消費者行政における執行力の充実に関する提言~地方における特商法の執行力の充実に向けて~

2017年8月29日
消費者委員会

消費者行政における執行力の充実に関する提言~地方における特商法の執行力の充実に向けて~

はじめに

近年、社会経済の構造変化に伴い、消費者被害は複雑化・多様化しており、消費生活相談件数は依然として高水準で推移している。

中でも、特定商取引に関する法律(昭和51 年法律第57 号。以下「特商法」という。)の規制対象である取引類型に関する消費生活相談(注1)の総件数は、PIO-NET(注2)に登録されている消費生活相談の総件数の約半数を占める状況にある。(注3)

消費者被害の削減・防止のためには、消費者に対する注意喚起や消費者啓発により消費者自身が被害を未然防止できる力を持つことや、消費者安全確保地域協議会等の取組により被害に遭うリスクの高い消費者を地域で見守ることが重要であり、国及び地方公共団体において取り組んでいるところである。

しかし、違法な事業活動を繰り返す悪質事業者による消費者被害を防止し、取引の公正さを確保するためには、法制度の整備による対応のほか、適切な執行権限の行使によりその違法行為自体を排除することが必要である。

特商法においては、直近10 年間で平成20 年、同24 年、同28 年(本提言発出時点では未施行)と3度の法改正を行っており、その中で、悪質事業者への対応措置が様々な形で盛り込まれたが(注4)、現状では、消費生活相談件数が大きく減少するには至っていない。

一方、特商法における最近の行政執行の状況をみると、ここ数年、国及び都道府県による行政処分の合計件数が減少している。

その背景には、事業者の手口が複雑化・巧妙化していること、被害者の高齢化等により、違反認定のための証拠確保が困難となっていること、行政処分に対する訴訟リスクの高まりを視野に入れた対応も必要となっていること等から、執行業務の困難さが増していることがあるとみられる。

特商法の執行業務については、国だけでなく都道府県にもその権限が付与されており(注5)、一定の成果を上げているが、近年、特に都道府県による処分件数が減少しており、その執行を支える消費者行政担当職員数をとってみても減少傾向にあり、都道府県の執行力充実の必要性は高い。

消費者行政においては、特商法を始めとし、不当景品類及び不当表示防止法(昭和37 年法律第134 号)、健康増進法(平成14 年法律第103 号)、消費者安全法(平成21 年法律第50 号)、食品表示法(平成25 年法律第70 号)等様々な法律に基づく執行業務を行っている。いずれの執行業務も重要であるが、当委員会は、以上の状況を踏まえ、ここでは、地方消費者行政における特商法の執行力を高めるための方策について着目し、調査を実施した。

以下、第1では、現状と課題について整理する。第2では、消費者委員会において調査審議を行った結果に基づき、課題の解決に向けた提言を述べる。第3では、直ちに対応を求めるものではないが、今後、重要な論点になり得る点について述べる。

第1 現状と課題

1 現状

始めに、特商法に基づく事業者に対する業務停止命令及び指示処分をめぐる現状について整理する。

(1)消費生活相談件数

全国の消費生活センター等に寄せられPIO-NET に登録された消費生活相談の件数は、おおむね横ばいの状況にある(図表1)。

特商法の規制対象である取引類型に関する消費生活相談の件数もそれぞれおおむね横ばいであり、それらの中では通信販売(架空請求を除く。)に関するものが最も多く(注6)、次いで訪問販売と電話勧誘販売に関するものが多い(図表2)。

【図表1 消費生活相談件数】

消費生活相談件数,縦軸は件数,横軸は年度:H22;897452,H23;884318,H24;861359,H25;940280,H26;960554,H27;929866,H28;889724
(備考)
PIO-NET データにより当委員会作成。データは平成29 年3月31 日までの受付、同年7月31 日までの登録分で、平成27 年度以降受付分は消費生活センター等からの経由相談を含まず。

【図表2 取引類型別の消費生活相談件数】

取引類型別の消費生活相談件数,縦軸は件数,横軸は年度で、通信販売(架空請求を除く。)、訪問販売、電話勧誘販売、特定継続的役務提供、連鎖販売取引、訪問購入、業務提供誘引販売取引がH22からH28まで掲載されています。
(備考)
1 PIO-NET データにより当委員会作成。データは平成29 年3月31 日までの受付、同年7月31 日までの登録分で、平成27 年度以降受付分は消費生活センター等からの経由相談を含まず(訪問購入に関する相談は平成25 年2月21 日以降受付分より収集)。
2 「特定継続的役務提供」は「エステティックサービス」、「外国語・会話教室」、「家庭教師」、「学習塾」、「パソコン・ワープロ教室」、「結婚相手紹介サービス」に関する相談の合計件数。「業務提供誘引販売取引」は「内職・副業(「ネズミ講」を除く。)」、「モニター商法」に関する相談の合計件数。
3 1つの消費生活相談が複数の取引類型に重複して計上されている場合もある。

(2)執行業務の流れ

特商法における行政執行は、一般に、PIO-NET に蓄積されている消費生活相談情報や消費者等からの申出(注7)等を端緒として調査を開始し、消費者からの被害聴取、事業者に対する報告徴収・立入検査(注8)等の行政調査の結果、特商法に違反する行為があると認められる場合に、行政処分(業務改善の指示や業務停止命令)と事業者名の公表を行うという手順で実施される。

(3)執行状況

特商法の執行状況を見ると、マル1全体の執行件数は平成22 年度をピークに減少していること、マル2都道府県により執行件数に差異があることが見て取れる(図表3)。

ただし、公表されている執行件数(業務停止命令・指示処分)の前段階として調査や行政指導の実施件数が執行件数の数倍に上る都道府県もあり、執行件数がゼロの都道府県であっても調査や行政指導を複数件実施することにより被害防止の施策を講じている実情もある。

【図表3 特商法の国・都道府県別執行件数】

特商法の国・都道府県別執行件数,。縦軸は国全体と各都道府県,横軸は年度毎その業務停止命令数を左にと指示数を右に記載し、平成9年から平成29年までが記載されています。
(備考)
出典は消費者庁ウェブサイト2017年7月13日公表時点の「特定商取引法に基づく処分件数の推移」

また、国、都道府県別の取引類型別執行件数をみると、国では、電話勧誘販売、訪問販売が多くを占めている(図表4)。他方、都道府県では、訪問販売が多数を占め、次いで電話勧誘販売の順となっている。

