消費者基本計画の改定素案(平成24年4月)等に対する意見

2012年5月29日
消費者委員会

 消費者基本法においては、消費者基本計画(以下、「計画」という。)の検証・評価・監視について、それらの結果の取りまとめを行おうとする場合には、消費者委員会の意見を聴かなければならないとされている。このため、当委員会としては、本件に関する関係府省庁の作業に先駆けて意見(「消費者基本計画の平成23年度の実施状況に関する検証・評価及び計画の見直しに向けての意見」<平成24年3月27日>)を述べるとともに、5月の委員会において、計画の改定素案に盛り込まれた施策の実施状況や今後の取組方針等について、関係省庁から計3回にわたりヒアリングを行った。
 当委員会としては、関係省庁ヒアリングの結果等を踏まえ、計画の平成23年度の実施状況に関する検証・評価及び計画の改定素案について、下記の通り意見を述べる。関係省庁におかれては、計画の原案とりまとめに向けて、下記の各項目について検討の上、可能な限り計画の具体的施策等に反映されたい。あわせて、平成24年3月27日付け当委員会意見に盛り込んだ各項目についても再度検討を行い、同様の対応をとられたい。
 当委員会としては、本意見等の計画への反映状況やその後の実施状況等について引き続き監視を行い、消費者被害の状況が深刻なものや取組が不十分と考えられるもの等については、計画の検証・評価・監視に係る関係省庁ヒアリング等の場で改めて取り上げていくとともに、必要に応じて建議・提言等を行っていくこととする。


1.放射能汚染への対応とリスクコミュニケーション(施策番号21関係、新規施策)

  • (1) 放射能汚染に伴う消費者の不安を解消するためには、食品の安全性等に関するリスクコミュニケーションをより効果的に行うことが必要である。このため、関係省庁等における取組の整合性を確保するための措置について、計画の具体的施策に明記されたい。(消費者庁、食品安全委員会、厚生労働省、農林水産省、環境省)
  • (2) 放射線測定器の精度にバラつきがあることが、消費者の不安や悪質商法等をもたらす一因となっている。放射線測定器について、JIS(日本工業規格)化を通じて精度等の規格化を推進するとともに、これを計量法の規制対象に加えることによる効果や課題等についての検討に速やかに着手し、その結果を踏まえて必要な措置を迅速に講ずる旨を計画の具体的施策に追加されたい。(経済産業省)
  • (3) 効果不明の放射線測定ビジネスや除染ビジネス等について実態把握に努めるとともに、必要に応じ、適切な登録・認証等を行うための制度の導入を含めた対応のあり方について早急に検討されたい。(消費者庁、環境省)

2.食品表示一元化(施策番号69、73関係)

  • ○ 平成24年度中の法案提出を実現するため、消費者庁としての考え方を明確に示した上で関係者の合意形成を図り、速やかに法案作成に着手されたい。(消費者庁)

3.消費者安全行政(施策番号4、12、13-2、13-2-2関係)

  • (1) 当委員会の「消費者安全行政の抜本的強化に向けた対応策についての建議」における指摘事項等を踏まえ、重大事故情報の収集・分析・公表・活用の各段階で残された課題について再度検証・評価を行い、改善が必要なものについては計画の具体的施策に明記されたい。特に、事故情報を整理する上で有効と考えられる事故情報の公表基準については、可能な限り速やかに策定されたい。(消費者庁、関係省庁等)
  • (2) 近年頻発している電動シャッターや立体駐車場等による事故について原因究明を行い、速やかに必要な対策を講じられたい。(消費者庁、国土交通省)

4.こんにゃく入りゼリーによる窒息事故への対応(新規施策)

  • ○ こんにゃく入りゼリーによる窒息事故の再発防止に向けて、これまでの取組についてのフォローアップを継続するとともに、食品の物性・形状面での安全性の確保や注意喚起表示の義務化等を図るための法整備のあり方について検討を行う旨を計画の具体的施策に追加されたい。(消費者庁、厚生労働省)

5.違法ドラッグ対策(新規施策)

  • ○ 当委員会の「違法ドラッグ対策に関する提言」における指摘事項等を踏まえ、違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)の撲滅に向けて、指定薬物の包括指定や麻薬取締官に取締り権限を付与すること等による取締り体制の強化等を推進するとともに、消費者への情報提供・啓発活動を実施し、消費者被害の未然防止を図る旨を計画の具体的施策に追加されたい。(厚生労働省ほか薬物乱用対策推進会議関係府省)

