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第2回 消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループ

日時

2018年4月12日(木)13:00から15:10

場所

消費者委員会会議室
(東京都千代田区霞が関3-1-1 中央合同庁舎第4号館8階)

出席者

【委員】
鹿野座長、池本座長代理、高委員長、樋口委員、山本委員
【オブザーバー】
大森委員
【説明者】
神戸大学大学院法学研究科教授 泉水文雄氏
東京大学大学院法学政治学研究科教授 荒木尚志氏
【事務局】
黒木事務局長、福島審議官、丸山参事官

議事次第

  1. 開会 
  2. 有識者ヒアリング 
  3. 閉会 

配布資料(資料は全てPDF形式となります。)

議事録

≪1.開会≫

○丸山参事官 それでは、定刻になりましたので、会議を始めさせていただきたいと思います。

本日は、皆様、お忙しいところをお集まりいただき、ありがとうございます。

ただ今から「消費者法分野におけるルール形成の在り方等検討ワーキング・グループ」第2回会合を開催いたします。

なお、本日はオブザーバーといたしまして、消費者委員会から大森委員に御出席をいただいております。

議事に入ります前に、配付資料の確認をさせていただきます。

お配りしております資料につきまして、議事次第の下部に配付資料一覧を記載しております。不足の資料がございましたら、事務局までお申し付けいただきますよう、よろしくお願いいたします。

それでは、鹿野座長、以後の議事進行をよろしくお願いいたします。


≪2.有識者ヒアリング≫

○鹿野座長 それでは、本日の議題に入らせていただきます。

本日は、消費者法分野におけるルール形成の在り方の重要な論点となるところの「行政規制と民事ルールの役割分担」及び「努力義務規定の意義」に関して御意見を伺うため、お二人の参考人にお越しいただきました。

お一方は、神戸大学大学院法学研究科教授の泉水文雄様でいらっしゃいます。もうお一方は、東京大学大学院法学政治学研究科教授の荒木尚志様でいらっしゃいます。

会議の前半は、泉水教授から御説明をいただいた上で意見交換を行いまして、会議後半には、荒木教授から御説明をいただいた上で意見交換を行いたいと考えております。

それでは、まずは「行政規制と民事ルールの役割分担」の検討に関連して、泉水教授から「市場における競争と消費者保護」の観点からお話をいただきたいと思います。

泉水教授の御専門分野は、経済法、中でも独占禁止法及び競争法でいらっしゃいます。

また、泉水教授は、公正取引委員会が開催するところの独占禁止法研究会の委員でもいらっしゃいます。

同研究会が昨年4月に取りまとめた報告書においては、独占禁止法上の課徴金制度について、違反行為を抑止する目的の下で一定の柔軟性を認めるといった運用についての提言もなされているようです。こうした観点を含め、独占禁止法の経験と、それを踏まえての今後に向けた検討については、本ワーキング・グループでの議論の参考になるのではないかと考えているところでございます。

それでは、泉水教授に20分程度でお話をいただけますでしょうか。よろしくお願いします。

○神戸大学大学院法学研究科教授泉水文雄氏 よろしくお願いいたします。神戸大学の泉水と申します。

今、御紹介がありましたように、独占禁止法、競争法を専門としております。実は昨日から花粉症がひどくて、非常にお聞き苦しいと思います。その上に関西では黄砂も飛んできたりして、昨日から非常に症状がひどいので、お聞き苦しいと思いますが御容赦いただきたいと思います。

では、お手元の資料1に沿ってお話させていただきたいと思います。目次と書かせていただいたページにおいて全体図をお示ししております。消費者保護制度の目的や機能について、弱者保護の観点と私の専門であります競争の促進という面について見ていただきまして、それから、実効性の確保手段、特に行政措置として典型的なのか例外的なのか分かりませんけれども、独占禁止法の実効性確保手段を確認し、独占禁止法の課徴金制度をかなりリファインして発展させたものと思われます景品表示法での実効性確保手段を見るという形でお話をさせていただきたいと考えております。

3ページを御覧ください。消費者保護制度の目的・機能についてでありますが、一つは、こういう表現で良いのか分かりませんが、弱者保護、あるいは消費者の保護ですね。これを直接行うというもの。これが一つの大事な目的といいますか、恐らく第一の目的であろうと思われます。今回は、市場との関係でのお話をということで、消費者保護、弱者保護等の観点は説明を省略させていただきます。

その次のポツも関連すると思いますので、見ていただきたいと思います。様々な説明を書いていますが、例えば、対等な情報があって初めて、消費者と事業者は契約の自由の原則が想定する関係に立てる。消費者と事業者は対等な関係にあるということから、契約自由の原則が妥当するわけですけれども、必ずしも古典的な契約自由の原則というものは実際には成立していないだろうとすると、そのような実質的な意味での契約自由の原則の前提が成立するためには、消費者は十分な情報に基づいてこそ、合理的、主体的に行動できることが前提になるのだろうと思われます。そのために、消費者保護規制というものは、消費者がこのように十分な情報を基づいて合理的、主体的に行動できるように支援するという点に、一つ重要な役割があるのではないかと思われます。

それとともに、ここに書いておりませんが、場合によっては取引というのは、消費者が十分な情報に基づいて合理的、主体的に行動できないような取引も世の中にはあるはずです。例えば、とりわけ子供やお年寄りですね。このような人々がそのような取引に参加するということは、本来認められないようなもの、例えばリスクの高い取引などがあろうと思います。そのような場合には、子供やお年寄り、あるいは素人に対して、そのような取引を勧誘するという行為に対しては、法によって一定の制限ないしは制約をかけるべきだということになるだろうと思います。これが消費者保護制度の目的・機能の一つ重要なものであると思います。

3番目のポツですけれども、その際に、特に規制緩和が進んでいくと、このような形で新しいタイプの取引が発生するというわけでありますけれども、では、規制緩和が進行していくと、規制はなくなるのかというと、そういうわけではないと思います。従来は規制によってそもそもなされなかった取引が新たに行われていくとするならば、消費者等は情報の非対称性等をもって取引に入っていくわけでありますから、それに対して消費者を支援したり、一定の場合には制約するための新たな法規制が同時に導入されたりすることが一般的であろうと思います。ですから、規制緩和が進行すれば規制がなくなるのではなくて、むしろ新たな規制が行われるというのが、通常であろうと思います。そういう意味では、規制緩和と規制の強化というのは両輪であると言うことができると思います。

以上が一般的なお話でありまして、次に、私の専門に入っていきたいと思いますので、4ページに行かせていただきます。消費者保護制度の目的のもう一つの機能又は目的というものは、ここに書いてありますとおり、市場機能を補正して市場を形成する。そのままであれば市場が有効に機能しないというような状況にあるときに、法が介入して市場機能を補正し、それによって市場を形成し、それで取引がなされるようになる。そういう機能があると思います。それは私の専門分野の言い方をすれば競争促進と言うこともできますし、経済的に言うならば、社会的厚生を増加させる、あるいは社会的総余剰を増加させるといったような形で説明することもできるかと思います。このような機能が市場の一つの重要な機能ではないかと考えております。

情報の非対称性があるというような市場があります。ここでは、アカロフの「レモン」の問題と書きました。御存じかと思いますが、アカロフというノーベル経済学賞を取った方ですが、この方がこの分野の第一人者です。この方の言う「レモン」の問題というのは、「レモン」というのは通常の果物のレモンですけれども、アメリカでは見た目はいいのだけれども中がぼろぼろなもの、欠陥のある中古車を「レモン」と呼んでいるそうです。外見はきれいなのだけれども、しかし、中身はぼろぼろ。そういうものを「レモン」と呼んでいる。「レモン」は、確かに外見は非常にきれいなのです。でも、日本ではないと思いますが、どうも外国では切ってみたら中が腐っているというようなことがあるのだそうです。それを「レモン」の問題と呼んでおります。

消費者は事業者が販売している商品や役務、役務の方が多いかもしれませんが、事業者が販売と供給を行っている商品や役務について、それが「レモン」なのかどうか。つまり、外見はきれいなのだけれども、中身は欠陥があるのかどうかは分からないということが通常です。とすると、消費者は「レモン」であることを恐れて取引に入ることをちゅうちょすると思われます。

これは消費者の問題なのですが、次のポツです。通常の優れた商品を供給している事業者にとっても、このような問題が起こることは困ったことです。と言いますのは、ちゃんとした事業者も、自分が供給している商品や役務が「レモン」ではないということを立証するのは非常に困難です。消費者は疑って見ますから、ちゃんとしたものを供給しているのだということを自分は確信しているのですが、消費者は供給している商品が「レモン」かどうか分からない。とすると、消費者は取引に入ってくれないという問題があります。

そのために、ちゃんとしたものを供給した事業者は、自分は「レモン」を売っていないのだ、ちゃんとしたものを売っているのだと相手に確信をさせなくてはいけません。これをコミットメントと呼んでいますが、コミットさせなければならない。その方法はなかなか難しい。これは不完備契約の問題と経済学では呼ばれています。

このような状況においては、せっかく良い商品や役務を供給しており、かつ消費者も良い商品なら購入を望んでいるにもかかわらず、この取引が成立しない、あるいは市場が成立しないということが起こり得ます。このような場合に、法が介入して、商品がもし「レモン」であったとすると、その場合には被害者を救済するということを保証しておけば消費者は安心して取引に入れますし、また、取引相手と言いますか、事業者の側でも取引をしてもらえる。つまり、市場が形成されると言うことができます。

消費者保護制度というのは、このような形で法規制することによって、消費者のみならず事業者、あるいは社会全体にとって好ましい取引が行われるようになり、あるいは、より進む場合もある。これは市場の補正・形成とここでは呼んでおります。このような機能があると思います。

一つの例として、例えば弁護士が挙げられます。弁護士については国家資格制度になっていて、かつ、弁護士については、弁護士会への強制加入制になっています。また、弁護士会は強い自主規制権限を持っています。これらというのは、つまり、消費者の側では弁護士と相談しようとする場合に、その弁護士がどんな人が分からない。ぼったくられるかもしれないと不安ですね。そうすると、なかなか弁護士に相談できないけれども、このような制度が整っていることによって、安心して消費者は弁護士に相談できるし、弁護士も自分はちゃんとした者だということを消費者に確信してもらえる。そういう機能があると思います。

5ページでございます。そこで、市場の機能の補正の方法にはこのような方法だけでなく、例えば評判を獲得する。事業者が継続的な取引関係に入って、それで長らく取引をすれば安心してもらえるということもありますし、あるいは、いわゆるのれんを獲得するという方法もあると思います。あるいは、語学学校などの場合には、まずはお試し期間で語学学校に通ってもらって、それでちゃんとした役務を提供すると思ったら、本契約に入る。この問題を解決する方法にはこういう方法もあるわけでありますけれども、今言ったような形で法が介入するのも一つの有効な方法であると思われます。