【図表4 特商法の取引類型別執行件数(平成23 年度から平成28 年度)】

特商法の取引類型別執行件数(平成23 年度から平成28 年度)です。縦軸は都道府県,横軸は左から:訪問販売、通信販売、電話勧誘販売、特定継続的役務提供、業務提供誘引販売、訪問購入です。
(備考)
消費者庁ウェブサイト2017年7月13日公表時点の「国及び都道府県における処分事業者一覧」より当委員会作成。

2 課題

(1)執行体制

多くの都道府県において、執行の基本となる消費者行政担当職員は、特商法の執行業務のほかにも複数の業務を兼務している(図表5)。都道府県においては、体制への不安を抱え、執行ノウハウの蓄積に苦慮している。

【図表5 都道府県別 消費生活相談件数、法執行件数、職員数等】

都道府県別 消費生活相談件数、法執行件数、職員数等です。縦軸は都道府県,横軸は左から:人口、相談件数、執行件数、事務職員数、人口/職員、特商法職員、法執行合計です。
(備考)
1 総務省統計局「平成27 年10 月1日現在の人口推計」 及び消費者庁ウェブサイト2017年7月13日公表時点の「平成27 年度地方消費者行政の現況」,「特定商取引法違反に基づく処分件数の推移」
より当委員会作成。
2 各項目の示している内容は以下のとおり。
  • 「人口」:平成27 年10 月1日時点の推計人口(千人)
  • 「総相談件数」:平成26 年度の消費生活相談件数
  • 「執行件数」:平成27 年度の特商法に基づく業務停止命令及び指示処分の件数
  • 「相談/執行」:行政処分1件当たりの消費生活相談件数
  • 「事務職員数」:消費者行政本課、消費生活センター及び消費者行政関連課(以下「消費者行政担当部署」という。)の事務職員数
  • 「人口/職員」:消費者行政担当部署の事務職員1人当たりの人口(千人)
  • 「特商法職員」:消費者行政担当部署の特商法担当職員数
  • 「法執行合計」:平成8年度から平成27 年度までの特商法に基づく業務停止命令及び指示処分の件数

(2)悪質事業者への対応

近年、事業者の手口が複雑化・巧妙化しており、調査に当たる中で、例えば、事業者が次々と法人を立ち上げて違反行為を行っているような事案や、立入検査・物証収集が困難な事案などが見られ、以前に比較して困難さが増していると考えられる。

(3)国と都道府県の連携及び役割分担

特商法の執行は、国(消費者庁及び各経済産業局)のほか、都道府県が行うこととされている。どちらの主体が執行を行うかについては、特定商取引に関する法律施行令(昭和51 年政令第295 号)第19 条において、都道府県は「当該都道府県の区域内」に係る事案について執行を行うこととされ、「二以上の都道府県の区域」にわたる事案であって、特に必要と認めるとき又は都道府県から要請があったときは国が執行を行うことを妨げないとされている。

これまでの執行の状況をみると、都道府県や国がそれぞれ単独で執行を行う場合のほか、
マル1 複数の都道府県が同一の事業者に対して同時に処分を行うケース
マル2 国と都道府県が同一の事業者に対して共同で処分を行うケース
がある。

この点に関し、国による処分の効果は全国に及ぶのに対し、都道府県による処分の効果は当該都道府県の区域内に限られるものとされており、都道府県による処分のみでは事業者が区域外で違反行為を継続することを抑止できないという問題がある。また、被害が複数の都道府県の区域にわたる個々の事案について、都道府県と国のいずれが対処すべきかが必ずしも明確でないとの指摘もある。

第2 提言

当委員会では、地方消費者行政における特商法の執行力を高めるための方策に関し、有識者、関係行政機関及び都道府県からのヒアリングを含む調査及び審議(注9)を行った。特に、地方消費者行政における特商法の執行に関する実態の調査には重点を置き、執行状況や地理的条件等の特徴を勘案して抽出した11 都道府県からヒアリングを行った上、ヒアリングを行わなかった都道府県に対しては文書によるアンケートを実施し、消費者行政担当部署の執行体制、特商法の執行状況・違反行為に関する調査手法・執行に関する課題等について全都道府県の実態把握を行った。

上記調査審議の結果に基づき、以下のとおり、消費者行政における執行力の充実に関する課題の解決に向けた提言を述べる。

本提言を踏まえ、消費者庁は、適切な取組を進めるべきであり、また、都道府県においても、執行力の充実に向けた取組を行うことが期待される。さらに、都道府県のこのような取組に対し、消費者庁は必要な支援を行うべきである。

1 執行体制に係る課題への対応

都道府県における特商法の執行状況をみると、平成25 年度以降の直近数年間において、業務停止命令及び指示処分の件数がともに全くない都道府県も相当数見られる。

特商法の執行を行うに当たっては、消費者聴取、事業者への立入検査等の調査による十分な証拠の収集、近年高まっている訴訟リスクも視野に入れた適切な違反認定が求められる。また、執行の実効性を高めるためには、調査の着手から執行まで、集中して迅速に手続を進めることが必要である。すなわち、執行担当職員の専門性の向上を図るとともに、調査、法律、処分の専門的知識やノウハウを有する専門人材を活用し、それらの者と行政機関が一体となって実行することが重要である。

(1)執行ノウハウの整備・共有

特商法の執行業務は、消費者からの被害聴取、内偵調査、事業者への立入検査等を伴うものであり、通常の行政事務とは性質が異なる面が多く、専門的な能力及び経験が求められる事務といえる。こうした執行業務に関するノウハウの伝達・蓄積のためには、本来的には複数の職員がチームを組み、実際に執行業務を行う中で知識・経験を習得し、また伝達することが望ましい。

しかし、都道府県の状況をみると、消費者法関係の執行担当部署において、特商法を担当する職員(注10)は、必ずしも複数配置されているわけではない。また調査及び執行の実績が少ない都道府県では、担当職員が実際に執行業務を行って経験を得ることが困難である。こうした理由から、執行に係るノウハウの伝達・蓄積に苦慮する都道府県は多いものと考えられる。

こうしたことから、都道府県の執行担当職員が活用できるよう、情報の適切な管理に留意した上で、国は以下の情報についてマニュアル又はデータベース化して整備し、都道府県と共有することを検討すべきである。また、こうした情報を含む実践的な研修を、遠隔地の都道府県でも参加が容易になるよう地域ブロックごとに量的にも質的にもできる限り拡充することを検討すべき(注11)である。

