議』への緊急提言」という集中連載で「イノベーション25」へのご意見をいただいています。
つい先日、経済産業省の石黒憲彦氏の「イノベーション・システムのハイブリッド化」という以下のような話がありました。
「●高橋恭仁子氏によれば、過去20年間日米トップ企業間の利益率格差は、ROAで1.8%、ROSで3.1%、ROE9.5%で、ROEの格差が大き い。これをさらに、ROA=ROS×総資本回転率、ROE=ROA×財務レバレッジ(自己資本比率の逆数)に分解した上で分析すると、日本企業は、ROA が上昇しているにもかかわらず、ROEが低下しており、その背景には、自己資本比率が上昇していることがあげられます。一方米国企業では、その逆です。
●岸本太一氏は、日米の自己資本比率の違いは、ヒト(従業員)と資本(株主)という「本源的構成要素のうち、米国は相対的に資本を、日本は相対的にヒトを重視して経営を行っている」からではないかと述べています。
●中野誠氏によれば、産業内利益率の格差を見ると、米国下位企業の赤字傾向が顕著で、トップ企業との格差が極めて大きいのに対して、日本は格差が少なく、全体として、利益率の推移は安定している傾向があります。
●こうした違いから、田中一弘氏は、「株主の致富の手段としての企業(米国)」対「社会の公器としての企業(日本)」という考え方の違いがあると述べています。
●最後に、伊丹敬之氏は、「企業とは付加価値を生み出す存在であり、その付加価値の中から従業員に安定的に分配することが企業の大きな目 的である、と日本企業の多くは暗黙のうちにせよ考えている」と述べ、日本企業は一貫して株式市場で資金を調達しつづけ、かつ利益のかなりの部分を内部留保 として自己資本増強に努めてきたのに対し、米国企業にとっては、株式市場は資金調達のための市場というよりは株価評価のための資金返還のための市場であ り、歪んだ「資金返還競争」によって本来資源投入が必要な企業にも資金返還を迫り、下位企業に悪影響をもたらしたのではないかと指摘しています。
●上記の研究は、「日米企業の利益率格差」をデータから丁寧を分析しているために説得力を持って日米の企業観、市場観、利益観の違いを 浮き彫りにしています。この結果、マスメディアやアナリスト、学者の一部が浅薄に一刀両断するように、単純に「米国企業は利益率が高く、経営者がプロで有 能」でもなければ、「日本企業は利益率が低く、経営者がサラリーマンゆえに無能」でもないことがはっきりしました。
●但し、日本全体を考えていく上で気になるのは、上記の分析があくまで上場大企業の集団を対象にしたものだということです。イノベー ションの担い手全体を見渡しながら資本主義システム全体を考えると、例えば米国の特徴として指摘された「外部資本市場の発達によって大化けを狙った長期の 赤字と多産多死を許容すること」や「ヒトの流動性」は、ベンチャービジネスを育む上では大きな強みとなるわけで、これについては別な見方もできます。コイ ンの表と裏側で、我々のシステムの強みが弱みになる部分も間違いなくあるわけです。閉じた大企業内、大企業間では活発にイノベーションが行われていても、 その外側のベンチャービジネスや大学のイノベーション活動を育むという観点からは、現在の環境はなお不利な面があるでしょう。
●上に見てきたように、上場企業集団にみられる日本型企業経営は決して捨てたものではありません。だからこそ、これからの課題は、こうした上場企業集団の外側の更なる活性化と内外の連携です。
●大企業集団の内と外でイノベーションの担い手が互いに連携しながらダブルトラックで活発な活動を展開するとき、厚みを持った新たなハイブリッド型日本モデルが誕生し、日本型資本主義システムはより強靭なものになっていくのではないでしょうか。」
日本には、いいところがたくさんあります。日本は、世界の動向にもっと目を向け、強みを活かしながら随所をオープンにして、人類の問題に立ち向かうような高い志を持つことで、イノベーティブな、活力とチャンスと優しさを備えた新成長経済を実現できると思います。
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