6.エステ・美容医療サービス等(施策番号39関係、新規施策)

  • (1) 当委員会の「エステ・美容医療サービスに関する消費者問題についての建議」における指摘事項等を踏まえ、(i)緊急性がそれ程高くない美容医療、歯科インプラント等の自由診療については、施術の前に患者(消費者)に必ず説明し、同意を得るべき内容等を盛り込んだ指針等を整備し、周知を行うこと、(ii)エステ等の施設における衛生管理の実態を把握し、必要に応じて、衛生管理のための指針を整備する措置を講じること等の事項を計画の具体的施策に明記されたい。(厚生労働省)
  • (2) 医療機関のホームページ上の表示の改善を図るために厚生労働省が作成することとしている「医療機関のホームページに関するガイドライン」について、医療機関による取組を徹底するとともに、その実施状況を検証・評価できるようにするため、計画の具体的施策に追加し、実施時期についても明確化されたい。また、医療法に基づく広告規制のあり方について、患者(消費者)に適切な情報を提供するという観点からの検討を行うとともに、当該規制に対する消費者庁の関与の在り方についても引き続き検討することを計画の具体的施策に追加されたい。(消費者庁、厚生労働省)
  • (3) まつ毛エクステンションに係る消費者の安全を確保するため、厚生労働省の「生活衛生関係営業等衛生問題検討会」において検討している消費者被害防止策について、できる限り早期に結論を得た上で対策を講じる旨を計画の具体的施策に追加されたい。(厚生労働省)

7.有料老人ホーム(施策番号58関係)

  • ○ 入居一時金の実態を把握し、入居一時金のあり方及び償却についての透明性をさらに高めるための施策について検討する旨を計画の具体的施策に明記されたい。(厚生労働省)

8.投資詐欺対策(施策番号48、51、60、62関係、新規施策)

  • (1) いわゆる劇場型詐欺の急増や二次被害の発生等、新手の投資詐欺による消費者被害が絶えないことから、関係省庁における取組をさらに強化されたい。特に、投資詐欺対策については被害回復手続や加害者の摘発のための執行力強化が急務であることから、消費者行政部局と警察との現場レベルにおける連携強化のための仕組み(人事交流の拡大を含む)を実現することについて、計画の具体的施策に明記されたい。(消費者庁、警察庁、金融庁)
  • (2) 詐欺的商法のツールとして使われることが多いとされるレンタル電話・IP電話、バーチャルオフィスへの対応や、法人登記手続簡略化の見直し等について、具体的な方策を検討し、可能なものについては計画の具体的施策に追加されたい。(警察庁、総務省、法務省)
  • (3) 投資ファンドに係る登録事項や消費者等への情報開示のあり方の見直しについて、引き続き検討されたい。(金融庁)
  • (4) 金融商品取引法の消費者被害の防止・救済のための規定に対する消費者庁の関与のあり方について、引き続き検討されたい。(消費者庁、金融庁)

9.CO2排出権取引への投資に係る消費者問題(新規施策)

  • ○ CO2排出権取引への投資については、一般の消費者には分かりにくい、ハイリスクで複雑なデリバティブ取引であるにも関わらず、それを適切に規制する法律が存在しないことから、悪質事業者による消費者被害が頻発している。これを防止するためには、取扱事業者に対する参入規制を強化するとともに、消費者に対する事前の重要事項の説明や適合性原則の厳格な適用等を徹底する必要がある。関係省庁において、CO2排出権取引への投資に係る法規制のあり方や効果的な対応策について引き続き検討を行い、速やかに必要な措置を講じる旨を計画の具体的施策に追加されたい。(消費者庁、金融庁、経済産業省、環境省)

10.決済代行等インターネット消費者被害対策(施策番号153-2、171関係)

  • (1) 決済代行を巡る問題については、インターネット取引、とりわけ越境取引の増加に伴い、今後も消費者被害の増加や複雑化が見込まれることから、現在の施策をしっかり推進するとともに、消費者被害抑止のための新たな方策を検討されたい。(消費者庁、経済産業省)
  • (2) プロバイダ責任制限法については、インターネットを利用した加害者の特定を容易化するため、発信者情報の開示請求の対象や開示請求可能な情報等を拡大する方向での見直しを検討されたい。また、消費者被害の抑止・救済の観点から、同法の関連規定に対する消費者庁の関与のあり方についても引き続き検討されたい。(消費者庁、総務省)