ア 法令解釈

法令解釈等について、都道府県からの相談に対し国が回答した内容、執行に当たり国及び都道府県が弁護士等の助言を受けた内容の共有化が重要である。

イ 調査手続

全ての都道府県において、一定の水準の調査能力を有することができるようにするため、聴取、立入検査等の調査のノウハウ、訴訟リスクを視野に入れた調査及び違反認定のポイントを整理したもの、手続のフローチャートを作成し共有すべきである。

ウ 訴訟リスクへの対応

近年、行政処分に対する事業者による取消訴訟、損害賠償請求訴訟等の訴訟リスクが高まっていることから、以下の情報について、都道府県の執行担当者が活用できるインデックスを付したマニュアルの整備、データベース化がされるべきである。

(ア)裁判例

過去の訴訟における、訴状、答弁書、準備書面、判決文等を主な論点に応じて整理し、可能な範囲で共有できることが望ましい。

(イ)訴訟対応

上記(ア)の情報を分析し、訴訟リスクを視野に入れた執行業務の注意点、訴訟において争点となり得るポイントの共有化を行うことが望ましい。

(2)執行業務に携わる職員の地位の明確化

(1)で述べた執行業務の特殊性・専門性を踏まえれば、非常勤職員も含め、執行業務に携わる職員に例えば「執行専門官」といった職名を付すなどして、その位置付けを明確にし、対外的にもその職権を明示する(注12)等の工夫を検討することも考えられる。

(3)警察関係者等の専門性を有する非常勤職員の関与の拡大

都道府県においては、執行業務について消費者聴取、立入検査等を効果的に実施する上で、犯罪捜査における被害者取調べ、被疑者取調べ、捜索差押えのノウハウを有する警察関係者との連携は極めて有益であると考えられ、警察関係者と調査の初期段階から緊密な連携を保持することが望ましい。

執行業務は、犯罪捜査における捜索差押えや逮捕のような直接強制力は伴わないものの、事業者に対する報告徴収、事業所への立入検査等、事業者に対する間接強制を伴う調査権限を行使するものであることから、法に基づく権限を有する行政職員のみが行うべきこととされている。実際に、都道府県の常勤職員と非常勤の嘱託員(注13)として任用された警察官OB等の専門人材がチーム体制で執行業務を行っている場合が多いと考えられ、現状、ほぼ全ての都道府県において警察関係者との連携が見られる。

今後も、特商法に基づく執行に必要なノウハウと経験を蓄積・承継し、迅速かつ適切な悪質事業者への対応を行っていくため、継続的な人材確保、増員を図り、警察関係者等の専門性を有する非常勤職員の関与を更に拡大していくことが必要である。

その場合には、常勤職員に適用される地方公務員法の規定を踏まえ、マル1 非常勤職員が担う業務の明確化(執行業務のうち、常勤職員が担う部分と非常勤職員が担う部分との業務・役割分担の整理)、マル2 執行業務を行う非常勤職員の専門性、マル3 守秘義務等の法令遵守、マル4 利益相反の管理体制、マル5 非常勤職員が担う業務に係る責任体制等に留意し、適切にルール化(注14)することにより執行体制の透明性を確保することが重要である。

また、こうした専門性を有する非常勤職員の活用に際しては、その専門性及び業務内容の特殊性に応じた報酬を設定することが望ましく、これに地方消費者行政推進交付金を活用することも考えられる。

(4)官民連携による執行体制の充実、専門人材との連携

ア 弁護士等との連携の有用性

執行業務においては、事実認定及び法令解釈について専門的知識を有する弁護士等との連携も有用である。また、既述のとおり、近年、行政処分に対する訴訟リスクが高まっており、仮に訴訟事案となった場合には、訴訟対応は高度に専門的な知識を要することから、弁護士等との連携は重要であると思われる。

弁護士等との連携に際しては、違反認定、処分決定などの適切なタイミングで相談ができる仕組みを作る必要がある。

具体的には、消費者問題、特商法の専門的知見を有する弁護士を助言者として依頼し、調査から処分に至る各段階で必要に応じ助言を求めること、さらには、弁護士等を常勤又は非常勤の職員として任し、消費者聴取等の調査の段階から執行業務に関わってもらうことも考えられる。仕組みを作るに当たっては、弁護士会に上記専門的知見を有する弁護士の推薦を依頼するなどにより、専門性を確保するとともに利益相反関係等のチェックも確実に行うことが必要である。

また、適切なタイミングで迅速に相談できる仕組みの構築の観点からは、可能であれば、セキュリティを完備したテレビ会議システムを活用することも考えられる。

イ 様々な専門人材との積極的な連携

特商法の事案に応じて、様々な専門人材(公認会計士、建築士等)との連携も積極的に行うことが必要である。

なお、上記アで述べた弁護士等との連携も含め、専門人材との連携の仕組みを構築するに際しては、地方消費者行政推進交付金を活用することも考えられる。

ウ 適格消費者団体等との連携

事業者の不当な行為に対し差止めを求めることができる適格消費者団体や、不当な事業者に対し消費者に代わって被害回復を求めることができる特定適格消費者団体は、消費者被害の未然防止・拡大防止及び被害回復という重要な役割を担っており、その機能を果たすため、不当な事業者に関する情報や消費者の被害情報を収集・分析している。こうした適格消費者団体等からの情報提供等による連携も重要である。

2 悪質事業者への対応

近年、第1の2(2)で述べたように、事業者の手口が複雑化・巧妙化している。

このため、悪質事業者に係る端緒情報を迅速かつ適切に把握し、行政処分につなげるための調査手法の充実が必要である。

(1)消費生活センターの役割の重要性の高まり

ア 法執行を念頭においた相談対応

調査の過程において、PIO-NET 情報等を基に被害に遭った消費者から被害内容の聴取を実施しようとしたところ、連絡先が記録されていなかったり、消費者の協力が得られなかったりしたために聴取を行うことができず、違反認定のための証拠収集が難航する等の事案が発生している。

消費者被害の再発・拡大防止の観点からは、消費生活相談の現場において、相談者に対し、被害回復のための聞き取り、助言に加えて、特商法に基づく行政処分を意識した対応(例えば、販売目的は適に告げられていたか、不実告知はなかったか等の聞き取りや、被害拡大防止のため行政機関による聴取への協力を依頼する場合があり得ることの説明等)がなされることが望ましい。

さらに、このように法執行を念頭においた相談対応を行うことの重要性及び聴取すべき違反行為のポイントについて、相談員研修の内容に盛り込み、消費生活相談員に広く周知されることが望ましい。