消費者契約法、景表法、独禁法の優越的地位の濫用とか下請法といった規制は、全てではございませんが、少なくとも一部についてはこのような説明ができるのではないかと思います。これらについては、ここに書きましたとおり、日弁連が2014年に行ったシンポジウムにおいて、私も参加しましたが、この辺りの問題は詳しく論じられております。もしお時間があれば、このシンポジウムは反訳がネット上に公開されていますので、読んでいただければと思います。

次に行きまして、競争法での実効性の確保手段でありますが、これについては、行政上の方法としては、一般的なものとして、独禁法では排除措置命令や刑事罰というものがございます。これは一般的なものです。独禁法においては、さらに、課徴金納付命令という制度がございます。これは違反行為者に対して公正取引委員会が経済的利得をはく奪することによって違反行為を抑止するという行政上の措置と言われています。違反行為を抑止するための課徴金という制度が独禁法にもあって、金商法、景表法など他の法律にもあります。課徴金制度について、後ほど、少し見てみたいと思います。

次に行きます。競争法の実効性確保手段として、ソフトローでクエスチョンマークを書きましたが、ソフトローでは狭義のものとか広義のものとか、いろいろとあると思います。ここでは事業者による自主規制等のほか、行政による措置、エンフォースメントとしてのソフトなものというのも見ていきたいと思います。

まず、独占禁止法とか競争法の特徴としては、ガイドライン、指針というものがあったり、報告書というものがあったり、これは世界的にそうだと思います。つまり、執行機関が法の解釈や運用方針を明らかにするという方法があります。ガイドライン、指針には、法規範性はない。法規範性はないとはいえ、専門機関が解釈とか運用方針を示したものですから、一定の場合には裁判所も尊重することがあるように思います。このようなガイドライン等による法執行というものが競争法の特徴だと思います。それから、ソフトローとして警告、注意といったいわゆる行政指導が、いろいろな評価はありますけれども、行われています。

まだ施行されていませんが、確約制度(確約手続)というものが今後期待されています。TPP整備法で確約制度が導入されまして、未施行でありますけれども、現在、TPP11の関係で国会に再提出されたのではないかと思います。これはここに書いてあるとおり、違反を認定することなく、競争当局と審査対象者が合意によって競争を回復する措置を採ることにより事件を解決するという制度でありまして、競争法分野においては、欧米の競争法で広く一般的に使われていまして、大部分の事件がこれによって処理されていると言われています。なお、確約制度に似たものとして和解制度というものがあり、こちらは違反行為を認定した上で合意によって解決するというものでありますが、これについては、先ほどの御紹介いただきました独占禁止法研究会の報告書において、今後の検討課題として残されております。

下請法においては、注意、勧告、公表といったかなり緩いエンフォースメントの方法が採られています。これは、実体要件は形式要件で簡単に認定できまして、それで認定されると、ソフトで弱いのですけれども、迅速にエンフォースメントを執行できる。しかも、そのエンフォースメントの中身で言えば、代金を減額された場合には、その代金の返金をさせるというようなエンフォースメントも含まれています。自主規制としては、公正競争規約といったものが独占禁止法にはございます。

次に8ページ、競争法での実効性確保手段として、課徴金制度というのは先ほど言ったとおりで特徴的かと思いまして、表にさせていただきました。この表は公正取引委員会の資料から取っておりますが、基本的には違反行為対象の商品、役務の売上額の10%を課徴金として徴収するという制度になっています。かなり複雑なので、もし御質問等があれば御説明させていただきます。ここでは省略します。

次に行きまして、課徴金については、課徴金減免制度、リニエンシー制度というものがございます。これも説明がありますけれども、カルテル、談合等について、その内容を公正取引委員会に自主的に報告した場合に課徴金額が減免される制度がございます。これについても、もし質問等がございましたら、また答えさせていただきたいと思います。

10ページでは、課徴金はこのような形が原則ですということを書きました。これももし質問等があれば、後で説明をさせていただきます。

11ページ、先ほど御紹介いただきました独占禁止法研究会というものが2016年から2017年の初めまで約1年間研究会で議論を行いまして、それで2017年4月に研究会の報告書を公表いたしました。そこでは課徴金制度及び課徴金減免制度の改正を提案し、かなり大規模な課徴金減免制度の改正を提案しておりますが、今通常国会の改正法案の提出については、断念されている状況にございます。その中身を簡単に御紹介させていただきます。表題だけなのですけれども、下線の部分が特に重要だと思いますので、これだけ見ていただきたいと思います。課徴金の算定・賦課方式の基本的な枠組みについては、算定期間の上限が今、3年なので、これは撤廃又は延長するというところが主要な変更点です。繰り返し違反・主導的役割への加算という制度がございますが、これは現状維持となっています。義務的賦課なのですが、これも現状維持となっております。

次のところに行きまして、これが重要な点ですが、調査協力インセンティブを高める制度といたしまして、課徴金減免制度の適用事業者数の限定が最大5名であったものを撤廃するという点、それから、事業者が提出する証拠の価値等に応じて公正取引委員会が一定の幅の中で減算率を決定する。これが一番メインだと思うのですが、こういう制度の導入を提案しております。

最後のところで、弁護士と依頼者間の秘匿特権というものについて、制度としては導入しないけれども、運用によって配慮するといった内容になってございます。

次のページに行きまして、この報告書において、裁量型課徴金という言葉が使われることがあるのですが、裁量型の課徴金を導入しようとしたのかというと、これは議論があるところでありますが、1番目のポツでして、報告書は「裁量」という言葉を使っていませんので、裁量型では基本的にないと考えられると思います。

2番目のところで、課徴金の算定・賦課方式の基本的な枠組みは、裁量型とは言いがたいものになっています。義務的賦課、それから、課徴金の算定方法は形式的な基準によっているという点で、裁量型とは言えないと思います。

3番目のポツのところ、調査協力インセンティブを高める制度ですね。一定の証拠を持ってきた場合には、課徴金を減額するという制度でありますが、これは制度設計によっては、公正取引委員会に一定の裁量が与えられる制度になる可能性はございます。

ただし、最後のポツのところ、EUでは裁量型の制裁金制度になっておりますが、EUは裁量の程度が非常に大きいのですけれども、EUとは比べ物にならないほど裁量の程度は低いものが提案されているということが出ています。

14ページに、諸外国の制裁金とか課徴金制度の比較をして、裁量があるかないか、どのような裁量があるかということを一覧表にしたものがございます。もし御関心があれば、御質問をいただければ説明させていただきます。

次に15ページ、景表法です。景表法については、一つは執行機関が多様だという点が言えると思います。2番目のポツにありますとおり、消費者庁長官、都道府県知事、さらには、委任を受けた公正取引委員会とか、所轄官庁等も執行しますし、適格消費者団体による差止請求権もあるということで、執行機関が多様だと言えます。

執行の手段も多様だというのが、次のページであります。エンフォースメントの種類も多様でありまして、3番目のポツでありますが、措置命令、課徴金納付命令、刑事罰は命令違反等に限られますが、差止請求もあるというように多様だと思います。

ここでは課徴金納付命令について、これは独占禁止法の課徴金制度も参考にしながら設計されたと思われますが、独占禁止法の課徴金制度を更に発展させたユニークな制度になっていると思いますので、私が注目している点を更に幾つか書いてみました。これは項目だけお示しします。

17ページ、これは以前から不実証広告規制があって、課徴金は推定規定、措置命令はみなし規定となっているという点です。

18ページ、課徴金について、自主申告した事業者に対して、課徴金額を2分の1に減額する制度というのは、非常にユニークな制度だと思います。独禁法では課徴金減免制度、リニエンシー制度がありますが、これは共同行為についてのもので、単独行為にこのような制度を導入するのは非常に珍しいのではないかと思います。ただ、最後のポツにありますとおり、今後確約制度が導入されれば、似たようなことは実際にはできるのかもしれないと思います。

19ページ、もう一つ、景品表示法の特徴としては、所定の手続に従って、自主返金を事業者が行った場合には、その返金した金額は課徴金から減額する。課徴金相当額以上を返金すれば、課徴金を命じられない。こういうユニークな制度があるかと思います。2番目のポツにありますとおり、独禁法では下請法に似たような制度があるのかもしれませんけれども、ユニークな制度だと思います。ただし、3番目のポツで、アメリカではディスゴージメントという制度が広くあります。要するに、違反行為者に対して利益をはく奪するという制度ですね。こういう制度が日本でも、言わば一部導入されたと言ってもいいと思いますので、今後広く導入する余地があるのではないかと思っております。

最後に20ページで、景品表示法の課徴金制度も、そうは言っても非裁量型だという点を最後にまとめてみました。景品表示法は独禁法以上に裁量型の課徴金制度を導入する合理性のある法だと思いますけれども、現状においては非裁量型だということだと思います。

以上で私の説明を終わらせていただきます。ありがとうございました。

○鹿野座長 ありがとうございました。

ただ今の御説明を踏まえまして、御意見、御質問等がある方は、御発言をお願いします。

池本座長代理、お願いします。

○池本座長代理 非常に興味深い御報告をありがとうございました。

景表法の実効性確保について、現行法制度のうち、適格消費者団体の差止請求があることに関連して、私の問題意識と質問をさせていただきたいと思うのです。景表法は消費者に向けた不当表示で選択をゆがめるという意味では、適格消費者団体の側からそれに対して是正を求め、差止請求をするという制度が活用されれば、正に消費者の目で問題提起ができるという意味で、非常に期待できる制度だと思います。しかし、報告聴取とか、立入検査という情報を集める権限もありませんし、立入検査ができるだけの体制の問題もありますが、例えば合理的根拠資料の提出要求というものもありません。さらには、不当表示があったということで、差止請求の訴訟を起こして、一審判決が出て、事業者が控訴している間にその広告をやめたら、高裁では棄却される。行政の措置命令のときにはその不当表示をやめても処分ができるというようにわざわざ規定があるのですが、それもない。どうも適格消費者団体による差止請求に対しての調査権限そのものが、不十分ではないかという感じがしております。これが民間団体に対して権限を与えるということで、どこまで可能なのかという問題もあるのかもしれません。

そして、その延長として課徴金制度も更につながっていけば、実効性のある対処手段として、適格消費者団体による差止請求というものが位置付けられるのではないかということも考えてはいるのですが、そういう形でつながっていくものなのかどうか、その官民の役割分担の中で、その辺りはどうお考えかをお伺いできればと思います。

○鹿野座長 それでは、お願いします。

○神戸大学大学院法学研究科教授泉水文雄氏 最初から非常に重い質問でして、どう答えたらいいのかと思っておるのですけれども、まず、伝統的な制度としては、民事救済の場合には、損害賠償請求の制度があるわけですね。そちらから行くと、損害賠償請求の制度というのは、独禁法、競争法をやっている者からすれば、違反行為の抑止という観点からは非常に不十分な制度だということは言えると思います。つまり、非常に訴訟のコストがかかるし、アメリカなどの制度と比較すると、実損害額しか取れないので、実際に万一、勝てたとしても、違反行為の抑止としては非常に弱いということがあるので、損害賠償請求にはなかなか期待できないとするならば、このような形で適格消費者団体等が差止請求をするといういわゆる大陸法的な法体系の中においては、かなり画期的な制度ではないかと言えるのだと思います。ただ、他方において、では、こういう適格消費者団体とはいえ、民間の団体がどこまで法執行の権限を与えられるのか、与えるべきかという問題はあるだろうと思います。

