次期消費者基本計画策定に向けた基本的な考え方についての意見

2018年9月12日
消費者委員会

次期消費者基本計画策定に向けた基本的な考え方についての意見

消費者基本法においては、消費者基本計画の検証・評価・監視について、それらの結果の取りまとめを行おうとする場合は、消費者委員会の意見を聴かなければならないとされている。このため、当委員会としては、計画の実施状況や計画に盛り込むべき新たな課題等に係る検討を、調査審議の重要な柱のひとつと位置付けてきた。

第4期消費者基本計画(以下、「次期計画」という。)については、消費者庁において昨年10月からその在り方について議論がなされ、消費者委員会においても本年3月に発出した消費者基本計画工程表の改定素案(平成30年2月)に対する意見(以下、「3月意見」という。)において、次期計画に向けた課題について指摘したところである。

当委員会は、平成30年8月2日の消費者委員会本会議において、「第4期消費者基本計画のあり方に関する検討会」中間取りまとめについて消費者庁からヒアリングを行ったところである。このヒアリング結果や、これまでに行った建議・提言その他の意見等の内容も踏まえ、次期計画策定に向け、特に留意すべき事項や、具体的に検討すべき課題について、下記のとおり意見を述べる。消費者庁を初めとする関係省庁等におかれては、下記の各項目について十分に検討の上、可能な限り次期計画の素案等に反映されたい。

なお、当委員会としては、状況に応じ、今後、消費者庁において策定される次期計画の素案等に対し、更なる意見表明を行うことを予定している。

第1 基本的な消費者政策の方向性

1.これまでの計画の実施状況等を踏まえた長期的な視点での検証

次期計画を策定するにあたっては、これまでの第1期~第3期基本計画に盛り込まれた各施策の進捗状況について中長期的な視点で検証・評価を行い、施策目標の達成度やその効果を明らかにされたい。その上で、十分な進捗や効果が見られなかった施策については、その理由及び今後に向けた課題等について整理を行い、取組方針を明確化した上で、次期計画に盛り込むべき施策について検討されたい。

2.消費者庁の司令塔機能の発揮

消費者庁は、「消費者行政の司令塔・エンジン役」として、各府省庁の縦割りを超え幅広い分野を対象とした横断的な政策の企画立案等を行っていくことが求められる。次期計画策定にあたっては、各省庁横断的な施策についても積極的に盛り込むとともに、これまでの施策の検証等を行うにあたっては、1.を踏まえ、地方公共団体等における消費者行政重視への政策転換に向けてどのように取り組んでいくのかを示されたい。

また、消費者行政の司令塔機能を十全に発揮し、消費者事故や消費者トラブルの発生及び拡大の防止を実現すべく、所管法令等について不断の整備・見直しを行うとともに、その運用にあたっては、関係省庁と連携しつつその運用状況を把握するなど、連携強化の取組を推進すべきである。

第2 次期計画策定に向けて留意すべき視点

1.消費者政策推進のための体制整備
(1)地方公共団体における対応力の強化

消費者行政の最前線は地域であり、消費者の安全・安心の確保のためには、現場である地方消費者行政の強化が不可欠である。そのため、地方公共団体における対応力の強化に向けた取組を進めることは重要であり、意識改革も必要であるが、それのみに頼るのではなく、自治体間における連携の在り方、高度情報通信社会の進展を踏まえた自治体における情報技術の活用の在り方等、地方公共団体における対応力強化に向けた具体的施策について言及されたい。

さらに、これまで約10年間の交付金等の措置により、相談体制の整備等には一定の進展がみられるものの、消費者行政職員や自主財源がほとんど増加していないこと等の実態1を踏まえ「3月意見」でも言及したとおり、安定的な財源の確保等も含め必要な方策等、中長期的な支援の在り方も含めた検討を行い、必要な取組を行うべきである。

(2)消費者団体等の育成・支援、連携・協働

消費者の主体的な行動を促すためには、国や行政だけではなく、地域における情報交換、情報共有等が活発になされることが重要である。消費者団体は、消費者の埋もれがちな声を集約し、具体的な意見として表明するほか、消費者への情報提供、啓発等の活動を行っており、消費者団体が消費者行政の推進に果たす役割は大きい。そのため、活動の支援に向けた仕組みづくりについて検討すべきである。さらに、エシカル消費等、従来の消費者問題の枠組みに捉われないようなテーマについて活動を行っている関係団体等も含め、連携・協働を積極的に推進すべきである。