イ PIO-NET 入力の工夫

PIO-NET に蓄積されている消費生活相談情報は、法執行の端緒情報として非常に有用であるが、PIO-NET の入力キーワードの中には特商法上の法律用語と一致していないものもあり、執行力を充実させる観点からの検索機能としては弱いなど不十分な部分がある。執行部局による検索が容易になるよう、可能な範囲で、特商法で用いられている用語を入力キーワードとし、特商法に関連する消費生活相談を的確に把握できるようにするなどの工夫が重要である。

ウ 消費生活センターと執行部局との情報連携の仕組みの構築

消費生活センターにおいて受け付けた相談情報ができるだけ迅速かつ正確にPIO-NET に入力され、さらに、悪質性の高い事案の情報等については執行部局に直接かつ迅速に伝達される仕組みを構築するなど、相談処理と法執行との連携を密にすることが望まれる。また、消費生活センターから提供された情報への対応状況について、非公開情報の管理には特に留意しつつ、可能な範囲でフィードバックすることは、この仕組みの実効性を高めるために重要と考えられる。

(2)特商法執行ネットの充実

特商法執行ネット(注15)に入力される情報(例えば、事業者に関連することとしては、役員・関係者情報など)を充実させ、一層の活用を図るべきである。

(3)関連先への資料提供要求権の活用

事業者に関する情報収集のためには、特商法第66 条第3項に規定する、関連先(銀行口座を付与する金融機関、オフィス賃貸事業者、クレジット会社等)への資料提供要求権の活用が極めて有効である。この資料提供要求権の具体的な活用方法等を都道府県に示すこと等によりその活用を促進するとともに、関連先からの協力が得やすくなるよう、関連先への同条項の周知を図ることも考えられる。

(4)消費者からの情報収集

悪質事業者に対し適切な執行を行うためには、法令違反と思われる事案について、消費者から行政機関への情報提供が迅速に行われることも重要である。

このため、行政機関は、消費者に対し、法令違反に当たる事例について具体的な情報提供を行い、消費生活相談窓口の積極的な利用を呼び掛けるとともに、相談窓口において直接消費者と接する消費生活相談員に対し、違反認定における消費者からの情報提供の重要性について十分に周知する必要がある。

また、悪質事業者に関連する情報の早期探知の観点から、SNS等インターネット上に存在する情報についても、幅広く収集し活用していくことも検討されるべきである。

3 国と都道府県の連携及び役割分担

(1)近隣都道府県及び国との連携

近年の悪質事業者の手口を見ると、1つの都道府県で行政処分を受けた事業者が場所を変え近隣の都道府県で同一の悪質事業を行っている事例や、複数の近隣の都道府県で同時・広域的に悪質事業を行っている事例が見られるが、特商法においては、都道府県による行政処分の効力は当該都道府県の区域を越えて及ばないとされている。

したがって、都道府県が執行を行うに際しては、近隣都道府県間において緊密な情報交換を行い、図表6の事例に見られるように必要に応じて複数の都道府県が連携して処分を行う(注16)ことにより、こうした悪質事業者に対応することが重要と考えられる。さらに、図表7の事例に見られるように、処分の効力が全国に及ぶ国との共同処分も積極的に検討されるべきである。

現在、図表8に示すとおり、ほぼ全ての都道府県において連絡会議が設置されているが、こうした仕組みの有用性を一層高めることが必要である。具体的には、例えば国や警察が参加する、連絡会議の開催頻度を増やすこと等が考えられる。

【図表6 都道府県による同時処分】

【事例1】

群馬県及び長野県は、住宅リフォーム工事等の訪問販売事業を行っていたAに対し、平成29 年2月に同時に行政処分を行った。処分内容は下記のとおり。
・群馬県…業務停止命令(6ヶ月)
・長野県…指示

【事例2】

東京都及び愛知県は、浄水器の訪問販売事業を行っていたBに対し、平成28 年3月に同時に行政処分を行った。処分内容は下記のとおり。
・東京都及び愛知県…業務停止命令(12 ヶ月)

【図表7 国(経済産業局)と都道府県による共同処分】

【事例1】

中部経済産業局、石川県及び富山県は、水フィルター式掃除機及びスチームクリーナーの訪問販売事業を行っていたCに対し、平成29 年3月に共同で行政処分を行った。処分内容は下記のとおり。
中部経済産業局及び石川県…業務停止命令(6ヶ月)及び指示
富山県…指示

【事例2】

中国経済産業局及び広島県は、貴金属、衣類、食器、雑貨等の訪問購入事業を行っていたDに対し、平成29 年3月に共同で行政処分を行った。処分内容は下記のとおり。
中国経済産業局…業務停止命令(6ヶ月)及び指示
広島県…業務停止命令(6ヶ月)

【図表8 都道府県における広域連携】

全国の都道府県の広域連携を図示したもので14個のブロックに分かれています。
No 会議名 参加都道府県
1 東北地域特定商取引法執行担当者会議 青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県
2 北関東四県悪質事業者対策会議 茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県
3 消費者取引情報連絡会 茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県
4 五都県悪質事業者対策会議 埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、静岡県
5 北陸三県悪質事業者対策会議 富山県、石川県、福井県
6 東海地域悪質事業者対策会議 岐阜県、静岡県、愛知県、三重県
7 特商法執行関係機関情報交換会議 富山県、石川県、岐阜県、愛知県、三重県
8 近畿府県消費者行政担当者連絡会 福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
9 消費者被害情報連絡会 福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
10 中国地方悪質事業者対策会議 鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県
11 中国地域消費者被害情報連絡会 鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県
12 四国四県悪質商法対策会議 徳島県、香川県、愛媛県、高知県
13 特定商取引法連絡会議 徳島県、香川県、愛媛県、高知県
14 消費生活の安心安全ネットワーク会議 山口県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県

(2)被害が広域に及ぶ事案における役割分担

特商法に係る事務については、都道府県域内の事案は当該都道府県において対処することとされ、複数の都道府県の区域にわたる事案には国(消費者庁又は経済産業局)も対処できることとされている。

被害が複数の都道府県にわたっていても、訪問購入の場合によく見られるように事業者が比較的狭い範囲で活動している事案については、都道府県において対処するのが適当であると考えられるが、例えば連鎖販売取引のように被害が広域に及ぶことが多い事案については、都道府県による行政処分の効力が当該都道府県の区域外に及ばない以上、国が積極的に対処すべきといえる(注17)。