その中で、私はよくは分からないのですが、本格的に立入検査等の制度を導入するのはなかなか難しいのではないでしょうか。これに対し、ディスカバリーのような制度として、むしろ民事手続の中でディスカバリーのような制度を作って、それで証拠を収集するという方法がより現実的かなという気はいたします。直接立入検査するというのは、国家の権限を背景にしているというようなことが、直観的にですが、関係しているかもしれない気もします。そういう意味ではディスカバリーのような制度の方がより有効かと思います。

それから、不実証広告規制のようなもの、これは制度の設計によっては民事の事件においてもあり得るのではないかと思います。一種の立証責任の転換制度という見方もあり得るかもしれません。

違反行為を止めた後に再発禁止といったような既往の違反行為に対する措置というものができるかというのも、これも差止請求権の範囲では、今後繰り返される恐れがあるとか、更に何か今後なされる恐れがあるという形で要件を解釈又は立法で緩めていけば、一定程度は対応可能なのかという気がいたします。

最後、課徴金ですが、課徴金制度が消費者保護の関係の手続において妥当なのかという問題がそもそもあります。というのは、課徴金というのは、これは国庫に徴収されるわけですね。だから、被害者救済にはならないのです。もちろん、不当な利得を得るために違反行為をしているとするならば、不当な利得をはく奪することによって違反行為を抑止するというのが課徴金制度なのですが、しかし、課徴金そのものは国庫に入っていて、被害者には行かないわけですね。そうだとするならば、むしろ被害者の救済という観点から考えるならば、違反行為者からお金を取って、それを被害者に支払うという先ほどの景表法の返金制度とか、下請法の返金制度とか、アメリカ等のディスゴージメントのような制度の方がむしろ民事手続との関係も含めて、より直接的でふさわしいし、被害者の救済としては直接的な方法かなという気がいたします。

このようなところでよろしいでしょうか。

○池本座長代理 ありがとうございます。

○鹿野座長 他にございますでしょうか。

今、正に最初から核心に迫るような御質問とお答えをいただいたのですが。

高委員長、お願いします。

○高委員長 高と申します。

ありがとうございました。大変勉強になりました。2点お伺いしたいのですけれども、13ページに書かれている裁量型かどうかということを判断するときに、例えば調査協力のインセンティブを高める、こういう制度については、裁量型と判断される可能性があるとおっしゃっているのですけれども、アメリカの14ページのところでありましたが、その後ろでしたか。アメリカの場合は有責点数とか有責スコアでもって、ガイドラインにのっとって協力の度合いを計算してやっていきますね。その場合、裁量は実質的には入っているのかもしれませんけれども、手続を明確化することで余り裁量が入らない仕組みにしているのではないかと解釈しているのですが、お伺いしたいのは、調査協力をもらうときに、その手続を明確にしていれば裁量型でないと判断できるのではないかということですね。協力の度合いを主観的に判断するだけではなくて、ある程度ルール化していれば、手続が明確であれば、それは裁量的な制度ではないと言えるのかどうかです。

もう一点は、池本座長代理が質問したことと重なるのですけれども、15ページのところに、景表法の執行に関しては、いろいろな執行主体がいるというお話をいただきました。適格消費者団体については、例えば課徴金、それは非常に難しい話だということなのですけれども、差止請求でもっていろいろ調査をして、そして、調査資料に基づいて事業者に対して差止請求するわけですけれども、仮に差止めをしたとして、今まで使っていた約款の使用をやめ、あるいは有利誤認表示をやめたとします。ただ、過去にそれでもって利益を上げていた場合、例えば消費者庁がその調査資料を利用して、適格消費者団体が作成した資料を活用して課徴金納付命令を出すということも実際には流れとしてあり得るのではないかと思うのです。私がお聞きしたいのは、そういう適格消費者団体が行った調査や資料作成などの活動は、ある意味で行政の仕事を助けていることになるので、行政の業務のアウトソーシングみたいな形になっているので、団体が使った時間とか労力とか、そういったものに対して一定の活動費を払うということ、これは、理屈上、可能なのかどうかなのか。御意見をいただけませんでしょうか。

○神戸大学大学院法学研究科教授泉水文雄氏 ありがとうございます。

独禁法の世界で裁量という言葉は、この話だけでも随分長い話になってしまうのですが、裁量かどうかの話は、そもそも独禁法では、カルテル等に対しては、課徴金が科されるとともに刑罰も科されますので、刑罰と課徴金を同時に科することが、そもそも憲法で禁止されている二重処罰になるのではないのかという議論が、1977年に課徴金制度が導入されたときからあるのです。これについては租税法上の最高裁判決等がありますので、憲法に違反しないと退けられてはいるのですが、そうは言っても、いろいろなところで言われてきたわけです。ですから、そうだとするならば裁量性はないのだとすることによって、二重処罰の禁止問題を解消したという長い歴史が独禁法にはあるものですから、裁量という言葉を避けてきたとか、この点は2005年の最高裁判決や2007年の改正でずいぶん変わったのですが、今回の独禁法の研究会報告書でも、いろいろな理由はあると思うのですが、非常に裁量の程度は低いものが導入されたということがあると思います。ですので、裁量といっても、もちろん一切認められないわけではなく、どの法律のどの論点に関わるかによって議論の状況は異なると思います。

アメリカの場合は有責スコア等ですが、これは実は刑罰ですね。アメリカの場合は刑罰なので、裁量があって当然ということになるのだと思います。アメリカの刑罰、罰金の算定の場合は、当然裁量性はあると思うのですけれども、仕組みが違うということです。そして、御指摘のように、量刑ガイドラインは、どれだけ増減するかを手続で明確にしています。

今のお話は、手続がちゃんとしているならば裁量の問題はないのではないかというお話かと思うのですけれども、それについては、先ほども申しましたとおり、課徴金制度そのものは違反行為者に対して経済的不利益を科すことによって違反を抑止する制度と、これは最高裁も言っているわけです。なので、裁量かどうかは余り関係ないと私は思っているのですけれども、そうは言っても手続がしっかりと制度として書かれていれるならば、御指摘のとおり、調査協力のインセイティブを高める制度の下でも生じ得る問題はクリアできると思っています。

適格消費者団体が差止請求等を行った後で、消費者庁が措置命令とか課徴金納付命令を出す。その際には適格消費者団体の差止請求によって支払われた費用等というのは、消費者庁の措置命令、課徴金納付命令でも役に立つわけだから、金銭的に支援できないかというお話ですね。それは制度としては十分あり得るのではないでしょうか。適格消費者団体の差止請求権という制度は、もちろん消費者を救済するという面はありますが、これは明らかに、国による法執行を補完する機能がある。昔の言葉かもしれませんが、私人による法の実現と、竹内昭夫先生がおっしゃっていました。私人による法の実現の一つの有効な手段だと思いますから、そういう意味では、国による法の執行を補完するものでありますので、それについて国が適格消費者団体等に何らかの経済的な対価を支払うということは十分にあり得るのではないかと思います。

○高委員長 ありがとうございます。

○鹿野座長 よろしいですか。ありがとうございます。

他に、今の点に関連するところ、あるいは他の点についてでも、いかがでしょうか。

大森委員、お願いします。

○消費者委員会大森委員 どうもありがとうございました。

私は法律の詳しいことは分からないのですけれども、長年主婦として正しい「レモン」を買いたいなと思いながら暮らしておりまして、その課徴金という額が妥当なのかどうかというところがいつも気になっています。一般消費者からすると、ずるい業者というか、悪質な事業者はいなくなって、健全な事業者が市場に大勢いる。そういう状況を非常に望むわけなのですね。なので、事業者として悪いことをしたら会社は営業できないぐらいのダメージを受けるというのが、課徴金として機能するのではないか。ランニングコスト的に、時々払ってももうかっているから大丈夫だよという程度になると余り効果がない。「レモン」を買うときもこれはいいのかといつも不安な状態でいるのではないかという気がしているのです。いろいろ不当表示などで個々の消費者というのは不利益を受けているわけですけれども、それを細かく返していただくということはまず無理だと思いますが、適格消費者団体などは消費者一人一人が訴訟できないような小さなことをまとめて扱ってくれている、救済の場であるので、そちらにお金を返してもらって間接的に消費者を支援する。そういう流れができるといいなと考えているのですけれども、私の提案は法律的には非常に難しいことかどうか、お聞きしたいと思います。

○神戸大学大学院法学研究科教授泉水文雄氏 今の「レモン」の課徴金ですが、これは景品表示法等の課徴金、あるいは独禁法の課徴金、両方の意味でおっしゃったのですか。

○消費者委員会大森委員 はい。

○神戸大学大学院法学研究科教授泉水文雄氏 私は専門が独禁法なので、そちらの方に話を持っていく形になりますが、独占禁止法の課徴金の現在の金額が、これは先ほど申しました原則は、違反行為の売上額の10%が原則で最大20%になるのですけれども、それが妥当かという点は、独占禁止法研究会報告書でも議論になりました。結論としては、低過ぎるのではないかという意見になりました。ですから、課徴金の算定基準を引き上げる。例えば先ほど出たアメリカの刑罰ですが、量刑ガイドラインは原則が売上額の20%で、それから増減します。日本は10%ですから、その数字だけで言うと半分ぐらいですね。

それから、先ほどは不当利得を中心に課徴金を算定しているのですが、独禁法違反による弊害というのは利得に限らないので、社会に対して社会的費用というものを他にも発生させますので、それらも含めたら被害はもっと大きいので、課徴金はもっと多くすべきではないかという議論がありました。

その結果、独占禁止法研究会報告書においては、課徴金の金額を引き上げるという選択肢があるし、そうしないならば、課徴金の算定期間は3年から延長し、場合によっては撤廃するという制度の提案になっていて、私は課徴金の算定期間は10年ぐらいがあり得るのかなと思っております。違反行為が10年を超えている場合には課徴金が3倍ぐらいになるので、そういう意味では妥協の産物ですけれども、現行の課徴金制度は低過ぎて、違反行為を十分抑止していないのではないかという観点の下で、現行水準から引き上げようとしたものだと理解しております。

景品表示法の場合については、現在の金額の水準が妥当かどうかというのも、まだ私自身は、事件がそんなに多くないので分からないのですけれども、今後更に同じような行為が繰り返されるとするならば、それは低過ぎるという形で今後課徴金の算定比率等について再検討されることになるのではないかと思います。

ただ、1点、余計なことを申し上げると、景品表示法の現在の運用は、当該違反行為の対象となる商品、役務をとても狭くして、例えば自動車ならば自動車の車種ごとに違反行為を認定しています。自動車ならばそれでも基準を満たす場合があるのですけれども、通常の商品だったらなかなか基準を満たさないような形で、非常に商品を狭く見て違反行為を認定されているので、その点でも課徴金は低くなっている、あるいは科されない事例がかなりあるのではないかという気がしております。これは余計なことかもしれません。