また、適格消費者団体は、申入れや差止請求等の活動を通じて監視を行うことで公正な市場の確保に向けた役割の一端を担っている。消費者被害の防止・回復を効果的に実現するため、消費者団体訴訟制度の主体となる適格消費者団体等の設立促進や、その活動支援に向けた取組を消費者政策として進めていくことは重要である。そのため、適格消費者団体等の特性を消費者被害の防止や消費者政策の推進にこれまで以上に活かせるよう、既存の枠組みに捉われない連携の推進・強化に向けた取組を積極的に進めるべきである。

(3)事業者団体等との連携

事業者団体等が、消費者志向経営に取り組むことは、公正な市場を実現するために重要である。また、行政が事業者団体等と連携することで、事業者団体によるガイドライン策定等の自主規制の取組の促進、消費者志向経営にかかる周知、啓発のほか、消費者教育や見守りネットワークの構築等の施策をより円滑に推進していくことが可能となる。行政は事業者団体等との連携を強化していくことが重要であり、消費者政策に関する情報提供を行うとともに、新たな事業分野における事業者団体等の在り方も踏まえ、自主的な取組の促進等に向けて取組を進めていくべきである。

2.消費者の自立と脆弱な消費者の保護

消費者の自立に向け、自らの選択・行動によってより良い社会の形成を目指していくこと、また、自らの消費行動で社会を変えていくという消費者の意識改革を促すという視点は重要である。その一方で、高齢者・若年成人等の脆弱な消費者への保護対応は喫緊の課題であり、自立的な側面ばかりではなく、保護的側面も存在することには留意が必要である。

3.消費者教育の推進

「人生100年時代」を迎え、さまざまなライフステージを前提とした持続可能な社会の構築に向けて、各ライフステージにおける消費者教育を充実するとともに、より早いライフステージから消費者教育を受けることができるよう取組を進めるべきである。また、成年年齢引下げによる消費者被害の拡大防止のため、若年者への消費者教育の充実は喫緊の課題となっており、スピード感を持って取組を進めることが必要である。さらに、食品表示や食育の充実による消費者教育の効果をより幅広い消費者に行き渡らせることが重要である。

さらに、昨年8月に発出した提言2でも言及した消費者が事故を疑似的に体験することで消費者自ら事故の危険を考え、回避することを促す仕組みを構築するなど、学校以外の場でさまざまな年代が消費生活において必要な知識を習得するための環境整備にも取り組むべきである。

4.SDGsへの対応

2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)については、2030年までの国際目標であるところ、「3月意見」でも言及したとおり、消費者政策との関係性について整理した上で分かりやすく位置づけるとともに、SDGsの趣旨をできる限り組み入れた消費者政策の取組を次期基本計画に盛り込むことを検討されたい。

また、盛り込むにあたっては、2030年の目標達成に向けた水産業、農業等の各分野における認証制度の活用等、消費者市民社会を目指す上での具体的な手段等をKPIとして盛り込む等工夫されたい。

5.高度情報通信社会の進展等への対応

高度情報通信社会の進展や技術革新の進行等により、消費者を取り巻く環境は大きく変化している。そのような中、消費者保護等の対応にあたっては、「3月意見」でも言及したように、AI、IoT、ビッグデータ等の活用には、利便性だけでなく、課題もあるという特質について、消費者が理解を深める必要があることに留意すべきである。また、消費者の利便性向上と消費者保護の適切なバランスを図ったルールの策定にあたっては、国際的な動向も踏まえ、消費者を巻き込んだ議論を展開すべきである。

さらに、オンラインプラットフォーム事業者が介在する取引におけるルール・仕組みの在り方については、消費者委員会「オンラインプラットフォームにおける取引の在り方に関する専門調査会」での議論も踏まえ、検討すべきである。

(以上)

  1. 平成29年度地方消費者行政の現況調査による
  2. 事故情報の更なる活用に向けた提言(平成29年8月8日)