しかし、被害が複数の都道府県の区域にわたる個々の事案について、都道府県と国のいずれが対処すべきか(また、共同して執行を行うべき場合があるとすれば、それはいかなる場合か)について、必ずしも明確でないとの指摘がある。このことは、消費者被害が実際に発生している中で、迅速かつ確実に調査を進めることの障壁となり得る。

もとより都道府県の特商法の執行業務は自治事務であり、国が都道府県を指揮監督する権限はないが、消費者庁は、国と都道府県の役割分担について基本的な考え方を明示し、国及び都道府県は、できる限りその考え方に基づき着実に執行を行うことが望ましい。

(3)都道府県の立入検査等への支援

国においては、都道府県が適切に執行業務を行うことができるよう、研修を行うとともに、実践的にも支援を行うことが重要である。

例えば、実施に際し機動的な判断が要求され、経験を重ねることがスキルアップのために有効と考えられる立入検査について、国が行う際に、対象となる事業所の所在地である都道府県の職員に協力を要請することや、都道府県からの立入検査同行依頼に対して国が積極的に応ずるといったことが行われているが、これらの取組を一層進めていくべきである。

(4)国と地方の処分権限の考え方の周知

特商法の執行権限において、国と都道府県の両方が処分を行えることについて、事業者から、二重行政ではないかとの指摘がなされることがある。国、都道府県のそれぞれに処分権限があること等、特商法の法執行に関する考え方を適切に周知する必要がある。

第3 今後に向けて

以下の点については、直ちに対応が求められるものではないが、地方消費者行政における執行力の充実の観点からは、重要な論点になり得ると考えられる。消費者庁においては、以下の点について今後も引き続いて着目し、検討を深めるべきである。また都道府県においても、以下の点について今後執行力の充実に取り組む上での参考とされたい。

1 適切なタイミングでの行政処分の実行

都道府県においては、特商法違反とみられる情報を入手した場合には、迅速に調査を進め、違反が認められた場合には行政処分を行うことが原則である。

しかしながら、執行の現場では、行政処分に至るまでの間の被害拡大を阻止することも期待されることから、行政処分よりも迅速に実施することが可能な行政指導による対応が行われている場面も見られる。

特商法の執行の目的は消費者被害の拡大防止・再発防止であり、行政指導は、その目的には合致するものの、勧告など法令に規定されている場合を除いて行政指導を行ったことを公表することは基本的に行われないため、他の事業者に対する抑止効果も消費者への注意喚起の効果もないこと、また、行政処分とは異なり事業者側の防御手段も乏しいため、手続の透明性に欠けるといったことが懸念される。

迅速な被害拡大防止の観点から、悪質性の低い、また小規模な事案について行政指導を行うことは必ずしも否定的な面ばかりではない。都道府県は、事案により、行政指導と行政処分のいずれによるかの方針を、調査の適切な段階で決定することが重要である。ただし、悪質性の高い、また深刻な被害が生じていると思われる事案に対しては、特商法の執行の目的が被害の拡大・再発防止であることを踏まえれば、基本的には、行政指導ではなく行政処分により対処すべきである。

なお、調査の過程でその方針を柔軟に転換すべき場合があることにも留意すべきである。

2 悪質事業者に対する制度的対応

特商法に基づく行政処分の効果は当該事業者にしか及ばないことから、これまで、一度処分を受けた事業者が、法人の作り替えを行うこと等により実質的に業務を継続し、違反行為を繰り返す事案が見られていた。

これに対しては、平成28 年の特商法改正で、業務停止を命ぜられた法人の取締役やこれと同等の支配力を有すると認められる者等に対しては、新たに法人を設立して実質的に業務を継続すること等が禁止されることとされたことにより、制度的には対処が可能となっている。

今後、こうした事案については、法の着実な運用により対処していくことが重要であり、引き続き法の実効性について注視していくべきである。

3 警察との連携強化

悪質事業者の特商法違反行為に対しては、行政執行手続だけでなく、警察による刑事手続が同時に進められる場合があり得る。イギリスにおいては、消費者法の執行を担う行政官が刑事手続に係る権限も有しており、その強力な職権が市民にも事業者にもよく知られていることが消費者被害の救済・抑止効果につながっているとされる(注18)。

背景とする法制度を異にする我が国において直ちにこれに倣うことはできないが、犯罪の疑いのある事案について、手続の重複を回避し、迅速かつ効果的に消費者被害の拡大・再発防止を図る観点から、今後、行政機関と警察との更に一歩踏み出した緊密な連携の可能性を模索することも有用と思われる。

なお、同一の特商法違反事案について行政処分と刑事罰の両方を科す場合に、刑事事件の捜査に利用する目的をもって行政調査を行うことはできないが(特商法第66 条第8項)、今後、手続保障に配慮しつつ、行政目的で収集した証拠資料の刑事手続における利用(注19)や刑事手続において得られた証拠資料の行政手続における利用(注20)について、必要に応じ、検討していくことも考えられる。

4 職員の専門性の充実

都道府県の執行力の充実に向け、各都道府県において悪質事業者の一掃を目指す専門職員の配置等の取組が行われ、その行政体制が強化されることについては、特に期待を寄せるところである。そうした取組の前提として、まずは、警察官OBの任用や官民連携による専門人材の積極的な活用と同時に、都道府県の行政職員の専門能力の向上が不可欠であり、業務の特殊性を踏まえた、研修、人事ローテーション等の職員育成の仕組みの必要性についても検討を行うべきであることを付言する。