そういう意味で、景表法については、今後検証していくべきではないかと。この金額が妥当か、今後検証をしていくべきではないか。あるいは、課徴金が科されなかった事例も含めて、そちらの方が圧倒的に多いと思いますけれども、これも検証していくべきではないかと思っております。

それから、もう一つは。

○消費者委員会大森委員 消費者が具体的に受けている不利益があるとしても、個々の消費者にそれを返すわけにはいかないので、適格消費者団体にそのお金を渡して、他の差止請求だとか、訴訟に使ってもらうと、間接的に消費者にとって利益になるのではないか。

○神戸大学大学院法学研究科教授泉水文雄氏 なるほど。適格消費者団体や国が被害を受けている消費者全体の被害に相当する金額を徴収して、その後の訴訟手続等に利用するのですね。そういう方法もあると思います。先ほどから言っていますとおり、違反行為によって得られた利得や被害といったものが、日本の制度において吐き出されないのですね。それが大きな問題だと思いますので、そういう意味で、違反行為によって得られた利得とか、あるいは利得を超えて社会に被害を与えていると思います。そのような被害を、まず、違反行為者から徴収する。それは消費者庁長官でもいいし、適格消費者団体というのも非常に有効な方法だと思います。それはそのとおりだと思います。それによって違反行為を抑止できると思います。ただ、その後、その団体が取ったものを被害者に分配していくのかという方法と、そうではなくて今後の法執行の原資とする。両方の方法はもちろん制度的にはあり得ると思います。どちらも有効ではないかと思います。

○消費者委員会大森委員 ありがとうございました。

○鹿野座長 ありがとうございました。

今の最後の点については、景表法の課徴金制度導入の際にも、いろいろと検討された経緯がございました。もともとは消費者の被害があって、消費者から違法に吸い上げられた利得をどうやって消費者に還元していくのかということに関する幾つかの選択肢の中で、結局景表法の返金制度というものが導入されたとは認識しておりますが、さらに今後に向けて、もっと他のことを考える余地があるのかということも含めた大森委員からの質問であり、御回答であったと認識しております。

他に御質問等はいかがでしょうか。私も先ほどから関連することでお聞きしたいところもあるのですが、まずは座長として司会の役割を全うしたいと思います。いかがでしょうか。

山本委員、お願いします。

○山本委員 別の話になるのですけれども、7ページに確約の話と和解の話が出てまいりました。これは日本の行政法の制度では従来正面から設計されていない部分ではないかと思うのですけれども、独占禁止法の執行の場面で、確約や和解の必要性がなぜ言われるようになったのか。どのような状況を想定して、どのようなメリットがあると考えられて、これが提案をされていたのか。

和解に関しては、今後の課題とされたということなのですけれども、これに関しては、どのような議論があって、今後の課題とされたのかという点をお伺いできればと思います。

○神戸大学大学院法学研究科教授泉水文雄氏 ありがとうございます。

確約制度、和解制度もそうですが、これについては、競争法の世界では世界的に古くからあるものなのです。特にアメリカではコンセントオーダーとコンセントディグリー、コンセントジャッジメントという形でずっと使われてきているものでもありますし、EUにおいても、コミットメントディシジョン、あるいはセトルメントディシジョンという形で十数年前から導入されています。

なぜ競争法の分野ではこのように使われているのか、あるいはTPPの中にも入ってきたのかですけれども、いろいろな考え方はあると思いますが、独禁法違反については、違反行為を認定したり、その後の訴訟の遂行等するには執行当局にそれなりのコストがかかるものですし、事業者にとっても認定されてしまったら困るという面があるのです。特にアメリカの3倍賠償とか、クラスアクション等が起こってきたりするという面もあって、それは消費者にとってはひどい話かもしれませんが、違反行為が認定されないことでクラスアクションのリスクを軽減できたり、提訴される時期を遅らせることができます。そこで、違反行為認定しないで、しかし、違反行為を認定したのと同じような措置命令と、同じような措置をすることが合意できるならば、それの方が双方にとってコストが低くて済むし、更に早く違反行為が終了するのでないかと、そういう流れがあったと思うのです。その結果、違反行為を認定しないで、実質上違反状態を解消してしまうという、特にこれは比較的軽微な違反行為についてということですが、そういうことがなされてきたと思います。これが確約制度です。

これに対して、カルテルや談合のような、我々はハードコアカルテルと呼んでいるのですが、これらは悪質、重大な違反行為ですので、これらについては違反行為に認定しないというのは幾ら何でもあり得ないでしょうということになりますので、違反行為は認定します。しかも、日本とは比較にならないような高額の制裁金、罰金等も科します。だけれども、合意によって早く終えてしまいましょうと。そうすれば、その後の裁判手続にはいかなくて済むし、互いに費用が安くて済むわけですね。というようなことで、アメリカやヨーロッパにおいては、かなり活用されているのではないかと思います。日本においても、法的措置を採らなくてはいけない事例もたくさんあると思うのですが、確約等によって早期に競争法上の問題が解消する方がより事件の解決としては早いし、被害が広がらないという事案もあると思われますので、そういうものについては確約制度等を活用しましょうと、こういう流れだと思います。

和解と同様に、確約についても、実は、独占禁止法研究会報告書の前のこの内閣府で行われた「独占禁止法審査手続についての懇談会」があって、平成26年12月に出された報告書には、和解制度と確約制度の導入を検討すべきだということが入っているのですが、今回の独占禁止法研究会報告書で確約が検討されなかったのは、確約はTPPに入っているから検討する必要がなくなったということです。これに対して、和解についてはTPPに入っておりませんので、和解手続を導入するかどうかが独禁法研究会で議論になったのですが、いろいろな意見はあったのですが、一つは、行政が事業者と合意することによって紛争解決するわけですが、合意する内容というのは、もうこれで事件は終わりますというのは裁判で争いませんということだとすると、裁判に訴える権利というものを、言わば行政が合意によって奪っているという面があるのではないか、これは憲法上の裁判を受ける権利を害しているのではないかという意見が一部の研究者から出てきて、私は憲法上そこまでの要請はないと理解しているのですが、そういう意見等もございまして、また検討する時間もありませんでしたので、報告書で導入を提案するのは時期尚早だということで、今後更に検討しようということになったという経緯がございます。

このようなものでよろしいでしょうか。

○鹿野座長 ありがとうございました。

私から、もう質問が出たところもあるので補足的な意味になりますけれども、若干質問をさせてください。

一つは、裁量型についてです。いただいたレジュメでは20ページのところで、景表法の不当表示については、裁量型の課徴金になじみやすいところがあるのではないかという御指摘をいただきました。この裁量型という言葉の意味するところにもよると思いますが、裁量型を採った場合、一方で、対象事業者にとってはどういう結果になるのかが分かりにくいということもあり、公平感をどうやって確保するのかということも問題になると思います。ですから、裁量といっても、一定、考慮要素を示し、準則的なものを設けることが念頭に置かれているのではないかとも思いますけれども、その裁量型の具体的に意味するところについて、もう少しお言葉をいただければと思います。

もう一点ですが、これも先ほど質問があったところで、報告書では11ページから12ページ辺りにいろいろな提言、提案が示されているということで御紹介をいただきました。特に11ページの課徴金の算定・賦課方式の基本的な枠組みのところで、算定期間をどうするのかということだとか、あるいは算定の基礎となる売上額について見直しをする必要があるのではないかというような御提案があるように伺いました。景表法でも、この基準で果たして十分なのかということは、当初から言われてきたところではありますけれども、出発点としてとりあえず現在の基準が採られたところです。しかし、先ほど大森委員からも御指摘があったように、一たび運用してみて、果たしてこれで抑止という観点からも十分と言えるのかというような批判が聞かれるところでもあります。

そこで、独禁法については、具体的にこのような提案に至ったときの経緯といいましょうか、どういう材料をもってこのような方向性が示されたのか、その点について更に少しお話をいただけばと思います。よろしくお願いいたします。

○神戸大学大学院法学研究科教授泉水文雄氏 ありがとうございます。

まず、裁量とは何かですね。それについてですが、先ほどの独占禁止法研究会報告書の8ページのところを御覧いただきますと、現行の課徴金制度が書かれているのですが、独禁法の方でお話しさせていただきますと、売上額に対して10%、それは中小企業等で違ったり、製造業と卸業、小売業で違うという形なのですが、どれに属するかによって数字が何%と決まっている形になります。それから、課徴金の増額の部分も、再違反の場合、10年以内に繰り返した場合には1.5倍とか、主導的事業者の場合にも1.5倍、両方あれば2倍という形で、一定の非常に客観的な要件を満たせば、自動的に課徴金の数字が決まる。これを裁量的でないと狭い意味では説明をさせていただきました。

9ページで、課徴金減免制度についても、調査開始前の1番目か2番目か3番目か、調査開始後の何番目かによって、課徴金の減免が100%か50%か30%か自動的に決まりますね。そういう意味で、裁量性がないと説明させていただきました。

これに対して提出した証拠の価値がどの程度かによって、新しい証拠を提出すれば、例えば上限10%を減額する。つまり10%の範囲で減額するとしておいて、それが8%か5%かについても、恐らく法改正されればガイドラインや政令で、この基準を満たせば8%、この基準を満たせば5%というふうになるとは思うのですが、そうはいっても、一定の幅がありますので、そういう意味では広い意味では裁量が少しはあるということになるのではないかと思います。

ですから、そのような形で、裁量にはいろいろな定義があり得ますので、何とも申し上げられません。ただ、最後に申し上げたところは、景表法というのは非常にささいな、消費者にとって大した影響のない不当表示等もあれば、本当に深刻で命に関わるようなものもありますので、それについて一律に売上げの何%というのは、これは独禁法以上に合理性を欠くのではないか。そういう意味で裁量型、つまり、与える不利益の程度とか被害の程度に応じて一定のパーセンテージを決めるという形で、裁量型というのは独禁法以上に導入すべきではないかと、そのような説明をさせていただきました。

先ほどの独占禁止法研究会の報告書の11ページ等は、この見直しの経緯です。それは例えば過去に違反行為をした事業者が、数年後にまた繰り返すといったような事態が結構あり、そういう意味では、現行の課徴金制度は十分抑止機能を持っていないのではないかということが一つの立法事実としてございます。

課徴金の対象や範囲についても、外国事業者が行ったカルテル事件等については、課徴金が科せないという事例もあります。つまり、市場分割カルテルといわれるものでは、外国の事業者が外国で違反行為をしたのだけれども、日本に売上額がない。日本に売上額がないのだけれども、外国の事業者は明らかに日本で競争制限が生じることに深く貢献している。こういう場合にも課徴金が科せないという事例がございました。その他にも事例がいろいろな観点から問題になった事例があるのですけれども、それらの積み重ねの下において全体の見直しを行っています。これについては、独占禁止法報告書の後ろの方に付いている資料に、そのような問題が発生した事例が十数件、20件ぐらいだと思いますけれども、いろいろなタイプのものが掲載されています。