11.特定商取引法の見直し(施策番号41、43関係)

  • ○ 現在頻発している貴金属等の訪問買取りに係る消費者被害を防止するため、特定商取引法改正案の早期成立に引き続き努めるとともに、当委員会の3月27日付意見で指摘した同法を巡る課題についてもあわせて見直しに向けた検討を進められたい。(消費者庁)

12.預託法の見直し(施策番号41-3関係)

  • ○ 安愚楽牧場の経営破たんへの対応を通じて明らかとなった預託法の制度面・運用面の問題点の整理を行うとともに、制度の運用や政省令・通達などで対応可能なものについては速やかに対応されたい。(消費者庁)

13.景品表示法の執行強化(施策番号80関係)

  • (1) 不当な広告・表示等に起因する消費者被害の抑止のため、景品表示法をより積極的に執行するとともに、都道府県を含めた執行体制の強化を図られたい。また、消費者庁発足以前に検討されていた課徴金の導入をはじめ、同法のより効果的な運用を可能とするための措置についても具体的に検討されたい。
  • (2) コンプガチャ以外の類似の課金システムやステルスマーケティング等に係る景品表示法上の考え方の明確化を図った上で、必要な対策を講じられたい。(以上、消費者庁)

14.公共料金(施策番号67-2関係)

  • (1) 当委員会の「公共料金問題についての建議」や消費者庁「公共料金に関する研究会」中間取りまとめにおいて指摘されているように、公共料金については、(i)消費者に対し分かりやすい情報提供を行うこと(決定過程の透明性向上)、(ii)決定手続において消費者の意見を反映する仕組みを構築すること(消費者参画の機会の確保)、(iii)経営効率化インセンティブが働くような仕組みを構築するとともに、料金の妥当性について継続的な検証を行うことが重要である。消費者目線に立った公共料金を実現するため、公共料金を所管する各省庁においては、これらの課題にしっかりと取り組むとともに、消費者庁においては、各省庁によるこれらの取組について常時モニタリングを行い、その取組をさらに後押しする役割を果たされたい。
  • (2) 消費者庁と各省庁による以上の取組については、その進捗状況等について継続的に検証・評価を行うため、実施時期を明確にした上で計画の具体的施策に明記されたい。(以上、消費者庁及び国土交通省、経済産業省、総務省等公共料金所管省庁)

15.地方消費者行政(施策番号121・122関係)

  • ○ 集中育成・強化期間」以降の地方消費者行政支援を効果的に行うため、本年6月末までにとりまとめる「地方消費者行政の充実・強化のための指針」に、財源の確保を含めた必要な支援策をしっかりと盛り込まれたい。特に、広域連携の推進による消費生活相談に係る人口カバー率の向上、警察及び福祉部局と消費者行政部局との連携強化、自治体における予算措置や人員配置を促すための国の支援のあり方等について、実効性のある仕組みを実現されたい。(消費者庁)

16.被害者救済制度(施策番号110関係)

  • ○ 「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度」の法案国会提出に向けて作成作業を加速し、制度の早期実現を目指すとともに、消費者被害の実質的な救済のための行政手法(課徴金の導入等)の在り方についても引き続き検討し、早期に成案を得られたい。(消費者庁)

17.適格消費者団体支援(施策番号127関係)

  • ○ 法案化を進めている「集団的消費者被害回復に係る訴訟制度」に、適格消費者団体の業務遂行費用を確保するための措置をしっかりと位置づけるとともに、資金の確保や情報面等におけるさらなる支援措置(例えば、広報の事業委託等を通じた間接支援の拡大や差止請求業務に係る費用に対して無利子貸付や一部補助を行うための基金の創設等)についても引き続き検討されたい。(消費者庁)

18.消費者関連法令についての消費者庁の関与のあり方(施策番号134関係)

  • (1) 消費者の利益及び擁護の増進に関する法律についての消費者庁の関与のあり方について、消費者被害の発生・拡大の状況や消費者行政が直面する具体的な課題等に即しつつ、引き続き検討を行われたい。(消費者庁、関係省庁等)
  • (2) 本件については、当委員会としても、計画の検証・評価・監視に係る関係省庁ヒアリングや建議・提言等のフォローアップの機会等を捉えて引き続き検討を行い、必要に応じて意見を述べていくこととする。

以上