また、国は、都道府県において職員体制の拡充が進展するよう、地方自治体が担う消費者行政の重要性について、積極的に説明することが必要と考える。

以上


  • (注1) 特商法の適用除外である商品・役務等に関する相談を含み、また、相談内容は必ずしも特商法に沿ったものとは限らない。
  • (注2) 「PIO-NET(パイオネット:全国消費生活情報ネットワークシステム)」とは、国民生活センターと全国の消費生活センター等をオンラインネットワークで結び、消費生活に関する相談情報を蓄積しているデータベース。
  • (注3) ただし、1つの消費生活相談が複数の取引類型に重複して計上されている場合があることに注意が必要である。
  • (注4) 20 年改正では指定商品・指定役務制の廃止等、24 年改正では対象とする取引類型に訪問購入を追加、28 年改正では次々と法人を立ち上げて違反行為を行う事業者への対処等が盛り込まれた。
  • (注5) 特商法第68 条の規定による。
  • (注6) ただし、「通信販売(架空請求を除く。)」には、インターネット通販による「アダルト情報サイト」などのウェブサイトの利用料や「オンラインゲーム」などのデジタルコンテンツ等、一般的な「通信販売」のイメージと乖離のあるものに関する相談を含むことに注意が必要である。
  • (注7) 特商法第60 条第1項の規定に基づく。
  • (注8) 事業者の任意の協力による場合のほか、間接強制権限に基づいて行う場合(特商法第66 条第1 項)がある。
  • (注9) なお、これらの調査審議は、執行事務の適正な遂行への支障を避ける観点から、大部分を非公開で実施した。
  • (注10) 特商法の専任ではなく、他の消費者法の担当を複数兼務している場合が多く見られる。
  • (注11) イギリスの消費者法執行担当部局では、研修所での定例的な研修のほかに、部局内において必要に応じ常時研修・講義を実施しているという(第252 回消費者委員会本会議(平成29 年8月1日。以下「第252 回本会議」という。))。
  • (注12) イギリスでは、消費者法の執行担当行政官は高度の専門性を有する職とされ、高い社会的評価を有しており、研修所での研修と現場経験を積み「取引基準官」として任官した後は、他の職務への配置転換の対象となることは少ないという(第252 回本会議)。
  • (注13) 地方公務員法(昭和25 年法律第261 号)第3条第3項において特別職地方公務員とされる職が列記されており、非常勤の嘱託員は同項第3号に規定されている。
  • (注14) 非常勤の嘱託員等の特別職地方公務員は地方公務員法第4条第2項の規定により法律に特別の定めがある場合を除き同法の適用を受けないため、同法の規定により常勤職員に課される服務規定等と同等の規定を別途要綱等により定めることが一般的と思われる。
  • (注15) 消費者庁、経済産業省、都道府県において迅速かつ効果的に共有を図る観点から、特商法違反の疑いのある事業者についての基礎情報や各機関の調査、執行状況の情報共有のためのネットワーク。
  • (注16) この場合、処分の対象となる違反行為は当該都道府県の区域内で行われたものに限られるものの、取引の公正や購入者等の利益が害されるおそれの認定に際し、共同して調査を行った他の都道府県における被害状況等を考慮することはできると考えられる。
  • (注17) 一方で、国による執行と共同して都道府県が執行を行うことも、当該地域の実情や被害状況等に応じた対応が可能となる等のメリットがある。
  • (注18) 第252 回本会議
  • (注19) 税法上の課税処分と犯則事件に関し、行政調査の際に得られた証拠資料を刑事事件の証拠として用いることが直ちに否定されるものではないとした判例がある(最決平成16 年1月20 日)。
  • (注20) 犯則調査によって得られた資料を課税処分のために利用することも許されるとする判例がある(最判昭和63 年3月31 日)。

関係法令

1 特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)(抜粋)

  (目的)
第一条 この法律は、特定商取引(訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売に係る取引、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引、業務提供誘引販売取引並びに訪問購入に係る取引をいう。以下同じ。)を公正にし、及び購入者等が受けることのある損害の防止を図ることにより、購入者等の利益を保護し、あわせて商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にし、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
  (主務大臣に対する申出)
第六十条 何人も、特定商取引の公正及び購入者等の利益が害されるおそれがあると認めるときは、主務大臣に対し、その旨を申し出て、適当な措置をとるべきことを求めることができる。

2 (略)

  (報告及び立入検査)
第六十六条 主務大臣は、この法律を施行するため必要があると認めるときは、政令で定めるところにより販売業者、役務提供事業者、統括者、勧誘者、一般連鎖販売業者、業務提供誘引販売業を行う者若しくは購入業者(以下この条において「販売業者等」という。)に対し報告若しくは帳簿、書類その他の物件の提出を命じ、又はその職員に販売業者等の店舗その他の事業所に立ち入り、帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。
2 (略)
3 主務大臣は、この法律を施行するため特に必要があると認めるときは、販売業者等と取引する者(次項の規定が適用される者を除く。)に対し、当該販売業者等の業務又は財産に関し参考となるべき報告又は資料の提出を命ずることができる。
4から7 (略)
8 第一項若しくは第二項(これらの規定を第六項において準用する場合を含む。)又は第五項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
  (都道府県が処理する事務)
第六十八条 この法律に規定する主務大臣の権限に属する事務の一部は、政令で定めるところにより、都道府県知事が行うこととすることができる。

2 特定商取引に関する法律施行令(昭和51年政令第295号)(抜粋)

  (都道府県が処理する事務)
第十九条 法第七条、第八条、第三十八条、第三十九条、第四十六条、第四十七条、第五十六条、第五十七条、第五十八条の十二及び第五十八条の十三に規定する主務大臣の権限に属する事務並びにその事務に係る法第六条の二、第三十四条の二、第三十六条の二、第四十三条の二、第四十四条の二、第五十二条の二、第五十四条の二並びに第六十六条第一項から第三項まで(同条第六項において準用する場合を含む。)及び第四項に規定する主務大臣の権限に属する事務で、当該都道府県の区域内における販売業者、役務提供事業者、統括者、勧誘者、一般連鎖販売業者、業務提供誘引販売業を行う者又は購入業者の業務(連鎖販売取引電子メール広告受託事業者又は業務提供誘引販売取引電子メール広告受託事業者が受託して行うものを含む。)に係るものは、都道府県知事が行うこととする。ただし、二以上の都道府県の区域にわたり訪問販売に係る取引、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引、業務提供誘引販売取引若しくは訪問購入に係る取引の公正及び購入者等の利益が害されるおそれがあり、主務大臣がその事態に適正かつ効率的に対処するため特に必要があると認めるとき、又は都道府県知事から要請があつたときは、主務大臣が自らその事務を行うことを妨げない。
2 法第十四条及び第十五条に規定する主務大臣の権限に属する事務並びにその事務に係る法第十二条の二並びに第六十六条第一項から第三項まで(同条第六項において準用する場合を含む。)及び第四項に規定する主務大臣の権限に属する事務は、販売業者又は役務提供事業者の通信販売についての広告(通信販売電子メール広告受託事業者が受託して行うものを含む。)がされた場所又は地域を含む都道府県の区域を管轄する都道府県知事が行うこととする。ただし、二以上の都道府県の区域にわたり通信販売に係る取引の公正及び購入者等の利益が害されるおそれがあり、主務大臣がその事態に適正かつ効率的に対処するため特に必要があると認めるとき、又は都道府県知事から要請があつたときは、主務大臣が自らその事務を行うことを妨げない。
3 法第二十二条及び第二十三条に規定する主務大臣の権限に属する事務並びにその事務に係る法第二十一条の二及び第六十六条第一項から第三項までに規定する主務大臣の権限に属する事務は、販売業者又は役務提供事業者の電話勧誘販売に係る勧誘の相手方が当該勧誘を受けた場所を含む都道府県の区域を管轄する都道府県知事が行うこととする。ただし、二以上の都道府県の区域にわたり電話勧誘販売に係る取引の公正及び購入者等の利益が害されるおそれがあり、主務大臣がその事態に適正かつ効率的に対処するため特に必要があると認めるとき、又は都道府県知事から要請があつたときは、主務大臣が自らその事務を行うことを妨げない。
4 訪問販売に係る取引、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引、業務提供誘引販売取引及び訪問購入に係る取引に関する法第六十条に規定する主務大臣の権限に属する事務で、当該都道府県の区域内における販売業者、役務提供事業者、統括者、勧誘者、一般連鎖販売業者、業務提供誘引販売業を行う者又は購入業者の業務(連鎖販売取引電子メール広告受託事業者又は業務提供誘引販売取引電子メール広告受託事業者が受託して行うものを含む。)に係るものは、都道府県知事が行うこととする。ただし、主務大臣が自らその事務を行うことを妨げない。
5 通信販売に係る取引に関する法第六十条に規定する主務大臣の権限に属する事務は、販売業者又は役務提供事業者の通信販売についての広告(通信販売電子メール広告受託事業者が受託して行うものを含む。)がされた場所又は地域を含む都道府県の区域を管轄する都道府県知事が行うこととする。ただし、主務大臣が自らその事務を行うことを妨げない。
6 電話勧誘販売に係る取引に関する法第六十条に規定する主務大臣の権限に属する事務は、販売業者又は役務提供事業者の電話勧誘販売に係る勧誘の相手方が当該勧誘を受けた場所を含む都道府県の区域を管轄する都道府県知事が行うこととする。ただし、主務大臣が自らその事務を行うことを妨げない。
7・8 (略)