課徴金算定期間の廃止又は延長については、違反行為が3年を超えるものがかなりあり、また10年というものもあることが立法事実としてありました。また、3年間は、比較法的にも短すぎるのではないかという議論もあったかと思います。

○鹿野座長 ありがとうございました。

まだまだお聞きしたいところもありますけれども、予定した時間がまいりました。

それでは、泉水教授からのヒアリングはこの辺りにさせていただきたいと思います。

お忙しい中、貴重なお話をいただきまして、どうもありがとうございました。

○神戸大学大学院法学研究科教授泉水文雄氏 ありがとうございました。

(神戸大学大学院法学研究科教授泉水文雄氏退席)

(東京大学大学院法学政治学研究科教授荒木尚志氏着席)

○鹿野座長 それでは、続きまして、荒木教授に御説明をお願いしたいと思います。

本日「努力義務規定の意義」の検討に関連して、荒木教授からは「努力義務規定の意義と機能:労働立法の素材として」というタイトルでお話をいただきたいと思います。

荒木教授の御専門分野は労働法で、労働政策などについても御研究されています。そして、労働立法における努力義務規定の機能に関する論文も発表されているところであります。そもそも労働法分野におきましては、使用者と労働者の利害が対立する中でのルール作りが問題となる点で、消費者法分野と少し似た様相を呈する部分もあります。そういう中で、労働契約関係を規律する際には、まず努力義務規定が採用され大きな役割を果たしてきたようですが、その点は、消費者法分野における検討に当たっても、重要な示唆になると考えているところでございます。

それでは、今回も20分程度ということで、まずお話をいただけますでしょうか。よろしくお願いします。

○東京大学大学院法学政治学研究科教授荒木尚志氏 今日はお招きいただき、ありがとうございます。東京大学の荒木と申します。よろしくお願い致します。

労働法は、平等な市民同士が合意したものであれば、そのとおりの契約の効力を認めるという市民法に委ねていた結果、労働者と使用者の契約関係は交渉力の強い使用者の言いなりになって、非常に悲惨な状態が生じた。それを是正するため、すなわち市民法、あるいは契約の自由を修正するために登場したのが労働法ということになります。その点では、企業と消費者の力関係の違いと似た状況もあるわけですが、労働法は基本的には強行法規である。しかも、労働基準法などもそうですけれども、違反に対しては刑事罰や労働基準監督署などの行政的な取締まり、そういうハードローで臨むのが伝統的な労働法の考え方でした。

ところが、1985年に男女雇用機会均等法ができるときに、国論を二分するほどの大変な対立があり、募集、採用、配置、昇進については、強行規定、ハードローではなくて、女性に男性と同じ機会を与えるように努めなさいという努力義務規定になりました。これは何なのだと。努力義務なんかでは、労働法の名に値しないのではないかという大変厳しい批判もあったところです。私が大学を卒業したのは1983年でした。ですから、当時私のクラスメートの女子学生は就職しようとしても、そもそも女子は短大卒しか採りませんという企業がたくさんあって、それまで能力だけで自分の希望する道を進んできたクラスメートたちが、就職のときに理不尽な壁に直面する、そういうことも目にしておりました。

1985年に均等法が成立した時には、努力義務規定では全くざる法で意味がない、こんなものは作らない方がよかったということも言われましたが、1986年から施行されますと、一部上場企業では、形だけという批判も一部にはありましたけれども、全て女性も総合職で採用することになり、明らかに世の中は変わったなという気がいたしました。

そういう状況を見ておりました後に、EU法などを勉強しますと、EUの労働立法は、なかなか進まない。非常に労働者保護の手厚いフランスやドイツと、かなり市場原理に即したイギリスなどでは、いつも新たな労働立法提案については対立が生じて、なかなか立法が進まない。そういう中で、ソフトロー的なアプローチが採用されていくということが分かりました。そこでソフトローとかあるいは努力義務といったものも、実は労働立法において一定の意義があるのかもしれないと考えるようになりまして、最後に書かれております2004年の論文を書いたということがございました。

そこで、努力義務の話に入りますけれども、努力義務といっても、立法の目的とか理念を書いた訓辞規定であって、そもそもハードロー化、強行規定化することは考えていないような規定もあります。そこに書きました労基法の1条2項などはそうでして、「労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」とか、労働関係調整法では、争議が起こっても、自主的にこれを回復するように努力しなければならないとか、そういう努力、努めるとかと書いてあっても、そもそもが法の理念的なものでハードロー化を想定していない規定も、もちろんあります。

しかし、中には2に書きましたけれども、旧均等法の7条のように、募集、採用について、女子に対して男子と均等な機会を与えるように努めなければならない、という規定のように、本来は、女性に対して男子と均等な機会を与えなければならないという立法をすべきだという声も強かったのですが、立法の過程での議論の結果、こういう努力規定になったものがある。この努めるべき義務内容はかなり具体的で、強行規定化も可能であるにもかかわらず、そうした立法のコンセンサスができないために、あるいは、いきなり強行的な規制を行うことが社会の状況から見て時期尚早であって、もう少し漸進的にアプローチした方がよいという政策判断から、努力義務規定が採用された、そういうこともあるのではないかと思いました。そこで、そうした具体的な努力義務規定について考えていったということであります。

3のところですけれども、努力義務規定というのは、強行的な規範としないという政策判断の下に立法されていますから、私法上の効果としては、原則としてないということになります。場合によって、公序の内容として考慮される場合があるのではないかということもあって、最近の裁判例では、そうした公序に反映させる解釈も出てきてはおりますけれども、私法上の効力としては極めて弱い、原則としてない。

次のページにまいりますが、公法上の効果としては、労働立法の場合、努力義務規定を設定しますと、そうした方向に使用者に対して国が働きかけて、こういう努力をしてくださいという指針を作ったり、行政指導したり、指導に従わない場合には企業名を公表するといった様々な行政的な働きかけを導く根拠とはなっております。

4のところですけれども、そうやって努力義務というソフトローから入ったものが、実は労働関係では、時を経ますと、ハードロー化していくという現象がたくさん見受けられるところです。1に書きましたのは障害者雇用政策ですけれども、もともとは1960年の身体障害者雇用促進法では、身体障害者の雇入れについて、労働省令で定める身体障害者雇用率を乗じた数以上であるように努めなければならないと。これは当初は従業員の1.1%以上は身体障害者を雇うように努めてください、そういう規制だったのですが、それが入ったのが1960年ですから、昭和35年ですね。このグラフはだんだん右肩上がりになっていますけれども、努力義務規定の下で、そうした規定を満たした企業には助成金などを与える、あるいは未達成企業については、雇入れ計画を策定してくださいと行政が働きかける。そして、そうした働きかけにも従わない企業については、これは1974年法になりますけれども、企業名を公表するというような措置が採られるということになります。こうした努力義務の下での国の働きかけの下で、実際の雇用率もこのグラフのように上がっていく。上がっていきますと、この何%以上という努力義務の雇用率の数字も徐々に引き上げていくということにもなるわけです。

そして、ついに1976年には、この雇用率が努力義務規定から、何%以上であるようにしなければならないという義務規定化されることになります。そして、同時に、身体障害者雇用納付金制度が設けられまして、雇用率を満たしていない企業からは、この納付金を取り立てる。そして、雇用率以上の身体障害者を雇っている企業には身体障害者雇用調整金を支給することとしました。身体障害者を雇いますと、スロープを作ったり、いろいろなコストがかかるのです。そういう努力をしている企業には、積極的に助成金を出す。そういうことになりました。

均等法のほうに参りますと、先ほど言いましたように、85年には募集、採用、配置、昇進については努力義務規定だったわけです。これは言わば妥協の結果、ハードローでやるべきだということに対しまして、実は均等法などを作ったら日本の醇風美俗が滅んでしまうという民法典論争みたいな話が当時はございました。言わば政治的な妥協として努力義務規定を入れたということがございました。

ところが、この85年法は翌年から施行されると、先ほど言いましたとおり、一部上場企業は全部門戸を女性にも開放することになりました。そして、労働省は大変精力的に男女雇用平等のキャンペーンを展開しました。

10年後の1997年、均等法を改正して募集、採用、配置、昇進の努力義務規定を強行規定化、義務規定化すべきかが議論となりましたけれども、10年前には正に国論を二分するほどの反対論があったのですが、1997年に募集、採用、配置について差別してはいけないという義務規定化の法改正にあたっては、正面からの反対論は一切なくなりました。10年の間に日本の社会の規範意識として、男女が平等に働くというのは当たり前のことだという規範が定着したのだと思いました。議論となったのは、保護も平等も両方というのは無理でしょうということで、平等に純化する。すなわち、女性だからということで特別な保護を行うと、実は自由に活躍もできないということになるので、女性故の残業規制や深夜労働禁止は撤廃しますと。そのかわり、母性保護、妊娠、出産等に伴う保護、これについてはより強化する。そういう形で、雇用平等の考え方が純化されるということで、立法が展開していきました。

その後、2006年には、これまでは女性に対して、男性と平等の機会を与えなさいということだったのですけれども、そもそも男性にも女性にも平等の機会を与えるということで、完全に両性について平等な法律という方向に展開しております。育児介護休業法も同様でありまして、最初は努力義務規定だったのですけれども、それが次第に義務規定化していくということになったわけです。

4番目の高年齢者雇用安定法もそうです。当初は、日本では定年は、55歳が一般的だったのです。ところが、寿命が延びていきますから、55歳で辞めてから亡くなるまで収入がないというのは困りますので、まずは定年は60歳を下回らないように努めるものとするという努力義務規定が86年法で入りました。その後、先ほどの障害者雇用と同じように、どうやったら60歳定年に引き上げられるかという計画を作りなさい、従わない場合には指導・勧告をして、最後は企業名を公表するという手法が採用されました。こうして4ページのグラフのように、60歳以上の定年を採用している企業がどんどん増えていくという展開がありました。

そして、1994年法では、定年を定める場合は60歳を下回ることができない、60歳未満の定年は違法とするという義務規定化が行われました。現在は、年金支給開始年齢が65歳ということになっていますから、60歳定年ではまだ足りないということで、年金支給開始年齢まで定年を引き上げるか、60歳定年を維持しても良いけれど定年後継続雇用をするか、あるいは定年を撤廃するか。いずれかの措置を採って、とにかく雇用を65歳までつないでくださいという制度が展開しております。これも当初は努力義務だったのですが、それが義務規定化されるということでありました。最近話題になっている非正規雇用のところも同様でありまして、努力義務規定が今度は同一労働同一賃金ということで、ハードローとして立法化されるという動きになっています。