3 地方公務員法(昭和25年法律第261号)(抜粋)

  (一般職に属する地方公務員及び特別職に属する地方公務員)
第三条 地方公務員(地方公共団体及び特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第二項に規定する特定地方独立行政法人をいう。以下同じ。)のすべての公務員をいう。以下同じ。)の職は、一般職と特別職とに分ける。
2 (略)
3 特別職は、次に掲げる職とする。
一から二の二 (略)
三 臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職
四から六 (略)
(この法律の適用を受ける地方公務員)
第四条 この法律の規定は、一般職に属するすべての地方公務員(以下「職員」という。)に適用する。
2 この法律の規定は、法律に特別の定がある場合を除く外、特別職に属する地方公務員には適用しない。
」の提出を受けた。


同報告書においては、事故情報の更なる活用に向けた適切な検討や提言がなされていると考えており、事故情報の一層の活用を事故の未然防止等につなげるとの観点から、消費者庁に対し、同報告書の内容を踏まえ提言する。また、本提言への対応について、必要に応じて、今後、消費者庁から報告を求めることとする。

なお、提言への対応にあたっては、特に、以下の点に留意すべきである。

まず、提言内容の取組にあたっては、事故情報データバンクに関与する様々な関係者、例えば消費者、事業者、データバンク参画機関、関係行政機関が連携・情報交換を行うことが望ましい。

また、事故情報の分析の質を高めるためには、様々な事故情報から、重要な点を見つけ出し、事故の未然防止等の消費者問題の解決につなげていく力(翻訳力)を高めていくことが必要である。

さらに、将来的な課題ではあるが、事故情報の収集、分析等に係る、国際的な連携を進めていくことも重要と考えられる。

1 事故情報データの品質の向上

事故情報データバンクの入力項目数は多数にのぼる。

また、参画機関ごとに、登録事故情報の入力項目が個々に決められており、事故情報として表示される際に差異がみられる。

今後も、事故情報データバンクが消費者事故の未然防止等に活用され、有用なものであるよう、以下の点について提言する。

なお、それぞれについて検討する際には、常に、事故情報データバンクの整備目的や利用者のニーズに沿ったものであるかを念頭におくことが不可欠である。

(1)入力方法の整理

  • ア 入力項目の検討
    事故情報データバンクは、運用開始時に「統一入力フォーマット」として必須入力項目を決定する際、各機関で持っているデータベースの項目に基づいて事故情報を入力することを基本としているため、参画機関ごとに入力項目に差異が生じていることや入力項目であっても情報が得られないことにより、登録されない項目が数多く存在している。そのため、事故情報データバンクの目的、利用者のニーズ等を踏まえ、入力を推奨する項目を明確化することが望ましい。
  • イ データ分析技術を利用した入力項目の補完
    上記のとおり、各参画機関の入力項目に差異等があるという実情を踏まえ、当面、消費者安全専門調査会報告書(以下「報告書」という。)で示したような新たなデータ分析技術を用いて、自由記述文を分析することにより、データを補完する仕組みを検討することも考えられる。
  • ウ 入力項目の定義の明確化
    参画機関ごとに入力項目の定義を定めていることから、事故情報データバンク全体として見た場合、分類の揺らぎが見られると考えられる。このため、より効果的な事故情報データバンクの利用に資するよう、入力項目の定義や分類方法を明確化し、例えば、ガイドライン等を示すことが望ましい。
    さらに、将来の課題として、自由記述文の用語のコード化を検討することが望ましい。
  • エ 入力項目の精査
    事故対策の検討や未然防止等に資するよう入力項目を適宜検証し、必要に応じて、見直し、更新することが望ましい。
    また、事故内容については、「その他」が4割を超えている。こうした項目については、利用者のニーズを踏まえ、細分化を検討することが望ましい。

(2)データ入力者のスキルの向上と入力フォーマットの技術的支援

データの品質向上のためには、データ入力者のスキルの向上も必要であり、必要に応じ研修を行うことも重要である。

同時に、入力フォーマットに関する技術的な支援(プルダウン方式とする、入力を必須とする項目については入力しないと作業が完了しない等)も重要と考えられる。

(3)把握が困難と考えられる事故情報の収集

家庭における子どもの事故や、被介護者の事故は、保護者あるいは介護者が、自らの不注意とのみとらえること等により、どこにも連絡しない場合があると考えられる。

また、製品の誤使用と思われる事故についても、同様のことが想定される。これらの事故に関する情報も、事故の再発防止等には重要であり、こうした把握が困難と考えられる情報についても、消費者教育や消費者の体験と参加を促進する仕組み等を通じて、消費者が積極的に情報を出しやすい環境を作ることで、より一層収集できることが望ましい。