最後の5のところですけれども、そうしますと、こういう労働立法と努力義務規定とかソフトローによる政策展開、これをどう見るかということなのですが、今、見てきた具体的な努力義務規定というのは、実は将来のハードロー化をにらんだ過渡的規制、規制猶予的な性格を持っているのではないか。立法しようと思っても、なかなかコンセンサスが得られない。とりわけ、男女平等とか、障害があっても他の方と同じように働ける社会、そういう新しい社会の理念について、そうはいっても直ちに社会的に受容するところまでいかないということがあります。そういう場合に、世の中の考え方を徐々に変えて受容させていくというときには、このソフトローアプローチから入ってハードロー化していくという手法が、社会的混乱を回避して法目的を実現する上で一定の機能を果たしていることがあるようにも思います。

ただ、問題がないわけではありません。今、ハードロー化していく例を挙げましたけれども、どういう状況になったらハードロー化するのかというと、一定の基準があるわけではないのです。例えば育児休業制度は、普及率が17%程度でも強行規定化していますが、60歳定年制の場合は普及率が80%のときに強行規定化しているということで、何%になったらハードロー化するという、そういう基準があるわけではない。

また、必ずハードロー化するという約束はしていないわけですから、ハードロー化しない場合もある。そういたしますと、ハードロー化すべきだという立場の考え方からすると、ソフトロー的な規定を採用した結果、実はハードロー化が阻まれてしまう、ハードロー化はもう要らない、ソフトローがあるからこれで我慢しなさいというところにとどまってしまう、そういう効果があるのでないかという批判もないわけではありません。

そういう場合には、待っていても駄目だからハードロー化すべきだという立場と、世の中に普及していない中でハードロー化したら社会は大混乱になるからハードロー化は時期尚早とする立場があります。これは法の役割についての考え方、哲学の違いが出てくるようにも思います。これがとりわけ先鋭化するのは、人権的な差別問題について、ソフトローから入ることの当否です。男女雇用機会均等法は、正にこれは人権差別の問題ですから、それをソフトロー、努力義務を採用したということは、本来人権差別は当然禁止しなければいけないのに努力義務にとどめたということは、しばらくは違反しても法的なサンクションをかけない、そういう状況を許すこととなり、それ自体がおかしいではないかという批判は当然あるところです。

差別禁止規定は、最近いろいろなところで活用されますけれども、私はその内容は3つの違う性質のものがあると思っています。一つは、非常に古典的な人種とか性別とか、あるいは思想、信条、それは人権差別であって許されないという古典的な人権差別禁止。これは本来的にハードロー規制であるべきでしょう。それに対して、第2に、年齢差別とか障害者差別とか、最近は性的指向による差別という新しい人権差別のカテゴリーも含むようになってきています。さらに第3に、日本で今、議論しております同一労働同一賃金というものは、実はこれは雇用形態差別。パートであるとか、派遣であるとか、有期契約である等の、契約で設定した地位によるものですから、本人の意思によって変えられないという事柄ではない。これも差別と言われるのですけれども、これは人権差別とは性格が違うものではないか。そうすると、アプローチももう少し多様であってもいいかもしれません。このようにソフトローになじむべき事柄とハードローで行くのが本来である事柄、そういう事柄を踏まえた議論が必要ではないかと思っております。

最後に、法の実現手法の観点からということですが、もちろん労働法は原則としてハードローなのですけれども、今、見てきたように、ソフトローで対処している場合があるのですが、これも単なる努力義務規定だけでは効果がありませんから、いろいろな他の手法が組み合わされている。公法的な行政指導等がありますし、いいことをやったら補助金をあげますという経済的インセンティブを与える。それから、市場のレピュテーションを使いまして、企業名を公表するという負のレピュテーションを使ったり、最近では優良企業、例えばくるみんマークのように、女性の育児などを積極的に支援している企業については、私の名刺には実はくるみんマークが付いているのですけれども、子育てサポートを積極的に行っている企業については、そういうマークを使っていいですよというように国が許容する。そうすると、商品にもそういうマークを付けて販売してよろしいということで、良いレピュテーションが得られるような状況を経済的インセンティブとして与えるというものもあります。

最近は、努力義務も課さずに、経済的あるいは社会的インセンティブだけでやる手法も、法目的のために活用できるのではないかと議論されております。

全体的に見ますと、例えばCSR、企業の社会的責任とか、そういうものはハードローではなかなか難しい点があります。そういう場合にはソフトローの活用が有効でありまして、一定の政策目的を実現するためにハードローで行く場合、ソフトローと他の措置を組み合わせる場合、それから、そういう一定のインセンティブを与えることによる場合、いろいろな手法があるわけですが、その事柄に応じていろいろな制度を組み合わせるということによって、社会的なコストを下げながら目的を実現するということを考えるべき時代なのかなと思っております。

とりあえず、私からは以上といたします。

○鹿野座長 ありがとうございました。

それでは、ただ今の御説明を踏まえて、御質問、御意見のある方はお願いします。いかがでしょうか。

池本座長代理、お願いします。

○池本座長代理 事前にレジュメを拝見したときから、非常に関心のある興味深いところでした。最後の辺りのところから少しお伺いしたいのですが、努力義務規定を作れば自然に流れていくのではなくて、それを促進するための誘導策、それはガイドラインを作ったり、あるいは行政指導したり、良い方を表彰したり、悪い方を公表したりと、様々なものがあるかと思うのですが、今の御説明の中で、事業者団体というものの役割は労働分野ではどうだったのだろうかという点について、もし分かれば教えていただきたいのです。

と申しますのは、労働条件、労働分野の問題というのは、ある意味で企業にとっては共通のコストで、抑えられればそれにこしたことはない。その中でどう社会の中で適正化していくかということですけれども、消費者問題の分野は正に消費者の選択との兼ね合いで、適正化することによって消費者を引き付けるという流れに乗れば、むしろ不適正なものを早く排除してもらった方が適正にやっている事業者が報われるというところがあります。事業者団体の自主規制によって、言わば差別化が早く進むことがあるのではないかと思っているのです。労働分野の場合に、今、お伺いした幾つかの法制度について、だんだん強行法規化に向かって整備する中で、事業者団体というものが労働分野でもあったのか、そこでは余り機能していないというところだったのか。その辺り、もしお分かりであれば教えていただきたいと思います。

○鹿野座長 お願いします。

○東京大学大学院法学政治学研究科教授荒木尚志氏 ありがとうございます。

大変重要な論点ですね。状況は同じことでございまして、実はソーシャルダンピングという言葉がございますけれども、労働条件を非常に悪くして、労働者を搾取して、物を安く作って、そして売る。物は安いですから、そのときには利益を上げる。これはソーシャルダンピングとして許されない。そういうところから、労働法は始まってきたところがあります。労働条件の最低基準、最低賃金とか、最長労働時間とか、これを規制するというのは、よくない事業者がソーシャルダンピングをして利益を得ることを許さない。真面目に公正な条件で労働者を使っている企業が、競争から言わば排除されるのは許されないということが労働法の出発点でもあります。

実は、イギリスは労働法の規制が大変遅れていたといいますか、少ない国でした。イギリスでは、事業者団体が自主規制でやるから、国が労働条件の最低基準規制などに介入してくる必要はないのだという考え方が、非常に強かったのです。ですからイギリスがEC、今のEUに加入しましても、EUが上から、EU全体で労働者保護のための指令を作ろうとしても、常にサッチャー首相はそんなものは要らないと言って反対した。これは労働党政権になってEUと協調するようになりましたけれども、伝統的にそういう感じの国もありますので、これはお国柄があると思います。

もう一点、事業者団体として、ヨーロッパでは、産業別の労使団体の存在に触れておく必要があります。ヨーロッパは、労働条件については、産業別の労働組合と、産業別の事業者団体が労働協約を結びます。それは、その産業における公正競争基準を設定する規範となります。それがちゃんと機能している場合には、実は法規制は要らないということがあり得ます。実際、ドイツでは、つい数年前まで最低賃金法がありませんでした。これはドイツでは、そういう産別組合と事業者団体が産業の最低賃金を労働協約で規制しているから、国が設定する最低賃金は要らないということで、つい数年前までそういう状況が続いてきました。そういうことで、使用者の団体、事業者団体は、そのような規範を設定する場面に参加することによって、言わば公正競争のルールを作るという役割を果たしてきた面もあると思います。

○鹿野座長 ありがとうございました。よろしいでしょうか。

高委員長、お願いします。

○高委員長 高と言います。ありがとうございました。

ソフトローからハードローに流れを作っていくという、その手段として、経済的なインセンティブとか、社会的なインセンティブを使っていくという具体例を示していただいて、大変参考になりました。

若干、消費者行政に寄せて2つお聞きをしたいのですけれども、まず一つは、これは労働の分野の話だと思いますが、障害者雇用政策とか男女雇用機会均等法の定着ということで、そういう手法を採ってきたということですけれども、成果が出ているのは大企業のレベルに大体とどまっているのではないかという印象を持っています。これは、この流れでもって中小の企業にも今後大きな変化が起こってくるとお考えなのかというのが、一つです。

もう一点が消費者行政との絡みなのですけれども、実は15年前に国の消費者行政をどう進めるかということで、現在で言うコンプライアンス体制、こういったものを構築してもらおうということになりました。ただし、突然そういったものを強制的に法律の中に組み込んだところで、企業側はなかなか動かないだろうということで、内閣府で、自主行動基準というものを作って、つまり、消費者の利益を守る、あるいは消費者の権利を実現するため、会社の中で自主行動基準を作り、その基準を公にしてもらおうとしました。また同時に、その基準が具体的に実践されるよう、コンプライアンスの体制を作ることなどをソフトローとして、事業者に求めました。

結果として、その議論から始まって、現在は、会社法とか金商法にも影響があったと思っているのですけれども、上場会社とか大会社については、内部統制構築義務が課され、また構築義務違反があれば、株主代表訴訟の対象として損害賠償を求められるように、つまり、経済的なインセンティブ(サンクション)が付与されており、ハードロー化したと思っておりますが、自主行動基準の作成を求めた当時、一番狙っていたのは、消費者の利益に反する行動を取る事業者が散見されたため、これを何とか解決できないかということで、ソフトローよりスタートしたのです。

これを受け、多くの大企業、上場会社は対応してくださったのですが、逆に中堅企業、新興企業、中小企業、そういった事業者の多くは決して積極的に行動基準を策定しようとはしませんでした。業界団体、例えば訪販協とか通販協とかといういろいろな業界団体があって、そこは会員に一生懸命こういう体制を作っていきましょうと呼びかけ、サポートしてくださっているのですけれども、この活動は大きく広がっていくことはありませんでした。一生懸命やると、単純に言いますとビジネスチャンスを失ってしまうと考え、大半の中小の事業者は、そうした協会には入らず、自由に事業活動を続けてきたわけです。質問は、こういった状況を改善するためには、大企業のところで変化が起こっているのだから、そのまま待っていればいいのか、それとも何らかのインセンティブを設けるべきなのか、何らかの策を新たに講ずるべきなのか、ということです。御意見をいただければありがたいのですが。

○東京大学大学院法学政治学研究科教授荒木尚志氏 ありがとうございます。

大変重要な問題ですが、確かにいろいろな労働法規ができていても、大企業は基本的には遵守するのですが、中小企業は守っていないのではないかという状況は、日本だけではなくて、世界中で実は起きております。海外に行っても議論していて、そちらの国の中小企業はどうなのですかと聞くと、中小企業はもういろいろだという状況はよく聞くところです。ですから、ソフトローで、行政指導等にも積極的に協力していただければということでやった場合、確かに大企業はレピュテーションもありますから、こんな大企業がこんなことでどうなのだと言われると非常にダメージが大きいということもありまして、従っていただけますけれども、中小企業だとなかなかそれは効かないことがあります。そういう場合にハードロー化していくというのは一つですね。

ハードローができますと、その違反状態は、次は紛争解決機関に持っていくということがあります。例えば労働者個人で、これは労基法違反ではないかとか、均等法違反ではないかということでもって、個人の申告であっても、これは法違反であれば行政が動きます。ソフトローでないことになれば、それは動きます。

もう一つ、労働関係では労働組合がありまして、実は労働組合は、様々な法の遵守のために有効に機能する団体ということになります。違法状態があったときに、個人としては違反だといって行動を起こすかというと、これはなかなか難しい。その場合に労働組合という団体であれば、個々の労働者を代表してアクションを起こすことができる。

実は日本の中小企業などで必ずしも法が遵守されていないという状況は、日本の場合は労働組合の大多数が企業別組合で、平均すると今は17%程度の組織率なのですが、大企業と中小企業で雲泥の差がございまして、大企業はこの前までは60%、最近大分下がってきて50%弱の組織率がまだあるのです。ところが、100人未満の企業になりますと、組織率は1%、ほとんど組合はない。実は法が守られていないということの一つの要因としては、そういう自主的に現場において法規を守らせる団体が存在していないということが大きな問題だろうと思っています。

これは研究者の間の議論ですけれども、これだけ労働組合の組織率が下がった状況において、法違反を全部労働基準監督署にチェックさせようとしても、それはコスト的に不可能なことですので、現場において声を上げる仕組みが必要ではないかと。つまり、従業員代表制度というものを作るべきではないかと議論しています。労働組合とは別に、事業場の全労働者を代表するような従業員代表制度というものがヨーロッパにはございます。ドイツには事業所委員会というもの、ベトリープスラートというものがあるのですけれども、そういったものを作るということを考えていくのが、実は法の遵守の点でも重要なのではないかという議論をしている状況でございます。

○鹿野座長 ありがとうございました。

高委員長、よろしいですか。

○高委員長 2点お伺いして、1点目は中小企業のレベルでの機会均等とか、こういったところの動きというのはどうやって改善していくのでしょうかという質問をしてお答えいただいたのですけれども、2点目の方は、答えにくいかもしれませんけれども、消費者政策との関連で、ソフトローでスタートしたのだけれども、なかなか中小企業では大きな変化は起こらないのですが、でも、今の御説明だと、それぞれ労働組合に該当するようなものはないのかもしれませんけれども、消費者の声を反映して主体的に動いてくれる何かがあればいいという解釈ということですか。

○東京大学大学院法学政治学研究科教授荒木尚志氏 そうですね。そういう組合のないようなところにソフトロー的な自主行動基準、そういうものを作ったときに、それだけでワークしないときにどうするかという御質問かと思ったのですけれども。

○高委員長 分かりました。労働組合あるいは従業員代表などが自主行動基準を定着させる上で役に立つという説明だったのですね。ありがとうございます。

○東京大学大学院法学政治学研究科教授荒木尚志氏 あとはそういうレピュテーションを中小企業にも効くようにしていくということですね。そういう一定の基準を作らせたけれども、全然守っていないではないかというようなときに、実は労働関係でもプラットフォームエコノミーとか、デジタライゼーションというものがあって、いろいろな働き方が増えてきました。これは普通の労働法の適用ではうまくいかないようなのだけれども、そういうビジネスでは実はネット上での評判などが重要になってきている。これをうまく活用すれば、そうした方向での実効性が期待できるかもしれません。しかし、これはまだ試行錯誤段階で、1つ間違えますと非常に誤った情報がネット上で出回ってしまって、それで被害を受ける企業が出てくるということもありますので、まだまだ精査は必要かもしれませんけれども、そういう新しい時代に入っている状況かとは思っております。

○高委員長 ありがとうございます。

○鹿野座長 他にいかがでしょうか。

樋口委員、お願いします。

○樋口委員 今日は貴重なお話、ありがとうございます。

私は労働関係の法制は全く素人なのですけれども、今、グローバル化が進んでくるという状況の下で、努力義務規定が強行法規化するプロセスと、海外との法制度のハーモナイゼーションの流れはどう関係してきたのか、あるいは関係していないのか、その辺の感触を教えていただければと思うのですが。

○東京大学大学院法学政治学研究科教授荒木尚志氏 これは直に関係しておりまして、実は1985年の男女雇用機会均等法も、国連婦人の10年ということで、男女差別撤廃条約に政府が署名をいたしました。これを批准するためには国内法を整備する必要があった。その関連で、実は日本には男女雇用平等法がないということで、国連婦人の10年の最終年度が1985年だったのですが、このときに男女雇用機会均等法を作らなかったら世界中の物笑いになるという外圧が影響して、滑り込みで立法化がなされました。

障害者雇用についても同様でありまして、今日は触れておりませんが、障害者雇用促進法が2013年に改正されまして、障害者の雇用に当たっては、合理的な配慮をしなさいという新しい規範が入りました。障害者の方がいれば、その方が使いやすいような机とか、車椅子でも使いやすいトイレを用意するとか、そういう合理的な配慮をしないことが差別に当たるというような新しい規範が入りました。これも世界的な動きに日本も対応する必要があるという事情が直接に関係しております。そういう意味では、それまで日本の社会にあっては、当然の規範と思われていなかった新しい規範を導入する場合には、必ず抵抗と言いますか、フリクションがあるわけですが、そのときに大きく背中を押していっているのが、実は海外での動向ということだと思います。

○樋口委員 ありがとうございました。

○鹿野座長 他にいかがでしょうか。何かありますか。

山本委員、お願いします。

○山本委員 今日はどうもありがとうございました。

基本的なことをお伺いしたいのですけれども、ソフトローとハードローと申しますか、あるいは裁判規範との関係についてです。お話にありましたように、確かに行政法の分野ですと、行政指導をするときに努力義務規定のようなものを手がかりにして行うことは、これは比較的容易にできるのですけれども、他方で、行政処分のようなことをやろうといたしますと、これは具体的な法規の定めがなくてはいけない。そこに努力義務規定というものは入っていないので、間接的に処分の根拠法規を解釈するときの一つの要素となる限りは考慮できるのですけれども、それ以上には努力義務規定というのは処分の根拠法規と組み合わせるといいますか、そこに入れ込んで解釈をすることが難しい面もあるのです。

他方で、民事法規は一般条項のようなものもありますので、そういう意味では、努力義務規定をハードローと申しますか、通常の民事法規等々の解釈に当たって考慮する、あるいは裁判規範の解釈をするときに考慮する余地も大きくなるかとも思うのですけれども、労働法の分野でこの努力義務規定がハードローの解釈、あるいは裁判規範の形成に当たって役割をどの程度果たしているのか、あるいは果たしていないのかという辺りを教えていただければ大変ありがたいと思います。

○東京大学大学院法学政治学研究科教授荒木尚志氏 ありがとうございます。

最初の点、実は今日の話にも出てきましたけれども、努力義務規定の下で一定の計画を策定しなさいとか、どうなっているか報告しなさいとか、そういうことに従わない場合は、最終的には厚生労働大臣の勧告がなされ、勧告に従わない場合は、企業名を公表できる。これは法律に書いてありますので、抽象的な努力義務規定だけでは、そういう企業名公表というところまではできません。そういう意味では、これはソフトローなのか、かなりサンクションのあるハードローではないか、そういう議論はもちろんあります。

私の定義は、裁判に訴えたときに裁判規範にできる、裁判によって執行できるような規範であればハードローと言うけれども、裁判所に行ってそういう主張ができないものはソフトローということで、一応努力義務はソフトローに位置付けています。しかし、ソフトローの中で裁判による実効性確保ではない履行確保手段はいろいろあって、それを実は日本は相当活用してきたのだろうと思います。ですから、処分ということになりますと、当然これはそういう根拠規定が努力義務とは別に必要だろうと思います。

それから、努力義務規定が民事法規の解釈等々においてどういう機能を持っているかということですが、これは、例えば均等法の努力義務規定に違反して均等な機会を与えるのに努めていない、だから、違法だという主張はあったのですけれども、裁判例では、恐らく20年間ぐらいは、これは努力義務規定だから、私法上の効力はないということで来ました。しかし、2000年代になると、高等裁判所が立て続けに2件ほど、努力義務規定であっても努めなさいという条文がある以上は、何も努めなかったら、それは当然一般条項の解釈においても考慮すべきであるということで、不法行為になるという裁判例が2つ出ております。しかし、たまたま同じ裁判官が2つの判決を立て続けに書いたということで、果たして高裁の確立した解釈かというのは議論があるところです。しかし、考慮されないということではなくて、十分考慮され得るとは思います。

ただ、難しいのは、そういう募集、採用で均等な機会を与えなさいという規範、努力義務規定もない昭和20年とか30年代に採用された方が50代まで勤めてこられた。そうしたところ、この均等法ができて、努力義務規定ができたというときに、さて、どう受け止めるか。キャリア20年、30年が、ずっと男性は管理職になるような職業経歴を積んできて、女性に対しては一般事務的な仕事をずっとやらせてきた。その後に均等法ができたというときに、その過程で職業能力が相当違ってきているわけです。そのときに、現時点でどう均等な機会を与えるか。例えば配置において均等な機会を与えるときにどうするか。大変難しい問題で、これはアメリカの平等の議論でも、ずっと長い間、教育機会がなかったような黒人に対してどうするかという同じようなことがありますけれども、そういう問題となってきました。

現在のところは、一般職から総合職への転換の合理的なチャネルを作って、その転換の要件を満たさなかった場合は仕方がないですねと。ただ、その転換制度が非常に女性差別的に作用するものであっては駄目ですよというところで対応しているというのが現状ですけれども、そういう難しい問題がある。そういう中で、努力義務規定をどう判断するかというと、裁判官も努力義務規定はいつから公序を構成するに至ったのかとどこかの時点で分けられるかというと、切りようがないのです。その結果、1985年法は努力義務規定で、1997年法になって初めて強行規定化、義務規定化されたから、1997年法が施行された1999年以前は努力義務だから、これは私法上、効力はない。だけれども、1999年以降は、これはもう不法行為になる。そこで切らずに、その途中の1992年に公序となったとかという判断は難しいということで、実際の裁判では、努力義務規定であれば損害賠償等も難しいという処理が多いのだろうとは思います。

○鹿野座長 よろしいでしょうか。

他はいかがでしょうか。

大森委員、お願いします。

○消費者委員会大森委員 ありがとうございました。

ソフトローからハードローというのは、一般の社会に受け入れやすい方法で、一般の消費者にもとても分かりやすいと思うのです。トップダウン的に法律が決まってこうなったというよりも、社会の変化を体感しつつ、一般消費者にも非常に分かりやすい形で良い方法かなと、感心して聞いておりました。また、経済的なインセンティブの導入ということで、実効性を確保する上でとても大事なポイントだと思いました。