(4)事故情報データバンク参画機関の連携・情報交換

入力参画機関において、データ品質向上の目的やその重要性を共有し、具体的な方策の検討に当たっては、連携・情報交換を行うことが望ましい。

さらに、将来の課題として、事故情報を収集・分析している国内外の機関との連携についても検討することが望ましいと考えられる。

2 新たなデータ分析の活用

事故情報データバンクに登録されている情報の分析において、これまでは、人工知能技術等の新たなデータ分析技術が必ずしも十分に活用されていない面があると考えられる。

このため、データ分析技術の活用の可能性について検討し、それを踏まえ、以下のとおり述べる。

(1)新たなデータ分析技術の活用

事故情報データバンクには、平成29年3月末現在、約20万件の事故情報が登録されており、自由記述を含むこれらの情報を限られた人員において網羅的に分析することは困難な場合もあると思われる。

このため、報告書で示したように、言語解析技術等のデータ分析技術を用い、事故の傾向の把握や、分析対象とすべき事故の絞り込み等に活用することは、より深い分析を支援するための方策として有用と考えられる。

なお、事故情報データバンクの参画機関は、参画機関ごとに情報の分析に取り組んでいると考えられるが、事故情報データバンクに集約された情報を全体的に分析することの有用性を共有し、その有用性を高めることを目的に、参画機関が連携してデータ分析技術の活用について検討することも重要である。

あわせて、データ分析技術には、分析の限界があることも踏まえるべきである。例えば、一定程度に絞り込んだ後は、人手により丁寧に見ていくことも必要と考えられる。また、実際の分析に当たっては、分析の専門家だけでなく、事故について知見を有する者が行うことが重要である。

(2)SNS上の事故情報の分析

SNSには、事故情報データバンクには入力されない事故情報が、動画や写真付きでリアルタイムで投稿されている場合がある。また、本報告書参考資料1「暮らしの事故に関するアンケート結果」(以下「アンケート結果」という。)によると、10代、20代は、「事故に遭った場合」、「あるいは事故に遭いそうになった場合」にSNSに情報をアップすると回答するものが一定数存在している。そのため、SNS上の事故情報について分析の対象とすることも一定程度有効であると考えられる。

なお、SNS上の事故情報の分析に当たっては、報告書で述べた留意点を考慮することが重要である。

(3)消費者安全専門調査会における分析結果の検討

報告書を参考に、そこでの分析結果を踏まえ、さらに調査分析を行うことが望ましい。調査分析の内容としては、例えば、これまでの注意喚起の有無、関連製品の調査・対策の有無、今後の事故の広がりの可能性の検討等が考えられる。

3 事故情報を伝達する新たな仕組みの構築

(1)新しい事故情報の公表

  • ア 事故を分かりやすく表現する方策
    報告書を参考に、消費者にとって事故を分かりやすく表現し、消費者自身での危険回避を促進し、事故の再発防止効果を高めるため、事故の特性に注目した公表を行うことが望ましい。例えば、ライターによる火傷の一因は、ライターの残り火によるものという特性があるが、残り火はライターの他、花火、たき火等でも生じる可能性がある。そのため、残り火の危険性に着目した公表などが考えられる。
  • イ 消費者に届きやすい方策
    • (ア)情報提供の媒体
      報告書におけるアンケート結果によると、事故に関する情報を入手する手段として、「テレビのニュース」を挙げたものが性別・年代を問わず圧倒的に多い。そのため、事故情報の公表を行う際は、こうした媒体に取り上げられるよう、引き続き考慮することが望ましい。
      また、10代、20代に限ると、情報の入手手段として「消費者庁Twitter」の割合も高く、これらの世代向けには、TwitterなどのSNSを活用した公表に取り組むことも有用と考えられる。
    • (イ)情報提供の内容
      提供する情報の内容は、商品名や事故の詳細な内容等と併せて、事故の予防策・対応策も含めるなど、消費者にとってより有用なものとなるよう配慮することが望ましい。また、事故情報と結び付けて、事故後に行った行政機関等の注意喚起や事業者がとった対策の内容についても情報提供することが望ましい。
      なお、文字による情報提供だけでなく、動画を活用することも、消費者にとって分かりやすく有用であると考えられる。
      さらに、海外と事故に関する情報共有が容易に図れるよう、将来的には、事故情報データバンクの英語等による情報提供についても検討することが望ましい。
    • (ウ)情報提供のルート
      世代によって主な生活の場や、遭遇しやすい事故が異なる。そのため、例えば、子どもについては学校等、高齢者については高齢者の立ち寄る場など、情報チャネルを工夫して情報発信をすることが望ましい。
    • (エ)継続的な情報提供
      事故の中には、特定の時期(季節等)などに繰り返し発生しているものも見られる。そのため、こうした事故については、事故の未然防止等のため継続的に情報提供を行うことが望ましい。

(2)体験と参加を促進する仕組み

報告書を参考に、情報による事故伝達だけでなく、消費者が事故を疑似的に体験することで消費者自ら事故の危険を考え、回避することを促す仕組み(消費者事故の体験型テーマパーク等)や、家庭、学校での事故情報などを自ら発信するなど消費者が積極的に事故情報に関わる仕組み(くらしの安全掲示板と安全情報マイスター等)を構築することの可能性を検討することが望ましい。

4 事故に対して講じた施策の効果の評価

事故に対して施策を講じた場合、例えば、施策を講じた前後における事故の件数の推移等を継続的に把握するなど、その効果を検証し、必要に応じ施策の見直しを行うことが望ましい。

5 事故情報の公開の促進

事故情報については、社会で広く共有するものとの認識に立ち、報告書の留意点を十分に踏まえ、可能な範囲で公開を促進する方向で検討を行うことが望ましい。こうした公開により、消費者から収集された事故情報が、消費者にフィードバックされることにもなる。

公開の方策として、直ちに全ての情報を全ての人に公開するのではなく、まずは、事故原因の究明等を行っている研究機関や、製品の安全性の向上等に取り組んでいる事業者等に対して、研究目的等に応じて公開する内容を限定して公開する。あわせて、公開範囲の拡大について検討する等、段階的に公開を行うことも考えられる。

その中で、現在、医療機関ネットワークの情報は一般には公開されていないが、より有効に活用することが可能となるよう、個人情報の取扱い等に十分留意した上で、研究目的等に応じて情報を提供する可能性について検討することが望ましい。

以上