ただ、こういうことがスムーズに動くというのは、先ほど高委員長もおっしゃったように、大企業からスタートしていくということで、中小企業とか、そういうところにはなかなか浸透が難しいという課題も一方にあるわけですけれども、消費者としては、大企業だから良いというのではなくて、実際、この大企業はこういうことをしているから良いということで選びたいわけで、先ほどくるみんマークなどとおっしゃっていましたけれども、ああいうマークをいろいろな場面で作って見せていただくと、一般消費者としては、ただ大企業だからここの製品を買うというのではなくて、社会的な活動も立派な会社だから支持したい。そういう一般消費者の力も社会改善に反映できると思うのです。くるみんマークのように、目に見えるようなものがあるといいなと思うのですけれども、他にもそういう目安になるようなものはあるのでしょうか。

○東京大学大学院法学政治学研究科教授荒木尚志氏 くるみんマークに類するものは、たくさんどんどん労働行政で入れていまして、ユースエールマークといって、これは若年者の雇用を積極的にやっている場合。他も幾つかあります。一般にもエコマークなどはそうですか。エコロジーに配慮したものについては、商品にそのマークを付ける。そういうものは一つ重要なやり方で、言わば市場のレピュテーションにプラスに作用するようなものを活用していく。これはコストはかかりませんし、一般消費者も見てすぐ分かる。つまり、そういった一定の基準をクリアしているかどうかを見える化するというのは、今後は有効な法目的の実現手段ではないかと思います。

それから、どうしても大企業と中小企業ではいろいろな法の実現において、中小企業はうまくいっていないというのは、ある程度仕方がないところはございますけれども、もう一つ労働関係で参考になるかどうか分かりませんが、実は労働審判制度というのは2006年から動き出しております。これは、労働基準法はハードローで、しかも、刑事罰がついておりますし、行政監督もある。だから、非常に典型的なハードローなのですが、ハードローではない労働契約の問題については、これはそれに違反したら、例えば不当な解雇だったら罰則を付けるというのはなかなか難しいわけです。つまり、正当事由が足りない解雇に罰則をかけるかというと、そういうわけにはいかない。そうすると、これは純然たる民事法規の労働契約法の世界になります。ここでは、労働基準監督署などは出ていきませんし、刑事罰も付いていない。そうすると、その実効性確保のためには紛争処理機関、使いやすくて安価で時間が短くてアクセスしやすい、そういう紛争処理機関がないと、実効性が保てません。

そこで、2006年から労働審判という紛争解決システムができました。これは大変評判がよくて、3回の期日で必ず結論を出す。平均処理日数が七十数日です。2か月半で結論が出るのです。それまで労働事件というのは、訴訟になると大体14か月、1年以上かかっていたのです。そんなコストをかけて争うかと思うと、普通の労働者は尻込みしてしまう。ところが、労働審判だと2カ月半で結論が出る。だったらちょっと訴えてみようかという形で、労働契約違反の問題についてきちんとした公的な判断が下される。

ここが、現在は中小企業の教育の場になっております。実は労働契約法理というのは、判例法がたくさん出ているのですが、それは大体大企業の事例が多いのです。大企業はそういう判例法理もちゃんと守って運営しているのですけれども、中小企業は判例法理については、何ですかそれはと、知らないのです。そうしたときに労働審判に訴えられますと、実はこういうものが判例法理で、雇用関係のルールとして妥当しているのですということで、労働審判の場が望ましい労働関係、ルールの教育の場ともなっている。さらに、労働審判というのは、職業裁判官の両隣に労働審判員という方がおりまして、片方は労働組合の委員長の経験者、こちらの隣は企業の労務担当重役、そういう方と職業裁判官が3人で判断をしています。これはヨーロッパにある労働裁判所と似た仕組みです。こういう仕組みは使用者の側の現役の労務担当重役が審判側として経験するのも、実はその人たちの教育になっておりますし、そこに当事者として来る企業にとっても、ある種の望ましい労働関係規範を学習する場としても作用している。そういうことで、中小企業に規範を普及させるときにはどうするかという点では、紛争処理機関を通じた普及というのも一つあるのかもしれません。

○鹿野座長 他にいかがですか。

それでは、あと5分ぐらいありますので、私から感想と、少しだけ質問をさせていただきたいと思います。

今日は貴重なお話をありがとうございました。ソフトローによって、世の中に一定の状態を定着させて、それを更に強力に法規化していくという方法について、労働法の分野での今までの経験をお話しいただきまして、非常に参考になりました。考えてみれば、私は民法が専門なのですけれども、民法においても若干似た現象がありました。御存じのとおり、昨年民法の大改正がありまして、いろいろなルールが変わったのですが、その中でも保証制度は随分変わりました。保証については、2004年にも一部の改正はあったのですけれども、その後、金融庁などの指導の下で、金融機関の実務が変わっていったという実態の変化があって、それが下地となって、昨年の民法改正においては、保証制度についての大きな改正が実現したのではないかと考えております。民事法においてもそういうところはあったということを思い出したという次第です。これは感想的なコメントであります。

もう一つは、質問ですけれども、このソフトローアプローチでルールを定着させるための手法として、いろいろなインセンティブを与えたということの御紹介がありました。特に経済的なインセンティブがあり、また経済的以外のインセンティブについても御紹介がありました。それに関し、いきなりハードなルールということでは、立法的なコンセンサスが得られにくいというところがあって、それでソフトローアプローチでまずはいくということだったのですけれども、インセンティブなどを与えるということに関しては、どこまでのコンセンサスが必要なのですか。労働法の分野でルール形成がどう動いているのかということを十分には把握していないので、教えていただきたいと思うのですが、特に経済的なインセンティブの導入をするという場合、これについては国が関与しているのだろうと思いますけれども、これがハードな立法とは違ったレベルで行われ得るのかということを教えていただきたいと思います。

また、それにも関連するのですけれども、こういうインセンティブを与えるというときの官民の役割というのもあると思うのです。何も国が専らそれを引き受けるということではなくて、先ほどおっしゃったレピュテーションの問題も含めて、あるいはマークということについても、いろいろなレベルでマークを発行するアイデアもあるかもしれません。そういう大きな意味での役割分担ということについて、何かお考えがあれば更に一言いただければと思います。よろしくお願いします。

○東京大学大学院法学政治学研究科教授荒木尚志氏 ありがとうございました。

経済的インセンティブの仕組みをどう作るかということがありまして、障害者雇用のときには、その原資は言わば障害者雇用納付金というので、その率に達していない事業主から徴収して、それを原資にして、雇用率以上の雇用を達成している事業主には分けてあげる。そういう仕組みを作るということですね。そういう仕組みを作ること自体についてコンセンサスがないともちろんできません。

労働行政の場合は、労働政策審議会というものは三者構成でありまして、労働側の代表、使用者側の代表、そして、我々のような公益代表、大体研究者ですけれども、この三者で構成しております。そういう中で、例えば労働側はハードローをやれと言うわけです。そして、企業側は、ハードローなどはとてもではないという中で、でも、何らかの規範を作りましょうというので、努力義務とかソフトローに落ちつくというところがありました。でも、ソフトローにするについては、ハードローを主張する側は、そんな実効性がないのでは駄目だから、経済的インセンティブがあるようなものにならなければ、到底納得できないということで、そういうコンセンサスができていきます。

実は、労働行政の場合はこの三者構成というものがずっと継続的に続いていきますので、均等法の場合、1985年にあんなに大激論をやって努力義務規定になった。10年間雇用平等のキャンペーンをやった。1997年に議論するときは、そのときの議論の記憶、経緯が全部残っているのですね。あのとき、本当はハードロー化しなければいけなかったところを努力義務になったねと。それで10年たった。これで本当にハードロー化しないのか、という議論になると、もう建前としてはハードロー化できないという議論はなし得なくなる。お互いにその議論の過程をずっと経験しているものですから、あくまでこれはハードロー化を猶予する過渡的なソフトローですねということを共有しているのですね。それがハードロー化の議論に当たっても有効に作用していると思います。

もう一点は、今日説明しませんでしたけれども、今、有期契約を無期転換するという規範があります。無期転換の場合は、労働条件はそのままで構わないのです。でも、非正規だった方が有期から無期に変わるときには労働条件を上げなくていいのか、という議論ももちろんありました。それについては、無期転換さえすれば、それで法の義務は尽くしたことになるのですけれども、そのときに労働条件も引き上げる、そういう良いことをやった企業には国からキャリアアップ助成金というものをあげますということにした。それは財源がないとできないではないですかということなのですが、幸いにも労働行政では雇用保険制度というものがあって、それでお金を集めておりました。この雇用保険は、特に今、失業も非常に低いですから、そういう原資がありますと、そういう中からそうした一定のより良い方向へ雇用システムを転換するための助成金を捻出することができます。それが実はハードロー化に対して、ソフトローにとどめたときにも、経済的インセンティブを活用しますから、これで世の中の規範を変えましょうということで、そういうやり方もあるねというコンセンサスができているのだと思います。

○鹿野座長 ありがとうございます。

今の点は国が助成金などを与えたということでしたが、官民の全体の役割についてはいかがですか。

○東京大学大学院法学政治学研究科教授荒木尚志氏 民としては、労働関係では、そもそも労働組合がございますので、あらゆる規範の向上、労働条件の向上もそうですし、新しい規範を作るべきだというときには、労働組合はそういう意味ではメインのアクターとして活動されております。三者構成の審議会における議論においても、実はボイスが一つになるというのは労働組合のおかげなのです。以前に、この内閣府で公益通報者保護法の議論に参加させていただいたことがあるのですけれども、そのときに大変だと思ったのは、いろいろな声がたくさん出ていたことです。労働行政だったら三者構成ですから2つか3つですが、そうでないと、なかなか大変だということがありました。そういう点では、労働組合の存在というのは、あらゆる労働立法のときには一つの特徴でもあるし、重要な要素だとは思います。

○鹿野座長 ありがとうございました。

それでは、お時間もまいりましたので、この辺りで本日のヒアリングを終了したいと思います。荒木教授におかれましては、本日はお忙しい中御出席いただきまして、貴重なお話を賜り、ありがとうございました。

○東京大学大学院法学政治学研究科教授荒木尚志氏 どうもありがとうございました。

(東京大学大学院法学政治学研究科教授荒木尚志氏退席)

○鹿野座長 本日の議事は以上です。


≪3.閉会≫

○鹿野座長 最後に事務局から事務連絡をお願いします。

○丸山参事官 本日も熱心な御議論、どうもありがとうございました。

次回の日程につきましては、改めて御連絡をさせていただきたいと思います。

○鹿野座長 それでは、本日はこれにて閉会とさせていただきます。

お忙しいところお集まりいただき、ありがとうございました。

以上

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電話番号 03-5253-2111(大代表)